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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】電源システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/00 20070101AFI20241119BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20241119BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20241119BHJP
【FI】
H02M1/00 H
H01M8/04537
H01M8/04858
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021209599
(22)【出願日】2021-12-23
(65)【公開番号】P2023094233
(43)【公開日】2023-07-05
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 一成
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-184829(JP,A)
【文献】特開2020-202633(JP,A)
【文献】特開2017-221088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00
H01M 8/04858
H01M 8/04537
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換器とコントローラとを備える電源システムであって、
前記電力変換器は、
燃料電池の正極に接続される正極線と、
前記燃料電池の負極に接続される負極線と、
前記正極線と前記負極線との間に接続される第1のスイッチング素子と、
前記正極線と前記負極線との間に、前記第1のスイッチング素子と並列に接続される第2のスイッチング素子と、
磁気結合リアクトルであって、
第1の外脚、第2の外脚、及び、前記第1の外脚と前記第2の外脚とを環状に連結する一対のヨークを有するリアクトルコアと、
前記第1のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第1の外脚に巻かれた第1のコイルと、
前記第2のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第2の外脚に巻かれており、前記第1のコイルに対して磁気的に差動接続された第2のコイルと、を有する前記磁気結合リアクトルと、
を備え、
前記コントローラは、
前記燃料電池に残存する電荷を放電するために、第1の放電処理と、前記第1の放電処理の後に実行される第2の放電処理と、を実行可能に構成され、
前記第1の放電処理では、前記第2のスイッチング素子をオフした状態で、前記第1のスイッチング素子をオンし、
前記第2の放電処理では、前記第1のスイッチング素子をオンした状態で、前記第2のスイッチング素子をさらにオン
前記コントローラは、第1の閾値を超える電流が前記第1のスイッチング素子を流れた場合に、前記第1のスイッチング素子をオフする過電流保護機能を有しており、
前記第1のコイルは、前記第1の放電処理において、前記第1のスイッチング素子を流れる電流を、前記第1の閾値以下に保持する自己インダクタンスを有する、
電源システム。
【請求項2】
電力変換器とコントローラとを備える電源システムであって、
前記電力変換器は、
燃料電池の正極に接続される正極線と、
前記燃料電池の負極に接続される負極線と、
前記正極線と前記負極線との間に接続される第1のスイッチング素子と、
前記正極線と前記負極線との間に、前記第1のスイッチング素子と並列に接続される第2のスイッチング素子と、
磁気結合リアクトルであって、
第1の外脚、第2の外脚、及び、前記第1の外脚と前記第2の外脚とを環状に連結する一対のヨークを有するリアクトルコアと、
前記第1のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第1の外脚に巻かれた第1のコイルと、
前記第2のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第2の外脚に巻かれており、前記第1のコイルに対して磁気的に差動接続された第2のコイルと、を有する前記磁気結合リアクトルと、
を備え、
前記コントローラは、
前記燃料電池に残存する電荷を放電するために、第1の放電処理と、前記第1の放電処理の後に実行される第2の放電処理と、を実行可能に構成され、
前記第1の放電処理では、前記第2のスイッチング素子をオフした状態で、前記第1のスイッチング素子をオンし、
前記第2の放電処理では、前記第1のスイッチング素子をオンした状態で、前記第2のスイッチング素子をさらにオン
前記コントローラは、前記第1の放電処理において、前記第1のコイルに流れる電流が所定の閾値を超えた後に、前記第2の放電処理を開始する、
電源システム。
【請求項3】
前記第1のコイル及び前記第2のコイルの相互インダクタンスの大きさは、前記第1のコイルが有する自己インダクタンスの大きさよりも小さい、請求項1または2に記載の電源システム。
【請求項4】
前記第1のコイル及び前記第2のコイルの相互インダクタンスの大きさは、前記第1のコイルが有する自己インダクタンスの大きさと等しい、請求項1または2に記載の電源システム。
【請求項5】
電力変換器とコントローラとを備える電源システムであって、
前記電力変換器は、
燃料電池の正極に接続される正極線と、
前記燃料電池の負極に接続される負極線と、
前記正極線と前記負極線との間に接続される第1のスイッチング素子と、
前記正極線と前記負極線との間に、前記第1のスイッチング素子と並列に接続される第2のスイッチング素子と、
磁気結合リアクトルであって、
第1の外脚、第2の外脚、及び、前記第1の外脚と前記第2の外脚とを環状に連結する一対のヨークを有するリアクトルコアと、
前記第1のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第1の外脚に巻かれた第1のコイルと、
前記第2のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第2の外脚に巻かれており、前記第1のコイルに対して磁気的に差動接続された第2のコイルと、を有する前記磁気結合リアクトルと、
を備え、
前記コントローラは、
前記燃料電池に残存する電荷を放電するために、第1の放電処理と、前記第1の放電処理の後に実行される第2の放電処理と、を実行可能に構成され、
前記第1の放電処理では、前記第2のスイッチング素子をオフした状態で、前記第1のスイッチング素子をオンし、
前記第2の放電処理では、前記第1のスイッチング素子をオンした状態で、前記第2のスイッチング素子をさらにオン
前記第1のコイル及び前記第2のコイルの相互インダクタンスの大きさは、前記第1のコイルが有する自己インダクタンスの大きさと等しい、
電源システム。
【請求項6】
前記電力変換器は、前記電力変換器の出力側に設けられた平滑コンデンサをさらに備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の電源システム。
【請求項7】
電力変換器とコントローラとを備える電源システムであって、
前記電力変換器は、
燃料電池の正極に接続される正極線と、
前記燃料電池の負極に接続される負極線と、
前記正極線と前記負極線との間に接続される第1のスイッチング素子と、
前記正極線と前記負極線との間に、前記第1のスイッチング素子と並列に接続される第2のスイッチング素子と、
磁気結合リアクトルであって、
第1の外脚、第2の外脚、前記第1の外脚と前記第2の外脚とを環状に連結する一対のヨーク、及び、前記一対のヨークを互いに接続する中脚を有するリアクトルコアと、
前記第1のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第1の外脚に巻かれた第1のコイルと、
前記第2のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第2の外脚に巻かれており、前記第1のコイルに対して磁気的に差動接続された第2のコイルと、
前記リアクトルコアの前記中脚に巻かれており、前記第1のコイル及び前記第2のコイルに対して磁気的に和動接続された第3のコイルと、を有する前記磁気結合リアクトルと、
前記第3のコイルへ通電可能であり、前記第3のコイルに通電することによって前記リアクトルコアの前記中脚を磁気飽和させる補助電源と、
を備え、
前記コントローラは、
前記燃料電池に残存する電荷を放電するために、第3の放電処理と、前記第3の放電処理の後に実行される第4の放電処理と、を実行可能に構成され、
前記第3の放電処理では、前記補助電源をオフした状態で、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との少なくとも一方をオンし、
前記第4の放電処理では、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との両者をオンするとともに、前記補助電源をさらにオンする、電源システム。
【請求項8】
前記コントローラは、前記第3の放電処理において、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子との両者をオンする、請求項7に記載の電源システム。
【請求項9】
前記電力変換器は、前記電力変換器の出力側に設けられた平滑コンデンサをさらに備える、請求項7または8に記載の電源システム。
【請求項10】
前記第1のコイル及び前記第2のコイルの相互インダクタンスの大きさは、前記第1のコイルが有する自己インダクタンスの大きさよりも小さい、請求項7から9のいずれか一項に記載の電源システム。
【請求項11】
前記第1のコイル及び前記第2のコイルの相互インダクタンスの大きさは、前記第1のコイルが有する自己インダクタンスの大きさと等しい、請求項7から9のいずれか一項に記載の電源システム。
【請求項12】
前記コントローラは、第1の閾値を超える電流が前記第1のスイッチング素子を流れた場合に、前記第1のスイッチング素子をオフする過電流保護機能を有しており、
前記第1のコイルは、前記第3の放電処理において、前記第1のスイッチング素子を流れる電流を、前記第1の閾値以下に保持する自己インダクタンスを有する、請求項7から11のいずれか一項に記載の電源システム。
【請求項13】
前記コントローラは、前記第3の放電処理において、前記第1のコイルに流れる電流が所定の閾値を超えた後に、前記第4の放電処理を開始する、請求項7から12のいずれか一項に記載の電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、電源システムに関する。特に、燃料電池に接続される電力変換器と、コントローラと、を備える電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池と接続されているとともに、当該燃料電池の入力を昇圧する電力変換器(特許文献1では、第1コンバータと称している)が開示される。電力変換器は、平滑コンデンサと、当該平滑コンデンサと並列に接続される第1抵抗器と、を備える。電力変換器が構成する電源システムが定常運転状態から停止状態へ移行すると、平滑コンデンサに残存する電荷が、第1抵抗器を介してゆるやかに放電される。第1抵抗器は、いわゆる放電抵抗として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-035120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、放電抵抗として機能する抵抗器は、大きな抵抗値を有する。このため、特許文献1の電力変換器は、比較的長い時間をかけて、平滑コンデンサ内に残存する電荷(以下では、残存電荷と称することがある)を放電する。しかしながら、例えば電源装置のメンテナンス時等では、燃料電池内の残存電荷を、迅速に放電することが求められる。燃料電池内の残存電荷を短期間に放電すると、短時間に電力変換器を大電流が流れ、電力変換器の各機器(例えば、スイッチング素子)がダメージを受けるおそれがある。本明細書では、燃料電池内の残存電荷を放電する際に、電力変換器を流れる電流の値が過度に上昇することを抑制しつつ、従来技術に比して、迅速に残存電荷を放電し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、電力変換器とコントローラとを備える電源システムを開示する。前記電力変換器は、正極線と、負極線と、第1のスイッチング素子と、第2のスイッチング素子と、磁気結合リアクトルと、を備える。正極線は、燃料電池の正極に接続される。負極線は、前記燃料電池の負極に接続される。第1のスイッチング素子は、前記正極線と前記負極線との間に接続される。第2のスイッチング素子は、前記正極線と前記負極線との間に、前記第1のスイッチング素子と並列に接続される。磁気結合リアクトルは、リアクトルコアと、第1のコイルと、第2のコイルと、を有する。リアクトルコアは、第1の外脚、第2の外脚、及び、前記第1の外脚と前記第2の外脚とを環状に連結する一対のヨークを有する。第1のコイルは、前記第1のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第1の外脚に巻かれている。第2のコイルは、前記第2のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第2の外脚に巻かれており、前記第1のコイルに対して磁気的に差動接続されている。前記コントローラは、前記燃料電池に残存する電荷を放電するために、第1の放電処理と、前記第1の放電処理の後に実行される第2の放電処理と、を実行可能に構成される。コントローラは、さらに、前記第1の放電処理では、前記第2のスイッチング素子をオフした状態で、前記第1のスイッチング素子をオンし、前記第2の放電処理では、前記第1のスイッチング素子をオンした状態で、前記第2のスイッチング素子をさらにオンする。
【0006】
上述した構成によると、燃料電池内の残存電荷を放電するために、第1の放電処理と第2の放電処理とが一連に実施される。第1の放電処理においては、コントローラが、第2のスイッチング素子をオフした状態で、第1のスイッチング素子をオンする。これにより、燃料電池内の残存電荷は、第1のコイルを通じて放電される。第1の放電処理が実行される間、第1のコイルが巻かれたリアクトルコアに磁束が発生し、第1のコイルの自己インダクタンスによって、第1のコイルを流れる電流の過度な増大が抑制される。第1の放電処理の後に実行される第2の放電処理では、コントローラは、第1のスイッチング素子をオンした状態で、第2のスイッチング素子をさらにオンする。これにより、燃料電池内の残存電荷は、第1のコイルに加え、さらに第2のコイルを通じて放電される。第2のコイルは、第1のコイルに対して磁気的に差動接続されている。よって、二つのコイルに電流が流れると、二つのコイルによって発生する各磁束が互いに打ち消し合うことで、磁気結合リアクトルのリアクタンスが実質的に消滅または低下する。そのため、第2の放電処理が実行される間は、磁気結合リアクトルの存在にかかわらず、燃料電池内の残存電荷が短時間で放電される。ここで、第2の放電処理が開始される時点では、既に第1の放電処理によって、燃料電池内の残存電荷の一部が放電されている。このため、第2の放電処理が開始される時点では、第1の放電処理が実行される間に比べて、燃料電池内の残存電荷が少ない。このため、第2の放電処理では、磁気結合リアクトルを実質的に無効化しても、大電流が電力変換器を流れにくい。このように、本明細書が開示するコントローラによれば、磁気結合リアクトルのリアクタンスを変化させることによって、第1の放電処理では、電力変換器を流れる電流の値が過度に上昇することを抑制し、第2の放電処理では、燃料電池内の残存電荷を迅速に放電することができる。
【0007】
さらに、本明細書では、別の形態の電源システムも開示する。当該電源システムは、電力変換器とコントローラとを備える。前記電力変換器は、正極線と、負極線と、第1のスイッチング素子と、第2のスイッチング素子と、前記磁気結合リアクトルと、補助電源と、を備える。正極線は、燃料電池の正極に接続される。負極線は、前記燃料電池の負極に接続される。第1のスイッチング素子は、前記正極線と前記負極線との間に接続される。第2のスイッチング素子は、前記正極線と前記負極線との間に、前記第1のスイッチング素子と並列に接続される。磁気結合リアクトルは、リアクトルコアと、第1のコイルと、第2のコイルと、第3のコイルと、を有する。リアクトルコアは、第1の外脚、第2の外脚、前記第1の外脚と前記第2の外脚とを環状に連結する一対のヨーク、及び、前記一対のヨークを互いに接続する中脚を有する。第1のコイルは、前記第1のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第1の外脚に巻かれている。第2のコイルは、前記第2のスイッチング素子と前記燃料電池との間に接続されているとともに、前記リアクトルコアの前記第2の外脚に巻かれており、前記第1のコイルに対して磁気的に差動接続されている。第3のコイルは、前記リアクトルコアの前記中脚に巻かれており、前記第1のコイル及び前記第2のコイルに対して磁気的に和動接続されている。補助電源は、前記第3のコイルへ通電可能であり、前記第3のコイルに通電することによって前記リアクトルコアの前記中脚を磁気飽和させる。前記コントローラは、前記燃料電池に残存する電荷を放電するために、第3の放電処理と、前記第3の放電処理の後に実行される第4の放電処理と、を実行可能に構成される。前記第3の放電処理では、前記補助電源をオフした状態で、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との少なくとも一方をオンし、前記第4の放電処理では、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との両者をオンするとともに、前記補助電源をさらにオンする。
【0008】
上述した構成では、燃料電池内の残存電荷を放電するために、第3の放電処理と第4の放電処理とが一連に実施される。第3の放電処理では、コントローラは、補助電源をオフした状態で、第1のスイッチング素子と第2のスイッチング素子との少なくとも一方をオンする。これにより、燃料電池内の残存電荷は、第1のコイルと第2のコイルとの少なくとも一方を通じて放電される。本形態の磁気結合リアクトルは、一対のヨークを互いに接続する中脚を有する。よって、仮に二つのスイッチング素子が同時にオンされ、二つのコイルに電流が同時に流れたとしても、各コイルの発生する各磁束が完全に打ち消し合うことがない。このため、第3の放電処理が実行される間、電流の流れる第1のコイル及び/又は第2のコイルでは、自己インダクタンスによって当該コイルに流れる電流の過度な増大が抑制される。第3の放電処理の後に実行される第4の放電処理では、第1のスイッチング素子と第2のスイッチング素子との両者をオンするとともに、補助電源をさらにオンする。第3のコイルに電流が流れることで、リアクトルコアの中脚に磁束が発生し、中脚が磁気飽和する。その結果、互いに磁気的に差動接続される第1のコイル及び第2のコイルによって発生する各磁束は、互いに打ち消し合い、磁気結合リアクトルのリアクタンスが実質的に消滅又は低下する。第3の放電処理では、電力変換器を流れる電流の値が過度に上昇することを抑制し、第4の放電処理では、燃料電池内の残存電荷を迅速に放電することができる。
【0009】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の電源システム100のブロック図を示す。
図2】第1実施形態の磁気結合リアクトル11の拡大図を示す。
図3】第1の期間P1、第2の期間P2における各値のグラフを示す。
図4】第1の期間P1における放電の経路を示す。
図5】第2の期間P2における放電の経路を示す。
図6】第2実施形態の電源システム100aのブロック図を示す。
図7】第2実施形態の磁気結合リアクトル11aの拡大図を示す。
図8】第3の期間P3、第4の期間P4における各値のグラフを示す。
図9】第3の期間P3における放電の経路を示す。
図10】第4の期間P4における放電の経路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本技術の一実施形態では、前記電力変換器は、前記電力変換器の出力側に設けられた平滑コンデンサをさらに備えてもよい。このような構成によると、第1の放電処理及び第2の放電処理、または、第3の放電処理及び第4の放電処理が実行される間に、平滑コンデンサに電圧が蓄積されることを抑制することができる。
【0012】
本技術の一実施形態では、前記第1のコイル及び前記第2のコイルの相互インダクタンスの大きさは、前記第1のコイルが有する自己インダクタンスの大きさよりも小さくてもよい。但し、別の実施形態では、相互インダクタンスの大きさは、第1のコイルが有する自己インダクタンスの大きさと等しくてもよい。
【0013】
本技術の一実施形態では、前記第1のコイル及び前記第2のコイルの相互インダクタンスの大きさは、前記第1のコイルが有する自己インダクタンスの大きさと等しくてもよい。このような構成によると、第2または第4の放電処理において磁気結合リアクトルのリアクタンスを消滅させることができる。
【0014】
本技術の一実施形態では、前記コントローラは、第1の閾値を超える電流が前記第1のスイッチング素子を流れた場合に、前記第1のスイッチング素子をオフする過電流保護機能を有していてもよい。その場合、前記第1のコイルは、前記第1または第3の放電処理において、前記第1のスイッチング素子を流れる電流を、前記第1の閾値以下に保持する自己インダクタンスを有してもよい。このような構成によると、第1または第3の放電処理において、第1のスイッチング素子を介して放電される電流が第1の閾値以下に保持される。このため、第1の放電処理において、過電流保護機能によって第1のスイッチング素子がオフされない。このため、第1または第3の放電処理の間、燃料電池の残存電荷を燃料電池の正極から負極へ放電することができる。
【0015】
本技術の一実施形態では、前記コントローラは、前記第1または第3の放電処理において、前記第1のコイルに流れる電流が所定の閾値を超えた後に、前記第2の放電処理を開始してもよい。このような構成によると、第2または第4の放電処理によって磁気結合リアクトルのリアクタンスが実質的に消滅又は低下した状態において、所定の閾値を超えた電流が、第1のスイッチング素子及び第2のスイッチング素子を流れることを防止することができる。その結果、第2または第4の放電処理において第1のスイッチング素子及び第2のスイッチング素子がダメージを受けることを抑制することができる。
【0016】
(第1実施形態)
図面を参照して各実施形態の電源システムについて説明する。図1は、第1実施形態の電源システム100を概略的に示すブロック図である。電源システム100は、例えば、燃料電池自動車(図示省略)に搭載される。燃料電池自動車は、電源システム100に加え、さらに、燃料電池2と、二次電池30と、インバータ32と、を備える。また、図示は省略したが、燃料電池自動車は、インバータ32に接続されるモータを備える。
【0017】
燃料電池2は、互いに直列に接続される複数個のセル(図示省略)を備える。複数個のセルは、それぞれ、酸素を取り込む複数の溝を備える酸素極と、水素を取り込む複数の溝を備える水素極と、酸素極と水素極との間に位置する電解質膜と、を備える。燃料電池2は、各セルで水素と酸素を反応させることによって発電する。燃料電池2が発電した電力は、電力変換器10、インバータ32を介して燃料電池自動車のモータに供給される。これにより、燃料電池自動車が走行する。燃料電池2は、正極2pと、負極2nと、を備える。図1に示されるように、燃料電池2の正極2pには、正極線7pが接続され、負極2nには、負極線7nが接続される。各極線7p、7nは、燃料電池2と電力変換器10とを接続するケーブル(図示省略)に含まれる電線である。
【0018】
二次電池30は、いわゆるリチウムイオン電池である。二次電池30は、リレー(図示省略)を介して、電力変換器10に接続される。二次電池30は、燃料電池2の始動時、燃料電池自動車の冷暖房運転時等、燃料電池2の発電量が少ない場合に、燃料電池2を補助する電源として用いられる。二次電池30の出力側には、インバータ32が接続される。インバータ32は、燃料電池2及び二次電池30の電力を、3相交流に変換し、モータ(図示省略)に供給する。
【0019】
電源システム100は、電力変換器10と、コントローラ20と、を備える。電力変換器10は、燃料電池2が発電した電圧を昇圧する、いわゆるDC-DCコンバータである。電力変換器10は、磁気結合リアクトル11と、第1の電流センサ4fと、第2の電流センサ4sと、第1のスイッチング素子8fと、第2のスイッチング素子8sと、第1のダイオード6fと、第2のダイオード6sと、平滑コンデンサ9と、を備える。
【0020】
二つのスイッチング素子8f、8sは、それぞれ、正極線7pと負極線7nとの間に接続される。第2のスイッチング素子8sは、第1のスイッチング素子8fと並列に接続される。スイッチング素子8f、8sは、具体的には、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。変形例では、各スイッチング素子8f、8sは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。電力変換器10は、二つのスイッチング素子8f、8sをオンオフすることで、燃料電池2の発電電力を昇圧する。電力変換器10が電力を昇圧する技術については、既知であるため、ここでは説明を省略する。
【0021】
図2に示されるように、磁気結合リアクトル11は、リアクトルコア14と、第1のコイル12fと、第2のコイル12sと、を備える。第1のコイル12fの極性は、ヨーク40側に示されており、第2のコイル12sの極性は、ヨーク42側に示されている。すなわち、各コイル12f、12fの巻線の極性は、互いに逆向きである。リアクトルコア14は、第1の外脚44と、第2の外脚46と、一対のヨーク40、42と、を備える。リアクトルコア14は、典型的には軟磁性を有する金属粒子を固めた圧粉磁心である。リアクトルコア14は、いわゆるリングコアであり、各部位40、42、44、46が環状に連結される。
【0022】
各コイル12f、12sは、らせん状の導線によって構成される。第1のコイル12fは、リアクトルコア14の第1の外脚44に巻かれている。第2のコイル12sは、リアクトルコア14の第2の外脚46に巻かれている。第1のスイッチング素子8fがオンされると、第1のコイル12fには、第1の電流I1が流れ、第2のスイッチング素子8sがオンされると、第2のコイル12sには、第2の電流I2が流れる。
【0023】
第1のスイッチング素子8fがオンされ、第1の電流I1が第1のコイル12fを流れると、第1のコイル12fの内部に磁界が発生する。その結果、リアクトルコア14には、第1の磁束B1が発生する。図2に示されるように、第1の磁束B1は、第1の外脚44においてヨーク40からヨーク42に向かう。
【0024】
同様に、第2のスイッチング素子8sがオンされ、第2の電流I2が第2のコイル12sを流れると、第2のコイル12sの内部に磁界が発生し、リアクトルコア14に、第2の磁束B2が発生する。第2の磁束B2は、第2の外脚46においてヨーク40からヨーク42に向かう。
【0025】
二つのスイッチング素子8f、8sがオンされると、各磁束B1、B2が発生する。図2に示されるように、第1の磁束B1は、ヨーク42において、上から下に向かう。一方、第2の磁束B2は、ヨーク42において、下から上に向かう。すなわち、各磁束B1、B2の方向は、互いに逆向きである。
【0026】
このため、二つのスイッチング素子8f、8sがオンされると、第2のコイル12sが発生させる第2の磁束B2は、第1のコイル12fが発生させる第1の磁束B1を打ち消す。別言すれば、第2のコイル12sは、第1のコイル12fに対して磁気的に差動接続されている。
【0027】
また、磁気結合リアクトル11の第1のコイル12fは、自己インダクタンスL1を有する。同様に、第2のコイル12sも、自己インダクタンスL1を有する。さらに、磁気結合リアクトル11では、第1のコイル12f及び第2のコイル12sの相互インダクタンスM1の大きさが、各自己インダクタンスL1の大きさと等しくなるように設定されている。これらのインダクタンスの大きさは、各コイル12s、12fの巻き数、リアクトルコア14の大きさ、最大磁束密度等に応じて決定される。
【0028】
コントローラ20は、CPU、メモリ等から構成されるコンピュータである。コントローラ20は、電力変換器10と電気的に接続されている。コントローラ20は、例えば、各電流センサ4f、4sから各コイル12f、12sを流れる電流値を受信する。コントローラ20は、例えば、燃料電池自動車のアクセル開度等、走行に関する情報に基づいて、スイッチング素子8f、8sをオンオフする信号を、電力変換器10に送信する。
【0029】
図3図5を参照して、コントローラ20が、燃料電池2に残存する電荷を放電するために実行する第1の放電処理及び第2の放電処理について説明する。これらの処理は、例えば、燃料電池2のメンテナンス時に、燃料電池2へ水素、酸素を供給するケーブルが、作業者によって燃料電池2から取り外された場合に実行される。このため、これらの処理中は、燃料電池2は発電を継続しない。しかしながら、ケーブルが燃料電池2から取り外された時点で、燃料電池2内には、ケーブルが取り外されるまでに発電された電荷が残存している。このため、燃料電池2内には、電荷(すなわち、電圧)が残存している。燃料電池2のサービス時等に、燃料電池2内に残存する電圧が燃料電池2の外部に漏れることを防止するために、燃料電池2内の残存電圧は、迅速に放電されることが求められる。
【0030】
燃料電池2内に残存する電圧の大きさは、発電状況、電力の使用状況に応じて変化する。以下では、ケーブルが燃料電池2から取り外された時点で、燃料電池2内に、燃料電池2内に残存し得る最大の電圧である最大残存電圧Vpが残存しているものとして、コントローラ20が実行する処理について説明する。
【0031】
コントローラ20は、第1の期間P1に亘って、に第1の放電処理を実行し、その後、第2の期間P2に亘って、第2の放電処理を実行する。第1の放電処理では、コントローラ20は、第2のスイッチング素子8sをオフにした状態で、第1のスイッチング素子8fをオンにする。これにより、第1のコイル12fを第1の電流I1が流れ、第2のコイル12sには、第2の電流I2が流れない。
【0032】
この結果、図4に示されるように、第1の電流I1が、燃料電池2の正極2p、第1のコイル12f、第1の電流センサ4f、第1のスイッチング素子8f、負極2n、の順に流れる。その結果、図3に示されるように、燃料電池2内の残存電圧Vrは、最大残存電圧Vpから徐々に低下する。
【0033】
この結果、第1のコイル12fに流れる第1の電流I1の値が変化するため、第1の期間P1では、第1のコイル12fの自己誘導が発生する。これにより、図3に示されるように、第1の電流センサ4fが計測する電流値Ifは、徐々に上昇する。第1のコイル12fを第1の電流I1が流れると、リアクトルコア14には、第1の磁束B1(図2参照)が発生する。その結果、磁気結合リアクトル11には、リアクタンス(第1のコイル12fの自己インダクタンスL1)が生じる。
【0034】
ここで、コントローラ20は、第1のスイッチング素子8fを流れる電流値が第1の閾値を超えた場合に、第1のスイッチング素子8fをオフする過電流保護機能を有している。これにより、コントローラ20は、第1のスイッチング素子8fに第1の閾値を超えた大電流が流れることを防止することができる。このため、仮に電流値Ifが第1の閾値を超えたとすると、コントローラ20は、第1のスイッチング素子8fを強制的にオフする。その結果、第1の電流I1は、燃料電池2の負極2nに向かうことなく、平滑コンデンサ9に流れ込む。
【0035】
第1の電流Iの電流値Ifは、燃料電池2の最大残存電圧Vpと、第1のコイル12fの自己インダクタンスL1の値によって算出することができる。最大残存電圧Vpは、燃料電池2のセルの個数等に応じて予め算出することができる。本実施形態の第1のコイル12fの自己インダクタンスL1は、算出された最大残存電圧Vpに対して、第1の電流Iの電流値Ifが、第1の閾値を超えない値に設定される。このため、コントローラ20は、第1の期間P1において、過電流保護機能によって第1のスイッチング素子8fを強制的にオフしない。その結果、第1の電流I1が流れ込むことがない。すなわち、本実施形態の第1のコイル12fは、第1の期間P1においてコントローラ20の過電流保護機能が実行されることのない自己インダクタンスL1の値を有している。このため、平滑コンデンサ9に電圧が蓄積されることが防止される。その結果、例えば、平滑コンデンサ9に蓄積された電圧が平滑コンデンサ9の許容値を超えることが抑制され、平滑コンデンサ9、各スイッチング素子8f、8s、各ダイオード6f、6sがダメージを受けることを防止することができる。
【0036】
図3に示されるように、第1の電流Iの電流値Ifは、徐々に上昇した後、ピーク電流Ipに到達する。ピーク電流Ipは、最大残存電圧Vpによって第1のコイル12fに発生し得る電流の最大値であり、最大残存電圧Vpと、第1のコイル12fの自己インダクタンスL1等から算出される値である。第1の電流Iの電流値Ifは、ピーク電流Ipに到達した後、徐々に低下する。
【0037】
コントローラ20は、ピーク電流Ipの値を、メモリに記憶している。コントローラ20は、第1の電流センサ4fから受信した第1の電流I1の電流値Ifがピーク電流Ipと一致したと判断した後に、第2の放電処理を開始する。
【0038】
第2の放電処理において、コントローラ20は、第1のスイッチング素子8fをオンした状態で、第2のスイッチング素子8sをさらにオンする。これにより、図5に示されるように、第1のコイル12fを流れる第1の電流I1に加え、さらに、第2の電流I2が、燃料電池2の正極2p、第2のコイル12s、第2の電流センサ4s、第2のスイッチング素子8s、負極2n、の順に流れる。その結果、図2に示されるように、リアクトルコア14には、第1の磁束B1に加えて、第2の磁束B2が発生する。
【0039】
第2のコイル12sは、第1のコイル12fに対して差動接続されている。このため、第1の磁束B1と第2の磁束B2とは、互いに打ち消し合う。その結果、第2の期間P2では、第1の期間P1に比べて、磁気結合リアクトル11のリアクタンスが低下する。第1のコイル12f及び第2のコイル12sの相互インダクタンスM1は、第1のコイル12fの自己インダクタンスL1を打ち消す方向に発生する。第1のコイル12f及び第2のコイル12sの自己インダクタンスL1の大きさは、第1のコイル12f及び第2のコイル12sの相互インダクタンスM1の大きさと等しい。このため、第2の放電処理が実行されている間、コイル12f、12sの自己インダクタンスL1は、相互インダクタンスM1によって打ち消される。この結果、第2の放電処理が実行されている間、磁気結合リアクトル11aのリアクタンスは消滅する。
【0040】
これにより、各電流I1、I2は、第1のコイル12f及び第2のコイル12sを、スムーズに流れることができる。別言すれば、燃料電池2内の残存電圧Vrを、迅速に放電することができる。このように、本実施形態の電源システム100は、第1の放電処理では、磁気結合リアクトル11のリアクタンスを利用して、大きな電流が第1のスイッチング素子8fに流れることを抑制する。さらに、電源システム100は、第2の放電処理では、磁気結合リアクトル11のリアクタンスを消滅させることによって、燃料電池2内の残存電荷を迅速に放電することができる。
【0041】
また、第2の放電処理において、磁気結合リアクトル11のリアクタンスが低下するものの、第1の放電処理において、電流値Ifがピーク電流Ipに到達している。さらに、燃料電池2に水素、酸素を供給するケーブルが取り外されているため、各放電処理の実行中には燃料電池2は、発電しない。このため、第2の放電処理では、ピーク電流Ipを超える大電流が第1のスイッチング素子8f、第2のスイッチング素子8sを流れることがない。磁気結合リアクトル11のリアクタンスが消滅した第2の期間P2に、大電流がスイッチング素子8f、8sを流れないため、二つのスイッチング素子8f、8sがダメージを受けることを抑制することができる。さらに、第2の期間P2に、大電流がスイッチング素子8f、8sを流れないため、コントローラ20は、第2の期間P2に二つのスイッチング素子8f、8sを過電流保護機能によってオフしない。このため、平滑コンデンサ9に大きな電流が流れ込むことを防止することができる。
【0042】
(第2実施形態)
図6図10を参照して、第2実施形態の電源システム100aについて説明する。電源システム100aは、第1実施形態の電源システム100に対して、電力変換器10を電力変換器10aに置き換え、コントローラ20をコントローラ20aに置き換えたシステムである。電力変換器10aは、電力変換器10の磁気結合リアクトル11を磁気結合リアクトル11aに置き換え、補助電源回路50をさらに追加したものである。それ以外の構成については、各電源システム100、100aは、同様の構成を有する。
【0043】
磁気結合リアクトル11aは、第1のコイル12f、第2のコイル12sに加え、さらに、第3のコイル18を備える。補助電源回路50は、第3のコイル18に接続される回路であり、補助電源52と、スイッチ54と、を備える。スイッチ54は、コントローラ20aと電気的に接続されている。
【0044】
図7に示されるように、磁気結合リアクトル11aのリアクトルコア14aは、第1の外脚44a、第2の外脚46a、一対のヨーク40a、42aに加え、さらに、中脚48を備える。一対のヨーク40a、42aは、各外脚44aと46aとを、環状に連結する。中脚48は、一対のヨーク40a、42aを互いに接続する。リアクトルコア14aは、一対のE字形状を有するコアを、互いに向かい合うように接合することによって構成される。
【0045】
磁気結合リアクトル11aでは、二つのスイッチング素子8f、8sがオンされ、第3の電流I3f、I3sが、それぞれ、コイル12f、12sに流れた場合に、一対の第3の磁束B3がリアクトルコア14aに発生する。図7に示されるように、一対の第3の磁束B3の一方は、第1の外脚44aにおいてヨーク40aからヨーク42aに向かい、一対の第3の磁束B3の他方は、第2の外脚46aにおいてヨーク40aからヨーク42aに向かう。すなわち、一対の第3の磁束B3は、互いに逆向きである。
【0046】
しかしながら、リアクトルコア14aは、中脚48を備える。このため、一対の磁束B3は、互いに打ち消し合うことなく、中脚48に入り込んでヨーク42aからヨーク40aに向かう。このため、コイル12f、12sの両者に電流が流れても、本実施形態の磁気結合リアクトル11aには、リアクタンス(各コイル12f、12sの自己インダクタンスL1)が発生する。
【0047】
また、第3のコイル18は、第2のコイル12sに対して逆向きの極性を有する。このため、第3のコイル18に第4の電流I4が流れると、中脚48には、ヨーク42aからヨーク40aに向かう第4の磁束B4が発生する。すなわち、第3のコイル18に第4の電流I4が流れると、中脚48には、一対の磁束B3と同じ向きの第4の磁束B4が発生する。すなわち、第3のコイル18は、第1のコイル12f及び第2のコイル12sに対して、磁気的に和動接続されている。
【0048】
このため、コイル12f、12s、18に、それぞれ、電流I3f、I3s、I4が流れると、中脚48の磁束密度が上昇し、中脚48が磁気飽和する。中脚48が磁気飽和すると、中脚48には、一対の磁束B3が入り込めない。その結果、図2で説明した各磁束B1、B2と同様に、一対の磁束B3は、互いに打ち消し合う。これにより、磁気結合リアクトル11aのリアクタンスが低下する。このように、第2実施形態の磁気結合リアクトル11aは、中脚48を磁気飽和させることで、リアクタンスを実質的に消滅または低下させることができる。
【0049】
図8図10を参照して、コントローラ20aが、燃料電池2に残存する電荷を放電するために実行する処理について説明する。上述した第1の放電処理及び第2の放電処理と同様に、コントローラ20aは、例えば、燃料電池2へ水素、酸素を供給するケーブルが、作業者によって燃料電池2から取り外された場合に、第3の放電処理及び第4の放電処理を実行する。
【0050】
コントローラ20aは、第3の期間P3に亘って第3の放電処理を実行し、その後、第4の期間P4に亘って第4の放電処理を実行する。第3の放電処理では、コントローラ20aは、補助電源回路50のスイッチ54をオフした状態で、二つのスイッチング素子8f、8sをオンする。これにより、第1のコイル12fを第1の電流I1が流れ、第2のコイル12sを、第2の電流I2が流れる。その結果、リアクトルコア14には、一対の第3の磁束B3(図7参照)が発生する。その結果、磁気結合リアクトル11aには、リアクタンス(各コイル12f、12sの自己インダクタンスL1)が生じる。
【0051】
第3の放電処理が開始され、二つのスイッチング素子8f、8sがオンされると、図9に示されるように、第3の電流I3fが、燃料電池2の正極2p、第1のコイル12f、第1の電流センサ4f、第1のスイッチング素子8f、負極2n、の順に流れる。さらに、第3の電流I3sが、燃料電池2の正極2p、第2のコイル12s、第2の電流センサ4s、第2のスイッチング素子8s、負極2n、の順に流れる。その結果、燃料電池2内の残存電圧Vrは、最大残存電圧Vpから徐々に低下する。これにより、上述した第1の期間P1と同様に、各コイル12f、12sの自己誘導により、例えば、第1の電流センサ4fが計測する電流値Ifは、徐々に上昇する。なお、図8では記載されていないが、第2の電流センサ4sが計測する電流値も、同様に、徐々に上昇する。
【0052】
その後、コントローラ20aは、電流値Ifがピーク電流Ipと一致した後に、第4の放電処理を開始する。第4の放電処理では、二つのスイッチング素子8f、8sをオンした状態で、さらに、補助電源回路50のスイッチ54をオンする。これにより、図10に示されるように、補助電源回路50の補助電源52によって、第3のコイル18を第4の電流I4が流れる。その結果、図7に示されるように、リアクトルコア14aには、一対の第3の磁束B3に加え、第4の磁束B4が発生する。
【0053】
先の述べたように、第3のコイル18は、第1のコイル12f及び第2のコイル12sに対して、磁気的に和動接続されている。このため、第1のコイル12f及び第2のコイル12sのそれぞれに第3の電流I3f、I3sが流れている状態で、第3のコイル18に第4の電流I4が流れると、リアクトルコア14aの中脚48が、磁気飽和する。その結果、一対の第3の磁束B3は、リアクトルコア14aの中脚48に入り込めない。その結果、図2を参照して説明した第2の放電処理における各磁束B1、B2と同様に、互いに磁気的に差動接続された第1のコイル12f及び第2のコイル12sによって発生する一対の第3の磁束B3は、互いに打ち消し合う。
【0054】
第1のコイル12f及び第2のコイル12sには、それぞれの自己インダクタンスL1を打ち消す方向に相互インダクタンスM1が生じる。先に述べたように、コイル12f、12sの自己インダクタンスL1の大きさは、相互インダクタンスM1の大きさと等しい。このため、第4の放電処理が実行されている間、コイル12f、12sの自己インダクタンスL1は、相互インダクタンスM1によって打ち消される。この結果、第4の放電処理が実行されている間、磁気結合リアクトル11aのリアクタンスは消滅する。これにより、第1のコイル12f及び第2のコイル12sを、電流が流れやすくなる。別言すれば、燃料電池2内の残存電圧Vrを、迅速に放電することができる。
【0055】
また、本実施形態の電源システム100aでは、燃料電池2の発電した電力の変換に必要な第1のコイル12f及び第2のコイル12sとは別で構成される第3のコイル18を利用して磁気結合リアクトル11aのリアクタンスを実質的に消滅させることができる。このため、第3のコイル18、補助電源回路50によって、燃料電池2の発電した電力の変換に影響を与えることなく、第3、第4の放電処理に適した回路を構成することができる。
【0056】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。上記の実施形態の変形例を以下に列挙する。
【0057】
(変形例1)電源システム100、100aは、平滑コンデンサ9を備えなくてもよい。
【0058】
(変形例2)、第1のコイル12f及び第2のコイル12sの相互インダクタンスM1の大きさは、第1のコイル12fの自己インダクタンスL1の大きさと等しくなくてもよい。例えば、第1のコイル12f及び第2のコイル12sの相互インダクタンスM1の大きさは、第1のコイル12fの自己インダクタンスL1の大きさよりも小さく設定されてもよい。この場合、各コイル12f、12sの自己インダクタンスの大きさは、電力変換器10、10aに求められる昇圧能力に応じて変更されてもよい。
【0059】
(変形例3)コントローラ20は、燃料電池2の発電容量等に応じて、過電流保護機能を有さなくてもよい。その場合、第1のコイル12fは、第1のスイッチング素子8fを流れる第1の電流I1を、第1の閾値以下に保持する自己インダクタンスL1を有さなくてもよい。
【0060】
(変形例4)コントローラ20は、電流値Ifがピーク電流Ipを超えた後に、第2の放電処理を開始しなくてもよい。例えば、コントローラ20は、第1の放電処理の開始から、所定の時間が経過した後に、第2の放電処理を開始してもよい。
【0061】
(変形例5)上述したコントローラ20は、燃料電池2に酸素及び水素を供給するケーブルが、燃料電池2から取り外された場合に、各放電処理を実行する。しかしながら、例えば、コントローラ20は、ユーザから急速放電の指示を受信した場合に、各放電処理を実行してもよい。さらなる変形例では、例えば、コントローラ20は、燃料電池自動車が水没した場合等、漏電のおそれが発生した場合に、当該事象が発生した信号を燃料電池自動車から受信し、これにより、自動的に各放電処理を実行してもよい。
【0062】
(変形例6)第2実施形態のコントローラ20aは、第3の放電処理において、第1のスイッチング素子8fと第2のコイル12sの両者をオンしなくてもよく、例えば、第1のスイッチング素子8fのみをオンしてもよい。その場合、コントローラ20aは、第4の放電処理の開始時に、第2のスイッチング素子8sをオンすればよい。
【0063】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0064】
2 :燃料電池
2n :負極
2p :正極
7n :負極線
7p :正極線
8f :第1のスイッチング素子
8s :第2のスイッチング素子
9 :平滑コンデンサ
10、10a :電力変換器
11、11a :磁気結合リアクトル
12f :第1のコイル
12s :第2のコイル
14、14a :リアクトルコア
18 :第3のコイル
20、20a :コントローラ
30 :二次電池
32 :インバータ
40、40a、42、42a :ヨーク
44、44a :第1の外脚
46、46a :第2の外脚
48 :中脚
50 :補助電源回路
52 :補助電源
54 :スイッチ
100、100a :電源システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10