(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】ピロメテンホウ素錯体を含む発光素子材料、発光素子、表示装置および照明装置
(51)【国際特許分類】
H10K 85/30 20230101AFI20241119BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20241119BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20241119BHJP
H10K 50/12 20230101ALI20241119BHJP
H10K 50/13 20230101ALI20241119BHJP
H10K 50/19 20230101ALI20241119BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241119BHJP
H10K 101/20 20230101ALN20241119BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20241119BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20241119BHJP
【FI】
H10K85/30
C09K11/06 660
G09F9/30 365
H10K50/12
H10K50/13
H10K50/19
H10K59/10
H10K101:20
H10K101:30
H10K101:40
(21)【出願番号】P 2020560851
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040396
(87)【国際公開番号】W WO2021085460
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2019194970
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川本 一成
(72)【発明者】
【氏名】徳田 貴士
(72)【発明者】
【氏名】長尾 和真
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/016454(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/041605(WO,A1)
【文献】特開2008-159777(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056559(WO,A1)
【文献】特表2018-522848(JP,A)
【文献】特表2018-505127(JP,A)
【文献】特表2018-510127(JP,A)
【文献】特開2011-241160(JP,A)
【文献】特開2016-006033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 99/00
C09K 11/06
G09F 9/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体を含む発光素子材料:
【化1】
X
1およびX
2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい;
Ar
1~Ar
4はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である;これらのアリール基およびヘテロアリール基は単環でも縮合環でもよい;ただしAr
1およびAr
2のうち一方または両方が単環の場合、その単環は、1つ以上の第二級アルキル基、1つ以上の第三級アルキル基、1つ以上のアリール基もしくは1つ以上のヘテロアリール基を置換基として有するか、または、メチル基と第一級アルキル基とを合計で2つ以上置換基として有する;Ar
1およびAr
2が、1つ以上の第三級アルキル基を置換基として有するフェニル基、1つ以上のアリール基を置換基として有するフェニル基、1つ以上のヘテロアリール基を置換基として有するフェニル基、メチル基と第一級アルキル基とを合計で2つ以上置換基として有しかつそれらのうちの少なくとも1つがピロール環との結合部位に対する2位に置換されているフェニル基、および縮合環式芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる;
R
1およびR
2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である;
R
3~R
5はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる;これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい;
R
6およびR
7の両方が水素原子、または置換もしくは無置換のアルキル基である;
【請求項2】
下記一般式(3)~(5)のいずれかで表されるピロメテンホウ素錯体を含む発光素子材料:
【化2】
X
1およびX
2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい;
Ar
1~Ar
4はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である;これらのアリール基およびヘテロアリール基は単環でも縮合環でもよい;ただしAr
1およびAr
2のうち一方または両方が単環の場合、その単環は、1つ以上の第二級アルキル基、1つ以上の第三級アルキル基、1つ以上のアリール基もしくは1つ以上のヘテロアリール基を置換基として有するか、または、メチル基と第一級アルキル基とを合計で2つ以上置換基として有する;
R
1およびR
2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である;
R
3~R
5はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる;これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい;
R
6およびR
7はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、およびシリル基からなる群より選ばれる;ただし、R
6はAr
4との間を1個または2個の原子が共有結合することで形成される架橋構造であってもよく、R
7はAr
3との間を1個または2個の原子が共有結合することで形成される架橋構造であってもよい;これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい;
Y
1およびY
2は、1個の原子または直列に並んだ2個の原子からなる架橋構造であり、前記原子が、置換もしくは無置換の炭素原子、置換もしくは無置換のケイ素原子、置換もしくは無置換の窒素原子、置換もしくは無置換のリン原子、酸素原子、および硫黄原子からなる群より選ばれる;前記架橋構造が直列に並んだ2個の原子からなる場合、該2個の原子は二重結合で連結していてもよい。
【請求項3】
R
1およびR
2が置換もしくは無置換のアルキル基である請求項1または2に記載の発光素子材料。
【請求項4】
R
1およびR
2の少なくとも一方が置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である請求項1または2に記載の発光素子材料。
【請求項5】
X
1およびX
2がフッ素原子である請求項1~4のいずれかに記載の発光素子材料。
【請求項6】
陽極と陰極の間に発光層が存在し、該発光層が電気エネルギーにより発光する発光素子であって、前記発光層に請求項1~5のいずれかに記載の発光素子材料を含有する発光素子。
【請求項7】
前記発光層がホスト材料および熱活性化遅延蛍光材料から選ばれる第一の化合物とドーパントである第二の化合物を有し、第二の化合物が請求項1~5のいずれかに記載の発光素子材料である請求項6に記載の発光素子。
【請求項8】
前記第一の化合物が、熱活性化遅延蛍光材料である請求項
7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記発光層がさらに第三の化合物を含み、該第三の化合物の最低励起一重項エネルギーが前記第一の化合物の最低励起一重項エネルギーよりも大きい請求項8に記載の発光素子。
【請求項10】
前記第三の化合物が2種類以上の材料により構成されている請求項9に記載の発光素子。
【請求項11】
陽極と陰極の間に少なくとも2つ以上の発光層を有し、2つ以上の発光層の間には少なくとも1層以上の電荷発生層を有する請求項6~10のいずれかに記載の発光素子。
【請求項12】
前記電荷発生層に一般式(30)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する請求項11に記載の発光素子:
【化3】
Ar
5は、2個のフェナントロリル基で置換されているアリール基である;
R
71~R
77は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。
【請求項13】
前記発光素子が、トップエミッション型有機電界発光素子である請求項6~12のいずれかに記載の発光素子。
【請求項14】
請求項6~13のいずれかに記載の発光素子を含む表示装置。
【請求項15】
請求項6~13のいずれかに記載の発光素子を含む照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロメテンホウ素錯体を含む発光素子材料、発光素子、表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔が両極に挟まれた発光層内で再結合することにより発光する有機薄膜発光素子は、薄型、低駆動電圧、高輝度発光、および発光材料を選ぶことにより多色発光が可能、という特徴を有する。
【0003】
中でも赤色発光材料は、光の三原色の一つである赤色発光に必要な素材として開発が行われている。従来の赤色発光材料としては、ビス(ジイソプロピルフェニル)ペリレンなどのペリレン系、ペリノン系、テトラセン系、ポルフィリン系、Eu錯体(Chem.Lett.,1267(1991))などが知られている。
【0004】
また、赤色発光を得る手法として、ホスト材料の中に微量の赤色蛍光材料をドーパントとして混入させる方法も検討されている。特にドーパント材料として、高輝度発光を示すピロメテン金属錯体を含有するものが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。また、近年では、高発光効率を目指して、TADF(Thermally Activated Delayed Fluorescence、熱活性化遅延蛍光)材料とピロメテン化合物を含む発光素子が検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-12676号公報
【文献】国際公開第2016/056559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機薄膜発光素子は、輝度向上と省電力の観点から、高い発光効率が望まれている。特に近年使用が拡大しているモバイル表示装置においては、省電力化が特に重要な課題となっており、従来技術に用いられる赤色発光材料よりもさらに高い発光効率が求められている。
【0007】
また発光材料をドーパントとして使用する場合、ドープ濃度を高くすると発光効率が低下する、すなわち濃度消光が起きることが知られているが、従来の材料はドープ濃度増加に対する発光効率の低下率が大きくドープ濃度依存性が大きいため、ドープ濃度管理が困難という課題があった。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、発光効率が高く、かつドープ濃度依存性が小さい赤色発光素子材料およびそれを用いた発光素子の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体を含む発光素子材料である。
【0010】
【0011】
X1およびX2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。
【0012】
Ar1~Ar4はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。これらのアリール基およびヘテロアリール基は単環でも縮合環でもよい。ただしAr1およびAr2のうち一方または両方が単環の場合、その単環は、1つ以上の第二級アルキル基、1つ以上の第三級アルキル基、1つ以上のアリール基もしくは1つ以上のヘテロアリール基を置換基として有するか、または、メチル基と第一級アルキル基とを合計で2つ以上置換基として有する。
【0013】
R1およびR2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0014】
R3~R5はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。
【0015】
R6およびR7はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。ただし、R6はAr4との間を1個または2個の原子が共有結合することで形成される架橋構造であってもよく、R7はAr3との間を1個または2個の原子が共有結合することで形成される架橋構造であってもよい。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、発光効率が高く、ドープ濃度依存性が小さい赤色発光素子を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るピロメテンホウ素錯体、それを含有する発光素子材料、発光素子、表示装置および照明装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0018】
<ピロメテンホウ素錯体>
本発明に係るピロメテンホウ素錯体は一般式(1)で表される。
【0019】
【0020】
X1およびX2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。
【0021】
Ar1~Ar4はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。これらのアリール基およびヘテロアリール基は単環でも縮合環でもよい。ただしAr1およびAr2のうち一方または両方が単環の場合、その単環は、1つ以上の第二級アルキル基、1つ以上の第三級アルキル基、1つ以上のアリール基もしくは1つ以上のヘテロアリール基を置換基として有するか、または、メチル基と第一級アルキル基とを合計で2つ以上置換基として有する。
【0022】
R1およびR2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0023】
R3~R5はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。
【0024】
R6およびR7はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。ただし、R6はAr4との間を1個または2個の原子が共有結合することで形成される架橋構造であってもよく、R7はAr3との間を1個または2個の原子が共有結合することで形成される架橋構造であってもよい。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。
【0025】
本発明においては、一般式(2)で表されるピロメテン骨格を有するもの、およびピロメテン骨格の一部に縮環構造を有し、環構造が広がっているものを合わせて「ピロメテン」と称する。
【0026】
【0027】
本発明の全ての基において、水素は重水素であってもよい。以下に説明する化合物またはその部分構造においても同様である。
【0028】
本発明の説明において「無置換」とは、対象となる基本骨格または官能基に結合する原子が水素原子または重水素原子のみであることを意味する。
【0029】
本発明の説明において「置換」される場合における置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基およびオキソ基から選ばれた基が好ましい。さらには、以下の各官能基の説明において好ましいとする具体的な置換基が好ましい。また、これらの置換基は、さらに上述の置換基により置換されていてもよい。
【0030】
本発明の説明において例えば炭素数6~40の置換もしくは無置換のアリール基と記載されている場合、アリール基に結合した置換基に含まれる炭素数も含めて6~40であることを示す。炭素数を規定している他の置換基もこれと同様である。
【0031】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換されている場合の追加の置換基には特に制限は無く、例えば、アルキル基、ハロゲン、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0032】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。シクロアルキル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0033】
複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環を示し、これは置換されていても無置換でもよい。複素環基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0034】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0035】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。シクロアルケニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0036】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0037】
アリール基とは、単環もしくは縮合環のいずれでもよく、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などの芳香族炭化水素基を示す。中でも、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。アリール基は、置換されていても無置換でもよい。ここで本発明では、ビフェニル基、ターフェニル基など複数のフェニル基が単結合を介して結合している官能基は、アリール基を置換基として有するフェニル基として扱うものとする。アリール基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。また、フェニル基においては、そのフェニル基中の隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。その結果としてできた基は、その構造に応じて、「置換のフェニル基」、「2つ以上の環が縮環した構造を有するアリール基」、「2つ以上の環が縮環した構造を有するヘテロアリール基」のいずれか1つ以上に該当しうる。
【0038】
ヘテロアリール基とは、単環もしくは縮合環のいずれでもよく、例えば、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などの、炭素および水素以外の原子、すなわちヘテロ原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示す。ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、または硫黄原子であることが好ましい。ヘテロアリール基は置換されていても無置換でもよい。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下の範囲である。
【0039】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0040】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。これは置換されていても無置換でもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0041】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介して芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0042】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。これはさらに置換されていてもよい。アリールチオエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0043】
ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれる原子を示す。
【0044】
シアノ基とは、構造が-C≡Nで表される官能基である。ここで他の官能基と結合するのは炭素原子である。
【0045】
アルデヒド基とは、構造が-C(=O)Hで表される官能基である。ここで他の官能基と結合するのは炭素原子である。
【0046】
アシル基とは、例えばアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、アクリロイル基など、カルボニル基を介してアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基が結合した官能基を示し、これはさらに置換されていてもよい。アシル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下である。
【0047】
エステル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがエステル結合を介して結合した官能基を示し、これはさらに置換されていてもよい。エステル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、メトキシカルボニル基などのメチルエステル基、エトキシカルボニル基などのエチルエステル基、プロポキシカルボニル基などのプロピルエステル基、ブトキシカルボニル基などのブチルエステル基、イソプロポキシメトキシカルボニル基などのイソプロピルエステル基、ヘキシロキシカルボニル基などのヘキシルエステル基、フェノキシカルボニル基などのフェニルエステル基などが挙げられる。
【0048】
アミド基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがアミド結合を介して結合した官能基を示し、これはさらに置換されていてもよい。アミド基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、メチルアミド基、エチルアミド基、プロピルアミド基、ブチルアミド基、イソプロピルアミド基、ヘキシルアミド基、フェニルアミド基などが挙げられる。
【0049】
スルホニル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが-S(=O)2-結合を介して結合した官能基を示し、これはさらに置換されていてもよい。スルホニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0050】
スルホン酸エステル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがスルホン酸エステル結合を介して結合した官能基を示す。ここでスルホン酸エステル結合とは、エステル結合のカルボニル部、すなわち-C(=O)-がスルホニル部、すなわち-S(=O)2-に置換されたものを指す。また、これはさらに置換されていてもよい。スルホン酸エステル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0051】
スルホンアミド基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがスルホンアミド結合を介して結合した官能基を示す。ここでスルホンアミド結合とは、アミド結合のカルボニル部、すなわち-C(=O)-がスルホニル部、すなわち-S(=O)2-に置換されたものを指す。また、これはさらに置換されていてもよい。スルホンアミド基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0052】
アミノ基とは、置換もしくは無置換のアミノ基である。置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基が挙げられる。ここでアリール基、ヘテロアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、キノリニル基が好ましい。またこれはさらに置換されていてもよい。炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上50以下、より好ましくは6以上40以下、特に好ましくは6以上30以下の範囲である。
【0053】
シリル基とは、置換もしくは無置換のケイ素原子が結合した官能基を示し、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基などのアルキルシリル基や、フェニルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、トリナフチルシリル基などのアリールシリル基を示す。またこれはさらに置換されていてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上30以下の範囲である。
【0054】
オキソ基とは、炭素原子に対し酸素原子が二重結合で結合、すなわち=Oの構造となる官能基である。
【0055】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、強固で平面性の高い骨格を有するため、高い蛍光量子収率を示す。また、発光スペクトルの半値幅が小さいため、効率的な発光と高い色純度を達成することができる。
【0056】
X1およびX2はホウ素に対するピロメテン以外の配位子を示す。X1およびX2は上記の中から選ばれるが、発光特性と熱的安定性の観点から、アルキル基、アルコキシ基、アリールエーテル基、ハロゲンまたはシアノ基であることが好ましい。また、励起状態が安定でより高い蛍光量子収率が得られる観点、および耐久性を向上させることができる観点から、X1およびX2は電子求引性基であることがより好ましく、具体的には、フッ素原子、含フッ素アルキル基、含フッ素アルコキシ基、含フッ素アリールエーテル基またはシアノ基であることがより好ましく、フッ素原子またはシアノ基であることがさらに好ましく、フッ素原子であることが最も好ましい。X1およびX2が電子求引性基である場合、ピロメテン骨格の電子密度を下げ化合物の安定性を増すことができる。また、X1およびX2はそれぞれ同じでも異なっていてもよいが、合成の容易さの観点から、同一であることが好ましい。
【0057】
Ar1およびAr2は、ピロメテンホウ素錯体化合物の安定性および発光効率に寄与する基である。安定性とは、電気的安定性および熱的安定性を指す。電気的安定性は発光素子に連続通電した状態で分解などの化合物の変質が起きにくいことを意味する。熱的安定性は、製造時の昇華精製や蒸着などの加熱工程や発光素子周辺の環境温度により化合物の変質が起きにくいことを意味する。化合物が変質すると発光効率が低下するため、化合物の安定性は発光素子の耐久性向上にとって重要である。Ar1およびAr2は、化合物の安定性と発光効率の観点から、置換もしくは無置換のアリール基が好ましい。
【0058】
Ar1およびAr2は単環でも縮合環でもよい。ただし、Ar1およびAr2のうち一方または両方が単環の場合、その単環は、1つ以上の第二級アルキル基、1つ以上の第三級アルキル基、1つ以上のアリール基もしくは1つ以上のヘテロアリール基を置換基として有するか、または、メチル基と第一級アルキル基とを合計で2つ以上置換基として有する。これらの置換基を有するAr1およびAr2により、後述のメソ位の置換基の回転・振動を抑制し、蛍光量子収率を向上させることができる。
【0059】
Ar1およびAr2は、ピロメテンホウ素錯体同士の凝集を防ぎ濃度消光を回避するために、上記の群のなかでも立体障害の大きい基であることが好ましい。この観点から、Ar1およびAr2は、1つ以上の第三級アルキル基を置換基として有するフェニル基、1つ以上のアリール基を置換基として有するフェニル基、1つ以上のヘテロアリール基を置換基として有するフェニル基、メチル基と第一級アルキル基とを合計で2つ以上置換基として有し、かつ、それらのうちの少なくとも1つがピロール環との結合部位に対する2位に置換されているフェニル基、および縮合環式芳香族炭化水素基からなる群より選ばれることが好ましい。
【0060】
また回転もしくは振動の自由度が小さいほど熱失活による効率低下を抑制できるため、Ar1およびAr2は剛直な構造もしくは対称性の高い構造を持つ官能基であることが好ましい。この観点からAr1およびAr2は、1つ以上のtert-ブチル基を置換基として有するフェニル基、1つ以上のフェニル基を置換基として有するフェニル基、少なくともピロール環との結合部位に対して2位と6位にメチル基が置換されているフェニル基のいずれかであって、かつピロールとの結合を対称軸として線対称に置換基を有するフェニル基、もしくは無置換の縮合環式芳香族炭化水素基であることがより好ましい。さらに製造容易性の観点から2,6-ジメチルフェニル基、メシチル基、4-tert-ブチルフェニル基、3,5-ジtert-ブチルフェニル基、4-ビフェニル基または1-ナフチル基であることがさらに好ましい。
【0061】
Ar3およびAr4は、発光波長の制御に寄与する基である。ピロメテンホウ素錯体を赤色発光させるには、アリール基またはヘテロアリール基をピロメテン金属錯体骨格に直接結合させることにより、共役を拡張させ、発光を長波長化する方法が挙げられる。この理由によりAr3およびAr4は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基であるが、化合物の安定性の観点から、置換もしくは無置換のアリール基がより好ましい。
【0062】
また、発光効率向上のためにはピロメテンホウ素錯体のメソ位にある置換基、すなわち2つのピロール環の間の炭素に結合した置換基、の回転・振動を抑制し、エネルギー損失を減少させて蛍光量子収率を向上させることが有効である。メソ位にある置換基の回転・振動を抑制するために、メソ位にある置換基が有するR1およびR2は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基から選ばれる。中でも少なくとも一方が置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましい。一方、製造の容易さの観点から、R1およびR2の一方が置換もしくは無置換のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0063】
R3~R5は上記した官能基群の中から選ばれ、ピーク波長、結晶性、昇華温度などの調整に用いられる。特にピーク波長に影響するのはピロメテン骨格との結合に対し4位の位置の置換基、すなわちR4である。R4が電子供与性基であれば発光ピーク波長は短波長側にシフトする。電子供与性基として具体的には、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、フラニル基、ジベンゾフラニル基などが例示される。特にR4が電子供与性が強いメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基である場合、短波長シフトが大きく、波長調整に有用である。一方、R4が電子求引性基であれば発光ピークは長波長側にシフトする。電子求引性基として具体的には、フッ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、ピリジル基、ピリミジル基などが例示される。特にR4が電子求引性が強いフッ素原子、トリフルオロメチル基およびシアノ基から選ばれた基である場合、長波長シフトが大きく、波長調整に有用である。ただし電子供与性基および電子求引性基はこれらに限定されるものではない。
【0064】
R6およびR7は上記した官能基群から選ばれ、主にピーク波長、発光スペクトルの半値幅、安定性、または結晶性に影響する。
【0065】
「R6がAr4との間を1個または2個の原子が共有結合することで形成される架橋構造」である場合とは、R6で表される基がAr4と結合することにより、Ar4とピロメテン骨格中のピロール環との間の架橋構造となることを意味する。Ar4におけるR6との結合部位は、ピロメテン骨格中のピロール環と直接結合している部位を除く任意の部位であり、Ar4におけるR6との結合部位からR6を経由してピロール環につながる方の最短の結合経路が1個または2個の原子で構成され、かつ、当該最短の結合経路中におけるそれぞれの結合が共有結合である。架橋構造を構成する原子は2つ以上の共有結合を形成できるものであれば特に限定されない。「R7がAr3との間を1個または2個の原子が共有結合することで形成される架橋構造」も同様に説明される。
【0066】
発光スペクトルの半値幅の狭小化、素子耐久性に影響する安定性、および再結晶精製を含む製造の容易性の観点から、R6およびR7の少なくとも一方、より好ましくは両方が、水素原子、または置換もしくは無置換のアルキル基であることが好ましい。また、同じ理由から、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体が一般式(3)~(5)のいずれかで表されるピロメテンホウ素錯体であることが好ましい。
【0067】
【0068】
X1およびX2、Ar1~Ar4およびR1~R7は上記の通りである。Y1およびY2は、1個の原子または直列に並んだ2個の原子からなる架橋構造であり、前記原子は、置換もしくは無置換の炭素原子、置換もしくは無置換のケイ素原子、置換もしくは無置換の窒素原子、置換もしくは無置換のリン原子、酸素原子、および硫黄原子からなる群より選ばれる。前記架橋構造が直列に並んだ2個の原子からなる場合、該2個の原子は二重結合で連結していてもよい。ここで、1個の原子または直列に並んだ2個の原子からなる架橋構造とは、架橋部の主鎖を形成する原子が1個または2個であることを表す。このような架橋構造としては一般式(6)~(14)に示す構造が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
【0070】
*はピロール環との連結部、**はAr3またはAr4との連結部を示す。R11~R26はR3~R5と同じ官能基群の中から選ばれる。化合物の安定性および製造の容易性の観点から、R11~R26は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基から選ばれたいずれかであることが好ましく、水素原子またはアルキル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
【0071】
本発明のピロメテンホウ素錯体は、合成および精製の容易さの観点から、Ar1=Ar2、Ar3=Ar4およびR6=R7を同時に満たすことが好ましい。この関係を満たす場合、原料のピロール誘導体が1種類でよく、メソ位への導入を一段階で行えるため、合成的に優位である。また分子の対称性が向上するため結晶性が高くなり再結晶による精製がより容易になる。
【0072】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体の分子量は特に限定されないが、蒸着工程が容易になる範囲内にあることが好ましい。具体的には、安定な蒸着レートが得られる観点から、一般式(1)のピロメテンホウ素錯体の分子量は500以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましく、700以上であることがさらに好ましい。また蒸着温度が高くなり過ぎて分解するのを防ぐ観点から、分子量は1200以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましい。
【0073】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体の一例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、J. Org. Chem., vol.64, No.21, pp.7813-7819 (1999)、Angew. Chem., Int. Ed. Engl., vol.36, pp.1333-1335 (1997)、Org. Lett., vol.12, pp.296 (2010)などに記載されている方法を参考に製造することができる。
【0085】
さらに、ピロメテン骨格にアリール基やヘテロアリール基を導入するには、例えば、パラジウムなどの金属触媒下で、ピロメテン化合物のハロゲン化誘導体とボロン酸あるいはボロン酸エステル誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-炭素結合を生成する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。同様に、ピロメテン骨格にアミノ基やカルバゾリル基を導入するには、例えば、パラジウムなどの金属触媒下で、ピロメテン化合物のハロゲン化誘導体とアミンあるいはカルバゾール誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-窒素結合を生成する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0086】
得られたピロメテンホウ素錯体は、再結晶やカラムクロマトグラフィーなどの有機合成的な精製を行ったのち、さらに一般的に昇華精製と呼ばれる減圧加熱による精製により低沸点成分を除去し、純度を向上させることが好ましい。昇華精製における加熱温度は特に限定されないが、ピロメテンホウ素錯体の熱分解を防ぐ観点から330℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。また蒸着時に蒸着レートを管理しやすくする観点から230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。
【0087】
この様にして製造されたピロメテンホウ素錯体の純度は、発光素子が安定した特性を示すことが可能となる観点から99重量%以上であることが好ましい。
【0088】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体の光学特性は、希釈溶液の吸収スペクトル、発光スペクトル、および蛍光量子収率を測定することで得られる。溶媒としてはピロメテンホウ素錯体を溶解し、かつ溶媒の吸収スペクトルがピロメテンホウ素錯体の吸収スペクトルと重ならない透明なものであれば特に限定されず、具体的にはトルエンなどが例示される。溶液の濃度は十分な吸光度があり、かつ濃度消光が起きない濃度範囲であれば特に限定されないが、1×10-4mol/L~1×10-7mol/Lの範囲であることが好ましく、1×10-5mol/L~1×10-6mol/Lの範囲であることがより好ましい。吸収スペクトルは一般的な紫外可視分光光度計により測定できる。また発光スペクトルは一般的な蛍光分光光度計により測定できる。さらに蛍光量子収率の測定には積分球を用いた絶対量子収率測定装置を利用することが好ましい。
【0089】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、励起光を照射されることによりピーク波長が580nm以上750nm以下の領域に観測される発光を呈することが好ましい。以後、ピーク波長が580nm以上750nm以下の領域に観測される発光を「赤色の発光」という。色域を拡大し色再現性を向上させる観点から、発光のピーク波長は600nm以上650nm以下の領域であることが好ましく、600nm以上640nm以下の領域であることがより好ましい。
【0090】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、波長430nm以上600nm以下の範囲の励起光を照射されることにより赤色の発光を呈することが好ましい。一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体を発光素子のドーパント材料として用いた場合、ホスト材料からの発光を吸収することで、ピロメテンホウ素錯体が赤く発光する。一般的なホスト材料は波長430nm以上600nm以下の範囲に発光をもつため、上記の波長範囲の励起光で赤色の発光を示すことができれば、発光素子の高効率化に寄与する。
【0091】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体が励起光の照射により発せられる光は、高色純度を実現するために発光スペクトルがシャープであることが好ましい。また表示装置や照明装置で主流となっているトップエミッション素子ではマイクロキャビティ構造による共振効果により高輝度および高色純度を達成できるが、発光材料の発光スペクトルがシャープであるとこの共振効果がより強く表れ、高効率化に有利である。この観点から、発光スペクトルの半値幅は60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、45nm以下であることがさらに好ましい。
【0092】
発光素子の発光効率は、発光材料の蛍光量子収率に依存する。そのため希釈溶液において測定した場合、可能な限り100%に近い蛍光量子収率であることが望まれる。一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、R1,R2,Ar1およびAr2が上記の通りであることで、メソ位の回転・振動を抑制し、熱失活を減少させることで高い蛍光量子収率を得ることができる。以上の観点から、ピロメテンホウ素錯体の蛍光量子収率は90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。ただし、ここで示す蛍光量子収率はトルエンを溶媒とした希釈溶液を絶対量子収率測定装置で測定したものである。
【0093】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、発光素子において薄膜形式で使用され、特にドーパントとして使用されることが想定されている。そのため一般式(1)のピロメテンホウ素錯体をドープした薄膜(以下、ドープ薄膜とする)における光学特性を評価することが好ましい。
【0094】
ドープ薄膜の形成方法について説明する。ドープ薄膜は可視領域に吸収のない透明基板上に形成する。このような透明基板としては石英ガラス板が例示される。この基板上にマトリクス材料と一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体を共蒸着して薄膜を形成する。ここでマトリクス材料としては、励起光の吸収がないワイドバンドギャップ材料が用いられ、具体的には3,3’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(mCBP)が例示される。この際、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体のドープ濃度は、実際に発光素子用いる場合におけるドープ濃度と同等であることが好ましく、0.1~20重量%の範囲から選ばれることが好ましい。ドープ薄膜の膜厚は、励起光を十分吸収しかつ製造が容易であれば特に限定されないが、100~1000nmの範囲内であることが好ましい。またドープ薄膜を形成後に透明封止樹脂で封止してもよい。
【0095】
ドープ薄膜からの発光波長は、溶液状態と同等かもしくはより長波長になる傾向が一般的に見られる。そのため一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体を含むドープ薄膜の発光ピーク波長は580nm以上750nm以下の領域であることが好ましく、600nm以上660nm以下の領域であることがより好ましく、600nm以上650nm以下の領域であることがさらに好ましい。
【0096】
ドープ薄膜の発光スペクトルの半値幅は、溶液状態と同等かもしくはより大きくなる傾向が一般的に見られる。そのため一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体を含むドープ薄膜の発光スペクトルの半値幅は70nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
【0097】
ドープ薄膜の蛍光量子収率はドープ薄膜の形成状態、マトリクス材料との組合せ、および励起光波長などの影響を受けて変動するため、絶対値での比較は困難である。従ってある一定の条件の下で各材料のドープ薄膜の蛍光量子収率を測定し、それらの相対比較により評価を行うことが好ましい。この評価方法を用いドープ濃度を一定にして比較すると、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体を含むドープ薄膜は、従来のピロメテンホウ素錯体を含むドープ薄膜よりも高い蛍光量子収率を得ることができる。
【0098】
一般にドーパントの濃度が高くなると、分子間相互作用により濃度消光が起こることが知られている。よってドープ薄膜においてもドープ濃度が高くなるにつれて蛍光量子収率が低くなる負の相関が見られる。蛍光量子収率とドープ濃度との負の相関が大きいと、発光素子の製造においてドープ濃度の許容範囲が小さくなるため不利である。一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、メソ位の置換基やAr1およびAr2による立体障害の影響で分子の凝集が抑制されること、およびピロメテンホウ素錯体自身の蛍光量子収率が高いため発光の自己吸収が起きても無放射失活が小さいことから、このピロメテンホウ素錯体を含むドープ薄膜では濃度消光が起きにくく、よって蛍光量子収率とドープ濃度の負の相関を小さくする、すなわちドープ濃度依存性を小さくすることができる。
【0099】
また、ドープ薄膜の発光スペクトルの角度依存性を調べることにより、分子配向性を測定することができる。ドーパント分子自身からの発光に角度依存性があるため、ドープ薄膜において、ドーパント分子がランダムな向きに存在している場合よりも、一定方向に整列して存在、すなわち配向している場合にある一定の角度への光の放射強度が強くなる。このようなドープ薄膜を有する発光素子について考えると、放射強度が強くなる角度と光取り出し方向を一致させることで外部に取り出す光を多くすることができ、素子の発光効率が向上する。特に共振効果を利用するトップエミッション素子では光取り出し方向が限定されているため、発光効率向上の観点からドープ薄膜の分子配向性を高くすることが好ましい。一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、上記のようにメソ位の置換基とAr1およびAr2との間の立体障害によりそれぞれの回転・振動が抑制され剛直な構造をとるため、柔軟構造の分子に比べて整列しやすくドープ薄膜の分子配向性を高くすることができる。
【0100】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体の熱特性は、熱重量分析装置(TGA)や示差走査熱量測定装置(DSC)により測定することができる。減圧加熱精製(いわゆる昇華精製)や蒸着時の熱負荷に耐えられるようにするため、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体の分解温度は300℃以上であることが好ましい。またこのピロメテンホウ素錯体が融点を有する場合、その融点は分解温度より高くても低くてもよいが、減圧加熱精製が安定に行えるように250℃以上であることが好ましい。
【0101】
<発光素子材料>
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、高発光効率を達成できることから、発光素子において、発光素子材料として用いられる。ここで本発明における発光素子材料とは、発光素子のいずれかの層に使用される材料を表し、後述するように、正孔注入層、正孔輸送層、発光層および/または電子輸送層に使用される材料であるほか、電極の保護膜(キャップ層)に使用される材料も含む。
【0102】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、高い発光性能を有することから、発光層に使用される材料であることが好ましい。特に赤色領域に強い発光を示すことから、赤色発光材料として好適に用いられる。
【0103】
本発明の発光素子材料は一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体単独で構成されていても、このピロメテンホウ素錯体と他の複数の化合物との混合物として構成されていてもよいが、発光素子が安定して製造できる観点から、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体単独で構成されることが好ましい。ここで、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体単独とは、該当の化合物が99重量%以上含まれていることを指す。
【0104】
<発光素子>
次に、本発明の発光素子の実施の形態について説明する。本発明の発光素子は、陽極と陰極、および該陽極と該陰極との間に一つ以上の有機層を含み、該有機層の少なくとも一つは発光層であり、該発光層が電気エネルギーにより発光する有機電界発光素子であることが好ましい。
【0105】
本発明の発光素子は、ボトムエミッション型、またはトップエミッション型のいずれであってもよい。
【0106】
このような発光素子における陽極と陰極の間の層構成は、発光層のみからなる構成の他に、1)発光層/電子輸送層、2)正孔輸送層/発光層、3)正孔輸送層/発光層/電子輸送層、4)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、5)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、6)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、7)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層、8)正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層のような積層構成が挙げられる。
【0107】
さらに、上記の積層構成を、中間層を介して複数積層したタンデム型の発光素子であってもよい。タンデム型の発光素子とは、陽極と陰極の間に少なくとも2つ以上の発光層を有する発光素子である。2つ以上の発光層の間には少なくとも1層以上の電荷発生層を有することが好ましい。発光素子が2つ以上の発光層を有する場合、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、そのうち少なくとも1つの発光層に含まれる。すなわち、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、全ての発光層に含まれていてもよく、また一部の発光層のみに含まれていてもよい。タンデム型発光素子は複数の発光層を有することにより低電流で高輝度が達成できるため、高効率、長寿命という特徴がある。また、R、G、Bの三色の発光層で構成されるタンデム型発光素子は、高効率の白色光素子となり、主にテレビや照明分野で使用されている。この方式はRGB塗り分け方式の発光素子に比べ工程簡略化できるメリットもある。中間層としては、一般的に、中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層などが挙げられ、公知の材料構成を用いることができる。中間層として少なくとも1層以上の電荷発生層を有することが好ましい。タンデム型の好ましい具体例として9)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/電荷発生層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層のような中間層が電荷発生層である積層構成が挙げられる。このような中間層を構成する材料としては、具体的にはピリジン誘導体またはフェナントロリン誘導体が好ましく用いられる。
【0108】
また、上記各層は、それぞれ単一層、複数層のいずれでもよく、ドーピングされていてもよい。さらに、陽極、発光層を含む一以上の有機層および陰極を含み、さらに光学干渉効果に起因して発光効率を向上させるためのキャッピング材料を用いた層を含む素子構成も挙げられる。
【0109】
本発明の発光素子は、トップエミッション型の有機電界発光素子であることが好ましい。トップエミッション型の有機電界発光素子の場合、陽極は発光層からの光を反射する金属電極、すなわち反射電極であることが好ましい。また陽極は反射電極層と透明電極層との積層構造を構成していてもよい。反射電極層と透明電極層の積層構造である場合、発光素子より取り出される発光波長の制御のため、反射電極層上の透明電極層の膜厚を変化させてもよい。陽極の上に有機層を適宜積層した後、陰極に、半透明電極として、例えば薄膜にした半透明の銀等を用いることで、有機電界発光素子に一部の光が反射して素子内で共振するマイクロキャビティ構造を導入することができる。このように有機電界発光素子にマイクロキャビティ構造を導入すると、有機層から発光され陰極を通して射出された光のスペクトルは共振効果により有機電界発光素子がマイクロキャビティ構造を有していない場合よりも急峻になり、かつ正面への射出強度が大きく増大する。このようなトップエミッション型の素子では、マイクロキャビティ効果により発光材料の発光スペクトルがシャープであればより発光効率を上げることができる。このような発光素子をディスプレイに用いた場合、色域向上と、輝度向上に寄与することができる。
【0110】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、上記の素子構成において、いずれの層に用いられてもよいが、蛍光量子収率が高く、薄膜安定性を有しているため、発光層に用いることが好ましい。
【0111】
以下に発光素子の構成の具体例を挙げるが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0112】
(基板)
発光素子の機械的強度を保ち、熱変形が少なく、発光層に水蒸気や酸素が侵入することを防ぐバリア性を有するために、発光素子を基板上に形成することが好ましい。基板としては特に限定されないが、例えばガラス板、セラミック版、樹脂製フィルム、樹脂薄膜、金属製薄板などが挙げられる。この中では透明でありかつ加工が容易である観点からガラス基板が好適に用いられ、特に基板を通して光を取り出すボトムエミッション素子では高い透明性を有するガラス基板が好ましい。また、主にスマートフォンなどのモバイル機器でフレキシブルディスプレイやフォルダブルディスプレイが増加しており、この用途には樹脂製フィルムやワニスを硬化した樹脂薄膜が好適に用いられる。樹脂製フィルムとしては耐熱フィルムが使用されており、具体的にはポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等が例示される。
【0113】
また基板の表面には有機ELを駆動させるための各種配線、回路、およびTFTによるスイッチング素子が設けられていてもよい。
【0114】
(陽極)
陽極は前記基板上に形成される。ここで基板と陽極の間に各種配線、回路、およびスイッチング素子が介在してもよい。陽極に用いる材料は、正孔を有機層に効率よく注入できる材料であれば特に限定されないが、ボトムエミッション型の素子では透明または半透明電極であることが好ましく、トップエミッション型の素子では反射電極であることが好ましい。
【0115】
透明または半透明電極の材質としては、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物;金、銀、アルミニウム、クロムなどの金属;ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーが例示される。ただし金属を用いるときは光を半透過できるように膜厚を薄くすることが好ましい。以上のうち、透明性と安定性の観点から酸化錫インジウム(ITO)がより好ましい。
【0116】
反射電極の材質としては、全ての光に対し吸収がなく高い反射率を有するものがよく、具体的には、アルミニウム、銀、白金などの金属が例示される。
【0117】
陽極の形成方法は、その形成材料に応じて最適な方法を採用できるが、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法などが挙げられる。例えば、金属酸化物によって陽極を形成する場合にはスパッタ法、金属によって陽極を形成する場合には蒸着法が用いられる。陽極の膜厚は特に限定されないが、数nm~数百nmであることが好ましい。
【0118】
また、これらの電極材料は、単独で用いてもよいが、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
【0119】
(陰極)
陰極は有機層を挟んで陽極の反対側の表面に形成され、特に電子輸送層または電子注入層表面に形成されることが好ましい。陰極に用いる材料は、電子を効率よく発光層に注入できる材料であれば特に限定されないが、ボトムエミッション型の素子では反射電極であることが好ましく、トップエミッション型の素子では半透明電極であることが好ましい。
【0120】
一般的には白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、インジウムなどの金属;これらの金属とリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの低仕事関数金属との合金や多層積層膜;酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物などが好ましい。中でも、主成分としてはアルミニウム、銀またはマグネシウムが電気抵抗値や製膜しやすさ、膜の安定性、発光効率などの面から好ましい。また陰極がマグネシウムと銀で構成されると、本発明における電子輸送層および電子注入層への電子注入が容易になり、低電圧駆動が可能になるため好ましい。陰極の膜厚は特に限定されないが、反射電極である場合は50~200nmであることが好ましく、半透明電極である場合は5~50nmであることが好ましい。
【0121】
(保護層)
陰極保護のために、陰極上に保護層(キャップ層)を積層することが好ましい。保護層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウムおよびインジウムなどの金属;これら金属を用いた合金;シリカ、チタニア、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化スカンジウム、酸化ジルコニウム、酸化セレン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ハフニウム、酸化イッテルビウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化トリウム、酸化マグネシウム、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、炭化ケイ素、窒化ガリウムおよび窒化ケイ素などの無機物;フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、フッ化プラセオジム、フッ化ガドリニウム、フッ化ランタン、フッ化ネオジウム、フッ化セリウムのような金属フッ化物;ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などの有機高分子化合物;アリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、トリアゾール誘導体およびボロン錯体などの低分子有機化合物などが挙げられる。ただし、発光素子が、陰極側から光を取り出す素子構造(トップエミッション構造)である場合は、保護層に用いられる材料は、可視光領域で光透過性のある材料から選択される。このとき光取り出し効率を向上させる観点から保護層は一つ以上の高屈折率層と一つ以上の低屈折率層の積層構造であることが好ましい。ここで高屈折率層はアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、トリアゾール誘導体などの低分子有機化合物、およびシリカ、チタニア、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化スカンジウム、酸化ジルコニウム、酸化セレン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ハフニウム、酸化イッテルビウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化トリウム、酸化マグネシウム、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、炭化ケイ素、窒化ガリウム、窒化ケイ素などの無機物からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料で構成されることが好ましい。また低屈折率層はボロン錯体、およびフッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、フッ化プラセオジム、フッ化ガドリニウム、フッ化ランタン、フッ化ネオジウム、フッ化セリウムのような金属フッ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料で構成されることが好ましい。
【0122】
(正孔注入層)
正孔注入層は陽極と正孔輸送層の間に挿入され、正孔注入を容易にする層である。正孔注入層は1層であっても複数の層が積層されていてもよい。正孔輸送層と陽極の間に正孔注入層が存在すると、より低電圧駆動し、耐久寿命も向上するだけでなく、さらに素子のキャリアバランスが向上して発光効率も向上するため好ましい。
【0123】
正孔注入材料の好ましい一例として、電子供与性正孔注入材料(ドナー材料)が挙げられる。これらはHOMO準位が正孔輸送層より浅く、かつ陽極の仕事関数に近いため陽極とのエネルギー障壁を小さくできる材料である。具体的には、ベンジジン誘導体、4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス(1-ナフチル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(1-TNATA)などのスターバーストアリールアミンなどの芳香族アミン系材料群;カルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物;ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、PEDOT/PSSのようなポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが例示される。中でも正孔輸送層に用いられる化合物より浅いHOMO準位を有し、陽極から正孔輸送層へ円滑に正孔を注入輸送するという観点からベンジジン誘導体またはスターバーストアリールアミン系材料群がより好ましく用いられる。これらの材料は単独で用いてもよいし、2種以上の材料を混合して用いてもよい。また、複数の材料を積層して正孔注入層としてもよい。
【0124】
また正孔注入材料の別の好ましい一例として、電子受容性正孔注入材料(アクセプター材料)が挙げられる。ここで正孔注入層はアクセプター材料単独で構成されていても、前記のドナー材料にアクセプター材料をドープして用いられていてもよい。アクセプター材料は、単独で用いる場合は隣接している正孔輸送層との間で電荷移動錯体を形成し、またドナー材料にドープして用いる場合はドナー材料との間で電荷移動錯体を形成する材料である。このような材料を用いると正孔注入層の導電性向上と、素子の駆動電圧低下に寄与し、発光効率の向上、耐久寿命向上といった効果が得られるため、より好ましい。アクセプター材料としては、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、塩化アンチモンのような金属塩化物;酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ルテニウムのような金属酸化物;トリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)のような電荷移動錯体;1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレン-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN6)、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、フッ素化銅フタロシアニン、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体のように分子内にニトロ基、シアノ基、ハロゲンまたはトリフルオロメチル基を有する有機化合物;キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレンなどが例示される。これらの中でも、金属酸化物やシアノ基含有化合物が取り扱いやすく、蒸着もしやすいことから、容易に上述した効果が得られるので好ましく、特に好ましくは、1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレン-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN6)、または(2E,2’E,2’’E)-2,2’,2’’-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(ペルフルオロフェニル)-アセトニトリル)、(2E,2’E,2’’E)-2,2’,2’’-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(4-シアノペルフルオロフェニル)-アセトニトリル)などのラジアレン誘導体である。正孔注入層がアクセプター性化合物単独で構成される場合、または正孔注入層にアクセプター性化合物がドープされている場合のいずれの場合も、正孔注入層は1層であってもよいし、複数の層が積層されて構成されていてもよい。
【0125】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、陽極から注入された正孔を発光層まで輸送する層である。正孔輸送層は単層であっても複数の層が積層されて構成されていてもどちらでもよい。
【0126】
正孔輸送層は、一種の正孔輸送材料単独で、または二種以上の正孔輸送材料を積層または混合することによって形成される。また正孔輸送材料は、正孔注入効率が高くかつ注入された正孔を効率良く輸送することが好ましい。そのためには適切なイオン化ポテンシャルを持ち、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が発生しにくい物質であることが要求される。
【0127】
このような条件を満たす物質として、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジジン誘導体;スターバーストアリールアミンと呼ばれる芳香族アミン系材料群;カルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、フルオレン誘導体、スピロフルオレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物;ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが挙げられる。
【0128】
本発明における正孔輸送層には、電子の移動を効率よく阻止できる電子阻止層も同義のものとして含まれる。電子阻止層は正孔輸送層と発光層の間に設けられる。電子阻止層および正孔輸送層は単独の層でも複数の材料が積層されて構成されていてもよい。
【0129】
(発光層)
発光層は、正孔と電子の再結合によって発生した励起エネルギーにより発光する層である。発光層は単一の材料で構成されていてもよいが、色純度の観点から第一の化合物と、強い発光を示すドーパントである第二の化合物とを有することが好ましい。第一の化合物としては、例えば電荷移動を担うホスト材料や、熱活性化遅延蛍光材料が好適な例として挙げられる。
【0130】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、特に優れた蛍光量子収率を有していること、および発光スペクトルの半値幅が狭く高色純度を達成できることから、発光層のドーパントである第二の化合物として用いることが好ましい。第二の化合物のドープ量は、多すぎると濃度消光現象が起きるため、発光層全体の重量に対して20重量%以下で用いることが好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましく、2重量%以下が最も好ましい。またドープ濃度が低すぎると十分なエネルギー移動が起きにくいことから、発光層全体の重量に対して0.1重量%以上で用いることが好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。
【0131】
発光層は、第一の化合物および第二の化合物以外の化合物を発光材料(ホスト材料またはドーパント材料)として含んでいてもよい。このような化合物を、他の発光材料と称する。
【0132】
ホスト材料は、化合物一種でも、二種類以上を混合して用いてもよく、また、積層して用いてもよい。ホスト材料としては、特に限定されないが、ナフタセン、ピレン、アントラセン、フルオランテンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体;N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミンなどの芳香族アミン誘導体;トリス(8-キノリナート)アルミニウム(III)をはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物;ジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、ピロロピロール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体、ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体などが使用できるが、これらに限定されるものではない。ホスト材料として特に好ましいものは、アントラセン誘導体またはナフタセン誘導体である。
【0133】
ドーパント材料として、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体が好ましいが、それ以外の蛍光発光材料を含んでいてもよい。その他のドーパント材料としては、具体的にはナフタセン、ピレン、アントラセン、フルオランテンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体;ヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体;ジスチリルベンゼン誘導体、アミノスチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4-c]ピロール誘導体、クマリン誘導体、アゾール誘導体およびその金属錯体、ならびに芳香族アミン誘導体などが挙げられる。
【0134】
またドーパント材料としてリン光発光材料が含まれていてもよい。リン光発光を行うドーパントとしては、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、およびレニウム(Re)からなる群から選択される少なくとも一つの金属を含む金属錯体化合物であることが好ましく、高効率発光の観点からイリジウム錯体または白金錯体がより好ましい。配位子は、フェニルピリジン骨格またはフェニルキノリン骨格またはカルベン骨格などの含窒素ヘテロアリール基を有することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0135】
ただし色純度を高くする観点から、ドーパント材料は1種類の一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体からなることが好ましい。
【0136】
発光層には上記ホスト材料またはドーパント材料の他に、発光層内のキャリアバランスを調整するためや発光層の層構造を安定化させるための第3成分をさらに含んでいてもよい。ただし、第3成分としては、ホスト材料およびドーパント材料との間で相互作用を起こさないような材料を選択することが好ましい。
【0137】
第一の化合物として熱活性化遅延蛍光材料を用いる場合について、詳しく説明する。熱活性化遅延蛍光材料は、一般的に、TADF材料とも呼ばれ、最低励起一重項状態のエネルギー準位と最低励起三重項状態のエネルギー準位のエネルギーギャップを小さくすることで、最低励起三重項状態から最低励起一重項状態への逆項間交差を促進し、一重項励起子の生成確率を向上させた材料である。TADF材料における最低励起一重項エネルギー準位と最低励起三重項エネルギー準位の差(ΔESTとする)は0.3eV以下であることが好ましい。このTADF機構により、理論的内部効率を100%まで高めることができる。さらに第一の化合物である熱活性化遅延蛍光材料の一重項励起子から第二の化合物の一重項励起子へフェルスター型のエネルギー移動が起こる場合、第二の化合物の一重項励起子からの蛍光発光が観測される。このようなエネルギー移動が起きるためには第一の化合物の最低励起一重項エネルギー準位が、第二の化合物の最低励起一重項エネルギー準位より大きいことが好ましい。ここで第二の化合物がシャープな発光スペクトルを有する蛍光発光材である場合、高効率かつ高色純度の発光素子を得ることができる。このように、発光層が熱活性化遅延蛍光材料を含有すると、高効率発光が可能となり、ディスプレイの低消費電力化に寄与する。熱活性化遅延蛍光材料は、単一の材料で熱活性化遅延蛍光を示す材料であってもいいし、エキサイプレックス錯体を形成する場合のように複数の化合物で熱活性化遅延蛍光を示す材料であってもよい。
【0138】
熱活性化遅延蛍光性材料としては、単一の化合物でも複数の化合物を混合して用いてもよく、公知の材料を用いることができる。具体的には、例えば、ベンゾニトリル誘導体、トリアジン誘導体、ジスルホキシド誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ジヒドロフェナジン誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。特に同一分子内に電子供与性部(ドナー部)と電子求引性部(アクセプター部)を有する化合物であることが好ましい。
【0139】
ここで電子供与性部(ドナー部)としては、芳香族アミノ基やπ電子過剰型複素環官能基が挙げられる。具体的にはジアリールアミノ基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、ジベンゾカルバゾリル基、インドロカルバゾリル基、ジヒドロアクリジニル基、フェノキサジニル基およびジヒドロフェナジニル基などが例示される。また電子求引性部(アクセプター部)としては、電子求引性基を置換基として有するフェニル基やπ電子不足型複素環官能基が挙げられる。具体的には、カルボニル基、スルホニル基、シアノ基から選択される電子求引性基を置換基として有するフェニル基やトリアジニル基が例示される。これらの官能基はそれぞれ置換されていても置換されていなくてもよい。
【0140】
このような熱活性化遅延蛍光性材料として、特に限定されるものではないが、以下のような例が挙げられる。
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
また、複数の化合物により熱活性化遅延蛍光性を示す場合には、電子輸送性の材料(アクセプター)と、正孔輸送性の材料(ドナー)の組み合わせにより励起錯体(エキサイプレックス)を形成することが好ましい。励起錯体は最低励起一重項状態の準位と最低励起三重項状態の準位の差が小さくなるため、最低励起三重項状態の準位から最低励起一重項状態の準位へのエネルギー移動が起こりやすくなり、発光効率が向上する。また、電子輸送性の材料と正孔輸送性の材料の混合比を調節することで、励起錯体の発光波長を調節し、エネルギー移動の効率を上げることができる。
【0156】
このような電子輸送性の材料としてはπ電子不足型複素芳香環を含む化合物または金属錯体が挙げられる。具体的には、ビス(2-メチル-8-キノリノラート)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(III)、ビス(8-キノリノラート)亜鉛(II)、ビス[2-(2-ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)などの金属錯体;2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]-1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾールなどのポリアゾール骨格を有する複素環化合物;2-[3’-(ジベンゾチオフェン-4-イル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f、h]キノキサリン、4,6-ビス[3-(フェナントレン-9-イル)フェニル]ピリミジン、などのジアジン骨格を有する複素環化合物;3,5-ビス[3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ピリジンなどのピリジン骨格を有する複素環化合物が例示される。
【0157】
一方、正孔輸送性の材料としてはπ電子過剰型複素芳香環を含む化合物や芳香族アミン化合物が挙げられる。具体的には、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(略称:TPD)、4-フェニル-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、4-(1-ナフチル)-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-アミンなどの芳香族アミン骨格を有する化合物;1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(CBP)、3,3’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(mCBP)、1,3,5-トリス[4-(N-カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(TCPB)、9-[4-(10-フェニル-9-アントラセニル)フェニル]-9H-カルバゾール(CzPA)、1,4-ビス[4-(N-カルバゾリル)フェニル]-2,3,5,6-テトラフェニルベンゼン、9-フェニル-9H-3-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)カルバゾール、3,6-ビス[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCA2)、3-[N-(1-ナフチル)-N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCN1)、9-([1,1-ビフェニル]-4-イル)-9’-([1,1’:4’、1”-ターフェニル]-4-イル)-9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9-([1,1’:4’、1”-ターフェニル]-4-イル)-9’-(ナフタレンー2-イル)-9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9,9’、9”-トリフェニルー9H,9’H,9”H-3,3’:6’、3”-トリカルバゾールなどのカルバゾール骨格を有する化合物;4,4’,4’’-(ベンゼン-1,3,5-トリイル)トリ(ジベンゾチオフェン)、2,8-ジフェニル-4-[4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]ジベンゾチオフェンなどのチオフェン骨格を有する化合物;4,4’,4’’-(ベンゼン-1,3,5-トリイル)トリ(ジベンゾフラン)、4-{3-[3-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]フェニル}ジベンゾフランなどのフラン骨格を有する化合物が例示される。
【0158】
第一の化合物が熱活性化遅延蛍光性材料である場合、発光層がさらに第三の化合物を含み、かつ第三の化合物の最低励起一重項エネルギーが第一の化合物の最低励起一重項エネルギーよりも大きいことが好ましい。また、第三の化合物の最低励起三重項エネルギーが第一の化合物の最低励起三重項エネルギーよりも大きいことがさらに好ましい。これにより、第三の化合物は発光材料のエネルギーを発光層内に閉じ込める機能を有することができ、効率よく発光させることが可能となる。
【0159】
第三の化合物としては、電荷輸送能が高く、かつガラス転移温度が高い有機化合物であることが好ましい。第三の化合物として、特に限定されるものではないが、以下のような例が挙げられる。
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
また第三の化合物は単一でも2種類以上の材料により構成されていてもよい。第三の化合物として2種類以上の材料を用いる場合には、電子輸送性の第三の化合物と正孔輸送性の第三の化合物の組み合わせであることが好ましい。電子輸送性の第三の化合物と正孔輸送性の第三の化合物を適切な混合比で組み合わせることにより、発光層内の電荷バランスを調整し、発光領域の偏りを抑制することで発光素子の信頼性を向上させ、耐久性を上げることができる。また電子輸送性の第三の化合物と正孔輸送性の第三の化合物との間で励起錯体を形成してもよい。以上の観点から式1~式4の関係式をそれぞれ満たすことが好ましい。式1および式2を満たすことがより好ましく、式3および式4を満たすことがさらに好ましい。また、式1~式4を全て満たすことがよりさらに好ましい。
【0172】
S1(電子輸送性の第三の化合物)>S1(第一の化合物)(式1)
S1(正孔輸送性の第三の化合物)>S1(第一の化合物)(式2)
T1(電子輸送性の第三の化合物)>T1(第一の化合物)(式3)
T1(正孔輸送性の第三の化合物)>T1(第一の化合物)(式4)
ここで、S1はそれぞれの化合物の最低励起一重項状態のエネルギー準位、T1はそれぞれの化合物の最低励起三重項状態のエネルギー準位を表している。
【0173】
電子輸送性の第三の化合物としては、π電子不足型複素芳香環を含む化合物などが挙げられる。具体的には2-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(OXD-7)、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)フェニル]-9H-カルバゾール(CO11)、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(TPBI)、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]-1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール(mDBTBIm-II)などのポリアゾール骨格を有する複素環化合物;2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2mDBTPDBq-II)、2-[3’-(ジベンゾチオフェン-4-イル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2mDBTBPDBq-II)、2-[4-(3,6-ジフェニル-9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2CzPDBq-III)、7-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(7mDBTPDBq-II)、および6-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(6mDBTPDBq-II)、2-[3’-(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2mCzBPDBq)などのキノキサリン骨格またはジベンゾキノキサリン骨格を有する複素環化合物;4,6-ビス[3-(フェナントレン-9-イル)フェニル]ピリミジン(4,6mPnP2Pm)、4,6-ビス[3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ピリミジン(4,6mCzP2Pm)、4,6-ビス[3-(4-ジベンゾチエニル)フェニル]ピリミジン(4,6mDBTP2Pm-II)などのジアジン骨格(ピリミジン骨格やピラジン骨格)を有する複素環化合物;3,5-ビス[3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ピリジン(3,5DCzPPy)、1,3,5-トリ[3-(3-ピリジル)フェニル]ベンゼン(TmPyPB)、3,3’,5,5’-テトラ[(m-ピリジル)-フェン-3-イル]ビフェニル(BP4mPy)などのピリジン骨格を有する複素環化合物が例示される。
【0174】
また上記の正孔輸送性の第三の化合物としてはπ電子過剰型複素芳香環を含む化合物などが挙げられる。具体的には1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(CBP)、3,3’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(mCBP)、1,3,5-トリス[4-(N-カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(TCPB)、9-[4-(10-フェニル-9-アントラセニル)フェニル]-9H-カルバゾール(CzPA)、1,4-ビス[4-(N-カルバゾリル)フェニル]-2,3,5,6-テトラフェニルベンゼン、9-フェニル-9H-3-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)カルバゾール、3,6-ビス[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCA2)、3-[N-(1-ナフチル)-N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCN1)、9-([1,1-ビフェニル]-4-イル)-9’-([1,1’:4’、1”-ターフェニル]-4-イル)-9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9-([1,1’:4’、1”-ターフェニル]-4-イル)-9’-(ナフタレンー2-イル)-9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9,9’、9”-トリフェニル-9H,9’H,9”H-3,3’:6’、3”-トリカルバゾールなどのカルバゾール骨格を有する化合物が例示される。
【0175】
(電子輸送層)
電子輸送層は、陰極から電子が注入され、電子を輸送する層である。電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、電子親和力が大きいこと、電子移動度が大きいこと、安定性に優れること、およびトラップとなる不純物が発生しにくい物質であることが要求される。また低分子量の化合物は結晶化して膜質が劣化しやすいため分子量400以上の化合物が好ましい。
【0176】
本発明における電子輸送層には、正孔の移動を効率よく阻止できる正孔阻止層も同義のものとして含まれる。正孔阻止層は発光層と電子輸送層の間に設けられる。正孔阻止層および電子輸送層は単独の層でも複数の材料が積層されて構成されていてもよい。
【0177】
電子輸送材料としては、多環芳香族誘導体、スチリル系芳香環誘導体、キノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられる。駆動電圧を低減し高効率発光が得られることから、電子受容性窒素を含むヘテロアリール基を有する化合物を用いることが好ましい。ここで電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。電子受容性窒素を含むヘテロアリール基は、電子親和力が大きいため、陰極から電子が注入しやすくなり、より低電圧駆動が可能となる。また発光層への電子の供給が多くなり、再結合確率が高くなるので発光効率が向上する。電子受容性窒素を含むヘテロアリール基構造を有する化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、キナゾリン誘導体、ナフチリジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、フェナンスロイミダゾール誘導体、およびビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体などが好ましい化合物として挙げられる。中でも、トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼンなどのイミダゾール誘導体、1,3-ビス[(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾリル]フェニレンなどのオキサジアゾール誘導体;N-ナフチル-2,5-ジフェニル-1,3,4-トリアゾールなどのトリアゾール誘導体;バソクプロインや1,3-ビス(1,10-フェナントロリン-9-イル)ベンゼンなどのフェナントロリン誘導体;2,2’-ビス(ベンゾ[h]キノリン-2-イル)-9,9’-スピロビフルオレンなどのベンゾキノリン誘導体;2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロールなどのビピリジン誘導体;1,3-ビス(4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル))ベンゼンなどのターピリジン誘導体;ビス(1-ナフチル)-4-(1,8-ナフチリジン-2-イル)フェニルホスフィンオキサイドなどのナフチリジン誘導体およびトリアジン誘導体が、電子輸送能の観点から好ましく用いられる。
【0178】
また、これらの誘導体が縮合多環芳香族骨格を有していると、ガラス転移温度が向上し、かつ電子移動度が大きく低電圧化が可能なためより好ましい。このような縮合多環芳香族骨格としては、フルオランテン骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格またはフェナントロリン骨格であることがより好ましく、フルオランテン骨格またはフェナントロリン骨格であることが特に好ましい。
【0179】
電子輸送材料は単独でも2種以上を混合して用いても構わない。また、電子輸送層はドナー性材料を含有してもよい。ここで、ドナー性材料とは電子注入障壁の改善により、陰極または電子注入層からの電子輸送層への電子注入を容易にし、さらに電子輸送層の電気伝導性を向上させる化合物である。
【0180】
ドナー性材料の好ましい例としては、Liなどのアルカリ金属、LiFなどのアルカリ金属を含有する無機塩、リチウムキノリノールなどのアルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩、アルカリ土類金属と有機物との錯体、EuやYbなどの希土類金属、希土類金属を含有する無機塩、希土類金属と有機物との錯体などが挙げられる。ドナー性材料としては、金属リチウム、希土類金属、またはリチウムキノリノール(Liq)が特に好ましい。
【0181】
(電子注入層)
本発明において、陰極と電子輸送層の間に電子注入層を設けてもよい。一般的に電子注入層は陰極から電子輸送層への電子の注入を助ける目的で形成され、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物や、上記のドナー性材料により構成される。後述する一般式(30)で表されるフェナントロリン誘導体が好ましい。
【0182】
また電子注入層に絶縁体や半導体の無機物を用いることもできる。これらの材料を用いることで発光素子の短絡を防止して、かつ電子注入性を向上させることができるので好ましい。
【0183】
このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を使用するのが好ましい。
【0184】
(電荷発生層)
本発明における電荷発生層は、一つの層で形成されていてもよく、複数の層が積層されて形成されていてもよい。また一般的に電荷として電子を発生しやすいものはn型電荷発生層と呼ばれ、正孔を発生しやすいものはp型電荷発生層と呼ばれる。電荷発生層は二重層からなることが好ましい。具体的には、n型電荷発生層およびp型電荷発生層からなるpn接合電荷発生層として用いることが好ましい。上記pn接合電荷発生層は発光素子中で電圧が印加されることにより電荷を発生、または電荷を正孔および電子に分離し、これらの正孔および電子を正孔輸送層および電子輸送層を経由して発光層に注入する。具体的には、複数の発光層が積層された発光素子において、中間層として機能する。n型電荷発生層は陽極側に存在する第一発光層に電子を供給し、p型電荷発生層は陰極側に存在する第二発光層に正孔を供給する。そのため、複数の発光層を積層した発光素子における発光効率を改善でき、駆動電圧を下げることができ、素子の耐久性も向上する。
【0185】
上記n型電荷発生層は、n型ドーパントおよびホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。ホストとn型ドーパントの比率は、ホスト/n型ドーパント=99.5/0.5~50/50範囲であることが好ましく、99/1~90/10の範囲であることがさらに好ましい。n型ドーパントとしては、上記のドナー性材料が好適に用いられ、具体的にはアルカリ金属、アルカリ土類金属、または希土類金属を用いることができる。中でもアルカリ金属もしくはその塩、または希土類金属が好ましく、金属リチウム、フッ化リチウム(LiF)、リチウムキノリノール(Liq)または金属イッテルビウムがさらに好ましい。また、ホストとしては上記の電子輸送層に用いられる電子輸送材料が好適に用いられ、中でもトリアジン誘導体、フェナントロリン誘導体およびオリゴピリジン誘導体を用いることが好ましく、一般式(30)で表されるフェナントロリン誘導体がさらに好ましい。
【0186】
【0187】
Ar5は、2個のフェナントロリル基で置換されているアリール基である。置換位置は任意の位置である。このアリール基はその他の位置で別の置換基を有していてもよい。このようなアリール基としては、合成容易性、昇華性の観点から、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、ピレニル基およびフルオレニル基から選ばれることが好ましい。
【0188】
R71~R77は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。特に化合物の安定性および電荷移動容易性の観点から、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれることが好ましい。
【0189】
一般式(30)で表されるフェナントロリン誘導体としては下記のものが例示される。
【0190】
【0191】
上記p型電荷発生層は、p型ドーパントおよびホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。例えば、p型ドーパントとして、上記の正孔注入層で用いるアクセプター性化合物が好適に用いられる。具体的には1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレン-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN6)、テトラフルオレ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体、ヨウ素、FeCl3、FeF3、およびSbCl5などを用いることができる。特に好ましくは、1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレン-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN6)、または(2E,2’E,2’’E)-2,2’,2’’-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(ペルフルオロフェニル)-アセトニトリル)、(2E,2’E,2’’E)-2,2’,2’’-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(4-シアノペルフルオロフェニル)-アセトニトリル)などのラジアレン誘導体である。上記アクセプター性化合物は単独で薄膜を形成してもよい。この場合、アクセプター性化合物の薄膜は膜厚10nm以下であることがより好ましい。ホストとして好ましくはアリールアミン誘導体である。
【0192】
(発光素子の形成方法)
発光素子を構成する上記各層の形成方法としては、ドライプロセスまたはウェットプロセスのいずれでもよく、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法、インクジェット法、印刷法などを用いることができる。特に限定されないが、通常は、素子特性の点から抵抗加熱蒸着が好ましい。
【0193】
有機層の厚みは、発光物質の抵抗値によるため限定することはできないが、1~1000nmであることが好ましい。発光層、電子輸送層および正孔輸送層の膜厚はそれぞれ、好ましくは1nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上100nm以下である。
【0194】
(発光素子の特性)
本発明の実施の形態に係る発光素子は、電気エネルギーを光に変換できる機能を有する。ここで電気エネルギーとしては主に直流電流が使用されるが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はなく、素子の目的によって要求される特性値が異なるが、素子の消費電力や寿命の観点から低電圧で高い輝度が得られることが好ましい。
【0195】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、通電によりピーク波長が580nm以上750nm以下の赤色発光を呈することが好ましい。色域を拡大し色再現性を向上させる観点から、ピーク波長は600nm以上650nm以下の領域であることが好ましく、600nm以上640nm以下の領域であることがより好ましい。
【0196】
また本発明の実施の形態に係る発光素子は、色純度を高める観点から、通電による発光スペクトルの半値幅が60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、45nm以下であることがさらに好ましい。
【0197】
本発明の発光素子は発光スペクトルの半値幅が狭いため、前述のようにトップエミッション型の発光素子に用いることがより好ましい。トップエミッション型発光素子はマイクロキャビティによる共振効果により、半値幅が狭いほど発光効率が高くなる。そのため、高色純度と高発光効率を両立することが可能となる。
【0198】
(発光素子の用途)
本発明の発光素子は、例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示するディスプレイ等の表示装置として好適に用いられる。
【0199】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種機器等のバックライトとしても好ましく用いられる。バックライトは、主に自発光しないディスプレイ等の表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶ディスプレイ、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などの表示装置に使用される。特に、液晶ディスプレイ、中でも薄型化が検討されているパソコン用途のバックライトに本発明の発光素子は好ましく用いられ、従来のものより薄型で軽量なバックライトを提供できる。
【0200】
本発明の発光素子は、照明装置としても好ましく用いられる。本発明の実施の形態に係る発光素子は、高い発光効率と高色純度との両立が可能であり、さらに、薄型化や軽量化が可能であることから、低消費電力と鮮やかな発光色、高いデザイン性を合わせ持った照明装置が実現できる。
【実施例】
【0201】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0202】
合成例1
化合物D-1の合成方法
ピロール(20-1)2.5gと、2,4,6-トリメチルベンズアルデヒド0.64gをジクロロメタン50mlに溶解し、これにトリフルオロ酢酸10滴を加え、窒素気流下25℃で24時間撹拌した。水を加えた後、有機層を分離し、飽和食塩水50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムを添加しろ過した。ろ液からエバポレーターを用いて溶媒を除去し、残留物であるピロメタン(20-2)を得た。
【0203】
得られたピロメタン(20-2)を1,2-ジクロロエタン50mlに溶解し、DDQ1.0gを加えて、窒素気流下、室温で2時間撹拌した。続いてジイソプロピルエチルアミン5mlと、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体3.5mlとを加え、80℃で1時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、水50mlを注入し、酢酸エチル50mlで抽出した。有機層を水50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過した。ろ液からエバポレーターを用いて溶媒を除去し、続いて残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン/トルエン=1/2)により精製した。さらに濃縮した精製物にメタノール50mlを加え60℃で10分間加熱攪拌した後、放冷し、析出した固体を濾過し、真空乾燥して、赤紫色粉末1.7gを得た。得られた粉末を高速液体クロマトグラフNexeraX2/四重極型質量分析計LCMS-2020(島津製作所製、以下同じ)により分析し、赤紫色粉末がピロメテン金属錯体である化合物D-1であることを確認した。
【0204】
化合物D-1:MS(m/z) 分子量;754
化合物D-1の溶液中の発光特性は、次のように測定した。まず化合物D-1をトルエンに溶かし、1.0×10-5mol/L の希薄溶液を調製した。次にこの希薄溶液を1cm角石英ガラスセルに注入した。続いてこの希薄溶液の入ったセルを各装置の所定部位に設置し、発光特性評価を行った。具体的には、分光光度計U-3010(日立ハイテクサイエンス製)を用いて波長300~800nmの範囲の光の吸収スペクトルを測定し、蛍光燐光分光光度計FluoroMax-4P(堀場製作所製)を用いて励起光450nmにおける発光スペクトルを測定し、蛍光量子収率測定装置C11347-01(浜松ホトニクス(株)製)を用いて励起光540nmにおける蛍光量子収率を測定した。
【0205】
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 572nm
発光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 606nm、半値幅 36nm
蛍光量子収率(溶媒:トルエン、励起光:540nm): 95%
さらに純度を上げるために次のような方法で昇華精製を行った。化合物D-1の入った金属容器をガラス管中に設置し、油拡散ポンプを用いて1×10-3Paに減圧した状態で、270℃で加熱したところ昇華した。ガラス管壁に付着した固体を回収しLC-MS分析による純度が99%であることを確認した。
【0206】
【0207】
合成例2
化合物D-2の合成方法
ピロール(21-1)1.3gと、2.4.6-トリメチルベンゾイルクロリド0.71gと、o-キシレン70mlとの混合溶液を、窒素気流下、130℃で5時間加熱攪拌した。室温に冷却後メタノールを添加し、析出した固体をろ過した後、真空乾燥して、ケトピロール(21-2)1.8gを得た。
【0208】
次に、ケトピロール(21-2)1.8g、ピロール(21-3)1.1g、トリフルオロメタンスルホン酸無水物0.83g、およびトルエン30mlとの混合溶液を、窒素気流下、110℃で6時間加熱攪拌した。室温に冷却後、水50mlを注入し、酢酸エチル50mlで抽出した。有機層を水50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムを添加しろ過した。ろ液からエバポレーターを用いて溶媒を除去し、残留物であるピロメテン体(21-4)を得た。
【0209】
続いて、得られたピロメテン体とトルエン60mlとの混合溶液に、窒素気流下、ジイソプロピルエチルアミン5mlと、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体3.5mlとを加え、80℃で1時間攪拌した。続いて水50mlを注入し、酢酸エチル50mlで抽出した。有機層を水50mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過した。ろ液からエバポレーターを用いて溶媒を除去し、続いて残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン/トルエン=1/2)により精製した。さらに濃縮した精製物にメタノール50mlを加え60℃で10分間加熱攪拌した後、放冷し、析出した固体を濾過し、真空乾燥して、赤紫色粉末1.6gを得た。得られた粉末を LC-MSにより分析し、赤紫色粉末がピロメテン金属錯体である化合物D-2であることを確認した。
【0210】
化合物D-2:MS(m/z) 分子量;813
化合物D-2の溶液中の発光特性は化合物D-1の方法と同様に測定した。
【0211】
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 584nm
発光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 619nm、半値幅 38nm
蛍光量子収率(溶媒:トルエン、励起光:540nm): 95%
さらに精製するために化合物D-1と同様の方法で昇華精製を行い、LC-MS分析による純度が99%であることを確認した。
【0212】
【0213】
下記の実施例および比較例において使用されるピロメテン金属錯体は以下に示す化合物である。また、これらピロメテン金属錯体化合物のトルエン溶液における分子量、発光特性を表1に示す。
【0214】
【0215】
【0216】
【0217】
実施例1
(ドープ薄膜の蛍光量子収率測定)
石英ガラス板(10×10mm)を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄し、乾燥した。このガラス板を素子作製の直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、ホスト材料としてmCBPを、またドーパント材料として化合物D-1をドープ濃度が1重量%になるようにして500nmの厚さに蒸着し、1重量%ドープ薄膜を得た。同様の方法により、2重量%ドープ薄膜と4重量%ドープ薄膜を得た。
【0218】
1重量%ドープ薄膜の発光スペクトルは作製した1重量%ドープ薄膜を蛍光燐光分光光度計FluoroMax-4P(堀場製作所製)を用い、励起光450nmとして求めた。
【0219】
発光ピーク波長 :λmax 612nm、半値幅 43nm
また、1重量%、2重量%および4重量%のそれぞれのドープ薄膜について、蛍光量子収率測定装置C11347-01(浜松ホトニクス(株)製)を用いて、励起光540nmにおける蛍光量子収率を求めた。またドープ濃度1%のときの蛍光量子収率を1とした時の各ドープ濃度における蛍光量子収率の比率をQY比として、以下の式により求めた。
【0220】
QY比=(ドープ濃度x重量%の薄膜の蛍光量子収率)/(ドープ濃度1重量%の薄膜の蛍光量子収率)
[x=1、2または4]
以下に結果を示す。
【0221】
ドープ濃度 1重量%; 蛍光量子収率 78%、QY比=1
ドープ濃度 2重量%; 蛍光量子収率 77%、QY比=0.99
ドープ濃度 4重量%; 蛍光量子収率 70%、QY比=0.90
実施例2~20、比較例1~2
ドーパント材料として化合物D-1の代わりに表2に記載の化合物を用いた以外は実施例1と同様にしてドープ薄膜の発光スペクトル、蛍光量子収率およびQY比を求めた。結果を表2に示す。
【0222】
【0223】
表2より、実施例1~20は比較例1~2に比べていずれもドープ薄膜の蛍光量子収率が高いことが分かる。また、実施例1~20は比較例1~2に比べていずれもQY比が大きく、ドープ濃度増加による蛍光量子収率の低下が小さい、すなわちドープ濃度依存性が小さくなっていることが分かる。
【0224】
実施例21
(蛍光発光素子評価)
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を “セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄し、乾燥した。この基板を素子作製の直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を5nm、正孔輸送層として、HT-1を50nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料としてH-1を、またドーパント材料として化合物D-1をドープ濃度が1.0重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層としてET-1を、ドナー性材料として2E-1を用い、ET-1と2E-1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。
【0225】
この発光素子を1000cd/m2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長613nm、半値幅43nm、外部量子効率6.8%であった。また耐久性は、初期輝度を1000cd/m2となる電流で連続通電し、初期輝度の90%の輝度となる時間(以下、LT90とする)で評価を行った。その結果、この発光素子のLT90は284時間であった。なお、HAT-CN6、HT-1、H-1、ET-1、2E-1は下記に示す化合物である。
【0226】
【0227】
実施例22~40、比較例3~4
ドーパント材料として表3に記載した化合物を用いた以外は実施例21と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0228】
【0229】
表3より、実施例21~40は比較例3~4に比べていずれも外部量子効率が高いことが分かる。
【0230】
実施例41
(熱活性化遅延蛍光発光素子)
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を “セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を10nm、正孔輸送層として、HT-1を180nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料H-2と、化合物D-1と、TADF材料である化合物H-3とを、重量比で80:1:19になるようにして、40nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として、電子輸送材料に化合物ET-1を、ドナー性材料として2E-1を用い、化合物ET-1と2E-1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。
【0231】
この発光素子を1000cd/m2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長613nm、半値幅43nm、外部量子効率16.4%であった。なお、H-2~H-6の構造を下記に示す。
【0232】
【0233】
実施例42~47、比較例5~6
ドーパント材料として表4に記載した化合物を用いた以外は実施例41と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表4に示す。
【0234】
実施例48
発光層として、ホスト材料H-4と、化合物D-4と、TADF材料H-5とを、重量比で74:1:25となるようにして40nmの厚さに蒸着した以外は実施例41と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表4に示す。
【0235】
実施例49
発光層として、ホスト材料H-4と、化合物D-4と、TADF材料H-6とを、重量比で74:1:25となるようにして40nmの厚さに蒸着した以外は実施例41と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表4に示す。
【0236】
【0237】
表4を参照して分かるように、実施例41~49および比較例5~6は、発光層にTADF材料を用いているため、実施例21~40および比較例3~4と比べて外部量子効率が大幅に向上した。これらの中でも実施例41~49は比較例5~6に比べていずれも高効率な発光を得ることができた。
【0238】
実施例50
(2種のホスト材料を用いたTADFボトムエミッション型発光素子評価)
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を “セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を10nm、続いて正孔輸送層として、HT-1を180nm蒸着した。次に、発光層として、第一のホスト材料H-2(正孔輸送性の第三の化合物)と、第二のホスト材料H-7(電子輸送性の第三の化合物)と、化合物D-1(第二の化合物)と、TADF材料である化合物H-3(第一の化合物)とを、重量比で40:40:1:19になるようにして、40nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として、電子輸送材料に化合物ET-1を、ドナー性材料として2E-1を用い、化合物ET-1と2E-1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角のボトムエミッション型発光素子を作製した。
【0239】
この発光素子を1000cd/m2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長613nm、半値幅43nm、外部量子効率16.5%、LT90は312時間であった。1種のホスト材料を用いた実施例41と比べ、発光ピーク波長、半値幅、外部量子効率は同等であり、LT90が約1.5倍に大きくなっており、耐久性が向上していることが確認された。なお、H-7は下記に示す化合物である。
【0240】
【0241】
また、H-2、H-7の最低励起一重項エネルギー準位:S1、および最低励起三重項エネルギー準位:T1は以下の通りである。
【0242】
S1(H-2):3.4eV
T1(H-2):2.6eV
S1(H-7):3.9eV
T1(H-7):2.8eV
実施例51
(タンデム型蛍光発光素子評価)
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を “セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を5nm、続いて正孔輸送層として、HT-1を50nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料としてH-1(第一の化合物)を、またドーパント材料として化合物D-1(第二の化合物)をドープ濃度が1.0重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として、電子輸送材料に化合物ET-1を、ドナー性材料として2E-1を用い、化合物ET-1と2E-1の蒸着速度比が1:1になるようにして35nmの厚さに積層した。続いてn型電荷発生層としてn型ホストに化合物ET-2を、n型ドーパントに金属リチウムを用い、化合物ET-2と金属リチウムの蒸着速度比が99:1になるようにして10nm積層した。さらにp型電荷発光層としてHAT-CN6を10nm積層した。その上に上記と同様に正孔輸送層としてHT-1を50nm、発光層としてホスト材料H-1に化合物D-1が1.0重量%ドープされた薄膜を20nm、電子輸送層としてET-1と2E-1の比率が1:1となる薄膜35nmを順に蒸着した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角のタンデム型蛍光発光素子を作製した。
【0243】
この発光素子を1000cd/m2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長613nm、半値幅43nm、外部量子効率13.4%、LT90は561時間であった。発光層が1層のみの実施例21と比べ、外部量子効率とLT90がどちらも約2倍に大きくなっており、発光効率と耐久性が向上していることが確認された。なお、ET-2は下記に示す化合物である。
【0244】
【0245】
以上のように、本発明により、外部量子効率が高い発光素子の作製ができることが示された。これにより、ディスプレイなどの表示装置や照明装置の製造において、発光効率を高くできることが示された。