(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】走行支援方法および走行支援装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20241119BHJP
G08G 1/0968 20060101ALI20241119BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20241119BHJP
B60W 30/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G08G1/16 D
G08G1/0968
G01C21/34
B60W30/00
(21)【出願番号】P 2021044539
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉松 祐香
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎也
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093190(WO,A1)
【文献】特開2019-32708(JP,A)
【文献】特開2020-8401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
G08G 1/0968
G01C 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差点を右折又は左折する車両の走行を自律制御する走行支援方法において、
前記交差点に進入する前に、前記交差点を右折又は左折した後に
前記車両が走行する道路における、
前記車両の走行を阻害するリスクの情報を取得し、
前記道路の車線のうち、前記交差点から所
定距離までの区間に前記リスクが存在しない車線、又は前記区間に所定値以下の前記リスクが存在する車線に進入するように
前記車両の走行を自律制御
し、
前記所定距離は、前記車両が、前記交差点を右折又は左折してから、設定された速度に到達するまでの距離である、車両の走行支援方法。
【請求項2】
前記リスクが存在する位置が前記交差点に近いほど、前記リスクの値を高く算出する、請求項
1に記載の
車両の走行支援方法。
【請求項3】
前記情報を取得してから経過した時間が短いほど、前記リスクの値を高く算出する、請求項1
又は2に記載の
車両の走行支援方法。
【請求項4】
前記車両の周囲を走行する他車両を検出し、
前記区間に前記リスクが存在しない車線、又は前記区間に
前記所定値以下の前記リスクが存在する車線に
前記車両が進入した場合
は、前記車両が前記他車両の走行を阻害するか否かを判定し、
前記車両が前記他車両の走行を阻害すると判定した場
合は、前記区間に前記リスクが存在しない車線、又は前記区間に
前記所定値以下の前記リスクが存在する車線とは別の車線に
前記車両が進入するように
前記車両の走行を自律制御する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の
車両の走行支援方法。
【請求項5】
前記交差点から、次に進入する交差点まで
前記車両が走行する経路における、
前記車両の走行を阻害するリスクの情報を取得し、
転舵せずに設定された速度まで加速でき、かつ、前記交差点から、次に進入する交差点まで
前記車両が走行するときに、リスクに対応する障害物の回避に伴う
前記車両の挙動の変化が最も小さくなる車線に
前記車両が進入するように
前記車両の走行を自律制御する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
車両の走行支援方法。
【請求項6】
交差点を右折又は左折する車両の走行を自律制御するプロセッサを備えた走行支援装置において、
前記プロセッサは、
前記交差点に進入する前に、前記交差点を右折又は左折した後に
前記車両が走行する道路における、
前記車両の走行を阻害するリスクの情報を取得し、
前記道路の車線のうち、前記交差点から所
定距離までの区間に前記リスクが存在しない車線、又は前記区間に所定値以下の前記リスクが存在する車線に進入するように
前記車両の走行を自律制御
し、
前記所定距離は、前記車両が、前記交差点を右折又は左折してから、設定された速度に到達するまでの距離である、車両の走行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行支援方法および走行支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二つの交差点間を連結する道路リンクの車線情報と、交差点における誘導経路情報とに基づいて推奨走行レーンを設定し、駐車車両の存在に伴い変動する道路状況を表す道路状況情報を取得し、取得した道路状況情報に基づいて、設定された推奨走行レーンを変更する経路案内システムが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記経路案内システムでは、自車両の走行経路を案内するときに、最も路肩寄りの車線(左側通行であれば左側車線)に沿って自車両を走行させるため、交差点を左折した場合に、自車両は左側車線に進入することになる。このとき、左側車線において、自車両が左折した直後の位置に駐車車両が存在すると、左折した後に、十分に加速する前に駐車車両に遭遇するので、自車両は、走行を継続するために、加速しながら転舵して駐車車両を回避する必要がある。このような加速と共に行う転舵操縦は、車両の挙動変化を大きくするという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、加速しながら転舵操縦を行うことを抑制できる走行支援方法および走行支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、交差点を右折又は左折する場合に、交差点に進入する前に、交差点を右折又は左折した後に車両が走行する道路における、車両の走行を阻害するリスクの情報を取得し、当該道路の車線のうち、交差点から所定距離までの区間にリスクが存在しない車線、又は当該区間に所定値以下のリスクが存在する車線に進入するように車両の走行を自律制御し、所定距離を、車両が、交差点を右折又は左折してから、設定された速度に到達するまでの距離とすることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加速しながら転舵操縦を行うことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の走行支援方法及び走行支援装置を含む走行支援システムを示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す走行支援システムにて自律制御を実行する走行シーンの一例を示す平面図である。
【
図3】
図1の走行支援システムにおける情報処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
[走行支援システムの構成]
図1は、本発明に係る走行支援システム20を示すブロック図である。
図1に示すように、走行支援システム20は、撮像装置1、測距装置2、地図情報3、自車位置検出装置4、ナビゲーション装置5、車両制御装置6、通信装置7、及び走行支援装置8を備える。走行支援システム20に含まれる装置は、CAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続され、互いに情報を授受することができる。
【0011】
撮像装置1は、画像により自車両の周囲の対象物を認識する装置であり、たとえば、CCDなどの撮像素子を備えるカメラ、超音波カメラ、赤外線カメラなどのカメラである。撮像装置1は、一台の車両に複数を設けることができ、たとえば、車両のフロントグリル部、左右ドアミラーの下部、及びリアバンパ近傍に配置できる。これにより、車両の周囲の対象物を認識する場合の死角を減らすことができる。
【0012】
測距装置2は、車両と対象物との相対距離および相対速度を演算するための装置であり、たとえば、レーザーレーダー、ミリ波レーダーなど(LRFなど)、LiDAR(light detection and ranging)ユニット、超音波レーダーなどのレーダー装置又はソナーである。測距装置2は、一台の車両に複数設けることができ、たとえば、車両の前方、右側方、左側方、及び後方に配置できる。これにより、車両の周囲の対象物との相対距離及び相対速度を正確に演算することができる。
【0013】
撮像装置1及び測距装置2にて検出する対象物は、道路の車線境界線、センターライン、路面標識、中央分離帯、ガードレール、縁石、高速道路の側壁、道路標識、信号機、横断歩道、工事現場、事故現場、交通制限などである。また、対象物には、自車両以外の自動車(他車両)、オートバイ、自転車、歩行者など、自車両の走行に影響を与える可能性がある障害物も含まれる。撮像装置1及び測距装置2の検出結果は、所定の時間間隔で、走行支援装置8により取得される。
【0014】
また、撮像装置1と測距装置2の検出結果は、走行支援装置8にて統合又は合成することができ、これにより、検出した対象物の不足する情報が補完できる。たとえば、後述する自車位置検出装置4により取得した、自車両が走行する位置である自己位置情報と、自車両と対象物の相対位置(距離と方向)とにより、走行支援装置8にて対象物の位置情報を算出できる。算出された対象物の位置情報は、走行支援装置8にて、撮像装置1及び測距装置2の検出結果、並びに地図情報3などの複数の情報と統合され、自車両の周囲の環境情報となる。また、撮像装置1及び測距装置2の検出結果と、地図情報3とを用いて、自車両の周囲の対象物を認識し、その動きを予測することもできる。
【0015】
地図情報3は、走行経路の生成及び/又は走行制御に用いられる情報であり、道路情報、施設情報、それらの属性情報が含まれる。道路情報及び道路の属性情報には、道路の幅、道路の曲率半径、路肩の構造物、道路交通法規(制限速度、車線変更の可否)、道路の合流地点と分岐地点、車線数の増加・減少位置などの情報が含まれている。本実施形態の地図情報3はレーンごとの移動軌跡を把握できる高精細地図情報であり、各地図座標における二次元位置情報及び/又は三次元位置情報、各地図座標における道路・レーンの境界情報、道路属性情報、レーンの上り・下り情報、レーン識別情報、接続先レーン情報などが含まれる。
【0016】
高精細地図情報の道路・レーンの境界情報は、自車両が走行する走路とそれ以外との境界を示す情報である。自車両が走行する走路とは、自車両が走行するための道であり、走路の形態は特に限定されない。境界は、自車両の進行方向に対して左右それぞれに存在し、形態は特に限定されない。境界には路面標示、道路構造物などが含まれ、路面標示には車線境界線、センターラインなどが、道路構造物には中央分離帯、ガードレール、縁石、トンネル、高速道路の側壁などがそれぞれ含まれる。なお、交差点内のような走路境界が明確に特定できない地点では、予め、走路に境界が設定されている。この境界は架空のものであって、実際に存在する路面標示または道路構造物ではない。
【0017】
地図情報3は、走行支援装置8、車載装置、又はネットワーク上のサーバに設けられた記録媒体に読み込み可能な状態で記憶されている。走行支援装置8は、必要に応じて地図情報3を取得する。
【0018】
自車位置検出装置4は、自車両の現在位置を検出するための測位システムであり、特に限定されず、公知のものを用いることができる。自車位置検出装置4は、たとえば、GPS(Global Positioning System)用の衛星から受信した電波、道路に設置されたビーコンから受信した信号などから、自車両の現在位置を算出する。また、自車位置検出装置4は、車速センサから取得した車速情報、並びに加速度センサ及びジャイロセンサから取得した加速度情報から自車両の現在位置を推定し、推定した現在位置を地図情報3と照合することで自車両の現在位置を算出してもよい。
【0019】
ナビゲーション装置5は、地図情報3を参照して、自車位置検出装置4により検出された自車両の現在位置から、地図情報3ドライバーにより設定された目的地までの走行経路を算出する装置である。ナビゲーション装置5は、地図情報3の道路情報及び施設情報などを用いて、自車両が現在位置から目的地まで到達するための経路を検索する。当該経路は、検索条件に応じて複数存在し得る。走行経路は、自車両が走行する道路、走行車線、及び自車両の走行方向の情報を少なくとも含み、たとえば線形で表示される。ナビゲーション装置5にて算出された走行経路は、走行支援装置8に出力される。
【0020】
車両制御装置6は、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)などの車載コンピュータであり、車両の走行を律する車載機器を電子的に制御する。車両制御装置6は、自車両の走行速度を制御する車速制御装置61と、自車両の操舵操作を制御する操舵制御装置62を備える。車速制御装置61及び操舵制御装置62は、走行支援装置8から入力された制御信号に応じて、これらの駆動装置及び操舵装置の動作を自律的に制御する。これにより、自車両は、設定した走行経路に従って自律的に走行できる。
【0021】
車速制御装置61が制御する駆動装置には、走行駆動源である電動モータ及び/又は内燃機関、これら走行駆動源からの出力を駆動輪に伝達するドライブシャフトや自動変速機を含む動力伝達装置、動力伝達装置を制御する駆動装置などが含まれる。また、車速制御装置61が制御する制動装置は、たとえば、車輪を制動する制動装置である。車速制御装置61には、走行支援装置8から、設定した走行速度に応じた制御信号が入力される。車速制御装置61は、走行支援装置8から入力された制御信号に基づいて、これらの駆動装置を制御する信号を生成し、駆動装置に当該信号を送信することで、車両の走行速度を自律的に制御する。
【0022】
一方、操舵制御装置62が制御する操舵装置には、ステアリングホイール(いわゆるハンドル)の操舵角度に応じて総舵輪を制御する操舵装置、たとえば、ステアリングのコラムシャフトに取り付けられるモータなどのステアリングアクチュエータが含まれる。操舵制御装置62は、走行支援装置8から入力された制御信号に基づき、撮像装置1及び測距装置2の検出結果、地図情報3、及び自車位置検出装置4で取得した現在位置の情報のうちの少なくとも一つを用いて、設定した走行経路に対して所定の横位置(車両の左右方向の位置)を維持しながら自車両が走行するように、操舵装置の動作を自律的に制御する。
【0023】
車速制御装置61及び操舵制御装置62における自律的な制御に必要な情報、たとえば自車両の走行速度、加速度、操舵角度、姿勢は、車両制御装置6が備える各種センサを用いて検出する。各種センサとして、車速センサ、加速度センサ、ジャイロセンサ、舵角センサ、慣性計測ユニット(IMU:Inertial Measurement Unit)などが挙げられる。車両制御装置6は、これらのセンサの検出結果を走行支援装置8に出力する。
【0024】
通信装置7は、道路に設置されたビーコン(たとえば、電波ビーコン、光ビーコン)、放送用の電波、及びインターネットなどを介して他の機器と通信できる装置であれば特に限定されず、公知の車載通信装置を用いることができる。走行支援装置8は、通信装置7を介して、自車両が走行する道路に設置されたビーコンから、渋滞の情報、交通規制の情報、交通事故の情報、駐車場に関する情報などの交通情報を取得することができる。また、走行支援装置8は、多重化されたFM放送用の電波を通信装置7で受信して交通情報を取得することも、走行支援システム20の外部にあるネットワークサーバに通信装置7を介して接続して交通情報を取得することもできる。
【0025】
走行支援装置8は、走行支援システム20に含まれる装置を制御して協働させることで自車両の走行を制御し、自車両の走行、特に、交差点を右折又は左折した後の走行を支援する装置である。走行支援装置8は、プロセッサ9により走行支援を実現する。プロセッサ9は、プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)92と、ROM92に格納されたプログラムを実行することで、走行支援装置8として機能するための動作回路であるCPU(Central Processing Unit)91と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)93とを備える。
【0026】
なお、本発明に係る走行支援システム20は、自律走行制御による走行のみならず、ドライバーの手動運転を支援するナビゲーションシステムにも適用できる。また、走行支援システム20を車両の自律走行制御に適用する場合には、速度制御と操舵制御の両方を自律制御するほか、速度制御と操舵制御の一方を自律制御し、他方を手動制御する場合にも適用できる。
【0027】
[自律走行支援部]
本実施形態の走行支援装置8で用いるプログラムは、自車両の走行の支援を走行支援装置8によって実現するための機能ブロックである自律走行支援部10を含む。自律走行支援部10は、交差点を右折又は左折する際の自車両の走行動作を自律制御する機能を有する。当該走行動作には、加速、減速、右方向又は左方向への転舵など、交差点へ進入してから退出するまでに必要な各種走行動作が含まれる。
図1に示すように、自律走行支援部10は、加速区間設定部11、走行阻害リスク取得部12、他車両リスク算出部13、走行経路生成部14、及び走行動作制御部15を備える。
図1には、各部を便宜的に抽出して示す。
【0028】
本実施形態の自律走行支援部10は、たとえば
図2に示す走行シーンにて、自車両が交差点を右左折する自律走行を支援する。
図2の走行シーンでは、図面の上下方向に延在する道路R1と、図面の左右方向に延在する道路R2とが存在し、道路R1と道路R2とが交差する部分に交差点Cが存在している。道路R1及びR2は、左側通行の道路であり、片側二車線の四車線道路である。道路R1の車線L1は、走行する車両が交差点Cを左折又は直進でき、車線L2は、走行する車両が交差点Cを右折又は直進できるものとする。また、道路R1にて車両が交差点Cに進入する部分に停止線Sが設けられている。一方、道路R2には、走行方向左側に位置する車線L3及びL5と、走行方向右側に位置する車線L4及びL6とが設けられている。
【0029】
図2の走行シーンでは、自車両V1は、走行支援装置8の機能を用いて車線L2の位置P1を自律的に走行しており、ナビゲーション装置5により設定された経路に沿って目的地Pxに向かっているものとする。自車両V1は、設定された経路に沿って走行するため、車線L2から車線L1に車線変更し、交差点Cを左折し、道路R2に進入する必要がある。道路R2には、車線L3の路肩に他車両V2が駐車している。また、交差点C内を他車両V3が走行しており、交差点Cを右折して道路R2に進入しようとしているものとする。以下、自車両V1が交差点Cを左折する場合の走行支援において、自律走行支援部10の各機能ブロックが果たす機能について説明する。
【0030】
加速区間設定部11は、自車両V1が交差点Cを右折又は左折する場合に、交差点Cを右折又は左折した後に自車両V1が走行する道路に加速区間を設定する機能を有する。交差点Cを右折又は左折した後に自車両V1が走行する道路とは、自車両V1が交差点Cから退出した後に進入する道路のことである。当該道路は、地図情報3に含まれる交差点Cの位置情報と、設定された走行経路とを対比することで取得できる。すなわち、ナビゲーション装置5により生成される走行経路には、自車両が走行する道路、及び自車両の走行方向の情報が含まれているので、交差点Cの位置にて自車両の走行方向が変化した場合に、走行方向が変化した後に自車両が走行する道路が、交差点Cを右折又は左折した後に自車両V1が走行する道路となる。
図2の走行シーンであれば、位置P1を走行している自車両V1は、目的地Pxに向かうために、設定された経路に沿って交差点Cを左折して道路R2に進入するので、交差点Cを右折又は左折した後に自車両V1が走行する道路は、道路R2となる。
【0031】
加速区間とは、交差点Cを右折又は左折した後に自車両V1が走行する道路において、交差点Cから所定の距離までの範囲内に設定される区間である。加速区間は、交差点Cを右左折した後に自車両V1が進入する道路において、自車両V1が進入する車線を選択する際に用いられる。すなわち、設定された加速区間に後述する走行阻害リスク及び/又は他車両リスクが存在する場合には、交差点Cを右左折した後に自車両V1が進入する道路の車線のうち、加速区間にこれらのリスクが存在しない車線、又は所定値以下のリスクが加速区間に存在する車線を選択して進入する。
【0032】
加速区間を設定する際の所定の距離とは、自律的に転舵操縦を行った場合に自車両V1の挙動変化が大きくならず、乗員に違和感を与えないような走行速度に到達するまでの距離である。たとえば、自車両V1が、交差点Cを右折又は左折してから、設定された速度に到達するまでの距離を所定の距離として設定する。設定された速度は、たとえば、右左折後に自車両V1が進入する道路の制限速度、又は自車両V1の先行車両の走行速度である。
図2の走行シーンでは、自車両V1の走行速度が、道路R2の制限速度に到達するまでに必要な走行距離Dを所定の距離として、最も薄い色のハッチングが付された加速区間Zaを道路R2設定している。
【0033】
また、これに代えて、自車両V1が、交差点Cを右折又は左折してから、設定された速度に到達するまでの距離に、走行阻害リスクに対応する障害物を回避するために必要な走行距離を加えた距離を所定の距離として設定してもよい。走行阻害リスクに対応する障害物を回避するために必要な走行距離とは、たとえば、当該障害物との接触を回避するために必要な転舵操縦を実行する間に自車両V1が走行する距離である。なお、交差点Cを退出してから設定された速度まで加速するときの加速度は特に限定されず、所定の加速度であっても、可変の加速度であってもよい。
【0034】
走行阻害リスク取得部12は、交差点Cを右折又は左折した後に自車両V1が走行する道路における、自車両V1の走行を阻害するリスク(以下、「走行阻害リスク」ともいう)の情報を取得する機能を有する。走行阻害リスクとは、自車両V1が走行する車線に存在した場合に、自車両V1が走行を継続するために回避する必要がある障害物に起因するリスクである。たとえば、自車両V1が当該障害物を回避する走行動作を行う場合における、自車両V1の挙動の変化が大きくなる度合い、自車両V1が他の障害物に接触する危険度、自律的な走行が中止されドライバーによる操作に切り替わる割合などである。当該障害物には、自動車、二輪車、自転車、歩行者、その他走行を制限する物体(工事区間など)が含まれる。
【0035】
走行阻害リスクは、障害物が、どの程度自車両V1の走行を阻害するかに応じて算出される。つまり、長い時間に渡り車線に存在して自車両V1の走行を阻害する障害物ついては、走行阻害リスクが高く算出され、一時的に車線に存在して自車両V1の走行を一時的に阻害する障害物については、走行阻害リスクが低く算出され、車線の交通の流れを妨げる障害物、及び車線の交通の流れを部分的に妨げる障害物については、走行阻害リスクがより低く算出される。走行阻害リスクは数値(たとえば正の値)として表され、値が大きいほどリスクが高いことを示し、値が小さいほどリスクが低いことを示す。つまり、走行阻害リスクの値が大きいほど自車両V1の走行が阻害されやすく、値が小さいほど自車両V1の走行が阻害されにくい。ここで、走行阻害リスクは、交差点Cに近くに障害物が位置し、リスクが存在する位置が交差点Cに近いほど、高い値として算出され得る。障害物が交差点Cに近いほど、当該障害物を回避する走行動作を行うための走行距離が短くなり、回避が困難になるからである。
【0036】
例として、障害物が駐車中の車両、工事区間などである場合は、長い時間に渡り車線に存在して自車両V1の走行を阻害するため、走行阻害リスクを高く算出する。障害物が右左折待ちの車両、停車中のバスやタクシーなどである場合は、現在は停車しているが時間の経過とともに動き出し、自車両V1の走行を阻害しなくなるので、駐車中の車両、工事区間などと比較して、走行阻害リスクを低く算出する。障害物が、低速で走行する渋滞の車列などである場合は、低速ではあるが走行を継続することができ、渋滞が解消されれば自車両V1の走行を阻害しなくなるので、右左折待ちの車両、停車中のバスやタクシーなどと比較して、走行阻害リスクを低く算出する。障害物が、車線を歩行する歩行者、自転車、二輪車などである場合は、自車両V1が横方向へ回避することで走行を継続できる可能性があるので、低速で走行する渋滞の車列などと比較して、走行阻害リスクを低く算出する。
【0037】
図2の走行シーンでは、道路R2の車線L3の路肩に他車両V2が駐車している。駐車車両は長い時間に渡り車線に存在し、自車両V1の走行を阻害するため、他車両V2に起因する走行阻害リスクは、高い値として算出される。
図2では、車線L3において、他車両V2の駐車位置に対応する位置に、リスクが高いことを示す最も濃い色のハッチングが付された走行阻害リスクXaが配置されている。
【0038】
走行阻害リスク取得部12は、通信装置7を用いて、走行支援システム20の外部の機器から走行阻害リスクの情報を取得する。たとえば、道路に設置された光ビーコン、電波ビーコンなどから発出される信号、及び/又は多重化されたFM放送用の電波を受信し、これらの信号や電波により伝達された情報から走行阻害リスクを取得する。これに代えて、又はこれに加えて、走行阻害リスク取得部12は、通信装置7を介して、走行支援システム20の外部にあるネットワークサーバから走行阻害リスクの情報を取得してもよい。また、走行阻害リスク取得部12は、通信装置7を用いて、走行支援システム20の外部の機器から自車両V1の周囲の交通情報を取得し、取得した交通情報を用いて走行阻害リスクを算出してもよい。たとえば、ビーコン及び多重化されたFM放送用の電波を介して、道路交通情報通信システム(VICS(登録商標))により提供される道路交通情報を通信装置7にて取得し、取得した道路交通情報を用いて、走行阻害リスクを算出してもよい。
【0039】
ここで、走行阻害リスク情報を取得してから経過した時間が短いほど、走行阻害リスクの値を高く算出してもよい。走行阻害リスクの情報を取得してから経過した時間が短い、つまり取得した情報が新しいほど、自車両V1の走行を阻害する障害物が存在する確度が高いからである。また、取得した情報が新しい場合には、取得した情報のうち最新の情報のみを用いて走行阻害リスクを算出してもよい。自車両V1の走行を阻害する障害物について、最も確度の高い情報のみを用いることで、より正確に走行阻害リスクを算出することができるからである。さらに、取得した情報のうち最新の情報のみを用いて走行阻害リスクを算出する場合に、障害物として、自車両V1の走行を阻害する他車両が少なくとも1台存在する場合には、当該他車両が存在する車線を回避するように走行阻害リスクを算出する。存在する確度の高い他車両を確実に回避するためである。
【0040】
一方、取得してから所定の時間が経過した情報については、当該情報を用いて算出された走行阻害リスクを0としてもよい。つまり、取得してから所定の時間が経過した情報は、自車両V1の走行を阻害する障害物について確度が下がるため、走行阻害リスクの算出において使用しなくともよい。所定の時間は、たとえば、右左折待ちの渋滞が解消するまでの平均的な時間、又は走行阻害リスクの情報を取得してから、自車両V1がそのリスクに対応する障害物に遭遇するまでの予測時間である。また、所定の時間は、走行阻害リスクの情報を取得した時間と現在の時間との差であってもよい。この場合、自車両V1がリスクに対応する障害物に遭遇するまでの時間を予測する必要がなくなる。
【0041】
走行阻害リスク取得部12の機能による走行阻害リスクを取得又は算出は、自車両V1が交差点Cに進入する前に行われる。自車両V1が交差点Cに進入する前に走行阻害リスクを把握するためである。自車両V1が交差点Cに進入する前とは、たとえば、自車両V1が停止線Sに到達するまで、右折又は左折専用車線に自車両V1が進入するまで、自車両V1が方向指示器を点灯するまで、ナビゲーション装置5により走行経路を設定するまで、又は右折又は左折専用車線の分岐から10~50m程度手前の位置に到達するまでである。
【0042】
また、走行阻害リスク取得部12は、走行時に、撮像装置1及び測距装置2により検出した障害物の位置とその分類を記憶部(図示せず)に蓄積しておき、蓄積したデータから走行阻害リスクを算出してもよい。特に、走行阻害リスク取得部12が、走行支援システム20の外部の機器から走行阻害リスクの情報を取得できず、外部の機器から取得した情報として、所定の時間が経過した比較的古い情報しか利用できない場合に、蓄積したデータから走行阻害リスクを算出する。これにより、外部の機器から走行阻害リスクの情報が取得できない場合にも、走行阻害リスクを考慮できる。
【0043】
記憶部には、撮像装置1及び測距装置2により検出した障害物の位置と分類が、走行毎に記録されている。障害物は、たとえば、どの程度自車両V1の走行を阻害するかに応じて分類されており、分類ごとにリスクの値が定められている。当該分類は、上述した、走行支援システム20の外部の機器から取得した情報における分類と同様である。記憶部に蓄積したデータから走行阻害リスクを算出する場合は、当該分類に対応するリスクの値に、リスクに対応する障害物に遭遇した遭遇確率を掛けることで、走行阻害リスクを算出する。遭遇確率とは、全ての走行回数のうち何回障害物に遭遇したかを示す確率である。したがって、記憶部に蓄積したデータから算出された場合でも、走行阻害リスクは数値(たとえば正の値)として表され、値が大きいほどリスクが高いことを示し、値が小さいほどリスクが低いことを示す。つまり、値が大きいほど自車両V1の走行が阻害される確率が高くなり、値が低いほど走行が阻害される確率が低くなる。
【0044】
記憶部に蓄積したデータから算出された走行阻害リスクは、走行支援システム20の外部の機器から走行阻害リスクの情報を取得してから所定の時間が経過するまでは0としてもよい。つまり、比較的新しい情報が外部の機器から取得できる間は、記憶部に蓄積したデータから算出された走行阻害リスクを使用しなくともよい。また、記憶部に蓄積したデータから走行阻害リスクを算出する場合には、障害物として、自車両V1の走行を阻害する他車両が2台以上存在する場合にのみ当該他車両が存在する車線を回避するように走行阻害リスクを算出する。存在する確度の低い他車両を不要に回避する事態の発生を抑制するためである。
【0045】
他車両リスク算出部13は、自車両V1の周囲を走行する他車両を検出し、検出した他車両の走行を自車両V1が阻害するか否かを判定する機能を有する。特に、加速区間Zaに走行阻害リスクXaが存在しない車線、又は加速区間Zaに所定値以下の走行阻害リスクXaが存在する車線に自車両V1が進入した場合に、検出した他車両の走行が自車両V1によって阻害されるか否かを判定する機能を有する。自車両V1の周囲を走行する他車両とは、自車両V1の先行車両と後続車両、自車両V1と並走する他車両、及び交差点Cにて右折又は左折を行う他車両などを含む。これらの他車両の検出には、撮像装置1及び測距装置2を用いる。たとえば、撮像装置1にて取得した画像データ、及び測距装置2にて取得した対象物との相対距離を走行支援装置8にて統合することで、自車両V1の周囲を走行する他車両を検出する。
図2の走行シーンでは、交差点C内を走行する他車両V3が、自車両V1の周囲を走行する他車両として検出される。
【0046】
検出した他車両の走行を自車両V1が阻害するか否かを判定するために、たとえば、加速区間Zaに走行阻害リスクXaが存在しない車線、又は加速区間Zaに所定値以下の走行阻害リスクXaが存在する車線に自車両V1が進入した場合に、自車両V1の周囲を走行する他車両と自車両V1との相対距離が時間と共にどのように変化するのか推測する。そして、相対距離の時間変化を推測した後、他車両リスク算出部13の機能により検出した他車両を、自車両V1との相対距離が時間と共に小さくなるものと、当該相対距離が変化しない又は時間と共に大きくなるものとに分類する。自車両V1との相対距離が時間の経過と共に小さくなると分類された他車両については、当該他車両の走行を自車両V1が阻害すると判定する。一方、自車両V1との相対距離が変化しない又は時間と共に大きくなると分類された他車両については、当該他車両の走行を自車両V1は阻害しないと判定する。
【0047】
図2の走行シーンであれば、他車両V3は、自車両V1と対向しながら交差点Cを右折し、道路R2に進入しようとしている。他車両リスク算出部13は、撮像装置1及び測距装置2などを用いて他車両V3の位置及び走行状態を検出し、自車両V1と他車両V3との相対距離が時間と共にどのように変化するかを推測する。たとえば、撮像装置1により取得した画像データから、他車両V3の進行方向右側の方向指示器が点灯していること、及び測距装置2により取得した相対距離から、他車両V3が停車していることが検出できた場合には、他車両リスク算出部13は、他車両V3が、自車両V1が交差点Cを左折するまで交差点C内で停車し、自車両V1の左折が完了することを待っていると判断する。この場合に、自車両V1が、加速区間Zaに走行阻害リスクXaが存在しない車線L4に進入すると仮定すると、他車両V3は停車しているので、自車両V1と他車両V3との相対距離は時間の経過と共に変化しない、又は時間と共に大きくなると推測できる。したがって、他車両リスク算出部13は、他車両V3を、自車両V1との相対距離が変化しない又は時間と共に大きくなると分類し、自車両V1は他車両V3の走行を阻害しないと判定する。
【0048】
このように、自車両V1が交差点Cを左折する場合に、交差点Cに右折して進入する対向車両が存在するときは、自車両V1が進入する道路の車線のうち、最も左側の車線以外の少なくとも一つの車線に、他車両V3に起因するリスク(以下、「他車両リスク」ともいう)を配置してもよい。また、自車両V1が交差点Cを左折する場合に、交差点Cに左折して進入する後続車両が存在するときは、自車両V1の走行を優先させるために、自車両V1が進入する道路の車線のうち、最も右側の車線以外の少なくとも一つの車線に、後続車両である他車両に起因する他車両リスクを配置してもよい。
図2の走行シーンでは、自車両V1が進入する道路R2において、走行方向右側に位置する車線L4に、対向右折車両である他車両V3に起因する他車両リスクYaを配置している。これにより、左折時に対向右折車両と不必要に接近する事態の発生を抑制できる。
【0049】
他車両リスクは他車両の分類に応じて算出され、自車両V1との相対距離が時間の経過と共に小さくなると分類された他車両については、他車両リスクは高く算出される一方、自車両V1との相対距離が変化しない又は時間と共に大きくなると分類された他車両については、他車両リスクが低く算出される。他車両リスクは数値(たとえば正の値)として表され、値が大きいほどリスクが高いことを示し、値が小さいほどリスクが低いことを示す。つまり、他車両リスクの値が大きいほど自車両V1が他車両の走行を阻害しやすく、値が小さいほど自車両V1が他車両の走行を阻害しにくい。
図2の他車両リスクYaには2番目に濃い色のハッチングが付されているが、これは他車両リスクYaが走行阻害リスクXaよりも低い値であることを示している。なお、他車両リスク算出部13は、走行支援装置8に必須の構成ではないため、必要に応じて設ければよい。
【0050】
走行経路生成部14は、自車両V1が交差点Cを右左折した後に走行する道路の車線のうち、加速区間に走行阻害リスク及び他車両リスクが存在しない車線、又は加速区間に所定値以下の走行阻害リスク及び/又は他車両リスクが存在する車線に進入するように、自車両V1の走行経路を生成する機能を有する。走行阻害リスクが所定値以下であるとは、たとえば、走行阻害リスクが、一時的に車線に存在して自車両V1の走行を一時的に阻害する障害物、車線の交通の流れを妨げる障害物、又は車線の交通の流れを部分的に妨げる障害物に起因するリスクであることをいう。また、他車両リスクが所定値以下であるとは、たとえば、他車両リスクが、自車両V1との相対距離が変化しない又は時間と共に大きくなると分類された他車両に起因するリスクであることをいう。
【0051】
経路生成に際して、走行経路生成部14は、自車位置検出装置4を用いて自車両V1の現在位置を検出し、自車両V1が交差点Cを右左折した後に走行する道路の車線のうち、加速区間に走行阻害リスク及び他車両リスクが存在しない車線、又は加速区間に所定値以下の走行阻害リスク及び/又は他車両リスクが存在する車線を選択する。そして、撮像装置1及び測距装置2で周囲の環境を認識し、地図情報3を用いて、検出した周囲の環境において、検出された現在位置から、選択された車線に進入するための走行経路を生成する。
【0052】
図2の走行シーンでは、走行経路生成部14は、自車位置検出装置4を用いて自車両V1の現在位置である位置P1を検出する。また、走行経路生成部14は、自車両V1が交差点Cを右左折した後に走行する道路の車線として、他車両V3に起因する他車両リスクYaが加速区間Zaに存在する車線L4を選択する。他車両V3は、自車両V1との相対距離が変化しないと分類された他車両である。そして、撮像装置1及び測距装置2で周囲の環境を認識し、地図情報3を用いて、位置P1から、車線L4に進入するための走行軌跡T1及びT2を生成する。
【0053】
また、走行経路生成部14は、自車両V1が右左折した交差点Cから、次に自車両V1が進入する交差点まで自車両V1が走行する経路において、自車両V1の走行を阻害するリスクの情報を取得することができる。そして、取得した当該情報を用いて、自車両V1が転舵せずに設定された速度まで加速でき、かつ、交差点Cから、次に進入する交差点まで走行するときに、走行を阻害するリスクに対応する障害物の回避に伴う自車両V1の挙動の変化が最も小さくなる車線に進入するような走行経路を生成することができる。これにより、交差点間の走行阻害リスクを考慮した走行経路を生成することができる。
【0054】
走行動作制御部15は、走行経路生成部14にて生成された走行経路に沿って自車両V1を自律的に走行させる機能を有する。走行動作制御部15は、車両制御装置6を用いて、車速制御装置61により走行速度を、操舵制御装置62により転舵操縦をそれぞれ自律的に制御する。
図2の走行シーンであれば、走行動作制御部15は、走行経路生成部14により生成された走行軌跡T1に沿って位置P1から位置P2まで自車両V1を走行させ、車線L1にて停止線Sの前に停車させる。次に、走行軌跡T2に沿って位置P2から位置P3まで走行し、道路R2の車線L4に進入する。この際、車線L2から車線L1への車線変更、及び交差点Cの左折に必要な車速と転舵の制御は、自律的に行われる。これにより、交差点Cを左折した後に、加速区間Zaにて加速しながら車線L3から車線L4に車線変更を行う必要がなくなり、加速しながら転舵操縦を行うことが抑制できる。
【0055】
ここまで、自車両V1が交差点Cを左折する場合について説明したが、自車両V1が交差点Cを右折する場合でも、走行支援装置8により同様の走行支援を行うことができる。たとえば、
図2の走行シーンにて、自車両V1が、ナビゲーション装置5により設定された経路に沿って目的地Pyに向かっているものとする。自車両V1は、設定された経路に沿って走行するため、交差点Cを右折して道路R2に進入する必要がある。道路R2には、車線L6に工事区間Qが存在する。また、交差点C内を他車両V4が走行しており、他車両V4は交差点Cを左折して道路R2に進入しようとしているものとする。
【0056】
この場合に、加速区間設定部11は、自車両V1が交差点Cを右折した後に進入する道路R2に、道路R2の制限速度に到達するまでに必要な走行距離Dを所定の距離として、最も薄い色のハッチングが付された加速区間Zbを設定する。次に、走行阻害リスク取得部12は、通信装置7を介して取得した情報から走行阻害リスクを算出し、車線L6において、工事区間Qに対応する位置に、リスクが高いことを示す最も濃い色のハッチングが付された走行阻害リスクXbを配置する。
【0057】
次に、他車両リスク算出部13は、自車両V1の周囲を走行する他車両として交差点C内を走行する他車両V4を検出する。他車両V4は、自車両V1の対向左折車両であり、
図2の走行シーンにおいて、測距装置2により取得した相対距離から、他車両V4が車線L5に進入するように走行していることが検出できたとすると、自車両V1が、加速区間Zbに走行阻害リスクXbが存在しない車線L5に進入する場合には、自車両V1と他車両V4との相対距離が時間と共に小さくなると推測される。したがって、他車両リスク算出部13は、他車両V4を、自車両V1との相対距離が時間と共に小さくなると分類し、自車両V1は他車両V4の走行を阻害すると判定する。
【0058】
このように、自車両V1が交差点Cを右折する場合に、交差点Cに左折して進入する対向車両が存在するときは、自車両V1が進入する道路の車線のうち、最も右側の車線以外の少なくとも一つの車線に、他車両V4に起因する他車両リスクを配置してもよい。また、自車両V1が交差点Cを右折する場合に、交差点Cに右折して進入する後続車両が存在するときは、自車両の走行を優先させるために、自車両V1が進入する道路の車線のうち、最も左側の車線以外の少なくとも一つの車線に、後続車両に起因する他車両リスクを配置してもよい。
図2の走行シーンでは、自車両V1が進入する道路R2において、走行方向左側に位置する車線L5に、対向左折車両である他車両V4に起因する他車両リスクYbを配置している。これにより、右折時に対向左折車両と不必要に接近する事態の発生を抑制できる。
図2の他車両リスクYbには最も濃い色のハッチングが付されているが、これは他車両リスクYbが走行阻害リスクXbと少なくとも同等又はそれ以上の値であることを示している。これは、対向左折車両である他車両V4の走行が、自車両V1の走行よりも優先されるからである。
【0059】
次に、走行経路生成部14は、自車位置検出装置4を用いて自車両V1の現在位置である位置P1を検出する。また、走行経路生成部14は、自車両V1が交差点Cを右左折した後に走行する道路の車線として、工事区間Qに起因する走行阻害リスクXbが加速区間Zbに存在する車線L6を選択する。走行阻害リスクXbと他車両リスクYbは同等の値であるが、判定結果から、加速区間Zbに走行阻害リスクXbが存在する車線L6以外の車線L5に進入すると、自車両V1が他車両V4の走行を阻害することが分かっている。そこで、この場合には、自車両V1が他車両V4の走行を阻害する事態の発生を抑制するために、車線L6を選択する。走行経路生成部14は、位置P1から車線L6に進入するための走行軌跡T3及びT4を生成する。そして、走行動作制御部15は、走行経路生成部14にて生成された走行軌跡T3及びT4に沿って自車両V1を自律的に走行させる。
【0060】
また、交差点Cの信号機が停止信号に切り替わるときに、加速区間に走行阻害リスク及び他車両リスクが存在しない車線、又は加速区間に所定値以下の走行阻害リスク又は他車両リスクが存在する車線に進入する他車両が存在するときは、加速区間に走行阻害リスク及び他車両リスクが存在しない車線、又は加速区間に所定値以下の走行阻害リスク又は他車両リスクが存在する車線以外の車線に進入するように、自車両V1の自律的な走行を支援する。当該他車両に起因する他車両リスクを算出する場合には、信号機の信号が停止信号に切り替わる時に、それ以外の時と比較して高い値の他車両リスクを算出してもよい。たとえば、交差点Cの信号機が停止信号に切り替わる場合に、対向右折車両又は対向左折車両が存在するときは、これらの対向車両に起因する他車両リスクを大きくする。信号機の信号が停止信号に切り替わる時に交差点Cに進入してくる他車両には走行を阻害される可能性が高いため、他車両リスクを高く算出し、対向車両の走行を優先することで、対向車両など交差点Cに進入してくる他車両との接触を回避できる。
【0061】
[走行支援システムの処理]
図3を参照して、走行支援装置8が交差点Cを右左折する自車両V1の自律的な走行を支援する際の処理を説明する。
図3は、
図1の走行支援システム20における情報の処理を示すフローチャートの一例である。以下に説明する処理は、走行支援装置8のプロセッサ9により、所定の時間間隔で実行される。
【0062】
フローチャートの各ステップは走行支援装置8により処理され、走行支援システム20に含まれる装置及び機能ブロックを用いて実行される。また、以下の説明は、走行支援装置8の自律制御により、設定した経路に沿って自車両V1が自律的に走行しており、走行速度は車速制御装置61により制御され、操舵操作は操舵制御装置62により制御されているものとする。
【0063】
まず、ステップS1にて、走行支援装置8は、加速区間設定部11の機能により、右左折後に自車両V1が進入する道路に加速区間を設定する。続くステップS2にて、走行阻害リスク取得部12の機能により、走行阻害リスクを取得する。そして、ステップS3にて、取得した走行阻害阻害リスクを設定された加速区間に配置する。
【0064】
次に、ステップS4にて、走行支援装置8は、他車両リスク算出部13の機能により自車両V1の周囲の他車両を検出する。当該検出には、撮像装置1及び測距装置2を用いる。続くステップS5にて、検出した他車両と自車両V1との相対距離が、時間の経過と共に小さくなるか否かを判定する。当該判定には、撮像装置1にて検出した他車両の走行動作(たとえばウィンカーの点灯)、測距装置2にて検出した他車両の走行速度などを用いる。検出した他車両と自車両V1との相対距離が変化しない、又は時間の経過と共に大きくなると判定した場合には、ステップS8に進む。
【0065】
一方、検出した他車両と自車両V1との相対距離が時間の経過と共に小さくなると判定した場合には、ステップS6に進む。ステップS6にて、走行支援装置8は、他車両リスク算出部13の機能により、他車両の分類に応じた他車両リスクを算出する。そして、ステップS7にて、算出した他車両リスクを設定された加速区間に配置する。なお、ステップS5~S7は必須のステップではなく、必要に応じて設けることができる。
【0066】
次に、走行支援装置8は、走行経路生成部14の機能により、右左折後に走行する道路において進入する車線を選択する。具体的には、加速区間に走行阻害リスク及び他車両リスクが存在しない車線、又は加速区間に所定値以下の走行阻害リスク及び/又は他車両リスクが存在する車線を選択する。続くステップS9にて、走行経路生成部14の機能により、選択した車線に進入するための走行経路を生成する。そして、ステップS10にて、走行動作制御部15の機能により、走行経路生成部14により生成された走行経路に沿って走行するように、自車両V1の走行動作を自律制御する。
【0067】
[本発明の実施態様]
以上のとおり、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、交差点Cを右折又は左折する車両の走行を自律制御する場合に、交差点Cに進入する前に、前記交差点Cを右折又は左折した後に自車両V1が走行する道路における、自車両V1の走行を阻害するリスクの情報を取得し、前記道路の車線のうち、前記交差点Cから所定の距離までの区間Zに前記リスクが存在しない車線、又は前記区間Zに所定値以下の前記リスクが存在する車線に進入するように自車両V1の走行を自律制御する。これにより、加速しながら障害物を回避するための転舵操縦を行うことを抑制することができ、自車両V1の大きな挙動変化を抑制することができ、これにより乗員に与える違和感を抑制することができる。また、走行を阻害するリスクに対応する障害物と自車両V1との接触を回避する距離を確保するために、自車両V1が加速区間Zにて停車する事態の発生が抑制できる。
【0068】
また、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、前記所定の距離は、自車両V1が、前記交差点Cを右折又は左折してから、設定された速度に到達するまでの距離である。これにより、自車両V1が交差点Cを退出した後に加速するために必要な走行距離を加速区間Zに反映できる。
【0069】
また、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、前記所定の距離は、自車両V1が、前記交差点Cを右折又は左折してから、設定された速度に到達するまでの距離に、前記リスクに対応する障害物を回避するために必要な走行距離を加えた距離である。これにより、自車両V1が交差点Cを退出した後に加速するために必要な走行距離と、障害物を回避するために必要な走行距離とを加速区間Zに反映できる。
【0070】
また、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、前記リスクが存在する位置が前記交差点Cに近いほど、前記リスクの値を高く算出する。これにより、障害物が交差点Cに近いほど、当該障害物を回避する走行動作を行うための走行距離が短くなり、回避が困難になることを、進入する車線の選択に反映できる。
【0071】
また、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、前記情報を取得してから経過した時間が短いほど、前記リスクの値を高く算出する。これにより、障害物の位置について確度の高い情報を用いて、右左折後に進入する車線の選択できる。
【0072】
また、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、自車両V1の周囲を走行する他車両を検出し、前記区間Zに前記リスクが存在しない車線、又は前記区間Zに所定値以下の前記リスクが存在する車線に自車両V1が進入した場合に、自車両V1が前記他車両の走行を阻害するか否かを判定し、自車両V1が前記他車両の走行を阻害すると判定した場合には、前記区間Zに前記リスクが存在しない車線、又は前記区間Zに所定値以下の前記リスクが存在する車線とは別の車線に自車両V1が進入するように自車両V1の走行を自律制御する。これにより、交差点Cに進入する他車両の走行が自車両V1の走行により阻害される事態の発生が抑制でき、あわせて、自車両V1が他車両と不必要に接近する事態の発生が抑制できる。
【0073】
また、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、自車両V1が左折する場合に、前記交差点Cに右折して進入する対向車両V3が存在するときは、前記道路の車線のうち、最も左側の車線以外の少なくとも一つの車線にリスクを配置する。これにより、対向右折車両の走行が自車両V1の走行により阻害される事態の発生が抑制できる。
【0074】
また、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、自車両V1が右折する場合に、前記交差点Cに左折して進入する対向車両V4が存在するときは、前記道路の車線のうち、最も右側の車線以外の少なくとも一つの車線にリスクを配置する。これにより、対向左折車両の走行が自車両V1の走行により阻害される事態の発生が抑制できる。
【0075】
また、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、前記交差点Cから、次に進入する交差点まで自車両V1が走行する経路における、自車両V1の走行を阻害するリスクの情報を取得し、転舵せずに設定された速度まで加速でき、かつ、前記交差点Cから、次に進入する交差点まで自車両V1が走行するときに、リスクに対応する障害物の回避に伴う自車両V1の挙動の変化が最も小さくなる車線に自車両V1が進入するように自車両V1の走行を自律制御する。これにより、交差点間の走行阻害リスクを考慮した走行経路を生成することができる。
【符号の説明】
【0076】
20…走行支援システム
1…撮像装置
2…測距装置
3…地図情報
4…自車位置検出装置
5…ナビゲーション装置
6…車両制御装置
61…車速制御装置
62…操舵制御装置
7…通信装置
8…走行支援装置
9…プロセッサ
91…CPU
92…ROM
93…RAM
10…自律走行支援部
11…加速区間設定部
12…走行阻害リスク取得部
13…他車両リスク算出部
14…走行経路生成部
15…走行動作制御部
C…交差点
D…制限速度に到達するまでに必要な走行距離
L1、L2、L3、L4、L5、L6…車線
P1、P2、P3、P4、P5…自車両の位置
Px、Py…目的地
Q…工事区間
R1、R2…道路
S…停止線
V1…自車両
V2、V3、V4…他車両
T1、T2、T3、T4…走行軌跡
Xa、Xb…走行阻害リスク
Ya、Yb…他車両リスク
Za、Zb…加速区間