IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-車載用電動流体機械 図1
  • 特許-車載用電動流体機械 図2
  • 特許-車載用電動流体機械 図3
  • 特許-車載用電動流体機械 図4
  • 特許-車載用電動流体機械 図5
  • 特許-車載用電動流体機械 図6
  • 特許-車載用電動流体機械 図7
  • 特許-車載用電動流体機械 図8
  • 特許-車載用電動流体機械 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】車載用電動流体機械
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20241119BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
F04B39/00 102Q
F16F15/08 V
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021048975
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147644
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆司
(72)【発明者】
【氏名】深澤 末広
(72)【発明者】
【氏名】西森 規貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇行
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0147150(US,A1)
【文献】特開2007-046523(JP,A)
【文献】特開2010-138808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを内部に収容し、かつ軸線方向の各端面に挿通孔が形成された取付脚を有するハウジングと、
前記挿通孔に挿通される軸部、及び前記軸部の一端部に頭部を有し、前記軸部の他端部が取付対象に締結されることで前記取付対象に前記取付脚を取り付ける締結部材と、
前記取付脚と前記軸部の間に配置され、前記頭部からの締結力を受けるスリーブと、
前記取付脚の前記軸線方向の両側に配置される防振弾性部材であって、前記取付脚の内周面と前記スリーブの外周面との間に配置される円筒部、及び前記円筒部の外側に向けて径方向に延びる鍔部を端部に有する前記防振弾性部材と、
前記締結力を前記スリーブ及び前記鍔部を介して前記取付脚に作用させる環状板と、を有し、
前記防振弾性部材は、前記スリーブ及び前記環状板に対して非接着状態で前記取付脚に配置され、
前記環状板は、前記鍔部との当接面に前記鍔部の径方向外側への弾性変形を抑制する凸部又は凹部を有し、
前記凸部又は前記凹部は、前記鍔部の外周面よりも径方向の内側の位置かつ前記円筒部の外周面よりも径方向の外側の位置に設けられることを特徴とする車載用電動流体機械。
【請求項2】
前記凸部又は前記凹部は環状である請求項1に記載の車載用電動流体機械。
【請求項3】
前記鍔部は、前記凸部又は前記凹部に嵌合する鍔部側凹部又は鍔部側凸部を有する請求項1又は請求項2に記載の車載用電動流体機械。
【請求項4】
前記環状板は、前記凸部を有し、
前記環状板は、金属製であり、
前記鍔部は、前記凸部に嵌合される前記鍔部側凹部を有する請求項3に記載の車載用電動流体機械。
【請求項5】
前記環状板は、前記凹部を有し、
前記鍔部は、前記凹部に嵌合される前記鍔部側凸部を有する請求項3に記載の車載用電動流体機械。
【請求項6】
前記鍔部の前記環状板に対する当接面は平面であり、
前記当接面は前記凸部又は前記凹部に倣って弾性変形する請求項1又は請求項2に記載の車載用電動流体機械。
【請求項7】
前記凸部又は前記凹部は、前記取付脚の径方向の内側の位置に設けられる請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載の車載用電動流体機械。
【請求項8】
前記スリーブと前記環状板は一体である請求項1~請求項7のうちいずれか一項に記載の車載用電動流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用電動流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用電動流体機械の一例である車載用電動圧縮機は、車両の取付対象に取り付けられている。この取付のため、車載用電動圧縮機はハウジングに取付脚を有する。取付脚に挿通した締結部材が取付対象に締結されることにより、車載用電動圧縮機が取付対象に取り付けられている。また、車載用電動圧縮機の電動モータの運転に伴う振動が車両に伝達されるのを防ぐため、車載用電動圧縮機は防振弾性部材を有する。
【0003】
特許文献1に開示の電動圧縮機の取付構造では、図9に示すように、電動圧縮機の取付け足90とエンジン側の装着部材91に締結部材としての締結ボルト92が挿入されている。締結ボルト92の軸部92aは装着部材91に螺子込まれている。締結ボルト92の頭部92bと取付け足90の一方の端面との間には、締結ボルト92の螺子込みにより加圧されて塑性変形している第1間隙調整部93が防振弾性部材として配置されている。また、取付け足90の他方の端面と装着部材91との間には、締結ボルト92の螺子込みにより加圧されて塑性変形している第2間隙調整部94が防振弾性部材として配置されている。
【0004】
また、特許文献1に開示の電動圧縮機の取付構造では、第1間隙調整部93と頭部92bとの間と、第2間隙調整部94と装着部材91との間に押さえ用座金95が設けられている。取付け足90内には、金属パイプからなるカラー部96が挿入されている。
【0005】
第1間隙調整部93及び第2間隙調整部94の各々は、筒部93a,94aと鍔部93b,94bを一体に有する。筒部93a,94aは、カラー部96の外周面と取付け足90の内周面との間に配置されている。第1間隙調整部93の鍔部93bは、押さえ用座金95と取付け足90の一端面との間に配置されるとともに、第2間隙調整部94の鍔部94bは、押さえ用座金95と取付け足90の他端面との間に配置されている。
【0006】
電動圧縮機のハウジングの振動のうち締結ボルト92の軸線方向と平行な方向の振動成分は、鍔部93b,94bによって減衰される。また、締結ボルト92の軸線方向と直交する方向の振動成分は筒部93a,94aによって減衰される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-138808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電動圧縮機のハウジングの振動により、鍔部93b,94bが、締結ボルト92の軸線方向と直交する方向へ弾性変形する。このとき、鍔部93b,94bが径方向外側へ弾性変形するほど、鍔部93b,94bと筒部93a,94aとの境界付近に発生する応力集中が大きくなる。その結果、鍔部93b,94bと筒部93a,94aとの境界付近が損傷する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するための車載用電動流体機械は、電動モータを内部に収容し、かつ軸線方向の各端面に挿通孔が形成された取付脚を有するハウジングと、前記挿通孔に挿通される軸部、及び前記軸部の一端部に頭部を有し、前記軸部の他端部が取付対象に締結されることで前記取付対象に前記取付脚を取り付ける締結部材と、前記取付脚と前記軸部の間に配置され、前記頭部からの締結力を受けるスリーブと、前記取付脚の前記軸線方向の両側に配置される防振弾性部材であって、前記取付脚の内周面と前記スリーブの外周面との間に配置される円筒部、及び前記円筒部の外側に向けて径方向に延びる鍔部を端部に有する前記防振弾性部材と、前記締結力を前記スリーブ及び前記鍔部を介して前記取付脚に作用させる環状板と、を有し、前記防振弾性部材は、前記スリーブ及び前記環状板に対して非接着状態で前記取付脚に配置され、前記環状板は、前記鍔部との当接面に前記鍔部の径方向外側への弾性変形を抑制する凸部又は凹部を有することを要旨とする。
【0010】
これによれば、電動モータの運転に伴う振動が車載用電動流体機械に発生すると、防振弾性部材に振動成分が入力される。すると、環状板と取付脚との間で鍔部が、取付脚の軸線方向に加圧される。このとき、凸部又は凹部によって鍔部の径方向外側への弾性変形が抑制される。このため、凸部又は凹部によって、鍔部が径方向外側へ過度に弾性変形することが抑制される。その結果、円筒部と鍔部の境界付近に発生する応力集中を低減して円筒部と鍔部の境界付近の損傷を抑制できる。
【0011】
車載用電動流体機械について、前記凸部又は前記凹部は環状であってもよい。
これによれば、凸部又は凹部が防振弾性部材の全周に亘って設けられる。このため、鍔部の全周に亘って径方向外側への弾性変形が抑制される。このため、局所的な鍔部の弾性変形を抑制できる。
【0012】
車載用電動流体機械について、前記鍔部は、前記凸部又は前記凹部に嵌合する鍔部側凹部又は鍔部側凸部を有していてもよい。
これによれば、凸部と鍔部側凹部との嵌合による当接、又は凹部と鍔部側凸部との嵌合による当接により、鍔部の径方向外側への弾性変形を効果的に抑制できる。
【0013】
車載用電動流体機械について、前記環状板は、前記凸部を有し、前記環状板は、金属製であり、前記鍔部は、前記凸部に嵌合される前記鍔部側凹部を有していてもよい。
車載用電動流体機械について、前記環状板は、前記凹部を有し、前記鍔部は、前記凹部に嵌合される前記鍔部側凸部を有していてもよい。
【0014】
車載用電動流体機械について、前記鍔部の前記環状板に対する当接面は平面であり、前記当接面は前記凸部又は前記凹部に倣って弾性変形してもよい。
これによれば、防振弾性部材に振動成分が入力されると、環状板と取付脚との間で鍔部が、取付脚の軸線方向に加圧される。このとき、鍔部の当接面が、凸部又は凹部に倣って弾性変形する。その結果、鍔部と環状板とが当接して、鍔部が径方向外側へ過度に弾性変形することが抑制される。
【0015】
また、鍔部に設けた凸部又は凹部と、環状板に設けた凹部又は凸部とが嵌合するように、環状板と防振弾性部材を組付ける場合と比べると、環状板と防振弾性部材との組付け性が向上する。
【0016】
車載用電動流体機械について、前記凸部又は前記凹部は、前記円筒部の外周面よりも径方向の外側の位置かつ前記取付脚の径方向の内側の位置に設けられていてもよい。
これによれば、締結部材の頭部からの締結力をスリーブ及び鍔部を介して取付脚に作用させたとき、環状板の凸部又は凹部と、鍔部とを好適に当接させることができるため、鍔部の径方向外側への弾性変形を抑制できる。
【0017】
車載用電動流体機械について、前記スリーブと前記環状板は一体であってもよい。
これによれば、スリーブを取付脚に挿通する作業だけで、スリーブと、凸部又は凹部を有する環状板と、取付脚に配置できる。よって、スリーブと、凸部又は凹部を有する環状板とを別々に取付脚に配置する場合と比べると、その配置作業が容易になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、防振弾性部材の損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】車載用電動圧縮機及び防振装置を示す分解斜視図。
図2】取付脚の取付構造を示す断面図。
図3】防振弾性部材及びスリーブを示す斜視図。
図4】鍔部側凹部と凸部を示す拡大図。
図5】別例の防振装置を示す断面図。
図6】別例の防振装置を示す断面図。
図7】(a)締結部材によって締結する前のフランジ及び鍔部を示す断面図、(b)は締結部材によって締結した後のフランジ及び鍔部を示す断面図。
図8】(a)締結部材によって締結する前のフランジ及び鍔部を示す断面図、(b)は締結部材によって締結した後のフランジ及び鍔部を示す断面図。
図9】背景技術を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、車載用電動流体機械を車載用電動圧縮機に具体化した一実施形態を図1図5にしたがって説明する。車載用電動圧縮機は車両用の空調装置に用いられるものである。
図1に示すように、車載用電動圧縮機10は、ハウジング11と、電動モータ12を含む図示しない電動圧縮機構と、防振装置20と、を備えている。ハウジング11は、筒状の収容部13と、複数の取付脚14と、を有する。複数の取付脚14は、図示しない車両の一部分である取付対象50にハウジング11を取り付けるために設けられている。
【0021】
収容部13の内部に電動モータ12を含む電動圧縮機構が収容されている。つまり、ハウジング11は、内部に電動モータ12を収容している。電動圧縮機構は、電動モータ12のほか、図示は省略しているが、回転軸、回転軸の端部に連結された圧縮部、及びインバータを備えている。ハウジング11には、流体としての冷媒が吸入される吸入口と冷媒が吐出される吐出口とが形成されている。回転軸は、回転可能な状態でハウジング11に支持されている。電動圧縮機構では、電動モータ12によって回転軸が回転駆動される。回転軸の回転に伴って、ハウジング11の吸入口からハウジング11内に吸入された冷媒が圧縮されるとともに、その圧縮された冷媒がハウジング11の吐出口からハウジング11外に吐出される。
【0022】
複数の取付脚14の各々は筒状である。取付脚14の中心軸線Lの延びる方向は、取付脚14の軸線方向Xである。複数の取付脚14の中心軸線Lは、収容部13の軸線Mに対して直交する。複数の取付脚14は、互いの中心軸線Lが平行となるように収容部13に配置されている。複数の取付脚14は、構成が同じであるため、以下では、一つの取付脚14について説明し、残りの二つの取付脚14の説明は省略する。
【0023】
図2に示すように、取付脚14には、挿通孔15が形成されている。挿通孔15は、取付脚14を軸線方向Xに貫通する。挿通孔15は、取付脚14の軸線方向Xの両側の大径孔15aと、両方の大径孔15aの間に位置する小径孔15bとから構成されている。取付脚14は、大径孔15aの内周面と小径孔15bの内周面とを繋ぐ環状面16を有する。
【0024】
取付脚14は、軸線方向Xの第1端に端面としての第1端面14aを有し、軸線方向Xの第2端に端面としての第2端面14bを有する。第1端面14a及び第2端面14bの各々は、挿通孔15を囲む環状な面である。したがって、取付脚14は、第1端面14a及び第2端面14bに挿通孔15が形成されている。
【0025】
挿通孔15は、取付脚14の第1端面14a及び第2端面14bで開口する。第1端面14a及び第2端面14bは、中心軸線Lが直交する平坦面である。車載用電動圧縮機10は、取付脚14の第2端面14bを取付対象50に隣接させて取付対象50に取り付けられている。なお、取付対象50は、取付脚14の第2端面14bと隣接する隣接面51から軸線方向Xに延びる雌ねじ52を有する。
【0026】
次に、防振装置20について説明する。なお、防振装置20は、取付脚14の第1端面14a側と第2端面14b側の両方に設けられる。2つの防振装置20は同じ構造を有している。このため、一方の防振装置20の構造について説明し、他方の防振装置20の構造については説明を省略する。
【0027】
図1図2及び図3に示すように、防振装置20は、ボルトからなる締結部材21を取付対象50に締結することで取付脚14の両端面側に設置される。
締結部材21は金属製である。締結部材21は、挿通孔15に挿通される軸部22、及び軸部22の一端部に頭部23を有する。軸部22の他端側の外周面には雄ねじ22aが設けられている。締結部材21は、軸部22の他端部の雄ねじ22aが取付対象50の雌ねじ52に締結されることで取付対象50に取付脚14を取り付ける。
【0028】
防振装置20は、スリーブ31と、環状板としてのフランジ33と、凸部34と、防振弾性部材41と、鍔部側凹部44と、を有する。
スリーブ31は金属製である。スリーブ31は、円筒状である。また、スリーブ31と金属製のフランジ33とは一体である。フランジ33は、スリーブ31の軸線方向の端部から、スリーブ31の径方向に延びる。
【0029】
スリーブ31の外径は、小径孔15bの孔径より小さく、スリーブ31は取付脚14の挿通孔15に挿通されている。スリーブ31は、スリーブ孔32を有する。スリーブ孔32は、スリーブ31を軸線方向に貫通する。スリーブ孔32には締結部材21の軸部22が挿通されている。このため、スリーブ31には、締結部材21の軸部22が貫通している。したがって、スリーブ31は、軸部22の外周面と取付脚14の内周面との間に配置される。つまり、スリーブ31は、取付脚14と軸部22との間に配置されている。
【0030】
フランジ33は、中央にスリーブ孔32が開口する円板状である。フランジ33は、板厚方向の第1面に第1当接面33aを有し、板厚方向の第2面に第2当接面33bを有する。第1当接面33aは、スリーブ31の外周面に繋がる環状面である。第2当接面33bは第1当接面33aと反対側に位置する環状面である。第1当接面33a及び第2当接面33bは平面状である。
【0031】
凸部34は、フランジ33の第1当接面33aに設けられている。このため、凸部34は、フランジ33と材料を同じとする金属製である。凸部34は、スリーブ31と同心円の円筒状である。凸部34は、フランジ33の外周面33cよりも径方向の内側に配置されている。
【0032】
図4に示すように、スリーブ31の径方向に沿った凸部34の寸法を厚さとする。凸部34の厚さは、フランジ33からの突出方向の先端で徐々に薄くなっており、凸部34の先端は丸みを帯びた形状である。第1当接面33aからの凸部34の突出寸法は、後述する鍔部43の板厚より小さい。
【0033】
防振弾性部材41は弾性材料製である。弾性材料の一例はゴムである。防振弾性部材41は、電動モータ12の運転に伴うハウジング11の振動を減衰することにより、振動がハウジング11を介して車両に伝達されるのを防ぐものである。
【0034】
図2図3及び図4に示すように、防振弾性部材41は、円筒部42と、円板状の鍔部43と、鍔部側凹部44と、を有する。円筒部42の外径は、大径孔15aの孔径より小さい。また、円筒部42の内径は、小径孔15bの孔径より小さい。防振弾性部材41は、挿通孔42aを有する。挿通孔42aは、防振弾性部材41を軸線方向に貫通する。円筒部42は、軸線方向の両端部のうち、鍔部43が設けられた端部と反対側の端部に先端面42bを有する。円筒部42の軸線方向の寸法は、スリーブ31の軸線方向の寸法より小さい。
【0035】
鍔部43は、円筒部42の軸線方向の端部のうち、先端面42bと反対側の端部から円筒部42の外側に向けて径方向に延びる。鍔部43は、中央に挿通孔42aが開口する円板状である。鍔部43は、板厚方向の第1面に第1挟持面43aを有するとともに板厚方向の第2面に第2挟持面43bを有する。第1挟持面43aは、円筒部42の外周面に繋がる環状面である。第1挟持面43aは、取付脚14の端面に当接する面である。第2挟持面43bは、第1挟持面43aと反対側に位置する環状面である。鍔部43の板厚は、車載用電動圧縮機10の振動を吸収できる厚さに設定されている。
【0036】
図4に示すように、鍔部側凹部44は、鍔部43の第2挟持面43bから凹む。この鍔部側凹部44には、フランジ33の凸部34が嵌合する。鍔部側凹部44は、円筒部42と同心円状に設けられた環状溝である。鍔部側凹部44は、鍔部43の外周面43dよりも径方向の内側、かつ鍔部43の内周面よりも径方向の外側に配置されている。鍔部側凹部44は、円筒部42の外周面よりも径方向の外側に設けられている。
【0037】
鍔部43の径方向に沿った鍔部側凹部44の寸法を幅とする。鍔部側凹部44の幅は、第2挟持面43bから凹んだ先端で徐々に狭くなっている。このため、円筒部42の軸線方向に沿った鍔部側凹部44の断面では、鍔部側凹部44の底は丸みを帯びた形状である。
【0038】
また、鍔部側凹部44の幅は、凸部34の厚さと同じ又は僅かに大きく、鍔部側凹部44の第2挟持面43bからの深さは、凸部34の突出寸法と同じ又は僅かに大きい。鍔部側凹部44の深さは、当該鍔部側凹部44の設けられた箇所であっても、車載用電動圧縮機10の振動を鍔部43で吸収できるように設定されている。
【0039】
次に、防振装置20を備えた取付脚14の取付構造を説明する。
図2に示すように、取付脚14の第2端面14b側において、取付脚14の大径孔15aには、防振弾性部材41の円筒部42が挿通されている。円筒部42の先端面42bは、第2端面14b側の環状面16に当接している。また、鍔部43の第1挟持面43aが、取付脚14の第2端面14bに当接している。なお、鍔部43の外周面43dは、取付脚14の外周面よりも内側に位置している。
【0040】
防振弾性部材41の挿通孔42aには、スリーブ31が挿通されている。したがって、取付脚14の内周面とスリーブ31の外周面との間に防振弾性部材41の円筒部42が配置されている。スリーブ31は、円筒部42の先端面42bを越えて取付脚14の奥まで挿通されている。フランジ33の第1当接面33aは、鍔部43の第2挟持面43bに当接している。防振弾性部材41とスリーブ31とフランジ33は、互いに非接着であり、互いに軸線方向及び径方向に移動可能である。したがって、防振弾性部材41は、スリーブ31及びフランジ33に対して非接着状態で取付脚14に配置されている。
【0041】
したがって、取付脚14の取付構造では、取付脚14の内部で締結部材21の軸部22がスリーブ31を貫通している。また、防振弾性部材41は、スリーブ31及びフランジ33に対し相対移動可能である。
【0042】
フランジ33から突出する凸部34は、鍔部43の鍔部側凹部44に嵌合している。凸部34は、円筒部42の外周面よりも径方向の外側の位置から円筒部42の軸線に沿って鍔部43に向けて突出している。また、凸部34は、取付脚14の径方向の内側の位置に設けられている。凸部34の外周面は、鍔部側凹部44の外周面に当接し、凸部34の内周面は、鍔部側凹部44の内周面に当接している。また、凸部34の先端面は、鍔部側凹部44の底面に当接している。なお、フランジ33の第2当接面33bは、取付対象50の隣接面51に当接している。
【0043】
取付脚14の第1端面14a側において、取付脚14の大径孔15aには、防振弾性部材41の円筒部42が挿通されている。円筒部42の先端面42bは、第1端面14a側の環状面16に当接している。また、鍔部43の第1挟持面43aが、取付脚14の第1端面14aに当接している。なお、鍔部43の外周面43dは、取付脚14の外周面よりも内側に位置している。
【0044】
防振弾性部材41の挿通孔42aには、スリーブ31が挿通されている。したがって、取付脚14の内周面とスリーブ31の外周面との間に防振弾性部材41の円筒部42が配置されている。スリーブ31は、円筒部42の先端面42bを越えて取付脚14の奥まで挿通されている。フランジ33の第1当接面33aは、鍔部43の第2挟持面43bに当接している。
【0045】
第1端面14a側から挿入されたスリーブ31の先端面と、第2端面14b側から挿入されたスリーブ31の先端面とは、取付脚14内で当接している。また、防振弾性部材41とスリーブ31とフランジ33は、互いに非接着であり、互いに軸線方向及び径方向に移動可能である。
【0046】
したがって、取付脚14の取付構造では、取付脚14の内部で締結部材21の軸部22がスリーブ31を貫通している。また、防振弾性部材41は、スリーブ31及びフランジ33に対し相対移動可能である。
【0047】
フランジ33から突出する凸部34は、鍔部43の鍔部側凹部44に嵌合している。凸部34は、円筒部42の外周面よりも径方向の外側の位置から円筒部42の軸線に沿って鍔部43に向けて突出している。また、凸部34は、取付脚14の径方向の内側の位置に設けられている。凸部34の外周面は、鍔部側凹部44の外周面に当接し、凸部34の内周面は、鍔部側凹部44の内周面に当接している。また、凸部34の先端面は、鍔部側凹部44の底面に当接している。
【0048】
2本のスリーブ31のスリーブ孔32の各々には、締結部材21の軸部22が挿通されている。軸部22の雄ねじ22aは、取付対象50の雌ねじ52に螺子込まれることで取付対象50に締結されている。締結部材21の頭部23からの締結力はスリーブ31が受けている。また、スリーブ31が受けた締結力は、フランジ33及び鍔部43を介して取付脚14に作用している。その結果、頭部23からの締結力により、防振弾性部材41が軸線方向に加圧されている。
【0049】
第1挟持面43aは、第1端面14a又は第2端面14bに当接し、第2挟持面43bは、フランジ33の第1当接面33aに当接している。鍔部43は、取付脚14とフランジ33の間で軸線方向Xに挟持され、鍔部43は、軸線方向Xに加圧されている。また、円筒部42は、環状面16とフランジ33の間で、取付脚14の軸線方向Xに加圧される。
【0050】
そして、各フランジ33の凸部34は、それぞれ鍔部側凹部44に押し込まれている。凸部34は、フランジ33における鍔部43との当接面である第1当接面33aに設けられている。凸部34の外周面は、鍔部側凹部44の外周面に押し当てられ、凸部34の内周面は、鍔部側凹部44の内周面に押し当てられている。また、凸部34の先端面は、鍔部側凹部44の底面に押し当てられている。
【0051】
次に、車載用電動圧縮機10の作用を説明する。
電動モータ12の運転に伴う振動が車載用電動圧縮機10のハウジング11に発生する。ハウジング11の振動時、振動のうち締結部材21の軸線方向と平行な方向の振動成分は、防振弾性部材41の円筒部42及び鍔部43によって減衰される。また、締結部材21の軸線方向と直交する方向の振動成分は円筒部42によって減衰される。これにより、車載用電動圧縮機10の振動が取付対象50に伝達されるのが防止される。
【0052】
防振弾性部材41に振動成分が入力されると、フランジ33と取付脚14の各端面14a,14bの間で鍔部43が加圧され、鍔部43は弾性変形する。このとき、防振弾性部材41において、鍔部側凹部44に凸部34が嵌合した箇所より内側は、鍔部側凹部44と凸部34の当接によって、径方向の外側に向けた弾性変形が抑制される。したがって、フランジ33は、鍔部43との当接面に、鍔部43の径方向外側への弾性変形を抑制する凸部34を有しているといえる。
【0053】
本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)フランジ33に凸部34を設け、鍔部43に鍔部側凹部44を設けた。そして、防振弾性部材41に振動成分が入力されたとき、鍔部側凹部44と凸部34との嵌合により、鍔部43の径方向外側への過度な弾性変形が抑制される。その結果、円筒部42と鍔部43の境界付近に発生する応力集中を低減して円筒部42と鍔部43の境界付近の損傷を抑制できる。その結果、防振弾性部材41が損傷することによる耐力の低下を抑制できる。
【0054】
(2)凸部34は環状である。このため、鍔部側凹部44に凸部34が嵌合した箇所が防振弾性部材41の全周に亘って設けられる。このため、防振弾性部材41において、鍔部43の全周に亘って径方向外側への弾性変形が抑制される。このため、局所的な鍔部43の弾性変形を抑制できる。
【0055】
(3)凸部34をフランジ33に設け、鍔部側凹部44を鍔部43に設けた。金属製の凸部34は、径方向外側への鍔部43の弾性変形を受けても変形しにくい。このため、鍔部43の径方向外側への弾性変形を好適に抑制できる。
【0056】
(4)凸部34の先端、及び鍔部側凹部44の底は丸みを帯びた形状である。このため、鍔部43が弾性変形したとき、鍔部側凹部44に応力集中が発生しにくく、鍔部側凹部44付近の損傷を抑制できる。
【0057】
(5)防振弾性部材41は、スリーブ31及びフランジ33に対し非接着である。このため、防振弾性部材41をスリーブ31及びフランジ33に加硫接着する工程が不要になり、車載用電動圧縮機10の費用を抑えることができる。また、防振弾性部材41がスリーブ31及びフランジ33に非接着であるため、防振弾性部材41に振動成分が入力されたとき、鍔部側凹部44と凸部34の当接によって、鍔部43の径方向外側への弾性変形が抑制される。したがって、車載用電動圧縮機10の費用を抑えつつ、防振弾性部材41が損傷することによる耐力の低下を抑制できる。
【0058】
(6)スリーブ31にフランジ33を一体に設けるとともに、フランジ33に凸部34を設けた。このため、スリーブ31を取付脚14の挿通孔15に挿通する作業だけで、スリーブ31と、凸部34を有するフランジ33とを、取付脚14に配置できる。よって、スリーブ31と、凸部34を有するフランジ33とを別々に取付脚14に配置する場合と比べると、その配置作業が容易になる。
【0059】
(7)凸部34は、円筒部42の外周面よりも径方向の外側の位置かつ取付脚14の径方向の内側の位置に設けられている。このため、締結部材21の頭部23からの締結力をスリーブ31及び鍔部43を介して取付脚14に作用させたとき、フランジ33の凸部34と、鍔部43とを好適に当接させることができる。よって、鍔部43の径方向外側への弾性変形を抑制できる。
【0060】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0061】
図5に示すように、鍔部43は、円筒部42の外周面よりも径方向の外側の位置で、かつ取付脚14の径方向内側の位置からフランジ33に向けて突出する鍔部側凸部45を有する。また、フランジ33は鍔部側凸部45が嵌合する凹部36を有していてもよい。この場合、フランジ33の第1当接面33aと凹部36の内周面との境界は滑らかに湾曲する形状であるのが好ましい。また、鍔部側凸部45は環状であるのが好ましい。
【0062】
このように構成した場合、鍔部側凸部45は、防振弾性部材41の一部であるため、鍔部側凸部45も弾性材料製となり、鍔部側凸部45によって防振弾性部材41の体積が増える。このため、防振弾性部材41による振動防止効果が向上する。
【0063】
また、防振弾性部材41に振動成分が入力されたとき、鍔部43は径方向外側へ弾性変形しようとする。このとき、フランジ33の第1当接面33aと凹部36の内周面との境界は滑らかに湾曲する形状であるため、鍔部側凸部45の根元付近に発生する応力集中を低減できるとともに、フランジ33の第1当接面33aとの当接による損傷及び摩耗を低減できる。
【0064】
図6に示すように、スリーブ31からフランジ33を削除してもよい。この場合、スリーブ31の軸線方向の一端面と頭部23との間に環状板としてのワッシャ46が配置されるとともに、スリーブ31の軸線方向の他端面と取付対象50との間に環状板としてのワッシャ46が配置される。この場合、ワッシャ46は、スリーブ31が受ける頭部23からの締結力を、スリーブ31及び鍔部43を介して取付脚14に作用させる。
【0065】
そして、第2端面14b側のワッシャ46において、鍔部43との当接面に凸部47を設けてもよい。ワッシャ46は中央に、締結部材21の軸部22が挿通される貫通孔46aを有する。凸部47は、ワッシャ46の外周縁よりも径方向の内側であって、円筒部42の外周面よりも径方向の外側の位置かつ取付脚14の径方向の内側の位置に設けられる。凸部47は、ワッシャ46の全周に亘って環状に設けられていてもよいし、ワッシャ46の周方向へ間隔を空けて複数設けられていてもよい。そして、凸部47が嵌まり込む鍔部側凹部44を鍔部43に設ける。その一方で、第1端面14a側の鍔部43に鍔部側凸部45を設け、ワッシャ46に凹部48を設けてもよい。
【0066】
図7(a)に示すように、フランジ33の第1当接面33aに凹部36を設ける。また、鍔部43のフランジ33に対する当接面である第2挟持面43bを平面とする。そして、図7(b)に示すように、取付脚14の取付構造において、鍔部43がフランジ33と取付脚14との間で挟持されたとき、第2挟持面43bを凹部36に倣って弾性変形させる。この第2挟持面43bの弾性変形により、フランジ33は、鍔部43との当接面に鍔部43の径方向外側への弾性変形を抑制する凹部36を有することになる。同時に、鍔部43は、凹部36に嵌合する鍔部側凸部を有することになる。
【0067】
このように構成した場合、防振弾性部材41に振動成分が入力されると、フランジ33と取付脚14との間で鍔部43が、取付脚14の軸線方向Xに加圧される。このとき、鍔部側凸部と凹部36との嵌合により、鍔部43とフランジ33とが当接して、鍔部43が径方向外側へ過度に弾性変形することが抑制される。
【0068】
また、鍔部43に設けた凹部36と、フランジ33に設けた鍔部側凸部とが嵌合するように、フランジ33と防振弾性部材41を組付ける場合と比べると、フランジ33と防振弾性部材41との組付け性が向上する。
【0069】
図8(a)に示すように、フランジ33の第1当接面33aに凸部34を設ける。また、鍔部43のフランジ33に対する当接面である第2挟持面43bを平面とする。そして、図8(b)に示すように、取付脚14の取付構造において、鍔部43がフランジ33と取付脚14との間で挟持されたとき、第2挟持面43bを凸部34に倣って弾性変形させる。この第2挟持面43bの弾性変形により、フランジ33は、鍔部43との当接面に鍔部43の径方向外側への弾性変形を抑制する凸部34を有することになる。同時に、鍔部43は、凸部34に嵌合する鍔部側凹部を有することになる。
【0070】
このように構成した場合、防振弾性部材41に振動成分が入力されると、フランジ33と取付脚14との間で鍔部43が、取付脚14の軸線方向Xに加圧される。このとき、凸部34と鍔部側凹部との嵌合により、鍔部43とフランジ33とが当接して、鍔部43が径方向外側へ過度に弾性変形することが抑制される。
【0071】
また、鍔部43に設けた凸部34と、フランジ33に設けた鍔部側凹部とが嵌合するように、フランジ33と防振弾性部材41を組付ける場合と比べると、フランジ33と防振弾性部材41との組付け性が向上する。
【0072】
○ 凸部34は、フランジ33の周方向に間隔を空けて複数設けられ、各凸部34が嵌合するように、鍔部43には、鍔部43の周方向に間隔を空けて鍔部側凹部44が複数設けられていてもよい。この場合、各凸部34及び鍔部側凹部44の形状はどのような形状でもよい。
【0073】
○ 車載用電動圧縮機10の圧縮対象の流体は、例えば空気など、冷媒以外であってもよい。
○ 車載用電動流体機械は、流体を圧縮する圧縮部を備えた車載用電動圧縮機10に限らない。例えば、燃料電池車両に搭載される場合には、車載用電動流体機械は、燃料電池に水素を供給するポンプと、当該ポンプを駆動する車載用電動モータとを有する電動ポンプ装置であってもよい。
【符号の説明】
【0074】
10…車載用電動流体機械としての車載用電動圧縮機、11…ハウジング、12…電動モータ、14…取付脚、14a…第1端面、14b…第2端面、15…挿通孔、21…締結部材、22…軸部、23…頭部、31…スリーブ、33…環状板としてのフランジ、33a…第1当接面、34,47…凸部、36,48…凹部、41…防振弾性部材、42…円筒部、43…鍔部、44…鍔部側凹部、45…鍔部側凸部、46…環状板としてのワッシャ、50…取付対象。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9