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  • 特許-錫の回収方法 図1
  • 特許-錫の回収方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】錫の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 25/00 20060101AFI20241119BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20241119BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C22B25/00 101
C22B3/08
C22B3/44 101A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021028940
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130015
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】村岡 秀
(72)【発明者】
【氏名】田中 史人
(72)【発明者】
【氏名】森本 智也
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-264252(JP,A)
【文献】特開平05-098367(JP,A)
【文献】米国特許第06117209(US,A)
【文献】特開2006-045588(JP,A)
【文献】特開昭62-250133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫と共に銅および鉛を含む錫含有物から錫を分離して回収する方法であって、硫酸酸性溶液中、酸化剤の存在下で、該錫含有物に銅を残して錫を酸化浸出させると共に鉛を沈殿化する硫酸酸化浸出工程と、錫を液中に含む浸出後液と、銅および鉛を含む浸出残渣とを固液分離し、この浸出後液を中和して錫含有沈澱物を生成させて回収する中和工程を有し、錫を銅と鉛から分離して回収することを特徴とする錫の回収方法。
【請求項2】
前記硫酸酸化浸出工程において、硫酸濃度が100g/L以上~400g/L以下の酸性溶液を用いる請求項1に記載する錫の回収方法。
【請求項3】
前記硫酸酸化浸出工程において、前記酸性溶液に塩化物イオンを添加する請求項1または請求項2に記載する錫の回収方法。
【請求項4】
前記中和工程において、液中のpHを3.5以上~4.5以下にする請求項1~請求項3の何れかに記載する錫の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫の回収方法に関し、特に、錫と共に銅および鉛を含む錫含有物から錫を効率よく分離して回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、錫含有物からの錫の回収方法として、鉛製錬工程で発生したドロスから鉛を分離して得た原料を熔融還元した錫含有物(主に錫と銅を含有)をNaOH溶液中で酸化させながら錫を浸出させ、この錫浸出液から電解採取によって錫を回収する方法が知られている(特許文献1:特許第5188768号)。しかし、錫含有物に鉛が含まれていると、錫と共に鉛が浸出し、この鉛は錫よりも貴な元素であるため、電解採取の際に錫に優先して析出するので、錫と鉛を分離できない。また、浸出にNaOHを使用するため薬剤コストが高いという問題もあった。
【0003】
一方、電解採取前の錫浸出液に銅や鉛が含まれている場合、該浸出液に金属錫粉末を投入して錫よりも貴な元素である銅や鉛を還元し、液中から除去する置換析出(セメンテーション)によって銅や鉛を除去する方法が知られている(特許文献2:特開平11-217634号)。しかし、原料中の銅または鉛濃度が高い場合、セメンテーションに用いる金属錫がコスト高になる。
【0004】
上記浸出後の錫を電解採取によって回収する方法とは異なり、銅製錬ダストを塩酸や硝酸を用いて浸出し、銅および鉛を優先的に溶出させる一方、錫を浸出残渣に濃縮して回収する方法が知られている(特許文献3:特開2019-151862号、特許文献4:特開2019-151863号)。この方法は浸出後に錫が固体として存在するため、固液分離により容易に錫を回収できる利点を有している一方、錫とともに浸出されない元素が多いので、得られる錫回収物の錫品位が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5188768号公報
【文献】特開平11-217634号公報
【文献】特開2019-151862号公報
【文献】特開2019-151863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の錫回収方法における上記問題を解決したものであり、錫と共に銅、鉛のいずれか一方または両方を含む錫含有物から、効率よく錫を回収する方法を提供する。また、上記塩酸浸出や上記硝酸浸出よりも錫品位の高い錫回収物を得ることができる錫の回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した錫の回収方法である。
〔1〕錫と共に銅および鉛を含む錫含有物から錫を分離して回収する方法であって、硫酸酸性溶液中、酸化剤の存在下で、該錫含有物に銅を残して錫を酸化浸出させると共に鉛を沈殿化する硫酸酸化浸出工程と、錫を液中に含む浸出後液と、銅および鉛を含む浸出残渣とを固液分離し、この浸出後液を中和して錫含有沈澱物を生成させて回収する中和工程を有し、錫を銅と鉛から分離して回収することを特徴とする錫の回収方法。
〔2〕前記硫酸酸化浸出工程において、硫酸濃度が100g/L以上~400g/L以下の酸性溶液を用いる上記[1]に記載する錫の回収方法。
〔3〕前記硫酸酸化浸出工程において、前記酸性溶液に塩化物イオンを添加する上記[1]または上記[2]に記載する錫の回収方法。
〔4 〕前記中和工程において、液中のpHを3.5以上~4.5以下にする1上記[1]~上記[3]の何れかに記載する錫の回収方法。
【0008】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の方法は、錫と共に銅および鉛を含む錫含有物から錫を分離して回収する方法であって、硫酸酸性溶液中、酸化剤の存在下で、該錫含有物に銅を残して錫を酸化浸出させると共に鉛を沈殿化する硫酸酸化浸出工程と、錫を液中に含む浸出後液と、銅および鉛を含む浸出残渣とを固液分離し、この浸出後液を中和して錫含有沈澱物を生成させて回収する中和工程を有し、錫を銅と鉛から分離して回収することを特徴とする錫の回収方法である。本発明の錫回収方法の処理例を図1 に示す。
【0009】
本発明の錫回収方法は、錫と共に銅および鉛を含む錫含有物から錫を回収する方法である。錫と共に銅および鉛を含む錫含有物としては、例えば、電子基板の破砕物(破砕基板)、半田屑等のスクラップ、各種スクラップの選別品、および種々の製錬中間品などを用いることができる。
【0010】
〔硫酸酸化浸出〕
錫含有物(破砕基板等)を硫酸主体の酸性溶液(硫酸酸性溶液と云う)中で酸化浸出(硫酸酸化浸出と云う)して錫を浸出させる。破砕基板等に含まれる錫の大半は酸化されて硫酸錫や硫酸錯イオン等の形態で液中に浸出し、残余の錫は浸出残渣に移行する。
【0011】
硫酸酸化浸出の硫酸濃度は100g/L以上~400g/L以下が好ましい。硫酸濃度が100g/L未満では錫の浸出率が著しく低下する。一方、硫酸濃度が400g/Lを超えると、銅の浸出率が上昇するので錫と銅との分離が悪くなり、また錫が硫酸錯イオンを安定に形成するため中和工程で錫が沈澱し難くなる。
【0012】
この硫酸酸化浸出は、酸化剤として空気などを吹き込んで行うとよい。空気に代えて酸素ガスを用いると溶存酸素濃度が高くなり、銅の浸出率が上昇するため、空気などを用いるのが好ましい。
【0013】
錫や鉛は銅よりも卑な金属であるため、硫酸酸化浸出では錫および鉛が銅よりも優先的に酸化される。さらに酸化された鉛は液中の硫酸イオンと反応して安定な硫酸鉛を形成して沈殿する。一方、酸化浸出された錫は液中に残るので、銅と鉛の大部分を浸出残渣として分離することができる。この結果、後の中和工程で生成する錫含有沈殿物への銅と鉛の混入を大幅に低減することができる。
【0014】
硫酸酸化浸出において、硫酸溶液に塩化物イオンを添加すると錫の浸出が促されて、錫回収物への錫移行率を上昇させることができる。具体的には、例えば、実施例(No.A2~A5)に示すように、2.5質量%の錫を含む破砕基板(原料)50gを濃度100g/Lの硫酸1Lを用いて浸出するときに、塩化物イオンの添加剤として1g~10gのNaCl(原料の錫量に対して1~10倍程度)を添加すると、錫回収物への錫移行率を、NaCl無添加に比べて45%から83%増大させることができる。上記塩化物イオンの添加剤としては、NaClやKCl等の塩類、これら塩類の水溶液、および塩酸などを用いることができる。
【0015】
〔浸出後液と浸出残渣の分離〕
上記硫酸酸化浸出後の液と浸出残渣を固液分離する。浸出後液には主に錫が含まれており、浸出残渣には銅および鉛の大部分が含まれている。
【0016】
〔中和:錫含有沈澱物生成〕
分離した浸出後液にアルカリ溶液を加えて中和し、主に錫を含む沈殿物(錫含有沈殿物と云う)を生成させる。錫を含む上記浸出後液は強酸性であり、これにNaOH溶液などのアルカリ溶液を加えて、pH3.5以上~pH4.5以下の液性に中和すると、錫含有沈澱物が生成する。図2に示すように、液中の錫濃度はpHの上昇に伴い低下し、pH3.5を超えて中和すると錫のほぼ全量を沈殿させることができる。一方、上記硫酸酸化浸出の工程で銅の一部が浸出していた場合、pH4.5を超えて中和すると液中の銅が沈澱し、錫含有沈殿物に混入する。したがって、中和工程におけるpHは3.5以上~4.5以下に制御することが好ましい。生成した錫含有沈澱物を固液分離して回収し、錫回収物を得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の錫回収方法によれば、錫と共に銅および鉛を含む錫含有物について、硫酸酸化浸出を行うことによって、錫を優先的に浸出させ、銅および鉛の大部分を浸出残渣に移行させることができる。このため、錫濃度が高く、かつ、銅濃度および鉛濃度が低い浸出後液を得ることができ、得られた浸出後液を中和することによって、錫品位の高い錫回収物を得ることができる。本発明の錫回収方法によれば、塩酸浸出や硝酸浸出によって得られる錫含有浸出残渣よりも錫品位の高い錫回収物が得られる。
【0018】
本発明の方法によって得られる錫回収物は錫製錬工程の原料として使用できる。また、この錫回収物は銅濃度が従来の方法に比べ格段に低く、鉛を殆ど含まないので、一般の錫製錬工程で処理することによって経済的に錫地金に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の錫回収方法の一例を示す処理工程図。
図2】浸出後液の錫濃度とpHの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を示す。濃度の%は質量%である。
〔実施例〕
廃電子基板2kgを二軸破砕機で破砕した後に目開き3.35mmの篩で分級し、篩下の破砕基板を回収した。この破砕基板50gを60℃に保持した硫酸濃度50~500g/Lの酸性溶液1Lに浸漬し、空気を0.5L/minの速度で吹込みながら6時間攪拌して硫酸酸化浸出を行った。一部の試料は硫酸溶液に1g~10gのNaClを添加して硫酸酸化浸出を行った。その後、吸引濾過装置を用いて固液分離し、浸出後液と浸出残渣を得た。得られた浸出後液に対して48%NaOH溶液を添加し、pH3.0~pH5.0に中和した。中和処理後に吸引濾過装置を用いて固液分離し、中和後液と錫回収物を得た。得られた錫回収物は105℃の乾燥機で12時間乾燥させた。
原料の破砕基板に含まれる錫、銅、鉛の含有量を表1に示す。硫酸酸化浸出の処理条件と中和時のpH、および錫回収物の錫、銅、鉛の濃度と移行率を表2に示す。また各実施例および比較例について、浸出残渣と中和後液の錫、銅、鉛の移行率を表3に示す。これらの濃度はICP-AESによって測定した。移行率は次式[3]によって求めた。
移行率(%)=[回収物中の金属量]/[原料中の金属量]×100 ・・・[3]
【0021】
表2、表3に示すように、硫酸濃度100~400g/Lの範囲において、破砕基板中の錫の約45~約62%程度が浸出され、浸出した錫のほぼ全量が錫回収物に移行した(No.A1、A5~A9)。また、塩化物イオンの添加によって錫回収率が約42%から約83%増大し、塩化物イオンの添加効果が確認された(No.A2~A4)。一方、硫酸濃度50g/Lでは錫が約5%しか浸出できず(No.B1)、また硫酸濃度500g/Lでは浸出した錫が硫酸錯イオンを安定に形成するので、pH4まで中和しても錫が全量沈殿せず、全錫の約20%が中和後液に移行した。さらに硫酸濃度が高いことから銅の浸出率が上昇し、中和後液および錫回収物への銅移行率が上昇した(No.B2)。銅は錫製錬工程に悪影響を及ぼすため、銅を多く含んだ錫回収物は錫製錬原料として好ましくない。また、pH3.0までしか中和しない場合、浸出時の硫酸濃度に関わらず錫が全量沈殿しないため、錫の約4.1%が中和後液に移行した(No.B3)。一方、pH5.0に中和すると、浸出した銅の大部分が沈殿し、錫回収物の品位が低下した(No.B4)。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
図1
図2