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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】蓄電装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20241119BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20241119BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20241119BHJP
   H01G 11/66 20130101ALI20241119BHJP
   H01M 50/591 20210101ALI20241119BHJP
【FI】
B29C65/16
H01M4/64 A
H01M4/70 A
H01M4/66 A
H01M10/04 Z
H01M50/586
H01G11/86
H01G11/66
H01M50/591
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022115470
(22)【出願日】2022-07-20
(65)【公開番号】P2024013410
(43)【公開日】2024-02-01
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 正剛
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-095909(JP,A)
【文献】特開2005-297288(JP,A)
【文献】国際公開第2008/117717(WO,A1)
【文献】特開2019-171768(JP,A)
【文献】特開2020-068070(JP,A)
【文献】特開2015-080884(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020531(WO,A1)
【文献】特開2015-210892(JP,A)
【文献】特開2019-040768(JP,A)
【文献】特開2016-020098(JP,A)
【文献】特開2010-046831(JP,A)
【文献】特開2021-082450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/02
B29C 65/16
H01G 11/00
H01M 4/64
H01M 4/66
H01M 4/70
H01M 10/00
H01M 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが1μm以上、70μm以下である金属箔の第1面に、前記金属箔の端部より第1樹脂部材の端部が長くなるように、熱可塑性樹脂を含有し、電磁波を透過する前記第1樹脂部材を配置し、前記金属箔の第2面に、前記金属箔の端部より第2樹脂部材の端部が長くなるように、熱可塑性樹脂を含有し、電磁波を透過する前記第2樹脂部材を配置する配置工程と、
前記第1樹脂部材の前記金属箔側の面とは反対側の面に、電磁波を透過する第1加圧部材を配置し、前記第2樹脂部材の前記金属箔側の面とは反対側の面に、電磁波を透過する第2加圧部材を配置し、前記第1加圧部材および前記第2加圧部材で加圧しながら、前記第1加圧部材側から前記金属箔の端部に電磁波を照射することにより、前記金属箔の端部を覆うように、前記金属箔に前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を溶着する溶着工程と、
を有し、
前記金属箔は、中実構造であり、かつ、電池の集電体であり、
前記配置工程において、前記金属箔の端部と前記第1樹脂部材の端部との距離、および、前記金属箔の端部と前記第2樹脂部材の端部との距離がそれぞれ、2.5mm以上であり、
前記溶着工程において、前記金属箔の前記端部と、前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材とが溶着している領域の端部との距離を、0.5mm以上とする、
リチウムイオン二次電池である蓄電装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材は、それぞれ、ポリプロピレンを含有し、かつ、酸変性処理が施されている、請求項1に記載の蓄電装置の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属に樹脂を溶着させる工程を有する蓄電装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属および樹脂のレーザ接合方法が知られている。例えば、特許文献1には、加圧部材で金属と樹脂の接合部を加圧し、レーザ照射して、金属と樹脂を接合する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-56308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属部材の防食、防錆の対策として、金属部材の端部を樹脂部材で覆う構造にすることが知られている。このような構造を、上記レーザ接合方法を用いて作製する場合、金属部材が厚さの薄い金属箔であると、レーザ照射側とは反対側の加圧部材に樹脂部材が溶着し、製品を取り出すことができない場合がある。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、金属箔の端部を樹脂部材で覆う工程において、樹脂部材の加圧部材への溶着を抑制しつつ、金属部材の片面からの電磁波の照射により、金属部材の端部を覆うように、金属部材に樹脂部材を溶着させることができる、蓄電装置の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]
厚さが1μm以上、100μm以下である金属箔の第1面に、上記金属箔の端部より第1樹脂部材の端部が長くなるように、熱可塑性樹脂を含有し、電磁波を透過する上記第1樹脂部材を配置し、上記金属箔の第2面に、上記金属箔の端部より第2樹脂部材の端部が長くなるように、熱可塑性樹脂を含有し、電磁波を透過する上記第2樹脂部材を配置する配置工程と、上記第1樹脂部材の上記金属箔側の面とは反対側の面に、電磁波を透過する第1加圧部材を配置し、上記第2樹脂部材の上記金属箔側の面とは反対側の面に、電磁波を透過する第2加圧部材を配置し、上記第1加圧部材および上記第2加圧部材で加圧しながら、上記第1加圧部材側から上記金属箔の端部に電磁波を照射することにより、上記金属箔の端部を覆うように、上記金属箔に上記第1樹脂部材および上記第2樹脂部材を溶着する溶着工程と、を有する、蓄電装置の製造方法。
[2]
上記配置工程において、上記金属箔の端部と上記第1樹脂部材の端部との距離、および、上記金属箔の端部と上記第2樹脂部材の端部との距離がそれぞれ、0.5mm以上である、[1]に記載の蓄電装置の製造方法。
[3]
上記金属箔が、電池の集電体である、[1]または[2]に記載の蓄電装置の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示においては、樹脂部材の加圧部材への溶着を抑制しつつ、金属部材の片面からの電磁波の照射により、金属部材の端部を覆うように、金属部材に樹脂部材を溶着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示における配置工程および溶着工程を例示する概略断面図である。
図2】本開示における溶着工程を例示する概略断面図である。
図3】実施例および比較例における配置工程を例示する概略平面図ならびに実施例4の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示における蓄電装置の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものであり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。また、本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」または「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上または直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方または下方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0010】
図1は、本開示における配置工程および溶着工程を例示する概略断面図である。まず、図1(a)に示すように、配置工程では、金属箔1の第1面Sに、熱可塑性樹脂を含有し、電磁波を透過する第1樹脂部材2を配置する。この際、金属箔1の端部E1より第1樹脂部材2の端部E2が長くなるように、第1樹脂部材2を配置する。また、金属箔1の第2面Sに、熱可塑性樹脂を含有し、電磁波を透過する第2樹脂部材3を配置する。この際、金属箔1の端部E1より第2樹脂部材3の端部E3が長くなるように、第2樹脂部材3を配置する。金属箔1の厚さTは、所定の範囲内である。次に、図1(b)に示すように、溶着工程では、第1樹脂部材2の金属箔1側の面とは反対側の面に、電磁波を透過する第1加圧部材4を配置する。また、第2樹脂部材3の金属箔1側の面とは反対側の面に、電磁波を透過する第2加圧部材5を配置する。第1加圧部材4および第2加圧部材5で加圧しながら、第1加圧部材4側から金属箔1に電磁波を照射する。図1(b)においては、電磁波として、レーザヘッド10からレーザ光Lを照射している。この際、金属箔1の端部E1を含む領域に、レーザ光Lを照射する。金属箔1は、電磁波を吸収して発熱する。第1樹脂部材2および第2樹脂部材3はそれぞれ、第1加圧部材4および第2加圧部材5で加圧されているため、金属箔1に密着している。そのため、金属箔1の熱が、第1樹脂部材2および第2樹脂部材3に伝導する。金属箔1と第1樹脂部材2および第2樹脂部材3との界面の温度が、第1樹脂部材2および第2樹脂部材3の融点付近または軟化点付近まで上昇し、金属箔1との界面にて第1樹脂部材2および第2樹脂部材3が局所的に溶融または軟化する。これにより、金属箔1の第1面Sおよび第2面Sにそれぞれ第1樹脂部材2および第2樹脂部材3が同時に溶着される。また、金属箔1の端部E1付近では、第1樹脂部材2および第2樹脂部材3がそれぞれ、第1加圧部材4および第2加圧部材5で加圧されているため、第1樹脂部材2および第2樹脂部材3も密着している。そして、金属箔1の端部E1付近でも、金属箔1の熱が第1樹脂部材2および第2樹脂部材3に伝導し、第1樹脂部材2および第2樹脂部材3が局所的に溶融または軟化する。これにより、図1(c)に示すように、第1樹脂部材2と第2樹脂部材3とが溶着される。その結果、金属箔1の端部E1を、第1樹脂部材2および第2樹脂部材3で覆うことができる。なお、図1(c)において、金属箔1に第1樹脂部材2および第2樹脂部材3が溶着している領域を第1溶着部11、金属箔1の端部E1付近にて第1樹脂部材2と第2樹脂部材3とが溶着している領域を第2溶着部12としている。
【0011】
ここで、金属箔の端部を樹脂部材で覆う構造を、レーザ接合方法を用いて作製する場合、本開示における配置工程のように、金属箔の端部よりも樹脂部材の端部が長くなるように、金属箔上に樹脂部材を配置することが考えられる。
【0012】
上記の場合において、例えば、金属箔の片面のみに樹脂部材を配置し、両側に加圧部材を配置して、両側の加圧部材で加圧しながら、片面から加圧部材および樹脂部材を介して金属箔にレーザ光を照射する場合を考える。このとき、金属箔の厚さが薄いと、金属箔の端部付近では、樹脂部材が両側の加圧部材で加圧されているため、レーザ光照射側とは反対側に位置する加圧部材に、樹脂部材が密着しやすい。また、レーザ光照射により、樹脂部材が溶融または軟化して下方に流れる傾向にある。そのため、レーザ光照射側とは反対側に位置する加圧部材にも、樹脂部材が溶着する場合がある。この場合、製品を、レーザ光照射側とは反対側の加圧部材から外せなくなる。
【0013】
これに対し、本開示によれば、金属箔の第1面および第2面にそれぞれ第1樹脂部材および第2樹脂部材を配置することにより、金属箔の厚さが薄くとも、第1樹脂部材が第2加圧部材に溶着するのを抑制することができる。
【0014】
また、上記の場合において、例えば、金属箔の両面にそれぞれ樹脂部材を配置し、両側に加圧部材を配置して、両側の加圧部材で加圧しながら、片面から加圧部材および樹脂部材を介して金属箔にレーザ光を照射する場合を考える。このとき、レーザ光照射側とは反対側に位置する加圧部材が、レーザ光を吸収する部材であると、この加圧部材がレーザ光を吸収して発熱する。そのため、レーザ光照射側とは反対側の加圧部材に、樹脂部材が溶着する場合がある。この場合も、製品を、レーザ光照射側とは反対側の加圧部材から外せなくなる。
【0015】
これに対し、本開示によれば、電磁波照射側とは反対側の第2加圧部材も電磁波を透過することにより、第2加圧部材に第2樹脂部材が溶着するのを抑制することができる。
【0016】
また、上記の場合において、例えば、金属箔の両面にそれぞれ樹脂部材を配置し、両側に加圧部材を配置して、両側の加圧部材で加圧しながら、片面から加圧部材および樹脂部材を介して金属箔にレーザ光を照射する場合に、両側の加圧部材がレーザ光を透過する部材である場合を考える。このとき、金属箔の端部に電磁波を照射しないと、金属箔の端部の温度が十分に上昇しない。そのため、金属箔の端部付近の樹脂部材が溶融または軟化せず、樹脂部材同士が溶着しないので、金属箔の端部は露出したままになる場合がある。
【0017】
これに対し、本開示によれば、金属箔の端部に電磁波を照射することにより、金属箔の端部付近にて第1樹脂部材と第2樹脂部材とを溶着させることができ、金属箔の端部を第1樹脂部材および第2樹脂部材で覆うことができる。
【0018】
また、従来のレーザ接合方法において、金属部材の両面に樹脂部材を同時に溶着させるのは困難であり、片面ずつレーザ光を照射する必要がある。金属部材の片面からレーザ光を照射すると、金属部材のレーザ光照射側の面では、金属部材がレーザ光を吸収して発熱し、温度が上昇する。一方、金属部材の厚さが厚い場合、金属部材のレーザ光照射側とは反対側の面では、金属部材のレーザ光照射側の面からの熱伝導過程で温度が低下するため、金属部材のレーザ光照射側の面の温度よりも低くなる。また、金属部材内において、厚さ方向だけでなく、面内方向にも、熱が伝導するため、金属部材に樹脂部材を溶着しようとする領域以外にも、多くの熱エネルギーの移動が生じる。そのため、金属部材に樹脂部材を溶着しようとする領域において、金属部材のレーザ光照射側とは反対側の面では、温度上昇が不十分になる。よって、金属部材のレーザ光照射側とは反対側の面では、樹脂部材の溶着不足が生じる場合がある。
【0019】
これに対し、本開示によれば、金属箔の厚さが所定の範囲内であり、薄いことにより、金属箔の厚さ方向の熱伝導距離を短くすることができる。そのため、溶着工程では、金属箔の第1面および第2面での温度上昇をほぼ同等とすることができる。よって、第1加圧部材側から金属箔に電磁波を照射することにより、金属箔の第1面および第2面にそれぞれ第1樹脂部材および第2樹脂部材を同時に溶着させることができる。
【0020】
このように本開示においては、第1樹脂部材および第2樹脂部材の第2加圧部材への溶着を回避しつつ、金属箔の第1面からの電磁波の照射により、金属箔の端部を覆うように、金属箔に第1樹脂部材および第2樹脂部材を溶着することができる。さらには、金属箔の第1面からの電磁波の照射により、金属箔の両面にそれぞれ第1樹脂部材および第2樹脂部材を同時に溶着することができる。
【0021】
また、金属部材および樹脂部材の接合方法としては、インパルスシーラーに代表される熱板溶着法も知られている。熱板溶着法では、樹脂部材内の熱伝導を利用して、金属部材に樹脂部材を溶着する。そのため、金属部材との界面の温度を上げるために、樹脂部材全体の温度を上昇させる必要がある。よって、樹脂部材が溶けて変形する場合がある。また、熱効率が悪いため、樹脂部材の厚さが薄い場合は溶着可能であるが、樹脂部材の厚さが厚い場合は、金属部材との界面まで熱が伝わりにくくなり、樹脂部材の変形のリスクが高くなる。そのため、冷却時間を確保する必要があり、加工時間が長くなる。
【0022】
これに対し、本開示によれば、金属箔に電磁波を照射して加熱することにより、金属箔と第1樹脂部材および第2樹脂部材との界面の温度を上昇させる。金属箔と第1樹脂部材および第2樹脂部材との界面のみ温度を上げればよいことから、非常に短時間および省エネルギーで加工することができる。
【0023】
1.配置工程
本開示における配置工程は、厚さが1μm以上、100μm以下である金属箔の第1面に、上記金属箔の端部より第1樹脂部材の端部が長くなるように、熱可塑性樹脂を含有し、電磁波を透過する上記第1樹脂部材を配置し、上記金属箔の第2面に、上記金属箔の端部より第2樹脂部材の端部が長くなるように、熱可塑性樹脂を含有し、電磁波を透過する上記第2樹脂部材を配置する工程である。
【0024】
金属箔は、蓄電装置を構成する部材に用いられる金属箔であれば特に限定されないが、中でも、電池の集電体に用いられる金属箔であることが好ましい。金属箔としては、例えば、ニッケル箔、チタン箔、ステンレス鋼箔、アルミニウム箔、銅箔が挙げられる。また、金属箔として、コーティングが施された金属箔、複数種類の金属を圧力で張り合わせる圧着または接着剤で張り合わせる接着により複層化した金属箔も用いることができる。金属箔の厚さは、1μm以上である。また、金属箔の厚さは、100μm以下であり、50μm以下であってもよい。
【0025】
また、金属箔の第1面および第2面を、アルコール等で脱脂してもよい。金属箔の第1面および第2面に異物等が付着している場合には、異物を除去することができる。
【0026】
第1樹脂部材および第2樹脂部材は、電磁波を透過する。第1樹脂部材および第2樹脂部材の電磁波の透過率は、例えば、50%以上であり、60%以上であってもよく、80%以上であってもよい。第1樹脂部材および第2樹脂部材の電磁波の透過率は、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0027】
第1樹脂部材および第2樹脂部材は、熱可塑性樹脂を含有する。第1樹脂部材および第2樹脂部材に含有される熱可塑性樹脂は、電磁波を透過する熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であってもよく、非結晶性樹脂であってもよい。非結晶性樹脂としては、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリメチルメタアクリル酸メチル(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニルデン(PVDC)が挙げられる。結晶性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロプレン(PP)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン6T(PA6T)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。第1樹脂部材および第2樹脂部材に含有される熱可塑性樹脂は、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。第1樹脂部材および第2樹脂部材の厚さはそれぞれ、例えば、50μm以上である。また、第1樹脂部材および第2樹脂部材の厚さはそれぞれ、例えば、1000μm以下であり、300μm以下であってもよい。第1樹脂部材および第2樹脂部材の厚さは、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0028】
第1樹脂部材および第2樹脂部材の全体、または少なくとも金属箔に接する側の面には、変性処理が施されていることが好ましい。これにより、金属箔と第1樹脂部材および第2樹脂部材との接合を強固にすることができる。変性処理としては、例えば、酸変性表面処理が挙げられる。
【0029】
後述の溶着工程では、第1面側からの電磁波の照射により、金属箔の第1面および第2面にそれぞれ第1樹脂部材および第2樹脂部材を同時に溶着させる。そのため、金属箔の第1面の法線方向から見た平面視において、第1樹脂部材と金属箔と第2樹脂部材とは、重なり合うように配置される。第1樹脂部材および第2樹脂部材では、大きさおよび形状が、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0030】
第1樹脂部材は、金属箔の第1面に、金属箔の端部より第1樹脂部材の端部が長くなるように配置される。金属箔の端部と第1樹脂部材の端部との距離、および、金属箔の端部と第2樹脂部材の端部との距離はそれぞれ、例えば、0.5mm以上であり、10mm以上であってもよい。また、上記距離の上限は、特に限定されない。金属箔の端部と第1樹脂部材の端部との距離、および、金属箔の端部と第2樹脂部材の端部との距離は、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。なお、「第1樹脂部材の端部」とは、第1樹脂部材の、金属箔の端部よりも外側に位置する端部をいう。また、「第2樹脂部材の端部」とは、第2樹脂部材の、金属箔の端部よりも外側に位置する端部をいう。
【0031】
2.溶着工程
本開示における溶着工程は、上記第1樹脂部材の上記金属箔側の面とは反対側の面に、電磁波を透過する第1加圧部材を配置し、上記第2樹脂部材の上記金属箔側の面とは反対側の面に、電磁波を透過する第2加圧部材を配置し、上記第1加圧部材および上記第2加圧部材で加圧しながら、上記第1加圧部材側から上記金属箔の端部に電磁波を照射することにより、上記金属箔の端部を覆うように、上記金属箔に上記第1樹脂部材および上記第2樹脂部材を溶着する工程である。
【0032】
第1加圧部材および第2加圧部材は、電磁波を透過する。第1加圧部材および第2加圧部材の電磁波の透過率は、例えば、50%以上であり、60%以上であってもよく、80%以上であってもよい。第1加圧部材および第2加圧部材の電磁波の透過率は、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0033】
第1加圧部材および第2加圧部材の材料は、電磁波を透過する材料であれば特に限定されないが、電磁波の透過率および熱伝導率が高いことから、ガラスが好ましい。第1加圧部材および第2加圧部材がガラスである場合、第1加圧部材および第2加圧部材の厚さはそれぞれ、例えば、1mm以上、40mm以下である。第1加圧部材および第2加圧部材の厚さは、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0034】
金属箔の第1面の法線方向から見た平面視において、第1加圧部材および第2加圧部材は、第1樹脂部材、金属箔および第2樹脂部材と重なり合うように配置される。第1加圧部材および第2加圧部材の大きさは、金属箔に第1樹脂部材および第2樹脂部材を溶着する領域と、金属箔の端部付近での第1樹脂部材および第2樹脂部材を溶着する領域とを合わせた大きさよりも大きいことが好ましい。第1加圧部材および第2加圧部材による加圧により、金属箔に第1樹脂部材および第2樹脂部材を密着させるとともに、金属箔の端部付近にて第1樹脂部材と第2樹脂部材とを密着させることができる。
【0035】
電磁波としては、例えば、レーザ光、赤外線が挙げられる。中でも、レーザ光が好ましい。加工時間を短くすることができる。レーザ光としては、例えば、半導体レーザ、YAGレーザ、ファイバーレーザが挙げられる。また、レーザ光は、赤外線レーザであることが好ましい。電磁波の照射条件(電磁波の出力、エネルギー密度、照射時間等)は、金属箔に第1樹脂部材および第2樹脂部材を溶着させるとともに、金属箔の端部付近にて第1樹脂部材と第2樹脂部材とを溶着させることができれば特に限定されず、第1樹脂部材、第2樹脂部材、第1加圧部材および第2加圧部材の電磁波の透過率、ならびに金属箔の熱伝導率に応じて、適宜設定される。電磁波の照射条件を適宜調整して、金属箔と第1樹脂部材および第2樹脂部材との界面の温度を制御することにより、第1樹脂部材および第2樹脂部材の溶着不足を抑制することができる。また、第1樹脂部材の第1加圧部材への溶着および第2樹脂部材の第2加圧部材への溶着を抑制することができる。さらに、金属箔の端部と、第1樹脂部材および第2樹脂部材が溶着している領域(第2溶着部)の端部との距離を制御することができる。エネルギー密度は、例えば、0.2W/mm以上、1.8W/mm以下である。照射時間は、例えば、0.8sec以上、1.8sec以下である。
【0036】
電磁波は、金属箔と第1樹脂部材および第2樹脂部材とが重なり合う領域から、金属箔の端部まで照射することができればよい。例えば図1(b)に示すように、電磁波は、金属箔1と第1樹脂部材2および第2樹脂部材3とが重なり合う領域から、金属箔1の端部E1より外側の領域まで照射することが好ましい。具体的には、電磁波は、金属箔と第1樹脂部材および第2樹脂部材とが重なり合う領域から、金属箔の端部より0.5mm以上外側の領域まで照射することが好ましい。この場合、電磁波を金属箔の端部まで容易に照射することができる。また、電磁波の強度分布によらず、電磁波の照射により、金属箔の端部の温度を、第1樹脂部材および第2樹脂部材の融点付近または軟化点付近まで容易に上昇させることができる。電磁波の照射方法としては、例えば、金属箔に第1樹脂部材および第2樹脂部材を溶着する領域と、金属箔の端部付近での第1樹脂部材および第2樹脂部材を溶着する領域とを合わせた領域を、1回で照射する方法、ビームを走査して照射する方法が挙げられる。前者の方法では、上記領域と同じサイズのビームプロファイルをビームホモジナイザで成形して、1回で照射する。
【0037】
また、第1加圧部材および第2加圧部材による加圧条件(加圧力等)は、金属箔に第1樹脂部材および第2樹脂部材を密着させるとともに、金属箔の端部付近にて第1樹脂部材と第2樹脂部材とを密着させることができれば特に限定されず、各部材の強度や硬さ等に応じて適宜設定される。加圧力は、例えば、0.01MPa以上である。
【0038】
溶着工程では、金属箔の端部を覆うように、第1樹脂部材と第2樹脂部材とが溶着される。そのため、例えば図1(c)に示すように、第1樹脂部材2と第2樹脂部材3とが溶着している領域(第2溶着部12)の端部E4は、金属箔1の端部E1より外側に位置することになる。金属箔の端部と、第2溶着部の端部との距離は、例えば、0.5mm以上であり、1mm以上であってもよい。また、上記距離の上限は、金属箔の端部と、第1樹脂部材または第2樹脂部材の端部との距離以下であり、特に限定されない。なお、「第1樹脂部材と第2樹脂部材とが溶着している領域」、つまり「第2溶着部」とは、金属箔の端部よりも外側の領域において、第1樹脂部材と第2樹脂部材とが溶着している領域をいう。また、「第1樹脂部材と第2樹脂部材とが溶着している領域の端部」とは、第1樹脂部材と第2樹脂部材とが溶着している領域の、金属箔の端部側とは反対側に位置する端部をいう。
【0039】
3.蓄電装置
本開示において、蓄電装置は、例えば蓄電モジュールである。蓄電装置は、例えば、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池等の二次電池であってもよく、電気二重層キャパシタ等のキャパシタであってもよい。
【0040】
本開示において、金属箔は、蓄電装置を構成する部材であれば特に限定されないが、金属箔が電池の集電体であることが好ましい。また、第1樹脂部材および第2樹脂部材は、蓄電装置を構成する部材であれば特に限定されないが、集電体の周縁部に配置され、隣接する集電体間を絶縁する枠状の樹脂部であることが好ましい。具体的には、バイポーラ電極をセパレータを介して積層する蓄電装置の製造方法において、上記の配置工程および溶着工程は、図2に示すように、集電体21の両面にそれぞれ正極22および負極23が配置されているバイポーラ電極20の集電体21の端部を覆うように、集電体21の両面の周縁部に、枠状の樹脂部31、32を溶着させる工程に適用されることが好ましい。本開示によれば、片面からの電磁波の照射により、このような構造を容易に作製することが可能である。
【0041】
蓄電装置の製造方法において、上記の配置工程および溶着工程以外の他の工程については、蓄電装置の製造方法における一般的な工程を適用することができる。
【0042】
蓄電装置の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における蓄電装置は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【実施例
【0043】
以下、実施例を示し、本開示をさらに説明する。
【0044】
[実施例1~8および比較例1]
厚さ66μm、50mm×30mmの長方形状、アルミニウムを主材とする金属箔と、厚さ200μm、50mm×10.5mmの長方形状、ポリプロピレンを含有し、酸変性処理された第1樹脂部材および第2樹脂部材とを用意した。図3(a)に示すように、金属箔1の両面にそれぞれ第1樹脂部材2および第2樹脂部材3を配置した。この際、金属箔1と第1樹脂部材2および第2樹脂部材3とが重なり合う領域は、50mm×8mmとした。金属箔1の端部と第1樹脂部材2の端部との距離、および、金属箔1の端部と第2樹脂部材2の端部との距離はいずれも、2.5mmであった。
【0045】
また、耐熱結晶化ガラスからなる第1加圧部材および第2加圧部材を用意した。第1樹脂部材の金属箔側とは反対側の面に第1加圧部材を配置し、第2樹脂部材の金属箔側とは反対側の面に第2加圧部材を配置した。第1加圧部材および第2加圧部材で加圧しながら、半導体レーザ発振装置およびビームホモジナイザを用いて、第1加圧部材側からレーザ光を照射した。レーザ光の照射条件および加圧条件を、表1に示す。レーザ光の照射は、ヘッド固定で行った。
【0046】
[評価]
(金属箔の端部と、第1樹脂部材および第2樹脂部材が溶着している領域(第2溶着部)の端部との距離)
得られた積層体を、金属箔に第1樹脂部材および第2樹脂部材が溶着している領域(第1溶着部)の短手方向(図3中のA-A線方向)に切断した。光学顕微鏡観察により、上記切断面において、金属箔の端部と、第2溶着部の端部との距離を測定した。n数は3とし、平均値を求めた。結果を表1に示す。また、図3(b)に、実施例4の光学顕微鏡写真を示す。図3(b)は、図3(a)のA-A線断面に相当する。図3(b)において、金属箔1の端部E1と第2溶着部12の端部E4との距離は、dで示される。
【0047】
【表1】
【0048】
(接合強度)
実施例4について、得られた積層体を、金属箔に第1樹脂部材および第2樹脂部材が溶着している領域(第1溶着部)の短手方向に10mmの幅で切り出し、測定サンプルとした。測定サンプルに対して、金属箔と第1樹脂部材または第2樹脂部材とを互いに反対方向に引っ張るせん断試験を行い、接合強度(せん断強度)を測定した。金属箔と第1樹脂部材との接合強度(レーザ照射側)は、37.3N/10mmであり、金属箔と第2樹脂部材との接合強度(レーザ照射側とは反対側)は、37.5N/10mmであった。せん断試験では、樹脂母材が伸び始めており、片面からのレーザ照射により、金属箔の両面とも樹脂母材の強度以上の強度で樹脂部材が接合していることが確認された。
【0049】
他の実施例についても、実施例4と同様の結果が得られた。
【0050】
実施例1~8においては、金属箔の第1面からのレーザ光の照射により、樹脂部材の加圧部材への溶着を回避しつつ、金属箔の端部を第1樹脂部材および第2樹脂部材で覆いながら、金属箔の第1面および第2面にそれぞれ第1樹脂部材および第2樹脂部材を同時に溶着することができることが確認された。
【0051】
一方、比較例1においては、金属箔の端部を第1樹脂部材および第2樹脂部材を覆うことができなかった。また、金属箔への第1樹脂部材および第2樹脂部材の溶着不足も生じていた。これは、レーザの出力が低く、照射時間が短く、エネルギー密度が小さいため、金属箔の温度上昇が不足したことによると考えられる。
【0052】
また、レーザ光の照射条件を調整することにより、金属箔の端部と、第2溶着部の端部との距離を制御することができることが確認された。
【0053】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0054】
1…金属箔
2…第1樹脂部材
3…第2樹脂部材
4…第1加圧部材
5…第2加圧部材
E1…金属箔の端部
E2…第1樹脂部材の端部
E3…第2樹脂部材の端部
L…レーザ光
…第1面
…第2面
T…金属箔の厚さ
図1
図2
図3