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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】推定装置
(51)【国際特許分類】
   G16B 40/00 20190101AFI20241119BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20241119BHJP
【FI】
G16B40/00
C12N1/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022579518
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2022003522
(87)【国際公開番号】W WO2022168774
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2021017968
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
(72)【発明者】
【氏名】豊田 健一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 博隆
【審査官】鈴木 和樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0322699(US,A1)
【文献】国際公開第2020/039683(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0272894(US,A1)
【文献】特開2019-110767(JP,A)
【文献】国際公開第2020/021860(WO,A1)
【文献】特開2009-044974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16B 5/00-99/00
C12N 1/00
C12M 1/00- 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培地に播種してから所定期間経過した後の少なくとも一のタイミングで当該細胞および当該培地を含む培養容器内の少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む測定データの入力を受け付ける受付部と、
前記受付部が受け付けた前記測定データを、前記細胞を培養することで製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を予測するための予測モデルに入力することで、前記原薬の予測される品質を示す品質予測データを生成する予測部と、
前記予測部が生成した前記品質予測データを出力する出力部とを備え、
前記測定データは、前記細胞の対数増殖期に前記少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含み、
前記測定データは、前記細胞を前記培地に播種した後、前記培養容器内の前記少なくとも一の物質を複数のタイミングで測定することで得られる測定結果を含む、推定装置。
【請求項2】
前記測定データは、前記細胞の培養を開始するときに前記少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記測定データは、前記細胞の定常期に前記少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む、請求項1に記載の推定装置。
【請求項4】
前記測定データは、前記細胞の死滅期に前記少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む、請求項1に記載の推定装置。
【請求項5】
前記少なくとも一の物質は、前記細胞が摂取する栄養素、前記細胞の代謝により生成される代謝物、および前記細胞のうちの少なくとも一つである、請求項1に記載の推定装置。
【請求項6】
前記予測モデルからは、前記受付部が受け付けた前記測定データを入力することで、第1観点で前記原薬の品質を評価した場合の第1予測値と、第2観点で前記原薬の品質を評価した場合の第2予測値とが出力され、
前記品質予測データは、前記第1予測値と、前記第2予測値とを含む、請求項1に記載
の推定装置。
【請求項7】
前記予測モデルからは、前記受付部が受け付けた前記測定データを入力することで、所定の観点で前記原薬の品質を評価した場合の予測値が出力され、
前記予測部は、前記予測値に基づいて前記原薬の品質を判定する判定部を含み、
前記品質予測データは、前記原薬の品質を判定した判定結果を含む、請求項1に記載の推定装置。
【請求項8】
前記受付部は、前記細胞の培養条件を示す条件データの入力をさらに受け付け、
前記予測部は、前記受付部が受け付けた前記測定データおよび前記条件データを前記予測モデルに入力することで前記品質予測データを生成する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項9】
前記複数のタイミングは、前記対数増殖期における複数のタイミング、前記細胞の定常期における複数のタイミング、または前記細胞の死滅期における複数のタイミングを含む、請求項1に記載の推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を培養することで製造されるバイオ医薬品の研究が進められている。特許第4496086号公報(特許文献1)には、宿主細胞を培養して目的タンパク質を生成するための細胞培養方法が開示されている。
【0003】
バイオ医薬品は、人為的なコントロールを行うことが困難な細胞の代謝を利用して生産され、使用する薬品に生細胞由来の成分が含まれる場合がある。そのため、定められたプロトコルに従って製造しても、生産されるバイオ医薬品の品質を均一にすることは難しい。そこで、一般的には、細胞培養によって得られたバイオ医薬品の原薬に対して特性解析が行われ、原薬の品質が確認される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4496086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオ医薬品の製造は、培養工程、精製工程、加工工程を含めると、数週間~数ヶ月と非常に時間を要する。また、特性解析の対象である原薬は、培養工程が完了した以降の精製工程で得られる。すなわち、培養工程の段階では特性解析の結果を得られないため、精製工程が完了してはじめて培養によって目的の原薬が得られたか否かが判断されることになる。
【0006】
本開示は、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を予測することを一の目的とする
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の推定装置は、測定データの入力を受け付ける受付部と、受付部が受け付けた測定データを予測モデルに入力することで、原薬の品質を示す品質予測データを生成する予測部と、予測部が生成した品質予測データを出力する出力部とを備える。測定データは、細胞を培地に播種してから所定期間経過した後の少なくとも一のタイミングで当該細胞および当該培地を含む培養容器内の少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む。予測モデルは、細胞を培養することで製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を予測するためのモデルである。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を予測することができる。そのため、ユーザは、予測された原薬の品質に基づいて、原薬を得るための精製工程前の培養工程の段階でプロトコルを見直したり、培養時間を延長したり、あるいは培養を中止するといった様々な対処をすることができるため、結果としてバイオ医薬品の製造コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態1にかかる予測システムの全体構成を模式的に示す図である。
図2】推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】学習装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】測定タイミングを説明するための図である。
図5】測定データの一例を示す図である。
図6】予測部の構成の一例を示すブロック図である。
図7】出力部が出力する出力結果の一例を示す図である。
図8】本実施の形態1にかかる推定方法の流れを示すフローチャートである。
図9】本実施の形態1にかかる学習方法の流れを示すフローチャートである。
図10】変形例にかかる学習装置の構成を示すブロック図である。
図11】モデル生成部の変形例を示す図である。
図12】変形例にかかる推定装置の構成を示すブロック図である。
図13】予測モデルの変形例を示す図である。
図14】本実施の形態2に係る予測システムの全体構成を模式的に示す図である。
図15】最適化装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図16】最適化装置の構成の一例を示すブロック図である。
図17】最適化装置の処理の流れを示すフローチャートである。
図18】本実施の形態2に係る予測システムの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0016】
実施の形態1.
[予測システムの全体構成]
図1は、本実施の形態1にかかる予測システムの全体構成を模式的に示す図である。予測システムSYSは、細胞培養によって製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を予測するためのシステムである。本実施の形態1において、「バイオ医薬品」とは、細胞を利用して製造される医薬品であって、たとえば、抗体医薬品、ワクチンなどである。また、本実施の形態1において、バイオ医薬品には、再生医療に用いられる細胞そのものも含み得る。本実施の形態1において、「原薬」とは、細胞培養によって得られる目的物質であって、たとえば、細胞を培養するための培養工程の後、目的成分を取り出すための精製工程を経て得られる。予測システムSYSは、測定装置100と、推定装置200と、学習装置300と、サーバ400とを含む。
【0017】
測定装置100は、細胞1と培地2とを含む培養容器10内の物質を測定対象とし、当該測定対象を測定する。測定対象とする物質は、細胞1を培養する過程で変化する物質であることが好ましく、たとえば、細胞1そのもの、細胞1の代謝物、細胞1の栄養素などである。ユーザは、測定対象に応じて任意の測定装置100を選択可能である。たとえば、測定対象を細胞1とした場合、ユーザは、培養容器10内の細胞1と培地2とから構成された培養液中の細胞の数、生細胞率、細胞の形状(真円度、長軸の長さ、短軸の長さなど)などの測定結果を得るために、測定装置100として顕微鏡および顕微鏡によって得られる画像を解析するソフトを選択可能である。また、測定対象を細胞1の代謝物または栄養素とした場合、ユーザは、培養液中の代謝物の濃度、栄養素の濃度などの測定結果を得るために、測定装置100として液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析計などを選択可能である。
【0018】
推定装置200は、細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の測定対象に対する測定結果を含む測定データ510を用いて、原薬の品質を予測する。たとえば、測定データ510は、細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の少なくとも1のタイミングで培養容器10内の培養液を採取し、測定装置100を用いて採取した培養液中の物質を測定することで得られる。
【0019】
推定装置200は、プロセッサ21(図2参照)が推定プログラム560(図2参照)を実行することで実現されるソフトウェア構成の一例として、受付部210と、予測部220と、出力部230とを備える。受付部210は、測定データ510の入力を受け付ける。
【0020】
予測部220は、受付部210が受け付けた測定データ510を予測モデル420に入力することで、原薬の品質を示す品質予測データ540を生成する。予測モデル420は、細胞1を培養することで製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を予測するためのモデルであって、測定データ510の入力を受けて、原薬の品質を示す予測結果を出力する。予測モデル420は、学習装置300のモデル生成部320が教師ありの学習処理を実行することで生成される。
【0021】
品質予測データ540は、予測モデル420から出力される予測結果そのものであってもよく、また、予測モデル420から出力される予測結果に基づいて生成されるものであってもよい。予測モデル420から出力される予測結果は、モデル生成部320が生成されるときに正解データとして用いられる品質データ520に対応する結果である。たとえば、品質データ520が原薬3に対して任意の解析を行うことで得られる解析結果を示すデータそのものである場合には、予測モデル420は、予測結果として予測される解析結果を出力する。品質データ520が解析結果に基づいて得られる目的の原薬との類似度を示すデータである場合には、予測モデル420は、予測結果として予測される類似度を出力する。
【0022】
出力部230は、予測部220が生成した品質予測データ540をディスプレイ、プリンタ、サーバ等の任意の出力先に出力する。
【0023】
学習装置300は、学習用データ530を用いて予測モデル420を生成する。学習装置300は、プロセッサ31(図3参照)が学習プログラム580(図3参照)を実行することで実現されるソフトウェア構成の一例として、受付部310と、モデル生成部320とを備える。
【0024】
受付部310は、学習用データ530の入力を受け付ける。学習用データ530は、時系列データ512と、品質データ520とを含む。
【0025】
時系列データ512は、測定データ510の一種であって、細胞1を培地2に播種してからの複数タイミング(タイミングt1,・・・タイミングtx)で培養容器10内の少なくとも一の物質を測定して得られる。時系列データ512は、細胞1と培地2とを含む培養容器10内の物質を測定対象とし、当該測定対象の経時変化を示すデータである。時系列データ512は、細胞1を培地2に播種してからの複数タイミング(タイミングt1,・・・タイミングtx)で培養容器10内の培養液を採取し、測定装置100を用いて採取した複数の培養液の各々を測定することで得られる。たとえば、時系列データ512は、細胞数の経時変化、生細胞率の経時変化、細胞の形状の経時変化、栄養素の濃度の経時変化、代謝物の濃度の経時変化などを示す。
【0026】
品質データ520は、細胞1から製造されるバイオ医薬品の原薬3を解析して得られる。品質データ520は、細胞1を培養した後、精製工程および解析工程を経て得られるデータであって、精製工程を経て得られる原薬3に対して、解析工程において任意の解析を行うことで得られる原薬3の品質を示すデータである。解析工程において行われる解析は、原薬3の種類に応じて任意に選択される。原薬3の品質は、1または複数の観点から評価され、たとえば、物理的性質、化学的性質、生物活性、免疫化学的性質などの観点から評価される。品質データ520は、原薬3に対して任意の解析を行うことで得られる解析結果を示すデータであってもよく、また、解析結果に基づいて得られる目的の原薬との類似度を示すデータであってもよい。
【0027】
たとえば、原薬3が抗体医薬品に利用される場合、原薬3に対して、アミノ酸組成分析、アミノ酸配列分析、ペプチドマッピング分析、ジスルフィド結合の架橋位置の分析、糖鎖修飾構造の分析などが解析工程において行われる。この場合に、一例として、アミノ酸組成分析の結果、アミノ酸の組成が、目的の原薬とどの程度類似しているかを示すデータを品質データ520に含めてもよい。
【0028】
モデル生成部320は、学習用データ530に含まれる品質データ520を正解データとして学習処理を実行することで、予測モデル420を生成する。たとえば、モデル生成部320は、学習用データ530に含まれる時系列データ512を予測モデル420に入力し、出力された品質の予測結果と、正解データである品質データ520との誤差を求め、この誤差が小さくなるように予測モデル420を最適化する。
【0029】
サーバ400は、予測モデル420を格納するための記憶装置の一例である。なお、予測モデル420は、推定装置200のストレージ23(図2参照)に格納されていてもよく、また、学習装置300のストレージ33(図3参照)に格納されていてもよい。また、推定装置200と学習装置300とは、一つの装置によって実現されてもよい。推定装置200と学習装置300とが一の装置によって実現される場合、受付部210および受付部310は、一の受付部として実現されてもよい。
【0030】
なお、本実施の形態において、培養条件は、予測モデル420を生成する時と、生成された予測モデル420を用いて品質予測データ540を生成する時とで同じであるものとする。本実施の形態において、「培養条件」が同じとは、共通のプロトコルに従って培養を行うことを意味する。
【0031】
細胞培養によって得られる原薬は、共通のプロトコルに従って細胞培養を行ったとしても、細胞自体が異なること、生細胞由来の成分が使用する薬品に含まれる場合があることなどから、目的の原薬とは異なる特性を示す場合がある。そのため、バイオ医薬品は、品質を担保するために、細胞培養によって得られた原薬に対して特性解析を行うことが一般的である。
【0032】
原薬3は、細胞1の活動によって得られる。そのため、原薬3の特性と、細胞1の活動状況との間に関連性があることが予想される。また、細胞1の増殖および代謝といった活動が活発であるときと、活発ではないときとで、細胞1を含む培養容器10内の物質は、異なる経時変化を示すことが予想される。そのため、培養容器10内の物質の状態と、細胞1の活動状況との間に関連性があることが予想される。つまり、培養容器10内の物質の状態と原薬3の特性とは、間接的に関連性があることが予想される。
【0033】
学習装置300は、培養容器10内の物質の経時変化を示す時系列データ512と、原薬3の品質を示す品質データ520とを含む学習用データ530を用いて学習処理を実行することにより、予測モデル420を生成する。換言すると、学習装置300は、培養容器10内の物質の経時変化と、原薬3の品質との間の関連性を学習させて予測モデル420を生成する。
【0034】
ユーザは、培養条件を変えながら、培養工程と精製工程とを含む培養試験を繰り返し実施する。培養試験毎に品質データ520が得られる。測定装置100は、培養試験毎に時系列データ512を出力する。培養試験が繰り返し実施されることにより、培養試験の回数に応じた多数の学習用データ530が収集される。学習装置300は、多数の学習用データに基づいて予測モデル420を繰り返し最適化する。
【0035】
本実施の形態1において、測定データ510は、細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の少なくとも一のタイミングで培養容器10内の培養液を採取し、測定装置100を用いて採取した培養液中の物質を測定することで得られる。すなわち、測定データ510は、細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の少なくとも一のタイミングにおける培養液中の物質の状態を示す。
【0036】
測定データ510が細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の物質の状態を示すため、物質の経時変化と原薬3の品質との間の関連性を学習させて生成された予測モデル420に測定データ510を入力することで、培養を進めた後得られる原薬3の品質を示す予測結果が得られる。
【0037】
以上のように、本実施の形態1にかかる推定装置200は、培養容器10内の測定対象を測定して得られる測定結果を含む測定データ510に基づいて、培養容器10内の細胞1の培養を進めることで得られる原薬の品質を示す品質予測データ540を生成する。そのため、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を予測することができる。また、学習装置300は、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を予測するための予測モデルを生成できる。ユーザは、品質予測データ540に基づいて、原薬を得るための精製工程前の培養工程の段階でプロトコルを見直したり、培養時間を延長したり、あるいは培養を中止するといった様々な対処をすることができるため、結果としてバイオ医薬品の製造コストを下げることができる。
【0038】
また、本実施の形態1にかかる学習装置300は、培養容器10内の物質の経時変化を示す時系列データ512と、原薬3の品質を示す品質データ520とを含む学習用データ530を用いて学習処理を実行することにより、培養容器10内の物質の経時変化と、原薬3の品質との間の関連性が学習された予測モデル420を生成できる。
【0039】
[推定装置のハードウェア構成]
図2は、推定装置200のハードウェア構成を示すブロック図である。推定装置200は、プロセッサ21と、メインメモリ22と、ストレージ23と、通信インターフェイス(I/F)24と、USB(Universal Serial Bus)インターフェイス(I/F)25と、入力部26と、表示部27とを備える。これらのコンポーネントは、プロセッサバス28を介して接続されている。
【0040】
プロセッサ21は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などで構成され、ストレージ23に記憶されたプログラム(一例として、推定プログラム560)を読み出して、メインメモリ22に展開して実行する。プロセッサ21は、プログラムを実行することで、原薬の品質を予測するための一連の処理を行う。
【0041】
メインメモリ22は、例えば、RAM(Random Access Memory)や、DRAM(Dynamic RAM)などの揮発性記憶装置で構成される。ストレージ23は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの不揮発性記憶装置などで構成される。
【0042】
ストレージ23には、USBI/F25を介して送られる測定データ510、測定データ510に基づいて生成される品質予測データ540、および原薬の品質を予測するための一連の処理を行うための推定プログラム560などが記憶される。
【0043】
通信I/F24は、有線通信または無線通信を用いて、予測モデル420が格納されたサーバ400との間で信号をやり取りする。
【0044】
USBI/F25には、着脱自在にUSBメモリ(不図示)が装着され、USBメモリ内に格納された測定データ510を読み出す。なお、測定データ510は、測定装置100と推定装置200とを通信可能に接続させることで、測定装置100から推定装置200に送られても良い。
【0045】
入力部26は、ユーザ操作を受け付け、典型的には、タッチパネル、キーボード、マウスなどで構成される。表示部27は、品質予測データ540の出力先の一例であって、画像を表示可能な液晶パネルなどで構成される。
【0046】
[学習装置のハードウェア構成]
図3は、学習装置300のハードウェア構成を示すブロック図である。学習装置300は、プロセッサ31と、メインメモリ32と、ストレージ33と、通信I/F34と、USBI/F35と、入力部36と、表示部37とを備える。これらのコンポーネントは、プロセッサバス38を介して接続されている。
【0047】
プロセッサ31は、CPUやGPUなどで構成され、ストレージ33に記憶されたプログラム(一例として、学習プログラム580)を読み出して、メインメモリ32に展開して実行する。プロセッサ31は、プログラムを実行することで、予測モデル420を生成するための一連の処理を行う。
【0048】
メインメモリ32は、例えば、RAMや、DRAMなどの揮発性記憶装置で構成される。ストレージ33は、例えば、HDDやSSDなどの不揮発性記憶装置などで構成される。
【0049】
ストレージ33には、USBI/F35を介して送られる学習用データ530、および予測モデル420を生成するための一連の処理を行うための学習プログラム580が記憶される。
【0050】
通信I/F34は、有線通信または無線通信を用いて、予測モデル420が格納されたサーバ400との間で信号をやり取りする。
【0051】
USBI/F35には、着脱自在にUSBメモリ(不図示)が装着され、USBメモリ内に格納された学習用データ530を読み出す。なお、測定データ510と品質データ520との入力を受け付け、測定データ510と品質データ520とを対応付けて学習用データ530を生成する情報処理装置と学習装置300とを通信可能に接続することで、情報処理装置から推定装置200に学習用データ530が送られても良い。
【0052】
入力部36は、ユーザ操作を受け付け、典型的には、タッチパネル、キーボード、マウスなどで構成される。表示部37は、画像を表示可能な液晶パネルなどで構成される。
【0053】
[品質予測に利用される測定データ510の一例]
原薬3の品質を予測するために推定装置200が受け付ける測定データ510は、細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の少なくとも1のタイミングにおいて測定対象を測定した測定結果を含むものとした。なお、原薬3の品質を予測する際に利用する測定データ510は、細胞1を培地2に播種してからの複数のタイミングで測定対象を測定することで得られる測定結果として、測定対象の経時変化を示す時系列データ512であってもよい。
【0054】
図4は、測定タイミングを説明するための図である。図4中には、一般的な細胞の増殖曲線が記載されている。図4に示すように、一般的に、培地2に細胞1が播種された直後は、ただちに増殖することなく、誘導期(あるいは、遅滞期ともいう)を経て、増殖する対数増殖期に入る。その後、栄養素が減少したり、あるいは、老廃物(代謝物)が蓄積したりすることで、対数増殖期が終了し、定常期(あるいは、静止期ともいう)に入る。定常期においては、増殖する細胞1の数と、死滅する細胞1の数との間の均衡が保たれている。定常期がしばらく続いた後、死滅する細胞1が増加していくと、死滅期(あるいは衰退期ともいう)に入る。
【0055】
測定データ510には、細胞1の培養を開始するタイミングt0に測定対象を測定して得られる測定結果を含んでいてもよい。なお、細胞1の培養を開始するときには、細胞1を培地2を播種する前のタイミングと、細胞1を培地2を播種した直後のタイミングとを含み得る。タイミングt0における測定結果は、培養容器10内の初期状態を示している。測定データ510に培養容器10内の初期状態を示す測定結果が含まれている場合、測定データ510は、初期状態からの変化を示すことになる。
【0056】
また、測定データ510は、対数増殖期であるタイミングt1~タイミングt2の間に測定対象を測定して得られる測定結果を含んでいてもよい。すなわち、細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の少なくとも1のタイミングが、対数増殖期であるタイミングt1~タイミングt2の間のタイミングである。対数増殖期においては、細胞1の数が大きく変動するため、培養容器10内の物質の状態が大きく変動する。このように大きな状態変化が起きるタイミングで測定対象を測定した結果を時系列データ512に含めることで、推定装置200は、細胞1の状態変化をより正確に示したデータを使用して原薬3の品質を予測できる。
【0057】
また、測定データ510は、定常期であるタイミングt2~タイミングt3の間に測定対象を測定して得られる測定結果を含んでいてもよい。すなわち、細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の少なくとも1のタイミングが、定常期であるタイミングt2~タイミングt3の間のタイミングである。定常期においては、増殖する細胞1の数と、死滅する細胞1の数との間の均衡が保たれており、細胞1の数が最大となる。このように、細胞1の数が最大となったタイミングで測定対象を測定した結果を時系列データ512に含めることで、推定装置200は、細胞1の数が最大となったときの培養容器10内の物質の状態を示したデータを使用して原薬3の品質を予測できる。
【0058】
測定データ510(時系列データ512)には、タイミングt3以降の死滅期に測定した測定結果が含まれる。細胞が死滅することで、細胞内の酵素などが培地中に暴露され、原薬の品質に影響を与える可能性がある。この場合、細胞の死滅期に測定した測定結果は、悪い品質のデータの例として機械学習に活かせる可能性がある。
【0059】
図5は、測定データ510の一例を示す図である。なお、図5示す例では、細胞1を培地2に播種してからの複数のタイミングで測定した時系列データ512a~512fを例に示しているが、各時系列データ512a~512fは、細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の少なくとも1のタイミングにおいて測定対象を測定した測定結果を含むものであればよい。
【0060】
測定データ510は、細胞1を測定して得られる測定結果として、たとえば、細胞数の時系列データ512a、生細胞率の時系列データ512b、細胞形状の時系列データ512c、または顕微鏡画像の時系列データ512dなどを含む。
【0061】
また、測定データ510は、細胞1の代謝により生成される代謝物を測定して得られる測定結果として、たとえば、代謝物の時系列データ512を含む。なお、代謝物には、細胞1が外に分泌する代謝物、および細胞1そのものに含まれる代謝物のうちの少なくとも一つを含
【0062】
また、測定データ510は、細胞1が摂取する栄養素を測定して得られる測定結果として、たとえば、培地成分の時系列データ512fを含む。なお、細胞1が培地に含まれる成分と共通の成分を代謝により生成する場合、培地成分の時系列データ512fが、代謝物の時系列データになり得る。
【0063】
すなわち、測定対象である物質は、細胞1が摂取する栄養素、細胞1の代謝により生成される代謝物、および細胞1のうちの少なくとも一つである。なお、測定データ510は、培養容器10内の培養液のpH、温度などの情報を含んでいてもよい。
【0064】
図4および図5を参照して、推定装置200が受け付ける測定データ510について説明した。なお、学習装置300が受け付ける学習用データ530に含まれる時系列データ512も、推定装置200が受け付ける測定データ510と同様に、複数種類の時系列データを含んでいてもよい。
【0065】
たとえば、学習用データ530に含まれる時系列データ512は、細胞1が摂取する栄養素、細胞1の代謝により生成される代謝物、および細胞1のうちの少なくとも一の物質を測定対象として、当該測定対象の経時変化を示すものであってもよい。
【0066】
より具体的には、学習用データ530に含まれる時系列データ512は、細胞を測定して得られる、細胞数の時系列データ、生細胞率の時系列データ、細胞形状の時系列データ、または顕微鏡画像の時系列データなどを含む。また、学習用データ530に含まれる時系列データ512は、代謝物を測定して得られる代謝物の時系列データを含む。また、学習用データ530に含まれる時系列データ512は、栄養素を測定して得られる培地成分の時系列データを含む。なお、学習用データ530に含まれる時系列データ512は、培養容器10内の培養液のpH、温度などの情報を含み得る。
【0067】
また、予測モデル420を生成する際に用いた時系列データ512と、当該予測モデル420を用いて品質予測データ540を生成する際に予測モデル420に入力する測定データ510とは、互いに、共通の物質を測定対象として得られる測定結果を少なくとも含んでいる。すなわち、予測モデル420を生成する際に細胞数の経時変化を示す時系列データを用いた場合は、当該予測モデル420に入力する測定データ510は、細胞数を示す測定結果を少なくとも含む。
【0068】
[推定装置200の予測部220の構成]
図6は、予測部220の構成の一例を示すブロック図である。予測部220は、推定処理部222と判定部224とを備える。推定処理部222は、受付部210が受け付けた測定データ510を予測モデル420に入力し、予測結果を得る。予測結果は、たとえば、予測値542である。
【0069】
一般的に、原薬3の品質は、1または複数の観点から評価される。そこで、予測モデル420は、予測結果として、特定の観点から評価した場合の予測値542を出力するように構成されていてもよい。予測値542は、一例として、培養中の細胞から得られる原薬3を特定の観点で分析した際に得られる結果の推定値、または、得られた推定値が目的の原薬の結果とどの程度類似しているかを示す類似度である。
【0070】
原薬3の品質を評価するための観点としては、たとえば、物理的性質、化学的性質、生物活性、免疫化学的性質などがある。予測モデル420は、複数の観点のそれぞれで原薬3を評価した場合に得られる複数の予測値を出力するように構成されていてもよい。たとえば、予測モデル420は、第1観点(たとえば、物理的性質)から評価した場合に得られる第1予測値と、第2観点(たとえば、生物活性)から評価した場合に得られる第2予測値とを出力するようにしてもよい。
【0071】
なお、予測モデル420は、第1観点で原薬の品質を評価した場合の第1予測値を出力するための第1予測モデルと、第2観点で原薬の品質を評価した場合の第2予測値を出力するための第2予測モデルとを含むように構成されていてもよい。
【0072】
判定部224は、予測値542に基づいて原薬3の品質を判定して判定結果544を生成する。判定結果544は、2段階の評価結果(たとえば、良い/悪い)であってもよく、複数段階の評価結果(たとえば、A,B,C・・・など)であってもよく、また、点数形式の評価結果(たとえば、50点、95点・・・など)であってもよい。
【0073】
判定部224は、予測モデル420が複数の観点のそれぞれで原薬3を評価した場合に得られる複数の予測値を出力するように構成されている場合、複数の予測値から原薬3の品質を判定して判定結果544を生成する。なお、この場合に、判定部224は、複数の予測値の各々に対して、観点の重要度に応じた重み付けを行っても良い。
【0074】
品質予測データ540は、推定処理部222が生成した予測値542と、判定部224が生成した判定結果544とを含む。たとえば、予測モデル420が複数の観点のそれぞれで原薬3を評価した場合に得られる複数の予測値を出力するように構成されている場合、品質予測データ540には、複数の予測値(第1予測値、第2予測値など)が含まれることとなる。
【0075】
品質予測データ540に複数の観点のそれぞれで原薬3を評価した場合に得られる複数の予測値が含まれることにより、原薬の品質を様々な観点で評価することができる。
【0076】
また、品質予測データ540に判定結果544が含まれているため、原薬の品質に対する予測結果をより分かり易く示すことができる。
【0077】
出力部230は、品質予測データ540を出力する。図7は、出力部230が出力する出力結果の一例を示す図である。
【0078】
図7に示すように、出力部230は、観点ごとに得られる予測値542と合わせて、判定結果544を出力するようにしてもよい。
【0079】
なお、予測部220は、原薬の品質を総合的に判定する判定部224を備えていなくともよい。
【0080】
[推定方法]
図8は、本実施の形態1にかかる推定方法の流れを示すフローチャートである。推定方法は、細胞を培養する培養工程(S100)と、培養容器内の物質を測定する測定工程(S200)と、測定結果を含む測定データ510に基づいて原薬3の品質を予測する予測工程(S300)と、予測工程で得られた品質予測データ540を出力する出力工程(S400)とを含む。
【0081】
培養工程(S100)は、細胞1を培地2に播種する工程(S110)を含む。また、培養工程(S100)は、培養条件(予め定められたプロトコル)に応じて、培地2を入れ替える工程(S112)、および試薬を添加する工程(S114)などを含み得る。なお、培地2は、液体であっても、固体であってもよい。
【0082】
測定工程(S200)は、培養工程(S100)中に1または複数行われ得る。測定工程(S200)は、たとえば、細胞1を培地2に播種する工程(S110)が行われるタイミング、培地2を入れ替える工程(S112)が行われるタイミング、および試薬を添加する工程(S114)が行われるタイミングなど、任意のタイミングで行われる。
【0083】
すなわち、測定タイミングは、細胞1を培地2に播種する工程(S110)が行われるタイミング、培地2を入れ替える工程(S112)が行われるタイミング、および試薬を添加する工程(S114)が行われるタイミングなどであってもよい。このように、培養工程(S100)において発生する作業タイミングと測定タイミングとを合わせることで、コンタミネーションを防止することができる。なお、図4を参照して説明したように、測定タイミングは、対数増殖期中または定常期中または死滅期であってもよい。
【0084】
測定工程(S200)が培養工程(S100)中に1または複数行われることで、細胞1を培地2に播種してから所定期間経過した後の少なくとも一のタイミングで培養容器10内の物質が測定されて測定結果を得られる。
【0085】
なお、培養工程(S100)および測定工程(S200)は、人の手によって行われるものであっても、機械によって自動化または半自動化されたものであってもよい。
【0086】
予測工程(S300)は、測定データ510の入力を受け付ける工程(S310)と、測定データ510を予測モデル420に入力する工程(S312)と、予測モデル420から予測結果を取得する工程(S314)と、品質予測データ540を生成する工程(S316)とを含む。すなわち、予測工程(S300)においては、測定工程(S200)において得られた測定結果を含む測定データ510を予測モデル420に入力することで品質予測データ540が生成される。なお、S310~S316およびS400は、具体的には、推定装置200によって行われる。
【0087】
[学習方法]
図9は、本実施の形態1にかかる学習方法の流れを示すフローチャートである。学習方法は、細胞を培養する培養工程(S10)と、培養容器内の物質を測定する測定工程(S20)と、原薬を取得する精製工程(S30)と、原薬の品質を解析する解析工程(S40)と、学習用データ530を用いて学習処理を実行して予測モデル420を生成する学習工程(S50)とを含む。
【0088】
培養工程(S10)は、推定方法に含まれる培養工程(S100)と共通する。具体的には、培養工程(S10)は、細胞1を培地2に播種する工程(S11)を含む。また、培養工程(S10)は、培養条件(予め定められたプロトコル)に応じて、培地2を入れ替える工程(S12)、および試薬を添加する工程(S13)などを含み得る。なお、培地2は、液体であっても、固体であってもよい。
【0089】
測定工程(S20)は、培養工程(S10)中に複数行われる。これにより、測定対象の経時変化を示す時系列データ512が得られる。測定工程(S20)は、たとえば、細胞1を培地2に播種する工程(S11)が行われるタイミング、培地2を入れ替える工程(S12)が行われるタイミング、および試薬を添加する工程(S13)が行われるタイミングなど、任意のタイミングで行われる。
【0090】
すなわち、測定タイミングは、細胞1を培地2に播種する工程(S11)が行われるタイミング、培地2を入れ替える工程(S12)が行われるタイミング、および試薬を添加する工程(S13)が行われるタイミングなどであってもよい。このように、培養工程(S10)において発生する作業タイミングと測定タイミングとを合わせることで、コンタミネーションを防止することができる。なお、図4を参照して説明したように、測定タイミングは、対数増殖期中または定常期中または死滅期であってもよい。
【0091】
測定工程(S20)が培養工程(S10)中に複数行われることで、細胞1を培地2に播種してからの複数のタイミングで培養容器10内の物質が測定されて測定結果を得られる。
【0092】
なお、培養工程(S10)および測定工程(S20)は、人の手によって行われるものであっても、機械によって自動化または半自動化されたものであってもよい。
【0093】
精製工程(S30)は、培養容器10内の培養液から目的の成分だけを抽出する作業である。精製工程(S30)を経ることで、目的の成分が高い純度で含まれた原薬を得ることができる。
【0094】
解析工程(S40)においては、1または複数の観点で原薬を評価するために、1または複数種類の分析が行われて品質データ520を得られる。複数種類の分析が行われた場合、品質データ520には、複数種類の解析結果(分析結果)が含まれ得る。
【0095】
学習工程(S50)は、学習用データ530の入力を受け付ける工程(S51)と、学習用データ530を用いて学習処理を行う工程(S52)と、学習処理によって生成された予測モデル420を出力する工程(S53)とを含む。なお、本実施の形態1において、予測モデル420の出力先は、サーバ400である。なお、予測モデル420は、出力されることなく、学習装置300のストレージ33に格納されてもよい。S51~S53は、具体的には、学習装置300によって行われる。
【0096】
<変形例>
[学習装置の変形例]
上記実施の形態1において、学習装置300は、学習用データ530を外部から取得するものとした。なお、学習装置は、学習用データ530を生成する機能を有していても良い。また、上記実施の形態1において、図4を参照して、推定装置200が受け付ける測定データ510を得るための測定タイミングについて説明した。細胞1の増殖曲線は、細胞1の種類に応じて異なる。そのため、学習装置は、品質予測データ540を生成する予測時における測定タイミングを特定するための機能を有していても良い。
【0097】
図10は、変形例にかかる学習装置の構成を示すブロック図である。図10には、上記実施の形態1にかかる学習装置300が備えていない構成を示している。学習装置300aは、学習用データ生成部312およびタイミング特定部330をさらに備える点で、学習装置300と異なる。
【0098】
学習用データ生成部312は、時系列データ512および品質データ520に基づいて学習用データ530を生成する。学習用データ生成部312は、図示していないものの、生成した学習用データ530を受付部310に送る。受付部310は、送られた学習用データ530の入力を受け付ける。
【0099】
タイミング特定部330は、細胞数の時系列データ512aに基づいて、品質予測データ540を生成する予測時における測定タイミングを特定する。より具体的には、タイミング特定部330は、時系列データ512aに基づいて、誘導期、対数増殖期、定常期、および死滅期を特定し(図4参照)、タイミングt1~タイミングt3を特定可能な情報を生成する。タイミングt1~タイミングt3を特定可能な情報とは、たとえば、細胞1を培地2に播種してからの時間を含む。ユーザは、タイミングt1~タイミングt3を特定可能な情報に基づいて、予測時における測定タイミングを決定できる。
【0100】
[培養条件について]
上記実施の形態1において、培養条件は、予測モデル420を生成する時と、生成された予測モデル420を用いて品質予測データ540を生成する時とで同じであるものとした。なお、予測モデル420を生成する時と、生成された予測モデル420を用いて品質予測データ540を生成する時とで、培養条件は、共通でなくともよい。この場合の学習方法と推定方法について、図11図13を参照して説明する。
【0101】
図11は、モデル生成部の変形例を示す図である。変形例にかかるモデル生成部320aは、複数種類の学習用データ530a,530bに基づいて、予測モデル420aを生成する。
【0102】
学習用データ530a,530bの各々は、条件データ550を含む。条件データ550は、培養条件を示す情報である。たとえば、培養条件を変えて、培養工程、測定工程、精製工程、解析工程を繰り返すことで(図9参照)、互いに異なる培養条件の下で生成された学習用データ530a,530bなどが得られる。
【0103】
培養条件が異なるとは、培地2の成分が異なること、および添加する試薬の種類が異なることなど使用する薬品の種類が異なることに加えて、温度条件が異なること、試薬の添加タイミングが異なることなども含み得る。
【0104】
条件データ550は、使用した薬品の情報、温度条件、試薬の添加タイミングなどの情報を含み得る。なお、条件データ550は、具体的な培養手技の情報ではなく、各学習用データ530a,530bが互いに異なる培養条件の下で得られたことを示すに過ぎない情報(たとえば、条件A,条件Bなど)であってもよい。
【0105】
モデル生成部320aは、培養容器10内の物質の経時変化と原薬3の品質との間の関連性に加えて、培養条件の違いと培養容器10内の物質の経時変化との関連性、あるいは、培養条件の違いと原薬3の品質との関連性を学習させて予測モデル420aを生成する。
【0106】
図12は、変形例にかかる推定装置の構成を示すブロック図である。図12には、上記実施の形態1にかかる出力部の構成について、記載を省略している。推定装置200aは、受付部210に代えて受付部210aを、予測部220に代えて予測部220aを備える点で上記実施の形態1にかかる推定装置200と異なる。
【0107】
受付部210aは、測定データ510に加えて、培養条件を示す条件データ550の入力を受け付ける。予測部220aは、測定データ510に加えて条件データ550を、図13に示したモデル生成部320aが生成した予測モデル420aに入力して、原薬の品質を示す予測結果を得る。
【0108】
予測モデル420aは、培養条件の違いと培養容器10内の物質の経時変化との関連性、あるいは、培養条件の違いと原薬3の品質との関連性を考慮したモデルとなっているため、予測モデル420に比較してより正確に原薬3の品質を予測することができる。予測モデル420aを生成する時と、生成された予測モデル420aを用いて品質予測データ540を生成する時とで培養条件が異なっている場合であっても、予測モデル420aが培養条件の違いを考慮したモデルとなっているため、予測部220aは、測定データ510に加えて条件データ550を予測モデル420aに入力することで原薬の品質を示す予測結果を得ることができる。すなわち、予測部220aは、培養条件の違いと品質との関連性を考慮した予測結果を得ることができる。
【0109】
図13は、予測モデルの変形例を示す図である。たとえば、図13に示すように、培養条件A専用の予測モデル420-1、培養条件B専用の予測モデル420-2というように、モデル生成部は、培養条件ごとに予測モデルを生成してもよい。
【0110】
この場合、推定装置は、条件データ550に基づいて、培養条件に合った予測モデルを使用するようにしてもよい。
【0111】
実施の形態2.
[予測システムの全体構成]
図14は、本実施の形態2にかかる予測システムの全体構成を模式的に示す図である。予測システムSYS2は、予測システムSYS1と同様に、細胞培養によって製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を予測する機能を備える。予測システムSYS2は、予測システムSYS1が有する機能に加えて、培養条件を最適化する機能を備える。予測システムSYS2は、培養条件を最適化する最適化装置600を備える。
【0112】
最適化装置600は、学習用データ530に含まれる時系列データ512および品質データ520に基づいて、品質の高い原薬3を得るために最適な培養条件を推定する。最適化装置600は、推定した最適な培養条件を出力する。ユーザは、最適化装置600から出力された培養条件に基づいて、新たな培養試験を実施する。培養試験は、培養工程(ステップS10)と、精製工程(ステップS30)と、解析工程(ステップS40)とを含む。これらの各工程は、実施の形態1として説明した各工程と同様である。各工程の詳細は、図9に示されているので、ここでは、その説明を繰り返さない。
【0113】
新たに培養試験が実施されると、最適化装置600には、新たな学習用データ530が入力される。最適化装置600は、これまでに入力済みの学習用データ530と新たに入力された学習用データ530とを用いて、最適な培養条件を推定し直す。最適化装置600は、新たに推定した培養条件を出力する。ユーザは、最適化装置600から出力された培養条件に基づいて、次の培養試験を実施する。
【0114】
したがって、培養試験の回数が増えるごとに培養条件がより最適化される。培養条件の最適化が進むことにより、学習用データ530の性質がより品質の高い原薬3の生成に向かう方向に変化する。換言すると、培養条件の最適化が進むことにより、学習用データ530の質が高まる。学習用データ530の質が高まることによって、予測モデル420を最適化する精度が高まる。
【0115】
最適化装置600は、ユーザの指示に応じて、最適化した培養条件を出力する。ユーザは、推定装置200を用いて原薬の品質を予測する際に、最適化装置600から出力された培養条件に基づいて細胞を培養することができる。したがって、ユーザは、品質の高い原薬を生成できる環境において、原薬の品質を予測できる。
【0116】
したがって、最適化装置600は、予測モデル420を生成する過程と、予測モデル420を活用して原薬の品質を予測する過程との両過程において、極めて有効に機能する。実施の形態2にかかる予測システムSYS2によれば、より高品質な原薬を効率的に入手できる可能性が高まる。
【0117】
[最適化装置のハードウェア構成]
図15は、最適化装置600のハードウェア構成を示すブロック図である。最適化装置600は、プロセッサ61と、メインメモリ62と、ストレージ63と、通信I/F64と、USBI/F65と、入力部66と、表示部67とを備える。これらのコンポーネントは、プロセッサバス68を介して接続されている。
【0118】
プロセッサ61は、CPUやGPUなどで構成され、ストレージ63に記憶されたプログラム(一例として、最適化プログラム630)を読み出して、メインメモリ62に展開して実行する。プロセッサ61は、プログラムを実行することで、培養条件のパラメータの最適値を探索するための一連の処理を行う。
【0119】
メインメモリ62は、例えば、RAMや、DRAMなどの揮発性記憶装置で構成される。ストレージ63は、例えば、HDDやSSDなどの不揮発性記憶装置などで構成される。
【0120】
ストレージ63には、USBI/F65を介して送られる学習用(推定用)データ530、培養条件のパラメータの最適値620を探索するための最適化プログラム630、およびプロセッサ61によって新たに決定された培養条件のパラメータの最適値620が記憶される。
【0121】
通信I/F64は、有線通信または無線通信を用いて、他の通信機器との間で信号をやり取りする。
【0122】
USBI/F65には、着脱自在にUSBメモリ(不図示)が装着され、USBメモリ内に格納された学習用データ530を読み出す。
【0123】
入力部66は、ユーザ操作を受け付け、典型的には、タッチパネル、キーボード、マウスなどで構成される。表示部67は、画像を表示可能な液晶パネルなどで構成される。
【0124】
[最適化装置600の構成]
図16は、最適化装置600の構成の一例を示すブロック図である。最適化装置600は、プロセッサ61(図15参照)が最適化プログラム630(図15参照)を実行することで実現されるソフトウェア構成の一例として、受付部601と、推定部602と、出力部603と、記憶部604とを備える。
【0125】
最適化装置600は、原薬3の品質のレベルを高める培養条件(以下、最適解ともという)をベイズ的最適化(Bayesian Optimization)により探索する。ここで、培養条件は、複数のパラメータの値の組合せである。ベイズ的最適化は、ベイズ確率に基づいて、観測された事象から最適な事象を統計的アプローチで推定する手法である。ベイズ的最適化では、設定された最適解を元にした試行が実行され、その試行の結果に基づいて、別の最適解が探索される。探索された最適解は、次の試行に使用する最適解として設定される。
【0126】
受付部601は、推定用データを受け付ける。推定用データは、図14に示す学習用データ530に含まれる。推定用データは、時系列データ512の少なくとも一部と品質データ520とを含む。推定部602は、推定用プログラムを実行することにより、ベイズ的最適化によって培養条件の最適解を探索する。記憶部604は、推定用プログラム、入力された推定用データ、および探索された最適解を格納する複数のメモリを含む。出力部603は、たとえば、培養条件の最適解を表示する表示部67(図15)である。出力部603は、培養条件の最適解をディスプレイあるいはプリンタに出力するためのインターフェイスであってもよい。
【0127】
ウインドウW10内に示すように、1つの推定用データは、1回の培養試験で用いた培養条件のデータと品質データとから成る。培養条件のデータは、培養条件を定義する複数のパラメータp1,p2,…pnから成る。各種パラメータは、たとえば、栄養素濃度、PH、温度、湿度、培地成分、添加する試薬の種類、試薬の添加タイミングなどのうちのいずれかである。
【0128】
各種パラメータは、たとえば、細胞を培地に播種するタイミングで採取される培地条件である。このタイミングは、図4に示す測定タイミングt0に該当する。つまり、各種パラメータの値は、図14に示す時系列データ512のうち、測定タイミングt0で測定されたパラメータの値である。ただし、受付部601には、図4に示す各種の測定タイミングで測定された各種のパラメータの値をさらに入力してもよい。たとえば、栄養素の濃度の経時変化や代謝物の濃度の経時変化、培養容器内の培養液のpHの変化、温度の変化、湿度の変化などを表す値を推定用データとして受付部601に入力してもよい。推定部602はそれらの推定用データに基づいて最適な培養条件を探索してもよい。
【0129】
[培養条件の最適化方法]
図17は、最適化装置600の処理の流れを示すフローチャートである。以下、図16および図17を参照して、最適化装置600が最適な培養条件を推定する処理の流れを説明する。
【0130】
はじめに、推定部602は、受付部601に推定用データが入力されたか否かを判定する(ステップS600)。受付部601に推定用データが入力された場合、推定部602は、入力された推定用データを記憶部604に格納する(ステップS601)。ステップS601が繰り返し実行されることにより、受付部601に入力された推定用データが記憶部604に蓄積される。次に、推定部602は、記憶部604に格納されている全ての推定用データを用いて、最適な培養条件のパラメータp1,p2,…pnの値を決定する(ステップS602)。ステップS602において、推定部602は、原薬3の品質のレベルに対して最適値を与える培養条件をベイズ的最適化により探索する。
【0131】
培養条件の探索は、推定用データが1つ入力される毎に実施するよりも、複数回の培養試験に対応する複数の推定用データが入力されたタイミングで実施することが望ましい。たとえば、4回~10回の培養試験に対応する4~10の推定用データが入力される毎にステップS602の処理を実施することが考えられる。
【0132】
次に、推定部602は、新たに決定されたパラメータの最適値を記憶部604に記憶する。前回の探索で決定されたパラメータの最適値が記憶部604に格納されている場合、推定部602は、それらの値を新たに決定されたパラメータの最適値で更新する(ステップS603)。次に、推定部602は、新たに決定したパラメータの値を出力部603から出力する(ステップS604)。
【0133】
出力部603からされたパラメータの値は、最適な培養条件を示す最新のパラメータの値である。ユーザは、出力されたパラメータの値に基づいて新たな培養試験を1回または複数回実施する。新たな培養試験に対応する推定用データが最適化装置600に入力されると、推定部602は、最適な培養条件のパラメータの値を再び探索する。探索の結果は、現時点での最適なパラメータの値として記憶部604に格納される。したがって、培養試験と最適化装置600による培養条件の最適化とが繰り返されることによって、最適化装置600に格納される培養条件のパラメータの値の最適化が進行する。
【0134】
推定部602は、ステップS600においてNOと判定した場合、パラメータの値を出力する要求があったか否かを判定する(ステップS605)。たとえば、ユーザがある培養試験によって得られる原薬の品質を推定装置200により予測したい場合、培養試験の培養条件を定める必要がある。培養試験の培養条件を定める際に、最適化装置600に格納されているパラメータ値を参考にすることは有用である。ステップS600においてパラメータの値を出力する要求があったと判定した場合、推定部602は記憶部604に格納されているパラメータ値を出力部603から出力し(ステップS604)、本フローチャートに基づく処理を終える。
【0135】
[予測システムの変形例]
図18は、本実施の形態2に係る予測システムの変形例を示す図である。変形例において、学習装置300は、図16に示した最適化装置600の機能を備える最適化部6000を備えている。最適化部6000は、最適化装置600と同様に、受付部601と、推定部602と、出力部603と、記憶部604とを備える。学習装置300は、学習用データ530に基づいて予測モデル420を最適化するとともに培養条件のパラメータの最適値を探索する。したがって、変形例によれば、学習装置300の付加価値を高めることができる。さらに、変形例によれば、学習装置300と別に最適化装置600を設ける必要がないため、コストの低減を図ることができる。
【0136】
なお、最適化装置600または最適化部6000は、ベイズ的最適化に代えてグリッドサーチの手法を用いて培養条件のパラメータの値を最適化してもよい。
【0137】
[態様]
上述した各実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0138】
(第1項)一態様に係る推定装置は、測定データの入力を受け付ける受付部と、受付部が受け付けた測定データを予測モデルに入力することで、原薬の品質を示す品質予測データを生成する予測部と、予測部が生成した品質予測データを出力する出力部とを備える。測定データは、細胞を培地に播種してから所定期間経過した後の少なくとも一のタイミングで当該細胞および当該培地を含む培養容器内の少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む。予測モデルは、細胞を培養することで製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を予測するためのモデルである。
【0139】
第1項に記載の推定装置においては、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を予測することができる。そのため、ユーザは、予測された原薬の品質に基づいて、原薬を得るための精製工程前の培養工程の段階でプロトコルを見直したり、培養時間を延長したり、あるいは培養を中止するといった様々な対処をすることができるため、結果としてバイオ医薬品の製造コストを下げることができる。
【0140】
(第2項)第1項に記載の推定装置において、測定データは、細胞を培地に播種してからの複数のタイミングで少なくとも一の物質を測定することで得られる測定結果を含む。
【0141】
(第3項)第1項または第2項に記載の推定装置において、測定データは、細胞の培養を開始するときに前記少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む。
【0142】
(第4項)第1項~第3項のうちいずれか1項に記載の推定装置において、測定データは、細胞の対数増殖期に少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む。
【0143】
対数増殖期では細胞の数が大きく変動するため、培養容器内の物質の状態が大きく変動することが予想される。大きな状態変化が起きるタイミングで測定対象を測定した結果が測定データに含まれるため、第4項に記載の推定装置は、細胞の状態変化をより正確に示したデータを使用して原薬の品質を予測できる。
【0144】
(第5項)第1項~第4項のうちいずれか1項に記載の推定装置において、測定データは、細胞の定常期に少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む。
【0145】
定常期においては、増殖する細胞の数と、死滅する細胞の数との間の均衡が保たれており、細胞の数が最大となる。細胞の数が最大となったタイミングで測定対象を測定した結果が測定データに含まれるため、第5項に記載の推定装置は、細胞の数が最大となったときの培養容器内の物質の状態を示したデータを使用して原薬の品質を予測できる。
【0146】
(第6項)第1項~第4項のうちいずれか1項に記載の推定装置において、測定データは、前記細胞の死滅期に前記少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む(図5)。
【0147】
死滅期においては、細胞が死滅することで、細胞内の酵素などが培地中に暴露され、原薬の品質に影響を与える可能性がある。この場合、細胞の死滅期に測定した測定結果は、悪い品質のデータの例として機械学習に活かせる可能性がある。
【0148】
(第7項)第1項~第6項のうちいずれか1項に記載の推定装置において、少なくとも一の物質は、細胞が摂取する栄養素、細胞の代謝により生成される代謝物、および細胞のうちの少なくとも一つである。
【0149】
(第8項)第1項~第7項のうちいずれか1項に記載の推定装置において、予測モデルからは、受付部が受け付けた測定データを入力することで、第1観点で原薬の品質を評価した場合の第1予測値と、第2観点で原薬の品質を評価した場合の第2予測値とが出力される。品質予測データは、第1予測値と、第2予測値とを含む。
【0150】
第8項に記載の推定装置においては、原薬の品質を様々な観点で評価することができる。
【0151】
(第9項)第1項~第7項のうちいずれか1項に記載の推定装置において、予測モデルからは、受付部が受け付けた測定データを入力することで、所定の観点で原薬の品質を評価した場合の予測値が出力される。予測部は、予測値に基づいて原薬の品質を判定する判定部を含む。品質予測データは、原薬の品質を判定した判定結果を含む。
【0152】
第9項に記載の推定装置においては、原薬の品質に対する予測結果をより分かり易く示すことができる。
【0153】
(第10項)第1項~第8項のうちいずれか1項に記載の推定装置において、受付部は、細胞の培養条件を示す条件データの入力をさらに受け付ける。予測部は、受付部が受け付けた測定データおよび条件データを予測モデルに入力することで品質予測データを生成する。
【0154】
第10項に記載の推定装置においては、培養条件の違いと品質との関連性を考慮した予測結果が得られ、より正確な予測結果を得られる。
【0155】
(第11項)また、一態様に係る学習装置は、学習用データを受け付ける受付部と、受付部が受け付けた学習用データを用いて学習処理を実行することにより予測モデルを生成するモデル生成部とを備える。学習用データは、細胞を培地に播種してからの複数のタイミングで当該細胞および当該培地を含む培養容器内の少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果を含む測定データと、細胞から製造されるバイオ医薬品の原薬を解析して得られる品質データと含む。予測モデルは、細胞を培養している途中における培養容器内の少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果に基づいて、当該培養している途中における培養容器に含まれる細胞から製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を示す品質予測データを生成するためのモデルである。
【0156】
第11項に記載の学習装置は、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を予測するための予測モデルを生成できる。そのため、ユーザは、予測された原薬の品質に基づいて、原薬を得るための精製工程前の培養工程の段階でプロトコルを見直したり、培養時間を延長したり、あるいは培養を中止するといった様々な対処をすることができるため、結果としてバイオ医薬品の製造コストを下げることができる。
【0157】
(第12項)また、一態様に係る学習装置において、学習用データは、細胞の培養条件を示す条件データをさらに含み、条件データは、培養条件を定義する複数のパラメータの値を含み、学習装置は、複数のパラメータの値の組み合わせを最適化する最適化部をさらに備え、最適化部は、複数のパラメータの値と複数のパラメータの値に基づいて細胞を培養したときに得られた品質データとを入力として、複数のパラメータの値の最適な組み合せを推定する。
【0158】
第12項に記載の学習装置は、培養途中の段階で、細胞の培養条件を定義する複数のパラメータの値の組み合わせを推定できる。そのため、ユーザは、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を高める条件を最適化することができる。
【0159】
(第13項)第11項に記載の学習装置において、学習用データは、培養容器に含まれる細胞を培養する条件を示す条件データをさらに含む。受付部が受け付ける学習用データには、第1条件で細胞を培養したときに得られる第1学習用データと、第1条件とは異なる第2条件で細胞を培養したときに得られる第2学習用データとが含まれる。モデル生成部は、第1学習用データおよび第2学習用データを用いて学習処理を実行することで予測モデルを生成する。
【0160】
第13項に記載の学習装置は、培養条件の違いと培養容器内の物質の経時変化との関連性、あるいは、培養条件の違いと原薬の品質との関連性を考慮した予測モデルを生成できる。そのため、学習装置は、より正確な予測結果を得るための予測モデルを生成できる。
【0161】
(第14項)また、一態様に係る推定方法は、培養容器内に細胞および培地を入れて当該細胞を培養するステップと、細胞を培地に播種してから所定期間経過した後の少なくとも一のタイミングで培養容器内の少なくとも一の物質を測定するステップと、測定するステップにおいて得られた測定結果を含む測定データを予測モデルに入力することで原薬の品質を示す品質予測データを生成するステップと、品質予測データを出力するステップとを含む。予測モデルは、細胞を培養することで製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を予測するためのモデルである。
【0162】
第14項に記載の推定方法においては、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を予測することができる。そのため、ユーザは、予測された原薬の品質に基づいて、原薬を得るための精製工程前の培養工程の段階でプロトコルを見直したり、培養時間を延長したり、あるいは培養を中止するといった様々な対処をすることができるため、結果としてバイオ医薬品の製造コストを下げることができる。
【0163】
(第15項)また、一態様に係る学習方法は、培養容器内に細胞および培地を入れて当該細胞を培養するステップと、細胞を培地に播種してからの複数のタイミングで培養容器内の少なくとも一の物質を測定するステップと、細胞から製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を解析するステップと、学習用データを用いて学習処理を実行することにより予測モデルを生成するステップとを含む。学習用データは、測定するステップにより得られた測定結果を含む測定データと、解析するステップにより得られた品質データとを含む。予測モデルは、細胞を培養している途中における培養容器内の少なくとも一の物質を測定して得られる測定結果に基づいて、当該培養している途中における培養容器に含まれる細胞から製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を示す品質予測データを生成するためのモデルである。
【0164】
第15項に記載の学習方法においては、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を予測するための予測モデルが生成される。そのため、ユーザは、予測された原薬の品質に基づいて、原薬を得るための精製工程前の培養工程の段階でプロトコルを見直したり、培養時間を延長したり、あるいは培養を中止するといった様々な対処をすることができるため、結果としてバイオ医薬品の製造コストを下げることができる。
【0165】
(第16項)また、一態様に係る最適化装置は、細胞を培地に播種するときの培養条件を定義する複数のパラメータの値と細胞を培養することで製造されるバイオ医薬品の原薬を解析して得られる品質データとを受け付ける受付部と、受付部が受け付けた複数のパラメータの値と前記品質データとを入力として、最適な前記複数のパラメータの値の組み合せを推定する推定部と、推定部が推定した複数のパラメータの値の組み合せを出力する出力部とを備える。
【0166】
第16項に記載の最適化装置においては、培養途中の段階で、細胞の培養条件を定義する複数のパラメータの値の組み合わせを推定できる。そのため、ユーザは、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を高める条件を最適化することができる。なお、推定部は、複数のパラメータの値と解析するステップにより得られた品質データとを入力として、ベイズ的最適化を実行することにより、複数のパラメータの値の最適な組み合せを推定してもよい。
【0167】
(第17項)また、一態様に係る最適化方法は、培養容器内に細胞および培地を入れて複数のパラメータの値により定義される培養条件の下で当該細胞を培養するステップと、細胞を培養することで製造されるバイオ医薬品の原薬の品質を解析するステップと、複数のパラメータの値と解析するステップにより得られた品質データとを入力として、複数のパラメータの値の最適な組み合せを推定するステップとを含む。細胞を培養するステップは、推定するステップにより推定された複数のパラメータの値の最適な組み合せを新たな培養条件として、細胞を培養する。
【0168】
第17項に記載の推定方法においては、ユーザは、培養途中の段階で、当該培養を進めて得られる原薬の品質を高める条件を最適化することができる。
【0169】
(第18項)また、一態様に係る予測システムは、第1項~第10項のうちいずれか1項に記載の推定装置と、第11項~第13項のうちのいずれか1項に記載の学習装置と、培養容器内の少なくとも一の物質を測定する測定装置とを備える。
【0170】
なお、第18項に記載の予測システムにおいて、推定装置と測定装置とは、一の情報処理装置によって実現されてもよい。この場合、推定装置の受付部と測定装置の受付部とは、一の受付部として実現されてもよい。すなわち、受付部は、測定装置が物質を測定することで得られる測定データを受け付ける。
【0171】
(第19項)第18項に記載の予測システムにおいて、測定装置は、第1物質を測定する第1測定装置と、第2物質を測定する第2測定装置とを含む。
【0172】
今回開示された各実施の形態は、技術的に矛盾しない範囲で適宜組み合わせて実施することも予定されている。そして、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0173】
1 細胞、2 培地、3 原薬、10 培養容器、21,31,61 プロセッサ、22,32,62 メインメモリ、23,33,63 ストレージ、24,34,64 通信I/F、25,35,65 USBI/F、26,36,66 入力部、27,37,67 表示部、28,38,68 プロセッサバス、100 測定装置、200,200a 推定装置、210,210a,310 受付部、220,220a 予測部、222 推定処理部、224 判定部、230 出力部、300,300a 学習装置、312 学習用データ生成部、320,320a モデル生成部、330 タイミング特定部、400 サーバ、420,420a 予測モデル、510 測定データ、512 系列データ、520 品質データ、530,530a,530b 学習用データ、540 品質予測データ、542 予測値、544 判定結果、550 条件データ、560 推定プログラム、580 学習プログラム、600 最適化装置、601 受付部、602 推定部、603 出力部、604 記憶部、620 パラメータの最適値、630 最適化プログラム、6000 最適化部、SYS1,SYS2 予測システム、W10 ウインドウ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
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図18