(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】タイヤモデルの作成方法及びタイヤのシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20241119BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20241119BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20241119BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G06F30/10
G06F30/23
G01M17/02
(21)【出願番号】P 2020161742
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】今村 明夫
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-238429(JP,A)
【文献】特開2004-217075(JP,A)
【文献】特開2006-040144(JP,A)
【文献】特開2006-023800(JP,A)
【文献】特開2016-024588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
G06F 30/10
G06F 30/23
G01M 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に沿って配列された補強コードを備えたバンドプライを含むタイヤに基づき、その数値計算モデルであるタイヤモデルを作成するための方法であって、
前記タイヤの製造工程中に前記補強コードが受ける張力に影響を与えるパラメータを、前記バンドプライのタイヤ軸方向の予め定められた領域ごとに求める第1工程と、
前記タイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデルをコンピュータに定義する第2工程とを含み、
前記第2工程は、
タイヤ周方向の張力が定義可能な要素を用いて前記バンドプライをモデリングしたバンドプライモデルを含む前記タイヤモデルを設定する工程と、
前記コンピュータが、前記バンドプライモデルの前記要素のタイヤ軸方向の予め定められた領域ごとに、前記パラメータに基づいたタイヤ周方向の張力を定義する工程とを含
み、
前記パラメータは、
前記バンドプライが生タイヤの他の部材と接合される前に前記バンドプライが円筒状のデッキ上に予備成形されたときの前記デッキ上でのプロファイルと、前記バンドプライのタイヤ製造後のプロファイルとに基づいて計算される拡張率と、
前記補強コードが前記デッキ上に巻きつけられるときの巻付け張力とを含む、
タイヤモデルの作成方法。
【請求項2】
前記領域は、前記補強コードが配されるタイヤ軸方向の間隔で区分される、請求項1記載のタイヤモデルの作成方法。
【請求項3】
前記巻付け張力は、前記補強コードの巻付け装置に含まれるテンションコントローラによって特定される、請求項1又は2に記載のタイヤモデルの作成方法。
【請求項4】
前記張力を定義する工程は、前記要素に、予め定められた熱膨張係数を定義する工程と、前記パラメータと前記熱膨張係数とに基づいて、前記バンドプライモデルの前記領域毎に温度変化条件を与える工程と、前記熱膨張係数と前記温度変化条件とに基づいて、前記張力を計算する工程とを含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤモデルの作成方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載されたタイヤモデルの作成方法で作成されたタイヤモデルを用いたタイヤのシミュレーション方法であって、
前記コンピュータが、予め定められた条件に基づいて、前記タイヤモデルの変形後の状態を計算する第3工程をさらに含む、
タイヤのシミュレーション方法。
【請求項6】
前記変形後の状態は、前記タイヤモデルを接地させた状態である、請求項5記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項7】
前記変形後の状態は、前記タイヤモデルに空気圧を充填した形状である、請求項5又は6記載のタイヤのシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤモデルの作成方法及びタイヤのシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤ性能を解析するためのシミュレーション方法が記載されている。この方法では、タイヤを要素分割したタイヤモデルを作成するステップと、加硫後のタイヤの形状に関するパラメータに基づいて、タイヤの加硫後の形状を計算するステップとが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、高速走行時でのトレッド部のせり出し変形を抑制するために、トレッドゴムとベルト層との間にバンドプライが設けられたタイヤが提案されている。バンドプライは、タイヤ周方向に沿って配列された補強コードを備えている。一般に、バンドプライには、タイヤの製造工程中に補強コードが受けた張力が、タイヤ製造後にも残る傾向がある。このような張力は、バンドプライのタイヤ軸方向において均一ではなく、タイヤの形状に影響を及ぼしている。
【0005】
上記の方法では、補強コードの張力が考慮されたものではないため、タイヤモデルの作成精度の向上には、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤモデルを精度よく作成することが可能な方法及びタイヤのシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、タイヤ周方向に沿って配列された補強コードを備えたバンドプライを含むタイヤに基づき、その数値計算モデルであるタイヤモデルを作成するための方法であって、前記タイヤの製造工程中に前記補強コードが受ける張力に影響を与えるパラメータを、前記バンドプライのタイヤ軸方向の予め定められた領域ごとに求める第1工程と、前記タイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデルをコンピュータに定義する第2工程とを含み、前記第2工程は、タイヤ周方向の張力が定義可能な要素を用いて前記バンドプライをモデリングしたバンドプライモデルを含む前記タイヤモデルを設定する工程と、前記コンピュータが、前記バンドプライモデルの前記要素のタイヤ軸方向の予め定められた領域ごとに、前記パラメータに基づいたタイヤ周方向の張力を定義する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る前記タイヤモデルの作成方法において、前記パラメータは、前記バンドプライが、デッキ上に予備成形されたときの前記デッキ上でのプロファイルと、前記バンドプライのタイヤ製造後のプロファイルとに基づいて計算される拡張率を含んでもよい。
【0009】
本発明に係る前記タイヤモデルの作成方法において、前記パラメータは、前記補強コードが、前記デッキ上に巻きつけられるときの巻付け張力を含んでもよい。
【0010】
本発明に係る前記タイヤモデルの作成方法において、前記張力を定義する工程は、前記要素に、予め定められた熱膨張係数を定義する工程と、前記パラメータと前記熱膨張係数とに基づいて、前記バンドプライモデルの前記領域毎に温度変化条件を与える工程と、前記熱膨張係数と前記温度変化条件とに基づいて、前記張力を計算する工程とを含んでもよい。
【0011】
本発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載されたタイヤモデルの作成方法で作成されたタイヤモデルを用いたタイヤのシミュレーション方法であって、前記コンピュータが、予め定められた条件に基づいて、前記タイヤモデルの変形後の状態を計算する第3工程をさらに含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記変形後の状態は、前記タイヤモデルを接地させた状態であってもよい。
【0013】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記変形後の状態は、前記タイヤモデルに空気圧を充填した形状であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタイヤモデルの作成方法は、前記張力が定義可能な要素を用いて前記バンドプライモデルを含む前記タイヤモデルを設定する工程と、前記バンドプライモデルの前記領域ごとに、前記パラメータに基づいた前記張力を定義する工程とを含む。これにより、本発明では、実際のタイヤの製造工程中に前記補強コードが受ける張力に基づいて、前記バンドプライモデルに前記張力を定義することができるため、前記タイヤモデルを精度よく作成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】タイヤモデルの作成方法及びタイヤのシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。
【
図2】解析対象のタイヤの一例を示す断面図である。
【
図3】タイヤの製造工程の一例を説明する断面図である。
【
図4】タイヤモデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】第2工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】張力定義工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】タイヤモデルを接地させた状態の一例を示す斜視図である。
【
図10】タイヤモデルのフットプリントの一例を示す図である。
【
図11】空気圧が充填されたタイヤ及びタイヤモデルの外面の形状を示すグラフである。
【
図12】(a)は、実験例のフットプリントの一例を示す図、(b)は、実施例のフットプリントの一例を示す図、(c)は、比較例のフットプリントの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、発明の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
【0017】
本実施形態のタイヤモデルの作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある。)では、バンドプライを含むタイヤに基づいて、その数値計算モデルであるタイヤモデルが作成される。本実施形態の作成方法、及び、後述のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)には、コンピュータが用いられる。
図1は、タイヤモデルの作成方法及びタイヤのシミュレーション方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。
【0018】
コンピュータ1は、例えば、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態の作成方法及びシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。したがって、コンピュータ1は、タイヤモデルの作成装置、及び、タイヤのシミュレーション装置として構成される。
【0019】
図2は、解析対象のタイヤ2の一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、乗用車用のものが例示されているが、特に限定されるわけではない。タイヤ2は、例えば、トラックやバスなどの重荷重用や、二輪自動車用等として用いられるものでもよい。なお、タイヤ2は、実在するか否かについては問われない。
【0020】
本実施形態のタイヤ2は、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とが含まれる。さらに、本実施形態のタイヤ2には、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に配されるバンド層9が含まれる。
【0021】
カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aを含んで構成されている。カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75~90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)を有している。
【0022】
ベルト層7は、少なくとも1枚、本実施形態では2枚のベルトプライ7A、7Bを含んで構成されている。ベルトプライ7A及び7Bは、タイヤ周方向に対して、例えば10~35度の角度で傾けて配列されたベルトコード(図示省略)を有している。これらのベルトプライ7A及び7Bは、それらのベルトコード(図示省略)が互いに交差する向きに重ね合わされている。
【0023】
バンド層9は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のバンドプライ9Aを含んで構成されている。バンドプライ9Aは、タイヤ周方向に沿って配列された補強コード10を備えている。ここで、「タイヤ周方向に沿って配列された補強コード10」には、タイヤ周方向に対する角度が、±5°程度の範囲で配されている補強コード10が含まれる。補強コード10には、例えば、ナイロンなどの有機繊維コードが好適に採用される。
【0024】
図3は、タイヤの製造工程の一例を説明する断面図である。
図3において、バンドプライ9Aの予備成形する工程(以下、単に「予備成形工程」ということがある。)を二点鎖線が示されており、加硫工程が実線で示されている。
【0025】
予備成形工程では、例えば、特許文献(特開2018-154075号公報)と同様に、補強コード(バンドコード)10を含むテープ状のバンドストリップ(図示省略)が用いられる。本実施形態の予備成形工程では、円筒状のデッキ(成形ドラム)11上に、ベルトプライ7A、7Bを介して、バンドストリップ(図示省略)が巻き付けられる。これにより、バンドプライ9Aは、デッキ11上で、円筒状に予備成形される。本実施形態において、デッキ11には、例えば、デッキの断面において、外面の輪郭が水平であるフラットデッキや、外面の輪郭が円弧であるプロファイルデッキ等が含まれる。
【0026】
タイヤの製造工程では、円筒状に予備成形されたバンドプライ9Aが、他の部材と接合されることにより、生タイヤ2Aが成形される。
図3において実線で示されるように、生タイヤ2Aは、加硫金型13に投入される。そして、生タイヤ2Aを加硫成形する加硫工程が行われる。
【0027】
加硫工程では、バンドプライ9Aを含む生タイヤ2Aが、高圧流体が供給されて膨張するブラダー12によって、加硫金型13のキャビティ14に押付けられて加硫成形される。これにより、
図2に示したタイヤ2が製造される。
【0028】
加硫工程でのバンドプライ9Aは、膨張するブラダー12により、デッキ11上に予備成形されたときのバンドプライ9A(
図3において、二点鎖線で示される)に比べて、タイヤ半径方向外側に移動されており、その外径が大きくなる(拡径される)。このようなバンドプライ9Aの外径の増大により、補強コード10は、その長手方向(タイヤ周方向)に拡張されて張力を受ける。このような張力の大きさは、補強コード10の拡張(拡径)の大きさに比例する。
【0029】
タイヤ赤道C側の補強コード10は、タイヤ軸方向外側の補強コード10に比べて大きく拡張している。このようなタイヤ赤道C側の補強コード10の張力は、例えば、デッキ11(
図3において二点鎖線で示す)上で巻き付けられる補強コード10の巻付け張力が同一である場合、タイヤ軸方向外側の補強コード10の張力に比べて、大きくなる傾向がある。したがって、補強コード10の張力は、バンドプライ9Aのタイヤ軸方向において均一ではない。
【0030】
タイヤの製造工程中に受けた補強コード10の張力は、製造されたタイヤ2(
図2に示す)に残る傾向がある。張力が残ったタイヤ2は、その張力を釣り合わせるために、その一部が変形する。このため、実際のタイヤ2の形状は、加硫金型13に関する情報で特定されるタイヤ2の形状とは異なる。このように、補強コード10の張力は、タイヤ2の形状に影響を及ぼすため、タイヤモデルを精度よく作成するには、デッキ11の形状と、成形後の形状との差に基づいて、補強コード10の張力を考慮することが重要である。
【0031】
図4は、タイヤモデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の作成方法では、先ず、
図3に示されるように、タイヤの製造工程中に補強コード10が受ける張力に影響を与えるパラメータが、バンドプライ9Aのタイヤ軸方向の予め定められた領域15ごとに求められる(第1工程S1)。本実施形態の第1工程S1において、パラメータの計算は、コンピュータ1によって行われている。
【0032】
パラメータについては、補強コード10が受ける張力に影響を与えるものであれば、特に限定されない。本実施形態のパラメータは、バンドプライ9Aがデッキ11上に予備成形されたときのプロファイル16aと、バンドプライ9Aのタイヤ製造後のプロファイル16bとに基づいて計算される拡張率(以下、単に「拡張率」ということがある。)が含まれる。なお、本例では、タイヤ製造後のプロファイル16bが、加硫工程中のプロファイル16bと一致するものとみなしている。
【0033】
本実施形態において、バンドプライ9Aのプロファイル16a、16bは、バンドプライ9Aのタイヤ半径方向の外面で特定されているが、このような態様に限定されない。例えば、バンドプライ9Aのプロファイル16a、16bは、バンドプライ9Aの補強コード10の位置で特定されてもよい。
【0034】
予備成形されたときのプロファイル(以下、単に「予備成形プロファイル」ということがある。)16aは、適宜求められうる。予備成形プロファイル16aは、例えば、
図3において二点鎖線に示したデッキ11上で予備成形されたバンドプライ9Aを実測して求められてもよいし、タイヤサイズ等から特定可能なデッキ11の断面形状等を考慮して求められてもよい。
【0035】
タイヤ製造後のプロファイル(以下、単に「製造後プロファイル」ということがある。)16bは、適宜求められうる。製造後プロファイル16bは、例えば、タイヤ2の加硫金型13の図面等から特定されるバンドプライ9Aの位置に基づいて求められうる。なお、製造後プロファイルは、例えば、特許文献(特開2019-217919号公報)に記載の手順に基づいて、タイヤ部材モデルから生タイヤモデルを作成し、その生タイヤモデルを加硫成形するシミュレーション結果に基づいて求められてもよい。
【0036】
本実施形態の拡張率は、補強コード10(バンドプライ9A)が長手方向(タイヤ周方向)に拡張した割合を示すものである。拡張率は、適宜計算されうる。本実施形態の拡張率は、製造後プロファイル16bの外径D1と予備成形プロファイル16aの外径D2との差(D1-D2)を、予備成形プロファイル16aの外径D2で除した値として計算される。このような拡張率は、タイヤ2の製造工程中に補強コード10が受ける歪みや張力と相関があり、拡張率が大きいほど、歪み及び張力が大きくなる。
【0037】
上述したように、補強コード10の張力(拡張率)は、バンドプライ9Aのタイヤ軸方向において均一ではない。したがって、第1工程S1では、バンドプライ9Aのタイヤ軸方向の予め定められた領域15ごとに、パラメータ(拡張率)が求められるのが望ましい。
【0038】
領域15については、バンドプライ9Aがタイヤ軸方向に区分されれば、適宜設定されうる。上述したように、タイヤ赤道C側の補強コード10は、タイヤ軸方向外側の補強コード10に比べて、相対的に大きく拡張する。このような関係を考慮して、本実施形態の領域15は、タイヤ赤道C側のセンター領域15aと、センター領域15aのタイヤ軸方向外側の一対のショルダー領域15b、15bとを含んで構成される。
【0039】
センター領域15aとショルダー領域15bとを区分する境界位置17は、適宜設定されうる。境界位置17の設定には、例えば、バンドプライ9Aの拡張率が考慮されるのが望ましい。本実施形態では、タイヤ製造後(加硫工程中)のバンドプライ9Aについて、タイヤ赤道Cから境界位置17までのタイヤ軸方向の長さL1が、タイヤ赤道Cからのタイヤ軸方向の外端までのタイヤ軸方向の長さL2の40%~80%の範囲内で設定されている。
【0040】
センター領域15aの拡張率、及び、一対のショルダー領域15b、15bの拡張率は、適宜計算されうる。本実施形態のセンター領域15aの拡張率は、センター領域15aをタイヤ軸方向に複数(例えば、2~20個)区分した位置において、それぞれ計算された拡張率の平均値として求められる。一方、本実施形態の一対のショルダー領域15b、15bの拡張率は、センター領域15aの拡張率と同様に、各ショルダー領域15bをタイヤ軸方向に複数区分した位置において、それぞれ計算された拡張率の平均値として求められる。拡張率(パラメータ)は、コンピュータ1に記憶される。
【0041】
次に、本実施形態の作成方法では、タイヤ2を有限個の要素で離散化したタイヤモデルが、コンピュータ1に定義される(第2工程S2)。
図5は、第2工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図6は、タイヤモデル21の一例を示す断面図である。
図6では、バンドプライモデル25が色付けして示されている。
【0042】
本実施形態の第2工程S2では、先ず、タイヤモデル21が設定される(工程S21)。工程S21では、
図3に示したタイヤ2の加硫金型13に関する情報(例えば、設計情報)に基づいて、タイヤ2が数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化されている。これにより、工程S21では、タイヤモデル21が設定(モデリング)される。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法を適宜採用することができるが、本実施形態では有限要素法が採用されている。
【0043】
タイヤモデル21には、ゴム部材モデル22、カーカスプライモデル23、ベルトプライモデル24A、24B、及び、バンドプライモデル25が含まれる。ゴム部材モデル22は、トレッドゴムなどのゴム部材をモデリングしたものである。カーカスプライモデル23は、カーカスプライ6A(
図2に示す)をモデリングしたものである。ベルトプライモデル24A、24Bは、ベルトプライ7A、7B(
図2に示す)をそれぞれモデリングしたものである。バンドプライモデル25は、バンドプライ9A(
図2に示す)をモデリングしたものである。
【0044】
上述したように、工程S21でモデリングされるタイヤモデル21は、加硫金型13(
図3に示す)に関する情報に基づいて設定されている。このため、工程S21において、タイヤモデル21のバンドプライモデル25には、補強コード10(
図3に示す)の張力が考慮されていない。したがって、タイヤモデル21の形状は、加硫金型13に関する情報で特定されるタイヤ2の形状(
図3に示す)と同一に設定される。
【0045】
要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素又は6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。これらの各要素F(i)には、要素番号、節点26の番号、節点26の座標値、及び、材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
【0046】
本実施形態のバンドプライモデル25には、タイヤ周方向の張力が定義可能な要素27(本例では、要素F(i))が定義される。本実施形態の要素27には、タイヤ周方向の張力が定義可能なものであれば、適宜採用される。本実施形態では、熱膨張係数が定義可能な要素27が用いられている。このような要素27には、後述の張力定義工程S22の工程S31で定義される熱膨張係数に基づいて、温度変化条件(例えば、基準温度からの温度低下量)が与えられることによって熱収縮し、バンドプライモデル25に張力が定義されうる。
【0047】
バンドプライモデル25には、
図3に示したバンドプライ9Aの領域15と同様に、タイヤ軸方向の予め定められた領域28が設定される。本実施形態のバンドプライモデル25の領域28には、バンドプライ9Aのセンター領域15a(
図3に示す)に対応するセンター領域28aと、一対のショルダー領域15b、15b(
図3に示す)に対応する一対のショルダー領域28b、28bとが含まれる。このような領域28は、例えば、バンドプライモデル25を構成する要素F(i)の節点26の番号や座標値等で判別される。
【0048】
本実施形態において、タイヤモデル21の定義には、例えば、メッシュ化ソフトウェア(例えば、ANSYS社の「ICEM CFD」、Altair社の「HyperMesh」、シーメンスPLMソフトウェア社の「Femap」等)が用いられるのが望ましい。タイヤモデル21は、コンピュータ1に記憶される。
【0049】
次に、本実施形態の第2工程S2では、コンピュータ1が、バンドプライモデル25の要素27(要素F(i))のタイヤ軸方向の予め定められた領域28ごとに、パラメータ(本例では、拡張率)に基づいたタイヤ周方向の張力を定義する(張力定義工程S22)。
【0050】
上述したように、本実施形態のタイヤモデル21は、タイヤ2(
図2に示す)の加硫金型13に関する情報に基づいてモデリングされている。このため、バンドプライモデル25は、
図3に示した予備成形されたバンドプライ9A(予備成形プロファイル16a)とは異なり、タイヤ製造後のバンドプライ9A(製造後プロファイル16b)と略同一の位置に配置されている。したがって、バンドプライモデル25の張力を計算するために、例えば、バンドプライモデル25をタイヤ半径方向外側に移動(タイヤ周方向に拡張)させると、タイヤモデル21の形状と、実際のタイヤ2の形状とが大きく異なってしまう。
【0051】
本実施形態の張力定義工程S22では、
図3に示した実際の製造工程のように、バンドプライモデル25をタイヤ半径方向外側に移動(タイヤ周方向に拡張)させるのではなく、バンドプライモデル25をタイヤ周方向に収縮させている。これにより、張力定義工程S22では、バンドプライモデル25にタイヤ周方向の張力が定義される。
図7は、張力定義工程S22の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0052】
本実施形態の張力定義工程S22では、先ず、
図6に示したバンドプライモデル25の要素27に、予め定められた熱膨張係数が定義される(工程S31)。熱膨張係数は、バンドプライモデル25を収縮させることができれば、適宜設定されうる。本実施形態の熱膨張係数には、
図3に示したバンドプライ9Aの補強コード10について、実際の熱膨張係数が定義されている。熱膨張係数が定義された要素27は、後述の工程S33において、熱膨張係数に、温度変化条件(本例では、基準温度からの温度低下量)が乗じられることで、熱収縮した状態が計算される。
【0053】
本実施形態の工程S31では、バンドプライモデル25の全ての要素27に、同一の熱膨張係数が定義されているが、異なる熱膨張係数が定義されてもよい。また、各要素27に定義される熱膨張係数としては、タイヤ周方向のみに熱収縮可能なものが望ましい。これにより、バンドプライモデル25は、各要素27をタイヤ周方向に熱収縮させることができ、タイヤ周方向の張力が効果的に定義されうる。熱膨張係数は、コンピュータ1に記憶される。
【0054】
次に、本実施形態の張力定義工程S22では、パラメータ(バンドプライ9Aの拡張率)と熱膨張係数とに基づいて、バンドプライモデル25の領域(センター領域28a及び一対のショルダー領域28b、28b)毎に、温度変化条件が与えられる(工程S32)。温度変化条件とは、予め定められた基準温度からの温度変化量として定義される。基準温度は、適宜設定されうる。本実施形態の基準温度には、バンドプライモデル25の要素27の熱収縮がゼロ(基準の体積に等しい状態)となる温度が設定されうる。
【0055】
工程S32では、バンドプライモデル25の領域28(本例では、センター領域28a及び一対のショルダー領域28b、28b)毎に、バンドプライ9Aの拡張率(本例では、平均拡張率)と、熱膨張係数とに基づいて、温度変化条件が求められる。このような温度変化条件は、後述の工程S33において、各領域28a、28b及び28bの要素27に定義された熱膨張係数に乗じられることで、バンドプライモデル25を熱収縮させることができる。そして、熱収縮したバンドプライモデル25により、バンドプライモデル25の張力が計算されうる。
【0056】
温度変化条件(本例では、基準温度からの温度低下量)は、適宜求められうる。本実施形態では、センター領域28aの張力を、一対のショルダー領域28b、28bの張力よりも大きくするために、センター領域28aの温度変化条件が、一対のショルダー領域28b、28bの温度変化条件よりも小さく(低い温度に)設定されている。これにより、次の工程S33において、一対のショルダー領域28b、28bに比べて、センター領域28aを大きく熱収縮させることができるため、センター領域28aの張力を、一対のショルダー領域28b、28bの張力よりも大きく計算することができる。
【0057】
センター領域28aの温度変化条件(本例では、基準温度からの温度低下量)、及び、一対のショルダー領域28b、28bの温度変化条件は、適宜求められうる。上述したように、拡張率と、補強コード10が受ける歪み及び張力とは相関があり、拡張率が大きいほど、歪み及び張力が大きくなる。本実施形態のセンター領域28aの温度変化条件は、熱膨張係数に乗じられることで熱収縮したセンター領域28aの要素27の収縮率(タイヤ周方向の収縮率)が、センター領域15aの拡張率(タイヤ周方向の拡張率)と一致するように求められている。一方、ショルダー領域28b、28bの温度変化条件は、熱膨張係数に乗じられることで熱収縮したショルダー領域28b、28bの要素27の収縮率が、ショルダー領域18b、18bの拡張率と一致するように求められる。なお、収縮率は、要素27がタイヤ周方向に収縮した割合を示すものである。温度変化条件は、コンピュータ1に記憶される。
【0058】
次に、本実施形態の張力定義工程S22では、熱膨張係数と温度変化条件とに基づいて、バンドプライモデル25の張力が計算される(工程S33)。工程S33では、バンドプライモデル25の各領域28(本例では、センター領域28a及び一対のショルダー領域28b、28b)を構成する要素27について、熱膨張係数と、温度変化条件とが乗じられる。これにより、工程S33では、各領域28a~28bにおいて、要素27を収縮させることができる。これにより、工程S33では、
図3に示した実際の製造工程のように、バンドプライモデル25をタイヤ半径方向外側に移動させなくても、バンドプライモデル25に、タイヤ周方向の張力が計算される。
【0059】
工程S33では、センター領域28aの温度変化条件が、一対のショルダー領域28b、28bの温度変化条件よりも小さく(低い温度に)設定されている。これにより、工程S33では、一対のショルダー領域28b、28bの要素27に比べて、センター領域28aの要素27を大きく収縮させることができるため、センター領域28aの張力を、一対のショルダー領域28b、28bの張力よりも大きくことができる。これにより、本実施形態では、実際のタイヤの製造工程中に補強コード10(
図3に示す)が受ける張力に基づいて、バンドプライモデル25に張力を定義することができる。
【0060】
工程S33では、バンドプライモデル25に張力が定義されることにより、タイヤモデル21において、張力の釣り合い計算(変形計算)が行われる。
【0061】
タイヤモデル21の変形計算(釣り合いを含む)は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらのマトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらが微小時間(単位時間T(x)(x=0、1、…))毎に計算される。このような変形計算には、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられうる。工程S33では、バンドプライモデル25の張力の釣り合うまで(即ち、張力がゼロになるまで)、タイヤモデル21の変形計算が行われる。
【0062】
本実施形態の作成方法では、実際のタイヤの製造工程中に補強コード10(
図3に示す)が受ける張力に基づいて、バンドプライモデル25に張力を定義することができる。したがって、作成方法では、タイヤモデル21を精度よく作成することが可能となる。さらに、本実施形態の作成方法では、
図3に示した実際のタイヤの製造工程のように、バンドプライモデル25をタイヤ半径方向外側に移動させる必要がないため、バンドプライモデル25に張力を、容易に定義することができる。
【0063】
これまでの実施形態では、補強コード10が受ける張力に影響を与えるパラメータとして、
図3に示したバンドプライ9Aのプロファイル16a、16bに基づいて計算される拡張率が用いられたが、このような態様に限定されない。タイヤ2の製造工程中に補強コード10が受ける張力には、バンドプライ9Aの予備成形工程(
図3において二点鎖線で示す)において、デッキ11上に補強コード10が巻きつけられるときの巻付け張力が含まれる。このような巻付け張力が、上記のパラメータとして用いられてもよい。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0064】
補強コード10の巻付け張力は、補強コード10の巻付け装置に含まれるテンションコントローラ(図示省略)等によって特定されうる。巻付け張力は、バンドプライ9Aのタイヤ軸方向において均一に設定される必要はなく、不均一に設定されてもよい。例えば、この実施形態の予備成形工程では、タイヤ赤道C側の補強コード10の巻付け張力が、タイヤ軸方向外側の補強コード10の巻付け張力に比べて大きく設定されているが、特に限定されない。
【0065】
この実施形態の第1工程S1(
図4に示す)では、予備成形されたバンドプライ9Aにおいて(
図3に二点鎖線で示す)、予め定められた領域15(センター領域15a及び一対のショルダー領域15b、15b)ごとに、補強コード10の巻付け張力が求められる。センター領域15aの巻付け張力、及び、一対のショルダー領域15b、15bの巻付け張力は、適宜計算されうる。この実施形態のセンター領域15aの巻付け張力は、センター領域15aをタイヤ軸方向に複数(例えば、上記の個数)区分した位置において、それぞれ特定された巻付け張力の平均値として求められる。一方、この実施形態の一対のショルダー領域15b、15bの巻付け張力は、センター領域15aの巻付け張力と同様に、各ショルダー領域15b、15bをタイヤ軸方向に複数区分した位置において、それぞれ特定された巻付け張力の平均値として求められる。巻付け張力(パラメータ)は、コンピュータ1に記憶される。
【0066】
この実施形態の温度変化条件を与える工程S32(
図7に示す)では、パラメータ(巻付け張力)と熱膨張係数とに基づいて、バンドプライモデル25の領域(センター領域28a及び一対のショルダー領域28b、28b)毎に、温度変化条件が与えられる。
【0067】
この実施形態では、センター領域28aの張力を、一対のショルダー領域28b、28bの張力よりも大きくするために、センター領域28aの温度変化条件が、一対のショルダー領域28b、28bの温度変化条件よりも小さく(低い温度に)設定されている。これにより、次の工程S33において、一対のショルダー領域28b、28bに比べて、センター領域28aを大きく熱収縮させることができるため、センター領域28aの張力を、一対のショルダー領域28b、28bの張力よりも大きく計算することができる。
【0068】
本実施形態のセンター領域28aの温度変化条件は、熱膨張係数に乗じられることで熱収縮したセンター領域28aの張力が、
図3に示したセンター領域15aの巻付け張力と一致するように求められるのが望ましい。ショルダー領域28b、28bの温度変化条件は、熱膨張係数に乗じられることで熱収縮したショルダー領域28b、28bの張力が、
図3に示したショルダー領域15b、15bの巻付け張力と一致するように求められるのが望ましい。このような温度変化条件は、例えば、熱収縮したバンドプライモデル25の張力と、温度変化条件との関係が予め求められることによって、容易に求めることができる。温度変化条件は、コンピュータ1に記憶される。
【0069】
この実施形態のバンドプライモデル25の張力を計算する工程S33(
図7に示す)では、各領域28(本例では、センター領域28a及び一対のショルダー領域28b、28b)において、各要素27の熱膨張係数と、温度変化条件とが乗じられる。これにより、工程S33では、各領域28a、28b及び28bにおいて、各要素27を収縮させることができる。これにより、工程S33では、バンドプライモデル25に、タイヤ周方向の張力が計算される。
【0070】
この実施形態の工程S33では、センター領域28aの温度変化条件が、一対のショルダー領域28b、28bの温度変化条件よりも小さく(低い温度に)設定されている。これにより、工程S33では、一対のショルダー領域28b、28bの要素27に比べて、センター領域28aの要素27を大きく収縮させることができるため、センター領域28aの張力を、一対のショルダー領域28b、28bの張力よりも大きくことができる。これにより、この実施形態では、実際のタイヤの製造工程中に補強コード10の巻付け張力に基づいて、バンドプライモデル25に張力を定義することができる。
【0071】
工程S33では、バンドプライモデル25に張力が定義されることにより、タイヤモデル21において、張力の釣り合い計算(変形計算)が行われる。したがって、この実施形態の作成方法では、タイヤモデル21を精度よく作成することが可能となる。
【0072】
これまでの実施形態では、補強コード10が受ける張力に影響を与えるパラメータとして、補強コード10(バンドプライ9A)の拡張率と、補強コード10の巻付け張力とが、それぞれ独立して用いられたが、このような態様に限定されない。
【0073】
図3に示されるように、タイヤ赤道C側の補強コード10は、タイヤ軸方向外側の補強コード10に比べて大きく拡張するため、その張力が大きくなる傾向がある。このような張力の差を小さくするために、例えば、バンドプライ9Aの予備成形工程(
図3で二点鎖線で示す)において、タイヤ赤道C側の補強コード10の巻付け張力が、タイヤ軸方向外側の補強コード10の巻付け張力に比べて小さく設定される場合がある。このような場合、タイヤの製造工程中に補強コード10が受ける張力を精度よく定義するには、バンドプライ9Aの拡張率と、補強コード10の巻付け張力との双方が考慮されるのが望ましい。
【0074】
この実施形態では、補強コード10が受ける張力に影響を与えるパラメータとして、バンドプライ9Aの拡張率と、補強コード10の巻付け張力との双方が用いられる。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0075】
この実施形態の工程S32(
図7に示す)では、各領域28a~28bにおいて、バンドプライ9Aの拡張率と熱膨張係数とで求めた温度変化条件と、補強コード10の巻付け張力と熱膨張係数とで求めた温度変化条件との和が、温度変化条件として与えられる。このような温度変化条件は、工程S33(
図7に示す)において、各要素27の熱膨張係数が乗じられることにより、バンドプライ9Aの拡張率と、補強コード10の巻付け張力との双方が考慮された張力が計算されうる。したがって、この実施形態の作成方法では、タイヤモデル21を精度よく作成することが可能となる。
【0076】
これまでの実施形態のバンドプライ9Aの領域15は、センター領域15a、及び、一対のショルダー領域15b、15bを含む3つの領域に区分されたが、このような態様に限定されるわけではなく、さらに多くの領域に区分されてもよい。例えば、張力を受ける補強コード10が配されるタイヤ軸方向の間隔に基づいて、複数の領域15に区分されてもよい。これにより、工程S33では、タイヤの製造工程中に張力を受ける補強コード10毎に、バンドプライモデル25に張力が定義されるため、タイヤモデル21を、より精度よく作成することが可能となる。また、バンドプライモデル25の要素F(i)に対応する大きさに基づいて、複数の領域15に区分されてもよい。これにより、最も小さな領域を設定しつつ、各領域での物理量の計算等が可能となる。
【0077】
次に、上述の作成方法で作成されたタイヤモデル21を用いたタイヤのシミュレーション方法が説明される。本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル21の変形後の状態が計算される。
図8は、タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0078】
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、タイヤモデル21が作成される(工程S3)。タイヤモデル21は、上記の作成方法に基づいて作成される。タイヤモデル21は、コンピュータ1に記憶される。
【0079】
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、予め定められた条件に基づいて、タイヤモデル21の変形後の状態を計算する(第3工程S4)。変形後の状態は、適宜設定されうる。本実施形態の変形後の状態は、タイヤモデル21に空気圧を充填した形状である場合が例示される。
【0080】
本実施形態の第3工程S4では、タイヤ2のリムがモデル化されたリムモデル31(
図9に示す)によって、
図6に示したタイヤモデル21のビード部21c、21cが拘束される。本実施形態のリムモデル31は、変形不能に設定された剛平面要素(図示省略)で定義される。
【0081】
次に、本実施形態の第3工程S4では、内圧条件に相当する等分布荷重に基づいて、タイヤモデル21の変形が計算される。内圧には、例えば、解析対象のタイヤ2(
図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定されるのが望ましい。これにより、第3工程S4では、タイヤモデル21に空気圧を充填した形状が計算される。タイヤモデル21の変形計算の詳細は、上述のとおりである。
【0082】
本実施形態のシミュレーション方法では、実際のタイヤの製造工程中に補強コード10(
図3に示す)が受ける張力に基づいて、バンドプライモデル25に張力が定義されたタイヤモデル21が用いられている。このため、本実施形態のシミュレーション方法では、バンドプライモデル25の張力の影響を考慮して、空気圧が充填されたタイヤモデル21が計算されうる。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル21に空気圧を充填した形状を、実際のタイヤ2に空気圧を充填した形状に近似させることができる。
【0083】
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル21の変形後の状態が、良好か否かが判断される(工程S5)。工程S5では、タイヤモデル21の変形後の形状(例えば、寸法等)が、予め定められた閾値以内か否かがは判断される。閾値は、タイヤ2(
図2に示す)のカテゴリや構造等に基づいて適宜設定される。
【0084】
工程S5において、タイヤモデル21の変形後の状態が良好であると判断された場合(工程S5で、「Y」)、加硫金型13の図面に基づいて、タイヤ2(
図2に示す)が製造される(工程S6)。
【0085】
一方、工程S5において、タイヤモデル21の変形後の状態が良好ではないと判断された場合(工程S5で、「N」)、
図2に示したタイヤ2(加硫金型13)が設計変更されて(工程S7)、工程S3~工程S5が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、変形後の状態が良好なタイヤ2を確実に製造することができる。なお、工程S7では、タイヤモデル21の変形後の状態が良好になるように、補強コード10(
図3に示す)が受ける張力に影響を与える拡張率や、巻付け張力が変更されてもよい。
【0086】
これまでの実施形態のシミュレーション方法では、変形後の状態として、タイヤモデル21に空気圧を充填した形状が計算されたが、このような態様に限定されない。変形後の状態として、タイヤモデル21を接地させた状態が計算されてもよい。
図9は、タイヤモデル21を接地させた状態の一例を示す斜視図である。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0087】
この実施形態の第3工程S4(
図8に示す)では、先ず、前実施形態のシミュレーション方法と同様に、タイヤモデル21に空気圧を充填した形状が計算される。そして、この実施形態の第3工程S4では、空気圧が充填されたタイヤモデル21が、路面モデル32に接地される。
【0088】
路面モデル32は、路面(本実施形態では、平坦路)に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素H(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、路面をモデリングした路面モデル32が設定される。有限個の要素(以下、単に、「要素」ということがある。)H(i)としては、変形不能に設定された剛平面要素が採用される。各要素H(i)には、複数の節点33が設けられている。これらの各要素H(i)には、要素番号や、節点33の座標値等の数値データが定義される。
【0089】
路面モデル32は、平坦路(図示省略)をモデル化しているが、このような態様に限定されない。路面モデル32は、例えば、円筒状に形成されたドラム試験機(図示省略)の外周面をモデル化したものでもよい。また、本実施形態の路面モデル32の外面は、平滑なスムース路面として設定されているが、このような態様に限定されない。路面モデル32の外面には、例えば、走行騒音試験に用いられる路面(ISO路面)や、アスファルト路面に基づいて、凹凸(図示省略)が設定されてもよい。
【0090】
この実施形態の第3工程S4では、路面モデル32に、空気圧が充填されたタイヤモデル21が接地される。この実施形態では、タイヤモデル21の回転軸21sに、荷重条件(荷重L)が設定される。荷重条件としては、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定める空気圧及び荷重が設定される。これにより、第3工程S4では、タイヤモデル21を接地させた状態が計算される。
図10は、タイヤモデル21のフットプリント(接地形状)の一例を示す図である。
【0091】
この実施形態のシミュレーション方法では、実際のタイヤの製造工程中に補強コード10が受ける張力に基づいて、バンドプライモデル25に張力が定義されたタイヤモデル21が用いられている。このため、この実施形態のシミュレーション方法では、バンドプライモデル25の張力の影響を考慮して、タイヤモデル21を接地させた状態が計算されうる。これにより、この実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル21を接地させた形状を、実際のタイヤ2を接地させた形状に近似させることができる。
【0092】
第3工程S4では、変形後の状態として、タイヤモデル21を路面モデル32に転動させた形状が計算されてもよい。これにより、シミュレーション方法では、タイヤモデル21を転動させた形状を、実際のタイヤ2を転動させた形状に近似させることができる。
【0093】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0094】
図2に示した基本構造を有し、かつ、バンドプライが設けられたタイヤが製造された(実験例)。実験例では、製造されたタイヤについて、空気圧が充填されたときの形状が測定された。さらに、実験例では、空気圧が充填されたタイヤを接地させたときのフットプリントが取得された。
【0095】
図11は、空気圧が充填されたタイヤ及びタイヤモデルの外面の形状を示すグラフである。
図11において、横軸には、タイヤ赤道Cの位置を「0」とするタイヤ軸方向の距離が示されており、縦軸には、タイヤ回転軸からのタイヤ半径方向の距離が示されている。
図12(a)は、実験例のタイヤのフットプリントの一例を示す図である。
【0096】
図4に示した処理手順に基づいて、実験例のタイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデルが作成された(実施例及び比較例)。タイヤモデルでは、実験例のタイヤのような横溝が省略されている。
【0097】
実施例では、
図5及び
図7に示した処理手順に基づいて、バンドプライモデルの要素のタイヤ軸方向の予め定められた領域ごとに、タイヤの製造工程中に補強コードが受ける張力に影響を与えるパラメータに基づいて、タイヤ周方向の張力が定義された。一方、比較例のバンドプライモデルには、実施例のような張力が考慮されていない。
【0098】
実施例及び比較例では、
図8に示した処理手順に基づいて、タイヤモデルに空気圧を充填した形状が計算された。実施例及び比較例のタイヤモデルの形状は、
図11に示されている。
【0099】
さらに、実施例及び比較例では、空気圧が充填されたタイヤモデルを接地させたときのフットプリントが取得された。
図12(b)は、実施例のフットプリントの一例を示す図である。
図12(c)は、比較例のフットプリントの一例を示す図である。共通仕様は、次のとおりである。
【0100】
タイヤサイズ:205/55R16
実施例:
張力に影響を与えるパラメータ:
センター領域の拡張率:2%
ショルダー領域の拡張率:1%
バンドプライの収縮率:
センター領域の要素の収縮率:1%
ショルダー領域の要素の収縮率:0.25%
【0101】
図11に示されるように、実施例のタイヤモデルは、比較例のタイヤモデルに比べて、実験例のタイヤの形状に近似させることができた。さらに、
図12(b)に示される実施例のタイヤモデルは、
図12(c)に示される比較例のタイヤモデルに比べて、
図12(a)に示される実験例のタイヤの接地形状に近似させることができた。したがって、実施例は、比較例に比べて、タイヤモデルを精度よく作成することができた。
【符号の説明】
【0102】
S21 タイヤモデルを設定する工程
S22 バンドプライモデルのタイヤ周方向の張力を定義する工程