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特許7589699インストルメントパネルの劣化通知システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】インストルメントパネルの劣化通知システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20241119BHJP
【FI】
G06Q50/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022022295
(22)【出願日】2022-02-16
(65)【公開番号】P2023119405
(43)【公開日】2023-08-28
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野坂 恭範
【審査官】菅原 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-137549(JP,A)
【文献】特開平11-180186(JP,A)
【文献】特開2022-102818(JP,A)
【文献】特開平11-132909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員室内に展開するエアバッグを覆うインストルメントパネルの劣化をユーザに通知するシステムであって、
前記インストルメントパネルが設けられた車両と、前記車両と無線通信可能に接続されたサーバ装置と、を備え、
前記車両は、
前記車両への日射量を計測する日射センサと、
前記車両の外気温を計測する外気温センサと、
前記車両への日射量及び前記車両の外気温の各履歴を記憶する履歴記憶部と
前記車両の位置情報を取得する位置情報取得部、前記位置情報に応じて前記日射量及び前記外気温を含む気象情報を外部から取得する気象情報取得部、及び、前記インストルメントパネルが劣化していると判定された場合前記インストルメントパネルの交換をユーザに通知する通知部を有するナビゲーション装置と、
前記履歴記憶部に記憶された前記日射量及び前記外気温の前記各履歴を前記サーバ装置に送信すると共に、前記サーバ装置から送信された情報を受信して前記ナビゲーション装置の前記通知部に送信する通信部と、を備え、
前記サーバ装置は、前記車両から送信された前記日射量及び前記外気温の前記各履歴に基づいて前記インストルメントパネルの劣化判定を行う演算処理部を備え、
前記履歴記憶部は、
前記車両の動力源が始動されて前記車両が走行可能状態である期間における前記各履歴として、前記日射センサ及び前記外気温センサによって計測された前記日射量及び前記外気温を記憶し、
前記動力源が停止されて前記車両が走行停止状態である期間における前記各履歴として、前記気象情報取得部によって取得された前記気象情報に含まれる前記日射量及び前記外気温を記憶し、
前記演算処理部は、
前記日射量及び前記外気温の前記各履歴に基づいて前記インストルメントパネルの温度履歴を推定する推定部と、
前記温度履歴に基づいて前記インストルメントパネルが受けた総熱負荷量を算出する算出部と、
前記総熱負荷量に基づいて前記インストルメントパネルが劣化しているか否かを判定する判定部と、を有する
ことを特徴とするインストルメントパネルの劣化通知システム。
【請求項2】
前記演算処理部は、前記総熱負荷量に基づいて前記インストルメントパネルの余寿命を予測する予測部を更に備え、
前記通知部は、前記インストルメントパネルが劣化していないと判定された場合、予測された前記余寿命をユーザに通知する
ことを特徴とする請求項に記載のインストルメントパネルの劣化通知システム。
【請求項3】
前記判定部は、前記総熱負荷量が、前記インストルメントパネルの材料毎に予め定められた閾値以上である場合、前記インストルメントパネルが劣化していると判定し、
前記予測部は、
前記温度履歴から、前記インストルメントパネルの温度の時間分布の代表値を算出し、
前記代表値と前記総熱負荷量と前記閾値とに基づいて前記余寿命を予測する
ことを特徴とする請求項に記載のインストルメントパネルの劣化通知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インストルメントパネルの劣化通知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の助手席の前方には、乗員室内に展開するエアバッグが設けられている。この種のエアバッグは、インストルメントパネルによって覆われている。インストルメントパネルには、エアバッグ展開時に効率的に破断し、且つ、劣化が少なく、エアバッグ展開時以外の時に所定の強度を確保し得る性能が求められる。このような性能を有するインストルメントパネルとして、例えば、特許文献1に開示されたインストルメントパネルが知られている。
【0003】
特許文献1には、粉体中心部の周囲が熱可塑性ポリウレタンエラストマで被覆され、前記中心部が熱可塑性ポリウレタンエラストマと異なる材料で形成されていることを特徴とするインストルメントパネル表皮用パウダースラッシュ材料を用いて形成されたインストルメントパネルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-251414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両を長期に亘って使用していると、使用環境の影響、例えば熱又は光の影響によって、インストルメントパネルの材料に含まれる可塑剤が減少する。当該可塑剤が減少すると、インストルメントパネルは、徐々に硬く脆くなって劣化し、上記の性能が低下する。インストルメントパネルの劣化が進行すると、触感性及び意匠性が損なわれるだけでなく、乗員の安全性が損なわれることに繋がる可能性がある。
【0006】
従来は、特許文献1に開示されたインストルメントパネルのように、可能な限り劣化し難い材料を選択してインストルメントパネルを形成してきたので、インストルメントパネルが過剰品質となる可能性がある。インストルメントパネルの劣化を把握し、適時に交換することができれば、過剰品質を避けることができる。
【0007】
しかし、インストルメントパネルの劣化状況は、使用環境の違いに応じて長期的には車両毎に大きく異なっていく。更に、既に販売された車両のインストルメントパネルから試験片を切り取って加速劣化試験を行うこともできない。したがって、劣化したインストルメントパネルの交換を適時にユーザに通知することは、容易ではない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、劣化したインストルメントパネルの交換を適時にユーザに通知することが可能な、インストルメントパネルの劣化通知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るインストルメントパネルの劣化通知システムは、車両の乗員室内に展開するエアバッグを覆うインストルメントパネルの劣化をユーザに通知するシステムであって、前記車両への日射量及び前記車両の外気温の各履歴を記憶する履歴記憶部と、前記日射量及び前記外気温の前記各履歴に基づいて前記インストルメントパネルの劣化判定を行う演算処理部と、前記インストルメントパネルが劣化していると判定された場合、前記インストルメントパネルの交換をユーザに通知する通知部と、を備え、前記演算処理部は、前記日射量及び前記外気温の前記各履歴に基づいて前記インストルメントパネルの温度履歴を推定する推定部と、前記温度履歴に基づいて前記インストルメントパネルが受けた総熱負荷量を算出する算出部と、前記総熱負荷量に基づいて前記インストルメントパネルが劣化しているか否かを判定する判定部と、を有することを特徴とする。
【0010】
このような構成により、劣化通知システムは、車両毎に異なるインストルメントパネルの劣化状況を容易に把握することができる。したがって、劣化通知システムは、インストルメントパネルの劣化状況に応じてインストルメントパネルの交換をユーザに通知することができる。よって、劣化通知システムは、インストルメントパネルの過剰品質を避けつつ、劣化したインストルメントパネルの交換を適時にユーザに通知することができる。
【0011】
更に好ましい態様として、前記車両は、前記履歴記憶部と、前記日射量を計測する日射センサと、前記外気温を計測する外気温センサと、前記車両の位置情報を取得する位置情報取得部、前記位置情報に応じて前記日射量及び前記外気温を含む気象情報を外部から取得する気象情報取得部、及び、前記通知部を有するナビゲーション装置と、を備え、前記履歴記憶部は、前記車両の動力源が始動されて前記車両が走行可能状態である期間における前記各履歴として、計測された前記日射量及び前記外気温を記憶し、前記動力源が停止されて前記車両が走行停止状態である期間における前記各履歴として、取得された前記気象情報に含まれる前記日射量及び前記外気温を記憶する。
【0012】
このような態様により、車両は、車両の動力源が始動されて車両が走行可能状態である期間においては、車両の位置情報及び気象情報の取得並びに日射量及び外気温の計測を停止するものの、当該期間において車両が受けた日射量及び外気温を取得することができる。これにより、車両は、バッテリ電力を消費せずに、動力源が停止されて車両が走行停止状態である期間に車両が受けた日射量及び外気温を欠落させることなく、車両の使用履歴が考慮された日射量及び外気温の各履歴を記憶することができる。したがって、劣化通知システムは、車両のバッテリ容量を増加させる等の特別な措置を車両に講じなくても、既存の車両に搭載された装置を用いて、インストルメントパネルが受けた総熱負荷量を正確に算出することができる。劣化通知システムは、車両毎に異なるインストルメントパネルの劣化状況を正確且つ容易に把握することができる。よって、劣化通知システムは、インストルメントパネルの過剰品質を避けつつ、劣化したインストルメントパネルの交換を適時且つ容易にユーザに通知する。
【0013】
更に好ましい態様として、前記演算処理部は、前記総熱負荷量に基づいて前記インストルメントパネルの余寿命を予測する予測部を更に備え、前記通知部は、前記インストルメントパネルが劣化していないと判定された場合、予測された前記余寿命をユーザに通知する。
【0014】
このような態様により、劣化通知システムは、インストルメントパネルの過剰品質を避けつつ、劣化したインストルメントパネルの交換を適時にユーザに通知するだけなく、劣化していないインストルメントパネルの交換時期をユーザに通知することができる。
【0015】
更に好ましい態様として、前記判定部は、前記総熱負荷量が、前記インストルメントパネルの材料毎に予め定められた閾値以上である場合、前記インストルメントパネルが劣化していると判定し、前記予測部は、前記温度履歴から、前記インストルメントパネルの温度の時間分布の代表値を算出し、前記代表値と前記総熱負荷量と前記閾値とに基づいて前記余寿命を予測する。
【0016】
このような態様により、予測部は、車両の使用履歴が考慮されたインストルメントパネルの温度履歴から算出された総熱負荷量及び代表値に基づいて、インストルメントパネルの余寿命を予測することができる。これにより、劣化通知システムは、複雑なアルゴリズムを用いなくても、車両毎に異なるインストルメントパネルの劣化状況を正確且つ容易に把握し、インストルメントパネルの余寿命を正確且つ容易に予測することができる。よって、劣化通知システムは、インストルメントパネルの過剰品質を避けつつ、劣化したインストルメントパネルの交換を適時且つ容易にユーザに通知し、且つ、劣化していないインストルメントパネルの交換時期を正確且つ容易にユーザに通知することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、劣化したインストルメントパネルの交換を適時にユーザに通知することが可能な、インストルメントパネルの劣化通知システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の劣化通知システムの構成を示す図。
図2】インストルメントパネルを車両の乗員室から視た模式図。
図3】インストルメントパネルを側方から視た図。
図4】外気温センサの取り付け位置を説明する図。
図5】履歴記憶部に記憶された情報を説明する図。
図6】インストルメントパネルの温度と日射量及び外気温との関係を示す図。
図7】情報記憶装置に記憶された情報を説明する図。
図8】劣化通知システムの動作の概要を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。各実施形態において同一の符号を付された構成については、特に言及しない限り、各実施形態において同様の機能を有し、その説明を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態の劣化通知システム1の構成を示す図である。図2は、インストルメントパネル11を車両10の乗員室から視た模式図である。図3は、インストルメントパネル11を側方から視た図である。図4は、外気温センサ152の取り付け位置を説明する図である。図5は、履歴記憶部172に記憶された情報を説明する図である。図6は、インストルメントパネル11の温度と日射量及び外気温との関係を示す図である。図7は、情報記憶装置22に記憶された情報を説明する図である。
【0021】
劣化通知システム1は、車両10の乗員室内に設けられたインストルメントパネル11の劣化を、運転者等のユーザに通知するシステムである。インストルメントパネル11は、図2に示すように、運転席及び助手席の前方において左右方向に広がって設けられ、ステアリングホイールの近傍に配置された計器を囲むパネルである。インストルメントパネル11は、ダッシュボードとも称される。
【0022】
インストルメントパネル11は、図2及び図3に示すように、助手席の前方に設けられたエアバッグ12を覆っている。エアバッグ12は、車両10の衝突時に乗員室内に展開し、助手席に搭乗するユーザを保護する。インストルメントパネル11は、エアバッグ12の展開時に破断する破断部11aを有する。破断部11aは、例えば、エアバッグ12の展開時の膨張圧力によって破断する縫い目等によって構成される。
【0023】
インストルメントパネル11の材料は、主として熱可塑性樹脂材料であり、可塑剤を含む。インストルメントパネル11の材料として、例えば、TPU(熱可塑性ポリウレタン)、PA66(ポリアミドナイロン66)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)等が挙げられる。インストルメントパネル11の材料は、アレニウスの法則に基づく10℃2倍則に従う樹脂材料であってもよい。
【0024】
劣化通知システム1は、図1に示すように、インストルメントパネル11が設けられた車両10と、車両10と無線通信可能に接続されたサーバ装置20とを備える。
【0025】
車両10は、車両10の使用環境を計測するセンサ15と、車両10の位置情報等を取得するナビゲーション装置16と、センサ15及びナビゲーション装置16から送信された情報の履歴を記憶するECU17と、を備える。
【0026】
センサ15は、車両10への日射量を計測する日射センサ151と、車両10の外気温を計測する外気温センサ152と、を有する。日射センサ151は、図2に示すように、乗員室内のインストルメントパネル11とフロントガラスとの境界部付近に取り付けられている。外気温センサ152は、図3に示すように、車両10の前部、例えばフロントバンパー付近に取り付けられている。日射センサ151及び外気温センサ152は、日射量及び外気温をそれぞれ計測し、ECU17に送信する。
【0027】
ナビゲーション装置16は、車両10の位置情報を取得する位置情報取得部161と、気象情報を取得する気象情報取得部162と、ユーザに各種情報を通知する通知部163と、を有する。位置情報取得部161は、GNSS受信機等によって構成される。気象情報取得部162は、日射量及び外気温を含む気象情報を配信する車両10の外部配信サーバ等から、車両10の位置情報に応じて気象情報を取得する。位置情報取得部161及び気象情報取得部162は、車両10の位置情報及び当該位置情報に応じた気象情報をそれぞれ取得し、ECU17に送信する。通知部163は、ディスプレイ及びスピーカ等によって構成される。通知部163は、サーバ装置20から送信された情報をユーザに通知する。特に、通知部163は、サーバ装置20においてインストルメントパネル11が劣化していると判定された場合には、インストルメントパネル11の交換をユーザに通知する。
【0028】
ECU17は、センサ15及びナビゲーション装置16の各動作を制御する制御部171と、センサ15及びナビゲーション装置16から送信された情報を記憶する履歴記憶部172と、サーバ装置20との通信を行う通信部173と、を有する。
【0029】
制御部171は、センサ15及びナビゲーション装置16の各動作を制御して、これらからECU17に送信された情報を履歴記憶部172に記憶させる。制御部171は、サーバ装置20から送信された情報を、ナビゲーション装置16の通知部163に通知させる。制御部171は、CPU、ROM及びRAM等によって構成され、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、制御部171の機能を実現する。
【0030】
履歴記憶部172は、記憶装置によって構成され、車両10への日射量及び車両10の外気温の各履歴を記憶する。日射量の履歴とは、過去に所定期間遡った時点から現在までの期間(以下「所定の記録期間」とも称する)において車両10が受けた日射量を定期的に記録したログデータである。外気温の履歴とは、所定の記録期間において車両10の外気温を定期的に記録したログデータである。
【0031】
更に、履歴記憶部172は、車両10の使用履歴を記憶する。車両10の使用履歴は、車両10の位置情報の履歴を含む。更に、車両10の使用履歴は、車両10の動力源(エンジン及び/又はモータ等)が始動されて車両10が走行可能状態である期間(以下「イグニッションONの期間」とも称する)と、車両10の動力源(エンジン及び/又はモータ等)が停止されて車両10が走行停止状態である期間(以下「イグニッションOFFの期間」とも称する)との履歴(以下「イグニッションON/OFFの履歴」とも称する)を含む。車両10の位置情報の履歴とは、所定の記録期間において車両10の位置情報を定期的に記録したログデータである。イグニッションON/OFFの履歴とは、所定の記録期間においてイグニッションONの期間及びイグニッションOFFの期間のそれぞれの開始時刻及び終了時刻を記録したログデータである。そして、履歴記憶部172は、日射量及び外気温の各履歴と、車両10の使用履歴とを紐付けて記憶する。
【0032】
イグニッションOFFの期間の開始時刻は、当該期間直前のイグニッションONの期間の終了時刻と同じであってもよく、イグニッションOFFの期間の終了時刻は、当該期間直後のイグニッションONの期間の開始時刻と同じであってもよい。また、イグニッションOFFの期間における車両10の位置情報は、当該期間直前のイグニッションONの期間の終了時刻に最も近い時刻における位置情報と同じであってもよい。すなわち、イグニッションOFFの期間では、位置情報取得部161は、車両10の位置情報の取得を停止することができる。
【0033】
更に、イグニッションONの期間における日射量及び外気温の各履歴として、履歴記憶部172は、日射センサ151及び外気温センサ152によりそれぞれ計測された日射量及び外気温を、それぞれの計測時刻に紐付けて記憶する。イグニッションOFFの期間における日射量及び外気温の各履歴として、履歴記憶部172は、気象情報取得部162により取得された気象情報に含まれる日射量及び外気温を、気象情報の取得時刻に紐付けて記憶する。
【0034】
気象情報取得部162は、イグニッションOFFの期間における気象情報を、次のようにして取得することができる。すなわち、気象情報取得部162は、イグニッションONの期間が開始すると、当該期間直前のイグニッションOFFの期間を特定すると共に、特定されたイグニッションOFFの期間に対応する位置情報を特定する。そして、気象情報取得部162は、特定された期間及び位置情報に対応する気象情報を、外部配信サーバから取得すればよい。すなわち、イグニッションOFFの期間では、気象情報取得部162は、気象情報の取得を停止することができる。なお、当然ながら、イグニッションOFFの期間では、日射センサ151及び外気温センサ152は、それぞれ、日射量及び外気温の計測を停止することができる。
【0035】
このように、車両10は、イグニッションOFFの期間では、車両10の位置情報及び気象情報の取得並びに日射量及び外気温の計測を停止するものの、当該期間において車両10が受けた日射量及び外気温を取得することができる。これにより、車両10は、バッテリ電力を消費せずに、イグニッションOFFの期間に車両10が受けた日射量及び外気温を欠落させることなく、車両10の使用履歴が考慮された日射量及び外気温の各履歴を記憶することができる。したがって、劣化通知システム1は、車両10のバッテリ容量を増加させる等の特別な措置を車両10に講じなくても、既存の車両10に搭載された装置を用いて、インストルメントパネル11が受けた総熱負荷量を正確に算出することができる。劣化通知システム1は、車両10毎に異なるインストルメントパネル11の劣化状況を正確且つ容易に把握することができる。よって、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11の過剰品質を避けつつ、劣化したインストルメントパネル11の交換を適時且つ容易にユーザに通知する。
【0036】
なお、履歴記憶部172は、イグニッションOFFの期間における日射量及び外気温の各履歴として、日射センサ151及び外気温センサ152によりそれぞれ計測された日射量及び外気温を、それぞれの計測時刻に紐付けて記憶してもよい。
【0037】
通信部173は、図5に示すような履歴記憶部172に記憶された日射量及び外気温の各履歴(計測時刻又は取得時刻を含む)を、車両10の識別情報である車両IDに紐付けて、サーバ装置20に送信する。通信部173は、サーバ装置20から送信された情報を受信し、ナビゲーション装置16の通知部163に送信する。
【0038】
サーバ装置20は、車両10から送信された情報を処理する情報処理装置21と、情報処理装置21の当該処理に係る情報を記憶する情報記憶装置22と、を備える。
【0039】
情報処理装置21は、車両10との通信を行う通信部211と、車両10から送信された日射量及び外気温の各履歴に基づいてインストルメントパネル11の劣化判定を行う演算処理部212と、を有する。演算処理部212は、推定部213と、算出部214と、判定部215と、予測部216と、を有する。
【0040】
通信部211は、車両10から送信された日射量及び外気温の各履歴を受信し、演算処理部212に送信する。通信部211は、インストルメントパネル11の劣化判定の結果等を車両10に送信する。
【0041】
推定部213は、車両10から送信された日射量及び外気温の各履歴に基づいてインストルメントパネル11の温度履歴を推定する。インストルメントパネル11の温度(以下「インパネ温度」とも称する)は、図6に示すように、日射量が増加したり、外気温が上昇したりすることに従って、上昇する。推定部213は、インストルメントパネル11の温度と日射量及び外気温との関係を記述する関係式に、車両10から送信された各日射量及び各外気温を適用する。これにより、推定部213は、車両10から送信された各日射量及び各外気温に対応するインストルメントパネル11の温度を推定することができる。この関係式は、実験又はシミュレーション等によって予め導出され、推定部213に予め設定されている。
【0042】
そして、推定部213は、車両10から送信された日射量及び外気温に紐付けられた計測時刻又は取得時刻を用いて、インストルメントパネル11の温度履歴を推定することができる。インストルメントパネル11の温度履歴は、インストルメントパネル11の温度の時間分布を示すグラフであってもよいし、図7に示すように、インストルメントパネル11の温度の時間分布を示す表であってもよい。図7に示す表は、予め定められた各温度階級にインストルメントパネル11の温度が出現した時間(以下「出現時間」とも称する)を集計することによって作成される。
【0043】
算出部214は、推定部213により推定されたインストルメントパネル11の温度履歴に基づいて、インストルメントパネル11が受けた総熱負荷量を算出する。総熱負荷量とは、インストルメントパネル11を車両10に車両に搭載してから現在までにインストルメントパネル11に作用した熱負荷の程度を数値化したものである。総熱負荷量は、例えば、インストルメントパネル11が経時的に受けた熱量の累積値であってもよいし、当該累積値を時間に換算した値であってもよく、その指標は特に限定されない。
【0044】
具体的には、まず、算出部214は、図7に示す各温度階級に対する出現時間を、インストルメントパネル11の温度を基準温度(図7では110℃)とした場合の時間に換算し、換算された時間を、各温度階級に対する熱負荷量とする。この際、算出部214は、10℃2倍則を用いて、各温度階級に対する出現時間を、各温度階級の幅の上限値を基準温度とした場合の時間に換算してもよい。図7の例では、20℃-30℃の温度階級に対する出現時間は2000時間である。20℃-30℃の温度階級の幅の上限値は30℃である。この上限値30℃と基準温度110℃との差は80℃である。したがって、10℃2倍則を用いると、出現時間2000時間は、2000/(2)≒8時間に換算される。すなわち、図7の例では、20℃-30℃の温度階級に対する熱負荷量が8時間と算出される。他の温度階級に対する熱負荷量も同様に算出される。
【0045】
そして、算出部214は、全ての温度階級に対する熱負荷量の合計値を、インストルメントパネル11が受けた総熱負荷量として算出する。図7の例では、196+8+7+3+1=215時間が総熱負荷量と算出される。なお、基準温度は、車両10の使用環境においてインストルメントパネル11が到達し得る最高温度と、インストルメントパネル11の材料の耐熱温度とから、安全マージンを考慮して予め決定される。
【0046】
判定部215は、算出部214により算出された総熱負荷量に基づいて、インストルメントパネル11が劣化しているか否かを判定する。具体的には、判定部215は、算出部214により算出された総熱負荷量が、インストルメントパネル11の材料毎に予め定められた閾値以上である場合、インストルメントパネル11が劣化していると判定する。判定部215は、当該総熱負荷量が当該閾値未満である場合、インストルメントパネル11が劣化していないと判定する。
【0047】
この劣化判定の閾値は、インストルメントパネル11の材料に含まれる可塑剤の減少度合いに基づいて予め定められている。例えば、インストルメントパネル11の可塑剤の含有量が新品から50%減少すると、エアバッグ12の展開時に破断部11aの破片がユーザに向けて飛散してしまうとする。この場合、可塑剤の含有量が新品から50%減少したインストルメントパネル11は、劣化しているとする。そして、安全マージンを考慮して、可塑剤の含有量を新品から例えば40%減少させるために必要なインストルメントパネル11への総熱負荷量を、上記の劣化判定の閾値に決定すればよい。
【0048】
図7の例では、インストルメントパネル11の材料はTPUであり、閾値は1400時間に予め定められているとする。図7の例では、総熱負荷量215時間が、閾値1400時間未満であるので、判定部215は、インストルメントパネル11が劣化していないと判定する。閾値1400時間から総熱負荷量215時間を差し引いた残り1185時間が、インストルメントパネル11の劣化までの余裕代である。
【0049】
判定部215は、インストルメントパネル11が劣化していると判定した場合、インストルメントパネル11の交換をユーザに通知するよう指示する交換通知指示を、通信部211を介して、車両10に送信する。車両10のナビゲーション装置16の通知部163は、当該交換通知指示に基づいて、インストルメントパネル11の交換をユーザに通知する。一方、判定部215は、インストルメントパネル11が劣化していないと判定した場合、当該判定結果を予測部216に送信する。
【0050】
予測部216は、算出部214により算出された総熱負荷量に基づいて、インストルメントパネル11の余寿命を予測する。具体的には、予測部216は、算出部214により算出された総熱負荷量と、判定部215の劣化判定の閾値と、インストルメントパネル11の温度の時間分布の代表値と、に基づいて、当該余寿命を予測する。インストルメントパネル11の温度の時間分布の代表値は、当該時間分布の平均値、中央値又は最頻値等であってもよい。予測部216は、推定部213により推定された温度履歴から、当該代表値を算出する。図7の例では、当該代表値が、30℃と算出されたとする。そして、閾値1400時間から総熱負荷量215時間を差し引いた残り1185時間において、インストルメントパネル11が当該代表値30℃で使用されたとする。この場合、予測部216は、インストルメントパネル11の余寿命を、10℃2倍則を用いて、1185×(2)/24/365≒17年と予測する。
【0051】
予測部216は、予測されたインストルメントパネル11の余寿命を、通信部211を介して、車両10に送信する。車両10のナビゲーション装置16の通知部163は、当該余寿命をユーザに通知する。これにより、劣化通知システム1は、劣化したインストルメントパネル11の交換を適時にユーザに通知するだけなく、劣化していないインストルメントパネル11の交換時期をユーザに通知することができる。
【0052】
このように、予測部216は、算出部214により算出された総熱負荷量と、判定部215の劣化判定の閾値と、インストルメントパネル11の温度の時間分布の代表値と、に基づいて、インストルメントパネル11の余寿命を予測することができる。すなわち、予測部216は、車両10の使用履歴が考慮されたインストルメントパネル11の温度履歴から算出された総熱負荷量及び代表値に基づいて、インストルメントパネル11の余寿命を予測することができる。これにより、劣化通知システム1は、複雑なアルゴリズムを用いなくても、車両10毎に異なるインストルメントパネル11の劣化状況を正確且つ容易に把握し、インストルメントパネル11の余寿命を正確且つ容易に予測することができる。よって、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11の過剰品質を避けつつ、劣化したインストルメントパネル11の交換を適時且つ容易にユーザに通知し、且つ、劣化していないインストルメントパネル11の交換時期を正確且つ容易にユーザに通知することができる。
【0053】
情報記憶装置22は、データベース等の記憶装置によって構成される。情報記憶装置22は、インストルメントパネル11の材料毎に上記の劣化判定の閾値を記憶する。更に、情報記憶装置22は、図7に示すように、車両ID、インストルメントパネル11の材料、温度履歴、温度階級に対する熱負荷量、総熱負荷量及び余寿命を、互いに紐付けて記憶することができる。温度履歴、温度階級に対する熱負荷量、総熱負荷量及び余寿命は、車両10から日射量及び外気温の各履歴が送信される毎に、更新される。
【0054】
また、情報記憶装置22は、複数の車両10において図7に示す情報を記憶することができる。情報処理装置21は、当該車両10の情報だけでなく、当該車両10と同じ材料であり、且つ、当該車両10に近い総熱負荷量が加えられたインストルメントパネル11を有する他の車両10の情報をも考慮して、当該車両10のインストルメントパネル11の余寿命を予測してもよい。
【0055】
図8は、劣化通知システム1の動作の概要を示すフローチャートである。
【0056】
ステップS1において、劣化通知システム1は、車両10への日射量及び車両10の外気温の各履歴を、ECU17にて記憶する。
【0057】
ステップS2において、劣化通知システム1は、車両10のイグニッションONの際、ECU17に記憶された日射量及び外気温の各履歴を、サーバ装置20に送信する。なお、劣化通知システム1は、ECU17に記憶された当該各履歴を、車両10がイグニッションONになる度に毎回送信するのではなく、例えば数か月に1回位の頻度で送信してもよい。また、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11の余寿命が所定値(例えば残り1年等)になった場合には、ECU17に記憶された当該各履歴の送信頻度を、通常よりも高く変更してもよい。
【0058】
ステップS3において、劣化通知システム1は、車両10から送信された各日射量及び各外気温に対応するインストルメントパネル11の温度を推定する。そして、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11の温度履歴を推定する。
【0059】
ステップS4において、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11が受けた総熱負荷量を算出する。
【0060】
ステップS5において、劣化通知システム1は、算出された総熱負荷量が閾値以上か否かを判定する。算出された総熱負荷量が閾値以上である場合、劣化通知システム1は、ステップS6に移行する。算出された総熱負荷量が閾値未満である場合、劣化通知システム1は、ステップS7に移行する。
【0061】
ステップS6において、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11の交換をユーザに通知するよう指示する交換通知指示を、車両10に送信する。その後、劣化通知システム1は、ステップS9に移行する。
【0062】
ステップS7において、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11の余寿命を予測する。
【0063】
ステップS8において、劣化通知システム1は、予測されたインストルメントパネル11の余寿命を車両10に送信する。
【0064】
ステップS9において、劣化通知システム1は、交換通知指示、又は、インストルメントパネル11の余寿命を、ナビゲーション装置16にてユーザに通知する。その後、劣化通知システム1は、図8に示す動作を終了する。
【0065】
以上のように、本実施形態の劣化通知システム1は、車両10の乗員室内に展開するエアバッグ12を覆うインストルメントパネル11の劣化をユーザに通知するシステムである。劣化通知システム1は、車両10への日射量及び車両10の外気温の各履歴を記憶する履歴記憶部172と、日射量及び外気温の各履歴に基づいてインストルメントパネル11の劣化判定を行う演算処理部212と、インストルメントパネル11が劣化していると判定された場合、インストルメントパネル11の交換をユーザに通知する通知部163と、を備える。演算処理部212は、日射量及び外気温の各履歴に基づいてインストルメントパネル11の温度履歴を推定する推定部213と、温度履歴に基づいてインストルメントパネル11に加えられた総熱負荷量を算出する算出部214と、総熱負荷量に基づいてインストルメントパネル11が劣化しているか否かを判定する判定部215と、を有する。
【0066】
これにより、劣化通知システム1は、車両10毎に異なるインストルメントパネル11の劣化状況を容易に把握することができる。したがって、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11の劣化状況に応じてインストルメントパネル11の交換をユーザに通知することができる。よって、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11の過剰品質を避けつつ、劣化したインストルメントパネル11の交換を適時にユーザに通知することができる。
【0067】
この結果、劣化通知システム1は、インストルメントパネル11の材料を無駄に使用することなく、インストルメントパネル11の触感性及び意匠性並びに乗員の安全性の確保に貢献することができる。劣化通知システム1は、中古車市場での車両10の競争力を向上させることができるので、中古車市場を拡大し、持続可能な社会の発展に貢献することができる。
【0068】
なお、劣化通知システム1のハードウェア構成は、図1に示す構成に限定されない。例えば、履歴記憶部172は、サーバ装置20に設けられていてもよい。演算処理部212は、車両10に設けられていてもよい。通知部163は、ユーザの携帯端末や、車両10を管理する管理会社の端末装置等、ナビゲーション装置16とは異なる装置に設けられていてもよい。
【0069】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができる。本発明は、或る実施形態の構成を他の実施形態の構成に追加したり、或る実施形態の構成を他の実施形態と置換したり、或る実施形態の構成の一部を削除したりすることができる。
【符号の説明】
【0070】
1…劣化通知システム、10…車両、11…インストルメントパネル、12…エアバッグ、16…ナビゲーション装置、151…日射センサ、152…外気温センサ、161…位置情報取得部、162…気象情報取得部、163…通知部、172…履歴記憶部、212…演算処理部、213…推定部、214…算出部、215…判定部、216…予測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8