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特許7589496粒子分散ポリイミド前駆体溶液、多孔質ポリイミドフィルムの製造方法、及び多孔質ポリイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】粒子分散ポリイミド前駆体溶液、多孔質ポリイミドフィルムの製造方法、及び多孔質ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20241119BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241119BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241119BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20241119BHJP
   C08K 7/16 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08G73/10
C08K3/36
C08K5/17
C08K7/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020176681
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067850
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 知也
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 英一
(72)【発明者】
【氏名】吉村 耕作
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 保伸
(72)【発明者】
【氏名】菅原 啓
(72)【発明者】
【氏名】中田 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智世
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-036021(JP,A)
【文献】特開2010-106137(JP,A)
【文献】特開2016-183333(JP,A)
【文献】特開2014-133783(JP,A)
【文献】特開2011-187613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08G 73/10
C08K 3/36
C08K 5/17
C08K 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示される単位を有するポリイミド前駆体と、粒子と、溶媒と、を含有し、
前記粒子は、樹脂粒子、又はシリカ粒子であり、
下記条件(1)及び(2)の両方を満たす粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【化1】

(式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは下記式(B1)~(B4)のいずれかで示される2価の有機基を示す。)
【化2】

(式(B1)~(B4)中、Ar、Ar10、及びAr11はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Ar及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい4価の芳香族基又は下記式(II)で示される基を示し、Arは置換基を有してもよい2価の芳香族基又は下記式(III)で示される基を示し、X~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【化3】

(式(II)及び(III)中、Ar12及びAr13はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar14及びAr15はそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Y及びZはそれぞれ独立にO、S、S(=O)、又はCRbRcを示し、Rb及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
条件(1):前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記ポリイミド前駆体全体の量に対し、1質量%以上40質量%以下
条件(2):前記粒子の含有量は、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子の合計含有量に対し、5質量%以上90質量%以下
【請求項2】
前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記ポリイミド前駆体全体の量に対し、3質量%以上30質量%以下である請求項1に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【請求項3】
前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記粒子100質量部に対し、1質量部以上50質量部以下である請求項1又は請求項2に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【請求項4】
前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記粒子100質量部に対し、5質量部以上40質量部以下である請求項3に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【請求項5】
下記式(I)で示される単位を有するポリイミド前駆体と、粒子と、溶媒と、を含有し、
前記粒子は、樹脂粒子、又はシリカ粒子であり、
下記条件(3)及び(4)の両方を満たす粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【化4】

(式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは下記式(B1)~(B4)のいずれかで示される2価の有機基を示す。)
【化5】

(式(B1)~(B4)中、Ar、Ar10、及びAr11はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Ar及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい4価の芳香族基又は下記式(II)で示される基を示し、Arは置換基を有してもよい2価の芳香族基又は下記式(III)で示される基を示し、X~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【化6】

(式(II)及び(III)中、Ar12及びAr13はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar14及びAr15はそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Y及びZはそれぞれ独立にO、S、S(=O)、又はCRbRcを示し、Rb及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
条件(3):前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記粒子100質量部に対し、1質量部以上13.6質量部以下
条件(4):前記粒子の含有量は、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子の合計含有量に対し、5質量%以上90質量%以下
【請求項6】
前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記粒子100質量部に対し、5質量部以上40質量部以下である請求項5に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【請求項7】
前記式(B1)~(B4)で示される基は、それぞれ、下記式(B1a)~(B4a)で示される基である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【化7】

(式(B1a)~(B4a)中、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、及びRnはそれぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はアリール基を示し、g1、m1、及びn1はそれぞれ独立に0~3の整数を示し、h1、i1、j1、k1、及びl1はそれぞれ独立に0~4の整数を示し、X~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【請求項8】
前記粒子が樹脂粒子である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【請求項9】
さらに有機アミン化合物を含有し、
前記溶媒は水を含み、前記水の含有量が前記溶媒全体に対し50質量%以上である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【請求項10】
前記溶媒はさらに非プロトン性極性溶剤を含み、前記非プロトン性極性溶剤の含有量が前記粒子100質量部に対し5質量部以上50質量部以下である請求項9に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥して、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子を含む皮膜を形成する第1の工程と、
前記皮膜を加熱して、前記ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する第2の工程であって、前記粒子を除去する処理を含む第2の工程と、
を有する多孔質ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項12】
下記式(III)で示される単位を有するポリイミドを含有し、空孔を有し、下記条件(5)を満たす多孔質ポリイミドフィルム。
【化8】

(式(III)中、Aは4価の有機基を示し、Bは下記式(B1)~(B4)のいずれかで示される2価の有機基を示す。)
【化9】

(式(B1)~(B4)中、Ar、Ar10、及びAr11はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Ar及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい4価の芳香族基又は下記式(II)で示される基を示し、Arは置換基を有してもよい2価の芳香族基又は下記式(III)で示される基を示し、X~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【化10】

(式(II)及び(III)中、Ar12及びAr13はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar14及びAr15はそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Y及びZはそれぞれ独立にO、S、S(=O)、又はCRbRcを示し、Rb及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
条件(5):前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記ポリイミド全体の量に対し、1質量%以上40質量%以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液、多孔質ポリイミドフィルムの製造方法、及び多孔質ポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の溶液を支持体上に塗布乾燥する工程を少なくとも有する流延製膜方法により得られるポリイミドフィルムであって、該フィルムのFe、Ni、Crの含有総和量が20ppm以下であることを特徴とするポリイミドフィルムが記載されている。
【0003】
特許文献2には、芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とが重縮合してなるポリイミドフィルムであって、前記ポリイミドフィルムの一方の面の表面面配向度と他方の面の表面面配向度の差が2以下であることを特徴とするポリイミドフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-104383号公報
【文献】特開2005-194318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質ポリイミドフィルムは、例えば、ポリイミド前駆体と、粒子と、溶媒と、を含有する粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いることで得られる。具体的には、例えば、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥して皮膜を形成した後、皮膜を加熱してポリイミド前駆体をイミド化するとともに、皮膜中の粒子を除去することで、多孔質ポリイミドフィルムが得られる。
しかしながら、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中では、経時的に粒子の分散性が変化し、粒子の凝集等が生じることがある。そして、粒子の凝集が生じた粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて多孔質ポリイミドフィルムを製造すると、空孔の偏在が抑制された多孔質ポリイミドフィルムが得られやすくなる。
【0006】
本発明の課題は、式(I)中のBがp-フェニレン基である単位からなるポリイミド前駆体と粒子と溶媒とを含有する場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
【0008】
<1> 下記式(I)で示される単位を有するポリイミド前駆体と、粒子と、溶媒と、を含有し、下記条件(1)及び(2)の両方を満たす粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは下記式(B1)~(B4)のいずれかで示される2価の有機基を示す。)
【0011】
【化2】
【0012】
(式(B1)~(B4)中、Ar、Ar10、及びAr11はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Ar及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい4価の芳香族基又は下記式(II)で示される基を示し、Arは置換基を有してもよい2価の芳香族基又は下記式(III)で示される基を示し、X~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【0013】
【化3】
【0014】
(式(II)及び(III)中、Ar12及びAr13はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar14及びAr15はそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Y及びZはそれぞれ独立にO、S、S(=O)、又はCRbRcを示し、Rb及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【0015】
条件(1):前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記ポリイミド前駆体全体の量に対し、1質量%以上40質量%以下
条件(2):前記粒子の含有量は、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子の合計含有量に対し、5質量%以上90質量%以下
【0016】
<2> 前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記ポリイミド前駆体全体の量に対し、3質量%以上30質量%以下である<1>に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
<3> 前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記粒子100質量部に対し、1質量部以上50質量部以下である<1>又は<2>に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
<4> 前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記粒子100質量部に対し、5質量部以上40質量部以下である<3>に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【0017】
<5> 下記式(I)で示される単位を有するポリイミド前駆体と、粒子と、溶媒と、を含有し、下記条件(3)及び(4)の両方を満たす粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【0018】
【化4】
【0019】
(式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは下記式(B1)~(B4)のいずれかで示される2価の有機基を示す。)
【0020】
【化5】
【0021】
(式(B1)~(B4)中、Ar、Ar10、及びAr11はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Ar及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい4価の芳香族基又は下記式(II)で示される基を示し、Arは置換基を有してもよい2価の芳香族基又は下記式(III)で示される基を示し、X~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【0022】
【化6】
【0023】
(式(II)及び(III)中、Ar12及びAr13はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar14及びAr15はそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Y及びZはそれぞれ独立にO、S、S(=O)、又はCRbRcを示し、Rb及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【0024】
条件(3):前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記粒子100質量部に対し、1質量部以上50質量部以下
条件(4):前記粒子の含有量は、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子の合計含有量に対し、5質量%以上90質量%以下
【0025】
<6> 前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記粒子100質量部に対し、5質量部以上40質量部以下である<5>に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【0026】
<7> 前記式(B1)~(B4)で示される基は、それぞれ、下記式(B1a)~(B4a)で示される基である<1>~<6>のいずれか1つに記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【0027】
【化7】
【0028】
(式(B1a)~(B4a)中、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、及びRnはそれぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はアリール基を示し、g1、m1、及びn1はそれぞれ独立に0~3の整数を示し、h1、i1、j1、k1、及びl1はそれぞれ独立に0~4の整数を示し、X~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【0029】
<8> 前記粒子が樹脂粒子である<1>~<7>のいずれか1つに記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
<9> さらに有機アミン化合物を含有し、
前記溶媒は水を含み、前記水の含有量が前記溶媒全体に対し50質量%以上である<1>~<8>のいずれか1つに記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
<10> 前記溶媒はさらに非プロトン性極性溶剤を含み、前記非プロトン性極性溶剤の含有量が前記粒子100質量部に対し5質量部以上50質量部以下である<9>に記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液。
【0030】
<11> <1>~<10>のいずれか1つに記載の粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥して、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子を含む皮膜を形成する第1の工程と、
前記皮膜を加熱して、前記ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する第2の工程であって、前記粒子を除去する処理を含む第2の工程と、
を有する多孔質ポリイミドフィルムの製造方法。
【0031】
<12> 下記式(III)で示される単位を有するポリイミドを含有し、空孔を有し、下記条件(5)を満たす多孔質ポリイミドフィルム。
【0032】
【化8】
【0033】
(式(III)中、Aは4価の有機基を示し、Bは下記式(B1)~(B4)のいずれかで示される2価の有機基を示す。)
【0034】
【化9】
【0035】
(式(B1)~(B4)中、Ar、Ar10、及びAr11はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Ar及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい4価の芳香族基又は下記式(II)で示される基を示し、Arは置換基を有してもよい2価の芳香族基又は下記式(III)で示される基を示し、X~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【0036】
【化10】
【0037】
(式(II)及び(III)中、Ar12及びAr13はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar14及びAr15はそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Y及びZはそれぞれ独立にO、S、S(=O)、又はCRbRcを示し、Rb及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【0038】
条件(5):前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記ポリイミド全体の量に対し、1質量%以上40質量%以下
【発明の効果】
【0039】
<1>に係る発明によれば、式(I)中のBがp-フェニレン基である単位からなるポリイミド前駆体と粒子と溶媒とを含有する場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0040】
<2>に係る発明によれば、式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量がポリイミド前駆体全体の量に対し3質量%未満である場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
<3>に係る発明によれば、式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量が粒子100質量部に対し1質量部未満である場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
<4>に係る発明によれば、式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量が粒子100質量部に対し5質量部未満である場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0041】
<5>に係る発明によれば、式(I)中のBがp-フェニレン基である単位からなるポリイミド前駆体と粒子と溶媒とを含有する場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0042】
<6>に係る発明によれば、式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量が粒子100質量部に対し5質量部未満である場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0043】
<7>に係る発明によれば、式(I)中のBが下記(B4-7)で示される基である場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0044】
<8>に係る発明によれば、粒子が無機粒子からなる場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
<9>に係る発明によれば、水の含有量が溶媒全体に対し50質量%未満である場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
<10>に係る発明によれば、非プロトン性極性溶剤の含有量が粒子100質量部に対し5質量部未満である場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0045】
<11>に係る発明によれば、式(I)中のBがp-フェニレン基である単位からなるポリイミド前駆体と粒子と溶媒とを含有する粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いた場合に比べ、空孔の偏在が抑制された多孔質ポリイミドフィルムが得られやすい多孔質ポリイミドフィルムの製造方法が提供される。
<12>に係る発明によれば、式(III)中のBがp-フェニレン基である場合に比べ、空孔の偏在が抑制された多孔質ポリイミドフィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本実施形態の粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて得られた多孔質ポリイミドフィルムの形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0048】
[粒子分散ポリイミド前駆体溶液]
<第1の態様>
第1の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、下記式(I)で示される単位を有するポリイミド前駆体と、粒子と、溶媒と、を含有し、下記条件(1)及び(2)の両方を満たす。
条件(1):式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、ポリイミド前駆体全体の量に対し、1質量%以上40質量%以下
条件(2):粒子の含有量は、ポリイミド前駆体及び粒子の合計含有量に対し、5質量%以上90質量%以下
【0049】
【化11】
【0050】
(式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは下記式(B1)~(B4)のいずれかで示される2価の有機基を示す。)
【0051】
【化12】
【0052】
(式(B1)~(B4)中、Ar、Ar10、及びAr11はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Ar及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい4価の芳香族基又は下記式(II)で示される基を示し、Arは置換基を有してもよい2価の芳香族基又は下記式(III)で示される基を示し、X~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【0053】
【化13】
【0054】
(式(II)及び(III)中、Ar12及びAr13はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、Ar14及びAr15はそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、Y及びZはそれぞれ独立にO、S、S(=O)、又はCRbRcを示し、Rb及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、*は隣接する連結基との結合部位を示す。)
【0055】
以下、式(B1)で示される有機基、式(B2)で示される有機基、式(B3)で示される有機基、及び式(B4)で示される有機基を、それぞれ、有機基B1、有機基B2、有機基B3、及び有機基B4とも言う。
【0056】
一般的に、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中では、経時的に粒子の分散性が変化し、粒子の凝集等が生じることがある。そして、粒子の凝集が生じた粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて多孔質ポリイミドフィルムを製造すると、空孔の偏在が抑制された多孔質ポリイミドフィルムが得られやすくなる。
【0057】
一方、第1の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、式(I)中のBがp-フェニレン基である単位からなるポリイミド前駆体と粒子と溶媒とを含有する場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0058】
第1の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液に含まれるポリイミド前駆体は、式(I)で示され、かつ、式(I)中のBが有機基B1~B4のいずれかである単位を有する。有機基B1~B4は、ヘテロ原子を含まない芳香環と複素環とが縮環した構造を有し、平面性が高くコンパクトで、親水性と疎水性との均衡が取れた構造であり、粒子表面との親和性が高い。そのため、ポリイミド前駆体が有機基B1~B4のいずれかを有すると、粒子表面との親和性が高い有機基B1~B4が、粒子の分散状態を維持させることに寄与し、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性が優れるものと推測される。そして、粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて多孔質ポリイミドフィルムを製造する過程で、塗膜を乾燥して皮膜を形成する際における粒子の凝集が抑制され、空孔の偏在が抑制された多孔質ポリイミドフィルムが得られやすくなると推測される。
【0059】
また、第1の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、有機基B1~B4の合計含有量がポリイミド前駆体全体の量に対し1質量%未満である場合に比べて、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる。その理由は定かではないが、有機基B1~B4の含有量が多いことにより、有機基B1~B4による粒子の分散状態を維持させることへの寄与が高まるためと推測される。
【0060】
さらに、第1の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、有機基B1~B4の合計含有量がポリイミド前駆体全体の量に対し40質量%を超える場合に比べて、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。すなわち、有機基B1~B4の含有量が40質量%を超えると、溶液中でポリイミド前駆体の分子鎖同士のパッキングが過剰になり、前述の粒子分散安定化の効果が小さくなるとともに、溶液中において経時でポリイミド前駆体の凝集が発生しやすくなることがある。これに対して、有機基B1~B4の合計含有量がポリイミド前駆体全体の量に対し40質量%以下であることにより、上記過剰なパッキングによる経時でのポリイミド前駆体の凝集が抑制される。その結果、有機基B1~B4による粒子の分散状態を維持させることへの寄与がより高まるためと推測される。
【0061】
<第2の態様>
第2の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、前記式(I)で示される単位を有するポリイミド前駆体と、粒子と、溶媒と、を含有し、下記条件(3)及び(4)の両方を満たす。
条件(3):式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、粒子100質量部に対し、1質量部以上50質量部以下
条件(4):粒子の含有量は、ポリイミド前駆体及び粒子の合計含有量に対し、5質量%以上90質量%以下
【0062】
前記の通り、一般的に、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中では、経時的に粒子の分散性が変化し、粒子の凝集等が生じることがある。そして、粒子の凝集が生じた粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて多孔質ポリイミドフィルムを製造すると、空孔の偏在が抑制された多孔質ポリイミドフィルムが得られやすくなる。
【0063】
一方、第2の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、式(I)中のBがp-フェニレン基である単位からなるポリイミド前駆体と粒子と溶媒とを含有する場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0064】
第2の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液に含まれるポリイミド前駆体は、式(I)で示され、かつ、式(I)中のBが有機基B1~B4のいずれかである単位を有する。有機基B1~B4は、前記の通り、ヘテロ原子を含まない芳香環と複素環とが縮環した構造を有し、平面性が高くコンパクトで、親水性と疎水性との均衡が取れた構造であり、粒子表面との親和性が高い。そのため、ポリイミド前駆体が有機基B1~B4のいずれかを有すると、粒子表面との親和性が高い有機基B1~B4が、粒子の分散状態を維持させることに寄与し、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性が優れるものと推測される。そして、粒子の分散安定性に優れる粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて多孔質ポリイミドフィルムを製造する過程で、塗膜を乾燥して皮膜を形成する際における粒子の凝集が抑制され、空孔の偏在が抑制された多孔質ポリイミドフィルムが得られやすくなると推測される。
【0065】
また、第2の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、有機基B1~B4の合計含有量が粒子100質量部に対し1質量部未満である場合に比べて、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる。その理由は定かではないが、有機基B1~B4の含有量が多いことにより、有機基B1~B4による粒子の分散状態を維持させることへの寄与が高まるためと推測される。
【0066】
さらに、第1の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、有機基B1~B4の合計含有量が粒子100質量部に対し50質量部を超える場合に比べて、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。すなわち、有機基B1~B4の含有量が50質量部を超えると、溶液中でポリイミド前駆体の分子鎖同士のパッキングが過剰になり、前述の粒子分散安定化の効果が小さくなるとともに、溶液中において経時でポリイミド前駆体の凝集が発生しやすくなることがある。これに対して、有機基B1~B4の合計含有量が粒子100質量部に対し50質量部以下であることにより、上記過剰なパッキングによる経時でのポリイミド前駆体の凝集が抑制される。その結果、有機基B1~B4による粒子の分散状態を維持させることへの寄与がより高まるためと推測される。
【0067】
以下、第1の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液及び第2の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液のいずれにも該当する粒子分散ポリイミド前駆体溶液を「本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液」と称して説明する。ただし、本発明の粒子分散ポリイミド前駆体溶液の一例は、第1の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液及び第2の態様に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液の少なくとも一方に該当する粒子分散ポリイミド前駆体溶液であればよい。
【0068】
<ポリイミド前駆体>
本実施形態の粒子分散ポリイミド前駆体溶液は下記式(I)で示される単位を有するポリイミド前駆体を含む。
以下、下記式(1)で示される単位を「特定単位」、特定単位を有するポリイミド前駆体を「特定前駆体」ともいう。
【0069】
【化14】
【0070】
式(I)中、
Aは4価の有機基を示し、
Bは下記式(B1)~(B4)のいずれかで示される2価の有機基(つまり、有機基B1~B4のいずれか)を示す。
【0071】
【化15】
【0072】
式(B1)~(B4)中、
Ar、Ar10、及びAr11はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、
Ar、Ar、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、
Ar及びArはそれぞれ独立に置換基を有してもよい4価の芳香族基又は下記式(II)で示される基を示し、
Arは置換基を有してもよい2価の芳香族基又は下記式(III)で示される基を示し、
~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、
*は隣接する連結基との結合部位を示す。
【0073】
【化16】
【0074】
式(II)及び(III)中、
Ar12及びAr13はそれぞれ独立に置換基を有してもよい3価の芳香族基を示し、
Ar14及びAr15はそれぞれ独立に置換基を有してもよい2価の芳香族基を示し、
Y及びZはそれぞれ独立にO、S、S(=O)、又はCRbRcを示し、Rb及びRcはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、
*は隣接する連結基との結合部位を示す。
【0075】
-特定単位-
ここで、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基としては、原料となるテトラカルボン酸二無水物より4つのカルボキシル基を除いたその残基が挙げられる。
一方、Bが表す2価の有機基としては、原料となるジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基が挙げられる。
【0076】
つまり、一般式(I)で表される単位を有するポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である。
【0077】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Aが示す4価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0078】
芳香族系テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’- ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)、m-フェニレンビス(トリメリテート無水物)、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、4,4’-ジフェニルエーテルビス(トリメリテート無水物)、4,4’-ジフェニルメタンビス(トリメリテート無水物)、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンビス(トリメリテート無水物)、p-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、等が挙げられる。
【0079】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0080】
これらの中でも、テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系テトラカルボン酸二無水物がよく、具体的には、例えば、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’- ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がよく、更に、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、特に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がよい。
【0081】
なお、テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族テトラカルボン酸二無水物、又は脂肪族テトラカルボン酸を各々併用しても、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族テトラカルボン酸二無水物とを組み合わせてもよい。
【0082】
一方、ジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。
特定前駆体の重合においては、ジアミン化合物として、有機基B1~B4のいずれかを有するジアミン、すなわち、有機基B1~B4のいずれかの両端の*に-NHが置換したジアミンを用いる。以下、有機基B1~B4のいずれかを有するジアミンを「特定ジアミン化合物」ともいう。
式(B1)~(B4)について説明する。
【0083】
式(B1)及び(B4)中のAr、Ar10、及びAr11は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい3価の芳香族基を示す。
式(B1)及び(B4)中のAr、Ar10、又はAr11で示される3価の芳香族基としては、例えば、少なくとも芳香環を有する炭素数20以下の3価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
上記3価の芳香族基が有する芳香環として、具体的には、ベンゼン等の単環の芳香環、ビフェニル、ターフェニル等の単環の芳香環が結合した芳香環、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の単環の芳香環が縮合した芳香環などが挙げられる。上記3価の芳香族基が有する芳香環は、これらの中でも、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニルが好ましく、ベンゼンがより好ましい。
【0084】
上記3価の芳香族基が有してもよい置換基(水素原子以外)としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。
置換基としてのアルキル基としては、例えば、炭素数1以上10以下のアルキル基が挙げられる。置換基としてのアリール基としては、例えばフェニル基等が挙げられる。置換基としてのアラルキル基としては、例えばベンジル基等が挙げられる。置換基としてのアルコキシ基としては、例えば、炭素数1以上8以下のアルコキシ基が挙げられる。
上記3価の芳香族基は、置換基を有さないか又は置換基としてアルキル基を有することが好ましく、置換基を有さないか又は置換基としてメチル基を有することがより好ましく、置換基を有さないことがさらに好ましい。
【0085】
上記3価の芳香族基は、芳香環を構成する炭素原子のうち3つの原子が、式(B1)及び(B4)中に示される隣接した原子(例えば、式(B1)中のX等)と結合したものであることが好ましい。
【0086】
式(B1)~(B3)中のAr、Ar、Ar、Ar、及びArは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい2価の芳香族基を示す。
式(B1)~(B3)中のAr、Ar、Ar、Ar、又はArで示される2価の芳香族基としては、例えば、少なくとも芳香環を有する炭素数20以下の2価の芳香族炭化水素が挙げられる。
上記2価の芳香族基が有する芳香環及び有してもよい置換基の具体例は、前記3価の芳香族基が有する芳香環及び有してもよい置換基の具体例と同様である。
上記2価の芳香族基が有する芳香環は、ベンゼン、ビフェニルが好ましく、ベンゼンがより好ましい。
上記2価の芳香族基は、置換基を有さないか又は置換基としてアルキル基を有することが好ましく、置換基を有さないか又は置換基としてメチル基を有することがより好ましく、置換基を有さないことがさらに好ましい。
上記2価の芳香族基は、芳香環を構成する炭素原子のうち2つの原子が、式(B1)~(B3
)中に示される隣接した原子(例えば、式(B1)中のAに隣接する炭素原子等)と結合したものであることが好ましい。
【0087】
式(B2)及び(B3)中のAr及びArは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい4価の芳香族基又は式(II)で示される基を示す。
式(B2)及び(B3)中のAr又はArで示される4価の芳香族基としては、例えば、少なくとも芳香環を有する炭素数20以下の4価の芳香族炭化水素が挙げられる。
上記4価の芳香族基が有する芳香環及び有してもよい置換基の具体例は、前記3価の芳香族基が有する芳香環及び有してもよい置換基の具体例と同様である。
上記4価の芳香族基が有する芳香環は、ベンゼン、ビフェニルが好ましく、ベンゼンがより好ましい。
上記4価の芳香族基は、置換基を有さないか又は置換基としてアルキル基を有することが好ましく、置換基を有さないか又は置換基としてメチル基を有することがより好ましく、置換基を有さないことがさらに好ましい。
上記4価の芳香族基は、芳香環を構成する炭素原子のうち4つの原子が、式(B2)及び(B3)中に示される隣接した原子(例えば、式(B2)中のX等)と結合したものであることが好ましい。
【0088】
式(II)中のAr12及びAr13は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい3価の芳香族基を示す。式(II)中のAr12又はAr13で示される3価の芳香族基としては、式(B1)及び(B4)中のAr、Ar10、又はAr11で示される3価の芳香族基と同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
式(II)中のYは、O、S、S(=O)、又はCRbRcを示す。
Rb及びRcは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示す。Rb又はRcで示されるアルキル基としては、例えば、炭素数3以下のアルキル基が挙げられ、Rb又はRcで示されるアルキル基が有してもよい置換基としては、例えばフッ素原子等が挙げられる。Rb又はRcで示されるアルキル基としては、好ましくは置換基を有さないアルキル基、置換基としてフッ素原子を有するアルキル基が挙げられ、より好ましくは置換基を有さないアルキル基、トリフルオロアルキル基が挙げられ、さらに好ましくはメチル基、トリフルオロメチル基が挙げられる。Rb又はRcで示されるアリール基としては、例えばフェニル基等が挙げられる。Rb及びRcは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、トリフルオロアルキル基、又はフェニル基であることが好ましく、メチル基又はトリフルオロメチル基であることがより好ましい。
式(II)中のYは、O、S(=O)、C(CH、又はC(CFであることが最も好ましい。
式(B2)及び(B3)中のAr及びArで示される基は、好ましくは下記式(Ar-31)~(Ar-35)が挙げられる。下記式中、*は隣接する連結基との結合部位を示す。
【0089】
【化17】
【0090】
式(B4)中のArは、置換基を有してもよい2価の芳香族基又は式(III)で示される基を示す。
式(B4)中のArで示される2価の芳香族基としては、式(B1)~(B3)中のAr、Ar、Ar、Ar、及びArで示される2価の芳香族基と同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
式(III)中のAr14及びAr15は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい2価の芳香族基を示す。式(III)中のAr14及びAr15で示される2価の芳香族基としては、式(B1)~(B3)中のAr、Ar、Ar、Ar、及びArで示される2価の芳香族基と同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
式(III)中のZは、式(II)中のYと同様の基が挙げられ、好まし形態も同様である。
式(B4)中のArで示される基は、好ましくは下記式(Ar-91)~(Ar-95)が挙げられる。下記式中、*は隣接する連結基との結合部位を示す。
【0091】
【化18】
【0092】
式(B1)~(B4)中のX~Xは、それぞれ独立に、NRa、O、又はSを示す。
Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示す。Raで示されるアルキル基としては、例えば、炭素数3以下のアルキル基が挙げられ、Raで示されるアルキル基が有してもよい置換基としては、例えばフッ素原子が挙げられる。Raで示されるアルキル基としては、好ましくは置換基を有さないアルキル基が挙げられ、より好ましくは炭素数3以下の置換基を有さないアルキル基が挙げられ、さらに好ましくはメチル基が挙げられる。Raで示されるアリール基としては、例えばフェニル基が挙げられる。Raは、水素原子、置換基を有さない炭素数3以下のアルキル基、又はフェニル基であることが好ましく、水素原子又は置換基を有さない炭素数3以下のアルキル基であることがより好ましい。
式(B1)~(B4)中のX~Xは、O、S、NH、NMe、NEt、又はNPhであることが好ましく、O又はSであることがより好ましく、Oであることがさらに好ましい。なお、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0093】
有機基B1~B4は、それぞれ、下記式(B1a)~(B4a)で示される基(以下、「有機基B1a~B4a」ともいう)であることが好ましい。
有機基B1~B4が有機基B1a~B4aであることにより、有機基B1~B4が後述する(B4-7)で示される基である場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
例えば(B4-7)で示される基のように、有機基B1~B4において必須の構造である「ヘテロ原子を含まない芳香環と複素環とが縮環した構造(以下、「特定の縮合複素環」ともいう)」が2つ以上の芳香環を介して連結されると、親疎水性のバランスがくずれることがある。親疎水性のバランスがくずれると、ポリイミド前駆体における特定の縮合芳香環と粒子表面との親和性よりも、ポリイミド前駆体の分子鎖同士のパッキング性の方が高くなりやすい。これに対して、有機基B1~B4が有機基B1a~B4aであると、親疎水性のバランスが良好となり、ポリイミド前駆体における特定の縮合芳香環と粒子表面との親和性が高くなるため、粒子の分散安定性に優れると推測される。
【0094】
【化19】
【0095】
式(B1a)~(B4a)中、
Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、及びRnはそれぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はアリール基を示し、
g1、m1、及びn1はそれぞれ独立に0~3の整数を示し、
h1、i1、j1、k1、及びl1はそれぞれ独立に0~4の整数を示し、
~Xはそれぞれ独立にNRa、O、又はSを示し、Raは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を示し、
*は隣接する連結基との結合部位を示す。
【0096】
式(B1a)~(B4a)中のRg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、及びRnは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はアリール基を示す。
式(B1a)~(B4a)中のRg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、又はRnで示されるアルキル基及びアルコキシ基としては、例えば、それぞれ炭素数1以上6以下のアルキル基及び炭素数1以上4以下のアルコキシ基が挙げられる。
式(B1a)~(B4a)中のRg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、又はRnで示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
式(B1a)~(B4a)中のRg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、又はRnで示されるアリール基としては、例えばフェニル基等が挙げられる。
式(B1a)~(B4a)中のRg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、及びRnは、それぞれ独立に、炭素数3以下のアルキル基、アルコキシ基、フッ素原子、又は塩素原子であることが好ましく、炭素数3以下のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0097】
式(B1a)~(B4a)中のg1、m1、及びn1は、それぞれ独立に、0~3の整数を示し、0~1の整数を示すことが好ましく、0を示すことがより好ましい。
式(B1a)~(B4a)中のh1、i1、j1、k1、及びl1は、それぞれ独立に、0~4の整数を示し、0~1の整数を示すことが好ましく、0を示すことがより好ましい。
なお、式(B1a)~(B4a)中のX~Xは、式(B1)~(B4)中のX~Xと同義である。
以下、有機基B1~B4の具体例を示すが、有機基B1~B4はこれらに限定されるものではない。
【0098】
【化20】
【0099】
【化21】
【0100】
【化22】
【0101】
【化23】
【0102】
【化24】
【0103】
【化25】
【0104】
【化26】
【0105】
特定前駆体は、特定単位を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。特定前駆体は、有機基B1~B4のいずれかを含む特定単位を2種以上含む形態(例えば、式(B1-1)で示される基を含む特定単位と式(B1-2)で示される基を含む特定単位とを含む形態)であってもよい。また、特定前駆体は、有機基B1~B4のいずれかを含む特定単位と有機基B1~B4の他のいずれかを含む特定単位とを含む形態(例えば、有機基B1を含む特定単位と有機基B2を含む特定単位とを含む形態)であってもよい。
特定前駆体は、少なくとも特定単位を含み、必要に応じて特定単位以外の単位(以下「他の単位」ともいう)を含んでもよい。
つまり、特定前駆体は、テトラカルボン酸二無水物と、有機基B1~B4のいずれかを含むジアミン化合物(すなわち、特定ジアミン化合物)と、有機基B1~B4のいずれも含まないジアミン化合物(すなわち、他のジアミン化合物)と、の共重合体であってもよい。
特定前駆体が特定単位及び他の単位を含む場合、特定前駆体における特定単位の割合は、有機基B1~B4の合計含有量が目的とする範囲となるように調整する。
【0106】
-有機基B1~B4の含有量-
第1の態様では、有機基B1~B4の合計含有量が、ポリイミド前駆体全体の量に対し1質量%以上40質量%以下である。
また、第2の態様においても、有機基B1~B4の合計含有量は、ポリイミド前駆体全体の量に対し1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
有機基B1~B4の合計含有量は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子分散安定性の観点から、ポリイミド前駆体全体の量に対し、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0107】
第2の態様では、有機基B1~B4の合計含有量が、後述する粒子100質量部に対し1質量部以上50質量部以下である。
第1の態様においても、有機基B1~B4の合計含有量は、粒子100質量部に対し1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
有機基B1~B4の合計含有量は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子分散安定性の観点から、粒子100質量部に対し、5質量部以上40質量部以下であることがより好ましく、7質量部以上30質量部以下であることがさらに好ましい。
【0108】
特定前駆体を構成する特定ジアミン化合物の合計量は、特定前駆体を構成するジアミン化合物全量に対し、5モル%以上90モル%以下であることが好ましく、10モル%以上80モル%以下であることがより好ましく、25モル%以上70モル%以下であることがさらに好ましい。
【0109】
なお、粒子分散ポリイミド前駆体溶液から、ポリイミド前駆体中に含まれる有機基B1~B4の合計含有量を分析する方法としては、以下の方法が挙げられる。
まず、測定対象となる粒子分散ポリイミド前駆体溶液から、粒子を分離する。次に、粒子を分離したポリイミド前駆体溶液に対して、メタノールを加えて、ポリイミド前駆体の再沈物を得る。この再沈殿物を耐圧容器に入れて、1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、100℃で2時間処理を行い、ポリイミド前駆体の加水分解物を得る。次に、この加水分解物をクロロホルムで抽出作業を行い、クロロホルム相の濃縮液から、赤外分光法、核磁気共鳴分光法、及びガスクロマトグラフィー法によって分析し、ジアミン化合物由来の成分の構造及び量を測定する。また、この加水分解物のクロロホルム不溶相である水相を中和し、凍結乾燥後、乾燥固形分を得る。これにメタノールによる抽出作業を行い、その溶解物を、赤外分光法、核磁気共鳴分光法、及びガスクロマトグラフィー法によって分析し、テトラカルボン酸二無水物由来の成分の構造及び量を測定する。
なお、ポリイミドフィルム中における有機基B1~B4の合計含有量は、ポリイミドフィルムを、赤外分光法、核磁気共鳴分光法、及びガスクロマトグラフィー法によって分析する。
【0110】
この測定結果から、ポリイミド前駆体全体の量に対する有機基B1~B4の合計含有量、及び特定前駆体を構成するジアミン化合物全量に対する特定アミン化合物の合計含有量を算出する。
また、分離した粒子から、粒子分散ポリイミド前駆体溶液に含まれる粒子の固形分含有量を測定する。そして、粒子の含有量の測定結果と、上記有機基B1~B4の合計含有量の測定結果とから、粒子100質量部に対する有機基B1~B4の合計含有量を算出する。
【0111】
-他の単位-
他の単位としては、例えば、前述のテトラカルボン酸二無水物と、有機基B1~B4のいずれも含まないジアミン化合物(以下「他のジアミン化合物」ともいう)と、が結合した単位が挙げられる。つまり、他の単位としては、一般式(I)中のBが式(B1)~(B4)以外の有機基である単位が挙げられる。
他のジアミン化合物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Bが表す2価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0112】
他のジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,7-ジアミノフルオレン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)-ビフェニル、1,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0113】
これらの中でも、他のジアミン化合物としては、芳香族系ジアミン化合物がよく、具体的には、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンがよく、特に、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンがよい。
【0114】
なお、他のジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族ジアミン化合物、又は脂肪族ジアミン化合物を各々併用しても、芳香族ジアミン化合物と脂肪族ジアミン化合物とを組み合わせてもよい。
【0115】
-特定前駆体の分子量等-
特定前駆体の重量平均分子量は、好ましくは5000以上300000以下であり、より好ましくは10000以上150000以下である。
【0116】
ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される。
・カラム:東ソーTSKgelα-M(7.8mm I.D×30cm)
・溶離液:DMF(ジメチルホルムアミド)/30mMLiBr/60mMリン酸
・流速:0.6mL/min
・注入量:60μL
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0117】
本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、少なくとも特定前駆体を含み、必要に応じて特定前駆体以外のポリイミド前駆体(以下「他の前駆体」ともいう)を含んでもよい。
他の前駆体としては、例えば、有機基B1~B4のいずれも含まないポリイミド前駆体が挙げられる。
粒子分散ポリイミド前駆体溶液が特定前駆体と他の前駆体との両方を含む場合、ポリイミド前駆体全体に対する特定前駆体の割合としては、例えば80質量%以上が挙げられ、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
なお、粒子分散ポリイミド前駆体溶液が他の前駆体を含む場合、「ポリイミド前駆体全体の量」は、特定前駆体及び他の前駆体の合計量を意味する。
【0118】
本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液に含まれるポリイミド前駆体全体の含有量は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の全質量に対して、0.1質量%以上40質量%以下であることがよく、好ましくは1質量%以上25質量%以下である。
【0119】
<粒子>
本実施形態の粒子分散ポリイミド前駆体溶液は粒子を含む。
粒子の材質は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中において溶解せず分散している状態であり、さらに、多孔質ポリイミドフィルムを作製するときに、後述する粒子除去工程で除去可能であれば、特に限定されない。粒子は、後述する樹脂粒子及び無機粒子に大別される。
【0120】
ここで、本明細書中において、「粒子が溶解しない」とは、25℃において、粒子が、対象となる液体に対して溶解しないことに加え、3質量%以下の範囲内で溶解することも含む。
【0121】
粒子の体積平均粒径D50vは、特に限定されない。粒子の体積平均粒径D50vは、例えば、0.1μm以上30μm以下の範囲が挙げられ、0.15μm以上10μm以下であることが好ましく、0.2μm以上5μm以下であることがより好ましく、0.25μm以上1μm以下であることがさらに好ましい。粒子の体積平均粒径が、この範囲であると、凝集性が抑制されやすくなる。また、粒子が樹脂粒子である場合、樹脂粒子の生産性が向上しやすくなる。
また、粒子の体積粒度分布指標(GSDv)は、1.30以下が好ましく、1.25以下がより好ましく、1.20以下が最も好ましい。粒子の体積粒度分布指標は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子の粒度分布から、(D84v/D16v)1/2として算出される。
【0122】
本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子の粒度分布は、次のようにして測定する。測定対象となる溶液を希釈してコールターカウンターLS13(ベックマン・コールター社製)を用いて、液中の粒子の粒度分布を測定する。測定される粒度分布を基にして、分割された粒度範囲(チャンネル)に対して、小径側から体積累積分布を描いて粒度分布を測定する。
そして、小径側から描いた体積累積分布のうち、累積16%となる粒径を体積粒径D16v、累積50%となる粒径を体積平均粒径D50v、累積84%となる粒径を体積粒径D84vとする。
【0123】
なお、本実施形態の粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子の体積粒度分布が、上記方法で測定し難い場合、動的光散乱法等の方法にて測定される。
【0124】
粒子の形状は球状であることがよい。球状の粒子を用いて、多孔質ポリイミドフィルムを作製すると、球状の空孔を備えた多孔質ポリイミドフィルムが得られる。
なお、本明細書中において、粒子における「球状」とは、球状、及びほぼ球状(球状に近い形状)の両者の形状を包含するものである。具体的には、長径と短径の比(長径/短径)が1以上1.5以下である粒子の割合が90%以上存在することを意味する。長径と短径の比が1に近づくほど真球状に近くなる。
【0125】
粒子としては、樹脂粒子及び無機粒子のいずれを用いてもよいが、樹脂粒子を使用することが好ましい。
粒子として樹脂粒子を用いることにより、無機粒子を用いる場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れる。その理由は定かではないが、樹脂粒子及びポリイミド前駆体が有機材料であることにより、無機粒子を使用する場合と比較し、有機基B1~B4と粒子表面との親和性が高くなり、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性が高まるためと推測される。
また、樹脂粒子は、後述するように乳化重合などの公知の製造法により、球状に近い粒子を作製しやすくなる。さらに、樹脂粒子及びポリイミド前駆体は有機材料なので、無機粒子を使用する場合と比較し、塗膜中の粒子分散性やポリイミド前駆体との界面密着が向上しやすくなる。また、多孔質ポリイミドフィルムを作製するときに、空孔及び空孔径がより均一に近い多孔質ポリイミドフィルムが得られやすくなる。これらの理由で樹脂粒子を用いることが好ましい。
【0126】
無機粒子としては、例えばシリカ粒子が挙げられる。シリカ粒子は、球状に近い粒子であるものが入手可能である点で好適な無機粒子である。例えば、球状に近いシリカ粒子を用いた粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて、空孔が球状に近い状態である多孔質ポリイミドフィルムが得られる。しかし、粒子として、シリカ粒子を用いた場合、イミド化工程において、体積収縮を吸収し難いため、イミド化後のポリイミドフィルムに細かな亀裂が生じやすい傾向がある。この点でも、粒子としては樹脂粒子を用いることが好ましい。
【0127】
本実施形態において、粒子の含有量は、ポリイミド前駆体及び粒子の合計含有量に対し、5質量%以上90質量%以下である。粒子の含有量が上記範囲であることにより、上記範囲よりも少ない場合に比べ、多孔質ポリイミドフィルムの製造時における空孔形成安定性が得られやすく、空孔の偏在が抑制された多孔質ポリイミドフィルムが得られやすくなる。また粒子の含有量が上記範囲であることにより、上記範囲よりも多い場合に比べ、強度の高い多孔質ポリイミドフィルムが得られやすくなる。
粒子の含有量は、ポリイミド前駆体及び粒子の合計含有量に対し、30質量%以上85質量%以下であることが好ましく、40質量%以上75質量%以下であることがより好ましい。
【0128】
以下、樹脂粒子及び無機粒子の具体的な材料について説明する。
【0129】
-樹脂粒子-
樹脂粒子としては、具体的には、例えば、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸類、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルエーテルなどに代表されるビニル系ポリマー;ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミドなどに代表される縮合系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンなどに代表される炭化水素系ポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオリドなどに代表されるフッ素系ポリマー;などの樹脂粒子が挙げられる。
ここで、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」のいずれをも含むことを意味する。また、(メタ)アクリル酸類とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドを含む。
【0130】
樹脂粒子は、架橋されていても架橋されていなくてもよい。架橋する場合は、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ノナンジアクリレート、デカンジオールジアクリレートなどの二官能単量体、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能単量体を併用してもよい。
【0131】
樹脂粒子がビニル樹脂粒子である場合、単量体を重合して得られる。ビニル樹脂の単量体としては、以下に示す単量体が挙げられる。例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン等)、ビニルナフタレン等のスチレン骨格を有するスチレン類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ケイ皮酸、フマル酸、ビニルスルホン酸等の酸類;エチレンイミン、ビニルピリジン、ビニルアミン等の塩基類;等の単量体を重合体させたビニル樹脂単位が挙げられる。
その他の単量体として、酢酸ビニルなどの単官能単量体を併用してもよい。
また、ビニル樹脂は、これらの単量体を単独で用いた樹脂でもよいし、2種以上の単量体を用いた共重合体である樹脂であってもよい。
【0132】
樹脂粒子としては、製造性、後述する粒子除去工程の適応性の観点から、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸類の樹脂粒子であることが好ましい。具体的には、ポリスチレン、スチレン-(メタ)アクリル酸類共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸類の樹脂粒子がさらに好ましく、ポリスチレン及びポリ(メタ)アクリル酸エステル類の樹脂粒子が最も好ましい。これらの樹脂粒子は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0133】
樹脂粒子は、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製の過程、及び多孔質ポリイミドフィルムを作製するときの粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗布、塗膜の乾燥(樹脂粒子除去の前)の過程で粒子の形状が保持されていることが好ましい。この観点から、樹脂粒子のガラス転移温度としては、60℃以上であることがよく、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
【0134】
なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により得られたDSC曲線より求め、より具体的にはJIS K 7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」のガラス転移温度の求め方に記載の「補外ガラス転移開始温度」により求められる。
【0135】
-無機粒子-
無機粒子としては、例えば、具体的には、シリカ(二酸化ケイ素)粒子、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、炭酸カルシウム粒子、酸化カルシウム粒子、二酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化セリウム粒子などの無機粒子が挙げられる。粒子の形状は、上述した通り、球状であることがよい。この観点で、無機粒子としては、シリカ粒子、酸化マグネシウム粒子、炭酸カルシウム粒子、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子の無機粒子が好ましく、シリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子の無機粒子がより好ましく、シリカ粒子がさらに好ましい。これらの無機粒子は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0136】
なお、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の溶媒への無機粒子の濡れ性及び分散性が不十分である場合は、必要に応じて、無機粒子の表面を修飾してもよい。表面修飾の方法としては、例えば、シランカップリング剤に代表される有機基を有するアルコキシシランで処理する方法;シュウ酸、クエン酸、乳酸などの有機酸でコーティングする方法;などが挙げられる。
【0137】
<溶媒>
本実施形態の粒子分散ポリイミド前駆体溶液は溶媒を含む。
溶媒は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中で、ポリイミド前駆体が溶解し、かつ粒子が溶解せずに分散している状態となるものであれば、特に限定されるものではない。溶媒は、有機系溶媒及び水系溶媒のいずれでもよい。溶媒は、ポリイミド前駆体は溶解し、粒子は溶解せずに分散している状態に応じて選択すればよい。
【0138】
溶媒は、以下に示す有機系溶媒又は水系溶媒が挙げられる。溶媒として、水系溶媒を適用した場合は、ポリイミド前駆体を溶解させるために、後述する有機アミン化合物を添加することが好ましい。
【0139】
溶媒としては、環境、コストの観点で水系溶媒が好ましい。特に、粒子として樹脂粒子を用いる場合は、ポリイミド前駆体に溶解し、さらに、樹脂粒子が溶解せずに分散している状態が得られやすいため、水系溶媒を用いることが好ましい。
【0140】
-有機系溶媒-
有機系溶媒は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中において、ポリイミド前駆体は溶解し、粒子は溶解せず分散している状態が得られるように選択される。有機系溶媒を選択する場合、ポリイミド前駆体に対する良溶媒(S1)と、良溶媒(S1)以外の溶媒(S2)との混合溶媒が好ましい。
【0141】
ポリイミド前駆体に対する良溶媒(S1)とは、ポリイミド前駆体溶液を作製する際に使用されるものである。良溶媒とは、本実施形態では、ポリイミド前駆体の溶解度が5質量%以上を示す溶媒を指す。具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルプロピレンウレア、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトン、β-プロピオラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトンなどの非プロトン性極性溶剤が挙げられる。
これらの中でも、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトンが好ましく、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトンがより好ましく、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ―ブチロラクトンがさらに好ましい。
【0142】
ポリイミド前駆体に対する良溶媒以外の溶媒(S2)としては、用いる粒子の溶解度が低いものを選択する。溶媒の選択法の例としては、例えば、対象となる溶媒に粒子を添加して、溶解量が3質量%以下のものを選択する方法が挙げられる。
【0143】
ポリイミド前駆体に対する良溶媒以外の溶媒(S2)としては、例えば、n-デカン、トルエンなどの炭化水素系溶剤;イソプロピルアルコール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、フェネチルアルコールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤;ジグライム、トリグライム、テトラグライム、メチルセロソルブアセテートなどのエーテル系溶剤;フェノール、クレゾールなどのフェノール系溶剤;などが挙げられる。
【0144】
粒子として、前述の樹脂粒子を用いる場合、溶媒(S1)は非常に極性が高いため、溶媒(S1)単独では、ポリイミド前駆体だけでなく、樹脂粒子をも溶解してしまう場合がある。そのため、溶媒(S1)と溶媒(S2)の混合比率は、ポリイミド前駆体は溶解し、樹脂粒子は溶解しないように決定すればよい。また、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜の加熱過程で樹脂粒子が溶解して、例えば空孔の形状が乱れてしまうことを抑制するため、溶媒(S2)の沸点は、溶媒(S1)よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。
【0145】
-水系溶媒-
本明細書において水系溶媒とは、水を含む水性溶剤をいう。具体的には、水性溶剤は、全水性溶剤に対して水を50質量%以上含有する水性溶剤であることがよい。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水、純水等が挙げられる。
【0146】
水の含有量は、全水性溶剤に対して、50質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、80質量%以上100質量%以下が更に好ましい。
【0147】
なお、水性溶剤が水以外の溶媒を含む場合、水以外の溶媒としては、例えば、水溶性有機溶剤、非プロトン性極性溶剤が挙げられる。水以外の溶媒としては、多孔質ポリイミドフィルムの機械的強度等の点から、水溶性の有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0148】
特に、多孔質ポリイミドフィルム諸特性(例えば、透明性、機械的強度、耐熱性、電気特性、耐溶剤性等)向上の点から、水性溶剤は、非プロトン性極性溶剤を含ませてもよい。この場合、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子の溶解、膨潤を抑制するため、全水性溶剤に対して40質量%以下、好ましくは30質量%以下であることがよい。また、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を乾燥し、フィルム化する際の樹脂粒子の溶解、膨潤を抑制するため、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子とポリイミド前駆体の含有量(固形分)に対し、3質量%以上200質量%以下、好ましくは、3質量%以上100質量%以下、より好ましくは、3質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは、5質量%以上50質量%以下で用いることがよい。
【0149】
上記水溶性の有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
粒子として樹脂粒子を用いる場合、上記水溶性の有機溶剤としては、樹脂粒子が溶解しないものが好ましい。この理由は、例えば、水と水溶性の有機溶剤とを含む水性溶剤とした場合に、樹脂粒子分散液中で樹脂粒子を溶解していなくても、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜を得る過程で樹脂粒子が溶解してしまうことが懸念されるためである。
【0150】
粒子として樹脂粒子を用い、水系溶媒として樹脂粒子を溶解する水溶性の有機溶剤を用いる場合、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中での粒子の溶解、膨潤を抑制するため、この水溶性の有機溶剤の量は、全水性溶剤に対して40質量%以下、好ましくは30質量%以下であることがよい。また、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜を乾燥し、皮膜化する際の樹脂粒子の溶解、膨潤を抑制するため、この水溶性の有機溶剤の量は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子とポリイミド前駆体の合計量に対し、3質量%以上50質量%以下、好ましくは、5質量%以上40質量%以下、より好ましくは、5質量%以上35質量%以下で用いることがよい。
【0151】
水溶性有機溶剤の例としては、例えば、以下に示す水溶性エーテル系溶剤、水溶性ケトン系溶剤、水溶性アルコール系溶剤が挙げられる。
【0152】
水溶性エーテル系溶剤は、一分子中にエーテル結合を持つ水溶性の有機溶剤である。水溶性エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、水溶性エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンが好ましい。
【0153】
水溶性ケトン系溶剤は、一分子中にケトン基を持つ水溶性の有機溶剤である。水溶性ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、水溶性ケトン系溶剤としては、アセトンが好ましい。
【0154】
水溶性アルコール系溶剤は、一分子中にアルコール性水酸基を持つ水溶性の有機溶剤である。水溶性アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテル、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等が挙げられる。これらの中でも、水溶性アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテルが好ましい。
【0155】
水性溶剤として水以外の非プロトン性極性溶剤を含有する場合、併用される非プロトン性極性溶剤は、沸点150℃以上300℃以下で、双極子モーメントが3.0D以上5.0D以下の有機溶剤である。非プロトン性極性溶剤として具体的には、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチレンホスホルアミド(HMPA)、N-メチルカプロラクタム、N-アセチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。
【0156】
なお、水性溶剤として水以外の溶媒を含有する場合、併用される溶媒は、沸点が270℃以下であることがよく、好ましくは60℃以上250℃以下、より好ましくは80℃以上230℃以下である。併用される溶媒の沸点を上記範囲とすると、水以外の溶媒がポリイミド成形体に残留し難くなり、また、機械的強度の高いポリイミド成形体が得られ易くなる。
【0157】
ここで、溶媒として水性溶剤を用いるとき、後述の有機アミン化合物を含有し、全溶媒中に示す水の割合が50質量%以上である水性溶剤であることがよい。有機アミン化合物を含有し、水の含有量が50質量%以上である水性溶剤を用いることにより、水の含有量が50質量%未満である水性溶剤を用いた場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性が優れる。その理由は定かではないが、水の割合が50%以上である水性溶剤で粒子の膨潤を抑制し、粒子同士の融着を抑制することができるためと推測される。
【0158】
また、この水性溶剤に、非プロトン性極性溶剤を、粒子100質量部に対し5質量部以上50質量部以下の範囲で含有する水性溶剤でもよい。非プロトン性極性溶剤の含有量が上記範囲であることにより、上記範囲よりも少ない場合に比べ、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性が優れる。その理由は定かではないが、粒子分散ポリイミド前駆体溶液におけるポリイミド前駆体の溶解安定性を高め、ポリイミド前駆体の分子鎖を広げることで、ポリイミド前駆体の分子鎖が粒子表面と接触しやすくなるためと推測される。
【0159】
-有機アミン化合物-
溶媒が水系溶媒の場合、ポリイミド前駆体を溶解させるために、有機アミン化合物を添加して水溶化させる。有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体(そのカルボキシ基)をアミン塩化して、その水性溶剤に対する溶解性を高めると共に、イミド化促進剤としても機能する化合物である。具体的には、有機アミン化合物は、分子量170以下のアミン化合物であることがよい。有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体の原料となるジアミン化合物を除く化合物であることがよい。
なお、有機アミン化合物は、水溶性の化合物であることがよい。水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0160】
有機アミン化合物としては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられる。
これらの中でも、有機アミン化合物としては、2級アミン化合物及び3級アミン化合物からなる群から選択される少なくとも一種(特に、3級アミン化合物)がよい。有機アミン化合物として、3級アミン化合物又は2級アミン化合物を適用すると(特に、3級アミン化合物)、ポリイミド前駆体の溶媒に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0161】
また、有機アミン化合物としては、1価のアミン化合物以外にも、2価以上の多価アミン化合物も挙げられる。2価以上の多価アミン化合物を適用すると、ポリイミド前駆体の分子間に疑似架橋構造を形成し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0162】
1級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、2-エタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、などが挙げられる。
2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、モルホリンなどが挙げられる。
3級アミン化合物としては、例えば、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0163】
ポリイミド前駆体溶液のポットライフ、フィルム膜厚均一性の観点で、3級アミン化合物が好ましい。この点で、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。さらに、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも一種であることが最も好ましい。
【0164】
ここで、有機アミン化合物としては、製膜性の点から、窒素を含有する複素環構造を有するアミン化合物(特に、3級アミン化合物)も好ましい。窒素を含有する複素環構造を有するアミン化合物(以下、「含窒素複素環アミン化合物」と称する)としては、例えば、イソキノリン類(イソキノリン骨格を有するアミン化合物)、ピリジン類(ピリジン骨格を有するアミン化合物)、ピリミジン類(ピリミジン骨格を有するアミン化合物)、ピラジン類(ピラジン骨格を有するアミン化合物)、ピペラジン類(ピペラジン骨格を有するアミン化合物)、トリアジン類(トリアジン骨格を有するアミン化合物)、イミダゾー
ル類(イミダゾール骨格を有するアミン化合物)、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)、ポリアニリン、ポリピリジン、ポリアミンなどが挙げられる。
【0165】
含窒素複素環アミン化合物としては、製膜性の点から、モルホリン類、ピリジン類、ピペリジン類、及びイミダゾール類よりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)であることがより好ましい。これらの中でも、N-メチルモルホリン、N-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、及びピコリンよりなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましく、N-メチルモルホリンであることがより好ましい。
【0166】
これらの中でも、有機アミン化合物としては、沸点が60℃以上(好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは70℃以上150℃以下)の化合物であることがよい。有機アミン化合物の沸点を60℃以上とすると、保管するときに、ポリイミド前駆体溶液から有機アミン化合物が揮発するのを抑制し、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され易くなる。
【0167】
有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体のカルボキシ基(-COOH)に対して、50モル%以上500モル%以下で含有することがよく、好ましくは80モル%以上250モル%以下、より好ましくは90モル%以上200モル%以下で含有することである。
有機アミン化合物の含有量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体の水性溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなる。また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性も向上し易くなる。
【0168】
上記の有機アミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0169】
-その他の添加剤-
本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、イミド化反応促進のための触媒、製膜品質向上のためのレベリング材などを含んでいてもよい。
イミド化反応促進のための触媒には、酸無水物など脱水剤、フェノール誘導体、スルホン酸誘導体、安息香酸誘導体などの酸触媒などを使用してもよい。
【0170】
また、例えば、導電性付与のために添加される導電材料(導電性(例えば、体積抵抗率10Ω・cm未満)又は半導電性(例えば、体積抵抗率10Ω・cm以上1013Ω・cm以下))を含有していてもよい。
導電材料としては、例えば、カーボンブラック(例えばpH5.0以下の酸性カーボンブラック);金属(例えばアルミニウムやニッケル等);金属酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等);イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等);等が挙げられる。これら導電材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
また、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、リチウムイオン電池の電極として用いられる、LiCoO、LiMnOなどを含んでもよい。
【0171】
<粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する方法>
本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製方法としては、下記の(i)、(ii)による方法が挙げられる。
(i)ポリイミド前駆体の溶液を作製した後、粒子と混合、分散する方法
(ii)粒子分散液を作製し、その分散液中でポリイミド前駆体を合成する方法
【0172】
・(i)ポリイミド前駆体の溶液を作製した後、粒子と混合及び分散する方法
まず、粒子を分散する前におけるポリイミド前駆体の溶液は、公知の方法を用い、溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成してポリイミド前駆体の溶液を得る方法が挙げられる。
なお、水系溶媒の場合は、上述の水性溶剤を使用し、有機アミンの存在下で重合してポリイミド前駆体の溶液が得られる。他の例としては、非プロトン性極性溶剤等(例えば、N-メチルピロリドン(NMP)等)の有機溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成した後、水や、アルコール等の水性溶剤に投入して樹脂(ポリイミド前駆体)を析出させる。その後、水性溶剤に、ポリイミド前駆体と有機アミン化合物とを溶解させ、ポリイミド前駆体の溶液を得る方法が挙げられる。
【0173】
次に、得られたポリイミド前駆体の溶液と、粒子と、を混合及び分散する。
樹脂粒子を作製する場合、例えば、樹脂粒子がビニル樹脂粒子である場合には、公知の重合法(乳化重合、ソープフリー乳化重合、懸濁重合、ミニエマルション重合、マイクロエマルション重合等のラジカル重合法)により、水性溶剤中で作製してもよい。
【0174】
例えば、ビニル樹脂粒子の製造に乳化重合法を適用する場合、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤を溶解させた水性溶剤中に、スチレン類、(メタ)アクリル酸類等の単量体を加える。そして、さらに必要に応じて、ドデシル硫酸ナトリウム、ジフェニルオキサイドジスルホン酸塩類等の界面活性剤を添加し、攪拌を行いながら加熱することにより重合を行うことで、ビニル樹脂粒子が得られる。
【0175】
水性溶剤中で、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する場合は、上記の方法によって得られた樹脂粒子の水性溶剤分散液と、上記で得られたポリイミド前駆体溶液とを混合及び撹拌することで、粒子分散ポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0176】
有機系溶媒中で、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する場合は、樹脂粒子の水性溶剤分散液を、再沈や凍結乾燥など公知の方法で、樹脂粒子を粉体として取出し、上記で得られたポリイミド前駆体溶液と混合及び撹拌する。又は、取り出した樹脂粒子粉体を、樹脂粒子を溶解させない有機系溶媒(単独でも混合溶媒でもよい)に再分散させてから、ポリイミド前駆体溶液と混合及び撹拌してもよい。
なお、混合、攪拌、及び分散の方法は特に制限されない。また、粒子の分散性を向上させるため、公知の非イオン性又はイオン性の界面活性剤を添加してもよい。
【0177】
市販品の粒子(樹脂粒子又は無機粒子)を使用する場合、粒子が粉体として入手可能であるときには、ポリイミド前駆体溶液の溶媒が有機系溶媒であるか又は水系溶媒であるかを問わず、目的とする濃度で、粒子の混合及び分散が可能である。粒子が、粒子の分散液で入手可能なときには、前述の粒子を作製する場合と同様の方法で、粒子の分散液と上記で得られたポリイミド前駆体溶液とを混合及び分散して、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製を行う。
【0178】
・(ii)粒子分散液を作製し、その分散液中でポリイミド前駆体を作製する方法
有機系溶媒で、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する場合は、まず、粒子が溶解せず、ポリイミド前駆体は溶解する有機系溶媒に、粒子が分散された分散液を準備する。次に、その分散液中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成して粒子分散ポリイミド前駆体溶液を得る。
水系溶媒(水性溶剤)で、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する場合は、まず、粒子の水性溶剤分散液を準備する。次に、その分散液中で、かつ有機アミンの存在下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成して粒子分散ポリイミド前駆体溶液を得る。
【0179】
粒子として、樹脂粒子を用いる場合、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液中での分散性を向上させるため、樹脂粒子表面を、元の樹脂とは異なる化学構造の樹脂で被覆してもよい。被覆する樹脂としては、用いる溶媒やポリイミド前駆体の化学構造に応じて変更してもよい。被覆する樹脂としては、例えば、酸性基又は塩基性基を有する樹脂等が挙げられる。樹脂粒子表面への樹脂を被覆する方法としては、例えば、ビニル樹脂粒子を乳化重合で作製する場合、元の樹脂粒子に由来する単量体の重合を終えた後で、さらにメタクリル酸やメタクリル酸2-ジメチルアミノエチルなどの酸性基や塩基性基を有する単量体を少量添加して重合を継続する方法が挙げられる。
【0180】
これらの中でも、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する方法としては、粒子分散性をより向上できる点で、上記(ii)の方法が好ましい。
【0181】
[多孔質ポリイミドフィルムの製造方法]
本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムの製造方法は、前述の粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布して塗膜を形成した後、塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体及び前記樹脂粒子を含む皮膜を形成する第1の工程と、皮膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する第2の工程であって、樹脂粒子を除去する処理を含む第2の工程と、を有する。
ここで、本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムの製造方法によれば、球状の粒子を用いることで、球状の空孔を備えている多孔質ポリイミドフィルムが得られる。
【0182】
以下、本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムの好適な製造方法の一例について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムの製造方法で得られる多孔質ポリイミドフィルムの構成を示す模式図である。
図1中、31は基板、51は剥離層、10Aは空孔、及び10は多孔質ポリイミドフィルムを表す。
【0183】
<第1工程>
第1工程では、まず、上述の粒子分散ポリイミド前駆体溶液を準備する。次に、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布して塗膜を形成した後、塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体及び粒子を含む皮膜を形成する。
【0184】
上記塗膜の形成は、既述の方法で得られた粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布することで行う。得られた塗膜は、ポリイミド前駆体、粒子、及び溶媒を少なくとも含んでいる。そして、この塗膜中の粒子は、凝集が抑制された状態で分布している。
【0185】
粒子分散ポリイミド前駆体溶液が塗布される基板(図1中の基板31)は、特に制限されない。
基板としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂製基板;ガラス製基板;セラミック製基板;鉄、ステンレス鋼(SUS)等の金属基板;これらの材料が組み合わされた複合材料基板等が挙げられる。
また、基板には、必要に応じて、例えば、シリコーン系、フッ素系の剥離剤等による剥離処理を行って剥離層(図1中の剥離層51)を設けてもよい。また、基材の表面を粒子の粒径程度の大きさに粗面化し、基材接触面での粒子の露出を促進することも効果的である。
【0186】
基板上に粒子分散ポリイミド前駆体溶液を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、スプレー塗布法、回転塗布法、ロール塗布法、バー塗布法、スリットダイ塗布法、インクジェット塗布法等の各種の方法が挙げられる。
ポリイミド前駆体及び粒子を含む粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗布量としては、予め定められた膜厚が得られる量に設定すればよい。
【0187】
なお、基材として、目的とする用途に応じて、各種の基材を用いてもよい。基材としては、例えば、液晶素子に適用される各種基材;集積回路が形成された半導体基材、配線が形成された配線基材、電子部品及び配線が設けられたプリント基板の基材;電線被覆材用の基材;等が挙げられる。
【0188】
上記皮膜の形成は、基板上に形成された塗膜を乾燥させることで行う。皮膜は、ポリイミド前駆体及び粒子を少なくとも含む。
【0189】
基板上に形成された塗膜を乾燥させる方法としては、特に制限されず、例えば、加熱乾燥、自然乾燥、真空乾燥等の各種の方法が挙げられる。
より具体的には、皮膜に残留する溶媒が、皮膜の固形分に対して50質量%以下(好ましくは30質量%以下)となるように、塗膜を乾燥させて、皮膜を形成することが好ましい。
【0190】
<第2工程>
第2工程は、第1工程で得られた皮膜を加熱してポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する工程であって、粒子を除去する処理を含む。粒子を除去する処理を経て、多孔質ポリイミドフィルムが得られる。
【0191】
第2工程では、具体的には、第1工程で得られた皮膜を加熱して、イミド化を進行させることでポリイミドフィルムが形成される。なお、イミド化が進行し、イミド化率が高くなるに従い、ポリイミドフィルムは溶媒に溶解し難くなる。
【0192】
そして、第2工程において、粒子を除去する処理を行う。粒子の除去により、粒子が存在していた領域が空孔(図1中の空孔10A)になり、多孔質ポリイミドフィルム(図1中の多孔質ポリイミドフィルム10)が得られる。
粒子の除去は、皮膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において除去してもよく、イミド化が完了した後(イミド化後)のポリイミドフィルムから除去してもよい。
なお、本実施形態において、ポリイミド前駆体をイミド化する過程とは、第1の工程で得られたポリイミド前駆体及び粒子を含む皮膜を加熱して、イミド化を進行させ、イミド化が完了した後のポリイミドフィルムとなるよりも前の状態となる過程を示す。
【0193】
粒子を除去する処理は、粒子の除去性等の点で、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において、ポリイミド膜中におけるポリイミド前駆体のイミド化率が10%以上であるときに行うことが好ましい。イミド化率が10%以上になると、膜の形状を維持しやすい。
【0194】
(粒子の除去)
次に、粒子を除去する処理について説明する。
まず、樹脂粒子を除去する処理について説明する。
樹脂粒子を除去する処理としては、例えば、樹脂粒子を加熱により除去する方法、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法、樹脂粒子をレーザ等による分解により除去する方法等が挙げられる。これらのうち、樹脂粒子を加熱により除去する方法、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法が好ましい。
【0195】
加熱により除去する方法としては、例えば、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において、イミド化を進行させるための加熱によって、樹脂粒子を分解させることで除去してもよい。この場合には、有機溶剤により樹脂粒子を除去する操作がない点で、工程の削減に対して有利である。一方で、樹脂粒子の種類によっては、加熱による分解ガスが発生する場合がある。そして、この分解ガスに起因して、多孔質ポリイミドフィルムには、破断や亀裂等が発生する場合があり得る。そのため、この場合には、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法を採用するほうが望ましい。
【0196】
樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法としては、例えば、樹脂粒子が溶解する有機溶剤と接触(例えば、有機溶剤中に浸漬)させ、樹脂粒子を溶解して除去する方法が挙げられる。有機溶剤中に浸漬する方法は、樹脂粒子の溶解効率が高くなる点で好ましい。
【0197】
樹脂粒子を除去するための有機溶剤としては、ポリイミド膜、及びイミド化が完了したポリイミドフィルムを溶解せず、樹脂粒子が可溶な有機溶剤であれば、特に限定されるものではない。有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;トルエン等の芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;が挙げられる。
【0198】
溶解除去により樹脂粒子を除去して多孔質化する場合は、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、酢酸エチルなどの汎用溶媒に溶解する樹脂粒子を用いることが好ましい。なお、使用する樹脂粒子とポリイミド前駆体によっては、樹脂粒子を除去する溶媒として水も使用可能である。
また、加熱により樹脂粒子を除去して多孔質化する場合は、塗布後の乾燥温度では分解せず、ポリイミド前駆体の皮膜をイミド化させる温度により熱分解させる。この観点から、樹脂粒子の熱分解開始温度は、150℃以上320℃以下であることがよく、180℃以上300℃以下であることが好ましく、200℃以上280℃以下であることがより好ましい。
【0199】
次に、無機粒子を除去する処理について説明する。
無機粒子を除去する処理としては、無機粒子は溶解するがポリイミド前駆体又はポリイミドは溶解しない液体(以下、「粒子除去液」と称することがある)を用いて除去する方法が挙げられる。粒子除去液は、使用する無機粒子の種類に応じて選択される。粒子除去液としては、例えば、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ホウ酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸などの酸の水溶液;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、上述の有機アミンなどの塩基の水溶液;が挙げられる。また、使用する無機粒子とポリイミド前駆体によっては、粒子除去液として水単独でも使用可能である。
【0200】
第2工程において、皮膜中のポリイミド前駆体をイミド化するための加熱には、例えば、2段階以上の多段階での加熱が好ましく用いられる。具体的には、例えば、以下に示す加熱条件が採用される。
第1段階の加熱条件は、粒子の形状が保持される温度であることが望ましい。第1段階の加熱温度は、50℃以上150℃以下の範囲がよく、60℃以上140℃以下の範囲が好ましい。また、第1段階の加熱時間は、10分間以上60分間以下の範囲がよい。第1段階における加熱温度が高いほど、第1段階における加熱時間は短くてよい。
第2段階の加熱条件としては、例えば、150℃以上450℃以下(好ましくは200℃以上400℃以下)で、20分間以上120分間以下の条件が挙げられる。この範囲の加熱条件とすることで、イミド化反応が更に進行する。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。
なお、加熱条件は上記の2段階の加熱方法に限らず、例えば、1段階で加熱する方法を採用してもよい。1段階で加熱する方法の場合、例えば、上記の第2段階で示した加熱条件のみによってイミド化を完了させてもよい。
【0201】
第2の工程において、開孔率を高める点で、粒子を露出させる処理を行って粒子を露出させた状態とすることが好ましい。第2の工程において、粒子を露出させる処理は、ポリイミド前駆体のイミド化を行う過程、又はイミド化後、且つ、粒子を除去する処理よりも前で行うことが好ましい。
粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて基板上に被膜を形成する場合、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布し、粒子が埋没した塗膜を形成し、次に、塗膜を乾燥してポリイミド前駆体及び粒子を含む皮膜を形成する。この方法によって形成された皮膜は、粒子が埋没された状態となる。この皮膜に対して、加熱を行い、粒子の除去処理を行う前に、ポリイミド前駆体をイミド化する過程、又はイミド化が完了した後(イミド化後)のポリイミドフィルムから粒子を露出させる処理を施してもよい。
【0202】
第2の工程において、粒子を露出させる処理としては、例えば、ポリイミド膜が次のような状態であるときに施すことが挙げられる。
ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%未満であるとき(すなわち、ポリイミド膜が溶媒に溶解できる状態)に粒子を露出させる処理を行う場合、上記のポリイミド膜中に埋没している粒子を露出させる処理としては、拭き取る処理、溶媒に浸漬する処理等が挙げられる。その際に使用する溶媒は、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液に用いた溶媒と同じものでもよく、異なるものでもよい。
【0203】
また、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%以上であるとき(すなわち、水、有機溶剤に溶解し難い状態)、及びイミド化が完了したポリイミドフィルムとなった状態であるときに粒子を露出させる処理を行う場合には、紙やすり等の工具類で機械的に切削して粒子を露出させる方法等が挙げられ、粒子が樹脂粒子の場合は、レーザ等で分解して樹脂粒子を露出させる方法も挙げられる。
例えば、機械的に切削する場合には、ポリイミド膜に埋没している粒子の上部の領域(つまり、粒子の基板から離れた側の領域)に存在する粒子の一部分が、粒子の上部に存在しているポリイミド膜とともに切削され、切削された粒子がポリイミド膜の表面から露出される。
【0204】
その後、粒子が露出されたポリイミド膜から、既述の粒子の除去処理により粒子を除去する。そして、粒子が除去された多孔質ポリイミドフィルムが得られる。
【0205】
なお、上記では、第2の工程において、粒子を露出させる処理を施した多孔質ポリイミドフィルムの製造工程について示したが、開孔率を高める点で、第1の工程で粒子を露出させる処理を施してもよい。この場合には、第1の工程において、塗膜を得た後、乾燥して皮膜を形成する過程で、粒子を露出させる処理を行って、粒子を露出させた状態にしてもよい。この粒子を露出させる処理を行うことによって、多孔質ポリイミドフィルムの開孔率が高められる。
【0206】
例えば、塗膜を得た後、塗膜を乾燥して皮膜を形成する過程では、前述のように、皮膜内において、ポリイミド前駆体が溶媒に溶解できる状態である。皮膜がこの状態のときに、例えば、拭き取る処理、又は溶媒に浸漬する処理等により、粒子を露出させてもよい。具体的には、粒子層の厚み以上の領域に存在するポリイミド前駆体溶液を、例えば、溶媒で拭くことにより粒子層を露出させる処理を行うことで、粒子層の厚み以上の領域に存在していたポリイミド前駆体溶液が除去される。そして、粒子層の上部の領域(つまり、粒子層の基板から離れた側の領域)に存在する粒子が、皮膜の表面から露出される。
なお、ガス分離膜のように表面に開孔していないスキン層を持つことが好ましい場合は粒子を露出させる処理は行わないことがよい。
【0207】
なお、第2の工程において、第1の工程で使用した上記の皮膜を形成するための基板は、乾燥した皮膜となったときに剥離してもよく、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体が、有機溶剤に溶解し難い状態となったときに剥離してもよく、イミド化が完了したフィルムになった状態のときに剥離してもよい。
【0208】
以上の工程を経て、多孔質ポリイミドフィルムが得られる。そして、多孔質ポリイミドフィルムは、使用目的によって後加工してもよい。
【0209】
なお、本実施形態の粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜を形成する前に、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の脱泡処理を行う場合がある。脱泡処理を施したほうが、脱泡処理を行わない場合に比べ、多孔質ポリイミドフィルムとした場合の欠陥が抑制されたフィルムが得られやすくなるため好適である。脱泡処理の方法は、特に限定されず、減圧下での脱泡(減圧脱泡)でもよく、常圧下での脱泡でもよい。常圧下の脱泡処理としては、例えば、自転や公転などの遠心力をかける方法などが挙げられる。なお、常圧下の脱泡でも減圧下の脱泡でも、必要に応じて、撹拌、加熱などの処理を加えながら脱泡処理を行ってもよい。脱泡処理は、減圧下での脱泡処理が簡便であり脱泡能が大きいため好適である。脱泡処理の条件は、気泡の残存程度によって設定すればよい。
すなわち、多孔質ポリイミドフィルムの製造方法は、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥して、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子を含む皮膜を形成する第1の工程であって、塗膜を形成する前に、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の脱泡処理を含む第1の工程と、前記皮膜を加熱して、前記ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドフィルムを形成する第2の工程であって、前記粒子を除去する処理を含む第2の工程と、を有するものであってもよい。
【0210】
(イミド化率)
ここで、ポリイミド前駆体のイミド化率について説明する。
一部がイミド化したポリイミド前駆体は、例えば、下記一般式(I-1)、下記一般式(I-2)、及び下記一般式(I-3)で表される単位を有する構造の前駆体が挙げられる。
【0211】
【化27】
【0212】
一般式(I-1)、一般式(I-2)、及び一般式(I-3)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。lは1以上の整数を示し、m及びnは、各々独立に0又は1以上の整数を示す。
【0213】
なお、一般式(I-1)、(I-2)、及び(I-3)中のAは、前述の一般式(I)中のAと同義である。
また、一般式(I-1)、(I-2)、及び(I-3)中のBは、前述の特定単位及び他の単位における、ジアミン化合物から2つのアミノ基を除いた残基と同義である。
【0214】
ポリイミド前駆体のイミド化率は、ポリイミド前駆体の結合部(テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応部)において、イミド閉環している結合部数(2n+m)の全結合部数(2l+2m+2n)に対する割合を表す。つまり、ポリイミド前駆体のイミド化率は、「(2n+m)/(2l+2m+2n)」で示される。
【0215】
なお、ポリイミド前駆体のイミド化率(「(2n+m)/(2l+2m+2n)」の値)は、次の方法により測定される。
【0216】
-ポリイミド前駆体のイミド化率の測定-
・ポリイミド前駆体試料の作製
(i)測定対象となるポリイミド前駆体溶液を、シリコーンウェハー上に、膜厚1μm以上10μm以下の範囲で塗布して、塗膜試料を作製する。
(ii)塗膜試料をテトラヒドロフラン(THF)中に20分間浸漬させて、塗膜試料中の溶剤をテトラヒドロフラン(THF)に置換する。浸漬させる溶剤は、THFに限定されることなく、ポリイミド前駆体を溶解せず、ポリイミド前駆体溶液に含まれている溶剤成分と混和し得る溶剤より選択される。具体的には、メタノール、エタノールなどのアルコール溶剤、ジオキサンなどのエーテル化合物が使用される。
(iii)塗膜試料を、THF中より取り出し、塗膜試料表面に付着しているTHFにNガスを吹き付け、取り除く。10mmHg以下の減圧下、5℃以上25℃以下の範囲にて12時間以上処理して塗膜試料を乾燥させ、ポリイミド前駆体試料を作製する。
【0217】
・100%イミド化標準試料の作製
(iv)上記(i)と同様に、測定対象となるポリイミド前駆体溶液をシリコーンウェハー上に塗布して、塗膜試料を作製する。
(v)塗膜試料を380℃にて60分間加熱してイミド化反応を行い、100%イミド化標準試料を作製する。
【0218】
・測定と解析
(vi)フーリエ変換赤外分光光度計(堀場製作所製、FT-730)を用いて、100%イミド化標準試料、ポリイミド前駆体試料の赤外吸光スペクトルを測定する。100%イミド化標準試料の1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab’(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab’(1780cm-1))の比I’(100)を求める。
(vii)同様にして、ポリイミド前駆体試料について測定を行い、1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab(1780cm-1))の比I(x)を求める。
【0219】
そして、測定した各吸光ピークI’(100)、I(x)を使用し、下記式に基づき、ポリイミド前駆体のイミド化率を算出する。
・式: ポリイミド前駆体のイミド化率=I(x)/I’(100)
・式: I’(100)=(Ab’(1780cm-1))/(Ab’(1500cm-1))
・式: I(x)=(Ab(1780cm-1))/(Ab(1500cm-1))
【0220】
なお、このポリイミド前駆体のイミド化率の測定は、芳香族系ポリイミド前駆体のイミド化率の測定に適用される。脂肪族ポリイミド前駆体のイミド化率を測定する場合、芳香環の吸光ピークに代えて、イミド化反応前後で変化のない構造由来のピークを内部標準ピークとして使用する。
【0221】
[多孔質ポリイミドフィルム]
本実施形態に係る多孔質ポリイミドフィルムは、下記式(III)で示される単位を有するポリイミドを含有し、空孔を有し、下記条件(5)を満たす。
条件(5):前記式(B1)~(B4)で示される基の合計含有量は、前記ポリイミド全体の量に対し、1質量%以上40質量%以下
【0222】
【化28】
【0223】
式(III)中、
Aは4価の有機基を示し、
Bは前記式(B1)~(B4)のいずれかで示される2価の有機基を示す。
【0224】
なお、一般式(III)中のA及びBは、前述の一般式(I)中のA及びBと同義である。
【0225】
<多孔質ポリイミドフィルムの特性>
上記多孔質ポリイミドフィルムの空孔率は、特に限定されるものではない。多孔質ポリイミドフィルムの空孔率は、30%以上であることがよく、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。空孔率の上限は、特に限定されず、空孔率は90%以下の範囲であることがよい。
【0226】
ここで、多孔質ポリイミドフィルムにおける空孔率は、多孔質ポリイミドフィルムの見かけ密度及び真密度から求める。
見かけの密度dとは、多孔質ポリイミドフィルムの質量(g)を、空孔を含めた多孔質ポリイミドフィルムの体積(cm)で除した値である。見かけ密度dは、多孔質ポリイミドフィルムの単位面積当たりの質量(g/m)を、多孔質ポリイミドフィルムの厚み(μm)で除して求めてもよい。
真密度ρとは、多孔質ポリイミドフィルムの質量(g)を、多孔質ポリイミドフィルムから空孔を除いた体積(即ち、樹脂による骨格部のみの体積)(cm)で除した値である。
【0227】
多孔質ポリイミドフィルムの空孔率は、下記式(II)にて算出される。
・式(II) 空孔率(%)={1-(d/ρ)}×100=[1-{(w/t)/ρ)}]×100
d:多孔質ポリイミドフィルムの見かけ密度(g/cm
ρ:多孔質ポリイミドフィルムの真密度(g/cm
w:多孔質ポリイミドフィルムの単位面積当たりの質量(g/m
t:多孔質ポリイミドフィルムの厚み(μm)
【0228】
空孔の形状は、球状又は球状に近い形状であることが好ましい。また、空孔は、空孔どうしが互いに連結されて連なった形状であることが好ましい。
【0229】
空孔径の平均値は、特に限定されないが、0.1μm以上0.5μm以下の範囲であることがよく、0.25μm以上0.48μm以下の範囲が好ましく、0.25μm以上0.45μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0230】
空孔径の平均値は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察及び計測される値である。具体的には、まず、多孔質ポリイミドフィルムを厚さ方向に切り出し、切断面を測定面とする測定用試料を準備する。そして、この測定用試料をキーエンス(KEYENCE)社製のVE SEMにより、標準装備されている画像処理ソフトにて観察及び計測を実施する。観察及び計測は、測定用試料断面のうち、空孔部分のそれぞれについて100個行い、空孔径の分布を求め、それらの値を平均することで空孔径の平均値を求める。空孔の形状が円形でない場合には、最も長い部分を径とする。
【0231】
多孔質ポリイミドフィルムの平均膜厚は、特に限定されず、用途に応じて選択される。
多孔質ポリイミドフィルムの平均膜厚は、例えば、10μm以上1000μm以下であってもよい。多孔質ポリイミドフィルムの平均膜厚は、20μm以上であってもよく、30μm以上であってもよく、また、多孔質ポリイミドフィルムの平均膜厚は、500μm以下であってもよく、400μm以下であってもよい。
多孔質ポリイミドフィルムの平均膜厚は、サンコー電子社製渦電流式膜厚計CTR-1500Eを使用し、5点の多孔質ポリイミドフィルムの膜厚を測定し、その算術平均で算出する。
【0232】
<多孔質ポリイミドフィルムの用途>
本実施形態の多孔質ポリイミドフィルムが適用される用途としては、例えば、リチウム電池等の電池セパレータ;電解コンデンサー用のセパレータ;燃料電池等の電解質膜;電池電極材;気体又は液体の分離膜;低誘電率材料;ろ過膜;等が挙げられる。
【実施例
【0233】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0234】
[合成例]
<合成例1(PMMA粒子分散液-1の作製)>
メタクリル酸メチル670質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)25.0質量部、及びイオン交換水670質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、モノマー乳化液を作製した。続いて、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部及びイオン交換水1500質量部を反応容器に投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、モノマー乳化液のうち75質量部を添加した後に、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りのモノマー乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた後、冷却して、樹脂粒子の分散液であるPMMA粒子分散液-1を得た。PMMA粒子分散液-1の固形分濃度は22.8質量%であった。この樹脂粒子の体積平均粒径は0.42μm、体積粒度分布指標(GSDv)は1.17であった。
【0235】
<合成例2(PMMA粒子分散液-2の作製)>
メタクリル酸メチル670質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)31.4質量部、及びイオン交換水670質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、モノマー乳化液を作製した。続いて、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部及びイオン交換水1500質量部を反応容器に投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、モノマー乳化液のうち75質量部を添加した後に、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りのモノマー乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた後、冷却して、樹脂粒子の分散液であるPMMA粒子分散液-2を得た。PMMA粒子分散液-2の固形分濃度は23.2質量%であった。この樹脂粒子の体積平均粒径は0.33μm、体積粒度分布指標(GSDv)は1.18であった。
【0236】
<合成例3(PSt粒子分散液-1の作製)>
スチレン670質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)17.0質量部、及びイオン交換水670質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、モノマー乳化液を作製した。続いて、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部及びイオン交換水1500質量部を反応容器に投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、モノマー乳化液のうち75質量部を添加した後に、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りのモノマー乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた後、冷却して、PSt粒子分散液-1を得た。PSt粒子分散液-1の固形分濃度は22.8質量%であった。この樹脂粒子の体積平均粒径は0.4μm、体積粒度分布指標(GSDv)は1.15であった。
【0237】
<合成例4(PSt粒子粉体-1の作製)>
合成例3で得られたPSt粒子分散液-1:固形分換算で樹脂粒子100質量部(水:338.6質量部含有)を凍結乾燥し、粉体を取り出した。得られた粉体100質量部に脱イオン水20質量部を加えて撹拌した後、遠心分離にかけて粒子を沈降させ、上澄みを取り除いた。この操作を3回繰り返した後、再び凍結乾燥し、PSt粒子粉体-1を取り出した。この樹脂粒子の体積平均粒径は、もとの分散液中の体積平均粒径の場合と同じ0.4μmであった。
【0238】
<合成例5(ポリイミド前駆体―A1の作製)>
反応容器にNMP:160.68質量部、他のジアミン化合物として用いるp-フェニレンジアミン(PDA)(分子量108.14):10.88質量部、及び特定ジアミン化合物として用いる式(B1-6)で示される基を有するジアミン(分子量:225.25):5.67gを添加し、50℃で10分間攪拌して分散させた。ついで、テトラカルボン酸二無水物として用いる3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)(分子量294.22):37.01質量部を徐々に添加し、反応温度50℃に保持しながら、7時間攪拌して溶解、反応を行い、濃度25質量%のポリイミド前駆体溶液を得た。GPCのMw(ポリスチレン換算)は11.0万であった。
この溶液を撹拌したアセトン3L中に滴下しポリイミド前駆体を析出させた。得られた固体を再びアセトン1L中で撹拌し、ろ取して真空乾燥し、ポリイミド前駆体-A1を得た。
【0239】
<合成例6~30(ポリイミド前駆体―A2~A10、A12~A23、B1~B7、比較用ポリイミド前駆体AC1~AC2の作製)>
用いるテトラカルボン酸二無水物(表中の「TD」)、他のジアミン化合物(表中の「他のDA」)、特定ジアミン化合物が有する有機基(表中の「特定DA」)、ジアミン化合物全量に対する特定ジアミン化合物の合計含有量(表中の「vsジアミン」)、及びポリイミド前駆体全体に対する有機基B1~B4の合計含有量(表中の「vs前駆体」)を実施例の表1~5に記載したものに変更する以外は合成例5と同様にして、ポリイミド前駆体-A2~A10、A12~A23、B1~B7、比較用ポリイミド前駆体-AC1~AC2を得た。
得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量Mw(ポリスチレン換算)を前述の方法で測定した結果を表(表中の「Mw」)に示す。
【0240】
なお、表中、テトラカルボン酸二無水物(TD)における
「BPDA」は3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、
「PMDA」はピロメリット酸無水物、
「ODPA」は4,4’-オキシジフタル酸無水物を意味する。
また、表中、他のジアミン化合物(他のDA)における
「PDA」はp-フェニレンジアミン、
「ODA」は4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、
【0241】
[実施例A]
<実施例A1> 上述の作製法(i)による水性溶液
脱イオン水:452.17質量部及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP、非プロトン性極性溶剤):19.83質量部の混合溶媒に、ポリイミド前駆体-A1:100質量部、N-メチルモルホリン(有機アミン化合物):71.27質量部(ポリイミド前駆体のカルボキシル基に対して150モル%)を添加し、撹拌してポリイミド前駆体-A1の濃度6.0質量%の均一な溶液を作製した。この溶液とPMMA粒子分散液-1(固形分22.8質量%)1023.38質量部を混合し、撹拌装置「あわとり練太郎」(シンキー製)を使用し、2000rpmで3分間、2200rpmで3分間混合撹拌し、実施例A1の粒子分散ポリイミド前駆体溶液(A1)を得た。この溶液におけるポリイミド前駆体と粒子との合計に対する粒子比率は70質量%、ポリイミド前駆体と粒子の合計濃度は20質量%、粒子100質量部に対するNMPの含有量は8.5質量部である。
得られた溶液を同組成の溶媒で希釈し、上述の方法により粒度分布を測定したところ、元のPMMA粒子分散液-1と同様に体積平均粒径(D50v)は0.42μmで単一のピークであり、良好な分散状態であった。
【0242】
<実施例A2~A10、A12~A15、A17~A23、比較例A1~A2> 上述の作製法(i)による水性溶液
用いるポリイミド前駆体の種類、有機アミン化合物の種類(表中の「アミン」)、粒子分散液の種類、ポリイミド前駆体と粒子との合計に対する粒子比率(表中の「粒子比率」)、水以外の溶媒の種類(表中の「溶媒2」)、及び粒子100質量部に対する溶媒2の含有量(表中の「溶媒2量」)を実施例の表1~4に記載したものに変更する以外は実施例A1と同様にして、実施例A2~A10、A12~A15、A17~A23の粒子分散ポリイミド前駆体溶液(A2)~(A10)、(A12)~(A15)、(A17)~(A23)、比較例A1~A2の粒子分散ポリイミド前駆体溶液(AC1)~(AC2)を得た。
得られた粒子分散ポリイミド前駆体溶液におけるポリイミド前駆体と粒子の合計濃度を表に示す(表中の「固形分」)。
【0243】
なお、表中、有機アミン化合物における
「MMO」はN-メチルモルホリン、
「DMAEt」はジメチルアミノエタノール、
「DMIz」は1,2-ジメチルイミダゾール、
「2E4MIz」は2-エチル-4-メチルイミダゾールを意味する。
また、表中、粒子分散液の種類における
「PMMA液1」はPMMA粒子分散液-1、
「PMMA液2」はPMMA粒子分散液-2、
「PSt液1」はPSt粒子分散液-1を意味する。
また、表中、水以外の溶媒(溶媒2)における
「NMP」はN-メチル-2-ピロリドン(非プロトン性極性溶媒)、
「DMAc」はN,N-ジメチルアセトアミド(非プロトン性極性溶媒)、
「DMSO」はジメチルスルホキシド(非プロトン性極性溶媒)、
「IPA」はイソプロピルアルコール(プロトン性極性溶媒)、
「PGME」は1-メトキシ-2-プロパノール(プロトン性極性溶媒)を意味する。
【0244】
<実施例A11> 上述の作製法(ii)による水性溶液
反応容器にPSt粒子分散液-1(固形分22.8質量%)1127.88質量部、脱イオン水:64.21質量部、及びNMP:64.29質量部を添加し、窒素気流下で撹拌した。そこへ、p-フェニレンジアミン(PDA)(分子量108.14):21.89質量部、ジアミンB1-7(具体例B1-7に由来するジアミン):8.05質量部、及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)(分子量294.22):70.07質量部を添加した。そこへ、N-メチルモルホリン(有機アミン化合物):72.27質量部(生成するポリイミド前駆体のカルボキシル基に対して150モル%)をゆっくりと添加し、反応温度50℃で、24時間攪拌して、実施例A11の粒子分散ポリイミド前駆体溶液(A11)を得た。この溶液におけるポリイミド前駆体と粒子の合計に対する粒子比率は72質量%、ポリイミド前駆体と粒子の合計濃度は25質量%、粒子に対するNMPの比率は25質量%である。GPCのMw(ポリスチレン換算)は4.0万であった。
得られた溶液を同組成の溶媒で希釈し、上述の方法により粒度分布を測定したところ、元のPSt粒子分散液-1と同様に体積平均粒径(D50v)は0.40μmで単一のピークであり、良好な分散状態であった。
得られた粒子分散ポリイミド前駆体溶液におけるポリイミド前駆体と粒子の合計濃度を表に示す(表中の「固形分」)。
【0245】
<実施例A16> 上述の作製法(i)による水性溶液
PMMA粒子分散液-1に代えてシリカ粒子の水分散液(日本触媒社製 シーホスターKE-W50、体積平均粒径0.5μm、固形分20%)を用い、ポリイミド前駆体の種類及び粒子100質量部に対する非プロトン性極性溶剤の含有量(表中の「溶媒2量」)を実施例の表3に記載したものに変更する以外は実施例A1と同様にして、実施例A16の粒子分散ポリイミド前駆体溶液(A16)を得た。
得られた粒子分散ポリイミド前駆体溶液におけるポリイミド前駆体と粒子の合計濃度を表に示す(表中の「固形分」)。
【0246】
[実施例B]
<実施例B1> 上述の作製法(i)による有機溶媒溶液
エチレングリコール(EG):179.57質量部及びDMAc:119.72質量部の混合溶媒に、ポリイミド前駆体-B1:100質量部を添加し、撹拌してポリイミド前駆体-B1の濃度25質量%の均一な溶液を作製した。
別途、エチレングリコール(EG):419.01質量部及びDMAc:279.34質量部の混合溶媒に、ポリオキシエチレンドデシルエーテル:2.33質量部及びPSt粒子粉体-1:233.33質量部を添加し、撹拌装置「あわとり練太郎」(シンキー製)を使用し、2000rpmで3分間、2200rpmで3分間混合撹拌し、PSt粒子の濃度25質量%の分散液を作製した。
上記2つの溶液を混合し、撹拌装置「あわとり練太郎」(シンキー製)を使用し、2000rpmで3分間、2200rpmで3分間混合撹拌し、実施例B1の粒子分散ポリイミド前駆体溶液(B1)を得た。この溶液におけるポリイミド前駆体と粒子との合計に対する粒子比率は70質量%、溶媒であるEG/DMAcの質量比は60/40、ポリイミド前駆体と粒子の合計濃度は25質量%である。
得られた溶液を同組成の溶媒で希釈し、上述の方法により粒度分布を測定したところ、元のPSt粒子粉体-1と同様に体積平均粒径(D50v)は0.4μmで単一のピークであり、良好な分散状態であった。
【0247】
<実施例B2~B7> 上述の作製法(i)による有機溶媒溶液
用いるポリイミド前駆体の種類、ポリイミド前駆体と粒子との合計に対する粒子比率(表中の「粒子比率」)、及び溶媒の種類及びその質量比(表中の「溶媒1」「溶媒2」及び「溶媒1/溶媒2」)を実施例の表5に記載したものに変更する以外は実施例B1と同様にして、実施例B2~B7の粒子分散ポリイミド前駆体溶液(B2)~(B7)を得た。
得られた粒子分散ポリイミド前駆体溶液におけるポリイミド前駆体と粒子の合計濃度を表に示す(表中の「固形分」)。
【0248】
なお、表中、溶媒1及び溶媒2における
「EG」はエチレングリコール、
「PG」はプロピレングリコール、
「DMAc」はN,N-ジメチルアセトアミド、
「DMSO」はジメチルスルホキシドを意味する。
【0249】
[評価]
<粒子分散ポリイミド前駆体溶液の粒子の分散状態評価>
上述の方法で、溶液作製直後の粒径の頻度分布を測定した。この結果(横軸:粒径、縦軸:頻度)から、前述の定義に基づく粒子の体積平均粒径D50v(μm)を算出した。また、最も大きな極大値(すなわち、最も大きな極大頻度)を有するピークをメインピークとし、極大値を2以上有する場合は前記メインピーク以外のピークを他のピークとして、他のピークのピーク面積における全ピーク面積に対する比率(単位:%、以下「他のピーク面積比」ともいう)を求めた。全分布の中で極大値が1つしかない場合、他のピーク面積比はゼロとした。いずれの実施例、比較例も、溶液作製直後においては、他のピーク面積比はゼロであった。
粒子分散ポリイミド前駆体溶液を、40℃の恒温槽中で2週間保管した後、上記と同様の評価を行った。
粒子分散ポリイミド前駆体溶液作製直後における粒子の体積平均粒径D50v(表中の「直後D50v」)、保管後における粒子の体積平均粒径D50v(表中の「経時D50v」)、及び保管後における他のピーク面積比(表中の「他のピーク比」)を、表に示す。
なお、経時後における体積平均粒径D50v及び他のピーク面積比が増加することは、粒子の分散状態が悪化することを示す。
【0250】
<溶液経時後の乾燥膜の分散状態>
上述のように経時させた粒子分散ポリイミド前駆体溶液を、ギャップを0.3mmに調整したアプリケータを用いてガラス基材に塗布し、70℃で1時間乾燥を行い、10cm角の乾燥膜(すなわち、皮膜)を作製した。
乾燥膜の表面について、5000~30000倍の倍率でSEM(日立ハイテクノロジーズ製)による観察を行った。複数の領域から、少なくとも粒子100個分について観察し、粒子の分散状態を以下の基準で評価した。結果を表に示す(表中の「乾燥膜分散」)。
-評価基準-
A+:観察した粒子の5%未満で形状の変化が見られるが、粒子の凝集はない。
A :観察した粒子の5%未満で融着が見られる。
B :観察した粒子の5~20%未満で凝集が見られる。
C :観察した粒子の20%以上で凝集が見られる。
【0251】
【表1】
【0252】
【表2】
【0253】
【表3】
【0254】
【表4】
【0255】
【表5】
【0256】
上記結果から、本実施例では、比較例に比べ、経時での粒子の粒径変化が抑制され、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中における粒子の分散安定性に優れることがわかる。
【符号の説明】
【0257】
10 多孔質ポリイミドフィルム
10A 空孔
31 基板
51 剥離層
図1