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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】化粧部材の製造方法及び化粧部材
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/00 20060101AFI20241119BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20241119BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20241119BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20241119BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20241119BHJP
   B32B 13/12 20060101ALI20241119BHJP
   B41M 3/06 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B05D7/00 D
E04F13/08 E
B05D1/26 Z
B05D5/06 101D
B05D1/36 Z
B32B13/12
B41M3/06 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020089106
(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公開番号】P2021183307
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐川 浩一
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-285003(JP,A)
【文献】特開2000-015836(JP,A)
【文献】特開2011-056362(JP,A)
【文献】特開2016-153439(JP,A)
【文献】特開2018-089957(JP,A)
【文献】特開2018-079400(JP,A)
【文献】特開2007-222782(JP,A)
【文献】特開2007-170014(JP,A)
【文献】特開2007-044614(JP,A)
【文献】特開2005-013939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D
B32B
B41M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系材料からなり、一方の面に凹部及び凸部を有する基材の前記一方の面上に、模様層が積層された化粧部材の製造方法であって、
インクジェット方式以外の塗装方式により前記一方の面全体を均一色に着色する工程と、
均一色に着色された前記一方の面の前記凸部の表面全体に、フルカラー印刷用の印刷データにしたがって、色相が白のインキを含む複数の色相のインキを、前記インクジェット方式で直接着弾させて前記模様層を形成する工程と、を有し、
前記複数の色相のインキは、白、シアン、マゼンタ、イエロー及び黒の各インキであり、シアン、マゼンタ、イエロー及び黒の各インキが着弾しない箇所全てに、白のインキを着弾させることを特徴とする化粧部材の製造方法。
【請求項2】
前記複数の色相のインキは、溶剤系インキであることを特徴とする請求項1に記載の化粧部材の製造方法。
【請求項3】
前記一方の面の最表層として、透明又は半透明のトップコート剤を塗装する工程を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化粧部材の製造方法。
【請求項4】
インキ循環機構を備えたインクジェットヘッドを有する、インクジェット方式の塗装装置を用いて前記模様層を形成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の化粧部材の製造方法。
【請求項5】
前記均一色は、濃色であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の化粧部材の製造方法。
【請求項6】
セメント系材料からなり、一方の面に凹部及び凸部を有する基材と、
当該基材上に積層された模様層と、を有し、
前記模様層は、前記一方の面全体に積層された均一色の下地色層と、
前記下地色層の、前記凸部の表面と重なる領域全体に積層された、色相が白のインキを含む複数の色相のインキが塗装されてなる着色層と、
を備え、
前記複数の色相のインキとして、白、シアン、マゼンタ、イエロー及び黒の各インキを含み、シアン、マゼンタ、イエロー及び黒の各インキが塗装されていない箇所全てに、白のインキが塗装されていることを特徴とする化粧部材。
【請求項7】
前記均一色は、濃色であることを特徴とする請求項6に記載の化粧部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧部材の製造方法及び化粧部材に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット技術を用いた化粧部材の製造方法が検討され始めて久しい。例えば、インクジェット印刷により、建材に印刷する方法にあっては、版が不要であることや、インキの印刷ロスがほとんど発生しないこと等の利点が多いが、その反面、表面に凹凸が形成されている部材への印刷には難がある。つまり、インクジェットのヘッドから印刷基材までの距離が長くなると、印刷精度が著しく劣るという問題がある。
【0003】
その解決策として、凹凸部材が形成された部材の凹凸部材が形成された面を含む領域に対して印刷を行う場合には、例えば、まず凹凸部材が形成された面全体をインクジェット方式を除いた印刷方法により着色し、その後凸部について、インクジェット印刷を行うといった方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3731568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット方式以外の塗装方法により凹凸部材が形成された面全体にインキを塗布し、凸部については、さらにインクジェット方式によりインキの塗布を行う方法にあっては、均一となるようにインキの塗布が行われる。そのため、例えば、レンガ柄の凹凸形状を有する化粧部材にインキを塗布する場合であっても、高意匠の加飾が可能となる。
【0006】
しかしその一方で、例えば、レンガ柄の凹凸形状を有する化粧部材に対してインキを塗布する場合には、凹部の色、つまり目地の色として濃色系の色を選択すると、凸部にも濃色系の色が塗布される。そのため、凸部に白色や淡い色合いのインキをインクジェット方式により塗布すると、先に全面に塗布された濃色系の色を隠しきれず、凸部を、白色や淡い色とすることが困難となる。そのため、意匠表現に制約が生じていた。
【0007】
そこで、この発明は、上記従来の未解決の課題に着目してなされたものであり、凹凸形状を有する基材に対し、意匠表現に制約が生じることなく、均一にインキを塗布することの可能な化粧部材の製造方法及び化粧部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するべく、本発明の一態様に係る化粧部材の製造方法は、セメント系材料からなり、一方の面に凹部及び凸部を有する基材の前記一方の面上に、模様層が積層された化粧部材の製造方法であって、インクジェット方式以外の塗装方式により一方の面全体を均一色に着色する工程と、均一色に着色された一方の面の凸部の少なくとも一部に、フルカラー印刷用の印刷データにしたがって、色相が白のインキを含む複数の色相のインキを、インクジェット方式で直接着弾させて模様層を形成する工程と、を有し、複数の色相のインキは、白、シアン、マゼンタ、イエロー及び黒の各インキであり、シアン、マゼンタ、イエロー及び黒の各インキが着弾しない箇所全てに、白のインキを着弾させることを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の他の態様に係る化粧部材は、セメント系材料からなり、一方の面に凹部及び凸部を有する基材と、基材上に積層された模様層と、を有し、模様層は、一方の面全体に積層された均一色の下地色層と、下地色層の、凸部の少なくとも一部と重なる領域に積層された、色相が白のインキを含む複数の色相のインキが塗装されてなる着色層と、を備え、複数の色相のインキとして、白、シアン、マゼンタ、イエロー及び黒の各インキを含み、シアン、マゼンタ、イエロー及び黒の各インキが塗装されていない箇所全てに、白のインキが塗装されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、意匠表現に制約が生じることなく、均一にインキが塗布された化粧部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る化粧部材の構成例を示す断面図である。
図2】インキ循環機構の一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
本発明に係る化粧部材の製造方法は、セメント系材料からなり、一方の面に凹部及び凸部を有する基材の前記一方の面上に、模様層が積層された化粧部材の製造方法であって、インクジェット方式以外の塗装方式により一方の面全体を均一色に着色する工程と、一方の面の凸部上の少なくとも一部に、フルカラー印刷用の印刷データにしたがって、色相が白のインキを含む複数の色相のインキを、インクジェット方式で着弾させて模様層を形成する工程と、を有する製造方法である。
【0014】
また、本発明に係る化粧部材は、セメント系材料からなり、一方の面に凹部及び凸部を有する基材と、基材上に積層された模様層と、を有し、模様層は、一方の面全体に積層された均一色の下地色層と、下地色層の上の、凸部の少なくとも一部と重なる領域に積層された、色相が白のインキを含む複数の色相のインキが塗装されてなる着色層と、を備える部材である。
〔化粧部材の構成〕
【0015】
化粧部材1は、図1に示すように、基材2と、模様層3と、トップコート層4と、を備える。模様層3は、下地色層3aと着色層3bと、を有し、基材2の一方の面に、下地色層3aと、着色層3bと、トップコート層4とがこの順に積層されている。
基材2は、砂、砂利、無機鉱物、無機系繊維、及び有機系繊維等のうちの少なくとも1種類以上の成分と、セメントと、水と、を混合固化した後に成形することにより得られる。具体的には、基材2は、例えば、コンクリート、窯業系サイディング、GCR(ガラス繊維補強セメント)、モルタル壁等の、セメント系材料から構成される。また、基材2は、例えば、複数のレンガが積み重ねられたレンガ壁状に形成され、基材2の断面は、レンガ部分が凸部となり、レンガとレンガとの間の目地部分が凹部となる。
【0016】
下地色層3aは、基材2の凹凸が形成された面全体に形成されるベース層であって、既知の塗装方法又は既知のコーディング法等、インクジェット方式以外の塗装方式によって作製される。下地色層3aは、例えば、ラッカースプレーを均一に塗布することにより形成される。
着色層3bは、少なくともシアン、マゼンタ、イエロー、黒、白色の5色のインキを用いることにより、フルカラー印刷される。着色層3bは、インクジェット方式の塗装装置を用いて、予め作製したフルカラー印刷データに基づきインクジェット方式により形成される。
【0017】
インクジェット印刷に用いられるインキは、溶剤系インキであることが好ましい。UV系やEB系のインキを用いたインクジェット印刷では、インクジェットヘッドから塗出されたインキが基材2に着弾した後に、レベリングが生じにくい。そのため、下地色層3aの色を、着色層3bを形成するためのインキを着弾させることにより隠すことが困難である。インクジェット印刷において単位面積当たりの打滴数を増やすことで下地色層3aの色を隠蔽させる方法も考えられるが、この場合、着色層3bによって表される絵柄の濃度が意図する濃度とはならず、その結果、意匠表現の制約を受けることになる。
【0018】
これに対し、インクジェット印刷において、溶剤系インキを用いた場合には、インキが基材2に着弾した後に、レベリング効果が働くため、インクジェット印刷により打滴されたインキによる下地色層3aの色の隠蔽性を高めることができる。
なお、インクジェット印刷に用いられる塗装装置は、インキを吐出するインクジェットヘッドにインキ循環機構が設けられていることが好ましい。このようにインキ循環機構を設けることで、インキ滞留による顔料沈降を抑制し、顔料の二次凝集又はヘッド内壁面への付着によるノズル詰まりを生じにくくすることができる。
【0019】
インキ循環機構を備えた塗装装置としては、例えば、ドロップオンデマンド方式のインクジェット装置を適用することができる。このようなインクジェット装置としては、インキ循環機構を有するインクジェット装置を用いることが好ましい。ここでいうインキ循環機構とは、図2に示すように、ドロップオンデマンド型のインクジェットヘッド11内にインキの循環流路を有し、インクジェットヘッド11のインキ排出口12とインクタンク13との間をインキをインクタンク13で回収するためのチューブ(以後、インキリターンチューブという。)14で接続し、例えば、インキリターンチューブ14に図示しないエアポンプを設け、エアポンプを作動させることにより、インクジェットヘッド11からインクタンク13までインキが循環可能な、インクジェット装置の機構をいう。なお、図2において、15は、インクタンク13とインキ供給口16とを接続するインキ供給チューブである。また、図2において、実際には、シアン、マゼンタ、イエロー、黒、白色の5色それぞれに対応する複数のインクタンク13が設けられ、インクタンク13毎にインキリターンチューブ14を設け、それぞれ対応する色のインキを対応するインクタンク13に戻すようになっている。
【0020】
トップコート層4は、例えば、透明又は半透明の樹脂等で形成され、公知の塗装方法を用いて形成される。トップコート層4は、必ずしも設けなくともよいが、耐候性の付与、また、模様層3を形成するインキの保護等の観点から、設けることが好ましい。
【0021】
〔効果〕
本発明の一実施形態に係る化粧部材1は、基材2の凹凸部が形成された側の面全体にラッカースプレーを均一に塗布することで下地色層3aを形成し、その後、下地色層3aの凸部に対応する領域に形成しており、このとき、白及び黒を含む5色のインキを用いてインクジェット印刷によりカラー印刷している。
ここで、本発明の一実施形態に係る化粧部材1は、凹凸部が形成された側の面全体へのインキの塗布は、ラッカースプレー等を用いて手動で行って下地色層3aを形成し、インクジェット印刷により、凸部に相当する領域に着色層3bを形成している。そのため、凹部及び凸部へのインキの塗布を高精度に行うことができる。
【0022】
さらに、このとき、色の三原色である、シアン、マゼンタ、イエローと共に、白と黒の5色のインキを少なくとも用いてインクジェット印刷を行っている。そのため、下地色層3aの上に着色層3bを重ねたときに、下地色層3aの色を着色層3bの色によって隠しやすくなり、濃色の下地色層3aに着色層3bを重ねた場合であっても、着色層3bの色として期待される色相を得ることができ、淡色表現も可能となる。つまり、インクジェット印刷を行う場合、淡い色の表現はインクジェット液滴の着弾数を減らさなければならない。しかしながら、着弾数を減らすと、下地色層3aが濃色の場合には、着弾したインキの間から下地の濃色が見えてしまう。そこで、白色インキを用い、着弾していない部分にインクジェットの白色インキを着弾させる事で、下地の濃色を隠蔽する効果を発現できる。そのため、下地色層3aの色に関係なく、淡い色層の表現や、白色表現を行うことができる。
【0023】
また、インクジェット印刷に用いるインキとして、色の三原色と白及び黒を備えている。そのため、色域の偏りなく意匠表現を行うことができ、表現可能な意匠の範囲を広げることができる。特に、色の三原色を用いることにより黒を表現することができるが、黒インキを用いることによって、より鮮やかな黒を表現することができる。
また、模様層3の上に、トップコート層4を積層することによって、模様層3の表面の艶を調整することができ、意匠表現の範囲を広げることができる。また、トップコート層4を設けることで、外部からのストレスに対して模様層3を保護することができると共に、紫外線等によるインキ退色抑制効果を得ることができる。
【0024】
また、このように、本発明の一実施形態に係る化粧部材1は、セメント等の無機質な質感の基材2に対し、着色層3bを、インクジェット方式を用いてデジタルデータに基づいたデジタル塗装制御により作製している。そのため、インキの塗布位置、塗布量、色調再現性等を向上させることができ、意匠性が向上する。
なお、上述した実施形態は、本発明の一例であり、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【実施例
【0025】
次に、上記実施形態に係る化粧部材1の実施例を説明する。
〔実施例1〕
(基材2の準備)
レンガ壁に対してシリコンで型取りを行い、型取りにより得た凹凸反転型をコンクリート成型の型枠底部に敷いた後、コンクリートを流し込み、50℃環境下で3日間の養生を行い、コンクリートを固化させた。その後、型枠とシリコン型とをコンクリート成型物から取り外し、コンクリート成型物を得た。
【0026】
(模様層3による柄の作成)
得られたコンクリート成型物を、3Dスキャナを用いて採寸し、その凸部に画像処理ソフトを用いてインクジェット印刷用のレンガ柄を作画した。柄の色彩表現として、白色をベースにした色柄を一部に設けるようにした。
【0027】
(柄のインクジェット印刷データへの変換)
作画したインクジェット印刷用のレンガ柄の画像に対し、インクジェット用のリップソフトを用いて、シアン、マゼンタ、イエロー、黒、白の5色の印刷データに分割した。分割においては、事前に作成したICCプロファイルを使用し、レンダリング条件は「知覚的」を使用した。
【0028】
(下地色層3aの塗装)
一方、得られたコンクリート成型物に対して、アスペンラッカースプレー(株式会社アサヒペン製 色:グレー)を吹き付けて均一なベース層を設けた。
【0029】
(インクジェット印刷)
インクジェット印刷機としてStageJET(株式会社トライテック製)、インクジェットヘッドとして、KM-1024MHB(コニカミノルタ製、インク液滴量:14pl)を用い、インキとして不揮発樹脂分30重量部、顔料5重量部、溶剤65重量部の割合で分散させたシアン、マゼンタ、イエロー、黒、白、の5種類のインキを準備し、前記した印刷データを用いてコンクリート成型物の凸部に塗布した。印刷条件は、パス数4のマルチパス印刷とし、ノズルギャップは3mmとして印刷を実施した。また、図2に示すように、インクジェットヘッド11のインキ排出口12を、インキリターンチューブ14を介してインクタンク13と接続し、インキが循環する構造としたが、実施例1では、インクジェットヘッド11のインキリターンチューブ14は、鉗子を使ってインキの流れを封止し、液の流れを遮断した。こうして、実施例1の化粧部材を得た。
【0030】
〔実施例2〕
実施例1における化粧部材に対して、印刷面側最表層にフッ素系のトップコート剤プレミアムUVクリヤーF(エスケー化研株式会社製)を、目安塗布量50g/m(ドライ)でスプレー塗装し、実施例2の化粧部材を得た。
【0031】
〔実施例3〕
図2に示すインクジェットヘッド11のインキリターンチューブ14の鉗子を開放し、例えばインキリターンチューブ14に設けた図示しないエアポンプを作動させることによって、インクタンク13にインキが戻ってくるようにした。インクジェット印刷の非稼働時にも、エアポンプを用いてインキを循環させ、インクジェットヘッド11内でのインキの滞留が生じないようにした。こうして、実施例3の化粧部材を得た。
【0032】
〔比較例1〕
インクジェット印刷時に、白色インキを使用しない他は、実施例1と同じ方法を用いて、比較例1記載の化粧部材を得た。
【0033】
〔評価方法〕
(意匠性評価1)
実施例1及び比較例1の化粧部材に対して外観確認を行い、化粧部材に対して期待するデザインについて、色調の再現性を確認した。
(耐候性評価)
実施例1及び実施例2の化粧部材に対して、サンシャインウェザーメータを用いた耐候試験を行い、試験時間1008時間毎に外観の変化を観察した。
試験サイクルは60分のUV照射中、最初の12分間に純水をシャワー噴霧することを1サイクルとする繰り返し試験により行った。温度条件はブラックパネル設定温度63℃、層内設定温度50℃とし、湿度条件は、層内設定湿度50%とした。
【0034】
(意匠性評価2)
実施例1及び実施例3において、1枚目の化粧部材を作製するに当たり、着色層3bを印刷した後、20分間の間欠時間をおいた。その後、2枚目の化粧部材を作製するため、着色層3bの印刷を行い、外観の確認を行った。
【0035】
〔評価結果〕
(意匠性評価1)
実施例1においては白色インキの効果により、画像処理ソフト上の色調が再現された印刷物を得る事ができた。比較例1においては、白意匠部が淡いグレー色となってしまい、色調再現性が大きく劣るものとなった。
(耐候性評価)
1008時間、2016時間、3024時間の耐候試験までは、実施例1及び実施例2に外観の差がみられなかった。4032時間で実施例1の印刷模様層表面が劣化しはじめ、5040時間で実施例1の印刷模様層は半数以上が脱落したが、実施例2においては、外観上の著しい変化はみられなかった。
【0036】
(意匠性評価2)
実施例1においては、20分後の印刷で、所々に筋状の印刷抜けのような欠点が散見された。確認の為、ノズル欠け確認用のノズルチェックパターンを印刷したところ、特に白色のノズル欠けが顕著にみられた。一方、実施例3においては、意匠の不具合は確認できず、ノズルチェックパターンを印刷しても、問題は見られなかった。つまり、インキチューブ14におけるインクの流れを鉗子を使って遮断した状態でインクジェット方式による印刷を行った実施例1の場合には、ノズル欠けが見られるが、鉗子を設けずにインキを循環させるようにした状態でインクジェット方式による印刷を行った実施例3の場合には、良好に印刷を行うことが確認された。すなわち、インキを循環させることで、インキ滞留による顔料沈降を抑制することができ、また、顔料の二次凝集やヘッド内壁面への付着によるノズル詰まりを抑制できることが確認された。
【0037】
以上のように、本発明の一実施形態に係る化粧部材1は、インクジェット方式を除く塗装方式で、基材2の凹部及び凸部を含む表面全体を均一色に着色して下地色層3aを形成した後、凹部を除く凸部上の少なくとも一部に、フルカラー印刷用の印刷データにしたがって、白色インキを含む複数の色相のインキを、インクジェット方式で着弾させて着色層3bを形成することで、模様層3を形成している。そのため、基材2の凹部には均一に下地色層3aを形成することができると共に、凸部には、意図した色相の着色層3bを形成することができ、意図する色相の印刷がなされた化粧部材を得ることができる。つまり、意匠表現に制約を受けることなく印刷を行うことができる。
【0038】
また、インキを循環させつつインクジェット方式により印刷を行うことにより、インキ滞留による顔料沈降や、顔料の二次凝集やヘッド内壁面への付着によるノズル詰まりを抑制できるため、インキ内の顔料濃度を増やす事が可能となり、色域の拡大や下地色隠蔽性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 化粧部材
2 基材
3 模様層
3a 下地色層
3b 着色層
4 トップコート層
11 インクジェットヘッド
12 インキ排出口
13 インクタンク
14 インキリターンチューブ
図1
図2