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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】スパンボンド不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/16 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
D04H3/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020163359
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055759
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】島田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 吉成
(72)【発明者】
【氏名】小出 現
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214938(JP,A)
【文献】国際公開第2007/148497(WO,A1)
【文献】特表2005-526548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面が、高輝度領域と低輝度領域とが交互に配列されてなるストライプ模様を有するスパンボンド不織布であって、前記ストライプ模様の形成方向と直交する方向の平均輝度プロファイルにおいて、頂点部と隣接する底部との輝度差が10~100であり、頂点部のピッチが5mm~60mmであり、ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度が0°~45°であり、さらに、
前記スパンボンド不織布の目付が、10g/m ~100g/m であり、
前記高輝度領域と前記低輝度領域の目付差が、5g/m ~90g/m であり、
前記高輝度領域におけるスパンボンド不織布の厚みと前記低輝度領域におけるスパンボンド不織布の厚みとの差が0.03mm~1mmである、スパンボンド不織布。
【請求項2】
前記高輝度領域の繊維配向度と前記低輝度領域の繊維配向度との差が0°~5°である、請求項1に記載のスパンボンド不織布。
【請求項3】
前記スパンボンド不織布を構成する繊維の平均単繊維直径が6.5μm~14.5μmである、請求項1または2に記載のスパンボンド不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生材料や清掃用シートとしての使用に適したスパンボンド不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料用途では、従来から求められている風合い、肌触り、および柔軟性といった特性に加えて、意匠性に優れる不織布が求められている。
【0003】
不織布に意匠性を付与する手段としては、凹凸ロールによる熱圧着で模様を付与する簡易的な方法の他に、不織布を構成する繊維の開繊状態や捕集状態をコントロールする手法が用いられている。例えば、不織布を構成する糸条の電気開繊状態を変化させて捕集することにより、不織布に任意の模様を発現させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、不織布を捕集するコレクタネットの一部を閉鎖することにより、不織布に模様を付与することができる製造装置が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-109658号公報
【文献】特開2017-206803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、不織布の開繊状態により所定の模様を付与するため、模様の視認性が悪い上、開繊状態を甘くした箇所では地合が悪化し品位や物性が低下するという問題がある。また、電気開繊状態を変化させているため、微細な模様を付与することが困難であるという問題がある。
【0007】
一方、特許文献2に開示された装置では、コレクタネットの一部を閉鎖するため、部分的に糸条を捕集しにくくなり品位や物性が低下する他、閉鎖する部分の大きさにも制約があり十分な意匠性を発現できないという問題があることを見出した。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記の課題に鑑み、意匠性に優れ、十分な品位と強度を有し、かつ少なくとも一方向の柔軟性に優れるスパンボンド不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、高輝度領域と低輝度領域とが交互に配列されてなるストライプ模様を有するスパンボンド不織布において、ストイプ模様の輝度プロファイルや不織布の繊維配向等を特定の範囲に制御とすることで、意匠性だけでなく品位と強度とに優れ、さらに少なくとも一方向の柔軟性に優れるスパンボンド不織布が得られるという知見を得た。
【0010】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0011】
本発明のスパンボンド不織布は、少なくとも一方の表面が、高輝度領域と低輝度領域とが交互に配列されてなるストライプ模様を有するスパンボンド不織布であって、前記のストライプ模様の形成方向と直交する方向の平均輝度プロファイルにおいて、頂点部と隣接する底部との輝度差が10~100であり、頂点部のピッチが5mm~60mmであり、ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度が0°~45°であり、さらに、
前記スパンボンド不織布の目付が、10g/m ~100g/m であり、
前記高輝度領域と前記低輝度領域の目付差が、5g/m ~90g/m であり、
前記高輝度領域におけるスパンボンド不織布の厚みと前記低輝度領域におけるスパンボンド不織布の厚みとの差が0.03mm~1mmである。
【0013】
本発明の不織布の好ましい態様によれば、前記の高輝度領域の繊維配向度と前記の低輝度領域の繊維配向度との差が0°~5°である。
【0014】
本発明の不織布の好ましい態様によれば、前記のスパンボンド不織布を構成する繊維の平均単繊維直径が6.5μm~14.5μmである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、意匠性に優れ、十分な品位と強度を有し、かつ少なくとも一方向の柔軟性に優れるスパンボンド不織布が得られる。これらの特性から、本発明のスパンボンド不織布は、特に衛生材料用途として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のスパンボンド不織布の、高輝度領域と低輝度領域とが交互に配列されてなるストライプ模様を例示する、上面概念図である。
図2図2は、本発明のスパンボンド不織布の、異なる2方向のストライプ模様が重なり合うことで形成される格子模様を例示する、上面概念図である。
図3図3は、図1の領域(3)において、本発明のスパンボンド不織布のストライプ模様と直交する方向の平均輝度プロファイルを例示・説明する、概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のスパンボンド不織布は、少なくとも一方の表面が、高輝度領域と低輝度領域とが交互に配列されてなるストライプ模様を有するスパンボンド不織布であって、前記のストライプ模様の形成方向と直交する方向の平均輝度プロファイルにおいて、頂点部と隣接する底部との輝度差が10~100であり、頂点部のピッチが5mm~60mmであり、ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度が0°~45°であり、さらに、前記スパンボンド不織布の目付が、10g/m ~100g/m であり、前記高輝度領域と前記低輝度領域の目付差が、5g/m ~90g/m であり、前記高輝度領域におけるスパンボンド不織布の厚みと前記低輝度領域におけるスパンボンド不織布の厚みとの差が0.03mm~1mmである。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0018】
[熱可塑性樹脂]
本発明のスパンボンド不織布では、スパンボンド不織布を構成する繊維を形成する熱可塑性樹脂として、例えば、ポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂が用いられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂が挙げられ、ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタラート系樹脂やポリ乳酸系樹脂が挙げられる。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体もしくはプロピレンと各種α-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。また、ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレンの単独重合体もしくはエチレンと各種α-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。
【0020】
なかでも、紡糸性や強度、柔軟性等の特性の観点から、特にポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0021】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂について、プロピレンの単独重合体の割合が60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。上記範囲とすることで良好な紡糸性を維持し、かつ強度を向上させることができる。
【0022】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂としては、2種以上の混合物であってもよく、またその他のオレフィン系樹脂や熱可塑性エラストマー等を含有する樹脂組成物を用いることもできる。
【0023】
また、上記の熱可塑性樹脂を組み合わせた複合型繊維としても用いられる。複合型繊維の複合形態としては、例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型および海島型などの複合形態を挙げることができる。中でも、紡糸性に優れ、熱接着により繊維同士を均一に接着させることができることから、同心芯鞘型の複合形態とすることが好ましい態様である。
【0024】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、および顔料等の添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0025】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂の融点は、80℃~200℃であることが好ましい。融点を好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上とすることにより、実用に耐え得る耐熱性が得られやすくなる。また、融点を好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下とすることにより、口金から吐出された糸条を冷却し易くなり、繊維同士の融着を抑制し安定した紡糸が行い易くなる。
【0026】
本発明のスパンボンド不織布の原料である樹脂のメルトフローレート(以下、単にMFRと記載する場合がある。)は、好ましくは30g/10分~850g/10分である。MFRを30g/10分以上、より好ましくは60g/10分以上、さらに好ましくは100g/分以上とすることで、生産時の曳糸性に優れ、かつ地合が均一なスパンボンド不織布とすることができる。一方、850g/10分以下、より好ましくは600g/10分以下、さらに好ましくは400g/10分以下とすることで、スパンボンド不織布の強度低下を抑制することができる。
【0027】
この樹脂のMFRは、ASTM D1238(A法)によって測定される値を採用する。この規格によれば、例えば、ポリプロピレンは荷重:2.16kg、温度:230℃にて、ポリエチレンは荷重:2.16kg、温度:190℃にて測定することが規定されている。
【0028】
MFRの異なる2種類以上の樹脂を任意の割合でブレンドして、ポリオレフィン系樹脂のMFRを調整することも当然可能である。この場合、主となるポリオレフィン系樹脂に対してブレンドする樹脂のMFRは、10g/10分~1000g/10分であることが好ましく、より好ましくは20g/10分~800g/10分、さらに好ましくは30g/10分~600g/10分である。上記範囲とすることにより、ブレンドしたポリオレフィン系樹脂に部分的に粘度斑が生じ、繊度が不均一化したり、紡糸性が悪化したりすることを防ぐことができる。
【0029】
また、後述する繊維を紡出する際、部分的な粘度斑の発生を防ぎ、繊維の繊度を均一化し、さらに繊維径を後述するように細くするため、用いる樹脂に対して、この樹脂を分解してMFRを調整することも考えられる。しかしながら、例えば、過酸化物、特に、ジアルキル過酸化物等の遊離ラジカル剤などを添加しないことが好ましい。この手法を用いた場合、部分的に粘度斑が発生して繊度が不均一化し、十分に繊維径を細くすることが困難となる他、粘度斑や分解ガスによる気泡で紡糸性が悪化する場合もある。
【0030】
本発明のスパンボンド不織布には、滑り性や柔軟性を向上させるために、構成繊維であるところのポリオレフィン系樹脂からなるポリオレフィン系繊維に、炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物が含有されても良い。
【0031】
ポリオレフィン系樹脂に混合される脂肪酸アミド化合物の炭素数を好ましくは23以上とし、より好ましくは30以上とすることにより、脂肪酸アミド化合物が過度に繊維表面に露出することを抑制し、紡糸性と加工安定性に優れたものとし、高い生産性を保持することができる。一方、脂肪酸アミド化合物の炭素数を好ましくは50以下とし、より好ましくは42以下とすることにより、脂肪酸アミド化合物が繊維表面に移動しやすくなり、スパンボンド不織布に滑り性と柔軟性を付与することができる。
【0032】
本発明で使用される炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物としては、例えば、飽和脂肪酸モノアミド化合物、飽和脂肪酸ジアミド化合物、不飽和脂肪酸モノアミド化合物、および不飽和脂肪酸ジアミド化合物などが挙げられる。
【0033】
具体的には、炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物として、テトラドコサン酸アミド、ヘキサドコサン酸アミド、オクタドコサン酸アミド、ネルボン酸アミド、テトラコサペンタエン酸アミド、ニシン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、ジステアリルセバシン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、およびヘキサメチレンビスオレイン酸アミドなどが挙げられ、これらは複数組み合わせて用いることもできる。
【0034】
本発明では、これらの脂肪酸アミド化合物の中でも、特に飽和脂肪酸ジアミド化合物であるエチレンビスステアリン酸アミドが好ましく用いられる。エチレンビスステアリン酸アミドは、熱安定性に優れているため溶融紡糸が可能であり、このエチレンビスステアリン酸アミドが配合された熱可塑性樹脂からなる繊維により、高い生産性を保持しながら、滑り性や柔軟性に優れたスパンボンド不織布を得ることができる。
【0035】
本発明では、繊維に対する脂肪酸アミド化合物の添加量は、0.01質量%~5.0質量%であることが好ましい態様である。脂肪酸アミド化合物の添加量を0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上とすることで、適度な滑り性と柔軟性を付与することができる。一方、5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下とすることで、紡糸性の低下を抑制することができる。
【0036】
ここでいう添加量とは、本発明のスパンボンド不織布を構成する熱可塑性樹脂全体に対して添加した脂肪酸アミド化合物の質量パーセントを言う。例えば、芯鞘型複合繊維を構成する鞘部成分のみに脂肪酸アミド化合物を添加する場合でも、芯鞘成分全体量に対する添加割合を算出している。
【0037】
繊維に対する脂肪酸アミド化合物の添加量を測定する方法としては、例えば、前記の繊維から添加剤を溶媒抽出し、液体クロマトグラフ質量分析(LS/MS)などを用いて定量分析する方法が挙げられる。このとき抽出溶媒は脂肪酸アミド化合物の種類に応じて適宜選択されるものであるが、例えばエチレンビスステアリン酸アミドの場合には、クロロホルム-メタノール混液などを用いる方法が一例として挙げられる。
【0038】
[スパンボンド不織布を構成する繊維]
本発明のスパンボンド不織布を構成する繊維は、平均単繊維径が6.5μm~14.5μmであることが好ましい。平均単繊維径を好ましくは6.5μm以上とし、より好ましくは7.5μm以上とし、さらに好ましくは8.4μm以上とすることにより、紡糸性の低下を防ぎ、安定して品質の良いスパンボンド不織布を生産することができる。一方、平均単繊維径を好ましくは14.5μm以下とし、より好ましくは11.7μm以下とし、さらに好ましくは11.2μm以下とすることにより、柔軟性を向上させ、かつ均一性の高いスパンボンド不織布とすることができる。
【0039】
なお、本発明においては、前記のスパンボンド不織布を構成する繊維の平均単繊維径(μm)は、以下の手順によって算出される値を採用するものとする。
(1)樹脂を溶融紡糸し、エジェクターで牽引・延伸した後、ネット上に不織繊維ウェブを捕集する。
(2)ランダムに小片サンプル(100×100mm)10個を採取する。
(3)マイクロスコープまたは電子顕微鏡で500倍~1000倍の表面写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の幅を測定する。
(4)測定した100本の値の平均値から平均単繊維径(μm)を算出する。
【0040】
[スパンボンド不織布]
本発明のスパンボンド不織布は、高輝度領域と低輝度領域とが交互に配列されてなるストライプ模様を有する。ここで、本発明において、「高輝度領域」とはスパンボンド不織布の平均輝度よりも高い輝度を有する領域のことを指すものとし、一方、「低輝度領域」とはスパンボンド不織布の平均輝度よりも低い輝度を有する領域のことを指すものとする。また、「ストライプ模様」とは、図1に例示されるような高輝度領域と低輝度領域とが紙面の横方向に交互に配列されてなる模様だけでなく、図2に例示されるような高輝度領域と低輝度領域とが紙面の縦横2方向に交互に配列されてなる模様(格子状模様)も指すものとする。なお、スパンボンド不織布の平均輝度は、以下の方法によって測定・算出される値を指す。
(1)黒台紙(ACカード黒#350)にスパンボンド不織布を貼る。
(2)スキャナー(例えば、富士ゼロックス株式会社製「DocuCentre-VI」など)を用い、スパンボンド不織布を貼り付けた前記の黒台紙をフルカラー200dpiでスキャンして、スパンボンド不織布のカラースキャン画像を作成し、JPG形式で保存する。
(3)画像を一片の長さが150mmの正方形となるようトリミングする。
(4)各画素についてYUVカラースペースで定義される輝度(単位なし)を算出する
(各画素の輝度)=0.29891×R+0.58661×G+0.11448×B
ここで、R、G、BはそれぞれRGBカラーモデルの赤色、緑色、青色の輝度(それぞれ、単位なし)を表している。
(5)すべての画素の輝度を平均し、小数点以下第1位を四捨五入して平均輝度とする。
【0041】
本発明のスパンボンド不織布は、ストライプ模様と直交する方向の平均輝度プロファイルにおいて、頂点部(P)と底部(P)を有し、かつ頂点部と隣接する底部との輝度差が10~100である。頂点部と隣接する底部との輝度差を10以上とし、好ましくは15以上とし、より好ましくは20以上とすることにより、意匠性に優れ、かつ少なくとも一方向の柔軟性に優れるスパンボンド不織布とすることができる。また清掃用シートとしての用途においては拭き取り性能を向上させることができる。一方、頂点部と隣接する底部との輝度差を100以下とし、好ましくは80以下とし、より好ましくは60以下とすることにより、低輝度領域(2)の繊維量が過度に減少し、実用に供しうる強度が損なわれることを防ぐことができる。なお、本発明においてストライプ模様の形成方向とは、図1に例示されるような一方向に高輝度領域(1)と低輝度領域(2)とが交互に配列されてなる模様の場合は、図1における矢印(4)の方向、図2に例示されるような高輝度領域(1)と低輝度領域(2)とが紙面の縦横2方向に交互に配列されてなる模様の場合は、より高輝度領域を多く含む方向であり、矢印(4)の方向である。
【0042】
本発明において、スパンボンド不織布のストライプ模様と直交する方向の平均輝度プロファイルは、以下に示す方法により測定される。
(1)黒台紙(ACカード黒#350)にスパンボンド不織布を貼る。
(2)スキャナー(例えば、富士ゼロックス株式会社製「DocuCentre-VI」など)を用い、スパンボンド不織布を貼り付けた前記の黒台紙をフルカラー200dpiでスキャンして、スパンボンド不織布のカラースキャン画像を作成し、JPG形式で保存する。このとき高輝度領域(1)の形成方向(ストライプ模様の形成方向(4))が画像の縦方向となるようにする。図2に例示されるような高輝度領域(1)と低輝度領域(2)とが紙面の縦横2方向に交互に配列されてなる模様の場合は、より明瞭な一方向をストライプ模様の形成方向として選定する(図2に例示されるような場合には、ストライプ模様の形成方向は符号4で示される方向)。異なる2方向のストライプ模様の明瞭性が同等である場合には、縦横2方向のうち、任意の方向をストライプ模様の形成方向(4)とする。
(3)画像を一片の長さが30mm以上300mm以下の正方形となるようトリミングする。このとき隣接する高輝度領域(A)と低輝度領域(B)を1単位とするストライプ模様の構成単位が、少なくとも4単位以上含まれるサイズとする。
(4)各画素についてYUVカラースペースで定義される輝度(単位なし)を算出する
(各画素の輝度)=0.29891×R+0.58661×G+0.11448×B
ここで、R、G、BはそれぞれRGBカラーモデルの赤色、緑色、青色の輝度(それぞれ、単位なし)を表している。
(5)画像の縦方向(ストライプ模様の形成方向)に平均輝度を算出し、横方向(ストライプ模様と直交する方向)の平均輝度プロファイルを作成する。
【0043】
図3にはスパンボンド不織布のストライプ模様の形成方向と直交する方向の平均輝度プロファイルの例を示す。平均輝度プロファイルの頂点部(P)と隣接する底部(P)との輝度差は、1つの頂点部に隣接する2つの底部のうち、より平均輝度の大きい底部を用いて測定される。また5箇所以上の頂点部について輝度差を測定し、それらの平均値の小数点以下第1位を四捨五入し、頂点部と隣接する底部との輝度差とする。
【0044】
平均輝度プロファイルのがたつきにより頂点部と底部の判定が困難である場合は、横方向(ストライプ模様と直交する方向)に移動平均処理を施しても良い。この場合、平均輝度プロファイルが適切につくられるようにするため、移動平均の幅は、処理後の平均輝度プロファイルから判定した頂点のピッチの8分の1以下となるよう調整する。
【0045】
本発明のスパンボンド不織布は、ストライプ模様と直交する方向の平均輝度プロファイルにおいて、隣接する頂点部間の距離、すなわち、頂点部のピッチが5mm~60mmである。平均輝度プロファイルの頂点部のピッチを、5mm以上、好ましくは8mm以上、より好ましくは10mm以上とすることにより、意匠性に優れ、かつ少なくとも一方向の柔軟性に優れるスパンボンド不織布とすることができる。また、清掃用シートなどの用途においては、拭き取り性能を向上させることができる。一方、平均輝度プロファイルの頂点部のピッチを、60mm以下、好ましくは45mm以下、より好ましくは30mm以下とすることにより、意匠性を向上させるとともに、屈曲しやすい低輝度領域(B)を狭い間隔で配列されることで柔軟性のばらつきが小さいスパンボンド不織布とすることができる。また清掃用シートとしての用途においては拭き取り性能のばらつきを低減させることができる。
【0046】
平均輝度プロファイルの頂点部のピッチ(mm)は、隣接する頂点部のピッチを5箇所以上測定し、それらの平均値(mm)の小数点以下第1位を四捨五入する。
【0047】
本発明のスパンボンド不織布は、ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度が45°以下である。ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度を45°以下とし、好ましくは35°以下とし、より好ましくは30°以下とすることにより、地合が良好で、かつ意匠性に優れるスパンボンド不織布とすることができる。
【0048】
図2に例示するような格子模様におけるストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度は、上記の平均輝度プロファイルの作成に使用したストライプ模様と同じ形成方向のストライプ模様を基準として、以下のように測定される。
(1)隣接する高輝度領域と低輝度領域を1単位とするストライプ模様の構成単位を含む長さ20mmの試験片を、スパンボンド不織布の幅方向等間隔に5枚採取する。
(2)走査型電子顕微鏡を用いて、各サンプルについて、高目付領域と低目付領域の中心部の表面写真を撮影する。倍率は500倍以上で、少なくとも20本以上の繊維が含まれる倍率を選定する。
(3)それぞれの表面写真について、任意の位置にストライプ模様の形成方向と直交する目安線を引く。目安線と交差するすべての繊維について、目安線との交点付近において、ストライプ模様の形成方向を基準(0°)として繊維の傾斜を測定する。ただし輪郭が不明瞭な繊維については測定しないものとする。
(4)高目付領域、低目付領域のそれぞれで、各写真について20本ずつ、合計200本の繊維の傾斜角度(-90°~90°)を測定し、その絶対値の平均値を小数点以下第1位で四捨五入し、スパンボンド不織布(全体)のストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度とする。
【0049】
本発明のスパンボンド不織布の目付は、10g/m~100g/mであることが好ましい。目付を好ましくは10g/m以上とし、より好ましくは13g/m以上とし、さらに好ましくは15g/m以上とすることにより、実用に供し得る機械的強度のスパンボンド不織布を得ることができる。一方、目付を好ましくは100g/m以下、より好ましくは50g/m以下、さらに好ましくは30g/m以下とすることにより、衛生材料用の不織布としての使用に適した適度な柔軟性を有するスパンボンド不織布とすることができる。
【0050】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量」に準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(1)20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取する。
(2)標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量る。
(3)その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表する。
【0051】
本発明のスパンボンド不織布は、高輝度領域と低輝度領域の目付差が、5g/m~100g/mであることが好ましい。高輝度領域と低輝度領域の目付差を、好ましくは5g/m以上、より好ましくは10g/m以上、さらに好ましくは20g/m以上とすることにより、高輝度領域と低輝度領域からなるストライプ模様の濃淡が明確となり、意匠性に優れ、かつ少なくとも一方向の柔軟性に優れるスパンボンド不織布とすることができる。また清掃用シートとしての用途においては拭き取り性能を向上させることができる。一方、高輝度領域と低輝度領域の目付差を、好ましくは100g/m以下とすることにより、より好ましくは90g/m以下、さらに好ましくは80g/m以下とすることにより、低輝度領域の繊維量が過度に減少し、強度が低下することを防ぐことができる。
【0052】
また、本発明のスパンボンド不織布は目付の分布を精緻に制御することにより、ストライプ模様を付与している。一般に、低輝度領域として、規則的な開孔を設けられてなる部分を採用し、ストライプ模様を付与する方法もあるが、開孔部を有することによって不織布の強度が低下しやすくなる他、用途によっては開孔部から液が裏抜けしやすくなる。また、高輝度領域と低輝度領域とに異なる柄の彫刻ロールによりパターン加工を施しストライプ模様を付与する方法もあるが、目付差を生じさせるものではなく、極端な凹凸を付与しにくくなる。そのため、本発明のように十分な強度を保持しつつ、一方向の柔軟性に優れるスパンボンド不織布を得ることは困難となる。
【0053】
本発明のスパンボンド不織布の厚みは、0.05mm~1.5mmであることが好ましい。厚みを好ましくは0.05mm~1.5mm、より好ましくは0.08mm~1.0mm、さらに好ましくは0.10mm~0.8mmとすることにより、柔軟性と適度なクッション性を備え、衛生材料用のスパンボンド不織布として、特に紙おむつ用途での使用に適したスパンボンド不織布とすることができる。
【0054】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の厚さ(mm)は、JIS L1906:2000「一般長繊維不織布試験方法」の「5.1 厚さ」に準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(1)高輝度領域と低輝度領域のそれぞれについて、直径10mmの加圧子を使用し、荷重10kPaで不織布の幅方向等間隔に1mあたり10点の厚さを0.01mm単位で測定する。
(2)高輝度領域と低輝度領域で測定した計20点の厚さの平均値を、小数点以下第三位で四捨五入する。
【0055】
本発明のスパンボンド不織布は、高輝度領域におけるスパンボンド不織布の厚みと低輝度領域におけるスパンボンド不織布の厚みとの差(以下、単に「高輝度領域と低輝度領域との厚み差」と記載することがある)が、0.03mm~1mmであることが好ましい。高輝度領域と低輝度領域との厚み差を、好ましくは0.03mm以上、より好ましくは0.06mm以上、さらに好ましくは0.1mm以上とすることにより、ストライプ模様の濃淡をより明確なものとすることができ、意匠性に優れ、かつ少なくとも一方向の柔軟性に優れるスパンボンド不織布とすることができる。また、清掃用シートとしての用途においては拭き取り性能を向上させることができる。一方、高輝度領域と低輝度領域の厚み差を、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.9mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下とすることにより、低輝度領域の繊維の量が過度に減少し、強度が低下してしまうことを防ぐことができる。
【0056】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の高輝度領域と低輝度領域との厚み差(mm)は、JIS L1906:2000「一般長繊維不織布試験方法」の「5.1 厚さに準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(1)高輝度領域と低輝度領域のそれぞれについて、直径10mmの加圧子を使用し、荷重10kPaで不織布の幅方向等間隔に1mあたり10点の厚さを0.01mm単位で測定する。
(2)高輝度領域と低輝度領域のそれぞれについて、計10点の厚さの平均値を、小数点以下第三位で四捨五入し、高輝度領域、低輝度領域の厚みとする。
(3)高輝度領域と低輝度領域の厚みの差の絶対値を算出する。
【0057】
なお、ストライプ模様のピッチが狭い等の理由で、直径10mmの加圧子を使用した上記の方法で高輝度領域と低輝度領域との厚み差を測定することが困難な場合には、光学顕微鏡により断面の厚みを測定しても良い。
【0058】
また、本発明のスパンボンド不織布の見掛密度は、0.05g/cm~0.3g/cmであることが好ましい。スパンボンド不織布の見掛密度を好ましくは0.3g/cm以下とし、より好ましくは0.25g/cm以下とし、さらに好ましくは0.20g/cm以下とすることにより、繊維が密に充填されてスパンボンド不織布の柔軟性が損なわれることを防ぐことができる。
【0059】
一方、スパンボンド不織布の見掛密度を好ましくは0.05g/cm以上とし、より好ましくは0.08g/cm以上とし、さらに好ましくは0.10g/cm以上とすることにより、毛羽立ちや層間剥離の発生を抑え、実用に耐え得る強力や取り扱い性を備えたスパンボンド不織布とすることができる。
【0060】
なお、本発明において、見掛密度(g/cm)は、上記の四捨五入前の目付と厚みから、次の式に基づいて算出し、小数点以下第三位を四捨五入したものとする
見掛密度(g/cm)=[目付(g/m)]/[厚さ(mm)]×10-3
【0061】
本発明のスパンボンド不織布は、少なくとも一方向の剛軟度が、30mm以下であることが好ましい。上記の剛軟度を好ましくは30mm以下とし、より好ましくは28mm以下とし、さらに好ましくは26mm以下とすることにより、衛生材料用のスパンボンド不織布として、特に紙おむつ用途での使用に適した適度な柔軟性を得ることができる。また、スパンボンド不織布としての取り扱いやすさを確保する観点から、上記の剛軟度は10mm以上であることが好ましい。上記の剛軟度は、ストライプ模様のピッチ、ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度、目付、単繊維径および熱圧着条件(圧着率、温度および線圧等)などによって調整することができる。
【0062】
なお、スパンボンド不織布の剛軟度は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.7 剛軟度(JIS法及びISO法)」の「6.7.4 ガーレ法」に記載の方法に準じて測定される値を採用するものとする。
【0063】
そして、本発明のスパンボンド不織布は、ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度が0°~45°である。ここで、「ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度」とは、図1に例示されるストライプ模様の形成方向(4)に対する、繊維の配向角との差(°)のことであり、0°~90°の範囲で示される値のことである。ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度を、45°以下、好ましくは35°以下、より好ましくは30°以下とすることにより、地合が良好であり、意匠性に優れ、かつ強度に優れたスパンボンド不織布とすることができる。
【0064】
また、本発明のスパンボンド不織布は、高輝度領域の繊維配向度と低輝度領域の繊維配向度との差が、0°~5°であることが好ましい。高輝度領域(A)と低輝度領域(B)の繊維配向度の差を、好ましくは0°~5°、より好ましくは0°~4°、さらに好ましくは0°~3°とすることにより、高輝度領域と低輝度領域とを比較して、繊維の配向状態の差が小さくなるため、これらの境界でも良好な地合を保持することが可能となり、意匠性を向上させ、かつ強度の低下を防ぐことができる。
【0065】
なお、スパンボンド不織布のストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度は、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(1)隣接する高輝度領域と低輝度領域を1単位とするストライプ模様の構成単位を含む長さ20mmの試験片を、スパンボンド不織布の幅方向等間隔に5枚採取する。
(2)走査型電子顕微鏡を用いて、各サンプルについて、高目付領域と低目付領域の中心部の表面写真を撮影する。倍率は500倍以上で、少なくとも20本以上の繊維が含まれる倍率を選定する。
(3)それぞれの表面写真について、任意の位置にストライプ模様の形成方向と直交する目安線を引く。目安線と交差するすべての繊維について、目安線との交点付近において、ストライプ模様の形成方向を基準(0度)として繊維の傾斜を測定する。ただし輪郭が不明瞭な繊維については測定しないものとする。
(4)高目付領域、低目付領域のそれぞれで、各写真について20本ずつ、合計100本の繊維の傾斜角度(-90°~90°)を測定し、その絶対値の平均値を小数点以下第1位で四捨五入し、高目付領域および低目付領域の繊維配向度とする。また高目付領域と低目付領域とを合わせた200本の繊維の傾斜角度の絶対値の平均値について、小数点以下第1位で四捨五入した値を、スパンボンド不織布(全体)のストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度とする。
【0066】
[スパンボンド不織布の製造方法]
次に、本発明のスパンボンド不織布を製造する方法の好ましい態様について、具体的に説明する。
【0067】
本発明のスパンボンド不織布は、スパンボンド法により製造される長繊維不織布である。不織布の製造方法は特に制限されないが、例えば、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、湿式法、カード法およびエアレイド法等を挙げることができる。特にスパンボンド法は、生産性や機械的強度に優れている他、短繊維不織布で起こりやすい毛羽立ちや繊維の脱落を抑制することができる。また、捕集したスパンボンド不織繊維ウェブあるいは熱圧着したスパンボンド不織布(どちらもSと表記する)を、SS、SSSおよびSSSSと複数層積層することにより、生産性や地合均一性が向上するため好ましい態様である。
【0068】
スパンボンド法では、まず溶融した熱可塑性樹脂を紡糸口金から長繊維として紡出し、これをエジェクターにより圧縮エアで吸引延伸した後、移動するネット上に繊維を捕集して不織繊維ウェブを得る。さらに得られた不織繊維ウェブに熱接着処理を施し、スパンボンド不織布が得られる。
【0069】
紡糸口金やエジェクターの形状は特に制限されないが、例えば、丸形や矩形等、種々の形状のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なくエネルギーコストに優れること、糸条同士の融着や擦過が起こりにくく、糸条の開繊も容易であることから、矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせが好ましく用いられる。
【0070】
本発明では、ポリオレフィン系樹脂を押出機において溶融し、計量して紡糸口金へと供給し、長繊維として紡出する。ポリオレフィン系樹脂を溶融し紡糸する際の紡糸温度は、200℃~270℃であることが好ましく、より好ましくは210℃~260℃であり、さらに好ましくは220℃~250℃である。紡糸温度を上記範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0071】
紡糸口金の背圧は、0.1MPa~6.0MPaとすることが好ましい。背圧を好ましくは0.1MPa~6.0MPaとし、より好ましくは0.3MPa~6.0MPaとし、さらに好ましくは0.5MPa~6.0MPaとすることにより、吐出均一性が悪化して繊維径ばらつきが生じたり、耐圧性を上げるために口金が大型化したりすることを防ぐことができる。紡糸口金の背圧は口金の吐出孔径や吐出孔深度、紡糸温度などにより調整することができ、なかでも吐出孔径の寄与が大きい。
【0072】
紡出された長繊維の糸条は、次に冷却される。紡出された糸条を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度で自然冷却する方法、および紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法等が挙げられ、またはこれらの方法を組み合わせる方法を採用することができる。また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸温度および雰囲気温度等を考慮して適宜調整して採用することができる。
【0073】
次に、冷却固化された糸条は、エジェクターから噴射される圧縮エアによって牽引され、延伸される。
【0074】
紡糸速度は、3500~6500m/分であることが好ましく、より好ましくは4000~6500m/分であり、さらに好ましくは4500~6500m/分である。紡糸速度を3500~6500m/分とすることにより、高い生産性を有することになり、また繊維の配向結晶化が進み、高強度の長繊維を得ることができる。通常では紡糸速度を上げていくと、紡糸性は悪化して糸状を安定して生産することができないが、前述したとおり特定の範囲のMFRを有するポリオレフィン系樹脂を用いることにより、意図するポリオレフィン繊維を安定して紡糸することができる。
【0075】
続いて、得られた長繊維を、移動するネット上に捕集して不織繊維ウェブを得る。本発明のスパンボンド不織布では、糸条がエジェクターから噴射され、捕集ネット上に捕集されるまでの間に、外部からエアを吹き込んだり、凹凸を付した整流板を用いたりすることにより繊維の分散を制御し、意図的に規則的な粗密斑を発生された状態で捕集ネット上に捕集することにより、スパンボンド不織布に、高輝度領域および低輝度領域からなるストライプ模様を形成されることができる。なお外部からエアを吹き込むことにより繊維の分散を制御する場合、エア流量を経時的に変化させることによりストライプ模様の形状を経時的に変化させることもできる。
【0076】
本発明のスパンボンド不織布のストライプ模様は、長手方向に連続した高輝度領域と長手方向に連続した低輝度領域により形成されてなることが好ましい。長手方向とは、捕集ネットの流れ方向であり、不織布ロールの巻取り方向を意味する。このようにすることにより、繊維の分散を制御しやすくなり、意匠性に優れ、かつ少なくとも一方向の柔軟性に優れたスパンボンド不織布とすることができる。一方、幅方向に連続したストライプ模様とする場合、エジェクターから噴射される糸条は高速であるため、明確な高輝度領域と明確な低輝度領域からなるストライプ模様を狭い間隔で形成させることが困難となる。
【0077】
なお、長手方向に加えて幅方向にも連続したストライプ模様を付与し格子模様を形成させたスパンボンド不織布を製造する場合には、上記の繊維の分散を制御する方法と、捕集ネットの一部を閉鎖する方法を組み合わせる方法とが有効である。このようにすることにより、意匠性に優れたスパンボンド不織布を得ることができる。
【0078】
本発明では、前記の不織繊維ウェブに対して、ネット上でその片面から熱フラットロールを当接して仮接着させることも好ましい態様である。このようにすることにより、ネット上を搬送中に不織繊維ウェブの表層がめくれたり吹き流れたりして地合が悪化することを防いだり、糸条を捕集してから熱圧着するまでの搬送性を改善することができる。
【0079】
続いて、得られた不織繊維ウェブを、熱接着することにより、意図するスパンボンド不織布を得ることができる。
【0080】
不織繊維ウェブを熱接着する方法は特に制限されないが、例えば、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、および上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど、各種ロールにより熱接着する方法や、ホーンの超音波振動により熱溶着させる超音波接着などの方法が挙げられる。
【0081】
なかでも、生産性に優れ、部分的な熱接着部で強度を付与し、かつ非接着部で不織布ならではの風合いや肌触りを保持することができることから、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、または片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロールを用いることが好ましい態様である。
【0082】
熱エンボスロールの表面材質としては、十分な熱圧着効果を得て、かつ片方のエンボスロールの彫刻(凹凸部)が他方のロール表面に転写することを防ぐため、金属製ロールと金属製ロールを対にすることが好ましい態様である。
【0083】
このような熱エンボスロールによるエンボス接着面積率は、5~30%であることが好ましい。接着面積を好ましくは5%以上とし、より好ましくは8%以上とし、さらに好ましくは10%以上することにより、スパンボンド不織布として実用に供し得る強度を得ることができる。一方、接着面積を好ましくは30%以下とし、より好ましくは25%以下とし、さらに好ましくは20%以下とすることにより、衛生材料用のスパンボンド不織布として、特に紙おむつ用途での使用に適した適度な柔軟性を得ることができる。超音波接着を用いる場合でも、接着面積率は同様の範囲であることが好ましい。
【0084】
ここでいう接着面積とは、接着部がスパンボンド不織布全体に占める割合のことを言う。具体的には、一対の凹凸を有するロールにより熱接着する場合は、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とが重なって不織繊維ウェブに当接する部分(接着部)のスパンボンド不織布全体に占める割合のことを言う。また、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着する場合は、凹凸を有するロールの凸部が不織繊維ウェブに当接する部分(接着部)のスパンボンド不織布全体に占める割合のことを言う。また、超音波接着する場合は、超音波加工により熱溶着させる部分(接着部)のスパンボンド不織布全体に占める割合のことを言う。
【0085】
熱エンボスロールや超音波接着による接着部の形状は特に制限されないが、例えば、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などを用いることができる。また接着部は、スパンボンド不織布の長手方向(搬送方向)と幅方向にそれぞれ一定の間隔で均一に存在していることが好ましい。このようにすることにより、スパンボンド不織布の強度のばらつきを低減することができる。
【0086】
熱接着時の熱エンボスロールの表面温度は、使用している熱可塑性樹脂の融点(以降、Tm(℃)と記載することがある)に対し50℃~10℃低い温度(すなわち、(Tm-50℃)~(Tm-10℃))とすることが好ましい態様である。熱ロールの表面温度を熱可塑性樹脂の融点に対し好ましくは-50℃(すなわち、Tm-50℃、以下同様)以上とし、より好ましくは-45℃(Tm-45℃)以上とすることにより、適度に熱接着させ実用に供しうる強度のスパンボンド不織布を得ることができる。また、熱エンボスロールの表面温度を熱可塑性樹脂の融点に対し好ましくは-10℃(Tm-10℃)以下とし、より好ましくは-15℃(Tm-15℃)以下とすることにより、過度な熱接着を抑制し、衛生材料用のスパンボンド不織布として、特に紙おむつ用途での使用に適した適度な柔軟性を得ることができる。
【0087】
熱接着時の熱エンボスロールの線圧は、50~500N/cmとすることが好ましい。ロールの線圧を好ましくは50N/cm以上とし、より好ましくは100N/cm以上とし、さらに好ましくは150N/cm以上とすることにより、適度に熱接着させ実用に供しうる強度のスパンボンド不織布を得ることができる。一方、熱エンボスロールの線圧を好ましくは500N/cm以下とし、より好ましくは400N/cm以下とし、さらに好ましくは300N/cm以下とすることにより、衛生材料用のスパンボンド不織布として、特に紙おむつ用途での使用に適した適度な柔軟性を得ることができる。
【0088】
また本発明では、スパンボンド不織布の厚みを調整することを目的に、上記の熱エンボスロールによる熱接着の前および/あるいは後に、上下一対のフラットロールからなる熱カレンダーロールにより熱圧着を施すことができる。上下一対のフラットロールとは、ロールの表面に凹凸のない金属製ロールや弾性ロールのことであり、金属製ロールと金属製ロールを対にしたり、金属製ロールと弾性ロールを対にしたりして用いることができる。
【0089】
また、ここで弾性ロールとは、金属製ロールと比較して弾性を有する材質からなるロールのことである。弾性ロールとしては、例えば、ペーパー、コットンおよびアラミドペーパー等のいわゆるペーパーロールや、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂および硬質ゴム、およびこれらの混合物からなる樹脂製のロールなどが挙げられる。
【実施例
【0090】
次に、実施例に基づき、本発明のスパンボンド不織布について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0091】
[測定方法]
(1)樹脂のメルトフローレート(MFR)(g/10分):
樹脂のMFRは、荷重が2.16kgで、温度が230℃の条件で測定した。
【0092】
(2)スパンボンド不織布を構成する繊維の平均単繊維径(μm):
スパンボンド不織布を構成する繊維の平均単繊維径の測定には、株式会社キーエンス製電子顕微鏡「VHX-D500」を用いて、前記の方法により測定した。
【0093】
(3)紡糸速度(m/分):
上記の平均単繊維径と使用する樹脂の固体密度から、長さ10000m当たりの質量を平均単繊維繊度(dtex)として、小数点以下第二位を四捨五入して算出した。平均単繊維繊度と、各条件で設定した紡糸口金単孔から吐出される樹脂の吐出量(以下、単孔吐出量と略記する。)(g/分)から、次の式に基づき、紡糸速度を算出した
紡糸速度(m/分)=(10000×[単孔吐出量(g/分)])/[平均単繊維繊度(dtex)]。
【0094】
(4)スパンボンド不織布の平均輝度、スパンボンド不織布のストライプ模様と直交する方向の平均輝度プロファイル:
スパンボンド不織布の平均輝度、スパンボンド不織布のストライプ模様と直交する方向の平均輝度プロファイルの測定において、画像スキャンにはカラー複合機「DocuCentre-VI C4471 PFS」(富士ゼロックス株式会社製)を使用した。そして、上記の方法によって、平均輝度プロファイルの頂点部と隣接する底部との輝度差を算出した。
【0095】
(5)スパンボンド不織布のストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度(°)、高輝度領域の繊維配向度と低輝度領域の繊維配向度との差(°):
株式会社キーエンス製走査型電子顕微鏡「VHX-D500」を使用し、前記の方法でストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度(表1では単に「繊維配向度」と記載した。)、高輝度領域の繊維配向度と低輝度領域の繊維配向度との差(表1では単に「繊維配向度の差」と記載した。)を測定した。
【0096】
(6)スパンボンド不織布の剛軟度(mm):
スパンボンド不織布の剛軟度は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.7 剛軟度(JIS法及びISO法)」の「6.7.4 ガーレ法」に記載の方法に準じて、CD方向(幅方向)の測定を行った。
【0097】
(7)ストライプ模様の意匠性(点):
スパンボンド不織布から200mm×200mmのサイズに裁断したサンプルを採取し、パネラー10人がそれぞれ、スパンボンド不織布のストライプ模様の意匠性を以下の5段階の基準で評価した。続いて、各パネラーの判断した点数を平均し、小数点以下第一位を四捨五入してストライプ模様の意匠性とした。意匠性は好ましくは4点以上であり、より好ましくは5点である。
5点:非常に良い(ストライプ模様が境界まで明瞭に視認可能であり、優れた意匠性を感じる。)
4点:良い(5点と3点の中間)
3点:普通(境界は不明瞭な個所があるがストライプ模様は十分視認可能であり、意匠性を感じる。)
2点:悪い(3点と1点の中間)
1点:非常に悪い(模様が視認できない、または不明瞭であり、意匠性を欠いて感じる。)。
【0098】
[実施例1]
メルトフローレート(MFR)が40g/10分、融点が160℃のホモポリマーからなるポリプロピレン樹脂を押出機で溶融し、紡糸温度が230℃、単孔吐出量が0.55g/分で紡出した。紡出した糸条を冷却固化した後、これを矩形エジェクターにおいて、エジェクター圧力を0.30MPaとした圧縮エアによって牽引、延伸した。続いて、エジェクターの出口から繊維を噴射するとともに、エジェクターの出口に隣接して一定間隔で配列した圧縮エアの噴射口からエアを供給し、繊維の分散を制御して一定間隔で粗密を形成させ、移動するネット上に捕集した。これによって、ポリプロピレン長繊維からなる不織繊維ウェブを形成した。
【0099】
引き続き、形成した不織繊維ウェブを、以下の上ロール、下ロールから構成される上下一対の熱エンボスロールを用いて、線圧:300N/cm、熱接着温度:130℃の条件で熱接着し、平均目付15g/mのスパンボンド不織布を得た。
(上ロール):金属製で水玉柄の彫刻がなされた、接着面積率16%のエンボスロール
(下ロール):金属製フラットロール
得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0100】
[実施例2]
エジェクターの出口に隣接して配列した圧縮エアの噴射圧力を変更させたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0101】
[実施例3]
エジェクターの出口に隣接して配列した圧縮エアの噴射口の間隔を変更したこと以外は、実施例2と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0102】
[実施例4]
エジェクターの出口に隣接して配列した圧縮エアの噴射口の間隔を変更したこと以外は、実施例2と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0103】
[実施例5]
エジェクターから噴射した糸条を捕集するネットの搬送速度を変更しスパンボンド不織布の平均目付を20g/mとし、エジェクターの出口に隣接して配列した圧縮エアの噴射圧力を変更したこと以外は、実施例2と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0104】
[実施例6]
実施例2において、エジェクターから噴射した糸条を捕集するネットにCD方向に連続した封止部を設け、スパンボンド不織布に格子模様を形成させた。得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0105】
[比較例1]
エジェクターの出口に隣接して配列した圧縮エアの噴射圧力を0MPaとしたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0106】
[比較例2]
エジェクターの出口に隣接して配列した圧縮エアの噴射圧力を実施例1における条件の4分の1としたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0107】
[比較例3]
比較例1において、特開平7-109658号公報を参考に、エジェクターの出口に電気開繊装置を設置し、スパンボンド不織布にストライプ模様を形成させた。得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0108】
[比較例4]
比較例1において、特開2017-206803号公報を参考に、エジェクターから噴射した糸条を捕集するネットにCD方向に連続した封止部を設け、スパンボンド不織布にストライプ模様を形成させた。得られたスパンボンド不織布について評価した結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
実施例1~6の高輝度領域と低輝度領域が交互に配列したストライプ模様を形成してなるスパンボンド不織布であって、ストライプ模様と直交する方向の平均輝度プロファイルにおいて、頂点部と隣接する底部との輝度差が10~100であり、頂点部のピッチが5mm~60mmであり、ストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度が45°以下であるスパンボンド不織布は、意匠性に優れ、一方向の柔軟性に優れたものであった。一方、比較例1のストライプ模様のないスパンボンド不織布、比較例2の頂点部と隣接する底部との輝度差が小さい不織布、比較例3の頂点部のピッチの広い不織布、比較例4の頂点部のピッチが狭く、かつストライプ模様の形成方向を基準とした繊維配向度が45°より大きいスパンボンド不織布は意匠性が劣位であり、柔軟性にも劣るものであった。
【0111】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のスパンボンド不織布は、意匠性に優れ、十分な品位と強度を有し、かつ少なくとも一方向の柔軟性に優れることから、使い捨て紙おむつやナプキンなどの衛生材料用途に好適に利用することができる。またストライプ模様を有することから拭取り性能にも優れており、清掃用シートとしても好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1:高輝度領域
2:低輝度領域
3:ストライプ模様の方向と直交する方向の平均輝度プロファイルを測定する領域
4:ストライプ模様の形成方向
5:ストライプ模様の形成方向と直交する方向

図1
図2
図3