(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】積層シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241119BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20241119BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20241119BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/022
B32B7/025
B32B27/36
(21)【出願番号】P 2021056861
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠山 秀旦
(72)【発明者】
【氏名】松居 久登
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-109452(JP,A)
【文献】特開2018-160688(JP,A)
【文献】特開2005-254472(JP,A)
【文献】特開2005-109123(JP,A)
【文献】特開2008-004624(JP,A)
【文献】特開2019-075571(JP,A)
【文献】特開2019-121707(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0337105(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる2種類の層(A層とB層)を交互に合計5層以上積層した交互積層ユニットを含み、周波数ごとに電磁波の反射減衰量を測定し、縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときに、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量が5.0dB以上であり、90℃での破断点伸度が1%を超えて2000%以下であることを特徴とする、積層シート。
【請求項2】
結晶化温度Tcとガラス転移温度Tgとの差(ΔTcg)が50℃以上200℃以下、または結晶化温度Tcが観測できない、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
90℃での引張試験にて100%伸長時の応力が10.0MPa以下である、請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
厚みが5/6になるように伸長した前後で、ピークトップの反射減衰量の変化が5dB以下である、請求項1~3のいずれかに記載の積層シート。
【請求項5】
厚みが2/3になるように伸長した前後で、ピークトップの反射減衰量の変化が10dB以下である、請求項1~4のいずれかに記載の積層シート。
【請求項6】
厚みが5/6になるように伸長した前後で、直線偏波に対する反射減衰量を測定した際にピークトップの反射減衰量の最大の変化が5dB以下である、請求項1~3のいずれかに記載の積層シート。
【請求項7】
厚みが2/3になるように伸長した前後で、直線偏波に対する反射減衰量を測定した際にピークトップの反射減衰量の最大の変化が10dB以下である、請求項1~3または6のいずれかに記載の積層シート。
【請求項8】
ピークトップの反射減衰量(dB)を厚み(μm)で除し、ピークトップの波長(mm)を乗じた値が、0.10dB・mm/μm以上2.00dB・mm/μm以下であることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の積層シート。
【請求項9】
静的粘弾性試験によるヤング率(Ys)が1.0GPa以上10GPa以下であり、かつ動的粘弾性試験によるヤング率(Yd)との比(Ys/Yd)が0.5以上である、請求項1~8のいずれかに記載の積層シート。
【請求項10】
シクロアルカン単位、炭素数5以上の鎖状アルカン単位、及び分子量2万以下のポリエチレングリコール単位の少なくとも一つの単位を、樹脂成分中に1mol%以上99mol%以下含む、請求項1~9のいずれかに記載の積層シート。
【請求項11】
シクロアルカン単位と炭素数5以上の鎖状アルカン単位の少なくとも一方が共重合したポリエステルを1質量%以上100質量%以下含む、請求項1~10のいずれかに記載の積層シート。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の積層シートまたは積層シートの成型体を含んでなる、建築材料。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の積層シートまたは積層シートの成型体を含んでなる、電子機器。
【請求項14】
請求項1から11のいずれかに記載の積層シートまたは積層シートの成型体を含んでなる、交通機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド性に優れる積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
通信技術の進歩に伴い、携帯電話や無線通信などで主に使用される数百MHz~数GHz帯域のメートル波、4G・5Gなどのモバイル通信、無線LAN(Wi-fi)通信などで主に使用される数GHz~数十GHz帯域のセンチ波、自動車衝突防止レーダーなどで主に使用される数十GHz~数百GHz帯域のミリ波に代表される、種々の周波数帯域の電磁波が使用され、大気中を飛び交っている。情報の容量や伝達する距離・用途に合わせて適した周波数帯域の電磁波が選択されるが、類似する周波数帯域の電磁波が様々な装置・用途で使用されるため、種々の電波障害(装置誤作動や通信障害、情報漏洩、また、電磁波に敏感な人体への影響)を防ぐ目的で、電磁波を遮蔽する電磁波シールド材料のニーズが高まっている。特に、近年では、高速・大容量通信を実現するために、GHz周波数帯域の電磁波を利用する通信技術開発が加速しており、当該周波数帯域の電磁波を遮蔽できる電磁波シールド材料が求められている。
【0003】
電磁波とは、電界と磁界の2成分から構成される波であり、これは互いに振動しながら空間を伝播する。電磁波を遮蔽する電磁波シールド材料は、材料表面/内部で電磁波を反射、あるいは、材料内部で電磁波を吸収することで電磁波エネルギーを損失・減衰する材料であり、反射と吸収を組み合わせることでより効果を高めることができる。例えば、電磁波の表面反射は、空気界面と電磁波シールド材料界面の電気抵抗値(インピーダンス)が異なることで効果を高めることができ、一般的に金属(例えば銅)など非常に抵抗値が低い材料を基材表面に塗布、積層することで広範囲の周波数帯域にわたる電磁波シールド性を実現できる(特許文献1)。一般に電磁波を反射することで遮蔽する場合には電磁波の発生源と保護する対象を隔てる位置にシールド材料を設置する必要があるため、例えばレーダーが発する電磁波からレーダー自身を保護するような場合には不向きである。
【0004】
一方、吸収による電磁波シールドは、基材内に導電性材料および/または磁性材料を含有させ、内部に進入した電磁波を誘導電流として吸収することで電磁波エネルギーを損失させるものであり、カーボン材料やフェライト、鉄をはじめとする各種3d遷移元素を含む金属材料等をゴムなどの誘電体ポリマーに含有させることで吸収性能を発現している(特許文献2~4)。磁性材料ではアクリルゴムやシリコーンゴムに分散させることで、可撓性を持たせる技術が開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2011-502285号公報
【文献】特開2012-94764号公報
【文献】特開2000-243615号公報
【文献】特開2004-39703号公報
【文献】特開2019-75571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献2~4に示すような技術では導電性材料および/または磁性材料を高濃度に含有または製造途中に溶媒を除去しているため、成形性に乏しい。電磁波シールド材料を必要とする多くの用途では成形性があることが好ましく、特に電磁波吸収性能を建築材料や電子機器筐体、交通機関の内外装に用いる場合にはデザインに合わせた形に成型できることが求められる。特許文献5ではバインダーとしてゴムを用いることで可撓性を持たせることに成功しているが、深い形状に追従させるためには不十分である。本発明は上記課題を解消し、電磁波遮蔽性と成形性を両立した積層シートを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成からなる。すなわち、互いに異なる2種類の層(A層とB層)を交互に合計5層以上積層した交互積層ユニットを含み、周波数ごとに電磁波の反射減衰量を測定し、縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときに、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量が5.0dB以上であり、90℃での破断点伸度が1%を超えて2000%以下であることを特徴とする、積層シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、2種の層を積層することで延伸時の応力を低下させ、破断点伸度を高い値とすることで、電磁波吸収性能を維持したまま成形性の優れた積層シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときの、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップを表す図である。
【
図2】縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときの、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の積層シートについて詳細に説明する。本発明の積層シートは、互いに異なる2種類の層(A層とB層)を交互に合計5層以上積層した交互積層ユニットを含み、周波数ごとに電磁波の反射減衰量を測定し、縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときに、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量が5.0dB以上であり、90℃での破断点伸度が1%を超えて2000%以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の積層シートは、互いに異なる2種類の層(A層とB層)を交互に合計5層以上積層した交互積層ユニットを含むことを特徴とする。ここでいう「互いに異なる」とは、各層を構成する樹脂と粒子の少なくとも一方の組成が異なることを指しており、以下の方法で確認することができる。
【0012】
具体的には、以下の(1)~(5)のいずれかの場合に、各層の組成が異なるとみなすことができる。(1):フィルム断面の弾性率を原子間力顕微鏡による動的粘弾性測定(AFM-DMA)にて評価し、2つの層の平均弾性率の比が1.1以上である場合。(2):電気力顕微鏡(EFM)を用いて表面電位を評価し、2つの層の平均表面電位の比が1.1以上である場合。(3):エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)を用いて原子ごとの濃度を評価し、各原子について2つの層のモル分率(または重量分率でもよい)の比が1.1以上である場合。(4)2つの層を剥離でき、2つの層の間で、密度、ガラス転移温度、融点、分解温度、分解後の灰分量を評価し、少なくともいずれか一つの値が3度以上または10%以上異なる場合。(5)透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)にて所望の倍率(500~2万倍)で断面を観察し界面が確認できる場合。ここでいう界面が確認できるとは隣接する層間の明度が異なることを意味する。具体的には、まず明度を各層ごとに1000点測定する。続いて、層ごとの明度の平均値と、層ごとの明度の標準偏差を算出する。そして、隣接する2層の明度の平均値の差が、2層それぞれの明度の標準偏差のいずれよりも大きい場合、明度が異なるとする。なお、2種類の層のうちどちらをA層、B層とするかについては、EFMにて表面電位が高い方をB層とすることにより決定することができる。またB層に誘電率調整のために導電性粒子や誘電体、磁性粒子を添加している場合は、製膜性や粒子の脱落防止の観点からA層を最外層とすることが好ましい。
【0013】
互いに異なる層を5層以上交互積層することにより、成形性に優れた層が支持層として働くことで破断点伸度が向上し、成形時に破れや穴などの欠点を抑制することができる。また熱結晶化したフィルムは脆くなるが、本発明では各層が薄くなることで熱結晶化が抑制されるため、成形時の割れなどの欠点を抑えることもできる。さらに成形時には樹脂に大きな変形が加わる一方で成型後の衝撃や傷(小変形)には強いことが望ましい。本発明によれば、各層間の界面層は小さな変形に対しては形を保つが大きな変形に対しては界面の微小な破壊や滑りが引き起こされるため、多層化により良好な成形性が得られ成形が比較的困難な凹部分にも十分に追従することができる。上記観点から、交互積層ユニットの層数は11層以上であることが好ましく、51層以上であることがさらに好ましく、201層以上であることが特に好ましい。なお、交互ユニットの積層数の上限に特に制限はないが、製膜安定性の観点から最大でも2000層程度となる。
【0014】
本発明の積層シートは、後述する測定方法において、周波数ごとに電磁波の反射減衰量を測定し、縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときに、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量が5.0dB以上であることが必要である。反射減衰量とは、積層シートに入射した特定の周波数の電磁波に対し、積層シートにより反射され戻ってきた電磁波の強度を測定した際の、積層シート内を往復する際に電磁波が損失した量を表した値であり、単位デシベル(dB)として表現される。具体的には、同軸導波管法や自由空間法を利用し、背面にアルミニウムなどで作製された金属反射板を組み合わせた積層シートに対して電磁波を照射し、金属板を反射して積層シート内を往復した電磁波の強度を計測して算出する。周波数を掃引して反射減衰を測定し、縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットした反射減衰スペクトルにおいて、複数のピークが得られることがあるが、その中でも最もピーク強度(減衰量)が大きい反射減衰ピークの減衰量に着目する。ここでいうところのピークトップとは、反射減衰スペクトルの接線の傾きを考えた際に、正から負、あるいは、負から正に符号(傾き)が反転する位置を指す。
【0015】
反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量について、
図1、2を用いて説明する。
図1,2は、縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときの、反射減衰量が最も大きいピークのピークトップを表す図であり、各図において、符号1は最も反射減衰量が大きいピークを、符号2は最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量をそれぞれ表す。
図1に示すようにベースラインの傾きがない単一ピークトップを有する場合は、当該ピークが最も反射減衰量が大きいピークとなり、当該ピークのピークトップとベースラインとの差が、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量となる。また、
図2のようにベースラインの傾きがある単一ピークであっても、ベースラインが傾きのある直線となる以外は
図1の場合と同様に、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量を決定することができる。なお、ショルダーピークを含む複数のピークトップを有するスペクトルが得られた場合には、複数のピークから反射減衰量が最も大きいピークを特定して、同様に最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量を決定することができる。
【0016】
このようにして示される最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量は、5.0dB以上であることが必要である。なお、以下「最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量」を「最大反射減衰量」ということがある。最大反射減衰量が5.0dB未満であることは、実質、電磁波の透過率が30%より高いことを意味する。そのため、最大反射減衰量が5.0dB未満の積層シートは、電磁波シールド性が十分備わっているとはいえない。本発明の積層シートにおける最大反射減衰量は、電磁波シールド性の観点から、15.0dB以上であることが好ましく、より好ましくは20.0dB以上、さらに好ましくは30.0dB以上である。最大反射減衰量が30.0dB程度を示す場合、ピーク前後の周波数帯域の電磁波が100%透過していると仮定した場合、入射したピークトップの周波数の電磁波が99.9%シールドされていることを指し、当該周波数帯域において非常に高い電磁波シールド性を有しているといえる。上限は特に限られるものでは無いが、100dB以下であることが好ましい。
【0017】
最大反射減衰量を5.0dB以上とする方法としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系高誘電率樹脂やポリチオフェン、ポリアセチレンなどの導電性樹脂を用いる方法があげられる。また、カーボンブラックやグラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金、銀、銅などの導電性粒子、酸化チタンやマイカ、チタン酸メタルなどの誘電体、フェライト、カルボニル鉄、扁平金属粒子などの磁性粒子を含有した樹脂を用いる方法があげられる。
【0018】
なお、最も反射減衰量が大きいピークにおいて、反射減衰量が5.0dBを超える周波数帯域幅は、急峻かつ高い電磁波シールド性を示しつつも、可能な限り広い周波数帯域にわたっていると、積層シートの厚みむらによるシールド可能な周波数帯域の変動を低減できるため好ましい。具体的には、最も反射減衰量が大きいピークにおいて反射減衰量が5.0dB以上である周波数帯域幅は1.0GHz帯域以上にわたることが好ましく、より好ましくは3.0GHz帯域以上、さらに好ましくは5.0GHz帯域以上である。上限としては20.0GHz帯域以下であることが好ましい。
【0019】
最も反射減衰量が大きいピークにおいて、反射減衰量が5.0dBを超える周波数帯域幅を1.0GHz帯域以上又は上記の好ましい範囲とする方法としては、例えば多層構造にすることで各層からの反射波を整合させる方法があげられる。反射が積層シート表面と反射板のみで起きている場合は整合する波長は1点のみであるが、多層構造とすることにより整合する波長が各層ごとで少しずつ異なるため広い帯域で電磁波を吸収することができる。
【0020】
本発明の積層シートは、成形性を高める観点から、90℃での破断点伸度が1%を超えて2000%以下であることが必要である。90℃での破断点伸度は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは100%以上であり、さらに好ましくは200%以上であり、特に好ましくは400%以上である。破断点伸度を該範囲とすることにより、成形時に破れや穴などの欠点を抑制することができる。破断点伸度をこの範囲にする方法としては、例えば多層化や成形性の良い樹脂の使用、適度な延伸、などがあげられる。
【0021】
90℃での破断点伸度は、以下の手順で決定することができる。まず、JIS K-7161(2014)およびJIS K-7127(1999)に記載の方法に従い、測定長5cm×フィルム幅1cmのサンプルについて、温度90℃、引っ張り速度300mm/minの条件で長手方向における破断時の伸度を測定する。次いで、同様に測定方向を幅方向として、幅方向における破断時の伸度を測定し、両者の平均値を90℃での破断点伸度とする。長手方向とは、製造工程においてシートが走行する方向(ロールの場合は巻方向)、幅方向とは、長手方向にシート面内で直交する方向をいう。なお、本明細書内に長手方向を指定した測定方法が複数記載されているが、長手方向が特定されていないサンプルを用いる場合はサンプルの任意の方向から30°毎に破断点伸度を測定し、最も破断点伸度が小さい方向を長手方向とする。
【0022】
本発明の積層シートは、結晶化温度Tcとガラス転移温度Tgとの差(ΔTcg)が50℃以上200℃以下、または結晶化温度Tcが観測できないことが好ましい。結晶化温度Tcが観測できる場合において、ΔTcgはより好ましくは70℃以上であり、さらに好ましくは90℃以上である。成形時にはシートが軟化しなければ成形が困難であり、成形対象部材への追従不足が起きやすくなるが、結晶化してしまうと脆くなるため欠点が発生しやすくなる。よって、ガラス転移温度と結晶化温度の間の温度で成形を行う必要があるが、ΔTcgを該範囲とすることにより、成形可能な温度が広くなり良好な成形性(追従性も含む。)を得ることが容易となる上、対象とする成形部材の範囲も広がる。また結晶化温度が観測されない場合にも結晶化による脆化が起きないため、良好な成形性を得ることができる。ΔTcgを上記範囲にする方法としては、多層化、非晶性成分の共重合および混合、低Tg樹脂の共重合および混合などの手法があげられる。
【0023】
なお、Tgは、積層シートを25℃から290℃まで20℃/分の昇温速度で加熱し、その状態で5分間保持し、次いで25℃以下となるよう急冷して得られた示差走査熱量測定チャートを用いて、JIS K-7121(1987)に記載の方法に基づいて求める。TcはTgの測定(1st Run)が終わった後、25℃から20℃/分の昇温速度で290℃まで昇温を行って、その状態を5分間保持し、290℃から20℃/分の降温速度で25℃まで降温を行った際の降温時に得られた示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶化ピークのピークトップの温度を特定することにより決定することができる。ΔTcgはTgとTcの差を求めることにより算出することができる。
【0024】
本発明の積層シートは、90℃での引張試験にて100%伸長時の応力が10.0MPa以下であることが好ましく、より好ましくは5.0MPa以下である。通常、熱可塑性樹脂を主たる構成成分とするフィルムは延伸時に熱可塑性樹脂の高分子が配向するため、成形開始時の応力よりも100%伸長時の応力は高くなる。100%伸長時の応力を該範囲に抑えることにより、わずかな力でも成形が可能であり、成形部材への追従性に優れたシートとなる。また、応力が低すぎることによるダレを防ぐことができる点で、90℃での引張試験にて100%伸長時の応力の下限は3.0MPaが好ましい。100%伸長時の応力は、90℃での破断点伸度の測定と同様の引っ張り試験により、長手方向と幅方向の100%伸長時の応力を測定し、得られた値の平均値とすることができる。
【0025】
90℃での引張試験にて100%伸長時の応力を10.0MPa以下又は上記の好ましい範囲とする方法としては、例えば積層シートの延伸倍率を調整する方法が挙げられる。延伸倍率を大きくするほど、当該応力を大きくすることができる。
【0026】
本発明の積層シートは、成形による反射減衰量低下を軽減する観点から、厚みが5/6になるように伸長した前後で、ピークトップの反射減衰量の変化が5dB以下であることが好ましく、4dB以下がより好ましく、3dB以下がさらに好ましい。このような態様とすることで、成形によって積層シートが伸長することに伴い、積層シートの厚みが薄くなっても電磁波シールド性を確保することができる。
【0027】
厚みが5/6になるように伸長した前後で、ピークトップの反射減衰量の変化を5dB以下又は上記の好ましい範囲とするには、積層シートを多層化することが挙げられる。より具体的には、導電性の異なる2種類の層の交互積層数を増やすことで、当該ピークトップの反射減衰量の変化を抑えることができる。
【0028】
磁性体などの電磁波吸収粒子を用いたシートでは、通常、厚みが小さくなるにしたがって、電磁波がシートを通過する際に触れる磁性体の量が低下するため減衰量が大きく低下する。そのため成型後に電磁波シールド性能が低下するという欠点がある。積層シートを導電性の異なる2種類の層を交互に積層する構成とすることにより、誘電体が適度に分散し、延伸により厚みが薄くなっても粒子の配列による誘電率の向上により、厚み低下による減衰量の低下を補うことができる。ただし、上記のような多層化をするのであれば、本発明の効果を損なわない範囲で磁性体を併用してもよい。また多層化と磁性体粒子を併用した場合、磁性体粒子を含む層が薄くなることにより磁性体粒子の配列が促進される利点もある。
【0029】
上記観点から、本発明の積層シートにおける交互積層ユニットの層数は51層以上が好ましく、201層以上が特に好ましい。更に積層シート中に高分子を含むことで高分子鎖の配向による誘電率の向上も見込めるため好ましい。高分子としては例えばポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタンなどがあげられる。中でも誘電率の向上に寄与する観点から分子内に芳香環を持つことが好ましい。
【0030】
本発明の積層シートは、厚みが2/3になるように伸長した前後で、ピークトップの反射減衰量の変化が10dB以下であることが好ましく、より好ましくは7dB以下であり、さらに好ましくは5dB以下である。成形時には局所的に高倍率に延伸される個所も発生するが、厚みが薄くなった箇所でも反射減衰量の変化が小さい設計とすることで、積層シート全体で種々の電波障害を抑制することができる。反射減衰量の変化を上記範囲内とする手法は、例えば誘電体の使用、高分子の使用、多層化などがあげられ、詳細は厚みが5/6になるように伸長した前後で、ピークトップの反射減衰量の変化を5dB以下又は上記の好ましい範囲とする方法と同様である。
【0031】
本発明の積層シートは、厚みが5/6になるように伸長した前後で、直線偏波に対する反射減衰量を測定した際にピークトップの反射減衰量の最大の変化が5dB以下であることが好ましく、より好ましくは2dB以下である。直線偏波に対する反射減衰量の詳しい測定方法は後述する。直線偏波に対する反射減衰量の変化を上記の範囲内とすることで、成形後であっても、直線偏波を利用した通信やセンサーに付随する種々の電波障害を防ぐことができる。なお、直線偏波に対する反射減衰量の測定方法は後述する。
【0032】
厚みが5/6になるように伸長した前後で、直線偏波に対する反射減衰量を測定した際にピークトップの反射減衰量の最大の変化を該範囲とするためには、前述した反射減衰量の変化の抑制の手法(誘電体の使用、高分子の使用、多層化など)に加えて、粒子の異方性を高めることが有効である。例えば酸化チタンやチタン酸バリウムなど誘電率に異方性のある粒子を用いる方法や、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、カップ積み上げ型ナノチューブなどの円筒状カーボンであるカーボンナノチューブ、黒鉛,グラファイト,グラフェンなどの扁平状カーボン、円筒状グラファイト、カーボンマイクロコイル、フラーレン、炭素繊維(長繊維、短繊維)、針状酸化チタン、平板状酸化チタンなど形状に異方性のある粒子を用いる方法があげられる。なお、異方性が小さいが電磁波吸収に資する粒子として、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック,ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック(球状カーボン)や球状グラファイトがあげられ、これらを用いることも好ましい。
【0033】
本発明の積層シートは、厚みが2/3になるように伸長した前後で、直線偏波に対する反射減衰量を測定した際にピークトップの反射減衰量の最大の変化が10dB以下であることが好ましく、より好ましくは7dB以下であり、さらに好ましくは5dB以下である。このような態様とすることで、成形時には局所的に高倍率に延伸される個所も発生するが、厚みが薄くなった箇所でも直線偏波を十分に吸収することができ、種々の電波障害を防ぐことができる。
【0034】
厚みが2/3になるように伸長した前後で、直線偏波に対する反射減衰量を測定した際にピークトップの反射減衰量の最大の変化を上記範囲内とする手法としては、これまでに述べたとおり、例えば誘電体の使用、高分子の使用、多層化、異方性粒子の使用などがあげられる。
【0035】
本発明の積層シートは、ピークトップの反射減衰量(dB)を厚み(μm)で除し、ピークトップの波長(mm)を乗じた値(Aλ/d)が、0.10dB・mm/μm以上2.00dB・mm/μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.00dB以下、更に好ましくは0.50dB以下、特に好ましくは0.35dB以下である。通常、シートが薄い設計であるほど高い周波数の電磁波を吸収することができる一方で、小さい厚み変化で減衰量が変動してしまうという欠点を持ちやすくなる。一方でシートが厚いと減衰量は安定するものの、高い周波数の電磁波の吸収は難しくなる。安定してセンチ~ミリ波帯域の電磁波を吸収できるシートとして鋭意検討を行った結果、Aλ/dが上記範囲内であれば良好な減衰量が安定して得られることを見出した。なお、ここでいうピークトップとは、周波数ごとに電磁波の反射減衰量を測定し、縦軸を反射減衰量、横軸を周波数としてプロットしたときに、最も反射減衰量が大きいピークのピークトップをいう。また、厚みは公知のダイヤルゲージで測定することができる。
【0036】
Aλ/dを上記範囲内にする方法としては、シート内の粒子濃度を調整してシートの誘電率を適正な範囲とする方法や製造時の厚みを調整する方法があげられる。より具体的には、粒子濃度を上げること、厚みを大きくすることにより、Aλ/dを小さくすることができる。
【0037】
本発明の積層シートは、静的粘弾性試験によるヤング率(Ys)が1.0GPa以上10GPa以下であり、かつ動的粘弾性試験によるヤング率(Yd)との比(Ys/Yd)が0.5以上であることが好ましい。静的粘弾性試験では長時間での大きな変形に対する強度・変形のしやすさを評価しており、積層シートを用途に合わせて成形する際には低い方が好ましい。そのため、Ysが6.0GPa以下であることが好ましい。一方で動的粘弾性試験では瞬間的な微小変形に対する強度・変形のしやすさを評価しており、成型体の強度を高める観点では高い方が望ましい。それぞれの試験にて測定されるヤング率は一般に比例するが、Ys/Ydを上記範囲内とすることで成形後の強度を保ちながら良好な成形追従性が得られる。Ys/Ydは、上記観点から、より好ましくは2.0以上である。
【0038】
なお、ここで静的粘弾性試験によるヤング率(Ys)とは、室温23℃、チャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにて引っ張ったときの、長手方向と幅方向のヤング率の平均値をいう。また、動的粘弾性試験によるヤング率(Yd)は、以下の手順で決定することができる。まず、測定長2cm×フィルム幅1cmのサンプルについて、室温20℃から30℃の温度範囲、変位10μm、振動周波数10Hz、昇温速度1℃/minの条件で長手方向における平均の貯蔵弾性率(ヤング率)を測定する。次いで、同様に測定方向を幅方向として、幅方向における平均の貯蔵弾性率(ヤング率)を測定し、両者の平均値をYdとする。
【0039】
上記要件を満たすようにYs、Ydを制御する方法は、例えば多層化により樹脂の結晶化を抑制した状態で押出製膜する方法があげられる。樹脂の結晶化が押さられることでYdが抑えられ、また各層が薄い状態で押し出されることでせん断により分子鎖が配向しYsが向上する。他にも剛直な分子鎖を持つ高分子を用いる、延伸を行うなどの方法によってもYsを高めることが可能である。
【0040】
本発明の積層シートは、少なくとも1つの層に2種類以上の樹脂を混合したコンパウンドを用いることが、成形性向上の観点から好ましい。用いる樹脂としては熱可塑性樹脂であることが、特にシートの加工性や製膜性の観点から良好となるため好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ(4-メチルペンテン)、ポリイソブチレン,ポリイソプレン、ポリブタジエン,ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン,ポリ(α-メチルスチレン)、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリノルボルネン、ポリシクロペンテンなどに代表されるポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などに代表されるポリアミド系樹脂、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキサンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキセンコポリマー、エチレン/アルキルアクリレートコポリマー、エチレン/アクリルメタクリレートコポリマー、エチレン/ノルボルネンコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー,プロピレン/ブタジエンコポリマー、イソブチレン/イソプレンコポリマー、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマーなどに代表されるビニルモノマーのコポリマー系樹脂、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド,ポリアクリロニトリルなどに代表されるアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどに代表されるポリエステル系樹脂、ポリエチレンオキシド,ポリプロピレンオキシド、ポリアクリレングリコールに代表されるポリエーテル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロースに代表されるセルロースエステル系樹脂、ポリ乳酸,ポリブチルサクシネートなどに代表される生分解性ポリマー、その他、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリカーボネート、ポリケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリシロキサン、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどを用いることができる。
【0041】
本発明の積層シートは、シクロアルカン単位、炭素数5以上の鎖状アルカン単位、及び分子量2万以下のポリエチレングリコール単位の少なくとも一つの単位を、樹脂成分中に1mol%以上99mol%以下含むことが、成形性向上の観点から好ましい。前述の通り、成形時の減衰量低下抑制の観点では芳香環を分子鎖中に持つことが好ましいが、成形性の観点では芳香環同士のパッキングが強くなるため好ましくない。そこで鎖状の構造を持つ分子鎖を添加することで、芳香環同士のパッキングを抑制し成形性を向上させることができる。上記観点から、シクロアルカン単位、炭素数5以上の鎖状アルカン単位、及び分子量2万以下のポリエチレングリコール単位のうちから少なくとも2つの単位を、樹脂成分中にそれぞれ1mol%以上40mol%以下含むことがさらに好ましい。鎖状アルカン単位の炭素数は7以上がさらに好ましく、9以上が特に好ましい。
【0042】
また、シクロアルカン単位と炭素数5以上の鎖状アルカン単位の少なくとも一方が共重合したポリエステルを1質量%以上100質量%以下含むことが、成形性向上の観点から好ましい。なお、ここで1質量%以上100質量%以下とは、積層シートを構成する全成分を基準として1質量%以上100質量%以下という意味である。混合物ではなく共重合成分として含むことで加熱時に共重合部分を起点として分子鎖が運動を始めるため、成形時の応力低減の効果が強くなる場合がある。鎖状アルカン単位の炭素数は7以上がさらに好ましく、9以上が特に好ましい。
【0043】
作製した交互積層ユニットは、所望の電磁波シールド性を得るために、同じ交互積層ユニット同士、または、異なる厚み、組成を有する交互積層ユニット同士を接着シート、粘着シート、両面テープなどを介して貼り合せることもできる。
【0044】
さらに、交互積層ユニットの最表面には、電磁波透過性を高める、または、電磁波反射を起こすなどの目的で、誘電率の異なる層を積層することができる。この時、適した導電性/磁性を示す材料を含有させたコーティング層を塗布しても良く、粘着シートなどを介して異なる樹脂層/メッシュ層などを積層してもよく、フィルム金属被覆技術として使用される、スパッタリング(平面または回転マグネトロンスパッタリングなど)、蒸発(電子ビーム蒸発など)、化学蒸着、有機金属化学蒸着、プラズマ強化/支援/活性化化学蒸着、イオンスパッタリング等で樹脂/金属層を積層することもできる。
【0045】
以下、本発明の積層シートの製造方法について、具体例を挙げて説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0046】
先ず、ゴムや熱可塑性エラストマーなどを基材のベースポリマーとして利用する場合の積層シートを例に挙げて説明する。最初に、ベースポリマーに所望の粒子を所定量配合し、ニーダーやバンバリーミキサー、ミルミキサー、ロールミル、ジェットミル、ボールミルなどの公知の装置で混錬し含有させることで、粒子含有ベースポリマー混合物を得る。ベースポリマー単体、もしくは、作成した粒子含有ベースポリマーを、それぞれバッチプレスによる圧延や溶融押出により、所望の厚みのシートへ成形する。その後、作製したA層に当たるシート、B層に当たるシートを、交互に合計5層以上重ね合わせ、プレスまたはラミネートすることにより積層シートを得る。このときの融着温度は、使用する樹脂の種類にもよるが、150℃~400℃が好ましく、250~380℃がより好ましい。
【0047】
次に、本発明において好ましい樹脂である可撓性を示す熱可塑性樹脂を使用する場合の積層シートであって、B層のみが粒子を含み、A層が粒子を含まないものの製造方法を例に挙げて説明する。最初に、ペレットの状態で準備された熱可塑性樹脂並びに所定量の粒子を二軸押出機で混錬してガット状に押出し、これを水槽内で冷却してチップカッターでカットすることで粒子含有のマスターペレットを形成する。このとき、粒子は樹脂と共にドライブレンドした上でホッパーより計量フィードしてもよく、押出機の任意の位置からサイドフィーダを用いて溶融した樹脂中にサイドフィードしてもよい。フィード方法については、前記に限られるものではなく、使用する粒子の比重や形状に併せて適宜選択することができる。
【0048】
その後、A層及びB層を構成する熱可塑性樹脂組成物を熱風中あるいは真空下で乾燥した後に別々の押出機に供給し、押出機において熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱溶融する。その後、ギヤポンプなどで押出量を均一化して熱可塑性樹脂組成物を吐出し、フィルターなどで異物や変性した熱可塑性樹脂などを除去する。
【0049】
続いて、これらの熱可塑性樹脂組成物を所望の積層数の積層が可能な多層積層装置で積層させ、ダイにて目的の形状に成形し、シート状に吐出させる。ダイから吐出されたシート状物は、キャスティングドラム等の冷却体上に押出され、冷却固化されることでキャストシートとなる。この際、キャストシート自体が導電性を示すことから、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出しキャスティングドラムなどの冷却体に密着させ急冷固化させる方法、もしくは、ニップロールにて冷却体に密着させて急冷固化させる方法を用いることが好ましい。
【0050】
多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロック、スタティックミキサー等を用いることができるが、特に、本発明の多層積層体を効率よく得るためには、微細スリットを有するフィードブロックを用いることが好ましい。このようなフィードブロックを用いると、装置が極端に大型化することがないため熱劣化による異物発生量が少なく、積層数が極端に多い場合でも高精度な積層が可能となる。また、幅方向の積層精度も従来技術に比較して格段に向上する。さらにこの装置には、各層の厚みをスリットの形状(長さ、幅)で調整できるため任意の層厚みを達成することが容易となることや、積層工程中に樹脂流の効果で粒子を積層シート面方向に配向させることが容易となること等の利点もある。
【0051】
スリットタイプのフィードブロックを用いて積層シートを作製する場合、各層の厚みおよびその分布は、スリットの長さや幅を変化させて圧力バランスを整えることで調整可能となる。スリットの長さとは、スリット板内でA層とB層を交互に流すための流路を形成する櫛歯部の長さのことである。また、フィードブロックで積層体を形成した後、スタティックミキサーを介して積層数が倍増するように重ね合わせて積層数を増やす方法も好適に利用できる。
【0052】
得られたキャストシートは、必要に応じて長手方向および幅方向に二軸延伸することができる。二軸延伸を行う場合は、逐次に二軸延伸しても、同時に二軸延伸してもよい。また、さらに必要に応じて長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。
【0053】
先ず、先に長手方向に延伸して幅方向に延伸する逐次二軸延伸について説明する。ここで、長手方向への延伸とは、シートに長手方向の分子配向を与えるための一軸延伸を指し、通常は、ロールの周速差により施される。この延伸は、1段階で行ってもよく、複数のロール対を使用して多段階に行ってもよい。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、1.1~7.0倍が好ましく、1.5~4.0倍が特に好ましい。また、延伸温度としてはシートを構成する全ての樹脂に対してガラス転移温度~ガラス転移温度+100℃となる範囲内かつ融点以下に設定することが好ましい。このようにして得られた一軸延伸積層シートは、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、上部に積層する膜との密着性を向上するためのプライマー層を形成することもできる。インラインコーティングの工程において、プライマー層は片面に塗布してもよく、両面に同時あるいは片面ずつ順に塗布してもよい。
【0054】
幅方向の延伸とは、シートに幅方向の配向を与えるための延伸をいい、通常はテンターを用いて、シートの両端をクリップで把持しながら搬送して行う。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、1.1~7.0倍が好ましく、1.5~5.0倍が特に好ましい。延伸処理により減衰量のばらつきを抑え、成形後の電磁波減衰量の低下を抑えることができる。また、延伸温度としてはシートを構成する全ての樹脂に対してガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃となる範囲内が好ましい。こうして二軸延伸された積層シートは、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行い、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、低配向角およびシートの熱寸法安定性を付与するために熱処理から徐冷する際に、長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理などを併用してもよい。
【0055】
続いて、同時二軸延伸の場合について説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャストシートに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。インラインコーティングの工程において、コート層はシートの片面に塗布してもよく、両面に同時あるいは片面ずつ順に塗布してもよい。
【0056】
次に、キャストシートを同時二軸テンターへ導き、シートの両端をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機(テンター)としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式のもの等があるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式のものが好ましい。延伸の倍率は樹脂の種類により異なるが、通常、面積倍率として2.0~50倍が好ましく、特に4.0~20倍がより好ましい。延伸速度は同じ速度でもよく、異なる速度で長手方向と幅方向に延伸してもよい。また、延伸温度としては交互積層ユニットを構成する全ての樹脂に対してガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃となる範囲内が好ましい。
【0057】
こうして同時二軸延伸されたシートは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上、シートを構成する全ての樹脂に対して融点以下となる範囲内の熱処理を行うのが好ましい。この熱処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/または直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷する際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理を行ってもよい。熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することもできる。
【0058】
さらに本発明の積層シートは、広い周波数帯域を遮蔽できる電磁波反射層を組み合わせて、一部の特定の周波数のみをより強く遮蔽するような積層シートとすることもできる。一方で、積層シート最表面に、表面での電磁波の反射をより低くするための低い複素誘電率を示す新たな層を設け、電磁波吸収の効果をより高めた積層シートとすることもできる。また、後者に加え、積層シートの高い複素誘電率を示す層が、表面からシート内部につれて、層厚みが連続的に減少していく層厚み分布を示すことも好ましい。高い複素誘電率を示す層に添加する電磁波抑制材料の濃度が一定となる積層シートであるため、高い複素誘電率を示す層の厚みを表層から内層につれて連続的に薄くすることで、内層ほど電磁波抑制材料が密に連結する状態となり、複素誘電率が漸増する態様をとる。これにより、電磁波を不用意に反射することなく、積層シート内部に取り込むことができるため、電磁波吸収の効果を高めることが可能となる。
【0059】
続いて、本発明の電子機器、交通機関、建築材料について具体的に説明する。本発明の電子機器は、電気製品、通信機器のいずれかに、本発明の積層シートを搭載してなる。本発明の好ましい態様として、4G/5G通信、無線LAN、衝突防止(ITS)レーダー、などで利用される電磁波による虚像防止、コンピュータ、携帯電話、無線機、測定機器、医療機器、車両バンパーなどの筐体の内部に備わる電子機器・半導体・回路からの不要な電磁波の輻射低減、外部や隣接する機器からの輻射による装置誤作動の防止などの目的で、前述の積層シート、または、前述の電磁波遮蔽体を有する電気製品、通信機器を挙げることができる。その他、GHz帯域の周波数を利用する電気製品もしくは通信機器であれば、上記に限らず本発明の積層シートを搭載して使用することができる。
【0060】
さらに、本発明の好ましい態様として、本発明の積層シートを有する車両や航空機、船舶などの移動手段、ビル、トンネルやガードレール、高速道路、橋梁、鉄塔などの構造物の壁面、電信、電話などの通信施設などの交通機関、ドローンや無人車両などの運搬手段も挙げることができる。本発明の積層シートを適用する方法としては、接着剤などを介して直接、もしくは他のシート、遮蔽板、パネルなどを介して、床、天井、壁、窓、柱などの構造物に貼り付けるなどの方法を用いることができる。ローカル5G用の建築材料などに支持材とともに一括成形する方法も本積層シートの特徴を好ましく用いることができる。その他、外部からの電磁波ジャミング・ノイズによる影響を防ぐためのシールドルームの壁材や窓材としても用いることもできる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に沿って本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、各項目の評価は下記の方法により行った。
【0062】
(特性の測定方法および効果の評価方法)
本発明における特性の測定方法、および効果の評価方法は次のとおりである。
【0063】
(1)厚み
ダイヤルゲージ(ミツトヨ製2019S-10)とダイヤルゲージスタンド(ミツトヨ製7002-10)を用いて測定した。測定はn5で行い平均値を厚みとした。
【0064】
(2)反射減衰量(非偏波)
測定周波数帯域に併せて、下記のとおり測定ユニットを変更して測定を実施した。
【0065】
(2-1)1GHz~40GHz周波数帯域
アジレント・テクノロジー(株)製のベクトルネットワークアナライザ(E8361A)を用い、サンプルの減衰量を計測した。0.5GHz~18GHzの周波数帯域は外径φ7mm、内径φ3.04mmのドーナツ状である同軸導波管を、18~26.5GHzの周波数帯域は4.32mm×10.67mmの長方形である矩形導波管を、26.5~40GHzの周波数帯域は内部形状が3.56mm×7.11mmの長方形である矩形導波管を、それぞれ用いて測定した。導波管内の電界方向とサンプルの長手方向を平行に設置した場合を長手方向の減衰量、幅方向を平行に設置した場合を幅方向の減衰量とした。測定間隔は、各周波数帯域に対して200点測定できるように設定し測定した。サンプルの背面に、3mmのアルミニウム金属板を設置し、サンプルによる電磁波吸収がない状態では入射した電磁波が全反射する状態とした。入射した電磁波に対して反射した電磁波の強度比を表すS11の、サンプルがある場合とない場合の差を減衰量として、長手方向の減衰量と幅方向の減衰量の平均値を反射減衰量とした。また、延伸処理前に長手方向および幅方向で最大反射減衰量を示した周波数の平均値を吸収周波数とした。
【0066】
(2-2)40~110GHz周波数帯域
150mm角のサンプルに対し、背面にアルミニウム金属板を貼り合せ、測定サンプルを作成した。キーコム社製のレンズアンテナ方式斜入射タイプの電磁波吸収体(電磁波吸収材料)・反射減衰量測定装置LAF-26.5Bを用いて、JIS R 1679(2007年)に準拠し、斜入射15°で電磁波を照射し、33~50GHz(WR-22)、50~75GHz(WR-15)、75~110GHz(WR-10)の各周波数帯域に対して反射減衰量を測定した。電界方向とサンプルの長手方向を平行に設置した場合を長手方向の減衰量、幅方向を平行に設置した場合を幅方向の減衰量とした。なお、当該測定方法では33~40GHzの値も測定されるが、33GHz以上40GHz未満の周波数帯域における反射減衰量は、(2-1)における測定データを用いた。次いで(2-1)と同様に反射減衰量、吸収周波数を求めた。
【0067】
(3)直線偏波に対する反射減衰量
(2)と同様に反射減衰量の測定を延伸処理の方向を0°として30°置きに150°まで測定した。得られたそれぞれの角度での反射減衰量スペクトルから、それぞれの角度でのピークトップでの反射減衰量を算出した。最も減衰量の大きい角度でのピークトップでの反射減衰量を、直線偏波に対する反射減衰量とした。
【0068】
(4)延伸処理
サンプルを、100mm×100mmの大きさにカットして、フィルムストレッチャー(ブルックナー社製、KARO-IV)を用いて 予熱・延伸温度いずれも100℃で予熱時間1分、延伸速度5%/secにて延伸倍率1.3~2.5倍に延伸し、所定の厚みの延伸サンプルを得た。
【0069】
(5)静的粘弾性試験によるヤング率(Ys)
サンプルの長手方向または幅方向に沿って1cm×20cmの大きさに切り出し、オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロン”(登録商標)AMF/RTA-100を用いて、室温23℃、チャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにて引っ張ったときのヤング率を測定した。JIS K-7161(2014)およびJIS K-7127(1999)に記載の方法で測定した。なお、測定は各サンプルの長手方向および幅方向について各5回ずつ行い、それらの平均値でもって、ヤング率(Ys)とした。
【0070】
(6)ΔTcg
サンプルを、JIS K-7121(1987)およびJIS K-7122(1987)に準じて、測定装置にはセイコーインスツル(株)製高感度示差走査熱量計“DSC6220”を、データ解析にはMuse標準解析“Standard Analysis Ver9.0”を用いて、下記の要領にて測定した。
【0071】
(6-1)Tg(1stRun)
サンプルパンにサンプルを5mgずつ秤量し、25℃から290℃まで20℃/分の昇温速度で加熱した後に、その状態で5分間保持し、次いで25℃以下となるよう急冷した。得られた示差走査熱量測定チャートにおいて、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K-7121(2012)に記載の方法に基づいて求めた(各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点から求めた)。
【0072】
(6-2)Tc
1st Run測定が完了した後、直ちに引き続いて、再度25℃から20℃/分の昇温速度で290℃まで昇温を行って、その状態を5分間保持し290℃から20℃/分の降温速度で25℃まで降温を行って測定を行った。降温時に得られた示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶化ピークのピークトップの温度でもって結晶化温度(Tc)とした。
【0073】
(6-3)ΔTcg
前記Tgと前記Tcの差をΔTcgとした。
【0074】
(7)動的粘弾性試験によるヤング率(Yd)
サンプルを幅方向中央部から長手方向または幅方向に沿って7cm×1cmで切り出し、測定長2cmとなるようにサンプルホルダーに設置した。セイコーインスルメンツ(株)製 DMS6100を用い、引っ張りモードで室温20℃から30℃の温度範囲、変位10μm、振動周波数10Hz、昇温速度1℃/minの条件で平均の貯蔵弾性率(ヤング率)を測定した。JIS K-7244(1998)に記載の方法で測定した。サンプルの長手方向と幅方向のそれぞれ5回ずつ測定を行い、貯蔵弾性率(ヤング率)の平均値をYdとした。
【0075】
(8)引張応力・破断点伸度
90℃で測定を行う以外は(5)と同様にして測定を行った。100%伸長時の応力を引張応力とした。また破断時の伸度を破断点伸度とした。
【0076】
(9)電磁波吸収性能
実際に電磁波吸収用途で用いる場合に求められる性能を鑑み、延伸処理前の反射減衰量から以下の基準で電磁波吸収性能を評価した。なお、評価結果はBであれば実用に耐える性能であり、Aであれば優れた吸収性能を持つといえる。
A:20dB<反射減衰量
B:13dB<反射減衰量≦20dB
C:反射減衰量≦13dB
(10)電磁波吸収性能変化量
下記基準で評価した。なお、ここで5/6延伸とは厚みが5/6になるように1方向に延伸することをいい、2/3延伸も同様に解釈するものとする。
A:「5/6延伸後に反射減衰量の変化が5dB以下」かつ「2/3延伸後に反射減衰量の変化が10dB以下」を満たす。
B:「5/6延伸後に反射減衰量の変化が5dB以下」または「2/3延伸後に反射減衰量の変化が10dB以下」のいずれかを満たしていない。
C:「5/6延伸後に反射減衰量の変化が5dB以下」と「2/3延伸後に反射減衰量の変化が10dB以下」のいずれも満たしていない。
【0077】
(11)偏波吸収特性の有無
直線偏波の反射減衰量と非偏波の反射減衰量の差が、5/6延伸後で3dB以上あり、かつ2/3延伸後で5dB以上ある場合には、偏波吸収特性ありとした。なお、直線偏波の反射減衰量と非偏波の反射減衰量は、上記(2)(3)の方法で測定した。
【0078】
(12)成形性(成形テスト)
真空成型機(成光産業株式会社製300X)にて、下記条件で成形を行った。加熱は赤外線ヒーターにて行い、温度はサンプルにサーモラベルを貼り付けて判断した。それぞれのサンプルについて3回成型テストを行った。成型後の外観を目視で確認することにより以下の評価を行った。
加熱時間:30秒
加熱温度:110℃
真空ポンプ圧力:0.17MPa
成形の形状:幅5cm、長さ7.5cm、深さ2cmの箱型。
【0079】
(12-1)追従性
A:いずれのサンプルも辺と頂点に密着しておりしわがない。
B:1つまたは2つのサンプルで辺の部分に空間が残っている、または頂点付近に空気が残りしわになっている。
C:3回とも辺の部分に空間が残っている、または頂点付近に空気が残りしわになっている。
【0080】
(12-2)欠点
A:いずれのサンプルも破れがなく、極端に薄くなり撓んでいる箇所はない。
B:1つまたは2つのサンプルで辺の付近に破れがある、または極端に薄くなり撓んでいる。
C:3回とも辺の付近に破れがある、または極端に薄くなり撓んでいる。
【0081】
(使用した原料)
樹脂1:固有粘度(IV)0.78のポリエチレンテレフタレート
樹脂2:IV0.6のポリブチレンテレフタレート
樹脂3:樹脂2(50質量部)とドデカジオン酸共重合ポリブチレンテレフタレート(20質量部)と分子量1万2千のポリエチレングリコール(10重量部)を二軸押出機で混錬してガット状に押出し、これを水槽内で冷却してチップカッターでカットした樹脂。
樹脂4:樹脂3(60質量部)とポリシクロヘキサンテレフタレート(30質量部)を二軸押出機で混錬してガット状に押出し、これを水槽内で冷却してチップカッターでカットした樹脂。
CB1:DBP吸油量350mL/100g、嵩密度100g/Lのケッチェンブラック粒子
Fe1:Fe含有量97%、比重1.49g/mL、平均粒径(D50)3.5μmのカルボニル鉄粒子
CNT1:平均径10nm、平均長1.5μmの多層カーボンナノチューブ粒子
Ti1:比表面積4m2/g、平均径0.3μmのチタン酸バリウム粒子。
【0082】
(実施例1~12、実施例14~17、比較例1~3)
まずB層の樹脂として表1に記載の通りの処方で、二軸押出機で混錬してガット状に押出し、これを水槽内で冷却してチップカッターでカットしマスターペレットとした。準備したA層用の樹脂およびB層用の樹脂をそれぞれ、ペレット状で2台の二軸押出機へ投入し、両者とも270℃で溶融させて混練した。混錬条件は、吐出量に対するスクリュー回転数を0.7とした。次いで、表1に記載の通りの層数のマルチマニフォールドタイプのフィードブロックにて合流させてTダイから冷却ロール状にキャストし、積層比1.0で厚さ方向に交互に3~201層積層された積層シートとした。得られた各積層シートの評価結果を表1に示す。なお、厚みの調整は吐出量またはライン速度変更により行った。
【0083】
(実施例13)
各層の組成を表1の通りとし、「実施例1~12、実施例14~17、比較例1~3」の項に記載の方法と同様に積層シートとしたのち、加熱ロールにて95℃に加熱し長手方向に1.5倍延伸し、続いてテンターにて100℃で幅方向に1.5倍に延伸した。得られた積層シートの評価結果を表1に示す。
【0084】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明により、電磁波吸収性能を維持したまま成形性の優れた積層シートを提供することができる。本発明の積層シートは上記特性に優れるため、電子機器、交通機関、建築材料等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
1:最も反射減衰量が大きいピーク
2:最も反射減衰量が大きいピークのピークトップにおける反射減衰量