(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】高圧処理済多層構造体の製造方法および多層構造体の高圧処理方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/28 20060101AFI20241119BHJP
B32B 37/10 20060101ALI20241119BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B32B27/28 102
B32B37/10
B32B27/32 101
(21)【出願番号】P 2021539269
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030361
(87)【国際公開番号】W WO2021029356
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2019146939
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】中西 伸次
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-290175(JP,A)
【文献】特開平04-148653(JP,A)
【文献】特開2018-058298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D30/00-33/38
65/00-79/02
81/18-81/30
81/38
85/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体層とオレフィン系樹脂層とを有する高圧処理済多層構造体の製造方法であって、
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体層がケン化度99.7モル%を超えるエチレン-ビニルアルコール系共重合体を主成分とする樹脂組成物からなり、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体層の表裏両面に、
他の層を介してオレフィン系樹脂層が設けられ、
上記他の層がカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を含有する樹脂組成物からなるものとし、上記オレフィン系樹脂層の厚みが100μm未満とした多層構造体を作製し、
上記多層構造体を
200MPa以上の圧力で高圧処理することを特徴とする高圧処理済多層構造体の製造方法。
【請求項2】
上記高圧処理を3分間以上行うことを特徴とする請求項1記載の高圧処理済多層構造体の製造方法。
【請求項3】
上記高圧処理を50~90℃の雰囲気下において行うことを特徴する請求項1または2記載の高圧処理済多層構造体の製造方法。
【請求項4】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体層とオレフィン系樹脂層とを有する多層構造体に対する高圧処理方法であって、
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体層をケン化度99.7モル%を超えるエチレン-ビニルアルコール系共重合体を主成分とする樹脂組成物からなるようにし、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体層の表裏両面に、
他の層を介してオレフィン系樹脂層が設けられ、
上記他の層をカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を含有する樹脂組成物からなるものとし、上記オレフィン系樹脂層の厚みを100μm未満とし、
上記多層構造体を
200MPa以上の圧力で高圧処理することを特徴とする多層構造体の高圧処理方法。
【請求項5】
上記高圧処理を3分間以上行うことを特徴とする請求項
4記載の多層構造体の高圧処理方法。
【請求項6】
上記高圧処理を50~90℃の雰囲気下において行うことを特徴する請求項4または5記載の多層構造体の高圧処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧処理済多層構造体を製造する方法、およびエチレン-ビニルアルコール系共重合体層とオレフィン系樹脂層とを有する多層構造体に対する高圧処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品等のパッケージとして、瓶や缶に比べて軽量で使用後の減容性に優れるフィルム包装体(複数の層を有する多層構造体)が用いられるようになっている。このような多層構造体には、強度や剛性が高く破れにくいという物理的な特性のほか、内容物の劣化防止の観点から高いガスバリア性を備えていることが求められる。
【0003】
一方、上記多層構造体に包装された内容物は、通常、衛生および保存の面から、上記多層構造体ごと殺菌処理を行うことが必要とされる。上記殺菌処理の方法としては、レトルト処理やボイル処理等の熱水処理する方法、紫外線やガンマ線等の放射線照射する方法、高圧処理する方法等が知られている。なかでも、高圧処理方法は、内容物の劣化がほとんどないため、広く用いられている。
【0004】
このような高圧処理方法としては、例えば、特許文献1には、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下「EVOH」とすることがある)層を含む多層構造体において、上記EVOH層をケン化度95モル%以上のEVOHからなるものとし、その多層構造体に対して高圧処理する方法が記載されている。また、非特許文献1には、ポリプロピレン(以下「PP」とすることがある)層/EVOH層/PP層の3層を含む多層構造体に対して高圧処理する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Amparo Lopez-Rubio, Jose M. Lagaron, Pilar Hernandez-Munoz, Eva Almenar, Ramon Catala, Rafael Gavara, Melvin A. Pascall, Innovative Food Science and Emerging Technologies 6 (2005) 51-58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、内容物に対する殺菌効果を得られるものの、高圧処理の際にEVOH層が吸湿してしまい、多層構造体のガスバリア性が低下するという問題が生じることがわかった。また、上記非特許文献1に記載の方法においても、内容物に対する殺菌効果を得られるものの、やはりガスバリア性が低下することは否めず、高圧処理を行うことによりガスバリア性が高くなるものは存在していなかった。
【0008】
そこで、本発明ではこのような背景下において、食品等のパッケージに用いることができ、高圧処理を行うことによりガスバリア性を高めることができる、オレフィン系樹脂層とEVOH層とを有する多層構造体に対する高圧処理方法、および高圧処理済多層構造体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに、本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、EVOH層とオレフィン系樹脂層とを有する多層構造体において、EVOH層をケン化度の高いEVOHを主成分とする樹脂組成物からなるようにし、オレフィン系樹脂層の厚みを所定未満のものとし、上記多層構造体を特定の温度以上の雰囲気下において200MPa以上の圧力で高圧処理することにより、上記多層構造体のガスバリア性を高めることができることを見出した。
【0010】
上記課題を達成するため、本発明は、以下の[1]~[4]を要旨とする。
[1]EVOH層とオレフィン系樹脂層とを有する高圧処理済多層構造体の製造方法であって、上記EVOH層がケン化度99.7モル%を超えるEVOHを主成分とする樹脂組成物からなり、上記オレフィン系樹脂層の厚みが100μm未満とした多層構造体を作製し、上記多層構造体を20℃以上の雰囲気下において200MPa以上の圧力で高圧処理する高圧処理済多層構造体の製造方法。
[2]上記高圧処理を3分間以上行う、[1]記載の高圧処理済多層構造体の製造方法。
[3]EVOH層とオレフィン系樹脂層とを有する多層構造体に対する高圧処理方法であって、上記EVOH層を、ケン化度99.7モル%を超えるEVOHを主成分とする樹脂組成物からなるようにし、上記オレフィン系樹脂層の厚みを100μm未満とし、上記多層構造体を20℃以上の雰囲気下において200MPa以上の圧力で高圧処理する多層構造体の高圧処理方法。
[4]上記高圧処理を3分間以上行う、[3]記載の多層構造体の高圧処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層構造体の高圧処理方法は、EVOH層とオレフィン系樹脂層とを有する多層構造体に対する高圧処理方法であって、上記EVOH層がケン化度99.7モル%を超えるEVOHを主成分とする樹脂組成物からなるようにし、上記オレフィン系樹脂層の厚みを100μm未満とし、その多層構造体を20℃以上の雰囲気下において200MPa以上の圧力で高圧処理している。このため、高圧処理をしたにもかかわらず、多層構造体のガスバリア性を高めることができる。
これは高圧処理をすることで、上記EVOH層を構成するEVOH中の非晶部分が圧縮されることにより、EVOH中に長周期配列を形成しているラメラ構造が規則的に折りたたまれてEVOHの結晶化度が上がるため、ガスバリア性が向上すると推定される。
なお、ケン化度が低いEVOHの場合、アセチル基が高分子中に無秩序に存在することから、高圧処理における非晶部分の圧縮の際に分子鎖による立体障害が発生し、結晶化度が上がらないために、ガスバリア性が向上しにくいと考えられる。よって、特にケン化度が高いEVOHでガスバリア性が向上すると推測される。
また、本発明の高圧処理済多層構造体の製造方法は、上記多層構造体を作製し、この多層構造体を20℃以上の雰囲気下において200MPa以上の圧力で高圧処理することによって、ガスバリア性が改善された多層構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態の対象である多層構造体の断面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
本発明の一実施の形態である多層構造体の高圧処理方法は、少なくともオレフィン系樹脂層とEVOH層とを有する多層構造体に対して行うものである。そして、上記オレフィン系樹脂層の厚みを100μm未満とし、上記EVOH層をケン化度99.7モル%を超えるEVOHを主成分とする樹脂組成物からなるようにし、上記多層構造体を20℃以上の雰囲気下において200MPa以上の圧力で高圧処理するものである。
また、本発明の一実施の形態である高圧処理済多層構造体の製造方法は、上記多層構造体を作製し、この多層構造体を20℃以上の雰囲気下において200MPa以上の圧力で高圧処理することによって、高圧処理済多層構造体を得るものである。
【0015】
まず、本発明が対象とする上記多層構造体について説明し、ついで本発明の一実施の形態として、この多層構造体を高圧処理する方法および高圧処理済多層構造体の製造方法について説明する。
【0016】
[多層構造体]
図1は、本発明の一実施の形態が対象とする多層構造体1を模式的に示したものであり、多層構造体1は、EVOH層2の表裏両面に、それぞれ接着樹脂層3を介してオレフィン系樹脂層4が設けられた、5層構造になっている。このような多層構造体1は、例えば、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装体等に用いることができる。なお、
図1において、各部分は模式的に示したものであり、実際の厚み、大きさ等とは異なっている。
【0017】
<EVOH層2>
EVOH層2は、主にガスバリア性を担うものであり、ケン化度99.7モル%を超えるEVOHを主成分とする樹脂組成物からなっている。ここで、主成分とは、その材料の特性に影響を与える成分の意味であり、その成分の含有量は通常、材料全体の50質量%以上であり、100質量%(ケン化度99.7モル%を超えるEVOHのみからなる)であるものを含む意味である。
また、上記ケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいてEVOHにおけるビニルエステル成分を測定した値である。上記EVOHにおいて、好ましいケン化度は99.8~100モル%であり、更に好ましくは99.9~100モル%である。ケン化度が低すぎる場合には、ガスバリア性が不足する傾向がある。
【0018】
上記EVOHは、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体(エチレン-ビニルエステル系共重合体)をケン化することにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記共重合体の製造は、エチレンとビニルエステル系モノマーとを公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いることができるが、一般的にはメタノール等の低級アルコールを溶媒とする溶液重合が用いられる。上記共重合体のケン化も公知の方法で行うことができる。このようにして製造されるEVOHは、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含んでいる。
【0019】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物処理効率が良い点から、酢酸ビニルが好ましく用いられる。その他のビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0020】
上記EVOHにおけるエチレン含有率は、ISO 14663に基づいて測定した値で、20~60モル%であることが好ましく、より好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。エチレン含有率が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0021】
上記EVOHのメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、0.5~100g/10分であることが好ましく、より好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が低下する傾向があり、小さすぎる場合には溶融粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
【0022】
上記EVOHには、エチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位(未ケン化のビニルエステル構造単位を含む)の他、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、更に含まれていてもよい。前記コモノマーとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1、2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物;アシル化物等のヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体、不飽和カルボン酸またはその塩、部分アルキルエステル、完全アルキルエステル、ニトリル、アミドもしくは無水物;不飽和スルホン酸またはその塩;ビニルシラン化合物;塩化ビニル;スチレン等が挙げられる。
【0023】
上記EVOHとして、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂を用いることもできる。このような変性物のなかでも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたEVOHは、延伸処理や真空・圧空成形等の二次成形性が良好になる点で好ましく、なかでも1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOHが好ましく用いられる。
【0024】
上記EVOHを主成分とする樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般的にEVOHを主成分とする樹脂組成物に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤等が含有されていてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0025】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩等の塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩等の塩等が挙げられる。
【0026】
上記EVOHを主成分とする樹脂組成物は、単独もしくは2種以上のEVOHを用いることができ、かかる2種以上のEVOHとしては、エチレン含有率が異なるもの、ケン化度が異なるもの、メルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)が異なるもの、他の共重合成分が異なるもの、変性量が異なるもの(例えば、1,2-ジオール構造単位の含有量が異なるもの)等を適宜選択して用いることができる。
【0027】
上記EVOHを主成分とする樹脂組成物には、ポリアミド系樹脂が含まれることが好ましい。上記ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOHの水酸基および/またはエステル基の少なくとも一方との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、高圧処理時のEVOHの溶出を防止することができる。
【0028】
上記ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられる。また、共重合ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族共重合ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-p-フェニレン・3-4'ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族共重合ポリアミド、非晶性ポリアミド、上記のポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等のカルボキシル基やアミノ基で末端を変性した末端変性ポリアミド等が挙げられる。ガスバリア性を更に向上させることができる点から、好ましくは共重合ポリアミド系樹脂であり、特に好ましくは脂肪族共重合ポリアミドである。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0029】
上記EVOHを主成分とする樹脂組成物におけるポリアミド系樹脂の含有量は、例えば、上記樹脂組成物全体の1~40質量%であることが好ましく、5~35質量%であることが更に好ましい。
【0030】
上記EVOH層2の厚みは、通常、1~30μmであり、好ましくは3~28μmであり、5~25μmであることが更に好ましい。
【0031】
<接着樹脂層3>
上記接着樹脂層3は、上記EVOH層2と後述するオレフィン系樹脂層4との接着強度を高めるために設けられるものであり、接着剤樹脂を含有する樹脂組成物からなっている。上記接着剤樹脂としては、公知のものを使用でき、上記EVOH層2およびオレフィン系樹脂層4に用いる樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体が挙げられる。このような変性ポリオレフィンとしては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。なかでも、多層構造体1の耐水性を向上させる点から、疎水性に優れた接着剤樹脂を用いることが好ましく、とりわけ、ポリ環状オレフィン系樹脂を用いることが好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0032】
上記ポリ環状オレフィン系樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の鎖状脂肪族ポリオレフィンと比べて、湿分透過度が低い。このため、上記接着樹脂層3にポリ環状オレフィン系樹脂を用いると、湿気や熱水殺菌処理等による外部からの水分混入量を少なくでき、高圧処理後における多層構造体1の酸素透過率を良好に保つことができる。
【0033】
上記接着剤樹脂を含有する樹脂組成物は、上記接着剤樹脂のみで構成されていてもよいが、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいてもよい。
【0034】
上記接着樹脂層3の厚みは、通常、1~30μmであり、好ましくは2~20μmであり、3~10μmであることが更に好ましい。
【0035】
<オレフィン系樹脂層4>
上記オレフィン系樹脂層4は、強度やガスバリア性をより高めるために設けられるものであり、オレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物からなっている。上記オレフィン系樹脂は、熱によって溶融し、他の層に対して融着し得るものであってもよい。上記オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられ、なかでも耐熱性、吸湿性、耐溶剤性に優れる点で、ポリプロピレン系樹脂を用いることが好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0036】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンホモポリマー、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、プロピレンと他のα-オレフィン(例えば、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等)少量(1~10質量%)との共重合体、プロピレンとエチレンプロピレン等が挙げられる。リサイクル性およびヒートシール性に優れ、低コストである等の点で、プロピレンホモポリマーが好ましい。また、より厳しい条件下での熱水殺菌処理に使用できる点で、融点が130℃以上であることが望ましい。
【0037】
上記オレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物は、上記オレフィン系樹脂のみで構成されていてもよいが、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいてもよい。
【0038】
上記オレフィン系樹脂層4の厚みは、100μm未満にするものであり、好ましくは10~90μmであり、多層構造体1のガスバリア性をより高める点で、20~80μmであることがより好ましく、30~70μmであることが更に好ましい。上記オレフィン系樹脂層が複数ある場合は、少なくとも1層が100μm未満であればよい。
【0039】
これらの層を有する上記多層構造体1(
図1参照)は、例えば、溶融成形法、ウェットラミネーション法、ドライラミネーション法、無溶剤ラミネーション法、押出ラミネーション法、共押出ラミネーション法、インフレーション法等で製造することができる。なかでも、溶剤を使用しないという環境面、別工程でラミネートを実施する必要がないというコスト面から溶融成形法が好ましく用いられる。上記溶融成形方法としては、公知の手法が採用可能であり、例えば、押出成形法(T-ダイ押出、チューブラーフィルム押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法等が挙げられる。溶融成形温度は、通常、150~300℃の範囲から、適宜選択される。
【0040】
また、オレフィン系樹脂層4、EVOH層2等の任意の層が積層された多層材を予め作製しておき、上記多層材を別の多層材または任意の層に積層する方法によっても製造することができる。なお、積層に要するコストを削減できるという点で、積層する回数がより少ない方法によって製造することが好ましい。
【0041】
このようにして得られた多層構造体1は、再加熱してもよく、例えば、絞り成形等の熱成形法、ロール延伸法、パンタグラフ式延伸法、インフレーション延伸法、ブロー成形法等により、一軸または二軸延伸し、延伸された成形品を得るようにしてもよい。
【0042】
上記多層構造体1の厚みは、通常、10~600μmであり、50~300μmであることが好ましく、70~280μmであることがより好ましく、80~260μmであることが更に好ましい。多層構造体1の厚みが薄すぎると強度不足により破損しやすい傾向があり、厚すぎると柔軟性が低下する傾向がある。なお、上記厚みは、多層構造体1を再加熱(延伸等)した場合には、再加熱(延伸等)した後の成形品に対する値である(以下において同じ)。
【0043】
上記多層構造体1において、上記EVOH層2に対するオレフィン系樹脂層4の厚みの比(オレフィン系樹脂層4/EVOH層2)は、各層が複数ある場合には最も厚みの薄い層同士の比で、通常、0.25/1~10/1、好ましくは1/1~8/1、より好ましくは2/1~6/1である。
【0044】
また、上記多層構造体1において、上記EVOH層2に対する接着樹脂層3の厚みの比(接着樹脂層3/EVOH層2)は、各層が複数ある場合には最も厚みの薄い層同士の比で、通常、0.1/1~10/1、好ましくは0.25/1~5/1、より好ましくは0.5/1~2/1である。
【0045】
なお、この実施の形態では、多層構造体1として、オレフィン系樹脂層4/接着樹脂層3/EVOH層2/接着樹脂層3/オレフィン系樹脂層4の順に、5層が積層されたものを用いているが(
図1参照)、オレフィン系樹脂層4およびEVOH層2の少なくとも2層を備えているものであれば、この実施の形態に限られない。また、本発明に用いる多層構造体1は、少なくとも上記2層を有し、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、何層構造であってもよく、他の層を有していてもよいし、接着樹脂層3を有していなくてもよい。ただし、この実施の形態のように、EVOH層2が接着樹脂層3を介してオレフィン系樹脂層4に接している構成のものは、上記EVOH層2とオレフィン系樹脂層4の密着性をより高めることができ、より高いガスバリア性を実現できる。この点から、上記EVOH層2とオレフィン系樹脂層4との間に接着樹脂層3を設けることが好ましい。
【0046】
上記他の層を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン樹脂等のポリアミド系樹脂、ポリアラミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。また、他の層として、基材フィルムを用いるようにしてもよい。上記他の樹脂層の厚みは、1層あたり1~100μmであることが好ましく、より好ましくは5~90μmであり、特に10~80μmが好ましい。
【0047】
また、この実施の形態では、多層構造体1の構成において、オレフィン系樹脂層4が2層設けられ、これらが同じ樹脂組成物からなり、その厚みも同じになっているが、それぞれ異なる樹脂組成物からなるようにし、その厚みも異なるようにしてもよい。接着樹脂層3においても同様である。
【0048】
[高圧処理済多層構造体の製造方法]
本発明における高圧処理とは、例えば、水を媒体として高圧条件下に上記多層構造体1を置き、上記多層構造体1自体または上記多層構造体1で包装された内容物(以下「内容物」とすることがある)の殺菌処理を行うことが挙げられる。上記高圧処理は、一般に用いられるレトルト殺菌処理と比較すると、低温で短時間の処理が可能であるため、内容物の色、香り、栄養素を損なうことがないという利点を有する。また、前記多層構造体に対し、上記高圧処理を行うことにより、本発明の高圧処理済多層構造体を得ることができる。
【0049】
本発明において、上記高圧処理で採用される圧力は200MPa以上であり、好ましくは200~800MPa、より好ましくは500~700MPaである。すなわち、圧力が低すぎると、ガスバリア性の改善が不充分な傾向があり、一方で圧力が高すぎると装置にかかる負荷が大きくなる傾向がある。
【0050】
また、上記高圧処理で採用される温度は、20℃以上であり、好ましくは20~90℃、より好ましくは50~80℃である。すなわち、温度が低すぎる場合では、EVOHの分子運動を制御させるための熱量として不充分であり、バリア性を改善させにくい傾向がある。一方、温度が高すぎる場合は、水を圧力媒体とするとき、突沸が発生させてしまい、装置にかかる負荷が大きくなる傾向がある。
【0051】
そして、上記高圧処理は、3分間以上行われることが好ましく、より好ましくは5~60分間である。すなわち、処理時間が短すぎるとガスバリア性の改善が不充分の傾向があり、一方で処理時間が長すぎると、装置内が長時間の圧力状態になることで、装置にかかる負荷が増大し、パッキンなどの交換頻度が高まる傾向がある。
【0052】
本発明の高圧処理方法は、例えば、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装体に用いられる多層構造体1に対して有用である。すなわち、本発明の高圧処理方法によれば、多層構造体1は、高圧処理後のガスバリア性に優れ、しかも、内容物の劣化を極力少なくできるという利点を有する。
また、本発明の高圧処理済多層構造体の製造方法によれば、ガスバリア性が向上した(改善された)高圧処理済多層構造体を得ることができるため、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等を内容物とする包装体に用いると、その内容物の劣化を極力少なくできるという利点を有する。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
まず、多層構造体を構成する各層の材料として、以下のものを準備した。
[EVOH層]
No.1:エチレン構造単位の含有率29モル%、ケン化度99.8モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2,160g)のEVOH。
No.2:エチレン構造単位の含有率44モル%、ケン化度99.8モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2,160g)のEVOH。
No.3:エチレン構造単位の含有率44モル%、ケン化度98.5モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2,160g)のEVOH。
[オレフィン系樹脂層]
ホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製、ノバテックEA7AD)。
[接着樹脂層]
ポリプロピレン系接着樹脂(ライオンデルバセル社製、プレクサーPX6002)。
【0055】
<実施例1~8、比較例1~6>
上記各層の材料を用いて、押出成形法(T-ダイ押出)による製膜を行い、後記の表1にEVOH層の樹脂の種類と、各層の厚みとを示すとおり、オレフィン系樹脂層4/接着樹脂層3/EVOH層2/接着樹脂層3/オレフィン系樹脂層4の5層を有する多層構造体1(
図1参照)を作製した。
【0056】
ついで、得られた各多層構造体1に対し、高圧処理装置(神戸製鉄所社製、Dr.Chef)を用いて、表1に示す条件で、溶媒に水を用いて静水圧中における高圧処理を行った。
【0057】
[ガスバリア改善率]
上記多層構造体1について、上記高圧処理の前後の酸素透過率(cc/m2・day・atm)を、酸素透過率測定装置(MOCON社製、OX-TRAN2/21)を用いて、下記の条件でそれぞれ測定した。そして、得られた値を下記の式に算入し、ガスバリア改善率(%)を算出した。これらを後記の表1に併せて示す。
<測定条件>
・温度:23℃
・水蒸気供給側の湿度:90%RH
・キャリアガス側の湿度:50%RH
<ガスバリア改善率(%)>
・ガスバリア改善率(%)=(高圧処理前の酸素透過率-高圧処理後の酸素透過率)/高圧処理前の酸素透過率
【0058】
【0059】
上記の結果より、多層構造体を、オレフィン系樹脂層の厚みを特定のものとし、EVOH層を特定のEVOHを主成分とする樹脂組成物からなるようにし、その多層構造体を特定の条件下において高圧処理を行うことにより、上記多層構造体のガスバリア性の向上(改善)が認められた(実施例1~8)。
これに対し、上記の条件の少なくとも一つを満たさない比較例1~6では、多層構造体のガスバリア性の向上(改善)は認められなかった。
よって、本発明の多層構造体の高圧処理方法は、多層構造体を各種包装体に用いた場合における各種殺菌法として、非常に有用であることがわかる。
また、本発明の高圧処理済多層構造体の製造方法は、上記多層構造体に対して上記高圧処理を用いることにより、ガスバリア性が改善された高圧処理済多層構造体を製造することができる。
【0060】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の多層構造体の高圧処理方法は、高圧処理後の多層構造体のガスバリア性を向上させることができるため、多層構造体を飲食品等の包装体等として用い、この包装体等ごと内容物(飲食品等)の殺菌を行う際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 多層構造体
2 EVOH層
3 接着樹脂層
4 オレフィン系樹脂層