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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】人工肺
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20241119BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20241119BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20241119BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
A61M1/18 525
B01D63/02
B01D69/08
B01D53/22
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020180436
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071458
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼重 恭之
(72)【発明者】
【氏名】和泉 亮平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 伸一
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-517375(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0100531(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0057989(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0314059(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
B01D 63/02
B01D 69/08
B01D 53/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体交換部を備える人工肺であって、
前記流体交換部は、積層された複数の中空糸膜により構成された中空糸束と、前記中空糸束を収容するケーシング部材と、を備え、
前記中空糸束は、前記複数の中空糸膜の積層方向に直交する方向の一端部において円弧状に形成される流体導入部と、前記複数の中空糸膜の積層方向に直交する方向の他端部において円弧状に形成される流体排出部を有し、
前記ケーシング部材は、前記流体導入部に導入される流体の流れを規制する導入側規制部材及び、前記流体排出部から排出される流体の流れを規制する排出側規制部材を有する人工肺。
【請求項2】
前記ケーシング部材は、
内部に前記中空糸束が配置されると共に前記複数の中空糸膜の積層方向に直交する方向の両端部の側方が開放して形成されるケース本体と、
前記流体導入部の側部を覆うように前記流体導入部の側部に沿って配置される流体導入ケース本体と、
前記流体導入ケース本体に設けられる流体導入ポートと、
前記流体排出部の側部を覆うように前記流体排出部の側部に沿って配置される流体排出ケース本体と、
前記流体排出ケース本体に設けられる流体排出ポートと、を有し、
前記導入側規制部材は、前記流体導入ケース本体に設けられ、
前記排出側規制部材は、前記流体排出ケース本体に設けられる請求項1に記載の人工肺。
【請求項3】
前記導入側規制部材は、前記流体導入ケース本体が延びる方向において前記流体導入ポートと前記流体導入ケース本体の端部との間に配置され、
前記排出側規制部材は、前記流体排出ケース本体が延びる方向において前記流体排出ポートと前記流体排出ケース本体の端部との間に配置される請求項2に記載の人工肺。
【請求項4】
前記導入側規制部材は、前記流体導入ケース本体から前記中空糸束側に向けて突出する板状に形成され
前記排出側規制部材は、前記流体排出ケース本体から前記中空糸束側に向けて突出する板状に形成される請求項2又は3に記載の人工肺。
【請求項5】
前記導入側規制部材は、前記中空糸束における前記複数の中空糸膜を積層方向に見た場合の中心と前記流体導入ポートとを結ぶ線に対して、前記中空糸束の中心と前記導入側規制部材における前記中空糸束側の先端とを結ぶ線の角度が、1~89°の範囲の位置に配置され
前記排出側規制部材は、前記中空糸束における前記複数の中空糸膜を積層方向に見た場合の中心と前記流体排出ポートとを結ぶ線に対して、前記中空糸束の中心と前記排出側規制部材における前記中空糸束側の先端とを結ぶ線の角度が、1~89°の範囲の位置に配置される請求項2~4のいずれかに記載の人工肺。
【請求項6】
前記流体導入ケース本体及び/又は前記流体排出ケース本体は、前記複数の中空糸膜の積層方向に直交する方向の両端部の側方の外側の側面が円弧状に形成される請求項2~5のいずれかに記載の人工肺。
【請求項7】
前記中空糸膜は、所定方向に延びる複数の中空糸が平行に並んで配置されることで形成されており、
前記積層された複数の中空糸膜のうち一の中空糸膜の中空糸と他の中空糸膜の中空糸とは、角度を有した状態で配置される請求項1~6のいずれかに記載の人工肺。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体交換部を備える人工肺に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層された複数の中空糸膜により構成された中空糸束を有するガス交換部(流体交換部)を備えた人工肺が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の人工肺のガス交換部において、中空糸束の両端部の形状は、中空糸束の両端部を含む領域にポッティング材を充填することにより、実質的に円弧状に形成されている。特許文献1に記載の人工肺のガス交換部は、中空糸束の両端部を実質的に円弧状に形成することで、ガス交換を効率よく行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4186113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、中空糸束の両端部を含む領域にポッティング材を充填することで中空糸束の両端部の形状を円弧状に形成するのではなく、中空糸束の両端部そのものを円弧状に形成することも考えられる。この場合、中空糸束の両端部を円弧状に形成するため、酸素ガスの流路長が異なる中空糸が存在する場合には、通気抵抗の差が生じて酸素ガスの流れに偏りが生じることがあり、ガス交換の効率を向上できる余地がある。
また、人工肺に備えられる熱交換部において、複数の中空糸膜が積層された中空糸束を有して構成されることも考えられる。熱交換部においても、ガス交換部と同様に、冷温水の流路長が異なる中空糸が存在する場合には、流体抵抗の差が生じて冷温水の流れに偏りが生じることがあり、熱交換の効率を向上できる余地がある。
よって、流体交換部(ガス交換部、熱交換部)における効率を向上できることが望まれる。
【0005】
本発明は、積層された複数の中空糸膜により構成された中空糸束を有する流体交換部を備え、流体交換部における効率を向上できる人工肺を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、流体交換部を備える人工肺であって、前記流体交換部は、積層された複数の中空糸膜により構成された中空糸束と、前記中空糸束を収容するケーシング部材と、を備え、前記中空糸束は、前記複数の中空糸膜の積層方向に直交する方向の一端部において円弧状に形成される流体導入部と、前記複数の中空糸膜の積層方向に直交する方向の他端部において円弧状に形成される流体排出部を有し、前記ケーシング部材は、前記流体導入部に導入される流体、及び/又は、前記流体排出部から排出される流体の流れを規制する規制部材を有する人工肺に関する。
【0007】
また、前記ケーシング部材は、内部に前記中空糸束が配置されると共に前記複数の中空糸膜の積層方向に直交する方向の両端部の側方が開放して形成されるケース本体と、前記流体導入部の側部を覆うように前記流体導入部の側部に沿って配置される流体導入ケース本体と、前記流体導入ケース本体に設けられる流体導入ポートと、前記流体排出部の側部を覆うように前記流体排出部の側部に沿って配置される流体排出ケース本体と、前記流体排出ケース本体に設けられる流体排出ポートと、を有し、前記規制部材は、前記流体導入ケース本体及び/又は前記流体排出ケース本体に設けられることが好ましい。
【0008】
また、前記規制部材は、前記流体導入ケース本体が延びる方向において前記流体導入ポートと前記流体導入ケース本体の端部との間、及び/又は、前記流体排出ケース本体が延びる方向において前記流体排出ポートと前記流体排出ケース本体の端部との間に配置されることが好ましい。
【0009】
また、前記規制部材は、前記流体導入ケース本体又は前記流体排出ケース本体から前記中空糸束側に向けて突出する板状に形成されることが好ましい。
【0010】
また、前記規制部材は、前記中空糸束における前記複数の中空糸膜を積層方向に見た場合の中心と前記流体導入ポート又は前記流体排出ポートとを結ぶ線に対して、前記中空糸束の中心と前記規制部材における前記中空糸束側の先端とを結ぶ線の角度が、1~89°の範囲の位置に配置されることが好ましい。
【0011】
また、前記流体導入ケース本体及び/又は前記流体排出ケース本体は、前記複数の中空糸膜の積層方向に直交する方向の両端部の側方の外側の側面が円弧状に形成されることが好ましい。
【0012】
また、前記中空糸膜は、所定方向に延びる複数の中空糸が平行に並んで配置されることで形成されており、前記積層された複数の中空糸膜のうち一の中空糸膜の中空糸と他の中空糸膜の中空糸とは、角度を有した状態で配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、積層された複数の中空糸膜により構成された中空糸束を有する流体交換部を備え、流体交換部における効率を向上できる人工肺を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態の人工肺を示す図である。
図2】本発明の熱交換部を示す図である。
図3】熱交換部において流体導入ケース部及び流体排出ケース部を取り外した状態を示す斜視図である。
図4】熱交換部における複数の中空糸膜の積層の状態を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態のガス交換部を示す図である。
図6】ガス交換部において流体導入ケース部及び流体排出ケース部を取り外した状態を示す斜視図である。
図7】ガス交換部における複数の中空糸膜を積層の状態を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態の熱交換部を示す図である。
図9】本発明の第3実施形態の熱交換部を示す図である。
図10】本発明の第4実施形態の熱交換部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
図1を参照して、第1実施形態に係る人工肺1について説明する。図1は、本発明の第1実施形態の人工肺1を示す図である。
人工肺1は、図1に示すように、流体交換部としての熱交換部2及びガス交換部3を備える。熱交換部2及びガス交換部3は、血液の流通方向B(図1における上方側から下方側に向かう方向)に沿って、この順に配置されている。
【0016】
なお、本実施形態の説明においては、血液の流通方向Bに直交(交差)する方向において、熱交換部2の中空糸束20の流体導入円弧状側面201及び流体排出円弧状側面202における互いの円弧状の部分を最短距離で結ぶ方向を、X方向(図1及び図2の左右方向)という。X方向は、ガス交換部3の中空糸束30の流体導入円弧状側面301及び流体排出円弧状側面302が離間する方向でもある。また、血液の流通方向Bに直交する方向で、かつ、X方向に直交する方向を、Y方向(図2の上下方向)という。
【0017】
熱交換部2及びガス交換部3を備える人工肺1においては、血液の流通方向Bに沿って、血液流路11が形成されている。熱交換部側血液入口212bを通って熱交換部2に導入された血液は、血液流路11の熱交換部側血液流路111において、X方向及びY方向に広がった状態で流通方向Bに流通されて、ガス交換部3に導入される。ガス交換部3に導入された血液は、血液流路11のガス交換部側血液流路112において、X方向及びY方向に広がった状態で流通され、ガス交換部側血液出口313bから排出される。
【0018】
熱交換部2及びガス交換部3について説明する。図2図4は、熱交換部2の構成を示す図である。図5図7は、ガス交換部3の構成を示す図である。
熱交換部2は、図1図3に示すように、ハウジング21(ケーシング部材)と、ハウジング21の内部に収容される中空糸束20と、を備える。
また、ガス交換部3は、図1図5図6に示すように、ハウジング31(ケーシング部材)と、ハウジング31の内部に収容される中空糸束30と、を備える。
【0019】
熱交換部2及びガス交換部3において、ハウジング21,31は、それぞれ、図2図3図5及び図6に示すように、複数の部材が組み合わされて形成される。ハウジング21,31は、X方向の両端部側が円弧状に形成されると共に、Y方向の両端部側がX方向に延びる直線状に形成される(図2図5参照)。ハウジング21,31の内部には、中空糸束20,30が収容されている。中空糸束20,30は、図1に示すように、複数の中空糸膜22,32が積層されることで構成される。本実施形態においては、血液の流通方向Bにおいて、ガス交換部3における中空糸束30の厚さは、熱交換部2における中空糸束20の厚さよりも大きく形成される。
【0020】
中空糸束20,30における複数の中空糸膜22,32の積層構造について説明する。
複数の中空糸膜22,32は、X方向及びY方向に延びる膜状に形成され、血液の流通方向Bに積層されて配置されることで、中空糸束20,30を構成する。複数の中空糸膜22,32のX方向の両端部は、図1に示すように、一対のシール部23,33により保持されている。一対のシール部23及び一対のシール部33は、複数の中空糸膜22,32のX方向の両端部において中空糸221,321の積層方向に延びて繋がっている。
【0021】
中空糸膜22,32は、図2図4図5及び図7に示すように、所定方向(例えば、第1方向D1a,D1b、第2方向D2a,D2b)に延びる直線状の中空糸221,321が平行に複数並んで配置されることで簾(すだれ)状の膜状に形成される。複数の中空糸221,321は、平行に並べられて、隣り合う中空糸221,321同士が互いに間隔を開けた状態で配置されている。複数の中空糸221,321は、中空糸221,321が延びる方向の途中において糸などでつなぎ合わされている。血液は、複数の中空糸221,321の間を流通する。
【0022】
熱交換部2の中空糸束20及びガス交換部3の中空糸束30において、図4又は図7に示すように、一の中空糸膜22A,32Aの中空糸221A,321Aと他の中空糸膜22B,32Bの中空糸221B,321Bとは、角度θ1,θ2を有した状態で積層されて配置される。
【0023】
本実施形態においては、図2図4図5及び図7に示すように、一の中空糸膜22A,32Aの複数の中空糸221A,321Aは、X方向に平行に延びており、互いに並んで配置される。複数の中空糸221A,321Aが延びる方向である第1方向D1a,D1bは、X方向に平行な方向である。他の中空糸膜22B,32Bの複数の中空糸221B,321Bは、X方向に対して角度θ1,θ2を有した状態で、X方向の一方側(図2及び図5の左側)から他方側(図2及び図5の右側)に向かうに従ってY方向の一方側(図2及び図5の上方側)から他方側(図2及び図5の下方側)に向かうように、X方向に対して傾斜する直線状に延びており、互いに平行に並んで配置される。複数の中空糸221B,321Bが延びる方向である第2方向D2a,D2bは、X方向に対して角度θ1,θ2傾斜する方向である。
【0024】
また、本実施形態においては、一の中空糸膜22A,32Aと他の中空糸膜22B,32Bとは、一の中空糸膜22A,23Aの中空糸221A,321Aと他の中空糸膜22B,32Bの中空糸221B,321Bとが角度θ1,θ2を有した状態で交互に積層されることで、複数の層を形成する。図2及び図5に示すように、一の中空糸膜22A,32Aの複数の中空糸221A,321Aと他の中空糸膜22B,32Aの複数の中空糸221B,321Bとは、血液の流通方向Bに視た場合に、互いが角度θ1,θ2を有した状態で交差しており、格子状に配置される。
【0025】
なお、一の中空糸膜22A,32Aの中空糸221A,321Aと他の中空糸膜22B,32Bの中空糸221B,321Bとは、一部において角度θ1,θ2となるように積層されていればよく、複数の中空糸膜22,32の全てにおいて角度θ1,θ2が交互になるように配置されていなくてもよい。
【0026】
熱交換部2において、複数の中空糸膜22が積層されることで形成された中空糸束20は、図2及び図3に示すように、流体導入円弧状側面201(流体導入部)と、流体排出円弧状側面202(流体排出部)と、を有する。
また、ガス交換部3において、複数の中空糸膜32が積層されることで形成された中空糸束30は、図5及び図6に示すように、流体導入円弧状側面301(流体導入部)と、流体排出円弧状側面302(流体排出部)と、を有する。
【0027】
流体導入円弧状側面201,301は、X方向における流体(冷温水、酸素ガス)が導入される側の端部(図2及び図5におけるX方向の一端部)において、外側に凸となる円弧状に形成される。流体導入円弧状側面201,301は、後述するハウジング21,31の流体導入ケース部214,314に覆われている。
流体排出円弧状側面202,302は、X方向における流体(冷温水、酸素ガス)が排出される側の端部(図2及び図5におけるX方向の他端部)において、外側に凸となる円弧状に形成される。流体排出円弧状側面202,302は、ハウジング21,31の流体排出ケース部217,317に覆われている。
本実施形態においては、流体導入円弧状側面201,301及び流体排出円弧状側面202,302は、複数の中空糸膜22,32を積層することで構成される中空糸束20,30のX方向の両端部において、例えば、熱で溶断することや、ナイフでカットすることで円弧状に形成されている。
【0028】
中空糸束20は、流体導入円弧状側面201,301及び流体排出円弧状側面202,302において、X方向の両端面が円弧状に形成されるため、Y方向の両端部側(図2における上下方向の両端部側)において、流体(冷温水、酸素ガス)が通る流路の長さを短くできるため、冷温水の圧力損失を低下させることができる。その結果、流体(冷温水、酸素ガス)の流量が増加して、流体(冷温水、酸素ガス)の熱交換又はガス交換の効率が向上する。
【0029】
ここで、本実施形態において、一の中空糸膜22A,32Aの中空糸221A,321Aと他の中空糸膜22B,32Bの中空糸221B,321Bとの成す角度θ1,θ2が大きい場合には、Y方向の一方側の端面(例えば、図2図5における上方側の端面)又は他方側の端面(例えば、図2図5における下方側の端面)に達して配置される中空糸221A,321Aが多くなり、X方向の全域に亘って流体が流れる領域が狭くなる。これにより、流体の交換に使用されない中空糸221,321が増加する。一方、一の中空糸膜22A,32Aの中空糸221A,321Aと他の中空糸膜22B,32Bの中空糸221B,321Bとの角度θ1,θ2が小さい場合には、角度θ1,θ2をつけて積層する場合の製造上の精度管理が難しい。
【0030】
そのため、角度θ1,θ2としては、流体(冷温水、酸素ガス)が流れる領域を確保した上で、かつ、製造上の精度管理が難しくない角度の範囲で設定される。一の中空糸膜22A,32Aの中空糸221A,321Aと他の中空糸膜22B,32Bの中空糸221B,321Bとの成す角度θ1,θ2は、例えば、1~90°であることが好ましく、3~30°であることがより好ましい。
【0031】
熱交換部2の中空糸束20の各中空糸膜22は、それぞれ、内部に熱媒体である流体を流通させることで熱交換機能を有する。また、ガス交換部3の中空糸束30の各中空糸膜32は、それぞれ、内部に酸素ガスを流通させることでガス交換機能を有する。
【0032】
中空糸膜22,32としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)やポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)からなる中空糸を用いた中空糸膜を用いることができる。
本実施形態においては、熱交換部2の中空糸束20の中空糸膜22の膜厚は、例えば、50~70μmのものを用いている。また、熱交換部2の中空糸束20は、複数の中空糸膜22を、例えば、5~30層に積層することで構成している。
また、ガス交換部3の中空糸束30の中空糸膜32の膜厚は、例えば、50~100μmのものを用いている。また、ガス交換部3の中空糸束30は、中空糸膜32を、例えば、100~150層に積層することで構成している。
【0033】
また、本実施形態においては、図2及び図5に示すように、熱交換部2及びガス交換部3において、一の中空糸膜22A,32Aの複数の中空糸221A,321Aは、X方向に平行な第1方向D1a,D1bに延びて配置される。また、他の中空糸膜22B,32Bの複数の中空糸221B,321Bは、X方向に対して角度θ1,θ2傾斜する第2方向D2a,D2bに延びて配置される。
【0034】
そのため、他の中空糸膜22B,32Bの複数の中空糸221B,321Bは、Y方向の一方側の端面(例えば、図2図5における上方側の端面)又は他方側の端面(例えば、図2図5における下方側の端面)に達して配置される領域を有し、流体(冷温水、酸素ガス)の流通に使用されない中空糸が存在する領域である。
一方、一の中空糸膜22A,32Aの複数の中空糸221A,321Aの全ては、X方向の両側面に亘って延びており、全ての複数の中空糸221A,321Aが使用されることになり、流体の交換に使用されない中空糸は存在しない。
【0035】
これにより、本実施形態においては、一の中空糸膜22A,32Aと他の中空糸膜22B,32Bとが積層して配置される構成において、少なくとも、一の中空糸膜22A,32Aの全ての複数の中空糸221A,321Aの全てに流体(冷温水、酸素ガス)を流通させることができる。よって、熱交換機能又はガス交換機能を確保することができる。
【0036】
一対のシール部23,33は、図1に示すように、流体導入ケース部214,314や流体排出ケース部217,317に血液が浸入しないように、複数の中空糸膜22,32のX方向の両端側をシールしている。シール部23,33によるシールは、例えば、複数の中空糸膜22,32のX方向の両端に接着剤を充填することで行われ、中空糸膜22,32のX方向の両側面は、例えば、ナイフなどでカットされることで露出される。このため、流体導入ケース部214,314と流体排出ケース部217,317とは、中空糸膜22,32を介して連通している。一方、一対のシール部23,33のX方向の内側の血液流路11において、複数の中空糸膜22,32は、シールされていない。
【0037】
より具体的には、本実施形態においては、図2及び図5に示すように、中空糸束20,30のX方向の両端部は、半径Ra1、Rb1とした円の円弧状に形成される。中空糸束20,30のX方向の両端部は、一対のシール部23,33によりシールされる。一対のシール部23,33によるシールは、中空糸束20,30の半径Ra1、Rb1の径方向の端部において接着幅ta,tbの接着剤が充填されることで行われる。中空糸束20,30における一対のシール部23,33のX方向の内側に形成される血液流路11は、Y方向の両端部が、X方向に延びる直線状に形成され、X方向の両端部が、半径Ra2,Rb2とした円の円弧状に形成される。血液流路11には、血液が流通される。
【0038】
本実施形態において、中空糸束20,30のX方向の両端部のシール部23,33の構成は、次の式(1)が成立するように設定される。
中空糸束20,30の半径Ra1,Rb1≦血液流路11の半径Ra2,Rb2+シール部23,33の接着幅ta,tb・・・式(1)
本実施形態においては、例えば、中空糸束20,30の半径Ra1,Rb1=血液流路11の半径Ra2,Rb2+シール部23,33の接着幅ta,tbとなるように設定した。
【0039】
熱交換部2の中空糸束20は、熱交換部2のハウジング21に収容される。
熱交換部2のハウジング21は、図1図3に示すように、ケース本体211と、熱交換用の冷温水(流体、熱媒体)を導入するための流体導入ケース部214と、冷温水を排出するための流体排出ケース部217と、を有する。
【0040】
ケース本体211の内部には、図1図3に示すように、複数の中空糸膜22により構成される中空糸束20が配置される。ケース本体211は、血液の流通方向Bに交差するX方向の両端部の側方が開放して形成される。ケース本体211は、入口側板212aを有し、熱交換部側血液流路111の下流側の端部が開放して形成される。
【0041】
入口側板212aは、図1に示すように、熱交換部2における血液の流通方向Bの上流側の端部側に配置される。入口側板212aには、熱交換部側血液入口212bが形成される。
【0042】
熱交換部側血液入口212bは、血液が熱交換部2に導入されるポートである。熱交換部側血液入口212bは、人工肺1における熱交換部側血液流路111の最上流側において、血液の流通方向Bに延びる筒状に形成される。
【0043】
ガス交換部3の中空糸束30は、熱交換部2のハウジング31に収容される。
ガス交換部3のハウジング31は、図4~6に示すように、ケース本体311と、酸素ガスを導入するための流体導入ケース部314と、酸素ガスを排出するための流体排出ケース部317と、を有する。
【0044】
ケース本体311には、図1図5及び図6に示すように、複数の中空糸膜32により構成される中空糸束30が配置される。ケース本体311は、血液の流通方向Bに交差するX方向の両端の側方が開放して形成される。ケース本体311は、出口側板313aを有し、ガス交換部側血液流路112の上流側の端部が開放して形成される。ケース本体311のガス交換部側血液流路112の上流側の端部は、熱交換部2のケース本体211の熱交換部側血液流路111の下流側の端部に接続される。
【0045】
出口側板313aは、ガス交換部3における血液の流通方向Bの下流側の端部側に配置される。出口側板313aには、ガス交換部側血液出口313bが形成される。
【0046】
ガス交換部側血液出口313bは、血液がガス交換部3から外部に排出されるポートである。ガス交換部側血液出口313bは、出口側板313aに形成され、人工肺1におけるガス交換部側血液流路112の最下流側において、血液の流通方向Bに延びる筒状に形成される。
【0047】
熱交換部2のハウジング21及びガス交換部3のハウジング31において、流体導入ケース部214,314は、流体(熱交換用の冷温水、ガス交換用の酸素ガス)を導入する導入路を構成する。
流体導入ケース部214,314は、図2図3図5及び図6に示すように、流体導入ケース本体216,316と、流体導入ポート215,315と、を有する。
【0048】
流体導入ケース本体216,316は、中空糸束20,30の流体導入円弧状側面201,301の側部を覆うように流体導入円弧状側面201,301の側部に沿って配置される。流体導入ケース本体216,316は、外側面が、X方向の一方側に凸となる円弧状に形成され、内側面が、中空糸束20,30の流体導入円弧状側面201,301の側部に沿って凹んだ円弧状に形成される。
【0049】
流体導入ポート215,315は、流体導入ケース本体216,316のY方向の中央において、X方向の外側に延出する筒状に形成される。流体導入ポート215,315は、流体(冷温水、酸素ガス)が導入されるポートである。流体導入ポート215,315から導入された流体(冷温水、酸素ガス)は、流体導入ケース本体216,316を通って、ケース本体211,311のX方向の一端部側の側部から、ケース本体211,311の内部に導入される。
【0050】
流体導入ケース本体216,316は、図2図3図5及び図6に示すように、円弧状に形成される外側壁部216a,316aと、一対の円弧方向端部閉鎖壁部216b,316bと、一対の積層方向端部壁部216c,316c(図3図6参照)と、一対の導入側規制板25,35(規制部材)と、を有する。
【0051】
外側壁部216a,316aは、中空糸束20,30のX方向の一方側の端部からX方向の外側に離間した位置において、円弧状に延びる。外側壁部216a,316aは、X方向の両端部の側方の外側の側面がX方向の一方側に凸となる円弧状に形成される。
【0052】
一対の円弧方向端部閉鎖壁部216b,316bは、流体導入ケース本体216,316の円弧方向の両端部において、X方向に延びる板状に形成される。
一対の積層方向端部壁部216c,316cは、中空糸束20,30の積層方向の両端部において、円弧状に延びる板状に形成される。
【0053】
一対の導入側規制板25,35は、それぞれ、流体導入ケース本体216,316の外側壁部216a,316aのX方向の内側の面から中空糸束20,30側に向けてX方向の内側に突出して形成される。一対の導入側規制板25,35は、図2及び図5に示すように、それぞれ、流体導入円弧状側面201,301により導入される流体(冷温水、酸素ガス)の流れを規制する。本実施形態では、一対の導入側規制板25,35は、Y方向への流体(冷温水、酸素ガス)の流れを規制する。
【0054】
一対の導入側規制板25,35は、流体導入ケース本体216,316が延びる方向において、流体導入ポート215,315と流体導入ケース本体216,316のY方向の端部との間に配置される。一対の導入側規制板25,35は、Y方向において、流体導入ポート215,315を挟んで一対設けられる。
【0055】
一対の導入側規制板25,35の先端は、図2及び図5に示すように、それぞれ、中空糸束20,30から隙間Sa1,Sb1離間して配置される。本実施形態においては、隙間Sa1,Sb1を、導入側規制板25,35の先端と中空糸束20,30とが最短距離となる部分の隙間とした。一対の導入側規制板25,35は、外側壁部216a,316aにおける中空糸束20,30の厚さ方向の全域に亘って形成されている。
【0056】
導入側規制板25,35の中空糸束20,30側の先端と中空糸束20,30との間に形成される隙間Sa1,Sb1は、流体(冷温水、酸素ガス)を流通させるために設けられる隙間である。隙間Sa1,Sb1を設けることにより、流体導入ポート215,315から流体導入ケース本体216,316に導入された流体(冷温水、酸素ガス)の一部をY方向の端部側に流通させる。隙間Sa1,Sb1は、例えば、0.1mm~10mmが好ましく、本実施形態においては、例えば、2mmに設定されている。
【0057】
導入側規制板25,35は、中空糸束20,30における複数の中空糸膜22,32を積層方向に見た場合の中心C1と流体導入ポート215,315の中心とを結ぶ線に対して、中空糸束20,30の中心C1と導入側規制板25,35における中空糸束20,30側の先端とを結ぶ線の規制板配置角度α1,β1が、1~89°の範囲の位置に配置されることが好ましく、20~40°であることがより好ましい。本実施形態においては、例えば、規制板配置角度α1,β1を30°に設定した。
【0058】
熱交換部2のハウジング21及びガス交換部3のハウジング31において、流体排出ケース部217,317は、流体(熱交換用の冷温水、ガス交換用の酸素ガス)を排出する排出路を構成する。
流体排出ケース部217,317は、図2図3図5及び図6に示すように、流体排出ケース本体219,319と、流体排出ポート218,318と、を有する。
【0059】
流体排出ケース本体219,319は、中空糸束20,30の流体排出円弧状側面202,302の側部を覆うように流体排出円弧状側面202,302の側部に沿って配置される。流体排出ケース本体219,319は、外側面が、X方向の他方側に凸となる円弧状に形成され、内側面が、中空糸束20,30の流体排出円弧状側面202,302の側部に沿って凹んだ円弧状に形成される。
【0060】
流体排出ポート218,318は、流体排出ケース本体219,319のY方向の中央において、X方向の外側に延出する筒状に形成される。流体排出ポート218,318は、流体(冷温水、酸素ガス)が排出されるポートである。流体排出ケース本体219,319を通って流体排出ポート218,318から排出された流体(冷温水、酸素ガス)は、流体排出ケース部217,317の外部に排出される。
【0061】
流体排出ケース本体219,319は、図2図3図5及び図6に示すように、円弧状に形成される外側壁部219a,319aと、一対の円弧方向端部閉鎖壁部219b,219bと、一対の積層方向端部壁部219c,219c(図3図6参照)と、を有する。
【0062】
外側壁部219a,319aは、中空糸束20,30のX方向の端部からX方向の外側に離間した位置において、円弧状に延びる。外側壁部219a,319aは、X方向の両端部の側方の外側の側面がX方向の他方側に凸となる円弧状に形成される。
【0063】
一対の円弧方向端部閉鎖壁部219b,319bは、流体排出ケース本体219,319の円弧方向の両端部において、X方向に延びる板状に形成される。
一対の積層方向端部壁部219c,319cは、中空糸束20,30の積層方向の両端部において、円弧状に延びる板状に形成される。
【0064】
以上のように構成される人工肺1における血液の流れについて説明する。
図1に示すように、人工肺1においては、熱交換部側血液入口212bから熱交換部2に導入された血液は、熱交換部側血液流路111を流通方向Bに流れる。熱交換部側血液流路111を流れる血液は、熱交換部2の各中空糸膜22の複数の中空糸221の間を通過する。熱交換部側血液流路111を流れる血液は、中空糸束20の各中空糸膜22の複数の中空糸221の表面に接触する。
【0065】
熱交換部2における中空糸束20を構成する複数の中空糸膜22の複数の中空糸221には、冷温水が流通されている。熱交換部2における複数の中空糸膜22の複数の中空糸221を流通される冷温水は、流体導入ケース部214を介して複数の中空糸221の内部に導入され、流体排出ケース部217を介して、外部に排出される。
【0066】
複数の中空糸膜22の複数の中空糸221を流れる冷温水との間では、熱交換(加温又は冷却)が行われる。熱交換部2において熱交換が行われた血液は、ガス交換部3に導入される。
【0067】
ここで、流体導入ケース部214の内部には、図2に示すように、一対の導入側規制板25が設けられている。一対の導入側規制板25は、それぞれ、X方向の一方側(図2の左側)におけるY方向に離間した位置において、外側壁部216aのX方向の内側の面からX方向の内側に突出して形成される。そのため、流体導入ケース部214を介して複数の中空糸221の内部に導入される冷温水は、Y方向の両端部側への流通が規制される。これにより、冷温水の流れを規制して、中空糸膜22におけるX方向の膜面積が広いY方向の中央側の部分(中空糸221が長い部分)により多くの冷温水を流通させることができ、熱交換効率を向上させることができる。
【0068】
図1に示すように、ガス交換部3に導入された血液は、ガス交換部側血液流路112を流通方向Bに流れる。ガス交換部側血液流路112を流れる血液は、ガス交換部3の各中空糸膜32の複数の中空糸321の間を通過する。ガス交換部側血液流路112を流れる血液は、ガス交換部3において、中空糸束30の各中空糸膜32の複数の中空糸321の表面に接触する。
【0069】
ガス交換部3における中空糸束30を構成する複数の中空糸膜32の複数の中空糸321には、酸素ガスが流通されている。ガス交換部3における複数の中空糸膜32の複数の中空糸321を流通される酸素ガスは、流体導入ケース部314を介して複数の中空糸321の内部に導入され、流体排出ケース部317を介して、外部に排出される。
【0070】
複数の中空糸膜32の複数の中空糸321を流れる酸素ガスとの間では、ガス交換が行われる。ガス交換部3においてガス交換が行われた血液は、ガス交換部側血液出口313bから外部に排出される。
【0071】
ここで、流体導入ケース部314の内部には、一対の導入側規制板35が設けられている。一対の導入側規制板35は、それぞれ、X方向の一方側(図2図5の左側)におけるY方向に離間した位置において、外側壁部316aのX方向の内側の面からX方向の内側に突出して形成される。そのため、流体導入ケース部314を介して複数の中空糸321の内部に導入される酸素ガスは、Y方向の両端部側への流通が規制される。これにより、酸素ガスの流れを規制して、中空糸膜32におけるX方向の膜面積が広いY方向の中央側の部分(中空糸321が長い部分)により多くの酸素ガスを流通させることができ、ガス交換効率を向上させることができる。
【0072】
このように、人工肺1においては、熱交換部2による熱交換によって、血液の温度調整が行われ、温度調整が行われた血液は、ガス交換部3によってガス交換が行われる。
【0073】
以上説明した本実施形態の人工肺1の熱交換部2及びガス交換部3によれば、以下のような効果を奏する。
【0074】
人工肺1を、流体交換部(熱交換部2、ガス交換部3)を備えて構成し、流体交換部(熱交換部2、ガス交換部3)を、積層された複数の中空糸膜22,32により構成された中空糸束20,30と、中空糸束20,30を収容するハウジング21,31と、を備えて構成した。中空糸束20,30を、複数の中空糸膜22,32の積層方向に直交する方向の一端部において円弧状に形成される流体導入円弧状側面201,301と、複数の中空糸膜22,32の積層方向に直交する方向の他端部において円弧状に形成される流体排出円弧状側面202,302を有して構成し、ハウジング21,31を、流体導入円弧状側面201,301に導入される流体の流れを規制する導入側規制板25,35を有して構成した。これにより、流体(冷温水、酸素ガス)の流れを規制して、中空糸膜22,32におけるX方向の膜面積が広いY方向の中央側の部分(中空糸221,322が長い部分)により多くの流体(冷温水、酸素ガス)を流通させることができ、熱交換効率又はガス交換効率を向上させることができる。
【0075】
ハウジング21,31は、内部に中空糸束20,30が配置されると共に複数の中空糸膜22,32の積層方向に直交する方向の両端部の側方が開放して形成されるケース本体211,311と、流体導入円弧状側面201,301の側部を覆うように流体導入円弧状側面201,301の側部に沿って配置される流体導入ケース本体216,316と、流体導入ケース本体216,316に設けられる流体導入ポート215,315と、流体排出円弧状側面202,302の側部を覆うように流体排出円弧状側面202,302の側部に沿って配置される流体排出ケース本体219,319と、流体排出ケース本体219,319に設けられる流体排出ポート218,318と、を有し、導入側規制板25,35は、流体導入ケース本体216,316に設けられる。
【0076】
これにより、流体導入ポート215,315を介して流体導入ケース本体216,316に流体を導入する際に、流体導入ケース本体216,316に設けられた導入側規制板25,35により流体の流れを容易に規制できる。
【0077】
導入側規制板25,35は、流体導入ケース本体216,316が延びる方向において流体導入ポート215,315と流体導入ケース本体216,316の端部との間に配置される。これにより、流体導入ケース本体216,316が延びる方向における両端部側への流体(冷温水、酸素ガス)の流れを規制して、流体導入ケース本体216,316が延びる方向における中央部側に流体(冷温水、酸素ガス)を容易に導くことができる。
【0078】
導入側規制板25,35は、流体導入ケース本体216,316から中空糸束20,30側に向けて突出する板状に形成される。これにより、導入側規制板25,35が板状の部材により形成されることで、簡易な構成により、導入側規制板25,35を構成できる。
【0079】
導入側規制板25,35は、中空糸束20,30における複数の中空糸膜22,32を積層方向に見た場合の中心と流体導入ポート215,315又は流体排出ポート218,318とを結ぶ線に対して、中空糸束20,30の中心と導入側規制板25,35における中空糸束20,30側の先端とを結ぶ線の角度が、1~89°の範囲の位置に配置される。これにより、流体(冷温水、酸素ガス)の流れを効率よく規制して、中空糸膜22,32におけるX方向の膜面積が広いY方向の中央側の部分(中空糸221,322が長い部分)により多くの流体(冷温水、酸素ガス)を一層流通させることができ、熱交換効率又はガス交換効率を一層向上させることができる。
【0080】
流体導入ケース本体216,316は、複数の中空糸膜22,32の積層方向に直交する方向の両端部の側方の外側の側面が円弧状に形成される。これにより、中空糸束20,30において、中空糸221,321の長さが長い部分と短い部分とが形成されるため、中空糸221,321の長さが短い部分側への流体の流れを規制部材により規制することで、熱交換効率又はガス交換効率を一層向上させることができる。
【0081】
中空糸膜22,32は、所定方向に延びる複数の中空糸221,321が平行に並んで配置されることで形成されており、積層された複数の中空糸膜22,32のうち一の中空糸膜22A,32Aの中空糸221A,321Aと他の中空糸膜22B,32Bの中空糸222A,322Aとを、角度θ1,θ2を有した状態で配置した。そのため、一の中空糸膜22A,32Aの中空糸221A,321Aと他の中空糸膜22B,32Bの中空糸222A,322Aとに角度を有さないで配置した場合と比べて、積層方向の中空糸膜22,32の間隔のばらつきを小さくできる。これにより、複数の中空糸膜22,32の積層方向において、熱交換部2における熱交換効率及びガス交換部3におけるガス交換の効率を向上させることができると共に、血液流路の圧力損失も低下させることができる。
【0082】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図8は、本発明の第2実施形態の熱交換部2Aを示す図である。第2実施形態においては、第1実施形態で説明した構成については、その説明を省略する。
【0083】
図8に示すように、第2実施形態の熱交換部2Aは、第1実施形態の熱交換部2の導入側規制板25に代えて、導入側規制板27を備える。
【0084】
導入側規制板27は、第1実施形態の導入側規制板25と比べて、中空糸束20との間に隙間を有さずに配置される。導入側規制板27は、流体(冷温水)が通過可能な発泡体により構成される。発泡体としては、例えば、スポンジを挙げることができる。
【0085】
導入側規制板27は、中空糸束20における複数の中空糸膜22を積層方向に見た場合の中心C1と流体導入ポート215の中心とを結ぶ線に対して、中空糸束20の中心C1と導入側規制板27における中空糸束20側の先端とを結ぶ線の規制板配置角度α3が、1~89°の範囲の位置に配置されることが好ましく、20~40°であることがより好ましい。本実施形態においては、例えば、規制板配置角度α3を30°に設定した。
【0086】
以上のように構成される導入側規制板27は、流体(冷温水)のY方向の両端部側への移動を規制しつつ、流体が通過可能な発泡体により構成されることで、流体をY方向の両端部側に流通させることができる。
【0087】
なお、図示及び説明を省略するが、ガス交換部においても、導入側規制板は、第2実施形態の熱交換部2Aと同様に、中空糸束30との間に隙間を有さずに配置され、流体(酸素ガス)が通過可能な発泡体により構成される。発泡体としては、例えば、スポンジを挙げることができる。
【0088】
以上説明した第2実施形態によれば、熱交換部2A及びガス交換部においては、第1実施形態と同様に、流体(冷温水、酸素ガス)の流れを規制して、中空糸膜22,23におけるX方向の膜面積が広いY方向の中央側の部分(中空糸221,322が長い部分)により多くの流体(冷温水、酸素ガス)を流通させることができ、熱交換効率又はガス交換効率を向上させることができる。
【0089】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図9は、本発明の第3実施形態の熱交換部2Bを示す図である。第3実施形態においては、第1実施形態で説明した構成については、その説明を省略する。
【0090】
図9に示すように、第3実施形態の熱交換部2Bの流体排出ケース本体219は、第1実施形態の熱交換部2の構成に加えて、一対の排出側規制板26(規制部材)を有する。つまり、第2実施形態の熱交換部2Bにおいては、流体導入ケース本体216は、一対の導入側規制板25(規制部材)を有しており、かつ、流体排出ケース本体219は、一対の排出側規制板26,(規制部材)を有している。
【0091】
図9に示すように、一対の排出側規制板26は、それぞれ、流体排出ケース本体219の外側壁部219aのX方向の内側の面から中空糸束20側に向けてX方向の内側に突出して形成される。一対の排出側規制板26は、それぞれ、流体排出円弧状側面202から排出される流体(冷温水、酸素ガス)の流れを規制する。
【0092】
一対の排出側規制板26は、流体排出ケース本体219が延びる方向において、流体排出ポート218と流体排出ケース本体219のY方向の端部との間に配置される。一対の排出側規制板26は、Y方向において、流体排出ポート218を挟んで一対設けられる。
【0093】
一対の排出側規制板26の先端は、それぞれ、中空糸束20から隙間Sa2離間して配置される。本実施形態においては、隙間Sa2を、排出側規制板26の先端と中空糸束20とが最短距離となる部分の隙間とした。一対の排出側規制板26は、外側壁部219aの中空糸束20の厚さ方向の全域に亘って形成されている。
【0094】
排出側規制板26の中空糸束20側の先端と中空糸束20との間に形成される隙間Sa2は、流体(冷温水、酸素ガス)を流通させるために設けられる隙間である。隙間Sa2を設けることにより、流体排出ケース本体219から排出された流体(冷温水、酸素ガス)をY方向の中央側に流通させる。隙間Sa2は、例えば、0.1mm~10mmが好ましく、本実施形態においては、例えば、2mmに設定されている。
【0095】
排出側規制板26は、中空糸束20における複数の中空糸膜22を積層方向に見た場合の中心C2と流体排出ポート218の中心とを結ぶ線に対して、中空糸束20,30の中心C2と排出側規制板26における中空糸束20側の先端とを結ぶ線の規制板配置角度α2,β2が、1~89°の範囲の位置に配置されることが好ましく、20~40°であることがより好ましい。本実施形態においては、例えば、規制板配置角度α2を30°に設定した。
【0096】
このように、流体排出ケース部217の内部には、一対の排出側規制板26が設けられている。一対の排出側規制板26は、それぞれ、X方向の他方側(図9の左側)におけるY方向に離間した位置において、外側壁部219aのX方向の内側の面からX方向の内側に突出して形成される。そのため、流体排出ケース部217を介して複数の中空糸221の内部から排出される冷温水は、Y方向の両端部側への流通が規制される。これにより、冷温水の流れを規制して、中空糸膜22におけるX方向の膜面積が広いY方向の中央側の部分(中空糸221が長い部分)により多くの冷温水を流通させることができ、熱交換効率を向上させることができる。
【0097】
以上のように構成される排出側規制板28は、流体(冷温水)のY方向の両端部側への移動を規制しつつ、流体をY方向の両端部側に流通させることができる。
【0098】
なお、図示及び説明を省略するが、ガス交換部においても、第3実施形態の熱交換部2Bと同様に、排出側規制板を設けることができる。
【0099】
以上説明した第3実施形態によれば、流体(冷温水、酸素ガス)の流れを規制して、中空糸膜22,32におけるX方向の膜面積が広いY方向の中央側の部分(中空糸221,322が長い部分)により多くの流体(冷温水、酸素ガス)を流通させることができ、熱交換効率又はガス交換効率を向上させることができる。
【0100】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図10は、本発明の第4実施形態の熱交換部2Cを示す図である。第4実施形態においては、第1実施形態及び第3実施形態で説明した構成については、その説明を省略する。
【0101】
図10に示すように、第3実施形態の熱交換部2Cにおいては、流体導入ケース本体216は、一対の導入側規制板25(規制部材)を有しておらず、かつ、流体排出ケース本体219は、一対の排出側規制板26(規制部材)を有している。図示及び説明を省略するが、ガス交換部においても、第4実施形態の熱交換部2Cと同様に、排出側規制板を設けることができる。
【0102】
第4実施形態によれば、流体排出ケース本体219に一対の排出側規制板26(規制部材)を設けることより、第3実施形態と同様に、熱交換効率又はガス交換効率を向上させることができる。
【0103】
以上、本発明の人工肺1の好ましい実施形態につき説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0104】
例えば、前記実施形態では、人工肺1が、熱交換部2とガス交換部3とを備えて構成したが、これに限定されず、人工肺1は、熱交換部2を備えなくてもよい。
【0105】
また、前記第2実施形態では、中空糸束20との間に隙間を有さずに配置される導入側規制板27を設けたが、これに限定されない。前記第3実施形態と同様に、前記第2実施形態の導入側規制板27に加えて、中空糸束20との間に隙間を有さずに配置される排出側規制板を設けてもよい。前記第4実施形態と同様に、導入側規制板27を設けずに、中空糸束20との間に隙間を有さずに配置される排出側規制板を設けてもよい。
【0106】
また、流体導入ケース本体216,316の外側壁部216a,316aの平面視における形状は、X方向の内側及び外側の側面がX方向の一方側に凸となる円弧状に限定されず、Y方向に延びる直線状でもよい。流体排出ケース本体219,319の外側壁部219a,319aの平面視における形状は、X方向の内側及び外側の側面がX方向の他方側に凸となる円弧状に限定されず、Y方向に延びる直線状でもよい。
【0107】
次に、第1実施形態のガス交換部3を用いた実験例により、本発明について更に説明する。本実験例において、下記の寸法及び位置条件のガス交換部3を用いて、下記実験方法により、下記実験結果を得た。なお、本発明は下記実験例に限定されるものではない。
【0108】
(ガス交換部3の寸法及び位置条件)
第1実施形態のガス交換部3を用いると共に、下記の寸法及び位置条件のものを用いて、寸法及び位置条件を同様の構成としたガス交換部3を2つ作製し、実験検体1、2とした。
【0109】
ガス交換部3の中空糸束30において、一の中空糸膜32Aの中空糸321Aと他の中空糸膜32Bの中空糸321Bとが成す角度θ2を10°とした。
ガス交換部3の中空糸束30において、一対のシール部33のX方向の内側に形成される血液流路11の半径Rb2を44±1mmとした。
ガス交換部3の中空糸束30において、中空糸束30のX方向の両端部の円弧状の部分の半径Rb1を54±1mmとした。
導入側規制板35の中空糸束30側の先端と中空糸束30との間に形成される隙間Sb1を2±2mmとした。
【0110】
一対の導入側規制板35を、中空糸束30における複数の中空糸膜32を積層方向に見た場合の中心C2と流体導入ポート315の中心とを結ぶ線に対して、中空糸束30の中心C2と導入側規制板35における中空糸束30側の先端とを結ぶ線の規制板配置角度β1を20°~40°となる位置に配置した。
【0111】
(実験方法)
上記の2つの実験検体1、2に二酸化炭素濃度が高い血液を流通させながら、400ml/min以上の酸素ガスを流通させるガス交換試験を実施した場合において、血液中の二酸化酸素の移動量を測定し、一対の導入側規制板35の有無(規制板35:無又は有)による血液中の二酸化炭素の移動量を比較した。
【0112】
(実験結果)
以下の実験結果を得ることができる。
(1)実験検体1
実験検体1(規制板35:無)→二酸化炭素移動量:260ml/min
実験検体1(規制板35:有)→二酸化炭素移動量:310ml/min
(2)実験検体2
実験検体2(規制板35:無)→二酸化炭素移動量:300ml/min
実験検体2(規制板35:有)→二酸化炭素移動量:360ml/min
【0113】
以上の実験結果により、実験検体1、2について、一対の導入側規制板35が有る場合には、一対の導入側規制板35が無い場合よりも、二酸化炭素の移動量が大きく、ガス交換率が向上することが分かった。
【符号の説明】
【0114】
1 人工肺
2,2A 熱交換部(流体交換部)
3 ガス交換部(流体交換部)
20,30 中空糸束
21,31 ハウジング(ケーシング部材)
22,32 中空糸膜
25,35 導入側規制板(規制部材)
26 排出側規制板(規制部材)
201,301 流体導入円弧状側面(流体導入部)
202,302 流体排出円弧状側面(流体排出部)
211,311 ケース本体
215,315 流体導入ポート
216,316 流体導入ケース本体
218,318 流体排出ポート
219,319 流体排出ケース本体
221,321 中空糸
図1
図2
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