(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】小便器装置
(51)【国際特許分類】
E03D 13/00 20060101AFI20241119BHJP
E03D 5/10 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
E03D13/00
E03D5/10
(21)【出願番号】P 2021059223
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川崎 祐一
(72)【発明者】
【氏名】小林 基紀
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-12251(JP,A)
【文献】特開2020-66889(JP,A)
【文献】特開2017-106199(JP,A)
【文献】特開平10-252117(JP,A)
【文献】特開2021-116565(JP,A)
【文献】特開2021-46776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 5/01
E03D 5/10
E03D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排尿を受けるボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置であって、
前記ボウル面を形成するとともに前記ボウル面の底部に臨んで開口した排水口を有するボウル部を有する小便器本体と、
前記ボウル部の上部
で、且つ前記ボウル部の正面部に吐水口を位置させ、前記吐水口から前記ボウル面に供給する洗浄水を吐出させる吐水部と、
前記ボウル部内の溜水の水位を検知するための、静電容量センサからなる水位検知用センサと、を備え、
前記水位検知用センサは、前記吐水部が洗浄水を吐水する範囲のボウル面の裏側に設けられ、前記ボウル面をなす壁部を介して前記ボウル部からの溢れを事前に検出する検出部を有
し、
前記検出部は、前記ボウル部の正面部の裏側で、且つ前記吐水口よりも下方の位置で、且つ前記ボウル部の溢れ面の高さよりも下方、且つ前記排水口の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられており、
第1の閾値と、前記第1の閾値よりも高い第2の閾値を有し、前記検出部は、前記水位検知用センサの静電容量の値が、前記第1の閾値を所定時間超え、且つ前記第2の閾値を超えた場合に、前記吐水部からの吐水を停止する
ことを特徴とする小便器装置。
【請求項2】
排尿を受けるボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置であって、
前記ボウル面を形成するとともに前記ボウル面の底部に臨んで開口した排水口を有するボウル部を有する小便器本体と、
前記ボウル部の上部
で、且つ前記ボウル部の正面部に吐水口を位置させ、前記吐水口から前記ボウル面に供給する洗浄水を吐出させる吐水部と、
前記ボウル部内の溜水の水位を検知するための、静電容量センサからなる水位検知用センサと、を備え、
前記水位検知用センサは、前記吐水部が洗浄水を吐水する範囲のボウル面の裏側に設けられ、前記ボウル面をなす壁部を介して前記ボウル部からの溢れを事前に検出する検出部を有
し、
前記検出部は、前記ボウル部の正面部の裏側で、且つ前記吐水口よりも下方の位置で、且つ前記ボウル部の溢れ面の高さよりも下方、且つ前記排水口の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられると共に、前記吐水部から吐水された後、静電容量の値の時間当たりの変化率が、所定値以上となった場合に、前記吐水部からの吐水を停止する
ことを特徴とする小便器装置。
【請求項3】
前記ボウル部の正面視において、前記吐水部の左右方向の幅範囲に、前記検出部の少なくとも一部が配置されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の小便器装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記吐水部から吐水された後、静電容量の値の時間当たりの変化率が、所定値以上となった場合に、前記吐水部からの吐水を停止する
ことを特徴とする請求項1に記載の小便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小便器本体のボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小便器装置においては、小便器本体のボウル部の下部に溜まっている溜水の水面である溜水面の状態を計測することで、小便器本体からの排水を行う排水部の詰まりを検知する構成を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、マイクロ波を用いたマイクロ波ドップラーセンサを使用して溜水面の揺れを計測し、その計測値に基づいて小便器本体のトラップ部やトラップ部に連通する排水管の詰まりの状況を判断する技術が開示されている。
【0003】
また、便器内の溜水の状態を計測する技術に関し、静電容量を検出する静電容量センサを用いる技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2には、便器内の水位の変化を測定する水位センサとして静電容量センサを用いる技術が開示されており、この静電容量センサを便器のボウル部の裏側(外側)に設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-61030号公報
【文献】特開2017-106199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されているような静電容量センサを用い、便器の洗浄後における溜水位の低下の状況、つまりボウル部内における洗浄水の水捌けの状況を検知することで、排水部の詰まり具合を検知することができる。ここで、排水部の詰まり具合は、例えば排水部における排水流路の閉塞率で表される。
【0006】
ボウル部内の溜水位を検知するに際し、静電容量センサの配置については、例えば特許文献2に開示されているように、ボウル部の裏側(外側)に、静電容量センサの電極部を配置することが考えられる。
【0007】
しかしながら、静電容量センサを小便器のボウル部に設置した際、周辺環境によっては、ノイズ等が発生し、検知精度が低下してしまう。具体的には、ノイズの発生によって、一時的に閾値以上の静電容量値を計測した場合には、溜水面の状態に異常がないにもかかわらず、異常と判定してしまう可能性がある。
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、ボウル部内の溜水位を検知するための水位検知用センサを備えた構成において、ノイズ等の発生によって検知精度が低下することを抑制することができる小便器装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る小便器装置は、排尿を受けるボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置であって、ボウル面を形成するとともにボウル面の底部に臨んで開口した排水口を有するボウル部を有する小便器本体と、ボウル部の上部に吐水口を位置させ、吐水口からボウル面に供給する洗浄水を吐出させる吐水部と、ボウル部内の溜水の水位を検知するための、静電容量センサからなる水位検知用センサと、を備え、水位検知用センサは、吐水部が洗浄水を吐水する範囲のボウル面の裏側に設けられ、ボウル面をなす壁部を介してボウル部からの溢れを事前に検出する検出部を有するものである。
【0010】
このような構成の小便器装置によれば、ボウル部内の溜水位を検知するための水位検知用センサを備えた構成において、吐水部が洗浄水を吐水する範囲のボウル面に水位検知用センサが設けられているため、ボウル部に溜まる洗浄水と、水位検知用センサが設けられた箇所までが、洗浄水によって連続する。これにより、水位検知用センサによって計測する静電容量の値は徐々に増加するため、検出部はノイズ等によって検知精度が低下することを抑制することができる。
【0011】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、吐水部は、ボウル部の正面部に配置されており、検出部は正面部の裏側で、且つ吐水部よりも下方に配置されているものである。
【0012】
このような構成の小便器装置によれば、吐水部の下方位置に配置されているため、吐水量が少なくなっても、ボウル部に溜まる洗浄水と、水位検知用センサが設けられた箇所まで洗浄水によって連続する。これにより、水位検知用センサによって計測する静電容量の値は徐々に増加するため、検出部はノイズ等によって検知精度が低下することを抑制することができる。
【0013】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、ボウル部の正面視において、吐水部の左右方向の幅範囲に、前記検出部の少なくとも一部が配置されているものである。
【0014】
このような構成の小便器装置によれば、吐水部の吐水範囲が狭い状態においても、吐水部の幅範囲に検出部が設けられていることから、ボウル部に溜まる洗浄水と、水位検知用センサが設けられた箇所まで洗浄水によって連続する。これにより、水位検知用センサによって計測する静電容量の値は徐々に増加するため、検出部はノイズ等によって検知精度が低下することを抑制することができる。
【0015】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、検出部は、ボウル部の溢れ面の高さよりも下方、かつ排水口の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられているものである。
【0016】
このような構成の小便器装置によれば、溢れ面の高さよりも下方、且つ、排水口の開口位置の高さんよりも上方に設けられているため、ボウルに溜まる洗浄水と、水位検知用センサまでの距離を短くすることができ、早期に静電容量の値を検知することができる。
【0017】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、第1の閾値と、前記第1の閾値よりも高い第2の閾値を有し、検出部は、水位検知用センサの静電容量の値が、第1の閾値を所定時間超え、前記第2の閾値を超えた場合に、吐水部からの吐水を停止するものである。
【0018】
このような構成の小便器装置によれば、緩やかに上昇する静電容量の値を基準とするため、一時的に静電容量の値が上昇するようなノイズによって検知精度が低下することを抑制することができる。
【0019】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、検出部は、吐水部から吐水された後、静電容量値の時間当たりの変化率が、所定値以上となった場合に、吐水部からの吐水を停止するものである。
【0020】
このような構成の小便器装置によれば、緩やかに上昇する静電容量値を基準とするため、一時的に静電容量値が上昇するようなノイズによって検知精度が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ボウル部内の溜水位を検知するための水位検知用センサを備えた構成において、ノイズ等の発生によって検知精度が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る小便器装置を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る小便器装置を示す正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る小便器装置を示す背面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る小便器装置の構成を示す縦断面図および制御ブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る小便器装置において排水部に詰まりが無い場合の洗浄水の排水の挙動についての説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る小便器装置において排水部に詰まりが無い場合の洗浄水の排水の挙動についての説明図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る小便器装置の洗浄時において上側水位検知用センサによって検知される静電容量の変化を模式的に表したグラフを示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る小便器装置の正面断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る小便器装置の背面断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る小便器装置の底面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る小便器装置の下部の縦断面斜視図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る小便器装置の下部の縦断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る小便器装置の下部の縦断面斜視図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る小便器装置の清掃時についての説明図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る小便器装置の洗浄時において上側水位検知用センサによって検知される静電容量の変化の一例を流路閉塞率ごとに表したグラフを示す図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る小便器装置の洗浄時において下側水位検知用センサによって検知される静電容量の変化を模式的に表したグラフを示す図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る小便器装置の洗浄時において下側水位検知用センサによって検知される静電容量の変化の一例を流路閉塞率ごとに表したグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、小便器本体からの排水を行う排水部の詰まりの検知に関し、ボウル部内の溜水の水位を検知するための水位検知用センサの検出部の配置構成を工夫することにより、ノイズ等の発生によって検知精度が低下することを抑制するものである。以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1から
図4に示すように、本実施形態に係る小便器装置1は、排尿(小便)を受けるボウル面13に洗浄水の供給を受けるものであり、小便器本体2と、ボウル面13に供給する洗浄水を吐出させる吐水部を構成するスプレッダ3とを備える。小便器装置1は、使用者による小用後、スプレッダ3から吐出される洗浄水により、ボウル面13を洗浄するように構成されている。なお、
図4に示す断面図の部分は、小便器本体2の左右方向の中心位置(
図2におけるA-A位置)の断面図である。
【0025】
本実施形態に係る小便器装置1は、小便器本体2を、鉛直状の壁面4に対して設置させた、いわゆる壁掛けタイプの便器装置である。小便器本体2は、その底面を床面5に対して浮かせた状態で、壁面4に対して固定金具等によって固定支持されている。本実施形態において、小便器本体2は、陶器製である。
【0026】
小便器装置1において、小便器本体2の壁面4側を背面側(後側)とし、その反対側であるボウル面13側を正面側(前側)とする。また、小便器装置1の正面視における水平方向を左右方向とし、小便器装置1の正面視における右側および左側を、それぞれ小便器装置1の右側および左側とする。
【0027】
小便器本体2は、全体として、左右対称ないし略左右対称の形状を有する。小便器本体2は、全体として、平面視において、後側から前側にかけて徐々に左右の幅を狭くした略山型形状の外形をなすとともに、正面視において、上下方向を長手方向とする略矩形状の外形をなす。
【0028】
また、小便器本体2は、全体として、背面側を壁面4に沿わせるように鉛直状の面に沿わせるとともに、前後方向の寸法について、上端から下側にかけて徐々に寸法を長くし、上下の中央位置よりも下側寄りの位置から下端にかけて、下端が上端よりも長い寸法となるように徐々に寸法を短くした側面視形状を有する。すなわち、小便器本体2は、側面視形状において、前側の部分に、上下中央よりも下方の位置に頂部を位置させ前側に凸の略山型形状を有する。
【0029】
小便器本体2は、ボウル面13を形成するとともにボウル面13の底部に臨んで開口した排水口14を有するボウル部11と、排水口14に連通したトラップ部12とを有する。
【0030】
ボウル部11は、小便器本体2の下端部を除いた大部分に、前側および上側を開放させた凹部として形成されている。ボウル部11の内側の表面が、ボウル面13となっている。ボウル部11は、ボウル面13をなす部分として、正面部11aと左右の側面部11bとを有する。正面部11aおよび左右の側面部11bそれぞれの上縁部により、正面視において下窄まりで上下に細長い倒立山型形状をなす開口部が形成されている。
【0031】
ボウル面13は、上下方向について小便器本体2の上端部から中央部までの範囲で形成された略鉛直状の平面部13aと、平面部13aの左右両側に形成された側面部13bと、ボウル面13の底部をなす凹曲面状のボウル状面部13cとを有する。平面部13aは、ボウル部11の正面部11aの上側の部分の前側の面として形成されている。側面部13bは、ボウル部11の左右の側面部11bの上側の部分の内側の面として形成されている。平面部13a、左右の側面部13b、およびボウル状面部13cは、滑らかに連続してボウル面13を形成している。
【0032】
平面部13aは、ボウル部11の上端部においては左右方向について両端部を除いた略全体にわたる範囲に形成されており、正面視において、上端部から下側にかけて徐々に左右幅を狭めた下窄まりの形状を有する。側面部13bは、ボウル部11の左右の側壁部の内側の面であり、小便器本体2の側面視形状に対応して、側面視で上側から下側にかけて徐々に幅を狭くした略三角形状をなすように形成されている。ボウル状面部13cは、平面部13aおよび左右の側面部13bそれぞれの下側に連続するように形成されている。
【0033】
また、ボウル面13においては、左右の側面部13bに導水棚13dが形成されている。導水棚13dは、側面部13bの下後側の部分を他の部分に対して左右内側に位置させるように形成された段差部分である。導水棚13dは、ボウル部11の開口縁部の側面視における前下がりの傾斜に沿うように、平面部13aの上下中間部の位置からボウル面13の前端部近傍の位置にかけて形成されている。
【0034】
ボウル部11の正面部11aは、その上側の部分を、平面部13aをなす鉛直状の壁面部分とし、下側の部分を、上側から下側にかけて徐々に前側に湾曲してボウル状面部13cをなす凹曲面状の壁部としている。ボウル状面部13cは、正面部11aの下部と、排水口14の前側の凹状の曲面部とを含んで形成されている。
【0035】
また、ボウル部11は、その正面視の開口形状をなす部分の下端部を形成する部分として、前端周壁部16を有する。前端周壁部16は、ボウル部11において左右の側面部11bの下側の間に形成された部分であり、正面視で下側を凸側とした半円弧状をなす上縁部16aを有する。前端周壁部16の上縁部16aの左右中央部は、小便器本体2の側面視形状における前側の頂部を形成する部分となる。
【0036】
排水口14は、平面視で略円形状をなす開口部であり、ボウル面13の底部をなすボウル状面部13cに臨んで開口している。ボウル面13が受けた小便およびスプレッダ3から吐出された洗浄水が、排水口14から排出される。排水口14に対しては、複数の通水孔を有する略円板状の目皿17が排水口14を上側から覆うように設けられている。
【0037】
トラップ部12は、ボウル部11の下側において、排水口14に連通するように設けられている。トラップ部12は、排水口14から下側にかけて流路径を徐々に狭くした下細りのテーパ状の下り流路を形成する下降流路部12aと、下降流路部12aの後側において下降流路部12aの下端から折り返して上り流路を形成する上昇流路部12bと、上昇流路部12bの上端から後側に向かう流路を形成して背面側に開口した排出流路部12cとを有する。下降流路部12aと上昇流路部12bとの間は、トラップ部12の下端部をなす折返流路部12dとなっている。
【0038】
トラップ部12は、主に下降流路部12a、折返流路部12dおよび上昇流路部12bにより、これらの流路部内に常時洗浄水を封水として貯留した折返し状のトラップ流路を形成している。上昇流路部12bおよび排出流路部12cは、ボウル部11の正面部11aの下部をなす湾曲部分の下側および後側に形成されている。下降流路部12aと上昇流路部12bとは、ボウル部11の正面部11aの下部から下斜め前方に向けて延出された流路隔壁部12fによって区画されている。
【0039】
トラップ部12のトラップ流路の下流側に形成された排出流路部12cは、排出口としての略円形状の後方開口部12eを小便器本体2の背面側に開口させており(
図3参照)、排出流路部12cの下流側には、排水管18が連通接続されている。排水管18は、壁面4の奥側へと延び、図示せぬ排水設備に接続されている。
【0040】
スプレッダ3は、ボウル部11の上部に吐水口19を位置させ、吐水口19からボウル面13に供給する洗浄水を吐出させる吐水装置であり、ボウル面13の上部の左右中央位置に設けられている。つまり、スプレッダ3は、小便器本体2に対し、左右方向の中央位置であって、平面部13aの上部の位置に設けられている。このため、ボウル部11において平面部13aをなす鉛直状の壁部である正面部11aには、スプレッダ3を設置するための円形状の貫通孔部11cが形成されている。
【0041】
スプレッダ3は、吐水口19からの洗浄水の吐水態様として、ボウル面13に水膜を形成するように吐水を行うように構成されている。吐水口19は、小便器本体2の左右中心に対して左右対称となるように設けられている。スプレッダ3は、主な構成として、略円板状ないし略円柱状のスプレッダ本体部3aと、スプレッダ本体部3aの後側に設けられた給水管部3bとを有する。
【0042】
スプレッダ本体部3aは、吐水口19を有する部分であり、貫通孔部11cを前側から覆うように設けられ、吐水口19を下方に向けて開口させている。吐水口19は、ボウル面13の平面部13aに沿う薄型の開口部であり、スプレッダ3から下方に向けて吐出される洗浄水が扇状に広がるように形成されている。
【0043】
給水管部3bは、スプレッダ本体部3a内に形成された給水流路を介して吐水口19に連通する給水流路を構成する管状の部分であり、スプレッダ本体部3aから後側に延びて貫通孔部11c内を貫通し、小便器本体2の裏側に配されている。給水管部3bには、給水配管20の下流側が接続されており、給水管部3bは、給水配管20および給水配管20の上流側が接続された所定の給水部材21を介して、水道や貯水タンク等の図示せぬ給水源に接続されている。
【0044】
このような構成において、給水源から給水部材21および給水配管20を介して給水管部3bに供給された洗浄水が、スプレッダ本体部3a内の給水流路を通って吐水口19から下側に向けて吐出される。吐水口19から吐出される洗浄水は、ボウル面13の平面部13aに沿って下方に広がるように流れる(
図1、矢印A1参照)。吐水口19から吐出された洗浄水は、ボウル面13に水膜を形成し、その一部を側面部13bの導水棚13dに沿わせてボウル状面部13cの前端部側に回り込ませながら排水口14から排出される。
【0045】
以上のようなスプレッダ3に対する給水構成において、給水配管20から給水管部3bまでの流路に、流路を開閉させる電磁弁22が設けられている。電磁弁22の動作は、小便器装置1が備える制御部25により制御される。つまり、電磁弁22は、制御部25からの制御信号に基づき、所定のタイミングで開閉する。
【0046】
制御部25は、各種演算処理や制御を実行する演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、RAM(random access memory)やROM(read only memory)等の記憶装置、データ入出力用の入出力インターフェイス等の入出力装置(入出力回路)、クロック回路等の周辺回路等をバス等により接続した構成を備える。制御部25のCPUは、ROM等に記憶された各種のプログラムに従って演算処理を行う。
【0047】
以上のような構成を備えた本実施形態に係る小便器装置1は、ボウル部11からの洗浄水の溢れを事前に検知するため、小便器本体2の洗浄後における溜水の水位である溜水位の変化を検知するための水位検知用センサを備える。つまり、水位検知用センサは、ボウル部11内の溜水位を検知するためのセンサである。
【0048】
本実施形態に係る小便器装置1は、排水部の詰まり等に起因して生じるボウル部11からの洗浄水の溢れを事前に検知するための水位検知用センサとして、第1の水位検知用センサである上側水位検知用センサ60を備える。
【0049】
ここで、排水部の詰まりに関し、排水部に詰まりが無い場合と詰まりが有る場合の各場合について、小便器本体2から排水される洗浄水の挙動について説明する。
【0050】
まず、排水部に詰まりが無い場合の洗浄水の排水の挙動について、
図5を用いて説明する。
図5Aに示すように、スプレッダ3からの洗浄水の供給が行われていない平常時、つまり洗浄水の待機中においては、ボウル部11内の溜水として、トラップ部12のトラップ流路に封水36が貯溜されている。すなわち、封水36は、トラップ部12の下降流路部12aおよび上昇流路部12bによる折返し流路に溜まった水である。
【0051】
排水部に詰まりが無い場合において、封水36の水位B1は、トラップ部12の流路を形成する壁面のうち、上昇流路部12bを形成する壁面のうちの後側の壁面37aと、排出流路部12cを形成する壁面のうちの下側の壁面37bとにより形成された稜線部37cの高さ位置となる。なお、ボウル部11内の溜水位は、例えばトラップ部12の下端となる折返流路部12dの下端の高さ位置B0を基準とした水面の高さ位置である。
【0052】
図5Aに示す待機中において、スプレッダ3から洗浄水の吐水が行われることで、ボウル面13の洗浄が開始される。
図5Bに示すように、ボウル面13の洗浄中は、スプレッダ3から吐出された洗浄水によってボウル面13上に水膜38が形成されるとともに、ボウル面13を洗浄した洗浄水が、排水口14から排出され、トラップ部12および排水管18内を通って排出される。
【0053】
ここで、溜水位は、待機中における封水36の水位B1に対して一時的に上昇するが、排水部に詰まりが無いことから、溜水位の上昇の程度は比較的小さい。具体的には、この場合における上昇時の溜水の水位B2は、例えば、排水管18が連通接続されるトラップ部12の後方開口部12eの略中心の高さ位置となる。
【0054】
そして、スプレッダ3からの洗浄水の供給が停止すると、
図5Cに示すように、溜水位を上昇させた洗浄水がスムーズに排出され、溜水位が待機中の封水36の水位B1に戻る。
【0055】
次に、排水部に詰まりが有る場合の洗浄水の排水の挙動について、
図6を用いて説明する。ここでは、
図6Aに示すように、排水部の詰まりとして、排水部における排水流路に、排水管18の流路断面の中心よりも高い位置まで、つまり排水管18の流路を半分以上の閉塞率で尿石39が存在する場合を例にとって説明する。なお、尿石39は、空気中や便器水溜り内にあるバクテリアと尿が混じり合ってアンモニアになり、その結果、水中のpHが上昇し、便器溜水中に含まれているカルシウムイオンがリン酸カルシウムや炭酸カルシウムとなって沈殿し、それが固まったゲル状の堆積物である。
【0056】
排水部に詰まりが有る場合、封水36の水位B3は、尿石39が存在する分、詰まりが無い場合における封水36の水位B1(
図5A参照)よりも高くなる。具体的には、封水36の水位B3は、例えば、尿石39の上面の高さ位置となる。なお、封水36が蒸発したり、尿石39へ水分が吸収されたりすることで、封水36の水位B3は、例えば、詰まりが無い場合の封水36の水位B1と、尿石39の上面の高さ位置との間の高さ位置となることもある。
【0057】
図6Aに示す待機中において、スプレッダ3から洗浄水の吐水が行われることで、ボウル面13の洗浄が開始される。
図6Bに示すように、ボウル面13の洗浄中は、スプレッダ3から吐出された洗浄水によってボウル面13上に水膜38が形成されるとともに、ボウル面13を洗浄した洗浄水が、排水口14から排出され、トラップ部12および排水管18内を通って排出される。
【0058】
ここで、溜水位は、排水部に詰まりが有ることから、待機中における封水36の水位B3に対して一時的に大幅に上昇する。具体的には、この場合における上昇時の溜水の水位B4は、例えば、排水管18の上端の高さよりも高い位置まで形成された排出流路部12cの上端位置よりも高い位置である。
【0059】
そして、スプレッダ3からの洗浄水の供給が停止すると、
図6Cに示すように、水位B4まで上昇した溜水位が徐々に下降する(矢印B5参照)。ここで、排水部に詰まりが有ることから水捌けがわるいため、溜水位を上昇させた洗浄水がある程度の時間をかけて排出され、溜水位が待機中の封水36の水位B3に戻る。
【0060】
このように、排水部に詰まりが有ると、小便器本体2からの排水能力が低下し、スプレッダ3からの洗浄水の給水量に対して排水能力が下回り、ボウル面13の洗浄中に、ボウル部11に水が溜まって溜水位が上昇する。そして、排水部の詰まり具合の程度が高くなると、便器洗浄中に溜水位がボウル部11の溢れ面に達し、ボウル部11から洗浄水が溢れることが生じ得る。こうしたボウル部11からの洗浄水の溢れが、上側水位検知用センサ60によって事前に検知される。
【0061】
ボウル部11の溢れ面は、
図4および
図12に示すように、ボウル部11の前端周壁部16の上縁部16aの左右中央部の上端の高さ位置である溢れ面高さE1の水平状の仮想平面となる。溢れ面高さE1は、前端周壁部16の上縁部16aの上端のうち最も低い高さ位置である。したがって、ボウル部11内の溜水位が高さ溢れ面高さE1を超えると、ボウル部11内の水が外に溢れ出ることになる。
【0062】
本実施形態において、上側水位検知用センサ60は、静電容量センサである。上側水位検知用センサ60は、
図4に示すように、IC基板等により構成されたセンサ本体部61と、センサ本体部61に対して所定の配線によって接続された電極部62とを有する。上側水位検知用センサ60(水位検知用センサ)のセンサ本体部61は、制御部25に接続されている。
【0063】
電極部62は、例えば一対のシート状電極を含んで構成されており、矩形状の外形を有するシート状またはプレート状の部材として構成されている。センサ本体部61は、電極部62や電極部62を貼り付けた対象部分の静電容量を計測するための回路構造を含んで構成されている。センサ本体部61において検知した静電容量は、デジタル値に変換される等して、静電容量の計測値として出力される。上側水位検知用センサ60からの出力信号は、制御部25に入力される。
【0064】
上側水位検知用センサ60の電極部62は、小便器本体2において、ボウル部11の溢れ面近傍の溜水位を測定することができる位置に設けられる。電極部62は、小便器本体2においてボウル面13を形成する陶器製の壁部の裏側に貼り付けられた状態で設けられる。したがって、センサ本体部61によれば、電極部62およびその貼付け対象部分であるボウル部11に加え、ボウル部11内の溜水等の静電容量が計測される。以下では、小便器本体2における電極部62の取付部分となる、ボウル面13を形成する陶器製の壁部を「上側センサ取付壁部」という。
【0065】
電極部62の上側センサ取付壁部に対する貼付けには、例えば接着剤や粘着テープ等が用いられる。なお、上側センサ取付壁部に対する電極部62の設置方法は特に限定されるものではなく、また、電極部62は、上側センサ取付壁部の表面に貼り付ける場合に限らず、上側センサ取付壁部の表面に対して隙間を空けた状態で設けられてもよい。
【0066】
センサ本体部61による検知においては、検知範囲が電極部62の面積に依存する。すなわち、センサ本体部61により検知される静電容量は、上側センサ取付壁部を介して電極部62とボウル面13側の水とが隣り合う部分の面積が増えるほど増加する。このように、電極部62は、ボウル部11の裏側に設けられ、ボウル面13をなす壁部を介してボウル部11内の水の挙動を検出する検出部として機能する。
【0067】
本実施形態に係る小便器装置1における上側水位検知用センサ60の電極部62の配置構成、及び小便器本体2の洗浄時(以下「便器洗浄時」という。)における、上側水位検知用センサ60によって検知される静電容量の変化の態様について、
図6~
図8を用いて説明する。
図7に示すグラフにおいて、横軸は時間(秒)であり、縦軸は静電容量の値であり、
図8は、
図4におけるB-B位置の断面図である。
【0068】
先ず、
図8を用いて、本実施形態に係る小便器装置1における上側水位検知用センサ60の電極部62の配置構成を説明する。
図8に示すように、小便器3の正面視の状態において、スプレッダ3から下方に向けて吐出される洗浄水は、下方に向かって扇状に広がるように、ボウル面13の平面部13aに沿って流れる(
図8のX領域を参照)。吐水口19から吐出された洗浄水は、ボウル面13に水膜を形成し、その一部を側面部13bの導水棚13dに沿わせてボウル状面部13cの前端部側に回り込ませながら排水口14から排出される。
【0069】
また、電極部62は、
図8に示すように、少なくとも一部がボウル部11の溢れ面の高さ位置(
図4、溢れ面高さE1)よりも下方に位置するように設けられており、上側水位検知用センサ60が有する上方検出部(検出部)として機能する。
【0070】
スプレッダ3から扇状に広がる洗浄水は、平面部13aから左右方向に広がりながら流下し、排出口14に向かう。ここで、スプレッダ3が洗浄水を吐水する範囲は、左右方向の幅W1となるように吐水される。
【0071】
左右方向の幅W1は、小便器3の高さ方向によって異なり、スプレッダ3から吐水された洗浄水は平面部13aの左右方向の幅方向、及び導水棚13dを含む左右方向の幅方向まで広がるように構成されているが、少なくとも、平面部13aの左右方向の幅まで広がるように構成されることが好ましい。
【0072】
電極62は、洗浄水を吐水する左右方向の幅W1の範囲に位置するように設けられており、スプレッダ3からの洗浄水が、平面部13aのうち、電極62が設けられた箇所を通過するように構成される。本実施形態においては、電極62の全部が左右方向の幅W1の範囲に設けられているが、例えば電極62の一部が左右方向の幅W1の範囲に位置するように設けられていてもよい。このように構成されることで、スプレッダ3から吐水された洗浄水が、ボウル面13の電極62が設けられた箇所を経由して、封水36に流下するため、ボウル面13の電極62が設けられた箇所と、封水36に形成される水位とを、洗浄水で連続させることができる。
【0073】
また、上側水位検知用センサ60を構成する電極62は、ボウル面13の平面部13aと対向するように裏側の壁部に設けられており、平面部13aの左右方向の幅方向の範囲に少なくとも電極62の全部、又は一部が設けられていることが好ましい。これにより、スプレッダ3から洗浄水を吐水する左右方向の幅W1が小さい状態においても、ボウル面13の電極62が設けられた箇所と、封水36に形成される水位とを、洗浄水で連続させることができる。例えば、平面部13aまでしか広がらないような便器形状等においても、ボウル面13の電極62が設けられた箇所と、封水36に形成される水位とを、洗浄水で連続させることができる。
【0074】
さらに、より好ましくは、平面部13aに設けられた電極62は、スプレッダ3(吐水部)の左右方向幅範囲に、電極の全部、又は一部が位置するように、設けられていてもよい。このように構成されることで、スプレッダ3から洗浄水を吐水する左右方向の幅W1が小さい状態においても、ボウル面13の電極62が設けられた箇所と、封水36に形成される水位とを、洗浄水で連続させることができる。例えば、便器洗浄時の終期などにおいて、幅W1が小さくなった状態においても、ボウル面13の電極62が設けられた箇所と、封水36に形成される水位とを、洗浄水で連続させることができる。
【0075】
また、電極部62は、
図8に示すように、少なくとも一部がボウル部11の溢れ面の高さ位置(
図4、溢れ面高さE1)よりも下方に位置するように設けられているため、ボウル面13に形成される溜水水位と、電極までの高さ位置を短くすることができるため、ボウル面13の電極62が設けられた箇所と、封水36に形成される水位とを、洗浄水で連続させた状態が途切れることを抑制することができる。
【0076】
次に、上側水位検知用センサ60によって検知される静電容量の変化の態様について
図6及び
図7を用いて説明する。
図7に示すように、時刻0秒からの待機中においては、静電容量の値は略一定である。この際、
図6Aに示すように、スプレッダ3からの洗浄水の吐水が開始されておらず、溜水位である待機中の封水36の水位B3と電極62とは、接触していない状態である。
【0077】
次に、
図7に示すように、時刻S1のタイミングでボウル面13の洗浄、つまりスプレッダ3からの洗浄水の吐水が開始されると、(I)領域に示す部分で静電容量の値が急上昇する。この際、
図6Bに示すように、時刻S1のタイミングでスプレッダ3からの洗浄水の吐水が開始されると、洗浄水が、ボウル面13のうち電極62が設けられた箇所を通過し、静電容量の値が急激に変化することとなる。
【0078】
その後、
図6Bに示すように、洗浄水が、ボウル面13のうち電極62が設けられた箇所を通過し、封水に流入することで、水位B4が形成される。この際、電極62箇所のボウル面13と封水36の水位B4とは、吐水された洗浄水によって連続することとなる。
この際、
図7に示すように、静電容量の値は、洗浄開始のタイミングである時刻S1から、スプレッダ3からの洗浄水の供給が停止するタイミングである時刻S2までの便器洗浄中の期間U1のうち、(II)領域に示す部分で、なだらかに変化する。具体的には、静電容量の値は、最大水位B4となるまでの水位変化を、連続する洗浄水を経由して検知するため、緩やかに徐々に上昇し、最大水位となる水位B4において、静電容量値は最大値となり、水位安定後は、略一定値を継続するよう推移する。
【0079】
そして、洗浄水の供給が停止した時刻S2から、静電容量の値が徐々に低下し、
図6Cに示すように、水位B4まで上昇した溜水位が徐々に下降し(矢印B5参照)、最終的に待機中の状態に戻る。
【0080】
このような便器洗浄時において上側水位検知用センサ60によって検知される静電容量の変化は、ボウル部11の溜水位の変化に対応している。したがって、排水部における排水流路の閉塞率(以下「流路閉塞率」という。)が高くなるほど、便器洗浄中の期間U1における静電容量の値が大きくなる。このような上側水位検知用センサ60によって検出される溜水位の変化に応じた静電容量の変化の態様に基づいて、ボウル部11からの洗浄水の溢れが検知される。なお、流路閉塞率は、排水流路の流路断面の面積に関する閉塞率である。また、本実施形態において、流路閉塞率の検知対象となる排水部における排水流路には、目皿17の通水孔、排水口14、トラップ部12およびこれに連通接続された排水管18が含まれる。
【0081】
小便器本体2における電極部62の配設部位近傍の形状について、
図8から
図13を用いて詳細に説明する。なお、
図9は、
図4におけるC-C位置の断面図である。
【0082】
図8から
図13に示すように、小便器本体2の底部には、下側を開放側とした開口部40aをなす底部空間40が形成されている。底部空間40は、陶器として型により成形される小便器本体2において、トラップ部12を形成するための型構造上形成される部分である。なお、
図11、
図12および
図13は、
図3におけるD-D位置の断面を示している。
【0083】
底部空間40は、小便器本体2の底面視形状に沿うように、前側を頂部側とした略二等辺三角形状(前側を凸側とした略山型形状)の開口形状を有する(
図10参照)。底部空間40を形成する面には、ボウル部11の裏面と、トラップ部12の流路を形成する壁部の外側面とが含まれており、底部空間40を形成する面は、外気に触れる部分となる。
【0084】
底部空間40内の左右中央部においては、トラップ部12が、その流路を形成する壁部として下方に向けて突出した突出部12Xを形成している。トラップ部12としての突出部12Xは、トラップ部12の流路形状に沿う外形を有する。
【0085】
突出部12Xは、略鉛直平面状の左右の側壁部41と、平面断面視において後側に凸の湾曲面をなす後壁部42と、後面断面視において下側に凸の湾曲面をなす上壁部43と、突出部12Xの下端部をなす略ドーム状の底壁部44とを有する。トラップ部12においては、左右の側壁部41の内側面により、上昇流路部12bおよび排出流路部12cの側面が形成される。また、後壁部42の前側の曲面により、排出流路部12cの後側の面が形成される。また、上壁部43の上側の曲面により、排出流路部12cの下側の面が形成される。また、底壁部44の内側の面により、折返流路部12dの大部分が形成される。
【0086】
底部空間40を形成する面として、内周壁面45が形成されている。内周壁面45は、底部空間40の開口形状に沿うように全周にわたって形成され、突出部12Xの周囲を取り囲んでいる。内周壁面45は、その後側の面部を、略鉛直状平面状の後壁面45aとしている。
【0087】
底部空間40の底部をなす面として、底面視において突出部12Xの上壁部43の左右両外側に位置する平面状の天面46が形成されている。また、底部空間40を形成する面として、底壁部44の前側に、底面視で略半円弧状をなす段差面47が形成されている。段差面47は、突出部12Xの平面視での湾曲形状に沿う湾曲横面部と、この湾曲横面部の左右両側の後側に形成された縦面部とを有する。
【0088】
また、底部空間40を形成する面として、左右の天面46と、段差面47の左右両端との間に、膨出傾斜面48が形成されている。膨出傾斜面48は、突出部12Xの左右の側壁部41と内周壁面45との間の面部である。膨出傾斜面48は、ボウル部11においてボウル状面部13cを形成する壁部の裏面、つまりボウル部11の正面部11aの下部の裏面となる。
【0089】
膨出傾斜面48は、ボウル面13のボウル状面部13cの湾曲形状に応じて、底部空間40の内側に対して膨らんだ膨出形状を有する上段面部48aと、上段面部48aの下側に形成され主に段差面47の縦面部と左右の側壁部41との間の部分をなす下段面部48bとを有する。側面視において、上段面部48aは、ボウル状面部13cの湾曲形状に沿って略前下がりの傾斜面となっており、下段面部48bは、トラップ部12の下降流路部12aの流路形状に沿って、上段面部48aの下端から略下方に向けて延びている。
【0090】
また、小便器本体2の背面側においては、小便器本体2の背面側が沿う鉛直状の仮想面に対して凹んだ部分をなす背面側凹部50が形成されている。背面側凹部50は、小便器本体2の上下方向の略全体に形成された溝状および穴状の凹み部分を含む部分である。
【0091】
背面側凹部50の上部は、左右方向を長手方向とした略矩形状の穴状の凹み部分50aであり、小便器本体2の背面側に配される給水配管20の配置空間等として用いられる。また、背面側凹部50の上下方向の中間部は、左右の内側面51と、ボウル部11の正面部11aの裏側の面であるボウル裏面52とにより、上下方向に延びた溝状の部分として形成されている。正面部11aは、ボウル面13の湾曲形状に沿う壁部分であり、ボウル裏面52は、ボウル面13に沿う形状を有する。
【0092】
背面側凹部50の下部においては、略水平状の上側横壁部53と、略鉛直状の後側縦壁部54と、略水平状の底壁部55とが形成されている。上側横壁部53、後側縦壁部54および底壁部55は、左右方向について、トラップ部12の形成範囲を含むように形成されており、上側横壁部53および後側縦壁部54は、それぞれ左右両側を、トラップ部12に対して左右両側に張り出させている。上側横壁部53、後側縦壁部54および底壁部55は、それぞれ左右両側を左右の内側面51に繋げており、左右の内側面51間に架設された態様の壁部として形成されている。
【0093】
上側横壁部53、後側縦壁部54および底壁部55は、側面断面視においてクランク形状をなすように形成されている。すなわち、側面断面視において、略水平状の上側横壁部53の後端部から、略鉛直状の後側縦壁部54が、上側横壁部53とともに略直角状をなすように形成されている。また、後側縦壁部54の下端部から、略水平状の底壁部55が、後側縦壁部54とともに略直角をなすように形成されている。
【0094】
上側横壁部53は、正面部11aの下部をなす湾曲面部の中途部の高さ位置において、正面部11aの後側に、正面部11aとともに谷部をなすように形成されている。上側横壁部53の下面53aの左右中間部により、排出流路部12cの上面が形成されており、上側横壁部53の下面53aの左右両側の部分が、底部空間40の天面46となっている。なお、排出流路部12cの前側は、正面部11aの下部の裏面(後面)によって形成されている。
【0095】
後側縦壁部54は、トラップ部12の後側の開口端面部を形成している。後側縦壁部54の前面54aの上部かつ左右中間部により、排出流路部12cの後面が形成されている。トラップ部12の後方開口部12eは、後側縦壁部54の上部の左右中央部に貫通形成されており、後側縦壁部54の後面54bに臨んで開口している。また、後側縦壁部54の下部においては、前面54aが、内周壁面45の後壁面45aとなっている。
【0096】
底壁部55は、背面側凹部50の下側の底面をなすとともに、下面55aにより、小便器本体2の略水平状の底面2aの一部を形成している。
【0097】
以上のような構成において、電極部62は、ボウル部11の正面部11aの下部において、上側横壁部53の直上方の位置に設けられている。具体的には、細長い矩形状(短冊状)の外形を有する電極部62が、背面視において長手方向を左右方向とする向きで、ボウル裏面52の曲面に沿うように貼り付けられている。
【0098】
また、本実施形態では、電極部62は、その全体を溢れ面(溢れ面高さE1)の下方に位置させるように設けられている。つまり、電極部62は、横長の状態で設けられた電極部62の上縁の高さ位置E5(
図12参照)が溢れ面高さE1よりも低い位置となるように設けられている。なお、電極部62は、例えば、背面視において長手方向を上下方向とし、上下方向について溢れ面高さE1の位置の上下両側にわたるように設けられてもよい。この場合、電極部62の一部を溢れ面の下方に位置させた配設態様となる。
【0099】
以上のようにボウル部11のボウル裏面52に設けられた電極部62に関し、電極部62の下方には、開口部40aから底部空間40内に浸入した水を妨げる遮蔽部70が設けられている。本実施形態では、ボウル裏面52において上側横壁部53の上方に電極部62を配置した構成において、上側横壁部53が遮蔽部70として機能する。つまり、上側横壁部53が、電極部62が被水することを抑制する被水抑制壁部として機能する。
【0100】
上側横壁部53は、その左右中間部により、トラップ部12の排出流路部12cの上面部を形成している。つまり、上側横壁部53は、トラップ部12の流路を形成する壁部に含まれる。このように、本実施形態では、電極部62に対する遮蔽部70は、トラップ部12の流路を形成する壁部として形成されている。つまり、遮蔽部70は、トラップ部12の形成部分により、陶器製の小便器本体2の一部として設けられている。
【0101】
本実施形態のように、トラップ部12の形成部位となる左右中央部に電極部62を設けた構成においては、底部空間40の天面46を形成する上側横壁部53の左右両側の張出部53bが、主に遮蔽部70として機能する。すなわち、仮に上側横壁部53において張出部53bが形成されていない場合、電極部62の配設空間である上側横壁部53の上方の空間と、底部空間40とが、トラップ部12の左右両側の部分を介して連通した状態となる。このため、上側横壁部53が張出部53bを有することにより、遮蔽部70としての上側横壁部53により、電極部62の配設空間への水の浸入が妨げられる。
【0102】
また、
図3、
図12および
図13に示すように、本実施形態において、電極部62は、トラップ部12に連通し排水管18の接続を受ける小便器本体2の排出口としての後方開口部12eよりも上方に設けられている。
【0103】
後方開口部12eは、後側縦壁部54の上部の左右中央部に貫通形成されている。また、後側縦壁部54は、上側横壁部53の後端部から下側に向けて略鉛直状の壁部をなすように形成されている。したがって、後方開口部12eの形成部位の上端、つまり後方開口部12eの内周面の上端の高さ位置である排出口上端高さE6は、上側横壁部53よりも低い位置となる(
図12参照)。電極部62は、上記のとおり上側横壁部53の上方の位置に設けられている。このように、電極部62は、上下方向について、小便器本体2の後方開口部12eよりも上方の位置に設けられている。
【0104】
また、本実施形態では、電極部62は、上下方向について、後方開口部12eに連通接続される排水管18よりも上方の位置に設けられている。つまり、電極部62は、その下端の位置を、排水管18の上端の位置よりも上方に位置させるように設けられている。
【0105】
本実施形態では、排水管18は、後側縦壁部54に形成された後方開口部12eに連通するように設けられ、上下方向について後側縦壁部54の形成範囲内に位置している。電極部62は、後側縦壁部54の上端から前側に形成された上側横壁部53の上方に設けられている。したがって、電極部62は、排水管18の上方に位置する。
【0106】
また、本実施形態において、電極部62が設けられた空間、つまり電極部62の配設空間と、底部空間40とは、トラップ部12の流路を形成する壁部によって互いに区画されている。
【0107】
電極部62は、小便器本体2において、背面側凹部50の下部における上側横壁部53の直上方の位置に設けられている。したがって、電極部62の配設空間は、背面側凹部50内の下部の空間部分であって、上側横壁部53よりも上方の空間部分である。
【0108】
このような電極部62の配設空間に対し、底部空間40は、上側横壁部53の左右の張出部53bによって仕切られている。このように、上述のとおりトラップ部12の上面部を形成する上側横壁部53により、電極部62の配設空間と底部空間40とが区画されている。
【0109】
本実施形態では、電極部62の配設空間と底部空間40との間には、上下方向については、両空間を連通させる部分はなく、これらの空間同士は完全に仕切られている。なお、前後方向については、電極部62の配設空間となる背面側凹部50は、底部空間40に対して、後側縦壁部54によって仕切られている。
【0110】
以上のような構成を備えた本実施形態に係る小便器装置1によれば、上側水位検知用センサ60の電極部62に対して遮蔽部70が設けられていることから、ボウル部11内の溜水位を検知するための上側水位検知用センサ60を備えた構成において、小便器本体2の底部空間40内に浸入する水により上側水位検知用センサ60の電極部62が被水することを防止することができ、電極部62が被水することによる検知精度の低下や故障を抑制することができる。
【0111】
壁掛け式の小便器装置1において、小便器本体2の底部に形成された底部空間40は、下方に向けて開放された空間である。このため、例えば、
図14に示すように、モップ65等の清掃具を用いて小便器装置1の清掃が行われる場合において、小便器本体2の下側から底部空間40内に、清掃に用いられる水66が浸入することが考えられる。水66により電極部62が被水すると、上側水位検知用センサ60において検知精度が低下したり故障が生じたりするおそれがある。
【0112】
そこで、電極部62の下方に遮蔽部70を設けることにより、遮蔽部70が水66に対する障壁部となって、電極部62の配設空間に対する水66の浸入が阻まれるため、電極部62に水がかかることを防止することができる。これにより、上側水位検知用センサ60の検知精度の低下や故障を抑制することができ、溜水位の誤検知やセンサの非作動状態の発生を防ぐことができる。結果として、例えば、排水流路の詰まりに起因した溜水位の過度の上昇を検知して洗浄水を停止する制御において、本来停止すべきときに洗浄水を止めることができずに洗浄水がボウル部内から溢れるといった不具合を解消することができる。
【0113】
また、本実施形態に係る小便器装置1において、遮蔽部70は、トラップ部12の流路を形成する壁部に含まれる上側横壁部53として形成されている。このような構成によれば、小便器本体2の一部であるトラップ部12によって遮蔽部70が構成されるため、遮蔽部70として機能する部分を新たに設ける必要がなく、構造の複雑化を防止することができる。
【0114】
また、本実施形態に係る小便器装置1において、電極部62は、排水管18の接続を受ける後方開口部12eよりも上方に設けられている。このような構成によれば、電極部62を、小便器本体2から排水管18への排水流路部分の上方に位置させることができるので、電極部62の配設空間への水の浸入をさらに抑制することができ、電極部62が被水することを効果的に防止することができる。
【0115】
また、本実施形態に係る小便器装置1において、電極部62の配設空間と底部空間40とが遮蔽部70によって互いに区画されている。このような構成によれば、電極部62の配設空間が底部空間40に対して遮蔽部70によって隔てられた空間となるため、底部空間40内に浸入する水が電極部62の配設空間内へと浸入することを確実に防止することができる。これにより、電極部62が被水することを効果的に防止することができる。
【0116】
以上のような本実施形態に係る小便器装置1において、上側水位検知用センサ60による出力値(静電容量)の変化の一例を、
図15に示す。
図15に示すグラフにおいて、横軸は時間(秒)であり、縦軸は静電容量の値である。また、
図15に示すグラフにおいて、グラフK1~K9は、それぞれ流路閉塞率が0%、50%、60%、70%、80%、90%、92.3%、93%、100%の場合に対応している。
【0117】
図15のグラフに示すように、流路閉塞率が100%の場合以外は、
図7のグラフのように、洗浄水の吐水が開始されてから静電容量の値が上昇し、ボウル面13の洗浄中は静電容量の値がなだらかに変化し、洗浄水の吐水が停止したタイミングから静電容量の値が徐々に低下する。このように洗浄水の挙動に応じて変化する静電容量の時間変化において、洗浄水の吐水開始のタイミングからその直後の所定の時間(例えば約6、7秒間、破線で囲んだ部分L1参照)における静電容量の変化に基づいて、ボウル部11からの洗浄水の溢れが検知される。つまり、電極部62によれば、洗浄中(洗浄水の吐水中)の静電容量の変化に基づいて、溜水位が検知される。ここで、静電容量の変化としては、例えば、所定のタイミングでの容量差の値や傾きの値等が計測される。
【0118】
グラフK9に示すように、流路閉塞率が100%の場合、洗浄中においてグラフがピークあるいはその近傍に達したタイミングM1の時点で、ボウル部11から洗浄水が溢れることになる。つまり、ボウル部11内の洗浄水が溢れ面を越えて外に溢れ出ることになる。そこで、上側水位検知用センサ60により、静電容量の変化に基づき、ボウル部11からの洗浄水の溢れが生じる前の状態を検知することで、洗浄水の溢れが事前に検知される。なお、グラフK9においては、タイミングM1の時点で洗浄水の吐水を強制的に停止させており、その時点から静電容量の値が略一定となっている。
【0119】
洗浄水の溢れは、制御部25により、上側水位検知用センサ60から送られてくる検知信号に基づいて事前に検知される。制御部25は、上側水位検知用センサ60によって検出される静電容量の変化に基づき、溜水位が溢れ面高さE1の付近まで上昇したことを検知することで、洗浄水の溢れを事前に検知する。溢れ面高さE1の付近の水位は、静電容量との関係で認識される所定の水位(限界水位)として、制御部25においてあらかじめ設定される。制御部25は、洗浄中において、溜水位が溢れ面高さE1の付近まで上昇したことを検知することで、電磁弁22に対して閉弁動作の制御信号を送信し、スプレッダ3からの洗浄水の供給を停止させる制御を行う。
【0120】
上述したような本実施形態に係る電極部62に対する遮蔽部70の設置や電極部62の配置構成によれば、
図15のグラフに示されるような、流路閉塞率による静電容量の変化の差異を明確にすることが可能となり、ボウル部11からの洗浄水の溢れについての誤検知を抑制することができる。これにより、洗浄水がボウル部11内から溢れることを抑制することができる。
【0121】
また、電極部62による洗浄水の溢れ検知に関しては、例えば、排水口14に設けられた目皿17が嘔吐物等によって詰まった場合においても、溜水位の上昇を検知することで、洗浄水の漏れを抑制することができる。つまり、電極部62によれば、トラップ部12の下流部分から排水管18にかけての経時的な尿石39の堆積による詰まりではなく、異物等によって排水口14近傍あるいはトラップ流路内で生じた詰まりに起因する溜水位の上昇であっても検知をすることができる。
【0122】
また、
図15に示すように、流路閉塞率が100%の場合は、溜水位の上昇速度が速いため、グラフの傾きが大きくなる。そこで、洗浄水の吐水開始のタイミングからその直後の所定の時間(破線で囲んだ部分L1参照)における容量もしくは傾きにより、流路閉塞率100%を検知することができ、溢れ状態を判定することができる。
【0123】
一方で、一時的なノイズ等が発生することで、瞬間的に、静電容量の値が急上昇してしまい、詰まり現象が起きてないにもかかわらず、溢れ状態を誤判定してしまう可能性がある。
このため、
図15に示すように、静電容量値の第1の閾値(V1)と、第1の閾値(V1)よりも高い(大きい)静電容量値である第2の閾値(V2)を設定し、電極部62で検知された静電容量値が、第1の閾値(V1)を所定時間超えた場合に、詰まり状態であると判定し、電磁弁22に対して閉弁動作の制御信号を送信し、スプレッダ3からの洗浄水の供給を停止させる制御を行うように構成されている。これにより、一時的に静電容量値が上昇するようなノイズによって検知精度が低下することを抑制することができる。
【0124】
また、上述のように、洗浄水の吐水開始のタイミングからその直後の所定の時間(破線で囲んだ部分L1参照)における静電容量の値、もしくは傾き(静電容量の値の時間当たりの変化率)により、溢れ状態を検知する場合には、傾きが所定値以上になった場合に、前記吐水部からの吐水を停止する。ここで所定値とは、例えば、便器の通常状態時の傾きを基準値として設定してもよい。これにより、緩やかに上昇する静電容量値を基準とするため、一時的に静電容量値が上昇するようなノイズによって検知精度が低下することを抑制することができる。
【0125】
また、本実施形態に係る小便器装置1は、排水部の詰まり具合を検知するため、小便器本体2の洗浄後における溜水位の低下の状況、つまりボウル部11内における洗浄水の水捌けの状況を検知するための水位検知用センサとして、第2の水位検知用センサである下側水位検知用センサ30を備える。小便器装置1において、排水部の詰まり具合は、流路閉塞率で表され、この流路閉塞率が、下側水位検知用センサ30によって検知される。
【0126】
上述したように、排水部に詰まりが有ると、ボウル面13の洗浄中に、ボウル部11に水が溜まって溜水位が上昇する(
図6参照)。このため、ボウル面13の洗浄後(スプレッダ3からの給水の停止後)に、一旦上昇した溜水位が待機中の高さまで低下するまでにかかる時間(以下「洗浄後水位低下時間」という。)が長くなる。
【0127】
洗浄後水位低下時間は、排水部の詰まり具合の程度によって変化する。つまり、流路閉塞率が高いほど、洗浄後水位低下時間が長くなる。このような洗浄後水位低下時間の変化が、下側水位検知用センサ30によって捉えられる。すなわち、下側水位検知用センサ30は、流路閉塞率に応じて変化の態様を異ならせる溜水位を検知対象とするものであり、溜水位の変化に応じて出力値を変化させる。
【0128】
本実施形態において、下側水位検知用センサ30は、上側水位検知用センサ60と同様の構成を有する静電容量センサである。すなわち、下側水位検知用センサ30は、
図4に示すように、IC基板等により構成されたセンサ本体部31と、センサ本体部31に対して所定の配線によって接続された電極部32とを有する。下側水位検知用センサ30のセンサ本体部31は、制御部25に接続されている。下側水位検知用センサ30のセンサ本体部31および電極部32は、それぞれ上側水位検知用センサ60のセンサ本体部61および電極部62と同様の構成を備えるものであるため、各部の説明を省略する。
【0129】
下側水位検知用センサ30の電極部32は、小便器本体2において、排水部の詰まり具合によって変化するボウル部11内の溜水位を測定することができる位置に設けられる。電極部32は、上側水位検知用センサ60の電極部62に対し、上下方向について、上側横壁部53の形成部位を介して、電極部62の下方の高さ位置に設けられている。電極部32は、小便器本体2においてボウル面13およびトラップ部12のそれぞれを形成する陶器製の壁部の裏側に貼り付けられた状態で設けられる。以下では、小便器本体2における電極部32の取付部分となる、ボウル面13およびトラップ部12のそれぞれを形成する陶器製の壁部を「下側センサ取付壁部」という。
【0130】
電極部32の下側センサ取付壁部に対する貼付けには、例えば接着剤や粘着テープ等が用いられる。なお、下側センサ取付壁部に対する電極部32の設置方法は特に限定されるものではなく、また、電極部32は、下側センサ取付壁部の表面に貼り付ける場合に限らず、下側センサ取付壁部の表面に対して隙間を空けた状態で設けられてもよい。
【0131】
センサ本体部31による検出においては、検知範囲が電極部32の面積に依存する。すなわち、センサ本体部31により検知される静電容量は、下側センサ取付壁部を介して電極部32とボウル面13側の水とが隣り合う部分の面積が増えるほど増加する。このように、電極部32は、ボウル部11の裏側に設けられ、ボウル面13をなす壁部を介してボウル部11内の水の挙動を検出する検出部として機能する。
【0132】
便器洗浄時において、下側水位検知用センサ30によって検知される静電容量の変化の態様について、
図16を用いて説明する。
図16に示すグラフにおいて、横軸は時間(秒)であり、縦軸は静電容量の値である。
【0133】
図16のグラフに示すように、時刻0秒からの待機中においては、静電容量の値は略一定であり、時刻T1のタイミングでボウル面13の洗浄、つまりスプレッダ3からの洗浄水の吐水が開始されると、静電容量の値が急上昇する。上昇した静電容量の値は、洗浄開始のタイミングである時刻T1から、スプレッダ3からの洗浄水の供給が停止するタイミングである時刻T2までの便器洗浄中の期間D1においてなだらかに変化する。そして、洗浄水の供給が停止した時刻T2から、静電容量の値が徐々に低下し、最終的に待機中の値に戻る。
【0134】
このような便器洗浄時において下側水位検知用センサ30によって検知される静電容量の変化は、ボウル部11の溜水位の変化に対応している。したがって、流路閉塞率が高くなるほど、便器洗浄中の期間D1における静電容量の値が大きくなるとともに、時刻T2からの静電容量の低下の度合が小さくなり、洗浄後水位低下時間が長くなる。このような下側水位検知用センサ30によって検出される溜水位の変化に応じた静電容量の変化の態様に基づいて、流路閉塞率が検知される。
【0135】
本実施形態に係る小便器装置1における下側水位検知用センサ30の電極部32の配置構成について説明する。電極部32は、スプレッダ3の吐水口19に対して左右方向にずれた位置に設けられている。つまり、電極部32は、ボウル面13をなす部分を含む下側センサ取付壁部の後側(裏側)において、右半部の部位に貼り付けられた状態で設けられている。
【0136】
具体的には、
図8および
図9に示すように、電極部32は、小便器本体2における左右方向の中心位置C1に対して右方向にずれた位置に設けられている。本実施形態では、電極部32は、左右方向について、中央部に設けられたスプレッダ3の吐水口19の開口範囲から右方向の外側に外れた位置に設けられている。
【0137】
電極部32は、底部空間40を形成する左右の膨出傾斜面48のうち、右側の膨出傾斜面48に貼り付けられた状態で設けられている。つまり、電極部32は、右側の膨出傾斜面48をなす部分を下側センサ取付壁部として、膨出傾斜面48の面形状に沿うように貼り付けられている。
【0138】
本実施形態において、膨出傾斜面48は、側面断面視において上段面部48aおよび下段面部48bにより前側に凸の屈曲形状をなす部分として形成されており、電極部32は、膨出傾斜面48の屈曲形状に沿うように貼り付けられている。したがって、電極部32は、膨出傾斜面48に貼り付けられた状態において、上段面部48aに沿う上側電極部32aと、下段面部48bに沿う下側電極部32bとによる屈曲形状をなしている。そして、本実施形態では、膨出傾斜面48は、その上側の過半部分を上段面部48aとするように設けられている。
【0139】
以上のように、本実施形態の小便器装置1において、小便器本体2は、底部空間40を形成する面として、突出部12Xの外側の面と、突出部12Xを取り囲む内周壁面45と、突出部12Xと内周壁面45との間の面部とを有する。そして、電極部32は、突出部12Xと内周壁面45との間の面部における右上前側の部分に貼設されている。以上のように小便器本体2の底部空間40内の所定の部位に電極部32を貼設した小便器装置1は、電極部32の配置に関し、次のような構成を備えている。
【0140】
電極部32は、その少なくとも一部を、ボウル部11の裏面とトラップ部12をなす壁部の外側面とが連接する連接部の近傍に位置させるように設けられている。
【0141】
本実施形態では、電極部32は、ボウル部11の正面部11aの下部の裏面である膨出傾斜面48に貼り付けられている。電極部32が貼設されている右側の膨出傾斜面48は、トラップ部12としての突出部12Xを形成する右側の側壁部41の右側に連続する面部である。したがって、電極部32は、右側の側壁部41と右の膨出傾斜面48との連接部となる境界部58の近傍に設けられている。
【0142】
また、電極部32は、その少なくとも一部を、ボウル部11の溢れ面の高さよりも下方、かつ排水口14の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられている。すなわち、細長い矩形状(短冊状)の外形を有する電極部32が、平面視において長手方向を略上下方向とする向きで設けられており、電極部32は、その下端を、ボウル部11の溢れ面の高さよりも下方に位置させるとともに、上端を、排水口14の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられている。
【0143】
排水口14の開口位置は、
図4および
図12に示すように、ボウル状面部13cに臨む排水口14の開口縁部の高さ位置である排水口高さE2に位置する。詳細には、排水口高さE2は、ボウル状面部13cと、トラップ部12の下窄まりの下降流路部12aを形成する周壁面とにより形成された平面視円周状の稜線部の高さ位置となる。
【0144】
そして、電極部32は、上下方向について、その少なくとも一部を、溢れ面高さE1よりも下方、かつ排水口高さE2よりも上方に位置させるように設けられている。すなわち、
図12に示すように、電極部32は、その一部を、溢れ面高さE1と排水口高さE2との間の高さ範囲E3内に位置させるように設けられている。本実施形態では、電極部32は、上下方向について、上側の略1/3の部分(上段面部48aの上側の略半分)を、高さ範囲E3内に位置させるように設けられている。
【0145】
また、電極部32は、その下端を、排水口14の開口位置の高さよりも下方に位置させるように設けられている。すなわち、
図12に示すように、電極部32は、その下端の高さ位置E4を、排水口高さE2よりも下方に位置させるように設けられている。言い換えると、電極部32は、その少なくとも一部を、排水口高さE2よりも下方に位置させるように設けられている。
【0146】
したがって、例えば
図12に示すように、電極部32の一部が排水口高さE2よりも下方に位置する場合、電極部32は、上下方向について、排水口高さE2の上下両側に跨るように設けられている。本実施形態では、
図12に示すように、電極部32は、上下方向について、下側の略2/3の部分を、排水口高さE2の下方に位置させるように設けられている。
【0147】
以上のような構成を備えた本実施形態に係る小便器装置1によれば、下側水位検知用センサ30の電極部32が、小便器本体2の左右中心位置からずれた位置に配置されていることから、排水部の詰まりの検知に関し、誤検知を抑制することができ、検知精度を向上することができる。
【0148】
すなわち、スプレッダ3の吐水口19から吐水される洗浄水によってボウル面13上に形成される水膜の挙動に関し、電磁弁22の閉じ動作による吐水口19からの吐水停止後において、水膜はボウル面13上において上方および左右両方から引いていく。このため、下側センサ取付壁部を介してボウル面13上の水を検知する電極部32を、スプレッダ3に対して左右中心から離間した位置に配置することで、電極部32の配置位置が、水膜の引きが比較的早い位置となり、電極部32によって検知される水膜の影響を緩和することができる。これにより、下側水位検知用センサ30による溜水位の誤検知を抑制することができ、検知精度を向上することができる。
【0149】
以上のような本実施形態に係る小便器装置1において、下側水位検知用センサ30による出力値(静電容量)の変化の一例を、
図17に示す。
図17に示すグラフにおいて、横軸は時間(秒)であり、縦軸は静電容量の値である。また、
図17に示すグラフにおいて、グラフH1~H9は、それぞれ流路閉塞率が0%、50%、60%、70%、80%、90%、92.3%、93%、100%の場合に対応している。
【0150】
図17のグラフに示すように、流路閉塞率が100%の場合以外は、
図16のグラフのように、洗浄水の吐水が開始されてから静電容量の値が上昇し、ボウル面13の洗浄中は静電容量の値が略一定となり、洗浄水の吐水が停止したタイミングから静電容量の値が徐々に低下する。このように洗浄水の挙動に応じて変化する静電容量の時間変化において、洗浄水の吐水停止のタイミングからその直後の所定の時間(例えば約10秒間、破線で囲んだ部分J1参照)における静電容量の変化に基づいて、流路閉塞率が識別されて検知される。つまり、電極部32によれば、洗浄後(洗浄水の吐水停止後)の静電容量の変化に基づいて、溜水位が検知される。ここで、静電容量の変化としては、例えば、所定のタイミングでの容量差の値や傾きの値等が計測される。
【0151】
すなわち、流路閉塞率が低いほど、洗浄水の吐水停止のタイミングからの静電容量の値の低下の度合が大きくなる。一方、グラフH9に示すように、流路閉塞率が100%の場合、洗浄水の吐水停止のタイミングから静電容量の値はほぼ変化せずに最大値を保持した状態となる。流路閉塞率は、制御部25により、下側水位検知用センサ30から送られてくる検知信号に基づいて判断されて検知される。
【0152】
上述したような本実施形態に係る電極部32についての配置構成によれば、
図17のグラフに示されるような、流路閉塞率による静電容量の変化の差異を明確にすることが可能となり、流路閉塞率についての誤検知を抑制することができる。
【0153】
また、本実施形態に係る小便器装置1によれば、仮に電極部32が被水することで下側水位検知用センサ30による流路閉塞率の検知に不具合が生じた場合であっても、遮蔽部70によって電極部62の被水が防止されることから、上側水位検知用センサ60により、洗浄水の溢れは事前に検知することができ、洗浄水の溢れを防止することができる。
【0154】
本実施形態に係る小便器装置1は、下側水位検知用センサ30によって検知される流路閉塞率が所定の値(例えば80%)となったことや、上側水位検知用センサ60によって洗浄水の溢れが事前に検知されたことを、小便器装置1の使用者や清掃作業者等に報知するための構成を備えてもよい。具体的には、例えば、
図4に示すように、制御部25に電気的に接続された報知部59が備えられる。
【0155】
報知部59は、例えば、LED(発光ダイオード)を光源とした発光部としての機能や、電子音を発生するブザーにより構成された音発生部としての機能を有するものとして構成される。報知部59は、排水部に詰まりが生じていることや洗浄水の溢れに関する検知結果を、例えば光や音により報知する部分となる。報知部59としては、例えば、流路閉塞率の大きさ、即ち排水部の詰まりの度合に応じて、発光や音発生の態様を変化させる機能を有するものであってもよい。
【0156】
このような構成によれば、小便器装置1の使用者や清掃作業者等に対して排水部の詰まりの状況を認識させることが可能となるため、排水部について適切な清掃の時期を把握することができる。これにより、排水部の清掃を効率的に行うことができる。なお、報知を行うための構成としては、例えば、無線通信モジュールを用い、流路閉塞率の検知情報を所定の受信装置に送信する構成が用いられてもよい。また、報知の方法としては、光や音のほか電子メール等のメッセージ送信が用いられてもよい。
【0157】
以上のように実施形態を用いて説明した本発明に係る小便器装置は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。
【0158】
上述した実施形態では、小便器装置1は、壁掛けタイプの便器装置であるが、小便器本体2を床面5上に設置した、いわゆる床置きタイプの便器装置であってもよい。ただし、床面5に対して上方に離れた位置に小便器本体2を設置した構成の方が、底部空間40に対して水が浸入しやすくなるため、電極部62に対して遮蔽部70を設けた構成は、壁掛けタイプの便器装置においてより効果的となる。
【0159】
また、上述した実施形態では、水位検知用センサとして、静電容量センサが用いられているが、小便器本体2の壁部を介してボウル部11内の洗浄水の挙動を検知することができる機能を有するものであれば、静電容量センサ以外のセンサであっても適用可能である。静電容量センサ以外のセンサとしては、例えば、マイクロ波を用いたマイクロ波ドップラーセンサ等の電波センサや、超音波を用いた超音波センサ等が考えられる。
【0160】
また、上述した実施形態では、トラップ部12を形成する上側横壁部53が、電極部62に対する遮蔽部70として機能する部分となるが、遮蔽部70の構成は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0161】
1 小便器装置
2 小便器本体
3 スプレッダ(吐水部)
11 ボウル部
12 トラップ部
12e 後方開口部(排出口)
12X 突出部
13 ボウル面
14 排水口
16 前端周壁部
18 排水管
19 吐水口
25 制御部
30 下側水位検知用センサ
32 電極部(検出部)
40 底部空間
40a 開口部
48 膨出傾斜面
52 ボウル裏面
53 上側横壁部
53b 張出部
60 上側水位検知用センサ
62 電極部(検出部、上方検出部)
70 遮蔽部
70A 遮蔽部
70B 遮蔽部