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特許7589709水系カリウムイオン電池用負極活物質及び水系カリウムイオン二次電池
<図1>
  • 特許-水系カリウムイオン電池用負極活物質及び水系カリウムイオン二次電池 図1
  • 特許-水系カリウムイオン電池用負極活物質及び水系カリウムイオン二次電池 図2
  • 特許-水系カリウムイオン電池用負極活物質及び水系カリウムイオン二次電池 図3
  • 特許-水系カリウムイオン電池用負極活物質及び水系カリウムイオン二次電池 図4
  • 特許-水系カリウムイオン電池用負極活物質及び水系カリウムイオン二次電池 図5
  • 特許-水系カリウムイオン電池用負極活物質及び水系カリウムイオン二次電池 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】水系カリウムイオン電池用負極活物質及び水系カリウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20241119BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20241119BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M10/36 A
H01M10/36 Z
H01M4/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022075032
(22)【出願日】2022-04-28
(65)【公開番号】P2023163845
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】陶山 博司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂樹
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-220294(JP,A)
【文献】特開2020-053384(JP,A)
【文献】国際公開第2021/111497(WO,A1)
【文献】特開2020-155279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/00-10/39
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステンを含む又は酸化タングステンからなる水系カリウムイオン電池用負極活物質。
【請求項2】
負極活物質として酸化タングステンを含有している、水系カリウムイオン二次電池。
【請求項3】
水系電解液を含有し、かつ
前記水系電解液のpHが4.0~12.0であり、かつ
前記水系電解液が、水を含有している溶媒及び前記溶媒に溶解されたピロリン酸カリウムを含有している、
請求項2に記載の水系カリウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記ピロリン酸カリウムは、前記溶媒1.0kgあたり2.0mol以上の濃度で前記溶媒に溶解されている、請求項3に記載の水系カリウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記ピロリン酸カリウムは、前記溶媒1.0kgあたり5.0mol以上の濃度で前記溶媒に溶解されている、請求項3に記載の水系カリウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水系カリウムイオン電池用負極活物質及び水系カリウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、水系カリウムイオン電池に用いられる電解液として、水と水に溶解されたピロリン酸カリウムとを含む水系電解液を開示している。
【0003】
非特許文献1は、カソードとしてのKFeMn1-y[Fe(CN)]w・zHO、アノードとしての3,49,10-ペリレンテトラカルボキシルジイミドアノード、及びウォーター・イン・ソルト電解質としての22mol/L KCFSOを用いて、約1.0Vのフルセル動作が可能である事を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-220294号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】NATURE Energy, ”Building aqueous K-ion batteries for energy storage”,2019年5月13日,vol. 4,p.495-503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カリウムイオン二次電池の実用化にあたって、カリウムイオン二次電池の正極活物質、電解液、及び負極活物質等に利用可能な材料が求められている。
【0007】
本開示は、新規なカリウムイオン二次電池用負極活物質、及び新規な構成のカリウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
酸化タングステンを含む又は酸化タングステンからなる水系カリウムイオン電池用負極活物質。
《態様2》
負極活物質として酸化タングステンを含有している、水系カリウムイオン二次電池。
《態様3》
水系電解液を含有し、かつ
前記水系電解液のpHが4.0~12.0であり、かつ
前記水系電解液が、水を含有している溶媒及び前記溶媒に溶解されたピロリン酸カリウムを含有している、
態様2に記載の水系カリウムイオン二次電池。
《態様4》
前記ピロリン酸カリウムは、前記溶媒1.0kgあたり2.0mol以上の濃度で前記溶媒に溶解されている、態様3に記載の水系カリウムイオン二次電池。
《態様5》
前記ピロリン酸カリウムは、前記溶媒1.0kgあたり5.0mol以上の濃度で前記溶媒に溶解されている、態様3に記載の水系カリウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、新規なカリウムイオン二次電池用負極活物質、及び新規な構成のカリウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の第1の実施形態に従うカリウムイオン二次電池100を示す模式図である。
図2図2は、実施例1の充放電曲線を示すグラフである。
図3図3は、比較例1の充放電曲線を示すグラフである。
図4図4は、比較例2の充放電曲線を示すグラフである。
図5図5は、比較例3の充放電曲線を示すグラフである。
図6図6は、ピロリン酸カリウムの濃度とpHとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
《水系カリウムイオン電池用負極活物質》
本開示の水系カリウムイオン電池用負極活物質は、酸化タングステンを含む又は酸化タングステンからなる。
【0013】
本発明者は、負極活物質としての酸化タングステンを、所定の水系電解液と併用することによって、水系カリウムイオン電池を作動させることができることを見出した。
【0014】
酸化タングステンは、別名三酸化タングステンとも呼ばれる。酸化タングステンは、化学式WO3-xで表されることができる。ここで、0≦x≦0.3であってよく、x≦0.01、x≦0.05、x≦0.10、又はx≦0.15であってよい。すなわち、酸化タングステンは、三酸化タングステンの結晶構造が実質的に維持されていればよい。したがって、酸化タングステンは、例えば化学式WO2.7、WO2.85、WO2.90、WO2.95、又はWO2.97等のように、三酸化タングステンを一般的に示す化学式WOと異なっていてよい。
【0015】
酸化タングステンの形状は、電池の負極活物質として一般的な形状であればよい。酸化タングステンは、例えば、粒子状であってもよい。この場合の粒子径は特に限定されず、電池の設計に応じて適切な大きさが選択されればよい。酸化タングステンは、その一次粒子径が1nm以上、5nm以上、10nm以上又は50nm以上であってもよく、500μm以下、100μm以下、50μm以下、30μm以下又は10μm以下であってもよい。また、酸化タングステンは1次粒子同士が集合して2次粒子を形成していてもよい。この場合、2次粒子の粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、100nm以上、500nm以上又は1μm以上であってよく、1000μm以下、500μm以下、100μm以下、50μm以下、30μm以下又は20μm以下であってもよい。
【0016】
《水系カリウムイオン二次電池》
本開示の水系カリウムイオン二次電池は、負極活物質として酸化タングステンを含有している。
【0017】
本開示の水系カリウムイオン二次電池は、水系電解液を含有し、かつ水系電解液のpHが4.0~12.0であり、かつ水系電解液が、水を含有している溶媒及び溶媒に溶解されたピロリン酸カリウムを含有していることができる。
【0018】
すなわち、本開示のカリウムイオン二次電池は、負極活物質と水系電解液との組合せであって、負極活物質の充放電が可能な新規な組み合わせとしての側面を有する。
【0019】
従来において、非水系及び水系を問わず、カリウム化合物が溶解された電解液において充放電できる負極活物質はほとんど知られていない。電解液と負極活物質との組み合わせのうち充放電が可能な最適な組み合わせは、無限に存在する電解液と負極活物質との組み合わせの中のごく一部に限られる。活物質の結晶構造、電解液の成分や電位窓等が少しでも変化すると、カリウムイオン電池として充放電ができなくなってしまう。すなわち、電解液と負極活物質とを実際に組み合わせて評価しないと最適な組み合わせを見出すことはできない。
【0020】
本開示の技術は、無限に存在する電解液と負極活物質との組み合わせの中から、数々の試行錯誤を経て、充放電が可能な新規の組み合わせを見出したものである。したがって、本開示の技術は従来技術から容易に想到できるものではない。
【0021】
〈水系電解液〉
本開示のカリウムイオン二次電池が有している水系電解液は、水系電解液のpHが4.0~12.0である。また、水系電解液は、水を含有している溶媒及び溶媒に溶解されたピロリン酸カリウムを含有している。
【0022】
水系電解液のpHは、4.0以上、7.0以上、9.0以上、又は10.0以上であってよく、12.0以下、11.5以下、11.0以下、又は10.5以下であってよい。
【0023】
(溶媒)
本開示のカリウムイオン二次電池に用いられる溶媒は、水を含有している。溶媒は、主成分として水を含んでいることができる。すなわち、電解液を構成する溶媒の全量を基準(100mol%)として、50mol%以上、70mol%以上、90mol%以上又は95mol%以上を水が占めていることができる。溶媒に占める水の割合の上限は特に限定されず、溶媒は100mol%、即ち全量が水であってもよい。
【0024】
溶媒は、水のみからなっていてもよい。溶媒は、水に加えて更に別の成分、例えばエーテル類、カーボネート類、ニトリル類、アルコール類、ケトン類、アミン類、アミド類、硫黄化合物類及び炭化水素類から選ばれる1種以上の有機溶媒を含有していることができる。水以外の溶媒は、電解液を構成する溶媒の全量を基準(100mol%)として、50mol%以下、30mol%以下、10mol%以下又は5mol%以下を占めていてもよい。
【0025】
(ピロリン酸カリウム)
本開示のカリウムイオン二次電池において、水系電解液は、溶媒はピロリン酸カリウムが溶解したものが用いられる。
【0026】
ここで、ピロリン酸カリウムが溶媒に「溶解している」とは、水系電解液において、カリウムイオンとピロリン酸イオンとに完全に電離していなくてもよい。すなわち、水系電解液において、「溶解されたピロリン酸カリウム」は、K、P 4-、KP 3-、K 2-、K といったイオンや、これらイオンの会合体として存在していてもよい。また、水系電解液において、「溶解されたピロリン酸カリウム」は、カリウムとピロリン酸との塩(K)に由来するもの(水にKを添加して得られたもの)でなくともよい。例えば、水にカリウムイオン源(KOHやCHCOOK等)とピロリン酸イオン源(H等)とを別々に添加して溶解し、その結果として水中に上記のイオンや会合体が形成されたものも、上記の水系電解液に含まれる。
【0027】
水系電解液におけるピロリン酸カリウムの濃度は、特に限定されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜選択されればよい。
【0028】
水系電解液においては、ピロリン酸カリウムが、水1.0kgあたり2.0mol以上又は5.0mol以上の濃度で水に溶解されていてもよい。
【0029】
本発明者の新たな知見によれば、水系電解液におけるピロリン酸カリウムの濃度が高くなるほど、正極活物質の充放電時のヒステリシスが小さくなり、カリウムイオン二次電池として高い性能が得られ易い。また、水系電解液におけるピロリン酸カリウムの濃度が高くなるほど、過電圧が低くなり、良好な充放電プラトーが発現され易い。さらに、水系電解液におけるピロリン酸カリウムの濃度が高くなるほど、ピロリン酸イオンとカリウムイオンとが近接して会合体を形成し易いものと考えられる。そのため、例えばカリウムイオン二次電池の充電時にピロリン酸イオンがカリウムイオンに引き摺られるようにして負極側に移動し易いものと考えられる。負極に到達したピロリン酸イオンは、負極の表面の高仕事関数部位において分解し、負極表面に被膜が形成されるものと考えられ、結果として、水系電解液と負極の表面の高仕事関数部位との直接接触が抑制され、水系電解液の電気分解が抑制され易い。
【0030】
なお、水系電解液において「溶解されたピロリン酸カリウム」の濃度は以下のようにして特定することができる。例えば、元素分析やイオン分析によって水系電解液に含まれる元素やイオンを特定し、水系電解液におけるカリウムイオン濃度やピロリン酸イオン濃度等を特定し、特定したイオン濃度をピロリン酸カリウムの濃度に換算する。或いは、水系電解液から溶媒を除去し、固形分を化学的に分析して、ピロリン酸カリウムの濃度に換算する。
【0031】
水系電解液においては、電解液に含まれるカリウムイオンの全体が「溶解されたピロリン酸カリウム」として換算されなくてもよい。すなわち、水系電解液には、ピロリン酸カリウムとして換算可能な濃度よりも多くのカリウムイオンが含まれていてもよい。例えば、水系電解液を製造する際、水にピロリン酸カリウム源とともにピロリン酸カリウム源以外のカリウムイオン源(例えばKOHやCHCOOKやKPO等)を添加して溶解させた場合、水系電解液には、ピロリン酸カリウムとして換算可能な濃度よりも多くのカリウムイオンが含まれることとなる。
【0032】
水系電解液には、カリウムイオン以外のカチオンが含まれていてもよい。例えば、カリウムイオン以外のアルカリ金属イオンや、アルカリ土類金属イオンや、遷移金属イオン等が含まれていてもよい。また、水系電解液には、ピロリン酸イオン(上記の通り、P 4-のほか、KP 3-、K 2-、K 等、カチオンと結びついた状態で存在していてもよい)以外のアニオンが含まれていてもよい。例えば、後述するその他の電解質に由来するアニオン等が含まれていてもよい。
【0033】
本開示の水系電解液には、その他の電解質が溶解されていてもよい。例えば、KPF、KBF、KSO、KNO、CHCOOK、(CFSONK、KCFSO、(FSONK、KHPO、又はKHPO等が溶解されていてもよい。その他の電解質は、電解液に溶解している電解質の全量を基準(100mol%)として、50mol%以下、30mol%以下、10mol%以下、5mol%以下又は1mol%以下を占めていてもよい。
【0034】
(その他の成分)
水系電解液は、上記の溶媒や電解質の他、水系電解液のpHを調整するための酸や水酸化物等を含んでいてもよく、また、各種添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
〈その他の構成〉
本開示のカリウムイオン二次電池は、上記の負極活物質及び水系電解液を有するものであればよく、その他の構成については特に限定されるものではない。本開示のカリウムイオン二次電池は、上記の負極活物質が水系電解液に接触するように構成されればよい。
【0036】
図1は、本開示の第1の実施形態に従うカリウムイオン二次電池100の構成を概略的に示している。図1に示されるように、カリウムイオン二次電池100は、正極10と電解質層20と負極30とを備えるものであってもよい。また、正極10は、正極活物質層11と正極集電体12とを備えるものであってもよく、負極30は、負極活物質層31と負極集電体32とを備えるものであってもよい。この場合、正極活物質層11が上記の正極活物質を含み得る。また、正極10、電解質層20及び負極30が、ともに、上記の水系電解液を含み得る。
【0037】
(正極)
正極は、公知の構成を採り得る。例えば、正極は、正極活物質層と正極集電体とを備えていてもよい。
【0038】
正極活物質層は、正極活物質を含み、さらに、任意に導電助剤やバインダー等を含んでいてもよい。正極活物質層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0039】
正極活物質層に含まれる正極活物質は、負極活物質よりもキャリアイオンの充放電電位が卑である活物質の中から、水系電解液の電位窓等を考慮して選定されればよい。
【0040】
正極活物質は、例えば、K元素を含むものが好ましい。具体的には、K元素を含む酸化物やポリアニオン等が好ましい。より具体的には、カリウムコバルト複合酸化物(KCoO等)、カリウムニッケル複合酸化物(KNiO等)、カリウムニッケルチタン複合酸化物(KNi1/2Ti1/2等)、カリウムニッケルマンガン複合酸化物(KNi1/2Mn1/2、KNi1/3Mn2/3等)、カリウムマンガン複合酸化物(KMnO、KMn等)、カリウム鉄マンガン複合酸化物(K2/3Fe1/3Mn2/3等)、カリウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(KNi1/3Co1/3Mn1/3等)、カリウム鉄複合酸化物(KFeO等)、カリウムクロム複合酸化物(KCrO等)、カリウム鉄リン酸化合物(KFePO等)、カリウムマンガンリン酸化合物(KMnPO等)、カリウムコバルトリン酸化合物(KCoPO)、プルシアンブルー、これらの固溶体や非化学量論組成の化合物等を挙げることができる。或いは、チタン酸カリウム、TiO、LiTi(PO、硫黄(S)等を用いることも可能である。
【0041】
正極活物質は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
正極活物質の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、粒子状であってもよい。この場合の粒子径は特に限定されず、電池の設計に応じて適切な大きさが選択されればよい。正極活物質は、その一次粒子径が1nm以上、5nm以上、10nm以上、50nm以上又は100nm以上であってもよく、500μm以下、100μm以下、50μm以下、30μm以下又は10μm以下であってもよい。また、正極活物質は1次粒子同士が集合して2次粒子を形成していてもよい。この場合、2次粒子の粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、100nm以上、500nm以上又は1μm以上であってよく、1000μm以下、500μm以下、100μm以下、50μm以下、30μm以下又は20μm以下であってもよい。
【0043】
正極活物質層に含まれる正極活物質の量は特に限定されるものではない。例えば、正極活物質層全体を基準(100質量%)として、正極活物質が20質量%以上、40質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上含まれていてもよく、99質量%以下、97質量%以下又は95質量%以下含まれていてもよい。
【0044】
正極活物質層に任意に含まれる導電助剤は、カリウムイオン二次電池において使用される導電助剤として公知のものをいずれも採用可能である。例えば、炭素材料が挙げられる。具体的には、ケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(VGCF)、アセチレンブラック(AB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンブラック、コークス、黒鉛等である。或いは、電池の使用時の環境に耐えることが可能な金属材料であってもよい。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。導電助剤の形状は、粉末状、繊維状等、種々の形状が採用され得る。正極活物質層に含まれる導電助剤の量は特に限定されるものではない。
【0045】
正極活物質層に任意に含まれるバインダーは、カリウムイオン二次電池において使用されるバインダーとして公知のものをいずれも採用可能である。例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、カルボキシメチルセルロース(CMC)系バインダー、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)系バインダー、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー等である。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。正極活物質層に含まれるバインダーの量は特に限定されるものではない。
【0046】
正極集電体は、カリウムイオン二次電池の正極集電体として使用可能な公知の金属等によって構成されるものであってもよい。そのような金属としては、Cu、Ni、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Pb、Co、Cr、Zn、Ge、In、Sn、Zrからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む金属材料が例示される。正極集電体の形態は特に限定されるものではない。箔状、メッシュ状、多孔質状等、種々の形態を採り得る。基材の表面に上記金属を蒸着・めっきしたものであってもよい。
【0047】
(電解質層)
カリウムイオン二次電池においては、例えば、正極活物質層と負極活物質層との間に電解質層が配置されていてもよい。電解質層は、セパレータ及び上記の水系電解液によって構成され得る。セパレータとしては、二次電池(例えば、ニッケル水素電池、亜鉛空気電池等)において使用されるセパレータとして公知のものが採用され得る。例えば、セパレータは、セルロースを材料とした不織布等の親水性を有するものであってもよい。セパレータの厚みは特に限定されるものではなく、例えば、5μm以上1mm以下であってもよい。
【0048】
(負極)
負極はカリウムイオン二次電池の負極として公知の構成を備えるものであってもよい。例えば、負極は、負極活物質層と負極集電体とを備えていてもよい。
【0049】
負極活物質層は負極活物質としての酸化タングステンを含有する。また、負極活物質層は負極活物質以外に導電助剤やバインダーを含んでいてもよい。負極活物質層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0050】
負極活物質層に含まれる負極活物質の種類については上述した通りである。負極活物質層に含まれる負極活物質の量は特に限定されるものではない。例えば、負極活物質層全体を基準(100質量%)として、負極活物質が20質量%以上、40質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上含まれていてもよく、99質量%以下、97質量%以下又は95質量%以下含まれていてもよい。
【0051】
負極活物質層に任意に含まれる導電助剤やバインダーの種類は特に限定されるものではなく、例えば、正極活物質層に任意に含まれる導電助剤やバインダーとして例示されたものの中から適宜選択して用いることができる。負極活物質層に含まれる導電助剤やバインダーの量は特に限定されるものではない。
【0052】
負極集電体は、カリウムイオン二次電池の負極集電体として使用可能な公知の金属等によって構成されるものであってもよい。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Pb、Co、Cr、Zn、Ge、In、Sn、Zrからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む金属材料が例示される。特に、水系電解液中での安定性等を考慮した場合、負極集電体は、Al、Ti、Pb、Zn、Sn、Mg、Zr及びInからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含んでいてもよく、Ti、Pb、Zn、Sn、Mg、Zr及びInからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含んでいてもよく、Tiを含んでいてもよい。Al、Ti、Pb、Zn、Sn、Mg、Zr及びInはいずれも仕事関数が低く、水系電解液と接触したとしても水気電解液の電気分解が生じ難いものと考えられる。
【0053】
負極集電体の形態は特に限定されるものではない。箔状、メッシュ状、多孔質状等、種々の形態とすることができる。基材の表面に上記の金属をめっき・蒸着したものであってもよい。
【0054】
負極集電体の表面は炭素材料で被覆されていてもよい。すなわち、負極が、負極集電体と、負極集電体の表面のうち水系電解液が配置される側の表面(負極集電体と負極活物質層との間)に設けられた被覆層とをさらに備え、当該被覆層が炭素材料を含んでいてもよい。炭素材料としてはケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(VGCF)、アセチレンブラック(AB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンブラック、コークス、黒鉛等が挙げられる。
【0055】
被覆層の厚みは特に限定されるものではない。また、被覆層は負極集電体の表面の全面に設けられていてもよいし、一部に設けられていてもよい。
【0056】
被覆層には炭素材料同士及び炭素材料と負極集電体とを結着するためのバインダーが含まれていてもよい。
【0057】
負極集電体の表面に炭素材料を含む被覆層を設けた場合、水系電解液の還元側の耐電圧が向上し易い。炭素材料のエッジ部は高い反応活性を有することから、水系電解液に含まれるアニオン、例えばピロリン酸イオンの吸着及び分解が生じ易く、被膜が堆積し易いものと考えられる。よって、カリウムイオン二次電池において上記の水系電解液が用いられた場合に、炭素材料のエッジ部が不活性化され、エッジ部における水系電解液の電気分解を抑制することができ、結果として水系電解液の還元側電位窓が拡大するものと考えられる。
【0058】
カリウムイオン二次電池は、上記の構成の他、端子や電池ケース等といった電池として自明の構成を備え得る。
【0059】
以上の構成を備えるカリウムイオン二次電池は、例えば、正極集電体の表面に乾式又は湿式にて正極活物質層を形成して正極を得ること、負極集電体の表面に乾式又は湿式にて負極活物質層を形成して負極を得ること、及び、正極と負極との間にセパレータを配置し、これらを水系電解液に含浸させること等を得て製造することができる。
【実施例
【0060】
《実施例1及び比較例1~3》
〈実施例1〉
負極活物質としての酸化タングステン(WO)と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、バインダーとしてのPVDF及びCMCとを、質量比で、93:2:4.5:0.5となるように混合して負極活物質合剤を作製した。ドクターブレードを用いて、Ti箔の表面に当該負極活物質合剤を均一に塗工し、乾燥して、評価用の負極を得た。すなわち、負極は、負極集電体としてのTi箔の表面に、負極活物質等を含む負極活物質層が形成されたものである。
【0061】
(評価用セルの作製)
以下の構成を備える評価用セルを作製した。
セル:VM2(イーシーフロンティア社製)
作用極:上記の負極、開口面積1cm
対極:Ptメッシュ
参照極:Ag/AgCl
水系電解液:5.0mol/kgのピロリン酸カリウム(K)水溶液
【0062】
(セルの評価)
評価用セルに対して以下の条件にて充放電を行い、充放電特性を評価した。
充放電電流値:0.2mA/cm
カット電圧:-0.90~0.50V vs. Ag/AgCl
サイクル数:20回
測定温度:25℃
【0063】
〈比較例1~3〉
水系電解液を、それぞれ順に5.0mol/kgのLiTFSI、2.0mol/kgのNaSO、及び0.5mol/kgのKSOとしたことを除いて実施例1と同様にして、比較例1~3の試験を行った。
【0064】
〈結果〉
表1に各例に用いた電解質の種類及び濃度、充放電時の半波電位(V vs. Ag/AgCl)、並びに反応イオン種を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
また、図2~5に、各例の充放電結果を示す。図2~5において、実線は酸化タングステンの充放電反応を、破線はPt対極での酸化還元・分解反応を示している。
【0067】
表1及び図2~5に示すように、LiTFSI、KSO、及びNaSOを用いた比較例1~3では、対極の還元電位が作用極の還元電位よりも貴である。そのため、一般的には液分解の電位よりもWOの反応電位が卑になるので、反応不可となるはずである。したがって、これらの例では、対極側の還元電流は、水の電気分解による水素発生反応による。
【0068】
これに対して、負極活物質としてWO、水系電解液として5.0mol/kgのK水溶液を用いた実施例1では、対極の還元電位が作用極の還元電位よりも卑であるため、液分解の電位がWOの充電電位よりも下なので、一般的な挙動となる。
【0069】
実施例1では、半波電位が比較例1~3よりも約0.3V vs. Ag/AgCl低かった。この結果は、比較例1~3と異なり、実施例1においては反応イオン種がKであることを示している。
【0070】
《参考例》
ピロリン酸カリウム水溶液の濃度とpHとの関係を、図6に示した。
【0071】
ピロリン酸カリウム水溶液におけるピロリン酸カリウムの濃度が0mol/kg超8mol/kg以下の場合に、ピロリン酸カリウム水溶液のpHは、10.0~12.0であった。
【符号の説明】
【0072】
10 正極
11 正極活物質層
12 正極集電体
20 電解質層
30 負極
31 負極活物質層
32 負極集電体
100 カリウムイオン二次電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6