(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】マネージャ、システム、制御方法、制御プログラム、及び車両
(51)【国際特許分類】
B60W 50/02 20120101AFI20241119BHJP
B60W 50/029 20120101ALI20241119BHJP
B60W 50/023 20120101ALI20241119BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20241119BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B60W50/02
B60W50/029
B60W50/023
B60W60/00
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2021086281
(22)【出願日】2021-05-21
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入江 亮
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032893(JP,A)
【文献】特開2020-032894(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0283907(US,A1)
【文献】特開2018-131042(JP,A)
【文献】特開2002-037112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたマネージャであって、
複数のADASアプリケーションから現在の車両の軌道を目標の軌道に修正するために必要な曲率を受け付ける受付部と、
前記複数の曲率を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、運動要求を算出する算出部と、
前記運動要求を、ステアリングアクチュエータを含んだステアリングシステムを含む複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、
前記算出部は、前記アクチュエータシステムの故障の有無にかかわらず、前記調停結果に基づいて前記運動要求を算出し、
前記分配部は、前記アクチュエータシステムの故障の内容に応じて前記運動要求を分配する、
マネージャ。
【請求項2】
前記分配部は、故障していない前記複数のアクチュエータシステムのみを対象として、前記運動要求を分配する、
請求項1に記載のマネージャ。
【請求項3】
前記分配部が前記運動要求を分配する前記複数のアクチュエータシステムでは、前記ステアリングシステムが冗長的に構成されている、
請求項1又は2に記載のマネージャ。
【請求項4】
車両に搭載され、複数のADASアプリケーションと、マネージャと、複数のアクチュエータシステムと、を備えるシステムであって、
前記複数のADASアプリケーションは、現状の車両の軌道を目標の軌道に修正するための曲率をそれぞれ出力し、
前記マネージャは、
前記複数のADASアプリケーションから複数の前記曲率を受け付ける受付部と、
前記複数の曲率を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、運動要求を算出する算出部と、
前記運動要求を、前記複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、
前記複数のアクチュエータシステムは、冗長的に構成されたステアリングアクチュエータを含んだステアリングシステムを少なくとも含み、
前記マネージャの前記算出部は、前記アクチュエータシステムの故障の有無にかかわらず、前記調停結果に基づいて前記運動要求を算出し、
前記分配部は、前記アクチュエータシステムの故障の内容に応じて前記運動要求を分配する、
システム。
【請求項5】
プロセッサと、メモリとを備え、車両に搭載されたマネージャのコンピューターが実行する制御方法であって、
複数のADASアプリケーションから現在の車両の軌道を目標の軌道に修正するために必要な曲率を受け付けるステップと、
前記複数の曲率を調停するステップと、
前記
調停するステップにおける調停結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記運動要求を、ステアリングアクチュエータを含んだステアリングシステムを含む複
数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配するステップと、を含み、
前記算出するステップは、前記アクチュエータシステムの故障の有無にかかわらず、前記調停結果に基づいて前記運動要求を算出し、
前記分配するステップは、前記アクチュエータシステムの故障の内容に応じて前記運動要求を分配する、
制御方法。
【請求項6】
プロセッサと、メモリとを備え、車両に搭載されたマネージャのコンピューターに実行させる制御プログラムであって、
複数のADASアプリケーションから現在の車両の軌道を目標の軌道に修正するために必要な曲率を受け付けるステップと、
前記複数の曲率を調停するステップと、
前記
調停するステップにおける調停結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記運動要求を、ステアリングアクチュエータを含んだステアリングシステムを含む複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配するステップと、を含み、
前記算出するステップは、前記アクチュエータシステムの故障の有無にかかわらず、前記調停結果に基づいて前記運動要求を算出し、
前記分配するステップは、前記アクチュエータシステムの故障の内容に応じて前記運動要求を分配する、
制御プログラム。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマネージャを搭載した、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されるマネージャなどに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運転支援機能(自動運転や自動駐車など)を実現する複数のアプリケーションが車両に実装されている。特許文献1には、これらの複数のアプリケーションから出力される要求をそれぞれ受け付けて、この複数のアプリケーションから受け付けた複数の要求を調停し、その調停結果に基づいて車両に搭載されたアクチュエータシステム(ステアリング装置やブレーキ装置など)を駆動するための要求を出力する、制御装置(マネージャ)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に実装されるアプリケーションには、車両の軌道を目標の軌道に追従させる行動計画を要求する先進運転支援アプリケーション(ADAS(Advanced Driver Assistance System)アプリケーション)が複数存在する。このようなADASアプリケーションでは、車両の特性や車両に搭載されたアクチュエータシステムの相違などによって生じる誤差や外乱を吸収して最適化させるために、アクチュエータシステムの状態をフィードバック入力して行動計画に反映させることが考えられる。
【0005】
しかしながら、ADASアプリケーションがアクチュエータシステムの状態(故障など)を常に気にしながら行動計画を要求するシステム構成にする場合には、ADASアプリケーションを実装する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)やインターフェイス(I/F)の設計が煩雑になるおそれがあった。
【0006】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、車両に搭載されたアクチュエータシステムの状態に関係なくADASアプリケーションから要求される行動計画を受け付けて好適な運動要求の分配を実施することができるマネージャなどを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、車両に搭載されたマネージャであって、複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付ける受付部と、複数の行動計画を調停する調停部と、調停部による調停結果に基づいて運動要求を算出する算出部と、運動要求をステアリングアクチュエータを含んだステアリングシステムを含む複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、算出部は、アクチュエータシステムの故障の有無にかかわらず調停結果に基づいて運動要求を算出し、分配部はアクチュエータシステムの故障の内容に応じて運動要求を分配する、マネージャである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、車両に搭載されたアクチュエータシステムの状態(故障など)を気にせずに、ADASアプリケーションがマネージャに対していつも通りの行動計画を要求し、調停後の行動計画に基づいてマネージャがアクチュエータシステムの状態に応じた好適な運動要求の分配を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係るシステムの構成例を示す概略図
【
図2】マネージャが実行する処理の手順を示すフローチャート
【
図3】マネージャによって実行される運動要求分配の具体例を説明する図
【
図4】マネージャによって実行される運動要求分配の具体例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のマネージャは、アクチュエータシステムに故障などの不具合が生じた場合、その故障したアクチュエータシステムに分配していた運動要求分を他のアクチュエータシステムに分配することで、行動計画に応じた運動要求を実現させる。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る車両に搭載されるシステムの構成例を示す概略図である。
図1に例示した車両システム1は、マネージャ10と、運転支援システム20と、複数のアクチュエータシステム31~3n(nは2以上の整数)と、を備えている。車両システム1が備える各構成は、車載ネットワーク100を介して通信可能に接続されている。車載ネットワーク100は、CAN(Controller Area Network)やイーサネット(登録商標)などを例示できる。
【0012】
運転支援システム20は、実装される1つ以上のアプリケーションを実行することにより、少なくとも車両の駆動制御及び制動制御を含む車両の運転を支援するための様々な機能を実現するための構成である。運転支援システム20が実装するアプリケーションとしては、自動運転の機能を実現する自動運転アプリケーション、自動駐車の機能を実現する自動駐車アプリケーション、及び先進運転支援の機能を実現するADASアプリケーションなどを例示できる。ADASアプリケーションには、所定の目標軌道に追従させて車両を走行させるために車両位置から目標軌道までの修正軌道を算出する機能を実現するアプリケーション、衝突回避支援(PCSなど)の機能を実現するアプリケーション、前走車との車間距離を一定に保ちながら走行する前車追従走行(ACCなど)の機能を実現するアプリケーション、走行する車線の維持を行う車線維持支援(LKA、LTAなど)の機能を実現するアプリケーション、衝突の被害を軽減させるために自動的に制動をかける衝突被害軽減ブレーキ(AEBなど)の機能を実現するアプリケーション、車両の走行車線の逸脱を警告する車線逸脱警報(LDW、LDAなど)の機能を実現するアプリケーションなど、がある。
【0013】
運転支援システム20の各アプリケーションは、図示しない各種センサなどから取得(入力)する車両の情報(認識センサ情報など)に基づいて、アプリケーションの要求として、アプリケーション単独での機能性(商品性)を担保した行動計画の要求を、マネージャ10にそれぞれ出力する。この行動計画には、車両に発生させる前後加速度/減速度や曲率などの要求が含まれる。また、運転支援システム20の各アプリケーションは、行動計画と共に、自身のアプリケーションを一意に特定することができる識別情報(アプリID)を、マネージャ10にそれぞれ出力することができる。このアプリIDは、アプリケーションごとに予めユニークに定められている。
【0014】
この運転支援システム20は、CPUなどのプロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェイスを有する電子制御ユニット(ECU)などのコンピューターによって実現される。なお、運転支援システム20を構成するECUの数や、ECUが実装するアプリケーションの数は、特に限定されない。また、運転支援システム20として、アプリケーションごとにそれぞれのECUが設けられてもよい。例えば、自動運転アプリケーションが実装された自動運転ECU、自動駐車アプリケーションが実装された自動駐車ECU、及び先進運転支援アプリケーションが実装されたADAS-ECUによって、運転支援システム20が構成されてもよい。また、ACC機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、LKA機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、及びAEB機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECUのように、複数のADASアプリケーションが複数のECUに実装されてもよい。
【0015】
複数のアクチュエータシステム31~3nは、運転支援システム20が出力する行動計画の要求を実現するための実現システムの1つである。アクチュエータシステム31~3nの一例としては、ステアリングシャフトにステアリングホイールの操舵を補助するトルクを発生させることが可能なステアリングアクチュエータ(EPSモータなど)を含み、このステアリングアクチュエータの動作を制御することによって行動計画の要求の一部又は全部を実現させる電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)システムがある。このEPSシステムは、フェールセーフの観点から故障などの不具合が発生したときでも操舵制御を継続できるように、同一の構成が2つ(メインとサブ)備えられて冗長化されている。また、アクチュエータシステム31~3nの一例としては、車両に制動力を発生させることが可能なブレーキアクチュエータ(油圧ブレーキなど)を含み、このブレーキアクチュエータの動作を制御することによって行動計画の要求の一部又は全部を実現させる電動ブレーキシステム(EBS:Electronic Brake System)がある。このEBSも冗長的に構成されてもよい。また、アクチュエータシステム31~3nの一例としては、後輪を車幅方向に転舵させることが可能なアクチュエータを含み、このアクチュエータの動作を制御することによって行動計画の要求の一部又は全部を実現させる後輪操舵(DRS:Dynamic Rear Steering)システムがある。また、アクチュエータシステム31~3nの一例としては、車両に制駆動力を発生させることが可能なアクチュエータ(EV/HVモータなど)を含み、このアクチュエータの動作を制御することによって行動計画の要求の一部又は全部を実現させるシステムがある。さらには、路面の凹凸などの車両変化に応じてアブソーバの減衰力を最適化させる減衰力可変ダンパーサスペンションシステム(AVS:Adaptive Variable Suspension system)や、車体のロールを抑えるアクティブスタビライザーシステムなども、アクチュエータシステム31~3nの一例として挙げられる。
【0016】
マネージャ10は、運転支援システム20から受け付ける行動計画の要求に基づいて、車両の運動に関する制御内容を決定し、この決定した制御内容に基づいて複数のアクチュエータシステム31~3nに対して必要な要求を出力する。この際、マネージャ10は、複数のアクチュエータシステム31~3nのそれぞれからフィードバック入力するシステムの状態(アベイラビリティや故障に関する情報など)に基づいて、アクチュエータシステム31~3nのうちの1つ又は複数に対して運動要求の分配を行う。
【0017】
このマネージャ10は、いわゆる車両の運動に関わるADAS-MGRやVehicle-MGRなどとして、あるいはADAS-MGRやVehicle-MGRの一部として機能し、車両の動きを制御する。マネージャ10は、受付部11と、調停部12と、算出部13と、分配部14と、を含む。
【0018】
受付部11は、運転支援システム20の複数のアプリケーションが出力する行動計画の要求を受け付ける。本実施形態における行動計画としては、車両の横方向運動に関する修正軌道の曲率を例示することができる。受付部11が受け付けた行動計画の要求は、調停部12に出力される。
【0019】
調停部12は、受付部11が運転支援システム20の各アプリケーションから受け付けた複数の行動計画の要求を調停する。この調停の処理としては、所定の選択基準(例えば、Min選択)に基づいて複数の行動計画の中から1つの行動計画を選択することが例示できる。また、他の調停処理として、複数の行動計画に基づいて新たな行動計画を設定することもできる。
【0020】
算出部13は、調停部12における行動計画の要求の調停結果に基づいて、運動要求を算出する。この運動要求は、調停された行動計画を実現させるための車両の動きを要求する物理量であり、行動計画の要求の物理量とは異なる。例えば、行動計画が曲率である場合には、この曲率に追従させるための車両のヨーモーメントやヨーレートが運動要求として算出される。
【0021】
分配部14は、算出部13によって算出された運動要求を、複数のアクチュエータシステム31~3nの状態に基づいて、1つ以上のアクチュエータに適切に分配する。この分配に際しては、分配先のアクチュエータシステムに好適な物理量の指令値などに変換されることが望ましい。
【0022】
例えば、EPSのアクチュエータシステムに運動要求を分配する場合には、車両のヨーモーメント/ヨーレートがステアリングの操舵角の指令値に変換される。DRSのアクチュエータシステムに運動要求を分配する場合には、車両のヨーモーメント/ヨーレートが後輪の舵角の指令値に変換される。AVS/アクスタのアクチュエータシステムに運動要求を分配する場合には、車両のヨーモーメント/ヨーレートがロール剛性に関する指令値に変換される。EBSのアクチュエータシステムに運動要求を分配する場合には、車両のヨーモーメント/ヨーレートが各車輪の制動力(符号付きの駆動力)や減速度の指令値に変換される。電動車における駆動用モータのアクチュエータシステムに運動要求を分配する場合には、車両のヨーモーメント/ヨーレートが各車輪の駆動力の指令値に変換される。これらの物理量の変換は、車両の特性や車両に搭載されたアクチュエータのバリエーションなどによって車両ごとに予め定められる車両モデルに基づいて実施され得る。なお、変換処理は、分配部14が行ってもよいし、分配部14の後段に設けられたマネージャ10の別構成(図示せず)が行ってもよいし、各アクチュエータシステム31~3nにおいて行われてもよい。
【0023】
なお、以上説明した、車両に搭載されたマネージャ10、運転支援システム20、及び複数のアクチュエータシステム31~3nの構成は一例であって、適宜、追加、置換、変更、省略などが可能である。また、各機器の機能は適宜1つの機器に統合したり複数の機器に分散したりして実装することが可能である。
【0024】
[制御]
図2をさらに参照して、本実施形態に係るマネージャ10が実行する制御を説明する。
図2は、マネージャ10が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。この
図2に示す処理は、マネージャ10の受付部11が、運転支援システム20のアプリケーションから行動計画の要求を受け付けた場合に開始される。
【0025】
(ステップS201)
調停部12は、受付部11がアプリケーションから受け付けた1つ又は複数の行動計画について調停を実施する。行動計画としては、曲率を例示できる。調停処理としては、全ての行動計画のうち最小値を要求する行動計画を採択する手法を例示できる。受付部11がアプリケーションから受け付けた行動計画が1つであれば、この行動計画が調停結果として調停部12によって採択される。行動計画の調停が実施されると、ステップS202に処理が進む。
【0026】
(ステップS202)
算出部13は、調停部12の調停結果に基づいて運動要求を算出する。行動計画が曲率である場合、運動要求として目標ヨーモーメント/ヨーレートを例示できる。この算出した運動要求は、複数のアクチュエータシステム31~3nの少なくとも1つに分配する運動要求として、マネージャ10の分配部14に出力される。運動要求が算出されると、ステップS203に処理が進む。
【0027】
(ステップS203)
分配部14は、車両に搭載されたアクチュエータシステム31~3nの中に、故障したアクチュエータシステムがあるか否かを判断する。この判断は、複数のアクチュエータシステム31~3nからフィードバックされるシステム状態に基づいて可能である。故障したアクチュエータシステムがある場合は(ステップS203、はい)、ステップS204に処理が進み、故障したアクチュエータシステムがない場合は(ステップS203、いいえ)、ステップS205に処理が進む。
【0028】
(ステップS204)
分配部14は、故障していないアクチュエータシステムのみを対象として運動要求の好適な分配を実施する。運動要求の分配が実施されると、本マネージャ10の処理が終了する。
【0029】
(ステップS205)
分配部14は、全てのアクチュエータシステムを対象として運動要求の好適な分配を実施する。運動要求の分配が実施されると、本マネージャ10の処理が終了する。
【0030】
[分配の具体例]
図3及び
図4を参照して、マネージャ10によって実行される運動要求分配の具体例を説明する。この
図3及び
図4は、車両を目標軌道に追従して走行させるための修正軌道を算出するアプリケーション(軌道修正FBアプリ)から、行動計画として修正軌道の曲率が要求された場合に、マネージャ10が必要なアクチュエータに対して物理量の運動要求を好適に分配する様子を示した一例である。アクチュエータには、車両の横方向運動の制御に関わるシステムとして、冗長的に構成された2つのEPSに用いられるメインモータとサブモータ、DRS、AVS/アクスタ、EBSに用いられるブレーキ、及びEHVシステムに用いられる駆動用モータを例示している。
【0031】
図3は、全てのアクチュエータシステムを対象としてマネージャ10が運動要求(目標ヨーモーメント/ヨーレート)の分配を実施する(
図2、ステップS205)例である。この
図3の例では、メインEPSシステム及びサブEPSシステムが共に故障などの不具合がなく、軌道修正FBアプリからの行動計画の全てをこれらのEPSシステムで実現できるため、マネージャ10は、運動要求をメインEPSシステム及びサブEPSシステムに向けた操舵角に変換して分配する。ここで、運動要求の全て(100%出力)をメイン又はサブのいずれか一方のEPSシステムのみで賄うことも考えられる。しかし、このように分配する場合、メインEPSシステムとサブEPSシステムとの両方にそれぞれ100%出力が可能な大型のモータを備える必要があるため、搭載スペースやコストの面で課題が残る。本実施形態の例では、メインEPSシステムで50%出力を賄い、かつサブEPSシステムで50%出力を賄うことで、双方のEPSシステムの総合で100%出力を獲得する構成としている。
【0032】
図4は、故障していないアクチュエータシステムのみを対象としてマネージャ10が運動要求(目標ヨーモーメント/ヨーレート)の分配を実施する(
図2、ステップS204)例である。この
図4の例では、サブEPSシステムが故障しており、軌道修正FBアプリからの行動計画の50%のみしかメインEPSシステムで実現できないため、マネージャ10は、運動要求をメインEPSシステムだけでなく他のアクチュエータシステムにも分配する。マネージャ10は、例えば、DRSに分配する場合には運動要求を後輪舵角指令値に変換し、AVS/アクスタに分配する場合には運動要求をロール剛性指令値に変換し、ブレーキに分配する場合には運動要求を減速度指令値に変換し、駆動用モータに分配する場合には運動要求を駆動力指令値に変換する。これにより、サブEPSシステムが実現するはずであった行動計画の50%の全部又は一部を他のアクチュエータシステムを用いて実現することが可能となる。
【0033】
<作用・効果>
以上のように、本開示の一実施形態に係る車両システムでは、アクチュエータシステムに故障などの不具合が生じた場合、その故障したアクチュエータシステムに分配していた運動要求分を他のアクチュエータシステムに分配することができる。これにより、運転支援システムの各アプリケーションにアクチュエータシステムの故障や制限を通知したり、軌道修正を要求したりしなくても、行動計画に応じた運動要求を実現させることができる。すなわち、運転支援システムの各アプリケーションは、車両に搭載されたアクチュエータシステムの状態を気にすることなく、マネージャに対していつも通りの行動計画を要求することができるので、アプリケーションを実装する電子制御ユニット(ECU)やインターフェイス(I/F)の設計が煩雑化してしまうことを回避できる。
【0034】
また、本開示の一実施形態に係る車両システムでは、運転支援システムの各アプリケーションから曲率を受け付けることで、操舵角で制御するEPSシステム以外のアクチュエータシステムに対しても運動要求を分配することができる。よって、冗長的に構成されたEPSシステムの一方が故障しても、他方のEPSシステムと他のアクチュエータシステムとの協働によって行動計画の要求を実現させることが可能となる。
【0035】
なお、冗長的に車両に搭載されるEPSシステムやEBSシステムなどは、メインシステムとサブシステムとで、利用するバッテリー、電源供給の系統、及び/又は通信制御の系統が分離されて構成されてもよい。このように構成することによって、アクチュエータシステム以外でいずれか一方の系統に不具合が発生した場合にも、他方の系統により車両制御を継続させることができる。
【0036】
以上、本開示技術の一実施形態を説明したが、本開示は、車両に搭載されるマネージャだけでなく、電子制御ユニット、電子制御ユニットとマネージャとを含むシステム、プロセッサとメモリを備えたマネージャが実行する制御方法、制御プログラム、制御プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的な記憶媒体、あるいはマネージャを備えた車両など、として捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本開示は、車両などに搭載されるマネージャなどに有用である。
【符号の説明】
【0038】
1 車両システム
10 マネージャ
11 受付部
12 調停部
13 算出部
14 分配部
20 運転支援システム
31~3n アクチュエータシステム
100 車載ネットワーク