(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
H10N 30/87 20230101AFI20241119BHJP
H10N 30/857 20230101ALI20241119BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20241119BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20241119BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H10N30/87
H10N30/857
H10N30/20
H10N30/30
H02N11/00 Z
(21)【出願番号】P 2021013649
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】米村 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 治郎
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/078144(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/027818(WO,A1)
【文献】特開2000-315828(JP,A)
【文献】特開平10-084143(JP,A)
【文献】特開2002-076459(JP,A)
【文献】国際公開第2010/147074(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/87
H10N 30/857
H10N 30/20
H10N 30/30
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに表裏の関係を持つ第1面および第2面を有し、圧電性を示すヘリカルキラル高分子結晶を含む圧電体層と、
前記圧電体層の前記第1面に設けられている第1電極層と、
前記圧電体層の前記第2面に設けられている第2電極層と、
前記第1電極層の前記圧電体層とは反対側に設けられている第1接続部と、
前記第2電極層の前記圧電体層とは反対側に設けられている第2接続部と、
を備え、
前記圧電体層の厚さ方向に沿って見たとき、前記圧電体層、前記第1電極層および前記第2電極層が互いに重なっている重複部分は、円形をなしており、
前記圧電体層の厚さ方向に沿って見たとき、前記第1接続部および前記第2接続部は、前記重複部分の中心と重なって
おり、
前記ヘリカルキラル高分子結晶は、分子構造が螺旋構造を有する結晶であり、
前記螺旋構造の進行軸をc軸としたとき、前記c軸は、前記圧電体層の面内で一軸配向していることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記第1接続部は、前記第1電極層より剛性が高く、
前記第2接続部は、前記第2電極層より剛性が高い請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記第1接続部は、前記圧電体層の厚さ方向に沿って見たとき、前記第1電極層より小さく、
前記第2接続部は、前記圧電体層の厚さ方向に沿って見たとき、前記第2電極層より小さい請求項1または2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記第1接続部は、前記重複部分の20%の半径を持つ円の内側に配置されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記ヘリカルキラル高分子結晶は、ポリ乳酸結晶である請求項
1ないし4のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記第1電極層および前記第2電極層は、円形をなしている請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記圧電体層は、円形をなしている請求項1ないし
6のいずれか1項に記載の圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電性高分子は、高分子材料に特有な加工性を有しているため、様々な形態で用いられる。例えば、特許文献1には、導電性材料から形成された導電性繊維の表面に、圧電性高分子から形成した圧電性繊維を巻き付け、被覆した組紐状圧電素子が開示されている。このような組紐状圧電素子では、繊維軸方向に一軸配向した圧電性高分子を含む圧電性繊維が用いられている。また、特許文献1には、導電性繊維に対する圧電性繊維の巻き付け角度を15°以上75°以下の斜め方向にすることが開示されている。巻き付け角度をこのような範囲に設定することで、圧電性繊維にせん断応力が生じ、圧電効果によって導電性繊維を介して大きな電気信号を取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、組紐状圧電素子は、構造が複雑であり、製造難易度が高い。また、組紐状圧電素子は、形状が特殊であるため、圧電素子として取り扱いにくいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の適用例に係る圧電素子は、
互いに表裏の関係を持つ第1面および第2面を有し、圧電性を示すヘリカルキラル高分子結晶を含む圧電体層と、
前記圧電体層の前記第1面に設けられている第1電極層と、
前記圧電体層の前記第2面に設けられている第2電極層と、
前記第1電極層の前記圧電体層とは反対側に設けられている第1接続部と、
前記第2電極層の前記圧電体層とは反対側に設けられている第2接続部と、
を備え、
前記圧電体層の厚さ方向に沿って見たとき、前記圧電体層、前記第1電極層および前記第2電極層が互いに重なっている重複部分は、円形をなしており、
前記圧電体層の厚さ方向に沿って見たとき、前記第1接続部および前記第2接続部は、前記重複部分の中心と重なっており、
前記ヘリカルキラル高分子結晶は、分子構造が螺旋構造を有する結晶であり、
前記螺旋構造の進行軸をc軸としたとき、前記c軸は、前記圧電体層の面内で一軸配向していることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る圧電素子を示す斜視図である。
【
図4A】ポリ乳酸結晶の分子構造を示す模式図である。
【
図4B】ポリ乳酸結晶の分子構造を示す模式図である。
【
図6】比較例としての圧電素子が含む積層体の例であって、
図5の積層体の形状を正方形に変更してなる積層体を示す平面図である。
【
図7】
図1に示す圧電素子の第1電極層と第2電極層との間に電圧を印加したとき、積層体の変位量の分布をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図8】c軸が一軸配向しているポリ乳酸を含む圧電体層について、X線回折装置におけるθ-2θ測定により得られたθ-2θプロファイルの一例である。
【
図9】
図8に示すθ-2θプロファイルを取得した圧電体層について、2θ位置を16.7°に固定して取得した極点図の一例である。
【
図10】実施形態に係る圧電素子の変形例を示す平面図である。
【
図11】実施形態に係る圧電素子の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の圧電素子を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る圧電素子を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す圧電素子の断面図である。
図3は、
図1に示す圧電素子の平面図である。
【0008】
1.圧電素子
図1および
図2に示す圧電素子100は、圧電体層200と、第1電極層300と、第2電極層400と、を有する積層体500を備える。圧電体層200は、互いに表裏の関係を持つ第1面201および第2面202を有する。第1電極層300は、圧電体層200の第1面201に設けられている。第2電極層400は、圧電体層200の第2面202に設けられている。
【0009】
なお、圧電素子100は、これらの部材以外の部材を備えていてもよい。例えば、圧電体層200と第1電極層300および第2電極層400との間には、接着層等が介在していてもよい。また、積層体500を覆う保護膜等が設けられていてもよい。
【0010】
図1および
図2に示す積層体500の平面視形状は、
図3に示すように円形である。具体的には、圧電体層200、第1電極層300および第2電極層400は、それぞれ平面視形状が円形であり、かつ、互いに同じ大きさである。
【0011】
円形には、例えば、真円、楕円、長円等が含まれるが、好ましくは真円とされる。真円とは、円形であって、かつ、長軸の長さと短軸の長さとの差が長軸の長さの10%以下である形状をいう。長軸とは、平面視でとり得る最も長い軸であり、短軸とは、平面視で長軸の中点を通過し、長軸と直交する軸である。
【0012】
圧電素子100には、第1配線800および第2配線900が接続されている。第1配線800の一端は、円形をなす第1電極層300の中心部に第1接続部600を介して接続されている。第2配線900の一端は、円形をなす第2電極層400の中心部に第2接続部700を介して接続されている。
【0013】
第1配線800の他端および第2配線900の他端は、それぞれ、例えば図示しない電源装置に接続される。これにより、第1電極層300と第2電極層400との間に電圧を印加し、圧電体層200に逆圧電効果を発現させることができる。この場合、圧電素子100は、例えばアクチュエーター、振動発生素子、超音波モーター等のデバイスに組み込まれて用いられる。
【0014】
また、第1配線800の他端および第2配線900の他端は、それぞれ、例えば図示しない電荷検出装置に接続されてもよい。これにより、圧電体層200において圧電効果により発生した電荷を第1電極層300および第2電極層400から取り出して、電荷検出装置に電荷量を検出させることができる。検出した電荷量に基づき、圧電体層200に印加された力を求めたり、スイッチ動作または発電に必要な電力を発生させたりすることができる。この場合、圧電素子100は、例えば触覚センサー、力覚センサーのような各種力センサー、各種スイッチ、発電素子等のデバイスに組み込まれて用いられる。また、圧電素子100は、電圧検出装置に接続されてもよい。これにより、圧電効果で生じる電圧を電圧検出装置により検出することができる。
【0015】
第1電極層300および第2電極層400の構成材料としては、例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、アルミニウム、インジウム、スズ、亜鉛、パラジウム等の金属元素の単体またはこれらの金属元素を含む合金や金属間化合物といった金属材料の他、導電性高分子等の樹脂材料等が挙げられる。
【0016】
図2に示す第1電極層300の平均厚さt3および第2電極層400の平均厚さt4は、特に限定されないが、それぞれ0.05μm以上500μm以下であるのが好ましく、0.50μm以上300μm以下であるのがより好ましい。
【0017】
第1接続部600および第2接続部700としては、例えば、はんだ、ろう材のような接合用金属材料、導電性ペースト、導電性接着剤等が用いられる。
図2に示す第1接続部600は、一例として、第1電極層300と第1配線800の双方に接着または接合され、第1配線800を拡径させたような形状をなしている。同様に、
図2に示す第2接続部700は、一例として、第2電極層400と第2配線900の双方に接着または接合され、第2配線900を拡径させたような形状をなしている。
【0018】
第1接続部600および第2接続部700の構成材料としては、例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、アルミニウム、インジウム、スズ、亜鉛、パラジウム等の金属元素の単体またはこれらの金属元素を含む合金や金属間化合物といった金属材料等の他、導電性高分子等の樹脂材料等が挙げられる。
【0019】
なお、第1接続部600および第2接続部700の構成材料は、第1電極層300および第2電極層400の構成材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0020】
圧電体層200の平均厚さt2は、特に限定されないが、10μm以上5000μm以下であるのが好ましく、30μm以上1000μm以下であるのがより好ましく、50μm以上500μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、圧電体層200は十分な圧電性能を有するものとなる。
【0021】
圧電体層200は、圧電性を示すヘリカルキラル高分子結晶を含む。ヘリカルキラル高分子とは、分子構造が螺旋構造を有し、かつ、分子光学活性を有する高分子のことをいう。そして、ヘリカルキラル高分子結晶とは、そのようなヘリカルキラル高分子の結晶のことを指す。
【0022】
ヘリカルキラル高分子としては、例えば、ポリペプチド、セルロース誘導体、ポリ乳酸、ポリプロピレンオキシド、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。
【0023】
本実施形態に用いられるヘリカルキラル高分子結晶は、前述したように、分子構造が螺旋構造を有している結晶であるが、特に螺旋構造の進行軸をc軸としたとき、c軸が圧電体層200の面内で一軸配向している結晶であるのが好ましい。
【0024】
このような圧電体層200では、ヘリカルキラル高分子のc軸が面内で一軸配向しているため、圧電体層200の厚さ方向に大きな分極を発現させることができる。このため、第1電極層300および第2電極層400を用いた電場の印加や電荷の取り出しを、より効率よく行い得る圧電体層200が得られる。
【0025】
c軸が面内で一軸配向したヘリカルキラル高分子を含む圧電体層200は、例えば一軸延伸法のような既存のフィルム製造方法により製造可能である。具体的には、原材料を溶融混練した後、押出成形法によりシート化する工程と、得られたシートを一軸延伸し、延伸後フィルムを得る工程と、を有する方法により圧電体層200を製造することができる。このような方法によれば、ヘリカルキラル高分子のc軸を面内で一軸配向させた延伸後フィルムが得られる。この方法は、量産性に優れるため、圧電体層200の低コスト化を容易に図ることができる。
【0026】
このうち、ヘリカルキラル高分子結晶は、ポリ乳酸結晶であるのが好ましい。ポリ乳酸結晶は、比較的高い機械的強度と、優れた成形性と、を有するため、圧電体層200に含まれるヘリカルキラル高分子結晶として特に有用である。つまり、ポリ乳酸結晶を含むことにより、圧電体層200の機械的強度および成形性を高めやすい。
【0027】
以下、ヘリカルキラル高分子としてポリ乳酸を例に説明する。光学活性を有するポリ乳酸としては、L型ポリ乳酸(PLLA)およびD型ポリ乳酸(PDLA)が知られている。ここでは、L型ポリ乳酸、特にL型ポリ乳酸の結晶相の中でも安定なα相のL型ポリ乳酸を例に説明する。なお、以下の説明では、α相のL型ポリ乳酸を単に「ポリ乳酸」という。
【0028】
図4Aおよび
図4Bは、それぞれポリ乳酸結晶の分子構造を示す模式図である。
図4Aおよび
図4Bに示すように、ポリ乳酸結晶の分子構造は、螺旋構造を有している。ポリ乳酸結晶の結晶系は、直方晶(斜方晶)であり、単位格子のa軸の長さは約1.06nm、b軸の長さは約0.61nm、c軸の長さは約2.88nmである。なお、
図4Aには、ポリ乳酸結晶のうち、a軸およびc軸を含む面について図示しており、
図4Bには、ポリ乳酸結晶のうち、a軸およびb軸を含む面について図示している。
【0029】
圧電体層200は、ポリ乳酸結晶を含んでいればよいが、好ましくはポリ乳酸結晶を主材料としている。圧電体層200におけるポリ乳酸結晶の含有率は、30質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのがより好ましく、70質量%以上であるのがさらに好ましい。なお、圧電体層200には、ポリ乳酸結晶以外に、例えばポリ乳酸非晶質が含まれていてもよい。また、圧電体層200には、前述したα相のL型ポリ乳酸以外に、準安定相であるα’相、β相等のL型ポリ乳酸が含まれていてもよいし、D型ポリ乳酸が含まれていてもよい。
【0030】
図5は、
図1の積層体500のみを示す平面図である。
図6は、比較例としての圧電素子が含む積層体の例であって、
図5の積層体500の形状を正方形に変更してなる積層体500’を示す平面図である。
【0031】
図6に示す積層体500’では、配向方向Dcに沿ってヘリカルキラル高分子のc軸、例えばポリ乳酸のc軸が配向している。このような積層体500’では、
図6に2本の矢印で示すように、c軸に平行なずり応力が印加されたとき、螺旋構造内でC=Oの電気双極子の回転運動が誘起され、印加された2本のずり応力ベクトルS1を含むずり平面に対して交差する方向に分極が現れる。つまり、積層体500’が広がる面と交差する方向に分極が現れる。
【0032】
このような圧電性を示す積層体500’に対して、ずり平面に交差する方向に電場を印加すると、逆圧電効果により、積層体500’にずり変形が生じる。変形前の積層体500’が
図6に破線で示す正方形をなしていた場合、変形後の積層体500’は、実線で示すように平行四辺形になる。このずり変形は、2本のずり応力ベクトルS1で表される応力に基づく変形であるが、2本のずり応力ベクトルS1の作用線は互いに異なっているため、積層体500’を備える圧電素子においてこの変形を利用することは容易ではない。具体的には、積層体500’の頂点P1、P2、P3、P4は、
図6に変位d1、d2、d3、d4で示すように、ずり応力ベクトルS1と平行に変位する。従来は、組紐状圧電素子のような特殊な形状に加工することで、ずり変形を利用した圧電素子を実現していたが、構造の複雑さ、製造難易度の観点で課題を抱えていた。
【0033】
そこで、本実施形態に係る圧電素子100では、
図5に示すように、圧電体層200、第1電極層300および第2電極層400が互いに重なっている重複部分10、すなわち積層体500を、円形にしている。
図5では、特に積層体500を真円としている。このような積層体500に対して、ずり平面に交差する方向に電場を印加すると、逆圧電効果により、
図6に示す積層体500’と同様のずり応力ベクトルS1に基づいてずり変形が生じる。このとき、積層体500が円形をなしているため、ずり変形は伸縮変形に変換される。
【0034】
具体的には、
図6の積層体500’では、互いに対向する2つの頂点P1、P4に生じる変位d1、d4の作用線が互いに異なっている。具体的には、変位d1の方向と変位d4の方向とが、互いに異なる直線上にある。より具体的には、頂点P1と頂点P4とを結ぶ図示しない基準線を引いたとき、変位d1の方向と基準線とのなす角度、および、変位d4の方向と基準線とのなす角度が、それぞれ20°超である。また、互いに対向する別の2つの頂点P2、P3に生じる変位d2、d3の作用線も互いに異なっている。具体的には、変位d2の方向と変位d3の方向とが、互いに異なる直線上にある。より具体的には、頂点P2と頂点P3とを結ぶ図示しない基準線を引いたとき、変位d2の方向と基準線とのなす角度、および、変位d3の方向と基準線とのなす角度が、それぞれ20°超である。
【0035】
これに対し、
図5の積層体500では、外縁Eに生じる変位d5、d8の作用線が互いにほぼ重なっている。変位d5は、基準線L1と変形前の積層体500の外縁Eとの交点P5における変位である。変位d8は、基準線L1と変形前の積層体500の外縁Eとの交点P8における変位である。変位d5、d8の作用線がほぼ重なっているとは、変位d5の方向と基準線L1とのなす角度、および、変位d8の方向と基準線L1とのなす角度が、それぞれ20°以下である状態をいう。基準線L1は、配向方向Dcに対して45°の角度をなし、変形前の積層体500の中心Oを通過する直線である。
【0036】
また、
図5の積層体500では、外縁Eに生じる変位d6、d7の作用線が互いにほぼ重なっている。変位d6は、基準線L2と変形前の積層体500の外縁Eとの交点P6における変位である。変位d7は、基準線L2と変形前の積層体500の外縁Eとの交点P7における変位である。変位d6、d7の作用線がほぼ重なっているとは、変位d6の方向と基準線L2とのなす角度、および、変位d7の方向と基準線L2とのなす角度が、それぞれ20°以下である状態をいう。基準線L2は、基準線L1と直交し、変形前の積層体500の中心Oを通過する直線である。
【0037】
さらに、変位d5、d8は、向きが互いにほぼ反対であり、変位d6、d7も、向きが互いにほぼ反対である。このようなメカニズムにより、積層体500では、ずり変形が伸縮変形に変換されている。
【0038】
また、
図5の積層体500では、平面視形状が円形であるため、変位d5、d6、d7、d8の向きは、それぞれ外縁Eと大きな角度で交差している、具体的には、
図5に矢印で示す変位d5、d6、d7、d8の向きと、外縁Eと、のなす角度が、好ましくは70°以上90°以下になっている。これにより、積層体500の変位をデバイス等で利用するとき、積層体500の外縁Eが他の部材等に干渉しにくくなり、利用しやすさが向上する。
【0039】
図5に示す伸縮変形では、
図5に示すように交点P5、P8が中心Oに近づく変位d5、d8が生じるように、圧電体層200に電場が印加されたとき、交点P6、P7には中心Oから遠ざかる変位d6、d7が生じる。反対に、図示しないが、交点P5、P8が中心Oから遠ざかる変位が生じるように、圧電体層200に電場が印加されたときには、交点P6、P7には中心Oに近づく変位が生じる。
【0040】
一方、積層体500の中心Oは、ほとんど変位しない。このため、中心Oを固定しても、積層体500の伸縮変形にはほとんど影響が及ばない。よって、本実施形態に係る圧電素子100では、積層体500を固定するため、平面視で中心Oに重なる位置に第1接続部600および第2接続部700が設けられている。
【0041】
第1接続部600は、第1電極層300の圧電体層200とは反対側に設けられ、好ましくは第1電極層300よりも剛性が高い部材である。第2接続部700も、第2電極層400の圧電体層200とは反対側に設けられ、好ましくは第2電極層400よりも剛性が高い部材である。このような剛性の高い部材で積層体500を挟むことにより、簡単な構造で、かつ、伸縮変形に影響を及ぼすことなく、積層体500を固定することができる。
【0042】
また、第1接続部600は、第1配線800と第1電極層300とを電気的に接続している。第2接続部700は、第2配線900と第2電極層400とを電気的に接続している。したがって、第1電極層300および第2電極層400には、第1配線800および第2配線900により電圧を印加することができ、また、第1電極層300および第2電極層400が取り出した電荷を、第1配線800および第2配線900に送り出すことができる。加えて、第1接続部600および第2接続部700は、上述の通りほとんど変位しない。このため、上記構造では、振動による第1配線800や第2配線900の破断や脱離を軽減することができる。
【0043】
また、圧電体層200を厚さ方向に沿って見たとき、第1接続部600は、積層体500の中心Oと重なっていて、かつ、第1電極層300より小さく構成されている。第1接続部600が中心Oと重なっているとは、第1接続部600の範囲の内側に中心Oが位置していることをいう。また、第1接続部600が第1電極層300より小さいとは、第1電極層300の範囲の内側に第1接続部600が収まっていることをいう。
【0044】
さらに、圧電体層200を厚さ方向に沿って見たとき、第2接続部700は、積層体500の中心Oと重なっていて、かつ、第2電極層400より小さく構成されている。第2接続部700が中心Oと重なっているとは、第2接続部700の範囲の内側に中心Oが位置していることをいう。また、第2接続部700が第2電極層400より小さいとは、第2電極層400の範囲の内側に第2接続部700が収まっていることをいう。
【0045】
以上の構成により、積層体500は、第1接続部600および第2接続部700を介し、第1配線800および第2配線900によって空間の任意の位置に固定可能とされ、かつ、第1配線800および第2配線900と電気的に接続される。これにより、圧電素子100は、伸縮変形を伴う圧電性を利用して、様々なデバイスに好適に用いられる素子となる。
【0046】
ここで、
図7は、
図1に示す圧電素子100の第1電極層300と第2電極層400との間に電圧を印加したとき、積層体500の変位量の分布をシミュレーションした結果を示す図である。シミュレーションには、ムラタソフトウェア株式会社製の解析シミュレーションソフトウェアFemtetを使用した。このシミュレーションでは、真円をなす積層体500を第1接続部600および図示しない第2接続部700で固定し、その状態でポリ乳酸結晶を含む圧電体層200に電場を印加したとき、積層体500の各点の変位量を計算している。なお、
図7では、圧電体層200の配向方向Dcを矢印で示している。また、
図7では、変形前の積層体500の外縁を実線で示し、変形後の積層体500における各点の変位量を濃淡のパターンで示している。
【0047】
図7に示すように、ポリ乳酸のc軸が面内で配向方向Dcに一軸配向しているとき、圧電素子100は、配向方向Dcに対して斜めに交差する方向、すなわち
図7に一点鎖線で示す方向に伸びるととともに、その方向と交差する方向に縮むように変形する。また、
図7における濃淡は、配向方向Dcに対して斜めに交差する方向に沿って変化していることから、
図7に示す各点の変位量は、配向方向Dcに対して斜めに交差する方向に沿って傾斜するように分布している。
【0048】
以上のシミュレーション結果から、圧電素子100においては、ずり変形を伸縮変形に変換可能であることがわかる。
【0049】
また、圧電体層200においてヘリカルキラル高分子のc軸が面内で一軸配向していることは、圧電体層200のX線回折プロファイルを取得し、解析することによって特定することができる。具体的には、まず、圧電体層200についてX線回折装置を用いたθ-2θ測定を行い、θ-2θプロファイルを取得する。
【0050】
図8は、c軸が一軸配向しているポリ乳酸を含む圧電体層について、X線回折装置におけるθ-2θ測定により得られたθ-2θプロファイルの一例である。ポリ乳酸のc軸が一軸配向している場合、θ-2θプロファイルにおいて、
図8に示すように、ポリ乳酸の(200)面および(110)面に対応するピークが観測される。このピークは、2θ=16.7°±1.0°に観測される。なお、このピーク位置は、波長1.5404ÅのCuKα1の特性X線を用いたθ-2θ測定によるピーク位置である。
【0051】
次に、このピークについて極点図を取得する。
図9は、
図8に示すθ-2θプロファイルを取得した圧電体層について、2θ位置を16.7°に固定して取得した極点図の一例である。この極点図では、
図9に破線の矢印で示すように、ψ=0°である中心を通過するように、回折強度を示す等高線がライン状に延びている。
図9に示す極点図において、このような等高線の特徴を認めることができれば、ポリ乳酸のc軸が圧電体層の面内で一軸配向していることを特定することができる。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る圧電素子100は、圧電体層200と、第1電極層300と、第2電極層400と、第1接続部600と、第2接続部700と、を備える。圧電体層200は、互いに表裏の関係を持つ第1面201および第2面202を有し、圧電性を示すヘリカルキラル高分子結晶を含む。第1電極層300は、圧電体層200の第1面201に設けられている。第2電極層400は、圧電体層200の第2面202に設けられている。第1接続部600は、第1電極層300の圧電体層200とは反対側に設けられている。第2接続部700は、第2電極層400の圧電体層200とは反対側に設けられている。
【0053】
そして、圧電体層200の厚さ方向に沿って見たとき、圧電体層200、第1電極層300および第2電極層400が互いに重なっている重複部分10、つまり積層体500は、円形をなしている。また、圧電体層200の厚さ方向に沿って見たとき、第1接続部600および第2接続部700は、積層体500の中心O(重複部分10の中心)と重なっている。
【0054】
このような構成によれば、重複部分10の形状を円形にしたため、ヘリカルキラル高分子結晶の圧電性に伴って生じるずり変形を伸縮変形に変換することができる。このため、ヘリカルキラル高分子結晶の圧電性を利用しやすくした圧電素子100を実現することができる。
【0055】
また、第1接続部600は、圧電体層200の厚さ方向に沿って見たとき、第1電極層300より小さく、第2接続部700は、圧電体層200の厚さ方向に沿って見たとき、第2電極層400より小さいことが好ましい。
【0056】
第1接続部600および第2接続部700が上記のような特徴を有することにより、第1接続部600および第2接続部700は、圧電体層200に生じる伸縮変形を阻害することなく積層体500を固定することができる。
【0057】
このような圧電素子100は、伸縮変形を利用した様々なデバイスに用いられる。かかるデバイスとしては、例えば、アクチュエーター、振動発生素子、超音波モーター、触覚センサー、力覚センサー、発電素子、各種スイッチ等が挙げられる。
【0058】
また、圧電素子100では、第1接続部600および第2接続部700によって積層体500に対する電気的接続と機械的接続とを図ることができる。このため、圧電素子100を各種デバイスに組み込む場合、圧電素子100の固定構造を簡素化することができる。その結果、圧電素子100を用いることにより、デバイスの設計自由度を容易に高めることができる。
【0059】
また、第1接続部600は、第1電極層300より剛性が高く、第2接続部700は、第2電極層400より剛性が高いことが好ましい。これにより、第1接続部600および第2接続部700は、特に変形しにくくなるため、積層体500をより安定して固定することができる。
【0060】
第1接続部600の剛性が第1電極層300より高いとは、第1接続部600の曲げ剛性が、第1電極層300の曲げ剛性より大きいことをいう。同様に、第2接続部700の剛性が第2電極層400より高いとは、第2接続部700の曲げ剛性が、第2電極層400の曲げ剛性より大きいことをいう。曲げ剛性は、ヤング率と断面2次モーメントの積で表され、このうち、断面2次モーメントは、曲げる方向に対して薄ければ小さくなる。そこで、本実施形態では、積層体500の厚さ方向において、第1接続部600および第2接続部700の厚さを、第1電極層300および第2電極層400に比べて十分に厚くしている。
【0061】
具体的には、
図2に示すように、第1接続部600の厚さをt6としたとき、厚さt6は、第1電極層300の平均厚さt3の2倍以上であるのが好ましく、10倍以上1000倍以下であるのがより好ましい。これにより、第1接続部600の曲げ剛性を第1電極層300の曲げ剛性より大きくすることができる。
【0062】
また、第2接続部700の厚さをt7としたとき、厚さt7は、第2電極層400の平均厚さt4の2倍以上であるのが好ましく、10倍以上1000倍以下であるのがより好ましい。これにより、第2接続部700の曲げ剛性を第2電極層400の曲げ剛性より大きくすることができる。
【0063】
図3では、積層体500(重複部分10)の半径をR1とし、中心Oからr1の長さを半径とする円をC1とする。また、半径r1は、半径R1の20%とする。圧電体層200の厚さ方向に沿って見たとき、第1接続部600は、
図3に示すように、円C1の内側に配置されているのが好ましい。
【0064】
このような構成によれば、第1接続部600が占める範囲が必要以上に大きくなるのを防止することができる。つまり、第1接続部600が占める範囲を、積層体500を固定するのに必要かつ十分な大きさに設定することができる。これにより、伸縮変形を伴う圧電性を有効に利用可能な圧電素子100を実現することができる。
【0065】
また、図示しないが、第2接続部700も、円C1の内側に配置されているのが好ましい。これにより、第2接続部700が占める範囲が必要以上に大きくなるのを防止することができる。
【0066】
なお、半径r1は、好ましくは半径R1の20%未満とされ、より好ましくは半径R1の15%未満とされる。
【0067】
2.変形例
次に、変形例に係る圧電素子について説明する。
【0068】
図10および
図11は、それぞれ実施形態に係る圧電素子100の変形例を示す平面図である。
【0069】
以下、変形例について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、
図10および
図11において、前記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0070】
図10に示す圧電素子100Aは、圧電体層200Aの形状が第1電極層300と異なること以外、前記実施形態に係る圧電素子100と同様である。
【0071】
すなわち、
図10に示す圧電体層200Aは、平面視形状が正方形である。また、第1電極層300および図示しない第2電極層は、それぞれ、圧電体層200Aの範囲の内側に収まっている。したがって、圧電体層200A、第1電極層300および第2電極層の互いに重なっている重複部分10は、前記実施形態と同様、円形である。よって、
図10に示す圧電素子100Aでも、ずり変形を伸縮変形に変換するという効果、すなわち前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0072】
このように、
図10に示す第1電極層300および図示しない第2電極層は、それぞれ円形をなしている。これにより、上記の効果が得られるとともに、
図10に示す圧電体層200Aは、形状を問わないので、製造しやすいという利点を有する。したがって、圧電体層200Aの形状は、正方形に限定されず、いかなる形状であってもよい。
【0073】
図11に示す圧電素子100Bは、第1電極層300Bの形状が圧電体層200と異なること以外、前記実施形態に係る圧電素子100と同様である。
【0074】
すなわち、
図11に示す第1電極層300Bは、平面視形状が正方形である。また、図示しないが、第2電極層の平面視形状も、第1電極層300Bと同様である。さらに、圧電体層200は、第1電極層300Bの範囲の内側に収まっている。したがって、圧電体層200、第1電極層300Bおよび第2電極層の互いに重なっている重複部分10は、前記実施形態と同様、円形である。よって、
図11に示す圧電素子100Bでも、ずり変形を伸縮変形に変換するという効果、すなわち前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0075】
このように、
図11に示す圧電体層200は、円形をなしている。これにより、上記の効果が得られるとともに、
図11に示す第1電極層300Bおよび図示しない第2電極層は、形状を問わないので、製造しやすいという利点を有する。したがって、第1電極層300Bおよび第2電極層の形状は、正方形に限定されず、いかなる形状であってもよい。
【0076】
なお、
図11では図示しないものの、
図11に示す第1電極層300Bおよび図示しない第2電極層は、圧電体層200の外側において互いに絶縁されている。
【0077】
また、
図11に示す圧電素子100Bでは、圧電体層200が第1電極層300Bおよび第2電極層の内側に配置され、外部から保護されている。このため、圧電素子100Bは、圧電体層200が損傷を受けにくく、信頼性を高めやすいという利点を有する。
【0078】
以上、本発明の圧電素子を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明の圧電素子は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、前記実施形態の各部が同様の機能を有する任意の構成のものに置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0079】
10…重複部分、100…圧電素子、100A…圧電素子、100B…圧電素子、200…圧電体層、200A…圧電体層、201…第1面、202…第2面、300…第1電極層、300B…第1電極層、400…第2電極層、500…積層体、500’…積層体、600…第1接続部、700…第2接続部、800…第1配線、900…第2配線、C1…円、Dc…配向方向、E……外縁、L1…基準線、L2…基準線、O……中心、P1…頂点、P2…頂点、P3…頂点、P4…頂点、P5…交点、P6…交点、P7…交点、P8…交点、R1…半径、S1…応力ベクトル、d1…変位、d2…変位、d3…変位、d4…変位、d5…変位、d6…変位、d7…変位、d8…変位、r1…半径、t2…平均厚さ、t3…平均厚さ、t4…平均厚さ、t6…厚さ、t7…厚さ