(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20241119BHJP
F01N 3/22 20060101ALI20241119BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20241119BHJP
F02B 37/18 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
F01N3/20 D
F01N3/22 311B
F01N3/24 N
F01N3/24 T
F02B37/18 A
(21)【出願番号】P 2021206381
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】片山 章弘
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-322427(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105226(WO,A1)
【文献】特開2020-172145(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102020107129(DE,A1)
【文献】米国特許第06018949(US,A)
【文献】特開2017-025785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00
F02D 19/00 - 45/00
F02B 37/00 - 37/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に設置されたタービンと、前記排気通路における前記タービンよりも上流側の部位において前記排気通路から分岐されて前記排気通路における前記タービンよりも下流側の部位において前記排気通路に合流するバイパス通路と、前記バイパス通路における前記排気通路への合流位置に設置されたウェイストゲートバルブと、前記排気通路における前記合流位置よりも下流側の部分に設置された排気浄化用の触媒装置と、を有するエンジンに適用されて、前記エンジンの冷間始動時に前記ウェイストゲートバルブを開弁した状態に保持して前記触媒装置の活性化を促進する触媒早期活性化制御を実行するエンジン制御装置であって、
前記触媒早期活性化制御は、前記ウェイストゲートバルブの開度を既定の第1開度に保持する第1処理の実施後に、前記ウェイストゲートバルブの開度を前記第1開度とは異なる開度とする第2処理を実施することで行われ
、
前記第2処理は、既定の開度範囲内での前記ウェイストゲートバルブの開閉を繰り返す処理である
エンジン制御装置。
【請求項2】
当該エンジン制御装置は、前記触媒早期活性化制御の実行中に、前記触媒装置に流入する排気の熱量を増加させる排気熱量増加制御を実行する
請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記排気熱量増加制御は、前記第2処理の実施中は、前記第1処理の実施中よりも前記排気の熱量の増加量を抑えて行われる
請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記排気熱量増加制御は、前記第1処理の実施中にのみ実行される
請求項2に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャを備えるエンジンを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャにおいて、タービンを迂回して排気を流すバイパス通路と、バイパス通路を開閉するウェイストゲートバルブと、を有するものがある。そして、特許文献1には、バイパス通路及びウェイストゲートバルブを有するターボチャージャを備えるエンジンの制御を行うエンジン制御装置が記載されている。同文献に記載のエンジン制御装置は、エンジンの冷間始動時に、ウェイストゲートバルブを開弁することで、触媒装置が活性化する時期を早める触媒早期活性化制御を行っている。ウェイストゲートバルブを開弁すると、触媒装置への排気の吹き付けが同装置の一部に集中する。そのため、触媒装置全体に均等に排気が吹き付けられる場合よりも、触媒が活性化した部分が形成される時期が早くなる。よって、触媒早期活性化制御を実行することで触媒装置が排気浄化を開始する時期を早められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒早期活性化制御の完了時には、触媒装置の一部のみが活性化した状態にある。よって、触媒早期活性化制御の完了直後にアクセルペダルが踏み込まれて、多量の排気が触媒装置に流入すると、排気の多くが未浄化のまま外気放出される虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するエンジン制御装置は、排気通路に設置されたタービンと、排気通路におけるタービンよりも上流側の部位において排気通路から分岐されて排気通路におけるタービンよりも下流側の部位において排気通路に合流するバイパス通路と、バイパス通路における排気通路への合流位置に設置されたウェイストゲートバルブと、排気通路における上記合流位置よりも下流側の部分に設置された排気浄化用の触媒装置と、を有するエンジンに適用される。同エンジン制御装置は、エンジンの冷間始動時にウェイストゲートバルブを開弁した状態に保持して触媒装置の活性化を促進する触媒早期活性化制御を実行する。そして、同エンジン制御装置は、ウェイストゲートバルブの開度を既定の第1開度に保持する第1処理の実施後に、ウェイストゲートバルブの開度を第1開度とは異なる開度とする第2処理を実施することで触媒早期活性化制御を行っている。
【0006】
ウェイストゲートバルブを開弁すると、触媒装置への排気の吹き付けが同装置の一部に集中する。そして、排気の吹き付けが集中する部位の触媒の昇温が促進される。一方、ウェイストゲートバルブの開度を変更すると、バイパス通路からの排気の吹き出し方向が変化する。そして、排気が集中的に吹き付けられる触媒装置の部位が移動する。上記エンジン制御装置は、触媒早期活性化制御に際してまず第1処理において、触媒装置における特定の部位を昇温している。そして、その後、第2処理において、ウェイストゲートバルブの開度を変更することで、触媒装置における上記特定の部位とは別の部位を昇温している。そのため、ウェイストゲートバルブの開度を一定に固定して触媒早期活性化制御を行った場合よりも、同制御の終了時に触媒温度が高められた部位が広くなる。これにより、触媒早期活性化制御の終了直後のエミッションの悪化が抑えられる。したがって、上記エンジン制御装置は、冷間始動時のエンジンの排気性能を向上する効果を奏する。
【0007】
上記エンジン制御装置での第2処理は、第1開度とは異なる既定の第2開度にウェイストゲートバルブの開度を保持する処理としてもよい。また、第2処理は、第1開度から、同第1開度とは異なる既定の第3開度へとウェイストゲートバルブの開度を徐変する処理としてもよい。さらに、第2処理は、既定の開度範囲内でのウェイストゲートバルブの開閉を繰り返す処理としてもよい。
【0008】
また、上記エンジン制御装置は、触媒早期活性化制御の実行中に、触媒装置に流入する排気の熱量を増加させる排気熱量増加制御を実行する構成としてもよい。排気熱量増加制御には、点火時期の遅角化や空燃比のリーン化により、触媒装置に流入する排気の温度を高める制御や、吸気増量により触媒装置に流入する排気の流量を増やす制御が含まれる。こうした排気熱量増加制御を触媒早期活性化制御に併せ実行することで、触媒装置の触媒の活性化を更に促進できる。ただし、排気熱量増加制御には、エンジンの燃費性能が低下するという背反がある。よって、排気熱量増加制御は、第2処理の実施中は、第1処理の実施中よりも排気の熱量の増加量を抑えて行うようにしたり、第1処理の実施中にのみ実行したり、することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態のエンジン制御装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】同エンジン制御装置が実行する触媒早期活性化制御の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】触媒早期活性化制御における第1処理の実施中の触媒装置周辺の状態を示す図である。
【
図4】第1処理だけで触媒早期活性化制御を終了した場合の同制御終了直後の触媒装置周辺の状態を示す図である。
【
図5】触媒早期活性化制御における第2処理の実施中の触媒装置周辺の状態を示す図である。
【
図6】第2実施形態のエンジン制御装置における触媒早期活性化制御中の、(A)はWGV開度の推移を、(B)は点火時期の推移を、それぞれ示すタイムチャートである。
【
図7】第3実施形態のエンジン制御装置における触媒早期活性化制御中のWGV開度の推移を示すタイムチャートである。
【
図8】第3実施形態のエンジン制御装置の変形例における触媒早期活性化制御中のWGV開度の推移を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、エンジン制御装置の第1実施形態を、
図1~
図5を参照して詳細に説明する。
<エンジン制御装置の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態のエンジン制御装置の構成を説明する。本実施形態のエンジン制御装置が制御の対象とするエンジン10は、混合気の燃焼を行う燃焼室11を備える。また、エンジン10は、燃焼室11への吸気の導入路である吸気通路12と、燃焼室11からの排気の排出路である排気通路13と、を備えている。さらに、エンジン10は、吸気中に燃焼を噴射して混合気を形成するインジェクタ14と、燃焼室11内の混合気を火花放電により着火する点火装置15と、を備えている。吸気通路12におけるコンプレッサ21よりも下流側の部分には、スロットルバルブ16が設置されている。スロットルバルブ16は、開度の変更に応じて燃焼室11に導入される吸気の量を調整する。そして、エンジン10は、燃焼室11での混合気の燃焼によりクランク軸17を回転することで、車両の駆動力を発生する。
【0011】
エンジン10は、ターボチャージャ20を備えている。ターボチャージャ20は、吸気通路12に設置されたコンプレッサ21と、排気通路13に設置されたタービン22と、を有している。コンプレッサ21は、回転に応じて吸気を圧縮する羽根車である。タービン22は、排気の流れを受けて回転する羽根車である。コンプレッサ21とタービン22とは、タービン軸23を介して連結されている。これにより、コンプレッサ21は、タービン22の回転に連動して回転する。また、排気通路13には、タービン22を迂回して排気を流すための通路であるバイパス通路24が設けられている。バイパス通路24は、排気通路13におけるタービン22よりも上流側の部分において同排気通路13から分岐している。そして、バイパス通路24は、排気通路13におけるタービン22よりも下流側の部分において同排気通路13に合流している。バイパス通路24における排気通路13への合流位置には、バイパス通路24を開閉するWGV(wastegate valve:ウェイストゲートバルブ)25が設置されている。
【0012】
排気通路13には、燃焼室11で燃焼した混合気の空燃比を検出するためのセンサである空燃比センサ18が設けられている。空燃比センサ18は、排気通路13におけるタービン22よりも下流側、かつバイパス通路24の合流位置よりも下流側の部分に設置されている。さらに、排気通路13には、三元触媒などの排気浄化用の触媒が担持された触媒装置19が設置されている。触媒装置19は、排気通路13における空燃比センサ18よりも下流側の部分に設置されている。
【0013】
エンジン10は、エンジン制御装置としてのECM(エンジン制御モジュール)30により制御されている。ECM30は、処理装置31及び記憶装置32を備えている。記憶装置32には、エンジン制御用のプログラムやデータが記憶されている。処理装置31は、記憶装置32からプログラムを読み込んで実行することで、エンジン10を制御する。ECM30には、エンジン10の運転状況を検出するための各種センサの検出結果が入力されている。ECM30に検出結果が入力されるセンサには、上述の空燃比センサ18の他、エアフローメータ33、吸気温センサ34、水温センサ35、クランク角センサ36、過給圧センサ37、及びインマニ圧センサ38が含まれる。エアフローメータ33は、吸気通路12を流れる吸気の流量である吸気流量GAを検出するセンサである。吸気温センサ34は、吸気通路12に取り込まれた吸気の温度である吸気温THAを検出するセンサである。水温センサ35は、エンジン10の冷却水の温度であるエンジン水温THWを検出するセンサである。クランク角センサ36は、クランク軸17の回転角であるクランク角CRNKを検出するセンサである。過給圧センサ37は、吸気通路12におけるコンプレッサ21よりも下流側、かつスロットルバルブ16よりも上流側の部分の吸気の圧力である過給圧PBを検出するセンサである。インマニ圧センサ38は、吸気通路12におけるスロットルバルブ16よりも下流側の部分の吸気の圧力であるインマニ圧PMを検出するセンサである。ECM30は、これらセンサの検出結果に基づき、インジェクタ14の燃料の噴射量及び噴射時期、点火装置15の点火時期、スロットル開度、及びWGV開度等を制御している。
【0014】
<触媒早期活性化制御>
ECM30は、エンジン10の冷間始動時に、WGV25を開弁して触媒装置19の活性化を促進する触媒早期活性化制御を実行する。触媒早期活性化制御では、下記の態様で触媒装置19の活性化を促進している。なお、ECM30は、WGV25を閉弁した状態でエンジン10を停止している。よって、エンジン10の始動時のWGV25は閉弁している。
【0015】
WGV25の閉弁時には、タービン22を通って排気が流れる。タービン22を通過する際に排気の流れは旋回流となる。よって、排気は、タービン22の通過後に広い範囲に拡散される。そのため、WGV25の閉弁時には、触媒装置19の前端の広い範囲に排気が吹き付ける。なお、ここでの前端とは、触媒装置19における排気の流れ方向上流側の端面を表わしている。
【0016】
一方、WGV25の開弁時には、排気の多くがバイパス通路24を通って流れる。バイパス通路24から流出する排気の流れは、排気が噴流となる。そのため、WGV25の開弁時には、触媒装置19の前端の一部に集中的に排気が吹き付ける。すなわち、排気による加熱が触媒装置19の一部に集中する。その結果、WGV25の開弁時には、閉弁時よりも早期に、触媒が活性化した部分が触媒装置19に形成される。そこで、触媒早期活性化制御では、WGV25を開弁した状態に保持することで、エンジン10の冷間始動後の触媒装置19が排気浄化を行えない期間を短縮している。
【0017】
なお、本実施形態では、WGV開度を下記のように定義する。バイパス通路24を閉塞した状態となるときのWGV25の動作位置を、WGV開度が「0」の動作位置とする。そして、WGV開度が「0」の動作位置からのWGV25の動作量をWGV開度の値とする。また、以下の説明では、WGV開度の制御範囲の最大値を全開開度と記載する。さらに、「0」よりも大きく、かつ全開開度よりも小さいWGV開度を中間開度と記載する。
【0018】
図2に、ECM30が実行する触媒早期活性化制御ルーチンの処理手順を示す。ECM30は、エンジン10の始動完了と共に、本ルーチンを開始する。
本ルーチンを開始すると、ECM30はまず、ステップS100において、触媒装置19が活性化しているか否かを判定する。本実施形態では、この判定をエンジン始動時の吸気温THA及びエンジン水温THWに基づき行っている。ECM30は、触媒装置19が既に活性化していると判定した場合(S100:YES)、今回のエンジン10の始動時における本ルーチンの処理をそのまま終了する。なお、ECM30は、本ルーチンの終了後、エンジン10の運転状況に応じて目標過給圧を設定するとともに、過給圧PBを目標過給圧とすべく、WGV開度のフィードバック制御を開始する。
【0019】
一方、ECM30は、触媒装置19が活性化していないと判定した場合(S100:NO)には、ステップS110に処理を進める。そして、ECM30はそのステップS110において、WGV開度が既定の第1開度A1となるまでWGV25を開弁する。本実施形態では、全開開度を第1開度A1としている。なお、上記のようにWGV25を開弁すると、触媒装置19への排気の吹き付けが同触媒装置19の一部に集中する。以下の説明では、触媒装置19の前端にあって、WGV開度を第1開度A1としたときに排気の吹き付けが集中する部分を第1領域R1と記載する。
【0020】
その後、ECM30は、既定の制御周期毎に、第1領域R1の活性化が完了したか否かを判定する(S120)。すなわち、第1領域R1の温度が触媒の活性温度に達したか否かを判定する。この判定は、ステップS110でWGV25を開弁してからの経過時間に基づき行われる。そして、ECM30は、第1領域R1の活性化が完了したと判定すると(S120:YES)、ステップS130において、WGV開度を第1開度A1から既定の第2開度A2に変更する。本実施形態では、第2開度A2は中間開度である。なお、本実施形態では、ステップS110でのWGV25の開弁開始からステップS130への移行までの処理が第1処理に対応している。
【0021】
WGV開度を変更すると、バイパス通路24からの排気の吹き出し方向が変化する。そして、触媒装置19の前端における排気の吹き付けが集中する領域も変化する。よって、ステップS130でのWGV開度の変更により、排気により加熱される触媒装置19の部位が移動する。以下の説明では、触媒装置19の前端にあって、WGV開度を第2開度A2としたときに排気の吹き付けが集中する部分を第2領域R2と記載する。
【0022】
その後、ECM30は、既定の制御周期毎に、第2領域R2の昇温が完了したか否かを判定する(S140)。ここでの昇温の完了とは、例えば第2領域R2の温度が触媒の活性温度に達したことである。第2領域R2の温度が触媒の活性温度未満であっても、それに近い温度に上昇したことをもって、昇温の完了としてもよい。この判定は、例えばステップS130でWGV開度を第2開度A2に変更してからの経過時間に基づき行われる。そして、ECM30は、第2領域R2の昇温が完了したと判定すると(S140:YES)、本ルーチンの処理を終了する。なお、本実施形態では、ステップS130でのWGV開度の変更から本ルーチンの終了までの処理が第2処理に対応している。
【0023】
<実施形態の作用、効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。上記のように本実施形態では、WGV開度を第1開度A1に保持する第1処理の実施後、WGV開度を第1開度A1とは異なる第2開度A2とする第2処理を実施することで触媒早期活性化制御を行っている。
【0024】
図3に、第1処理の実施中の触媒装置19及びその周辺の状態を示す。なお、
図3及び後述の
図4、
図5には、触媒装置19に吹き付ける排気の流れが矢印で示されている。WGV25を開弁すると、排気の多くがタービン22を迂回してバイパス通路24を通って流れる。これにより、触媒装置19の前端への排気の吹き付けが第1領域R1に集中する。第1処理は、第1領域R1の触媒の活性化が完了するまで継続される。触媒装置19は、第1領域R1の活性化が完了した時点で、部分的であっても排気を浄化可能な状態となる。しかしながら、第1処理の完了と共に触媒早期活性化制御を終了すると、次の問題が生じる場合がある。
【0025】
図4に、第1処理の完了と共に触媒早期活性化制御を終了した場合の同制御終了直後の触媒装置19及びその周辺の状態を示す。このときの触媒装置19の第1領域R1以外の部分は、触媒が未活性の状態となっている。この状態でWGV25を閉弁すると、触媒装置19における触媒が未活性な部分にも排気が流れてしまう。その結果、排気の多くが未浄化のまま外気放出されてしまうため、エンジン10のエミッションが悪化する。これに対して、本実施形態では、第1処理の実施後に上記のような第2処理を実施することで、エンジン10のエミッションの悪化を抑えている。
【0026】
図5に、第2処理の実施中の触媒装置19及びその周辺の状態を示す。第2処理では、WGV開度が第1開度A1から第2開度A2に変更される。このWGV開度の変更により、バイパス通路24から触媒装置19に向う排気の方向が変化する。そして、その結果、排気による加熱が行われる領域が第1領域R1から第2領域R2へと移動する。これにより、第2領域R2を昇温することで、触媒早期活性化制御の終了直後のエンジン10のエミッションの悪化が抑えられる。
【0027】
なお、上述のように第2処理は、第2領域R2の触媒の活性化が完了するまで継続しても、それ以前に終了してもよい。後者の場合にも、触媒早期活性化制御の終了時の第2領域R2の触媒温度がある程度に高まっていれば、同制御の終了後に第2領域R2の触媒が短時間で活性化する。そのため、そうした場合にも、触媒早期活性化制御の終了直後のエンジン10のエミッションの悪化が抑えられる。
【0028】
以上の本実施形態のエンジン制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
・本実施形態では、WGV開度を第1開度A1に保持する第1処理の実施後に、WGV開度を第2開度A2とする第2処理を実施することで、触媒早期活性化制御を行っている。第2処理を実施することで、触媒温度が高まった領域が拡大される。これにより、触媒早期活性化制御の終了直後のエンジン10の排気性能の悪化が抑制される。したがって、本実施形態のエンジン制御装置は、エンジン10の冷間始動時の排気性能を向上するという効果を奏する。
【0029】
(第2実施形態)
次に、エンジン制御装置の第2実施形態を、
図6を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0030】
本実施形態のエンジン制御装置では、触媒早期活性化制御の実行中に、排気熱量増加制御を併せ実行している。排気熱量増加制御は、触媒装置19に流入する排気の熱量を増加する制御である。排気熱量増加制御には、点火時期の遅角化や空燃比のリーン化等により触媒装置19に流入する排気の温度を高める制御が含まれる。また、排気熱量増加制御には、吸気増量等により触媒装置19に流入する排気の流量を増加させる制御も含まれる。いずれにせよ、そうした排気熱量増加制御を、触媒早期活性化制御と共に実行することで、触媒装置19の活性化を更に促進できる。
【0031】
なお、触媒装置19に流入する排気の昇温は、エンジン10の熱損失の増加により達成される。また、吸気を増量すれば、その分、燃料噴射量を増量する必要がある。そのため、排気熱量増加制御の実行には、エンジン10の燃費性能の低下という背反がある。一方、第1処理が終了して第1領域R1の触媒の活性化が完了するまでは、触媒装置19が排気を殆ど浄化できない状態にある。これに対して、第2処理は、第1領域R1の触媒が活性化した状態で、すなわち触媒装置19がある程度に排気を浄化可能となった状態で実施される。そのため、第2処理での第2領域R2の昇温には、第1処理での第1領域R1の昇温よりは、時間的余裕がある。よって、排気熱量増加制御は、触媒早期活性化制御の実行中、終始に亘って行うよりも、次の態様で行うことが望ましい。すなわち、排気熱量増加制御は、第2処理の実施中は、第1処理の実施中よりも排気の熱量の増加量を抑えて行うことが望ましい。或いは、排気熱量増加制御は、第1処理の実施中にのみ実行して第2処理の実施中には実行しないことが望ましい。
【0032】
図6に、触媒早期活性化制御、及び排気熱量増加制御の実行態様の一例を示す。同図の例では、点火時期の遅角化により排気熱量増加制御を行っている。そして、
図6(A)にはWGV開度の推移を、
図6(B)には点火遅角量の推移を、それぞれ示している。なお、点火遅角量は、排気熱量増加制御による点火時期の遅角量を表わしている。
図6では、時刻t0に、触媒早期活性化制御、及び排気熱量増加制御が開始されている。そして、触媒早期活性化制御では、時刻t0から時刻t1までの期間に、WGV開度を第1開度A1に保持する第1処理が、その後の時刻t1から時刻t2までの期間に、WGV開度を第2開度A2に変更する第2処理が実施されている。一方、点火遅角量は、時刻t0から時刻t1までの第1処理の実施中は既定の正の値に保持され、その後の時刻t1から時刻t2までの第2処理の実施中は「0」とされている。すなわち、
図6の例では、点火時期の遅角化による排気熱量増加制御を、第1処理の実施中にのみ実行している。
【0033】
第1処理の実施中に排気熱量増加制御を実行することで、触媒装置19の排気浄化の開始に要する時間が短縮する。一方、第2処理の実施中には排気熱量増加制御を実行していないため、同制御の実行に伴うエンジン10の燃費性能の低下が抑えられる。なお、
図6(B)に鎖線で示すように、第2処理の実施中は、第1処理の実施中よりも点火遅角量を小さくして、排気熱量増加制御を実行してもよい。そうした場合にも、同様の効果が得られる。また、燃費性能よりも触媒装置19の活性化を優先するのであれば、第2処理の実施中も点火遅角量を第1処理の実施中と同じ値に保持して排気熱量増加制御を実行してもよい。
【0034】
(上記実施形態の変更例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0035】
<第1開度A1、第2開度A2について>
上記実施形態では、第1開度A1を最大開度としていたが、中間開度を第1開度A1としてもよい。その場合の第2開度A2は、第1開度A1よりも小さい中間開度、又は第1開度A1よりも大きい開度となる。
【0036】
<第1処理、第2処理の完了判定について>
上記実施形態では、第1処理及び第2処理の完了をそれら処理の開始からの経過時間に基づき行っていた。第1処理及び第2処理での触媒の活性化や昇温に要する時間は、処理開始時の触媒温度や外気温により変化する。よって、エンジン10の始動時のエンジン水温THWや吸気温THAに基づき、第1処理や第2処理の実施時間を可変とするようにしてもよい。
【0037】
触媒装置19が排気から受け取る熱量は、触媒装置19に流入する排気の流量に相関する。そして、排気の流量は、吸気流量GAに相関する。そこで、第1処理、第2処理の完了判定を、処理の開始時からの吸気流量GAの積算値に基づき、行うようにしてもよい。
【0038】
さらに、第1領域R1及び第2領域R2のそれぞれの触媒温度の推定値に基づき、第1処理、第2処理の完了判定を行うようにしてもよい。第1領域R1、第2領域R2の触媒温度は、エンジン10の始動時のエンジン水温THW、外気温、吸気流量GA、点火時期等に基づき推定することができる。また、第1領域R1及び第2領域R2のそれぞれの触媒温度をセンサにより検出して、その触媒温度の検出値に基づき、第1処理、第2処理の完了判定を行うようにしてもよい。
【0039】
<第2処理でのWGV開度の変更について>
上記実施形態では、第2処理を、WGV開度を第2開度A2に保持する処理としていた。第2処理を、第1開度A1から、第1開度A1とは異なる既定の第3開度A3へとWGV開度を徐変する処理としてもよい。
【0040】
図7に、そうした場合の触媒早期活性化制御の実行中のWGV開度の推移を示す。
図7の場合、触媒早期活性化制御を時刻t0に開始している。そして、その時刻t0からその後の時刻t1までの期間、WGV開度を第1開度A1に保持する第1処理を実施している。さらに、時刻t1からその後の時刻t2までの期間、第2処理を実施している。そして、時刻t1から時刻t2に掛けて、WGV開度を第1開度A1から第3開度A3へと徐々に変化させている。こうした場合、第2処理の実施中に、排気の吹き付けが集中する第2領域R2が徐々に移動する。そのため、第2処理において、広範囲の触媒を昇温できる。
【0041】
また、第2処理を、既定の開度範囲内でのWGV25の開閉を繰り返す処理としてもよい。
図8には、そうした場合の触媒早期活性化制御の実行中のWGV開度の推移を示す。
図8においても、時刻t0から時刻t1までの期間に第1処理が、時刻t1から時刻t2までの期間に第2処理が、それぞれ実施されている。そして、
図8の場合、第2処理の実施中、第1開度A1から第3開度A3までの範囲内でのWGV25の開閉が繰り返されている。こうした場合にも、第2処理の実施中に、排気の吹き付けが集中する第2領域R2が徐々に移動するため、広範囲の触媒を昇温できる。
【0042】
なお、
図7、
図8では、第3開度A3を中間開度としていたが、第3開度A3を「0」としてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10…エンジン
11…燃焼室
12…吸気通路
13…排気通路
14…インジェクタ
15…点火装置
16…スロットルバルブ
17…クランク軸
18…空燃比センサ
19…触媒装置
20…ターボチャージャ
21…コンプレッサ
22…タービン
23…タービン軸
24…バイパス通路
25…ウェイストゲートバルブ
30…ECM(エンジン制御モジュール)
31…処理装置
32…記憶装置
33…エアフローメータ
34…吸気温センサ
35…水温センサ
36…クランク角センサ
37…過給圧センサ
38…インマニ圧センサ