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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】鋳造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 18/04 20060101AFI20241119BHJP
   B22D 41/28 20060101ALI20241119BHJP
   B22D 43/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B22D18/04 W
B22D41/28
B22D43/00 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021024821
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022126953
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004347
【氏名又は名称】弁理士法人大場国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】明本 晴生
(72)【発明者】
【氏名】三吉 博晃
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-167430(JP,A)
【文献】実開平06-039258(JP,U)
【文献】実開昭56-012559(JP,U)
【文献】国際公開第2008/132991(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/108040(WO,A1)
【文献】特公平2-24183(JP,B2)
【文献】特開平7-51833(JP,A)
【文献】特開平6-114525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 18/04
B22D 41/28
B22D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型キャビティを形成する鋳造金型と、溶湯を保持する保持炉と、前記保持炉と前記金型キャビティを接続する給湯管と、前記給湯管を介して前記溶湯を前記金型キャビティ内へ充填する鋳造装置において、
前記金型キャビティの湯口と前記給湯管との接続部に、前記湯口の開閉を行う湯口開閉板を設け、前記湯口開閉板は、前記湯口が開の位置において、前記湯口と前記給湯管を連通させる注湯口と、前記注湯口を囲うように溝形状の環状凹溝を備え、
前記湯口開閉板における前記環状凹溝と前記注湯口の間には、前記鋳造金型との摺動面が存在し、
前記環状凹溝に空気をブローするエアブロー手段を設けたことを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
前記溶湯は、ガス圧によって前記金型キャビティへ充填されることを特徴とする請求項1記載の鋳造装置。
【請求項3】
前記環状凹溝は、前記湯口開閉板における前記鋳造金型との対向面に形成されたことを特徴とする請求項1項または2項に記載の鋳造装置。
【請求項4】
前記環状凹溝を清掃する清掃空間部を設け、前記湯口開閉板が閉の位置において、前記
環状凹溝が前記清掃空間部に収納される、ことを特徴とする請求項1項から請求項項のいずれか一項に記載の鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給湯管を介して保持炉内の溶湯を金型キャビティ内へ低圧で充填する鋳造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造金型の金型キャビティ内にアルミニウム合金等の溶湯を低圧で充填して鋳造品を得る鋳造装置として、例えば、溶湯を保持する保持炉と鋳造金型が縦方向に配置され、給湯管で保持炉と鋳造金型が接続され、溶湯は給湯管内を通って金型キャビティに充填される竪型鋳造装置が一般的に用いられる。この竪型鋳造装置を使って、計画された個数の鋳造品を得るまで鋳造成形を繰り返す。金型キャビティ内への溶湯の充填は、給湯管内の溶湯を機械的に押し出すピストン方式と、保持炉を密閉構造とし圧縮空気等の加圧ガスを送り込んで給湯管内の溶湯を押し上げる加圧方式と、金型キャビティ内を減圧して給湯管内の溶湯を吸い上げる吸引方式とがある。溶湯の充填後は、溶湯を加圧させながら凝固させて鋳造品を得る。溶湯の加圧は、給湯管内の溶湯の圧力を高めて、湯口から溶湯を補充する手段や、鋳造金型に細工されたシールピン等で湯口閉鎖し、加圧機構で溶湯を加圧する手段等が適宜選択される。
【0003】
ここで、竪型鋳造装置の場合では、給湯管の下方は保持炉内の溶湯に浸漬し、上方は開放されている。そのため、鋳造金型を型開させて鋳造品を取り出す製品取出工程中と、金型キャビティ内に残った溶湯残渣物等を除去するためのエアブロー清掃行程中と、次ショットの鋳造成形の準備として金型キャビティや湯口等に離型剤を塗布する離型剤塗布工程中のいずれかの工程において、鋳バリカスや離型剤等の不純物が給湯管内に混入する危険性を含んでいる。その結果、不純物の混ざった溶湯が金型キャビティに充填されることで、異物混入に起因する鋳造不良が生じる。
また、大気開放により給湯管内の溶湯は空気に触れ、溶湯は酸化され異物混入の原因となる溶湯酸化物を生じる。さらに、溶湯の表面温度も低下する。その結果、給湯管内の溶湯は、溶湯酸化物と溶湯凝固物とが混ざった状態となり、そのまま金型キャビティに充填すると異物混入に起因する鋳造不良となる。
【0004】
異物混入を防止するために、給湯管の上面を囲う蓋を用意し、鋳造成形のタイミングに応じて給湯管に蓋の取付けと取外し作業を行うことが提案されている。この作業は、高温の溶湯に近く狭い場所であるため、手作業では危険が高い。そのため、例えば製品取出工程で使用される製品搬送ロボットを用いて、あるいは別に設けた搬送用ロボットを用いて、作業を自動化していることが多い。なお、鋳造成形の工程とは別に、給湯管上面への蓋の取付けと取外し工程を要し、鋳造成形のサイクルを不要に長くする。
【0005】
そこで、特許文献1と特許文献2に示すように、給湯管と金型キャビティの湯口との間に、給湯管の上面の開閉と、給湯管内の溶湯の不純物の除去を行う自動開閉装置を設けることで、異物混入の鋳造不良の低減と鋳造成形のサイクル短縮を可能とするとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-167430号公報
【文献】特開2008-213034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1と特許文献2に示す手段の自動開閉装置は、閉鎖部と副産物捕捉空隙部と開口部とを備えている。鋳造金型を型閉した後、副産物捕捉空隙部に自動開閉装置を位置し、給湯管内の溶湯を副産物捕捉空隙部内に充填する。これにより、給湯管内の上面の不純物の多い溶湯を除去できる。次いで、自動開閉装置を開口部の位置にスライドさせて、溶湯を強制的に切断し、不純物が除去された綺麗な溶湯のみが金型キャビティに充填できるとしている。さらに、金型キャビティへの溶湯の充填後に、自動開閉装置を閉鎖部の位置にスライドさせて、金型キャビティを密閉状態とした後に、鋳造金型に組み込まれた加圧機構等により金型キャビティ内の溶湯を加圧し冷却固化させるとしている。
【0008】
ここで、自動開閉装置はスライドに必要な隙間が存在する。そのため、溶融粘度の低い溶湯を押し付けている状態で自動開閉装置をスライドさせることは、この隙間に溶湯が差し込み漏れ出る可能性が高く、充填する溶湯量の減少や変動によって鋳造品質は安定性を保つことが難しくなる。また、隙間に差し込んだ溶湯が固まり、自動開閉装置が動かなくなることも考えられる。さらに、差し込んで固まった溶湯固化物が脱落し溶湯と混ざり、異物混入等の鋳造不良の原因となることも考えられる。また、加圧機構による加圧力は、自動開閉装置にも強く負荷されるので、変形や故障が心配される。加圧力に耐え得るとした場合、自動開閉装置は大型化され、鋳造装置全体の粗大化を招く。なお、保持炉への不活性ガスの供給は示されているもの、給湯管内への不活性ガスの供給は無く、溶湯の酸化物の生成を防止するに至ってない。
【0009】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされてものであり、給湯管内への異物の混入と溶湯の漏れを完全に防止できる湯口開閉板を設けることにより、鋳造成形サイクルの短縮と、高品質な鋳造品を安定して得ることを目的とする鋳造装置に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る鋳造装置は、金型キャビティを形成する鋳造金型と、溶湯を保持する保持炉と、前記保持炉と前記金型キャビティを接続する給湯管と、前記給湯管を介して前記溶湯を前記金型キャビティ内へ充填する鋳造装置において、前記金型キャビティの湯口と前記給湯管との接続部に、前記湯口の開閉を行う湯口開閉板を設け、前記湯口開閉板は、前記湯口が開の位置において、前記湯口と前記給湯管を連通させる注湯口と、前記注湯口を囲うように溝形状の環状凹溝を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る鋳造装置において、前記環状凹溝は、複数列であっても良い。
【0012】
本発明に係る鋳造装置において、前記環状凹溝を清掃する清掃空間部を設け、前記湯口開閉板が閉の位置において、前記環状凹溝が前記清掃空間部に収納されるとしても良い。
【0013】
本発明に係る鋳造装置において、前記給湯管内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給孔を設け、前記湯口開閉板が閉の位置において、前記不活性ガス供給孔が前記給湯管と連通するとしても良い。
【0014】
本発明における鋳造装置において、前記不活性ガスは、空気中から分離した窒素ガスを用いるとしても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、給湯管内への異物の混入と溶湯の漏れを完全に防止でき、異物や溶湯酸化物等の混入に起因する鋳造不良の改善と、溶湯漏れに起因する鋳造品質のバラツキの改善と、鋳造成形のサイクル短縮を可能とする鋳造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る鋳造装置の概念図である。
図2】本発明に係る湯口開閉板の詳細図である。
図3】本発明に係る湯口開閉板の環状凹溝の拡大図である。
図4】本発明に係る鋳造装置を用いた成形工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0018】
[鋳造装置]
先ず、本実施形態に係る鋳造装置について、図1を用いて説明する。
図1に示す鋳造装置100は、溶湯貯蔵部10と、鋳造金型20と、給湯管30と、湯口開閉板40、とを備えている。溶湯貯蔵部10内の溶湯14が給湯管30を介して鋳造金型20の金型キャビティ26内に充填することで、鋳造品が成形される。
なお、図1においては、溶湯貯蔵部10と鋳造金型20とを鉛直方向に直線的な縦配列としたが、水平方向から鉛直方向の間の任意の角度を有した傾斜配置や、傾斜方向と鉛直方向を組合せた2次元的な配置としても良い。
【0019】
溶湯貯蔵部10は、加圧調整室12と、保持炉13と、加圧制御装置15、とを備えている。保持炉13は、内部に溶湯14を所定の温度に加熱保持し、加圧調整室12内に収納されている。加圧制御装置15を用いて加圧ガスが加圧調整室12内に導入し、加圧調整室12内の気圧が上昇することで、保持炉13内の溶湯14を押し下げ、給湯管30内を溶湯14が上昇して、金型キャビティ26内に溶湯14が充填される。また、加圧制御装置15を用いて加圧調整室12内の加圧ガスを排気して、加圧調整室12内の気圧を減圧することで、給湯管30内の溶湯14を引き下げることができる。このように、加圧制御装置15を用いて、加圧ガスの導入と排気による加圧調整室12内の気圧の上昇と減圧を制御することにより、給湯管30内の溶湯14を自由に制御でき、金型キャビティ26内への溶湯14の充填を可能とする。特に、加圧ガスの導入による加圧調整室12内の圧力状態は、金型キャビティ26内への溶湯14の充填状態に直接関係するので、溶湯14の種類や金型キャビティ26の形状等に応じて圧力状態を多段に精度良く制御することが望ましい。また、加圧ガスは圧縮空気を用いても良いが、溶湯14の酸化防止のためには、窒素やアルゴン等の不活性ガスを用いるのが好ましい。
【0020】
なお、図1の溶湯貯蔵部10は、保持炉13のみとしたが、例えばアルミニウム合金等を溶解して溶湯14を製造する図示しない溶解炉を別に設けても良い。この場合は、溶解炉と保持炉13を連結し、溶解炉から保持炉13へ溶湯14が連続的に供給されるようにして、保持炉13内の溶湯14の湯面の高さを一定に保持する構造が好ましい。また、加圧調整室12内へ加圧ガスの導入や排気によって、給湯管30の溶湯14の制御を行うとしたが、例えば、給湯管30内を進退可能なプランジャーを備え、プランジャーの進退方向と進退距離によって給湯管30内の溶湯14を制御する手段であっても良い。
【0021】
鋳造金型20は、固定盤22に取り付けられた固定金型24と、可動盤23に取り付けられた可動金型25とを備え、図示しない型締装置により可動盤23と可動金型25は鉛直方向に型開閉される。固定金型24と可動金型25の型締により、金型キャビティ26が形成される。金型キャビティ26には溶湯14を充填する湯口27を備え、湯口27は給湯管30と接続される。
【0022】
給湯管30は、下面側が保持炉13内の溶湯14に浸漬し、上面側が固定盤22を貫通して固定金型24の湯口27に連結される。給湯管30は中空形状となっており、給湯管30の内部を溶湯14が流動することで、保持炉13内の溶湯14は、給湯管30と湯口27を経由して金型キャビティ26内に充填される。
なお、図1においては、給湯管30は保持炉13の溶湯14と湯口27とを連結する直線的な形状としたが、L字形やU字形のように屈折や湾曲した形状としても良い。
【0023】
[湯口開閉板]
次に、本実施形態に係る湯口開閉板について、図1から図3を用いて説明する。
先ず、図1に示すように、湯口開閉板40は、湯口27と給湯管30との間に設けられ、鋳造成形の工程に応じて、湯口開閉板駆動装置42によって湯口27と給湯管30の開閉動作を行う。湯口開閉板40の開閉位置については、湯口27と給湯管30が開となる位置を開位置OP、湯口27と給湯管30が閉となる位置を閉位置CL、と定義する。図1においては、固定金型24に湯口27が施工されているので、湯口開閉板40も固定金型24内に収納される。なお、これに限定されることなく、例えば、固定盤22と固定金型24との間に湯口開閉板40を収納する補助的な構造物等を設けても良い。また、湯口開閉板40は、湯口27と給湯管30のとの間に設置されておれば良く、湯口27側に近い傾斜面に設けても良い。逆に、給湯管30側に近い傾斜面に設けても良い。例えば、後述する鋳造金型20に組み込んだ加圧機構等を用いて保圧工程を行う場合においては、加圧機構等により湯口27の閉鎖も同時に行うために、干渉しないように湯口開閉板40を給湯管30側に設けることが好ましい。
【0024】
湯口開閉板40を詳細について、図2を用いて説明する。図2(a)は湯口開閉板40の平面図(図1のA視)、図2(b)は湯口開閉板40のB-B断面図である。
湯口開閉板40の断面方向に貫通する注湯口47は、湯口開閉板40が開位置OPにおいて、湯口27と給湯管30とを連通し、溶湯14を金型キャビティ26内へ充填することができる。また、湯口開閉板40が閉位置CLにおいては、給湯管30の上面側は閉鎖され、湯口27と給湯管30は遮断される。
【0025】
ここで、湯口開閉板40が開位置OPと閉位置CLの間を開閉動作するためには、湯口開閉板40を収納する固定金型24と適度な隙間を設ける必要がある。溶融粘度の低い溶湯14は、この隙間から外に容易に漏れ出る。そこで、注湯口47を囲むように、湯口開閉板40の上面側と下面側にそれぞれ1つの環状凹溝(48a、48c)を設けるものとする。隙間から漏れ出た溶湯14は、溶湯カスとして、環状凹溝(48a、48c)で確実に捕捉でき、溶湯14の漏れを止めることができる。また、漏れ出た溶湯カスが給湯管30内に混入することを回避でき、異物混入に起因する鋳造不良を防止できる。
【0026】
さらに、図2に示すように、環状凹溝(48a、48c)の外側に、もう1つの環状凹溝(48b、48d)を追加して、環状凹溝を複数列の配置とする。この複数列の環状凹溝により、漏れ出た溶湯14の捕捉効果がさらに高まる。例えば、内側の環状凹溝(48a、48c)が漏れ出た溶湯14で満杯となったとしても、外側の環状凹溝(48b、48d)で溢れた溶湯14を捕捉できる。そのため、湯口開閉板40の大きさの範囲内で環状凹溝を複数列に設けることが好ましい。また、複数列の間隔や、環状凹溝の深さや幅の大きさ等は、湯口開閉板40の大きさと溶湯14の捕捉効率から適宜設計される。
【0027】
また、この環状凹溝の複数列の配置は、シール性を高め溶湯14の漏れを抑制する効果も期待できる。このシール性効果については、図3を用いて説明する。図3は環状凹溝の一部分を拡大した断面図である。図中の記号(A1.B1)は、固定金型24と湯口開閉板40の隙間の容積、記号(A2、B2)は環状凹溝(48a、48b)の容積を表す。それぞれの容積比は、A1<A2、B1<B2、である。また、記号(P0~P4)は、各部位での溶湯14の圧力を表す。溶湯14は、注湯口47から隙間A1へ、隙間A1から環状凹溝48aへと漏れ出るとする。この時の溶湯14の圧力は、P0=P1>P2、となる。これは、容積が急激に拡張することで(A1からA2)、圧力緩和作用が生じた結果である(この作用をラビリンス効果と言われている)。その結果、環状凹溝48aに漏れ出た溶湯14の圧力は小さく、既に漏れ出るに必要な圧力を有していないので、溶湯14の漏れを停止することができるものである。
【0028】
環状凹溝を複数列に配置するのは、ラビリンス効果を更に高める狙いである。例えば、環状凹溝48a内の漏れ出た溶湯14の圧力が下がり切らなかった場合に、隙間B1から外に溶湯14が漏れ出ることが考えられる。この場合、溶湯14の圧力は、P2=P3>P4、となり、外側の環状凹溝48bでは、さらに圧力低下を得て漏れを確実に止めることができる。
これにより、金型キャビティ26内へ充填する溶湯量が安定し、溶湯の変動に起因する鋳造不良を回避できる。また、漏れ出た溶湯の凝固物の混入を確実に防止でき、異物不良等の無い高品質な鋳造品を安定して得ることができる。また、環状凹溝の配列数や間隔および大きさ等については、漏れ出た溶湯14の捕捉効果と、ラビリンス効果を利用した溶湯14の漏れ抑制の両面から適宜設計されることが好ましい。
【0029】
また、湯口開閉板40に加熱と冷却の温調機構を設けて、湯口開閉板40の全体、あるいは、注湯口47と環状凹溝を局所的に、加熱または冷却、のいずれかを行う手段を設けても良い。この場合、加熱または冷却により、湯口開閉板40は線膨張係数に応じて膨張又は収縮し、固定金型23と湯口開閉板40の隙間を調整することができる。その結果、湯口開閉板40からの溶湯14の漏れ量をより少なくでき、漏れ出た溶湯の噛み込みによる湯口開閉板40の開閉動作ができなくなるトラブルを確実に回避できる効果を得る。
【0030】
また、図2に示すように、湯口開閉板40は、不活性ガス供給孔49が設けられている。湯口開閉板40が閉位置CLにおいて、不活性ガス供給孔49の出口49aは給湯管30(図2(a)の破線)の真上に位置する。不活性ガス供給孔49の入口49bは、図示しない不活性ガス供給装置に接続され、湯口開閉板40が閉位置CLにある間は、給湯管30内に窒素等の不活性ガスを供給し、給湯管30内の溶湯14の酸化防止を行う。これにより、溶湯酸化物等の巻き込みによる異物不良を確実に回避できる。
【0031】
なお、窒素ガスを選択した場合には、例えば空気中から窒素ガスを分離する分離機で分離した窒素ガスを用いることができる。この場合は、窒素ボンベ等の貯蔵設備を必要とせず、工場エアを分離機に接続する簡易手段で高濃度の窒素ガスを得ることができ、コスト低減に大きく貢献する。分離機としては、分離膜方式やPSA(Pressure Swing Adsorption:圧力変動吸着)方式等の市販のものが利用できる。さらに、分離機で分離した窒素ガスを加圧制御装置15に送ることで、加圧調整室12の加圧ガスとして利用することも可能である。
【0032】
[鋳造成形]
次に、本実施形態に係る鋳造装置を用いた鋳造成形について、図1図4を用いて説明する。
先ず、図示しない型締装置により鋳造金型20を型締し金型キャビティ26を形成する。その後、湯口開閉駆動装置42により湯口開閉板40を開動作させて開位置OPに固定し、湯口27と注湯口47と給湯管30とを連通状態とする(図1に示す状態)。
ここで、鋳造金型20の型締による金型キャビティ26の形成後に、湯口開閉板40を開位置OPに固定としたが、型締と同時に湯口開閉板40を開動作としても良く、先に湯口開閉板40を開位置OPに固定させた後に、型締して金型キャビティ26の形成を行っても良い。鋳造品を鋳バリ取り処理等の後工程へ移動させる移動工程を含む、鋳造成形サイクルとのバランスを考慮して適宜選択とする。なお、この時点では溶湯14は湯口開閉板40には到達していないので、湯口開閉板40と固定金型24との隙間から溶湯14が漏れ出ることは無い。
【0033】
次に、加圧ガス制御装置15を用いて、窒素ガス等の加圧性ガスを加圧調整室12内に導入し、加圧調整室内の気圧を制御して、給湯管30内の溶湯14を上昇させ、注湯口47と湯口27を経由して、金型キャビティ26内に溶湯14を充填させる。
ここで、充填工程中の溶湯14の流動の乱れは、空気等の巻き込みによるボイド不良等の鋳造不良の原因となるので、金型キャビティ26の形状に応じて、溶湯14の充填速度を精度良く多段で制御することが望まれる。例えば、加圧性ガスの圧力が1KPaの変化で、給湯管30内の溶湯14の湯面は、溶湯密度を2500kg/mとすれば、約25mm変化することを利用して、加圧性ガスの圧力調整で溶湯14の充填速度を調整する。加圧性ガスの圧力範囲は0~200KPa程度、好ましくは、10~80KPa程度とする。また、充填速度は最大で10速程度の鋳造装置が好ましい。なお図1に示すように、鋳造成形のサイクル短縮を狙って、加圧ガス制御装置15により加圧調整室12内を予備加圧しておいて、予め給湯管30内の溶湯14を湯口開閉板40の近くまで湯面を上げておいても良い。
【0034】
金型キャビティ26への溶湯14の充填工程が完了すると、溶湯14の冷却に伴う凝固収縮を補うための溶湯14に保圧力を加える保圧工程に進む。例えば、加圧性ガスの圧力を、0~200KPaの範囲内で高圧に設定して、給湯管30から金型キャビティ26の溶湯14に保圧力を加える。または、鋳造金型20に組み込んだ図示しない加圧機構等を用いて、金型キャビティ26内の溶湯14へ保圧力を直接加える。必要に応じて、加圧性ガスと加圧機構の両方の手段を用いても良い。加圧性ガスを利用した保圧工程では、保圧力が比較的低いので、湯口開閉板40からの溶湯14の漏れ量は少ない。加圧機構を利用した保圧工程では、加圧性ガスの場合よりも高圧とすることができ、湯口開閉板40からの溶湯14の漏れ量は多くなる。そのため、加圧機構を使う場合は、例えば、湯口27を塞ぐと同時に金型キャビティ26内の溶湯14を加圧する加圧ピン等を用いる等の工夫により、保圧工程中の湯口開閉板40からの溶湯14の漏れ量は少なくできる。また、湯口開閉板40の損傷防止の効果も期待できる。
【0035】
保圧工程後は、加圧ガス制御装置15を用いて、加圧ガスを排気して加圧調整室12内の気圧を下げ、給湯管30内の溶湯14の湯面を下げて、次ショットの鋳造成形の準備工程に進む。なお、鋳造金型20の加圧機構による保圧工程の場合は、加圧ピン等による湯口27の閉鎖後に、加圧調整室12内の気圧を下げて給湯管30内の溶湯14の湯面を下げる工程と、加圧ピン等による保圧力を負荷する工程を同時に行っても良い。また、湯口開閉板40より下方側の給湯管30に近い位置に、不活性ガス等を供給できる管路等を別に設けて、図示しない不活性ガス供給装置から管路を介して給湯管30内へ不活性ガス等を供給して、給湯管30内の溶湯14の湯面を下げるとしても良い。その際には、加圧調整室12内の気圧の低下と合わせて行うことが好ましい。
【0036】
ここで、金型キャビティ26内への溶湯14の充填開始から、湯口27の閉鎖後の給湯管30内の溶湯14の下降までの間は、湯口開閉板40からの溶湯14の漏れ量は大幅に低減できるが、隙間がある限りは完全にゼロにはならない。溶湯14が漏れ出ることに起因する鋳造不良をゼロにするために、注湯口47囲うように設けた環状凹溝が効果を発揮する。隙間から漏れ出た溶湯14は、環状凹溝(48a、48c)で捕捉し、ラビリンス効果により溶湯14の漏れを低減できる。これにより、溶湯14の漏れに起因する鋳造不良の低減効果を得る。
【0037】
環状凹溝(48a、48c)の外側に、さらに外側の環状凹溝(48b、48d)を複数列に配置し、ラビリンス効果を更に高める。これにより、溶湯14の漏れは確実に停止させることができ、溶湯の漏れに起因する鋳造不良を確実に防止できる。なお、湯口開閉板40の大きさに余裕がある場合は、さらに環状凹溝を追加することが好ましい。
【0038】
さらに、漏れ出た溶湯14は環状凹溝内に確実に捕捉する。鋳造成形のサイクルに応じて、湯口開閉板40を開閉動作させても、漏れ出た溶湯14の溶湯凝固物(溶湯カス)は環状凹溝内に留まり、外に飛散することはない。これにより、溶湯カスが給湯管30内の溶湯14に混入することに起因する鋳造不良を確実に防止できる。また、溶湯カスが隙間に詰まって、湯口開閉板40の開閉動作を悪くする等の鋳造装置の故障による鋳造成形の中断も回避でき、高い生産性を維持できる。これらの改善効果は、環状凹溝を複数列に配置することにより、さらに高くなり、高品質な鋳造品の安定供給を確実なものとする。
【0039】
金型キャビティ26内の溶湯14の保圧工程を終えると、図示しない型締装置により、鋳造金型20を型開し、図示しない取出し装置により鋳造品Mを金型キャビティ26から取り出す。その後、鋳造品Mは図示しない搬送ロボットにより鋳バリ除去等の後工程に移送される。同時に、図示しない離型剤塗布装置により、金型キャビティ26と湯口27に離型剤が塗布され、次ショット鋳造成形に進む。
この鋳造金型20の型開動作から離型剤塗布の工程の間に、鋳バリ片や離型剤等の異物が湯口27を介して給湯管30内に入り、溶湯14と混ざることで異物不良の重大な鋳造不良が発生する。そこで、鋳造金型20の型開動作と同時に、または、型開動作の前に、湯口開閉駆動装置42により湯口開閉板40を閉動作させて閉位置CLに固定し、給湯管30の上面を閉鎖状態とする(図2に示す状態)。これにより、給湯管30内への異物の混入を確実に防止でき、異物に起因する鋳造不良は確実に回避できる。
【0040】
また、湯口開閉板40が閉位置CLにおいて、湯口開閉板40の注湯口47と複数の環状凹溝(48a、48b、48c、48d)は、固定金型あるいは湯口開閉板40を収納する簡易的な構造物等に設けた清掃空間部44内に位置し、清掃ノズル43からエアブロー等を噴射して、環状凹溝内に捕捉した溶湯カスを除去する。これにより、異物混入の防止をさらに確実なものとする。エアブロー等の噴射と合わせて、回転ブラシ等の機械的清掃治具を併用することで、溶湯カスの除去効率がより高くなる。除去した溶湯カスは、図示しない吸引装置等で捕捉することで飛散防止を徹底させる。この清掃行程は、次ショットの準備工程の範囲内で行う等により、鋳造成形のサイクルには影響しない。
【0041】
さらに、湯口開閉板40が閉位置CLにおいて、図示しない不活性ガス供給装置から不活性ガス供給孔49を経由して、給湯管30内に窒素ガス等の不活性ガスを供給し、給湯管30内を不活性ガスで密閉させる。これにより、給湯管30内の溶湯14の酸化劣化が防止でき、酸化物等の異物混入不良を回避できる。同時に、給湯管30内の溶湯14の湯面を強制的に下げて、保持炉13内の溶湯14と混合することで、次ショットにおける溶湯14の温度は安定し鋳造品質の安定化を得る。
なお、給湯管30内への不活性ガスの供給は、例えば、湯口開閉板40と給湯管30の間に不活性ガス供給の管路等を設け、この管路から不活性ガスを給湯管30内に供給することも可能である。ただし、鋳造作業中に溶湯14と管路が接触する位置であるために、溶湯14によって管路が塞がれる可能性は否定できない。仮に、管路が塞がれたとしても、不活性ガス供給孔49は溶湯14と接触する位置でないので、給湯管30内への不活性ガスの供給を妨げるものではない。
【0042】
給湯管30への不活性ガスの供給において、例えば空気中から窒素ガスを分離する分離機で分離した窒素ガスを用いることができる。この場合は、窒素ボンベ等の貯蔵設備を必要とせず、工場エアを分離機に接続する簡易手段で高濃度の窒素ガスを得ることができ、コスト低減に大きく貢献する。さらに、分離機で分離した窒素ガスを加圧制御装置15に送ることで、加圧調整室12の加圧ガスとして利用することも可能である。
【0043】
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【0044】
上述した実施形態では、アルミニウム合金等の溶湯を金型キャビティ内に充填する、竪型の低圧鋳造機をベースとした鋳造装置に適用するものと説明したが、これに限定されず、例えば、横型のダイカストマシンをベースとした鋳造装置や、半凝固状態の金属合金を加圧して射出充填する半凝固鋳造装置をベースとした鋳造装置に適用するとしても良い。
【0045】
上述した実施形態では、金型キャビティへ低圧で溶湯を充填する低圧鋳造法をベースとした鋳造装置に適用するものと説明したが、これに限定されず、例えば、金型キャビティを真空吸引することで溶湯を充填する真空鋳造法をベースとした鋳造装置に適用するとしても良い。この場合は、金型キャビティ内を高真空に吸引することができ、さらに、金型キャビティ内への溶湯の不用意な吸引(先湯という鋳造不良)を防止することができる。
【符号の説明】
【0046】
100 鋳造装置
10 溶湯貯蔵部
12 加圧調整室
13 保持炉
14 溶湯
15 加圧制御装置
20 鋳造金型
24 固定金型
25 可動金型
26 金型キャビティ
27 湯口
30 給湯管
40 湯口開閉板
42 湯口開閉板駆動装置
43 清掃ノズル
44 清掃空間部
47 注湯口
48a~48d 環状凹溝
49 不活性ガス供給孔
図1
図2
図3
図4