(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】熱流スイッチング素子
(51)【国際特許分類】
H10N 15/00 20230101AFI20241119BHJP
G01K 7/22 20060101ALI20241119BHJP
H01C 7/04 20060101ALI20241119BHJP
H01C 7/02 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H10N15/00
G01K7/22 A
H01C7/04
H01C7/02
(21)【出願番号】P 2020194862
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2020027859
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 利晃
(72)【発明者】
【氏名】新井 皓也
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037913(JP,A)
【文献】特開2019-138798(JP,A)
【文献】国際公開第2004/068604(WO,A1)
【文献】特開2014-053635(JP,A)
【文献】特開2016-216688(JP,A)
【文献】松永 卓也,外3名,外部電場で動作する熱流スイッチング素子の作製,第80回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,日本,公益社団法人応用物理学会,2019年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 15/00
G01K 7/22
H01C 7/04
H01C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N型半導体層
と前記N型半導体層上に積層された絶縁体層
と前記絶縁体層上に積層されたP型半導体層とを備えた熱流制御素子部と、
前記熱流制御素子部に接合された感温素子部とを備え
、
前記熱流制御素子部が、前記N型半導体層と前記P型半導体層とが前記絶縁体層を挟んで交互に複数積層され、
前記感温素子部が、前記熱流制御素子部の高温側と低温側との両方でそれぞれに前記絶縁体層に直接又は他の層を介して接合して設けられていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項2】
N型半導体層と前記N型半導体層上に積層された絶縁体層と前記絶縁体層上に積層されたP型半導体層とを備えた熱流制御素子部と、
前記熱流制御素子部に接合された感温素子部とを備え、
前記感温素子部が、前記熱流制御素子部の高温側と低温側との両方でそれぞれに前記絶縁体層に直接又は他の層を介して接合して設けられ、
前記熱流制御素子部の最上部に設けられた上部高熱伝導部と、
前記熱流制御素子部の最下部に設けられた下部高熱伝導部と、
前記N型半導体層,前記絶縁体層及び前記P型半導体層の外周縁を覆って設けられた外周断熱部とを備え、
前記上部高熱伝導部及び前記下部高熱伝導部が、前記外周断熱部よりも熱伝導性の高い材料で形成され、
前記感温素子部が、前記上部高熱伝導部及び前記下部高熱伝導部の少なくとも一方に接合されていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項3】
N型半導体層と前記N型半導体層上に積層された絶縁体層と前記絶縁体層上に積層されたP型半導体層とを備えた熱流制御素子部と、
前記熱流制御素子部に接合された感温素子部と、
前記熱流制御素子部に接合され熱流の方向を検出可能な熱流センサ部とを備え、
前記感温素子部が、前記熱流制御素子部の高温側及び低温側の少なくとも一方で前記絶縁体層に直接又は他の層を介して接合して設けられていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項4】
請求項
3に記載の熱流スイッチング素子において、
前記熱流センサ部が、同一方向に延在していると共に前記熱流制御素子部の平面方向に互いに平行に並んでいる異常ネルンスト効果が得られる複数の異常ネルンスト材料膜と、
複数の前記異常ネルンスト材料膜を電気的に直列に接続する接続配線とを備え、
前記異常ネルンスト材料膜が、前記熱流制御素子部上に積層されていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項5】
請求項
4に記載の熱流スイッチング素子において、
前記感温素子部が、サーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタ部と、
前記薄膜サーミスタ部の上及び下の少なくとも一方に対向して形成された一対の対向電極とを備え、
前記薄膜サーミスタ部と前記異常ネルンスト材料膜とが互いに積層されていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアス電圧で熱伝導を能動的に制御可能であると共に、温度変化を直接検出可能な熱流スイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱伝導率を変化させる熱スイッチとして、例えば特許文献1には、熱膨張率の異なる2つの熱伝導体を軽く接触させて温度勾配の方向によって熱の流れ方が異なるサーマルダイオードが記載されている。また、特許文献2にも、熱膨張による物理的熱接触を使った熱スイッチである放熱装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献3には、化合物に電圧を印加させることで起こる可逆的な酸化還元反応により熱伝導率が変化する熱伝導可変デバイスが記載されている。
さらに、非特許文献1には、ポリイミドテープを2枚のAg2S0.6Se0.4で挟み込んで電場を印加することで熱伝導度を変化させる熱流スイッチング素子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2781892号公報
【文献】特許第5402346号公報
【文献】特開2016-216688号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】松永卓也、他4名、「バイアス電圧で動作する熱流スイッチング素子の作製」、第15回日本熱電学会学術講演会、2018年9月13日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献1及び2に記載の技術では、熱膨張による物理的熱接触を使うため、再現性が得られず、特に微小変化であるためサイズ設計が困難であると共に、機械接触圧による塑性変形を回避することができない。また、材料間の対流熱伝達の影響が大き過ぎる問題があった。
また、特許文献3に記載の技術では、化学反応である酸化還元反応を用いており、熱応答性に劣り、熱伝導が安定しないという不都合があった。
これらに対して非特許文献1に記載の技術では、電圧を印加することで、材料界面に熱伝導可能な電荷を生成し、その電荷によって熱を運ぶことができるため、熱伝導が変化した状態に直ちに移行でき、比較的良好な熱応答性を得ることができる。しかしながら、生成される電荷の量が少ないため、より生成される電荷の量を増大させ、熱伝導率の変化がさらに大きい熱流スイッチング素子が望まれている。
さらに、熱伝導率の変化に伴い温度がどのように変化したかを直接検出することが可能な熱流スイッチング素子が望まれている。すなわち、感温機能が付与された熱流スイッチング素子が望まれている。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、熱伝導率の変化がより大きく、優れた熱応答性を有すると共に、温度変化を直接検出可能な熱流スイッチング素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る熱流スイッチング素子は、N型半導体層と、前記N型半導体層上に積層された絶縁体層と、前記絶縁体層上に積層されたP型半導体層とを備えた熱流制御素子部と、前記熱流制御素子部に接合された感温素子部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
この熱流スイッチング素子では、N型半導体層と、N型半導体層上に積層された絶縁体層と、絶縁体層上に積層されたP型半導体層とを備えた熱流制御素子部と、熱流制御素子部に接合された感温素子部とを備えているので、P型半導体層とN型半導体層とに電圧を印加すると、P型半導体層及びN型半導体層と絶縁体層との主に界面に電荷が誘起され、この電荷が熱を運ぶことで熱伝導率が変化する。特に、N型半導体層と絶縁体層との界面及びその近傍と、P型半導体層と絶縁体層との界面及びその近傍との両方で、外部電圧により誘起された電荷が生成されるため、生成される電荷量が多く、熱伝導率の大きな変化と高い熱応答性とを得ることができる。また、化学反応機構を用いない、物理的に熱伝導率を変化させる機構であるので、熱伝導が変化した状態に直ちに移行でき、良好な熱応答性を得ることができる。
また、外部電圧の大きさに乗じて、界面に誘起される電荷量が変化するので、外部電圧を調整することで、熱伝導率を調整することが可能となるので、本素子を介して、熱流を能動的に制御可能となる。
なお、絶縁体層が絶縁体であり、電圧印加に伴う電流が発生しないため、ジュール熱は生じない。そのため、自己発熱することなく、熱流を能動的に制御可能となる。
さらに、この熱流スイッチング素子では、熱流制御素子部に接合された感温素子部を備えて複合化しているので、熱流制御素子部により熱伝導率が変化した際の温度変化を感温素子部によって直接、検出することができる。すなわち、感温素子部によって温度を直接モニタリングしながら、高速熱応答が可能な電圧印加型の熱流制御素子部により熱流を高い応答性で調整することができる。
【0010】
第2の発明に係る熱流スイッチング素子は、第1の発明において、前記感温素子部が、サーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタ部と、前記薄膜サーミスタ部の上及び下の少なくとも一方に対向して形成された一対の対向電極とを備え、前記薄膜サーミスタ部が、前記熱流制御素子部の上及び下の少なくとも一方に積層されていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、薄膜サーミスタ部が、熱流制御素子部の上及び下の少なくとも一方に積層されているので、薄膜サーミスタ部が熱流制御素子部に面接触することで、熱抵抗が下がり、高精度に温度検出が可能になると共に薄型化を図ることができる。
【0011】
第3の発明に係る熱流スイッチング素子は、第1又は第2の発明において、前記感温素子部が、前記熱流制御素子部の高温側と低温側との両方にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、感温素子部が、熱流制御素子部の高温側と低温側との両方にそれぞれ設けられているので、熱流制御素子部の高温側と低温側との両方で温度を検出することができ、熱流方向に対応して、時時刻刻と変化する熱伝導の状態をより高精度に検出することができる。また、高温側と低温側との両方で検出された温度に応じて、熱流制御素子部で外部電圧により熱流を調整することが可能なので、熱流スイッチング素子と熱接触している物体の温度が時間変化しても、その時々の熱伝導の状態に応じて、非常に高い熱応答性をもった熱流スイッチングが可能となる。
【0012】
第4の発明に係る熱流スイッチング素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記熱流制御素子部が、前記N型半導体層と前記P型半導体層とが前記絶縁体層を挟んで交互に複数積層されていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、N型半導体層とP型半導体層とが絶縁体層を挟んで交互に複数積層されているので、P型半導体層及びN型半導体層と絶縁体層との界面が複数形成されることで多くの電荷が誘起され、熱伝導率を大きく変化させることができる。
【0013】
第5の発明に係る熱流スイッチング素子は、第1から第4の発明のいずれかにおいて、前記熱流制御素子部の最上部に設けられた上部高熱伝導部と、前記熱流制御素子部の最下部に設けられた下部高熱伝導部と、前記N型半導体層,前記絶縁体層及び前記P型半導体層の外周縁を覆って設けられた外周断熱部とを備え、前記上部高熱伝導部及び前記下部高熱伝導部が、前記外周断熱部よりも熱伝導性の高い材料で形成され、前記感温素子部が、前記上部高熱伝導部及び前記下部高熱伝導部の少なくとも一方に接合されていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、上部高熱伝導部及び下部高熱伝導部が、外周断熱部よりも熱伝導性の高い材料で形成されているので、面内方向への熱流を抑制でき、積層方向に熱スイッチ性を得ることができる。特に、各層の外周にN側電極及びP側電極が配されている場合、これら電極への熱の流入を熱伝導性の低い外周断熱部により極力抑えることができる。
さらに、この熱流スイッチング素子では、感温素子部が、上部高熱伝導部及び下部高熱伝導部の少なくとも一方に接合されているので、熱流の経路上にあり熱伝導性の高い高熱伝導部に接合された感温素子部によって温度変化をより高精度かつ高い応答性で検出することができる。
【0014】
第6の発明に係る熱流スイッチング素子は、第1から第5の発明のいずれかにおいて、前記熱流制御素子部に接合され熱流の方向を検出可能な熱流センサ部を備えていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、熱流制御素子部に接合され熱流の方向を検出可能な熱流センサ部を備えているので、熱流センサ部により熱流の方向を確認しながら熱伝導率を制御することができる。したがって、熱流スイッチング素子と熱接触している物体から入出力される熱流束が時間変化しても、その時々の熱伝導の状態に応じて、非常に高い熱応答性をもった熱流スイッチングが可能となる。
【0015】
第7の発明に係る熱流スイッチング素子は、第6の発明において、前記熱流センサ部が、同一方向に延在していると共に前記熱流制御素子部の平面方向に互いに平行に並んでいる異常ネルンスト効果が得られる複数の異常ネルンスト材料膜と、複数の前記異常ネルンスト材料膜を電気的に直列に接続する接続配線とを備え、前記異常ネルンスト材料膜が、前記熱流制御素子部上に積層されていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、異常ネルンスト材料膜が、熱流制御素子部上に積層されているので、異常ネルンスト材料膜が熱流制御素子部に面接触することで、熱抵抗が下がり、高精度に熱流の方向を検出可能になると共に薄型化を図ることができる。
特に、熱流の方向に対して直交する方向に電圧が生じる複数の異常ネルンスト材料膜を平面方向に並べて電気的に直列に接続していることで、多くの配線数で異常ネルンスト材料膜を並べることで、厚さを増やさずに電圧を増幅することができる。
【0016】
第8の発明に係る熱流スイッチング素子は、第7の発明において、前記感温素子部が、サーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタ部と、前記薄膜サーミスタ部の上及び下の少なくとも一方に対向して形成された一対の対向電極とを備え、前記薄膜サーミスタ部と前記異常ネルンスト材料膜とが互いに積層されていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、薄膜サーミスタ部と異常ネルンスト材料膜とが互いに積層されているので、薄膜サーミスタ部と異常ネルンスト材料膜とが互いに面接触することで、熱抵抗が下がり、温度検出と熱流方向の検出とが高精度に可能になると共に薄型化を図ることができる。また、薄膜サーミスタ部は、異常ネルンスト材料膜よりも高い電気抵抗を有しており、高い絶縁性を有しているため、積層される異常ネルンスト材料膜の熱流検知のための電圧検出は、薄膜サーミスタ部の導電性の影響を受け難い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る熱流スイッチング素子によれば、熱流制御素子部に接合された感温素子部を備えて複合化しているので、感温素子部によって温度を直接モニタリングしながら、高速熱応答が可能な電圧印加型の熱流制御素子部により熱流を高い応答性で調整することができる。
また、N型半導体層と、N型半導体層上に積層された絶縁体層と、絶縁体層上に積層されたP型半導体層とを備えているので、外部電圧印加により生成される電荷量が多く、熱伝導率の大きな変化と高い熱応答性とを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る熱流スイッチング素子の第1実施形態を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態において、熱流スイッチング素子を示す概念的な断面図である。
【
図3】第1実施形態において、熱流スイッチング素子を示す上面の保護膜を除いた状態の平面図である。
【
図4】第1実施形態において、原理を説明するための概念図である。
【
図5】本発明に係る熱流スイッチング素子の第2実施形態を示す斜視図である。
【
図6】本発明に係る熱流スイッチング素子の第3実施形態を示す概念的な断面図である。
【
図7】第3実施形態において、熱流スイッチング素子を示す上面の保護膜を除いた状態の平面図である。
【
図8】本発明に係る熱流スイッチング素子の第4実施形態を示す概念的な断面図である。
【
図9】第4実施形態において、熱流スイッチング素子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る熱流スイッチング素子における第1実施形態を、
図1から
図4を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0020】
本実施形態の熱流スイッチング素子1は、
図1及び
図2に示すように、N型半導体層3と、N型半導体層3上に積層された絶縁体層4と、絶縁体層4上に積層されたP型半導体層5とを備えた熱流制御素子部10と、熱流制御素子部10に接合された感温素子部11A,11Bとを備えている。
【0021】
上記感温素子部11A,11Bは、
図2及び
図3に示すように、サーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタ部11aと、薄膜サーミスタ部11aの上及び下の少なくとも一方に対向して形成された一対の対向電極11bとを備えている。なお、薄膜サーミスタ部11a及び対向電極11bの上には、絶縁性の保護膜11cが積層されている。
なお、本実施形態では、
図3に示すように、一対の対向電極11bが、薄膜サーミスタ部11aの上に対向配置されている。なお、一対の対向電極11bには、一対のリード線8aが接続されている。
【0022】
上記薄膜サーミスタ部11aは、熱流制御素子部10の上及び下の少なくとも一方に積層されている。
本実施形態では、感温素子部11A,11Bが、熱流制御素子部10の高温側と低温側との両方にそれぞれ設けられている。
すなわち、本実施形態では、熱流方向が積層方向に設定されており、感温素子部11A,11Bが、熱流制御素子部10の上部と下部との両方にそれぞれ設けられている。
【0023】
また、本実施形態の熱流スイッチング素子1では、熱流制御素子部10の最上部に設けられた上部高熱伝導部18と、熱流制御素子部10の最下部に設けられた下部高熱伝導部2(基材)と、N型半導体層3,絶縁体層4及びP型半導体層5の外周縁を覆って設けられた外周断熱部19とを備えている。
上記上部高熱伝導部18及び下部高熱伝導部2は、外周断熱部19よりも熱伝導性の高い材料で形成されている。
【0024】
また、感温素子部11A,11Bは、上部高熱伝導部18及び下部高熱伝導部2の少なくとも一方に接合されている。
本実施形態では、感温素子部11Bが上部高熱伝導部18上に接合されている。また、感温素子部11Aは、下部高熱伝導部2上に形成されていると共に保護膜11cを挟んで感温素子部11A上に熱流制御素子部10が形成されることで、保護膜11cを介して熱流制御素子部10に接合されている。
【0025】
さらに、本実施形態の熱流スイッチング素子1は、
図2に示すように、N型半導体層3に接続されたN側電極6と、P型半導体層5に接続されたP側電極7とを備えている。
成膜方法は、スパッタリング法、分子線エピタキシー法(MBE法)等、各種成膜手法が採用される。
なお、N型半導体層3及びP型半導体層5に直接電圧を印加可能な場合は、N側電極6及びP側電極7が不要である。
【0026】
また、N側電極6及びP側電極7には、それぞれリード線6a,7aが接続されている。
上記N側電極6及びP側電極7には、外部電源Vが接続され、電圧が印加される。
上記下部高熱伝導部2は、絶縁性の基材であって、この基材(下部高熱伝導部2)上に、下部の感温素子部11A,熱流制御素子部10,上部の感温素子部11Bが、この順で積層されている。
【0027】
例えば、上部高熱伝導部18は、シリコン系樹脂(シリコーン)等の高熱伝導材料で形成されていると共に、基材である下部高熱伝導部2はアルミナ等で形成された高熱伝導基板が採用される。
また、上記外周断熱部19は、エポキシ樹脂等の低熱伝導材料で形成されている。
外周断熱部19は、最上部の絶縁体層4の部分を露出させた状態でその周りを覆っており、上部高熱伝導部18は、露出した最上部の絶縁体層4に接触するように上部に形成されている。
なお、外周断熱部19は、各層の外周に配されリード線26a,27aに接続されたN側電極6及びP側電極7も覆って形成されている。
【0028】
熱流制御素子部10は、N型半導体層3とP型半導体層5とが絶縁体層4を挟んで交互に複数積層されている。
すなわち、下部の感温素子部11A上に絶縁体層4をまず成膜し、その上にN型半導体層3とP型半導体層5とを、間に絶縁体層4を介在させながらこの順で繰り返し積層し、3層のN型半導体層3と3層のP型半導体層5と7層の絶縁体層4との積層体を構成している。
【0029】
各N型半導体層3は、それぞれ基端部に設けられたN側連結部3aに接続され、さらにN側連結部3aの一部にN側電極6が形成されている。また、各P型半導体層5は、それぞれ基端部に設けられたP側連結部5aに接続され、さらにP側連結部5aの一部にP側電極7が形成されている。
上記各層は、メタルマスクを用いてパターン形成されている。なお、メタルマスクの位置をずらして成膜することで、N型半導体層3とP型半導体層5と絶縁体層4を複数積層している。
【0030】
N型半導体層3及びP型半導体層5は、厚さ1μm未満の薄膜で形成されている。特に、絶縁体層4との界面及びその近傍に生成される電荷eは、5~10nmの厚さ範囲で主に溜まるため、N型半導体層3及びP型半導体層5は、100nm以下の膜厚で形成されることがより好ましい。なお、N型半導体層3及びP型半導体層5は、5nm以上の膜厚が好ましい。
また、絶縁体層4は、40nm以上の膜厚が好ましく、絶縁破壊が生じない厚さに設定される。なお、絶縁体層4は、厚すぎると電荷eを運び難くなるため、1μm未満の膜厚とすることが好ましい。なお、
図4中の、N型半導体層3と絶縁体層4との界面及びその近傍に生成される電荷eの種類は、電子であり、白丸で表記されている。また、P型半導体層5と絶縁体層4との界面及びその近傍に生成される電荷eの種類は、正孔であり、黒丸で表記されている。(正孔は、半導体の価電子帯の電子の不足によってできた孔であり、相対的に正の電荷を持っているように見える。)
【0031】
N型半導体層3及びP型半導体層5は、低い格子熱伝導を持つ縮退半導体材料が好ましく、例えばSiGe等の熱電材料、CrN等の窒化物半導体、VO2等の酸化物半導体などが採用可能である。なお、N型,P型の導電性は、半導体材料にN型,P型のドーパントを添加すること等で設定している。
【0032】
絶縁体層4は、熱伝導率が小さい絶縁性材料であることが好ましく、SiO2等の絶縁体、HfO2,BiFeO3等の誘電体、ポリイミド(PI)等の有機材料などが採用可能である。特に、誘電率の高い誘電体材料が好ましい。
上記N側電極6及び上記P側電極7は、例えばMo,Al等の金属で形成される。
【0033】
本実施形態の熱流スイッチング素子1は、
図4に示すように、電場(電圧)印加により、N型半導体層3と絶縁体層4との界面及びその近傍に熱伝導可能な電荷eを生成することで、生成した電荷eが熱を運んで熱伝導率が変化する。
なお、熱伝導率は以下の式で得られる。
熱伝導率=格子熱伝導率+電子熱伝導率
【0034】
この2種類の熱伝導率のうち、電場(電圧)印加により生成した電荷量に応じて変化するのは、電子熱伝導率である。したがって、本実施形態において、より大きな熱伝導率変化を得るには、格子熱伝導率が小さい材料が適している。したがって、N型半導体層3,絶縁体層4及びP型半導体層5のいずれにおいても、格子熱伝導率が小さい、すなわち熱伝導率が小さい材料が選択される。
【0035】
本実施形態の各層を構成する材料の熱伝導率は、5W/mK以下、より好ましくは1W/mK以下の低いものであることが良く、上述した材料が採用可能である。
また、上記電子熱伝導率は、印加する外部電場(電圧)に応じて生成される電荷eの量に応じて増大する。
なお、N型半導体層3及びP型半導体層5と絶縁体層4との界面で電荷eが生成されることから、界面の総面積を増やすことで、生成する電荷eの量も増やすことができる。
【0036】
上記熱伝導率の測定方法は、例えば基板上に形成された薄膜試料をパルスレーザーで瞬間的に加熱し、薄膜内部への熱拡散による表面温度の低下速度あるいは表面温度の上昇速度を測定することにより、薄膜の膜圧方向の熱拡散率又は熱浸透率を求める方法であるパルス光加熱サーモリフレクタンス法により行う。なお、上記パルス光加熱サーモリフレクタンス法のうち、熱拡散を直接測定する方法(裏面加熱/表面測温(RF)方式)では、パルスレーザーが透過可能な透明基板を用いる必要があるため、透明基板でない場合は、熱浸透率を測定し、熱伝導率に換算する方式である表面加熱/測温(FF)方式で熱伝導率を測定する。なお、この測定には、金属膜が必要であり、Mo,Al等が採用される。
【0037】
上記感温素子部11A,11Bは、
図3に示すように、一対の対向電極11bが、互いに対向方向に突出した複数の櫛部11dを有した櫛形とされ、一方の対向電極11bの櫛部11dと他方の対向電極11bの櫛部11dとが、交互に並んで配されている。
対向電極11bは、例えばCr膜の単層や、Cr膜とAu膜との積層金属膜等の種々の金属膜が採用可能である。
【0038】
なお、薄膜サーミスタ部11aとしては、一般的に、NTCサーミスタ(負の温度特性を示し、温度の上昇により電気抵抗値が指数関数的に減少する素子)が採用されるが、異常温度検知を素早く検出するため、PTCサーミスタ(正の温度特性を示し、温度の上昇により電気抵抗値が増加する素子。または、正の温度特性を示し、ある温度を超えると、温度の上昇に伴って電気抵抗値が急激に大きくなる素子)、CTRサーミスタ(負の温度係数を持つところはNTCと同様だが、ある温度範囲を超えると急激に電気抵抗値が減少する素子)を採用しても構わない。
【0039】
上記NTCサーミスタ材料としては、一般的には酸化物材料が知られ、例えば、スピネル型結晶構造をもつ(Mn,Co,Ni)3O4や、ペロブスカイト型結晶構造をもつ(La,Ca)(Cr,Mn)O3のような酸化物が用いられるが、本実施形態における薄膜サーミスタ部11aとしては、一般式:MxAyNz(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示され、六方晶系のウルツ鉱型の単相である金属窒化物からなる材料が好ましい。本実施形態では、薄膜サーミスタ部11aとして、一般式:TixAlyNz(但し、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示され、六方晶系のウルツ鉱型の単相である金属窒化物を採用している。
上記薄膜サーミスタ部11aは、例えばTi-Al-Nの場合、Ti-Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜する。
【0040】
ウルツ鉱型の結晶構造は、六方晶系の空間群P63mc(No.186)であり、MとAとは同じ原子サイトに属し(MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)、いわゆる固溶状態にある。ウルツ鉱型は、(M,A)N4四面体の頂点連結構造をとり、(M,A)サイトの最近接サイトがN(窒素)であり、(M,A)は窒素4配位をとる。
【0041】
なお、Ti以外に、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)が同様に上記結晶構造においてTiと同じ原子サイトに存在することができ、Mの元素となり得る。有効イオン半径は、原子間の距離を把握することによく使われる物性値であり、特によく知られているShannonのイオン半径の文献値を用いると、論理的にもウルツ鉱型のMxAyNz(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)が得られると推測できる。
以下の表1にAl,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Siの各イオン種における有効イオン半径を示す(参照論文 R.D.Shannon, Acta Crystallogr., Sect.A, 32, 751(1976))。
【0042】
なお、Ti-Al-Nは、ウルツ鉱型の結晶構造をもつ窒化物絶縁体であるAl-NのAlサイトをTiで部分置換することにより、キャリアドーピングし、電気伝導が増加することで、サーミスタ特性が得られるものであるが、V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuは、Tiと同じ3d遷移金属元素に属することから、ウルツ鉱型のMxAyNz(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)において、サーミスタ特性が得ることが可能である。
【0043】
【0044】
上記薄膜サーミスタ部11aには、上述したように、NTCサーミスタ、PTCサーミスタ、CTRサーミスタ、種々のサーミスタ材料が適用され、一般的には、負の温度特性を示し、温度の上昇により電気抵抗値が連続的に減少するNTCサーミスタが採用される。なお、薄膜サーミスタ部11aとして、ある温度を超えると、温度の上昇に伴って電気抵抗値が急激に大きくなるPTCサーミスタ、又はある温度を超えると、温度の上昇に伴って電気抵抗値が急激に小さくなるCTRサーミスタを用いると、異常温度をより素早く検知することができ、熱流制御素子部の熱流を高い応答性で調整することが可能となる。
【0045】
上記PTCサーミスタ材料としては、正の温度特性を示し、ある温度を超えると、温度の上昇に伴って電気抵抗値が急激に大きくなる材料が採用され、例えば、BaTiO3、SrTiO3、および、それら材料系にPb等の金属元素を微量部分置換した系や、導電性ポリマー(ポリマー中に導電性粒子を分散させたもので、ポリマーが溶融することで導電性粉末の接触が絶たれ電気抵抗が増大する)などが採用される。
上記CTRサーミスタ材料としては、ある温度を超えると、温度の上昇に伴って電気抵抗値が急激に減少する金属絶縁体転移材料が採用され、例えば、VO2、および、その材料系に金属元素を微量部分置換した系などが採用される。
上記PTCサーミスタ材料、CTRサーミスタ材料からなる薄膜作製は、スパッタリング法、ゾルゲル法、印刷法など、種々の成膜手法が適用される。
【0046】
このように本実施形態の熱流スイッチング素子1では、N型半導体層3と、N型半導体層3上に積層された絶縁体層4と、絶縁体層4上に積層されたP型半導体層5とを備えた熱流制御素子部10と、熱流制御素子部10に接合された感温素子部11A,11Bとを備えているので、P型半導体層5とN型半導体層3とに電圧を印加すると、P型半導体層5及びN型半導体層3と絶縁体層4との主に界面に電荷eが誘起され、この電荷eが熱を運ぶことで熱伝導率が変化する。
【0047】
特に、N型半導体層3と絶縁体層4との界面及びその近傍と、P型半導体層5と絶縁体層4との界面及びその近傍との両方で、外部電圧により誘起された電荷eが生成されるため、生成される電荷量が多く、熱伝導率の大きな変化と高い熱応答性とを得ることができる。また、化学反応機構を用いない、物理的に熱伝導率を変化させる機構であるので、熱伝導が変化した状態に直ちに移行でき、良好な熱応答性を得ることができる。
また、外部電圧の大きさに乗じて、界面に誘起される電荷量が変化するので、外部電圧を調整することで、熱伝導率を調整することが可能となるので、本素子を介して、熱流を能動的に制御可能となる。
なお、基材である下部高熱伝導部2が絶縁体であり、電圧印加に伴う電流が発生しないため、ジュール熱は生じない。そのため、自己発熱することなく、熱流を能動的に制御可能となる。
【0048】
さらに、この熱流スイッチング素子1では、熱流制御素子部10に接合された感温素子部11A,11Bを備えて複合化しているので、熱流制御素子部10により熱伝導率が変化した際の温度変化を感温素子部11A,11Bによって直接、検出することができる。すなわち、感温素子部11A,11Bによって温度を直接モニタリングしながら、高速熱応答が可能な電圧印加型の熱流制御素子部10により熱流を高い応答性で調整することができる。
【0049】
特に、薄膜サーミスタ部11aが、熱流制御素子部10の上及び下の少なくとも一方に積層されているので、薄膜サーミスタ部11aが熱流制御素子部10に面接触することで、熱抵抗が下がり、高精度に温度検出が可能になると共に薄型化を図ることができる。
また、感温素子部11A,11Bが、熱流制御素子部10の高温側と低温側との両方にそれぞれ設けられているので、熱流制御素子部10の高温側と低温側との両方で温度を検出することができ、熱流方向に対応して、時時刻刻と変化する熱伝導の状態をより高精度に検出することができる。また、高温側と低温側との両方で検出された温度に応じて、熱流制御素子部で外部電圧により熱流を調整することが可能なので、熱流スイッチング素子と熱接触している物体の温度が時間変化しても、その時々の熱伝導の状態に応じて、非常に高い熱応答性をもった熱流スイッチングが可能となる。
さらに、N型半導体層3とP型半導体層5とが絶縁体層4を挟んで交互に複数積層されているので、N型半導体層3及びP型半導体層5と絶縁体層4との界面が複数形成されることで多くの電荷eが誘起され、熱伝導率を大きく変化させることができる。
【0050】
次に、本発明に係る熱流スイッチング素子の第2~第4実施形態について、
図5から
図8を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0051】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、感温素子部11A,11Bが熱流制御素子部10の上下に設けられているのに対し、第2実施形態の熱流スイッチング素子21では、
図5に示すように、一対の感温素子部21A,21Bが熱流制御素子部20の上面に互いに離間して設けられている点である。
すなわち、第2実施形態では、熱流方向が熱流制御素子部20の面内方向(平面方向)であって、高温側の端部上に感温素子部21Aが設置されていると共に低温側の端部上に感温素子部21Bが設置されている。
【0052】
なお、第2実施形態の熱流制御素子部20は、第1実施形態のものよりも熱流方向に沿って長い帯状に設けられている。
このように本実施形態の熱流スイッチング素子21でも、感温素子部21A,21Bが、熱流制御素子部20の高温側と低温側との両方にそれぞれ設けられているので、熱流制御素子部20の高温側と低温側との両方で温度を検出することができ、熱流方向に対応して熱伝導の状態をより高精度に検出することができる。
【0053】
次に、第3実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、熱流制御素子部10の上下にそれぞれ感温素子部11A,11Bが設けられているのに対し、第3実施形態の熱流スイッチング素子31では、
図6及び
図7に示すように、熱流制御素子部10の下だけに感温素子部11Aが設けられていると共に熱流制御素子部10の上に熱流の方向を検出可能な熱流センサ部32が設けられている点である。
【0054】
すなわち、第3実施形態の熱流スイッチング素子31は、熱流制御素子部10に接合され熱流の方向または/および熱流束を検出可能な熱流センサ部32を備えている。
上記熱流センサ部32は、同一方向に延在していると共に熱流制御素子部10の平面方向に互いに平行に並んでいる異常ネルンスト効果が得られる複数の異常ネルンスト材料膜32aと、複数の異常ネルンスト材料膜32aを電気的に直列に接続する接続配線32bとを備えている。
直列接続された異常ネルンスト材料膜32aの両端には、それぞれ電極配線32cが接続されている。
上記接続配線32b及び電極配線32cは、起電力が小さいAu膜が好ましいが、Cr膜とAu膜との積層金属膜等も採用可能である。
【0055】
上記異常ネルンスト材料膜32aは、熱流制御素子部10上に積層されている。
すなわち、熱流制御素子部10の上部に形成された上部高熱伝導部18上に異常ネルンスト材料膜32aと接続配線32bと電極配線32cとが成膜されている。
複数の異常ネルンスト材料膜32aは、厚さ方向の熱流に対して発生する電圧方向に対して互いに平行に配列された帯状又は線状に形成されている。
なお、直列接続される異常ネルンスト材料膜32aの数や長さを増やすことで、得られる電圧も大きくできる。
【0056】
上記異常ネルンスト材料膜32aは、Fe-Al,Fe-Pt,Co-Pt等の材料や、Co2MnGa,Co2MnAl,Co2MnSi等のホイスラー系合金材料等の自発磁化が大きい強磁性体材料や、Mn2Sn等の反強磁性材料などが採用可能である。
上記異常ネルンスト材料膜形成工程では、例えばFe-Al合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタを行って異常ネルンスト材料膜32aを成膜する。
このように第3実施形態の熱流スイッチング素子31では、異常ネルンスト材料膜32aが、熱流制御素子部10上に積層されているので、異常ネルンスト材料膜32aが熱流制御素子部10に面接触することで、熱抵抗が下がり、高精度に熱流の方向を検出可能になると共に薄型化を図ることができる。
特に、熱流の方向に対して直交する方向に電圧が生じる複数の異常ネルンスト材料膜32aを平面方向に並べて電気的に直列に接続していることで、多くの配線数で異常ネルンスト材料膜32aを並べることで、厚さを増やさずに電圧を増幅することができる。
【0057】
次に、第4実施形態と第3実施形態の異なる点は、第1実施形態では、熱流制御素子部10の上に熱流センサ部32だけが設けられているのに対し、第4実施形態の熱流スイッチング素子41では、
図8及び
図9に示すように、熱流制御素子部10の上に感温機能と熱流測定機能とを有する複合素子部42が設けられている点である。
すなわち、第4実施形態では、熱流制御素子部10の上部に形成された上部高熱伝導部18上に薄膜サーミスタ部11aと異常ネルンスト材料膜32aとがこの順で積層されて複合素子部42を構成している。
【0058】
このように第4実施形態の熱流スイッチング素子41では、薄膜サーミスタ部11aと異常ネルンスト材料膜32aとが互いに積層されているので、薄膜サーミスタ部11aと異常ネルンスト材料膜32aとが互いに面接触することで、熱抵抗が下がり、温度検出と熱流方向の検出とが高精度に可能になると共に薄型化を図ることができる。
なお、薄膜サーミスタ部11aは、異常ネルンスト材料膜32aよりも高い電気抵抗を有している。特に、薄膜サーミスタ部が、一般式:TixAlyNz(但し、0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物薄膜からなる場合、高いB定数及び高熱伝導度が得られるだけでなく、比較的高い絶縁性を有しているため、積層される異常ネルンスト材料膜32aの熱流検知のための電圧検出は、薄膜サーミスタ部11aの導電性の影響を受け難い。
【0059】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、熱抵抗を下げるために薄膜サーミスタ部を備えた感温素子部を採用することが好ましいが、熱電対,測温抵抗体,チップサーミスタ等を備えた感温素子部を採用しても構わない。また、薄膜サーミスタ部としては、各種金属酸化物材料や各種金属窒化物材料が採用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1,21,31,41…熱流スイッチング素子、2…下部高熱伝導部(基材)、3…N型半導体層、4…絶縁体層、5…P型半導体層、6…N側電極、7…P側電極、10…熱流制御素子部、11A,11B…感温素子部、11a…薄膜サーミスタ部、11b…対向電極、18…上部高熱伝導部、19…外周断熱部、32…熱流センサ部、32a…異常ネルンスト材料膜、32b…接続配線