(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】超音波診断装置、超音波診断装置の制御方法、及び、超音波診断装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/06 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
A61B8/06
(21)【出願番号】P 2021041322
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 章裕
【審査官】井海田 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-160786(JP,A)
【文献】特開平08-322841(JP,A)
【文献】特開2000-267658(JP,A)
【文献】特開平04-218143(JP,A)
【文献】特開2005-296253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 ー 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブを用いて超音波を送受波して、被検体内の観察対象からの超音波エコーに係る受信信号を得る送受信部と、
前記受信信号に含まれるドプラ情報を周波数解析し、前記観察対象の動きの速度毎の信号強度を表すドプラスペクトルを生成するドプラ信号処理部と、
前記ドプラ信号処理部から順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルに基づいて、ドプラ波形を生成するドプラ波形生成部と、
前記ドプラ信号処理部から順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルそれぞれにおいて、前記観察対象の動きの最大速度を表すトレース点を決定し、当該トレース点に基づいて前記ドプラ波形に対してトレースラインを形成するトレース処理部と、
を備え、
前記トレース処理部は、
前記ドプラスペクトル中から前記信号強度が最大となる第1の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第1の信号強度最大点を含む第1のピーク山中において、前記第1の信号強度最大点よりも高速域側で、第1のトレース候補点を設定し、
前記ドプラスペクトル中の前記第1のトレース候補点よりも高速域側で、前記第1の信号強度最大点の次に前記信号強度が最大となる第2の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第2の信号強度最大点を含む第2のピーク山中において、前記第2の信号強度最大点よりも高速域側で、第2のトレース候補点を設定し、
所定の基準を用いて、前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうちのいずれか一方を前記トレース点として決定する、
超音波診断装置。
【請求項2】
前記トレース処理部は、前記第2の信号強度最大点の前記信号強度が閾値未満の場合、前記第1のトレース候補点を前記トレース点として決定し、前記第2の信号強度最大点の前記信号強度が前記閾値以上の場合、前記第2のトレース候補点を前記トレース点として決定する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記トレース処理部は、前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうち、一時刻前の前記ドプラスペクトル中で決定された前記トレース点に速度が近い方を、現在時刻の前記ドプラスペクトルにおける前記トレース点として決定する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記トレース処理部は、前記第2の信号強度最大点の前記信号強度が閾値未満の場合、前記第1のトレース候補点を前記トレース点として決定し、前記第2の信号強度最大点の前記信号強度が前記閾値以上の場合、前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうち、一時刻前の前記ドプラスペクトル中で決定された前記トレース点に速度が近い方を、現在時刻の前記ドプラスペクトルにおける前記トレース点として決定する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記トレース処理部は、前記超音波診断装置の診断条件に基づいて、前記所定の基準の基準内容を設定する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記トレース処理部は、前記超音波診断装置の診断条件に基づいて、前記所定の基準として使用する基準を、以下の基準A)、基準B)及び基準C)のうちから選択する、
基準A)前記第2の信号強度最大点の前記信号強度が閾値未満の場合、前記第1のトレース候補点を前記トレース点として決定し、前記第2の信号強度最大点の前記信号強度が前記閾値以上の場合、前記第2のトレース候補点を前記トレース点として決定する、
基準B)前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうち、一時刻前の前記ドプラスペクトル中で決定された前記トレース点に速度が近い方を、現在時刻の前記ドプラスペクトルにおける前記トレース点として決定する、
基準C)前記第2の信号強度最大点の前記信号強度が前記閾値未満の場合、前記第1のトレース候補点を前記トレース点として決定し、前記第2の信号強度最大点の前記信号強度が前記閾値以上の場合、前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうち、一時刻前の前記ドプラスペクトル中で決定された前記トレース点に速度が近い方を、現在時刻の前記ドプラスペクトルにおける前記トレース点として決定する、
請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記トレース処理部は、前記送受信部におけるドプラスキャンモードが、ドプラモードとBモード及び/又はカラーフローモードを時分割で同時に実行するSimul(Simultaneous)モードか、ドプラモードのみを連続的に実行するUpdateモードか、に基づいて、前記所定の基準の基準内容を設定する、
請求項5又は6に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記トレース処理部は、前記送受信部におけるドプラスキャンモードが、PWドプラ、CWドプラ、又は、組織ドプラのいずれであるかに基づいて、前記所定の基準の基準内容を設定する、
請求項5乃至7のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記トレース処理部は、前記観察対象の種別に基づいて、前記所定の基準の基準内容を設定する、
請求項5乃至8のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記トレース処理部は、前記超音波プローブの種別に基づいて、前記所定の基準の基準内容を設定する、
請求項5乃至9のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記観察対象は、前記被検体の血管内を通流する血流である、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
超音波診断装置の
デジタル演算回路が行う制御方法であって、
前記デジタル演算回路が、
超音波プローブを用いて超音波を送受波して、被検体内の観察対象からの超音波エコーに係る受信信号を得る第1処理と、
前記受信信号に含まれるドプラ情報を周波数解析し、前記観察対象の動きの速度毎の信号強度を表すドプラスペクトルを生成する第2処理と、
前記第2処理で順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルに基づいて、ドプラ波形を生成する第3処理と、
前記第2処理で順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルそれぞれにおいて、前記観察対象の動きの最大速度を表すトレース点を決定し、当該トレース点に基づいて前記ドプラ波形に対してトレースラインを形成する第4処理と、
を
行い、
前記第4処理では、
前記ドプラスペクトル中から前記信号強度が最大となる第1の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第1の信号強度最大点を含む第1のピーク山中において、前記第1の信号強度最大点よりも高速域側で、第1のトレース候補点を設定し、
前記ドプラスペクトル中の前記第1のトレース候補点よりも高速域側で、前記第1の信号強度最大点の次に前記信号強度が最大となる第2の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第2の信号強度最大点を含む第2のピーク山中において、前記第2の信号強度最大点よりも高速域側で、第2のトレース候補点を設定し、
所定の基準を用いて、前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうちのいずれか一方を前記トレース点として決定する、
制御方法。
【請求項13】
超音波診断装置の制御プログラムであって、
超音波プローブを用いて超音波を送受波して、被検体内の観察対象からの超音波エコーに係る受信信号を得る第1処理と、
前記受信信号に含まれるドプラ情報を周波数解析し、前記観察対象の動きの速度毎の信号強度を表すドプラスペクトルを生成する第2処理と、
前記第2処理で順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルに基づいて、ドプラ波形を生成する第3処理と、
前記第2処理で順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルそれぞれにおいて、前記観察対象の動きの最大速度を表すトレース点を決定し、当該トレース点に基づいて前記ドプラ波形に対してトレースラインを形成する第4処理と、
を備え、
前記第4処理では、
前記ドプラスペクトル中から前記信号強度が最大となる第1の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第1の信号強度最大点を含む第1のピーク山中において、前記第1の信号強度最大点よりも高速域側で、第1のトレース候補点を設定し、
前記ドプラスペクトル中の前記第1のトレース候補点よりも高速域側で、前記第1の信号強度最大点の次に前記信号強度が最大となる第2の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第2の信号強度最大点を含む第2のピーク山中において、前記第2の信号強度最大点よりも高速域側で、第2のトレース候補点を設定し、
所定の基準を用いて、前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうちのいずれか一方を前記トレース点として決定する、
制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置、超音波診断装置の制御方法、及び、超音波診断装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドプラの原理を利用して、被検体の血流速度等を測定し、これにより得られるドプラ波形に対してトレースラインを自動的に描画するオートトレース機能が具備した超音波診断装置が知られている。この種の超音波診断装置では、ドプラモードとしては、例えば、PW(パルスウエーブ)モードとCW(コンティニュアスウエーブ)モードが用いられる。前者のPWモードでは超音波パルスを生体内へ送波するものであり、特定の深さに設定されたサンプルゲートから抽出されるドプラ情報が周波数解析され、これにより得られるドプラスペクトル(血流速度毎の信号強度を表したもの)からドプラ波形が形成される。後者のCWモードでは連続波超音波が送波され、その超音波ビーム軸上からの反射波が受波される。それにより得られた受信信号からドプラ情報が抽出され、上記同様にドプラ波形が形成される。
【0003】
図1Aは、ドプラ波形の一例を示す図である。
図1Bは、あるタイミング(
図1A中の矢印のタイミング)で得られたドプラスペクトルの一例を示す図である。
【0004】
ドプラスペクトルは、時々刻々と変化する観察対象の動きのその時々の速度成分を示す周波数特性であり、例えば、
図1Bに示すように、観察対象の動きの速度毎の信号強度(パワーとも称される)を表すスペクトル情報である。又、ドプラ波形は、時系列のドプラスペクトルに基づいて生成される観察対象の動きの速度(即ち、ドプラ偏移周波数)の時間的変化の情報であり、例えば、
図1Aに示すように、時間を横軸、速度(即ち、ドプラ偏移周波数)を縦軸として、各速度(即ち、周波数成分)の信号強度(パワーとも称される)を輝度(階調)とした波形で表現される。
【0005】
オートトレース機能は、時系列のドプラスペクトルそれぞれにおいて、観察対象の動きの最大速度をトレース点として決定し、当該トレース点をもとに、ドプラ波形に対してトレースラインを形成するものである。
【0006】
実際の診断の場面では、かかるトレースラインを利用して各種の診断がなされており、例えば、かかるトレースラインを利用して、PSV (Peak Systolic Velocity:収縮期最高血流速度)による血流評価や、VTI (Velocity-Time Integral:速度時間積分値)による心臓左室収縮能評価が行われる。尚、PSVによる血流評価の一例としては、トレースラインの1心拍中の速度最大点をPSVとして検出し、頸動脈の狭窄評価などがある。又、VTIによる心臓左室収縮能評価の一例としては、心臓の左室流出路で、PWドプラ速度波形を取得し、トレースラインから、VTI(即ち、面積)を算出し、VTIと血流断面積とから心拍出量を算出する評価などがある。
【0007】
このような背景から、この種の超音波診断装置においては、トレースラインを精度良く形成することが求められており、例えば、特許文献1では、ドプラスペクトル中で、流れ方向側端部から周波数0Hzの方向に向かって順に検索し、該データ値が予め設定された閾値を所定の周波数幅中で所定回数以上越えた時、その最初に越えた位置を最高周波数とする手法等が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、従来技術に係る超音波診断装置においては、ドプラスペクトル中から、ピーク点(信号強度が極大値を取る位置を表す。以下同じ)を抽出し、当該ピーク点を含むピーク山において、当該ピーク点よりも信号強度が所定量の低い地点を、観察対象の動きの最大速度を表すトレース点として決定する構成となっている。
【0010】
しかしながら、一般的に、ドプラスペクトル中には、観察対象の動き(例えば、血流)に依拠した信号成分の他に、ノイズ成分(熱ノイズやクラッタ信号等)が重畳しており、従来技術に係る超音波診断装置の最大速度の抽出アルゴリズムでは、ドプラスペクトル中から、ノイズ成分を観察対象の動きの最大速度として抽出してしまう場合があった。例えば、
図1Bでは、ドプラスペクトル中には、2つのピーク山が表出しているが、ここでは、本来、2つ目のピーク山に含まれるv2の位置を観察対象の動きの最大速度として決定すべきところ、ノイズ成分由来の1つ目のピーク山中のv1の位置を観察対象の動きの最大速度(即ち、トレース点)として決定してしまった状況を表している。このように、トレース点を誤った位置に決定してしまった場合、例えば、
図1Aに示すように、トレースラインにスパイク(
図1Aの矢印位置を参照)が発生し、超音波診断装置は、誤った診断結果を提示することとなる。
【0011】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたもので、ドプラモード実行時に、ドプラスペクトル中から観察対象の動きの最大速度を正確に抽出し、ドプラ波形に対して高精度なトレースラインを形成することを可能とする超音波診断装置、超音波診断装置の制御方法、及び、超音波診断装置の制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
超音波プローブを用いて超音波を送受波して、被検体内の観察対象からの超音波エコーに係る受信信号を得る送受信部と、
前記受信信号に含まれるドプラ情報を周波数解析し、前記観察対象の動きの速度毎の信号強度を表すドプラスペクトルを生成するドプラ信号処理部と、
前記ドプラ信号処理部から順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルに基づいて、ドプラ波形を生成するドプラ波形生成部と、
前記ドプラ信号処理部から順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルそれぞれにおいて、前記観察対象の動きの最大速度を表すトレース点を決定し、当該トレース点に基づいて前記ドプラ波形に対してトレースラインを形成するトレース処理部と、
を備え、
前記トレース処理部は、
前記ドプラスペクトル中から前記信号強度が最大となる第1の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第1の信号強度最大点を含む第1のピーク山中において、前記第1の信号強度最大点よりも高速域側で、第1のトレース候補点を設定し、
前記ドプラスペクトル中の前記第1のトレース候補点よりも高速域側で、前記第1の信号強度最大点の次に前記信号強度が最大となる第2の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第2の信号強度最大点を含む第2のピーク山中において、前記第2の信号強度最大点よりも高速域側で、第2のトレース候補点を設定し、
所定の基準を用いて、前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうちのいずれか一方を前記トレース点として決定する、
超音波診断装置である。
【0013】
又、他の局面では、
超音波診断装置の制御方法であって、
超音波プローブを用いて超音波を送受波して、被検体内の観察対象からの超音波エコーに係る受信信号を得る第1処理と、
前記受信信号に含まれるドプラ情報を周波数解析し、前記観察対象の動きの速度毎の信号強度を表すドプラスペクトルを生成する第2処理と、
前記第2処理で順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルに基づいて、ドプラ波形を生成する第3処理と、
前記第2処理で順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルそれぞれにおいて、前記観察対象の動きの最大速度を表すトレース点を決定し、当該トレース点に基づいて前記ドプラ波形に対してトレースラインを形成する第4処理と、
を備え、
前記第4処理では、
前記ドプラスペクトル中から前記信号強度が最大となる第1の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第1の信号強度最大点を含む第1のピーク山中において、前記第1の信号強度最大点よりも高速域側で、第1のトレース候補点を設定し、
前記ドプラスペクトル中の前記第1のトレース候補点よりも高速域側で、前記第1の信号強度最大点の次に前記信号強度が最大となる第2の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第2の信号強度最大点を含む第2のピーク山中において、前記第2の信号強度最大点よりも高速域側で、第2のトレース候補点を設定し、
所定の基準を用いて、前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうちのいずれか一方を前記トレース点として決定する、
制御方法である。
【0014】
又、他の局面では、
超音波診断装置の制御プログラムであって、
超音波プローブを用いて超音波を送受波して、被検体内の観察対象からの超音波エコーに係る受信信号を得る第1処理と、
前記受信信号に含まれるドプラ情報を周波数解析し、前記観察対象の動きの速度毎の信号強度を表すドプラスペクトルを生成する第2処理と、
前記第2処理で順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルに基づいて、ドプラ波形を生成する第3処理と、
前記第2処理で順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルそれぞれにおいて、前記観察対象の動きの最大速度を表すトレース点を決定し、当該トレース点に基づいて前記ドプラ波形に対してトレースラインを形成する第4処理と、
を備え、
前記第4処理では、
前記ドプラスペクトル中から前記信号強度が最大となる第1の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第1の信号強度最大点を含む第1のピーク山中において、前記第1の信号強度最大点よりも高速域側で、第1のトレース候補点を設定し、
前記ドプラスペクトル中の前記第1のトレース候補点よりも高速域側で、前記第1の信号強度最大点の次に前記信号強度が最大となる第2の信号強度最大点を探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第2の信号強度最大点を含む第2のピーク山中において、前記第2の信号強度最大点よりも高速域側で、第2のトレース候補点を設定し、
所定の基準を用いて、前記第1のトレース候補点と前記第2のトレース候補点のうちのいずれか一方を前記トレース点として決定する、
制御プログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係る超音波診断装置によれば、ドプラモード実行時に、ドプラスペクトル中から観察対象の動きの最大速度を正確に抽出し、ドプラ波形に対して高精度なトレースラインを形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1B】あるタイミング(
図1A中の矢印のタイミング)で得られたドプラスペクトルの一例を示す図
【
図2】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の外観の一例を示す図
【
図3】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の全体構成の一例を示す図
【
図4】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置のドプラ信号処理部の構成の一例を示す図
【
図5】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置のトレース処理部の動作の具体例を示すフロー図
【
図6】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置のトレース処理部によるトレース候補点の抽出方法を示す図
【
図7A】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置のトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図7B】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置のトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図8A】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置のトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図8B】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置のトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図9A】変形例1に係るトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図9B】変形例1に係るトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図10A】変形例1に係るトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図10B】変形例1に係るトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図11】変形例2に係るトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図12】変形例2に係るトレース処理部にて、トレース候補点から最終的なトレース点を決定する処理について説明する図
【
図13】変形例3に係るトレース処理部の動作の具体例を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[超音波診断装置の構成]
以下、
図2~
図4を参照して、本発明の一実施形態に係る超音波診断装置(以下、「超音波診断装置A」と称する)の構成について説明する。
【0019】
図2は、超音波診断装置Aの外観の一例を示す図である。
図3は、超音波診断装置Aの全体構成の一例を示す図である。
【0020】
超音波診断装置Aは、被検体内の形状、性状又は動態を超音波画像として可視化し、画像診断するために用いられる。尚、本実施形態では、超音波診断装置Aの観察対象の一例として、被検体の血管内を通流する血流を取り上げる。但し、超音波診断装置Aの観察対象としては、被検体の血流以外の組織であってもよい。
【0021】
超音波診断装置Aは、
図2に示すように、超音波診断装置本体100及び超音波プローブ200を備える。
【0022】
超音波プローブ200は、超音波ビーム(ここでは、1~30MHz程度)を被検体(例えば、人体)内に対して送信するとともに、送信した超音波ビームのうち被検体内で反射された超音波エコーを受信して電気信号に変換する音響センサーとして機能する。
【0023】
ユーザーは、超音波プローブ200の超音波ビームの送受信面を被検体に接触させて超音波診断装置Aを動作させ、超音波診断を行う。尚、超音波プローブ200には、コンベックスプローブ、リニアプローブ、セクタプローブ、又は三次元プローブ等の任意のものを適用することができる。
【0024】
超音波プローブ200は、例えば、マトリクス状に配設された複数の振動子(例えば、圧電素子)と、当該複数の振動子の駆動状態のオンオフを個別に又はブロック単位(以下、「チャンネル」と称する)で切替制御するためのチャンネル切替部(例えば、マルチプレクサ)を含んで構成される。超音波プローブ200の各振動子は、超音波診断装置本体100(送信部1a)で発生された電圧パルスを超音波ビームに変換して被検体内へ送信し、被検体内で反射した超音波エコーを受信して電気信号(以下、「受信信号」と称する)に変換し、超音波診断装置本体100(受信部1b)へ出力する。
【0025】
超音波診断装置本体100は、送受信部1(送信部1a、受信部1b)、断層画像生成部2、ドプラ信号処理部3、表示処理部4、モニタ5、操作入力部6、及び、制御装置10を備えている。
【0026】
送受信部1の送信部1aは、超音波プローブ200に対して駆動信号たる電圧パルスを送出する送信器である。送信部1aは、例えば、高周波パルス発振器、パルス設定部等を含んで構成される(いずれも図示せず)。送信部1aは、高周波パルス発振器で生成した電圧パルスを、パルス設定部で設定した電圧振幅、パルス幅及び送出タイミングに調整して、超音波プローブ200のチャンネルごとに送出する。
【0027】
送信部1aは、超音波プローブ200の複数のチャンネルそれぞれにパルス設定部を有しており、複数のチャンネルごとに電圧パルスの電圧振幅、パルス幅及び送出タイミングを設定可能になっている。例えば、送信部1aは、複数のチャンネルに対して適切な遅延時間を設定することによって目標とする深度を変更したり、異なるパルス波形を発生させる(例えば、Bモードでは1波のパルス、PWドプラモードでは4波のパルスを送出する)。
【0028】
送受信部1の受信部1bは、超音波プローブ200で生成された超音波エコーに係る受信信号を受信処理する受信器である。受信部1bは、プリアンプ、AD変換部、受信ビームフォーマー、及び処理系統切替部を含んで構成される(いずれも図示せず)。
【0029】
受信部1bは、プリアンプにて、チャンネルごとに微弱な超音波エコーに係る受信信号を増幅し、AD変換部にて、受信信号を、デジタル信号に変換する。そして、受信部1bは、受信ビームフォーマーにて、各チャンネルの受信信号を整相加算することで複数チャンネルの受信信号を1つにまとめて、音響線データとする。又、受信部1bは、処理系統切替部にて、受信ビームフォーマーで生成された受信信号を送信する先を切り替え制御し、実行する動作モードに応じて、断層画像生成部2又はドプラ信号処理部3に一方に出力する。
【0030】
断層画像生成部2は、Bモード動作の際に受信部1bから受信信号を取得して、被検体の内部の断層画像(Bモード画像とも称される)を生成する。
【0031】
断層画像生成部2は、例えば、超音波プローブ200が深度方向に向けてパルス状の超音波ビームを送信した際に、その後に検出される超音波エコーの信号強度(Intensity)を時間的に連続してラインメモリに蓄積する。そして、断層画像生成部2は、超音波プローブ200からの超音波ビームが被検体内を走査するに応じて、各走査位置での超音波エコーの信号強度をラインメモリに順次蓄積し、フレーム単位となる二次元データを生成する。そして、断層画像生成部2は、被検体の内部の各位置で検出される超音波エコーの信号強度を輝度値に変換することによって、断層画像を生成する。
【0032】
断層画像生成部2は、例えば、包絡線検波回路、ダイナミックフィルター及び対数圧縮回路を含んで構成される。包絡線検波回路は、受信信号を包絡線検波して、信号強度を検出する。対数圧縮回路は、包絡線検波回路で検出された受信信号の信号強度に対して対数圧縮を行う。ダイナミックフィルターは、深度に応じて周波数特性を変化させたバンドパスフィルターであって、受信信号に含まれるノイズ成分を除去する。
【0033】
ドプラ信号処理部3は、PWドプラモード、CWドプラモード及び組織ドプラモードの際に受信部1bから受信信号を取得して、血流からの超音波エコーの送信周波数に対するドプラ偏移周波数を検出する。そして、ドプラ信号処理部3は、ドプラ偏移周波数毎(即ち、血流の速度毎)の信号強度を表すドプラスペクトルに係る情報を、順次、表示処理部4に出力する。尚、血流の速度とドプラ偏移周波数とは、以下の式(1)のように、正比例の関係にある。
V = c/2cosθ × Fd/F0 …(1)
(但し、V:血流速度、F0:超音波ビームの送信周波数(または受信周波数)、Fd:ドプラ偏移周波数、c:生体内音速、θ:超音波ビームのビーム方向と血流方向のなす交差角度)
【0034】
例えば、ドプラ信号処理部3は、PWドプラモード動作においては、超音波プローブ200が、パルス繰り返し周波数に従って一定間隔でパルス状の超音波ビームを送信している際に、当該パルス繰り返し周波数に同期して超音波エコーに係る受信信号をサンプリングする。そして、ドプラ信号処理部3は、例えば、同じサンプルゲート位置からのn番目の超音波ビームに係る超音波エコーとn+1番目の超音波ビームに係る超音波エコーの位相差に基づいて、ドプラ偏移周波数を検出する。
【0035】
図4は、PWドプラを実行するドプラ信号処理部3の構成の一例を示す図である。PWドプラを実行するドプラ信号処理部3は、例えば、バンドパスフィルター3a、直交検波部3b、ローパスフィルター3c、レンジゲート3d、積分回路3e、ウォールモーションフィルター3f、及びFFT解析部3gを含んで構成される。バンドパスフィルター3aは、不必要な周波数成分を除去する。直交検波部3bは、受信信号に対して、送信した超音波パルスと同相の参照信号及び送信した超音波パルスとπ/2だけ位相の異なる参照信号をミキシングして、直交検波信号を生成する。ローパスフィルター3cは、直交検波信号の高周波成分を除去して、ドプラ偏移周波数に係る受信信号を生成する。レンジゲート3dは、サンプルゲート深度からの超音波エコーのみを取得する。積分回路3eは、レンジゲート3dで取得した受信信号を積分する。ウォールモーションフィルター3fは、低域除去して、クラッタ成分(組織からの超音波エコー)を除去する処理を行う。FFT解析部3gは、このようにして取得した受信信号のドプラ偏移周波数成分を周波数解析する。
【0036】
尚、超音波診断装置Aは、観察対象の動きを表すドプラ情報(即ち、ドプラ偏移周波数)を取得する際に、PWドプラモード、CWドプラモード及び組織ドプラモードから選択的に実行可能となっていてもよい。又、超音波診断装置Aは、かかるドプラスキャンモードを実行する際に、ドプラモードとBモード及び/又はカラーフローモードを時分割で同時に実行するSimul(Simultaneous)モードと、ドプラモードのみを連続的に実行するUpdateモードと、を選択可能となっていてもよい。
【0037】
表示処理部4は、断層画像生成部2から出力される断層画像や、ドプラ信号処理部3から出力されるドプラスペクトルを取得して、モニタ5に表示させる表示用画像を生成する。
【0038】
表示処理部4は、ドプラ波形生成部4a、及び、グラフィック処理部4bを有している。
【0039】
ドプラ波形生成部4aは、例えば、ドプラ信号処理部3から順次出力される時系列のドプラスペクトルに基づいて、ドプラ波形を生成する。ドプラ波形は、
図1Aに示したように、時系列のドプラスペクトルに基づいて生成される観察対象の動きの速度(即ち、ドプラ偏移周波数)の時間的変化の情報であり、例えば、各時点の血流速度は、一本のラインのような形態で表現され、血流速度毎(即ち、ドプラ偏移周波数毎)の信号強度が画素の輝度の大きさによって表現される。
【0040】
グラフィック処理部4bは、断層画像生成部2から出力される断層画像や、ドプラ波形生成部4aに生成されたドプラ波形画像に対して、各種の画像処理を施す。そして、グラフィック処理部4bは、これらの断層画像とドプラ波形画像とを用いて、表示用画像を生成する。
【0041】
又、グラフィック処理部4bは、制御装置10(ここでは、トレース処理部12)から、ドプラ波形に対して形成するトレースラインの情報が指定された場合、ドプラ波形の画像に対して、トレースラインを重ね合わせた画像(
図1Aを参照)を生成する。
【0042】
尚、断層画像生成部2、ドプラ信号処理部3、及び表示処理部4は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)等で構成されたデジタル演算回路によって実現される。但し、これらの構成は、種々に変形可能であり、例えば、その一部又は全部がハードウェア回路によって実現されてもよいし、プログラムに従った演算処理によって実現されてもよい。
【0043】
モニタ5は、表示処理部4に生成された表示用画像を表示するディスプレイであって、例えば、液晶ディスプレイにて構成される。
【0044】
操作入力部6は、ユーザーが入力操作を行うためのユーザーインターフェイスであり、例えば、押しボタンスイッチ、キーボード、及びマウス等で構成される。操作入力部6は、ユーザーが行った入力操作を操作信号に変換し、制御装置10に入力する。
【0045】
制御装置10は、超音波プローブ200、送受信部1、断層画像生成部2、ドプラ信号処理部3、表示処理部4、モニタ5、及び、操作入力部6と信号を相互にやり取りし、これらを統括制御する。尚、制御装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含んで構成されている。そして、制御装置10の各機能は、CPUがROMやRAMに格納された制御プログラムや各種データを参照することによって実現される。但し、制御装置10の機能の一部又は全部は、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア回路、又はこれらの組み合わせによっても実現できることは勿論である。
【0046】
制御装置10は、送受信制御部11、及び、トレース処理部12を備えている。
【0047】
送受信制御部11は、操作入力部6を介してユーザーに設定された超音波プローブ200の種類(例えば、コンペックス型、セクタ型、又は、リニア型等)、被検体内の撮像対象の深度、及び、撮像モード(例えば、Bモード、PWドプラモード、カラードプラモード、又は、パワードプラモード)等に基づいて、超音波ビームの送受信条件を決定する。そして、送受信制御部11は、このようにして決定した送受信条件となるように、送信部1a及び受信部1bそれぞれを制御して、超音波プローブ200における超音波の送受波を実行させる。
【0048】
トレース処理部12は、ドプラ信号処理部3から順次出力される時系列のドプラスペクトルそれぞれにおいて、観察対象の動きの最大速度を表すトレース点を決定し、当該トレース点に基づいてドプラ波形に対してトレースラインを形成する(詳細は後述)。尚、トレースラインは、例えば、
図1Aに示すように、ドプラ信号処理部3から出力された各時刻のドプラスペクトルのトレース点を、連結することによって、形成される。
【0049】
尚、制御装置10は、トレース処理部12によって形成されたトレースラインを用いて、計測を行う計測部を有していてもよい。かかる計測部は、例えば、上記したように、トレースラインの1心拍中の速度最大点をPSVとして検出してユーザーに提示したり、トレースラインの1心拍中のVTI(即ち、面積)から心拍出量を算出してユーザーに提示したりしてもよい。
【0050】
[トレース処理部の詳細構成]
以下、
図5~
図8Bを参照して、トレース処理部12の詳細構成の一例について、説明する。
【0051】
図5は、トレース処理部12の動作の具体例を示すフロー図である。
【0052】
図6は、トレース処理部12によるトレース候補点(最終的にトレース点を決定する際の候補点を表す。以下同じ)の抽出方法を示す図である。尚、
図6は、あるタイミングで取得されたドプラスペクトルであり、
図6では、トレース処理部12によるトレース候補の抽出処理によって、当該ドプラスペクトル中で抽出される2つのトレース候補点Q1b、Q2bを示している。
【0053】
図7A、
図7B、
図8A、
図8Bは、トレース処理部12が、
図6の抽出方法で抽出されたトレース候補点Q1b、Q2bから最終的なトレース点を選択する処理について説明する図である。
図7Aは、トレース候補点Q1bがトレース点として選択されるケースを表し、
図7Bは、トレース候補点Q2bがトレース点として選択されるケースを表している。
【0054】
尚、
図8Aのドプラ波形は、
図7Aのドプラスペクトルとその前後のタイミングに得られたドプラスペクトルから形成されたドプラ波形である。又、
図8Bのドプラ波形は、
図7Bのドプラスペクトルとその前後のタイミングに得られたドプラスペクトルから形成されたドプラ波形である。
【0055】
一般に、ドプラスペクトル中には、観察対象(ここでは、血流)の動きに依拠したドプラ信号成分の他に、ノイズ成分が重畳したものとなっている。この種のノイズ成分の大部分は、超音波診断装置A内の電気回路に起因する熱ノイズと、被検体内の血流以外の組織(例えば、血管壁や血管周辺の臓器)からの超音波エコーに起因するクラッタ信号である。熱ノイズは、一般に、微弱なホワイトノイズであり、信号強度に係る閾値を適切に設定すれば、熱ノイズに起因するノイズ成分と、血流の動きに依拠したドプラ信号成分とを識別することが可能である。一方、クラッタ信号は、血流の動きに依拠したドプラ信号以上に大きなピーク山として表出する場合もあるが、その速度は、通常、血流よりも遅い。そのため、ドプラ信号の速度に着目することで、クラッタ信号と、血流の動きに依拠したドプラ信号とを識別することが可能である。
【0056】
本願の発明者は、この点に着目し、ドプラスペクトル中から、血流の動きに依拠したドプラ信号を抽出し、その最大速度を特定するアルゴリズムに想到した。尚、特許文献1に係る従来技術では、ドプラスペクトル中で、流れ方向側端部から周波数0Hzの方向に向かって順に検索して、最高周波数(即ち、観察対象の動きの最大速度)を決定するため、
図1A、
図1Bのように、ドプラスペクトル中に、2つのピーク山が存在する状況下でも、より高速域側に存在するピーク山中において、トレース点(
図1Bのv2の位置)を決定することが可能である。しかしながら、特許文献1に係る従来技術では、高速域側に存在するピーク山がノイズ成分に起因する場合にまで、高速域側に存在するピーク山中でトレース点を決定してしまうおそれがある。換言すると、血流の動きに依拠したドプラ信号を適確に抽出するためには、熱ノイズに対応するための分離処理と、クラッタ信号に対応するための分離処理と、を適確に行う必要がある。
【0057】
そこで、本実施形態に係るトレース処理部12は、まず、ドプラスペクトル中から、2つのトレース候補点(以下、「第1のトレース候補点」及び「第2のトレース候補点」と称する)を抽出し(
図6を参照)、これらの2つのトレース候補点のうちから、ノイズに起因して発生したと推定される一方のトレース候補点を除外することで、他方のトレース候補点を最終的なトレース点として決定する(
図7A~
図8Bを参照)。
【0058】
図5に戻って、トレース処理部12の動作について、説明する。
【0059】
ステップS1において、トレース処理部12は、ドプラスペクトル中から信号強度が最大となる第1の信号強度最大点を探索する。
図6のドプラスペクトル中では、地点Q1aが、第1の信号強度最大点として、決定されることになる。
【0060】
ステップS2において、トレース処理部12は、ドプラスペクトルの第1の信号強度最大点Q1aを含む第1のピーク山M1中において、第1の信号強度最大点Q1aよりも高速域側で、第1のトレース候補点を設定する。例えば、トレース処理部12は、
図6のドプラスペクトルでは、地点Q1bを、第1のトレース候補点として、設定する。
【0061】
トレース処理部12によるトレース候補点(第1のトレース候補点Q1b、及び第2のトレース候補点Q2bで共通)の設定手順は、以下の通りである。即ち、トレース点は、可能な限り、実際の観察対象の動きの最大速度近くに設定される必要がある。これは、トレース点から形成されるトレースラインが、後に面積演算等を行うに当たってドプラ波形のほぼ全体をカバーするようにする上でも重要である。
【0062】
かかる観点から、トレース処理部12は、第1のピーク山M1中において、第1の信号強度最大点Q1aよりも高速域側で、第1のトレース候補点を設定している。具体的には、
図6では、トレース処理部12は、第1のピーク山M1中において、第1の信号強度最大点Q1aよりも高速域側であって、当該地点の信号強度が第1設定値TP1となる点に、第1のトレース候補点Q1bを設定する構成となっている。
【0063】
尚、第1設定値TP1は、予め定められた値であってもよいし、第1の信号強度最大点Q1aの信号強度に基づいて決定された値(例えば、第1信号強度最大点Q1aの信号強度から、所定のオフセットだけ減じた値)であってもよい。又、第1設定値TP1は、ノイズレベルの解析結果から決定された値であってもよい。
【0064】
ステップS3において、トレース処理部12は、ドプラスペクトル中から第1のトレース候補点Q1bよりも高速域側で、第1の信号強度最大点Q1aの次に信号強度が最大となる第2の信号強度最大点を探索する。
図6のドプラスペクトル中では、地点Q2aが、第2の信号強度最大点として、決定されることになる。
【0065】
尚、このステップS3で、第2の信号強度最大点を探索する際には、探索範囲は、ドプラスペクトル中の第1の信号強度最大点Q1aよりも高速域側ではなく、ドプラスペクトル中から第1のトレース候補点Q1bよりも高速域側に設定する。これは、探索範囲を、ドプラスペクトル中の第1の信号強度最大点Q1aよりも高速域側に設定した場合には、ノイズ等の影響で、第1のピーク山M1中で第2の信号強度最大点を決定してしまうおそれがあるためである。
【0066】
ステップS4において、トレース処理部12は、ドプラスペクトルの第2の信号強度最大点Q2aを含む第2のピーク山M2中において、第2の信号強度最大点Q2aよりも高速域側で、第2のトレース候補点を設定する。例えば、トレース処理部12は、
図6のドプラスペクトルでは、地点Q2bを、第2のトレース候補点として、設定する。
【0067】
トレース処理部12が、第2のピーク山M2中において、第2のトレース候補点Q2bを設定する際の基準は、第1のピーク山M1中において、第1のトレース候補点Q1bを設定する際の基準と同様である。例えば、トレース処理部12は、第2のピーク山M2中において、第2の信号強度最大点Q2bよりも高速域側であって、当該地点の信号強度が第2設定値TP2となる点を、第2のトレース候補点Q2bとして設定する。
【0068】
尚、第2設定値TP2は、予め定められた値であってもよいし、第2の信号強度最大点Q2bの信号強度に基づいて決定された値(例えば、第2信号強度最大点Q2bの信号強度から、所定のオフセットだけ減じた値)であってもよい。又、第2設定値TP2は、第1設定値TP2と同一の値であってもよい。
【0069】
ステップS5において、トレース処理部12は、所定の基準を用いて、第1のトレース候補点Q1bと第2のトレース候補点Q2bのうちのノイズに起因して発生したと推定される一方を除外することで、他方をトレース点として決定する。
【0070】
ここで、
図7A、
図7B、
図8A、
図8Bを参照して、トレース処理部12が、第1のトレース候補点Q1bと第2のトレース候補点Q2bとのうちから、トレース点を決定する際の基準(以下、「トレース点決定基準」とも称する)について説明する。
【0071】
トレース点決定基準は、ノイズの一般的挙動に着目して設定された基準である。ドプラスペクトル中には、上記したように、熱雑音等のホワイトノイズ、及び、観察対象の血流以外の組織からのクラッタ信号が、大きなノイズ成分として表出する傾向にある。ここで、熱雑音等のホワイトノイズは、ドプラスペクトル中で、低速域から高速域に亘る各速度域で、微弱な信号として表出する。又、観察対象の血流以外の組織からのクラッタ信号は、ドプラスペクトル中で、血流よりも低速域において、強い信号強度の信号として表出する。尚、クラッタ信号の発生の有無は、観察対象の位置に依拠するが、熱雑音等のホワイトノイズは、常に存在するため、ドプラスペクトル中には、ホワイトノイズに起因するピーク山が常に表出する。
【0072】
つまり、
図5のフローチャートのステップS2~S4の処理でドプラスペクトルから抽出された2つのピーク山M1、M2は、典型的には、観察対象の血流に依拠したピーク山、クラッタ信号に依拠したピーク山、及び、ホワイトノイズに依拠したピーク山のいずれかに該当すると考えられる。そのため、クラッタ信号が表れている状況下では、ステップS2の処理において、クラッタ信号に依拠したピーク山が第1のピーク山M1として抽出され、ステップS4の処理において、観察対象の血流に依拠したピーク山が第2のピーク山M2として抽出されることになる(以下、「第1のケース」と称する)。一方、クラッタ信号が表れていない状況下では、ステップS2の処理において、観察対象の血流に依拠したピーク山が第1のピーク山M1として抽出され、ステップS4の処理において、ホワイトノイズに依拠したピーク山が第2のピーク山M2として抽出されることになる(以下、「第2のケース」と称する)。
【0073】
トレース点決定基準では、かかる観点から、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度が閾値未満であるか否かによって、現時点で捉えられたドプラスペクトルが、第1ケースと第2ケースのいずれに該当するか判別し、これに基づいて、第1のトレース候補点Q2bと第2のトレース候補点Q2bとのうちから、最終的なトレース点を決定する。
【0074】
具体的には、トレース処理部12は、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度が閾値TH2未満であるケース(
図7A、
図8A)では、第1のトレース候補点Q1bを最終的なトレース点として決定し、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度が閾値TH2以上であるケース(
図7B、
図8B)では、第2のトレース候補点Q2bを最終的なトレース点として決定する。これは、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度が閾値TH2未満の場合、第2ピーク山M2をホワイトノイズに依拠したピーク山とみなせ、現時点で捉えられたドプラスペクトルが、「第2のケース」に該当すると推定し得るからである。又、同様に、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度が閾値TH2以上の場合、第1ピーク山M1をクラッタ信号に依拠したピーク山とみなせ、現時点で捉えられたドプラスペクトルが、「第1のケース」に該当すると推定し得るからである。
【0075】
尚、閾値TH2は、典型的には、第2設定値TP2よりも大きい値に設定される。閾値TH2は、予め実験又はシミュレーションによって、信号強度から観察対象の血流によって表出するピーク山とホワイトノイズによって表出するピーク山とを判別する上で適切な値に設定されるのが好ましい。
【0076】
尚、本実施形態に係るトレース処理部12は、ドプラスペクトル中に2つのピーク山が表出することを前提として処理を行う構成となっている。これは、一般に、ドプラスペクトル中には、血流速度に依拠したピーク山の他に、熱雑音等のホワイトノイズに起因するピーク山が必ず表出するからである。但し、トレース処理部12は、
図5のフローチャートのステップS1の処理の前に、公知のパターン認識処理等によって、ドプラスペクトル中に、一定程度以上の信号強度のピーク山が2つ表れているか否かを判定し、ドプラスペクトル中に、一定程度以上の信号強度のピーク山が2つ表れている場合に限って、ステップS1~S5の処理を行う構成としてもよい。
【0077】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る超音波診断装置Aは、
超音波プローブを用いて超音波を送受波して、被検体内の観察対象からの超音波エコーに係る受信信号を得る送受信部1と、
前記受信信号に含まれるドプラ情報を周波数解析し、前記観察対象の動きの速度毎の信号強度を表すドプラスペクトルを生成するドプラ信号処理部3と、
前記ドプラ信号処理部3から順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルに基づいて、ドプラ波形を生成するドプラ波形生成部4aと、
前記ドプラ信号処理部3から順次出力される時系列の前記ドプラスペクトルそれぞれにおいて、前記観察対象の動きの最大速度を表すトレース点を決定し、当該トレース点に基づいて前記ドプラ波形に対してトレースラインを形成するトレース処理部12と、
を備え、
前記トレース処理部12は、
前記ドプラスペクトル中から前記信号強度が最大となる第1の信号強度最大点Q1aを探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第1の信号強度最大点Q1aを含む第1のピーク山M1中において、前記第1の信号強度最大点Q1aよりも高速域側で、第1のトレース候補点Q1bを設定し、
前記ドプラスペクトル中の前記第1のトレース候補点Q1bよりも高速域側で、前記第1の信号強度最大点Q1aの次に前記信号強度が最大となる第2の信号強度最大点Q2aを探索し、
前記ドプラスペクトルの前記第2の信号強度最大点Q2aを含む第2のピーク山M2中において、前記第2の信号強度最大点Q2aよりも高速域側で、第2のトレース候補点Q2bを設定し、
所定の基準を用いて、前記第1のトレース候補点Q1bと前記第2のトレース候補点Q2bのうちのいずれか一方を前記トレース点として決定する。
【0078】
従って、本実施形態に係る超音波診断装置Aによれば、ドプラスペクトル中に、観察対象(例えば、血流)の動きに依拠したピーク山に加えて、クラッタ信号に起因するピーク山や熱ノイズに起因するピーク山が表れている場合にも、ドプラスペクトル中から、観察対象(例えば、血流)の最大速度を適確に決定することが可能となる。これによって、ドプラ波形に対して高精度なトレースラインを形成することが可能である。
【0079】
(変形例1)
トレース処理部12が採用するトレース点決定基準としては、観察対象の動き(例えば、血流)の一般的挙動に着目して設定された基準が用いられてもよい。
【0080】
図9A、
図9B、
図10A、
図10Bは、変形例1に係るトレース処理部にて、トレース候補点Q1b、Q2bから最終的なトレース点を決定する処理について説明する図である。
図9Aは、第1のトレース候補点Q1bがトレース点として決定されるケースを表し、
図9Bは、第2のトレース候補点Q2bがトレース点として決定されるケースを表している。
【0081】
尚、
図10Aのドプラ波形は、
図9Aのドプラスペクトルとその前後のタイミングに得られたドプラスペクトルから形成されたドプラ波形である。又、
図10Bのドプラ波形は、
図9Bのドプラスペクトルとその前後のタイミングに得られたドプラスペクトルから形成されたドプラ波形である。
【0082】
血流等の観察対象の最大速度は、通常、心臓の拡張及び収縮にあわせて時間的に変動する。しかしながら、ドプラスペクトルのサンプリング間隔は、例えば、数ミリ秒から数十ミリ秒であり、血流等の動きの周期よりも極めて短い。そのため、一般に、現在時刻のドプラスペクトル中に表出する血流の最大速度は、一時刻前のドプラスペクトル中に表出する血流の最大速度と近い値として捉えられるはずである。
【0083】
変形例1に係るトレース点決定基準では、かかる観点から、
図5のフローチャートのステップS2~S4の処理で特定された第1のトレース候補点Q1b及び第2のトレース候補点Q2bそれぞれの位置(即ち、速度)と、一時刻前のトレース点の位置(即ち、速度)とを比較し、一時刻前のトレース点に近い方を、最終的なトレース点とする。尚、
図9A、
図9Bのドプラスペクトル中では、地点D
t-1が一時刻前のトレース点の位置を表している。
【0084】
これより、変形例1に係るトレース処理部12は、第1のトレース候補点Q1b及び第2のトレース候補点Q2bのうち、一時刻前のトレース点D
t-1に近い位置に存在するトレース候補点を、最終的なトレース点として決定する。具体的には、第1のトレース候補点Q1bが一時刻前のトレース点D
t-1に近い位置に存在する場合には(
図9A、
図10Aを参照)、トレース処理部12は、第1のトレース候補点Q1bを最終的なトレース点として決定し、第2のトレース候補点Q2bが一時刻前のトレース点D
t-1に近い位置に存在する場合には(
図9B、
図10Bを参照)、トレース処理部12は、第2のトレース候補点Q2bを最終的なトレース点として決定する。
【0085】
このように、本変形例に係るトレース処理部12によれば、観察対象の動き(例えば、血流)と同程度の信号強度をもつホワイトノイズがドプラスペクトル中に混入してしまう場合にも、ドプラスペクトル中から、観察対象の動き(例えば、血流)の最大速度を適確に決定することが可能となる。また、ドプラスペクトル中にクラッタ信号が混入した場合にも、一般にクラッタ信号は遅く、一時刻前の血流の最大速度とは離れた速度となるので、ドプラスペクトル中から血流の最大速度を適確に決定することが可能となる。
【0086】
(変形例2)
トレース処理部12が採用するトレース点決定基準としては、ノイズ及び観察対象の動き(例えば、血流)の双方の一般的挙動に着目して設定された基準が用いられてもよい。
【0087】
図11、
図12は、変形例2に係るトレース処理部にて、トレース候補点Q1b、Q2bから最終的なトレース点を決定する処理について説明する図である。尚、
図12のドプラ波形は、
図11のドプラスペクトルとその前後のタイミングに得られたドプラスペクトルから形成されたドプラ波形である。
【0088】
変形例2に係るトレース点決定基準(以下、「第3のトレース点決定基準」と称する)は、上記実施形態で記載したトレース点決定基準(
図7A及び
図7Bを参照)(以下、「第1のトレース点決定基準」と称する)と、変形例1で記載したトレース点決定基準(
図9A及び
図9Bを参照)(以下、「第2のトレース点決定基準」と称する)とを合成した決定基準となっている。
【0089】
ホワイトノイズに起因するノイズ成分であっても、突発的に、大きい信号強度で表出する場合がある。かかるノイズ成分が、閾値TH2よりも大きい信号強度を有していた場合、第1のトレース点決定基準では、かかるノイズ成分に起因してトレース点の誤選択を引き起こしてしまうおそれがある。即ち、この場合、トレース処理部12は、突発的なノイズ成分に起因して表出した第2ピーク山M2を、観察対象の血流に依拠したピーク山と判断してしまう。
【0090】
一方、第2のトレース点決定基準では、一時刻前のトレース点に近い方を、現在時刻のトレース点として決定するため、上記のような突発的な大きなノイズ成分が生じた場合にも、かかるノイズ成分に起因してトレース点の誤選択を引き起こすことを抑制することができる。しかしながら、第2のトレース点決定基準では、トレース処理部12が、最初に、ノイズ成分に起因してトレース点の誤選択を行ってしまった場合、これに起因して継続的に、トレース点の誤選択を引き起こしてしまう。
【0091】
第3のトレース点決定基準では、これらのトレース点の誤選択を防止するべく、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度に依拠した基準と、一時刻前のトレース点との位置関係に依拠した基準と、の2つの基準で、トレース点を判定する。
【0092】
具体的には、本変形例に係るトレース処理部12は、まず、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度が、閾値TH2未満か否かを判定する。そして、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度が、閾値TH2未満の場合、本変形例に係るトレース処理部12は、第1のトレース候補点Q1bをトレース点として決定する。この決定基準は、第1のトレース点決定基準と同様の考え方である。
【0093】
一方、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度が、閾値TH2以上の場合、本変形例に係るトレース処理部12は、第1のトレース候補点Q1bと第2のトレース候補点Q2bのうち、いずれが一時刻前のトレース点に近いかを判定し、第1のトレース候補点Q1bと第2のトレース候補点Q2bのうち、一時刻前のトレース点に近い方を、現在時刻のトレース点として決定する。この決定基準は、第2のトレース点決定基準と同様の考え方である。
【0094】
このように、本変形例に係るトレース処理部12によれば、突発的な大きなノイズ成分が生じた場合にも、ドプラスペクトル中から、観察対象の動き(例えば、血流)の最大速度を適確に決定することが可能となる。
【0095】
(変形例3)
上記では、トレース処理部12がトレース点を決定する際の基準として、第1のトレース点決定基準(
図7A及び
図7Bを参照)、第2のトレース点決定基準(
図9A及び
図9Bを参照)、及び第3のトレース点決定基準(
図11を参照)の3つの基準を示した。
【0096】
しかしながら、第1乃至第3のトレース点決定基準は、実際には、超音波診断装置Aの診断条件によって、その適合性が異なる。これは、2つのトレース候補点Q1b、Q2bから、一時刻前のトレース点に近い方を、現在時刻のトレース点として選択するという基準(第2のトレース点決定基準、第3のトレース点決定基準)では、観察対象の動きが急変するケースに誤選択を引き起こしやすいためである。又、第2の信号強度最大点Q2aの信号強度の大きさに基づいて、2つのトレース候補点Q1b、Q2bから、トレース点を選択するという基準(第1のトレース点決定基準、第3のトレース点決定基準)では、閾値TH2の設定が難しいケースに誤選択を引き起こしやすいためである。
【0097】
かかる観点から、本変形例に係るトレース処理部12は、超音波診断装置Aの診断条件に基づいて、トレース点決定基準の基準内容を設定する。具体的には、トレース処理部12は、超音波診断装置Aの診断条件に基づいて、第1のトレース点決定基準、第2のトレース点決定基準、及び第3のトレース点決定基準のうちから、使用する決定基準を選択して、当該選択した決定基準を用いて、トレース点を決定する。
【0098】
図13は、変形例3に係るトレース処理部12の動作の具体例を示すフロー図である。
【0099】
図13のフロー図は、
図5のフロー図に対して、ステップS1の前に、ステップS5の処理で使用する基準を設定するためのステップS0の処理が追加された内容となっている。このステップS0の処理は、超音波診断装置Aの診断条件に基づいて、例えば、第1のトレース点決定基準、第2のトレース点決定基準、及び第3のトレース点決定基準のうちから、使用する決定基準を選択する処理である。
【0100】
トレース処理部12が採用する具体的な選択基準としては、例えば、以下の項目が挙げられる。
【0101】
トレース処理部12は、例えば、現時点の送受信部1におけるドプラスキャンモードが、ドプラモードだけを実行するUpdateモードか、ドプラモードとBモード及び/又はカラーモードを時分割で同時に実行するSimul(Simultaneous)モードかに基づいて、使用対象のトレース点決定基準を選択してもよい。この場合、トレース処理部12は、例えば、Simulでは第1のトレース点決定基準を使用し、Updateモードでは、第2のトレース点決定基準又は第3のトレース点決定基準を使用する。これは、Simulモードでは、サンプリング間隔が大きくなるため、互いに隣接するドプラスペクトル同士の波形が不連続になるおそれがあるためである。
【0102】
又、トレース処理部12は、送受信部1におけるドプラスキャンモードが、PWドプラか、CWドプラか、又はTDI(組織ドプラ)に基づいて、使用対象のトレース点決定基準を選択してもよい。この場合、トレース処理部12は、例えば、信号強度の低いノイズがドプラスペクトルに重畳しやすいCWドプラでは、閾値TH2でノイズを除去できる第1のトレース点決定基準又は第3のトレース点決定基準を使用する。又、ドプラスペクトルの連続性が保たれやすいPWドプラでは、トレース処理部12は、第1のトレース点決定基準又は第3のトレース点決定基準を使用する。
【0103】
尚、送受信部1におけるドプラスキャンモードが、TDI(組織ドプラ)の場合、ドプラスペクトル中には、組織の信号しか表出しないため、トレース処理部12は、第1のトレース点決定基準、第2のトレース点決定基準、及び第3のトレース点決定基準のいずれでもなく、常に、第1のトレース候補点Q1bをトレース点として採用してもよい。
【0104】
又、トレース処理部12は、観察対象の種別に基づいて、使用対象のトレース点決定基準を選択してもよい。この場合、トレース処理部12は、例えば、心臓では、血液の流れが複雑でドプラスペクトルのスペクトル波形の変化が大きく、弁などによる外乱も入りやすいことから、もっともロバストな第3のトレース点決定基準を使う。又、他の部位では、UpdateモードにもSimulモードにも対応できる第1のトレース点決定基準を使う。
【0105】
又、トレース処理部12は、診断時に使用する超音波プローブ200の種類に基づいて、使用対象のトレース点決定基準を選択してもよい。トレース処理部12は、例えば、診断時に使用する超音波プローブ200としてセクタプローブが選択された場合には、第3のトレース点決定基準を使用し、診断時に使用する超音波プローブ200として他の種類のプローブが選択された場合には、第1のトレース点決定基準を使用してもよい。これは、セクタプローブは、主に心臓の観察時に用いられるためである。
【0106】
このように、本変形例に係るトレース処理部12によれば、超音波診断装置Aの診断条件に応じてより適切なトレース点選択基準を設定することができるため、観察対象の動き(例えば、血流)の最大速度をより適確に決定することが可能となる。
【0107】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示に係る超音波診断装置によれば、ドプラモード実行時に、ドプラスペクトル中から観察対象の動きの最大速度を正確に抽出し、ドプラ波形に対して高精度なトレースラインを形成することが可能である。
【符号の説明】
【0109】
A 超音波診断装置
100 超音波診断装置本体
1 送受信部
2 断層画像生成部
3 ドプラ信号処理部
4 表示処理部
4a ドプラ波形生成部
4b グラフィック処理部
5 モニタ
6 操作入力部
10 制御装置
11 送受信制御部
12 トレース処理部
200 超音波プローブ