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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】絶縁抵抗監視装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/52 20200101AFI20241119BHJP
   G01R 31/56 20200101ALI20241119BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20241119BHJP
   G01R 27/02 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G01R31/52
G01R31/56
G01R31/00
G01R27/02 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020188196
(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公開番号】P2022077370
(43)【公開日】2022-05-23
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 将宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌平
(72)【発明者】
【氏名】高谷 玲平
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-003277(JP,A)
【文献】特開2001-037167(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1330091(KR,B1)
【文献】特開2021-043030(JP,A)
【文献】特開2006-098349(JP,A)
【文献】特開2019-163995(JP,A)
【文献】特開平10-132877(JP,A)
【文献】特開2000-131363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0146022(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/50-31/74、
31/00-31/01、
31/24-31/25、
31/40-31/44、
27/00-27/32、
31/327-31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の絶縁抵抗を監視する絶縁抵抗監視装置であって、
前記被測定物の絶縁抵抗値を計算する絶縁抵抗計算器と、
前記絶縁抵抗計算器によって計算された現時点及び過去の絶縁抵抗値に基づいて、未来の絶縁抵抗値を示す絶縁抵抗予測値を計算する絶縁抵抗予測器と、
前記絶縁抵抗予測値に基づいて、前記絶縁抵抗予測値がしきい値以下になるまでの残り期間を示す絶縁寿命を計算する絶縁寿命予測器と、
前記絶縁寿命を通知する出力装置とを備え、
前記絶縁抵抗予測器は、前記絶縁抵抗値が時間的に変化する速度及び加速度を計算し、前記絶縁抵抗値、前記速度、及び前記加速度に基づいて前記絶縁抵抗予測値を計算する、
縁抵抗監視装置。
【請求項2】
被測定物の絶縁抵抗を監視する絶縁抵抗監視装置であって、
前記被測定物の絶縁抵抗値を計算する絶縁抵抗計算器と、
前記絶縁抵抗計算器によって計算された現時点及び過去の絶縁抵抗値に基づいて、未来の絶縁抵抗値を示す絶縁抵抗予測値を計算する絶縁抵抗予測器と、
前記絶縁抵抗予測値に基づいて、前記絶縁抵抗予測値がしきい値以下になるまでの残り期間を示す絶縁寿命を計算する絶縁寿命予測器と、
前記絶縁寿命を通知する出力装置とを備え、
前記絶縁抵抗予測器は、前記絶縁抵抗値が時間的に変化する速度、加速度、及び加加速度を計算し、前記絶縁抵抗値、前記速度、前記加速度、及び前記加加速度に基づいて前記絶縁抵抗予測値を計算する、
縁抵抗監視装置。
【請求項3】
前記現時点の絶縁抵抗値が前記現時点の直前の時点に計算された絶縁抵抗値よりも増大したとき、前記絶縁寿命予測器は、前記絶縁抵抗値が増大する前に計算された絶縁寿命を現時点の絶縁寿命として設定する、
請求項1又は2記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項4】
前記絶縁抵抗計算器は、前記絶縁抵抗監視装置の外部からの制御信号に応答して前記被測定物の絶縁抵抗値を計算する、
請求項1~のうちの1つに記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項5】
前記出力装置は表示装置を含み、前記表示装置は、
前記絶縁寿命と、
前記現時点の絶縁抵抗値と、
現時点から前記絶縁抵抗予測値が前記しきい値以下になる時点までの前記絶縁抵抗予測値の時間的変化とを表示する、
請求項1~のうちの1つに記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項6】
前記現時点の絶縁抵抗値が前記しきい値以下になったことを通知する警報器をさらに備えた、
請求項1~のうちの1つに記載の絶縁抵抗監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁抵抗監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧受変電設備及び配電盤等の電気設備は、電気事業法により、年1回程度の頻度で法定点検を行うことが義務付けられている。また、配電盤に接続されたモータ等の電気機器についても、事業者は、その独自の管理基準により、週1回から月1回程度の頻度で自主点検を行っている。
【0003】
しかしながら、自主点検の対象物(被測定物)は多種多様な電気設備及び電気機器を含み、その数が多過ぎて実際には手が回らないのが実態である。そこで、自主点検を自動化するための絶縁抵抗監視装置が開発されている。
【0004】
特許文献1は、運転中でも絶縁劣化の進行具合の監視を行うことができる絶縁劣化監視装置を開示している。特許文献1の装置は、絶縁抵抗が設定値を超えたとき、又は、絶縁抵抗の変化率が規定値を超えたとき、警報信号を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-311791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被測定物の絶縁抵抗が劣化する前に、被測定物の点検又は修理を行う必要がある。しかしながら、特許文献1の装置によれば、被測定物の絶縁抵抗が決定的に劣化するとき(絶縁抵抗が設定値を超えたとき)まで、又はその直前(絶縁抵抗の変化率が規定値を超えたとき)まで警報信号が発生せず、点検及び修理のために十分な時間を確保することが困難である。従って、従来よりも被測定物の保守計画を立てやすいように絶縁抵抗の状態を監視することが求められる。
【0007】
本開示の目的は、従来よりも被測定物の保守計画を立てやすいように絶縁抵抗の状態を監視することができる絶縁抵抗監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置は、
被測定物の絶縁抵抗を監視する絶縁抵抗監視装置であって、
前記被測定物の絶縁抵抗値を計算する絶縁抵抗計算器と、
前記絶縁抵抗計算器によって計算された現時点及び過去の絶縁抵抗値に基づいて、未来の絶縁抵抗値を示す絶縁抵抗予測値を計算する絶縁抵抗予測器と、
前記絶縁抵抗予測値に基づいて、前記絶縁抵抗予測値がしきい値以下になるまでの残り期間を示す絶縁寿命を計算する絶縁寿命予測器と、
前記絶縁寿命を通知する出力装置とを備える。
【0009】
これにより、従来よりも被測定物の保守計画を立てやすいように絶縁抵抗の状態を監視することができる。
【0010】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記絶縁抵抗予測器は、前記絶縁抵抗値が時間的に変化する速度及び加速度を計算し、前記絶縁抵抗値、前記速度、及び前記加速度に基づいて前記絶縁抵抗予測値を計算する。
【0011】
これにより、絶縁抵抗値の速度及び加速度を考慮して、絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命を高精度に計算することができる。
【0012】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記絶縁抵抗予測器は、前記絶縁抵抗値が時間的に変化する速度、加速度、及び加加速度を計算し、前記絶縁抵抗値、前記速度、前記加速度、及び前記加加速度に基づいて前記絶縁抵抗予測値を計算する。
【0013】
これにより、絶縁抵抗値の速度、加速度、及び加加速度を考慮して、絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命をさらに高精度に計算することができる。
【0014】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記現時点の絶縁抵抗値が前記現時点の直前の時点に計算された絶縁抵抗値よりも増大したとき、前記絶縁寿命予測器は、前記絶縁抵抗値が増大する前に計算された絶縁寿命を現時点の絶縁寿命として設定する。
【0015】
これにより、絶縁抵抗値の一時的な増大に起因する誤差を低減することができる。
【0016】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記絶縁抵抗計算器は、前記絶縁抵抗監視装置の外部からの制御信号に応答して前記被測定物の絶縁抵抗値を計算する。
【0017】
これにより、例えば予め決められた時間周期で、絶縁抵抗値、絶縁抵抗予測値、及び絶縁寿命を計算することができる。
【0018】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記出力装置は表示装置を含み、前記表示装置は、
前記絶縁寿命と、
前記現時点の絶縁抵抗値と、
現時点から前記絶縁抵抗予測値が前記しきい値以下になる時点までの前記絶縁抵抗予測値の時間的変化とを表示する。
【0019】
これにより、絶縁抵抗の劣化の傾向を認識することができる。
【0020】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置は、
前記現時点の絶縁抵抗値が前記しきい値以下になったことを通知する警報器をさらに備える。
【0021】
これにより、被測定物を適切に点検又は修理することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、従来よりも被測定物の保守計画を立てやすいように絶縁抵抗の状態を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る絶縁抵抗監視装置8を含むモータシステムの構成を示すブロック図である。
図2図1の処理装置10によって実行される絶縁抵抗監視処理を示すフローチャートである。
図3図2のステップS13~S14における絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命の計算例を説明するための図である。
図4図2のステップS13~S14における絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命の他の計算例を説明するための図である。
図5図1の処理装置10によって実行される絶縁抵抗監視処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の一側面に係る実施形態を、図面に基づいて説明する。各図面において、同じ符号は同様の構成要素を示す。
【0025】
[実施形態]
以下、実施形態に係る絶縁抵抗監視装置について説明する。
【0026】
[実施形態の構成例]
図1は、実施形態に係る絶縁抵抗監視装置8を含むモータシステムの構成を示すブロック図である。図1のモータシステムは、三相交流電源1、電力線L、回路遮断器2、三相モータ3、零相変流器4、地絡方向継電器5、計器用変圧器6、地絡過電圧継電器7、絶縁抵抗監視装置8、及び制御装置9を備える。図1の例では、絶縁抵抗監視装置8が、その被測定物として、三相モータ3の絶縁抵抗を測定する場合を示す。
【0027】
三相交流電源1は、電力線Lを介して三相モータ3に接続され、三相モータ3に三相交流電力を供給する。電力線Lには回路遮断器2が挿入される。
【0028】
零相変流器4は、三相モータ3又は電力線Lの絶縁状態が悪い場合に電力線Lに流れる零相電流を検出し、検出した零相電流を、地絡方向継電器5と、絶縁抵抗監視装置8の絶縁抵抗計算器11(後述)とに送る。地絡方向継電器5は、零相電流が予め決められたしきい値を超えたとき、警報を発生する。
【0029】
計器用変圧器6は、三相モータ3又は電力線Lの絶縁状態が悪い場合に電力線Lに生じる零相電圧を検出し、検出した零相電圧を、地絡方向継電器5、地絡過電圧継電器7、及び絶縁抵抗監視装置8の絶縁抵抗計算器11(後述)に送る。地絡過電圧継電器7は、零相電圧が予め決められたしきい値を超えたとき、警報を発生する。
【0030】
絶縁抵抗監視装置8は、三相モータ3又は電力線Lの絶縁抵抗を監視する。絶縁抵抗監視装置8は、絶縁抵抗計算器11、絶縁抵抗予測器12、絶縁寿命予測器13、記憶装置14、比較器15、表示装置16、警報器17、及び通信装置18を備える。絶縁抵抗計算器11、絶縁抵抗予測器12、絶縁寿命予測器13、記憶装置14、及び比較器15をまとめて「処理装置10」とも呼ぶ。
【0031】
絶縁抵抗計算器11は、零相電流及び零相電圧に基づいて、オームの法則を用いて、三相モータ3の絶縁抵抗値を計算する。絶縁抵抗計算器11は、計算された絶縁抵抗値を絶縁抵抗予測器12に送る。絶縁抵抗計算器11は、さらに、計算された絶縁抵抗値を表示装置16及び通信装置18の少なくとも一方に送ってもよい。
【0032】
絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗計算器11によって計算された現時点及び過去の絶縁抵抗値に基づいて、未来の絶縁抵抗値を示す絶縁抵抗予測値を計算する。絶縁抵抗予測器12は、計算された絶縁抵抗予測値を絶縁寿命予測器13に送る。絶縁抵抗予測器12は、さらに、計算された絶縁抵抗予測値を表示装置16及び通信装置18の少なくとも一方に送ってもよい。
【0033】
絶縁寿命予測器13は、絶縁抵抗予測値に基づいて、絶縁抵抗予測値がしきい値以下になるまでの残り期間を示す絶縁寿命を計算する。絶縁寿命予測器13は、計算された絶縁寿命を表示装置16に送る。絶縁寿命予測器13は、さらに、計算された絶縁寿命を通信装置18に送ってもよい。
【0034】
記憶装置14は、絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命を計算するために使用される絶縁抵抗値の履歴及び他の変数を格納する。また、記憶装置14は、計算された絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命の少なくとも一方を格納してもよい。
【0035】
比較器15は、現時点の絶縁抵抗値が予め決められたしきい値K以下であるか否かを判断し、判断結果を警報器17に送る。しきい値Kは、例えば、法令等によって定められた値に設定されてもよく、法令等によって定められた値に所定のマージンを付加した値に設定されてもよい。例えば、電気設備に関する技術基準を定める省令によれば、使用電圧が300V以下でありかつ対地電圧が150V以下である場合、絶縁抵抗値は0.1MΩ以上であるように定められ、使用電圧が300V以下でありかつ対地電圧が150Vより高い場合、絶縁抵抗値は0.2MΩ以上であるように定められ、使用電圧が300Vより高い場合、絶縁抵抗値は0.4M以上であるように定められる。
【0036】
表示装置16は、少なくとも、計算された絶縁寿命を表示する。表示装置16は、計算された絶縁寿命をユーザに通知する出力装置の一例である。また、表示装置16は、現時点の絶縁抵抗値を表示してもよい。また、現時点から絶縁抵抗予測値がしきい値以下になる時点までの絶縁抵抗予測値の時間的変化を表示してもよい。
【0037】
警報器17は、比較器15の判断結果に基づいて、現時点の絶縁抵抗値がしきい値以下になったことをユーザに通知するため、視覚的又は聴覚的な警報信号を発生する。
【0038】
通信装置18は、外部の制御装置9に接続される。処理装置10は、絶縁抵抗監視装置8の外部からの制御信号に応答して、例えば、通信装置18が制御装置9から受信するトリガ信号に応答して起動されてもよい。この場合、通信装置18が制御装置9からトリガ信号を受信したとき、絶縁抵抗計算器11は三相モータ3の絶縁抵抗値を計算し、絶縁抵抗予測器12は三相モータ3の絶縁抵抗予測値を計算し、絶縁寿命予測器13は三相モータ3の絶縁寿命を計算する。通信装置18は、計算された絶縁抵抗値、絶縁抵抗予測値、及び絶縁寿命を制御装置9に送信してもよい。
【0039】
[実施形態の動作例]
図2は、図1の処理装置10によって実行される絶縁抵抗監視処理を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS11において、処理装置10は、通信装置18が制御装置9からトリガ信号を受信したか否かを判断し、YESのときはステップS12に進み、NOのときはステップS11を繰り返す。
【0041】
ステップS12において、絶縁抵抗計算器11は、現時点の絶縁抵抗値を計算し、計算された絶縁抵抗値を表示装置16に表示する。
【0042】
ステップS13において、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗予測値を計算し、計算された絶縁抵抗予測値を表示装置16に表示する。
【0043】
ステップS14において、絶縁寿命予測器13は、絶縁寿命予測値を計算し、計算された絶縁寿命予測値を表示装置16に表示する。
【0044】
図2の処理によれば、外部からのトリガ信号に応答して動作を開始することで、例えば予め決められた時間周期で、絶縁抵抗値、絶縁抵抗予測値、及び絶縁寿命を計算することができる。
【0045】
図3は、図2のステップS13~S14における絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命の計算例を説明するための図である。図3の例では、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗値が時間的に変化する速度及び加速度を計算し、絶縁抵抗値、速度、及び加速度に基づいて絶縁抵抗予測値を計算する。
【0046】
図3の横軸は、パラメータnによって表される時間tを示す。t(n)は現時点を示し、t(n-1),t(n-2),…は絶縁抵抗値を計算した過去の時点を示し、t(n+1),t(n+2),…は絶縁抵抗予測値を計算する未来の時点を示す。絶縁抵抗値の速度及び加速度を計算するための単位時間Δt(n)を次式で定義する。
【0047】
Δt(n)=t(n)-t(n-1)
【0048】
単位時間Δt(n)は、例えば、数日間、数週間、又は数ヶ月間などに設定されてもよい。現時点t(n)に単位時間Δt(n)の倍数を加算した時点を、絶縁抵抗予測値を計算する未来の時点t(n+1),t(n+2),…として設定する。
【0049】
図3の縦軸は、絶縁抵抗値及び絶縁抵抗予測値を示す。R(n)は現時点の絶縁抵抗値を示し、R(n-1),R(n-2),…は過去の絶縁抵抗値を示し、R(n+1),R(n+2),…は計算される未来の絶縁抵抗値、すなわち絶縁抵抗予測値を示す。Kは、予め決められた絶縁抵抗のしきい値を示す。しきい値Kは、前述したように、例えば、法令等によって定められた値に設定されてもよく、法令等によって定められた値に所定のマージンを付加した値に設定されてもよい。
【0050】
現時点及び過去の絶縁抵抗値R(n),R(n-1),R(n-2)に基づいて、絶縁抵抗値の速度V(n-1),V(n)を次式により計算する。
【0051】
V(n-1)=(R(n-2)-R(n-2))/(t(n-1)-t(n-2))
V(n)=(R(n-1)-R(n))/Δt(n)
【0052】
絶縁抵抗値の速度V(n-1),V(n)に基づいて、絶縁抵抗値の加速度A(n)を次式により計算する。
【0053】
A(n)=V(n)-V(n-1)
【0054】
絶縁抵抗値の速度V(n)及び加速度A(n)に基づいて、未来の時点t(n+1)における絶縁抵抗値の速度を示す速度予測値V(n+1)を次式により計算する。
【0055】
V(n+1)=V(n)+A(n)
【0056】
速度予測値V(n+1)に基づいて、未来の時点t(n+1)における絶縁抵抗予測値R(n+1)を次式により計算する。
【0057】
R(n+1)=R(n)-(V(n+1)×Δt(n))
【0058】
同様に、未来の時点t(n+2)における速度予測値V(n+2)及び絶縁抵抗予測値R(n+2)を次式により計算する。
【0059】
V(n+2)=V(n+1)+A(n)
R(n+2)=R(n+1)-(V(n+2)×Δt(n))
【0060】
同様に、速度予測値及び絶縁抵抗予測値の計算を繰り返し、未来の時点t(n+i)における速度予測値V(n+i)及び絶縁抵抗予測値R(n+i)を次式により計算する。
【0061】
V(n+i)=V(n+i-1)+A(n)
R(n+i)=R(n+i-1)-(V(n+i)×Δt(n))
【0062】
時点t(n+i-1)における絶縁抵抗予測値R(n+i-1)がしきい値Kより大きく、かつ、時点t(n+i)における絶縁抵抗予測値R(n+i)がしきい値K以下になったとき、現時点t(n)における絶縁寿命D(n)を次式により計算する。
【0063】
D(n)=(Δt(n)×(i-1))+(R(n+i-1)-K)/V(n+i)
【0064】
図3の例によれば、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗計算器11によって計算された現時点及び過去の絶縁抵抗値R(n),R(n-1),R(n-2),…に基づいて、未来の絶縁抵抗値を示す絶縁抵抗予測値R(n+1),R(n+2),…を計算することができる。絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗値が時間的に変化する速度及び加速度を計算し、絶縁抵抗値、速度、及び加速度に基づいて絶縁抵抗予測値R(n+1),R(n+2),…を計算する。絶縁寿命予測器13は、絶縁抵抗予測値R(n+1),R(n+2),…に基づいて、絶縁抵抗予測値がしきい値K以下になるまでの残り期間を示す絶縁寿命D(n)を計算することができる。
【0065】
図4は、図2のステップS13~S14における絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命の他の計算例を説明するための図である。図4の例では、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗値が時間的に変化する速度、加速度、及び加加速度を計算し、絶縁抵抗値、速度、加速度、及び加加速度に基づいて絶縁抵抗予測値を計算する。
【0066】
図4の例によれば、図3の例で使用した各パラメータに加えて、絶縁抵抗値の速度の時間微分、すなわち加加速度J(n)を次式により計算する。
【0067】
J(n)=A(n)-A(n-1)
【0068】
絶縁抵抗値の速度V(n)、加速度A(n)、及び加加速度J(n)に基づいて、未来の時点t(n+1)における絶縁抵抗値の速度を示す速度予測値V(n+1)を次式により計算する。
【0069】
V(n+1)=V(n)+A(n)+J(n)
【0070】
速度予測値V(n+1)又は加加速度J(n)に基づいて、未来の時点t(n+1)における加速度A(n+1)を次式により計算する。
【0071】
A(n+1)=V(n+1)-V(n)=A(n)+J(n)
【0072】
同様に、未来の時点t(n+2)における速度予測値V(n+2)及び加加速度を次式により計算する。
【0073】
V(n+2)=V(n+1)+A(n+1)+J(n)
A(n+2)=V(n+2)-V(n+1)=A(n+1)+J(n)
【0074】
図4の例では、絶縁抵抗予測値R(n+1),R(n+2)は、図3の場合と同様に計算される。
【0075】
同様に、速度予測値及び絶縁抵抗予測値の計算を繰り返し、未来の時点t(n+i)における速度予測値V(n+i)及び絶縁抵抗予測値R(n+i)を次式により計算する。
【0076】
V(n+i)=V(n+i-1)+A(n+i-1)+J(n)
R(n+i)=R(n+i-1)-(V(n+i)×Δt(n))
【0077】
図4の例では、現時点t(n)における絶縁寿命D(n)は、図3の場合と同様に次式により計算される。
【0078】
D(n)=(Δt(n)×(i-1))+(R(n+i-1)-K)/V(n+i)
【0079】
図4の例によれば、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗計算器11によって計算された現時点及び過去の絶縁抵抗値R(n),R(n-1),R(n-2),…に基づいて、未来の絶縁抵抗値を示す絶縁抵抗予測値R(n+1),R(n+2),…を計算することができる。絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗値が時間的に変化する速度、加速度、及び加加速度を計算し、絶縁抵抗値、速度、加速度、及び加加速度に基づいて絶縁抵抗予測値R(n+1),R(n+2),…を計算することができる。絶縁寿命予測器13は、絶縁抵抗予測値R(n+1),R(n+2),…に基づいて、絶縁抵抗予測値がしきい値K以下になるまでの残り期間を示す絶縁寿命D(n)を計算することができる。
【0080】
図4の例によれば、絶縁抵抗値の加加速度を計算することにより、図3の場合よりも高精度で絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命を計算することができる。
【0081】
前述したように、表示装置16は、現時点から絶縁抵抗予測値がしきい値以下になる時点までの絶縁抵抗予測値の時間的変化を表示してもよい。この場合、表示装置16は、時間に対する絶縁抵抗予測値を示すグラフを表示してもよい。このようなグラフを表示することにより、ユーザは、絶縁抵抗の劣化の傾向を認識することができる。
【0082】
一般に、被測定物の絶縁抵抗値は、使用開始から時間が経過するにつれて次第に減少すると考えられる。しかしながら、被測定物が使用される環境によっては、振動などに起因して、絶縁抵抗値が一時的に増大することがある。このような一時的に増大した絶縁抵抗値に基づいて絶縁寿命を計算すると、絶縁寿命が実際の値よりも長く計算されるおそれがある。次に、図5を参照して、絶縁抵抗値の一時的な増大に起因する誤差を低減する方法について説明する。
【0083】
図5は、図1の処理装置10によって実行される絶縁抵抗監視処理の変形例を示すフローチャートである。
【0084】
ステップS11において、処理装置10は、通信装置18が制御装置9からトリガ信号を受信したか否かを判断し、YESのときはステップS12に進み、NOのときはステップS11を繰り返す。
【0085】
ステップS12において、絶縁抵抗計算器11は、現時点の絶縁抵抗値を計算し、計算された絶縁抵抗値を表示装置16に表示する。
【0086】
ステップS13において、絶縁抵抗予測器12は、現時点t(n)の絶縁抵抗値R(n)が直前の時点t(n-1)に計算された絶縁抵抗値R(n-1)よりも増大したか否かを判断し、YESのときはステップS16に進み、NOのときはステップS14に進む。
【0087】
ステップS14において、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗予測値を計算し、計算された絶縁抵抗予測値を記憶装置14に格納し、また、計算された絶縁抵抗予測値を表示装置16に表示する。
【0088】
ステップS15において、絶縁寿命予測器13は、絶縁寿命予測値を計算し、計算された絶縁寿命を記憶装置14に格納し、また、計算された絶縁寿命予測値を表示装置16に表示する。
【0089】
ステップS16において、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗予測値を記憶装置14から読み出して表示装置16に表示する。
【0090】
ステップS17において、絶縁寿命予測器13は、絶縁寿命を記憶装置14から読み出して表示装置16に表示する。
【0091】
絶縁抵抗予測器12及び絶縁寿命予測器13は、絶縁抵抗値R(n)が絶縁抵抗値R(n-1)に等しい場合もまた、ステップS14~S15に代えてステップS16~S17を実行してもよい。これにより、絶縁抵抗予測器12及び絶縁寿命予測器13の計算量を低減することができる。
【0092】
図5の処理によれば、現時点の絶縁抵抗値が現時点の直前の時点に計算された絶縁抵抗値よりも増大したとき、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗値が増大する前に計算された絶縁抵抗予測値を表示装置16に表示し、絶縁寿命予測器13は、絶縁抵抗値が増大する前に計算された絶縁寿命を現時点の絶縁寿命として設定する。これにより、絶縁抵抗値の一時的な増大に起因する絶縁抵抗予測値及び絶縁寿命の誤差を低減することができる。
【0093】
[実施形態の効果]
絶縁抵抗値は、環境の要因(温度、湿度、粉塵)又は機械的要因(振動、衝撃)などに起因して、経年劣化する。従来は、測定した絶縁抵抗値が基準値を下回っていないことを確認していた。そのため、測定期間に対する劣化傾向を把握することができず、また、絶縁抵抗値が基準値を下回るまでの残り期間を把握できないという課題があった。
【0094】
実施形態に係る絶縁抵抗監視装置8によれば、現時点及び過去の絶縁抵抗値に基づいて絶縁抵抗予測値を計算し、絶縁抵抗予測値に基づいて絶縁寿命を計算することができる。従って、絶縁抵抗監視装置8は、従来よりも被測定物の保守計画を立てやすいように絶縁抵抗の状態を監視することができる。
【0095】
[他の変形例]
以上、本開示の実施形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本開示の例示に過ぎない。本開示の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0096】
計算された絶縁寿命を出力する出力装置は、表示装置16に限らず、スピーカのように聴覚的に出力する装置を含んでもよく、通信回線を介して接続された遠隔の装置を含んでもよい。
【0097】
絶縁抵抗監視装置8は、三相モータ3に代えて、他の任意の被測定物に接続されてもよい。被測定物は、例えば、電源装置、タイマ、リレー、共用ソケット、DINレール、防水カバー、温度調節器、スイッチなどを含む。
【0098】
絶縁抵抗監視装置は、絶縁抵抗値が時間的に変化する速度が予め決められたしきい値以上になったとき、警報信号を発生するように構成されてもよい。
【0099】
絶縁抵抗監視装置は、法令等によって定められた絶縁抵抗値を下限値として設定し、絶縁抵抗監視処理を開始してから最初に測定された絶縁抵抗値を上限値として設定し、上限値及び下限値の間の区間を予め決められた割合で分割する値を絶縁抵抗値のしきい値として設定してもよい。これにより、法令等によって定められた絶縁抵抗値に所定のマージンを付加したしきい値を自動的に設定することができる。
【0100】
[まとめ]
本開示の各側面に係る絶縁抵抗監視装置は、以下のように表現されてもよい。
【0101】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置は、被測定物の絶縁抵抗を監視する。絶縁抵抗監視装置8は、絶縁抵抗計算器11は、被測定物の絶縁抵抗値を計算する。絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗計算器11によって計算された現時点及び過去の絶縁抵抗値に基づいて、未来の絶縁抵抗値を示す絶縁抵抗予測値を計算する。絶縁寿命予測器13は、絶縁抵抗予測値に基づいて、絶縁抵抗予測値がしきい値以下になるまでの残り期間を示す絶縁寿命を計算する。出力装置は絶縁寿命を通知する。
【0102】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗値が時間的に変化する速度及び加速度を計算し、絶縁抵抗値、速度、及び加速度に基づいて絶縁抵抗予測値を計算してもよい。
【0103】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、絶縁抵抗予測器12は、絶縁抵抗値が時間的に変化する速度、加速度、及び加加速度を計算し、絶縁抵抗値、速度、加速度、及び加加速度に基づいて絶縁抵抗予測値を計算してもよい。
【0104】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、現時点の絶縁抵抗値が現時点の直前の時点に計算された絶縁抵抗値よりも増大したとき、絶縁寿命予測器13は、絶縁抵抗値が増大する前に計算された絶縁寿命を現時点の絶縁寿命として設定してもよい。
【0105】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、絶縁抵抗計算器11は、絶縁抵抗監視装置8の外部からの制御信号に応答して被測定物の絶縁抵抗値を計算してもよい。
【0106】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、出力装置は表示装置16を含んでもよい。表示装置16は、絶縁寿命と、現時点の絶縁抵抗値と、現時点から絶縁抵抗予測値がしきい値以下になる時点までの絶縁抵抗予測値の時間的変化とを表示してもよい。
【0107】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置は、現時点の絶縁抵抗値がしきい値以下になったことを通知する警報器17をさらに備えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、従来よりも被測定物の保守計画を立てやすいように絶縁抵抗の状態を監視することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 三相交流電源
2 回路遮断器
3 三相モータ
4 零相変流器
5 地絡方向継電器
6 計器用変圧器
7 地絡過電圧継電器
8 絶縁抵抗監視装置
9 制御装置
10 処理装置
11 絶縁抵抗計算器
12 絶縁抵抗予測器
13 絶縁寿命予測器
14 記憶装置
15 比較器
16 表示装置
17 警報器
18 通信装置
L 電力線
図1
図2
図3
図4
図5