(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】性能評価方法及び性能評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/56 20060101AFI20241119BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20241119BHJP
【FI】
G01N3/56 N
G01N3/56 G
G01N23/046
(21)【出願番号】P 2020208704
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】間下 亮
(72)【発明者】
【氏名】岸本 浩通
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008282(JP,A)
【文献】特開2017-083182(JP,A)
【文献】特開2019-113488(JP,A)
【文献】特表2015-532716(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0225894(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
G01N 23/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価する方法であって、
前記弾性材料からなる試験片に歪を付与する歪付与工程と、
前記試験片にX線を照射して、投影像を撮影する撮影工程と、
前記投影像から前記弾性材料の密度分布を測定する測定工程と、
前記歪の付与に伴って前記試験片の内部に生成される低密度領域を検出する検出工程と、
前記低密度領域の生成速度に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する評価工程とを含
み、
前記歪が伸張歪であり、
前記生成速度は、下記式(1)で計算され、
前記生成速度νが50以上である前記弾性材料は、耐摩耗性能に優れた前記弾性材料であると評価する、
性能評価方法。
ν = V / ε (1)
但し
ν:前記生成速度
V:前記試験片に占める前記低密度領域の体積割合(%)
ε:前記試験片に付与される伸張歪(%)
【請求項2】
前記低密度領域は、前記歪の付与前の前記弾性材料の密度に対する前記歪の付与後の前記弾性材料の密度の比が10~80%の領域である、請求項1に記載の性能評価方法。
【請求項3】
前記測定工程は、
前記投影像を用いて前記試験片の断層画像を構成する工程と、
前記断層画像から前記弾性材料の密度分布を測定する工程とを含む、請求項1又は2に記載の性能評価方法。
【請求項4】
前記伸張歪が20%以上である、請求項1ないし3のいずれかに記載の性能評価方法。
【請求項5】
前記弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴムである、請求項1ないし4のいずれかに記載の性能評価方法。
【請求項6】
前記ゴムは、タイヤ用ゴムである、請求項5に記載の性能評価方法。
【請求項7】
前記X線の輝度(photons/s/mrad
2
/mm
2
/0.1%bw)は、10
10
以上である、請求項1ないし6のいずれかに記載の性能評価方法。
【請求項8】
前記輝度は、10
12
以上である、請求項7に記載の性能評価方法。
【請求項9】
ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価する装置であって、
前記弾性材料からなる試験片に歪を付与する歪付与部と、
前記試験片にX線を照射して、投影像を撮影する撮影部と、
前記投影像から前記弾性材料の密度分布を測定する測定部と、
前記歪の付与に伴って前記試験片の内部に生成される低密度領域を検出する検出部と、
前記低密度領域の生成速度に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する評価部とを含み、
前記歪が伸張歪であり、
前記生成速度は、下記式(1)で計算され、
前記生成速度νが50以上である前記弾性材料は、耐摩耗性能に優れた前記弾性材料であると評価する、
性能評価装置。
ν = V / ε (1)
但し
ν:前記生成速度
V:前記試験片に占める前記低密度領域の体積割合(%)
ε:前記試験片に付与される伸張歪(%)
【請求項10】
前記撮影部は、X線を可視光に変換するための蛍光体を有し、
前記蛍光体の減衰時間は、100ms以下である、請求項9に記載の性能評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性材料の耐摩耗性能等の各種性能を評価する性能評価方法及びそれに用いられる性能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加硫ゴムの耐摩耗性能を評価する方法として、例えば、歪が付与された弾性材料の密度分布に基づいて耐摩耗性能を評価する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示される従来の方法は、ランボーン摩耗試験機に変わる新たな評価技術として有効であり、さらなる改良が期待されている。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、弾性材料の性能をより一層迅速かつ精度よく評価できる性能評価方法及び性能評価装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1発明に係る性能評価装置方法は、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価する方法であって、前記弾性材料からなる試験片に歪を付与する歪付与工程と、前記試験片にX線を照射して、投影像を撮影する撮影工程と、前記投影像から前記弾性材料の密度分布を測定する測定工程と、前記歪の付与に伴って前記試験片の内部に生成される低密度領域を検出する検出工程と、前記低密度領域の生成速度に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する評価工程とを含む。
【0007】
本発明に係る前記性能評価装置方法において、前記低密度領域は、前記歪の付与前の前記弾性材料の密度に対する前記歪の付与後の前記弾性材料の密度の比が10~80%の領域である、ことが望ましい。
【0008】
本発明に係る前記性能評価装置方法において、前記測定工程は、前記投影像を用いて前記試験片の断層画像を構成する工程と、前記断層画像から前記弾性材料の密度分布を測定する工程とを含む、ことが望ましい。
【0009】
本発明に係る前記性能評価装置方法において、前記歪が伸張歪である、ことが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記性能評価装置方法において、前記生成速度は、下記式(1)で計算される、ことが望ましい。
ν = V / ε (1)
但し
ν:前記生成速度
V:前記試験片に占める前記低密度領域の体積割合(%)
ε:前記試験片に付与される伸張歪(%)
とする。
【0011】
本発明に係る前記性能評価装置方法において、前記生成速度νが50以上である前記弾性材料は、耐摩耗性能に優れた前記弾性材料であると評価する、ことが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記性能評価装置方法において、前記伸張歪が20%以上である、ことが望ましい。
【0013】
前記弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴムである、
本発明に係る前記性能評価装置方法において、前記ゴムは、タイヤ用ゴムである、ことが望ましい。
【0014】
本発明に係る前記性能評価装置方法において、前記X線の輝度(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)は、1010以上である、ことが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記性能評価装置方法において、前記輝度は、1012以上である、ことが望ましい。
【0016】
本発明の第2発明に係る性能評価装置は、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価する装置であって、前記弾性材料からなる試験片に歪を付与する歪付与部と、前記試験片にX線を照射して、投影像を撮影する撮影部と、前記投影像から前記弾性材料の密度分布を測定する測定部と、前記歪の付与に伴って前記試験片の内部に生成される低密度領域を検出する検出部と、前記低密度領域の生成速度に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する評価部とを含む。
【0017】
本発明に係る前記性能評価装置において、前記撮影部は、X線を可視光に変換するための蛍光体を有し、前記蛍光体の減衰時間は、100ms以下である、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
第1発明の前記性能評価装置方法において、前記検出工程では、前記歪の付与に伴って前記試験片の内部に生成される前記低密度領域が検出される。そして、前記評価工程では、前記低密度領域の生成速度に基づいて、前記弾性材料の性能が評価される。これにより、前記弾性材料の性能が迅速かつ精度よく評価可能になる。
【0019】
そして、第2発明において、前記検出部は、前記歪の付与に伴って前記試験片の内部に生成される前記低密度領域を検出する。そして、前記評価部では、前記低密度領域の生成速度に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する。これにより、前記弾性材料の性能が迅速かつ精度よく評価可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の性能評価装置の一実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の性能評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】本発明によって撮影された投影像の一例を模式的に示す図である。
【
図5】弾性材料Aからなる試験片に伸張歪を付与した後、検出された低密度領域を模式的に示す図である。
【
図6】弾性材料Aからなる試験片に伸張歪を付与した後、検出された低密度領域を模式的に示す図である。
【
図7】伸張歪と低密度領域の体積割合の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の性能評価方法に用いられる性能評価装置の概略構成を示す斜視図である。本発明の性能評価装置1は、弾性材料の耐摩耗性能及び耐チッピング性能、耐クラック性能等の各種性能を評価するための装置である。
図1に示されるように、本実施形態の性能評価装置1は、歪付与部2と、撮影部3と、測定部4と、検出部5と、評価部6とを備えている。
【0022】
歪付与部2は、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料からなる試験片10に歪を付与する。
【0023】
歪付与部2は、試験片10が固着される一対の治具21、22と、治具21と治具22とを相対的に移動させて試験片10に歪を付与する駆動部23とを有している。駆動部23は、一方の治具21を固定した状態で、他方の治具22を試験片10の軸方向に移動させる。これにより、試験片10が、その軸方向に伸張され、試験片10に歪が付与される。
【0024】
試験片10に付与される歪又は荷重は、ロードセル(図示せず)等により検出される。ロードセルの位置及び形式は、任意である。歪付与部2によって試験片10には、予め定められた歪又は荷重が付与される。駆動部23は、試験片10及び治具21、22を試験片10の軸回りに回転可能に構成されている。
【0025】
撮影部3は、試験片10にX線を照射して、投影像を撮影する。撮影部3は、X線を照射するX線管31と、X線を検出して電気信号に変換する検出器32とを有する。試験片10及び治具21、22を試験片10の軸回りに回転させながら、撮影部3が複数の投影像を撮影することにより、全周にわたる試験片10の投影像を得ることができる。
【0026】
検出器32は、X線を可視光に変換するための蛍光体32aを有している。蛍光体32aの減衰時間は、100ms以下が望ましい。蛍光体32aの減衰時間が、100msを超える場合、試験片10等を試験片10の軸回りに回転させながら複数の投影像を連続して撮影する際に、先に撮影した投影像の残像が後から撮影する投影像に影響を及ぼすおそれがある。このような観点から、蛍光体32aのより望ましい減衰時間は50msであり、より一層望ましい減衰時間は10msである。
【0027】
測定部4は、投影像から弾性材料の密度分布を測定する。検出部5は、歪の付与に伴って試験片10の内部に生成される低密度領域を検出する。評価部6は、低密度領域の生成速度に基づいて、弾性材料の性能を評価する。
【0028】
測定部4、検出部5及び評価部6には、例えば、コンピュータ7が適用される。コンピュータ7は、本体71、キーボード72、及びディスプレイ装置73を含んでいる。この本体71には、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ及びハードディスクなどの記憶装置が設けられる。記憶装置には、本実施形態の性能評価方法を実行するためのソフトウェアが予め記憶されている。演算処理装置がソフトウェアを実行することにより、測定部4、検出部5及び評価部6が実現される。
【0029】
図2は、上記性能評価装置1を用いてゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価する性能評価方法100の処理手順を示している。性能評価方法100は、工程S1ないしS8を含む。
【0030】
工程S1では、試験片10が治具21、22に固定される。
【0031】
図3は、試験片10及び治具21、22を示している。本実施形態では、円柱状の試験片10が適用されている。このような試験片10は、対称性を有し、容易に再現性の高い測定結果を得ることができる。
【0032】
試験片10は、その軸方向の長さの5倍以上の直径を有しているのが望ましい。このような試験片10によれば、試験片10に歪が付与されたとき、試験片10の側面の変形が制限される。その結果、試験片10の体積が増加し、内部に非常に大きな応力が付与される。従って、試験片10の内部の密度分布に偏りが発生し易くなり、弾性材料の性能評価を迅速かつ容易に行えるようになる。
【0033】
試験片10は、治具21及び22に挟み込まれた状態で固着されている。試験片10の上端面10aは、治具21の下端面21aに固着され、試験片10の下端面10bは、治具22の上端面22bに固着されている。固着の方法は、試験環境等に応じて適宜選択されうる。例えば、接着剤による固着や、試験片10を構成する弾性材料の加硫接着による固着が適用されうる。また、上端面10a、下端面21a、及び、下端面10b、上端面22bに、それぞれ対応する係合部を設けて各係合部を係合させることにより、試験片10と治具21、22とが固着されていてもよい。
【0034】
試験片10には、一様な密度分布の弾性材料が用いられる。試験片10を構成する弾性材料の一例としては、例えば、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴムが挙げられる。また、試験片10を構成する弾性材料の一例としては、例えば、タイヤ用のゴムが挙げられる。
【0035】
歪付与工程S2では、
図1に示されるように、駆動部23によって、治具21と治具22とが相対的に移動され、試験片10に歪が付与される。本実施形態では、円柱状の試験片10の軸方向すなわち治具22が治具21から離れる方向に移動され、試験片10が伸張される。試験片10の歪は、伸張に限られない。例えば、圧縮歪又はせん断歪みであってもよい。歪付与工程S2での歪の付与によって弾性材料の内部に応力が発生し、密度の偏りが生ずる。そして、試験片10の内部に低密度領域が発生する。
【0036】
伸張歪の大きさは、歪付与前の試験片10の長さ(高さ)に対する歪付与後の試験片10の長さの比(%)で表される。
【0037】
撮影工程S3では、試験片10を回転させながら、X線管31から試験片10にX線が照射される。X線は、試験片10を透過して、検出器32によって検出される。検出器32は、検出したX線を電気信号に変換し、コンピュータ7に出力する。検出器32から出力された電気信号は、コンピュータ60によって処理される。これにより、試験片10の投影像が撮影・取得される。
【0038】
密度が不明な試験片10を用いる場合は、歪付与工程S2に先だって撮影工程S3が開始されてもよい。これにより、歪付与工程S2の前後における試験片10の密度を測定するための投影像が得られる。
【0039】
試験片10に付与する歪は、段階的に増加されてもよい。この場合、後述する
図5に示されるように、段数に応じて、歪付与工程S2及び撮影工程S3が繰り返される。
【0040】
図4は、上記工程S1乃至S3を経て、撮影された投影像を模式的に示している。投影像から試験片10の内部に発生した低密度領域15が確認されうる。低密度領域15は、例えば、弾性材料の密度が予め定められた閾値以下の領域として定義されうる。弾性材料の密度は、投影像から計算されうる。
【0041】
測定工程S4では、投影像から弾性材料の密度分布が測定される。測定工程S4は、コンピュータ7の演算処理装置によって実行される。コンピュータ7は、投影像を再構成することにより、試験片10の三次元の断層画像を取得する。これにより、弾性材料の立体的な密度分布が測定される。すなわち、測定工程S4は、投影像を用いて試験片10の断層画像を構成する工程と、断層画像から弾性材料の密度分布を測定する工程とを含んでいる。
【0042】
検出工程S5では、弾性材料の立体的な密度分布から試験片10内の低密度領域15の三次元形状が特定される。そして、コンピュータ7は、断層画像から歪の付与に伴って試験片10の内部で生成された低密度領域15の体積の総和を計算する。
【0043】
さらに、評価工程S6では、低密度領域15の生成速度に基づいて、弾性材料の性能が評価される。生成速度は、歪の増加量に対する低密度領域15の体積の増加量で定義される。
【0044】
本願発明者は、鋭意研究の結果、ついに低密度領域15の生成速度と、弾性材料の性能との関係について、以下の知見を得た。
【0045】
すなわち、弾性材料に伸張等の歪を付与した場合、弾性材料の内部に局所的な応力集中が生じ、材料の分子構造が局所的に破壊される。かかる局所的な応力集中箇所は、ミクロな領域での摩耗の起点となり、摩耗の進行を早める。
【0046】
一方、弾性材料の内部では、上記局所的な応力集中を避けるようにポリマーが移動し、
図4に示される低密度領域15が生ずる。従って、歪を付与した初期の低密度領域15の生成速度が速いほどゴム中に局所的な応力集中箇所が少なくなり、耐摩耗性能等の各種性能が向上する。
【0047】
従って、弾性材料に歪を付与した際の低密度領域15の生成速度を算出することにより、弾性材料の摩耗性能を正確に予測できる。例えば、低密度領域15の体積の生成速度が大きい弾性材料では、局所的な応力集中箇所が少なく、耐摩耗性能等の各種性能が向上すると予測できる。そして、各種性能は、低密度領域15の生成速度を算出することにより数値化して客観的かつ精度よく評価することができる。従って、本性能評価装置1を用いた性能評価方法100によれば、弾性材料の性能が迅速かつ精度よく評価可能になる。
【0048】
低密度領域15は、例えば、歪の付与前の弾性材料の密度に対する歪の付与後の弾性材料の密度の比が10~80%の領域と定義される。このように低密度領域15が定義されることにより、弾性材料の性能向上に有効とされる局所的な応力集中が少ない領域を正確に推定できる。
【0049】
図5及び
図6は、弾性材料Aからなる試験片10A、弾性材料Bからなる試験片10Bに同一の伸張歪(20%)を付与した後、検出された低密度領域15を示している。試験片10Aでは、試験片10Bに対してより多くの低密度領域15が生成された。このため、弾性材料Aでは、弾性材料Bに対して局所的な応力集中が緩和されていると推定できる。
【0050】
低密度領域15の体積は、X線CT法によって得られた断層画像の足し合わせによって算出できる。なお断層画像の厚さはX線CT撮影の空間分解能に依存する。今回の測定では、厚さ10μmの断層画像を200枚足し合わせて体積が算出された。
【0051】
低密度領域15の生成速度は、下記式(1)で計算される、のが望ましい。
ν = V / ε (1)
但し
ν:生成速度
V:試験片に占める低密度領域の体積割合(%)
ε:試験片に付与される伸張歪(%)
とする。
【0052】
図7は、弾性材料A、Bの伸張歪εと低密度領域15の体積割合Vとの関係を示している。低密度領域15の生成速度νは、線A、Bの傾きで示される。弾性材料Aは、弾性材料Bに対して低密度領域15の生成速度νが大きいため、局所的な応力集中が緩和され、分子構造の破壊が抑制される。
【0053】
また、低密度領域15の生成速度νが50以上である弾性材料は、耐摩耗性能に優れた弾性材料であると評価してもよい。これにより、弾性材料の耐摩耗性能が容易に評価可能になる。
【0054】
伸張歪εは、20%以上が望ましい。伸張歪εが20%以上であることにより、弾性材料の内部に十分な体積の低密度領域15が生成され、弾性材料の性能の評価精度が容易に高められる。
【0055】
伸張歪εが大きくなると、隣り合う低密度領域15同士が連結し、初期の低密度領域15の生成速度νを精度よく計算できないおそれがある。従って、伸張歪εは、100%以下が望ましい。
【0056】
撮影工程S3で、試験片10に入射させるX線の輝度は、X線散乱データのS/N比に大きく関係する。X線の輝度が小さい場合、X線の統計誤差よりもシグナル強度が弱くなる傾向にあり、計測時間を長くしても十分にS/N比の良いデータを得ることが困難となるおそれがある。このような観点から、X線の輝度(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)は、1010以上が望ましく、より望ましい輝度は、1012以上である。
【0057】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【実施例】
【0058】
弾性材料A乃至Fについて、本発明によって耐摩耗性能が評価され、実車走行試験による耐摩耗性能の評価との相関が検証された。比較例として上記弾性材料A乃至Fについて、本発明によってランボーン試験機を用いて耐摩耗性能が評価され、実車走行試験による耐摩耗性能の評価との相関が検証された。
【0059】
使用試薬は以下の通りである。
1.重合体(1):(変性基1個)
2.重合体(2):(変性基2個;重合体(1)のモノマー量違い)
3.重合体(3):(変性基3個;重合体(1)のモノマー量違い)
4.SBR :日本ゼオン(株)製のNipol NS522
5.BR :宇部興産(株)製のBR150B
6.変性剤 :アヅマックス社製3-(N,N-ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン
7.老化防止剤 :大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-1,3-ジメチルブチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン)
8.ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン
9.酸化亜鉛 :東邦亜鉛の銀嶺R
10.アロマチックオイル:ダイアナプロセスAH-24(出光興産製)
11.ワックス :大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
12.硫黄 :鶴見化学(株)製の粉末硫黄
13.加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ
14.加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD
15.シリカ :デグッサ製のウルトラジルVN3
16.シランカップリング剤:デグッサ製のSi69
17.カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックLH(N326、N2SA:84m2/g)
【0060】
モノマー及び重合体は、以下の方法によって合成された。
<モノマー(1)>
十分に窒素置換した100ml容器に、シクロヘキサン50ml、ピロリジン4.1ml、ジビニルベンゼン8.9mlが加えられ、0℃にて1.6M n-ブチルリチウムヘキサン溶液0.7mlが加えられ攪拌された。1時間後、イソプロパノールを加えて反応を停止させ、抽出・精製を行うことでモノマー(1)が得られた。
<重合体(1)>
十分に窒素置換した1000ml耐圧製容器に、シクロヘキサン600ml、スチレン12.6ml、ブタジエン71.0ml、モノマー(1)0.06g、テトラメチルエチレンジアミン0.11mlが加えられ、40℃で1.6M n-ブチルリチウムヘキサン溶液0.2mlが加えられて撹拌された。3時間後、変性剤0.5mlが加えられて攪拌された。1時間後、イソプロパノール3mlが加えられて重合が停止された。反応溶液に2,6-tert-ブチル-p-クレゾール1gを添加後、メタノールで再沈殿処理が行なわれ、加熱乾燥により重合体(1)が得られた。
<重合体(2)>
モノマー(1)を0.17gとし、上記重合体(1)と同様の方法で重合体(2)が得られた。
<重合体(3)>
モノマー(1)を0.29gとし、上記重合体(1)と同様の方法で重合体(3)が得られた。
【0061】
テスト方法は、以下の通りである。
<生成速度評価>
弾性材料C乃至Eについて、直径20mm、軸方向の長さが1mmの円柱状の試験片が準備され、
図1に示される性能評価装置を用いて、
図2に示される性能評価装置方法で、弾性材料の性能が評価された。歪付与工程S2では、試験片に20%の伸張歪が付与された。工程S6では、低密度領域15の生成速度νに基づいて、耐摩耗性能が評価された。結果は、指数で表され、数値が大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
【0062】
<ランボーン試験>
弾性材料C乃至Eについて、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で摩耗量が測定され、その逆数が計算された。結果は、弾性材料Cを100とする指数であり、数値が大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
【0063】
<実車走行試験>
弾性材料C乃至Eからなるトレッド部を有するサイズ195/65R15の空気入りタイヤが作成され、国産FF車に装着され、走行距離8000kmでのトレッド部の溝深さが測定され、トレッド部の摩耗量1mmあたりの走行距離が計算された。結果は、弾性材料Cを100とする指数であり、数値が大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
【0064】
【0065】
表1から明らかなように、実施例の性能評価装置方法は、比較例に比べて実車走行試験との相関が良好であり、精度よく弾性材料の性能を予測できることが確認できた。
【符号の説明】
【0066】
1 性能評価装置
2 歪付与部
3 撮影部
4 測定部
5 検出部
6 評価部
10 試験片
15 低密度領域
32a 蛍光体
100 性能評価方法
S2 歪付与工程
S3 撮影工程
S4 測定工程
S5 検出工程
S6 評価工程