IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニデックの特許一覧

<>
  • 特許-眼科装置 図1
  • 特許-眼科装置 図2
  • 特許-眼科装置 図3
  • 特許-眼科装置 図4
  • 特許-眼科装置 図5
  • 特許-眼科装置 図6
  • 特許-眼科装置 図7
  • 特許-眼科装置 図8
  • 特許-眼科装置 図9
  • 特許-眼科装置 図10
  • 特許-眼科装置 図11
  • 特許-眼科装置 図12
  • 特許-眼科装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/135 20060101AFI20241119BHJP
   A61B 3/103 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
A61B3/135
A61B3/103
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021061514
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157347
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】廣藤 諒佑
(72)【発明者】
【氏名】滝井 通浩
(72)【発明者】
【氏名】片岡 暁
【審査官】廣崎 拓登
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-008768(JP,A)
【文献】特開昭63-197432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00- 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の前眼部に向けて測定光を投光し、前記測定光の投光光軸に対して、前記測定光の戻り光を斜め方向から検出することで、前記被検眼の前眼部断面画像を取得するための断面画像撮影光学系と、
前記被検眼の前眼部の状態に関する状態情報であって、瞳孔状態および調節状態の少なくともいずれかを含む状態情報を取得する状態情報取得手段と、
前記前眼部断面画像を解析することによって、前記前眼部の形状に関する形状情報であって、複数のパラメータを含む形状情報を取得する形状情報取得手段と、
前記断面画像撮影光学系を用いた前記前眼部断面画像の取得を制御し、前記被検眼の眼屈折力及び前記複数のパラメータから、前記被検眼の眼軸長を取得する眼軸長取得手段と、
を備える眼科装置であって、
前記眼軸長取得手段は、前記状態情報に基づいて、前記複数のパラメータのうち、前記眼軸長の導出に使用する選択パラメータを選択し、前記選択パラメータから前記眼軸長を取得することを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
請求項1の眼科装置において、
前記眼軸長取得手段は、前記複数のパラメータのうち、前記選択パラメータとは異なる非選択パラメータを測定値から仮定値に変更し、前記選択パラメータ及び前記非選択パラメータから前記眼軸長を取得することを特徴とする眼科装置。
【請求項3】
請求項2の眼科装置において、
前記非選択パラメータは、前記被検眼の虹彩よりも深くに位置する透光体であって、水晶体を含む透光体のパラメータであることを特徴とする眼科装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかの眼科装置において、
前記被検眼の前記眼屈折力を取得するための眼屈折力測定光学系を備え、
前記眼軸長取得手段は、前記眼屈折力測定光学系を用いた前記眼屈折力の取得を制御することを特徴とする眼科装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかの眼科装置において、
前記被検眼の前記前眼部を照明し、前記被検眼の前眼部正面画像を取得するための正面画像撮影光学系を備え、
前記状態情報取得手段は、前記前眼部断面画像と前記前眼部正面画像の少なくともいずれかに基づいて、前記状態情報を取得することを特徴とする眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼の眼軸長を取得する眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼における前眼部の透光体を光切断する形で照明し、前眼部断面画像を撮影する眼科装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-134907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の眼科装置では、被検眼の前眼部断面画像が適切に撮影されないことがある。例えば、被検眼の瞳孔状態によっては、照明光の戻り光がけられてしまい、前眼部の深さ方向の撮影範囲が変化する場合がある。
【0005】
一方で、近年は若年層を中心とする近視有病率の増加が顕著であり、眼軸長に基づく近視進行の評価が注目されている。発明者らは、被検眼の眼屈折力と前眼部断面画像を共に取得し、これらに基づいて眼軸長を測定する装置構成を検討した。
【0006】
しかし、被検眼の瞳孔状態が影響して前眼部断面画像が適切に取得されなければ、眼軸長の測定が難しくなる。また、被検眼の調節状態が、眼屈折力と前眼部断面画像の各々の取得時に異なっていると、眼軸長を精度よく測定することが難しくなる。
【0007】
本開示は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、前眼部断面画像を適切に取得し、眼軸長を精度よく測定できる眼科装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の眼科装置は、被検眼の前眼部に向けて測定光を投光し、前記測定光の投光光軸に対して、前記測定光の戻り光を斜め方向から検出することで、前記被検眼の前眼部断面画像を取得するための断面画像撮影光学系と、前記被検眼の前眼部の状態に関する状態情報であって、瞳孔状態および調節状態の少なくともいずれかを含む状態情報を取得する状態情報取得手段と、前記前眼部断面画像を解析することによって、前記前眼部の形状に関する形状情報であって、複数のパラメータを含む形状情報を取得する形状情報取得手段と、前記断面画像撮影光学系を用いた前記前眼部断面画像の取得を制御し、前記被検眼の眼屈折力及び前記複数のパラメータから、前記被検眼の眼軸長を取得する眼軸長取得手段と、を備える眼科装置であって、前記眼軸長取得手段は、前記状態情報に基づいて、前記複数のパラメータのうち、前記眼軸長の導出に使用する選択パラメータを選択し、前記選択パラメータから前記眼軸長を取得することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】眼科装置の外観図である。
図2】眼科装置の光学系を示す概略図である。
図3】被検眼の視感度と波長の関係を表す模式図である。
図4】撮像素子の受光感度と波長の関係を表す模式図である。
図5】固視標呈示光学系を簡略化した模式図である。
図6】視標投影光学系を簡略化した模式図である。
図7】眼科装置の制御動作を示すフローチャートである。
図8】被検眼が縮瞳していない状態で撮影された適切な断面画像である。
図9】被検眼が縮瞳した状態で撮影された適切でない断面画像である。
図10】複数のパラメータ情報における測定値と有効性の一例である。
図11】眼軸長の導出手法を説明するための模式図である。
図12】経線方向の屈折度数を示す図である。
図13】被検眼に調節が働いた適切でない断面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「概要」
本開示の実施形態に係る眼科装置の概要について説明する。以下の<>にて分類された項目は、独立又は関連して利用されうる。なお、本実施形態において、「共役」とは、必ずしも完全な共役関係に限定されるものではなく、「略共役」を含むものとする。すなわち、本実施形態の「共役」には、各部の技術意義との関係で許容される範囲で、完全な共役位置からずれて配置される場合についても含まれる。
【0011】
本実施形態の眼科装置は、被検眼の眼軸長を測定することが可能な装置である。例えば、眼科装置は、眼軸長の測定に利用される光学系、状態情報取得手段、形状情報取得手段、眼軸長取得手段、等を有してもよい。
【0012】
<眼屈折力測定光学系>
本実施形態の眼科装置は、眼屈折力測定光学系(例えば、測定光学系100)を有してもよい。眼屈折力測定光学系は、被検眼の眼屈折力を取得するための光学系である。例えば、被検眼の眼底に対して測定光(第1測定光)を投光し、眼底にて測定光が反射された反射光に基づいて、眼屈折力を取得するための構成を備えてもよい。なお、第1測定光は、可視光であってもよいし、赤外光であってもよい。
【0013】
眼屈折力測定光学系は、他覚式眼屈折力測定装置(オートレフラクトメータ及び波面センサ等)にて用いられる測定光学系であってもよい。眼屈折力測定光学系における第1測定光の投光光軸は、後述の断面画像撮影光学系にて形成される光切断面の面上に配置されてもよい。このために、眼屈折力測定光学系を用いて、前眼部の光切断面上での眼屈折力(面上眼屈折力)が取得される。もちろん、眼屈折力測定光学系は、他の面上での眼屈折力を取得することが可能であってもよい。
【0014】
<断面画像撮影光学系>
本実施形態の眼科装置は、断面画像撮影光学系(例えば、断面撮影光学系)を有してもよい。断面画像撮影光学系は、被検眼の前眼部断面画像を取得するための光学系である。例えば、被検眼の前眼部に向けて測定光を投光し、測定光の投光光軸に対して、測定光の散乱による戻り光(散乱光)を斜め方向から検出することで、前眼部断面画像を取得するための構成を備えてもよい。また、例えば、被検眼の前眼部に対して測定光(第2測定光)を投光し、前眼部に眼屈折力測定光学系の光軸を通る光切断面を形成させると共に、第2測定光の光切断面からの散乱光に基づいて、前眼部断面画像を取得するための構成を備えてもよい。なお、測定光(第2測定光)は、可視光であってもよいし、赤外光であってもよい。
【0015】
断面画像撮影光学系は、シャインプルーフの原理に基づく光学系であってもよい。この場合、眼屈折力測定光学系における第1測定光の投光光軸と、断面画像撮影光学系における第2測定光の投光光軸と、が同軸に配置されてもよい。また、この場合、断面画像撮影光学系において、第2測定光はスリット光として投光されてもよい。例えば、スリット光の照射領域が、前眼部の光切断面として設定される。また、この場合、断面画像撮影光学系は、前眼部に形成された光切断面とシャインプルーフの関係で配置されたレンズ系及び光検出器を有してもよい。例えば、光検出器は2次元撮像素子であってもよい。第2測定光の受光光軸は、光切断面に対して傾斜するように配置される。
【0016】
なお、断面画像撮影光学系による前眼部断面画像の撮影範囲には、被検眼の角膜前面から少なくとも水晶体前面までが含まれていることが好ましい。いうまでも無く、角膜前面から水晶体後面までが含まれていれば、更に好ましい。この場合は、角膜厚、角膜前面曲率半径、角膜後面曲率半径、前房深度、水晶体厚、水晶体前面曲率半径、および、水晶体後面曲率半径を、漏れなく取得できるため、眼軸長をより適正に求めることができる。
【0017】
<正面画像撮影光学系>
本実施形態の眼科装置は、正面画像撮影光学系(例えば、正面撮影光学系200)を有してもよい。正面画像撮影光学系は、被検眼の正面観察画像を取得するための光学系である。例えば、被検眼の前眼部を照明することによって、正面観察画像を取得するための構成を備えてもよい。
【0018】
<状態情報取得手段>
本実施形態の眼科装置は、状態情報取得手段(例えば、制御部50)を備えてもよい。状態情報取得手段は、被検眼の前眼部の状態に関する状態情報であって、瞳孔状態および調節状態の少なくともいずれかを含む状態情報を取得する。例えば、瞳孔状態は、縮瞳した状態、及び、散瞳した状態、の少なくともいずれかの状態であってもよい。また、例えば、調節状態は、調節は働いた状態、及び、調節が解除された状態、の少なくともいずれかの状態であってもよい。
【0019】
状態情報取得手段は、瞳孔状態として、縮瞳及び散瞳の有無を把握することが可能な情報を取得してもよい。例えば、このような情報には、瞳孔径等の値が用いられてもよい。また、瞳孔径の値に基づいて縮瞳または散瞳の有無を判定した判定結果が用いられてもよい。状態情報取得手段は、調節状態として、調節の有無を把握することが可能な情報を取得してもよい。この場合には、前房深度、水晶体前面曲率、水晶体後面曲率、水晶体厚、等の少なくともいずれかの値が用いられてもよい。また、水晶体前面曲率、水晶体後面曲率、水晶体厚、等の値に基づいて調節の有無を判定した判定結果が用いられてもよい。
【0020】
状態情報取得手段は、断面画像撮影光学系を用いて取得された前眼部断面画像を解析することによって、状態情報を取得してもよい。また、正面画像撮影光学系を用いて取得された前眼部正面画像を解析することによって、状態情報を取得してもよい。また、検者による操作手段(例えば、モニタ16)を用いた入力によって、状態情報を取得してもよい。また、眼科装置とは異なる装置にて取得された状態情報を受信することによって、状態情報を取得してもよい。例えば、この場合には、小瞳孔等の情報を受信してもよい。
【0021】
なお、本実施形態において、状態情報取得手段は、断面画像撮影光学系によって取得された前眼部断面画像と、正面画像撮影光学系によって取得された前眼部正面画像と、の少なくともいずれかに基づいて、状態情報を取得してもよい。例えば、眼科装置が備えるこれらの光学系を用いて前眼部の状態をリアルタイムに取得し、眼軸長の導出に反映させることによって、眼軸長をより正確に求めることができる。
【0022】
また、本実施形態において、状態情報取得手段は、眼屈折力の取得タイミングにおける前眼部の第1状態に関する第1状態情報と、前眼部断面画像の取得タイミングにおける前眼部の第2状態に関する第2状態情報と、を取得してもよい。第1状態と第2状態は、必ずしも一致している必要はなく、互いに異なる状態であってもよい。つまり、第1状態と第2状態においては、瞳孔状態が異なっていてもよいし、調節状態が異なっていてもよい。もちろん、第1状態と第2状態は、同一の状態であってもよい。眼屈折力の取得時と、前眼部断面画像の取得時と、においては前眼部の状態にずれが生じることがあるため、各々のタイミングで状態情報を取得することによって、双方の状態情報を容易に比較し、眼軸長をより正確に取得することができる。
【0023】
<形状情報取得手段>
本実施形態の眼科装置は、形状情報取得手段(例えば、制御部50)を備えてもよい。形状情報取得手段は、前眼部断面画像を解析することによって、前眼部の形状に関する形状情報であって、複数のパラメータを含む形状情報を取得してもよい。なお、複数のパラメータは、角膜及び水晶体を少なくとも含むパラメータである。例えば、形状情報は、前眼部に含まれる透光体の形状を特定することが可能な情報であればよい。一例として、各々の透光体が位置する座標、各々の透光体の形状を表す方程式及び方程式から求められる値(例えば、曲率、厚み、深度、等)、等であってもよい。
【0024】
形状情報に含まれる複数のパラメータは、角膜の形状に関するパラメータを含んでもよい。例えば、角膜前面の曲率半径、角膜後面の曲率半径、角膜厚、等が挙げられる。また、複数のパラメータは、水晶体の形状に関するパラメータを含んでもよい。例えば、水晶体前面の曲率半径、水晶体後面の曲率半径、水晶体厚、等が挙げられる。また、複数のパラメータは、前眼部の深度に関するパラメータを含んでもよい。例えば、前房深度等が挙げられる。
【0025】
なお、形状情報取得手段が解析した前眼部断面画像からは、透光体におけるより多くのパラメータ(言い換えると、測定値)が取得されることが望ましいが、解析結果としてパラメータが得られない場合、パラメータが正確でない場合、等もある。例えば、これは、被検眼の前眼部の状態によって変化し、前眼部断面画像を適切に取得できていない際には、有効なパラメータと有効でないパラメータが混在し得る。しかし、本実施例では、後述の眼軸長取得手段が眼軸長の導出に適したパラメータを選択することによって、眼軸長が精度よく測定される。
【0026】
<眼軸長取得手段>
本実施形態の眼科装置は、眼軸長取得手段(例えば、制御部50)を備えてもよい。例えば、眼軸長取得手段は、画像処理部、眼軸長取得部、及び演算制御部、等を兼ねてもよい。
【0027】
眼軸長取得手段は、眼屈折力測定光学系を用いた眼屈折力の取得を制御することによって、被検眼の眼屈折力を取得してもよい。より詳細には、眼屈折力測定光学系における第1測定光の投光と、第1測定光の眼底反射光の光検出器による検出と、を制御することによって、被検眼の眼屈折力を取得してもよい。
【0028】
また、眼軸長取得手段は、断面画像撮影光学系を用いた前眼部断面画像の取得を制御することによって、被検眼の前眼部断面画像を取得してもよい。より詳細には、断面画像撮影光学系における第2測定光の投光と、第2測定光の戻り光(散乱光)の光検出器による検出と、を制御することによって、被検眼の前眼部断面画像を取得してもよい。
【0029】
また、眼軸長取得手段は、正面画像撮影光学系を用いた前眼部正面画像の取得を制御することによって、前眼部正面画像を取得してもよい。
【0030】
眼軸長取得手段は、被検眼の眼屈折力及び複数のパラメータに基づいて、眼軸長を取得してもよい。例えば、眼屈折力及び複数のパラメータに基づき、光線追跡演算によって、眼軸長を導出してもよい。光線追跡演算では、遠点から前眼部の所定位置に入射する光線が透光体によって屈折された後に光軸上に交わるときの、交点と角膜頂点との間隔が、眼軸長として導出される。このとき、眼科分野において遠点を特定するときに一般的に用いられている等価球面度数ではなく、光切断面での眼屈折力(面上眼屈折力)が利用されてもよい。これにより、切断面上を通過する光線における遠点の位置が、より適正に特定される。結果として、眼軸長をより適正に求めることができる。このとき、複数の光線のそれぞれについて光線追跡演算を行い、各光線の光線追跡演算の結果として、眼軸長を求めてもよい。例えば、それぞれの光線追跡演算で得られた眼軸長の平均値(加重平均でも良い)が、被検眼の眼軸長として求められてもよい。
【0031】
なお、光線追跡演算では、各透光体の境界面に対する光線の入射位置および境界面での角度変化が、前眼部情報から特定される切断面での透光体の形状を考慮して決定されてもよい。また、光線追跡演算では、前眼部の透光体の偏心が考慮されてもよい。偏心は、前眼部情報に基づいて特定される。切断面内の透光体の偏心が考慮される結果として、眼軸長をより適正に求めることができる。この場合において、例えば、第1の光線と第2の光線とを少なくとも含む複数の光線のそれぞれについて光線追跡演算を行い光線毎に眼軸長を求め、複数の眼軸長に基づいて、最終的な測定値を求めてもよい。第1の光線と第2の光線とは、切断面上において、眼軸を挟んで配置される光線である。
【0032】
本実施形態において、眼軸長取得手段は、形状情報取得手段が取得した形状情報における複数のパラメータのうち、眼軸長の導出に使用する選択パラメータを選択する。例えば、眼軸長取得手段は、状態情報取得手段が取得した前眼部の状態情報に基づいて、複数のパラメータの中から選択パラメータを選択してもよい。これによって、被検眼の前眼部の状態が影響して、形状情報に有効でないパラメータが混在していても、これを除外して眼軸長を精度よく測定することができる。
【0033】
眼軸長取得手段は、前眼部の状態情報に対して、眼軸長の導出に使用する選択パラメータを予め対応付けていてもよい。例えば、眼軸長取得手段は、前眼部の瞳孔状態に応じて、形状情報として取得され得るパラメータの中から選択する、眼軸長の導出のための選択パラメータを対応付けていてもよい。一例として、縮瞳や散瞳の有無に応じて、所定の選択パラメータが設定されてもよい。また、一例として、縮瞳や散瞳の程度に応じて、所定の選択パラメータが設定されてもよい。なお、この場合は、縮瞳や散瞳の程度が一定の閾値を超えた場合に選択パラメータが設定されてもよいし、縮瞳や散瞳の程度に合わせて選択パラメータが変化するように設定されてもよい。
【0034】
同様に、例えば、眼軸長取得手段は、形状情報として取得され得るパラメータの中から選択する、眼軸長の導出のための選択パラメータを、前眼部の調節状態に応じて対応付けていてもよい。一例として、所定の選択パラメータが調節の有無に応じて設定されてもよい。また、一例として、所定の選択パラメータが調節の程度に応じて設定されてもよい。なお、この場合は、調節の程度が一定の閾値を超えた場合に選択パラメータが設定されてもよいし、調節の程度に合わせて選択パラメータが変化するように設定されてもよい。
【0035】
なお、眼軸長取得手段は、選択パラメータとは異なる非選択パラメータであって、眼軸長の導出に使用しない非選択パラメータを、前眼部の状態情報に対して予め対応付けていてもよい。もちろん、前眼部の状態情報に対して、選択パラメータと非選択パラメータをいずれも対応付けていてもよい。
【0036】
また、本実施形態において、眼軸長取得手段は、形状情報取得手段が取得した形状情報における複数のパラメータのうち、眼軸長の導出に使用しない非選択パラメータを、測定値から仮定値に変更してもよい。例えば、仮定値は、所定の眼光学モデル(一例として、グルストランド模型眼等)にて採用される標準値であってもよい。また、眼に関する統計データ等に基づいた平均値であってもよい。また、選択パラメータとして設定された有効な測定値と、眼内における角膜前後面や水晶体前後面の一般的な比率と、を考慮して求めることが可能な推定値であってもよい。また、眼科装置及び眼科装置とは異なる装置の少なくともいずれかによって過去に取得された被検眼の測定値であってもよい。標準値や平均値は、年齢、性別、地域、等のうちの少なくともいずれか毎に複数用意されていてもよく、眼軸長をどの値に基づいて求めるかを、検者が選択可能としてもよい。
【0037】
眼軸長取得手段は、眼軸長の導出のための選択パラメータにおける測定値と、非選択パラメータにおける仮定値と、に基づいて、眼軸長を取得してもよい。選択パラメータ(測定値)の使用により眼軸長を取得することはできるが、加えて非選択パラメータ(仮定値)を使用することで眼軸長の精度が向上される。
【0038】
なお、眼軸長の導出に使用しない非選択パラメータは、被検眼の虹彩よりも深くに位置する透光体であって、水晶体を含む透光体のパラメータであってもよい。例えば、被検眼の前眼部の状態は、被検眼のより深い部位において影響を与えやすい。特に、水晶体を含む透光体のパラメータは、良好に取得できない場合がある。このようなパラメータを測定値から仮定値に置き換えることで、測定値をそのまま使用した際と比較して、眼軸長を精度よく取得できる。
【0039】
眼軸長取得手段は、眼屈折力測定光学系を用いた眼屈折力の取得と、断面画像撮影光学系を用いた前眼部断面画像の取得とを、眼屈折力の取得タイミングにおける前眼部の第1状態と、前眼部断面画像の取得タイミングにおける前眼部の第2状態と、が一致した状態において実行してもよい。この場合、眼軸長取得手段は、眼屈折力の取得及び前眼部断面画像の取得の少なくともいずれかを、複数回行ってもよい。例えば、眼屈折力測定光学系において、第1測定光を連続的に投光すると共に、第1測定光の眼底反射光を連続的に検出し、複数回にわたって眼屈折力を取得してもよい。また、例えば、断面画像撮影光学系において、第2測定光を連続的に投光すると共に、第2測定光の戻り光を連続的に検出し、複数枚の前眼部断面画像を取得してもよい。なお、このとき、第2測定光の投光とその戻り光の検出をリアルタイムに実行し、前眼部断面画像を動画像として撮像することで、複数枚の前眼部断面画像を取得してもよい。第2測定光の投光とその戻り光の検出を所定の時間間隔毎(一例として、1秒間隔毎、等)に実行し、前眼部断面画像を静止画像として撮像することで、複数枚の前眼部断面画像を取得してもよい。
【0040】
例えば、眼軸長取得手段は、眼屈折力の取得と前眼部断面画像の取得のいずれかを先に実行してもよい。この場合、眼屈折力の取得時における第1状態に対し、前眼部断面画像の取得時の第2状態が一致するように、断面画像撮影光学系が有する光検出器の検出タイミングを制御してもよい。また、前眼部断面画像の取得時における第2状態に対し、眼屈折力の取得時の第1状態が一致するように、眼屈折力測定光学系が有する光検出器の検出タイミングを制御してもよい。被検眼の前眼部の状態を考慮して、眼屈折力及び前眼部画像を等しい状態情報の下で取得することで、眼軸長の正確性や再現性を向上させることができる。
【0041】
また、例えば、眼軸長取得手段は、眼屈折力の取得と前眼部断面画像の取得を並行して実行してもよい。この場合、取得手段は、被検眼に対して双方の光学系から測定光を投光した状態で、眼屈折力測定光学系が有する光検出器の検出タイミングと、断面画像撮影光学系が有する光検出器の検出タイミングと、を同一タイミング(並行)としてもよい。なお、ここでいう同一とは、それぞれの検出タイミングが完全に同時であることは、必ずしも要求されない。例えば、それぞれの検出タイミングの間に、被検眼の状態(瞳孔状態や調節状態)に有意な差が生じない程度の時間差が存在してもよい。各々の光学系が備える光検出器の検出タイミングを同時にすることで、取得された眼屈折力及び前眼部断面画像の間で、被検眼の状態のずれが生じなくなる。このような眼屈折力と前眼部断面画像を利用することで、眼軸長の精度を向上させることができる。
【0042】
本実施形態においては、断面画像撮影光学系と眼屈折力測定光学系を共に制御することによって、前眼部断面画像の取得時における前眼部の第2状態に基づいて、被検眼の眼屈折力が取得されてもよい。この場合、眼軸長取得手段は、前述のように複数枚の前眼部断面画像を取得すると共に、複数枚の前眼部断面画像のそれぞれに対して取得した第2状態(瞳孔状態及び調節状態)を考慮し、第2状態が適切な前眼部断面画像を得たタイミングで、眼屈折力を取得してもよい。また、この場合、眼軸長取得手段は、複数枚の前眼部断面画像の取得と同一タイミングで(並行して)眼屈折力を取得し、各々の前眼部断面画像と眼屈折力をタイミング毎に紐付けて記憶させてもよい。眼軸長取得手段は、複数枚の前眼部断面画像のそれぞれに対して取得した第2状態を考慮し、第2状態が適切な前眼部断面画像を選択することによって、これに紐付けられた眼屈折力を取得してもよい。なお、第2状態が適切な前眼部断面画像とは、眼屈折力測定光学系を用いた雲霧掛けで調節が解除された状態(言い換えると、水晶体厚が薄い状態)を表す前眼部断面画像であってもよい。例えば、このように、被検眼の眼屈折力の取得においても、前眼部の第2状態を得るための前眼部断面画像を用いることによって、測定結果を精度よく得ることができる。
【0043】
「実施例」
本実施形態における眼科装置の一実施例について説明する。
【0044】
<全体構成>
図1は、眼科装置10の外観図である。眼科装置10は、他覚式眼屈折力測定装置(特に、本実施例では、オートレフラクトメータ)と、シャインプルーフカメラと、の複合機である。本実施例において、眼科装置10は、据え置き型の検査装置であるが、必ずしもこれに限られるものでは無く、手持ち型であってもよい。
【0045】
眼科装置10は、測定ユニット11、基台12、アライメント駆動部13、顔支持ユニット15、モニタ16、及び、演算制御部50、を少なくとも有している。
【0046】
測定ユニット11は、被検眼の検査に利用される測定系及び撮影系等を備える。本実施例では、図2に示す光学系が配置されている。
【0047】
アライメント駆動部13は、測定ユニット11を基台12に対して3次元的に移動可能であってもよい。
【0048】
顔支持ユニット15は、測定ユニット11の正面において被検者の顔を固定するために利用される。顔支持ユニット15は、基台12に対して固定されており、被検者の顔を支持する。
【0049】
モニタ16は、操作部を兼ねたタッチパネルとして機能する。また、モニタ16は、被検眼Eの眼屈折力、前眼部断面画像、眼軸長、等を画面に表示する。
【0050】
演算制御部50(プロセッサともいう。以下、単に、制御部50と称する。)は、眼科装置10の全体の制御を司る。また、測定ユニット11を介して取得された各種の検査結果を処理する。
【0051】
<光学系>
図2は、眼科装置10の光学系を示す概略図である。一例として、眼科装置10は、測定光学系100、固視標呈示光学系150、正面撮影光学系200、断面撮影光学系(照射光学系300a及び受光光学系300b、指標投影光学系400、及び、アライメント指標投影光学系を備える。また、各光学系の光路を分岐及び結合するハーフミラー501,502,503、対物レンズ505、等を有する。なお、各々の光学系においては、光源側を上流、被検眼側を下流とする。
【0052】
<測定光学系>
測定光学系100は、被検眼Eの眼屈折力を他覚的に測定するために利用される。例えば、SPH:球面度数、CYL:柱面度数、AXIS:乱視軸角度、の各値が、眼屈折力の測定結果として取得されてもよい。
【0053】
測定光学系100は、投影光学系100a、及び、受光光学系100bを有する。
【0054】
投影光学系100aは、少なくとも測定光源111を有し、被検眼Eにおける瞳孔の中心部又は角膜頂点を介して、被検眼Eの眼底にスポット状の測定光を投影する。測定光源111は、SLD光源であってもよいし、LED光源であってもよいし、その他の光源であってもよい。本実施例では、測定光として赤外光が利用される。例えば、800nm~900nmの間にピーク波長をもつ近赤外光が利用されてもよい。一例としては、870nmをピーク波長とする近赤外光が利用されてもよい。
【0055】
本実施例では、投影光学系100a及び受光光学系100bの共通経路上にプリズム115が配置される。プリズム115が光軸周りに回転されることによって、瞳上での投影光束が高速に偏心回転される。一例として、本実施例では、瞳上のφ2mm~φ4mmの領域で、投影光束が偏心回転される。この領域が、本実施例における眼屈折力の測定領域となる。
【0056】
受光光学系100bは、少なくともリングレンズ124と、撮像素子125と、を有する。受光光学系100bは、眼底から反射された測定光束の反射光束を、瞳孔の周辺部を介してリング状に取り出す。リングレンズ124は、瞳孔共役位置に配置されており、撮像素子125は、眼底共役位置に配置されている。リングレンズ124を介して撮像素子125上に形成されるリング像を解析することによって、眼屈折力が導出される。
【0057】
前述の通り、本実施例では、瞳上で測定光が高速に偏心回転されているので、回転周期に対して十分長い時間の露光に基づく撮像素子125からの出力画像、或いは、撮像素子125から逐次出力される画像データの加算画像、に対して解析処理が行われ、眼屈折力が導出される。本実施例では、SPH:球面度数、CYL:柱面度数、AXIS:乱視軸角度の値が、解析処理の結果として少なくとも取得される。
【0058】
なお、測定光学系100は、測定光源111、プリズム115、リングレンズ124、及び撮像素子125の他にも、レンズや絞り等の光学素子を有していてもよい。測定光源111からの測定光束は、ホールミラー113のホール部とプリズム115を通過し、ハーフミラー502及びハーフミラー501にそれぞれ反射されることで、光軸L1と同軸となり、更に対物レンズ505を介して、眼底に到達する。測定光束が眼底にて反射された反射光束は、測定光束が通過した光路を経由し、ホールミラー123のミラー部に反射され、リングレンズ124を介して撮像素子125に到達する。
【0059】
<固視標呈示光学系>
固視標呈示光学系150は、被検眼Eに対して固視標を呈示する。固視標は、測定光学系100の光軸上に呈示される。固視標呈示光学系150は、被検眼Eを固視させるために利用される。また、被検眼に雲霧及び調節負荷を与えるために利用される。
【0060】
例えば、固視標呈示光学系150は、光源151、及び、固視標板155を少なくとも備える。固視標板155は、眼底共役位置に配置されてもよい。光源151からの固視光束は、光軸L2上の固視標板155とレンズ156を通過した後、ハーフミラー503を透過する。また、レンズ504を通過し、ハーフミラー502を透過し、ハーフミラー501に反射されることで、光軸L1と同軸となる。固視光束は、更に対物レンズ505を介すことで、眼底に到達する。
【0061】
なお、測定光学系100における測定光源111、リングレンズ124、及び撮像素子125と、固視標呈示光学系150における光源151及び固視標板155は、駆動ユニット160として、駆動部161により光軸に沿って一体的に移動可能である。例えば、測定光学系100における駆動ユニット160内の焦点距離と、固視標呈示光学系150における駆動ユニット160内の焦点距離は、所定の関係とされる。例えば、被検眼Eの眼屈折力に応じて駆動ユニットを移動させることで、被検眼Eに対する固視標板155の呈示距離(すなわち、固視標の呈示位置)を変更でき、さらに、測定光源111及び撮像素子125が光学的に眼底共役となる。このとき、駆動ユニットの移動に関わらず、ホールミラー113とリングレンズ124は一定の倍率で瞳共役となる。
【0062】
<正面撮影光学系>
正面撮影光学系200は、被検眼Eの前眼部の正面画像を撮像するために利用される。例えば、正面撮影光学系200は、撮像素子205等を備える。撮像素子205は、瞳共役位置に配置されてもよい。正面画像としては、前眼部の観察画像が取得されてもよい。観察画像は、アライメント等に利用される。また、指標投影光学系400から角膜に投影される指標像(点像)、及び、アライメント指標投影光学系600から角膜に投影される指標像(マイヤーリング像)が、正面撮影光学系200によって撮影される。
【0063】
<断面撮影光学系>
断面撮影光学系は、前眼部の断面画像を撮影するために利用される。断面撮影光学系は、照射光学系300aと受光光学系300bと、を備える。
【0064】
照射光学系300aは、測定光学系100における測定光の投光光軸(光軸L1)と同軸であり、前眼部に対してスリット光を照射する。照射光学系300aは、光源311及びスリット312等を有する。光源311は、SLD光源であってもよいし、LED光源であってもよいし、その他の光源であってもよい。本実施例では、照明光として赤色可視光または近赤外光が利用される。例えば、650nm~800nmの間にピーク波長をもつ赤色可視光または近赤外光が利用されてもよい。一例としては、730nmをピーク波長とする赤色可視光が利用されてもよい。もちろん、所定の波長をピーク波長とする近赤外光が利用されてもよい。スリット312は、瞳共役位置に配置されてもよい。
【0065】
照射光学系300aの光源311について、詳細に説明する。図3は、被検眼の視感度と波長の関係を表す模式図である。被検眼は可視域に視感度をもつが、一般的に緑色可視光である550nm付近で最大となり、波長が長くなるにつれて(赤外域に近づくほど)徐々に低下する。つまり、被検眼は、緑色可視光に眩しさを感じやすく、赤色可視光には眩しさを感じにくい。なお、赤外光には眩しさを感じないとされている。
【0066】
従来は、前眼部の断面画像をシャインプルーフの原理に基づいて取得する際に、青色可視光、緑色可視光、白色可視光、等が照明光として用いられてきた。これは、被検眼の透過率の影響で、白内障等が断面画像に現れやすいためであるが、被検者には照明光が眩しく負担となっていた。一方で、近年の若年層を中心とした近視有病率の増加にともない、若年層に対する眼軸長の測定は重要視されているが、若年層は白内障の可能性が低いため、上記とは異なる光を照明光として用いることも可能である。
【0067】
そこで、本実施例では、被検眼が眩しさを感じにくい赤色可視光~近赤外光の光を、照明光として使用する。例えば、緑色可視光である550nm付近の視感度に対し、赤色可視光である650nm付近の視感度は約10分の1に低下し、700nm付近の視感度は約200分の1に低下する。このため、被検者の負担は大きく軽減される。特に、小児を含む若年層が対象の場合は、負担の軽減とともに、測定の効率化につながる。
【0068】
本実施例では、前眼部におけるスリット光の通過断面を「切断面」と称する。切断面は、断面撮影光学系の物面となる。図2において、スリット312の開口は、水平方向(紙面奥行き方向)を長手方向とする。よって、本実施例では、光軸L1を含む水平面(XZ断面)が切断面として設定される。本実施例では、少なくとも、角膜前面から水晶体後面までの間に切断面が形成される。
【0069】
受光光学系300bは、レンズ系322及び撮像素子321等を有する。受光光学系300bにおいて、レンズ系322及び撮像素子321は、前眼部に設定される切断面とシャインプルーフの関係に配置される。すなわち、切断面とレンズ系322の主平面と、撮像素子321の撮像面と、の各延長面が、1本の交線(一軸)で交わるような光学配置となっている。撮像素子321からの信号に基づいて、前眼部の断面画像が取得される。撮像素子321は、単元素としてのシリコンを材料とした半導体の基板で構成されてもよい。
【0070】
受光光学系300bの撮像素子321について、詳細に説明する。図4は、撮像素子321の受光感度と波長の関係を表す模式図である。例えば、単元素としてシリコンを材料に用いた撮像素子は、紫外域、可視域、及び赤外域の波長を含む300nm~1000nm付近の波長に感度をもつが、緑色可視光を含む550nm~650nm付近で最大となり、赤外域に近づくほど徐々に低下する。しかし、照射光学系300aで使用される赤色可視光~近赤外光の光を含む650nm以上の感度は、前眼部の断面画像の取得には十分な感度である。
【0071】
なお、例えば、撮像素子には、その感度が赤外域で最大となるものが存在するが、高価である。装置が病院や学校等の多くの施設で普及されることが望まれる一方で、装置の高額化は装置の普及の妨げとなり得る。シリコンを材料とした撮像素子を用いれば、装置を安価に抑えることができる。
【0072】
このような断面撮影光学系において、光源311からの測定光束は、光軸L3上のスリット312を介してスリット光束となり、レンズ313を通過した後、ハーフミラー503に反射されることで、光軸L2と同軸となる。また、レンズ504を通過し、ハーフミラー502を透過し、ハーフミラー501に反射されることで、光軸L1と同軸となる。測定光束は、更に対物レンズ505を介すことで、前眼部に到達する。前眼部に形成された切断面からの戻り光は、レンズ322を介して撮像素子321に到達する。
【0073】
<指標投影光学系>
指標投影光学系400は、角膜形状を測定するために利用される。指標投影光学系400は、被検眼と対向する正面から前眼部へ、角膜形状を測定するための指標を投影する。
【0074】
指標投影光学系400は、複数の点光源401を備える。点光源401は、角膜に平行光を照射することで、無限遠指標を投影する。点光源401は、赤外光を発する。但し、可視光であってもよい。点光源401は、光軸L1を中心として、上下対称及び左右対称に配置される。例えば、本実施例では、点光源が左右に2つずつ設けられる。これによって、角膜に対して4つの点像指標が投影される。なお、指標の形状はこれに限られたものでは無く、線状等の指標が含まれてもよい。また、指標の数はこれに限られたものでは無く、3つ以上の点像指標によって構成されてもよい。
【0075】
本実施例では、これらの4つの点像が投影された円周領域が、指標投影光学系400及び正面撮影光学系200による角膜形状の測定領域となる。一例として、所定の曲率半径をもつ角膜模型眼が、所定の作動距離に置かれたときに、角膜模型眼のφ3mmの円周領域に対して各々の点像が投影される。
【0076】
<アライメント指標投影光学系>
アライメント指標投影光学系は、被検眼Eに対して測定ユニット11をアライメント(位置合わせ)するために利用される。本実施例では、アライメント用光源601と、指標投影光学系400と、によって、アライメント指標投影光学系が形成される。例えば、アライメント用光源601によるプルキンエ像と、指標投影光学系400によるプルキンエ像と、が所定の比率で撮影されるように、測定ユニット11を前後方向に移動させることで、作動距離調整が行われてもよい。
【0077】
アライメント用光源601は、角膜に拡散光を照射することで、有限遠指標を投影する。アライメント用光源601は、赤外光を発する。但し、可視光であってもよい。アライメント用光源601は、光軸L1を中心として、リング状に配置される。これによって、本実施例では、角膜に対してリング指標(いわゆるマイヤーリング)が、投影される。
【0078】
<固視標呈示光学系と断面撮影光学系の共通光路化>
本実施例では、固視標呈示光学系150と、視標投影光学系300aと、において、共に可視光が照射される。固視標呈示光学系150の光軸L2と、視標投影光学系300aの光軸L3とは、ハーフミラー503によって同軸とされる。固視標呈示光学系150がハーフミラー503の透過側に配置され、視標投影光学系300aがハーフミラー503の反射側に配置されることで、各々の光路が共通化される。例えば、ハーフミラー503は平面型であり、ハーフミラー503の透過側は非点収差が発生しやすい。視標投影光学系300aは、前眼部に切断面を形成して明瞭な断面画像70を得るために、一定の結像性能を必要とする。このような理由から、視標投影光学系300aは、非点収差の影響が少ない反射側に配置されることが好ましい。
【0079】
また、本実施例では、固視標呈示光学系150の光軸上に、レンズ504aが配置される。レンズ504aは、固視標呈示光学系150の全体の長さを短くするための全長短縮用レンズとして機能する。また、レンズ504aは、レンズ504aの上流に位置するレンズ156の径を小さくするための役割をもつ。
【0080】
図5は、固視標呈示光学系150を簡略化した模式図である。図5(a)は、レンズ504aを配置しない場合を示す。図5(b)は、レンズ504aを配置する場合を示す。ここでは、被検眼Eから固視標板155までの光路を直線とし、一部の光学部材を省略している。固視標板155の中心部と周辺部からの眼底結像光線を、それぞれ実線と点線で表す。
【0081】
被検眼Eから対物レンズまでを所定の作動距離とした際、図5(a)では、固視標呈示光学系150の距離(特に、固視標板155からレンズ156までの距離)が長くなる。固視標板155の中心部及び周辺部からの光線は、共に大きな径でレンズ156に到達する。一方、図5(b)のように、固視標呈示光学系150にレンズ504aを配置すると、固視標呈示光学系150の距離を短くすることができる。固視標板155からの各々の光線は、共に小さな径でレンズ156に到達する。
【0082】
なお、例えば、固視標呈示光学系150は視標側テレセントリックな光学系であり、レンズ504aは瞳共役位置に配置されてもよい。このとき、固視標板155の中心部及び周辺部からの光線(主光線)は、レンズ504aの中心を通過することになるため、固視標呈示光学系150の全体の焦点距離(合成焦点距離)が変化しない。従って、固視標呈示光学系150と測定光学系100の駆動ユニット160内における焦点距離の関係性が維持される。
【0083】
このように、固視標呈示光学系150にレンズ504aを配置すれば、小さな径でレンズ156を設計することができる。また、被検眼Eの所定の作動距離と固視標呈示光学系150の合成焦点距離を保ちながらも、固視標呈示光学系150の全体の長さを短縮できる。結果として、眼科装置10の小型化に繋がる。
【0084】
また、本実施例では、視標投影光学系300aの光軸上に、レンズ504bが配置される。レンズ504bは、レンズ504bの下流に位置する対物レンズ505の径を小さくするための役割をもつ。
【0085】
図6は、視標投影光学系300aを簡略化した模式図である。図6(a)は、レンズ504bを配置しない場合を示す。図6(b)は、レンズ504bを配置する場合を示す。ここでは、被検眼Eからスリット312までの光路を直線とし、一部の光学部材を省略している。スリット312の中心部と周辺部からの瞳結像光線を、それぞれ実線と点線で表す。
【0086】
図6(a)と図6(b)では、スリット312の中心部からの光線(主光線)が、レンズ504bの有無に関わらず、対物レンズ505の中心を通過する。しかし、図6(a)において、スリット312の周辺部からの光線は、対物レンズ505の中心からより離れた位置にて屈折される。被検眼Eにこのような光線を到達させるためには、大きな径の対物レンズ505が必要になる。一方、図6(b)では、スリット312の周辺部からの光線(主光線)が、対物レンズ505の中心の位置にて屈折される。被検眼Eにこのような光線を到達させるために、小さな径の対物レンズ505を使用することができる。
【0087】
このように、視標投影光学系300aにレンズ504bを配置すれば、小さな径で対物レンズ155を設計することができる。なお、スリット312の中心部及び周辺部からの光線は、対物レンズ505の中心から離れた領域で屈折されるほど、大きな収差が発生し得る。このため、眼科装置10を小型化しつつ、収差の発生を抑えるような、適切な径の対物レンズ155が用いられてもよい。
【0088】
なお、本実施例では、固視標呈示光学系150及び視標投影光学系300aにおいて、上述した役割が異なるレンズ504a及びレンズ504bを共有化したレンズ504が配置される。例えば、固視標呈示光学系150の光軸L2と視標投影光学系300aの光軸L3が結合するハーフミラー503の下流に、レンズ504が配置される。これによって、光学系の内部は、より省スペース化される。
【0089】
<制御動作>
眼科装置10の制御動作を、図7に示すフローチャートを参照しつつ説明する。本実施例では、眼科装置10によって、角膜曲率測定、眼屈折力測定、及び、前眼部断面画像の撮影、が順番に実行され、測定及び撮影の結果に基づいて、眼軸長が取得される。
【0090】
<アライメント(S1)>
まず、被検眼Eに対する測定ユニット11のアライメントが行われる。検者は、被検者に、顔を顔支持ユニット15へ載せるように指示する。制御部50は、固視標の呈示及び前眼部観察画像の取得を開始する。
【0091】
例えば、制御部50は、正面撮影光学系200を介して取得される前眼部の観察画像に少なくとも基づいて、被検眼Eと眼科装置10とを、所定の位置関係へと調整する。より詳細には、被検眼Eの角膜頂点に光軸L1が一致するように、XY方向に関するアライメントを行う。また、被検眼Eと眼科装置10との間隔が所定の作動距離となるように、Z方向に関するアライメントを行う。このとき、角膜にアライメント指標を投影し、観察画像にて検出されるアライメント指標に基づいて、アライメントを調整してもよい。
【0092】
<角膜形状測定(S2)>
次に、被検眼Eの角膜形状が測定される。制御部50は、指標投影光学系400から点像指標を投影し、点像指標の角膜プルキンエ像を、正面撮影光学系200によって撮影する。また、制御部50は、角膜プルキンエ像に基づいて、角膜形状情報を取得する。例えば、角膜プルキンエ像の像高に基づいて、角膜形状情報を導出する。本実施例では、角膜形状情報として、角膜曲率、乱視度数、及び、乱視軸角度、の各値が少なくとも取得される。
【0093】
<眼屈折力測定(S3)>
次に、被検眼Eの眼屈折力が測定される。例えば、眼屈折力の測定では、先に予備測定が実施され、後に本測定が実施されてもよい。
【0094】
予備測定では、固視標が所定の呈示距離に配置された状態で、被検眼Eの眼屈折力が測定される。測定時において、被検眼Eに対して光学的に十分な遠方の距離であり、0D眼の遠点に相当する初期位置に、固視標板155が配置されてもよい。この状態で照射された測定光に基づいて撮像素子125により撮像されるリング像が、制御部50によって画像解析される。解析結果として、各経線方向の屈折力の値が求められる。各経線方向の屈折力に所定の処理を施すことによって、少なくとも、予備測定における球面度数を取得する。
【0095】
続いて、制御部50は、被検眼Eの予備測定の球面度数に応じて、被検眼Eの焦点が合う雲霧開始位置に、固視標板155を移動させる。これによって、被検眼Eには固視標がはっきりと観察されるようになる。その後、制御部50は、雲霧開始位置から固視標を移動させることで、被検眼Eに対して雲霧を付加する。これによって、被検眼Eの調節を解除させる。
【0096】
被検眼Eに雲霧を付加した状態で、本測定が行われる。雲霧が付加された被検眼Eについて撮像されたリング像に対し、所定の解析処理が行われることで、被検眼EのSPH:球面度数、CYL:柱面度数、AXIS:乱視軸角度の他覚値が取得される。
【0097】
なお、眼屈折力測定では、被検眼Eに測定光として赤外光が投光されるため、被検眼Eの瞳孔径は縮瞳(例えば、φ2mm以下)が抑制された所定の大きさとなる。一例としては、被検眼Eの測定領域(瞳上のφ2mm~φ4mmの領域)に含まれるいずれかの径となる。
【0098】
<前眼部断面画像の撮影(S4)>
次に、被検眼Eの前眼部における断面画像(シャインプルーフ画像)が撮影される。制御部50は、眼屈折力の本測定の完了後、直ちに前眼部の断面画像の撮影を実行する。例えば、眼屈折力の本測定の完了をトリガとして、断面画像の撮影動作が実行されてもよい。つまり、本測定の完了後、直ちに、照射光学系300aから照明光を照射すると共に、照明光が角膜及び水晶体にて散乱した散乱光が撮像素子321に結像されることによる前眼部の断面画像を取得する。これによって、眼屈折力の測定時と断面画像の撮影時との間で、アライメントずれが軽減される。
【0099】
なお、前眼部の断面画像は、被検眼Eの前眼部の状態によって、適切に取得されないことがある。例えば、被検眼Eの瞳孔が縮瞳した状態(瞳孔径PDMが短い状態)等である。
【0100】
図8図9は、前眼部の断面画像70の一例である。図8は、被検眼Eが縮瞳していない状態で撮影された適切な断面画像70である。図9は、被検眼Eが縮瞳した状態で撮影された適切でない断面画像70である。
【0101】
例えば、被検眼Eの瞳孔が縮瞳していない状態の瞳孔径PDM1に対し、瞳孔が縮瞳した状態の瞳孔径PDM2は短くなる。この状態では、被検眼の前眼部を照明した戻り光が虹彩にけられやすく、前眼部の深さ方向(Z方向)に対する撮影範囲が不足する可能性がある。特に、このような戻り光のけられは、前眼部のより深い位置に対する影響が大きく、水晶体後面まで撮影されない場合や、水晶体後面は撮影されるが後述の輝度情報を用いた検出には不適切な場合もある。
【0102】
また、例えば、被検眼Eの瞳孔径が小さい場合、水晶体前後面の水平方向(X方向)の検出幅が狭くなる。言い換えると、水晶体前後面において、スリット光の長手方向の画素数が少なくなる。この場合には、水晶体前後面の曲率半径の算出において、誤差が生じやすい。より詳細には、少なくとも3点の画素位置を用いた円のフィッティングに、狭域の3点を使用することになるため、広域の3点を使用するよりも、1画素のずれが誤差として現れやすい。
【0103】
<前眼部断面画像の解析(S5)>
制御部50は、被検眼Eの前眼部の断面画像70に基づき、前眼部の形状に関する前眼部形状情報を取得する。例えば、前眼部形状情報には、角膜前面の曲率半径(Ra)、角膜後面の曲率半径(Rp)、角膜厚(CT)、前房深度(ACD)、水晶体前面の曲率半径(ra)、水晶体後面の曲率半径(rp)、水晶体厚(LT)、等の測定値である複数のパラメータ情報が含まれてもよい。なお、前眼部形状情報としては、ステップS2にて取得された角膜形状情報を用いることも可能である。
【0104】
制御部50は、断面画像70を画像処理することによって、各透光体(一例として、角膜、房水、水晶体、等)を検出し、前眼部形状情報を取得する。例えば、断面画像70の輝度情報を利用して、組織の境界(角膜前後面、水晶体前後面、虹彩、等)に相当する画素位置を検出し、曲率半径等の情報を取得してもよい。また、例えば、組織の境界に相当する画素位置の距離を求め、組織の厚みや深度等の情報を取得してもよい。
【0105】
しかし、前述のように被検眼Eが縮瞳しているときは、一部のパラメータ情報を正しく取得することができない。例えば、パラメータ情報をそもそも取得できない場合、制御部50はステップS4に戻り、断面画像70の再度の撮影を実施してもよい。また、パラメータ情報の精度が低いと考えられる場合、制御部50はステップS6に進み、眼軸長の算出に使用する有効な測定値を選択してもよい。
【0106】
<前眼部形状情報の選択(S6)>
制御部50は、被検眼Eの前眼部形状情報に含まれる複数のパラメータ情報から、眼軸長の算出に使用するパラメータ情報を選択する。より詳細には、被検眼Eの前眼部における瞳孔状態を表す情報を取得し、これに基づいて有効な測定値を選択する。なお、本実施例では、ステップS5で前眼部の断面画像70を画像処理する際、前眼部形状情報と共に瞳孔状態を表す情報が取得される。例えば、瞳孔状態を表す情報として、瞳孔径(PDM)が取得される。
【0107】
図10は、複数のパラメータ情報における測定値と有効性の一例である。制御部50は、被検眼Eの瞳孔径に応じて、複数のパラメータ情報から特定のパラメータ情報を除外することにより、眼軸長の算出に使用するパラメータ情報を選択してもよい。例えば、瞳孔径が短いほど前眼部の深い部位までは良好に撮影されていないとし、瞳孔径毎にパラメータ情報の測定値を有効とみなすか否かを予め対応付けておいてもよい。一例として、瞳孔径がφ2mm以下であれば、水晶体前後面の検出が不適切であるとして、水晶体前後面の曲率半径と水晶体厚の測定値を有効でないとみなし、角膜前後面の曲率半径、角膜厚、及び前房深度の測定値を有効とみなすように、対応付けておいてもよい。もちろん、瞳孔径と、測定値を有効とするか否かと、の対応付けは、本実施例とは異なっていてもよい。これによって、眼軸長の算出に使用する適切なパラメータ情報として、有効な測定値が選択される。
【0108】
なお、制御部50は、複数のパラメータ情報から除外した有効でない測定値を、仮定値に置き換えてもよい。例えば、模型眼に基づく標準値、統計データ等に基づく平均値、被検眼Eの過去の測定値、等を仮定値として適用してもよい。また、眼軸長の算出に使用するパラメータ情報として選択された有効な測定値と、眼の角膜前後面や水晶体前後面の一般的な比率と、を考慮して求めることが可能な推定値、等を仮定値として適用してもよい。
【0109】
<眼軸長演算(S7)>
次に、被検眼Eの眼軸長が演算される。制御部50は、被検眼Eの眼屈折力と、被検眼Eの前眼部形状情報における複数のパラメータ情報のうちの有効な測定値と、に基づいて、眼軸長を演算する。なお、制御部50は、眼屈折力及び有効な測定値に加え、有効でない測定値を置き換えた仮定値を用いて、眼軸長を演算してもよい。
【0110】
まず、制御部50は、被検眼Eの眼屈折力の測定結果に基づいて、角膜頂点Cに対する遠点FP(図11参照)の位置を求める。例えば、被検眼Eに乱視が無く、SPH=-5Dであり、VD=12mmであれば、12+1000/5=212mmが、角膜頂点Cから遠点FPまでの距離となる。遠点FPからの光線が、眼底に結像すると考えられる。なお、VD=12mmは、眼鏡レンズの装用を前提とした角膜頂点間距離を示す一定値である。VDは、装置によって異なり得る。
【0111】
図11は、眼軸長の導出手法を説明するための模式図である。本実施例では、前眼部の切断面上での光線追跡演算に基づいて、眼軸長が導出されてもよい。例えば、制御部50は、遠点FPの位置と、各透光体の屈折率と、前眼部形状情報におけるパラメータ情報(測定値又は仮定値)と、に基づいて、光線追跡演算を行う。
【0112】
制御部50は、被検眼Eに向かって遠点FPから入射する光線(例えば、図11の光線Lx)を追跡し、被検眼Eの各透光体によって光線が屈折され、光線が光軸と交わる交点の位置を求める。なお、光線追跡演算についての詳細は、後述する。例えば、このような光線追跡演算によって、眼底Efの位置が求められる。制御部50は、角膜頂点Cと眼底Efとの距離を、眼軸長ALとして導出する。
【0113】
<表示出力(S8)>
最後に、眼軸長ALがモニタ16に表示される。本実施例では、被検眼Eの角膜形状情報及び眼屈折力(SPH、CYL、AXIS)のうち、少なくとも一方と共に、眼軸長ALが表示される。なお、例えば、被検眼Eに対する過去の眼軸長測定結果が存在する場合は、過去の測定結果と共に、今回の測定結果が表示されてもよい。
【0114】
<光線追跡演算>
眼軸長を導出するための光線追跡演算について説明する。本実施例では、説明の便宜上、被検眼Eの各透光体における屈折率が一定であり、それぞれの内部での屈折変化が無いものとする。但し、必ずしもこれに限られるものではなく、透光体の内部での屈折率の変化(例えば、水晶体の内側-外側間の屈折率の変化)を考慮して、眼軸長が導出されてもよい。
【0115】
ところで、広く利用されているSPH、CYL、AXISによる眼屈折力の表現形式では、SPHは、強主経線(又は弱主経線)に関する屈折力を示しているので、前眼部の切断面上での光線追跡において、必ずしも適切な値とはならない。例えば、SPH=-5D、CYL=-2D、AXIS=30°であった場合を考える。この場合、上記光学系の例で水平断面を取得したとすると、この断面での屈折力は-5Dでも無いし、CYLを付加した-7Dでも無い。
【0116】
これに対し、本実施例では、切断面上での眼屈折力である面上眼屈折力を求めて、面上屈折力に基づいて、遠点FPの位置が設定される。ここで、任意の面での屈折度数Pは、次の式によって表現される。但し、θは、水平面に対する角度であって、水平方向を0°とする。
【0117】
P(θ)=SPH+CYL×[sin2(θ-A)]
【0118】
図12は、被検眼EがSPH=-5D、CYL=-2D、AXIS=30°である場合における各経線方向の屈折度数を示す図である。例えば、本実施例の切断面は、水平面(θ=0°)である。このため、被検眼EがSPH=-5D、CYL=-2D、AXIS=30°であれば、P(0°)=-5.5Dと算出される。この場合、切断面における角膜頂点Cから遠点FPまでの距離は、VD=12mmであれば、12+1000/5.5=194mmとなる。
【0119】
制御部50は、このように設定された遠点FPからの光線を追跡する。例えば、遠点FPから一定位置(一例として、被検眼の瞳(角膜の奥3mm程度)の位置でφ6mmの位置)に向かう光線(例えば、図11の光線Lx)を導く。なお、一定位置を被検眼の瞳の位置でφ6mmとすることは、一例に過ぎず、適宜変更可能である。
【0120】
この光線は、まず、角膜前面で最初の屈折が生じる。光線と角膜前面の交点が、角膜前面の曲率半径Raと、遠点FPの位置及び遠点FPでの光線角度に基づいて、算出される。また、更に、該交点での光線の入射角が算出される。角膜前面に到達した光線は、スネルの法則に基づいて、入射角に対して決まった屈折角で、向きを変化させる。このようにして、それぞれの透光体境界面での光線が、逐次追跡される。その際、角膜形状情報及び断面画像70(シャインプルーフ画像)に基づいて取得される前眼部形状情報(Ra,Rp,CT,ACD,ra,rp,LT)が、各境界面と光線との交点とを与えるために適宜利用される。本実施例では、最終的に、水晶体後面を出た後に、眼の軸(ここでは、視軸)と交わる交点(すなわち、眼底Efの位置)を求める。交点から角膜頂点C(ここでは、原点)までの距離が、眼軸長ALとして利用される。
【0121】
なお、光線追跡演算において、上記の前眼部形状情報(Ra,Rp,CT,ACD,ra,rp,LT)を利用する場合、本実施例では、少なくとも角膜前面の曲率半径Raについては、点像指標の角膜プルキンエ像に基づく値が利用され、残りの値については、断面画像70(シャインプルーフ画像)に基づく値が利用される。一般に、角膜前面形状については、角膜プルキンエ像に基づく測定精度のほうが、シャインプルーフ画像に基づく測定精度よりも、高いからである。なお、前述の通り、本実施例では、角膜形状情報として、角膜曲率、乱視度数、及び、乱視軸角度の各値が少なくとも取得される。切断面に関して屈折度数を求めた手法と同様の手法を用いて、これらの値から、切断面における角膜曲率(角膜前面の曲率)を求めることができる。求めた値の逆数が、Raとして利用されてもよい。
【0122】
被検眼Eの眼軸長ALは、このような一定位置に向かう光線の追跡によって、求めることができる。但し、光線追跡の手法は、上記手法に限定されない。例えば、近軸計算によって遠点FPから結像する点が求められても良い。また、被検眼Eに入射する位置が互いに異なる複数の光線を考慮して、遠点FPから結像する点が求められてもよい。例えば、近軸光線と近軸とは異なる一定位置に向かう光線とのそれぞれの光線に対する光線追跡を組み合わせてもよい。複数本の光線の光線追跡が行われる場合、眼軸長の最終的な測定値(演算値)は、それぞれの光線追跡による眼軸長の平均値であってもよい(加重平均値であってもよい)。
【0123】
また、測定光学系100による測定領域(瞳上のφ2mm~φ4mm)に向かう光線を追跡することで、眼軸長ALを求めてもよい。例えば、瞳上のφ2mm~φ4mmの領域に向かう複数本の光線のそれぞれで、光線追跡を実施し、各々の光線追跡によって求められる眼軸長の平均値を、演算結果として取得してもよい。より適切な条件で光線追跡が行われるため、眼軸長がより精度よく取得されやすくなる。
【0124】
なお、本実施例において得られる眼軸長値には、所定のオフセット値が加えられていてもよい。オフセット値により、演算値と実測値との誤差が補正される。
【0125】
また、遠点FPから出射し、角膜形状測定用の点像指標が投影される円周領域を通過する光線を追跡することで、光線追跡が行われてもよい。これにより、光線追跡の条件が一層適正になるため、眼軸長がより精度よく取得されやすくなる。
【0126】
以上、説明したように、例えば、本実施例の眼科装置は、被検眼の前眼部断面画像を断面画像撮影光学系により撮影し、複数のパラメータを含む前眼部の形状情報を取得すると共に、被検眼の瞳孔状態および調節状態の少なくともいずれかを含む前眼部の状態情報を取得し、眼軸長の導出に使用する選択パラメータを、複数のパラメータの中から状態情報に基づいて選択し、この選択パラメータと眼屈折力に基づいて眼軸長を取得する。このため、被検眼の状態によって適切な前眼部断面画像を撮影できない場合であっても、眼軸長を精度よく取得することができる。
【0127】
また、例えば、本実施例の眼科装置は、前眼部の形状情報における複数のパラメータのうち、非選択パラメータを測定値から仮定値に変更する。眼軸長を導出する際には、前眼部におけるより多くの透光体の形状情報が複数のパラメータとして取得されることが望ましいが、被検眼の状態によっては測定値が得られない場合や、測定値が正確でない場合もある。眼軸長の導出に選択パラメータの測定値を使用することに加えて、非選択パラメータの仮定値を使用することで、眼軸長の精度が更に向上される。
【0128】
また、例えば、本実施例の眼科装置は、被検眼の虹彩よりも深くに位置する透光体であって、水晶体を含む透光体のパラメータを、非選択パラメータとする。例えば、被検眼の状態は、被検眼のより深い部位において影響を与えやすく、特に水晶体のパラメータは良好に取得できない場合がある。これを非選択パラメータとして測定値から仮定値に置き換えることで、眼軸長を精度よく取得できる。
【0129】
また、例えば、本実施例の眼科装置は、被検眼の眼屈折力を眼屈折力測定光学系により取得し、この眼屈折力と、前眼部の形状情報における複数のパラメータと、に基づいて、眼軸長を取得する。例えば、眼屈折力と選択パラメータ(測定値)に基づいて、眼軸長を取得してもよい。また、例えば、眼屈折力、選択パラメータ(測定値)、及び非選択パラメータ(仮定値)に基づいて、眼軸長を取得してもよい。これによって、眼軸長を精度よく取得することができる。
【0130】
<変容例>
本実施例では、前眼部の状態を表す前眼部状態情報のひとつとして、瞳孔状態を表す情報(瞳孔径PDM)を取得する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、前眼部状態情報として、調節状態を表す情報を取得する構成であってもよい。例えば、調節状態を表す情報は、水晶体厚であってもよい。
【0131】
図13は、被検眼Eに調節が働いた適切でない断面画像70である。例えば、被検眼Eの調節が解除された状態の水晶体厚LT1(図8参照)に対し、調節が働いた状態の水晶体厚LT1は厚くなる。結果として、前房深度ACDは短くなり、水晶体前面の曲率半径は小さくなる。なお、角膜前後面の曲率半径、角膜厚、及び水晶体後面の曲率半径については、ほとんど変化しない。被検眼Eの眼軸長は、眼屈折力と、前眼部形状情報における複数のパラメータ情報のうちの有効な測定値と、を利用して算出されるが、各々の取得時に調節状態が異なると、測定値の正確性や再現性に影響し、眼軸長を精度よく測定することが難しい。
【0132】
このため、制御部50は、被検眼Eの調節状態に応じて、複数のパラメータ情報の有効な測定値を選択してもよい。調節状態を表す情報としての水晶体厚は、断面画像70の画像処理で取得される水晶体厚を併用してもよい。例えば、被検眼の調節が解除された状態で眼屈折力が取得されることを考慮し、水晶体厚が所定の厚み以上であれば、前房深度、水晶体前面の曲率半径、及び水晶体厚の測定値を有効でないとみなして除外し、角膜前後面の曲率半径、角膜厚、及び水晶体後面の曲率半径の測定値を有効とみなして選択してもよい。
【0133】
また、例えば、被検眼に調節が働いた状態で眼屈折力が取得されても、眼屈折力の取得時と断面画像70の撮影時とにおける水晶体厚が同一であれば、眼軸長を正確に算出することは可能である。この場合、制御部50は、少なくとも水晶体前面の曲率半径と水晶体厚の測定値を有効とみなして選択してもよい。なお、被検眼に調節が働いた状態では同時に縮瞳が起こり、特に水晶体後面の検出が不適切になることがある。このため、制御部50は、被検眼に調節が働いた状態で断面画像70を撮影する際には、水晶体後面の曲率半径の測定値を有効でないとみなして除外してもよい。
【0134】
本実施例では、前眼部の断面画像70を用いて瞳孔径PDMを取得する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、正面撮影光学系200にて撮影される観察画像を用いて瞳孔径PDMを取得する構成であってもよい。制御部50は、観察画像を画像処理し、輝度情報を用いて瞳孔を検出することによって、瞳孔径を求めてもよい。
【0135】
なお、このとき、制御部50は、正面撮影光学系200と、断面撮影光学系(照射光学系300aと受光光学系300b)と、を制御し、観察画像と断面画像70の撮影を並行して(同一タイミングにて)実行してもよい。この場合、制御部50は、正面光学系200における撮像素子205と、受光光学系300bの撮像素子321と、を共に制御して、観察画像と断面画像70を同一タイミングで撮像する。被検眼Eの瞳孔は、呼吸ゆらぎ等により経時的に変化するため、瞳孔径の取得タイミングと、断面画像70の取得タイミングと、を合わせることが好ましい。これによって、前眼部形状情報における有効な測定値の選択が適切に行われ、結果として、眼軸長を精度よく算出することができる。もちろん、被検眼の瞳孔状態に有意な差が生じない程度の時間差が存在してもよい。
【0136】
本実施例では、断面撮影光学系において、照明光に赤色可視光または赤外光を使用する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。断面撮影光学系は、照明光として赤色とは異なる可視光を使用する構成であってもよい。被検眼Eに可視光(特に、視感度の高い光)を照射すると縮瞳するため、可視光の照射の直前か、あるいは照射と同時に、断面画像70を撮影するとよい。
【0137】
本実施例では、被検眼の眼屈折力の測定時と、断面画像70の撮影時と、の間の時間をできる限り短くすることで、アライメントずれと共に瞳孔状態や調節状態の変化を抑制する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、眼屈折力の測定時と、断面画像の撮影時と、の間にはある程度の時間が空いてもよい。この場合、縮瞳や調節がより生じやすいため、観察画像及び断面画像70の少なくともいずれかを連続的に取得し、瞳孔径及び水晶体厚の少なくともいずれかをモニタリングしてもよい。
【0138】
制御部50は、眼屈折力の測定時に観察画像及び断面画像70を撮影し、瞳孔径及び水晶体厚を取得して、これを記憶部に記憶させてもよい。更に、制御部50は、断面画像70の取得時に観察画像及び断面画像70を撮影し、瞳孔径及び水晶体厚が記憶された値と等しくなったタイミングで、断面画像70を撮影(キャプチャ)してもよい。もちろん、瞳孔径と水晶体厚には、等しい状態か否かを判定するための許容範囲が設けられてもよい。被検眼の前眼部の状態(瞳孔状態や調節状態)は絶えず変化するものであり、眼屈折力及び前眼部断面画像の取得において、これらの影響は避けることができない。しかし、各々の結果を等しい状態の下で取得すれば、眼軸長の正確性や再現性が維持されやすい。なお、眼屈折力の測定時と断面画像70の撮影時とで瞳孔径や水晶体厚が異なっていても、凡その眼軸長を算出することは可能である。
【0139】
本実施例では、被検眼の眼屈折力を測定する際の前眼部の状態は適切であるとみなし、被検眼の断面画像70を撮影する際の前眼部の状態を取得する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、眼屈折力の測定においても、前眼部の状態を取得する構成であってもよい。つまり、眼屈折力の取得タイミングにおける前眼部の状態と、前眼部断面画像の取得タイミングにおける前眼部の状態と、を取得する構成であってもよい。例えば、眼屈折力の測定と前眼部断面画像の撮影では前眼部の状態にずれが生じることもあるため、各々のタイミングで瞳孔状態や調節状態を取得することによって、双方を容易に比較し、眼軸長をより正確に取得することができる。
【0140】
本実施例では、被検眼の眼屈折力を測定した後に、被検眼の断面画像70を取得する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、被検眼の眼屈折力と、被検眼の断面画像70と、を並行して(同一タイミングにて)取得する構成であってもよい。この場合、制御部50は、投影光学系100aにおける測定光源111からの測定光と、照射光学系300aにおける光源311からの照明光と、を共に制御して、双方の光を被検眼に向けて投光させる。なお、投光の開始は、必ずしも同時である必要はない。また、制御部50は、受光光学系100bにおける撮像素子125と、受光光学系300bの撮像素子321と、を共に制御して、リング像と断面画像70を同一タイミングで撮像する。
【0141】
被検眼の状態は各々の取得タイミングで異なる場合があり、眼屈折力と、断面画像70に基づく前眼部形状情報と、において縮瞳や調節の影響を避けることは困難である。例えば、被検眼の眼屈折力の測定においては、縮瞳が抑制されると共に調節が解除されるが、続いて前眼部の断面画像を取得する際には、縮瞳したり再び調節が働いたりする可能性もある。しかし、眼屈折力の測定(リング像の取得)と断面画像の取得を同時に実施すれば、被検眼の瞳孔状態や調節状態を容易に合わせることができ、眼軸長を精度よく算出することができる。
【0142】
本実施例では、被検眼Eの各透光体における屈折率を一定とする場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、前眼部の断面画像70とは別に、透光体の屈折率に関する屈折率情報を取得し、眼軸長ALの導出に屈折率情報を利用してもよい。つまり、眼軸長ALを取得する上で、屈折率情報に基づく透光体の屈折率を、更に考慮してもよい。一例として、屈折率情報は、水晶体の屈折率を含んでもよい。水晶体の屈折率は、加齢にともなう変化があることが知られている。そこで、眼科装置10の記憶部は、水晶体の屈折率が年齢毎に対応付けられた計算式やルックアップテーブルを有していてもよい。この場合、被検者の年齢が入力されることで、年齢に応じた屈折率を取得することができる。制御部50は、このような水晶体の屈折率を用いて、光線追跡演算を行ってもよい。
【符号の説明】
【0143】
10 眼科装置
50 制御部
100 測定光学系
150 固視標呈示光学系
200 正面撮影光学系
300a 照射光学系
300b 受光光学系
400 指標投影光学系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13