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  • 特許-蓄電装置用正極の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】蓄電装置用正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1397 20100101AFI20241119BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241119BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01M4/1397
H01M4/58
H01M4/66 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020192757
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2022081306
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川本 祐太
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-017199(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094598(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/051043(WO,A1)
【文献】特開2016-081704(JP,A)
【文献】特開2010-108703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/84
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素、及び、水系結着剤を含むカーボンコート層を有する金属箔の前記カーボンコート層上に、水系溶媒を含み、かつpHが6~7である正極活物質層形成用スラリーを塗工して正極活物質層を形成する工程を有し、
前記正極活物質層形成用スラリーは、正極活物質として、オリビン型構造を有するLiFePOを含み、
前記正極活物質層形成用スラリーにおける前記LiFePOの含有量は、前記正極活物質層形成用スラリーの固形分質量を100質量部としたとき、90~98質量部であり、
前記金属箔の片面の前記正極活物質層の目付量が、50mg/cm以上であることを特徴とする蓄電装置用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置用正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、カーボンコート箔塗工液用バインダーについて開示している。このバインダー(結着剤)を用いたカーボンコート箔塗工液(カーボンコート層形成用スラリー)が、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電装置において集電箔として用いられる金属箔に塗工されてカーボンコート箔が作製される。このカーボンコート箔に活物質を含有する電極用スラリーが塗工されて電極が製造される。カーボンコート箔を用いることによって、活物質層と金属箔との密着性の向上や、活物質層と金属箔の間の抵抗の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-229187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電装置用正極の製造方法において、正極活物質を含有する正極活物質層形成用スラリーはアルカリ性になりやすい傾向がある。正極活物質層形成用スラリーがアルカリ性になると、正極活物質層と金属箔との密着性の向上に影響を及ぼす虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成する蓄電装置用正極の製造方法は、炭素、及び、水系結着剤を含むカーボンコート層を有する金属箔の前記カーボンコート層上に、水系溶媒を含み、かつpHが5~8である正極活物質層形成用スラリーを塗工して正極活物質層を形成する工程を有する。
【0006】
上記の目的を達成する蓄電装置用正極の製造方法は、前記正極活物質層形成用スラリーのpHが、5.5~7.5である。
上記の目的を達成する蓄電装置用正極の製造方法は、前記正極活物質層形成用スラリーのpHが、6~7である。
【0007】
前記正極活物質層形成用スラリーは、正極活物質として、一般式LiMPOで表されるオリビン型構造を有するポリアニオン系化合物(Mは、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、hは、0<h<2を満足する数値である。)を含む。
【0008】
前記ポリアニオン系化合物が、LiFePOである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、正極活物質層と金属箔との密着性が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】蓄電装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1に示す蓄電装置10は、例えば、フォークリフト、ハイブリッド自動車、電気自動車等の各種車両のバッテリに用いられる蓄電モジュールである。蓄電装置10は、例えば、ニッケル水素二次電池又はリチウムイオン二次電池等の二次電池である。蓄電装置10は、電気二重層キャパシタであってもよい。本実施形態では、蓄電装置10がリチウムイオン二次電池である場合を例示する。
【0012】
図1に示すように、蓄電装置10は、複数の蓄電セル20が積層方向にスタック(積層)されたセルスタック30(積層体)を含んで構成されている。以下では、複数の蓄電セル20の積層方向を単に積層方向という。各蓄電セル20は、正極21と、負極22と、セパレータ23と、シール部24とを備える。
【0013】
正極21は、金属箔としての正極集電体21aと、正極集電体21aの第1面21a1に設けられたカーボンコート層21bと、カーボンコート層21bにおける正極集電体21aの第1面21a1側とは反対側の表面である第1面21b1に設けられた正極活物質層21cとを備える。正極集電体21aとカーボンコート層21bとによってカーボンコート箔が形成されている。積層方向から見た平面視(以下、単に平面視という。)において、正極活物質層21cは、カーボンコート層21bの中央部に形成されている。平面視におけるカーボンコート層21bの周縁部は、正極活物質層21cが設けられていない正極未塗工部21dとなっている。正極未塗工部21dは、平面視において正極活物質層21cの周囲を囲むように配置されている。正極集電体21a、カーボンコート層21b、及び正極活物質層21cの具体的構成については後述する。
【0014】
負極22は、負極集電体22aと、負極集電体22aの第1面22a1に設けられた負極活物質層22bとを備える。平面視において、負極活物質層22bは、負極集電体22aの第1面22a1の中央部に形成されている。平面視における負極集電体22aの第1面22a1の周縁部は、負極活物質層22bが設けられていない負極未塗工部22cとなっている。負極未塗工部22cは、平面視において負極活物質層22bの周囲を囲むように配置されている。
【0015】
負極集電体22aは、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、正極活物質層21cに電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。負極集電体22aは、例えば、厚さ1~100μmの箔状である。本実施形態において、負極集電体22aは銅箔である。負極集電体22aを構成する材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料等を用いることができる。
【0016】
導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。負極集電体22aは、前述した金属材料又は導電性樹脂材料を含む1以上の層を含む複数層を備えてもよい。負極集電体22aの表面は、公知の保護層により被覆されてもよい。負極集電体22aの表面は、メッキ処理等の公知の方法により処理されてもよい。
【0017】
負極集電体22aは、銅箔以外に、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、チタン箔又はステンレス鋼箔等の金属箔であってもよい。機械的強度を確保する観点から、負極集電体22aは、ステンレス鋼箔(例えばJIS G 4305:2015にて規定されるSUS304、SUS316、SUS301、SUS304等)であってもよい。負極集電体22aは、上記金属の合金箔であってもよい。負極集電体22aは、銅膜によって被覆された基材を含む箔であってもよい。
【0018】
負極活物質層22bは、負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はなく使用可能である。例えば、負極活物質としてLi、又は、炭素、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素としては天然黒鉛、人造黒鉛、あるいはハードカーボン(難黒鉛化性炭素)又はソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)を挙げることができる。人造黒鉛としては、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ等が挙げられる。リチウムと合金化可能な元素の例としては、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。
【0019】
正極21及び負極22は、正極活物質層21c及び負極活物質層22bが積層方向において互いに対向するように配置されている。つまり、正極21及び負極22の対向する方向は積層方向と一致している。負極活物質層22bは、正極活物質層21cよりも一回り大きく形成されており、積層方向からみた平面視において、正極活物質層21cの形成領域の全体が負極活物質層22bの形成領域内に位置している。
【0020】
正極集電体21aは、第1面21a1とは反対側の面である第2面21a2を有する。正極21は、正極集電体21aの第2面21a2に正極活物質層21c及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。負極集電体22aは、第1面22a1とは反対側の面である第2面22a2を有する。負極22は、負極集電体22aの第2面21a2に正極活物質層21c及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。
【0021】
セパレータ23は、正極21と負極22との間に配置されて、正極21と負極22とを隔離することで両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオン等の電荷担体を通過させる部材である。
【0022】
セパレータ23は、例えば、液体電解質を吸収保持するポリマーを含む多孔性シート又は不織布である。セパレータ23を構成する材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリエステルなどが挙げられる。セパレータ23は、単層構造又は多層構造を有してもよい。多層構造は、例えば、接着層、耐熱層としてのセラミック層等を有してもよい。
【0023】
シール部24は、正極21のカーボンコート層21bの第1面21b1と、負極22の負極集電体22aの第1面22a1との間、かつ正極集電体21a及び負極集電体22aよりも外周側に配置され、正極集電体21a及びカーボンコート層21bと、負極集電体22aの両方に接着されている。シール部24は、正極集電体21a及びカーボンコート層21bと、負極集電体22aとの間を絶縁することによって、集電体間の短絡を防止する。
【0024】
シール部24は、平面視において、正極集電体21a及びカーボンコート層21bと、負極集電体22aの周縁部に沿って延在するとともに、正極集電体21a及びカーボンコート層21bと、負極集電体22aの周囲を取り囲む枠状に形成されている。シール部24は、カーボンコート層21bの第1面21b1と、負極集電体22aの第1面22a1の負極未塗工部22cとの間に配置されている。
【0025】
シール部24を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン、ABS樹脂、変性ポリプロピレン(変性PP)、アクリロニトリルスチレン(AS)樹脂などの種々の樹脂材料が挙げられる。
【0026】
蓄電セル20の内部には、枠状のシール部24、正極21及び負極22によって囲まれた密閉空間Sが形成されている。密閉空間Sには、セパレータ23及び液体電解質が収容されている。セパレータ23の周縁部分は、シール部24に埋まった状態とされている。
【0027】
液体電解質としては、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む液体電解質が挙げられる。電解質塩として、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO等の公知のリチウム塩を使用できる。また、非水溶媒として、環状カーボネート類、環状エステル類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類等の公知の溶媒を使用できる。なお、これら公知の溶媒材料を二種以上組合せて用いてもよい。
【0028】
シール部24は、正極21及び負極22との間の密閉空間Sを封止することにより、密閉空間Sに収容された液体電解質の外部への透過を抑制し得る。また、シール部24は、蓄電装置10の外部から密閉空間S内への水分の侵入を抑制し得る。さらに、シール部24は、例えば、充放電反応等により正極21又は負極22から発生したガスが蓄電装置10の外部に漏れることを抑制し得る。
【0029】
セルスタック30は、複数の蓄電セル20が、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とが接触するように重ね合わされた構造を有する。これにより、セルスタック30を構成する複数の蓄電セル20が直列に接続されている。
【0030】
ここで、セルスタック30においては、積層方向に隣り合う二つの蓄電セル20により、互いに接する正極集電体21a及び負極集電体22aを一つの集電体とみなした疑似的なバイポーラ電極25が形成される。疑似的なバイポーラ電極25は、正極集電体21a及び負極集電体22aが重ね合わされた構造の集電体と、その集電体の一方側の面に形成された正極活物質層21cと、他方側の面に形成された負極活物質層22bとを含む。
【0031】
各蓄電セル20のシール部24は、正極集電体21aと負極集電体22aの各縁部よりも外側に延びる外周部分24aを有している。外周部分24aは、積層方向から見て正極集電体21aと負極集電体22aの各縁部よりも積層方向に直交する方向に突出している。積層方向に隣り合う蓄電セル20は、それぞれのシール部24の外周部分24a同士が接着されることにより一体化している。隣り合うシール部24同士を接着する方法としては、例えば、熱溶着、超音波溶着又は赤外線溶着など、公知の溶着方法が挙げられる。
【0032】
蓄電装置10は、セルスタック30の積層方向においてセルスタック30を挟むように配置された、正極通電板40及び負極通電板50からなる一対の通電体を備える。正極通電板40及び負極通電板50は、それぞれ、導電性に優れた材料で構成される。
【0033】
正極通電板40は、積層方向の一端において最も外側に配置された正極21の正極集電体21aの第2面21a2に電気的に接続される。負極通電板50は、積層方向の他端において最も外側に配置された負極22の負極集電体22aの第2面22a2に電気的に接続される。
【0034】
正極通電板40及び負極通電板50のそれぞれに設けられた端子を通じて蓄電装置10の充放電が行われる。正極通電板40を構成する材料としては、例えば、正極集電体21aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。正極通電板40は、セルスタック30に用いられた正極集電体21aよりも厚い金属板で構成してもよい。負極通電板50を構成する材料としては、例えば、負極集電体22aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。負極通電板50は、セルスタック30に用いられた負極集電体22aよりも厚い金属板で構成してもよい。
【0035】
次に、蓄電装置10に備えられる正極21の製造方法について説明する。
正極21の製造方法は、固化することによりカーボンコート層21bとなるカーボンコート層形成用スラリーを調製するスラリー調製工程と、固化することにより正極活物質層21cとなるpHが5~8である正極活物質層形成用スラリー(以下、「正極合材」ともいう。)を調製する正極合材調製工程とを有する。また、調製されたカーボンコート層形成用スラリーを正極集電体21a上に塗工し、正極集電体21aにカーボンコート層21bを形成するカーボンコート層形成工程を有する。また、調製されたpHが5~8である正極合材をカーボンコート層21b上に塗工して、正極活物質層21cを形成する正極活物質層形成工程を有する。
【0036】
なお、カーボンコート層形成用スラリー、及び、正極合材の少なくともいずれか一方は、市販品等の既製品を用いてもよい。そのため、正極21の製造方法は、スラリー調製工程、及び、正極合材調製工程の少なくともいずれか一方が省略されていてもよい。正極21の製造方法は、例えば、カーボンコート層形成工程と、正極活物質層形成工程とで構成されていてもよい。
【0037】
さらに、予め正極集電体21aにカーボンコート層21bが形成された既製品を用いてもよい。そのため、正極21の製造方法は、カーボンコート層形成工程が省略されていてもよく、正極活物質層形成工程のみで構成されていてもよい。
【0038】
以下、正極21の製造方法における各工程について説明する。
<スラリー調製工程>
カーボンコート層形成用スラリーは、導電助剤としての炭素と、水系結着剤、及び水系溶媒を含むスラリーである。
【0039】
導電助剤としての炭素は、特に限定されず、カーボンコート層形成用スラリーに用いられる従来公知のものを用いることができる。炭素としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、カーボンナノチューブが挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0040】
上記導電助剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
水系結着剤は、水系溶媒に溶解可能又は分散可能な結着剤であり、水系溶媒に分散又は溶解させた状態で導電助剤と混合して用いられる結着剤である。水系結着剤としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体が挙げられる。
【0041】
上記水系結着剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明において、例えば、溶剤系の結着剤であるポリフッ化ビニリデンを用いた場合、正極合剤に含まれる水系溶媒とカーボンコート層中のポリフッ化ビニリデンが反応してカーボンコート層の腐食が進行する虞がある。そのため、本発明ではカーボンコート層形成用スラリーの結着剤として水系結着剤が用いられる。
【0042】
水系溶媒としては、例えば、水、及び水を主成分とする混合溶媒が挙げられる。その他の溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の非水溶媒が挙げられる。混合溶媒における水の体積割合は、50%以上であり、75%以上であることが好ましい。
【0043】
カーボンコート層形成用スラリーは、導電助剤以外のその他成分を含んでいてもよい。導電助剤以外のその他成分としては、例えば、分散剤を挙げることができる。
分散剤としては、特に限定されず、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0044】
上記分散剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
カーボンコート層形成用スラリーにおける導電助剤の含有量は、例えば、カーボンコート層に含有される固形分の合計質量、すなわち、水系溶媒を除いたカーボンコート層の質量(以下、固形分質量と記載する。)を100質量部としたとき、30~90質量部であることが好ましく、40~60質量部であることがより好ましい。
【0045】
カーボンコート層形成用スラリーにおける水系結着剤の含有量は、例えば、固形分質量を100質量部としたとき、10~60質量部であることが好ましく、30~50質量部であることがより好ましい。
【0046】
カーボンコート層形成用スラリーにおける分散剤の含有量は、例えば、固形分質量を100質量部としたとき、1~20質量部であることが好ましく、3~10質量部であることがより好ましい。
【0047】
カーボンコート層形成用スラリーにおける水系溶媒の含有量は特に限定されないが、例えば、カーボンコート層形成用スラリーの固形分比率が20~50質量%となる含有量であることが好ましい。
【0048】
<正極合材調製工程>
正極合材は、正極活物質と、pH調整剤と、水系溶媒を含むスラリーであり、pHが5~8である。
【0049】
正極活物質としては、特に限定されず、蓄電装置の正極合材に用いられる従来公知の正極活物質を用いることができる。
正極活物質としては、例えば、一般式LiMPOで表されるオリビン型構造を有するポリアニオン系化合物(以下、オリビン型構造正極活物質と記載する。)を用いることが好ましい。一般式LiMPOにおいて、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素である。一般式LiMPOにおいて、hは、0<h<2を満足する数値である。また、hは、0.6<h<1.1を満足する数値であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0050】
オリビン型構造正極活物質としては、例えば、LiFePO、一般式LiMnFePOで表される化合物が挙げられる。一般式LiMnFePOにおいて、x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。x及びyの範囲の具体例として、0.5≦x≦0.9、0.1≦y≦0.5の場合、及び0.6≦x≦0.8、0.2≦y≦0.4の場合が挙げられる。正極活物質層21cに含まれるオリビン型構造正極活物質は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0051】
正極合材は、必要に応じて、オリビン型構造正極活物質以外のその他の正極活物質を含有してもよい。その他の正極活物質としては、例えば、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物など、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なものが挙げられる。正極活物質層21cに含まれるその他の正極活物質は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
pH調整剤としては、特に限定されず、例えば、有機酸や無機酸を用いることができる。有機酸としては、例えば、カルボン酸を挙げることができる。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、リン酸を挙げることができる。
【0053】
pH調整剤は、弱酸性を示すものであることが好ましい。弱酸性を示すpH調整剤としては、例えば、カルボン酸、酢酸、リン酸を挙げることができる。pH調整剤が弱酸性を示すものであることにより、正極活物質の溶解を抑制することができる。
【0054】
上記pH調整剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
正極合材に含まれるpH調整剤の含有量を調製することにより、正極合材のpHを調整することができる。正極合材のpHは、5.5~7.5であることが好ましく、6~7であることがより好ましい。
【0055】
水系溶媒としては、例えば、水、及び水を主成分とする混合溶媒が挙げられる。その他の溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の非水溶媒が挙げられる。混合溶媒における水の体積割合は、50%以上であり、75%以上であることが好ましい。
【0056】
正極合材は、正極活物質、pH調整剤以外のその他成分を含んでいてもよい。正極活物質、pH調整剤以外のその他成分としては、例えば、水系結着剤、分散剤を挙げることができる。
【0057】
水系結着剤と分散剤は、上記カーボンコート箔形成用スラリーに用いられる水系結着剤、分散剤と同様のものを用いることができる。
正極合材は、必要に応じて、電気伝導性を高めるための導電助剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、電解液等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等の任意成分を含有してもよい。導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブが挙げられる。
【0058】
正極合材における正極活物質の含有量は、例えば、正極合材の固形分質量を100質量部としたとき、70~99質量部であることが好ましく、90~98質量部であることがより好ましい。また、その他の正極活物質を含有する場合、正極合材に含有される正極活物質の50質量%以上がオリビン型構造正極活物質であることが好ましく、75質量%以上がオリビン型構造正極活物質であることがより好ましい。
【0059】
正極合材における水系結着剤の含有量は、例えば、固形分質量を100質量部としたとき、1~30質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
正極合材における分散剤の含有量は、例えば、固形分質量を100質量部としたとき、0.05~10質量部であることが好ましく、0.1~1質量部であることがより好ましい。
【0060】
正極合材における水系溶媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、正極合材の固形分比率が30~60質量%となる含有量であることが好ましい。
<カーボンコート層形成工程>
カーボンコート層形成工程は、上記のカーボンコート層形成用スラリーを用いて、正極集電体21aの第1面21a1にカーボンコート層21bを形成する工程である。
【0061】
正極集電体21aは、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、正極活物質層21cに電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。本実施形態において、正極集電体21aはアルミニウム箔である。正極集電体21aを構成する材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料等を用いることができる。
【0062】
導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。正極集電体21aは、前述した金属材料又は導電性樹脂材料を含む1以上の層を含む複数層を備えてもよい。正極集電体21aの表面は、公知の保護層により被覆されてもよい。正極集電体21aの表面は、メッキ処理等の公知の方法により処理されてもよい。
【0063】
正極集電体21aは、例えば箔、シート、フィルム、線、棒、メッシュ又はクラッド材等の形態を有してもよい。正極集電体21aは、アルミニウム箔以外に、例えば、銅箔、ニッケル箔、チタン箔又はステンレス鋼箔等の金属箔であってもよい。機械的強度を確保する観点から、集電体は、ステンレス鋼箔(例えばJIS G 4305:2015にて規定されるSUS304、SUS316、SUS301、SUS304等)であってもよい。
【0064】
正極集電体21aは、上記金属の合金箔であってもよい。正極集電体21aは、アルミニウム膜によって被覆された基材を含む箔であってもよい。箔状の正極集電体21aの場合、正極集電体21aの厚さは、例えば、1~100μmである。
【0065】
カーボンコート層形成工程において、カーボンコート層形成用スラリーを用いて正極集電体21aの第1面21a1にカーボンコート層21bを形成する方法は特に限定されるものではなく、カーボンコート層21bを備える正極21の形成に適用される公知の方法を用いることができる。
【0066】
例えば、正極集電体21aの第1面21a1に対して、カーボンコート層形成用スラリーを所定厚みとなるように塗布して付着させる。その後、付着させたカーボンコート層形成用スラリーに対して乾燥及び固化させる処理を行うことにより、炭素、及び、水系結着剤を含むカーボンコート層21bを形成する。
【0067】
カーボンコート層21bにおいて、水系溶媒は完全に除去されていてもよいし、一部がカーボンコート層21b内に残留していてもよい。
カーボンコート層形成用スラリーの塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来公知の方法を適用できる。また、その他の方法としては、カーボンコート層形成用スラリーを用いてシート状のカーボンコート層21bを形成し、正極集電体21aの第1面21a1に、シート状のカーボンコート層21bを貼り合わせる方法が挙げられる。
【0068】
カーボンコート層形成工程において形成されるカーボンコート層21bの厚み及び目付量は特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0069】
カーボンコート層21bの厚さは、例えば、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。また、カーボンコート層21bの厚さは、例えば、500μm以下である。カーボンコート層21bの目付量は、例えば、0.01mg/cm以上であることが好ましく、0.05mg/cm以上であることがより好ましい。また、カーボンコート層21bの目付量は、例えば、10mg/cm以下である。
【0070】
以上のように、正極集電体21aの第1面21a1にカーボンコート層21bを形成することによって、カーボンコート箔が形成される。
<正極活物質層形成工程>
正極活物質層形成工程は、上記の水系溶媒を含み、かつpHが5~8である正極合材を用いて、カーボンコート層21bにおける正極集電体21aの第1面21a1側とは反対側の第1面21b1に正極活物質層21cを形成する工程である。
【0071】
正極活物質層形成工程において、水系溶媒を含み、かつpHが5~8であるスラリー状の正極合材を用いてカーボンコート層21bの第1面21b1に正極活物質層21cを形成する方法は特に限定されるものではなく、蓄電装置の正極21の形成に適用される公知の方法を用いることができる。
【0072】
例えば、カーボンコート層21bの第1面21b1に対して、正極合材を所定厚みとなるように塗布して付着させる。その後、付着させた正極合材に対して乾燥及び固化させる処理を行うことにより正極活物質層21cを形成する。
【0073】
正極活物質層21cにおいて、水系溶媒は完全に除去されていてもよいし、一部が正極活物質層21c内に残留していてもよい。
正極合材の塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来公知の方法を適用できる。また、その他の方法としては、正極合材を用いてシート状の正極活物質層21cを形成し、カーボンコート層21bの第1面21b1に、シート状の正極活物質層21cを貼り合わせる方法が挙げられる。
【0074】
活物質層形成工程において形成される正極活物質層21cの厚み及び目付量は特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。ただし、蓄電セル20のエネルギー密度を大きくする観点から、正極活物質層21cの目付量を大きくすることが好ましい。
【0075】
正極活物質層21cの厚さは、例えば、100μm以上であることが好ましく、250μm以上であることがより好ましい。また、正極活物質層21cの厚さは、例えば、800μm以下である。正極活物質層21cの目付量は、例えば、20mg/cm以上であることが好ましく、50mg/cm以上であることがより好ましい。また、正極活物質層21cの目付量は、例えば、100mg/cm以下である。
【0076】
上記の活物質層形成工程により形成された正極21の正極活物質層21cは、オリビン型構造正極活物質を含む正極活物質、水系結着剤を含むことが好ましい。
次に、蓄電装置10の製造方法について説明する。
【0077】
蓄電装置10は、蓄電セル形成工程と、セルスタック形成工程とを順に経ることにより製造される。
<蓄電セル形成工程>
蓄電セル形成工程では、まず、正極集電体21aの第1面21a1にカーボンコート層21bが設けられており、このカーボンコート層21bの第1面21b1に正極活物質層21cが設けられた正極21と、負極集電体22aの第1面22a1に負極活物質層22bが設けられた負極22とを用意する。負極22は、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、固化することにより負極活物質層22bとなる負極合材を用いて、上記の活物質層形成工程と同様の操作を行うことにより負極22を製造することができる。
【0078】
次に、セパレータ23を間に挟んで正極活物質層21c及び負極活物質層22bが互いに積層方向に対向するように正極21及び負極22を配置するとともに、正極21と負極22の間、かつ正極集電体21a及びカーボンコート層21bと、負極集電体22aよりも外周側にシール部24となるシール材を配置する。
【0079】
その後、正極21、負極22、及びセパレータ23とシール材とを溶着により接着することにより、正極21、負極22、セパレータ23、及びシール部24が一体化された組立体を形成する。シール材の溶着方法としては、例えば、熱溶着、超音波溶着又は赤外線溶着など、公知の溶着方法が挙げられる。
【0080】
次に、シール部24の一部に設けられた注入口を通じて組立体の内部の密閉空間Sに液体電解質を注入した後、注入口を封止する。これにより、蓄電セル20が形成される。
<セルスタック形成工程>
セルスタック形成工程では、まず、複数の蓄電セル20を、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とを向い合せるように重ねて積層する。その後、積層方向に隣り合う蓄電セル20におけるシール部24の外周部分24a同士を接着することにより複数の蓄電セル20を一体化する。
【0081】
次に、積層方向の一端において最も外側に配置された正極21の正極集電体21aの第2面21a2に対して、正極通電板40を重ねて電気的に接続した状態にて固定する。同様に、積層方向の他端において最も外側に配置された負極22の負極集電体22aの第2面22a2に対して、負極通電板50を重ねて電気的に接続した状態にて固定する。
【0082】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)蓄電装置用正極の製造方法は、炭素、及び、水系結着剤を含むカーボンコート層21bの第1面21b1に、水系溶媒を含み、かつpHが5~8である正極活物質層形成用スラリーを塗工する正極活物質層形成工程を有する。
【0083】
カーボンコート層21bの第1面21b1に正極活物質層形成用スラリーを塗工した際に、正極活物質層形成用スラリーがアルカリ性を示すことに起因するカーボンコート層21bの化学反応、例えばカーボンコート層21bの腐食を抑制することができる。したがって、正極集電体21aと正極活物質層との密着性を良好にすることができる。
【0084】
(2)正極活物質層形成用スラリーは、正極活物質として、オリビン型構造正極活物質を含む。オリビン型構造正極活物質は、結晶構造がより安定した物質であるため、正極集電体21aと正極活物質層との密着性をより良好にすることができる。
【0085】
(3)ポリアニオン系化合物が、LiFePOである。ポリアニオン系化合物が、LiFePOであることにより、上記(2)の効果がより顕著に得られる。
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0086】
○本実施形態において、正極活物質層形成工程は、乾燥及び固化させたカーボンコート層21bの第1面21b1に正極合材を塗布することによって行っていたが、この態様に限定されない。例えば、カーボンコート層形成工程において、乾燥及び固化させる前のカーボンコート層形成用スラリー上に正極合材を所定厚みとなるように塗布してもよい。塗布した正極合材に対して乾燥及び固化させる処理を行うことにより、カーボンコート21b層と正極活物質層21cとを同時に形成してもよい。
【0087】
○正極21の熱安定性を向上させるために、正極集電体21aの第1面21a1及び第2面21a2の一方又は両方に耐熱層を設けてもよい。耐熱層としては、例えば、無機粒子と結着剤とを含む層が挙げられ、その他に増粘剤等の添加剤を含んでもよい。負極22についても同様である。
【0088】
○正極集電体21a及び正極活物質層21cの平面視形状は特に限定されるものではない。矩形状等の多角形状であってもよいし、円形や楕円形であってもよい。負極集電体22a及び負極活物質層22bについても同様である。
【0089】
○シール部24の平面視形状は特に限定されるものではなく、矩形状等の多角形状であってもよいし、円形や楕円形であってもよい。
○正極通電板40と正極集電体21aとの間に、両部材間の導電接触を良好にするために、正極集電体21aに密着する導電層を配置してもよい。導電層としては、例えば、アセチレンブラック又はグラファイト等のカーボンを含む層、Au等を含むメッキ層などの正極集電体21aよりも低い硬度を有する層が挙げられる。また、負極通電板50と負極集電体22aとの間に同様の導電層を配置してもよい。
【0090】
〇正極集電体21aの第2面21a2に、正極活物質層21c又は負極活物質層22bが設けられていてもよい。また、負極集電体22aの第2面22a2に、正極活物質層21c又は負極活物質層22bが設けられていてもよい。
【0091】
○蓄電装置10を構成する蓄電セル20の数は特に限定されない。蓄電装置10を構成する蓄電セル20の数は、1であってもよい。
【実施例
【0092】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(実施例1)
導電助剤としてのアセチレンブラックと、水系結着剤としてのスチレンーブタジエンゴム(以下、「SBR」ともいう。)と、分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ともいう。)と、水系溶媒としての水とを混合して、固形分比率30質量%のカーボンコート層形成用スラリーを調製した。
【0093】
正極活物質としてのLiFePO(以下、「LFP」ともいう。)、導電助剤としてのカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)、分散剤としてのCMC、及び、水系結着剤としてのSBRを表1に示す配合割合で混合するとともに、pH調整剤としての酢酸と、溶媒としての水を加えて、固形分比率45質量%の正極合材を調製した。LFPに対する酢酸の配合割合は0.001であり、pHは7.9であった。
【0094】
正極集電体としての厚さ15μmのアルミニウム箔の片側の表面に対して、ドクターブレード法を用いてカーボンコート層形成用スラリーを膜状に塗布した。塗布されたカーボンコート層形成用スラリーを50℃の条件で加熱処理して、カーボンコート層形成用スラリーを乾燥及び固化させることにより、厚さ2μmのカーボンコート層を形成した。
【0095】
このカーボンコート層上に、ドクターブレード法を用いて正極合材を膜状に塗布した。塗布された正極合材を50℃の条件で加熱処理して、正極合材を乾燥及び固化させることにより、カーボンコート層の上に目付量50mg/cmの正極活物質層が形成された実施例1の正極シートを作製した。
【0096】
(実施例2)
実施例2は、LFPに対する酢酸の配合割合を0.01とし、正極合材のpHを6.8にした点を除いて、実施例1と同様の方法により正極シートを作製した。
【0097】
(実施例3)
実施例3は、LFPに対する酢酸の配合割合を0.05とし、正極合材のpHを6.2にした点を除いて、実施例1と同様の方法により正極シートを作製した。
【0098】
(実施例4)
実施例4は、LFPに対する酢酸の配合割合を0.08とし、正極合材のpHを5.6にした点を除いて、実施例1と同様の方法により正極シートを作製した。
【0099】
(実施例5)
実施例5は、LFPに対する酢酸の配合割合を0.1とし、正極合材のpHを5.1にした点を除いて、実施例1と同様の方法により正極シートを作製した。
【0100】
(比較例1)
比較例1は、酢酸を配合せず、正極合材のpHが9.3である点を除いて、実施例1と同様の方法により正極シートを作製した。
【0101】
(比較例2)
比較例2は、LFPに対する酢酸の配合割合を0.5とし、正極合材のpHを4.2にした点を除いて、実施例1と同様の方法により正極シートを作製した。
【0102】
(剥離強度の評価)
引張試験機を用いて、実施例1~5、比較例1、2の正極シートの剥離強度を測定した。試験方法は、JIS Z 0237に準拠した。まず、正極シートの正極活物質層上に粘着テープを貼り付けた。正極活物質層側を下向きにして、台座上に粘着テープを介して正極シートを接着した。次に、正極シートのアルミニウム箔を上向きに90度の方向に引っ張ることにより剥離強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0103】
(蓄電装置の出力特性の評価)
作製した実施例1の正極シートを縦30mm×横25mmの長方形状に裁断してなる正極と、負極と、セパレータとを組合せることにより電極体電池とした。電池ケース内に、電極体電池を収容するとともに電解液を注入して、電池ケースを密閉することにより、リチウムイオン二次電池を得た。
【0104】
負極としては、銅からなる負極集電体、及び負極活物質としての黒鉛と、結着剤としてのSBRと、分散剤としてのCMCとからなる負極活物質層を有する負極を用いた。セパレータとしては、ポリエチレンからなるセパレータを用いた。電解液としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、及びエチレンカーボネートを体積比40:35:5:20で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1.2Mの濃度となるように溶解させた電解液を用いた。
【0105】
得られたリチウムイオン二次電池について、直流電流10mAで負極における正極に対する電圧が3.75Vになるまで定電流(CC)充電を行った後、SOC(State of Charge)80%まで放電した。その後、25℃、10Cレートの電流にて、10秒間放電させて、10秒放電時の抵抗(10s抵抗)を測定した。その結果を表1に示す。
【0106】
得られたリチウムイオン二次電池について、直流電流10mAで負極における正極に対する電圧が3.75Vになるまで定電流(CC)充電を行った後、SOC(State of Charge)95%まで放電した。その後、25℃、2.05Cレートの電流にて、負極における正極に対する電圧が3.00Vになるまで定電流(CC)放電を行った後、放電容量の定格容量における割合を算出した。その結果を表1に示す。
【0107】
また、実施例2、3、5、比較例1、2の正極シートを用いて、上記と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製するとともに、得られたリチウムイオン二次電池の出力特性を上記と同様の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
表1に示すように、比較例1では、剥離強度が0.1N/cmであった。評価後の正極シートは、母材であるアルミニウム箔からカーボンコート層が剥離していた。これは、比較例1の正極合剤はpHが9.3と高く、カーボンコート層に含まれるSBRのアルカリ耐性が低いために、カーボンコート層に腐食が生じていたためと考えられる。また、比較例2では、剥離強度が0.11N/cmであった。評価後の正極シートは、カーボンコート層から正極活物質層が剥離していた。比較例2の正極合材は、pHが4.2と低いことにより、正極活物質層の分散剤が凝縮して正極合材の分散性が低下していたと考えられる。
【0109】
これに対し、実施例1~5では、いずれも剥離強度が0.16N/cm以上と高い値であり、密着性が良好であることが確認された。また、実施例1、3、5では、比較例1、2に比べて10s抵抗の値が低減しているとともに、出力特性が向上していた。特に、実施例3では10s抵抗、及び出力特性が最も優れていることが分かった。密着性が良好であることによって抵抗が低減しており、これに起因して出力特性が向上したと考えられる。
【符号の説明】
【0110】
S…密閉空間、10…蓄電装置、20…蓄電セル、21…正極、21a…正極集電体、21b…カーボンコート層、21c…正極活物質層、22…負極、22a…負極集電体、22b…負極活物質層、23…セパレータ、24…シール部、30…セルスタック、40…正極通電板、50…負極通電板。
図1