(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】フィルタ装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/64 20060101AFI20241119BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20241119BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20241119BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20241119BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20241119BHJP
H01L 23/02 20060101ALI20241119BHJP
H01L 25/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/145 C
H03H9/145 Z
H03H9/17 F
H03H9/25 A
H03H9/25 C
H03H9/54 Z
H01L23/02 Z
H01L25/00 Z
(21)【出願番号】P 2022571624
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021047890
(87)【国際公開番号】W WO2022138827
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020217396
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 康政
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-014104(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065274(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/009121(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/045726(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/177028(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/216417(WO,A1)
【文献】特開2020-102814(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136413(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/64
H03H 9/145
H03H 9/17
H03H 9/25
H03H 9/54
H01L 23/02
H01L 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの直列腕共振子及び複数の並列腕共振子を含む複数の共振子を備え、
前記複数の共振子が、前記複数の共振子のうち最も比帯域の値が大きい第1の共振子と、前記第1の共振子以外の少なくとも1つの第2の共振子と、を含み、
前記複数の並列腕共振子が前記第1の共振子及び前記第2の共振子を含み、
前記第1の共振子に直列に接続されているインダクタである第1のインダクタをさらに備え、
前記第2の共振子である前記並列腕共振子が、インダクタに接続されていない前記並列腕共振子を含む、フィルタ装置。
【請求項2】
前記複数の共振子のうち前記少なくとも1つの第2の共振子に接続されている少なくとも1つの第2のインダクタをさらに備え、
前記第2のインダクタのインダクタンスが、前記第1のインダクタのインダクタンスよりも小さい、請求項
1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記第1の共振子が第1のIDT電極を有し、前記第2の共振子が第2のIDT電極を有し、前記第1のIDT電極及び前記第2のIDT電極がそれぞれ、1対のバスバーと、複数の電極指と、を含み、
前記第1のIDT電極において、弾性波伝搬方向から見たときに隣り合う前記電極指が重なり合う領域が交叉領域であり、前記交叉領域が、前記複数の電極指が延びる方向における中央に位置する中央領域と、前記複数の電極指が延びる方向において前記中央領域を挟むように配置されている1対のエッジ領域と、を含み、
前記第1のIDT電極が、前記第1のIDT電極の前記1対のエッジ領域のそれぞれにおいて、平面視したときに前記複数の電極指のうち少なくとも1本と重なるように質量付加膜が設けられているという構成、及び前記第1のIDT電極の前記複数の電極指のうち少なくとも1本の、前記1対のエッジ領域のうち一方における幅が前記中央領域における幅よりも広く、前記複数の電極指のうち少なくとも1本の、前記1対のエッジ領域のうち他方における幅が前記中央領域における幅よりも広いという構成のうち一方の構成を有し、
前記第2のIDT電極において、一方の前記バスバーに一端が接続されている前記複数の電極指の他端を結ぶことにより形成される仮想線、及び他方の前記バスバーに一端が接続されている前記複数の電極指の他端を結ぶことにより形成される仮想線を1対の包絡線としたときに、前記1対の包絡線が、弾性波伝搬方向に対して傾斜している、請求項1
または2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記第1の共振子が第1のIDT電極を有し、前記第2の共振子が第2のIDT電極を有し、前記第1のIDT電極及び前記第2のIDT電極がそれぞれ、1対のバスバーと、複数の電極指と、を含み、
前記第1のIDT電極及び前記第2のIDT電極のそれぞれにおいて、弾性波伝搬方向から見たときに隣り合う前記電極指が重なり合う領域が交叉領域であり、
前記第1のIDT電極において、前記交叉領域が、前記複数の電極指が延びる方向における中央に位置する中央領域と、前記複数の電極指が延びる方向において前記中央領域を挟むように配置されている1対のエッジ領域と、を含み、
前記第1のIDT電極が、前記第1のIDT電極の前記1対のエッジ領域のそれぞれにおいて、平面視したときに前記複数の電極指のうち少なくとも1本と重なるように質量付加膜が設けられているという構成、及び前記第1のIDT電極の前記複数の電極指のうち少なくとも1本の、前記1対のエッジ領域のうち一方における幅が前記中央領域における幅よりも広く、前記複数の電極指のうち少なくとも1本の、前記1対のエッジ領域のうち他方における幅が前記中央領域における幅よりも広いという構成のうち一方の構成を有し、
前記第2のIDT電極において、前記交叉領域の前記複数の電極指が延びる方向に沿う寸法を交叉幅としたときに、前記交叉領域が、弾性波伝搬方向において前記交叉幅が変化している部分を有する、請求項1
または2に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記第1の共振子が第1のIDT電極を有し、前記第2の共振子が第2のIDT電極を有し、前記第1のIDT電極及び前記第2のIDT電極がそれぞれ、1対のバスバーと、複数の電極指と、を含み、
前記第1のIDT電極及び前記第2のIDT電極のそれぞれにおいて、弾性波伝搬方向から見たときに隣り合う前記電極指が重なり合う領域が交叉領域であり、各前記交叉領域が、前記複数の電極指が延びる方向における中央に位置する中央領域と、前記複数の電極指が延びる方向において前記中央領域を挟むように配置されている1対のエッジ領域と、を含み、
前記第1のIDT電極の前記1対のエッジ領域のそれぞれにおいて、平面視したときに前記複数の電極指のうち少なくとも1本と重なるように質量付加膜が設けられており、
前記第2のIDT電極の前記複数の電極指のうち少なくとも1本の、前記1対のエッジ領域のうち一方における幅が前記中央領域における幅よりも広く、前記複数の電極指のうち少なくとも1本の、前記1対のエッジ領域のうち他方における幅が前記中央領域における幅よりも広い、請求項1
または2に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記第1の共振子が第1のIDT電極を有し、前記第2の共振子が第2のIDT電極を有し、前記第1のIDT電極及び前記第2のIDT電極がそれぞれ、1対のバスバーと、複数の電極指と、を含み、
前記第1のIDT電極及び前記第2のIDT電極のそれぞれにおいて、弾性波伝搬方向から見たときに隣り合う前記電極指が重なり合う領域が交叉領域であり、
前記第1のIDT電極の前記交叉領域において、隣り合う前記電極指のそれぞれの一端が互いに異なる前記バスバーに接続されており、
前記第2のIDT電極の前記交叉領域が、隣り合う前記電極指のそれぞれの一端が互いに異なる前記バスバーに接続されている第1の部分を有し、
前記第1の部分において、連続する3本の前記電極指における両端の電極指の中心間距離を1λとしたときに、前記第2のIDT電極の前記交叉領域が、弾性波伝搬方向に沿う距離1λの範囲内に、一端が互いに異なるバスバーに接続された隣り合う前記電極指が連続して配置されている本数が2本以下である、第2の部分をさらに有する、請求項1
または2に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
前記第1の共振子及び前記第2の共振子が、それぞれ、圧電体層と、前記圧電体層上に設けられているIDT電極と、前記圧電体層及び前記IDT電極の間に設けられている誘電体膜と、を含み、
前記第1の共振子の前記誘電体膜の厚みが、前記第2の共振子の前記誘電体膜の厚みよりも薄い、請求項1~
6のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項8】
前記複数の共振子が、高音速材料層と、前記高音速材料層上に設けられている圧電体層と、前記圧電体層上に設けられているIDT電極と、を含み、
前記高音速材料層を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電体層を伝搬する弾性波の音速よりも高い、請求項1~
7のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項9】
前記高音速材料層が高音速支持基板である、請求項
8に記載のフィルタ装置。
【請求項10】
支持基板をさらに備え、
前記高音速材料層が、前記支持基板上に設けられている高音速膜である、請求項
8に記載のフィルタ装置。
【請求項11】
前記高音速材料層及び前記圧電体層の間に設けられている低音速膜をさらに備え、
前記低音速膜を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電体層を伝搬するバルク波の音速よりも低い、請求項
8~
10のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項12】
前記第1のインダクタが配線により構成されており、少なくとも1つの配線電極を有する、請求項1~
11のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項13】
前記第1のインダクタが、複数の前記配線電極と、前記配線電極同士を接続しているビア電極と、を有する、請求項
12に記載のフィルタ装置。
【請求項14】
前記複数の共振子が、圧電体層と、前記圧電体層上に設けられているIDT電極と、前記圧電体層上に設けられており、かつ各前記IDT電極を囲んでいる開口部を有する支持部材と、前記開口部を覆うように、前記支持部材上に設けられているカバー部材と、を含み、
前記第1のインダクタが、前記カバー部材に設けられている、請求項
12または
13に記載のフィルタ装置。
【請求項15】
前記複数の共振子が配置されている実装基板をさらに備え、
前記第1のインダクタが、前記実装基板に設けられている、請求項
12または
13に記載のフィルタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラダー型回路を含むフィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性波装置が携帯電話機のフィルタなどに広く用いられている。下記の特許文献1には、直列腕共振子及び並列腕共振子に弾性波装置が用いられたラダー型フィルタの一例が記載されている。このラダー型フィルタにおいては、2つの端子の間に、5つの直列腕共振子が互いに直列に接続されている。両端の直列腕共振子と、双方の端子との間に、それぞれインダクタが接続されている。両端の直列腕共振子の各共振周波数と、上記両端の直列腕共振子以外の3つの直列腕共振子の共振周波数とが異ならされている。これにより、ラダー型フィルタの通過帯域の拡大、及び通過帯域外における減衰量を大きくすることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラダー型フィルタでは、比帯域の値が小さい弾性波共振子は、通過帯域の端部における急峻性を高めるために用いられることがあった。他方、比帯域の値が大きい弾性波共振子は、通過帯域の拡大のために用いられることがあった。高い急峻性及び広い通過帯域を実現するためには、比帯域の値が小さい弾性波共振子、及び比帯域の値が大きい弾性波共振子の双方を要する。
【0005】
ここで、弾性波共振子の比帯域の値を大きくするために、弾性波共振子にインダクタが接続されることがある。インダクタのインダクタンスを高くすることにより、比帯域の値を大きくし得る。しかしながら、インダクタのインダクタンスを高くすると、インダクタが大型になり、フィルタ装置全体としても大型になりがちであった。
【0006】
本発明の目的は、通過帯域を広くすることができ、しかも小型化を進めることができる、フィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るフィルタ装置は、少なくとも1つの直列腕共振子及び少なくとも1つの並列腕共振子を含む複数の共振子を備え、前記複数の共振子が、前記複数の共振子のうち最も比帯域の値が大きい第1の共振子と、前記第1の共振子以外の少なくとも1つの第2の共振子とを含み、前記第1の共振子に直列に接続されているインダクタをさらに備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るフィルタ装置によれば、通過帯域を広くすることができ、しかも小型化を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るフィルタ装置の回路図である。
【
図2】
図2は、第2の共振子にインダクタが接続されたことによる比帯域の変化を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の共振子にインダクタが接続されたことによる比帯域の変化を示す図である。
【
図4】
図4は、共振子にインダクタが接続された場合における、インダクタのインダクタンスと、共振周波数の変化幅との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施形態における第1の共振子の平面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第1の実施形態及び比較例の減衰量周波数特性を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1の実施形態に係るフィルタ装置の略図的正面断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第1の実施形態の第1の変形例に係るフィルタ装置の略図的正面断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第1の実施形態の第2の変形例に係るフィルタ装置の回路図である。
【
図11】
図11は、本発明の第1の実施形態の第3の変形例における第1の共振子の正面断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第1の実施形態の第4の変形例における第1の共振子の正面断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の第2の実施形態における第1の共振子の平面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第2の実施形態における第2の共振子の平面図である。
【
図15】
図15は、本発明の第2の実施形態の変形例における第1のIDT電極の平面図である。
【
図16】
図16は、本発明の第3の実施形態における第2のIDT電極の平面図である。
【
図17】
図17は、本発明の第5の実施形態における第2のIDT電極の平面図である。
【
図18】
図18は、本発明の第5の実施形態の変形例における第2のIDT電極の平面図である。
【
図19】
図19は、本発明の第6の実施形態における第1の共振子及び第2の共振子の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0011】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るフィルタ装置の回路図である。
【0013】
フィルタ装置1は、第1の信号端子9A及び第2の信号端子9Bと、複数の共振子とを有する。具体的には、複数の共振子は、複数の直列腕共振子と、複数の並列腕共振子とを含む。複数の直列腕共振子は、直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3、直列腕共振子S4及び直列腕共振子S5である。複数の並列腕共振子は、並列腕共振子P1、並列腕共振子P2、並列腕共振子P3及び並列腕共振子P4である。本実施形態においては、複数の共振子はいずれも弾性波共振子である。具体的には、複数の共振子は弾性表面波共振子である。もっとも、複数の共振子はバルク波共振子もあってもよい。
【0014】
本実施形態においては、第1の信号端子9Aはアンテナ端子である。すなわち、第1の信号端子9Aはアンテナに接続される。第1の信号端子9A及び第2の信号端子9Bは、電極パッドとして設けられていてもよく、あるいは配線として設けられていてもよい。
【0015】
直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3、直列腕共振子S4及び直列腕共振子S5は、第1の信号端子9Aと第2の信号端子9Bとの間に互いに直列に接続されている。直列腕共振子S1及び直列腕共振子S2の間の接続点とグラウンド電位との間に、並列腕共振子P1が接続されている。直列腕共振子S2及び直列腕共振子S3の間の接続点とグラウンド電位との間に、並列腕共振子P2が接続されている。直列腕共振子S3及び直列腕共振子S4の間の接続点とグラウンド電位との間に、並列腕共振子P3が接続されている。直列腕共振子S4及び直列腕共振子S5の間の接続点とグラウンド電位との間に、並列腕共振子P4が接続されている。なお、フィルタ装置1の複数の共振子は、少なくとも1つの直列腕共振子と、少なくとも1つの並列腕共振子とを含んでいればよい。フィルタ装置1はラダー型回路を含んでいればよい。フィルタ装置1は、例えば、縦結合共振子型弾性波フィルタを含んでいてもよい。
【0016】
ここで、複数の共振子は、第1の共振子と、複数の第2の共振子とを含む。第1の共振子の比帯域の値は、複数の共振子の比帯域の値のうち最も大きい。第2の共振子は、第1の共振子以外の全ての共振子である。本実施形態では、第1の共振子は並列腕共振子P4である。第2の共振子は、直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3、直列腕共振子S4及び直列腕共振子S5、並びに並列腕共振P1、並列腕共振子P2及び並列腕共振子P3である。なお、本明細書において比帯域は、個々の共振子の比帯域をいう。すなわち、比帯域をΔf、共振周波数をfr、反共振周波数をfaとしたときに、Δf=(|fa-fr|/fr)×100[%]である。第1の共振子の比帯域は5%である。他方、各第2の共振子の比帯域はそれぞれ3%である。もっとも、第1の共振子及び第2の共振子の比帯域は上記に限定されない。
【0017】
フィルタ装置1は、第1のインダクタ及び第2のインダクタを有する。第1のインダクタは、第1の共振子に直列に接続されているインダクタである。第2のインダクタは、第2の共振子に接続されているインダクタである。具体的には、第1のインダクタはインダクタLである。第2のインダクタはインダクタMである。インダクタLは、第1の共振子である並列腕共振子P4と、グラウンド電位との間に接続されている。なお、インダクタLは、並列腕共振子P4に、他の共振子を介さず接続されている。インダクタMは、並列腕共振子P2とグラウンド電位との間に接続されている。
【0018】
インダクタLは、並列腕共振子P4の比帯域の値を大きくするためのインダクタである。これにより、フィルタ装置1の通過帯域を広くすることができる。他方、インダクタMは、インピーダンスマッチング用のインダクタである。
【0019】
本実施形態の特徴は、第1の共振子としての並列腕共振子P4に、第1のインダクタとしてのインダクタLが直列に接続されていることにある。上記のように、第1の共振子の比帯域の値は、複数の共振子の比帯域の値のうち最も大きい。そのため、第1の共振子の比帯域の値を大きくするために要する、第1のインダクタのインダクタンスを小さくすることができる。それによって、第1のインダクタを小型にすることができる。従って、フィルタ装置1の通過帯域を広くすることができ、しかも小型化を効果的に進めることができる。この詳細を以下において説明する。
【0020】
弾性波共振子にインダクタを接続すると、共振周波数が低くなる一方で、反共振周波数は変化しない。それによって、比帯域の値が大きくなる。ここで、第1の共振子及び第2の共振子のそれぞれにインダクタを接続した場合において、共振周波数を50MHz低くするために必要なインダクタのインダクタンスを比較した。該比較においては、第1の実施形態と同様に、第1の共振子の比帯域を5%とし、第2の共振子の比帯域を3%とした。さらに、共振周波数を低くする幅を10MHz以上、100MHz以下の範囲において、10MHz刻みで変化させて、上記と同様の比較を行った。
【0021】
図2は、第2の共振子にインダクタが接続されたことによる比帯域の変化を示す図である。
図3は、第1の共振子にインダクタが接続されたことによる比帯域の変化を示す図である。
図4は、共振子にインダクタが接続された場合における、インダクタのインダクタンスと、共振周波数の変化幅との関係を示す図である。
【0022】
図2及び
図3に示すように、第1の共振子及び第2の共振子のそれぞれにおいて、共振周波数が50MHz低くなっている。このとき、
図2に示すように、第2の共振子に接続されたインダクタのインダクタンスは1.67nHである。他方、
図3に示すように、第1の共振子に接続されたインダクタのインダクタンスは1.18nHである。さらに、
図4に示すように、共振周波数の変化幅が50MHz以外の場合も、第1の共振子に接続されたインダクタのインダクタンスは、第2の共振子に接続されたインダクタのインダクタンスよりも小さい。このように、第1の共振子においては、比帯域の値を効率的に大きくすることができる。なお、表1に
図4の結果を示す。
【0023】
【0024】
以上のように、第1の共振子において、比帯域の値を大きくするために要するインダクタのインダクタンスは、第2の共振子において、比帯域の値を大きくするために要するインダクタのインダクタンスよりも小さいことがわかる。よって、フィルタ装置の通過帯域を広くする場合において、第1の共振子に接続されるインダクタを小型にすることができる。
【0025】
なお、本実施形態においては、第2のインダクタとしてのインダクタMのインダクタンスは、第1のインダクタとしてのインダクタLのインダクタンスよりも小さい。よって、フィルタ装置1の小型化をより確実に進めることができる。
【0026】
図1に示すように、インダクタLは、並列腕共振子P4とグラウンド電位との間に接続されていることが好ましい。それによって、インピーダンスマッチングを行い易くすることができる。もっとも、インダクタLは、直列腕共振子S4及び直列腕共振子S5の間の接続点と、並列腕共振子P4との間に接続されていてもよい。すなわち、第1のインダクタは、第1の共振子に接続されている第2の共振子同士の接続点と、第1の共振子との間に接続されていてもよい。
【0027】
なお、フィルタ装置が複数の第1の共振子を有する場合には、いずれか1つの第1の共振子に直列に第1のインダクタが接続されていることが好ましい。
【0028】
以下において、本実施形態のフィルタ装置1の構成の詳細を示す。
【0029】
図5は、第1の実施形態における第1の共振子の平面図である。
【0030】
第1の共振子としての並列腕共振子P4は、圧電性基板2を有する。圧電性基板2上には、IDT電極3が設けられている。IDT電極3に交流電圧を印加することにより、弾性表面波が励振される。圧電性基板2上における、IDT電極3の弾性波伝搬方向両側には、1対の反射器8A及び反射器8Bが設けられている。
【0031】
IDT電極3は、第1のバスバー16及び第2のバスバー17と、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19とを有する。第1のバスバー16及び第2のバスバー17は互いに対向している。複数の第1の電極指18の一端は、それぞれ第1のバスバー16に接続されている。複数の第2の電極指19の一端は、それぞれ第2のバスバー17に接続されている。複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19は互いに間挿し合っている。IDT電極3、反射器8A及び反射器8Bは、単層の金属膜からなっていてもよく、積層金属膜からなっていてもよい。なお、以下においては、第1の電極指18及び第2の電極指19をまとめて電極指と記載することがある。
【0032】
圧電性基板2上に、IDT電極3を覆うように誘電体膜が設けられていてもよい。これにより、IDT電極3が破損し難い。誘電体膜の材料としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素または酸窒化ケイ素などを用いることができる。
【0033】
【0034】
本実施形態の圧電性基板2は、高音速材料層としての高音速支持基板5と、低音速膜6と、圧電体層7とを有する。より具体的には、高音速支持基板5上に低音速膜6が設けられている。低音速膜6上に圧電体層7が設けられている。圧電体層7は主面7aを有する。圧電体層7の主面7aには、IDT電極3、反射器8A及び反射器8Bが設けられている。
【0035】
圧電体層7の材料としては、例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、水晶、またはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などを用いることができる。
【0036】
高音速材料層は相対的に高音速な層である。より具体的には、高音速材料層を伝搬するバルク波の音速は圧電体層7を伝搬する弾性波の音速よりも高い。本実施形態では、高音速材料層は高音速支持基板5である。高音速材料層の材料としては、例えば、シリコン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶、アルミナ、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、マグネシア、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜またはダイヤモンドなど、上記材料を主成分とする媒質を用いることができる。
【0037】
低音速膜6は相対的に低音速な膜である。より具体的には、低音速膜6を伝搬するバルク波の音速は、圧電体層7を伝搬するバルク波の音速よりも低い。低音速膜6の材料としては、例えば、ガラス、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化リチウム、五酸化タンタル、または、酸化ケイ素にフッ素、炭素やホウ素を加えた化合物を主成分とする材料を用いることができる。
【0038】
本実施形態においては、高音速材料層としての高音速支持基板5、低音速膜6及び圧電体層7がこの順序において積層されている。それによって、弾性波のエネルギーを圧電体層7側に効果的に閉じ込めることができる。もっとも、圧電性基板2の構成は上記に限定されない。
【0039】
他の共振子も、並列腕共振子P4と同様に、IDT電極及び1対の反射器を有する。フィルタ装置1においては、全ての共振子は圧電性基板2を共有している。もっとも、少なくとも1つの共振子が、他の共振子とは異なる圧電性基板を有していてもよい。
【0040】
上述したように、並列腕共振子P4にインダクタLを接続することにより、フィルタ装置1の通過帯域を広くすることができる。これを、本実施形態及び比較例を比較することにより示す。比較例は、インダクタLを有しない点において第1の実施形態と異なる。フィルタ装置1における圧電性基板2及びIDT電極3の構成、並びにインダクタL及びインダクタMのインダクタンスは以下の通りとした。比較例における各パラメータも、インダクタL以外においては、以下の各パラメータと同様である。
【0041】
高音速支持基板5;材料…Si、厚み…125μm
低音速膜6;材料…SiO2、厚み…670nm
圧電体層7;材料…LiTaO3、厚み…600nm
IDT電極3;積層構造…圧電体層7側からTi層/AlCu層、厚み…圧電体層7側から12nm/162nm
インダクタL;インダクタンス…3nH
インダクタM;インダクタンス…0.3nH
【0042】
図7は、第1の実施形態及び比較例の減衰量周波数特性を示す図である。
【0043】
図7に示すように、比較例の通過帯域よりも第1の実施形態の通過帯域が広いことがわかる。
図7中に示す帯域Wは、Band41の通過帯域を示す。具体的には、Band41の通過帯域は2496MHz~2690MHzである。比較例のフィルタ装置においては、2496MHz付近において挿入損失が大きい。これに対して、第1の実施形態においては、並列腕共振子P4にインダクタLが接続されている。これにより、フィルタ装置1の通過帯域が広くなっており、2496MHz~2690MHzにおいて挿入損失が小さい。よって、フィルタ装置1をBand41のような広い帯域にも適用することができる。しかも、上述したように、通過帯域を広くするためのインダクタLを小型にすることができ、フィルタ装置1の小型化を進めることができる。
【0044】
図8は、第1の実施形態に係るフィルタ装置の略図的正面断面図である。
図8においては、共振子を構成する電極を、矩形に2本の対角線を加えた略図により示す。
【0045】
フィルタ装置1は実装基板10を有する。フィルタ装置1の複数の共振子は実装基板10に配置されている。本実施形態では、第1の共振子である並列腕共振子P4を構成する電極と、実装基板10との間にインダクタLが設けられている。
【0046】
圧電体層7の主面7aには、複数の共振子の複数のIDT電極が設けられている。さらに、主面7aには、複数の端子が設けられている。複数の端子は、複数のグラウンド端子9C並びに上記第1の信号端子9A及び上記第2の信号端子9Bを含む。
【0047】
さらに、主面7aには支持部材11が設けられている。支持部材11は、複数の端子の少なくとも一部を覆うように設けられている。支持部材11は開口部11aを有する。開口部11aは、複数の共振子の複数のIDT電極を囲んでいる。圧電体層7と共に支持部材11を挟むように、カバー部材12が設けられている。カバー部材12は、支持部材11の開口部11aを覆っている。これにより、圧電性基板2、支持部材11及びカバー部材12により囲まれた中空空間が設けられている。複数のIDT電極は、該中空空間内に配置されている。
【0048】
カバー部材12内には、第1のインダクタとしてのインダクタLが設けられている。インダクタLは配線により構成されている。より具体的には、インダクタLは、配線電極La及び配線電極Lbと、ビア電極Lcとを有する。配線電極Laと配線電極Lbとが、ビア電極Lcに接続されている。これにより、インダクタLが構成されている。上記第2のインダクタも、インダクタLと同様に構成されている。なお、各インダクタにおける配線の引き回しの形状は特に限定されない。各インダクタの配線電極及びビア電極の個数も特に限定されない。
【0049】
支持部材11を貫通するように、複数の第1の貫通電極が設けられている。複数の第1の貫通電極は、第1の貫通電極13A及び第1の貫通電極13Bを含む。第1の貫通電極13Aの一端はグラウンド端子9Cに接続されている。第1の貫通電極13Aの他端は配線電極Laに接続されている。カバー部材12には、複数の第1の接続端子14Aが設けられている。配線電極Lbが、第1の接続端子14Aに接続されている。このように、第1の貫通電極13AはインダクタLを介して第1の接続端子14Aに接続されている。
【0050】
他方、第1の貫通電極13Bは、カバー部材12を貫通している。第1の貫通電極13Bの一端はグラウンド端子9Cに接続されている。第1の貫通電極13Bの他端は第1の接続端子14Aに接続されている。
【0051】
実装基板10の一方主面には、複数の第2の接続端子14Bが設けられている。実装基板10の他方主面には複数の第3の接続端子14Cが設けられている。さらに、実装基板10を貫通するように、複数の第2の貫通電極13Cが設けられている。第2の貫通電極13Cの一端は第2の接続端子14Bに接続されている。第2の貫通電極13Cの他端は第3の接続端子14Cに接続されている。
【0052】
実装基板10の第2の接続端子14Bと、複数の共振子側の第1の接続端子14Aとを接続するように、バンプ15が設けられている。並列腕共振子P4は、グラウンド端子9C、第1の貫通電極13A、インダクタL、第1の接続端子14A、バンプ15、第2の接続端子14B、第2の貫通電極13C及び第3の接続端子14Cを介してグラウンド電位に接続される。複数の第2の共振子のうち、例えば並列腕共振子P3は、グラウンド端子9C、第1の貫通電極13B、第1の接続端子14A、バンプ15、第2の接続端子14B、第2の貫通電極13C及び第3の接続端子14Cを介してグラウンド電位に接続される。以上のように、フィルタ装置1の複数の共振子はWLP(Wafer Level Package)構造である。もっとも、複数の共振子はWLP構造には限定されない。
【0053】
ところで、インダクタが配線により構成されている場合には、配線電極またはビア電極の長さが長いほど、インダクタンスが大きい。よって、要するインダクタンスが大きいほど、インダクタが大型になる。これに対して、本実施形態においては、インダクタLのインダクタンスが小さくとも、並列腕共振子P4の比帯域の値を大きくすることができる。よって、インダクタLが配線により構成されている場合には、本発明が好適である。
【0054】
インダクタLは、カバー部材12以外の部分に設けられていてもよい。例えば、
図9に示す第1の変形例においては、インダクタLは実装基板10内に設けられている。インダクタLは、ビア電極23Aにより第2の接続端子14Bに接続されている。さらに、インダクタLは、ビア電極23Bにより第3の接続端子14Cに接続されている。なお、インダクタLは、カバー部材12内や実装基板10内に限られず、カバー部材12や実装基板10の表面に設けられていてもよい。あるいは、インダクタLは、圧電性基板2上に設けられていてもよい。
【0055】
第1の実施形態においては、第1の共振子は並列腕共振子である。もっとも、第1の共振子は直列腕共振子であってもよい。例えば、
図10に示す第2の変形例おいては、複数の共振子のうち直列腕共振子S23の比帯域の値が最も大きい。すなわち、直列腕共振子S23が第1の共振子であり、並列腕共振子P24を含む他の共振子は、複数の第2の共振子である。直列腕共振子S2及び並列腕共振子P2の接続点と、直列腕共振子S23との間に第1のインダクタとしてのインダクタLが接続されている。インダクタLは、直列腕共振子S2に直列に接続されている。なお、インダクタLは、直列腕共振子S4及び並列腕共振子P3の接続点と、直列腕共振子S23との間に接続されていてもよい。本変形例においても、第1の実施形態と同様に、フィルタ装置の小型化を進めることができる。
【0056】
もっとも、第1の共振子が並列腕共振子であり、第1のインダクタが該並列腕共振子に直列に接続されていることが好ましい。それによって、フィルタ装置の挿入損失の劣化が生じ難い。
【0057】
図6に示すように、本実施形態の圧電性基板2においては、圧電体層7が、高音速材料層としての高音速支持基板5上に、低音速膜6を介して間接的に設けられている。もっとも、圧電性基板2の構成は上記に限定されない。以下において、圧電性基板の構成のみが第1の実施形態と異なる、第1の実施形態の第3の変形例及び第4の変形例を示す。第3の変形例及び第4の変形例においても、第1の実施形態と同様に、フィルタ装置の小型化を進めることができる。加えて、第1の実施形態と同様に、高音速材料層及び圧電体層を含む積層構造が設けられているため、弾性波のエネルギーを圧電体層側に効果的に閉じ込めることができる。
【0058】
図11に示す第3の変形例においては、圧電性基板22Aは、高音速支持基板5と、圧電体層7とを有する。圧電体層7は、高音速材料層としての高音速支持基板5上に直接的に設けられている。
【0059】
図12に示す第4の変形例においては、圧電性基板22Bは、支持基板24と、高音速材料層としての高音速膜25と、低音速膜6と、圧電体層7とを有する。より具体的には、支持基板24上に高音速膜25が設けられている。高音速膜25上に低音速膜6が設けられている。低音速膜6上に圧電体層7が設けられている。
【0060】
支持基板24の材料としては、例えば、酸化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライトなどの各種セラミック、ダイヤモンド、ガラスなどの誘電体、シリコン、窒化ガリウムなどの半導体または樹脂などを用いることができる。
【0061】
なお、圧電性基板は、支持基板24、高音速膜25及び圧電体層7の積層体であってもよい。あるいは、圧電性基板は、圧電体層のみからなる圧電基板であってもよい。
【0062】
第1の実施形態及びその変形例においては、圧電体層7は、IDT電極3が設けられている部分を含めて、他の層により支持されている。もっとも、圧電体層7は、平面視においてIDT電極3の少なくとも一部と重なる部分においては、他の層により支持されていなくともよい。より具体的には、圧電体層7以外の層の、平面視においてIDT電極3の少なくとも一部と重なる部分に、空洞部が設けられていてもよい。この場合、空洞部は圧電体層7側において開口していればよい。空洞部は、1層にのみ設けられていてもよく、複数の層にわたり設けられていてもよい。空洞部は凹部であってもよく、貫通孔であってもよい。このような空洞部が設けられている場合、共振子は板波を利用することが好ましい。
【0063】
ここで、第1の共振子のIDT電極を第1のIDT電極とし、第2の共振子のIDT電極を第2のIDT電極とする。以下においては、第1のIDT電極または第2のIDT電極の構成のみが第1の実施形態と異なる、第2~第5の実施形態を示す。第2~第5の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、第1の共振子にインダクタLが接続されている。よって、フィルタ装置の通過帯域を広くすることができ、かつフィルタ装置の小型化を進めることができる。
【0064】
図13は、第2の実施形態における第1の共振子の平面図である。
図14は、第2の実施形態における第2の共振子の平面図である。
【0065】
図13に示すように、本実施形態においては、第1の共振子の第1のIDT電極33Aの構成が第1の実施形態と異なる。第1の共振子は、ピストンモードを利用する弾性表面波共振子である。
図14に示すように、本実施形態においては、第2の共振子の第2のIDT電極33Bの構成も第1の実施形態と異なる。第2のIDT電極33Bは傾斜型のIDT電極である。以下において、第1のIDT電極33A及び第2のIDT電極33Bの構成の詳細を説明する。
【0066】
図13に示すように、弾性波伝搬方向から見て、隣り合う第1の電極指18及び第2の電極指19が重なり合う領域は交叉領域Aである。交叉領域Aは、中央領域Cと、第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2とを有する。ここで、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19が延びる方向を電極指延伸方向とする。なお、本実施形態においては、電極指延伸方向と弾性波伝搬方向とは直交する。中央領域Cは、交叉領域Aにおいて、電極指延伸方向における中央側に位置する領域である。一方で、第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2は、中央領域Cを電極指延伸方向において挟むように配置されている。第1のエッジ領域E1は第1のバスバー16側に位置する。第2のエッジ領域E2は第2のバスバー17側に位置する。さらに、第1のIDT電極33Aは、第1のギャップ領域G1及び第2のギャップ領域G2を有する。第1のギャップ領域G1は、第1のエッジ領域E1と第1のバスバー16との間に位置する。第2のギャップ領域G2は、第2のエッジ領域E2と第2のバスバー17との間に位置する。
【0067】
第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2における音速は、中央領域Cにおける音速よりも低い。他方、第1のギャップ領域G1及び第2のギャップ領域G2における音速は、中央領域Cにおける音速よりも高い。これにより、ピストンモードが成立し、横モードが抑制される。
【0068】
より具体的には、本実施形態の第1のIDT電極33Aにおいては、第1のエッジ領域E1において、複数の第1の電極指18上及び複数の第2の電極指19上に質量付加膜35Aが設けられている。同様に、第2のエッジ領域E2においては、複数の第1の電極指18上及び第2の電極指19上に、質量付加膜35Bが設けられている。質量付加膜35A及び質量付加膜35Bは適宜の誘電体からなる。
【0069】
質量付加膜35A及び質量付加膜35Bは帯状の形状を有する。これにより、質量付加膜35Aは、複数の第1の電極指18上及び複数の第2の電極指19上、並びに圧電性基板2上における電極指間に位置する部分にわたり設けられている。質量付加膜35Bも同様である。これにより、第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2における音速が低くなっている。
【0070】
本実施形態においては、複数の電極指及び質量付加膜35Aが積層されている部分においては、圧電性基板2、複数の電極指及び質量付加膜35Aの順序において積層されている。なお、質量付加膜35Aは、圧電性基板2と、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19との間に設けられていてもよい。すなわち、複数の電極指及び質量付加膜35Aが積層されている部分において、圧電性基板2、質量付加膜35A及び複数の電極指の順序において積層されていてもよい。質量付加膜35Bも同様である。
【0071】
なお、質量付加膜35A及び質量付加膜35Bは、複数の電極指上にわたり設けられていなくともよい。複数の質量付加膜35A及び複数の質量付加膜35Bが、各第1の電極指18及び各第2の電極指19と積層されていてもよい。この場合には、複数の質量付加膜35A及び複数の質量付加膜35Bは、金属からなっていてもよく、誘電体からなっていてもよい。質量付加膜35Aまたは質量付加膜35Bは、第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2のうち少なくとも一方において、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19のうち少なくとも1本の電極指と積層されていればよい。もっとも、質量付加膜35A及び質量付加膜35Bが、第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2の双方において、複数の電極指と積層されていることが好ましい。
【0072】
第1のギャップ領域G1においては、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19のうち複数の第1の電極指18のみが設けられている。よって、第1のギャップ領域G1における音速が高い。同様に、第2のギャップ領域G2においては、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19のうち複数の第2の電極指19のみが設けられている。よって、第2のギャップ領域G2における音速が高い。
【0073】
中央領域Cにおける音速をV1、第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2における音速をV2、第1のギャップ領域G1及び第2のギャップ領域G2における音速をV3としたときに、V2<V1<V3である。上記のような各音速の関係を
図13に示す。なお、
図13における音速の関係を示す部分においては、矢印Vで示すように、各音速の高さを示す線が左側に位置するほど音速が高いことを示す。
【0074】
本実施形態では、第1のIDT電極33Aが上記のような構成を有するため、第1の共振子において、容量に対する比帯域の比を大きくすることができる。そのため、第1の共振子を大型にせずして、比帯域の値をより一層大きくすることができる。そして、第1の共振子の比帯域の値をさらに大きくするための第1のインダクタのインダクタンスを、より一層小さくすることができる。従って、フィルタ装置の通過帯域を広くすることができ、かつフィルタ装置の小型化をより一層進めることができる。
【0075】
他方、
図14に示すように、第2のIDT電極33Bは傾斜型IDT電極である。より具体的には、複数の第1の電極指18の先端を結ぶことにより形成される仮想線を第1の包絡線B1としたときに、第1の包絡線B1は弾性波伝搬方向に対して傾斜している。同様に、複数の第2の電極指19の先端を結ぶことにより形成される仮想線を第2の包絡線B2としたときに、第2の包絡線B2は、弾性波伝搬方向に対して傾斜している。これにより、横モードに起因するスプリアスを抑制することができる。
【0076】
なお、第2のIDT電極33Bにおいては、第1のバスバー36及び第2のバスバー37は弾性波伝搬方向に対して傾斜して延びている。もっとも、これに限定されるものではない。
【0077】
図15は、第2の実施形態の変形例における第1のIDT電極の平面図である。
【0078】
本変形例においても、第2の実施形態と同様に、第1の共振子はピストンモードを利用している。より具体的には、第1のIDT電極43Aの複数の第1の電極指48は、第1のエッジ領域E1に位置する幅広部48aを有する。さらに、複数の第1の電極指48は、第2のエッジ領域E2に位置する幅広部48bを有する。第1の電極指48の幅広部48a及び幅広部48bにおける幅は、第1の電極指48の中央領域Cにおける幅よりも広い。なお電極指の幅は、電極指の弾性波伝搬方向に沿う寸法である。同様に、複数の第2の電極指49は、第1のエッジ領域E1において、幅広部49aを有する。複数の第2の電極指49は、第2のエッジ領域E2において、幅広部49bを有する。これらにより、第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2における音速を低くすることができる。もっとも、複数の第1の電極指48及び複数の第2の電極指49のうち少なくとも1本の電極指が、第1のエッジ領域E1及び第2のエッジ領域E2のうち少なくとも一方の領域において、幅広部を有していればよい。
【0079】
この場合においても、第1のIDT電極43Aを用いた第1の共振子において、容量に対する比帯域の比を大きくすることができる。もっとも、本変形例の第1のIDT電極43Aを用いた共振子の上記比よりも、
図13に示す第1のIDT電極33Aを用いた共振子の上記比が大きい。よって、第1の共振子には、第1のIDT電極33Aを用いることが好ましい。
【0080】
図16は、第3の実施形態における第2のIDT電極の平面図である。
【0081】
本実施形態は、第2のIDT電極53Bの交叉領域Aが重み付けされている点において第2の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本実施形態のフィルタ装置は第2の実施形態のフィルタ装置と同様の構成を有する。本実施形態の第1の共振子は、
図13に示す第1のIDT電極33Aを有する。
【0082】
第2のIDT電極53Bは、複数の第1のダミー電極指58及び複数の第2のダミー電極指59を有する。複数の第1のダミー電極指58の一端はそれぞれ、第1のバスバー56に接続されている。複数の第1のダミー電極指58の他端はそれぞれ、複数の第2の電極指19と対向している。複数の第2のダミー電極指59の一端はそれぞれ、第2のバスバー57に接続されている。複数の第2のダミー電極指59の他端はそれぞれ、複数の第1の電極指18と対向している。
【0083】
ここで、交叉領域Aの電極指延伸方向に沿う寸法を交叉幅Dとする。第2のIDT電極53Bでは、弾性波伝搬方向において、交叉幅Dが変化している。より具体的には、第2のIDT電極53Bの弾性波伝搬方向における中央から外側に向かうにつれて、交叉幅Dが狭くなっている。本実施形態においては、平面視において、交叉領域Aは略菱形状の形状を有する。
【0084】
もっとも、交叉領域Aの平面視における形状は上記に限定されない。例えば、交叉領域Aの電極指延伸方向における端縁部は、曲線状の形状を含んでいてもよい。あるいは、例えば、交叉幅Dが弾性波伝搬方向において周期的に変化していてもよい。より具体的には、弾性波伝搬方向における一方から他方に向かうにつれて、交叉幅Dが広くなっている複数の部分と、交叉幅Dが狭くなっている複数の部分とを有していてもよい。
【0085】
なお、第2のIDT電極53Bの交叉領域Aは、弾性波伝搬方向において交叉幅Dが変化している部分を有していればよい。例えば、第2のIDT電極53Bは、弾性波伝搬方向において、交叉幅が一定である部分を有していてもよい。
【0086】
本実施形態においては、第1のバスバー56及び第2のバスバー57は、弾性波伝搬方向に対して傾斜して延びている部分を有する。第1のバスバー56は屈曲部56aを有する。第2のバスバー57は屈曲部57aを有する。もっとも、第1のバスバー56及び第2のバスバー57の形状は上記に限定されない。例えば、第1のバスバー56及び第2のバスバー57は、弾性波伝搬方向と平行に延びる直線状の形状であってもよい。この場合には、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19並びに複数の第1のダミー電極指58及び複数の第2のダミー電極指59の長さが、弾性波伝搬方向において変化していることにより、該方向において交叉幅Dが変化していればよい。なお、電極指の長さは、電極指の電極指延伸方向に沿う寸法である。
【0087】
上記のように、第3の実施形態では、第1の共振子は、第2の実施形態と同様の第1のIDT電極33Aを有する。第1のIDT電極33Aを用いた共振子における容量に対する比帯域の比は、第2のIDT電極53Bを用いた共振子における容量に対する比帯域の比よりも大きい。よって、第2の実施形態と同様に、フィルタ装置の通過帯域を広くするための第1のインダクタを小型にすることができ、フィルタ装置の小型化を進めることができる。
【0088】
第4の実施形態は、第2のIDT電極が、
図15に示す第1のIDT電極43Aと同様の構成を有する点において第2の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本実施形態のフィルタ装置は、第2の実施形態のフィルタ装置と同様の構成を有する。本実施形態の第1の共振子は、
図13に示す第1のIDT電極33Aを有する。本実施形態においては、第1の共振子及び第2の共振子の双方がピストンモードを利用する。
【0089】
上述したように、第1のIDT電極33Aを用いた共振子における容量に対する比帯域の比は、第1のIDT電極43Aを用いた共振子における容量に対する比帯域の比よりも大きい。よって、第2の実施形態と同様に、フィルタ装置の通過帯域を広くするための第1のインダクタを小型にすることができ、フィルタ装置の小型化を進めることができる。
【0090】
図17は、第5の実施形態における第2のIDT電極の平面図である。
【0091】
本実施形態は、第2のIDT電極63Bの構成が第1の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本実施形態のフィルタ装置は第1の実施形態のフィルタ装置1と同様の構成を有する。
【0092】
本実施形態では、交叉領域は、第1の部分A1及び第2の部分A2を有する。第1の部分A1においては、第1の電極指18及び第2の電極指19が交互に並んでいる。すなわち、第1の部分A1においては、隣り合う電極指のそれぞれの一端は互いに異なるバスバーに接続されている。本実施形態においては、第1の部分A1において、電極指ピッチは一定である。電極指ピッチとは、隣り合う電極指同士の中心間距離である。なお、上記各実施形態における第1のIDT電極及び第2のIDT電極は、第1の部分A1のみにより構成されている。
【0093】
ここで、第1の部分A1において、連続する3本の電極指における両端の電極指の中心間距離を1λとする。例えば、第1の電極指18、第2の電極指19及び第1の電極指18の順序において並んでいる部分における、第1の電極指18同士の中心間距離が1λである。他方、第2の部分A2においては、連続する3本の電極指は、第1の電極指18、第2の電極指19及び第2の電極指19の順序において並んでいる。あるいは、第2の部分A2において、連続する3本の電極指全てが第2の電極指19である。このように第2の部分A2では、弾性波伝搬方向に沿う距離1λの範囲内においては、第1の電極指18及び第2の電極指19が交互に3本以上配置されていない。すなわち、上記範囲内において、一端が互いに異なるバスバーに接続された隣り合う電極指が連続して配置されている本数は2本以下である。
【0094】
本実施形態では、第2の部分A2において、弾性波伝搬方向に連続して3本の第2の電極指19が並んでいる。もっとも、第2の部分A2においては、弾性波伝搬方向に連続する2本以上の電極指の一端が同じバスバーに接続されていればよい。第2の部分A2は、周期的に配置されていてもよい。
【0095】
他方、第1の共振子は、
図5に示す第1のIDT電極としてのIDT電極3を有する。IDT電極3の交叉領域Aにおいては、隣り合う電極指のそれぞれの一端は互いに異なるバスバーに接続されている。
【0096】
第1のIDT電極3Aを用いた共振子における容量に対する比帯域の比は、第2のIDT電極63Bを用いた共振子における容量に対する比帯域の比よりも大きい。よって、第1の実施形態と同様に、フィルタ装置の通過帯域を広くするための第1のインダクタを小型にすることができ、フィルタ装置の小型化を進めることができる。このように、
図5に示す構成のIDT電極及び
図17に示す構成のIDT電極の双方が設けられる場合には、第1のIDT電極においては、
図5に示す構成を採用することが好ましい。
【0097】
なお、第2のIDT電極63Bの第2の部分A2においては、同じバスバーに接続されている電極指が連続して配置されていなくともよい。
図18に示す第5の実施形態の変形例においては、第2の部分A2における第2の電極指69の幅が、第1の部分A1における第2の電極指19の幅よりも広い。より具体的には、第2の電極指69は、第5の実施形態において2本の第2の電極指19が連続して配置されていた場合に、該2本の第2の電極指19が一体とされた電極指に相当する。この1本の第2の電極指69と1本の第1の電極指18とが並んでいる部分が、第1の部分A1における3本の電極指が並んでいる部分に相当する。そのため、第2の部分A2においては、弾性波伝搬方向に沿う距離1λの範囲内に配置されている電極指は、1本の第1の電極指18及び1本の第2の電極指69のみとなる。よって、上記範囲内において、一端が互いに異なるバスバーに接続された隣り合う電極指が連続して配置されている本数は2本以下である。
【0098】
上記のように、本変形例においては、第2の電極指69は、2本の第2の電極指19が一体とされた電極指に相当する。そのため、第2の部分A2における第2の電極指69の幅は、第1の部分A1における第2の電極指19の幅の2倍に、電極指間の部分の幅を加えたものに相当する。よって、第2の部分A2における第2の電極指69の幅は、第1の部分A1における第2の電極指19の幅の2倍よりも広い。なお、第2の電極指69は、3本以上の連続する第2の電極指19が一体とされた電極指に相当してもよい。本変形例においても、第5の実施形態と同様に、フィルタ装置の小型化を進めることができる。
【0099】
図19は、第6の実施形態における第1の共振子及び第2の共振子の正面断面図である。
【0100】
本実施形態は、第1の共振子が誘電体膜78Aを有し、第2の共振子が誘電体膜78Bを有する点において、第1の実施形態と異なる。
図19においては、第1の共振子としての並列腕共振子P74及び第2の共振子としての並列腕共振子P73を示している。上記の点以外においては、本実施形態のフィルタ装置は第1の実施形態のフィルタ装置1と同様の構成を有する。なお、第1の共振子のIDT電極は第1のIDT電極3Aであり、第2の共振子のIDT電極は第2のIDT電極3Bである。
【0101】
誘電体膜78Aは、圧電性基板2と、第1のIDT電極3Aとの間に設けられている。誘電体膜78Bは、圧電性基板2と第2のIDT電極3Bとの間に設けられている。本実施形態においては、誘電体膜78Aの厚みが誘電体膜78Bの厚みよりも薄い。この場合には、第1の共振子の比帯域の値を大きくすることができる。よって、上記各実施形態と同様に、フィルタ装置の通過帯域をより確実に広くすることができ、フィルタ装置の小型化をより確実に進めることができる。
【0102】
本実施形態においては、誘電体膜78A及び誘電体膜78Bは一体として設けられており、かつ互いに厚みが異なる。もっとも、誘電体膜78A及び誘電体膜78Bは、別体として設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1…フィルタ装置
2…圧電性基板
3…IDT電極
3A,3B…第1,第2のIDT電極
5…高音速支持基板
6…低音速膜
7…圧電体層
7a…主面
8A,8B…反射器
9A,9B…第1,第2の信号端子
9C…グラウンド端子
10…実装基板
11…支持部材
11a…開口部
12…カバー部材
13A,13B…第1の貫通電極
13C…第2の貫通電極
14A,14B,14C…第1,第2,第3の接続端子
15…バンプ
16,17…第1,第2のバスバー
18,19…第1,第2の電極指
22A,22B…圧電性基板
23A,23B…ビア電極
24…支持基板
25…高音速膜
33A,33B…第1,第2のIDT電極
35A,35B…質量付加膜
36,37…第1,第2のバスバー
43A…第1のIDT電極
48,49…第1,第2の電極指
48a,48b,49a,49b…幅広部
53B…第2のIDT電極
56,57…第1,第2のバスバー
56a,57a…屈曲部
58,59…第1,第2のダミー電極指
63B…第2のIDT電極
69…第2の電極指
78A,78B…誘電体膜
A…交叉領域
A1,A2…第1,第2の部分
C…中央領域
E1,E2…第1,第2のエッジ領域
G1,G2…第1,第2のギャップ領域
L…インダクタ
La,Lb…配線電極
Lc…ビア電極
M…インダクタ
P1~P4,P24,P73,P74…並列腕共振子
S1~S5,S23…直列腕共振子