(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】設計支援方法、設計支援プログラム、および該設計支援プログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G06F 30/27 20200101AFI20241119BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20241119BHJP
【FI】
G06F30/27
G06F30/15
(21)【出願番号】P 2021033316
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】釼持 寛正
(72)【発明者】
【氏名】小平 剛央
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-071725(JP,A)
【文献】国際公開第2010/095418(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0011949(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラムを実行する演算部と、データを読み込む記憶部と、を備えたコンピュータを用いることにより、複数の部品によって構成される構造体の性能を、各部品の仕様が定量化された設計変数を用いて定式化する設計支援方法であって、
前記記憶部が、前記設計変数の1つ以上を引数としてなる性能因子の集合を読み込む読込ステップと、
前記演算部が、前記性能因子の集合に対して複数種類の抽出方法を適用することで、該抽出方法別に、前記構造体の性能に寄与する性能因子を抽出する抽出ステップと、
前記演算部が、前記抽出方法別に得られた抽出結果に基づいて、前記性能因子の選択順位を設定する順位設定ステップと、
前記演算部が、前記性能因子の集合の中から前記選択順位にしたがって前記性能因子を選択するとともに、選択された前記性能因子を組み合わせることで前記構造体の性能を定式化する定式化ステップと、を備える
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載された設計支援方法において、
前記性能因子には、前記設計変数自身からなる線形項と、前記設計変数同士を乗算してなる非線形項と、が含まれる
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項3】
請求項2に記載された設計支援方法において、
前記抽出ステップに先だって、前記演算部が前記性能因子の集合を設定する事前絞り込みステップを備え、
前記事前絞り込みステップにおいて、前記設計変数を終端子ノードとしかつ乗算演算子を非終端子ノードとした木構造に対して遺伝的操作を実行することで、前記性能因子の集合を設定し、
前記事前絞り込みステップにおいて、前記木構造の階層数が所定の最大深度以下になるように、前記遺伝的操作を実行する
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載された設計支援方法において、
前記性能因子を構成する前記設計変数のうち、前記線形項として前記構造体の性能に表れない設計変数からなる前記非線形項を、前記演算部が前記構造体の性能から排除するモデル再構築ステップを備える
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載された設計支援方法において、
前記演算部は、前記抽出方法別に得られた抽出結果に基づいて、前記性能因子毎に抽出頻度を判定し、
前記演算部は、前記抽出頻度の高低に基づいて、前記選択順位を設定する
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項6】
請求項5に記載された設計支援方法において、
前記構造体の性能は、前記性能因子を組み合わせてなる線形結合によって定式化され、
前記演算部は、前記複数種類の抽出方法のそれぞれにおいて、前記性能因子を説明変数とし、前記構造体の性能を目的変数とした重回帰分析を実行し、
前記演算部は、前記重回帰分析によって算出された前記説明変数それぞれの係数に基づいて、前記抽出頻度を判定する
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項7】
請求項6に記載された設計支援方法において、
前記複数種類の抽出方法には、スパース性を有する回帰分析が含まれる
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載された設計支援方法において、
前記複数種類の抽出方法には、ステップワイズ回帰分析が含まれる
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載された設計支援方法において、
前記定式化ステップにおける定式化の精度を特徴付ける評価指標を算出する指標算出ステップと、
前記指標算出ステップによって算出された評価指標に基づいて、前記定式化ステップにおける定式化の精度を検証する検証ステップを備え、
前記記憶部は、それぞれ前記性能因子の集合に対応した複数のサンプルデータを読み込み、
前記演算部は、前記複数のサンプルデータを所定の分割パターンにしたがって学習データと検証データとに分割し、
前記演算部は、前記学習データに基づいて、前記抽出ステップ、前記順位設定ステップおよび前記定式化ステップを実行する一方、残りの前記検証データに基づいて、前記指標算出ステップを実行し、
前記演算部は、前記分割パターンを複数回にわたって変更しつつ、変更された分割パターン毎に前記抽出ステップ、前記順位設定ステップ、前記定式化ステップおよび前記指標算出ステップを繰り返し実行した後に、前記検証ステップを実行し、
前記検証ステップにおいて、前記演算部は、前記分割パターン毎に算出された評価指標に基づいて、前記分割パターン毎に定式化された前記構造体の性能のうちのいずれか1つを選択する
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載された設計支援方法において、
前記構造体は、自動車の車体であり、
前記設計変数は、前記複数の部品それぞれの板厚である
ことを特徴とする設計支援方法。
【請求項11】
プログラムを実行する演算部と、データを読み込む記憶部と、を備えたコンピュータに実行させることにより、複数の部品によって構成される構造体の性能を、各部品の仕様が定量化された設計変数を用いて定式化する設計支援プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記記憶部が、前記設計変数の1つ以上を引数とした性能因子の集合を読み込む読込ステップと、
前記演算部が、前記性能因子の集合に対して複数種類の抽出方法を適用することで、該抽出方法別に、前記構造体の性能に寄与する性能因子を抽出する抽出ステップと、
前記演算部が、前記抽出方法別に得られた抽出結果に基づいて、前記性能因子の選択順位を設定する順位設定ステップと、
前記演算部が、前記性能因子の集合の中から前記選択順位にしたがって前記性能因子を選択するとともに、選択された前記性能因子を組み合わせることで前記構造体の性能を定式化する定式化ステップと、を実行させる
ことを特徴とする設計支援プログラム。
【請求項12】
請求項11に記載された設計支援プログラムを記憶している
ことを特徴とするコンピュータ読取可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、設計支援方法、設計支援プログラム、および該設計支援プログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、複数の部品を備える構造体の設計支援方法が開示されている。具体的に、この特許文献1に開示されている構造体の設計支援方法は、各部品の仕様を定量化してなる設計変数の線形結合を目的変数に設定するとともに、その目的変数に関して重回帰分析を行うことで、構造体の性能指標を示すモデルを同定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1に開示されているような設計変数を用いて構造体の性能を定式化する場合において、部品同士が相互に及ぼし合う影響等、より複雑な事象を考慮に入れるためには、設計変数同士を掛け合わせた交互作用項、設計変数を引数とした三角関数によって表される項等、より一般的な関数形で表現される各項を性能因子とみなして定式化を行うことが考えられる。
【0005】
しかしながら、そのような性能因子は無数に存在するため、モデルの定式化に要する計算が複雑化し、その計算に要する時間が膨大なものとなる可能性がある。このことは、モデルを用いた設計支援をスムースに行う上では不都合である。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、構造体の性能をシンプルかつ高速で定式化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、プログラムを実行する演算部と、データを読み込む記憶部と、を備えたコンピュータを用いることにより、複数の部品によって構成される構造体の性能を、各部品の仕様が定量化された設計変数を用いて定式化する設計支援方法に係る。
【0008】
そして、本開示の第1の態様によると、前記設計支援方法は、前記記憶部が、前記設計変数の1つ以上を引数としてなる性能因子の集合を読み込む読込ステップと、前記演算部が、前記性能因子の集合に対して複数種類の抽出方法を適用することで、該抽出方法別に、前記構造体の性能に寄与する性能因子を抽出する抽出ステップと、前記演算部が、前記抽出方法別に得られた抽出結果に基づいて、前記性能因子の選択順位を設定する順位設定ステップと、前記演算部が、前記性能因子の集合の中から前記選択順位にしたがって前記性能因子を選択するとともに、選択された前記性能因子を組み合わせることで前記構造体の性能を定式化する定式化ステップと、を備える。
【0009】
ここで、「性能因子」には、設計変数の1次の項、設計変数の2次の項等、設計変数の多項式近似に際して用いられる因子に加え、設計変数を引数とした三角関数等、非多項式近似を実現する因子も含む。
【0010】
前記第1の態様によれば、前記設計支援方法は、性能因子の集合に対して複数種類の抽出方法を適用することで、性能因子の選択順位を設定する。この選択順位は、性能因子の重要度を示しているものと云える。選択順位の設定に際し、特定の抽出方法のみ用いるのではなく、複数の抽出方法を個別に用いることで、選択順位をより適切に設定することができる。そして、選択順位が相対的に高い性能因子については、前記性能を記述するモデル式に積極的に取り込む一方、選択順位が相対的に低い性能因子については、前記モデル式には消極的に取り込むようにすることで、定式化の際に用いられる項の数を抑制しつつも、構造体の性能を忠実に記述することができる。これにより、構造体の性能をシンプルかつ高速で定式化することができるようになる。
【0011】
また、本開示の第2の態様によると、前記性能因子には、前記設計変数自身からなる線形項と、前記設計変数同士を乗算してなる非線形項と、が含まれる、としてもよい。
【0012】
前記第2の態様によれば、性能因子には、設計変数同士を乗算してなる非線形項が含まれる。これにより、部品同士の結合に関係した交互作用をモデルに含めることができる。このことは、構造体の衝突性能等、動的な現象のモデル化に際して有効である。
【0013】
また、本開示の第3の態様によると、前記設計支援方法は、前記抽出ステップに先だって、前記演算部が前記性能因子の集合を設定する事前絞り込みステップを備え、前記事前絞り込みステップにおいて、前記設計変数を終端子ノードとしかつ乗算演算子を非終端子ノードとした木構造に対して遺伝的操作を実行することで、前記性能因子の集合を設定し、前記事前絞り込みステップにおいて、前記木構造の階層数が所定の最大深度以下になるように、前記遺伝的操作を実行する、としてもよい。
【0014】
前記第3の態様によれば、選択順位に基づいた性能因子の選択に先だって、木構造を用いた性能因子の絞り込みを実行する。ここで、終端子ノードから設計変数の係数を排除することで、より高速で絞り込むことができる。その際に、木構造の階層数を事前に設定しておくことで、支援対象とする構造体に適した絞り込みを行うことができる。これにより、より効率的な定式化を行うことができるようになる。
【0015】
また、本開示の第4の態様によると、前記設計支援方法は、前記性能因子を構成する前記設計変数のうち、前記線形項として前記構造体の性能に表れない設計変数からなる前記非線形項を、前記演算部が前記構造体の性能から排除するモデル再構築ステップを備える、としてよい。
【0016】
前記第4の態様によれば、非線形項を構成する設計変数のうち、1次の線形項としてモデルに表れない設計変数(例えば、1次項(主効果)としてはモデルに表れず、交互作用項としてのみモデルに表れる設計変数)については、モデルから排除する。この工程を行うことで考慮すべき性能因子の数を減らすことができるため、計算量を減少させることができる。
【0017】
また、本開示の第5の態様によると、前記演算部は、前記抽出方法別に得られた抽出結果に基づいて、前記性能因子毎に抽出頻度を判定し、前記演算部は、前記抽出頻度の高低に基づいて、前記選択順位を設定する、としてもよい。
【0018】
前記第5の態様によれば、抽出頻度の高い性能因子、例えば全ての抽出方法において抽出されるような性能因子については、選択順位を高順位に設定する一方、抽出頻度の低い性能因子、例えばいずれか1つの抽出方法でしか抽出されないような性能因子については、選択順位を低順位に設定する。このように設定することで、選択順位をより適切に設定し、ひいては構造体の性能をより忠実に定式化することができるようになる。
【0019】
また、本開示の第6の態様によると、前記構造体の性能は、前記性能因子を組み合わせてなる線形結合によって定式化され、前記演算部は、前記複数種類の抽出方法のそれぞれにおいて、前記性能因子を説明変数とし、前記構造体の性能を目的変数とした重回帰分析を実行し、前記演算部は、前記重回帰分析によって算出された前記説明変数それぞれの係数に基づいて、前記抽出頻度を判定する、としてもよい。
【0020】
前記第6の態様によれば、演算部は、各性能因子に乗算される係数の高低に基づいて、抽出頻度を判定する。この場合、例えば、特定の抽出方法において係数がゼロと算出された性能因子については、少なくともその抽出方法においては非抽出とすることができる。このように設定することで、抽出頻度を明確に判定することができ、ひいては、構造体の性能をシンプルかつ高速で定式化する上で有利になる。
【0021】
また、本開示の第7の態様によると、前記複数種類の抽出方法には、スパース性を有する回帰分析が含まれる、としてもよい。
【0022】
前記第7の態様によれば、スパース性を有する回帰分析を行った場合、寄与度の低い係数はゼロとなる。これにより、抽出頻度を明確に判定することができ、ひいては、構造体の性能をシンプルかつ高速で定式化する上で有利になる。
【0023】
また、本開示の第8の態様によると、前記複数種類の抽出方法には、ステップワイズ回帰分析が含まれる、としてもよい。
【0024】
前記第8の態様によれば、ステップワイズ法を行った際に選択されなかった性能因子については、その係数をゼロとみなすことができる。これにより、抽出頻度を明確に判定することができ、ひいては、構造体の性能をシンプルかつ高速で定式化する上で有利になる。
【0025】
また、本開示の第9の態様によると、前記設計支援方法は、前記定式化ステップにおける定式化の精度を特徴付ける評価指標を算出する指標算出ステップと、前記指標算出ステップによって算出された評価指標に基づいて、前記定式化ステップにおける定式化の精度を検証する検証ステップを備え、前記記憶部は、それぞれ前記性能因子の集合に対応した複数のサンプルデータを読み込み、前記演算部は、前記複数のサンプルデータを所定の分割パターンにしたがって学習データと検証データとに分割し、前記演算部は、前記学習データに基づいて、前記抽出ステップ、前記順位設定ステップおよび前記定式化ステップを実行する一方、残りの前記検証データに基づいて、前記指標算出ステップを実行し、前記演算部は、前記分割パターンを複数回にわたって変更しつつ、変更された分割パターン毎に前記抽出ステップ、前記順位設定ステップ、前記定式化ステップおよび前記指標算出ステップを繰り返し実行した後に、前記検証ステップを実行し、前記検証ステップにおいて、前記演算部は、前記分割パターン毎に算出された評価指標に基づいて、前記分割パターン毎に定式化された前記構造体の性能のうちのいずれか1つを選択する、としてもよい。
【0026】
前記第9の態様によれば、前記設計支援方法では、選択順位に基づいた定式化に際して、k分割交差検証を実施する。つまり、k通りの学習データに基づいて定式化を実行するとともに、各定式化に際して、残りの検証データに基づいて評価指標を算出する。そして、各分割パターンで得られたk通りのモデルのうち、最も評価指数に優れたモデルを選択することで、よりロバストな定式化を行うことができるようになる。このことは、構造体の性能のシンプルかつ高速な定式化と、モデル式のロバスト性と、を両立する上で有効である。
【0027】
また、本開示の第10の態様によると、前記構造体は、自動車の車体であり、前記設計変数は、前記複数の部品それぞれの板厚である、としてもよい。
【0028】
自動車の車体は、多数の部品からなる。この場合、多数の性能因子を考慮する必要があるものと考えられる。本開示は、多数の性能因子が考慮され得る一方で、それ以上のサンプルデータを確保するのが容易ではないような技術分野において、多数の性能因子の中から重要な性能因子を積極的に絞り込むことができるという点で有効である。
【0029】
本開示の第11の態様は、プログラムを実行する演算部と、データを読み込む記憶部と、を備えたコンピュータに実行させることにより、複数の部品によって構成される構造体の性能を、各部品の仕様が定量化された設計変数を用いて定式化する設計支援プログラムに係る。
【0030】
そして、本開示の第11の態様によると、前記設計支援プログラムは、前記コンピュータに、前記記憶部が、前記設計変数の1つ以上を引数とした性能因子の集合を読み込む読込ステップと、前記演算部が、前記性能因子の集合に対して複数種類の抽出方法を適用することで、該抽出方法別に、前記構造体の性能に寄与する性能因子を抽出する抽出ステップと、前記演算部が、前記抽出方法別に得られた抽出結果に基づいて、前記性能因子の選択順位を設定する順位設定ステップと、前記演算部が、前記性能因子の集合の中から前記選択順位にしたがって前記性能因子を選択するとともに、選択された前記性能因子を組み合わせることで前記構造体の性能を定式化する定式化ステップと、を実行させる。
【0031】
前記第11の態様によれば、構造体の性能をシンプルかつ高速で定式化することができる。
【0032】
本開示の第12の態様は、コンピュータ読取可能な記憶媒体に係る。この記憶媒体は、前記第11の態様に係る設計支援プログラムを記憶している。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本開示によれば、構造体の性能をシンプルかつ高速で定式化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、設計支援装置のハードウェア構成を例示する図である。
【
図2】
図2は、設計支援装置のソフトウェア構成を例示する図である。
【
図3】
図3は、設計支援方法の手順を例示するフローチャートである。
【
図4】
図4は、事前絞り込みフェーズの具体的手順を例示するフローチャートである。
【
図5】
図5は、事前絞り込みフェーズにおいて用いられる木構造と、該木構造に対応したモデル式と、の関係を説明するための図である。
【
図6】
図6は、事前絞り込みフェーズにおける1点交叉法について説明するための図である。
【
図7】
図7は、性能因子抽出フェーズの具体的手順を例示するフローチャートである。
【
図8】
図8は、選択順位にしたがった性能因子の取込手順を説明するための図である。
【
図9】
図9は、k分割交差法について説明する図である。
【
図10】
図10は、性能因子抽出フェーズの具体例を示す図である。
【
図11】
図11は、衝突性能値に対する交互作用項の影響を例示する図である。
【
図12】
図12は、モデル再構築ステップについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
【0036】
<装置構成>
図1は、本開示に係る設計支援装置(具体的には、設計支援装置を構成するコンピュータ1)のハードウェア構成を例示する図である。
図2は、設計支援装置のソフトウェア構成を例示する図である。
【0037】
図1に例示するように、コンピュータ1は、コンピュータ1全体の制御を司る中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)3と、ブートプログラム等を記憶するリードオンリーメモリ(Read Only Memory:ROM)5と、メインメモリとして機能するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)7と、2次記憶装置としてのハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)9と、を備える。なお、2次記憶装置としては、HDD9の代わりに、ソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等を用いることもできる。
【0038】
これらの要素のうち、CPU3は、種々のプログラムを実行する。CPU3は、本実施形態における演算部として機能する。また、RAM7は、CPU3により実行されるプログラムおよび種々のデータ等を一時的に記憶し、HDD9は、プログラムおよびデータ等を継続的に記憶する。RAM7は、必要に応じて、HDD9からデータを読み込むこともできる。RAM7は、本実施形態における記憶部として機能する。
【0039】
コンピュータ1はまた、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、CRTディスプレイ等からなる表示部11と、表示部11上に表示される画像データを格納するグラフィックスメモリ(Video RAM:VRAM)13と、マンマシンインターフェースとしてのキーボード15およびマウス17と、を備える。表示部11は、CPU3による演算結果を表示することができる。また、本実施形態に係るコンピュータ1は、通信用のインターフェース21を介して外部機器との間でデータを送受することができる。
【0040】
なお、後述のように、本開示に係る設計支援装置は、複数のコンピュータ1によって構成してもよい。その場合、各コンピュータ1のCPU3およびRAM7を、それぞれ、本開示に係る演算部および記憶部とみなすことができる。
【0041】
図2に例示するように、HDD9のプログラムメモリには、オペレーティングシステム(Operating System:OS)19、事前絞り込みプログラム29A、性能因子抽出プログラム29B、設計知見抽出プログラム29C等が格納される。
【0042】
これらの要素のうち、事前絞り込みプログラム29A、性能因子抽出プログラム29Bおよび設計知見抽出プログラム29Cは、本実施形態における設計支援プログラム29を構成する。
【0043】
ここで、設計支援プログラム29とは、本実施形態に係る設計支援方法をコンピュータ1に実行させるように構成されたプログラムであって、その設計支援方法を構成する各ステップをコンピュータ1に実行させることができる。設計支援プログラム29は、コンピュータ読取可能な記憶媒体18に予め記憶されている(
図1参照)。
【0044】
HDD9のプログラムメモリにおいて、事前絞り込みプログラム29A、性能因子抽出プログラム29Bおよび設計知見抽出プログラム29Cは、それぞれ、キーボード15、マウス17等から入力される指令に応じて起動される。その際、事前絞り込みプログラム29A等は、HDD9からRAM7にロードされ、CPU3によって実行されることになる。CPU3が事前絞り込みプログラム29A等を実行することで、コンピュータ1が設計支援装置として機能することになる。
【0045】
一方、HDD9のデータメモリには、複数のサンプルデータ49が格納される。各サンプルデータ49は、複数の独立変数によって構成される多変数データとして定義されている。各サンプルデータ49は、必要に応じてHDD9からRAM7にロードされ、CPU3による演算に用いられるようになっている。
【0046】
ここで、各サンプルデータ49は、分析対象とされる構造体の仕様と、その構造体において実現される性能値を示している。この構造体は、複数の部品によって構成される。また、各サンプルデータ49には、各部品の仕様が定量化された複数の設計変数xi(i=1,2,…,N)と、その仕様を入力としたときに出力される応答y(性能値y、目的変数yとも呼称する)と、が格納される。各サンプルデータ49は、後述のステップS12、ステップS21等において生成してもよいし、事前に生成したものを外部から読み込んで記憶してもよい。
【0047】
例えば、モデルベース開発によって自動車の車体を設計する場合、構造体は車体に相当し、複数の部品はBピラー、サイドシル、フロントトンネル、ルーフレール、フロントフレーム、サイドフレーム、リアサイドフレーム、クロスメンバ、フロアパネル、フロントパネル、リアパネル、エンジンカバー、ボンネット、リヤフェンダ、ルーフ、ドア、リフトゲート、リアエンドパネル、リアホイールハウスアウター、リアエンドメンバー、リアピラーアウター、リアピラーインナー、リアピラーレインホースメント、アッパーレインホースメント、リアルーフレール等の車体構成部品に相当する。この場合、各部品に対応した設計変数xiとして、対応する部品の板厚、形状、接合強度、重量、材質等を用いることができる。この場合、応答yとしては、車体の衝突性能値(衝突時の変形のし難さを示す性能指標)、車体ねじり剛性(ねじり変形のし難さを示す性能指標)、操縦安定性、NVH性能等を用いることができる。
【0048】
この他、事前絞り込みプログラム29A、性能因子抽出プログラム29Bおよび設計知見抽出プログラム29Cを実行することで生成される種々のデータ、ならびに、アプリケーションプログラム39の実行結果については、必要に応じて、HDD9のデータメモリに記憶されたり、メインメモリとしてのRAM7に一時的に格納されたりする。
【0049】
以下、設計支援方法の具体的な方法論について詳細に説明する。
【0050】
<方法論>
図3は、設計支援方法の手順を例示するフローチャートである。
図3に例示したフローは、コンピュータ1を用いることによって、複数の部品によって構成される構造体の性能を、各部品の仕様が定量化された設計変数を用いて定式化する設計支援方法である。
【0051】
設計支援方法は、基本的には、事前絞り込みステップとしての事前絞り込みフェーズS1と、後述の読込ステップ、抽出ステップ、順位設定ステップ、定式化ステップ、指標算出ステップおよび検証ステップによって構成される性能因子抽出フェーズS2と、モデル再構築ステップによって構成される設計知見抽出フェーズS3と、を順番に実行することで実施される。なお、事前絞り込みフェーズS1と設計知見抽出フェーズS3は、必須ではない。
【0052】
これらのフェーズS1~S3のうち、事前絞り込みフェーズS1は、CPU3が前述の事前絞り込みプログラム29Aを実行することで実施される。同様に、性能因子抽出フェーズS2は、CPU3が性能因子抽出プログラム29Bを実行することで実施され、設計知見抽出フェーズS3は、CPU3が設計知見抽出プログラム29Cを実行することで実施される。
【0053】
以下、設計支援方法を構成する各フェーズについて順番に説明する。
【0054】
(事前絞り込みフェーズS1)
図4は、事前絞り込みフェーズS1の具体的手順を例示するフローチャートである。
図5は、事前絞り込みフェーズS1において用いられる木構造T1と、該木構造T1に対応した応答yと、の関係を説明するための図である。
図6は、事前絞り込みフェーズS1における1点交叉法について説明するための図である。
【0055】
本実施形態では、性能因子X
j(j=1,2,…,M)線形結合によって構造体の性能を定式化する。ここで、性能因子X
jとは、前記設計変数x
iの1つ以上を引数として生成される。そして、各性能因子X
jに仕事量としての寄与度β
jを乗算した項β
j・X
jの線形結合を算出することで、
図5の下段に示すように応答yが定式化される。
図5に示す例では、応答yは、切片と、4つの性能因子X
1~X
4の線形結合によって定式化される。各性能因子X
jは、設計変数x
iの1つ以上を引き数としてなる。ここで、性能因子X
jは、設計変数x
iの1つ以上を乗算してなる項に加え、設計変数x
iを引数とした三角関数、設計変数x
iのn乗根、設計変数x
iの対数、設計変数x
iを引数とする指数関数等が含まれる。
【0056】
ここで、応答yを定式化するためには、構造体の性能に寄与する性能因子Xjを抽出する工程と、各性能因子Xjに乗算されるべき寄与度βjと、をそれぞれ算出する必要になる。特に、後述の交互作用のような非線形項を考慮すると、設計変数xiが多数に亘る場合、性能因子Xjには無数のバリエーションが存在するものと考えられる。
【0057】
本願発明者らは、性能因子Xjと寄与度βjを決定するための性能因子抽出フェーズS2に先だって、性能因子Xjの組み合わせを事前に絞り込むこめの工程(事前絞り込みフェーズS1)を行うことを想到した。
【0058】
すなわち、本実施形態に係る事前絞り込みフェーズS1は、性能因子抽出フェーズS2に先だって実行される工程であり、CPU3が性能因子Xjの集合(候補リスト)を設定するための工程である。
【0059】
具体的に、本実施形態では、CPU3が遺伝的プログラムミング(GP)を実行し、N個の設計変数xiから応答yを定式化する。周知のように、GPとは、遺伝的アルゴリズム(GA)を木構造で表現できるように機能拡張したものである。通常知られたGPでは、性能因子Xjと、それに乗算されるべき寄与度βjと、をそれぞれ終端子ノードに設定することで、双方を同時に決定するように構成されている。
【0060】
それに対し、本実施形態に係る事前絞り込みフェーズS1では、GPによってM個の性能因子X
jの集合を決定し、各性能因子X
jに乗算されるべき寄与度β
jは、続く性能因子抽出フェーズS2で確定する。つまり、事前絞り込みフェーズS1で用いられる木構造は、
図5に示すように各N個の設計変数x
iのみによって記述される。
図5に示す例では、3つの設計変数x
1,x
2,x
3を元に、4つの性能因子x
1,x
3,x
1・x
2,x
3
2が決定されるようになっている。
【0061】
具体的に、まずステップS11では、最大深度が設定される。この最大深度は、後述のステップS17で1点交叉法を実施する際に参照されるパラメータである。
【0062】
続くステップS12では、まず、初期世代として、N個の設計変数xiに基づいて、性能因子Xjの組み合わせの初期集合(初期集団)を設計空間全体に広く生成する。初期世代個体数は、設計変数xiの数等に応じて決定され得るが、例えば、設計変数xiの数の1~4倍とすることができる。
【0063】
続くステップS13では、ランダムに生成された初期集団に基づいて、リスト集合(性能因子Xjの組み合わせの集合)を評価する。例えば、ステップS13の初回実行時には、前記最大深度Lに基づいて、設計変数xiのL次の多項式近似を実行する。この場合、L次の多項式を構成する各項が、性能因子Xjの集合に相当する。そして、サンプルデータ49を参照して重回帰分析を実行し、各項の係数として得られる寄与度βjを決定する。その後、決定された多項式について平均2乗誤差を評価することで、初期集団を評価する。
【0064】
続くステップS14では、ステップS13で算出された平均2乗誤差が収束したか否かが判定され、収束した場合(ステップS14:YES)はステップS15に進み、収束時点におけるリスト集合である候補リストを出力する。
【0065】
一方、ステップS14で収束しなかった場合(ステップS14:NO)はステップS16へ進み、優秀なリスト集合を選択する。ここでは、現世代から適合度が高く互いに離れたいくつかの親固体を選択する。そして、続くステップS17では、遺伝子の組み換えに相当する1点交叉を実行する。
【0066】
具体的に、ステップS17およびステップS18では、設計変数xiを終端子ノードとしかつ乗算演算子を非終端子ノードとした木構造に対して遺伝的操作を実行することで、性能因子Xjの集合を設定する。
【0067】
具体的に、ステップS17では、
図6に示すように、第1のリスト集合L1と、第2のリスト集合L2との間で1点交叉を実行し、新たなリスト集合L1’,L2’を生成する。その際、
図6から見て取れるように、寄与度β
jを終端子ノードとせず、性能因子X
jの組み合わせの各元を組み替え対象とした1点交叉が行われる。図例では、第1のリスト集合L1における4つ目の性能因子N1(=x
3
2)と、第2のリスト集合における4つ目の性能因子N1(=x
2
2)と、が組み替え対象になっている。
【0068】
ここで、木構造の階層数がステップS11で設定した所定深度(最大深度)以下になるように、前記遺伝的操作が実行されるようになっている。例えば、最大深度が2に設定されかつ、前述のように、乗算演算子を非終端子ノードとした場合、性能因子Xjには、設計変数xi自身からなる1次の線形項と、設計変数xi同士を乗算してなる2次の非線形項と、が含まれることになる。その場合、後者の非線形項には、特定の設計変数xiを二乗してなる項xi
2と、異なる設計変数xi、xjを乗算してなるいわゆる交互作用項xi・xjと、が含まれることになる。
【0069】
ステップS17から続くステップS18では、遺伝子情報を確率的に変化させて固体に多様性を持たせる突然変位を実行し、子世代の個体を生成する。そうして、ステップS13~ステップS18を繰り返し、最適解に収束、または所定の進化世代数に到達したところでステップS14からステップS15へ進み、計算を終了する。ここで、所定の進化世代数は、設計変数の数等に応じて決定され得るが、例えば100世代~500世代とすることができる。
【0070】
なお、詳細な図示は省略したが、事前絞り込みフェーズS1においてk分割交差検証法を実施してもよい。その場合、重回帰分析に際して参照されるサンプルデータ49を学習データと検証データとに分割すればよい。
【0071】
なお、設計変数の数の増加に伴う、計算時間の増加、過学習等の問題に対しては、逐次近似最適化手法を用いてもよい。逐次近似最適化手法は、比較的小数のサンプル点と目的関数の応答値から応答曲面方により近似式を求め、それを用いた最適解探査から、その最適解といくつかのサンプル点を追加していく手法である。逐次近似最適化手法によれば、CAEによる1回の計算量を低減し、最適化計算の効率化を図ることができる。
【0072】
ステップS15へ進むと、制御プロセスは、
図4に示すフローを終了し、
図3の事前絞り込みフェーズS1から性能因子抽出フェーズS2へと進む。
【0073】
(性能因子抽出フェーズS2)
図7は、性能因子抽出フェーズS2の具体的手順を例示するフローチャートである。また、
図8は、選択順位にしたがった性能因子X
jの取込手順を説明するための図であり、
図9は、性能因子抽出フェーズS2の具体例を示す図である。
【0074】
まず、読込ステップとしてのステップS21において、記憶部としてのRAM7が、性能因子Xjの集合を読み込む。また、このステップS21では、CPU3が、各サンプルに対応した設計変数xiの値をそれぞれ性能因子Xjに代入するとともに、その代入結果と応答yとを関連付けることで、性能因子Xjの集合に対応した多数のサンプルデータDtを生成する。
【0075】
続くステップS22では、RAM7が複数のサンプルデータDtを読み込むとともに、CPU3が複数のサンプルデータDtを所定の分割パターンP1~P9にしたがって学習データDsと検証データDvとに分割する。
【0076】
具体的に、このステップS22において、CPU3は、k分割交差検証を実施すべく、複数のサンプルデータDtをk個のデータブロックに分割する。そして、
図9に示すように、k個に分割された各データブロックのうち、いずれか1個のデータブロックを検証データDvに設定し、残り(k-1)個のデータブロックを学習データDsに設定する。つまり、検証データDvおよび学習データDsの設定は、全部でk通り存在することになる。以下、k通りの設定を分割パターンP1~Pkと呼称する。
【0077】
CPU3は、学習データDsに基づいて、抽出ステップとしてのステップS23、順位設定ステップとしてのステップS24、定式化ステップとしてのステップS25、およびステップS26を実行する一方、残りの検証データDtに基づいて、指標算出ステップとしてのステップS27を実行する。
【0078】
続いて、抽出ステップとしてのステップS23において、CPU3は、性能因子Xjの集合(リスト集合)に対して複数種類の抽出方法を適用することで、該抽出方法別に、構造体の性能に寄与する性能因子Xjを抽出する。
【0079】
構造体の性能を示す応答yは、前述したように、1つ以上の性能因子Xjを組み合わせてなる線形結合によって定式化される。CPU3は、その線形結合に対して複数種類の抽出方法を個別に適用することで、各性能因子Xjを説明変数とし、前記線形結合によって表される応答yを目的変数とした重回帰分析を実行する。
【0080】
このステップS23では、複数の学習データDsを入力した際の各性能因子Xjの値を入力とし、目的変数としての応答yの値を出力とした回帰分析を実行することで、性能因子Xjに乗算されるべき計数値である寄与度βjが算出される。寄与度βjの値は、適用される抽出方法毎に変わり得る。
【0081】
ここで、ステップS23で適用される抽出方法には、スパース性を有する回帰分析法と、ステップワイズ回帰分析法と、が含まれる。さらに、前者の回帰分析法としては、例えば、L1正則化(Lasso)を伴うラッソ回帰、L1正則化にリッジ項を加えたElastic Net回帰、L1正則化に重みを加えた適応型ラッソ回帰を用いることができる。なお、これらの方法は、いずれも正則化パラメータλを用いるものである。正則化パラメータλの大きさは、k分割交差検証法を用いて決定することができる。この場合、ステップS23では、ステップS22で説明したサンプルデータの分割とは別に、正則化パラメータλを決定するための交差検証を行うべく、学習データDsがさらに複数のデータブロックに分割されることになる。この場合、ステップS22~ステップS28にかけて実行される交差検証に係るループとは別に、ステップS23において交差検証に係るループが分割パターンP1~Pk毎に実行されることになる。ここで、正則化パラメータλを決定するための交差検証では、逸脱度(deviance)等、罰則項が存在しない評価指標が用いられる。そのため、多数の寄与度βjがノンゼロの値となり、後述の選択確率を用いた絞り込みの際に、幅広い選択肢を残すことができる。
【0082】
また、ラッソ回帰等、スパース性を有する回帰分析法を用いた場合、目的変数へ大きく寄与する寄与度βjについては有意の値(ノンゼロの値)が得られる一方、相対的に寄与しない寄与度βjについてはゼロの値が得られることになる。これにより、事前絞り込みフェーズS1において絞り込まれた性能因子Xjの集合に対し、寄与度βjの大きさに基づいたさらなる絞り込み(抽出)を施すことが可能となる。
【0083】
また、ステップS23においてステップワイズ回帰分析法を適用する場合、下式で表される情報量基準のAIC、BIC等を用いることで、性能因子Xjの集合のうち、構造体の性能に寄与する性能因子Xjが抽出されることになる。
【0084】
【0085】
【0086】
ここで、nはサンプル数、σ2にハット記号を付した変数は推定量に基づく平均2乗誤差(MSE)、dfにハット記号を付した変数は推定モデルの自由度である。AIC、BICは、モデルの評価指標として用いられる。この評価指標は、その値が小さいほどモデル精度が良いことを示す。これを利用し、ステップワイズ法では、性能因子Xjの集合の各元を1つずつ前記線形結合に加え、または、線形結合から取り除くとともに、その時に得られるAICまたはBICは判定することで、事前絞り込みフェーズS1において絞り込まれた性能変数Xjの集合に対し、さらなる絞り込み(抽出)を施すことが可能となる。また、ステップワイズ法において性能因子を取捨選択するための方法としては、増加法、減少法、増減法が考えられるが、そのうちのいずれの方法を用いてもよい。後述の具体例では、増加法が用いられるように構成されている。
【0087】
続いて、順位設定ステップとしてのステップS24では、抽出方法別に得られた性能因子Xjの抽出結果に基づいて、CPU3が性能因子Xjの選択順位を設定する。詳しくは、CPU3は、抽出方法別に得られた性能因子Xjの抽出結果に基づいて、性能因子Xj毎に抽出頻度を判定し、その抽出頻度の高低に基づいて選択順位を設定する。
【0088】
例えば、
図8の上表に例示するように、3種類の方法A~Cのいずれにおいても性能因子X
1=x
1が抽出された場合(≠0だった場合)、その性能因子の抽出頻度は高いものと判定することができる。一方、3列の性能因子X
3=x
3のように、いずれの方法A~Cにおいても抽出されなかった場合(0だった場合)、その性能因子の抽出頻度は低いものと判定することができる。
図8に示す例では、CPU3は、1列目の性能因子X
1=x
1については、抽出された確率(選択)=100%で選択順位を1番目に設定し、4列目の性能因子X
4=x
4については、選択確率=66%で選択順位を2番目に設定し、2列目の性能因子X
2=x
2については、選択確率=33%で選択順位を3番目に設定し、3列目の性能因子X
3=x
2については、選択確率=0%で選択順位を4番目に設定することになる。そうして設定された選択順位は、RAM7に一時的に記憶してもよいし、HDD9に継続的に記憶してもよい。
【0089】
なお、頻出頻度の判定は、ステップS23で算出された、性能因子Xjそれぞれの係数(寄与度βj)に基づいて行うことができる。前述のように、重回帰分析においてスパース性を有する回帰分析、ステップワイズ回帰分析を用いた場合、寄与度の低い係数はゼロになる。そのため、寄与度βjがゼロの場合は性能因子Xjが抽出されなかったものとみなし、寄与度βjがノンゼロの場合は性能因子Xjが抽出されたものとみなすことができる。
【0090】
ここで、重回帰分析に際してより一般的な手法を用いた場合、寄与度の低い係数は、必ずしもゼロになるとは限らない。その場合、寄与度βjの値が所定の閾値を超えた場合には性能因子Xjが抽出されたと判定し、その閾値以下の場合には性能因子Xjが抽出されなかったと判定することができる。その場合に参照される閾値としては、例えば事前に設定したものを用いることができる。この閾値は、寄与度βj別に用意してもよいし、性能因子Xjに標準化を施す場合は寄与度βj間で共通の値としてもよい。
【0091】
続いて、定式化ステップとしてのステップS25では、CPU3は、性能因子Xjの集合の中から、ステップS24で算出された選択順位にしたがって性能因子Xjを選択する。CPU3はまた、そうして選択された性能因子Xjを組み合わせることで構造体の性能を定式化する。
【0092】
具体的に、このステップS25では、選択順位の高いものから順番に性能因子X
jを線形結合することで、目的変数としての応答yを定式化する。
図8に示す例では、選択順位が1番目である性能因子X
1=x
1が最初に取り込まれることになる。この場合、応答yは、切片β
0と、線形項β
1・x
1とを結合してなるx
1の1変数関数となる(1ループ目)。
【0093】
そして、ステップS25から続くステップS26において、CPU3は、ステップS25で定式化された目的変数に対して重回帰分析を実行する。
図8における前記1ループ目では、x
1を用いて定式化された1変数関数に対し、学習データDsを用いた重回帰分析を実行する。
図8に示す例では、前記x
1の1変数関数に対して重回帰分析が実行され、切片β
0と、x
1の係数β
1と、が算出される。これにより、1ループ目における応答yの定式化が完了する。
【0094】
続いて、指標算出ステップとしてのステップS27において、CPU3は、ステップS25において実行された定式化の精度(詳しくは、定式化によって得られたモデルの制度)を特徴付ける評価指標CVl(l=1,2,…,l)を算出する。CPU3は、そうして算出された評価指標CVlに基づいて、性能因子Xjの取込を継続するか否かを判定する。この判定は、例えば、ステップS26で定式化された応答yに対してステップS22で設定された検証データDvを入力し、その出力に基づいて所定の評価指標CVlを算出することで行うことができる。
【0095】
具体的に、本実施形態では、評価指標CVlとして、前述のAIC、BICに加え、下式に示すように緩和されたCp基準Cpmitを用いることもできる。
【0096】
【0097】
この他、本実施形態では、評価指標CVlとして、自由度調整済み決定係数R2と、誤差二乗平均平方根RMSEと、を用いることができる。
【0098】
【0099】
【0100】
上式において、下付の“2”が付されたノルムはL2ノルムを示す。
【0101】
例えば評価指標CVlとしてAICを用いた場合、ステップS27では、算出されたAICと所定の閾値を比較し、AICが閾値を下まわる場合はステップS28に進む一方、AICが閾値以上の場合はステップS25に戻る。
【0102】
ここで、複数の評価指標CVlのうちのいずれか1つを事前に選択するように構成してもよいし、複数の評価指標をパラレルに算出し、その多数決でステップS28に進むか否かを判定するように構成してもよい。
【0103】
次いで、ステップ27からステップS25に戻った場合、CPU3は、前回選択された性能因子X
jよりも順位の低い性能因子X
jを選択し、それを応答yに線形結合することで、応答yを更新する。
図8に示す例では、選択順位が2番目である性能因子X
4=x
4が2番目に取り込まれることになる。この場合、応答yは、切片β
0と、線形項β
1・x
1と、線形項β
4・x
4と、を結合してなる2変数関数となる(2ループ目)。その後、CPU3は、制御プロセスをステップS26へ進め、寄与度β
jの値を更新する。
図8に示す例では、前記x
1およびx
4の2変数関数に対して重回帰分析が実行され、切片β
0と、x
1の係数β
1と、x
4の係数β
4と、が算出される。これにより、2ループ目における応答yの定式化が完了する。その後、CPU3は、制御プロセスS27へ進め、評価指標CV
lに基づいた判定を実行する。
【0104】
CPU3は、ステップS25~S27を繰り返すことで、性能因子Xjを順番に取り込んで目的変数を更新する。そうして更新された目的変数において前記評価指標CVlに係る判定が満足された場合(例えば、AICが閾値未満となった場合)、CPU3は、現在の分割パターンPl(l=1,2,…,k)における応答yの定式化を完了し、制御プロセスをステップS27からステップS28に進める。その際、CPU3は、定式化された応答yの関数形と、その際に参照された評価指数CVlの値と、をRAM7に一時的に記憶させたり、HDD9に継続的に記憶させたりする。
【0105】
ステップS28において、CPU3は、交差検証の終了条件を満足したか否かを判定する。具体的に、このステップにおいて、CPU3は、k通りの全ての分割パターンPlにおいて応答yが定式化された否かを判定する。この判定がYESの場合はステップS29に進む一方、NOの場合は分割パターンPlを変更した上でステップS22に戻る。
【0106】
このように、本実施形態では、CPU3は、分割パターンPlをk回にわたって変更しつつ、変更された分割パターンP毎にステップS23~ステップS28を繰り返し実行した後に、制御プロセスをステップS29に進める。
【0107】
続いて、ステップS29では、CPU3は、各分割パターンにおいて算出された評価指標CVlに基づいて、ステップS25で行われた定式化の精度を検証する。詳しくは、このステップS29において、CPU3は、分割パターンPl毎に算出された評価指標CVlに基づいて、分割パターンPl毎に定式化されたk通りの応答yのうちのいずれか1つを選択する。さらに詳しくは、CPU3は、k個の評価指標CVlを互いに比較して、最も小さい評価指標CVlに対応した分割パターンPl、ひいては、寄与度βj、性能因子Xjおよび応答yを選択する。CPU3は、選択された分割パターンPlに対応した寄与度βj等を最終結果として出力する。
【0108】
ステップS29を完了すると、制御プロセスは、
図7に示すフローを終了し、
図3の性能因子抽出フェーズS2から設計知見抽出フェーズS3へと進む。
【0109】
(設計知見抽出フェーズS3)
図12は、モデル再構築ステップについて説明するための図である。
【0110】
設計知見抽出フェーズS3において、CPU3はモデル再構築ステップを実行する、具体的に、このモデル再構築ステップでは、性能因子Xjを構成する設計変数xiのうち、線形項として応答yに表れない設計変数xiからなる非線形項を、CPU3が応答yから排除する。
【0111】
例えば、
図12中の上側に示すように、前記性能因子抽出フェーズS2によって、5つの性能因子x
1、x
3、x
5、x
1・x
3およびx
2・x
4が抽出され、1つの切片β
0と、各性能因子に乗算されるべき寄与度β
1~β
5と、が得られたものとする。この場合、5つの性能因子のうちの最初の3つは線形項、つまり主効果に相当し、残りの2つは非線形項、特に交互作用項に相当する。ここでx
1~x
5は、いずれも標準化されているものとする。
【0112】
この場合、設計変数x1~x4について着目すると、5つの性能因子Xjのうち、x1およびx3については主効果と交互作用項の両方で応答yに表れる一方、x1およびx4については主効果としては応答yに表れず、交互作用項(f1=x2・x4)としてのみ応答yに表れるようになっている。
【0113】
ここで、x
1とx
3のみを変化させてx
2、x
4、x
5を固定した場合を考える。この場合、設計変数x
1のように主効果と交互作用項の両方に表れる場合、応答yの大きさは、主効果の影響によって全体的には直線状に変化するものの、
図12中の左図に示すように、x
3の大きさに応じて、その傾きが増減するものと考えられる。これは、x
1とx
3との間に作用する交互作用の影響であると解釈することができる。この場合、交互作用項が存在する場合は主効果が定まらず、交互作用をなす他方の設計変数x
3の値により、その主効果の傾きが変化することがわかる。
【0114】
一方、x2とx4のみを変化させてx1、x3、x5を固定した場合を考えると、設計変数x4のように主効果が存在せず、交互作用項f1のみが存在する場合、応答yの大きさは、交互作用項f1に表れる設計変数x2の値に完全に依存することになる。
【0115】
例えば、構造体を車体とみなし、設計変数を車体構成部品の板厚とみなした場合に、前述のような傾向について工学的に解釈すると、設計変数x1のように主効果と交互作用項の両方に表れる場合、設計変数x1に対応した部品の板厚が応答yによって表される性能に影響を与えながらも、設計変数x3に対応する他の部品との板厚のバランスにより、性能に与える影響度が変化するものと解釈することができる。
【0116】
一方、設計変数x4のように交互作用項のみが表れる場合、設計変数x1に対応した部品の板厚自体は性能に影響を与えず、設計変数x2に対応する他の部品の板厚にのみ依存して性能に影響を与えると解釈することができる。
【0117】
しかし、車体構造を考えた際に、他の部品との依存関係によってのみ性能に影響を与えるような構造は考えがたく、仮にそうした構造が存在していたとしても、全体的な影響度は、主効果を伴うものに比較して、相対的に低いと考えられる。
【0118】
そこで、モデル再構築ステップでは、
図12に示す交互作用項f1のように、対応する主効果が存在しない性能因子は削除して、前記定式化によって得られたモデルを再構築する。ここで、詳細な図示は省略するが、このモデル再構築ステップにおいて、CPU3は、重回帰分析を再度実行し、各性能因子に乗算されるべき寄与度を更新する。なお、重回帰分析を行うタイミングは、
図3に示すように、性能因子抽出フェーズS2を一旦完了した後のタイミングでもよいし、性能因子抽出フェーズS2中のタイミングでもよい。
【0119】
後者の場合、ステップS25で例示されるような選択確率に基づいた性能因子Xjの抽出に際し、一旦、主効果として表れる設計因子Xjを優先的に抽出した後に、その設計因子Xj(主効果として表れる設計因子Xj)を構成する設計変数xiを含んだ非線形項を取り込むように構成してもよい。
【0120】
-事前絞り込みフェーズS1および性能因子抽出フェーズS2の具体例-
図9は、性能因子抽出フェーズS2の具体例を示す図である。
図10は、衝突性能値に対する交互作用項の影響を示す図である。本願発明者らは、事前絞り込みフェーズS1および性能因子抽出フェーズS2の妥当性を数値計算によって検証した。妥当性の検証に際しては、人工的に生成した非線形関数の真の係数値(寄与度)と、前記2つのフェーズにより算出された寄与度β
jとの差異を比較する。人工的に作成した真の関数は、計20個の性能因子X
j(j=1,2,…,20)によって構成されており、線形項(主効果)を15個と、非線形項としての交互作用項を4個と、同じく非線形項としての1個と、によって構成され、その非線形関数を用いて50個のサンプルを生成する。また、サンプルデータの目的変数値にはノイズを与え、出力に影響を与えないダミーの性能因子(ダミー因子)を4つ加えた。生成したサンプルデータに前記事前絞り込みフェーズS1および性能因子抽出フェーズS2を適用した結果が、
図10の右から1列目に相当する。
図10の右から2列目は、従来手法の適用結果であり、右から3列目は、真の計数値に相当する。
【0121】
また、左から1列目において、“X_i(i=1,2,…,20)”は、設計変数x
iに相当する。また、各マスには、係数値(寄与度β
j)の値をグラフ化して示している。
図10に示すように、本願発明に係る手法を適用した場合に得られる寄与度β
jの値は、従来手法と比較して、真の計数値に近いものとなっている。また、交互作用効果を奏する非線形項についても、X_8*X_8を除いて近い値が得られることが分かる。X_8*X_8については、線形項X_8の寄与度β
jが大きめに算出されることで補償されているものと考えられる。
【0122】
特に従来手法では、決定係数R2の値こそ約96%を示しているが、本願発明に係る手法とは異なり、非線形項の係数値はいずれもゼロとされている。従来手法では、交互作用項を応答yに取り込むことができない。
【0123】
前述したように、交互作用項は、部品同士の依存関係を示しているものと考えられる。例えば、応答yとして車体の衝突性能値(特に前突フルラップ時における衝突性能値)を考える一方、設計変数x
iとして、車体構成部品の板厚を考えたケースにおいて、
図11に示すように、部品Aの板厚のみをアップさせた場合と、部品Bの板厚のみをアップさせた場合と、部品AおよびBの板厚を両方ともアップさせた場合を考える。
【0124】
ここで、
図11のグラフV1に示すように、部品Aの板厚のみをアップさせた場合は衝突性能値が悪化し、部品Bの板厚のみをアップさせた場合は衝突性能値が向上したものとする。ここで、部品AおよびBの板厚を両方ともアップさせたときに、仮に、部品Aに対応する設計変数と、部品Bに対応する設計変数との間に交互作用項が存在しない場合、衝突性能値は、部品Aの板厚のみをアップさせた場合と、部品Bの板厚のみをアップさせた場合との変化量の和となる(
図11のグラフV3を参照)。
【0125】
一方、部品AおよびBの板厚を両方ともアップさせたときに、仮に、部品Aに対応する設計変数と、部品Bに対応する設計変数との間に交互作用項が存在する場合、
図11のグラフV4に示すように、衝突性能値は、部品Aの板厚のみをアップさせた場合と、部品Bの板厚のみをアップさせた場合との変化量の和から相異することになる。そうした相異が生じるということは、交互作用項が存在していることを意味していることに他ならない。
図11に示す例では、部品Aと部品Bは、例えばBピラーと、サイドシルまたはルーフレールとのように、相互に荷重伝達し得る部品であることを示唆している。また、そのときの荷重伝達の大きさ、言い換えると部品同士の結合強さは、交互作用項の係数の大きさによって特徴付けることができる。交互作用項の係数の大きさ次第で、部品間の板厚のバランスが衝突性能値に与える影響が変動する。このことは、板厚のバランスによって、柄ネルギーの伝達経路が大きく変動し得ることを示している。
【0126】
<構造体の性能の定式化について>
図8を用いて説明したように、本実施形態に係る設計支援方法は、性能因子X
jの集合に対して複数種類の抽出方法を適用することで、性能因子X
jの選択順位を設定する。この選択順位は、性能因子X
jの重要度を示しているものと云える。選択順位の設定に際し、特定の抽出方法のみ用いるのではなく、複数の抽出方法を用いることで、選択順位をより適切に設定することができる。そして、選択順位が相対的に高い性能因子X
jについては、構造体の性能を記述するモデル式yに積極的に取り込む一方、選択順位が相対的に低い性能因子X
jについては、モデル式yには消極的に取り込むようにすることで、定式化の際に用いられる項の数を抑制しつつも、構造体の性能を忠実に記述することができる。これにより、構造体の性能をシンプルかつ高速で定式化することができるようになる。
【0127】
また、
図5に例示したように、性能因子X
jには、設計変数x
i同士を乗算してなる非線形項、特に交互作用項x
i・x
kが含まれるまれる。これにより、部品同士の結合に関係した交互作用をモデルに含めることができる。このことは、構造体の衝突性能等、動的な現象のモデル化に際して有効である。
【0128】
また、
図4に例示したように、本実施形態に係る設計支援方法は、記第3の態様によれば、選択順位に基づいた性能因子X
jの選択に先だって、木構造T1を用いた性能因子X
jの絞り込みを実行する。ここで、
図6に例示したように、終端子ノードから設計変数x
iの係数を排除することで、より高速で絞り込むことができる。その際に、木構造T1の階層数を事前に設定しておくことで、支援対象とする構造体に適した絞り込みを行うことができる。これにより、より効率的な定式化を行うことができるようになる。
【0129】
また、
図12を用いて説明したように、非線形項を構成する設計変数x
iのうち、1次の線形項としてモデル式に表れず、交互作用項としてのみモデルに表れる設計変数x
iについては、モデル式から排除する。この工程を行うことで、考慮すべき性能因子X
jの数を減らすことができるため、計算量を減少させることができる。
【0130】
また、
図8を用いて説明したように、抽出頻度の高い性能因子X
j、例えば全ての抽出方法において抽出されるような性能因子については、選択順位を高順位に設定する一方、抽出頻度の低い性能因子、例えばいずれか1つの抽出方法でしか抽出されないような性能因子については、選択順位を低順位に設定する。このように設定することで、選択順位をより適切に設定し、ひいては構造体の性能をより忠実に定式化することができるようになる。
【0131】
その際、各性能因子Xjに乗算される係数βjの高低に基づいて抽出頻度を判定することで、抽出頻度を明確に判定することができ、ひいては、構造体の性能をシンプルかつ高速で定式化する上で有利になる。その際、スパース性を有する回帰分析、ステップワイズ回帰分析を用いることで、係数βjの高低をさらに明確に判定することができるようになる。
【0132】
また、
図9を用いて説明したように、k分割交差検証を用いて定式化を行うことで、よりロバストな定式化を行うことができるようになる。このことは、構造体の性能のシンプルかつ高速な定式化と、モデル式のロバスト性と、を両立する上で有効である。
【0133】
《他の実施形態》
また、前記実施形態では、コンピュータ1の一例として、1つのCPU3を有するものを例示したが、本開示は、その例に限定されない。コンピュータ1には、パーソナルコンピュータに加え、スーパーコンピュータ、PCクラスタ等の並列計算機も含まれる。例えば、
図3の事前絞り込みフェーズS1、性能因子抽出フェーズS2等、計算時間を要する工程のみを並列計算機に実行させ、設計知見抽出フェーズS3等、残りの工程をパーソナルコンピュータに実行させてもよい。
【0134】
すなわち、本開示における「演算部」は、特定の計算機における演算部と、その他の計算機における演算部と、を組み合わせて構成してもよい。その場合、「コンピュータ1」の後は、複数のコンピュータからなる計算システムを意味することになる。記憶部についても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上説明したように、本開示は、自動車の車体のように、複数の部品からなる構造体の設計を支援する上で有用であり、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0136】
1 コンピュータ
3 CPU(演算部)
7 RAM(記憶部)
Ds 学習データ
Dv 検証データ
Pl 分割パターン
S1 事前絞り込みフェーズ(事前絞り込みステップ)
S2 性能因子抽出フェーズ
S21 読込ステップ
S23 抽出ステップ
S24 順位設定ステップ
S25 定式化ステップ
S27 指標算出ステップ
S29 検証ステップ
S3 設計知見抽出フェーズ(モデル再構築ステップ)
T1 木構造
xi 設計変数
Xj 性能因子