(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】圧電性易変形性凝集体、圧電性樹脂組成物、圧電膜および圧電素子
(51)【国際特許分類】
H10N 30/85 20230101AFI20241119BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20241119BHJP
【FI】
H10N30/85
H10N30/30
(21)【出願番号】P 2020200687
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉内 啓輔
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-245321(JP,A)
【文献】特開2011-132121(JP,A)
【文献】特開平10-335713(JP,A)
【文献】特開2017-108125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/85
H10N 30/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が
0.3~5μmの無機圧電材料(A)100重量部と、
ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンイミンからなる群から選択される少なくとも1種である有機結着剤(B)0.1~30重量部と、を含む平均粒子径が
5~100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が
0.6mN以上、5mN以下であることを特徴とする易変形性凝集体(C)。
【請求項2】
請求項1記載の易変形性凝集体(C)20~90体積%と、
ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂及びセルロースエステルからなる群から選択される少なくとも1種であるバインダー樹脂(D)10~80体積%と、を含有することを特徴とする圧電性樹脂組成物(F)。
【請求項3】
請求項2記載の圧電性樹脂組成物(F)を基材上に塗工してなる圧電膜(H)。
【請求項4】
圧電膜(H)の厚みをt、易変形性凝集体(C)を平均粒子径DBとした際、t/DBが1/1~2.5/1である請求項3記載の圧電膜(H)。
【請求項5】
2種以上の圧電膜が積層されてなる圧電積層体(J)であって、請求項1に記載の易変形性凝集体(C)を含む第一の圧電膜(L)と、無機圧電材料(A)およびバインダー樹脂(D)を含有し、前記易変形性凝集体(C)を含有しない第二の圧電膜(K)とを有し、該第一の圧電膜(L)が、圧電積層体(J)の最外層には位置しないように積層されてなる圧電積層体(J)。
【請求項6】
請求項3もしくは4に記載の圧電膜
(H)、または請求項5に記載の圧電積層体
(J)を含む圧電素子(M)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ等に使用される圧電膜および圧電素子に好適に使用できる圧電性易変形性凝集体、および圧電性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料はチタン酸ジルコン酸鉛のような金属酸化物が一般的に知られており、超音波センサやアクチュエータなど多様な圧電デバイスで使用されている。このような金属酸化物系の圧電材料は、圧電性能は高い一方、非常に硬く、柔軟性を有さない。そのため近年注目されるウェアラブル用途などセンサ自体の変形が求められる用途には適さない。ポリフッ化ビニリデンやその共重合体などの樹脂による圧電材料も存在しているが、その圧電性能は金属酸化物系の圧電材料に比べて小さいという課題がある。
【0003】
圧電材料に柔軟性を持たせるため、金属酸化物系の圧電材料と樹脂を複合させる検討も行われている。(特許文献1,2)しかし、この方法では樹脂が圧電材料に対して誘電率が低いため、十分な圧電性が得られない他、圧電材料の作成に必要な分極処理に大きな電圧を掛ける必要がある。樹脂成分を少なくしてしまうと、圧電性能は改善されるが、柔軟性が大きく低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-28323号公報
【文献】特許第6510148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、圧電性と柔軟性を両立させる圧電膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、平均一次粒子径が0.1~10μmの無機圧電材料(A)100重量部と、有機結着剤(B)0.1~30重量部と、を含む平均粒子径が2~100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下であることを特徴とする易変形性凝集体(C)に関する。
【0007】
また、本発明は、前記の易変形性凝集体(C)20~90体積%と、バインダー樹脂(D)10~80体積%と、を含有することを特徴とする圧電性樹脂組成物(F)に関する。
【0008】
また、本発明は、前記の圧電性樹脂組成物(F)を基材上に塗工してなる圧電膜(H)に関する。
【0009】
また、本発明は、圧電膜(H)の厚みをt、易変形性凝集体(C)の平均粒子径DBをとした際、t/DBが1/1~2.5/1である前記の圧電膜(H)に関する。
【0010】
また、本発明は、2種以上の圧電膜が積層されてなる圧電積層体(J)であって、前記易変形性凝集体(C)を含む第一の圧電膜(L)と、無機圧電材料(A)およびバインダー樹脂(D)を含有し、前記易変形性凝集体(C)を含有しない第二の圧電膜(K)とを有し、該第一の圧電膜(L)が、圧電積層体(J)の最外層には位置しないように積層されてなる圧電積層体(J)に関する。
【0011】
また、本発明は、前記の圧電膜、または前記の圧電積層体を含む圧電素子(M)に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の易変形性凝集体は、柔軟性向上のために樹脂を配合しても従来と同程度の圧電性を圧電膜に付与できる。また、本発明の圧電性樹脂組成物は、前記の易変形性凝集体を使用しているため、柔軟性と圧電性を両立可能な圧電膜を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<易変形性凝集体(C)>
本発明の易変形性凝集体(C)は平均一次粒子径が0.1~10μmの無機圧電材料(A)100重量部と、有機結着剤(B)0.1~30重量部と、を含み、かつ平均粒子径が2~100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下であることを特徴とする。このような組み合わせにより、柔軟性と圧電性が両立可能な圧電膜を作成することができる。
【0014】
本明細書における「易変形性」とは、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下であることをいう。圧縮変形率10%に要する平均圧縮力とは、圧縮試験により測定した、粒子を10%変形させるための荷重の平均値のことであり、例えば、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCT-210)で測定することができる。
具体的には、測定対象のごく少量の試料を顕微鏡にて拡大し、任意の一粒を選択し、該測定対象粒子を加圧圧子の下部に移動させ、前記加圧圧子に負荷を加え、前記測定対象粒子を圧縮変形させる。前記試験機は、前記測定対象粒子の圧縮変位を計測するための検出器を、前記加圧圧子の上部に備えている。前記検出器にて、前記測定対象粒子の圧縮変位を計測し、変形率を求める。そして、前記測定対象粒子を10%圧縮変形するために要する圧縮力(以下、「10%圧縮変形力」とも略す)を求める。任意の他の測定対象粒子について、同様にして「10%圧縮変形力」を求め、10個の測定対象粒子についての「10%圧縮変形力」の平均値を「圧縮変形率10%に要する平均圧縮力」とする。なお、本発明の易変形性凝集体(C)は、後述するように小さな無機圧電材料(A)が複数集合した状態のものであるが、圧縮変形率の測定においては凝集体を一粒の単位とする。
【0015】
<無機圧電材料(A)>
無機圧電材料(A)は平均一次粒子径が0.1~10μmであり、圧電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ビスマス、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸ナトリウムカリウム、タンタル酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用することもできる。毒性や生産安定性の観点から、鉛を含まないものが好ましい。
【0016】
易変形性凝集体(C)を得るために用いられる無機圧電材料(A)は、平均一次粒子径が0.1~10μmであり、0.3~5μmであることが好ましい。一種類の大きさの無機圧電材料(A)を用いる場合には、平均一次粒子径が0.3~5μmのものを用いることが好ましい。大きさの異なる複数の種類の無機圧電材料(A)を用いることもでき、その場合には、比較的小さなものと比較的大きなものを組み合わせて用いることが、凝集体内の空隙率を減らすという点で好ましい。平均一次粒子径が小さ過ぎると、圧電材料の極性の向きが揃いづらく、圧電性が低下する傾向にある。一方、平均一次粒子径が大き過ぎると凝集体を作成しようとしても崩壊し易く、凝集体自体が形成されにくい。
なお、本明細書における無機圧電材料(A)の平均一次粒子径は、粒度分布計(例えば、Malvern Instruments社製、マスターサイザー2000)で測定したときの値である。
また、本発明の易変形性凝集体(C)が崩壊しにくいことは、例えば、ガラスサンプル管に易変形性凝集体(C)を空隙率70%となるように入れ、振とう機にて2時間振とうしても、振とう後の平均粒子径が振とう前の平均粒子径の80%以上であることからも支持される。
【0017】
<有機結着剤(B)>
本明細書における有機結着剤(B)は、無機圧電材料(A)を結着させる「つなぎ」の役割を果たす。有機結着剤(B)としては、特に制限されず、例えば、「つなぎ」の役割を果たせる範囲において分子量は問わず、例えば、界面活性剤、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、(不飽和)ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ゼラチン、ギルソナイト、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、スチレン/無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン/酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリウレタン樹脂等が挙げられるが、これに制限されない。有機結着剤(B)は、1種類を単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
(メタ)アクリル樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0018】
また、上記有機結着剤(B)は、得られる易変形性凝集体(C)の変形性にも影響を与えるため、非硬化性であることが好ましい。非硬化性とは、有機結着剤(B)が25℃で自己架橋しないことをいう。なお、有機結着剤(B)に対して硬化剤として機能する成分は、使用しないことが好ましい。
【0019】
本発明の易変形性凝集体(C)は、上記無機圧電材料(A)100重量部に対し、上記有機結着剤(B)を0.1~30重量部含有するものであり、0.1~10重量部含有することが好ましい。0.1重量部より少ないと、無機圧電材料(A)を十分に結着することができず形態を維持するために十分な強度が得られないため好ましくない。また、30重量部より多い場合は、無機圧電材料(A)を結着させる効果は大きくなるが、無機圧電材料(A)間に必要以上に結着剤が入り込み、圧電性を阻害する恐れがあるため好ましくない。
【0020】
本発明の易変形性凝集体(C)の平均粒子径は2~100μmであり、好ましくは5~50μmである。平均粒子径が2μmより小さい場合、易変形性凝集体(C)を構成する無機圧電材料(A)の数が少なくなり、凝集体としての効果が低く、変形性にも劣るため好ましくない。平均粒子径が100μmを超えると、単位体積あたりの易変形性凝集体(C)の重量が大きくなり、分散体として用いた場合に沈降したり、形成する圧電膜の膜厚に自由度がなくなる等の問題が生じるため好ましくない。
なお、本発明における易変形性凝集体(C)の平均粒子径は、粒度分布計(例えば、Malvern Instruments社製、マスターサイザー2000)で測定した値である。
【0021】
<易変形性凝集体(C)の製造方法>
本発明の易変形性凝集体(C)は、例えば、無機圧電材料(A)100重量部と有機結着剤(B)0.1~30重量部と溶剤とを含有する有機結着剤溶液を吹き付けた後、もしくは吹き付けつつ、溶剤を除去することによって得ることができる。
組成が均一な易変形性凝集体(C)を得るためには、無機圧電材料(A)と有機結着剤(B)を溶剤中で予め混合してスラリーとする工程を経て、その後溶剤を除去することが好ましい。
【0022】
前記スラリーから溶剤を除去する方法は特に制限はなく、市販の装置を用いて易変形性凝集体(C)を製造することができる。例えば、噴霧乾燥、攪拌乾燥、静置乾燥等の方法の中から選択することができる。中でも、比較的真球状に近く、粒子径の揃った易変形性凝集体(C)を生産性良く得られ、乾燥速度が速く、より変形しやすい易変形性凝集体(C)を得られるという点から、噴霧乾燥を好適に用いることができる。
具体的には、前記スラリーを霧状に噴霧しながら、溶剤を揮発・除去すればよい。噴霧条件や揮発条件を適宜選択することができる。
【0023】
<圧電性樹脂組成物(F)、圧電膜(H)>
本発明の圧電性樹脂組成物(F)は、上記の本発明の易変形性凝集体(C)20~90体積%と、バインダー樹脂(D)10~80体積%と、溶剤(E)を含有することが好ましい。なお、圧電性樹脂組成物中の各体積%は、後述する計算方法にて算出する。
【0024】
基材上に圧電性樹脂組成物(F)を塗布して塗膜を形成することで圧電膜(H)を得ることができる。さらに、圧電膜(H)に圧力を加え、含まれている易変形性凝集体(C)を変形させることによって、圧電膜(H)の圧電性を向上させることもできる。
【0025】
ところで、高い圧電性能を実現するためには、低誘電性層の割合が少ないことが重要である。通常、柔軟性の高い圧電膜を作成するため圧電材料と樹脂を混合すると、外部から電場をかけた際、その電場の大半は低誘電部分で消費されてしまい、目的の圧電部分にはほとんど電場がかからなくなってしまう。
本発明の易変形性凝集体(C)は、無機圧電材料(A)が凝集しており、粒子間の距離が近く、低誘電成分をほとんど含まないことから、高い圧電性能が期待できる。また、圧電材料を多く含む凝集体部分と、柔軟性を持つ樹脂部分が膜内で分離していることにより、膜全体として2つの性質を両立させることが期待できる。しかも、本発明の易変形性凝集体(C)は「易変形性」であることによって、高い圧電性能を実現できる。即ち、易変形性凝集体(C)に力が加わった際に易変形性凝集体(C)は崩壊することなく、易変形性凝集体(C)内の無機圧電材料(A)同士の密着性が向上することにより、低誘電成分による電場の阻害を更に抑えることができる。
【0026】
圧電性樹脂組成物(F)は、易変形性凝集体(C)と、バインダー樹脂(D)と溶剤(E)を含み、易変形性凝集体(C)は、1種を単独で用いることも、平均粒子径の異なるものや、構成する無機圧電材料(A)の種類や平均一次粒子径の異なるものや、構成する有機結着剤(B)の種類や量の異なるものを、複数併用しても良い。
【0027】
<バインダー樹脂(D)>
圧電性樹脂組成物(F)を得る際に用いられるバインダー樹脂(D)としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、ゼラチン、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂および塩素化ポリウレタン樹脂からなる群より用途に応じて選ばれる1種または2種以上を適宜使用することができる。
(メタ)アクリル樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
【0028】
<溶剤(E)>
本発明の圧電性樹脂組成物は、さらに溶剤を含むことが好ましい。溶剤(E)はバインダー樹脂(D)を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、水、酢酸エチル、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルムからなる群より用途に応じて選ばれる1種または2種以上を適宜使用することができる。水、アセトン、トルエンを使用することが好ましい。
【0029】
なお、易変形性凝集体(C)を構成する有機結着剤(B)は、易変形性を確保するために、非硬化性であることが好ましい。しかし、圧電性樹脂組成物(F)や圧電膜(H)に含まれるバインダー樹脂(D)は、バインダー樹脂(D)自体硬化するか、もしくは適当な硬化剤との反応により硬化するものを用いることができる。
【0030】
このとき、易変形性凝集体(C)の含有量は、目標とする圧電性、用途に応じて適宜選択することができるが、圧電性樹脂組成物(F)の固形分を基準として、20~90体積%であることが好ましい。さらに好ましくは40~90体積%の範囲であることが好ましい。20体積%未満の含有量だと、易変形性凝集体(C)の添加効果が薄く十分な圧電性が得られない。一方、90体積%を超えると相対的にバインダー樹脂(D)の含有量が少なくなり、形成される圧電膜(H)の柔軟性が低下して脆くなったり、圧電膜(H)内に空隙が生じ、高い電圧をかけた際絶縁破壊が起こってしまう危険性がある。ここでいう体積%とは、圧電性樹脂組成物(F)中の固形分に対する無機圧電材料(A)、有機結着剤(B)、バインダー樹脂(D)の重量比と比重をもとに計算した理論値を示す。
【0031】
また、圧電性樹脂組成物(F)は、さらに凝集していない無機圧電材料も併用することができる。凝集していない無機圧電材料も併用することにより、易変形性凝集体(C)間の隙間を埋めたり、易変形性凝集体(C)が変形する際、隙間が生じた場合、無機圧電材料(A)間の隙間を埋めたりし、更なる圧電性の向上効果が期待できる。
併用し得る無機圧電材料としては、例えば無機圧電材料(A)で例示したものが挙げられる。
【0032】
<圧電性樹脂組成物(F)、圧電膜(H)の製造方法>
圧電性樹脂組成物(F)は、易変形性凝集体(C)と、バインダー樹脂(D)と、必要に応じて溶剤(E)とを撹拌混合することで製造することが好ましい。撹拌混合には一般的な撹拌方法を用いることができ、例えば、スキャンデックス、ペイントコンディショナー、サンドミル、らいかい機、メディアレス分散機、三本ロール、ビーズミル等が挙げられ、これらを組み合わせて行うことができる。
【0033】
撹拌混合後は、圧電性樹脂組成物(F)から気泡を除去するために、脱泡工程を経ることが好ましい。脱泡の方法については特に限定されず、一般的な手法を用いて行うことができるが、例えば、真空脱泡、超音波脱泡等が挙げられる。
【0034】
本発明の圧電膜(H)の製造方法は、基材上に圧電性樹脂組成物(F)を塗布して塗膜を形成する工程と、上記塗膜から溶剤(E)を除去して、圧電膜(H)を形成する工程とを有する。また、上述の通り、作成した圧電膜(H)を加圧することにより、圧電性能を更に高めることができる。
【0035】
基材としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムやポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。後の工程で圧電膜(H)に電極を付ける際の取り扱いを容易にするため、易剥離加工を施したフィルムを使用することが好ましい。基材として箔状または板状の銅、銀、金、SUSなど金属材料を用いることで、そのまま電極として使用することもできる。
【0036】
基材への圧電性樹脂組成物(F)の塗布方法としては例えば、ナイフコート、ダイコート、リップコート、ロールコート、カーテンコート、バーコート、グラビアコート、フレキソコート、ディップコート、スプレーコート、およびスピンコート等が挙げられる。
【0037】
圧電膜(H)の膜厚tと易変形性凝集体(C)の平均粒子径DBの関係は、t/DBが2.5/1~1/1であることが好ましい。t/DBが2.5より大きくなるような圧電膜(H)の膜厚tの場合、凝集体のサイズに対して圧電膜(H)が大きすぎてしまい、電極間に低誘電率の樹脂成分が入り込む可能性が高くなり、圧電性能が低下してしまうことが懸念される。また、圧電膜(H)の膜厚は、その共振周波数に大きく影響するため、用途に応じて適宜選択することが好ましい。
【0038】
任意の基材上に圧電膜を製造した後、他の任意の部材と積層させることで、圧電積層体(J)を作成することができる。この時、圧電積層体(J)は、圧電性樹脂組成物(F)を含む第一の圧電膜(L)と、無機圧電材料(A)およびバインダー樹脂(D)を含有し、かつ前記易変形性凝集体(C)を含有しない圧電材料組成物を含む第二の圧電膜(K)とを有し、該第一の圧電膜(L)が、圧電積層体(J)の最外層には位置しないように積層されることが好ましい。
このような積層構造を取ることにより、最外層に凝集体が配置されることを防ぎ、基材と凝集体の間を埋めるように無機圧電材料(A)を配置させることができ、空隙の発生を抑えることができ、圧電性能の向上が期待できる。
【0039】
第一の圧電膜(L)の膜厚tは、圧電膜(H)と同様に、易変形性凝集体(C)の平均粒子径DBの関係は、t/DBが2.5/1~1/1であることが好ましい。第二の圧電膜(K)は、1~20μmであることが好ましい。また、圧電積層体(J)の膜厚は、その共振周波数に大きく影響するため、用途に応じて適宜選択することが好ましい。
【0040】
第二の圧電膜(K)は無機圧電材料(A)およびバインダー樹脂(D)を含むことが好ましい。膜の柔軟性と圧電性能を両立するため、無機圧電材料(A)は膜内で50~90体積%となるように、バインダー樹脂(D)は膜内で50~10体積%となることが好ましい。
【0041】
圧電積層体(J)の作成は、加圧プレスによって行うことが好ましい。加圧プレス処理は、特に限定されず、公知のプレス処理機を使用することができる。また、プレス時の温度は適宜選択することが出来るが、熱硬化性接着シートとして使用するのであれば、バインダー樹脂(D)の熱硬化が起こる温度以上で加熱することが望ましい。
【0042】
プレス時の圧力は、易変形性凝集体(C)が変形できる圧力を加えることができれば適宜選択することができるが、1MPa以上であることが好ましい。
【0043】
<圧電素子(M)>
作成した圧電膜(H)または圧電積層体(J)を挟むように2枚の電極を設置することにより、圧電素子(M)を作製することができる。
【0044】
電極としては、例えば、金、銀、銅、ステンレス、銀ペースト、導電性炭素ペーストなどを適宜使用することができる。2枚の電極は同じであっても、異なっていてもよい。
【実施例】
【0045】
<易変形性凝集体(C-1)の作成>
(実施例1)
無機圧電材料(A)としてチタン酸バリウム粉体(株式会社高純度化学研究所製、平均一次粒子径:約1μm)を100重量部、有機結着剤(B)としてポリビニルアルコール(PVA)(ゴーセノールNL-05 三菱ケミカル株式会社製)を2重量部、及びイオン交換水を150重量部を、ディスパーで1000rpm、1時間、攪拌してスラリーを得た。このスラリーをミニスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製「B-290」)にて、125℃雰囲気下で、噴霧乾燥し、易変形性凝集体(C-1)を得た。
【0046】
<易変形性凝集体(C-2)~(C-14)の作成>
(実施例2~9、比較例1~5)
使用する無機圧電材料(A)、有機結着剤(B)とそれらの配合量を表1に変更するほかは、易変形性凝集体(C-1)と同様にして、易変形性凝集体(C-2)~(C-14)を作成した。
【0047】
<易変形性凝集体(C)の評価>
<平均一次粒子径、平均粒子径>
MalvernInstruments社製粒度分布計マスターサイザー2000を用いて測定した。測定条件は乾式ユニットを用いて空気圧2.5バール、また、フィード速度はサンプルにより最適化を行った。
【0048】
<圧縮変形率10%に要する平均圧縮力>
圧縮変形率10%に要する平均圧縮力は、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCT-210)圧縮試験により粒子を10%変形させるための荷重を測定領域内で無作為に選んだ10個の粒子について測定し、その平均値とした。
【0049】
<崩壊しにくさ:振とう試験後の平均粒子径の維持率>
ガラスサンプル管に易変形性凝集体(C)を空隙率70%となるように入れ、振とう機にて2時間振とうしたのちに粒子径分布を測定し、処理後の粒子径が処理前の平均粒子径の80%以上であることを指標とし確認した。
【0050】
<圧電性樹脂組成物(F-1)、圧電膜(H-1)、圧電素子(M-1)の作製>
(実施例10)
実施例1で得られた易変形性凝集体(C-1)(平均粒子径10μm)100重量部と、無機圧電材料(A)としてカリウムナトリウムニオブ粉体(株式会社共立マテリアル製、平均一次粒子径:約1μm)5重量部、バインダー樹脂(D)としてポリビニルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)10重量部、溶剤(E)としてトルエン30重量部をディスパー撹拌し、超音波脱泡して圧電性樹脂組成物(F-1)を得た。
得られた圧電性樹脂組成物(F-1)を、コンマコーターを用いて剥離処理シート(厚さ75μmの離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム)に塗工し、100℃で10分加熱乾燥し、厚みが50μmの圧電膜(H-1)を得た。
この圧電膜(H-1)を電極として2枚の久宝金属製作所製ステンレス(SUS430)に挟み、150℃、2MPaで1時間プレスすることにより、圧電膜(H-1)を具備する圧電素子(M-1)を得た。
【0051】
<圧電性樹脂組成物(F)、圧電膜(H)、圧電素子(M)の作製>
(実施例11~30、比較例6~8)
使用する無機圧電材料(A)、易変形性凝集体(C)、バインダー樹脂(D)とそれらの配合量を表2に変更するほかは、圧電性樹脂組成物(F-1)、圧電膜(H-1)、圧電素子(M-1)と同様にして、圧電性樹脂組成物(F-2)~(F-24)、圧電膜(H-2)~(H-24)、圧電素子(M-2)~(M-24)を作成した。
【0052】
<圧電性樹脂組成物、圧電膜、圧電素子の評価>
<圧電性樹脂組成物(F)中に含まれる各成分の体積%の算出>
圧電性樹脂組成物(F-1)中に存在する、易変形性凝集体(C)の理論密度は、
(易変形性凝集体(C-1)の乾燥体積)/圧電性樹脂組成物(F-1)各成分の乾燥体積の和)
=(易変形性凝集体(C-1)の質量/易変形性凝集体(C-1)の密度)
/[(易変形性凝集体(C-1)の質量/易変形性凝集体(C-1)の密度)
+(無機圧電材料(A)の質量/無機圧電材料(A)の密度)
+(バインダー樹脂(D)の質量/バインダー樹脂(D)の密度)]
=(100/5.93)/(100/5.93+5/6.02+16/1.01)
=50% である。
他の成分、実施例についても同様に算出できる。
【0053】
<膜厚>
剥離処理シートを剥離した圧電膜(H)の4隅および中央の膜厚を株式会社ニコン製「DIGIMICROSTANDMS-5C」で測定し、その平均を膜厚とした。
【0054】
<圧電性能の評価>
圧電素子(M)をオイルバスで100℃に加熱しながら、直流電源を用いて200Vの電圧を1時間与えることで分極処理を行った。
分極後の圧電素子(M)に、マルチファンクションジェネレータWF1943(株式会社エヌエフ回路設計ブロック社製)を用いて、振幅10V、周波数42kHzの交流電流を与え、超音波を発振させた。空中超音波センサMA40S4R(株式会社村田製作所社製)を圧電素子(M)から1cm離したところに固定して超音波を観測した。超音波センサは、オシロスコープDPO3052(Tektronix社製)と接続され、観測された信号の周波数と振幅から圧電性能を確認した。
・評価基準
◎:観測した振幅が25mV以上(優れている)
○:観測した振幅が20mV以上25mV未満(良好)
△:観測した振幅が10mV以上20mV未満(実用上問題ない)
×:観測した振幅が10mV未満(実用不可)
【0055】
<柔軟性の評価>
圧電膜(H)の柔軟性評価のため屈曲試験を実施した。屈曲性試験は、耐屈曲性試験器(コーティングテスター社製、円筒型マンドレル法)で直径20mmの心棒を用いて行った。圧電膜(H)を装置にセットし、1回/10秒の速度で5回折り曲げを行った。折り曲げ後の圧電膜(H)の性状から、柔軟性を評価した。
・評価基準
◎:変化なし(優れている)
○:ひびが発生するも、欠けは発生していない(良好)
×:欠けが発生し膜を維持できていない(実用不可)
【0056】
<圧電積層体(J)の作成>
(製造例31~34)
使用する無機圧電材料(A)、易変形性凝集体(C)、バインダー樹脂(D)とそれらの配合量を表3に変更するほかは、圧電性樹脂組成物(F-1)、圧電膜(H-1)と同様にして、第一の圧電膜(L-25)~(L-26)、第二の圧電膜(K-27)~(K-28)を作成した。
【0057】
(実施例35)
第一の圧電膜(L-25)から1cm×1cmの大きさで一枚、第二の圧電膜(K-27)から1cm×1cmの大きさで二枚を切出した。第二の圧電膜(K-27)の剥離性シートとは反対側と、第一の圧電膜(L-25)の剥離性シートとは反対側とを合わせ、ロールラミネーターにて貼り合せた。次に第一の圧電膜(L-25)側の剥離性シートを剥離し、露出した圧電膜(H-25)の表面に、もう一枚の第二の圧電膜(K-27)の剥離性シートとは反対側を同様に貼り合せ、両面が剥離性シートで覆われた圧電積層体(J-28)を得た。
両面から剥離シートを除いた圧電膜の積層体を、電極として2枚の久宝金属製作所製ステンレス(SUS430)に挟み、150℃、2MPaで1時間プレスすることにより、圧電素子(M-28)を得た。
【0058】
(実施例36~38)
使用する第一の圧電膜(L)、第二の圧電膜(K)を表4に変更するほかは、圧電積層体(J-28)、圧電素子(M-28)と同様にして、圧電積層体(J-29)~(J-31)、圧電素子(M-29)~(M-31)を作成した。
【0059】
表1~4の結果から、本発明の易変形性凝集体(C)を使用することで、柔軟性と圧電性能を両立した圧電膜および圧電素子が作成できることを確認した。
【0060】
【0061】
BaTiO3(1): BAF15PB(株式会社高純度化学研究所製、平均一次粒子径1μm)
BaTiO3(2): BT-50nm(日本化学工業株式会社、平均一次粒子径50nm)
BaTiO3(3): BTE-UP(日本化学工業株式会社、平均一次粒子径14μm)
KNN: カリウムナトリウムニオブ粉体(株式会社共立マテリアル製、平均一次粒子径1μm)
PVA: ゴーセノールNL-05(三菱ケミカル株式会社社製)
PVP: K-85W(日本触媒社製)
PEI: エポミンSP-200(日本触媒社製)
【0062】
【0063】
エポキシ樹脂: jER1256(三菱ケミカル株式会社製)
セルロースエステル: CAB-551-0.2(EASTMAN CHEMICAL社製)
【0064】
【0065】