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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
H05H1/24
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021147564
(22)【出願日】2021-09-10
(65)【公開番号】P2023040527
(43)【公開日】2023-03-23
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙介
(72)【発明者】
【氏名】平岡 尊宏
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-17419(JP,A)
【文献】特開2003-303814(JP,A)
【文献】国際公開第2009/069204(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136669(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/030191(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0225502(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24
H01L 21/3065
H01L 21/31
C23C 16/513
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に延在する板形状を呈し、第一面と、前記第一方向に直交する第二方向に関して前記第一面とは反対側に位置する第二面とを有する誘電体基板と、
前記誘電体基板の前記第一面側に配置された第一電極と、
前記誘電体基板の前記第二面から前記第二方向に離間した位置に配置された第二電極と、
前記誘電体基板と前記第二電極との間の空隙によって形成され、前記第一方向及び前記第二方向に直交する第三方向にガスが通流するガス流路と、
前記ガス流路の前記第三方向に係る一方の端部である第一端に設けられ、前記第一方向に延在する吹出口とを備え、
前記誘電体基板の前記第一面は、少なくとも前記第三方向に関して前記吹出口とは反対側の端部である第二端から第一基準箇所までの間が前記第三方向に平行な平坦面であり、
前記誘電体基板の前記第二面は、少なくとも前記第三方向に関して前記第二端から第二基準箇所までの間が前記第三方向に平行な平坦面であり、
前記誘電体基板の前記第二面に前記ガス流路を介して対向する前記第二電極の主面である第三面は、少なくとも前記第三方向に関して前記第二端から第三基準箇所までの間が前記第三方向に平行な平坦面であり、
前記第一基準箇所から前記第一端までの第一特定領域内の前記第一面、前記第二基準箇所から前記第一端までの第二特定領域内の前記第二面、及び前記第三基準箇所から前記第一端までの第三特定領域内の前記第三面のうち、少なくともいずれか1つの面は、前記第三方向に対する傾斜面であり、
前記第一電極は、少なくとも前記第一基準箇所と前記第一端との間に配置されており、
前記第一方向に見たときに、前記第一特定領域内の前記第一面と前記第三方向とのなす角度をα、前記第二特定領域内の前記第二面と前記第三方向とのなす角度をβ、及び前記第三特定領域内の前記第三面と前記第三方向とのなす角度γが、下記(1)式及び(2)式の両者を満たすことを特徴とする、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【数1】
(ただし、(1)式におけるεrは前記誘電体基板の比誘電率であり、(2)式において、Aα、Aβ及びAγは、それぞれ前記第一特定領域、前記第二特定領域、及び前記第三特定領域の前記第三方向に係る長さに対応し、 d1(0) は前記第一基準箇所と前記第二基準箇所のうち前記第三方向に関して前記第二端に近い側の基準箇所における前記誘電体基板の前記第二方向に係る厚みであり、 d2(0) は前記第二基準箇所と前記第三基準箇所のうち前記第三方向に関して前記第二端に近い側の基準箇所における前記ガス流路の前記第二方向に係る高さである。)
【請求項2】
前記誘電体基板は、前記第二方向に係る厚みが前記第三方向の位置によらず一定であるか、又は前記第一基準箇所から前記第一端に向かって前記第二方向に係る厚みが逓増する形状を呈することを特徴とする、請求項1に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項3】
前記第一電極が高電圧側電極であり、前記第二電極が低電圧側電極であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項4】
前記第二電極に対して、前記誘電体基板とは反対側の位置から周縁部において当接されたガスバッファ基板と、
前記ガスバッファ基板と前記第二電極とで挟まれた空隙に対して前記ガスを導入するガス送出装置と、
前記第一方向の異なる複数の箇所において、前記第二方向に関して前記第二電極を貫通する連絡孔とを備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項5】
前記連絡孔は、前記第三方向に関して、前記第一電極よりも前記第二端側に位置していることを特徴とする、請求項4に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項6】
前記誘電体基板は、主たる材料が酸化アルミニウム又は窒化アルミニウムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項7】
前記第一電極は、前記第三方向に関して前記第一端から前記第二端側に、10mm未満の距離だけ後退した位置に配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ発生装置は、プラスチック、紙、繊維、半導体、液晶、又はフィルム等の製造工程で用いられている。例えば、プラズマ発生装置からのプラズマを被処理物に照射することにより、被処理物の表面に対する親水性、接着性、若しくは印刷密着性等を向上させるための表面処理、被処理物の表面に存在する有機物の除去及び洗浄、又は被処理物の表面に対する酸化膜の形成が行われる。
【0003】
図18は、従来のプラズマ発生装置を模式的に示す断面図である。特許文献1には、図18に示すように、対向する一対の電極(201,201)を備え、それぞれの電極の対向面(202,202)を逆向きに傾斜させたプラズマ発生装置200が開示されている。すなわち、下面開口226に近づくに連れて、一対の対向面(202,202)の間隔が狭まるように配置されている。
【0004】
プラズマ発生装置200は、上面開口223からプラズマ源ガスGcを導入しながら一対の電極(201、201)間に電圧を印加することで、一対の対向面(202,202)に挟まれる領域(放電領域207)に多数本のストリーマ放電Sdを発生させる。プラズマ源ガスGcは上面開口223から噴射板224のオリフィス225を通じて、放電領域207に導入される。このため、プラズマ源ガスGcは、オリフィス225により加速されることで高速で放電領域207に噴射される。この噴射によりプラズマ源ガスGcの乱流が生じ、ストリーマ放電Sdが放電領域207内で分散する。
【0005】
この後、分散したストリーマ放電Sdにより、放電領域207の全体にわたってほぼ均一にプラズマPcが生成される。生成されたプラズマPcは、放電領域207の下面開口226を通じて処理空間205にプラズマジェットとして噴射し、被処理物240に吹き付けられる。特許文献1には、上記構成を採用することにより、均一なプラズマを生成することができると記載されている。
【0006】
電極(201,201)の上面と対向面(202,202)は、誘電体203により被覆されている。誘電体203の被膜の厚みは全体にわたって一定であり、例えば、0.5mm~5mmである。
【0007】
また、別の方法として、マイクロストリップ線路とアース導体の間にマイクロ波を入力することでプラズマを発生させる装置が知られている(特許文献2参照)。この装置によれば、誘電体層に傾斜を持たせて厚みを調整することで、インピーダンスマッチングが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-009890号公報
【文献】特開2008-282784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されているプラズマ発生装置200は、乱流を発生させることにより放電領域207の全体にわたってほぼ均一にプラズマPcを生成することを目指している。しかしながら、例えば、放電領域207内のうち、下面開口226から遠い位置で生成したプラズマPcは、下面開口226に向かって移動する間に消失してしまう。このため、図18に示すような態様で電極(201,201)を配置した場合、下面開口226から吹き出されるプラズマPcは、下面開口226の全領域からプラズマPcが均一に照射されているとはいえない。このことは、被処理物240の表面における処理の程度にムラを生じさせる原因となる。
【0010】
特許文献2に開示されているプラズマ発生装置は、マイクロ波を利用する技術である。マイクロ波によるプラズマは、電界強度が強い定在波の腹の部分において高い密度で発生する。定在波は、マイクロ波の入力方向だけではなく、入力方向と直交する方向にも発生するため、吹出口を正面から見たときに、プラズマの密度の高い箇所と低い箇所とが交互に発生することになる。そのため、マイクロ波によるプラズマでは、吹出口の全領域から、プラズマを均一に噴射させることは容易ではない。
【0011】
更に、定在波を発生させる観点から、そもそも装置自体を長尺化することができない。このため、例えば、被処理物の表面処理の用途で用いようとしても、極めて処理能力が低く、適用が事実上困難である。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑み、効率的に吹出口の全領域からプラズマを均質に噴射することのできる、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る誘電体バリア放電式プラズマ発生装置は、
第一方向に延在する板形状を呈し、第一面と、前記第一方向に直交する第二方向に関して前記第一面とは反対側に位置する第二面とを有する誘電体基板と、
前記誘電体基板の前記第一面側に配置された第一電極と、
前記誘電体基板の前記第二面から前記第二方向に離間した位置に配置された第二電極と、
前記誘電体基板と前記第二電極との間の空隙によって形成され、前記第一方向及び前記第二方向に直交する第三方向にガスが通流するガス流路と、
前記ガス流路の前記第三方向に係る一方の端部である第一端に設けられ、前記第一方向に延在する吹出口とを備え、更に以下の特徴を示す。
【0014】
前記誘電体基板の前記第一面は、少なくとも前記第三方向に関して前記吹出口とは反対側の端部である第二端から第一基準箇所までの間が前記第三方向に平行な平坦面であり、
前記誘電体基板の前記第二面は、少なくとも前記第三方向に関して前記第二端から第二基準箇所までの間が前記第三方向に平行な平坦面であり、
前記誘電体基板の前記第二面に前記ガス流路を介して対向する前記第二電極の主面である第三面は、少なくとも前記第三方向に関して前記第二端から第三基準箇所までの間が前記第三方向に平行な平坦面である。
【0015】
前記第一基準箇所から前記第一端までの第一特定領域内の前記第一面、前記第二基準箇所から前記第一端までの第二特定領域内の前記第二面、及び前記第三基準箇所から前記第一端までの第三特定領域内の前記第三面のうち、少なくともいずれか1つの面は、前記第三方向に対する傾斜面である。
【0016】
前記第一電極は、少なくとも前記第一基準箇所と前記第一端との間に配置されている。
【0017】
前記第一方向に見たときに、前記第一特定領域内の前記第一面と前記第三方向とのなす角度をα、前記第二特定領域内の前記第二面と前記第三方向とのなす角度をβ、及び前記第三特定領域内の前記第三面と前記第三方向とのなす角度γが、下記(1)式及び(2)式の両者を満たす。
【数1】
【0018】
ただし、(1)式におけるεrは前記誘電体基板の比誘電率である。
また、(2)式において、Aα、Aβ及びAγは、それぞれ前記第一特定領域、前記第二特定領域、及び前記第三特定領域の前記第三方向に係る長さに対応し、 d1(0) は前記第一基準箇所と前記第二基準箇所のうち前記第三方向に関して前記第二端に近い側の基準箇所における前記誘電体基板の前記第二方向に係る厚みであり、 d2(0) は前記第二基準箇所と前記第三基準箇所のうち前記第三方向に関して前記第二端に近い側の基準箇所における前記ガス流路の前記第二方向に係る高さである。
【0019】
上記構造の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置によれば、上記(1)式及び(2)式を満たすように誘電体基板及び電極の形状が設定されているため、ガスがガス流路内を第三方向に通流すると、吹出口に近づくに連れて電界強度が高められる。このため、吹出口に極めて近い箇所においては、極めて高い強度の電界が形成され、この領域で集中的にプラズマが発生する。これにより、吹出口から被処理物に対して、効率的にプラズマを含むガスを吹き付けることができ、被処理物を効率的に処理することが可能となる。
【0020】
なお、上記(1)式及び(2)式を満たすことで、ガス流路内において吹出口に近づくに連れて電界強度が高められる理由の詳細については、「発明を実施するための形態」の項で後述される。
【0021】
前記誘電体基板は、主たる材料が酸化アルミニウム(Al23)又は窒化アルミニウム(AlN)であるものとしても構わない。
【0022】
ここで「主たる材料」とは、構成材料を成分分析した場合に、80%以上を占める成分を指す。
【0023】
酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムは、比誘電率が比較的低く、且つ、物理的な強度や硬度が比較的高い。従って、前記誘電体基板の主たる材料を酸化アルミニウム又は窒化アルミニウムとすることで、単位電力当たりのプラズマの生成量をより多くできると共に、誘電体基板をより薄くしても破損のおそれを低減できる。
【0024】
この中でも、窒化アルミニウムは熱伝導性がよく、誘電体基板の熱を効率よく放熱することができる。これにより、第一電極及び第二電極のうち、高電圧が印加される側の電極(高電圧側電極)の温度上昇を抑制できるため、窒化アルミニウムと高電圧側電極の熱膨張による界面のストレスを低減できる。この結果、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の長寿命化が図られる。
【0025】
前記第一電極は、箔状の金属であっても構わない。金属材料は限定されないが、導電性が高い材料が好ましく、典型的な例としては、銅、銀、アルミニウム、及び金からなる群に属する一種以上の材料又は前記材料の化合物である。
【0026】
前記第一電極は、金属を含有した焼結体であっても構わない。金属を含有した焼結体は、金属ペーストを印刷して電極を形成できるため、第一電極を誘電体基板上に形成する際に接着剤を用いる必要がない。
【0027】
前記第一電極は、メッキ、蒸着、又は、スパッタリング、溶射により形成されていても構わない。この構成の場合も同様に、前記第一電極を誘電体基板上に形成する際に接着剤を用いる必要がない。
【0028】
前記誘電体基板は、前記第二方向に係る厚みが前記第三方向の位置によらず一定であるか、又は前記第一基準箇所から前記第一端に向かって前記第二方向に係る厚みが逓増する形状を呈するものとしても構わない。
【0029】
前記第一電極が高電圧側電極であり、前記第二電極が低電圧側電極であるものとしても構わない。
【0030】
この場合において、前記誘電体バリア放電式プラズマ発生装置は、前記第一電極に接続された電源装置を備えるものとしても構わない。電源装置は、好適には、電圧が3kV~20kV、周波数が20kHz~150kHzの電圧信号を第一電極に供給可能な構成である。
【0031】
上記のような電源装置を備えると、誘電体バリア放電方式にてプラズマを好適に発生させることができる。上限を150kHzとした理由は、その波長はプラズマ照射長を考慮したこと、また、EMC規格での雑音端子電圧で検出される周波数が150kHzより高周波であることによる。
【0032】
前記誘電体バリア放電式プラズマ発生装置は、更に、
前記第二電極に対して、前記誘電体基板とは反対側の位置から周縁部において当接されたガスバッファ基板と、
前記ガスバッファ基板と前記第二電極とで挟まれた空隙に対して前記ガスを導入するガス送出装置と、
前記第一方向の異なる複数の箇所において、前記第二方向に関して前記第二電極を貫通する連絡孔とを備えるものとしても構わない。
【0033】
上記構成によれば、ガス送出装置から導入されたガスは、ガスバッファ基板と第二電極とで挟まれた空隙内に貯留された後、複数の連絡孔を通じてガス流路に流入する。これにより、ガス流路に流入したガスを、その流れを乱すことなく吹出口から均質に流出させることができる。
【0034】
特に、連絡孔が第一方向の複数の箇所に設けられることで、第一方向の異なる複数の位置からガス流路に対してガスが導入される。これにより、ガス流路を流れるガスを層流化しやすい。
【0035】
上記において、前記連絡孔は、前記第三方向に関して、前記第一電極よりも前記第二端側に位置しているものとしても構わない。
【0036】
前記第一電極は、前記第三方向に関して前記第一端から前記第二端側に、前記 d1(0) 未満の距離だけ後退した位置に配置されているものとしても構わない。
【0037】
吹出口近辺では、誘電体基板を介さずに、第一電極と第二電極との間で直接放電が生じるおそれがある。このような放電が生じると、第一電極、第二電極、又は誘電体基板を損傷させる場合があり、このとき、これらの構成材料が不純物としてプラズマに混入して、被処理物の表面に付着するおそれがある。
【0038】
放電効率の観点に立てば、第三方向に関して、第一電極の端部が吹出口の最先端(第一端)に一致するように配置した方が有利である。しかしながら、このような配置態様の場合、上記の事情により、誘電体基板上で沿面放電を引き起こすおそれがある。この沿面放電がひとたび発生すると、誘電体バリア放電ではなく直接放電が支配的となり、過剰な放電電流が流れ、電極の破損ひいては電源装置への破損に至る。
【0039】
これに対し、上記のような構成を採用することで、第一電極と第二電極との間での直接放電が抑制されるため、電極や誘電体基板の損傷が抑制され、プラズマガスへの不純物の混入を防止できる。
【0040】
前記誘電体バリア放電式プラズマ発生装置は、更に、前記第二特定領域内の前記第二面上に配置された始動補助部材を備えても構わない。この始動補助部材は、好適には、前記吹出口の極めて近傍、すなわち前記第一端の近傍に配置されるのが好ましい。ただし、第一方向に見たときに始動補助部材の位置と吹出口の位置が揃うように配置されると、始動補助部材と吹出口からのプラズマガスの一部が始動補助部材に衝突することで、始動補助部材が損耗・除去されるおそれがある。一方で、第三方向に関して、始動補助部材が吹出口から離れすぎていると、そもそも始動補助としての機能を実現しない。この観点から、始動補助部材は、吹出口の近傍であって、且つ第三方向に関して第二端側に少しだけ後退した位置に配置されるのが好ましい。この後退距離は10mm未満とするのが好ましく、第一端側における誘電体基板の厚み(後述する図8内の距離d1aに相当)を10mmから差し引いた距離(すなわち10-d1a)未満とするのがより好ましい。
【0041】
誘電体バリア放電は、始動時(放電開始時)には高い電力が必要である一方、ひとたび放電が生じると、その後は入力電力を低下させても放電を維持することができる。かかる事情により、好適には始動時に高い電力が投入される。しかしながら、このような方法では、高電力に対応した大型の電源装置や、放電空間の近傍に配置されたトリガ電極が必要となり、装置全体の規模の拡大を招く懸念がある。
【0042】
プラズマ放電の開始時には、プラズマを発生させる箇所に初期電子の存在が必要である。そこで、上記構成のように始動補助部材を配置すれば、始動初期に初期電子が吹出口近傍のガス流路内に供給される。これにより、大型の電源装置やトリガ電極等が不要となり、小型で安価なプラズマ発生装置を提供できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置によれば、効率的に吹出口の全領域からプラズマを均質に噴射することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示す前記プラズマ発生装置をII-II線で切断した模式的な断面図である。
図3図1に示す前記プラズマ発生装置をIII-III線で切断した模式的な断面図である。
図4】第二電極20を+Z側から見たときの模式的な平面図である。
図5A図2から誘電体基板30を抽出した断面拡大図である。
図5B】誘電体基板30の別構成例を、図5Aにならって図示した断面図である。
図6A図2から第二電極20を抽出した断面拡大図である。
図6B】第二電極20の別構成例を、図6Aにならって図示した断面図である。
図7】プラズマ発生装置の変形例を、図2にならって図示した模式的な断面図である。
図8】第一面31、第二面32、及び第三面23の形状を説明するための模式的な図面である。
図9A】比較例1のプラズマ発生装置の構成を模式的に示す斜視図である。
図9B図9に示すプラズマ発生装置をIXB-IXB線で切断した模式的な断面図である。
図10】実施例1のプラズマ発生装置1を連続運転させたときの、親水化能率の変化を示すグラフである。
図11】ステージ上に所定の間隔で被照射物としてのポリプロピレン(PP)フィルムを配置した様子を示す平面図である。
図12】水接触角の測定結果を示すグラフである。
図13】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図14】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図15】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図16】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図17A】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図17B】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図17C】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図17D】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図17E】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図17F】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図17G】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の一実施形態の別構成を模式的に示す一部拡大断面図である。
図18】従来の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明に係る誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0046】
[構造]
図1は、本実施形態の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置を模式的に示す斜視図である。誘電体バリア放電式プラズマ発生装置1(以下、「プラズマ発生装置1」と略記する。)は、第一電極10と、第二電極20と、誘電体基板30とを備える。なお、図1に示すプラズマ発生装置1においては、更にガスバッファ基板40を備えている。ただし、プラズマ発生装置1がガスバッファ基板40を備えるか否かは任意である。
【0047】
プラズマ発生装置1は、内部においてプラズマガスG1を発生する装置であり、このプラズマガスG1を吹き出す吹出口5を備える。吹出口5は、図1に示すように、Y方向に延在しており、X方向に見てほぼ矩形状を呈している。なお、X方向とY方向に直交する方向をZ方向とする。以下の説明では、適宜、図1に付されたX-Y-Z座標系が参照される。
【0048】
なお、以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0049】
本明細書では、Y方向が「第一方向」に対応し、Z方向が「第二方向」に対応し、X方向が「第三方向」に対応する。
【0050】
図2は、図1におけるプラズマ発生装置1を、II-II線で切断したときの模式的な断面図である。また、図3は、図1におけるプラズマ発生装置1を、III-III線で切断したときの模式的な断面図である。
【0051】
(誘電体基板30)
図1図3に示すように、誘電体基板30はY方向に延在する板状部材である。誘電体基板30は、第一面31と第二面32とを有する(図2参照)。なお、後述するように、誘電体基板30の第一面31側に第一電極10が配置されており、第二面32側に、第二電極20が誘電体基板30から離間して配置されている。
【0052】
なお、図1図2に示す例では、誘電体基板30のZ方向に係る長さ(以下、「厚み」という。)が、X方向に関して吹出口5に近づくに連れて薄くなる構造が採用されているが、この構造はあくまで一例である。誘電体基板30の厚みについての詳細な説明は、図8を参照して後述される。
【0053】
誘電体基板30は、単位電力当たりのプラズマの生成量をより多くする観点から、比誘電率の低い材料で構成されていることが好ましい。前記材料の比誘電率の値は、10以下であるのが好ましい。なお、前記材料の比誘電率は低いほど好ましいが、典型的には、4~10とすることができる。
【0054】
誘電体基板30の材料は、特に限定されないが、上述したように可能な限り比誘電率の低い材料であるのが好適である。更に、耐久性の観点から、前記材料は、セラミックスが好ましい。セラミックスとしては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ステアタイト等が挙げられる。これらの材料は、比誘電率が比較的低く、且つ比較的高い強度を有して耐久性に優れる。従って、誘電体基板30を酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、又はステアタイトで構成すれば、単位電力当たりのプラズマの生成量をより多くできる。また、耐久性に優れるため、誘電体基板30の厚みを薄くしても破損のおそれが少ない。
【0055】
誘電体基板30は、前述した材料を母材として、電子生成を補助する物質を含有したものであってもよい。前記電子生成を補助する物質としては、銀、白金、銅、炭素(カーボン)、又は遷移金属化合物等が挙げられる。前記電子生成を補助する物質に電界が印加されることにより初期電子が生成され、放電空間(後述するガス流路3)に放出される。このため、誘電体基板30を上記の構成とすることで、始動性を有利に働かせることができる。
【0056】
前記電子生成を補助する物質の含有量は、誘電体基板30全体に対して(誘電体基板30を100質量%としたときに)、好適には1質量%以下である。この物質の含有量があまりに多いと、放電に伴って当該物質が蒸発・飛散してプラズマガスG1に混入し、プラズマガスG1を照射する対象である被処理物に吹き付けられる懸念がある。なお、始動性を向上させる効果を充分に発現させる観点からは、前記物質の含有量は実験的に0.05質量%以上とすることが好ましい。
【0057】
(第一電極10)
図2に示すように、第一電極10は誘電体基板30の第一面31上に配置されている。
【0058】
プラズマ発生装置1は、第一電極10と後述する第二電極20との間で、誘電体基板30及びガス流路3を介して電圧が印加されることで、ガス流路3内を通流するガスをプラズマ化して、プラズマガスG1を生成する。このため、第一電極10と第二電極20のうち、いずれか一方が高電圧側の電極であり、他方が低電圧側の電極を構成する。以下の実施形態では、第一電極10が高電圧側の電極であり、第二電極20が低電圧側の電極であるものとして説明するが、両者が逆転しても構わない。
【0059】
図1及び図3に示すように、本実施形態において、第一電極10は、Y方向に係る長さ(以下、「幅」という。)が誘電体基板30の幅とほぼ同等である。プラズマ発生装置1は、第一電極10が設けられている領域の-Z側においてプラズマを発生させる。このため、吹出口5から幅広に(Y方向に関して長い領域に)プラズマガスG1を噴射させる観点からは、第一電極10をなるべく幅広に形成することが好ましい。ただし、本発明は、第一電極10の幅には限定されない。
【0060】
本実施形態において、第一電極10は、X方向に関して吹出口5よりも-X側に少し後退している。すなわち、図2を参照すると、第一電極10の+X側の端部10aは、プラズマ発生装置1の吹出口5側(+X側)に係る端部から、-X側に少し後退している。なお、便宜上、プラズマ発生装置1の吹出口5側(+X側)に係る端部を「第一端71」と称し、吹出口5とは反対側(-X側)に係る端部を「第二端72」と称することがある。
【0061】
吹出口5の近傍では、誘電体基板30を介さずに、第一電極10と第二電極20との間で直接放電するおそれがある。このような放電が生じると、電極(10,20)又は誘電体基板30を損傷し、これらの構成材料が不純物としてプラズマガスG1に混入する。
【0062】
放電効率の観点では、第一電極10の+X側の端部10aを可能な限り吹出口5に接近する、すなわち第一端71とほぼ一致させるのが好ましい。しかし、そのような構成を採用すると、第一電極10と第二電極20との間で沿面放電が生じるリスクが高まり、誘電体バリア放電ではなく直接放電が支配的になってしまう。そこで、上記のように、第一電極10の+X側の端部10aを第一端71から-X側(第二端72側)に少し後退させた構成を採用している。この後退距離、すなわち、第一電極10の+X側の端部10aと第一端71との間の距離は、典型的な一例として1mm~5mmである。
【0063】
第一電極10の材料としては、特に限定されないが、導電性の高いものが好ましく、典型的な例としては、銅、銀、アルミニウム、及び金からなる群に属する一種以上の材料又は前記材料の化合物である。また、第一電極10は、箔状の金属とすることができる。一例として、片面に粘着加工が施されている銅箔、アルミニウム箔などの金属箔が挙げられる。
【0064】
第一電極10は、導電性の金属を含有した焼結体であっても構わない。前記金属を含有した焼結体は、誘電体基板30の第一面31に、金属ペーストを印刷して形成できるため、製造時に接着剤を用いる必要がない。なお、接着剤を用いない観点からは、第一電極10は、メッキ、蒸着、又は、スパッタリング、又は溶射により形成することも可能である。
【0065】
第一電極10と誘電体基板30(第一面31)とは、極力密着されており、両者の界面には空気の層がないことが好ましい。空気の層があると、その空間の内部で放電が生じ、発生したラジカルによって第一電極10が劣化する可能性があるためである。かかる理由により、第一電極10と誘電体基板30とは両者の離間距離がμmオーダーの範囲内で密着しているのが好ましい。図16を参照して後述するように、両者の密着性を高める観点から、アンカー効果を狙って誘電体基板30の第一面31の表面を荒らして微小な凹凸を形成しても構わない。
【0066】
典型的には、第一電極10は、Z方向に係る長さ(以下、「厚み」という。)が、誘電体基板30の厚みと比べて薄い。特に、第一電極10を高電圧側の電極とすることで、高電圧の印加に伴って第一電極10の材料が膨張しても、第一電極10の厚みが薄いことから、膨張の影響が誘電体基板30にとって軽微なものとなる。
【0067】
第一電極10が高電圧側の電極である場合、第一電極10の一部箇所において電源装置63に接続される。電源装置63と第一電極10との接続方法は、電気的に接続され、印加される電圧に耐え得る方法であれば特に制限されない。例えば、半田による接続や、各種のコネクタ(例えば、同軸コネクタ等)を用いた接続が挙げられる。なお、本実施形態のプラズマ発生装置1では、プラズマ発生に際してマイクロ波を用いないため、所定の特性インピーダンスを有する同軸コネクタ又は同軸ケーブルを用いる必要はない。
【0068】
電源装置63から第一電極10に印加される電圧及び周波数は、プラズマ発生装置1において誘電体バリア放電の発生が可能な範囲であればよい。典型的には、印加電圧は3kV~20kVであり、3kV~10kVであるのが好ましい。また、電圧信号の周波数は、典型的には20kHz~1000kHzであり、50kHz~150kHzであるのがより好ましい。上限が150kHzであることが好ましいとした理由は、その波長はプラズマ照射長を考慮したこと、また、EMC規格での雑音端子電圧で検出される周波数が150kHzよりも高周波であることによる。
【0069】
(第二電極20)
第二電極20は、Y方向に延在する板形状を呈し、誘電体基板30の第二面32からZ方向に離間した位置に配置される。第二電極20を低電圧側の電極とする場合、直接、又は抵抗を介して接地電位に接続されていてもよく、電源装置63の低電圧側の出力に接続されていてもよい。
【0070】
図2及び図3に示すように、第二電極20の+Z側の面には、一部箇所に凹部27が形成されている。この凹部27は、Y方向に延在して形成されている。
【0071】
図4は、第二電極20を+Z側から見たときの模式的な平面図である。図2図4によれば、第二電極20は+Y側、-Y側及び-X側の外縁部26において高さが高く、外縁部26よりも内側において、前述した凹部27が形成されていることが分かる。図2図3に示すように、第二電極20の外縁部26は誘電体基板30の第二面32と当接される。つまり、第二電極20の外縁部26と誘電体基板30とが当接されると、第二電極20の+Z側において形成された凹部27は空隙を構成する。この空隙が「ガス流路3」を構成する。
【0072】
図4に示す例では、凹部27の底面において、Y方向に離間した複数の位置に連絡孔53が形成されている。連絡孔53の数は特に制限されないが、本実施形態のように2以上であることが好ましい。連絡孔53は、後述するようにガス送出装置61からのガスG0を、ガス流路3に導くために設けられている。連絡孔53をY方向の異なる位置に複数設けることで、ガス流路3内を流れるガス流を層流としやすくなる。また、ガス流路3に導入される時点で、Y方向の広い範囲にガスを行き渡らせる観点から、Y方向の広い範囲に連絡孔53が形成されているのが好ましい。
【0073】
なお、図4では、独立した複数の連絡孔53が形成されている例が示されているが、Y方向に長い、例えば矩形筒状の連絡孔53が単一で形成されていても構わない。
【0074】
(ガスバッファ基板40)
図1図3に示すように、プラズマ発生装置1は、第二電極20に対して、誘電体基板30とは反対側の位置から、すなわち-Z側から当接されたガスバッファ基板40を備える。本実施形態では、ガスバッファ基板40は周縁部において第二電極20と当接されている。このため、当該周縁部の内側において、第二電極20とガスバッファ基板40との間には空隙51が形成される。
【0075】
前記空隙51には、ガス送出装置61(図2参照)が接続される。ガス送出装置61から処理用ガスG0が送出されると、空隙51内にバッファされた後、連絡孔53を通じてガス流路3に導かれる。
【0076】
(吹出口5)
プラズマ発生装置1は、ガス流路3の+X側の端部、すなわち第一端71に吹出口5を備える。この吹出口5は、ガス流路3内を+X方向に沿って通流中に生成されたプラズマを、ガス流と共に外部に噴射する(プラズマガスG1)。プラズマ発生装置1は、一例として、ガス流路3及び吹出口5の幅(Y方向に係る長さ)が、X座標によらず均一である。これにより、ガス流路3に流入した処理用ガスG0の流れが乱れることなく、吹出口5から均質にプラズマガスG1を噴射できる。なお、このことは本発明者らによるシミュレーションによっても確認されている。
【0077】
ただし、本発明においてはこの例に限定されず、吹出口5の幅は、必要に応じて調整してもよい。例えば、ガス流路3の-X側(第二端72側)の幅と比較して吹出口5の幅を狭くすることで、プラズマガスG1の強度が高められる。逆に、ガス流路3の-X側(第二端72側)の幅と比較して吹出口5の幅を広くすることで、プラズマガスG1の噴射幅を広げられ、処理物に対して同時に吹き付けることのできる範囲が広げられる。
【0078】
ガス送出装置61から送出されるガスは、プラズマ発生装置1の始動時のガスとしては、He、Ne、及びArからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。また、プラズマが発生した後のガスとしては、所望の活性種を生成できるガス、具体的には、水素、酸素、水、窒素などからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0079】
本実施形態では、ガス流路3を流れるガス流が層流であることが好ましい。ガス流が層流であると、プラズマをより均一に噴射させることができる。ここで、層流と乱流とを区別するパラメータとして、レイノルズ数がある。
レイノルズ数Reは、流体の密度をρ(kg/m3)、流速をU(m/s)、特性長さをL(m)、流体の粘性係数をμ(Pa・s)として、
Re=ρ・U・L/μ
であらわされる無次元量である。
【0080】
層流と乱流との境目となるレイノルズ数は、限界レイノルズ数と呼ばれ、その値は、2000~4000と言われている。
【0081】
後述される実施例1で用いたプラズマ発生装置1において、処理用ガスG0の流量:0.005m3/秒(300L/分)、ガス流路3のZ方向の高さ(短辺):0.5mm、ガス流路3のY方向の幅(長辺):700mmとすると、U=14.3(m/秒)、L=9.99×10-4(m)、流体を標準大気圧における乾燥空気として、ρ=1.205(kg/m3)、μ=1.822×10-5(Pa・s)とすればレイノルズ数は945程度となり、限界レイノルズ数以下の値であり、層流と判断できる。
【0082】
[誘電体基板30と第二電極20の形状の関係性]
次に、誘電体基板30と第二電極20の形状について説明する。
【0083】
図5Aは、図2に示す図面から、誘電体基板30のみを抽出した拡大図である。説明の都合上、特に以下の図面では誇張して図示されている場合がある。
【0084】
上述したように、誘電体基板30は、+Z側の第一面31と、-Z側の第二面32とを有する。図5Aに示す例では、第一面31は、X方向に関して第二端72から所定の箇所(「第一基準箇所81」と称する。)までの領域はX方向に平行な平坦面であり、第一基準箇所81から第一端71までの領域(「第一特定領域91」と称する。)は、X方向に対して傾斜した面である。これに対し、図5Aに示す誘電体基板30の第二面32は、X座標の位置によらず、X方向に関して平行な平坦面である。
【0085】
ただし、本実施形態において、誘電体基板30の第二面32が、傾斜面を有することは排除されない。例えば、図5Bに示す例では、誘電体基板30の第二面32は、X方向に関して第二端72から所定の箇所(「第二基準箇所82」と称する。)までの領域はX方向に平行な平坦面であり、第二基準箇所82から第一端71までの領域(「第二特定領域92」と称する。)は、X方向に対して傾斜した面である。なお、図5Bに示す誘電体基板30の第一面31は、図5Aと同様に、第二端72から第一基準箇所81までの領域はX方向に平行な平坦面であり、第一基準箇所81から第一端71までの領域(第一特定領域91)はX方向に対して傾斜した面である。
【0086】
つまり、本実施形態のプラズマ発生装置1において、誘電体基板30の第一面31は、基準となる第一基準箇所81よりも第二端72側の領域はX方向に平行な平坦面である。一方、誘電体基板30の第一面31は、この第一基準箇所81よりも第一端71側の領域(第一特定領域91)は、X方向に対して傾斜した面である。ただし、第一端71側に向けて電界強度を高められれば、第一特定領域91はX方向に平行な平坦面であっても構わない。
【0087】
同様に、本実施形態のプラズマ発生装置1において、誘電体基板30の第二面32は、基準となる第二基準箇所82よりも第二端72側の領域はX方向に平行な平坦面である一方、この第二基準箇所82よりも第一端71側の領域(第二特定領域92)は、X方向に平行な平坦面であるか、X方向に対して傾斜した面である。
【0088】
図6Aは、図2に示す図面から、第二電極20のみを抽出した拡大図である。上述したように、第二電極20は、凹部27の底面を構成する面を有する。以下では、説明の都合上、この面を「第三面23」と称する。
【0089】
図6Aに示す例では、第三面23は、X座標の位置によらずX方向に関して平行な平坦面である。しかし、本実施形態において、第三面23がX方向に対して傾斜した面(傾斜面)を有することは排除されない。例えば、図6Bに示す例では、第三面23は、X方向に関して第二端72から所定の箇所(「第三基準箇所83」と称する。)までの領域はX方向に平行な平坦面であり、第三基準箇所83から第一端71までの領域(「第三特定領域93」と称する。)は、X方向に対して傾斜した面である。
【0090】
つまり、本実施形態のプラズマ発生装置1において、第三面23は、基準となる第三基準箇所83よりも第二端72側の領域はX方向に平行な平坦面である一方、この第三基準箇所83よりも第一端71側の領域(第三特定領域93)は、X方向に平行な平坦面であるか、X方向に対して傾斜した面である。
【0091】
そして、第一面31、第二面32、及び第三面23は、吹出口5の近傍において、ガス流路3内を+X側に進むに連れて電界強度が高まるような関係となるよう、傾斜度合いが設定されている。この関係については、図8を参照して後述される。
【0092】
ところで、第一電極10は、X方向に関して第一端71の近傍にのみ配置されていても構わない(図7参照)。吹出口5の近傍の箇所において高電圧が印加されることで、当該箇所のガス流路3内を通流するガスに対して高い電界が印加され、プラズマ化される。
【0093】
図8は、第一面31、第二面32、及び第三面23の形状を説明するための模式的な図面である。なお、理解の容易化のため、一部の構造を誇張して表示している。
【0094】
ここでは、第一面31は、第一基準箇所81より+X側(第一端71側)が傾斜面であるとし、傾斜角度をαとする。なお、本明細書において、「傾斜角度」とは、対象面をY方向に見た時のX方向に平行な線に対する角度で規定され、反時計回りを正の角度として定義する。傾斜角度は、XY平面に対する対象面の角度として規定しても同義である。以下の、第二面32及び第三面23についても同様である。
【0095】
図8では、第一基準箇所81におけるX座標を、xαとしている。なお、α=0°であることもあり得る。この場合、第一面31はX座標によらず平坦面である。
【0096】
第二面32は、第二基準箇所82より+X側(第一端71側)が傾斜面であるとし、傾斜角度をβとする。図8では、第二基準箇所82におけるX座標を、xβとしている。なお、β=0°であることもあり得る。この場合、第二面32はX座標によらず平坦面である。
【0097】
第三面23は、第三基準箇所83より+X側(第一端71側)が傾斜面であるとし、傾斜角度をγとする。図8では、第三基準箇所83におけるX座標を、xγとしている。なお、γ=0°であることもあり得る。この場合、第三面23はX座標によらず平坦面である。
【0098】
あるX座標の値xにおける電界を E(x)、誘電体基板30の厚みを d1(x)、ガス流路3の高さを d2(x) とする。誘電体基板30の比誘電率をεr、ガス流路3内を通流するガスの比誘電率をε0とすると、電界 E(x) は、下記(3)式で規定される。
【0099】
【数2】
【0100】
ここで、+X方向に進むに伴って誘電体基板30の厚みが変化し始める箇所は、第一基準箇所81と第二基準箇所82のうち、-X側(第二端72に近い側)の箇所である。図8の例では、第一基準箇所81に対応する。誘電体基板30の厚みが変化し始める箇所における誘電体基板30の厚みを d1 (0) と規定する。
【0101】
同様に、+X方向に進むに伴ってガス流路3の高さが変化し始める箇所は、第二基準箇所82と第三基準箇所83のうち、-X側(第二端72に近い側)の箇所である。図8の例では、第三基準箇所83に対応する。ガス流路3の高さが変化し始める箇所におけるガス流路3の高さを d2 (0) と規定する。
【0102】
上記の規定及び図8によれば、平面幾何学によって、X座標がxの位置における、誘電体基板30の厚み d1(x)、及びガス流路3の高さ d2(x) は、それぞれ下記(4)式及び(5)式によって表される。
【0103】
【数3】
【0104】
(4)式及び(5)式を上記(3)式に代入すると、下記(6)式が得られる。
【0105】
【数4】
【0106】
ここで、(6)式において分子は定数である。このため、(6)式において、X座標がxの位置における電界 E(x) が、単調的に増加するためには、上式の分母が単調減少すればよく、言い換えれば、[分母の微分値]<0が成立すればよい。これにより、上述した(1)式が導かれる。以下に、(1)式を再掲する。
【0107】
【数5】
【0108】
ところで、X座標がxの位置における、誘電体基板30の厚み d1(x)、及びガス流路3の高さ d2(x) は、第一端71の位置においても、正の値である必要がある。そこで、第一基準箇所81から第一端71までの領域(第一特定領域91)のX方向に係る長さをAα、第二基準箇所82から第一端71までの領域(第二特定領域92)のX方向に係る長さをAβ、第三基準箇所83から第一端71までの領域(第三特定領域93)のX方向に係る長さをAγとすると、第一端71の位置における誘電体基板30の厚み d1(x)、及びガス流路3の高さ d2(x) が正であるためには、平面幾何学の関係から上述した(2)式が導かれる。以下に、(2)式を再掲する。
【0109】
【数6】
【0110】
つまり、上述した(1)式及び(2)式を満たすように、誘電体基板30の面(第一面31、第二面32)、及び第二電極20の面(第三面23)の形状とすることで、ガス流路3内を吹出口5に向かって通流するガスの電界強度が単調的に増加する。これにより、吹出口5の近傍では極めて高い電界強度が実現されるため、高効率でプラズマを発生することができる。
【0111】
プラズマ発生装置1の大きさは特に制限されない。また、誘電体基板30及び第二電極20は、上記(1)式及び(2)式を満たすように構成される。
一例として、外観の寸法は、幅(Y方向の長さ)が750mmであり、長さ(X方向の長さ)が40mmであり、厚み(Z方向の長さ、最も厚い箇所)が20mmである。
誘電体基板30の外形寸法は、幅が750mm、長さが40mm、第一端71における厚み(d1a):0.1mmである。
第二電極20の外形寸法は、幅が750mm、長さが20mm、第一端71における厚みが0.1mmである。
ガス流路3の外形寸法は、幅が700mm、長さが35mmである。
吹出口5の寸法は、開口幅が700mm、開口高さが0.2mmである。
【0112】
[実施例]
図1図3に示す構造を有し、誘電体基板30の面(第一面31、第二面32)、及び第二電極20の面(第三面23)が(1)式及び(2)式を満たすような形状を示し、上記寸法が採用されたプラズマ発生装置1を実施例1とした。なお、誘電体基板30の材質は酸化アルミニウム、第一電極10及び第二電極20はいずれも銅を主材料とした。
【0113】
図9A図9Bに模式的に示す構造を有するプラズマ発生装置100を、比較例1とした。なお、図9A図9Bは、ガスバッファ基板の図示が省略されている。図9Bは、図9AのIXB-IXB線断面図である。
【0114】
すなわち、比較例1のプラズマ発生装置100は、第一電極110と第二電極120と誘電体基板130とを備えるが、誘電体基板130の一対の主面及び第二電極120の誘電体基板130側の面は、全て平坦面である。このため、上記(2)式は満たすものの、(1)式を満たさない。
【0115】
比較例1のプラズマ発生装置100においても、第二電極120と誘電体基板130との間で形成されるガス流路103内を通流するガスは、高電界領域108を通過する際にプラズマ化され、吹出口105より、プラズマガスG1として噴出される。
【0116】
実施例1のプラズマ発生装置1、及び比較例1のプラズマ発生装置100の双方を以下の条件下で運転させ、吹出口(5,105)から2mm離間した位置に、被処理物としてのポリプロピレン製の基材を10mm/秒で通過させた後、基材表面の水接触角を接触角計(協和界面化学株式会社製のDMs-401)を用いて測定した。
【0117】
(運転条件)
印加電圧:7.6kVpp、周波数38kHz
ガス種:窒素
ガス流量:300L/min
【0118】
結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
表1によれば、実施例1の方が比較例1よりも水接触角が小さく、より親水化できていることが分かる。更には、実施例1の方が比較例1よりも水接触角のバラツキが抑制されており、基材に対して均質な処理が行えていることが分かる。
【0121】
次に、実施例1のプラズマ発生装置1を連続運転させたときの、親水化能率の変化を図10に示す。親水化能率は、処理前の水接触角と処理後の水接触角の差分値(Δθ(t))の時間変化割合を示す指標である。より詳細には、運転開始直後(便宜上t=0とする)における前記差分値Δθ(0)を基準としたときの、運転時間tにおける前記差分値Δθ(t)の比率によって示された指標である。つまり、この比率が100%に近いということは、運転開始時と同等の処理能力が実現できているということを表している。
【0122】
図10によれば、実施例1のプラズマ発生装置1の場合、6000時間以上の連続動作をさせても、誘電体基板30や電極(10,20)に対する損傷が認められず、初期性能が維持されていることが分かる。
【0123】
これに対し、比較例1のプラズマ発生装置100を連続運転させると、1時間を超えたところで、損傷が発生し始めた。このため、比較例1のプラズマ発生装置100は、1時間を超える連続運転には不向きである。
【0124】
図11は、ステージ上に所定の間隔で、被処理物としてのポリプロピレン(PP)フィルムを配置した様子を示す平面図である。図11に示すように、ステージ上に所定の間隔で被照射物としてポリプロピレン(PP)フィルムを配置し、実施例1に係るプラズマ発生装置1を用いて上方からプラズマガスG1を照射した。より詳細には、吹出口5から2mm(照射距離)の位置に、PPフィルムを1軸ステージ上に固定し、100mm/秒として吹出口5を往復運動させ、プラズマガスG1の照射を行った。プラズマガスG1の照射回数が2回(2回往復運動した後)、10回(10回往復運動した後)、200回(200回往復運動した後)を計測したタイミングで、各PPフィルム表面の水接触角が測定された。
【0125】
水接触角の測定は下記の条件とした。
接触角計:DMs-401(協和界面科学社製)
液量:2μL
楕円フィッティングで近似。
【0126】
図12は、水接触角の測定結果を示すグラフである。図12から分かるように、水接触角は、いずれの照射条件においても、幅方向(Y方向)において平均値から±10%以内となった。なお、Y座標が10mm、30mm、50mmの箇所にもポリプロピレン(PP)フィルムを配置して同様の試験を行ったところ、図12に示す平均値の±10%以内となった。以上の結果から、実施例1のプラズマ発生装置1によれば、吹出口5のY方向に係る全領域からプラズマガスG1が均一に噴射されていることがわかる。
【0127】
プラズマ発生装置1は、誘電体基板30の面(第一面31、第二面32)、及び第二電極20の面(第三面23)が(1)式及び(2)式を満たすような形状を示す限り、これらの面の傾斜の向きは問わない。例えば、図13に示すように、第一面31がX方向に対して-Z側に傾き、第二面32がX方向に対して+Z側に傾き、第三面23がX方向に対して-Z側に傾く構成でも構わない。この場合、ガス流路3は、第一端71(吹出口5)に近づくに連れて高さ d2(x) が増加している。
【0128】
また、図14に示すように、第一面31がX方向に対して+Z側に傾き、第二面32がX方向に対して-Z側に傾き、第三面23がX方向に対して+Z側に傾く構成でも構わない。この場合、ガス流路3は、第一端71(吹出口5)に近づくに連れて高さ d2(x) が減少している。
【0129】
図15に示すように、第一面31が曲面であっても構わない。この場合であって、微小な領域では平面とみなすことができるため、第一面31を近似した平面31aを用いて、(1)式及び(2)式を満たすようにすればよい。第二面32、第三面23においても同様である。
【0130】
図16に示すように、第一面31の一部に凹凸が形成されていても構わない。上述したように、第一電極10との密着性を向上させる観点で、第一面31に凹凸を設ける方法を採用することができる。この場合は、第一電極10のX方向に係る端部(10a,10b)と誘電体基板30との接触箇所同士を結ぶ平面31aを用いて、(1)式及び(2)式を満たすようにすればよい。
【0131】
[変形例]
プラズマ発生装置1は、誘電体基板30の面(第一面31、第二面32)、及び第二電極20の面(第三面23)が(1)式及び(2)式を満たすような形状を示す限り、図17A図17Gに示すような種々のバリエーションを採用することができる。図17A図17Gは、プラズマ発生装置1の変形例であって、一部要素のみを抜粋して図示した模式的な断面図である。なお、以下の図17A図17Gにおいても、説明の都合上、一部が誇張して図示されている場合がある。
【0132】
なお、以下の変形例の説明においては、上述した実施形態とは異なる箇所のみが説明される。
【0133】
〈1〉図17Aに示す変形例のプラズマ発生装置1は、誘電体基板30の第一面31において、X方向に関して第一電極10と第一端71との間、すなわち第一電極10と吹出口5との間に突起43を備える。この突起43は、誘電体基板30の材質として例示したものが挙げられる。突起43は、誘電体基板30に一体的に形成されていてもよく、別部材として取り付けられていてもよい。
【0134】
X方向に関して第一電極10と吹出口5との間に突起43を備えることで、吹出口5側における第一電極10と第二電極20との沿面距離が確保される。これにより、第一電極10と第二電極20との間の短絡や沿面放電の発生などの、不要な放電が抑制される。
【0135】
同様の観点から、図17Bに示すように、第一電極10の+X側端部10aに当接するように突起43を形成しても構わない。
【0136】
〈2〉図17Cに示す変形例のプラズマ発生装置1は、誘電体基板30の第一面31において、X方向に関して第一電極10と第一端71との間、すなわち第一電極10と吹出口5との間に凹凸部31cを備えている。このような構成によっても、吹出口5側における第一電極10と第二電極20との沿面距離が確保される。
【0137】
〈3〉図17Dに示す変形例のプラズマ発生装置1は、第一電極10の+X側端部10aに、第一電極10を覆う絶縁膜45を備える。この構成により、コロナ放電の発生などの不要な放電を抑止することができる。絶縁膜45としては、ガラス、ガラスを含む焼結体、又はシリコーン、エポキシ等の樹脂素材が挙げられる。
【0138】
〈4〉図17Eに示す変形例のプラズマ発生装置1は、第一端71の近傍、すなわち吹出口5の近傍において、第二電極20の第三面23上に配置された保護層46を備える。保護層46は、誘電体であることが好ましく、誘電体基板30の材質と同一の物質であるのがより好ましい。保護層46の材質の具体例としては、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ステアタイト等が挙げられる。
【0139】
第二電極20の第三面23に保護層46を形成する方法は、特に制限されないが、保護層46の構成材料を溶射して塗布する方法が一例として採用できる。保護層46の厚さとしては、汚染防止の観点から適宜設定できるが、例えば100μm以下である。
【0140】
図17Eに示す変形例のプラズマ発生装置1によれば、吹出口5近傍、言い換えればプラズマが発生する箇所の近傍に保護層46を備えるため、第二電極20の構成材料が蒸発、拡散することを抑制できる。これにより、プラズマガスG1が吹き付けられる被処理物への汚染が防止できる。
【0141】
〈5〉図17Fに示す変形例のプラズマ発生装置1は、第一端71の近傍、すなわち吹出口5の近傍において、誘電体基板30の第二面32上に配置された、始動補助部材47を備える。
【0142】
始動補助部材47の材料としては、炭素(カーボン)、又は遷移金属化合物等が挙げられる。また、始動補助部材47の材料として誘電体基板30よりも比誘電率の高い物質が挙げられる。このとき、誘電損失により、始動補助部材47の構成物質が加熱されて初期電子がガス流路3内に供給される。始動補助部材47の材料としては、カーボンが特に好ましい。カーボンは熱安定性が高いため、温度が上昇しても始動補助部材47の蒸発が生じにくく、プラズマ発生装置1としての信頼性が高められる。
【0143】
なお、始動補助部材47の材料として、より少ない印加電圧で電子放出作用が認められるよう、仕事関数の低い材料でもよい。
【0144】
図17Fに示す変形例のプラズマ発生装置1によれば、吹出口5の近傍に始動補助部材47を備えるため、初期電子をガス流路3内に供給することができ、始動性が向上する。これにより、電源容量の大きいマイクロ波発振装置やスタータ回路装置が不要となり、プラズマ発生装置1を小型且つ安価で製造することができる。
【0145】
〈6〉図17Gに示す変形例のプラズマ発生装置1は、吹出口5に対して+X側に隣接して遮光部材48を備える。遮光部材48は、内部にガスの通流が可能な管体49を有しており、この管体49はガス流路3に連絡されている。図17Gに示す例では、管体49により、プラズマガスG1の吹出方向が-Z方向に変更されている。かかる構成により、ガス流路3内の放電由来の光が、被処理物に照射されることが防止される。
【0146】
〈7〉なお、上述した各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0147】
[動作方法]
上述したプラズマ発生装置1を動作させるに際しては、まず始動時に、He、Ne、及びArからなる群から選ばれる1種以上の始動用ガスをガス流路3に導入してガス流路3内でプラズマを発生させる。その後、ガス流路3内に処理用ガスG0を導入する。処理用ガスG0としては、被処理物に対して行う処理内容に応じて適宜選択され、例えば、水素、酸素、水、窒素など、所望の活性種を生成できるガスが利用される。かかる方法によれば、処理用ガスG0が比較的プラズマ放電しにくいガスであっても、当該処理用ガスG0の物質を含むプラズマガスG1を被処理物に吹き付けることが可能となる。
【符号の説明】
【0148】
1 :誘電体バリア放電式プラズマ発生装置
3 :ガス流路
5 :吹出口
10 :第一電極
10a,10b :第一電極の端部
20 :第二電極
23 :第二電極の面(第三面)
26 :外縁部
27 :凹部
30 :誘電体基板
31 :誘電体基板の面(第一面)
32 :誘電体基板の面(第二面)
40 :ガスバッファ基板
51 :空隙
53 :連絡孔
61 :ガス送出装置
63 :電源装置
71 :第一端
72 :第二端
81 :第一基準箇所
82 :第二基準箇所
83 :第三基準箇所
91 :第一特定領域
92 :第二特定領域
93 :第三特定領域
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図17F
図17G
図18