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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】包装用積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20241119BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241119BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/00 H
B65D65/40 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020153225
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047354
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】江幡 篤
(72)【発明者】
【氏名】吉川 成志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】間嶋 健矢
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-161033(JP,A)
【文献】特開2020-131676(JP,A)
【文献】特開2020-040259(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038349(WO,A1)
【文献】特開2019-177521(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168190(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088257(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D65/00-65/46
C08K3/00-13/08;C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムとヒートシールフィルムとが接着層を間に挟んで積層された構造の包装用積層体において、
前記基材フィルムとして、延伸ポリプロピレンフィルムが使用され、
前記ヒートシールフィルムとしてプロピレン系フィルムが使用され、
前記ヒートシールフィルムとして使用される前記プロピレン系フィルムは、動的粘弾性試験測定における5℃での損失正接(tanδ)が0.0594を超え且つ110℃での貯蔵弾性率(E’)が1MPaを超えており、
前記プロピレン系フィルムは、インパクトポリプロピレン成分を含むキャストフィルムから形成され、
前記キャストフィルムは、ポリプロピレンにエチレン・プロピレン共重合体が分散されているインパクトポリプロピレン成分(A)と直鎖低密度ポリエチレン(B)とを含んでおり、
前記キャストフィルムは、エチレン・プロピレン共重合体に由来するキシレン可溶分率を8~20質量%含んでおり、
前記キャストフィルムは、前記直鎖低密度ポリエチレン(B)を14質量%以下の量で含んでいることを特徴とする包装用積層体。
【請求項2】
前記接着層は、ドライラミネート接着剤により形成されている請求項1に記載の包装用積層体。
【請求項3】
オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体から選択された少なくとも1つを含む延伸フィルムが、前記基材フィルムとは別に積層されている請求項1又は2に記載の包装用積層体。
【請求項4】
前記オレフィン系樹脂がポリプロピレンである請求項に記載の包装用積層体。
【請求項5】
請求項1~の何れかに記載の包装用積層体からなるパウチ。
【請求項6】
前記パウチにおいて、オレフィン系樹脂の含有率が80質量%以上である請求項に記載のパウチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装用積層体に関するものであり、より詳細には、ヒートシールによる貼り付けによってパウチを製造するに適したリサイクル性の高い包装用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンからなり、ヒートシール性を有するCPPフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルム或いはキャストPPフィルムとも呼ばれる)は、耐熱性に優れており、各種食品等を収容するためのパウチの作製に利用されている。ところで、近年では、レトルト殺菌(加熱水蒸気殺菌)等のために、より耐熱性や耐衝撃性が求められることから、インパクトポリプロピレン(以下、インパクトPPと呼ぶことがある)がCPPフィルムの作製に使用されるようになってきた。
【0003】
インパクトPPは、ブロックPP、インパクトコポリマー、ハイインパクトポリプロピレンとも称され、ホモポリプロピレンやランダムポリプロピレンのマトリックス中に、エチレン・プロピレン共重合体(EPR)やスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)等のゴム成分が分散しているものであり、このようなゴム成分が分散していることにより、耐衝撃強度が著しく向上している。
【0004】
レトルト殺菌等に供給されるパウチの作製に使用されるCPPフィルムには、ヒートシール強度や耐衝撃性などの特性に加え、耐ブロッキング性や耐柚子肌性も要求される。即ち、フィルム同士が重ね合わされたときのブロッキングが生じ難い耐ブロッキング性が必要なことは当然であるが、レトルト殺菌のような加熱水蒸気殺菌に供される場合、内容物が有する油分がフィルム中に浸み込み、パウチの外観が柚子肌のように変形してしまうことがあるため、このような柚子肌のような変形を防止することも求められるわけである。上述したインパクトPPから形成されたフィルムは、耐ブロッキング性や耐柚子肌性が乏しいことから、その改質が必要である。
【0005】
上記のような特性を改善するための手段が種々提案されており、例えば、特許文献1及び2には、プロピレン系インパクト共重合体(インパクトPPに相当)に直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)が配合されたプロピレン系樹脂組成物が提案されており、かかる樹脂組成物により、各種特性に優れたヒートシール用フィルムが得られることが開示されている。
【0006】
特許文献1,2では、インパクトPPに直鎖低密度ポリエチレンを配合することにより、インパクトPPからなるヒートシール用フィルムの物性改善が図られている。例えば、このフィルムを用いてパウチを作成し、内容物を充填した状態で5℃の温度に保管し、その後、任意の高さからの落袋試験を行うと良好な低温耐衝撃性を示す。
【0007】
ところで、近年のレトルトパウチは利便性の観点から電子レンジを利用した加熱方法がよく採用される。更に、このパウチには加熱によって生じた内容物からの蒸気をパウチ内から逃がすための機構が設けられている。この蒸気抜け機構により、パウチ内での過剰な圧力上昇を抑え、パウチの破袋等を防いでいる。しかし、特許文献1,2の様にポリプロピレンよりも耐熱性の低いゴム分散物や直鎖低密度ポリエチレンが多量に配合されたCPPフィルムが使用されていると、蒸気抜け機構の有無に関わらずパウチ周囲でのシール剥離が生じ、パウチの破袋等を招く恐れがある。
【0008】
更に、昨今の環境保全や資源の有効活用に対する意識の高まりから、レトルトパウチのフィルム材料の見直しが求められている。即ち、現行のPETフィルム、Nyフィルム、アルミ箔、CPPフィルム等の何れかを組み合わせた異種材構成のパウチよりも、単一の材料から構成されたパウチがリサイクル性の観点から望まれているのである。材料としては、ヒートシール性や耐熱性等の性質からポリプロピレン系樹脂でパウチを構成することが望ましい。従って、リサイクル性を高める上では、これまで異種材で達成してきた耐衝撃性等をポリプロピレン系樹脂で発現させる必要がある。
【0009】
レトルトパウチのフィルム材料をポリプロピレン系樹脂で構成するにあたって、これまで以上にCPPフィルムの低温耐衝撃性等が求められる。しかし、このような低温耐衝撃性を耐熱性と両立させることは困難である。これらの理由から、従来のCPPフィルムやレトルトパウチのフィルム構成では、低温での耐衝撃性や電子レンジ加熱に耐える耐熱性、リサイクル性の何れかを欠いてしまうのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4844091号公報
【文献】WO2017/038349号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、低温で耐衝撃性、電子レンジ加熱に対する適性と共に、リサイクル性に優れた包装用積層体を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の包装用積層体から得られるレトルトパウチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、基材フィルムとヒートシールフィルムとが接着層を間に挟んで積層された構造の包装用積層体において、
前記基材フィルムとして、延伸ポリプロピレンフィルムが使用され、
前記ヒートシールフィルムとしてプロピレン系フィルムが使用され、
前記ヒートシールフィルムとして使用される前記プロピレン系フィルムは、動的粘弾性試験測定における5℃での損失正接(tanδ)が0.0594を超え且つ110℃での貯蔵弾性率(E’)が1MPaを超えていることを特徴とする包装用積層体が提供される。
【0013】
本発明の包装用積層体においては、以下の態様が好適に適用される。
(1)前記プロピレン系フィルムは、インパクトポリプロピレン成分を含むキャストフィルムから形成されていること。
(2)前記キャストフィルムは、ポリプロピレンにエチレン・プロピレン共重合体が分散されているインパクトポリプロピレン成分(A)と直鎖低密度ポリエチレン(B)とを含んでいること。
(3)前記キャストフィルムは、エチレン・プロピレン共重合体に由来するキシレン可溶分率を8質量%以上含むこと。
(4)前記キャストフィルムは、前記直鎖低密度ポリエチレン(B)を20質量%以下の量で含んでいること。
(5)前記接着層は、ドライラミネート接着剤により形成されていること。
(6)オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体から選択された少なくとも1つを含む延伸フィルムが、前記基材フィルムとは別に積層されていること。
(7)前記オレフィン系樹脂がポリプロピレンであること。
【0014】
本発明によれば、また、上記の包装用積層体からなるパウチが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の包装用積層体は、基材フィルムとヒートシールフィルムとが、接着層を介して積層されているという基本構造を有しているが、このような基本構造に加えて、ヒートシールフィルムとして使用するプロピレン系フィルムが動的粘弾性特性を有しており、具体的には、動的粘弾性試験測定における5℃での損失正接(tanδ)が0.0594を超え且つ110℃での貯蔵弾性率(E’)が1MPaを超えているという点に重要な特徴を有している。即ち、本発明の包装用積層体は、プロピレン系フィルムが上記のような粘弾性特性を有しているため、レトルト殺菌のような熱処理が行われた場合にも優れた耐衝撃性を示し、5℃程度の低温領域でも耐衝撃性に優れているばかりか、電子レンジ加熱にも耐え得るシール強度を確保することができる。
例えば、後述する実施例に示されているように、プロピレン系フィルム(ヒートシールフィルム)の損失正接(tanδ)及び貯蔵弾性率(E’)が上記範囲内にある積層体から製袋されたパウチでは、レトルト処理がされているにも関わらず、5℃環境下での水平未破袋回数は最低でも19回であり(実施例2)、また、110℃でのシール強度は最低でも15Nとなっている(実施例1)。一方、損失正接(tanδ)が0.059と0.0594よりも小さい比較例3では、5℃環境下での水平未破袋回数が7回と実施例1,2に比して少なく、低温での耐衝撃性が劣っている。また、貯蔵弾性率E’が1MPa未満の比較例2では、110℃でのシール強度が4Nであり、実施例1,2に比して極めて小さく、高温でのシール強度が小さく、例えば電子レンジ加熱に適用することができない。
【0016】
また、本発明では、基材フィルムとして延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムが使用されていることも重要な特徴である。即ち、OPPフィルムを基材フィルムとして使用することにより、この包装用積層体に使用される主材のほとんどがプロピレン系材料となり、この結果、この包装用積層体は、リサイクル性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の包装用積層体の概略断面構造を示す図。
図2】実施例及び比較例で用いたプロピレン系フィルムの動的粘弾性測定で得られる損失正接(tanδ)温度曲線(10Hz)を示す図。
図3】実施例及び比較例で用いたプロピレン系フィルムの動的粘弾性測定で得られる貯蔵弾性率曲線(E’)温度曲線(10Hz)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、全体として10で示す本発明の包装用積層体10は、基材フィルム1と接着層3とヒートシールフィルム5とを備えた積層構造を有している。簡単にいうと、基材フィルム1とヒートシールフィルム5とを接着剤で積層した構造を有している。
【0019】
<基材フィルム1>
基材フィルム1としては、延伸ポリプロピレンフィルム(以下OPPフィルムと呼ぶことがある)が使用される。このOPPフィルムは、押出成形等の公知の手段によって作製されたプロピレン系樹脂フィルムを1軸或いは2軸方向に延伸したフィルムである。これにより、パウチの落袋強度、突き刺し強度、剛性を確保することができる。延伸倍率は、過延伸によるフィルム破断が生じない程度であればよく、通常、2倍以上である。
【0020】
また、OPPフィルムの形成に使用されるプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン(プロピレンのホモポリマー)が代表的であるが、ポリプロピレンの特性が損なわれない限りにおいて、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン或いは環状オレフィンが共重合されたランダムあるいはブロック共重合体であってもよい。
【0021】
上述したOPPフィルムによって形成される基材フィルム1の厚みは、最終的に製造されるパウチの容量等に応じて適宜の厚みを有しているが、一般的には、10μm以上の厚みを有していればよい。
【0022】
また、上記の基材フィルム1には、ガスバリア性を向上させるために、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のガスバリア性樹脂が積層されていてもよいし、その表面に無機系被膜が形成されたものであってよいし、ポリビニルアルコール等の有機物が形成されてもよい。無機系被膜はコーティングにより形成されたものであってもよく、蒸着膜でもよい。このようなガスバリア性樹脂の層は、ドライラミネート等の接着剤を用いてガスバリア性樹脂フィルムを貼り付けることにより形成される。また、蒸着膜は、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどに代表される物理蒸着や、プラズマCVDに代表される化学蒸着などによって成膜され、形成される無機質の蒸着膜であり、例えばケイ素酸化物やアルミニウム酸化物などの各種金属乃至金属酸化物により形成される。このような蒸着膜は、無機物で形成されていることから、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのガスバリア性樹脂に比較してより高い酸素バリア性を示す。
【0023】
上記のようなガスバリア性樹脂層や無機系被膜がプロピレン系樹脂製の基材フィルム1に形成されている場合、後述するヒートシールフィルム5は、接着層3を介して、ガスバリア性樹脂層や無機系被膜に貼り付けられてもよいし、基材フィルム1側に貼り付けても良い。
【0024】
また、基材フィルム1として使用される延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)はヒートシールなどの熱の影響により配向構造の緩和が生じ、落袋強度の低下を招くことがある。そのため、強度の低下を防ぐために、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体から選択された少なくとも1つを含む延伸フィルム層を強度補強層として設けることが好ましい。このような強度補強層は、ヒートシール処理等の熱処理による配向の消失を緩和させ、強度低下を有効に抑制するためのものである。
【0025】
このような強度補強層は、オレフィン系樹脂と該オレフィン系樹脂よりも高融点の補強用樹脂とのブレンド物もしくは積層物の延伸成形体である。特にオレフィン系樹脂とポリアミド系樹脂またはエチレン・ビニルアルコール共重合体とのブレンド物の延伸フィルムが好ましく、通常、オレフィン系樹脂:補強用樹脂との質量比が50:50~90:10程度の範囲である。即ち、補強用樹脂量が過度に多いと、強度補強効果は優れるがリサイクル性が低くなり、補強用樹脂量が少ないと、この層の強度補強効果が損なわれてしまう。
【0026】
また、上記の強度補強層の形成に使用されるオレフィン系樹脂としては、上述した基材フィルム1として使用される延伸ポリオレフィンフィルムの形成に用いられるプロピレン系樹脂と同種の樹脂、特にポリプロピレンがリサイクル性(を向上させる)のためには最適である。
また、上記のオレフィン系樹脂とブレンドされるポリアミド系樹脂としては、特に制限されず、種々のものを例示することができるが、一般的には、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン13、ナイロン6/ナイロン6,6共重合体、芳香族ナイロン(例えばポリメタキシリレンアジパミド)、アモルファスナイロン(例えばナイロン6I/ナイロン6T)等が好適に使用される。
【0027】
尚、強度補強層においては、オレフィン系樹脂の層と補強用樹脂の層とが積層された積層構造を有していてもよい。このような積層構造では、通常、オレフィン系樹脂層:補強用樹脂層との厚み比が1/1~3/1程度の範囲である。即ち、補強用樹脂の厚みが過度に多いと包装袋のリサイクル性が大きく失われ、補強用樹脂の量が少ないと、シール部に存在する配向結晶の量が少なくなり、落袋強度の向上が不十分となってしまうおそれがある。
【0028】
上述した強度補強層は、ブレンド物を共押出し、延伸成形するか、多層押出し延伸成形してもよい。延伸は1軸或いは2軸方向に延伸することにより形成される。また、基材フィルム1を成型する際に、同時に上記ブレンド物または多層物を共押し、該共押出フィルムを1軸或いは2軸方向に延伸することにより成型することもできる。
【0029】
かかる強度補強層の厚みは、特に制限されず、目的とするパウチの容量等に応じて設定される基材フィルム1の厚みに適宜設定すればよい。一般的には、5μm以上の厚みであることが好ましく、特に5~30μm程度の範囲にあることが好適である。
【0030】
上述した強度補強層は、基材フィルム1とヒートシールフィルム5との間に設けてもいいし、基材フィルム1の外側に設けても良い。
【0031】
なお、上述した強度補強層を基材フィルム1等に積層するために使用される接着剤としては、以下に述べる接着層3に使用される接着剤と同種のものが使用される。
【0032】
<接着層3>
接着層3は、接着剤を用いて形成される層であり、この接着剤を用いてヒートシールフィルム5が基材フィルム1に積層される。
【0033】
このような接着剤としては、所謂ドライラミネート接着剤、例えばウレタン系の接着剤やエポキシ系の接着剤など、公知のドライラミネート接着剤を使用することができる。
【0034】
例えば、ウレタン系のドライラミネート接着剤としては、イソシアネートと(メタ)アクリル化合物やポリエステルポリオールとの反応物からなるものを挙げることができる。この接着剤は、通常、アミン系触媒や金属触媒或いはリン酸変性化合物などの公知の硬化触媒を含んでいる。硬化触媒の量は、下地の樹脂の熱変形を伴わないような温度及び時間で緻密な硬化膜(接着層)が形成し得るように硬化触媒の種類に応じて設定される。
【0035】
また、エポキシ系接着剤は、分子中にエポキシ基を有する液状樹脂とエポキシ硬化剤とを含むものである。
分子中にエポキシ基を有する液状樹脂は、エピクロルヒドリンとフェノール化合物やアミン化合物、カルボン酸などとの反応に得られるもの、ブタジエンなどの不飽和化合物を有機過酸化物などにより酸化することによって得られるものなどが代表的であり、何れのタイプのものも使用することができる。その具体例としては、ビスフェノールA型或いはビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
また、エポキシ硬化剤としては、アミン系、酸無水物、ポリアミドなど、公知のものを使用することができるが、特にメタフェニレンジアミンに代表される芳香族ポリアミンが好適である。
【0036】
エポキシ樹脂と硬化剤との量比は、エポキシ樹脂が有するエポキシ当量に応じて、十分な硬化膜が形成されるように設定すればよい。
【0037】
上述したウレタン系或いはエポキシ系等のドライラミネート接着剤は、炭化水素系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系等の揮発性有機溶剤に溶解ないし分散された塗布液の形で前述したプロピレン樹脂系基材フィルム1の表面に塗布され、この後、乾燥して有機溶剤を揮散させた後、後述するヒートシール用フィルムを貼り付け、その後、加熱して硬化させることにより、ヒートシール用フィルムを接着固定することができる。
このようにして形成される接着層3の厚みは、通常、0.1~10μm程度である。
【0038】
なお、上述したドライラミネート接着剤において、基材フィルム1(OPPフィルム)の表面に蒸着膜が形成されている場合、その上にヒートシールフィルム5等を貼り付ける際には、エポキシ系のドライラミネート接着剤が、レトルト処理によるガスバリア性の低下を回避する上で有利である。
また、上記のドライラミネート接着剤は、前述した多層強度補強体の形成、即ち、オレフィン樹脂系の延伸フィルムとポリアミド系樹脂の延伸フィルムとの積層にも使用される。
【0039】
<ヒートシールフィルム5>
ヒートシールフィルム5は、このフィルム5を上記の接着剤の塗布層上に重ねて圧着し、この状態で上記接着剤を加熱硬化することにより、上述した基材フィルム1上に積層される。このヒートシールフィルム5は、加熱により容易に溶融し、また冷却により直ちに固化するため、これを利用して、この積層体10(ヒートシールフィルム5)同士を熱接着(ヒートシール)することにより、パウチを作製することができる。
【0040】
本発明において、上記のヒートシールフィルム5は、動的粘弾性特性を有するプロピレン系フィルムであり、10Hzでの動的粘弾性測定における5℃での損失正接(tanδ)が0.0594を超えている。即ち、5℃において、このような粘弾性を有していることにより、包装用積層体10中のヒートシールフィルム5は、低温領域(5℃前後)において、良好な低温耐衝撃性を示し、非常に破袋し難いものとなる。また、このヒートシールフィルム5は、やはり10Hzでの動的粘弾性測定における110℃での貯蔵弾性率(E’)が1MPaより大きいものでなければならない。即ち、110℃での貯蔵弾性率E’がこのような大きな値であることにより、このヒートシールフィルム5は、高温領域(110℃前後)において適度な弾性を示し、高温時においてもパウチを密封するのには十分なシール強度を維持する。従って、この積層体10から得られるパウチは、高温でのシール強度が高く、電子レンジ加熱によるシール破壊が有効に防止され、電子レンジ加熱を有効に行うことが可能となる。
【0041】
本発明において、上記のような粘弾性を有するヒートシールフィルム5(プロピレン系フィルム)は、インパクトポリプロピレン(インパクトPP)を含むキャストフィルム(以下、単にCPPフィルムと略す)を使用し、インパクトPPの組成や併用する改質樹脂成分の種類や量などを調整することにより得られる。
【0042】
即ち、上記の粘弾性を有するCPPフィルムは、インパクトPP成分(A)と改質樹脂成分(B)とを含む樹脂組成物の溶融押出により得られる。
【0043】
インパクトPP成分(A);
インパクトPP成分(A)は、インパクトポリプロピレン(インパクトPP)からなるものであり、このインパクトPPは、特にホモ或いはランダムポリプロピレン中に、エチレン・プロピレン共重合体(EPR)が分散された構造を有している。即ち、ポリプロピレン中にEPRが分散されていることにより、ポリプロピレンに耐衝撃性が付与されている。ポリプロピレン中に分散されるゴム成分としては、EPR以外にもスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体(EPBR)などが知られており、EPR以外のものでも、本発明の目的とする低温での耐衝撃性(5℃でのtanδが0.0594より大)を向上させることができるが、EPRが最適である。
【0044】
上記のようなインパクトPPは、フィルム成形性(押出成形性)等の観点から、MFR(メルトフローレート、230℃)が0.5~10g/10min程度の範囲にある。
【0045】
また、上記のインパクトPP中のEPR含量は、ヒートシールフィルム5の形成に使用するCPPフィルムのキシレン可溶分率で表すことができる。キシレン可溶分率は、インパクトPP樹脂を沸騰キシレンに完全溶解させた後、キシレン溶液を室温まで冷却した際、析出しない成分の割合である。このキシレン可溶分率が8質量%以上、特に8~20質量%の範囲にあることが望ましい。即ち、このキシレン可溶分率が上記範囲よりも小さいと、EPR量が少ないため、パウチの耐衝撃性が低下してしまう。また、この可溶分率が過度に多いと、パウチの耐熱性が低下し、さらにはパウチの外観不良などを生じることがある。
【0046】
さらに、上記のキシレン可溶分(EPR)について測定した極限粘度(135℃のテトラリンを溶媒として測定)が、1.0~2.9dl/gの範囲にあることが好ましい。この極限粘度は、インパクトPP中のEPRの分子量に対応するパラメータである。この値が、上記範囲外であるときには、耐衝撃性が不満足なものとなる傾向がある。おそらく、EPR分子の大きさが必要以上に大きいか或いは必要以上に小さく、このため、以下に述べる改質樹脂成分(B)の特性が十分に発揮されなくなるためであると考えられる。
【0047】
改質樹脂成分(B);
この改質樹脂成分(B)は、上述したインパクトPP中のポリプロピレン(PP)とエチレン・プロピレン共重合体(EPR)との相溶性を高め、PP中のEPRの分散性を大きく向上させることにより、EPRによる衝撃性改善効果を十分に発揮させるための成分である。
【0048】
本発明においては、このような改質樹脂成分(B)としては、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)が好適に使用される。このLLDPEは、密度が0.860~0.925g/cmの範囲にある直鎖低密度ポリエチレンであり、例えば、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1等のα-オレフィンを微量(数%程度)、エチレンに共重合させたことで低密度化されたものであり、分子の線形性が極めて高い。
【0049】
また、このLLDPEは、インパクトPPと混合されて使用されることから、フィルム成形性を損なわないようにするために、MFR(190℃)が1.0~15g/10minのものが好適に使用される。
【0050】
さらに、このLLDPEは、コモノマーであるα-オレフィンの含量が12モル%以下、であり、且つGPCで測定されるポリスチレン換算での数平均分子量が10000以上であることが好適である。即ち、コモノマーであるα-オレフィンの含量が多い場合或いは数平均分子量が小さく、低分子量成分が多く含まれている場合には、パウチとして使用したとき、耐油性や内容物へのフレーバー性に劣ってしまう。また、LLDPEの一部がキシレンに溶解してしまうことがあり、成形されたフィルム中のキシレン可溶分率がインパクトPP中に由来するEPRに対応しなくなってしまうことがある。
【0051】
上述したLLDPEは、CPPフィルム中のLLDPE量(ヒートシール性樹脂層5中のLLDPE量に相当)が20質量%以下となるように、フィルムの組成設計がされていることが好ましい。即ち、LLDPEが過度に含まれていると、フィルムの耐ブロッキング性や耐熱性が損なわれるおそれがあるからである。
【0052】
尚、CPPフィルムの形成に使用する樹脂組成物中には、それ自体公知の添加剤を配合することもできる。
【0053】
上述したインパクトPP成分を含むCPPフィルムは、各成分をドライブレンドし、押出機に投入して溶融混練し、Tダイからフィルム状にブレンド物を溶融押出し、押し出されたフィルム状の溶融物を、冷却ロールに接触させて固化させて巻き取ることにより製造される。
このようなCPPフィルムの厚みは特に制限されないが、剛性や開封性等を考慮すれば、通常、20~100μm、特に50~80μmの範囲であることが好適である。
【0054】
上述した各層或いはフィルムをラミネートして得られる本発明の包装用積層体10は、例えば、基材フィルム1の外面側に、印刷層や透明な保護層(PETフィルム)を積層することもできる。
【0055】
<包装用積層体の使用形態>
上述した本発明の包装用積層体10は、ヒートシールフィルム5でのヒートシールによる貼り付けによって製袋し、パウチ(袋状容器)として使用する。
製袋は、公知の手段により行われる。例えば2枚の積層体を用いての3方シールにより、空パウチを作製し、開口部から内容物を充填し、最後に開口部をヒートシールにより閉じる。
また、1枚の積層体を折り返して両側端をヒートシールすることにより空パウチを作製することもできる。この場合、底部をヒートシールする必要はない。さらに、側部或いは底部専用の積層体を使用して空パウチを製造することもできる。このような方法は、パウチの容積を大きくし、あるいはスタンディング性を付与する上で有利である。
【0056】
このようにして本発明の包装用積層体10により製袋され、内容物が充填されたパウチは、レトルト処理(100~130℃での加熱水蒸気による殺菌処理)による性能低下が有効に防止され、レトルト処理後においても、低温での耐衝撃性に優れているばかりか、高温で高いシール強度を示すため、電子レンジ加熱にも耐え得る。従って、このようなパウチは、特に食品類の収容に極めて適している。
【実施例
【0057】
本発明の優れた効果を、次の実施例で説明する。
尚、以下の実験に使用した各種材料及び各種測定方法を以下に示す。
【0058】
<プロピレン系フィルム(CPPフィルム)材料>
インパクトPP(A):サンアロマー社製PC480A
MFR(230℃):2.0g/10min
EPR含有率(キシレン可溶分率):17.5質量%
改質樹脂成分(B)
LLDPE(B1);
(株)プライムポリマー社製ウルトゼックス2022L
MFR(190℃):2.0g/10min
密度:919kg/m
αオレフィン種:4-メチルペンテン-1
LLDPE(B2);
(株)三井化学社製タフマーA1085S
MFR(190℃):1.2g/10min
密度:885kg/m
αオレフィン種:ブテン-1
【0059】
<市販のCPPフィルム>
市販のCPPフィルムとして、東レフィルム加工株式会社製のZK500、ZK401(何れも厚み70μm、表面親水化済み)を用いた。
ZK500;
EPR含有率:16.9質量%
ZK401;
EPR含有率:16.6質量%
【0060】
<EPR含有率(キシレン可溶分率)>
インパクトPPまたはCPPフィルムをキシレンに還流溶解させ、放冷後、固液分離を行った。
キシレン可溶分をメタノールで再沈殿し、沈殿物を濾過で取り出し乾燥させて重量測定し、EPR含有率を算出した。
【0061】
<動的粘弾性測定方法>
セイコーインスツル(株)社製の動的粘弾性測定装置を用いた。試験条件は、以下の通りである。
試験片フィルム:長さ20mm、幅10mm
チャック間距離5mm
温度範囲:-70℃~150℃
昇温速度:3℃/min
周波数:10Hz
tanδ(損失正接):5℃の損失弾性率/貯蔵弾性率で求めた。
E’(貯蔵弾性率):110℃での値で求めた。
【0062】
<水平落袋試験用のパウチ>
水平落袋試験用のパウチは、基材層として延伸ポリプロピレンフィルム(OPP、厚み20μm)を使用し、OPPフィルム/CPPフィルム(厚み70μm)の層構成を、ウレタン系接着剤を用いてドライラミネート法でラミネートして得た包装袋を用いた。
【0063】
<シール強度測定試験用のパウチ>
シール強度測定試験用のパウチは、基材層として延伸PETフィルム(OPET、厚み12μm)/延伸Nyフィルム(ONy、厚み15μm)/アルミ箔(Al、厚み7μm)/CPPフィルム(厚み70μm)の層構成を使用し、ウレタン系接着剤を用いてドライラミネート法でラミネートした。
【0064】
<パウチ製袋>
CPPフィルムがラミネートされた積層フィルムを140mm(MD方向)×180mm(TD方向)に2枚切り出し、200gの水を充填し製袋した。製袋は富士インパルス(株)社製インパルスシーラーを用いた。
水平落袋試験用のパウチ;
シール条件:200℃、1.4(s)、冷却3.0(s)
シール幅:5mm
シール強度測定試験用のパウチ;
シール条件:220℃、1.4(s)、冷却3.0(s)
シール幅:5mm
【0065】
<水平落袋試験方法>
121℃、30分シャワー式の条件でレトルト処理を行い、5℃環境下で一晩冷却したパウチを、120cmの高さから水平2袋重ねで落下させて測定した。下のパウチを試験パウチとした。試験は3サンプルで行い、20回落下させ、未破袋回数の平均値を測定した。
【0066】
<シール強度測定試験方法>
島津製作所(株)社製のオートグラフ(AG-I/30N-10KN)を用いた。試験条件は、以下の通りである。
試験片フィルム:
パウチの短辺(140mm)から、ヒートシール部を直角に幅15mmの短冊状に切り出し作成した。試験片は6サンプル作成した。
雰囲気温度:110℃
引張速度:300mm/min
【0067】
<実施例1>
インパクトPP(A)/LLDPE(B1)=86/14の重量比でCPPフィルムを製膜した。
CPPフィルムの成膜は、以下の方法により行った。
上記組成でインパクトPP(A)とLLDPE(B1)とをドライブレンドし、Tダイ付きの単軸押出機のホッパーに投入した。230℃に設定した押出機内で溶融混練し、Tダイからフィルム状に吐出させた。60℃の冷却ロールに接触させることで固化させ、巻き取ることで厚み70μmのフィルムを製膜した。
得られたフィルムにはコロナ放電処理し、表面親水化を行った。
【0068】
このCPPフィルムに対して、動的粘弾性測定を行い、5℃でのtanδと110℃でのE’を求めた。尚、この測定により得られたtanδとE’の温度曲線を図2,3に示した。
上記のCPPフィルムを用いてのラミネートにより水平落袋試験用パウチ及びシール強度測定用パウチを製袋し、水平落袋試験及びシール強度測定試験を行い、その結果を表1に示した。
【0069】
<実施例2>
インパクトPP(A)とLLDPE(B2)との量比を95/5に変更した以外は、実施例1と同様にしてCPPフィルムを作製し、且つ実施例1と同様にして動的粘弾性測定及び落袋試験、シール強度測定試験を行い、その結果を表1に示した。
【0070】
<比較例1>
インパクトPP(A)のみを用いてCPPフィルムを作製した以外は、実施例1と同様にしてシーラントフィルムを作製し、且つ実施例1と同様にして動的粘弾性測定及び落袋試験、シール強度測定試験を行い、その結果を表1に示した。
【0071】
<比較例2>
CPPフィルムを東レフィルム加工株式会社製のZK500に変更した以外は、実施例1と同様に動的粘弾性測定及び落袋試験、シール強度測定試験を行い、その結果を表1に示した。
【0072】
<比較例3>
CPPフィルムを東レフィルム加工株式会社製のZK401に変更した以外は、実施例1と同様に動的粘弾性測定及び落袋試験、シール強度測定試験を行い、その結果を表1に示した。
【0073】
【表1】
【符号の説明】
【0074】
1:基材フィルム
3:接着層
5:ヒートシールフィルム
10:包装用積層体
図1
図2
図3