(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】射出発泡成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20241119BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B29C44/00 D
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2020190047
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004347
【氏名又は名称】弁理士法人大場国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(72)【発明者】
【氏名】有馬 祐一朗
(72)【発明者】
【氏名】宮本 和明
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕一郎
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205942(JP,A)
【文献】特開2012-035585(JP,A)
【文献】特開平08-336853(JP,A)
【文献】特開2012-051268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡材料を含む溶融樹脂を、発泡させない圧力範囲を維持させた状態で、スクリュ前方の貯留部に貯留させる計量工程と、
金型キャビティ及び前記貯留部が連通状態において、前記貯留部に所定量の前記溶融樹脂を残した状態で、
前記金型キャビティ内に前記溶融樹脂をフルパック充填させるとともに、
前記貯留部に残した前記溶融樹脂の圧力が、前記圧力範囲に維持されるスクリュ停止位置L1で、前記スクリュを停止させる射出充填工程と、
前記スクリュ停止位置L1に前記スクリュを位置保持させるスクリュ位置保持工程と、
を備え、
前記スクリュ位置保持工程において、前記連通状態にある前記金型キャビティ及び前記貯留部の容積が一定に維持されて、前記金型キャビティに充填された前記溶融樹脂を発泡させることを特徴とする射出発泡成形方法。
【請求項2】
前記スクリュ位置保持工程の後、
前記金型キャビティ及び前記貯留部が前記連通状態において、前記スクリュ停止位置L1から、前記スクリュを所定前進力F1で前進させるスクリュ再前進工程1をさらに備え、
前記所定前進力F1での前記スクリュの前進により、前記貯留部の前記溶融樹脂の圧力が、前記圧力範囲に維持され
るとともに、前記金型キャビティの容積が一定に維持されて、前記金型キャビティに充填された前記溶融樹脂を発泡させることを特徴とする、請求項1に記載の射出発泡成形方法。
【請求項3】
前記スクリュ位置保持工程の後、
前記金型キャビティ及び前記貯留部が前記連通状態において、前記スクリュ停止位置L1から、前記スクリュを所定前進速度V1で前進させるスクリュ再前進工程2をさらに備え、
前記所定前進速度V1での前記スクリュの前進により、前記貯留部の前記溶融樹脂の圧力が、前記圧力範囲に維持され
るとともに、前記金型キャビティの容積が一定に維持されて、前記金型キャビティに充填された前記溶融樹脂を発泡させることを特徴とする、請求項1に記載の射出発泡成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡材料を含む溶融樹脂を金型キャビティ内に射出充填させて、発泡成形品を成形する射出発泡成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡成形品を成形する射出発泡成形方法は大きく分けて二つの方法がある。一つの方法は、射出装置内で可塑化(溶融)させた、発泡材料を含む溶融樹脂を、金型を型締めすることにより形成される金型キャビティ内に、該金型キャビティを満たさない容量を射出充填(所謂、ショートショット充填)させた後、溶融樹脂に含まれる発泡材料の発泡膨張による溶融樹脂の容積増加分で、最初の射出充填での未充填部を含み、金型キャビティを満たす方法である。一例として特許文献1がある。この方法を本願では「SS(ショートショット)発泡成形方法」と呼称する。
【0003】
もう一つの方法は、発泡材料を含む溶融樹脂を射出充填させて金型キャビティを満たした(所謂、フルパック充填)後、金型キャビティの容積拡張によって、溶融樹脂に含まれる発泡材料を発泡膨張させる方法である。一例として特許文献2がある。この方法を本願では「CB(コアバック)発泡成形方法」と呼称する。
【0004】
CB発泡成形方法における金型キャビティの容積拡張は、シェアエッジ構造の金型を使用して、可動型を固定型から所定量型開きさせる方法が多く採用される。金型のシェアエッジ構造とは、くいきり構造、あるいはインロー構造等と呼称されることもあり、金型の分割面を形成する嵌合部の構造として一般的に知られた構造である。型開閉方向に伸びて、互いに摺動しながら挿脱することのできる嵌合部を、固定型と可動型の間に形成することによって、所定量、金型を型開きさせても金型キャビティが開放されず、金型キャビティ内に射出充填された溶融樹脂が金型外に漏れ出すことを防止することができる構造である。
【0005】
前者のSS発泡成形方法はショートショット充填であるため、大きな射出充填圧力が不要となるメリットがある。しかしながら、溶融樹脂に含まれる発泡材料の発泡膨張力のみで、射出充填時の金型キャビティ内の未充填部に溶融樹脂が充填されるため、充填不良や外観品質に不良(転写不良)が生じるという問題がある(特許文献1の明細書の段落0003及び0004)。
【0006】
また、SS発泡成形方法においては、金型キャビティ内に充填された溶融樹脂の圧力が全く制御されていないために、溶融樹脂に含まれる発泡材料の発泡膨張は成り行きで行われる。そのために、金型キャビティ内の溶融樹脂の流動先端部は圧力が極端に低く、発泡膨張を抑制することができずに気泡(発泡セル)は粗大化し破裂してしまうこともある。あるいは、射出充填時の未充填部を発泡膨張による溶融樹脂の容積拡張のみで満たすために、気泡は大きく成長し粗大化する。その一方で、金型キャビティ内のゲート近傍部の溶融樹脂は圧力が高く気泡は発生しないか、発生しても小さいままで適切なサイズに成長しない。その結果、発泡成形品内における発泡倍率や気泡径の分布が不均一(偏在)にならざるを得ない。
【0007】
後者のCB発泡成形方法は、フルパック充填後に金型キャビティの容積を拡張させて、金型キャビティ内の圧力を低下させる制御された動作により、溶融樹脂に含まれる発泡材料の発泡膨張を行わせる。そのため、SS発泡成形方法による発泡成形品と比較して、フルパック充填により外観品質(転写性)に優れる。また、トグル式型締機構を備えた型締装置で、可動盤を型開方向に移動させて行う、高精度な金型キャビティの容積拡張により、圧力低下を高精度に制御でき、発泡成形品の発泡倍率、気泡径や発泡成形品厚み等を高精度で制御可能である(特許文献2の明細書の段落0002及び0003)。さらに、この金型キャビティの容積拡張は、金型キャビティの容積を、発泡成形品の厚み方向に均一に拡張させるため、発泡成形品内における発泡倍率や気泡径の分布が均一になる。しかしながら、通常の金型に対して、シェアエッジ構造の金型はコスト高であるというデメリットがある。
【0008】
一方、前者のSS発泡成形方法のデメリットを解消することを目的としたSS発泡成形方法が開示されている。一例として特許文献3がある。特許文献3の発泡成形品の製造方法においては、金型キャビティ内に発泡材料を含む溶融樹脂を射出充填(金型キャビティ容積の60%以上)させた後、スクリュを射出充填完了位置から後退させるプルバック工程を行わせる。このプルバック工程により、金型キャビティ内に射出充填した溶融樹脂を射出装置のノズル側に逆流させて、金型キャビティの流動先端部の溶融樹脂内に偏在する気泡(発泡セル)を、金型キャビティの流動開始側(射出装置のノズル側)に移動させて、気泡(発泡セル)の位置を制御できるとしている(特許文献3の明細書の段落0010及び0011)。当然ながら、このプルバック工程は、金型キャビティ及び射出装置を、射出ノズルを介して連通させた状態で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平08-103919号公報
【文献】特開2008-143061号公報
【文献】特開2020-111029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3のプルバック工程により、金型キャビティの流動先端部の溶融樹脂内の気泡(発泡セル)を、流動経路の任意の部位、例えば、金型キャビティのゲート近傍部等まで移動させるためには、これに対応するプルバックストロークが必要となる。プルバックストロークが少なければ、流動先端部の溶融樹脂内の気泡(発泡セル)は、わずかに流動先端部から流動開始側(ゲート部側)に移動するだけである。プルバックストロークが多ければ、流動先端部の樹脂量不足による充填不良が発生する。そのため、特許文献3の発泡成形品の製造方法は、流動先端部の気泡(発泡セル)の位置の制御はある程度可能であったとしても、発泡成形品内における発泡倍率や気泡径の分布が不均一(偏在)になることを抑制するには不十分だと言わざるを得ない。
【0011】
また、このプルバック工程による溶融樹脂の圧力低下も問題となる。最も圧力低下が大きいのは、金型キャビティ内ではなく、射出装置のスクリュ前方の貯留部の溶融樹脂である。回転及び前進・後退可能に構成されたスクリュを内蔵するインラインスクリュ式射出装置では、計量工程において、スクリュを回転させることにより樹脂材料を可塑化(溶融)させると共に、溶融樹脂をスクリュの前方へ流動させる。スクリュ前方の溶融樹脂の容量の増加に伴い、スクリュを、所定の抵抗力(背圧)を付与させた状態で後退させて、スクリュ前方に、1回の射出充填に必要な量の溶融樹脂を背圧に準じた圧力で貯留させる。このように、可塑化された溶融樹脂が貯留される、射出装置内のスクリュ前方の空間を貯留部と呼称する。
【0012】
次に圧力低下が大きいのは、金型キャビティのゲート近傍部の溶融樹脂である。そのため、このプルバック工程は、流動先端部の溶融樹脂内の気泡(発泡セル)を流動開始側(ゲート部側)に移動させることと引き換えに、先に説明した大きな圧力低下に伴い、金型キャビティのゲート部近傍及び射出装置の貯留部の溶融樹脂に大きな気泡(発泡セル)を成長させる。その結果、特許文献3の発泡成形品の製造方法により成形される発泡成形品は、発泡成形品内における発泡倍率や気泡径の分布が不均一(偏在)になる、すなわち、気泡(発泡セル)の粗大領域と未発泡領域が混在する、表面転写性が悪い不良品となってしまう。
【0013】
また、このプルバック工程により、射出装置の貯留部の溶融樹脂に発生した大きな気泡(発泡セル)は、気泡状態を維持できす破裂する。気泡から溶融樹脂中に流出した発泡性ガスは、一連の成形サイクルの範囲内では溶融樹脂中に全てが再溶融されることはない。そのため、発泡性ガスがまとまって一体化したり、あるいは、溶融樹脂と完全に分離したり、射出装置の外部に放出されたりする。次の射出充填において、前者の場合は、一体化した発泡性ガスが金型キャビティ内にそのまま充填され、内部に粗大な空洞を有した粗悪な発泡成形品の要因となる。あるいは、射出充填中に一体化した気泡が破裂するとスワルマーク等の発泡成形品の外観不良の要因となる。後者の場合は、発泡性材料が消失し、気泡(発泡セル)が発生しない溶融樹脂が、貯留部に新たに貯留される発泡材料を含む溶融樹脂と混錬されずに貯留部に貯留された後、金型キャビティ内に射出充填される。そのため、気泡(発泡セル)が発生しない溶融樹脂が、特に流動先端部に充填されて未発泡部分が形成されてしまう。
【0014】
本発明は、金型キャビティの容積を拡張させることなく、発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形する射出発泡成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明に係る一の射出発泡成形方法は、発泡材料を含む溶融樹脂を、発泡させない圧力範囲を維持させた状態で、スクリュ前方の貯留部に貯留させる計量工程と、
前記貯留部に所定量の前記溶融樹脂を残した状態で、金型キャビティ内に前記溶融樹脂をフルパック充填させるとともに、
前記貯留部に残した溶融樹脂の圧力が、前記圧力範囲に維持されるスクリュ停止位置L1で、前記スクリュを停止させる射出充填工程と、
前記スクリュ停止位置L1に前記スクリュを位置保持させるスクリュ位置保持工程と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る一の射出発泡成形方法において、前記スクリュ位置保持工程の後、前記スクリュ停止位置L1から、前記スクリュを所定前進力F1で前進させるスクリュ再前進工程1をさらに備え、
前記所定前進力F1での前記スクリュの前進により、前記貯留部の前記溶融樹脂の圧力が、前記圧力範囲に維持されても良い。
【0017】
本発明に係る一の射出発泡成形方法において、前記スクリュ位置保持工程の後、前記スクリュ停止位置L1から、前記スクリュを所定前進速度V1で前進させるスクリュ再前進工程2をさらに備え、
前記所定前進速度V1での前記スクリュの前進により、前記貯留部の前記溶融樹脂の圧力が、前記圧力範囲に維持されても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金型キャビティの容積を拡張させることなく、発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形する射出発泡成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る射出発泡成形方法の、射出充填完了から発泡成形品の冷却固化までの、金型の金型キャビティ、及び、射出装置の貯留部の内部を示す概略側面断面図である。
【
図2】第2実施形態に係る射出発泡成形方法の、スクリュ再前進工程における、金型の金型キャビティ、及び、射出装置の貯留部の内部を示す概略側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1を参照しながら本発明の第1実施形態に係る射出発泡成形方法を説明する。
図1は、第1実施形態に係る射出発泡成形方法の、射出充填完了から発泡成形品の冷却固化までの、金型の金型キャビティ、及び、射出装置の貯留部の内部を示す概略側面断面図である。なお、本発明は、インラインスクリュ式射出装置を備える標準的な射出成形機を前提とするため、射出成形機の射出装置や型締装置等の説明は割愛する。
【0022】
図1(a)は、射出充填工程完了直後の、金型10の金型キャビティ11、及び、射出装置20の貯留部21内を示す。本願発明の理解を容易にするために、金型10を型締めすることにより形成される金型キャビティ11を単純な長方形として図示している。さらに、金型キャビティ11を、射出装置20が金型10にドッキングしている金型キャビティ11のゲート部側から、ゲート部領域FG、流動中間領域FM、及び、流動先端領域FEの三つの領域に分けて説明するものとする。
【0023】
射出装置20については、貯留部21以外に、スクリュ22、フライト22a、チェックリング22bのみ図示している。チェックリング22bは、インラインスクリュ式射出装置に採用される一般的な逆止弁である。計量工程においては、スクリュ22の回転によって前方(
図1(a)の左側)に流動される溶融樹脂の押圧力でチェックリング22bは前方に移動され、溶融樹脂のスクリュ22前方への樹脂流路を開く。そして、射出充填工程においては、前進するスクリュ22による貯留部21の溶融樹脂の圧力によりチェックリング22bは後方へ移動され、チェックリング22bより後方への樹脂流路を閉じ、射出充填時の貯留部21より後方への溶融樹脂の逆流を防止する。
【0024】
最初に、計量工程を説明する。図示はしていないが、計量工程においては、発泡させない圧力範囲を維持させた状態で、発泡材料を含む溶融樹脂の可塑化溶融と混錬を行い、スクリュ22前方の貯留部21に所定量を貯留させる。先に説明したように、スクリュ22を後退させる際に付与させる、所定の抵抗力(背圧)により、発泡させない圧力範囲を維持させる。発泡材料は、ペレット状の樹脂材料に予め混錬される化学発泡剤や熱膨張マイクロカプセル、あるいは、種々の方法や装置で、射出装置20内の溶融樹脂に混入させる窒素や二酸化炭素等の物理発泡剤のいずれであっても良い。また、発泡させない圧力範囲は、発泡剤種類や添加量、樹脂温度等により異なる。例えば、化学発泡剤の場合は、樹脂材料を可塑化させる過程において、化学発泡剤の熱分解で発生する発泡性ガスの圧力よりも高い範囲とすることが好ましい。一方、物理発泡剤の場合は、窒素や二酸化炭素を溶融樹脂へ溶解させるのに必要な供給圧力(例えば1~15MPa)よりも高い範囲とすることが好ましい。
【0025】
発泡材料に依らず、射出充填工程開始から、後述するスクリュ位置保持工程完了まで、貯留部21内の溶融樹脂を発泡させない圧力とすることが好ましい。仮に、計量工程が完了した、射出充填工程開始直前の貯留部21の溶融樹脂の圧力をPS0(ゼロ)とし、このPS0が、上記のような発泡させない圧力範囲に含まれるものとする。そして、射出装置20の図示しない加熱手段により溶融状態が維持される、射出充填工程開始直前の貯留部21の溶融樹脂の温度をTS0(ゼロ)とする。
【0026】
次に、計量工程の完了後、射出充填工程を行わせる。射出充填工程においては、貯留部21の溶融樹脂が金型キャビティ11内にフルパック充填される。当然ながら、貯留部21及び金型キャビティ11は、射出装置20の射出ノズル(詳細の図示は割愛)及び金型10の金型内樹脂流路(詳細な図示は割愛)を介して連通状態にある。ここで、貯留部21の溶融樹脂を発泡させない圧力範囲に維持させるためには、射出充填工程を除く他の工程においては貯留部21を密閉状態とし、射出充填工程のみ、貯留部21及び金型キャビティ11を連通状態とすることが可能な、射出装置20及び金型10の構成の組み合わせが選択されることが好ましい。この組み合わせにより貯留部21の範囲が異なる。これを簡単に説明する。
【0027】
金型側のゲート部(金型内樹脂流路と金型キャビティの連結する部位)が常時開放のオープンゲートの場合には、射出装置20側の射出ノズルの先端部(金型内樹脂流路との連結する部位)には、溶融樹脂流動を遮断・開放する弁機構(シャットオフバルブ等)を備えて、貯蔵部21の圧力維持を図る。この場合の貯蔵部21は、スクリュ22前端からシャットオフバルブ間となる。なお、シャットオフバルブから先の金型内樹脂流路とゲート部に残る樹脂は、発泡成形品と一緒に金型10から取り除かれる。
【0028】
金型側のゲート部が溶融樹脂流動を遮断・開放する弁機構(ゲートバルブ等)を備える場合には、射出ノズルは常時開放の形態(オープンノズル等)やシャットオフバルブ等の弁機構を備える形態のどちらでも良い。この場合、貯留部21の圧力の均一化のために、貯留部21の圧力維持は金型側のゲート部の弁機構の閉鎖で行い、射出ノズルのシャットオフバルブは常時開放に設定されることが好ましい。この場合の貯留部21は、スクリュ22前端から金型内樹脂流路を含むゲートバルブ間となり、金型キャビティ11内の発泡成形品のみが金型10から取り除かれる。なお、金型内樹脂流路の溶融樹脂は射出装置20と同様に温度調整される。
【0029】
ここで、本願発明の射出充填工程は、
図1(a)に示すように、貯留部21に所定量の溶融樹脂を残した状態で、金型キャビティ11内に溶融樹脂をフルパック充填させるとともに、貯留部21に残した溶融樹脂の圧力が、先に計量工程において説明した、発泡させない圧力範囲に維持されること、そして、これら双方の条件を満たすスクリュ停止位置L1で、スクリュ22の前進を停止させることを特徴とする。
図1(a)は、射出充填工程完了直後の、金型10の金型キャビティ11、及び、射出装置20の貯留部21の内部を示す。
【0030】
ここで、フルパック充填とは、一般的には、金型キャビティ11内を全て溶融樹脂で満たすことを意味する。一方、本願発明においては、フルパック充填の際、貯留部21に所定量の溶融樹脂を残している。この時の貯留部21に残した溶融樹脂の圧力をPS1とする。金型キャビティ11内の溶融樹脂の流動抵抗により、射出充填工程開始からの時間経過に伴い、貯留部21の溶融樹脂の圧力は漸次上昇する。したがって、フルパック充填の際の貯留部21の溶融樹脂の圧力PS1は、射出充填工程開始直前の貯留部21の溶融樹脂の圧力PS0よりは大きくなる(PS0<PS1)。そのため、PS1は、発泡させない圧力範囲に維持される。また、貯留部21内の溶融樹脂は、射出装置20や金型10に配置される加熱手段により一定に温度制御される。そのため、射出充填工程完了直後の貯留部21の溶融樹脂の温度TS1は、射出充填工程開始直前の温度TS0と同じに温度に制御されている。
【0031】
実際の金型キャビティは、
図1(a)に示す単純な形状の金型キャビティ11とは異なる。成形品を模したもっと複雑な形状の金型キャビティにおいては、樹脂が流動する部分毎の流動断面積や流動流路の湾曲度等による流動抵抗の変化、また、金型キャビティのゲート部からの流動距離等によって変化する溶融樹脂の粘度等による流動抵抗の変化により、金型キャビティ内の溶融樹脂の圧力は流動部位や領域によって異なる。しかしながら、一般的には、金型キャビティ内にフルパック充填された溶融樹脂の圧力は、ゲート部が最も高く、流動先端部が一番低い。同様に、金型キャビティ内にフルパック充填された溶融樹脂の温度は、金型キャビティ内の流動距離が一番短いゲート部が最も高く、流動距離が一番長い流動先端部が一番低い。
【0032】
そこで、フルパック充填直後の、ゲート部領域FG、流動中間領域FM、及び、流動先端領域FEの三つの領域の溶融樹脂の圧力/温度をそれぞれ、PG1/TG1、PM1/TM1、PE1/TE1とすると、貯留部21の溶融樹脂の圧力PS1/温度TG1と、上記三領域の圧力/温度と関係は、PE1<PM1<PG1<PS1、及び、TE1<TM1<TG1<TS1、となる(
図1(a)参照)。そして、射出充填工程を完了させた直後においては、溶融樹脂の圧力が発泡させない圧力範囲よりも小さくなった時点で、溶融樹脂内の発泡材料から発泡膨張を開始する。したがって、最も圧力と温度が低い、流動先端領域FEの流動先端部の溶融樹脂が発泡膨張の開始点となる。
【0033】
ここで発泡膨張とは、溶融樹脂に溶解している発泡材料の発泡性ガスが、溶融樹脂から放出される際の、発泡核の形成、発泡セルの生成、発泡セルの成長、と変化する過程である。この発泡膨張の各過程が適切に制御されることにより、無数の気泡を有した発泡成形品を得ることができる。
図1においては、発泡核の形成から発泡セルの発生及び成長をイメージして、発泡核及び小さな発泡セルを黒小丸、成長中、あるいは、成長した発泡セルを白抜き小丸で図示している。なお、これら黒小丸や白抜き小丸が描かれていない領域は溶融樹脂に満たされており、且つ、それら溶融樹脂には発泡膨張が生じておらず、発泡セルも無いものと理解されたい。また、金型キャビティ11の内面から少し離間して一点鎖線が描画されている。この一点鎖線及び金型キャビティ11の内面間は、溶融樹脂の射出充填に際して、金型キャビティ11の内面に溶融樹脂が接触して抜熱されて形成されるスキン層12をイメージしているものと理解されたい。そして、時間経過を示すために、PG1/TG1他、各項目について付している数字「1」を、以後、時間経過の順に「2」、「3」と変更するものとする。
【0034】
ここで、本願発明は、射出充填工程の後、スクリュ停止位置L1にスクリュ22を位置保持させるスクリュ位置保持工程を備えることを特徴とする。具体的には、スクリュ22を前進・後退させる駆動機構の駆動源(図示せず)により所定の位置保持力を発生させて、スクリュ22をスクリュ停止位置L1に所定時間、位置保持させる制御が行われる。このスクリュ位置保持工程により、射出充填工程完了直後から、連通状態にある金型キャビティ11及び貯留部21の容積が一定に維持される。
【0035】
一方、温度が一定に制御される、貯留部21内の溶融樹脂に対して、貯留部21と連通する金型キャビティ11の上記三領域においては、時間経過に伴い、溶融樹脂の温度が漸次低下していく。
【0036】
そのため、射出充填工程の完了直後に、最も温度の低い流動先端領域FEの流動先端部の溶融樹脂内に成長した発泡セルは、時間経過に伴う溶融樹脂の温度低下に起因する溶融樹脂の粘度の上昇によりその成長が抑制される。さらに、溶融樹脂の粘度が発泡セル内の発泡性ガスの圧力よりも高くなると、発泡セルの成長は粗大になる前に停止し、微細な発泡セルの集合体を得る。これに対して、流動中間領域FM及びゲート部領域GMの溶融樹脂、あるいは、貯留部21の溶融樹脂の温度は高い状態にあるものの、溶融樹脂の圧力が、発泡させない圧力範囲の下限よりも十分に高い状態にあるので、これら領域の溶融樹脂の発泡膨張は開始されず、発泡材料の発泡性ガスは溶融樹脂内に溶解されたままの状態である(
図1(a)参照)。
【0037】
図1(b)に、溶融樹脂の冷却固化中の、金型10の金型キャビティ11、及び、射出装置20の貯留部21の内部を示す。
図1(a)に示す状態よりも時間が経過した
図1(b)においては、金型キャビティ11の流動先端領域FEの圧力低下に伴い、隣接する流動中間領域FMの圧力も順次低下し、発泡させない圧力範囲よりも小さくなると、流動中間領域FMの流動中間部の溶融樹脂は発泡膨張を開始し、発泡核が形成され発泡セルへと成長していく。このように、圧力低下の伝播によって発泡膨張を開始する領域が、流動先端領域FEからゲート部領域FGに順次移行していく。
【0038】
また、発泡膨張の移行と同時に、時間経過に伴う溶融樹脂の温度低下に起因する溶融樹脂の粘度の上昇により、発泡セルの成長が抑制され、溶融樹脂の粘度が発泡セル内の発泡性ガスの圧力よりも高くなると、発泡セルの成長は粗大になる前に停止し、流動中間領域FMは微細な発泡セルの集合体を得る(
図1(b)参照)。
【0039】
流動先端領域FEから流動中間領域FMにかけて、溶融樹脂の圧力及び温度の均一化が進行し、流動先端部領域FEは発泡セルの成長がほぼ停止し、流動中間領域FMにおいては、部分的に発泡核の形成と発泡セルの成長が混在して進行している。そして、この時の貯留部21の溶融樹脂の温度TS2は、TS1と同様に、射出充填工程開始直前の温度TS0と同じに温度に制御されている。
【0040】
この時の貯留部21及び金型キャビティ11内の三つの領域の溶融樹脂の圧力/温度の関係は、PE2≦PM2<PG2<PS2、及び、TE2≦TM2<TG2<TS2、となる(
図1(b)参照)。当然ながら、時間経過に伴う、流動先端領域FEの溶融樹脂の圧力/温度の関係は、PE1>PE2、及び、TE1>TE2となる(
図1(b)参照)。他の領域においても、同様に、符号「1」が付されている項目のほうが、符号「2」が付されている項目よりも数値が高い。また、
図1(a)と同様に、黒小丸や白抜き小丸が描かれていない領域の溶融樹脂には発泡膨張が生じておらず、発泡セルも無い。当然ながら、貯留部21の溶融樹脂の圧力PS2も、発泡させない圧力範囲に維持されている。
【0041】
一方、発泡セルの成長が停止した
図1(b)の流動先端領域FEは、溶融樹脂の温度低下がさらに進行し、溶融樹脂の冷却固化収縮が始まる。この冷却固化収縮に伴い、発泡セルも含め縮小して溶融樹脂の容積が減少する。この時、溶融樹脂の冷却固化収縮により減少した容積に準じて、溶融樹脂の圧力及び温度が高い隣接した流動中間領域FMから流動先端領域FEに向けて溶融樹脂の補充が行われる。さらに、圧力及び温度の高いゲート部領域FGから、補充で減少した容積に準じて流動中間領域FMに向けて溶融樹脂の補充が行われる。この溶融樹脂の補充の連鎖によって、
図1(b)の矢印で示すように順次溶融樹脂が供給される。
図1(b)においては、ゲート部領域FGから流動中間領域FMに、貯留部21からゲート部領域FGに、溶融樹脂が連続して供給される。また、溶融樹脂の補充の連鎖は、溶融樹脂の圧力低下の伝播ともなる。
【0042】
このような、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う容積減少が、金型キャビティ11内の、ゲート部側の溶融樹脂の圧力及び温度が高いという圧力/温度偏差を利用して、ゲート部側から流動先端部への一方向に溶融樹脂の補充が順次行われることにより、人為的な制御等ではない自然な溶融樹脂の供給が行われる。同時に、補充された溶融樹脂の圧力低下により、溶融樹脂内の発泡核の形成と発泡セルの生成及び発泡セルの成長が順次行われ、補充された溶融樹脂の温度低下により、溶融樹脂内の発泡セルの成長の停止が順次行われる。これらの挙動は、流動先端領域FEからゲート部領域FGに向かって順次進行し、発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品の成形に寄与する。
【0043】
図1(c)に、溶融樹脂の冷却固化完了直前の、金型10の金型キャビティ11、及び、射出装置20の貯留部21の内部を示す。
図1(c)においては、
図1(b)において、貯留部21から溶融樹脂の圧力/温度偏差により、ゲート部領域FGに供給された溶融樹脂において、他の領域と同様の溶融樹脂の圧力低下により発泡膨張が開始し、溶融樹脂の温度低下により、発泡セルの成長が停止している。その結果、流動先端領域FEからゲート部領域FGまでの金型キャビティ11全領域において、溶融樹脂の圧力及び温度の均一化が進行し、全領域の発泡セルの成長が、発泡倍率や気泡径の分布が均一な状態で停止している。そして、この時の貯留部21の溶融樹脂の温度TS3は、TS1、TS2と同様に、射出充填工程開始直前の温度TS0と同じに温度に制御されている。
【0044】
この時の貯留部21及び金型キャビティ11内の三つの領域の溶融樹脂の圧力/温度の関係は、PE3≒PM3≦PG3<PS3、及び、TE3≒TM3≦TG3<TS3、となる(
図1(c)参照)。当然ながら、時間経過に伴う、流動先端領域FEの溶融樹脂の圧力/温度の関係は、PE2>PE3、及び、TE2>TE3となる。他の領域においても、同様に、符号「2」が付されている項目のほうが、符号「3」が付されている項目よりも数値が高い。一方、
図1(a)、
図1(b)と同様に、黒小丸や白抜き小丸が描かれていない貯留部21の溶融樹脂には発泡膨張が生じておらず、発泡セルも無い。当然ながら、貯留部21の溶融樹脂の圧力PS3も、発泡させない圧力範囲に維持されている。
【0045】
スクリュ位置保持工程は、金型キャビティ11内の溶融樹脂の温度が、同溶融樹脂の熱変形温度以下に到達したタイミング、すなわち、第1実施形態においては、最も温度低下が遅いゲート部領域FGの溶融樹脂の温度TG3が、同溶融樹脂の熱変形温度以下に到達したタイミングを目安に完了させることが好ましい。また、樹脂の種類や製品形状等によっては、熱変形温度に代わり、ガラス点移点温度を用いても良い。さらには、製品寸法や製品強度を満足できる冷却固化温度まで、金型キャビティ11内の発泡成形品を冷却させるのに必要な時間が経過したタイミングを目安としても良い。このタイミングを溶融樹脂の冷却固化完了とする。金型キャビティ11内の溶融樹脂の圧力も全領域において同等となる。なお、第1実施形態においては、貯留部21の溶融樹脂の圧力を発泡させない圧力範囲に維持させるために、スクリュ位置保持工程完了後、金型キャビティ11と貯留部との連通状態を解除し、貯留部21を密閉状態とした後に、金型を型開きさせて発泡成形品が取り出される。
【0046】
これまで説明したように、第1実施形態の射出発泡成形方法においては、貯留部21及び金型キャビティ11を連通させた状態においてフルパック充填させることにより、SS発泡成形方法に対して、充填不良や外観品質不良(転写不良)を抑制した転写性に優れた発泡成形品を成形することができる。
【0047】
また、射出充填工程において、貯留部11内の溶融樹脂の圧力が、発泡させない圧力範囲に維持されることで、射出充填工程後のスクリュ位置保持工程において、金型キャビティ11内の溶融樹脂に、継続的な樹脂圧の付与と、冷却固化収縮による溶融樹脂の容積減少分の継続的な供給と、が行われる。その結果、金型キャビティの容積を拡張させることなく、発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形することができる。
【0048】
そして、スクリュ位置保持工程が完了した時点においても、貯留部21内の溶融樹脂の圧力が、発泡させない圧力範囲に維持されるため、貯留部21内の溶融樹脂を発泡させることなく、次の射出成形工程において、貯留部21内の溶融樹脂を、発泡材料を含む溶融樹脂として金型キャビティ11に射出充填させることができる。その結果、全ての部位において発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形することができる。
【0049】
なお、射出充填工程において、金型キャビティ11内に溶融樹脂をフルパック充填させた際に貯留部21に残す溶融樹脂の所定量は、貯留部21内の溶融樹脂の圧力範囲を”発泡させない圧力範囲”とすること、スクリュ22のスクリュ停止位置L1が確保できること、圧力/温度偏差に基づいて金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う溶融樹脂の供給が確実にできること、スクリュ位置保持工程が完了した時点で、次の射出成形工程のために、発泡させない圧力範囲に維持された溶融樹脂が確保できていること、あるいは、第1実施形態における射出充填工程の上記条件を満たすために必要な、計量工程における溶融樹脂量等を鑑み、試験成形等で好適な量を決定することが好ましい。
【0050】
[第2実施形態]
次に、
図2を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る射出発泡成形方法を説明する。
図2は、第2実施形態に係る射出発泡成形方法の、スクリュ再前進工程における、金型の金型キャビティ、及び、射出装置の貯留部の内部を示す概略側面断面図である。第2実施形態に係る射出発泡成形方法が第1実施形態に係る射出発泡成形方法と異なる点は、スクリュ位置保持工程の後、スクリュ停止位置L1から、スクリュ22を前進させるスクリュ再前進工程をさらに備える点である。
【0051】
まず、スクリュ22を所定前進力F1で前進させるスクリュ再前進工程1について説明する。ここで、
図2(a)は、第1実施形態で説明した
図1(b)に相当する状態を示す。具体的には、流動先端領域FEから流動中間領域FMにかけて、溶融樹脂の圧力及び温度の均一化が進行し、流動先端領域FEの発泡セルの成長がほぼ停止し、流動中間領域FMにおいて、部分的に発泡核の形成と発泡セルの発生と成長とが混在して進行している状態である。
【0052】
先に説明したとおり、発泡セルの成長が停止した流動先端領域FEは、溶融樹脂の温度低下がさらに進行し溶融樹脂の冷却固化収縮が始まる。この冷却固化収縮に伴い、発泡セルも含め縮小して溶融樹脂の容積が減少する。そのため、
図2(a)において、
図1(b)及び
図1(c)と同様に、溶融樹脂の冷却固化収縮により減少した容積に準じて、流動中間領域FMから流動先端領域FE、ゲート部領域FGから流動中間領域FMに、貯留部21からゲート部領域FGに、溶融樹脂が連続して供給され、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化進行に伴う容積減少分の溶融樹脂が補われる。
【0053】
このとき、上記のような溶融樹脂の供給が、溶融樹脂の種類や、金型キャビティ11の形状等によって異なり、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う容積減少分に対して不足する場合がある。例えば、
図2(a)に示すように、流動中間領域FMと流動先端領域FEの溶融樹脂の圧力差が小さい場合、または、ゲート部領域FGと流動中間領域FMの圧力差が小さい場合である(PE2≦PM2≦PG2)。あるいは、各領域の溶融樹脂の温度差が小さい場合である(TE2≦TM2≦TG2)。そのような場合、溶融樹脂の冷却固化収縮に準じた溶融樹脂の供給が適切に行われず、充填不良や外観品質不良(転写不良)及び発泡倍率や気泡径が不均一で品質の悪い発泡成形品となる。
【0054】
このような場合に、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、スクリュ再前進工程1を行わせる。具体的には、貯留部21からゲート部領域FGへの圧力/温度偏差を利用した溶融樹脂の供給量を、スクリュ22をスクリュ停止位置L1(
図2(a))から所定前進力F1で前進させることにより、貯留部21内の溶融樹脂を用いて、溶融樹脂の供給量を、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う容積減少分に見合う供給量まで増加させるものである。
【0055】
この時、スクリュ22の所定前進力F1(
図2(a))は、試験成形等で好適な大きさを求めても良いが、スクリュ再前進工程1において、金型キャビティ11内の溶融樹脂に圧力/温度偏差を与えて冷却固化収縮に伴う溶融樹脂の供給が溶融樹脂の冷却完了まで確保でき、貯留部21の溶融樹脂の圧力を、発泡させない圧力範囲の下限を目安に維持させることができる大きさが好ましい。その下限が好ましいとするのは、冷却固化収縮を超える溶融樹脂の供給により、金型キャビティ11内の、溶融樹脂が過剰供給された部位の圧力が、発泡させない圧力範囲まで過大に上昇して、溶融樹脂の発泡膨張が生じ難くなる発泡不良の発生を回避するためである。
【0056】
上記のようなスクリュ再前進工程1により、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う容積減少分が、圧力/温度偏差を利用した、溶融樹脂の自然な供給状態を大きく変化させることなく補われ、第1実施形態と同様に、金型キャビティ11内の溶融樹脂の圧力/温度偏差が維持される。そして、溶融樹脂内(第2実施形態においては流動中間領域FM)の発泡核の形成と発泡セルの生成及び発泡セルの発生量や、発泡セルの粗大化を抑制し、発泡セルの発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形することができる。これを
図2(b)に示す。
図2(b)は、第1実施形態で説明した
図1(c)に相当する、溶融樹脂の冷却固化完了直前の状態を示す。
【0057】
なお、第2実施形態では、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う容積減少による溶融樹脂の供給不足が、流動中間領域FMにおいて発生することを前提とした。しかしながら、このような溶融樹脂の供給不足が発生する場合、どの領域において発生するか、すなわち、スクリュ位置保持工程開始から発生するタイミングは溶融樹脂の種類や、金型キャビティ11の形状等によって異なる。そのため、溶融樹脂の供給不足が発生するか否か、また、発生する場合、発泡成形品のどの領域に発生するかを、第1実施形態において説明した射出発泡成形方法での試験成形により確認し、スクリュ再前進工程1の要否と、必要な場合、スクリュ位置保持工程の開始後の、スクリュ再前進工程1を開始するタイミングを決定することが好ましい。また、所定前進力F1を固定値としたが、金型キャビティ11内の溶融樹脂の時間経過に伴う溶融粘度の上昇に起因するスクリュ22の前進抵抗力の上昇、あるいは、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化する範囲の進行に伴う溶融樹脂の供給量の減少等に対応させて、必要に応じて多段の圧力を設定しても良い。
【0058】
また、スクリュ再前進工程1は、スクリュ停止位置L1からのスクリュ22の移動距離(前進距離)ではなく、金型キャビティ11内の溶融樹脂が冷却固化する時点(移動時間/前進時間)を目安に完了されることが好ましい。具体的には、先に、第1実施形態で説明したように、最も温度低下が遅いゲート部領域FGの溶融樹脂の温度TG3が、同溶融樹脂の熱変形温度以下に到達したタイミングを目安に完了させても良い。あるいは、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化が進行し、所定前進力F1によるスクリュ22の前進が困難になったタイミング、すなわち、所定前進力F1よりも、金型キャビティ11内の溶融樹脂の流動抵抗力の方が大きくなったタイミングを目安に完了させても良い。いずれの場合も、スクリュ再前進工程1を終え、貯留部21を密閉状態とした後に、金型を型開きさせて金型キャビティ11から発泡成形品を取り出す際に、変形等の問題が発生しない強度に発泡成形品が到達していれば、より成形サイクルが短くなるタイミングの方が選択されれば良い。
【0059】
次に、スクリュ22を所定前進速度V1で前進させるスクリュ再前進工程2について説明する。スクリュ再前進工程1との差異は、スクリュ22の再前進において、スクリュ22の前進力ではなく前進速度が制御される点である。そのため、スクリュ再前進工程1と同様に、
図2を参照しながら、スクリュ再前進工程1との差異についてのみ説明するものとする。また、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う容積減少による溶融樹脂の供給不足が、流動中間領域FMにおいて発生する前提も同じものとする。
【0060】
このような場合に、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、スクリュ再前進工程2を行わせる。具体的には、貯留部21からゲート部領域FGへの圧力/温度偏差を利用した溶融樹脂の供給量を、スクリュ22をスクリュ停止位置L1(
図2(a))から所定前進速度V1で前進させることにより、貯留部21内の溶融樹脂を用いて、溶融樹脂の供給量を、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う容積減少分に見合う供給量まで増加させるものである。
【0061】
この時、スクリュ22の所定前進速度V1(
図2(a))は、試験成形等で好適な大きさを求めても良いが、貯留部21からゲート部領域FGへの圧力/温度偏差を利用した溶融樹脂の供給量に対して、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮による容積縮小分(溶融樹脂の冷却固化速度)の不足を補うために必要な、単位時間当たりの供給量と同量か、少し上回る供給量を、貯留部21から供給可能なスクリュ22の前進速度を目安にすることが好ましい。その目安が好ましいとするのは、冷却固化収縮を超える溶融樹脂の供給により、金型キャビティ11内の、溶融樹脂が過剰供給された部位の圧力が発泡させない圧力範囲まで過大に上昇して、溶融樹脂の発泡膨張が生じ難くなる発泡不良の発生を回避するためである。
【0062】
一方、スクリュ再前進工程2においても、貯留部21の溶融樹脂を発泡させないために、貯留部21の溶融樹脂の圧力を、スクリュ再前進工程2を行わせる段階で発泡させない圧力範囲に維持させる必要がある。そのため、スクリュ再前進工程2において、貯留部21の溶融樹脂の圧力が、発泡させない圧力範囲より低くなる場合は、スクリュ22の所定前進速度V1を大きくする必要がある。
【0063】
しかしながら、そのような場合であっても、スクリュ22の所定前進速度V1は、圧力/温度偏差を利用した、溶融樹脂の自然な供給状態が維持されていたスクリュ位置保持工程から、溶融樹脂の供給状態を大幅に変化させないことが好ましい。そのため、スクリュ22の所定前進速度V1は固定値であっても良いが、金型キャビティ11内の溶融樹脂の時間経過に伴う溶融粘度の上昇に起因するスクリュ22の前進抵抗力の上昇、あるいは、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化する範囲の進行に伴う溶融樹脂の供給量の減少等に対応させて、必要に応じて多段の速度を設定しても良い。
【0064】
上記のようなスクリュ再前進工程2によっても、金型キャビティ11内の溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う容積減少が、圧力/温度偏差を利用した、溶融樹脂の自然な供給状態を大きく変化させることなく補われ、第1実施形態と同様に、金型キャビティ11内の溶融樹脂の圧力/温度偏差が維持される。そして、溶融樹脂内(第2実施形態においては流動中間領域FM)の発泡核の形成と発泡セルの生成及び発泡セルの発生量や、発生した発泡セルの粗大化を抑制し、発泡セルの発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形することができる。
【0065】
なお、スクリュ再前進工程2においても、第1実施形態において説明した射出発泡成形方法での試験成形により、スクリュ再前進工程2の要否と、必要な場合、スクリュ位置保持工程の開始後の、スクリュ再前進工程2を開始するタイミングを決定することが好ましい。また、スクリュ再前進工程2においても、スクリュ再前進工程1と同様に、スクリュ停止位置L1からのスクリュ22の移動距離(前進距離)ではなく、金型キャビティ11内の溶融樹脂が冷却固化する時点(移動時間/前進時間)を目安に完了されることが好ましい。
【0066】
これまで、スクリュ22の前進力を制御するスクリュ再前進工程1と、スクリュ22の前進速度を制御するスクリュ再前進工程2と、の2つのスクリュ再前進工程を説明した。樹脂材料や発泡成形品の形状や大きさにより、これら2つのスクリュ再前進工程の要否、また、スクリュ再前進工程が必要な場合にいずれが好適か、が異なると考えられる。スクリュ再前進工程の要否を確認する場合、それぞれのスクリュ再前進工程を試験成形等で採用し、発泡セルの発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品の品質を重視する観点と、成形サイクルの短さを重視する観点との比較等、発泡成形品の種類や用途等に応じて、好適な方が選択されれば良い。
【符号の説明】
【0067】
10 金型、11 金型キャビティ、12 スキン層、20 射出装置、21 貯留部、22 スクリュ、22a フライト、22b チェックリング、FG ゲート部領域、FM 流動中間領域、FE 流動先端領域、L1 スクリュ停止位置、PS0/PS1/PS2/PS3 貯留部21の溶融樹脂の圧力、PG1/PG2/PG3 ゲート部領域FGの溶融樹脂の圧力、PM1/PM2/PM3/PM2’ 流動中間領域FMの溶融樹脂の圧力、PE1/PE2/PE3 流動先端領域FEの溶融樹脂の圧力、TS0/TS1/TS2/TS3 貯留部21の溶融樹脂の温度、TG1/TG2/TG3 ゲート部領域FGの溶融樹脂の温度、TM1/TM2/TM3 流動中間領域FMの溶融樹脂の温度、TE1/TE2/TE3 流動先端領域FEの溶融樹脂の温度、F1 スクリュの所定前進力、V1 スクリュの所定前進速度