(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20241119BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20241119BHJP
B60G 17/0195 20060101ALI20241119BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20241119BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20241119BHJP
B60W 10/00 20060101ALI20241119BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241119BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20241119BHJP
【FI】
B60W10/00 134
B60G17/0195
B60T7/12 B
B60W10/00 120
B60W10/00 132
B60W10/00 148
B60W10/08
B60W10/184
B60W10/20
(21)【出願番号】P 2021107035
(22)【出願日】2021-06-28
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 倫彦
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 直樹
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-143310(JP,A)
【文献】特開2010-58618(JP,A)
【文献】特開平5-178048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60G 1/00-99/00
B60T 7/12- 8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪の少なくとも一方に駆動力を付与する駆動力付与装置と、
前記前輪及び前記後輪に制動力を付与する制動力付与装置と、
前記駆動力付与装置が付与する駆動力及び前記制動力付与装置が付与する制動力を制御する制御装置と、
を備える車両制御システムであって、
前記制御装置は、車両が停車している停車状態、又は前記停車状態を起算点として車速が所定車速を超えることなく前記車両が前進方向及び後進方向のうち予め設定された方向に走行している微速走行状態において、転舵要求を受信した場合、転舵輪のキャスタ角が減少するように、前記駆動力付与装置、又は前記駆動力付与装置及び前記制動力付与装置を制御するキャスタ角変更制御を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記キャスタ角変更制御において、加減速に関する要求に応じた前記停車状態又は前記微速走行状態となるように、前記前輪及び前記後輪のうちの一方輪に対して他方輪に向かう方向の駆動力を付与し、前記他方輪に対して制動力又は前記一方輪に向かう方向の駆動力を付与する、
車両制御システム。
【請求項2】
前記駆動力付与装置は、前記後輪に駆動力を付与可能に構成され、
前記微速走行状態は、前記停車状態を起算点として車速が前記所定車速を超えることなく前記車両が前進している状態であり、
前記制御装置は、前記停車状態又は前記微速走行状態において、前記転舵要求を受信した場合、前記キャスタ角変更制御として、前記前輪に制動力を付与し、且つ前記後輪に前進方向の駆動力を付与する、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記駆動力付与装置は、前記前輪に駆動力を付与可能に構成され、
前記微速走行状態は、前記停車状態を起算点として車速が前記所定車速を超えることなく前記車両が後進している状態であり、
前記制御装置は、前記停車状態又は前記微速走行状態において、前記転舵要求を受信した場合、前記キャスタ角変更制御として、前記前輪に後進方向の駆動力を付与し、且つ前記後輪に制動力を付与する、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記駆動力付与装置は、前記前輪及び前記後輪に駆動力を付与可能に構成され、
前記制御装置は、前記停車状態又は前記微速走行状態において、前記転舵要求を受信した場合、前記キャスタ角変更制御として、前記前輪に後進方向の駆動力を付与し、且つ前記後輪に前進方向の駆動力を付与する、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項5】
ステアバイワイヤ型のステアリングシステムを備える、
請求項1~4の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項6】
前記転舵輪に対して設けられ、キャンバ角を調整するキャンバ角調整機構と、
前記キャンバ角調整機構を作動させる駆動源と、
をさらに備え、
前記制御装置は、車速に応じて、前記駆動源を制御し前記キャンバ角を調整する、
請求項1~5の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記キャスタ角変更制御の実行に応じて、前記駆動源を制御して前記キャンバ角を大きくする、
請求項6に記載の車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車輪のアライメントを調整するアライメント調整装置に関する技術は、例えば特開2009-035081号公報に記載されている。この装置では、例えば車両の走行抵抗が小さくなるように車輪のアライメントが調整される。この装置によれば、キャンバ角の調整も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が停車している停車状態で転舵輪の転舵角を変更する、いわゆる据え切りを実行する際には、タイヤと接地面との摩擦力によって大きな力が必要となる。例えば、ステアバイワイヤ型のステアリングシステムでは、据え切りの際に、アクチュエータが大きな力を出力しなければならず、アクチュエータに大きな負荷がかかる。また、例えば駐車動作時など、車両が微速(超低速)で走行している際のステアリング操作に対しても、据え切り同様に大きな負荷がかかる。また、例えばパワーステアリング型のステアリングシステムであっても、停車状態又は微速走行状態におけるステアリング操作では、ステアリングホイールの操作に必要な力又は電動モータによるアシスト力は大きくなる。このように、従来のシステムには、停車状態又は微速走行状態における転舵輪の転舵角の変更に対して、システムへの負荷低減の観点で改良の余地がある。
本発明の目的は、停車状態又は微速走行状態において、転舵輪の転舵角を変更するために必要な力を低減可能な車両制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両制御システムは、前輪及び後輪の少なくとも一方に駆動力を付与する駆動力付与装置と、前記前輪及び前記後輪に制動力を付与する制動力付与装置と、前記駆動力付与装置が付与する駆動力及び前記制動力付与装置が付与する制動力を制御する制御装置と、を備える車両制御システムであって、前記制御装置は、車両が停車している停車状態、又は前記停車状態を起算点として車速が所定車速を超えることなく前記車両が前進方向及び後進方向のうち予め設定された方向に走行している微速走行状態において、転舵要求を受信した場合、転舵輪のキャスタ角が減少するように、前記駆動力付与装置、又は前記駆動力付与装置及び前記制動力付与装置を制御するキャスタ角変更制御を実行するように構成され、前記制御装置は、前記キャスタ角変更制御において、加減速に関する要求に応じた前記停車状態又は前記微速走行状態となるように、前記前輪及び前記後輪のうちの一方輪に対して他方輪に向かう方向の駆動力を付与し、前記他方輪に対して制動力又は前記一方輪に向かう方向の駆動力を付与する。
【発明の効果】
【0006】
キャスタ角は、転舵輪を横(車両左右方向)から見たときのキングピン軸線と路面垂直線(鉛直線)とのなす角である。キングピン軸線は、キングピン軸線の下方が上方よりも前方となるように傾いている。一般に、キャスタ角が小さいほど、走行時において、車輪の転舵に対する復元トルクが小さくなる。また、停車状態において、キャスタ角が小さくなると、キャスタトレールが小さくなり、転舵輪の転舵動作に対する抵抗は小さくなる。
【0007】
本発明によれば、制御装置は、車両が停車状態又は微速走行状態であるときに転舵要求を受信すると、キャスタ角変更制御を実行する。キャスタ角変更制御では、一方輪に他方輪に向かう方向の駆動力が付与され、他方輪にそれに対抗する力が付与されるため、車体に対して前進中の減速時に加わる慣性力のような力(モーメント)が加わる。換言すると、キャスタ角変更制御により、車体には前転方向のピッチングモーメントのような力が加わるといえる。車体にこのような力が加わることで、構造上、キングピン軸線の上側の通過点を構成する上側パーツに前方への力が加わり、上側パーツに配置された弾性部材(例えばブッシュ)が弾性変形する。この弾性変形により、上側パーツ及びキングピン軸線の上側の通過点が、キングピン軸線の下側の通過点に対して前方に相対移動する。
【0008】
このように、本発明によれば、転舵輪を横から見てキングピン軸線が立つように、上側パーツの弾性部材を意図的に弾性変形させることで、上側パーツを下側パーツに対して前方に相対移動させ、キャスタ角を減少させる。キャスタ角が小さくなることで、転舵輪を転舵させるのに必要な力は小さくなる。本発明によれば、停車状態又は微速走行状態において、転舵輪の転舵角の変更するために必要な力を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の車両制御システムが搭載された車両の全体構成を示す模式図である。
【
図2】本実施形態の前輪まわりの構成を示す車両前方から見た模式図である。
【
図3】本実施形態の構成においてキャスタ角を説明するための模式図である。
【
図4】本実施形態の構成においてキャンバ角を説明するための模式図である。
【
図5】本実施形態のアッパアームを示す車両上方から見た模式図である。
【
図6】本実施形態のアジャストカムを示す車両前方から見た模式図である。
【
図7】本実施形態の第1キャスタ角変更制御を説明するための模式図である。
【
図8】本実施形態の第2キャスタ角変更制御を説明するための模式図である。
【
図9】本実施形態の第3キャスタ角変更制御を説明するための模式図である。
【
図10】本実施形態の制御例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照して説明する。本実施形態の車両制御システム1は、
図1及び
図2に示すように、前輪11及び後輪12の少なくとも一方に駆動力を付与する駆動力付与装置2と、前輪11及び後輪12に制動力を付与する制動力付与装置3と、駆動力付与装置2が付与する駆動力及び制動力付与装置3が付与する制動力を制御する制御装置4と、ステアリングシステム5と、サスペンション装置6と、を備えている。前輪11は右前輪と左前輪とで構成され、後輪12は右後輪と左後輪とで構成されている。以下、前輪11と後輪12とを総称して車輪11、12ともいう。車内の通信は、CAN(car area network or controllable area network)によって行われる。なお、
図1において、一部の通信線は表示を省略されている。
【0011】
駆動力付与装置2は、前輪11及び後輪12に独立して駆動力を付与することができる装置である。駆動力付与装置2は、各車輪11、12に設けられた駆動装置であるインホイールモータ21FL、21FR、21RL、21RR(以下、総称として「インホイールモータ21」ともいう)と、各インホイールモータ21を制御する駆動ECU22と、を備えている。各車輪11、12は、ホイール内部に配置されたインホイールモータ21によって回転駆動される。インホイールモータ21の具体的な構造は、周知のものを適用できるため省略する。
【0012】
駆動ECU22は、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニットであって、CANを介して、各インホイールモータ21に通信可能に接続されている。駆動ECU22は、例えばアクセル操作量に基づく又は他のECUからの加減速要求(例えば要求加速度)に応じて、各インホイールモータ21を制御する。駆動ECU22は、例えば、車輪速度センサ91から受信した車輪速度情報に基づいて、現在の車速を算出する。また、車両に設けられた加速度センサ92は、車両の前後方向の加速度を検出して駆動ECU22等に送信する。
【0013】
制動力付与装置3は、ブレーキバイワイヤ型のブレーキシステムである。制動力付与装置3は、前輪11及び後輪12に独立して制動力を付与することができる装置である。制動力付与装置3は、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル30と、マスタシリンダ31と、液圧調整装置32と、ブレーキ装置33FL、33FR、33RL、33RR(以下、総称として「ブレーキ装置33」ともいう)と、ブレーキECU34と、を備えている。マスタシリンダ31は、ブレーキペダル30の操作量に応じて、ブレーキ液を出力する。
【0014】
液圧調整装置32は、ブレーキECU34の指示に応じて、各ブレーキ装置33にブレーキ液を供給する装置である。液圧調整装置32は、電動モータ、ポンプ、及び電磁弁(図示略)を備えるいわゆるブレーキアクチュエータであって、例えばESCアクチュエータである。液圧調整装置32は、各ブレーキ装置33のホイールシリンダの液圧を加減圧することで、各ブレーキ装置33が付与する制動力を独立して調整することができる。液圧調整装置32は、ブレーキペダル30の操作の有無にかかわらず、ブレーキECU34の指示に応じて各制動力を調整することができる。ブレーキ装置33は、例えばディスクブレーキ装置又はドラムブレーキ装置である。
【0015】
ブレーキECU34は、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニットであって、液圧調整装置32に通信可能に接続されている。ブレーキECU34は、例えばブレーキペダル30の操作に基づく制動要求又は他のECUからの制動要求に応じて、液圧調整装置32を制御する。また、ブレーキECU34は、各種センサ、例えば各車輪11、12に設けられた車輪速度センサ91の検出結果に基づいて液圧調整装置32を制御し、例えばアンチスキッド制御(ABS制御)や横滑り防止制御(ESC制御)等を実行する。
【0016】
ステアリングシステム5は、ステアバイワイヤ型のステアリングシステムであって、ステアリング操作装置51と、一対の前輪11を転舵する車輪転舵装置52と、ステアECU53と、を備えている。ステアリング操作装置51は、ドライバの転舵の意思をドライバの操作により検出する装置といえる。具体的に、ステアリング操作装置51は、ステアリング操作部材としてのステアリングホイール511と、ステアリングコラム512と、反力モータ513と、操作角センサ514と、を備えている。
【0017】
ステアリングコラム512は、ステアリングホイール511を回転可能に保持するとともに車体BDに保持されている。反力モータ513は、ステアリングホイール511に操作反力を付与する装置である。操作角センサ514は、ステアリングホイール511の中立状態からの左右への操作の角度(操作角)を検出する。中立状態とは、ステアリングホイール511が直進位置に位置する状態である。
【0018】
車輪転舵装置52は、操作角センサ514の検出結果に基づいて(ステアECU53の指示に応じて)、転舵輪である前輪11の転舵角を変化させる装置である。具体的に、車輪転舵装置52は、一対のステアリングナックル521と、転舵アクチュエータ522と、を備えている。ステアリングナックル521は、左右のサスペンションアーム(図示略)にそれぞれ回動可能に保持され、対応する前輪11を回転可能に保持する部材である。なお、ステアリングナックル521は、インホイールモータ21や減速機等を含むインホイールモータユニットのハウジングを兼ねている。つまり、インホイールモータ21は、ハウジングであるステアリングナックル521内に配置されている。
【0019】
転舵アクチュエータ522は、ステアリングロッド523を保持し、ステアECU53の指示に応じてステアリングロッド523を左右に動かすように構成されている。ステアリングロッド523の各端部は、リンクロッド524を介して、ステアリングナックル521から延び出すナックルアーム(図示略)に連結されている。
【0020】
具体的に、転舵アクチュエータ522は、ステアリングロッド523を保持するハウジング522aと、転舵モータ522bと、を備えている。ハウジング522a内のステアリングロッド523には、ねじ溝が形成されている。ハウジング522a内では、ベアリングボール(図示略)を保持してステアリングロッド523のねじ溝と噛み合うナット(図示略)が、回転可能に保持されている。つまり、転舵アクチュエータ522は、ステアリングロッド523とナットとによって構成されるボールねじ機構を有している。転舵モータ522bは、ハウジング522aに併設されており、伝達ベルト522cを介してナットを回転させる。
【0021】
転舵アクチュエータ522は、ナットの回転量、すなわち転舵モータ522bの回転量に応じた角度だけ前輪11を転舵させる。前輪11の転舵の角度は、ステアリングロッド523の左右への移動量に比例している。転舵アクチュエータ522には、前輪11の転舵の角度に相当したステアリングロッド523の移動量を、転舵量として、ラック&ピニオン機構を介して検出する転舵量センサ522dが設けられている。
【0022】
ステアECU53は、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニットであって、ステアリング操作装置51及び車輪転舵装置52に通信可能に接続されている。ステアECU53は、例えば所定のプログラムを実行することにより、ステアリングシステム5を制御する。自動運転等が行われていない通常時の制御を基本制御とすると、ステアECU53は、基本制御において、操作角センサ514の検出結果(操作角)に基づいて目標転舵量を設定し、転舵量センサ522dの検出結果(転舵量)が目標転舵量となるように転舵モータ522bの回転量を制御する。また、ステアECU53は、ステアリングホイール511に、上記中立状態に復帰させる向きの操作反力を、検出された操作角に応じた大きさで付与すべく、反力モータ513を制御する。
【0023】
サスペンション装置6は、
図2に示すように、ダブルウィッシュボーン型のサスペンション装置である。説明において、前輪11(
図2では左前輪)の回転軸線を車輪軸線WLと定義し、前輪11の接地面の中心である接地面中心SCを通ってその接地面に直角な線を垂直線VLと定義する。また、
図2及び
図3において、車輪軸線WLは路面と平行であることとする。また、
図2及び
図3における車輪軸線WLの延びる方向である車輪軸線方向をY方向と称し、上下方向をZ方向と称し、車輪軸線方向と直角でありかつ水平な方向をX方向と称する場合がある。前輪11が転舵していない場合において、X方向は、車両の前後方向と一致していることとする。前輪11は、ホイール13とタイヤ14とを備えている。
【0024】
サスペンション装置6は、ベース板61と、ステアリングナックル521と、ロアアーム62と、アッパアーム63と、スプリングアブソーバアッシー66と、を備えている。ベース板61は、車体BDに着脱可能に取り付けられた支持体である。ステアリングナックル521は、前輪11を回転可能に保持するキャリアである。本実施形態のステアリングナックル521は、インホイールモータユニットのハウジングを兼ねている。
【0025】
ロアアーム62は、一端部(基端部)においてベース板61に回動可能に支持され、他端部(先端部)においてステアリングナックル521の下部に支持されたアーム部材である。ロアアーム62の形状は、一端部が2つに分かれた形状、換言すると2つのアームが他端部で合わさったような形状(例えばV字状)である。ロアアーム62の一端部は、ベース板61の下端部に前後に並んで設けられた2つのブラケット61aに連結されている。
【0026】
アッパアーム63は、一端部(基端部)においてベース板61に回動可能に支持され、他端部(先端部)においてステアリングナックル521の上部に支持されたアーム部材である。アッパアーム63の形状は、ロアアーム62同様、一端部が2つに分かれた形状、換言すると2つのアームが他端部で合わさったような形状(例えばV字状)である。アッパアーム63の一端部は、ベース板61の上端部に前後に並んで設けられた2つのブラケット61bに連結されている。
【0027】
ロアアーム62の他端部は、ボールジョイント64(トリポート型等速ジョイントでもよい)を介してステアリングナックル521に連結されている。アッパアーム63の他端部は、ボールジョイント65を介してステアリングナックル521に連結されている。ステアリングナックル521は、各ボールジョイント64、65で規定されるキングピン軸線KLまわりに回動可能とされている。キングピン軸線KLは、例えば、ボールジョイント64とステアリングナックル521との接続部分の中心64aと、ボールジョイント65とステアリングナックル521との接続部分の中心65aとを通る直線である。スプリングアブソーバアッシー66は、上端部においてベース板61に回動可能に支持され、下端部においてロアアーム62に連結されている。
【0028】
図3に示すように、車輪軸線WLに直角な平面(以下、「XZ平面」という場合がある)にキングピン軸線KLと垂直線VLとを投影した場合の、そのXZ平面におけるそれらキングピン軸線KLと垂直線VLとのなす角が、キャスタ角θ1である。キングピン軸線KLは、下方が上方よりも前方となるように傾いている。
【0029】
また、
図2に示すように、車輪軸線WLに平行かつ路面に直角な平面(以下、「YZ平面」という場合がある)にキングピン軸線KLと垂直線VLとを投影した場合の、そのYZ平面におけるそれらキングピン軸線KLと垂直線VLとのなす角が、キングピン角θkである。また、
図4に示すように、YZ平面におけるタイヤ14の中心線CLと垂直線VLとのなす角が、キャンバ角θ2である。タイヤ14の中心線CLは、車輪軸線WLに直交し、タイヤ14の幅方向の中央を通る直線である。また、
図2に示すように、XZ平面において、接地面中心SCと、接地面とキングピン軸線KLとの交点との距離が、キャスタトレールCTである。
【0030】
図5に示すように、アッパアーム63の各一端部には、ブラケット61bへの連結部材として、筒状のブッシュ71を介してアジャストカム67が挿通されている。アッパアーム63の各一端部には、前後方向に貫通する貫通孔が形成されている。アッパアーム63の貫通孔には、ブッシュ71が配置され、ブッシュ71の内側にアジャストカム67が配置されている。
【0031】
例えば、前輪11が停止している状態で車体BDだけが前方に移動しようとすると、ベース板61(ブラケット61b)も車体BDから前方に力を受けて、アッパアーム63の各一端部を前方に押圧する。アッパアーム63からの押圧力によりブッシュ71が弾性変形して(潰れて)、ブッシュ71の前後幅が小さくなる。これにより、アッパアーム63及びボールジョイント65の中心65aは、停止している前輪11に対して相対的に前方に若干移動する。前輪11に対抗力(例えば制動力や後方への駆動力)が働いた状態で車体BDに前方への力が加わると、モーメントの関係で、路面に近いロアアーム62よりもアッパアーム63のほうが力の影響を受けやすい。したがって、上記状況においては、アッパアーム63のブッシュ71が弾性変形しやすい。
【0032】
図5及び
図6に示すように、アジャストカム67は、一例として、目盛りが付されたカムプレート671と、カムボルト672と、ナット673と、を備えている。カムボルト672の頭部はカムプレート671の表面側に配置されている。カムボルト672のロッド部分には、他の部分より太い偏心カム部672aが形成されている。カムボルト672が回転することで、偏心カム部672aが回転し、偏心により突出した部分に押圧されてアッパアーム63の位置が変更される。アジャストカム67の機構については周知であるため、詳細説明は省略する。
カムボルト672の頭部には、例えば減速機構を介して、電動モータ68の出力軸が連結されている。電動モータ68は、図示しないが、モータハウジングが車体BDに対して回転不能に且つ前後方向に移動可能に、車体BDに固定されている。電動モータ68の出力軸が回転することで、アジャストカム67が回転し、アッパアーム63の左右方向の位置が変更される。
【0033】
制御装置4は、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニットであって、CANを介して各種装置と通信可能に接続されている。例えば、制御装置4は、駆動ECU22、ブレーキECU34、ステアECU53、電動モータ68、及び各種センサに通信可能に接続されている。制御装置4は、駆動ECU22に指示することで駆動力付与装置2が付与する駆動力を制御し、ブレーキECU34に指示することで制動力付与装置3が付与する制動力を制御可能に構成されている。
【0034】
制御装置4は、例えば駆動ECU22から車速に関する情報を取得し、例えばステアECU53から転舵に関する情報を取得し、例えばブレーキECU34から制動に関する情報を取得する。車速に関する情報は、例えば車輪速度、車速、及び加減速要求(要求加速度、目標加速度等)である。転舵に関する情報は、例えばステアリングホイール511の操作角や転舵要求(目標転舵角等)である。制動に関する情報は、例えば制動要求(要求減速度、目標減速度、又は目標制動力等)である。例えば自動運転や各種特定制御においては、ドライバの操作がなくても加減速要求、制動要求、及び転舵要求がCANに出力される。車両制御システム1の制御装置は、制御装置4、駆動ECU22、及びブレーキECU34を含んで構成されているともいえる。
【0035】
(キャスタ角変更制御)
制御装置4は、車両が停車している停車状態、又は停車状態を起算点として車速が所定車速を超えることなく車両が前進方向及び後進方向のうち予め設定された方向に走行している微速走行状態において、転舵要求を受信した場合、転舵輪である前輪11のキャスタ角が減少するように、駆動力付与装置2、又は駆動力付与装置2及び制動力付与装置3を制御するキャスタ角変更制御を実行するように構成されている。
【0036】
制御装置4は、キャスタ角変更制御において、加減速に関する要求に応じた停車状態又は微速走行状態となるように、前輪11及び後輪12のうちの一方輪に対して他方輪に向かう方向の駆動力を付与し、前輪11及び後輪12のうちの他方輪に対して制動力又は一方輪に向かう方向の駆動力を付与する。制御装置4は、例えば取得した車速情報に基づいて、車両が停車状態であるか否か、及び車両が微速走行状態であるか否かを判定する。
【0037】
キャスタ角変更制御の実行タイミングは、駐車場等に車両を駐車する際の駐車動作時を想定して設定されている。所定車速は、例えば10km/h以下に設定されている。微速走行状態の判定において、車速が所定車速を超えていないか否かの判定は、停車状態(車速が0の状態)でリセットされる。つまり、一度車速が所定車速を超えた場合、その後減速して車速が所定車速以下となったとしても、その場合は微速走行状態とは判定されない。微速走行状態は、車両が停車状態から前進方向及び後進方向のうち予め設定された方向に発進して所定速度以下を維持している状態ともいえる。
【0038】
(キャスタ角変更制御の効果)
キャスタ角変更制御によれば、一方輪に対して他方輪に向かう方向の駆動力が付与され、他方輪にそれに対抗する力(制動力又は一方輪側への駆動力)が付与されるため、車体BDに対して前進中の減速時に生じる慣性力のような力(モーメント)が加わる。換言すると、キャスタ角変更制御により、車体BDには前転方向のピッチングモーメントのような力が加わるといえる。車体BDにこのような力が加わることで、構造上、キングピン軸線KLの上側の通過点65aを構成する上側パーツ(本例ではアッパアーム63及びボールジョイント65)に前方への力が加わり、当該上側パーツに配置された弾性部材(本例ではブッシュ71)が弾性変形する。この弾性変形により、アッパアーム63及びキングピン軸線KLの上側の通過点65aが、キングピン軸線KLの下側の通過点64aに対して前方に相対移動する。
【0039】
このように、本実施形態によれば、XZ平面においてキングピン軸線KLが立つように、車両に搭載された弾性部材を意図的に弾性変形させることで、上側パーツ(アッパアーム63)を転舵輪(前輪11)に対して前方に相対移動させ、キャスタ角θ1を減少させる。ブッシュ71は車体BD及びアッパアーム63が受ける力により弾性変形し、当該変形分だけアッパアーム63が前輪11に対して前方に相対移動する。ブッシュ71の弾性変形により、ロアアーム62側の中心64aに対するアッパアーム63側の中心65aの相対位置が前方に移動することで、キャスタ角θ1は小さくなる。
【0040】
キャスタ角θ1が小さいほど、走行時において、前輪11の転舵に対する復元トルクが小さくなる。また、停車状態において、キャスタ角θ1が小さくなると、キャスタトレールCTが小さくなり、前輪11の転舵動作に対する抵抗は小さくなる。つまり、キャスタ角変更制御によりキャスタ角θ1が小さくなることで、停車状態又は微速走行状態における前輪11を転舵させるのに必要な力は小さくなる。本実施形態によれば、停車状態又は微速走行状態における転舵輪の転舵角の変更に対して、転舵に必要な力を低減することができる。
【0041】
また本実施形態によれば、高負荷となりやすい停車状態又は微速走行状態における転舵モータ522bの負荷(必要トルク)を軽減することができる。したがって、転舵モータ522bの小型化も可能となる。ステアバイワイヤ型のステアリングシステム5では、ドライバの操作力が転舵輪に付与されず、転舵モータ522bが必要トルクのほぼ全てを負担するため、キャスタ角変更制御による必要トルクの低減が特に有効となる。
【0042】
制御装置4は、実行中のキャスタ角変更制御を、例えば車速が所定車速を超えた場合、又は転舵要求がなくなった場合(例えば実際の転舵角が目標の転舵角に達した場合)に、終了するように設定されてもよい。以下、キャスタ角変更制御について、より具体的に説明するために、制御装置4は、第1キャスタ角変更制御、第2キャスタ角変更制御、及び第3キャスタ角変更制御を選択的に実行できるものとする。
【0043】
(第1キャスタ角変更制御)
第1キャスタ角変更制御は、駆動力付与装置2が後輪12に駆動力を付与可能に構成された車両、すなわち後輪駆動車又は四輪駆動車にて実行可能な制御である。第1キャスタ角変更制御において、微速走行状態は、停車状態を起算点として車速が所定車速を超えることなく車両が前進している状態(以下「微速前進状態」ともいう)である。
【0044】
制御装置4は、停車状態又は微速前進状態において、転舵要求を受信した場合、第1キャスタ角変更制御として、前輪11に制動力を付与し、且つ後輪12に前進方向の駆動力を付与する。
図7に示すように、第1キャスタ角変更制御によれば、車体BDは後輪12の駆動力により前進しようとし、前輪11は止まろうとする。したがって、車体BDには前転方向のモーメントが付与され、アッパアーム63側のブッシュ71等が弾性変形する。これにより、キングピン軸線KLが立ってキャスタ角θ1が減少する。
【0045】
例えば加速要求がなく停車状態を維持する場合、制御装置4は、第1キャスタ角変更制御において、後輪12の駆動力を受けても停車状態を維持可能な制動力を前輪11に付与する。後輪12の駆動力は、例えば、ブッシュ71が潰れる程度の力(ブッシュ71が潰れるのに必要な力)に設定される。
【0046】
また例えば、加速要求がなく微速前進状態が続いている場合、制御装置4は、第1キャスタ角変更制御において、後輪12の駆動力が前輪11の制動力に打ち勝って微速で前進し且つブッシュ71が潰れるように、後輪12の駆動力及び前輪11の制動力を設定する。制御装置4は、第1キャスタ角変更制御実行中に加減速要求を受信した場合、その要求に応じて駆動力を変更し、実行条件(0≦車速≦所定速度)に合う限り、第1キャスタ角変更制御を実行し続ける。
【0047】
(第2キャスタ角変更制御)
第2キャスタ角変更制御は、駆動力付与装置2が前輪11に駆動力を付与可能に構成された車両、すなわち前輪駆動車又は四輪駆動車にて実行可能な制御である。第2キャスタ角変更制御において、微速走行状態は、停車状態を起算点として車速が所定車速を超えることなく車両が後進している状態(以下「微速後進状態」ともいう)である。
【0048】
制御装置4は、停車状態又は微速後進状態において、転舵要求を受信した場合、第2キャスタ角変更制御として、前輪11に後進方向の駆動力を付与し、且つ後輪12に制動力を付与する。
図8に示すように、第2キャスタ角変更制御によれば、車体BDは前輪11の駆動力により後進しようとし、後輪12は止まろうとする。これにより、車体BDには前転方向のモーメントが発生し、アッパアーム63のブッシュ71等が弾性変形し、キングピン軸線KLが立ってキャスタ角θ1が減少する。第2キャスタ角変更制御における駆動力及び制動力の設定については、第1キャスタ角変更制御と同様の考え方が適用される。
【0049】
(第3キャスタ角変更制御)
第3キャスタ角変更制御は、駆動力付与装置2が前輪11及び後輪12に駆動力を付与可能に構成された車両、すなわち四輪駆動車にて実行可能な制御である。制御装置4は、停車状態又は微速走行状態において、転舵要求を受信した場合、第3キャスタ角変更制御として、前輪11に後進方向の駆動力を付与し、且つ後輪12に前進方向の駆動力を付与する。
【0050】
制御装置4は、停車状態を維持しつつ第3キャスタ角変更制御を実行する場合、車両が発進せず且つブッシュ71が弾性変形するように、前輪11の制動力と後輪12の制動力を同じ、又は前後輪11、12の何れか一方の駆動力を他方よりも大きく設定する。制御装置4は、微速前進状態を維持しつつ第3キャスタ角変更制御を実行する場合、車両が微速で前進し且つブッシュ71が弾性変形するように、後輪12の駆動力を前輪11の駆動力よりも大きく設定する。制御装置4は、微速後進状態を維持しつつ第3キャスタ角変更制御を実行する場合、車両が微速で後進し且つブッシュ71が弾性変形するように、前輪11の駆動力を後輪12の駆動力よりも大きく設定する。
【0051】
第3キャスタ角変更制御では、前輪11及び後輪12には、それぞれ前輪11と後輪12との離間距離が小さくなる方向に駆動力が付与される。したがって、例えば停車状態において、第3キャスタ角変更制御は、第1及び第2キャスタ角変更制御に比べて、ブッシュ71を弾性変形させる力が車体BDに加わりやすく、キングピン軸線KLを立たせやすい(キャスタ角を減少させやすい)といえる。
【0052】
このように第3キャスタ角変更制御における微速走行状態は、微速前進状態と微速後進状態とを含む。したがって、本実施形態のように第1~第3キャスタ角変更制御を実行可能な車両では、例えば、停車状態、微速前進状態、及び微速後進状態の各状態でいずれのキャスタ角変更制御を実行するかが予め設定されている。なお、制御装置4は、状況に応じて、第1~第3キャスタ角変更制御から選択するように設定されてもよい。
【0053】
(キャンバ角変更制御)
制御装置4は、さらにキャンバ角変更制御を実行可能に構成されている。上記のように、車両制御システム1は、前輪11(転舵輪)に対して設けられた、回転によりキャンバ角θ2を変更可能なアジャストカム67と、アジャストカム67を回転させる電動モータ68と、を備えている。アジャストカム67はキャンバ角調整機構の一例であり、電動モータ68は駆動源の一例である。制御装置4は、車速に応じて、電動モータ68を制御し、キャンバ角θ2を調整するキャンバ角変更制御を実行する。電動モータ68の回転によりアジャストカム67が回転し、アッパアーム63の左右方向の位置が変更される。以下、キャンバ角θ2を、キャンバ角θ2の絶対値として説明する。
【0054】
例えば
図4の状態(ネガティブキャンバ)において、アジャストカム67による調整によりアッパアーム63の接続の中心65aが車体BDの中心側(
図4の左側)に移動した場合、キングピン軸線KLが左側に傾くとともに、タイヤ14の中心線CLも左側に傾く。これにより、キャンバ角θ2は大きくなる。一方、
図4の状態で、中心65aが外側(
図4の右側)に移動した場合、キングピン軸線KLが右側に傾くとともに、中心線CLも右側に傾く。これにより、中心線CLが垂直線VLを超えるまでは、キャンバ角θ2は小さくなる。
【0055】
キャンバ角θ2が大きくなるほど、タイヤ14の中心線CLが傾き、タイヤ14と接地面(例えば路面)との接地面積が小さくなる。これにより、前輪11の転舵角を変更する際におけるタイヤ14と接地面との間の摩擦力は小さくなり、転舵に必要な力は小さくなる。制御装置4は、例えば、車速が所定車速以下の場合にキャンバ角θ2を大きくし、車速が所定車速を超えた場合にキャンバ角θ2を小さくするように設定されてもよい。これにより、低速時にキャンバ角θ2を大きくして転舵に必要な力を小さくし、通常の走行速度の際には、キャンバ角θ2を初期の設定角度に戻し、所定の性能を発揮させることができる。
【0056】
本実施形態の制御装置4は、キャスタ角変更制御の実行に応じて、キャンバ角変更制御を実行して、キャンバ角θ2を大きくする。つまり、制御装置4は、キャスタ角変更制御が実行される状況で、キャンバ角θ2を大きくする。これにより、停車状態又は微速走行状態において、転舵に必要な力はさらに小さくなる。制御装置4は、例えば、キャスタ角変更制御を実行した後に、キャンバ角変更制御を実行する。なお、キャンバ角変更制御の実行タイミングは、キャスタ角変更制御を実行の前でも後でも同時でもよい。キャンバ角変更制御は、ネガティブキャンバの車両でもポジティブキャンバの車両でも実行可能である。キャスタ角変更制御及びキャンバ角変更制御は、サスペンションジオメトリ調整制御ともいる。
【0057】
第1キャスタ角変更制御を例にして車両制御システム1の制御例を説明すると、
図10に示すように、各種センサの情報に基づいて、車両が停車状態又は微速前進状態であるかが判定される(S1)。車両が停車状態又は微速前進状態である場合(S1:Yes)、転舵要求があるか否かが判定される(S2)。転舵要求があった場合(S2:Yes)、前輪11に制動力が付与される(S3)。続いて、後輪12に前進方向の駆動力が付与される(S4)。ステップS3、S4により第1キャスタ角変更制御が実行され、キャスタ角θ1が小さくなる。続いて、キャンバ角変更制御が実行され(S5)、キャンバ角θ2が大きくなる。このように、本実施形態によれば、停車状態又は微速前進状態において、キャスタ角θ1が小さくなり、キャンバ角θ2が大きくなって、転舵時に必要な力はより小さくなる。
【0058】
車速が所定車速を超えると、キャスタ角変更制御は終了し、加減速要求に応じた通常の駆動力が付与される。また、キャンバ角変更制御によりキャンバ角θ2が大きくなった後、車速が所定車速を超えると、制御装置4は、キャンバ角変更制御によりキャンバ角θ2を小さくする(例えば初期値にする)。
【0059】
第1キャスタ角変更制御に替えて第2キャスタ角変更制御が実行される場合、ステップS1にて車両が停車状態又は微速後進状態であるかが判定され、ステップS3にて後輪12に制動力が付与され、ステップS4にて前輪11に後進方向の駆動力が付与される。第1キャスタ角変更制御に替えて第3キャスタ角変更制御が実行される場合、ステップS1にて車両が停車状態又は微速走行状態であるかが判定され、ステップS3での制動力の付与がなく、ステップS4にて前輪11に対する後進方向への駆動力と後輪12に対する前進方向の駆動力とが同時に付与される。
【0060】
(転舵アシスト制御)
転舵に必要な力(転舵モータ522bの負荷)を小さくする制御として、制御装置4は、キャスタ角変更制御及びキャンバ角変更制御の他に、左右の車輪に互いに異なる駆動力を付与する転舵アシスト制御を実行してもよい。制御装置4は、車両を前進させて曲げる際、転舵アシスト制御として、例えば、旋回外輪に前進方向の駆動力を付与し、旋回内輪に後進方向の駆動力を付与してもよい。これにより、曲がりたい向きにヨーモーメントが発生し、転舵に必要な力は小さくなる。上記の転舵アシスト制御において、制御装置4は、旋回内輪に対して、旋回外輪の駆動力よりも小さい前進方向の駆動力(0を含む)を付与してもよいし、あるいは制動力を付与してもよい。これによっても、曲がりたい向きにヨーモーメントを発生させることができる。前進同様の原理により、後進の際も転舵アシスト制御は実行可能である。
【0061】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、駆動力付与装置2の駆動源は、インホイールモータ21に限らず、例えばエンジンや車体BDに配置されたモータであってもよい。本発明は、例えばガソリン車、ハイブリッド車、電気自動車、及び燃料電池車の何れでも適用可能である。また、車両が後輪駆動車であれば第1キャスタ角変更制御を適用でき、車両が前輪駆動車であれば第2キャスタ角変更制御を適用できる。また、本発明は、自動運転車にも適用できる。
【0062】
また、制動力付与装置3は、例えば電動パーキングブレーキであってもよい。また、ステアリングシステム5は、ステアバイワイヤ型に限らず、例えばパワーステアリング型のシステムであってもよい。パワーステアリング型のステアリングシステムが搭載された車両の場合でも、キャスタ角変更制御によって転舵角を変更するために必要な力は小さくなり、転舵をアシストする力又はドライバの操作力は小さくなる。また、弾性変形するのはブッシュ71に限らず、他の弾性部材、例えば各種ロッドに設けられたブッシュであってもよい。
【0063】
また、制御装置4は、停車状態のときにのみキャスタ角変更制御を実行するように設定されてもよい。この場合、車両が停車状態から発進した際に、キャスタ角変更制御が終了し、車体BDに加わる付勢力や慣性力が消えるが、ブッシュ71の潰れ等は徐々に戻るため、キャスタ角θ1が初期状態に戻るまである程度時間がかかる。したがって、発進後もしばらくはキャスタ角変更制御の効果が持続される。キャスタ角変更制御の終了に限らず、キャスタ角変更制御実行中に車両が発進することにより、力の状態が変化し得るが、この場合もキャスタ角θ1が徐々に戻るため、キャスタ角変更制御の効果はある程度持続される。なお、制御装置4は、微速走行状態のときのみキャスタ角変更制御を実行するように設定されてもよい。また、制御装置4は、キャスタ角変更制御を実行し、キャンバ角変更制御を実行しないように構成されてもよい。
【0064】
また、サスペンション装置6は、ダブルウィッシュボーン型に限らず、例えばストラット型であってもよい。この場合、例えばショックアブソーバの上端部を車体に支持するアッパサポートの中心が、キングピン軸線KLの上側の通過点であり、本実施形態のアッパアーム63の接続の中心65aに相当する。このあたりの構成も、各部に弾性部材が用いられているため、キャスタ角変更制御によってキングピン軸線KLを立てることが可能である。また、ストラット型であっても、例えばロアアームの位置を調整することで、キャンバ角変更制御を実行することができる。
また、ストラット型であっても、例えばストラットボルトとしてアジャストカムを採用して実施形態同様に電動モータでキャンバ角を調整するキャスタ角変更制御を実行することもできる。また、キャンバ角調整機構は、例えば、アッパアーム63の一端部に固定されたナットと、ナットに螺合したボルトとで構成されてもよい。実施形態のように電動モータの駆動力でボルトを回転させることで、ナット及びアッパアーム63の左右方向の位置を調整することもできる。また、アッパアーム63とベース板61との接続構成は、アジャストカム67に限らず、ボルトとナットを用いた構成であってもよい。このような構成でも接続部分には弾性部材(例えばブッシュ)が配置されている。このように、本発明は、上記実施形態の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…車両制御システム、2…駆動力付与装置、3…制動力付与装置、4…制御装置、5…ステアリングシステム、6…サスペンション装置、67…アジャストカム、68…電動モータ。