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  • 特許-固体電解質セラミックスおよび固体電池 図1
  • 特許-固体電解質セラミックスおよび固体電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】固体電解質セラミックスおよび固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/08 20060101AFI20241119BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241119BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241119BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20241119BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241119BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01B1/08
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0585
H01M4/13
C04B35/50
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022563810
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2021042283
(87)【国際公開番号】W WO2022107826
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2020191136
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】高野 良平
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-530963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/08
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/0585
H01M 4/13
C04B 35/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともLi(リチウム),La(ランタン),Bi(ビスマス)およびO(酸素)を含み、
Co(コバルト),Ni(ニッケル)およびMn(マンガン)からなる群から選択される1種類以上の遷移金属元素をさらに含む、ガーネット型結晶構造を有する固体電解質セラミックスであって、
前記固体電解質セラミックスは、酸素と6配位をとることが可能な遷移元素および第12族~第15族に属する典型元素からなる群から選択される1種類以上の元素Dであって、少なくともBi(ビスマス)を含む元素Dをさらに含み、
前記Bi(ビスマス)の含有量は、前記元素Dの含有量を100mol%としたとき、0mol%超25mol%以下である、固体電解セラミックス
【請求項2】
前記固体電解質セラミックスは下記一般式(I)で表される化学組成を有しつつ、前記1種類以上の遷移金属元素をさらに含む、請求項1に記載の固体電解質セラミックス:
【化1】
(式(I)中、Aは、Li(リチウム)、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)およびSc(スカンジウム)からなる群から選択される1種類以上の元素であって、少なくともLi(リチウム)を含む;
Bは、La(ランタン)、Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム),Ba(バリウム)、およびランタノイド元素からなる群から選択される1種類以上の元素であって、少なくともLa(ランタン)を含む;
Dは、前記元素であって、少なくともZr(ジルコニウム),Ta(タンタル)およびBi(ビスマス)を含む;
αは5.0≦α≦8.0を満たす;
βは2.5≦β≦3.5を満たす;
γは1.5≦γ≦2.5を満たす;
ωは11≦ω≦13を満たす)。
【請求項3】
前記1種類以上の遷移金属元素の合計含有量は、前記Bの含有量を100mol%としたとき、0mol%超3.50mol%以下である、請求項2に記載の固体電解質セラミックス。
【請求項4】
前記1種類以上の遷移金属元素の合計含有量は、前記Bの含有量を100mol%としたとき、0mol%超1.20mol%以下である、請求項2に記載の固体電解質セラミックス。
【請求項5】
前記1種類以上の遷移金属元素の合計含有量は、前記Bの含有量を100mol%としたとき、0mol%超0.25mol%以下である、請求項2に記載の固体電解質セラミックス。
【請求項6】
前記1種類以上の遷移金属元素はCoを含む、請求項1~のいずれかに記載の固体電解質セラミックス。
【請求項7】
粒界近傍部のBi濃度は粒子内部のBi濃度に比べて高い、請求項1~のいずれかに記載の固体電解質セラミックス。
【請求項8】
前記Biは前記ガーネット型結晶構造中の前記D中におけるBiのモル比の2倍量をBi量xとしたとき、前記粒界近傍部のBi量x(以下、「x」という)および前記粒子内部のBi量x(以下、「x」という)は以下の関係式:
<x
を満たす、請求項に記載の固体電解質セラミックス。
【請求項9】
前記粒界近傍部のBi量xおよび前記粒子内部のBi量xは以下の関係式を満たす、請求項に記載の固体電解質セラミックス:
0<x≦0.80;および
0≦x≦0.30。
【請求項10】
前記粒界近傍部のBi量xおよび前記粒子内部のBi量xは以下の関係式を満たす、請求項またはに記載の固体電解質セラミックス:
0.01≦x-x
【請求項11】
前記固体電解質セラミックの電子エネルギー損失分光スペクトルにおいて、Co L端のピーク位置は、LiCoOのCo L端のピーク位置よりも低い、請求項1~10のいずれかに記載の固体電解質セラミックス。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の固体電解質セラミックスを含む、固体電池。
【請求項13】
前記固体電池は、正極層、負極層および前記正極層と前記負極層との間に積層されている固体電解質層を含み、
前記正極層および前記負極層はリチウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている、請求項12に記載の固体電池。
【請求項14】
前記固体電解質層は前記正極層および前記負極層と相互に焼結体同士の一体焼結をなしている、請求項13に記載の固体電池。
【請求項15】
前記固体電解質セラミックスは前記固体電池の固体電解質層に含まれている、請求項1214のいずれかに記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解質セラミックスおよび当該固体電解質セラミックスを含む固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や携帯型パーソナルコンピュータ等の携帯型電子機器の電源として、電池の需要が大幅に拡大している。このような用途に用いられる電池としては、電解質として固体電解質を用いると共に、その他の構成要素も固体で構成されている焼結型固体二次電池(いわゆる「固体電池」)の開発が進められている。
【0003】
固体電池は、正極層、負極層および正極層と負極層との間に積層されている固体電解質層を含む。特に、固体電解質層は固体電解質セラミックスを含み、正極層と負極層との間でイオンの伝導を担っている。固体電解質セラミックスはイオン伝導度がより高く、かつ電子伝導度がより低いことが求められている。そのような固体電解質セラミックスとしては、より高いイオン伝導度の観点から、Biで置換されたガーネット型固体電解質を焼結させてなるセラミックスを用いる試みがなされている(例えば、特許文献1および非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-050071号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Gao et al., SolidState Ionics, 181 (2010) 1415-1419
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の発明者は、上記のような従来の固体電解質セラミックスを用いた固体電池において、以下の問題が生じることを見出した。詳しくは、Biを含むガーネット型固体電解質セラミックスを用いた従来の固体電池においては、粒界にLi-Bi-O系化合物などの不純物が生成し易く、このLi-Bi-O系化合物が固体電池の作動時(すなわち充放電時)に還元され、電子伝導度が上昇した。電子伝導度が上昇すると、固体電池が短絡する現象が起こったり、かつ/またはリーク電流の増大が起こったりした。
【0007】
本発明は、優れたイオン伝導性を有しつつ、固体電池の作動による電子伝導度の上昇をより十分に抑制する固体電解質セラミックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
少なくともLi(リチウム),La(ランタン),Bi(ビスマス)およびO(酸素)を含み、ガーネット型結晶構造を有する固体電解質セラミックスであって、
Co(コバルト),Ni(ニッケル)およびMn(マンガン)からなる群から選択される1種類以上の遷移金属元素をさらに含む、固体電解質セラミックス
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固体電解質セラミックスは、優れたイオン伝導性を有しつつ、固体電池の作動による電子伝導度の上昇をより十分に抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の固体電解質セラミックスの一例を構成する焼結粒子およびその構造を説明するための固体電解質セラミックスの拡大模式図を示す。
図2】実施例5Aの固体電解質単板における固体電解質内のバルク粒子を測定した電子エネルギー損失分光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[固体電解質セラミックス]
本発明の固体電解質セラミックスは、固体電解質粒子が焼結されてなる焼結体から構成されている。本発明の固体電解質セラミックスは、少なくともLi(リチウム),La(ランタン),Bi(ビスマス)およびO(酸素)を含み、ガーネット型結晶構造を有する固体電解質セラミックスであり、Co(コバルト),Ni(ニッケル)およびMn(マンガン)からなる群から選択される1種以上の遷移金属元素(以下、単に「所定の遷移金属元素」ということがある)をさらに含む。本発明においては、Li(リチウム),La(ランタン),Bi(ビスマス)およびO(酸素)を含む、ガーネット型結晶構造を有する固体電解質セラミックスが、前記所定の遷移金属元素をさらに含むことにより、優れたイオン伝導性を有しつつ、電子伝導度の上昇をより十分に抑制する。このような固体電解質セラミックスが前記所定の遷移金属元素を含まない場合、電子伝導度の上昇を十分に抑制することができない。なお、本発明の固体電解質セラミックスは、少なくともLi(リチウム),La(ランタン),Bi(ビスマス)およびO(酸素)を含み、ガーネット型結晶構造を有する固体電解質からなるセラミックスであって、本発明の効果を損ねない範囲でその他の複合酸化物や単一酸化物を含んでいてもよい。また、少なくとも本発明の主成分となる固体電解質セラミックスに含まれる焼結粒子がガーネット型結晶構造を有していればよい。
【0012】
本発明の固体電解質セラミックスにおける所定の遷移金属元素の存在形態(または含有形態)は特に限定されず、結晶格子に存在してもいいし、結晶格子以外に存在してもいい。例えば、当該所定の遷移金属元素は、固体電解質セラミックスにおいて、バルクに存在してもよいし、粒界に存在してもよいし、またはそれらの両方に存在してもよい。所定の遷移金属元素がバルクに存在する一例としては、本発明の固体電解質セラミックスにおいて、当該所定の遷移金属元素がガーネット型結晶構造を構成する金属サイト(格子サイト)に存在してもよい。金属サイトはあらゆる金属サイトであってもよく、例えば、Liサイト、Laサイト、Biサイトまたはこれらのうちの2種以上のサイトであってもよい。本発明の固体電解質セラミックスは複数の焼結粒子から構成されているところ、当該所定の遷移金属元素は2つ以上の焼結粒子の間の界面に存在してもよい。
【0013】
本発明の固体電解質セラミックスにおけるBi(ビスマス)の存在形態(または含有形態)は特に限定されず、例えば、当該所定のBi(ビスマス)は、固体電解質セラミックスにおいて、バルクに存在してもよいし、粒界に存在してもよいし、またはそれらの両方に存在してもよい。絶縁性の観点から、Biはバルクに存在することが好ましい。Biがバルクに存在する一例としては、本発明の固体電解質セラミックスにおいて、当該Biがガーネット型結晶構造を構成する金属サイト(格子サイト)に存在してもよい。本発明の固体電解質セラミックス中の焼結粒子中にに存在してもよいし、その表面に存在してもよい。
【0014】
本発明において、当該所定の遷移金属および/またはBi(ビスマス)は、ガーネット型結晶構造を有するセラミックスに含まれていてもよい。さらに、所定の遷移金属および/またはBi(ビスマス)は、当該所定の遷移金属および/またはBi(ビスマス)の単一酸化物として存在してもよい。また、所定の遷移金属および/またはBi(ビスマス)は、固体電解質セラミックスを構成する元素を含む複合酸化物として存在してもよい。なお、前記酸化物は、本発明の主成分となるガーネット型結晶構造を有するセラミックスの焼結粒子間の界面に存在してもよい。
【0015】
本発明の固体電解質セラミックスにおけるLi(リチウム)およびLa(ランタン)それぞれは通常、バルクに存在してもよく、詳しくは、一例として、本発明の固体電解質セラミックスにおいて、ガーネット型結晶構造を構成する金属サイト(格子サイト)としてのLiサイトおよびLaサイトに存在してもよい。このとき、Li(リチウム)およびLa(ランタン)はそれぞれ独立または複合酸化物として、一部が粒界に存在してもよい。
【0016】
本発明の固体電解質セラミックスが含む遷移金属元素は、電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、Coを含むことが好ましい。
【0017】
本発明の固体電解質セラミックスは下記一般式(I)で表される化学組成を有することが好ましく、このとき、当該所定の遷移金属元素を上記した形態でさらに含む。
【0018】
【化1】
【0019】
式(I)中、Aは、Li(リチウム)、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)およびSc(スカンジウム)からなる群から選択される1種類以上の元素であって、少なくともLiを含む。
Bは、La(ランタン)、Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム),Ba(バリウム)、およびランタノイド元素からなる群から選択される1種類以上の元素であって、少なくともLaを含む。ランタノイド元素として、例えば、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミニウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)が挙げられる。
Dは、酸素と6配位をとることが可能な遷移元素および第12族~第15族に属する典型元素からなる群から選択される1種類以上の元素を示す。酸素と6配位をとることが可能な遷移元素として、例えば、Sc(スカンジウム)、Zr(ジルコニウム),Ti(チタン),Ta(タンタル),Nb(ニオブ),Hf(ハフニウム),Mo(モリブデン),W(タングステン)およびTe(テルル))が挙げられる。第12族~第15族に属する典型元素として、例えば、In(インジウム),Ge(ゲルマニウム),Sn(スズ),Pb(鉛),Sb(アンチモン),Bi(ビスマス)が挙げられる。Dは少なくともBiを含む。
【0020】
式(I)中、α、β、γ、ωは、それぞれ、5.0≦α≦8.0、2.5≦β≦3.5、1.5≦γ≦2.5、11≦ω≦13を満たす。
αは、電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは5.5≦α≦7.0を満たし、より好ましくは6.0≦α≦6.8、さらに好ましくは6.2≦α≦6.8、特に好ましくは6.2≦α≦6.6を満たす。
βは、電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは2.5≦β≦3.3を満たし、より好ましくは2.5≦β≦3.1、さらに好ましくは2.8≦β≦3.0を満たす。
γは、電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは1.8≦γ≦2.5を満たし、より好ましくは1.8≦γ≦2.3、さらに好ましくは1.9≦γ≦2.3を満たす。
ωは、電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは11≦ω≦12.5を満たし、より好ましくは11.5≦ω≦12.5を満たす。
【0021】
本発明の固体電解質セラミックスにおける所定の遷移金属元素の合計含有量は通常、前記一般式(I)中のBの含有量(例えば、後述の一般式(II)におけるLaおよびBの合計数)を100mol%としたとき、0mol%超3.50mol%以下(例えば0.01mol%以上1.80mol%以下)であり、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは0mol%超1.20mol%以下(例えば0.01mol%以上1.00mol%以下)であり、より好ましくは0mol%超0.25mol%以下(例えば0.01mol%以上0.20mol%以下)である。
【0022】
所定の遷移金属元素の含有量は、固体電解質セラミックスの誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析(ICP分析)を行い、当該材料の平均化学組成を得ることにより測定することができる。詳しくは、ICP分析に基づいて平均化学組成を求め、当該平均化学組成より、Co,MnおよびNiの含有量を、前記一般式(I)中のBの含有量(例えば、後述の一般式(II)におけるLaおよびBの合計数)を100mol%としたときの割合として求めることができる。なお、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)、LA-ICP-MS(レーザアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法)、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)、WDX(波長分散型X線分光法)および/またはX線光電子分光分析装置(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)で測定し算出してもよい。
【0023】
Bi(ビスマス)の含有量は通常、前記Dの含有量を100mol%としたとき、0mol%超50mol%以下であり、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは0mol%超35mol%以下、より好ましくは0.5mol%以上20mol%以下、さらに好ましくは2.5mol%以上17.5mol%以下である。
【0024】
Biの含有量も、所定の遷移金属元素の含有量と同様に、固体電解質セラミックスの誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析(ICP分析)を行い、当該材料の平均化学組成を得ることにより測定することができる。詳しくは、ICP分析に基づいて平均化学組成を求め、当該平均化学組成より、Biの含有量を、前記一般式(I)中Dの含有量(例えば、後述の一般式(II)におけるBiおよびDの合計数)を100mol%としたときの割合として求めることができる。なお、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)、LA-ICP-MS(レーザアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法)、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)、WDX(波長分散型X線分光法)および/またはX線光電子分光分析装置(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)で測定し算出してもよい。
【0025】
本発明において、固体電解質セラミックスがガーネット型結晶構造を有するとは、当該固体電解質セラミックスが単に「ガーネット型の結晶構造」を有することだけでなく、「ガーネット型類似の結晶構造」を有することも包含して意味するものとする。詳しくは、本発明の固体電解質セラミックスは、X線回折において、固体電池の分野の当業者によりガーネット型またはガーネット型類似の結晶構造と認識され得る結晶構造を有する。より詳しくは、本発明の固体電解質セラミックスは、X線回折において、いわゆるガーネット型の結晶構造(回折パターン:ICDD Card No.01-080-6142)に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示してもよいし、またはガーネット型類似の結晶構造として、いわゆるガーネット型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークとは、組成の差異に起因して入射角度(すなわちピーク位置または回折角度)および強度比(すなわちピーク強度または回折強度比)が異なる1つ以上の主要なピークを示してもよい。ガーネット型類似の結晶構造の代表的な回折パターンとして、例えば、ICDD Card No.00-045-0109等が挙げられる。また、少なくとも本発明の主成分となる固体電解質セラミックスに含まれる焼結粒子がガーネット型結晶構造を有していればよい。
【0026】
本発明の固体電解質セラミックスは、一具体的実施形態として、一般式(II)で表される化学組成を有することもできる。詳しくは、固体電解質セラミックスは、当該一般式(II)で表される化学組成を有することができる。なお、このとき本発明の固体電解質セラミックスは、当該一般式(II)で表される化学組成を有しつつ、上記したように所定の遷移金属元素をさらに含む。
【0027】
【化2】
【0028】
式(II)中、Aはガーネット型結晶構造中のLiサイトを占める金属元素を指す。Aは前記一般式(I)におけるAに対応する元素であり、当該Aとして例示した前記元素と同様の元素のうち、Li以外の元素からなる群から選択される1種類以上の元素であってもよい。Aは通常、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)およびSc(スカンジウム)からなる群から選択される1種類以上の元素である。Aは、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくはGa(ガリウム)、およびAl(アルミニウム)からなる群から選択される1種類以上の元素、より好ましくはGaおよびAlの2種類の元素である。
【0029】
式(II)中、Bはガーネット型結晶構造中のLaサイトを占める金属元素を指す。Bは前記一般式(I)におけるBに対応する元素であり、当該Bとして例示した前記元素と同様の元素のうち、La以外の元素からなる群から選択される1種類以上の元素であってもよい。Bは通常、Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム),Ba(バリウム)、およびランタノイド元素からなる群から選択される1種類以上の元素である。
【0030】
式(II)中、Dはガーネット型結晶構造中の6配位サイトを占める金属元素を指す。ガーネット型結晶構造の6配位サイトは、例えば、ガーネット型結晶構造を有するLiLaNb12(ICDD CardNo.00-045-0109)におけるNbが占有するサイト、LiLaZr12(ICDD Card.No01-078-6708)におけるZrが占有するサイトである。Dは前記一般式(I)におけるDに対応する元素であり、当該Dとして例示した前記元素と同様の元素のうち、Bi以外の元素からなる群から選択される1種類以上の元素であってもよい。Dは通常、Zr(ジルコニウム),Sn(スズ),Sb(アンチモン),Ti(チタン)Ta(タンタル),Nb(ニオブ),Hf(ハフニウム),Mo(モリブデン),W(タングステン)およびTe(テルル)からなる群から選択される1種類以上の元素であり、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくはZr(ジルコニウム)およびTa(タンタル)からなる群から選択される1種類以上の元素を含み、より好ましくはZr(ジルコニウム)およびTa(タンタル)を含み、さらに好ましくはZr(ジルコニウム)およびTa(タンタル)を含む。
【0031】
式(II)中、xは0<x≦1.00を満たし、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは0.01≦x≦0.70、より好ましくは0.02≦x≦0.40、さらに好ましくは0.05≦x≦0.40、特に好ましくは0.05≦x≦0.35を満たす。
yは0≦y≦0.50を満たし、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは0≦y≦0.40、より好ましくは0≦y≦0.30、さらに好ましくは0≦y≦0.20を満たし、特に好ましくは0である。
βは2.5≦β≦3.3を満たし、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは2.5≦β≦3.1、より好ましくは2.8≦β≦3.0である
zは0≦z≦2.00を満たし、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは0≦z≦1.00、より好ましくは0≦z≦0.50を満たし、さらに好ましくは0である。
γは1.5≦γ≦2.5を満たし、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは1.8≦γ≦2.5、より好ましくは1.8≦γ≦2.3を満たし、さらに好ましくは1.9≦γ≦2.3である。
【0032】
式(II)中、pは通常、6.0≦p≦7.0を満たし、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは6.0≦p≦6.6、より好ましくは6.25≦p≦6.55を満たす。
aはAの平均価数である。Aの平均価数は、Aとして、例えば、価数a+の元素Xがn1個、価数b+の元素Yがn2個、および価数c+の元素Zがn3個で認められる場合、(n1×a+n2×b+n3×c)/(n1+n2+n3)で表される値のことである。
bはBの平均価数である。Bの平均価数は、Bとして、例えば、価数a+の元素Xがn1個、価数b+の元素Yがn2個、および価数c+の元素Zがn3個で認められる場合、上記したAの平均価数と同様の値のことである。
cはDの平均価数である。Dの平均価数は、Dとして、例えば、価数a+の元素Xがn1個、価数b+の元素Yがn2個、および価数c+の元素Zがn3個で認められる場合、上記したAの平均価数と同様の値のことである。
δは酸素欠損量を示し、0であってもよい。δは通常、0≦δ<1を満たしていればよい。酸素欠損量δは、最新の装置を用いても定量分析できないため、0であるものと考えられてもよい。
なお、本発明の固体電解質セラミックスが有する化学組成における各元素のモル比は、例えば、式(II)中の各元素のモル比とは必ずしも一致せず、分析手法によっては、それよりもずれる傾向があるが、特性が変化するほどの組成ずれでなければ本発明の効果を奏する。
【0033】
本発明において固体電解質セラミックスの化学組成は、ICP(誘導結合プラズマ法)を用いて求められた、セラミックス材料全体の組成であってもよい。ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)、LA-ICP-MS(レーザアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法)を用いて測定、算出してもよい。また、当該化学組成は、XPS分析を用いて測定、算出してもよいし、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)および/またはWDX(波長分散型X線分光法)を用いて求められてもよい。さらに、当該化学組成は、任意の100個の焼結粒子各々の任意の100点の定量分析(組成分析)を行い、それらの平均値を算出することで得てもよい。
【0034】
本発明の固体電解質セラミックにおける所定の遷移金属元素(すなわちCo,Ni,Mn)の含有量[例えば、前記一般式(I)中のBの含有量(または前記一般式(II)におけるLaおよびBの合計数)を100mol%としたときのモル比率]は以下の方法により算出されてもよい。本発明において固体電解質セラミックスの化学組成は、ICP分析(誘導結合プラズマ法)、LA-ICP-MS(レーザアブレーションICP質量分析)分析などを行い求めることができる。また、XPS分析を用いて測定、算出してもよいし、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)、WDX(波長分散型X線分光法)を用いてもよい。さらに、当該化学組成は、任意の100個の焼結粒子各々の任意の100点の定量分析(組成分析)を行い、それらの平均値を算出することで得てもよい。
【0035】
例えば、EDXまたはWDXでの分析は、固体電池の断面を測定する。固体電池の断面とは、正極層、固体電解質層および負極層の積層方向に平行な断面である。固体電池の断面は、固体電池を樹脂に包埋した後、研磨を行い断面を露出させることができる。断面研磨の方法については特に限定されないが、ダイサー等でカットしたのち、研磨紙、化学機械研磨、イオンミリング等を用いて研磨することで、固体電解質層を露出させることができる。露出した断面(固体電解質層)をEDXまたはWDX(波長分散型蛍光X線分析装置)によって定量分析を行うことで、Bに対するCo、Ni、Mnのモル比率を算出することができる。
【0036】
また例えば、TEM-EELS測定では、固体電池の電極層もしくは固体電解質層を、FIB(集束イオンビーム)等を用いて剥片化後、固体電解質部位のTEM-EELS(透過顕微鏡-電子エネルギー損失分光法:Electron Energy-Loss Spectroscopy)測定を行う。これにより、Bに含まれる元素および、Co、Ni、Mnを検出し、Bの含有量に対するCo、Ni、Mnのモル比率を算出することができる。
【0037】
本発明の固体電解質セラミック(LLZ)の電子エネルギー損失分光スペクトル(EELSスペクトル)において、図2のEELSスペクトルに示されるように、本発明の固体電解質セラミック(LLZ)におけるCo L端ピークのエネルギー位置は、LiCoO(LCO)のCo L端ピークのエネルギー位置よりも低い。詳しくは、これらのピークのシフト幅sw(図2参照)は通常、0.1~3eVであり、好ましくは0.3~2eVある。図2は実施例で作成された固体電解質単板における固体電解質内のバルク粒子を測定した電子エネルギー損失分光スペクトルを示す。
【0038】
本発明の固体電解質セラミックスを示す化学組成の具体例として、以下の化学組成が挙げられる。なお、以下に示す化学組成において、ハイフン(-)以降の遷移金属元素は、前記したように、バルクおよび/または粒界に存在してもよいことを示す。
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.001Co
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.003Co
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.005Co
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.010Co
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.025Co
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.050Co
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.001Mn
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.005Mn
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.010Mn
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.001Ni
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.005Ni
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.010Ni
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.005Co-0.005Ni-0.005Mn
Li6.5La(Zr1.53Ta0.4Bi0.07)O12-0.005Co
Li6.5La(Zr1.46Ta0.4Bi0.14)O12-0.005Co
Li6.3La(Zr1.30Ta0.40Bi0.30)O12-0.005Co
Li6.1La(Zr1.10Ta0.40Bi0.50)O12-0.005Co
【0039】
本発明の固体電解質セラミックスは、所定の遷移金属元素を含む限り、当該固体電解質セラミックスを構成する各焼結粒子において、後述する粒界近傍部と粒子内部との間でどこにBiを含んでいてもよい。さらには、後述する粒界近傍部と粒子内部との間でBi濃度が略均一であってもよいし、またはBi濃度が勾配を有していてもよい。前者および後者に係る本発明の固体電解質セラミックスをそれぞれ「Bi濃度均一構造型固体電解質セラミックス」および「Bi濃度勾配構造型固体電解質セラミックス」と称することができる。
【0040】
本発明の一実施態様において、本発明の固体電解質セラミックスは、各焼結粒子において粒界近傍部と粒子内部との間でBi濃度が勾配を有しながら、上記した所定の遷移金属元素を含む「Bi濃度勾配構造型固体電解質セラミックス」であってもよい。なお、本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスは、各焼結粒子における粒界近傍部および粒子内部の全体で、上記一般式(I)または(II)で表される化学組成を有していることが好ましい。
【0041】
本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスを構成する各焼結粒子において、詳しくは、粒界近傍部のBi濃度は粒子内部のBi濃度に比べて高い。より詳しくは、図1に示すように、本発明の固体電解質セラミックス10は複数の焼結粒子1から構成されているところ、各焼結粒子1において、粒界2に近い粒界近傍部3のBi濃度は、当該粒界近傍部3により包囲される粒子内部4のBi濃度に比べて高くなっている。本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスがこのようなBi濃度勾配を有しつつ、所定の遷移金属元素を含有することにより、本発明における所定の遷移金属元素の含有効果(特に作動時における電子伝導度上昇に関する抑制効果)をより一層十分に奏することができる。図1は、本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスを構成する焼結粒子およびその構造を説明するための固体電解質セラミックスの拡大模式図を示す。図1において、3つの焼結粒子1が示されているだけであるが、通常はそれらの周りに多くの焼結粒子が相互に隣接する焼結粒子との間で粒界を形成しつつ存在している。
【0042】
粒界近傍部3とは、粒界2からの距離(すなわち粒界2から粒子内部4に向かっての距離)が50nm以内である領域(すなわち粒界近傍領域)のことである。従って、粒界近傍部3は、(例えば断面視において)、焼結粒子の外縁に配置され、後述の粒子内部4を包囲する。
【0043】
粒界近傍部3のBi濃度は、上記のような粒界近傍領域における平均Bi量(x)のことである。本明細書中、粒界近傍部3のBi濃度は、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、粒界近傍部3の10点を点分析し、それらの平均値を用いている。詳しくは、任意の10個の焼結粒子各々において、粒界近傍部3の任意の10点における点分析による組成分析を行い、Bi/D比率を得る。Bi/D比率から上記の一般式(I)におけるBi量xを算出し、その平均値を用いている。なお、1つの焼結粒子の粒界近傍部3は、相互に隣接する1つ以上の焼結粒子の粒界近傍部3とともに、それらの間に粒界2を形成する。
【0044】
粒子内部4とは、粒界2からの距離(すなわち粒界2から粒子内部4に向かっての距離)が50nm超である領域のことである。詳しくは、粒子内部4は、(例えば断面視において)、上記粒界近傍部3により包囲される内側領域である。
【0045】
粒子内部4のBi濃度は、上記のような粒子内部4における平均Bi量(x)のことである。本明細書中、粒子内部4のBi濃度は、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、粒子内部4の10点を点分析し、それらの平均値を用いている。詳しくは、任意の10個の焼結粒子各々において、粒子内部4の任意の10点における点分析による組成分析を行い、Bi/D比率を得る。Bi/D比率から上記の一般式(I)におけるBi量xを算出し、その平均値を用いている。
【0046】
本発明においては、ガーネット型結晶構造を有する固体電解質セラミックス材料において、Biはガーネット型結晶構造中の6配位サイトを占めることができる。好ましい実施態様においては、このような6配位サイト中におけるBiのモル比の2倍量をBi量xとしたとき、粒界近傍部3のBi量x(本明細書中、「x」という)および粒子内部4のBi量x(本明細書中、「x」という)は以下の関係式:
<x
を満たす。
なお、本発明でいうガーネット型結晶構造中の6配位サイトとは、例えば、一般式(I)の化学組成において、Dが占有するサイトを指す。他の具体例において、ガーネット型結晶構造の6配位サイトは、例えば、ガーネット型結晶構造を有するLiLaNb12(ICDD CardNo.00-045-0109)におけるNbが占有するサイト、同じくガーネット型結晶構造LiLaZr12(ICDD Card.No01-078-6708)におけるZrが占有するサイトを指す。
【0047】
粒界近傍部3のBi量xおよび粒子内部4のBi量xは、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは以下の実施態様p1の関係式、より好ましくは以下の実施態様p2の関係式、さらに好ましくは以下の実施態様p3の関係式、特に好ましくは以下の実施態様p4の関係式を満たす:
【0048】
実施態様p1:
0<x≦0.80;および
0≦x≦0.30。
【0049】
実施態様p2:
0.20≦x≦0.60;および
0.01≦x≦0.25。
【0050】
実施態様p3:
0.30≦x≦0.50;および
0.05≦x≦0.20。
【0051】
実施態様p4:
0.35≦x≦0.45;および
0.08≦x≦0.16。
【0052】
粒界近傍部3のBi量xおよび粒子内部4のBi量xは、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは以下の実施態様q1の関係式、より好ましくは以下の実施態様q2の関係式、さらに好ましくは以下の実施態様q3の関係式、特に好ましくは以下の実施態様q4の関係式を満たす:
【0053】
実施態様q1:
0.01≦x-x
【0054】
実施態様q2:
0.01≦x-x≦0.50。
【0055】
実施態様q3:
0.10≦x-x≦0.40。
【0056】
実施態様q4:
0.15≦x-x≦0.35。
【0057】
固体電解質セラミックスを構成する焼結粒子の平均粒径は通常、100nm超100μm以下、特に200nm以上10μm以下である。
【0058】
焼結粒子の平均粒径は、外縁が粒界により規定される焼結粒子の平均粒径である。
本明細書中、焼結粒子の平均粒径は、TEM画像および画像解析ソフト(例えば、「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製)を用いて粒子解析を行い、円相当径を算出することで得られた任意の100個の粒子の平均値を用いている。
【0059】
[固体電解質セラミックスの製造方法]
本発明のBi濃度均一構造型固体電解質セラミックスは、所定の金属元素を含む化合物(すなわち出発原料)を水とともに混合し、乾燥後、熱処理(例えば、すくなくとも焼成)することにより得ることができる。所定の金属元素を含む化合物は通常、Li(リチウム),La(ランタン),Bi(ビスマス)および所定の遷移金属元素からなる群から選択される1種の金属元素を含む化合物の混合物である。所定の金属元素を含む化合物(すなわち出発原料)として、例えば、水酸化リチウム一水和物LiOH・HO、水酸化ランタンLa(OH)、酸化ジルコニウムZrO,酸化タンタルTa,酸化ビスマスBi、酸化コバルトCo、塩基性炭酸ニッケル水和物NiCO・2Ni(OH)・4HO、炭酸マンガンMnCO等が挙げられる。所定の金属元素を含む化合物の混合比率は、熱処理後において、本発明の固体電解質セラミックスが所定の化学組成を有するような比率であればよい。熱処理温度は通常、500℃以上1200℃以下であり、好ましくは600℃以上1000℃以下である。熱処理時間は通常、10分間以上1440分間以下、特に60分間以上600分間以下である。
【0060】
本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスは、コア粒子としてのBiフリー固体電解質粒子の周囲に、シェル層としてのBi含有固体電解質層を存在させた状態で熱処理(例えば、すくなくとも焼成)することにより得ることができる。詳しくは、シェル層からコア粒子にBiを元素拡散させることにより、得ることができる。より詳しくは、コア粒子、シェル層形成用材料が溶解した溶液を作成し、両者を混合する。その後、溶媒を蒸発させた後、熱処理することで、コア粒子にシェル層が被覆した固体電解質粒子を得る。さらに、前記シェル層が被覆した固体電解質粒子を熱処理することで、本発明の固体電解質セラミックスを得ることができる。ただし、上記の製造方法は本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックス材料が得られる一例であり、その他の製造方法で作製してもよい。
【0061】
コア粒子はBiフリー固体電解質粒子であり、例えば、Biを含有しないガーネット型結晶構造を有する固体電解質から構成される粒子が使用される。コア粒子は、本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスが得られる限り、Biを含有するガーネット型結晶構造を有する固体電解質を用いてもよい。コア粒子として使用される固体電解質として、例えば、xが0≦x<1.0の範囲内であること以外、上記した一般式(II)で表される化学組成を有する固体電解質と同様の材料が挙げられる。xは、上記した実施態様p1~p4におけるxと同様の範囲内であることが好ましい。なお、コア粒子は、上記した本発明のBi濃度均一構造型固体電解質セラミックスと同様の方法により製造することができる。
【0062】
コア粒子を構成する固体電解質を示す化学組成は特に限定されず、例えば、本発明の固体電解質セラミックスが、全体として、前記一般式(I)または(II)で表される化学組成を有するような化学組成であればよい。
【0063】
コア粒子の平均粒径は通常、50nm超100μm以下、特に100nm以上10μm以下である。
【0064】
本明細書中、コア粒子の平均粒径は、焼結粒子の平均粒径と同様の測定方法により、測定された値を用いている。
【0065】
シェル層形成用材料はシェル層としてのBi含有固体電解質層を形成するための材料であり、例えば、Biを含有するガーネット型結晶構造を有する固体電解質から構成される層を形成するための材料混合物である。当該材料混合物における混合比率は、焼結後において、シェル層および本発明の固体電解質セラミックスが所定の化学組成を有するような比率であればよい。シェル層としてのBi含有固体電解質として、例えば、xが上記した実施態様p1~p4におけるxと同様の範囲内であること以外、上記した一般式(II)で表される平均化学組成を有する固体電解質と同様の材料が挙げられる。
【0066】
シェル層を構成する固体電解質を示す化学組成は特に限定されず、例えば、本発明の固体電解質セラミックスが、全体として、前記一般式(I)または(II)で表される化学組成を有するような化学組成であればよい。
【0067】
シェル層の平均膜厚は通常、10nm超10μm以下、特に20nm以上1μm以下である。
【0068】
本明細書中、シェル層の平均膜厚はシェル層を有するコア粒子のTEM測定を行い、シェル層の膜厚を任意20箇所測長し、平均化することで算出することができる。
【0069】
スラリーにおけるシェル層形成用材料の含有量は、本発明の固体電解質セラミックスが得られる限り特に限定されず、例えば、コア粒子100モル%に対して、1モル%以上70モル%以下、特に10モル%以上50モル%以下であってもよい。
【0070】
溶媒はシェル層形成用材料を溶解できる限り特に限定されず、例えば、固体電池の分野で、正極層、負極層または固体電解質層の製造に使用され得る溶媒が使用される。溶媒としは通常、後述のバインダを使用可能な溶媒が使用される。そのような溶媒として、例えば、2-メトキシエタノール等のアルコール等が挙げられる。
【0071】
シェル層を形成するための焼結条件は、本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスが得られる限り特に限定されない。例えば、焼結条件が強すぎると、粒子内部のBi量が高くなり過ぎて、本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスを得ることができない。また例えば、焼結条件が弱すぎると、シェル層からコア粒子へのBiの元素拡散が起こらず、本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスを得ることができない。焼結温度は、例えば、600℃以上1100℃以下、特に700℃以上950℃以下であってもよい。焼結時間は、例えば、10分間以上1440分間以下、特に60分間以上600分間以下であってもよい。
【0072】
本発明のBi濃度均一構造型およびBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスに含まれてもよい焼結助剤としては、固体電池の分野で知られているあらゆる焼結助剤が使用可能である。そのような焼結助剤の組成は、少なくともLi(リチウム)、B(ホウ素)、およびO(酸素)を含み、Bに対するLiのモル比(Li/B)を2.0以上とすることが好ましい。そのような焼結助剤の具体例として、例えば、LiBO、(Li2.7Al0.3)BO、Li2.8(B0.80.2)O、LiBOが挙げられる。
【0073】
特に本発明のBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックスが焼結助剤を含む場合、焼結助剤の含有量は、Biの元素拡散の観点から、少ないほど好ましく、ガーネット型固体電解質の体積比率に対して、0%以上10%以下、特に0%以上5%以下であることが好ましい。
【0074】
[固体電池]
本明細書でいう「固体電池」とは、広義にはその構成要素(特に電解質層)が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその構成要素(特に全ての構成要素)が固体から構成されている「全固体電池」を指す。本明細書でいう「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な、いわゆる「二次電池」、および放電のみが可能な「一次電池」を包含する。「固体電池」は好ましくは「二次電池」である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、「蓄電デバイス」などの電気化学デバイスも包含し得る。
【0075】
本発明の固体電池は正極層、負極層および固体電解質層を含み、通常は、正極層および負極層が固体電解質層を介して積層されてなる積層構造を有する。正極層および負極層は、それらの間に固体電解質層が備わっている限り、それぞれ2層以上で積層されていてもよい。固体電解質層は正極層および負極層と接触して、それらに挟持されている。正極層と固体電解質層とは焼結体同士の一体焼結をなしており、かつ/または負極層と固体電解質層とは焼結体同士の一体焼結をなしていてもよい。焼結体同士の一体焼結をなしているとは、隣接または接触する2つまたはそれ以上の部材(特に層)が焼結により接合されているという意味である。ここでは、当該2つまたはそれ以上の部材(特に層)はいずれも焼結体でありながら、一体的に焼結されていてもよい。
【0076】
上記した本発明の固体電解質セラミックスは固体電池の固体電解質として有用である。従って、本発明の固体電池は、固体電解質として、上記した本発明の固体電解質セラミックスを含む。詳しくは、本発明の固体電解質セラミックスは、正極層、負極層および固体電解質層からなる群から選択される少なくとも1つの層に固体電解質として含まれている。本発明の固体電解質セラミックスは、固体電解質層におけるより優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、少なくとも固体電解質層に含まれていることが好ましい。
【0077】
(正極層)
本発明の固体電池において正極層は特に限定されない。例えば、正極層は正極活物質を含み、さらに本発明の固体電解質セラミックスを含んでもよい。本発明の固体電解質セラミックスを正極層に含有することで、固体電池が短絡することを抑制することができる。正極層は正極活物質粒子を含む焼結体の形態を有してもよい。正極層はイオン(特にリチウムイオン)を吸蔵放出可能な層となっていてもよい。
【0078】
正極活物質は、特に限定されず、固体電池の分野で知られている正極活物質が使用可能である。正極活物質として、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物粒子、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物粒子、リチウム含有層状酸化物粒子、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物粒子等が挙げられる。好ましく用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、Li(PO等が挙げられる。好ましく用いられるオリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、LiFe(PO、LiMnPO等が挙げられる。好ましく用いられるリチウム含有層状酸化物粒子の具体例としては、LiCoO,LiCo1/3Ni1/3Mn1/3等が挙げられる。好ましく用いられるスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の具体例としては、LiMn,LiNi0.5Mn1.5、LiTi12等が挙げられる。本発明で用いるガーネット型固体電解質との共焼結時における反応性の観点から、正極活物質として、LiCoO,LiCo1/3Ni1/3Mn1/3等のリチウム含有層状酸化物がより好ましく用いられる。なお、これらの正極活物質粒子のうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0079】
正極層において正極活物質がナシコン型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子がナシコン型の結晶構造を有するという意味であり、広義には、固体電池の分野の当業者によりナシコン型の結晶構造と認識され得る結晶構造を有することをいう。狭義には、正極層において正極活物質がナシコン型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆるナシコン型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。好ましく用いられるナシコン型構造を有する正極活物質としては、上記で例示した化合物が挙げられる。
【0080】
正極層において正極活物質がオリビン型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)がオリビン型の結晶構造を有するという意味であり、広義には、固体電池の分野の当業者によりオリビン型の結晶構造と認識され得る結晶構造を有することをいう。狭義には、正極層において正極活物質がオリビン型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆるオリビン型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。好ましく用いられるオリビン型構造を有する正極活物質としては、上記で例示した化合物が挙げられる。
【0081】
正極層において正極活物質がスピネル型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)がスピネル型の結晶構造を有するという意味であり、広義には、固体電池の分野の当業者によりスピネル型の結晶構造と認識され得る結晶構造を有することをいう。狭義には、正極層において正極活物質がスピネル型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆるスピネル型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。好ましく用いられるスピネル型構造を有する正極活物質としては、上記で例示した化合物が挙げられる。
【0082】
正極活物質の化学組成は平均化学組成であってもよい。正極活物質の平均化学組成は、正極層の厚み方向における正極活物質の化学組成の平均値を意味する。正極活物質の平均化学組成は、固体電池を破断し、SEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、正極層の厚み方向全体が収まる視野にてEDXによる組成分析を行うことで分析および測定可能である。
【0083】
正極活物質は、例えば、以下の方法により製造することができるし、または市販品として入手することもできる。正極活物質を製造する場合、まず、所定の金属原子を含有する原料化合物を、化学組成が所定の化学組成となるように秤量し、水を添加および混合してスラリーを得る。次いで、スラリーを乾燥させ、700℃以上1000℃以下で1時間以上30時間以下仮焼し、粉砕して、正極活物質を得ることができる。
【0084】
正極層における正極活物質の化学組成および結晶構造は通常、焼結時の元素拡散によって変化することがある。正極活物質は、負極層および固体電解質層とともに焼結した後の固体電池において、上記した化学組成および結晶構造を有していてもよい。
【0085】
正極活物質の平均粒径は、特に限定されず、例えば、0.01μm以上、10μm以下であってもよく、好ましくは0.05μm以上、4μm以下である。
【0086】
正極活物質の平均粒径は、例えば、SEM画像中から無作為に10個以上100個以下の粒子を選び出し、それらの粒径を単純に平均して平均粒径(算術平均)を求めることができる。
粒径は、粒子が完全な球形であると仮定したときの球形粒子の直径とする。このような粒径は、例えば、固体電池の断面を切り出し、SEMを用いて断面SEM画像撮影後、画像解析ソフト(例えば、「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製))を用いて粒子の断面積Sを算出後、以下の式によって粒子直径Rを求めることができる。
【0087】
【数1】
【0088】
なお、正極層における正極活物質の平均粒径は、上記した平均化学組成の測定時において、組成により正極活物質を特定して、自動的に測定され得る。
【0089】
正極層における正極活物質の平均粒径は通常、固体電池の製造過程における焼結により変化することがある。正極活物質は、負極層および固体電解質層とともに焼結した後の固体電池において、上記した平均粒径を有していてもよい。
【0090】
正極層における正極活物質の体積割合は特に限定されず、例えば、30%以上90%以下、特に40%以上70%以下であってもよい。
【0091】
正極層は、固体電解質として本発明の固体電解質セラミックスを含んでもよいし、かつ/または、本発明の固体電解質セラミックス以外の固体電解質を含んでもよい。
正極層はさらに、焼結助剤および/または導電性材料等をさらに含んでいてもよい。
【0092】
正極層が本発明の固体電解質セラミックスを含む場合、本発明の固体電解質セラミックスの体積割合は通常、20%以上60%以下、特に30%以上45%以下であってもよい。
【0093】
正極層における焼結助剤としては、固体電解質セラミックスに含まれてもよい焼結助剤と同様の化合物が使用可能である。
【0094】
正極層における焼結助剤の体積割合は特に限定されず、例えば、0.1%以上20%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがより好ましい。
【0095】
正極層において導電性材料は、固体電池の分野で知られている導電性材料が使用可能である。好ましく用いられる導電性材料としては、例えば、Ag(銀)、Au(金),Pd(パラジウム),Pt(白金),Cu(銅)、Sn(錫)、Ni(ニッケル)などの金属材料;およびアセチレンブラック、ケッチェンブラック、Super P(登録商標)、VGCF(登録商標)等のカーボンナノチューブなどの炭素材料等が挙げられる。炭素材料の形状に関しては、特に限定されず、球形、板状、繊維状など、どのような形状のものを使用してもよい。
【0096】
正極層における導電性材料の体積割合は特に限定されず、例えば、10%以上50%以下であることが好ましく、20%以上40%以下であることがより好ましい。
【0097】
正極層の厚みは通常、0.1~30μmであり、例えば、好ましくは1~20μmである。正極層の厚みは、SEM画像において任意の10箇所で測定された厚みの平均値を用いている。
【0098】
正極層において、空隙率は特に限定されず、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0099】
正極層の空隙率は、FIB断面加工後のSEM画像から測定された値を用いている。
【0100】
正極層は「正極活物質層」と呼ばれ得る層である。正極層はいわゆる正極集電体または正極集電層を有していてもよい。
【0101】
(負極層)
本発明の固体電池において負極層は特に限定されない。例えば、負極層は負極活物質を含み、さらに本発明の固体電解質セラミックスを含んでもよい。本発明の固体電解質セラミックスを負極層に含有することで、固体電池が短絡することを抑制することができる。負極層は負極活物質粒子を含む焼結体の形態を有してもよい。負極層はイオン(特にリチウムイオン)を吸蔵放出可能な層となっていてもよい。
【0102】
負極活物質は、特に限定されず、固体電池の分野で知られている負極活物質が使用可能である。負極活物質として、例えば、黒鉛などの炭素材料、黒鉛-リチウム化合物、リチウム金属、リチウム合金粒子、ナシコン型構造を有するリン酸化合物、スピネル型構造を有するLi含有酸化物、βII-LiVO型構造、γII-LiVO型構造を有する酸化物等が挙げられる。負極活物質は、リチウム金属、βII-LiVO型構造、γII-LiVO型構造を有するLi含有酸化物を用いることが好ましい。
【0103】
負極層において酸化物がβII-LiVO型構造を有するとは、当該酸化物(特にその粒子)がβII-LiVO型の結晶構造を有するという意味であり、広義には、固体電池の分野の当業者によりβII-LiVO型の結晶構造と認識され得る結晶構造を有することをいう。狭義には、負極層において酸化物がβII-LiVO型構造を有するとは、当該酸化物(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆるβII-LiVO型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。好ましく用いられるβII-LiVO型構造を有するLi含有酸化物としては、LiVOが挙げられる。
【0104】
負極層において酸化物がγII-LiVO型構造を有するとは、当該酸化物(特にその粒子)がγII-LiVO型の結晶構造を有するという意味であり、広義には、固体電池の分野の当業者によりγII-LiVO型の結晶構造と認識され得る結晶構造を有することをいう。狭義には、負極層において酸化物がγII-LiVO型構造を有するとは、当該酸化物(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆるγII-LiVO型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度(x軸)において示すことを意味する。好ましく用いられるγII-LiVO型構造を有するLi含有酸化物としては、Li3.20.8Si0.2が挙げられる。
【0105】
負極活物質の化学組成は平均化学組成であってもよい。負極活物質の平均化学組成は、負極層の厚み方向における負極活物質の化学組成の平均値を意味する。負極活物質の平均化学組成は、固体電池を破断し、SEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、負極層の厚み方向全体が収まる視野にてEDXによる組成分析を行うことで分析および測定可能である。
【0106】
負極活物質は、例えば、正極活物質と同様の方法により製造することができるし、または市販品として入手することもできる。
【0107】
負極層における負極活物質の化学組成および結晶構造は通常、固体電池の製造過程における焼結時の元素拡散によって変化することがある。負極活物質は、正極層および固体電解質層とともに焼結した後の固体電池において、上記した平均化学組成および結晶構造を有していてもよい。
【0108】
負極層における負極活物質の体積割合は特に限定されず、例えば、50%以上(特に50%以上99%以下)であることが好ましく、70%以上95%以下であることがより好ましく、80%以上90%以下であることがさらに好ましい。
【0109】
負極層は、固体電解質として本発明の固体電解質セラミックスを含んでもよいし、かつ/または、本発明の固体電解質セラミックス以外の固体電解質を含んでもよい。
負極層はさらに、焼結助剤および/または導電性材料等をさらに含んでいてもよい。
【0110】
負極層が本発明の固体電解質セラミックスを含む場合、本発明の固体電解質セラミックスの体積割合は通常、20%以上60%以下、特に30%以上45%以下であってもよい。
【0111】
負極層における焼結助剤としては、正極層における焼結助剤と同様の化合物が使用可能である。
負極層における導電性材料としては、正極層における導電性材料と同様の化合物が使用可能である。
【0112】
負極層の厚みは通常、0.1~30μmであり、好ましくは1~20μmである。負極層の厚みは、SEM画像において任意の10箇所で測定された厚みの平均値を用いている。
【0113】
負極層において、空隙率は特に限定されず、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0114】
負極層の空隙率は、正極層の空隙率と同様の方法により測定された値を用いている。
【0115】
負極層は「負極活物質層」と呼ばれ得る層である。負極層はいわゆる負極集電体または負極集電層を有していてもよい。
【0116】
(固体電解質層)
本発明の固体電池において固体電解質層は、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、上記した本発明の固体電解質セラミックスを含むことが好ましい。
【0117】
固体電解質層における本発明の固体電解質セラミックスの体積割合は特に限定されず、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、10%以上100%以下であることが好ましく、20%以上100%以下であることがより好ましく、30%以上100%以下であることがさらに好ましい。
【0118】
固体電解質層が本発明の固体電解質セラミックスを含む場合、固体電解質層の厚み方向の少なくとも中央部(特にその任意の10点における5点以上、好ましくは8点以上、より好ましくは10点)において前記した化学組成を有する本発明の固体電解質セラミックスが存在していればよい。固体電解質層は、正極層と負極層との間に挟持されており、固体電池の製造過程における焼結により、正極層および負極層から固体電解質層への元素拡散および/または固体電解質層から正極層および負極層への元素拡散が起こることがあるためである。
【0119】
固体電解質層には、本発明のガーネット型固体電解質セラミックス以外に、少なくともLi、Zr、Oから構成される固体電解質、γ-LiVO構造を有する固体電解質、酸化物ガラスセラミックス系リチウムイオン伝導体から選択される1種以上の材料を含んでいてもよい。少なくともLi、Zr、Oから構成される固体電解質としては、LiZrOが挙げられる。
【0120】
γ-LiVO構造を有する固体電解質としては、下記一般式(III)で表される平均化学組成を有する固体電解質が挙げられる。
【0121】
【化3】
【0122】
式(III)中、Aは、Na,K,Mg,Ca,Al,Ga,Zn,Fe,Cr,およびCoからなる群から選択される1種類以上の元素である。
Bは、VおよびPからなる群から選択される1種類以上の元素である。
Dは、Zn,Al,Ga,Si,Ge,Sn,As,Ti,Mo,W,Fe,Cr,およびCoからなる群から選択される1種類以上の元素である。
xは、0≦x≦1.0、特に0≦x≦0.2を満たす。
yは、0≦y≦1.0、特に0.20≦y≦0.50を満たす。
aはAの平均価数である。Aの平均価数は、Aとして、例えば、価数a+の元素Xがn1個、価数b+の元素Yがn2個、および価数c+の元素Zがn3個で認められる場合、(n1×a+n2×b+n3×c)/(n1+n2+n3)で表される値のことである。
cはDの平均価数である。Dの平均価数は、Dとして、例えば、価数a+の元素Xがn1個、価数b+の元素Yがn2個、および価数c+の元素Zがn3個で認められる場合、上記したAの平均価数と同様の値のことである。
【0123】
γ-LiVO構造を有する固体電解質の具体例として、例えば、Li3.2(V0.8Si0.2)O、Li3.5(V0.5Ge0.5)O、Li3.4(P0.6Si0.4)O、Li3.5(P0.5Ge0.5)O等が挙げられる。
【0124】
酸化物ガラスセラミックス系リチウムイオン伝導体としては、例えば、リチウム、アルミニウムおよびチタンを構成元素に含むリン酸化合物(LATP)、リチウム、アルミニウムおよびゲルマニウムを構成元素に含むリン酸化合物(LAGP)を用いることができる。
【0125】
固体電解質層は、固体電解質に加え、例えば、焼結助剤等をさらに含んでいてもよい。
固体電解質層における焼結助剤としては、正極層における焼結助剤と同様の化合物が使用可能である。
【0126】
固体電解質層における焼結助剤の体積割合は特に限定されず、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、0%以上20%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがより好ましい。
【0127】
固体電解質層の厚みは通常、0.1~30μmであり、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは1~20μmである。固体電解質層の厚みは、SEM画像において任意の10箇所で測定された厚みの平均値を用いている。
【0128】
固体電解質層において、空隙率は特に限定されず、より優れたイオン伝導性および作動時における電子伝導度上昇のより十分な抑制の観点から、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0129】
固体電解質層の空隙率は、正極層の空隙率と同様の方法により測定された値を用いている。
【0130】
[固体電池の製造方法]
固体電池は、例えば、いわゆるグリーンシート法、印刷法またはこれらの方法を組み合わせた方法によって、製造することができる。
【0131】
グリーンシート法について説明する。
まず、正極活物質に対して、溶剤、バインダ等を適宜混合することにより、ペーストを調製する。そのペーストをシートの上に塗布し、乾燥させることにより正極層を構成するための第1のグリーンシートを形成する。第1のグリーンシートに、固体電解質、導電性材料および/または焼結助剤等を含ませてもよい。
【0132】
負極活物質に対して、溶剤、バインダ等を適宜混合することにより、ペーストを調製する。そのペーストをシートの上に塗布し、乾燥させることにより負極層を構成するための第2のグリーンシートを形成する。第2のグリーンシートに、固体電解質、導電性材料および/または焼結助剤等を含ませてもよい。
【0133】
固体電解質に対して、溶剤、バインダ等を適宜混合することにより、ペーストを調製する。そのペーストを塗布し、乾燥させることにより、固体電解質層を構成するための第3のグリーンシートを作製する。第3のグリーンシートに、焼結助剤等を含ませてもよい。
【0134】
第1~第3グリーンシートを作製するための溶剤は特に限定されず、例えば、固体電池の分野で、正極層、負極層または固体電解質層の製造に使用され得る溶剤が使用される。溶剤としは通常、後述のバインダを使用可能な溶剤が使用される。そのような溶剤として、例えば、2-プロパノール等のアルコール等が挙げられる。
【0135】
第1~第3グリーンシートを作製するためのバインダは特に限定されず、例えば、固体電池の分野で、正極層、負極層または固体電解質層の製造に使用され得るバインダが使用される。そのようなバインダとして、例えば、ブチラール樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0136】
次に、第1~第3のグリーンシートを適宜積層することにより積層体を作製する。作製した積層体をプレスしてもよい。好ましいプレス方法としては、静水圧プレス法等が挙げられる。
その後、積層体を、例えば600~800℃で焼結することにより固体電池を得ることができる。
【0137】
印刷法について説明する。
印刷法は、以下の事項以外、グリーンシート法と同様である。
・溶剤および樹脂の配合量がインクとしての使用に適した配合量とすること以外、グリーンシートを得るための各層のペーストの組成と同様の組成を有する各層のインクを調製する。
・各層のインクを用いて印刷および積層し、積層体を作製する。
【0138】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【実施例
【0139】
<実験例1:Bi濃度均一構造型固体電解質セラミックス>
<実施例1A~14A、1B~3Bおよび1C~4Cならびに比較例1>
[固体電解質セラミックスの製造]
原料には水酸化リチウム一水和物LiOH・HO、水酸化ランタンLa(OH)
酸化ジルコニウムZrO,酸化タンタルTa,酸化ビスマスBi、酸化コバルトCo、塩基性炭酸ニッケル水和物NiCO・2Ni(OH)・4HO、炭酸マンガンMnCOを用いた。
各出発原料を化学組成が表1、表2または表3の各化学組成となるように秤量した。
水を添加し、ポリエチレン製ポリポットに封入してポット架上で150rpm、16時間回転し、原料を混合した。
また、Li源である水酸化リチウム一水和物LiOH・HOは焼結時のLi欠損を考慮し、狙い組成に対し、3重量%過剰で仕込んだ。
得られたスラリーを蒸発および乾燥させた後、O中にて900℃で5時間仮焼することで目的相を得た。
得られた仮焼粉にトルエン-アセトンの混合溶媒を添加し、遊星ボールミルにて12時間粉砕した。この粉砕粉はICP測定によって、組成ずれがないことを確認した。この時の粉砕粉の平均粒径は150nmであった。
【0140】
[固体電解質単板の製造]
固体電解質セラミックスの評価用試料として、固体電解質単板を以下の方法により製造した。
【0141】
得られた粉砕粉をブチラール樹脂、アルコール、バインダと混練することで、スラリーを製造した。
スラリーを、ドクターブレード法を用いてPETフィルム上にシート成型し、シートを得た。作製したシートをシート厚みが200μmになるまで積層後、シートを10mm×10mm寸法の正方形形状に切断し、400℃でバインダを除去した後、950℃にて300分間、100MPaの圧力下で加圧焼結することで、固体電解質単板を製造した。固体電解質単板の空隙率は10%以下であり、十分に焼結が進行していることを確認した。得られた焼結体の表面を研磨することで、ガーネット固体電解質基板を得た。
【0142】
[固体電解質単板の結晶構造]
全ての実施例および比較例において、固体電解質単板のX線回折より、ガーネット型類似の結晶構造に帰属できるX線回折像が得られることを確認した(ICDD Card No.00-045-0109)。
【0143】
[固体電解質単板の化学組成]
固体電解質単板のICP-AES分析を行い、固体電解質単板の平均化学組成を得た。この固体電解質単板全体の平均化学組成におけるCo,MnおよびNiの含有量を、ガーネット型結晶構造の上記一般式(I)のBの含有量(例えば、上記一般式(II)におけるLaおよびBの合計数)を100mol%としたときの割合として、求めた。
実施例2AにおいてはLA-ICP-MSでも定量分析を行い同等の結果であることを確認した。
また、実施例4A、5A、13A、14AにおいてはWDXでの定量分析を行い同等の結果であることを確認した。
【0144】
[電子伝導度測定(保存試験の前後)]
得られた単板の片面にAu電極をスパッタし、作用極とした。もう片面にAu電極と同じ面積を有するLi金属を張り付けた。最後に2035サイズのコインセルにセルを封入し、評価用セルとした。上記の作業はすべて露点-40℃以下のドライルームで行った。
室温にて作用極に、Liに対して2V印加し、過渡電流を観測した。電圧印加を行ってから、10時間後に流れた電流を保存試験前のリーク電流として読み取った。なお保存試験前のリーク電流値はおおよそ1×10-10~6×10-7S/cmの範囲であることを確認した。その後、セルを90℃にて一か月程度保存し、再び上記の試験を行い、保存試験後のリーク電流を読み取った。リーク電流から、下記の式を用いて電子伝導度を算出した。
電子伝導度=(I/V)×(L/A)
(I:リーク電流、V:印加電圧、L:固体電解質単板厚み、A:電極面積)
保存試験後の電子伝導度を以下の基準に従って評価した。
◎:電子伝導度<1.0×10-8S/cm(優);
○;1.0×10-8S/cm≦電子伝導度<1.0×10-7S/cm(良);
△;1.0×10-7S/cm≦電子伝導度<1.0×10-6S/cm(可)(実用上問題なし);
×;1.0×10-6S/cm≦電子伝導度(不可)(実用上問題あり)。
【0145】
[イオン伝導度測定]
固体電解質単板の両面にスパッタリングによって、集電体層となる金(Au)層を形成した後、SUS集電体で挟み込み固定した。 各固体電解質の焼結タブレットを0.1Hz~10MHz(±50mV)の範囲で室温(25℃)にて交流インピーダンス測定を行い、イオン伝導度を評価した。
◎:5.0×10-4S/cm≦イオン伝導度(優);
○;1.0×10-4S/cm≦イオン伝導度<5.0×10-4S/cm(良);
△;5.0×10-5S/cm≦イオン伝導度<1.0×10-4S/cm(可)(実用上問題なし);
×;イオン伝導度<5.0×10-5S/cm(不可)(実用上問題あり)。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
【表3】
【0149】
表1より、以下のことが明らかである。
比較例1からわかるように、Bi置換ガーネット型固体電解質はLiを張り付けた状態で90℃で保存試験を行うと、電子伝導度が急激に増大することがわかる。これは、Bi置換ガーネット型固体電解質が粒界に異相としてLi-Bi-O系化合物を作りやすく、このLi-Bi-O系化合物がLiによって還元されることで電子伝導性が発現すためだと考えられる。
比較例1と実施例1A~12Aとの比較から、Bi置換ガーネット型固体電解質が、Co、MnおよびNiから選択される1種類以上の遷移金属元素を含むことで、保存試験後の電子伝導度が大幅に低減されることがわかる。これは、Bi置換ガーネット型固体電解質がCo、MnおよびNiから選択される1種類以上の遷移金属元素を含むことで、電子伝導性発現の要因となるLi-Bi-O系化合物の生成が抑制されるためだと考えられる。
以上から、Bi置換ガーネット型固体電解質がCo、MnおよびNiから選択される1種類以上の遷移金属元素を含むことで、高温で保持してもリーク電流の少ない全固体電池を構築することができる。
実施例1A~6Aの比較から、Coの含有量によっても、保存試験後のリーク電流が変化することがわかる。Coの含有量は、好ましくは0mol%超1.20mol%以下、より好ましくは0mol%超0.25mol%以下であることがわかる。すなわち、Co含有量が多すぎても電子伝導度が増大することがわかる。これは、Co含有量が増大することで、Li-Bi-O系化合物の生成が抑制されるものの、Co量が増大しすぎると、Li-La-Co-O系の電子伝導性を有する異相が生じるためだと考えられる。
保存前の電子伝導度測定からも、Coの添加量が増大しすぎると、保存前の電子伝導性が高くなるため、遷移金属元素の合計含有量は、前記Bの含有量を100mol%としたとき、0mol%超1.20mol%以下が好ましく、より好ましくは0mol%超0.50mol%以下(例えば0.01mol%以上0.50mol%以下)であり、さらに好ましくは0mol%超0.25mol%以下(例えば0.01mol%以上0.20mol%以下)である。
実施例4A~12Aの比較から、Ni、MnおよびCoのうち、Bi置換ガーネット型固体電解質がCoを含有する時に、特に電子伝導度を低減する効果が大きいことがわかる。
【0150】
表2より、以下のことが明らかである。
実施例3Aおよび1B~3Bから、ガーネット型固体電解質中のBi置換量が保存試験後の電子伝導度に影響を与えることがわかる。保存試験後の電子伝導度低減の観点からは、Bi置換量が少ない方が好ましいことがわかる。実施例3Bでは電子伝導度が大幅に増大することがわかった。これは、ガーネット型固体電解質中のBi置換量が増大しすぎると、Li-Bi-O系の化合物を作りやすいだけでなく、ガーネット型固体電解質自身が還元分解されやすくなるためだと考えられる。
【0151】
表3より、以下のことが明らかである。
実施例1C~4Cから、一般式(I)におけるγが様々な値であっても、本発明の効果が得られる。
【0152】
<実験例2:Bi濃度均一構造型およびBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックス>
<実施例1Dおよび比較例2>
各出発原料を化学組成が表3の各化学組成となるように秤量したこと以外、実施例1Aと同様の方法により、Bi濃度均一構造型固体電解質セラミックスおよび固体電解質単板の製造、固体電解質単板の結晶構造および化学組成の評価、ならびに電子伝導度およびイオン伝導度の測定を行った。
これらの実施例および比較例において、固体電解質単板のX線回折より、ガーネット型類似の結晶構造に帰属できるX線回折像が得られることを確認した(ICDD Card No.00-045-0109)。
【0153】
<実施例2Dおよび比較例3>
以下の方法により製造されたBi濃度勾配構造型固体電解質セラミックス用いたこと以外、実施例1Aと同様の方法により、固体電解質単板の製造、固体電解質単板の結晶構造および化学組成の評価、ならびに電子伝導度およびイオン伝導度の測定を行った。
これらの実施例および比較例において、固体電解質単板のX線回折より、セラミックス単板として、ガーネット型類似の結晶構造に帰属できるX線回折像が得られることを確認した(ICDD Card No.00-045-0109)。また、Bi濃度勾配構造になっていることをTEM-EDXにより確認した。
【0154】
[Bi濃度勾配構造を有する固体電解質セラミックスの製造]
Bi濃度勾配構造を有する固体電解質セラミックスを製造するためのコア粒子およびシェル層を製造した。
【0155】
(コア粒子の製造)
コア粒子として、ガーネット型固体電解質粉末を以下の通り製造した。
原料には水酸化リチウム一水和物LiOH・HO、水酸化ランタンLa(OH)
酸化ジルコニウムZrO、酸化タンタルTa、酸化ビスマスBi、酸化コバルトCoを用いた。
各原料を、化学組成が比較例3ではLi6.6La(Zr1.6Ta0.4)O12、実施例2DではLi6.6La(Zr1.6Ta0.4)O12-0.0050Coとなるように秤量し、水を添加し、100mlのポリエチレン製ポリポットに封入してポット架上で150rpm、16時間回転し、原料を混合した。また、Li源である水酸化リチウム一水和物LiOH・HOは焼結時のLi欠損を考慮し、狙い組成に対し、3wt%過剰で仕込んだ。
得られたスラリーを蒸発および乾燥させた後、900℃で5時間仮焼することで目的相を得た。
得られた仮焼粉にトルエン-アセトンの混合溶媒を添加し、遊星ボールミルにて6時間粉砕した。
この粉砕粉を乾燥し、固体電解質粉末とした。上記粉末はICP測定によって、組成ずれがないことを確認した。この時のコア粒子の平均粒径は150nmであった。
実施例および比較例では、材料の一次粒径は変化させず、コア相、シェル相の組成、モル比、および焼成時間によって、構造・組成を制御した。
【0156】
(コア粒子にシェル層を被覆した粉体の製造)
コア粒子にシェル層としてのガーネット型固体電解質を被覆した粉体を以下の通り製造した。
原料には、硝酸リチウムLiNO、硝酸ランタン六水和物La(NO・6HO、硝酸ビスマス五水和物Bi(NO・5HO、ジルコニウム(IV)イソプロポキシドZr(OC、タンタル(V)エトキシドTa(OC、硝酸コバルト六水和物Co(NO・6HO)、アセト酢酸エチルを用いた。各材料を比較例3ではLi6.0La(Zr1.0Ta0.4Bi0.6)O12、実施例2DではLi6.0La(Zr1.0Ta0.4Bi0.6)O12-0.0050Coの化学組成を満たすように秤量した。また、アセト酢酸エチルは各アルコキシドに対して4倍のモル量になるように秤量した。まず、各アルコキシドとアセト酢酸エチルをガラス容器中に入れ、30分間スターラーピースを用いて攪拌した(溶液Aとする)。次に、各硝酸塩と2-メトキシエタノールをガラス容器に入れ、硝酸塩を溶解させた(溶液Bとする)。溶液Bに溶液Aを少しずつ滴下することで、均一な溶液Cを作製した。所定のコア粒子を溶液Cに混合後、スターラーピースを用いて5時間混合し、その後、100℃で溶媒を蒸発させた。得られた乾燥粉を700℃、5時間熱処理することで、コア粒子上にシェル層を有したガーネット型固体電解質粉末を得た。
また、溶液Cのみを乾燥後、700℃、5時間熱処理することでシェル層粉末を得た。
上記シェル層粉末のXRD測定からガーネット型固体電解質単体が得られていることを確認した。さらに、上記粉末はICP測定によって、シェル層に組成ずれがないことを確認した。
【0157】
[測定]
(粒界近傍部のBi量(x1))
FIB処理にて固体電解質単板を薄片状に加工後、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、EDXによる任意の10個の焼結粒子各々の粒界近傍部における任意の20点の点分析による定量分析(組成分析)を行うことで、粒界近傍部Bi/D比率を得た。粒界近傍部Bi/D比率から式(I)におけるBi量xを算出し、これを粒界近傍部のBi量(x1)とした。
【0158】
(粒子内部のBi量(x2))
FIB処理にて固体電解質単板を薄片状に加工後、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、EDXによる任意の10個の焼結粒子各々の粒子内部における任意の20点の点分析による定量分析(組成分析)を行うことで、粒子内部Bi/D比率を得た。粒子内部Bi/D比率から式(I)におけるBi量xを算出し、これを粒界近傍部のBi量(x2)とした。
【0159】
【表4】
【0160】
表3より、以下のことが明らかである。
比較例2,3には同じ平均化学組成を有するものの、比較例3では、Bi置換量が粒界近傍部で増大しているガーネット型固体電解質の保存試験後の電子伝導度を示した。比較例2と比較例3との比較および実施例1Dと実施例2Dとの比較より、Bi置換量が粒界近傍部で増大している固体電解質では、保存試験後の電子伝導度が、Biが均一に固溶した固体電解質に比べて増大することがわかる。これは粒界近傍部のBi置換量が増大することで、粒界にLi-Bi-O系の異相をより形成しやすいためだと考えられる。比較例3と実施例2Dとの比較から、固体電解質がCoを含有することで、Bi置換量が粒界近傍部で増大しているガーネット型固体電解質においても保存試験後の電子伝導性が著しく改善していることがわかる。また、Bi置換量が粒界近傍部で増大しているガーネット型固体電解質(実施例2D)においては、Biが均一に固溶した固体電解質(比較例2、実施例1D)に比べて、Co含有の効果が特に大きいことがわかる。このように、本発明の効果はBi置換量が粒界近傍部で増大しているガーネット型固体電解質に対して特に有効であることがわかる。
【0161】
(TEM-EELS測定)
実施例5Aで使用した固体電解質とコバルト酸リチウムLiCoO2を体積比率が1:1となるように秤量し混合粉を作成した。
得られた混合粉をブチラール樹脂、アルコール、バインダと混練することで、スラリーを製造した。
スラリーを、ドクターブレード法を用いてPETフィルム上にシート成型し、正極シートを得た。
実施例5Aと同様に作成した固体電解質シートを200μmになるまで積層し固体電解質積層体を作成した。上記作成した正極シートを30μmの厚さとなるように積層し正極積層体を作成した。得られた固体電解質積層体と正極積層体を積層後、圧着することで、正極/固体電解質シート積層体を得た。シートを10mm×10mm寸法の正方形形状に切断し、400℃でバインダを除去した後、800℃にて120分間、100MPaの圧力下で加圧焼結することで、正極/固体電解質共焼成体を作成した。得られた正極/固体電解質共焼成体の正極とは反対側の面にLi金属を張り付けることで正極ハーフセルを作製した。
作成した正極ハーフセルの正極層を、FIB処理を行うことで剥片化し、TEM(JEOL製-JEM-ARM200F NEOARMex)およびEELS(Gatan社製 Continuum ER)を用いて正極層内の固体電解質粒子内のEELS測定を行った。固体電解質内のバルク粒子を測定したEELSスペクトルを図2に示す。CoのL端由来のピークが検出され、固体電解質粒内にCoが含まれていることがわかる。また、そのピーク位置(LLZ)は参照資料のLiCoO(コバルト酸リチウム)(LCO)のピーク位置に比べて低エネルギー側に観測されることがわかった。実施例5Aについて、本発明の固体電解質セラミック(LLZ)におけるCo L端ピーク位置と、LiCoO(LCO)のCo L端ピーク位置とのシフト幅sw(図2参照)は0.9eVであった。
定量方法として、得られたEELSスペクトルの一次微分ピーク強度を用いた。具体的には、一次微分スペクトルにおけるCo L端およびLa M端ピークから最大値Imaxと最小値Iminを読み取り、これらの差分(Imax-Imin)をピーク強度とし、CoのL端のピーク強度をLaのM端のピーク強度で除算することで、Co/La比率を算出した。このようにして、固体電解質粒内の任意の5点でEELS測定を行い、それぞれに関してCo/La比率を算出し、それらの値を平均することでCo/La比率を得た。結果としてCo/La比率は0.8%となり、ICPにおける測定値と同程度の値を取ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の固体電解質セラミックスを含む固体電池は、電池使用または蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の一実施形態に係る固体電池は、エレクトロニクス実装分野で用いることができる。本発明の一実施形態に係る固体電池はまた、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、スマートウォッチ、ノートパソコン、デジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパー、ウェアラブルデバイス、RFIDタグ、カード型電子マネー、スマートウォッチなどの小型電子機などを含む電気・電子機器分野あるいはモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。
図1
図2