(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】樹脂接合体の製造方法および樹脂接合体の製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 69/00 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
B29C69/00
(21)【出願番号】P 2020568840
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2020040932
(87)【国際公開番号】W WO2021095578
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019206894
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金杉 和弥
(72)【発明者】
【氏名】藤内 俊平
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕介
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-268383(JP,A)
【文献】特開2002-292755(JP,A)
【文献】特開2015-164833(JP,A)
【文献】特開2017-126416(JP,A)
【文献】特開2002-214414(JP,A)
【文献】小林靖之,他2名,"オゾン水によるポリエチレンナフタレートフィルムの表面改質と誘導体化法による官能基同定",表面技術,日本,2012年,Vol.63, No.12,pp.71-72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とが接合された樹脂接合体の製造方法であって、
前記第1の樹脂部材の前記第2の樹脂部材との接合面、および/または、前記第2の樹脂部材の前記第1の樹脂部材との接合面を、不活性ガスで覆われた状態にし、または、真空環境に置いて、熱成形する熱成形工程と、
前記第1の樹脂部材および/または前記第2の樹脂部材の前記接合面を、活性化させる表面処理工程と、
前記熱成形工程および前記表面処理工程の後、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを、それぞれの前記接合面で貼り合わせる接合工程と、
を有する樹脂接合体の製造方法。
【請求項2】
前記熱成形工程は、前記第1の樹脂部材の前記第2の樹脂部材との接合面、または、前記第2の樹脂部材の前記第1の樹脂部材との接合面のいずれか一方を、熱成形し、
前記表面処理工程は、前記熱成形工程で熱成形しない樹脂部材の接合面を、活性化させる
請求項1に記載の樹脂接合体の製造方法。
【請求項3】
前記表面処理工程における前記表面処理を施す手段が、前記第1の樹脂部材および/または前記第2の樹脂部材の前記接合面に対して、電離物質を照射すること、電磁波を照射すること、および活性液体に接触させること、からなる群より選ばれた少なくともひとつである、
請求項1または2の樹脂接合体の製造方法。
【請求項4】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とが接合された樹脂接合体の製造に用いられ、熱成形機構、表面処理機構および接合機構を備えた樹脂接合体の製造装置であって、
前記熱成形機構は、
前記第1の樹脂部材の前記第2の樹脂部材との接合面、および/または、前記第2の樹脂部材の前記第1の樹脂部材との接合面を不活性ガスで覆うように、前記接合する面に向けて不活性ガスを供給するガス供給手段と、
前記不活性ガスで覆われた前記第1の樹脂部材および/または前記第2の樹脂部材の前記接合面を加熱しながら成形する賦形手段と、を有し、
前記表面処理機構は、前記第1の樹脂部材の前記接合面、および/または前記第2の樹脂部材の前記接合面を、活性化させるものであり、
前記接合機構は、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを、それぞれの前記接合面で貼り合わせるものである、
樹脂接合体の製造装置。
【請求項5】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とが接合された樹脂接合体の製造に用いられ、熱成形機構、表面処理機構および接合機構を備えた樹脂接合体の製造装置であって、
前記熱成形機構は、
前記第1の樹脂部材の前記第2の樹脂部材との接合面、および/または、前記第2の樹脂部材の前記第1の樹脂部材との接合面を囲うように設けられた隔壁と、
前記隔壁の内部に不活性ガスを供給するガス供給手段、または、前記隔壁の内部の空気を排気して真空状態にする排気手段と、
前記隔壁の内部に備えられ、前記第1の樹脂部材および/または前記第2の樹脂部材の前記接合面を加熱しながら成形する賦形手段と、を有し、
前記表面処理機構は、前記第1の樹脂部材および/または前記第2の樹脂部材の前記接合面を、活性化させるものであり、
前記接合機構は、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを、それぞれの前記接合面で貼り合わせるものである、
樹脂接合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形工程を含んだ樹脂接合体の製造方法と樹脂接合体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの更なる微細化や光学デバイスの光学特性向上等を目的に各種基材を接着剤なしで接合させる技術(以下、接着剤レス接合とする)が検討されている。その中で、樹脂同士を対象とした接着剤レス接合では、樹脂接合面を接触させた後、樹脂の溶融温度まで加熱して溶着させるラミネート技術が幅広く用いられている。しかしこの方法では、加熱時に樹脂部材全体の結晶化度や分子構造等が変化(熱変質)し、光学特性や機械強度に悪影響を与えてしまう問題がある。
【0003】
そのため、熱ダメージを与えずに強固な接合力を得るための樹脂の接合方法として、互いに接合させる2枚の樹脂部材の接合面に対して電離物質や電磁波等を用いて表面処理を施した後、それら接合面を貼り合わせて低温で加圧する方法が検討されている。この接着剤レス接合では、接合前に予め任意の凹凸形状を樹脂接合面に付与することで、凹凸形状を維持した状態で樹脂接合体内部に中空構造が形成できる。これにより、マイクロ流体デバイスや光学デバイス等への応用が可能となる。
特許文献1には、バイオセンサーや燃料電池などの流路構成部材用に、第1の樹脂部材の接合面および第2の樹脂部材の接合面のうちの少なくとも一方に凹部を形成し、それら樹脂接合面に対して電離物質や電磁波等を用いて表面処理を施した後、その樹脂部材の接合面の間に溶剤を介在させて50℃未満で加圧する方法が開示されている。
【0004】
一方、樹脂部材の立体成形や樹脂部材表面への微細形状付与、表面平滑性向上などを目的に、熱プレス加工や切削加工などの各種成形手段が応用されている。中でも、加熱して軟化させた樹脂を金型に押し込んで成形する熱成形技術は、目的に応じた金型を用いることで任意形状を精度よく容易に付与できるため、幅広く用いられている。
非特許文献1には、熱成形技術の1つである熱インプリント法を用いて、樹脂部材表面を加熱した後、加圧することで金型表面の微細構造が樹脂表面に転写できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】精密加工学会誌Vol.76 No.2 P156-160 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法で熱成形した樹脂部材は、熱成形時に樹脂部材表面が熱劣化してしまう問題があり、特許文献1に開示された方法で接合した樹脂部材は、十分な接合力向上効果が得られない。
【0008】
本発明は、上述した問題点を鑑みてなされたものであり、熱成形樹脂部材に対して、高い接合力を有する接着剤レス樹脂接合体を製造する方法および装置を提供する。また、本発明は、接合する樹脂が透明体である場合、良質な光学特性を有する樹脂接合体を製造する方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の樹脂接合体の製造方法は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とが接合された樹脂接合体の製造方法であって、上記第1の樹脂部材の上記第2の樹脂部材との接合面、および/または、上記第2の樹脂部材の上記第1の樹脂部材との接合面を、不活性ガスで覆われた状態にし、または、真空環境に置いて、熱成形する熱成形工程と、上記第1の樹脂部材および/または上記第2の樹脂部材の上記接合面を、活性化させる表面処理工程と、上記熱成形工程および上記表面処理工程の後、上記第1の樹脂部材と上記第2の樹脂部材とを、それぞれの上記接合面で貼り合わせる接合工程と、を有する。
【0010】
上記課題を解決する本発明の樹脂接合体の製造装置は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とが接合された樹脂接合体の製造に用いられ、熱成形機構、表面処理機構および接合機構を備えた樹脂接合体の製造装置であって、上記熱成形機構は、上記第1の樹脂部材の上記第2の樹脂部材との接合面、および/または、上記第2の樹脂部材の上記第1の樹脂部材との接合面を不活性ガスで覆うように、上記接合面に向けて不活性ガスを供給するガス供給手段と、上記不活性ガスで覆われた上記第1の樹脂部材および/または上記第2の樹脂部材の上記接合面を加熱しながら成形する賦形手段と、を有し、上記表面処理機構は、上記第1の樹脂部材および/または上記第2の樹脂部材の上記接合面を、活性化させるものであり、上記接合機構は、上記第1の樹脂部材と上記第2の樹脂部材とを、それぞれの上記接合面で貼り合わせるものである。
【0011】
また、上記課題を解決する本発明の別の樹脂接合体の製造装置は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とが接合された樹脂接合体の製造に用いられ、熱成形機構、表面処理機構および接合機構を備えた樹脂接合体の製造装置であって、上記熱成形機構は、上記第1の樹脂部材の上記第2の樹脂部材との接合面、および/または、上記第2の樹脂部材の上記第1の樹脂部材との接合面を囲うように設けられた隔壁と、上記隔壁の内部に不活性ガスを供給するガス供給手段、または、上記隔壁の内部の空気を排気して真空状態にする排気手段と、上記隔壁の内部に備えられ、上記第1の樹脂部材および/または上記第2の樹脂部材の上記接合面を加熱しながら成形する賦形手段と、を有し、上記表面処理機構は、上記第1の樹脂部材および/または上記第2の樹脂部材の上記接合面を、活性化させるものであり、上記接合機構は、上記第1の樹脂部材と上記第2の樹脂部材とを、それぞれの上記接合面で貼り合わせるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂部材に対して熱成形を施した場合でも、高い接合力を有する接着剤レス樹脂接合体の製造方法および装置が提供される。また、本発明によれば、接合する樹脂が透明体である場合、良質な光学特性を有する接着剤レス樹脂接合体を製造する方法および装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の樹脂接合体の製造方法の第一実施形態を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の樹脂接合体の製造方法の第二実施形態を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の樹脂接合体の製造方法の第三実施形態を示す概略図である。
【
図4】
図4は、本発明の樹脂接合体の製造方法の第四実施形態を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の樹脂接合体の製造方法の第五実施形態を示す概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の樹脂接合体の製造方法の第六実施形態を示す概略図である。
【
図7】
図7は、本発明の樹脂接合体の製造方法の第七実施形態を示す概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第一実施形態を示す概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第二実施形態を示す概略図である。
【
図10】
図10は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第三実施形態を示す概略図である。
【
図11】
図11は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第四実施形態を示す概略図である。
【
図12】
図12は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第五実施形態を示す概略図である。
【
図13】
図13は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第六実施形態を示す概略図である。
【
図14】
図14は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第七実施形態を示す概略図である。
【
図15】
図15は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第八実施形態を示す概略図である。
【
図16】
図16は、実施例1~6で用いた熱プレス機の賦形面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[樹脂接合体の製造方法の第一実施形態]
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の樹脂接合体9の製造方法の第一実施形態を示す概略図である。
図1に示すように、第一実施形態の製造方法は、第1の樹脂部材1の第2の樹脂部材2との接合面3、および/または、第2の樹脂部材2の第1の樹脂部材1との接合面3’を、不活性ガスで覆われた状態にして賦形手段21にて熱成形する熱成形工程5と、熱成形工程5の後に、第1の樹脂部材1の接合面3、および/または、第2の樹脂部材2の接合面3’を、表面処理手段4にて活性化させる表面処理工程6と、表面処理工程6の後に、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2とを、それぞれの接合面で貼り合わせる接合工程7と、を有している。
【0015】
本発明で使用する第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の種類は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)など用途に応じて適宜選択することができるが、分子構造に芳香族を含まない材料を用いることが好ましい。これは芳香族を含まない材料の方が分子鎖の熱運動性が高く、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の接合界面における分子拡散(分子鎖の絡み合い)が大きくなるためである。この分子拡散が大きくなるほど接合界面での分子間力が大きくなり、接合力が向上する。また、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の種類は、異種でもよいが、同種の方が接合する際に第1の樹脂部材1の接合面3と第2の樹脂部材2の接合面3’との界面における分子鎖の絡み合いの観点から好ましい。
【0016】
[熱成形工程]
熱成形工程5について説明する。本発明における「熱成形」とは加熱しながら樹脂を賦形することを指す。熱成形工程5では、任意の凹凸形状の付与や平滑性の向上などを目的に、第1の樹脂部材1の接合面3、および/または第2の樹脂部材2の接合面3’を賦形手段21によって熱成形する。得ようとする樹脂接合体9の形状に応じて、接合面3または接合面3’の一方のみを熱成形してもよく、接合面3および接合面3’の両方を熱成形してもよい。以下の熱成形工程の説明では、特に言及しない限り第1の樹脂部材1の接合面3を熱成形する場合について説明する。接合面3’を熱成形する場合については、第1の樹脂部材1を第2の樹脂部材2に、接合面3を接合面3’に読み替えればよい。
【0017】
熱成形工程5における賦形手段21は特に制限されないが、熱インプリント加工などの熱プレス成形やレーザー加工などが例示できる。
熱成形工程5では、ガスノズルなどのガス供給手段18を用いて、熱成形を施す第1の樹脂部材1の接合面3に向けて不活性ガスを供給する。これにより、効率よく接合面3を不活性ガスに覆われた状態にすることができる。接合面3を不活性ガスに覆われた状態にすることで、酸素や二酸化炭素などの酸化物質との反応が抑制され、熱成形時の接合面3の熱劣化が低減できる。なお、本発明における「熱劣化」とは、酸化と熱によって生じる樹脂の分子鎖切断において、接合面3の低分子量化(脆弱化)や架橋などを引き起こす酸化劣化を意味する。この熱劣化によって、第1の樹脂部材1の接合面3に存在する分子鎖の熱運動性や機械耐久性が低下する。熱劣化による接合面3の分子構造の変化は、赤外吸収分光分析(IR)などで確認することができる。
【0018】
また、本発明における「不活性ガス」とは、酸化反応しない気体を指し、その種類としては、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの希ガスや窒素ガスなどが例示される。中でも、コストの観点から窒素ガスを用いることが好ましい。また、ガス供給手段18から供給する不活性ガスは、単一でも構わないが、複数の不活性ガス種を混合しても構わない。
また、本発明における不活性ガスで満たされた環境とは、接合面3に接する大気中の酸素濃度が20%未満の状態のことである。酸素濃度が低くなるほど熱劣化が低減され、樹脂接合体9の接合力が向上する。なお、熱成形される接合面3の酸素濃度は、ジルコニア式酸素濃度計や磁気式酸素濃度計などを用いて測定することができる。
【0019】
熱成形時の温度、圧力、時間は適宜設定できるが、熱成形時の温度は第1の樹脂部材1を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)以下にすることが好ましい。これはTgを超えた温度になると、樹脂部材全体が熱変質する場合があるためである。また、熱成形時の温度は第1の樹脂部材1の成形が可能となる荷重たわみ温度以下にすることがより好ましい。荷重たわみ温度は、第1の樹脂部材1のTgと熱成形時の圧力に依存し、圧力が大きくなるほど低温化できる。そのため、熱成形時の圧力を大きくすることで、Tgよりも低い温度で第1の樹脂部材1の接合面3を熱成形することができ、熱変質のリスクを抑えられる。
なお、荷重たわみ温度は、JIS K7191(2007年版)で定義される試料温度に対する弾性率変化から算出できる。
【0020】
また、第1の樹脂部材1に加えて第2の樹脂部材2も熱成形する場合、第1の樹脂部材1の熱成形時の温度、圧力、時間と第2の樹脂部材2の熱成形時の温度、圧力、時間は、同一でも異なっていてもよい。
熱成形工程5では、第1の樹脂部材1の熱成形面である接合面3に対して、平滑性や、凹凸形状を付与することができる。例えば、突起パターン30を有する賦形面21bに、非賦形面21aに載置された第1の樹脂部材1の接合面3を押圧することにより、凹凸高さと幅が100nm以上となる矩形構造などを付与することができる。これにより、樹脂接合体9内部に微細な中空構造8が形成できる。
【0021】
[表面処理工程]
表面処理工程6について説明する。表面処理工程6では、第1の樹脂部材1の接合面3、および/または第2の樹脂部材2の接合面3’を表面処理手段4にて表面処理を施し、接合面3、3’を活性化させる。表面処理は、接合面3または接合面3’の一方のみに施してもよく、接合面3および接合面3’の両方に施してもよい。また、表面処理は、熱成形工程5で熱成形された接合面3、3’に施してもよく、熱成形されていない接合面3、3’に施してもよい。以下の表面処理工程の説明では、特に言及しない限り第1の樹脂部材1の接合面3に表面処理を施す場合について説明する。接合面3’に表面処理を施す場合については、第1の樹脂部材1を第2の樹脂部材2に、接合面3を接合面3’に読み替えればよい。
【0022】
本発明における「活性化」とは、第1の樹脂部材1の接合面3にエネルギーを与えて接合面3の表層の分子鎖を切断すること、および/または、官能基を付与することを意味する。接合面3の表層の分子鎖を切断することにより、接合面3に存在する分子鎖の熱運動性を高くする(軟化温度を低くする)ことができる。官能基を付与することで、水酸基などの極性官能基を生成できる。この分子鎖の熱運動性は、ナノサーマル顕微鏡(ナノTA)などで測定することが出来る。また、極性官能基の種類や生成量は、赤外吸収分光分析(IR)などにより確認することができる。
【0023】
表面処理工程6における表面処理手段4としては、前述したように、第1の樹脂部材1の接合面3にエネルギーを与えて、第1の樹脂部材1の接合面3を活性化できる方法であればよく、任意の方法を使用することができる。
表面処理は、接合面3または接合面3’のいずれか一方のみ、又は、接合面3と接合面3’の両方に施してもよいが、いずれか一方、例えば接合面3のみを熱成形した場合には、熱成形を施していない接合面3’のみを表面処理して、熱成形時に形成した凹凸形状を出来るだけ熱変形させないことが好ましい。
【0024】
表面処理を施す表面処理手段4としては、第1の樹脂部材の接合面3に対して、電離物質を照射すること、電磁波を照射することが例示される。また、これらの手段のいずれか1つを施してもよいし、複数種類を施してもよい。これらの表面処理手段4はイトロ処理などの火炎処理に比べて低い温度で分子鎖切断できるため、熱成形時に接合面3に凹凸形状を付与していた場合であっても、その凹凸形状を熱変形させること無く、表面処理を施すことができる。また、表面処理の強度、時間、周波数などを替えることで第1の樹脂部材1の接合面3の分子鎖の切断量や官能基の付与量を容易に制御することができる。
【0025】
本発明において「電離物質」とは、イオンや電子などの荷電粒子を含む気体のことである。電離物質の発生方法は、特に制限されないが、隙間を開けて対向する金属電極板間に電圧(電界)を印加する方法などが挙げられる。電離物質の生成用ガス種は特に制限されないが、例えばアルゴン、ヘリウム、酸素、水蒸気、窒素などが挙げられる。ガス種や電離物質の密度などを変更することで、第1の樹脂部材1の接合面3の分子鎖の切断量や官能基の付与量を容易に制御することができる。
本発明において「電磁波」とは、空間の電場と磁場の変化によって形成される波動のことである。この波動の波長は、短波長になるほどエネルギーが大きく、特に波長が200nm以下の電磁波を第1の樹脂部材1の接合面3に照射することで効果的に活性化できる。また、電磁波の量(照度)や波長などを変更することで、第1の樹脂部材1の接合面3に生成される官能基の種類や量を容易に制御することができる。
【0026】
[接合工程]
接合工程7について説明する。接合工程7では、熱成形工程5および表面処理工程6の後に、第1の樹脂部材1の接合面3と第2の樹脂部材2の接合面3’とを向かい合わせて貼り合わせる。貼り合わせることで、第1の樹脂部材1の接合面3と第2の樹脂部材2の接合面3’との界面における分子鎖の絡み合い(以下、分子拡散とする)、および、極性官能基間での縮合反応(以下、共有結合形成とする)が進行するので、樹脂接合体9の接合力が向上し、強固な接合力を有する樹脂接合体9が製造できる。これら分子拡散や共有結合形成は、熱成形工程5において、第1の樹脂部材1の接合面3と第2の樹脂部材2の接合面3’の熱劣化を少なくしておいたうえで、表面処理工程6において接合面3および/または接合面3’を活性化させるほど促進させることができる。
【0027】
また、第1の樹脂部材1の接合面3、第2の樹脂部材2の接合面3’のうねり等で接合界面に空隙が出来ないように、プレス機などで第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2を圧着させることが好ましい。これにより、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の実接触面積が大きくなり、樹脂接合体9の接合力が向上する。
また、接合工程7における第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の温度は、高温になるほど、樹脂接合体9の接合界面における分子拡散および縮合反応が促進する。一方で、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の温度が、それぞれの樹脂部材を構成する樹脂のTgを超えた温度になると、それぞれの樹脂部材を構成する樹脂の分子構造などが変化(熱変質)するので、第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の機械特性や光学特性などが悪くなることがある。そのため、接合工程7における第1の樹脂部材1全体および第2の樹脂部材2全体の温度は、Tg以下にすることが好ましい。これにより、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を構成する樹脂の分子構造などを変化させずに、良質な樹脂接合体9を製造することができる。なお、接合工程7における第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2の温度は、同一でも異なっていてもよい。
【0028】
接合工程7における第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を加熱する手段としては、赤外線加熱機、マイクロ波加熱機、超音波加熱機、熱プレス機、熱風乾燥機、加熱炉などが利用でき、特に制限されない。
また、接合工程7において樹脂接合体9を製造した後で、樹脂接合体9を後加熱してもよい。これにより、接合界面での分子拡散が促進され、樹脂接合体9の接合力が更に向上する。後加熱する手段としては、赤外線加熱機、マイクロ波加熱機、超音波加熱機、熱プレス機、熱風乾燥機、加熱炉などが利用でき、特に制限されない。また、後加熱の温度は、熱変質を防ぐ観点から、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2のガラス転移温度(Tg)以下であることが好ましい。
【0029】
[樹脂接合体の製造方法の第二実施形態]
図2は、本発明の樹脂接合体9の製造方法の第二実施形態を示す概略図である。上記した第一実施形態の製造方法とこの第二実施形態の製造方法との違いは熱成形工程である。第一実施形態の製造方法では、熱成形を施す第1の樹脂部材1の接合面3に向けて不活性ガスを供給していたが、第二実施形態の製造方法では、
図2に示すように、第1の樹脂部材1の接合面3を囲うように隔壁20を設け、この隔壁20の内部にガス供給手段18から不活性ガスを供給する。このように、隔壁20の内部に不活性ガスを供給することで、隔壁20の内部を不活性ガスで満たすことができる。これにより、第一実施形態の製造方法と同様に、第1の樹脂部材1の接合面3を不活性ガスに覆われた状態にすることができる。
図2では、第1の樹脂部材1全体を隔壁20で囲んでいるが、第2の樹脂部材2全体を隔壁20で囲んで熱成形工程5を行ってもよい。あるいは、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2全体を隔壁20で囲んで熱成形工程5を行ってもよく、第1の樹脂部材1の接合面3又は第2の樹脂部材2の接合面3’のみを隔壁20で囲んで熱成形工程5を行ってもよい。
【0030】
[樹脂接合体の製造方法の第三実施形態]
図3は、本発明の樹脂接合体9の製造方法の第三実施形態を示す概略図である。第一実施形態の製造方法とこの第三実施形態の製造方法との違いは熱成形工程5である。第一実施形態の製造方法では、熱成形を施す第1の樹脂部材1の接合面3に向けて不活性ガスを供給していたが、第三実施形態の製造方法では、
図3に示すように、第1の樹脂部材1の接合面3を囲うように隔壁20を設け、この隔壁20の内部の空気を排気手段19で排気して、隔壁20の内部を真空状態にする。
第一実施形態の製造方法では、第1の樹脂部材1の接合面3を不活性ガスで覆われた状態にすることで、第1の樹脂部材1の接合面3が酸素や二酸化炭素などの酸化物質と反応することを抑制していたが、この第三実施形態の製造方法では、隔壁20の内部を真空状態にすることで、第1の樹脂部材1の接合面3が酸素や二酸化炭素などの酸化物質と反応することを抑制する。本発明における「真空」とは、大気圧である1013hPa未満のガス圧力を指し、ガス圧力が下がるほど酸化物質が少なくなるため、熱劣化が低減できる。
図3では、第1の樹脂部材1全体を隔壁20で囲んでいるが、第2の樹脂部材2全体を隔壁20で囲んで熱成形工程5を行ってもよい。あるいは、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2全体を隔壁20で囲んで熱成形工程5を行ってもよく、第1の樹脂部材1の接合面3又は第2の樹脂部材2の接合面3’のみを隔壁20で囲んでもよい。
【0031】
[樹脂接合体の製造方法の第四実施形態]
図4は、本発明の樹脂接合体9の製造方法の第四実施形態を示す概略図である。第四実施形態の製造方法では、熱成形工程5において、第1の樹脂部材1の接合面3に向けて不活性ガスを供給し、その面を不活性ガスで覆われた状態にしたうえで熱成形し、表面処理工程6において、熱成形工程5で熱成形しない第2の樹脂部材の接合面3’を活性化させ、熱成形工程5および表面処理工程6の後、接合工程7において、第1の樹脂部材1の接合面3と第2の樹脂部材2の接合面3’とを貼り合わせている。
第一実施形態の製造方法では、熱成形工程5の後に表面処理工程6を行っていたが、第四実施形態の製造方法では、熱成形工程5で熱成形を行う接合面3と表面処理工程6で表面処理を施す接合面3’とが異なっているので、
図4に示すように、熱成形工程5と表面処理工程6とはどちらを先に行ってもよく、並行に行ってもよい。
図4では、第1の樹脂部材1の接合面3を熱成形し、第2の樹脂部材2の接合面3’を表面処理しているが、第2の樹脂部材2の接合面3’を熱成形し、第1の樹脂部材1の接合面3を表面処理してもよい。
【0032】
[樹脂接合体の製造方法の第五実施形態]
図5は、本発明の樹脂接合体9の製造方法の第五実施形態を示す概略図である。第五実施形態の製造方法は、熱成形工程5が異なる以外は第四実施形態の製造方法と同じである。具体的には、第四実施形態の製造方法は、熱成形工程5において、熱成形を施す第1の樹脂部材1の接合面3に向けて不活性ガスを供給していたが、第五実施形態の製造方法では、熱成形工程5において、
図5に示すように、第1の樹脂部材1の接合面3を隔壁20で囲い、この隔壁20の内部の空気を排気して、隔壁20の内部を真空状態にしている。つまり、第三実施形態の製造方法の熱成形工程5と同じ工程を行っている。
この第五実施形態の製造方法でも、熱成形工程5で熱成形を行う接合面3と表面処理工程6で表面処理を施す接合面3’とが異なっているので、
図5に示すように、熱成形工程5と表面処理工程6とはどちらを先に行ってもよく、並行に行ってもよい。
なお、
図5では、第1の樹脂部材1の接合面3を熱成形し、第2の樹脂部材2の接合面3’を表面処理しているが、第2の樹脂部材2の接合面3’を熱成形し、第1の樹脂部材1の接合面3を表面処理してもよい。
【0033】
[樹脂接合体の製造方法の第六実施形態]
図6は、本発明の樹脂接合体9の製造方法の第六実施形態を示す概略図である。第六実施形態の製造方法では、表面処理工程6における表面処理手段4Aに活性液体12を用い、液体接触機構13にて活性液体12を散布または塗布している。これにより、第1の樹脂部材の接合面3、および第2の樹脂部材2の接合面3’に活性液体12を接触させことができる。この第六実施形態の製造方法は、第一実施形態の製造方法において、表面処理工程6の表面処理手段4を、活性液体を接触させる手段に限定した方法である。
また、第二~第五実施形態の製造方法の表面処理工程6を、この第六実施形態の製造方法の表面処理工程6と同じ工程に変更することもできる。
なお、
図6では、第1の樹脂部材1の接合面3および第2の樹脂部材2の接合面3’を表面処理しているが、いずれか一方のみを表面処理してもよい。また、第2の樹脂部材2の接合面3’を熱成形し、第1の樹脂部材1の接合面3および/または第2の樹脂部材2の接合面3’を表面処理してもよい。
【0034】
本発明において「活性液体12」とは、反応性の高い不対電子を持った原子・分子(ラジカル)や、イオンや電子(荷電粒子)などの活性種を1種類以上含んだ液体のことである。活性液体12の活性化の程度を示す活性度は、例えば活性種から生じる発光強度測定や、活性種と試験液の反応量を測定する化学的定量測定、電子スピン共鳴分析などにより評価することができる。
活性液体12は、液体を活性化することにより得られる。活性化させる液体の種類は、水、メタノール、エタノール、酢酸、アンモニアなどが例示でき、コストや安全性、樹脂部材1、2の耐溶解性などに応じて幅広く選択することができる。また、活性化させる液体は、2種類以上の液体を混ぜた混合液や水溶液などでもよい。
【0035】
活性液体12は、液体を、液体活性化手段10を用いて活性化することにより生成することができる。液体活性化手段10は、液体にエネルギーを与えて液体の分子を解離や電離できる方法であればよく、適宜選択することができる。特に活性化手段10としては、電離物質を液体に照射すること、電磁波を液体に照射すること、弾性振動波(音圧)で液体を振動させること、電界を液体に印加することが好ましい。これらの手段のいずれか1つを行ってもよく、複数種類を行ってもよい。これらの手段は、液体の分解効率が高く、短時間で多くの活性種を液体中に生成することができる。また、いずれの活性化手段10も液体を活性化するための制御性が高いため、好ましい。
【0036】
弾性振動波(音圧)を液体に照射すると、液体の中の気泡が膨張・収縮し、破裂(キャビテーション)する。このキャビテーション発生時に気液界面が局所的に高温になり、液体が熱分解することで活性種が生成される。キャビテーションの発生量を変更することにより、液体の活性化度を制御することができる。そのキャビテーション発生量は、弾性振動波を発生させる振動子の投入電力や周波数、液体の温度などによって容易に制御することができる。
【0037】
液体に対して電離物質を照射する方法としては、生成した電離物質をガス流れで液体まで輸送すること、電離物質発生部に液体を噴射すること、液体中に電離物質発生用の金属電極板とは別の金属電極板を配置し、直流電圧を印加して荷電粒子を誘引することなどが例示できる。電離物質を液体に照射することで、液体が分解し、活性化される。なお、電離物質の生成用ガス種は特に制限されないが、例えばアルゴン、ヘリウム、酸素、水蒸気、窒素などが挙げられる。ガス種や電離気体の密度などを変更することで、液体に生成される活性種の種類や活性度を容易に制御することができる。これにより、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の種類に応じた適切な活性液体12を生成することができる。
【0038】
本発明において「電界」とは、電圧が掛かっている状態を指す。この電界を液体に印加することで、液体が電気分解し、活性化される。電界の発生方法は特に制限されないが、例えば2枚の金属板を液体に挿入して、それら金属板に電位差を付与することで電界が発生する。この2枚の金属板の距離や印加する電圧などを変更することで容易に電界強度を変更でき、液体の活性度を制御することができる。
いずれの活性化手段10においても液体の温度上昇に伴い反応速度が向上するため、液温を上げることで液体の分解を促進できる。更に、攪拌器にて液体を攪拌しながら活性化手段10にてエネルギー付与することで均一な活性液体12を生成することができる。
液体接触機構13は、特に制限されないが、例えば容器11から活性液体12をポンプで送液した後、スプレーノズルで活性液体12を噴射することや、塗工機によって第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2の接合面3、3’に活性液体12を塗布することなどが挙げられる。
【0039】
[樹脂接合体の製造方法の第七実施形態]
図7は、本発明の樹脂接合体の製造方法の第七実施形態を示す概略図である。第七実施形態の製造方法では、表面処理手段4Bとして、活性液体12中への第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2の浸漬を行う。活性液体12の中に、第1の樹脂部材1および/または第2の樹脂部材2を浸漬させて、第1の樹脂部材1の接合面3および/又は第2の樹脂部材2の接合面3’を活性液体12と接触させてもよい。この表面処理の方法では、液体活性化手段10からもエネルギーを得られるため、活性液体12との反応と合わせて第1の樹脂部材1の接合面3および第2の樹脂部材2の接合面3’を効率的に活性化することができる。そのため、第1の樹脂部材1の接合面3、第2の樹脂部材2の接合面3’を短時間で活性化できる。この第七実施形態の製造方法も、第一実施形態の製造方法において、表面処理工程6の表面処理手段4を、活性液体を接触させる手段に限定した方法である。
また、第二~第五実施形態の製造方法の表面処理工程6を、この第七実施形態の製造方法の表面処理工程6と同じ工程に変更することもできる。
なお、
図7では、第1の樹脂部材1の接合面3および第2の樹脂部材2の接合面3’を表面処理しているが、いずれか一方のみを表面処理してもよい。また、第2の樹脂部材2の接合面3’を熱成形し、第1の樹脂部材1の接合面3および/または第2の樹脂部材2の接合面3’を表面処理してもよい。
【0040】
[樹脂接合体の製造装置の第一実施形態]
次に、本発明の樹脂接合体の製造装置について説明する。
図8は、本発明の樹脂接合体9の製造装置の第一実施形態を示す概略図である。
図8に示すように、第一実施形態の樹脂接合体9の製造装置は、熱成形機構14、表面処理機構15、および接合機構16を備える。この第一実施形態の製造装置を用いて、上記した第一、四実施形態の製造方法が実現できる。
【0041】
[熱成形機構]
熱成形機構14について説明する。熱成形機構14は、第1の樹脂部材1の接合面3に不活性ガスを供給するガス供給手段18と、不活性ガスで覆われた接合面3を加熱しながら成形する賦形手段21を備えている。ガス供給手段18は特に制限されないが、ガスノズルなどを用いて、そのガス供給口26が接合面3を向くように配置することが好ましい。これにより、効率的に接合面3を不活性ガスで覆うことができる。また、ガス供給手段18を複数配置してもよい。さらに、熱成形機構14には、接合面3が不活性ガスで覆われているかを確認するために、酸素濃度計24を備えることが好ましい。賦形手段21は特に制限されないが、熱インプリント加工機などの熱プレス成形機やレーザー加工機などが例示される。
【0042】
[表面処理機構]
表面処理機構15について説明する。表面処理機構15の表面処理手段4は、基材保持機構27と電極32を備える。電極32は、基材保持機構27に配置された第1の樹脂部材1の接合面3と対向して配置することが好ましい。これにより、接合面3を均一に表面処理することができる。表面処理手段4は、電離物質22を照射する電離物質照射器であり、第1の樹脂部材1と電極32との間に、電離物質22の生成ガス種を供給するガス供給手段31が設けられている。第1の樹脂部材1の種類や電磁波の光吸収性などに応じてガス種を変更することで、分子鎖の切断量や生成する官能基種を制御できる。表面処理手段4は、接合面3にエネルギーを与えて分子鎖を切断する、および/または、官能基を付与する方法であればよく、適宜変更することができる。電離物質照射器にかえて、電磁波を照射する電磁波照射器を使用することもできる。表面処理手段4として電磁波照射器を用いる場合、電離物質照射器と同様に、ガス供給手段31を設けることが好ましい。
【0043】
また、表面処理手段4にかえて、活性液体接触ユニット、例えば、
図6に示す表面処理手段4A、または
図7に示す表面処理手段4Bを使用してもよい。
図6の表面処理手段4Aは、容器11内の液体12を液体活性化手段10で活性化した後、液体接触機構13で活性液体12を散布、塗布するもの、又は、
図7に示す表面処理手段4Bは、容器11内の活性液体12に第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2を浸漬するものである。
電離物質照射器、電磁波照射器および活性液体接触ユニットは、低温で処理することができるため、接合面3の凹凸形状を熱変形させること無く、分子鎖の切断量や官能基の付与量を容易に制御することができる。また、表面処理機構15は、表面処理手段を複数種類備えていてもよい。
表面処理機構15には工程監視用の工程監視手段28を設けることが好ましい。これら工程監視手段28を設けることで、表面処理時の異常を早期に発見することができる。
工程監視手段28は、監視する対象に合わせて適宜変更することが好ましい。表面処理手段4が電離物質照射器であれば、電離物質の発光状態が計測できる発光分光計測器を備えることで、電離物質の種類や電離度が把握できる。表面処理手段4が電磁波照射器であれば、照度計や輝度計などを備えることで、電磁波の光量が把握できる。また、活性液体接触ユニットを使用する場合、PH計や溶存酸素計などを備えることで活性液体12の活性状態が把握できる。また、表面処理機構15内のガス種や湿度、温度については質量分析計や湿度計、温度計などで監視することができる。
【0044】
[接合機構]
接合機構16について説明する。接合機構16は、第1の樹脂部材1の接合面3と第2の樹脂部材2の接合面3’を貼り合わせられる手段であり、熱プレス機などの加熱圧着手段が例示される。また、複数の加熱圧着手段を並べて配置してもよい。
また、接合機構16の後に、樹脂接合体9を後加熱する後加熱手段を配置することが好ましい。これにより、接合界面における分子拡散や共有結合形成が促進され、樹脂接合体9の接合力が更に向上できる。
図8では、第1の樹脂部材1の接合面3を熱成形機構14で熱成形し、表面処理機構15で表面処理しているが、第2の樹脂部材2の接合面3’を熱成形機構14で熱成形し、表面処理機構15で表面処理してもよい。
【0045】
[樹脂接合体の製造装置の第二実施形態]
図9は、本発明の樹脂接合体9の製造装置の第二実施形態を示す概略図である。上記した第一実施形態の製造装置とこの第二実施形態の製造装置との違いは熱成形機構14Aである。第二実施形態の製造装置の熱成形機構14Aは、第1の樹脂部材1を囲うように設けられた隔壁20と、その隔壁20の内部に不活性ガスを供給するガス供給手段18と、隔壁20の内部に備えられ、第1の樹脂部材1の接合面3を加熱しながら成形する賦形手段21を備えている。
隔壁20の内部に不活性ガスを供給するガス供給手段18を設けることで、効率的に接合面3を不活性ガスで覆うことができる。
この第二実施形態の製造装置を用いて、上記した第二実施形態の製造方法が実現できる。
図9では、第1の樹脂部材1全体を隔壁20で囲んでいるが、第2の樹脂部材2全体を隔壁20で囲むものでもよい。あるいは、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2全体を隔壁20で囲むものでもよく、第1の樹脂部材1の接合面3又は第2の樹脂部材2の接合面3’のみを隔壁20で囲むものでもよい。
【0046】
[樹脂接合体の製造装置の第三実施形態]
図10は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第三実施形態を示す概略断面図である。上記した第一実施形態の製造装置とこの第三実施形態の製造装置との違いは熱成形機構14Bである。第三実施形態の製造装置の熱成形機構14Bでは、第1の樹脂部材1を囲うように設けられた隔壁20と、その隔壁20の内部の空気を排気して真空状態にする排気手段19と、隔壁20の内部に備えられ、第1の樹脂部材1の接合面3を加熱しながら成形する賦形手段21を備えている。
排気手段19を用いて隔壁20の内部の空気を排気することで、接合面3を効率よく真空環境に置くことができる。また、隔壁20内のガス圧力を確認するために、真空計23を備えることが好ましい。
この第三実施形態の製造装置を用いて、上記した第三実施形態の製造方法が実現できる。
図10では、第1の樹脂部材1全体を隔壁20で囲んでいるが、第2の樹脂部材2全体を隔壁20で囲むものでもよい。あるいは、第1の樹脂部材1および第2の樹脂部材2全体を隔壁20で囲むものでもよく、第1の樹脂部材1の接合面3又は第2の樹脂部材2の接合面3’のみを隔壁20で囲むものでもよい。
【0047】
[樹脂接合体の製造装置の第四実施形態]
図11は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第四実施形態を示す概略図である。この第四実施形態の製造装置は、熱成形機構14、表面処理機構15、および接合機構16に加えて、第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を自動で搬送するための樹脂部材搬送機構17を備えている。樹脂部材搬送機構17は特に制限されないが、例えば、輪状ベルトを台車の上で回転させて第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を運ぶベルトコンベアーや、工程間を自走して第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を運ぶ搬送ロボットなどが挙げられる。
【0048】
[樹脂接合体の製造装置の第五実施形態]
図12は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第五実施形態を示す概略図である。この第五実施形態の製造装置は、熱成形機構14、表面処理機構15、および接合機構16に加えて、巻出ロール17a、17a’、巻取ロール17b、搬送ロール17cで構成される樹脂部材搬送機構を備えている。巻出ロール17aで第1の樹脂部材1、巻出ロール17a’で第2の樹脂部材2を巻き出し、搬送ロール17cで第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2、樹脂接合体9を搬送し、巻取りロール17bで樹脂接合体9を巻き取る。このように、第2の樹脂部材1、第2の樹脂部材2が薄物の長尺基材であれば連続的に樹脂接合体9を製造することができ、生産性を高めることができる。また、各工程での処理時間に応じて、間欠搬送してもよい。
【0049】
[樹脂接合体の製造装置の第六実施形態]
図13は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第六実施形態示す概略図である。上記した第五実施形態の製造装置とこの第六実施形態の製造装置との違いは熱成形機構14Bである。この第六実施形態の製造装置の熱成形機構14Bは、第1の樹脂部材1の接合面3および第2の樹脂部材2の接合面3’をそれぞれ囲うように設けられた隔壁20と、その隔壁20の内部の空気を排気して真空状態にする排気手段19と、隔壁20の内部に備えられ、第1の樹脂部材1の接合面3および第2の樹脂部材2の接合面3’をそれぞれ加熱しながら成形する賦形手段21を備えている。薄物の長尺基材である第1の樹脂部材1、第2の樹脂部材2を搬送させる場合、熱成形機構14Bにおける隔壁20の基材搬送口にロードロック機構29を設けることが好ましい。ロードロック機構29は、隔壁20の内部の真空度を維持するために、隔壁20の外部から侵入する外気を遮断するものであり、隔壁20内部を効率良く真空にすることができる。
【0050】
[樹脂接合体の製造装置の第七実施形態]
図14は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第七実施形態を示す概略図である。この第七実施形態の樹脂接合体の製造装置では、第1の樹脂部材1の搬送経路にガス供給手段18を有する熱成形機構14、第2の樹脂部材2の搬送経路に表面処理機構15を備え、それら熱成形機構14と表面処理機構15の後の搬送経路に接合機構16が配置されている。
接合面3を不活性ガスで覆った状態で熱成形することで熱劣化が低減でき、熱成形しない他方の接合面3’を表面処理機構15にて活性化することで、強固な接合力を有する樹脂接合体9が製造できる。
なお、樹脂接合体の製造装置は、第2の樹脂部材2の搬送経路にガス供給手段18を有する熱成形機構14を備え、第1の樹脂部材1の搬送経路に表面処理機構15を備えるものでもよい。
【0051】
[樹脂接合体の製造装置の第八実施形態]
図15は、本発明の樹脂接合体の製造装置の第八実施形態を示す断面図である。この第八実施形態の樹脂接合体の製造装置では、第1の樹脂部材1の搬送経路に隔壁20と排気手段19を有する熱成形機構14Bを備え、第2の樹脂部材2の搬送経路に表面処理機構15を備え、それら熱成形機構14Bと表面処理機構15の後の搬送経路に接合機構16が配置されている。
接合面3を真空に置いた状態で熱成形することで熱劣化が低減でき、熱成形しない他方の接合面3’を表面処理機構15にて活性化することで、強固な接合力を有する樹脂接合体9が製造できる。
なお、樹脂接合体の製造装置は、第2の樹脂部材2の搬送経路に隔壁20と排気手段19を有する熱成形機構14Bを備え、第1の樹脂部材1の搬送経路に表面処理機構15を備えるものでもよい。
【実施例】
【0052】
以下実施例で、本発明の樹脂接合体9の製造方法および装置を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。また、以下実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0053】
[実施例1]
図8に示す第1実施形態の樹脂接合体の製造装置を用いて、各工程をバッチ処理して樹脂接合体9を製造した。第1の樹脂部材1と第2の樹脂部材2は、どちらも厚み0.2mmで50mm角のPMMA基材(テクノロイ(登録商標)S000、ガラス転移温度100℃)を用いた(以下、第1の樹脂部材1をPMMA1、第2の樹脂部材2をPMMA2とする)。なお、PMMA基材の表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)を3D顕微鏡(OLYMPUS OLS3100)にて確認した結果、10nmであった。
熱成形工程5では、賦形手段21に熱プレス成形機、不活性ガスに窒素ガスを用いた。100mm角の非賦形面21aにPMMA1を置いて、ガス供給手段18にてPMMA1の接合面3に向かって10L/分で窒素ガスを供給した。酸素濃度計(COSMOS XP-3180)にて、PMMA1の接合面3の酸素濃度を測定した結果、15%となった。
その後、熱プレス成形機21の非賦形面21aと賦形面21bの温度を昇温して接合面3が130℃になった後、成形圧力6MPaにて2分間熱成形した。なお、熱プレス成形機21の賦形面21bは、
図16に示すように100mm角のプレス面に矩形形状の突起パターン30を50μm間隔(距離b、e)で設けていた。その突起パターン30の寸法は、突起幅a、突起長b、突起高さcが50μmであった。そして、PMMA1の接合面3に、賦形面21bの突起パターン30が転写するように熱インプリント成形を行った。
【0054】
次に、表面処理工程6では、表面処理機構15として電離気体照射器を使用し、基材保持機構27(SUS304)で保持されたPMMA1の接合面3から2mm離した位置に電極32を対向するように配置し、PMMA1の接合面3を10秒間表面処理した。なお、電離気体は、大気圧下において、接地電位にある100mm角の基材保持機構27(SUS304)と電極32の間にガス供給手段18であるガスノズルから窒素ガスを40L/分供給した後、基材保持機構27と電極32の間に図示しない直流パルス電源にて電圧(10kV)を印加して生成した。
次に、PMMA2に対しても、上記と同じ条件で熱成形工程5と表面処理工程6を施した。
次に接合工程7では、接合機構16に熱プレス機を用いた。その熱プレス機16のプレス面温度を昇温して、PMMA1とPMMA2の基材温度をそれぞれ95℃に調整した。なお、基材温度は放射温度計(SATOTECH DT-8855)にて確認した。その後、それら接合面3、3’の突起パターン30の突起の頂上の面が互いに接触するように熱プレス機16にて10分間、2MPaで加熱圧着させることでPMMA1とPMMA2を接合した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、90度剥離試験機(株式会社島津製作所:AGS-100A)を用いて評価した。その際、剥離速度は5cm/分とした。その結果、接合サンプルの接合力は0.7N/cmであった。
【0055】
[実施例2]
ガス供給手段18にて供給する窒素ガス量を50L/分にすること以外は、実施例1と同じ条件にて、PMMA1とPMMA2の接合サンプルを作成した。なお、PMMA1およびPMMA2の接合面3の酸素濃度は5%となった。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、1.3N/cmであった。
【0056】
[実施例3]
図9に示す第2実施形態の樹脂接合体の製造装置を用いた。熱成形工程5において100mm角のプレス面を囲むように設けられた、上面と底面が内寸200mm角で側面が高さ300mmの隔壁20の内部に向かってガス供給機構18から窒素ガスを10L/分供給すること以外は、実施例1と同じ条件にて、PMMA1とPMMA2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、1.3N/cmであった。
【0057】
[実施例4]
図10に示す第3実施形態の樹脂接合体の製造装置を用いた。熱成形工程5において、100mm角のプレス面を囲むように設けられた、上面と底面が内寸200mm角で側面が高さ300mmの隔壁20の内部に不活性ガスを供給せずに、隔壁20の内部のガス圧力が50Paになるよう排気手段19にて真空排気した。それ以外は実施例1と同じ条件にて、PMMA1とPMMA2の接合サンプルを作成した。なお、ガス圧力は隔壁20に取り付けられている真空計(ULVAC G-TRAN)にて測定した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、1.3N/cmであった。
【0058】
[実施例5]
PMMA1は賦形手段21として熱プレス機にて熱成形し、表面処理機構15にて表面処理はせず、PMMA2は賦形手段21にて熱成形はせず、表面処理機構15にて表面処理したこと以外は実施例2と同じ条件にて、PMMA1とPMMA2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、1.3N/cmであった。
【0059】
[実施例6]
PMMA1は賦形手段21として熱プレス機にて熱成形し、表面処理機構15にて表面処理はせず、PMMA2は表面処理機構21として電離気体照射器にて熱成形はせず、表面処理機構15として電離気体照射器にて表面処理したこと以外は実施例4と同じ条件にて、PMMA1とPMMA2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、1.3N/cmであった。
【0060】
[比較例1]
熱成形工程5で不活性ガスを供給しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件にて、PMMA1とPMMA2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、0.0N/cmであった。
【0061】
[比較例2]
熱成形工程5で不活性ガスを供給しなかったこと以外は、実施例5と同じ条件にて、PMMA1とPMMA2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、0.0N/cmであった。
【0062】
[比較例3]
熱成形工程5、表面処理工程6を施した後、その樹脂部材の接合面3,3’の間にエタノールを散布して接合工程7をしたこと以外は、比較例1と同じ条件にて、PMMA1とPMMA2の接合サンプルを作成した。
上記にて作成した接合サンプルの接合力は、0.3N/cmであった。
実施例1~6、比較例1~3の結果を表1にまとめた。なお、接合力の評価は、1.0N/cm以上:◎(非常に良い)、0.5N/cm以上1.0N/cm未満:○(良い)、0.1N/cm以上0.5N/cm未満:△(やや悪い)、0.1N/cm未満:×(悪い)とした。
【0063】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の樹脂接合体の製造方法を用いることで、熱成形工程を行う樹脂接合体であっても高い接合力を有する接着剤レス樹脂接合体を容易に得ることができ、例えば、包装材料や光学フィルムに応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0065】
1 第1の樹脂部材
2 第2の樹脂部材
3、3’ 接合面
4、4A、4B 表面処理手段
5 熱成形工程
6 表面処理工程
7 接合工程
8 中空構造
9 樹脂接合体
10 液体活性化手段
11 容器
12 活性液体
13 液体接触機構
14、14A、14B 熱成形機構
15 表面処理機構
16 接合機構
17 搬送機構
17a、17a’ 巻出ロール
17b 巻取ロール
17c 搬送ロール
18、31 ガス供給手段
19 排気手段
20 隔壁
21 賦形手段
21a 非賦形面
21b 賦形面
22 活性化液体
23 真空計
24 酸素濃度計
25 搬送方向
26 ガス供給口
27 基材保持機構
28 工程監視手段
29 ロードロック機構
30 突起パターン
32 電極