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特許7589604粘着シート及びその製造方法、並びに積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】粘着シート及びその製造方法、並びに積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20241119BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20241119BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20241119BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/06
C09J133/14
C09J11/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021043786
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143329
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐介
(72)【発明者】
【氏名】安藤 聡子
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-33417(JP,A)
【文献】特開2010-121118(JP,A)
【文献】特開2008-21871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層を備える粘着シートであって、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着性ポリマー(A)と熱重合開始剤とを含み、
前記アクリル系粘着性ポリマー(A)は、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構造単位を有し、
前記粘着剤層の前記アクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20%未満であり、
加熱処理後における前記粘着剤層の前記アクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20%以上である、粘着シート。
【請求項2】
前記アクリル系粘着性ポリマー(A)における(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構造単位の含有量が、前記アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体に由来する全構造単位に対し20質量%以上である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記アクリル系粘着性ポリマー(A)のガラス転移温度が-80℃~10℃である、請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
粘着剤層を備える粘着シートの製造方法であって、
アクリル系粘着性ポリマーシロップと光重合開始剤と熱重合開始剤とを含有する粘着剤組成物からなる層に活性エネルギー線を照射することにより、アクリル系粘着性ポリマー(A)と熱重合開始剤とを含有する前記粘着剤層を形成する工程を含み、
前記アクリル系粘着性ポリマーシロップは、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルを含み、
前記粘着剤層の前記アクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20質量%未満であり、
加熱処理後における前記粘着剤層の前記アクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20%以上である、
る、粘着シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着シートと被着体とを貼り合わせた後に加熱処理を行い、前記粘着剤層を硬化させる工程を含む、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シート及びその製造方法、並びに積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤は、架橋することによって室温及び高温下での凝集力が向上したり、耐溶剤性や耐油性が向上したりすることが知られている。粘着剤において一般には、イソシアネート系硬化剤等の架橋剤を粘着剤層に含有させて熱によって架橋したり、多官能モノマーを紫外線によって重合したりすることによって架橋したりすることが行われている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構造単位を全モノマー単位に対して40~99質量%有するポリマーと架橋剤とを含有するアクリル樹脂組成物を用いて粘着シートを製造することが開示されている。また、特許文献2には、30万未満の重量平均分子量を有する熱架橋型粘着剤と熱架橋剤とを含む組成物を用いて粘着剤層を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/235217号
【文献】特開2017-197604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粘着シートを繊維生地に貼り付ける場合や、物品に加飾シートを貼り付ける場合、被着体の表面凹凸が大きいことがある。しかしながら、特許文献1及び特許文献2のように、架橋された粘着剤層を備える粘着シートは、表面凹凸が大きい被着体の凹凸形状に追従できず、また高温下のような厳しい環境下において剥がれやすく、接着性(特に、凹凸追従性、高温接着性)に劣ることが懸念される。また、粘着剤層の特性の1つとして耐溶剤性が高いことが要求される。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、凹凸追従性、耐溶剤性及び高温接着性に優れた粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、架橋剤の量をできるだけ少なくするか又は架橋剤を使用しなくても架橋が形成されるようにすることに着目した。そして、この着目点に基づき、粘着剤層に特定の成分を含有させることにより、粘着シートの凹凸追従性、耐溶剤性及び高温接着性を良好にできることを見出し、本発明を完成した。具体的には、本発明によれば以下の手段が提供される。
【0008】
〔1〕 粘着剤層を備える粘着シートであって、前記粘着剤層は、アクリル系粘着性ポリマー(A)と熱重合開始剤とを含み、前記アクリル系粘着性ポリマー(A)は、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構造単位を有し、前記粘着剤層の前記アクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20%未満であり、加熱処理後における前記粘着剤層の前記アクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20%以上である、粘着シート。
【0009】
〔2〕 前記アクリル系粘着性ポリマー(A)における(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構造単位の含有量が、前記アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体に由来する全構造単位に対し20質量%以上である、上記〔1〕の粘着シート。
〔3〕 前記アクリル系粘着性ポリマー(A)のガラス転移温度が-80℃~10℃である、上記〔1〕又は〔2〕の粘着シート。
【0010】
〔4〕 粘着剤層を備える粘着シートの製造方法であって、アクリル系粘着性ポリマーシロップと光重合開始剤と熱重合開始剤とを含有する粘着剤組成物からなる層に活性エネルギー線を照射することにより、アクリル系粘着性ポリマー(A)と熱重合開始剤とを含有する前記粘着剤層を形成する工程を含み、前記アクリル系粘着性ポリマーシロップは、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルを含み、前記粘着剤層の前記アクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20質量%未満であり、加熱処理後における前記粘着剤層の前記アクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20%以上である、粘着シートの製造方法。
〔5〕 上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の粘着シートと被着体とを貼り合わせた後に加熱処理を行い、前記粘着剤層を硬化させる工程を含む、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、凹凸追従性、耐溶剤性及び高温接着性に優れた粘着シートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0013】
≪粘着シート≫
本発明の粘着シート(以下、「本粘着シート」ともいう。)は、アクリル系粘着性ポリマー(A)及び熱重合開始剤を含む粘着剤層を備えるシートである。本粘着シートは、粘着剤層と被着体とを貼り合わせた後にその積層体に熱付与し、粘着剤層を硬化させて使用される熱反応型の粘着シートである。
【0014】
ここで、本粘着シートにおいては、粘着剤層と被着体とを貼り合わせた後に加熱処理を行うことによって架橋反応が進行する。これにより架橋構造が形成され、優れた接着性能及び耐溶剤性が発現される。そのメカニズムは以下のように推測される。粘着剤層と被着体とを貼り合わせた後に加熱することによって、粘着剤層中の熱重合開始剤によりラジカルが生成されると、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成するアクリル酸アルコキシアルキルエステルの側鎖部分の水素が引き抜かれて、酸素との結合によりパーオキシラジカルが生成される(下記スキームを参照)。その後、再び水素引抜き反応が起こり、発生したラジカルどうしがカップリングし、架橋構造が形成されると考えられる。したがって、本粘着シートによれば、粘着剤層中に架橋剤や反応性不飽和結合を有する化合物(具体的には、単量体や多官能(メタ)アクリル系化合物)が含まれていなくても、粘着剤層と被着体とを貼り合わせた後に加熱処理を行うことによって架橋構造を形成させることができる。また、本粘着シートの粘着剤層を被着体に貼り合わせる際は、架橋構造が未だ形成されていないため粘着剤層には柔軟性があり、表面凹凸が大きい被着体に対しても、その表面の凹凸に沿って粘着剤層を貼り合わせることができる。これにより、凹凸追従性が良好な粘着シートが得られるものと推測される。
【0015】
【化1】
【0016】
次に、本粘着シートの粘着剤層に含まれるアクリル系粘着性ポリマー(A)及び熱重合開始剤について説明する。
【0017】
<アクリル系粘着性ポリマー(A)>
アクリル系粘着性ポリマー(A)は、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位を主体とする重合体であり、粘着性を有する。なお、本明細書において、アクリル系粘着性ポリマー(A)が(メタ)アクリル系単量体を「主体」とするとは、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体に由来する全ての構造単位(以下、「全単量体単位」ともいう。)に対し、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位の割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、より更に好ましくは80質量%以上である。
【0018】
アクリル系粘着性ポリマー(A)は、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構造単位を有する。アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルは、炭素数2~12のアルコキシアルキル基を有していることが好ましい。これらの具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシブチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシブチル等が挙げられる。
【0019】
アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルは、汎用性の観点から、上記の中でも、炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル及び(メタ)アクリル酸エトキシエチルよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。なお、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルは1種でもよく、2種以上でもよい。
【0020】
アクリル系粘着性ポリマー(A)において、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構造単位の割合は、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルと酸素ラジカルとの共存により生じる反応を利用して架橋構造を形成させ、粘着シートの接着性、耐溶剤性及び段差追従性を高める観点から、アクリル系粘着性ポリマー(A)の全単量体単位に対して、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましく、40質量%以上がより更に好ましい。アクリル系粘着性ポリマー(A)において、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構造単位の割合の上限は特に限定されないが、粘着性能を向上させる観点から、アクリル系粘着性ポリマー(A)の全単量体単位に対して、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。
【0021】
アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体は、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルのみであってもよいが、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとは異なる単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0022】
粘着性能を優れたものとする観点から、アクリル系粘着性ポリマー(A)は、他の単量体として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルよりなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を有することが好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、及び(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。
【0024】
アクリル系粘着性ポリマー(A)の弾性率を高め、耐熱性の向上を図る観点から、これらのうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル部分の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、当該アルキル部分の炭素数が1~4である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
【0025】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0026】
アクリル系粘着性ポリマー(A)において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位の割合は、粘着性能を高める観点から、アクリル系粘着性ポリマー(A)の全単量体単位に対して、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましい。アクリル系粘着性ポリマー(A)において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位の割合の上限は特に限定されないが、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルによる架橋形成を十分に行わせる観点から、アクリル系粘着性ポリマー(A)の全単量体単位に対して、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0027】
アクリル系粘着性ポリマー(A)において、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルに由来する構造単位の割合は、粘着剤層の凝集力を向上させ、粘着性能を高める観点から、アクリル系粘着性ポリマー(A)の全単量体単位に対して、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上が更に好ましい。アクリル系粘着性ポリマー(A)中の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルに由来する構造単位の割合の上限については、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルによる架橋形成を十分に行わせる観点から、アクリル系粘着性ポリマー(A)の全単量体単位に対して、10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましい。
【0028】
アクリル系粘着性ポリマー(A)は、上記以外にも、粘着性能を損なわない範囲において、上記の単量体と共重合可能な単量体を使用してもよい。こうした他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸の脂環式エステル化合物、(メタ)アクリル酸の芳香族エステル化合物、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート化合物、芳香族ビニル化合物、イミド基含有ビニル化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、ニトリル基含有不飽和化合物等が挙げられる。
【0029】
これらの具体例としては、(メタ)アクリル酸の脂環式エステル化合物として、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸1-アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリル酸の芳香族エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル、及び(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル等が挙げられる。
【0031】
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート化合物としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリテトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びノニルフェノキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルキシレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-イソブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、o-ヒドロキシスチレン、p-イソプロペニルフェノール、m-イソプロペニルフェノール、o-イソプロペニルフェノール、o-ビニル安息香酸、m-ビニル安息香酸、p-ビニル安息香酸、及びジビニルベンゼン等のスチレン系化合物;ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0033】
イミド基含有ビニル化合物としては、マレイミド、N-置換マレイミド化合物等のマレイミド化合物;N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルヘキシルイタコンイミド、N-シクロヘキシルイタコンイミド、N-ラウリルイタコンイミド等のイタコンイミド化合物;N-メチルシトラコンイミド、N-エチルシトラコンイミド、N-ブチルシトラコンイミド、N-オクチルシトラコンイミド、N-2-エチルヘキシルシトラコンイミド、N-シクロヘキシルシトラコンイミド、N-ラウリルシトラコンイミド等のシトラコンイミド化合物;N-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)コハク酸イミド、N-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)マレイミド、N-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)フタル酸イミド、N-(4-(メタ)アクリロイルオキシブチル)コハク酸イミド、N-(4-(メタ)アクリロイルオキシブチル)マレイミド、N-(4-(メタ)アクリロイルオキシブチル)フタル酸イミド等の(メタ)アクリルイミド化合物等が挙げられる。イミド基含有ビニル化合物としては、これらのうちマレイミド化合物を好ましく使用できる。
【0034】
アミノ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル等が挙げられる。
【0035】
アミド基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、及びN-ビニルアミド系単量体等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリルアミド誘導体の具体例としては、tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。N-ビニルアミド系単量体の具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド及びN-ビニルイソブチルアミド等が挙げられる。
【0036】
ニトリル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸1-シアノエチル、(メタ)アクリル酸2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸4-シアノブチル、(メタ)アクリル酸6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸8-シアノオクチル、(メタ)アクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-フルオロアクリロニトリル等が挙げられる。
【0037】
なお、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する他の単量体の割合は、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜選択することができる。他の単量体としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
(アクリル系粘着性ポリマー(A)の製造方法)
アクリル系粘着性ポリマー(A)は、製造方法に特段の制限を受けるものではなく、公知の製造方法により得ることができる。例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合等の公知のラジカル重合方法を採用して、上記単量体を重合することによりアクリル系粘着性ポリマー(A)を得ることができる。
【0039】
溶液重合法による場合の製造方法としては、有機溶剤及び単量体を反応器に仕込み、重合開始剤を添加して、50~300℃に加熱して重合する方法が挙げられる。
【0040】
単量体を含む各原料の仕込み方法は、全ての原料を一括して仕込むバッチ式の初期一括仕込みでもよく、少なくとも一部の原料を連続的に反応器中に供給するセミ連続仕込みでもよく、全原料を連続供給し、同時に反応器から連続的に生成樹脂を抜き出す連続重合方式でもよい。
【0041】
溶液重合法に使用する有機溶剤としては、テトラヒドロフラン及びジオキサン等の環状エーテル類、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素化合物、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類等、オルトギ酸メチル、オルト酢酸メチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類を例示することができる。有機溶剤としては、これらの1種又は2種以上を用いることができる。有機溶剤の使用量は、重合に使用する単量体の合計量が、有機溶剤と単量体との合計量に対して、例えば1~50質量%となる量である。
【0042】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物、無機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、特に限定されるものではない。これらのうち、安全上取り扱い易く、ラジカル重合時の副反応が起こりにくい点において、アゾ系化合物が好ましい。アゾ系化合物が好ましい。また、重合開始剤としては、公知の酸化剤及び還元剤からなるレドックス型重合開始剤を用いてもよい。また更に、重合開始剤と共に、公知の連鎖移動剤を併用することもできる。
【0043】
重合開始剤の具体例としては、アゾ系化合物として、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2-(tert-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0044】
有機過酸化物としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
【0045】
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。レドックス型重合開始剤として、例えば、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄等を還元剤とし、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、tert-ブチルハイドロパーオキサイド等を酸化剤としたもの等が挙げられる。アクリル系粘着性ポリマー(A)の製造に際し、重合開始剤の使用量は、重合に使用する全単量体100質量部に対して、例えば0.01~20質量部である。
【0046】
アクリル系粘着性ポリマー(A)のガラス転移温度(Tg)は、-80℃以上10℃以下の範囲内にあることが好ましい。アクリル系粘着性ポリマー(A)のTgが-80℃以上であると、粘着剤層の凝集力を十分に高くでき、接着性を十分に確保できる点で好ましい。こうした観点から、アクリル系粘着性ポリマー(A)のTgは、より好ましくは-60℃以上であり、更に好ましくは-50℃以上であり、より更に好ましくは-45℃以上である。
【0047】
一方、アクリル系粘着性ポリマー(A)のTgが10℃以下であると、低温条件下での接着性を十分に確保することができるとともに、本粘着シートの被着体への追従性が良好となり、高温下又は高温高湿下における耐久性が高い粘着シートを得ることができる点で好ましい。アクリル系粘着性ポリマー(A)のTgの上限については、より好ましくは5℃以下であり、更に好ましくは0℃以下であり、より更に好ましくは-5℃以下であり、特に好ましくは-10℃以下である。アクリル系粘着性ポリマー(A)のTgの範囲は、より好ましくは-60℃以上5℃以下の範囲であり、更に好ましくは-50℃以上0℃以下の範囲である。
【0048】
なお、本明細書において重合体のTgは、示差走査熱量測定計(DSC)を用いて得られる熱流束曲線のベースラインと変曲点での接点との交点から決定される値である。測定条件の詳細は、後述する実施例の記載に従う。重合体のTgは、構成単量体の種類や組成等を変えることにより任意に選択することができる。
【0049】
(アクリル系粘着性ポリマー(A)の分子量特性)
アクリル系粘着性ポリマー(A)のMwは、十分な凝集力と良好な接着性とを発揮するようにする観点から、100,000以上であることが好ましい。アクリル系粘着性ポリマー(A)のMwが100,000以上であると、十分な接着性及び耐溶剤性を確保することができる。アクリル系粘着性ポリマー(A)のMwは、より好ましくは120,000以上であり、更に好ましくは150,000以上であり、より更に好ましくは200,000以上である。
【0050】
アクリル系粘着性ポリマー(A)のMwの上限は特に限定されないが、粘着シートの形成時に良好な塗工性及び取扱い性を確保し、更に製造容易性を確保する観点から、3,000,000以下であることが好ましく、2,000,000以下であることがより好ましく、1,500,000以下であることが更に好ましい。アクリル系粘着性ポリマー(A)のMwの範囲は、好ましくは100,000以上3,000,000以下であり、より好ましくは150,000以上2,000,000以下であり、更に好ましくは200,000以上1,500,000以下である。なお、本明細書において、重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値である。
【0051】
アクリル系粘着性ポリマー(A)につき、MwとMnとの比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、良好な接着性が得られやすい点、及び粘着剤組成物の高粘度化を抑制する点から、10.0以下が好ましく、9.0以下がより好ましい。アクリル系粘着性ポリマー(A)のMw/Mnの下限は特に限定されず、1.0以上とすることができる。
【0052】
<熱重合開始剤>
本粘着シートの粘着剤層には熱重合開始剤が含まれる。熱重合開始剤は、熱付与によりラジカルを発生する化合物である。熱重合開始剤としては、公知の熱開始型ラジカル重合開始剤を使用することができる。本粘着シートの粘着剤層に含有させる熱重合開始剤としては、中でも、有機過酸化物及びアゾ系化合物が好ましい。
【0053】
有機過酸化物の具体例としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(m-トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、α、α‘-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0054】
アゾ系化合物の具体例としては、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾジ-t-オクタン、アゾジ-t-ブタン等が挙げられる。なお、熱重合開始剤としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。有機過酸化物を用いる場合には、還元剤と組み合わせて用いることによりレドックス反応とすることも可能である。
【0055】
粘着剤層における熱重合開始剤の含有量は、アクリル系粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましい。熱重合開始剤の含有量が0.05質量部以上であると、加熱処理によって粘着剤層中に発生したラジカルにより、アクリル酸アルコキシアルキルエステルを利用した架橋構造の形成を行わせることができる点で好適である。こうした観点から、粘着剤層に含まれる熱重合開始剤の量は、アクリル系粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、0.08質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上が更に好ましい。また、加熱処理後に架橋構造が過剰に形成されることによって粘着特性が低下することを抑制する観点から、粘着剤層に含まれる熱重合開始剤の量は、アクリル系粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。なお、ここでいう熱重合開始剤の含有量は、本粘着シートに対して加熱処理を行い硬化する前の粘着剤層中の熱重合開始剤の量である。
【0056】
≪粘着シートの製造≫
本粘着シートは、粘着剤組成物をセパレーター等の基材に塗布して粘着剤層を形成することにより製造することができる。粘着剤組成物の形態に特段の制約はないが、アクリル系粘着性ポリマーシロップ(以下、「ポリマーシロップ(Ac)」ともいう。)と光重合開始剤と熱重合開始剤とを含有する活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物を好ましく使用することができる。
【0057】
・ポリマーシロップ(Ac)
活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線によって硬化する、いわゆるシロップ型の粘着剤組成物である。活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物(以下、単に「本粘着剤組成物」ともいう。)に含有されるポリマーシロップ(Ac)は、活性エネルギー線が照射されることにより、粘着剤層を構成するアクリル系粘着性ポリマー(A)を得ることができる成分である。ポリマーシロップ(Ac)は、粘着剤層に含まれるアクリル系粘着性ポリマー(A)のうちの一部を構成することとなるポリマー成分と、その残余を構成することとなる(メタ)アクリル系モノマー成分とを含有する。ポリマーシロップ(Ac)の具体的態様としては、例えば下記(1)~(3)の態様が挙げられる。
【0058】
(1)アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する全モノマーを部分的に重合することによって得られる、ポリマー成分と(メタ)アクリル系モノマー成分との混合物。
(2)上記(1)の混合物に、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体と同一又は異なる種類の(メタ)アクリル系モノマー成分を添加して得られる、ポリマー成分とモノマー成分との混合物。
(3)公知の重合方法により予めポリマー成分を得ておき、このポリマー成分と、所望の(メタ)アクリル系モノマー成分とを混合して得られる、ポリマー成分と(メタ)アクリル系モノマー成分との混合物。
【0059】
上記(1)~(3)に例示されるポリマー成分と(メタ)アクリル系モノマー成分との混合物は、概して、ポリマー成分が(メタ)アクリル系モノマー成分に溶解された溶液の形態をとることができる。すなわち、ポリマー成分と(メタ)アクリル系モノマー成分との混合物は、活性エネルギー線の照射前は液体である一方、活性エネルギー線の照射により重合が進行し、アクリル系粘着性ポリマー(A)が生成する。
【0060】
ポリマーシロップ(Ac)中のポリマー成分(すなわち、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体と、(メタ)アクリル系モノマー成分(すなわち、(メタ)アクリレート化合物)とは、同一の種類であってもよいし、少なくとも一部が異なる種類であってもよい。アクリル系粘着性ポリマー(A)と(メタ)アクリレート化合物との相溶性を高め、粘着剤層の透明性を高くする観点から、ポリマーシロップ(Ac)中の(メタ)アクリレート化合物は、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体と少なくとも一部が同一であることが好ましく、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体と同一の種類であることがより好ましく、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体と同一の組成であることが更に好ましい。すなわち、本粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリレート化合物は、アクリル系粘着性ポリマー(A)を構成する単量体と同一の種類であることが好ましく、同一の組成であることがより好ましい。
【0061】
ポリマーシロップ(Ac)において、ポリマー成分に対する(メタ)アクリル系モノマー成分の比率は、特に限定されるものではなく、塗膜の形成やハンドリングに必要な粘度を得ることができればよい。(メタ)アクリル系モノマー成分の比率は、ポリマー成分と(メタ)アクリル系モノマー成分との合計100質量部に対して、例えば10質量部以上であり、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。当該比率の上限については、ポリマー成分と(メタ)アクリル系モノマー成分との合計100質量部に対して、例えば99質量部以下であり、好ましくは97質量部以下、より好ましくは95質量部以下である。
【0062】
ポリマーシロップ(Ac)中のポリマー成分の重量平均分子量(Mw)は、良好な接着性及び十分な凝集力を示すようにする観点から、100,000以上が好ましく、120,000以上がより好ましく、150,000以上が更に好ましく、200,000以上がより更に好ましい。ポリマーシロップ(Ac)中のポリマー成分のMwの上限については、製造しやすさの観点から、3,000,000以下が好ましく、2,000,000以下がより好ましく、1,500,000以下が更に好ましい。Mwの範囲は、好ましくは100,000以上3,000,000以下であり、より好ましくは150,000以上2,000,000以下であり、更に好ましくは200,000以上1,500,000以下である。
【0063】
ポリマーシロップ(Ac)中のポリマー成分につき、MwとMnとの比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、良好な接着性が得られやすい点において、10.0以下が好ましく、9.5以下がより好ましく、9.0以下が更に好ましい。ポリマーシロップ(Ac)のMw/Mnの下限は特に限定されず、1.0以上とすることができる。
【0064】
・光重合開始剤
本粘着剤組成物に含まれる光重合開始剤としては、光開始型等の公知の重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾイン及びそのアルキルエーテル類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類及、キサントン類、アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、α-ヒドロキシケトン類等が挙げられる。また、ポリマーシロップ(Ac)を重合してアクリル系粘着性ポリマー(A)を得るために照射する活性エネルギー線による感度を向上させるために、必要に応じて、安息香酸系やアミン系の光増感剤を併用してもよい。
【0065】
本粘着剤組成物における光重合開始剤の含有量は、ポリマーシロップ(Ac)100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上10質量部以下とすることができる。光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線の照射により重合反応を十分に進行させる観点から、ポリマーシロップ(Ac)の含有量100質量部に対して、好ましくは0.03質量部以上であり、より好ましくは0.05質量部以上である。また、その上限については、粘着剤層のゲル分率が高くなりすぎることを抑制するために、好ましくは3質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下であり、更に好ましくは0.5質量部以下である。光重合開始剤の含有量の範囲は、ポリマーシロップ(Ac)の含有量100質量部に対して、好ましくは0.03質量部以上5量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以上1質量部以下である。
【0066】
・熱重合開始剤
本粘着剤組成物における熱重合開始剤の含有量は、アクリル系粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましい。熱重合開始剤の含有量が0.05質量部以上であると、粘着剤層中に十分な量のラジカルを発生でき、アクリル酸アルコキシアルキルエステルを利用した架橋構造の形成を十分に行わせることができる点で好適である。こうした観点から、本粘着剤組成物における熱重合開始剤の含有量は、アクリル系粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、0.08質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上が更に好ましい。また、架橋密度の過多により粘着性能が低下することを抑制する観点から、本粘着剤組成物における熱重合開始剤の含有量は、アクリル系粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。
【0067】
・その他の成分
本粘着剤組成物は、本発明の効果を妨げない範囲において、ポリマーシロップ(Ac)、光重合開始剤及び熱重合開始剤とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を更に含有してもよい。その他の成分としては、例えば、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、難燃剤、防かび剤、シランカップリング剤、充填剤、着色剤等が挙げられる。これら各成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種化合物に応じて適宜設定することができる。
【0068】
なお、本粘着剤組成物は、その他の成分として有機溶媒等の溶剤を含んでいてもよいが、溶剤類を含まない無溶剤型として用いることが好ましい。無溶剤型の硬化型粘着剤組成物によれば、粘着剤層の厚膜化を容易に行うことができる点で好適である。
【0069】
本粘着剤組成物に架橋剤を配合する場合、架橋剤(硬化剤)としては、例えば、エポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物、アジリジニル基を2個以上有するアジリジン化合物、オキサゾリン基を有するオキサゾリン化合物、金属キレート化合物、ブチル化メラミン化合物、多官能(メタ)アクリル系化合物等が挙げられる。ただし、本粘着シートの段差追従性を良好にする観点から、本粘着剤組成物は架橋剤を含有しないか、又は架橋剤が配合される場合であっても微少量であることが好ましい。
【0070】
具体的には、本粘着剤組成物における架橋剤の含有量は、本粘着シートの段差追従性を良好にする観点から、アクリル系粘着性ポリマー(A)の含有量100質量部に対して、好ましくは0~0.5質量部であり、より好ましくは0~0.3質量部である。
【0071】
<粘着剤層の形成>
本粘着剤組成物を用いて粘着剤層を製造する場合、その方法は特に限定されないが、例えば、本粘着剤組成物をセパレーター等に塗工し、次いで、活性エネルギー線を照射して本粘着剤組成物を硬化させることにより製造することができる。
【0072】
セパレーターとしては、各種樹脂材料からなる樹脂フィルムを用いることができる。樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、アセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0073】
塗工方法としては、目的に応じて適宜設定することができるが、例えば、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ディップコーター、ロールコーター、スピンコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、リバースコーター、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、及びインジェット等の各種塗工方法が挙げられる。本粘着剤組成物の塗工量としては、活性エネルギー線の照射後における粘着剤層の膜厚が所望の範囲内になるように、使用する用途等に応じて適宜選択し得る。
【0074】
本粘着剤組成物に照射する活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、電子線等を挙げることができる。これらのうち、好ましくは紫外線又は電子線である。活性エネルギー線の照射は、本粘着剤組成物を塗工した基材における一方の面のみに対して行ってもよいし、両方の面に対して行ってもよい。照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や本組成物の配合組成等に応じて適宜設定することができる。
【0075】
例えば、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、その波長は、例えば250~400nmである。紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線無電極ランプ、紫外線発光ダイオード(UV-LED)等が挙げられる。積算光量は、500mJ/cm以上が好ましく、1,000mJ/cm以上がより好ましく、1,500mJ/cm以上が更に好ましい。また、積算光量の上限については、本粘着剤組成物中の各成分に与える影響をできるだけ抑える観点及びエネルギー低減の観点から、100,000mJ/cm以下が好ましく、50,000mJ/cm以下がより好ましい。
【0076】
紫外線の照度及び照射時間は、積算光量が所望の量になるように適宜設定することができる。例えば照度は、0.5mW/cm以上が好ましく、1.0mW/cm以上がより好ましく、2.0mW/cm以上が更に好ましい。また、照度の上限については、100mW/cm以下が好ましく、80mW/cm以下がより好ましく、50mW/cm以下が更に好ましい。
【0077】
活性エネルギー線として電子線を用いる場合、電子線照射装置としては特に限定されないが、例えばコッククロフト・ワルトン型、バンデグラーフ型及び共振変圧器型の装置等が挙げられる。電子線の吸収線量としては、1~200kGyが好ましく、10~100kGyがより好ましい。電子線の加速電圧は、基材の膜厚に応じて80~300kVの範囲で適宜設定すればよい。電子線照射雰囲気の酸素濃度は、500ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましい。
【0078】
こうして得られる本粘着シートの一態様は、剥離強度の異なる2種のセパレーターにより粘着剤層が挟持された、いわゆる基材レスの態様である。また、本粘着シートは、粘着剤層の一方の面に基材が配置され他方にセパレーターが配置された構成を有していてもよい。粘着シートの形状についても特段の制限はなく、使用態様に応じて適宜設定され得る。粘着シートは、例えば枚葉状であってもよく、ロール状であってもよく、短冊状に裁断されていてもよい。また、接着箇所に応じた任意の形状を有していてもよい。
【0079】
<ゲル分率(硬化前)>
本粘着シートの粘着剤層は、アクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20%未満である。粘着剤層のゲル分率を20%未満とすることにより、良好な段差追従性を示す粘着シートを得ることができる。なお、ここでいうゲル分率は、粘着剤層を硬化する前(すなわち、本粘着シートに加熱処理を施す前)のゲル分率である。本粘着シートの段差追従性を優れたものとする観点から、粘着剤層のゲル分率は15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、7%以下が更に好ましく、5%以下がより更に好ましく、2%以下が一層好ましい。なお、本明細書において、粘着剤層のゲル分率は、粘着剤層の初期質量W1に対する、溶剤浸漬後に残った粘着剤層残分の質量W2の比率である。詳細は、後述する実施例の測定方法に従う。
【0080】
<積層体の製造方法>
本粘着シートは、被着体に貼り合わされた後に加熱処理が施されることにより粘着剤層が硬化し、これにより被着体との接着性が向上する。例えば、本粘着シートにより第1被着体と第2被着体とを接着するには、まず、粘着剤層を挟持するように第1被着体及び第2被着体を配置して、第1被着体/粘着剤層/第2被着体からなる積層体とする。続いて、この積層体に熱付与を行い、粘着剤層を硬化させる(硬化工程)。これにより、第1被着体と第2被着体とが接着剤層を介して高い接着力により接着された積層体を得ることができる。
【0081】
本粘着シートと被着体とを貼り合わせた後の加熱処理において、加熱温度は、架橋構造の形成によって凝集力及び耐溶剤性の向上を十分に図る観点から、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましく、130℃以上がより更に好ましい。加熱温度の上限については、熱による影響を抑制する観点から、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、180℃以下が更に好ましい。また、加熱時間は、好ましくは0.1~60分であり、より好ましくは0.1~30分である。
【0082】
<ゲル分率(硬化後)>
本粘着シートの粘着剤層は、熱付与によって硬化することにより凝集力が向上し、耐溶剤性及び耐油性が向上する。熱付与により粘着剤層を硬化させた後において、粘着剤層のアクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率は20%以上である。加熱処理後における粘着剤層のアクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率が20%未満であると、接着性能が十分でなく、また耐溶剤性に劣る傾向がある。凝集力を向上させて接着性能の向上を図るとともに、耐溶剤性を向上させる観点から、硬化後における粘着剤層のゲル分率は、30%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましく、60%以上がより更に好ましく、65%以上が一層好ましい。なお、ここでいう加熱処理後における粘着剤層のアクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率は、熱重合開始剤が分解する加熱条件により粘着剤層を加熱したときのゲル分率であり、具体的な加熱条件は、例えば後述する実施例に記載の熱処理条件とすることができる。硬化後における粘着剤層のゲル分率は、アクリル系粘着性ポリマー(A)における(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構造単位の含有量等によって調整することができる。
【0083】
こうして得られる本粘着シートは、幅広い用途における粘着剤として適用することができる。具体的には、例えば衣料品(服飾雑貨を含む。)、スポーツ用品(例えば、スポーツウェアやスポーツ靴、スポーツ手袋、バットやラケットのグリップ等)、医療用品(例えば、サポーターやコルセット等)、自動車用内装品又は外装品、アウトドア用品、手芸用品、玩具類、生活雑貨、家庭用品、家具類等の種々の用途における粘着剤として利用することができる。
【0084】
例えば、本粘着シートを、繊維生地どうしを貼り付けるための粘着剤としての用途に使用する場合、適用される繊維生地は特に制限されず、例えば、ポリエステル、ポリアミド及びアクリル繊維等の合成繊維;レーヨン、キュプラ等の再生繊維;アセテート等の半合成繊維;木綿、麻、羊毛等の天然繊維等が挙げられる。また、本粘着シートを用いて製造される繊維製品についても特に限定されず、例えば、日常着用している洋服や和服、民族服、下着(例えば、無縫製でのランジェリー製品やインナー製品等)、上着、トップス、ボトムス、アウトドア用品、作業着、制服、礼服、水着、スポーツウェア、靴下、帽子、靴等といった幅広い用途の衣料品の製造時や手芸用途等に、粘着剤として利用することができる。
【0085】
また、本粘着シートを、加飾フィルムを成形体に貼り付けるための粘着剤としての用途に使用する場合、加飾フィルムが接着される成形体は特に限定されるものではなく、例えば樹脂製品、金属製品、セラミック製品、ガラス製品等といった、加飾フィルムを接着することが可能な物品であればよい。具体的には、例えば、生活家電、キッチン家電、健康家電、季節家電等の各種家電製品;トイレ、浴室、扉、壁等の住宅設備の内装・外装部材;バンパー、ダッシュボード、ドア、ルーフ、ボンネット等の自動車内装品及び自動車外装品;生活雑貨、日用雑貨等の各種雑貨品;電子部品;介護・医療用品;船舶や航空機の内外装品等が挙げられる。
【実施例
【0086】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。実施例及び比較例で使用した重合体の分析方法は以下のとおりである。
【0087】
<分子量測定>
ゲル浸透クロマトグラフ装置(型式名「HLC-8320」、東ソー社製)を用いて、下記の条件よりポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を得た。また、得られた値から分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
○測定条件
カラム:東ソー社製TSKgel SuperMultiporeHZ-M×4本
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI
流速:600μL/min
【0088】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
重合体のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計を用いて得られた熱流束曲線のベースラインと、変曲点での接線との交点から決定した。熱流束曲線は、試料約10mgを-50℃まで冷却し、5分間保持した後、10℃/minで300℃まで昇温し、引き続き-50℃まで冷却し、5分間保持した後、10℃/minで350℃まで昇温する条件で得た。
測定機器:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220
測定雰囲気:窒素雰囲気下
【0089】
<重合体のモノマー組成の計算>
得られた重合体のモノマー組成は、仕込み量とガスクロマトグラフ(GC)測定によるモノマー消費量とから計算した。
【0090】
1.アクリル系粘着性ポリマー(A)の合成
[合成例1]実施例1~6に用いた重合体A-1
内容積3リットルの4つ口フラスコに、アクリル酸2-メトキシエチル(以下、「MEA」ともいう)(421質量部)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(以下、「HEA」ともいう)(21質量部)、アクリル酸n-ブチル(以下、「BA」ともいう)(78質量部)、及び酢酸エチル(770質量部)を仕込んだ。この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を75℃に上昇し、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製、以下、「V-65」ともいう)(0.35質量部)を仕込み重合を開始した。5時間後、固形分が30質量%になるように酢酸エチルを追加して、重合体A-1の酢酸エチル溶液を得た。得られた重合体A-1は、MEA80質量%、BA15質量%、及びHEA5質量%からなり、Mn92,000、Mw/Mn8.7、Tg=-35℃であった。
【0091】
[合成例2]実施例2~7及び比較例1,3に用いた重合体A-2
内容積3リットルの4つ口フラスコに、MEA(336質量部)、HEA(30質量部)、BA(144質量部)、アクリル酸メチル(以下、「MA」ともいう)(90質量部)、及び酢酸エチル(890質量部)を仕込んだ。この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を75℃に上昇し、V-65(0.12質量部)を仕込み、5時間重合した。固形分濃度が30%となるように酢酸エチルを追加して、重合体A-2の酢酸エチル溶液を得た。得られた重合体A-2は、MEA52質量%、MA21質量%、BA22質量%、及びHEA5質量%からなり、Mn155,000、Mw/Mn6.1、Tg=-27℃であった。
【0092】
[合成例3]実施例8に用いた重合体A-3
内容積3リットルの4つ口フラスコに、MEA(104質量部)、HEA(21質量部)、BA(309質量部)、及び酢酸エチル(770質量部)を仕込んだ。この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を75℃に上昇し、V-65(0.35質量部)を仕込み重合を開始した。5時間後、固形分が30質量%になるように酢酸エチルを追加して、重合体A-3の酢酸エチル溶液を得た。得られた重合体A-3は、MEA20質量%、BA75質量%、及びHEA5質量%からなり、Mn92,000、Mw/Mn8.1、Tg=-40℃であった。
【0093】
[合成例4]実施例9に用いた重合体A-4
内容積3リットルの4つ口フラスコに、アクリル酸2-エトキシエチル(以下、「EEA」ともいう)(420質量部)、HEA(21質量部)、BA(78質量部)、及び酢酸エチル(770質量部)を仕込んだ。この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を75℃に上昇し、V-65(0.35質量部)を仕込み重合を開始した。5時間後、固形分が30質量%になるように酢酸エチルを追加して、重合体A-4の酢酸エチル溶液を得た。得られた重合体A-4は、EEA80質量%、BA15質量%、及びHEA5質量%からなり、Mn89,000、Mw/Mn8.7、Tg=-56℃であった。
【0094】
[合成例5]実施例10に用いた重合体A-5
内容積3リットルの4つ口フラスコに、MEA(182質量部)、HEA(21質量部)、MA(312質量部)、及び酢酸エチル(770質量部)を仕込んだ。この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を75℃に上昇し、V-65(0.35質量部)を仕込み重合を開始した。5時間後、固形分が30質量%になるように酢酸エチルを追加して、重合体A-5の酢酸エチル溶液を得た。得られた重合体A-5は、MA60質量%、及びMEA35質量%からなり、Mn90,000、Mw/Mn8.4、Tg=-10℃であった。
【0095】
[合成例6]比較例2に用いた重合体A-6
内容積3リットルの4つ口フラスコに、HEA(24質量部)、BA(506質量部)、及び酢酸エチル(974質量部)を仕込んだ。この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を75℃に上昇し、V-65(0.25質量部)を仕込み重合を開始した。5時間後、固形分が30質量%になるように酢酸エチルを追加して、重合体A-6の酢酸エチル溶液を得た。得られた重合体A-6は、BA95質量%、及びHEA5質量%からなり、Mn87,000、Mw/Mn5.4、Tg=-41℃であった。
【0096】
【表1】
【0097】
表1中の略称は以下の名称を表す(表2についても同じ)。
MEA:アクリル酸2-メトキシエチル
EEA:アクリル酸2-エトキシエチル
MA:アクリル酸メチル
BA:アクリル酸n-ブチル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
【0098】
2.アクリル系シロップの調製
[配合例1]実施例1に用いたシロップAc-1の調製
単離した重合体A-1(15質量部)に対して、MEA(68.0質量部)、BA(12.7質量部)、及びHEA(4.3質量部)を加え、均一になるまで撹拌することでシロップAc-1を得た。シロップAc-1の組成を表2に示す。
【0099】
[配合例2]実施例2~7及び比較例1,3に用いたシロップAc-2の調製
単離した重合体A-2(15質量部)に対して、MEA(44.2質量部)、MA(17.8質量部)、BA(18.7質量部)、及びHEA(4.3質量部)を加え、均一になるまで撹拌することでシロップAc-2を得た。シロップAc-2の組成を表2に示す。
【0100】
[配合例3]実施例8に用いたシロップAc-3の調製
単離した重合体A-3(15質量部)に対して、MEA(17.0質量部)、BA(63.7質量部)、及びHEA(4.3質量部)を加え、均一になるまで撹拌することでシロップAc-3を得た。シロップAc-3の組成を表2に示す。
【0101】
[配合例4]実施例9に用いたシロップAc-4の調製
単離した重合体A-4(15質量部)に対して、EEA(68.0質量部)、BA(12.7質量部)、及びHEA(4.3質量部)を加え、均一になるまで撹拌することでシロップAc-4を得た。シロップAc-4の組成を表2に示す。
【0102】
[配合例5]実施例10に用いたシロップAc-5の調製
単離した重合体A-5(15質量部)に対して、MEA(29.7質量部)、MA(51.0質量部)、及びHEA(4.3質量部)を加え、均一になるまで撹拌することでシロップAc-5を得た。シロップAc-5の組成を表2に示す。
【0103】
[配合例6]
単離した重合体A-6(15質量部)に対して、BA(80.7質量部)、及びHEA(4.3質量部)を加え、均一になるまで撹拌することでシロップAc-6を得た。シロップAc-6の組成を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
3.粘着剤組成物の調製及び粘着シートの製造
[実施例1]
配合例1で得られたシロップAc-1(100質量部)、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製、商品名「Omnirad 184」)(0.2質量部)、及び熱重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(日油社製、商品名「パーブチルE」)(0.1質量部)を混合して、粘着剤組成物を得た。
この粘着剤組成物を、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と表す)製セパレーター上に塗布した。次に、上記セパレーターとは剥離力の異なる厚さ38μmのPET製セパレーターを貼り合わせて、シーシーエス(株)製UV-LED面照射装置(型式:HLDL-470X370U65PSCSP)を用いて、照度3.0mW/cmで15分間照射し、粘着剤組成物中のモノマーを重合し、両面セパレーター付き粘着シート試料を得た。このとき得られたポリマーをアクリル系粘着性ポリマー(A)と称す。UV硬化後の粘着剤層の厚みは100μmであった。得られた粘着シート試料を用いて、以下に示す方法により各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0106】
<評価方法>
・ゲル分率測定(加熱処理前)
粘着シート試料の粘着剤層から粘着剤を0.2g採取し、粘着剤の初期質量を秤量した。その粘着剤を50gの酢酸エチルに浸漬し、室温で16時間静置した。その後、200メッシュ金網でろ過し、メッシュに残った残分を80℃で3時間乾燥し、秤量した。初期の質量と残分の質量とから、下式によりアクリル系粘着性ポリマー(A)に基づくゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(残分の質量)/[(初期の質量)×(アクリル系粘着性ポリマー(A)の固形分)/(粘着剤組成物全体の固形分)]×100
【0107】
・ゲル分率測定(加熱処理後)
粘着シート試料を以下の熱処理条件により加熱処理し、加熱処理後の粘着シート試料について、上記と同様の方法によりゲル分率測定を実施した。
(熱処理条件)
送風式乾燥機(エスペック製SPHH202)を用いて、圧着後の積層体を150℃で10分間熱処理を行った。
【0108】
・凹凸追従性評価
10mm幅にカットした粘着シート試料により、ポリエステル生地2枚を貼り合わせ、ポリエステル生地/粘着シート試料/ポリエステル生地の順に積層されてなる積層体を得た。得られた積層体を熱プレス処理(条件:130℃、3kg/cm、10秒間)により圧着した後の積層体を手で剥がした際に、粘着剤内部で破壊しながら剥がれるものは生地への凹凸追従性が良好として「○」、生地界面で剥がれるものは凹凸追従性が不十分として「×」と判断した。
【0109】
・耐溶剤性評価
上記凹凸追従性評価と同様の操作により製造し、その後150℃による熱処理を行った積層体を250mLのガラス瓶に入れ、そこにパークロロエチレンを200mL加えてMIXローターで1時間攪拌した後に、試験片を130℃で5分間乾燥して、粘着剤部分の剥がれの有無を評価した。剥がれが確認されなかったものを「○」、剥がれが確認されたものを「×」と判断した。
【0110】
・高温剥離試験
上記凹凸追従性評価と同様の操作により製造し、その後150℃による熱処理を行った積層体を試験片とし、引張り試験機INSTRON 5566A(インストロンジャパン社製)を用いて、測定温度80℃、試験片幅10mm、剥離速度300mm/分の条件でT型剥離強度を測定し、高温剥離強度とした。
【0111】
[実施例2]
シロップAc-1に代えて配合例2で得られたシロップAc-2を使用し、熱重合開始剤「パーブチルE」の添加量を0.1質量部とした以外は実施例1と同様の操作を行うことにより粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
[実施例3]
シロップAc-1に代えて配合例2で得られたシロップAc-2を使用した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
[実施例4]
シロップAc-1に代えて配合例2で得られたシロップAc-2を使用し、熱重合開始剤「パーブチルE」の添加量を0.6質量部とした以外は実施例1と同様の操作を行うことにより粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
【0112】
[実施例5]
シロップAc-1に代えて配合例2で得られたシロップAc-2を使用し、多官能アクリレートである「アニロックスM-309」(東亞合成社製)を0.01質量部添加した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
[実施例6]
シロップAc-1に代えて配合例2で得られたシロップAc-2を使用し、「パーブチルE」に代えて、水素引き抜き能が「パーブチルE」よりも低い熱重合開始剤であるt-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日油社製、商品名「パーヘキシルI」)を0.3質量部添加した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
[実施例7]
シロップAc-1に代えて配合例2で得られたシロップAc-2を使用し、「パーブチルE」に代えて「パーヘキシルI」を0.6質量部添加した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
【0113】
[実施例8]
シロップAc-1に代えて配合例3で得られたシロップAc-3を使用した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
[実施例9]
シロップAc-1に代えて配合例4で得られたシロップAc-4を使用した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
[実施例10]
シロップAc-1に代えて配合例5で得られたシロップAc-5を使用した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
【0114】
[比較例1]
シロップAc-1に代えて配合例2で得られたシロップAc-2を使用し、熱重合開始剤「パーブチルE」を添加しなかった以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
[比較例2]
シロップAc-1に代えて配合例6で得られたシロップAc-6を使用した以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物を製造し、実施例1と同様に各種評価を行った。
[比較例3]
シロップAc-1に代えて配合例2で得られたシロップAc-2を使用し、イソシアネート系硬化剤である三井化学製「タケネートD-110N」(固形分75%の酢酸エチル溶液)を固形分換算で1.0質量部添加した以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物を製造した。また、得られた粘着剤組成物を用いて、実施例1と同様に両面セパレーター付き粘着シート試料を得た。粘着シート試料を室温で1週間養生して、イソシアネート系硬化剤の反応を促進した。得られた粘着シート試料を用いて、実施例1と同様に各種評価を行った。
【0115】
実施例1~10及び比較例1~4の粘着剤組成物の組成、及び評価結果を表3に示す。
【表3】
【0116】
表3中の略称は以下の名称を表す。
M-309:多官能アクリレート、商品名「アニロックスM-309」、東亞合成社製
D-110:イソシアネート系硬化剤、商品名「タケネートD-110N」、三井化学社製
Omnirad184:光重合開始剤、商品名「Omnirad 184」、BASF社製
パーブチルE:熱重合開始剤、商品名「パーブチルE」、日油社製
パーヘキシルI:熱重合開始剤、商品名「パーヘキシルI」、日油社製
なお、多官能アクリレート、架橋剤、光重合開始剤、及び熱重合開始剤の配合量は、ポリマーシロップ100質量部に対する配合量である。
【0117】
表3に示すように、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単位を有するアクリル系粘着性ポリマー(A)を生成するポリマーシロップ及び熱重合開始剤を含む粘着剤組成物を用いて製造した実施例1~10の粘着シートはいずれも、凹凸追従性、耐溶剤性及び高温接着性が良好であった。特に、被着体(ポリエステル生地)と粘着シートとの貼り合わせ後における加熱前後のゲル分率の差が大きい実施例1~7、9は、凹凸追従性及び耐溶剤性のいずれも「○」の評価であり、また高温剥離強度も1.5N/10mmと高い値を示した。
【0118】
これに対し、粘着剤組成物に熱重合開始剤を配合しなかった比較例1、及びアクリル系粘着性ポリマーとして(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単位を有しない重合体を粘着剤層に含む比較例2は、耐溶剤性が「×」の評価であり、高温剥離強度も低い値であった。また、粘着剤組成物に架橋剤を配合した比較例3は、被着体に貼り付ける前(すなわち硬化前)の粘着シートのゲル分率が78.3%と高く、この場合、凹凸追従性及び耐溶剤性が「×」の評価であり、高温剥離強度も低い値であった。