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特許7589762固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池、並びに固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法
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  • 特許-固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池、並びに固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池、並びに固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20241119BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20241119BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241119BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/1039
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023053069
(22)【出願日】2023-03-29
(62)【分割の表示】P 2018227448の分割
【原出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2023073395
(43)【公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】浜田 直紀
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-026836(JP,A)
【文献】特開2009-170271(JP,A)
【文献】特許第6332541(JP,B1)
【文献】国際公開第2006/061993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M8/00-8/0297
H01M8/08-8/2495
H01M4/86-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜の両面に電極触媒層が積層された固体高分子形燃料電池用膜電極接合体であって、
前記電極触媒層は、触媒、炭素粒子、及び高分子電解質を含有し、
前記高分子電解質膜は、フッ素系高分子電解質を含有し、
前記電極触媒層と前記高分子電解質膜の界面には、少なくとも1個の空隙部が形成されており、
前記界面に直交する平面で前記固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を切断した場合の断面を、走査型電子顕微鏡により観察した場合に、前記空隙部の前記界面に直交する方向の長さである高さをhとし、前記空隙部の前記界面に平行な方向の長さである幅をwとすると、前記高分子電解質膜の両面側のそれぞれの前記界面において、前記空隙部の前記高さhが0.5μm以下であり、前記界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する前記空隙部の幅wの合計が10μm以下である固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
前記高さhが0.3μm以下である請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
前記電極触媒層は、繊維状物質をさらに含有し、
前記繊維状物質は、プロトン伝導性繊維であり、
前記繊維状物質の繊維径は、0.5nm以上500nm以下の範囲内であり、
前記繊維状物質の繊維長は、1μm以上40μm以下の範囲内である請求項1または請求項2に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項4】
前記繊維状物質の繊維径は、5nm以上200nm以下の範囲内であり、
前記繊維状物質の繊維長は、1μm以上20μm以下の範囲内である請求項3に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
前記電極触媒層の厚さが20μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
【請求項7】
高分子電解質膜の両面に電極触媒層が積層された固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法であって、
前記高分子電解質膜に前記電極触媒層を接合する工程を少なくとも含み、
前記電極触媒層は、触媒、炭素粒子、及び高分子電解質を含有し、
前記高分子電解質膜は、フッ素系高分子電解質を含有し、
前記電極触媒層と前記高分子電解質膜の界面には、少なくとも1個の空隙部が形成されており、
前記界面に直交する平面で前記固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を切断した場合の断面を、走査型電子顕微鏡により観察した場合に、前記空隙部の前記界面に直交する方向の長さである高さをhとし、前記空隙部の前記界面に平行な方向の長さである幅をwとすると、前記高分子電解質膜の両面側のそれぞれの前記界面において、前記空隙部の前記高さhが0.5μm以下であり、前記界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する前記空隙部の幅wの合計が10μm以下である固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池、並びに固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜をカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層で挟持する構造を持つ固体高分子形燃料電池は、常温で作動し、起動時間が短いことから、自動車用電源、定置用電源などとして期待されている。
従来の膜電極接合体の製造方法としては、触媒を担持した炭素粒子、高分子電解質及び溶媒からなる触媒インクを、転写基材又はガス拡散層に塗布した後、高分子電解質膜に熱圧着して作製する方法が知られている。
しかしながら、従来の転写による膜電極接合体の製造方法では、電極触媒層と高分子電解質膜の密着性が低く、電極触媒層と高分子電解質膜との間に空隙部が生じやすかった。そのため、界面抵抗による発電性能の低下や、空隙部への水詰まりによるフラッディングによって発電性能の低下が発生しやすいという問題点があった。
【0003】
このような問題点を解決するため、種々の技術が提案されている。例えば特許文献1には、セラミック粒子を噴射して高分子電解質膜の表面に凹凸を形成し、この凹凸上に電極触媒層を形成することによって、凹凸を触媒層の表面に食い込ませて密着性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2には、電極触媒層と高分子電解質膜の界面にレーザー光を照射し加熱することによって、熱圧着させ密着性を向上させる技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1、2に開示の技術では、膜電極接合体の耐久性が低下するおそれがあるとともに、製造工程が複雑になることにより歩留まりの低下やコストの増加が生じるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-26836号公報
【文献】特開2009-176518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電極触媒層と高分子電解質膜の界面の密着性が良好な固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池、並びに固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、高分子電解質膜の両面に電極触媒層が積層された固体高分子形燃料電池用膜電極接合体であって、高分子電解質膜は、炭化水素系高分子電解質を含有し、高分子電解質膜と電極触媒層の界面に空隙部が存在しないことを要旨とする。
本発明の別の態様に係る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、高分子電解質膜の両面に電極触媒層が積層された固体高分子形燃料電池用膜電極接合体であって、電極触媒層は、触媒、炭素粒子、及び高分子電解質を含有し、高分子電解質膜は、炭化水素系高分子電解質を含有し、電極触媒層と高分子電解質膜の界面には、少なくとも1個の空隙部が形成されており、界面に直交する平面で固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を切断した場合の断面を、走査型電子顕微鏡により観察した場合に、空隙部の界面に直交する方向の長さである高さをhとし、空隙部の界面に平行な方向の長さである幅をwとすると、高分子電解質膜の両面側のそれぞれの界面において、空隙部の高さhが0.5μm以下であり、界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する空隙部の幅wの合計が10μm以下であることを要旨とする。
本発明のさらに別の態様に係る固体高分子形燃料電池は、上記一態様又は別の態様に係る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電極触媒層と高分子電解質膜の界面の密着性が良好な固体高分子形燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池、並びに固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池の内部構造を示す分解斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の構造を説明する図である。
図3】本発明の別の実施形態に係る固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の構造を説明する図である。
図4】電極触媒層と高分子電解質膜の界面の構造の一例を説明する模式的断面図である。
図5】電極触媒層と高分子電解質膜の界面の構造の別の例を説明する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は、以下に記載する実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づく設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本実施形態の範囲に含まれるものである。
また、以下の詳細な説明では、本発明の実施形態について、完全な理解を提供するように、特定の細部について記載する。しかしながら、かかる特定の細部が無くとも、一つ以上の実施形態が実施可能であることは明確である。また、図面を簡潔なものとするために、周知の構造及び装置を、略図で示す場合がある。
【0010】
(固体高分子形燃料電池の構造)
図1に示すように、固体高分子形燃料電池1を構成する高分子電解質膜2には、その両面に、高分子電解質膜2を挟んで互いに向い合う一対の電極触媒層3A、3Fが配置されている。電極触媒層3Aの高分子電解質膜2に対向する面とは反対側の面には、ガス拡散層4Aが、また、電極触媒層3Fの高分子電解質膜2に対向する面とは反対側の面には、ガス拡散層4Fが、高分子電解質膜2及び一対の電極触媒層3A、3Fを挟んで互いに向い合うように配置されている。
【0011】
ガス拡散層4Aの電極触媒層3Aに対向する面とは反対側の面には、この面に対向する主面に反応ガス流通用のガス流路6Aを備え、ガス流路6Aを備える主面に相対する主面に冷却水流通用の冷却水通路7Aを備えたセパレーター5Aが配置されている。さらに、ガス拡散層4Fの電極触媒層3Fに対向する面とは反対側の面には、この面に対向する主面に反応ガス流通用のガス流路6Fを備え、ガス流路6Fを備える主面に相対する主面に冷却水流通用の冷却水通路7Fを備えたセパレーター5Fが配置されている。以下、区別する必要がない場合には、電極触媒層3A及び3Fを単に「電極触媒層3」と記載する場合がある。
【0012】
図2は、本実施形態に係る電極触媒層の構成例を示す模式的断面図である。図2に示すように、本実施形態に係る電極触媒層8は、高分子電解質膜9の表面に接合されており、触媒10、導電性担体としての炭素粒子11、及び高分子電解質12から構成されている。そして、電極触媒層8中において、触媒10、炭素粒子11、及び高分子電解質12のいずれの構成要素も存在しない部分が空孔となっている。
また、本実施形態に係る高分子電解質膜9は、炭化水素系高分子電解質を含んで構成される炭化水素系高分子電解質膜であってもよく、炭化水素系高分子電解質のみで構成される炭化水素系高分子電解質膜であってもよい。本実施形態において、「炭化水素系高分子電解質膜」とは、高分子電解質膜9全体の質量に対し、例えば、後述する炭化水素系高分子電解質を50質量%超含んだ膜を意味する。
【0013】
(触媒インクの製造)
次に、本実施形態に係る固体高分子形燃料電池1の電極触媒層3、8(固体高分子形燃料電池用電極触媒層)を形成するための触媒インクの製造方法について説明する。まず、触媒10を担持した炭素粒子11を分散媒中に混合・分散させ、触媒粒子スラリーを得る。
【0014】
触媒10としては、例えば、白金族元素(白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム)、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属及びこれらの金属の合金、酸化物、複酸化物、炭化物等を用いることができる。
炭素粒子11としては、導電性を有し、触媒10に侵されずに触媒10を担持可能なものであれば、どのようなものでも構わないが、一般的にカーボン粒子が使用される。カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレンを用いることができる。カーボン粒子の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成され難くなり、また、大きすぎると電極触媒層8のガス拡散性が低下したり、触媒の利用率が低下したりするので、10nm以上1000nm以下の範囲内が好ましい。更に好ましくは、10nm以上100nm以下の範囲内である。
【0015】
分散媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール等のアルコール類の中からいずれか一種を選択して用いることが可能である。また、上述した溶媒のうち二種以上が混合された溶媒を用いることが可能である。混合・分散には、例えば、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ディゾルバー等の装置を使用することができる。
【0016】
次に、上記方法で製造した触媒粒子スラリーに高分子電解質12を加える。高分子電解質12としては、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質を用いることができる。それらの中でも、高分子電解質としてデュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。
【0017】
(膜電極接合体の製造)
高分子電解質膜2の両面に電極触媒層3を接合することで、膜電極接合体の製造を行う。この時、高分子電解質膜2に電極触媒層3を接合する方法としては、例えば、転写基材に触媒インクを塗布した電極触媒層付き転写基材を用い、電極触媒層付き転写基材の電極触媒層の表面と高分子電解質膜とを接触させて加熱・加圧することで、高分子電解質膜2と電極触媒層3の接合を行う方法がある。電極触媒層付き転写基材を用いて高分子電解質膜2と電極触媒層3を接触させて加熱・加圧することで接合を行う場合には、電極触媒層3に掛かる圧力や温度が膜電極接合体の発電性能に影響することがある。発電性能の高い膜電極接合体を得るには、積層体に掛かる圧力は、0.1MPa以上20MPa以下の範囲内であることが望ましい。積層体に掛かる圧力が20MPaより大きい場合には電極触媒層3が過圧縮となり、0.1MPaより小さい場合には電極触媒層3と高分子電解質膜2との接合性が低下して、発電性能が低下することがある。また、接合時の温度は、高分子電解質膜2と電極触媒層3の界面の接合性の向上や、界面抵抗の抑制を考慮すると、高分子電解質膜2又は電極触媒層3の高分子電解質12のガラス転移点付近とするのが好ましい。
【0018】
しかしながら、上記の方法によると、電極触媒層3と高分子電解質膜2の密着性が悪く、電極触媒層3と高分子電解質膜2の界面に空隙部が形成されやすい。そして、これにより、界面抵抗による発電性能の低下や、空隙部への水詰まりによるフラッディングによる発電性能の低下といった問題が発生しやすい傾向がある。
【0019】
一方、高分子電解質膜2の表面に触媒インクを直接塗布した後に、触媒インクの塗膜から溶媒成分(分散媒)を除去する方法によっても膜電極接合体を製造することができる。触媒インクを高分子電解質膜2に直接塗布する方法としては、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、スキージー等、様々な塗工方法を用いることができる。特に、ダイコートが好ましい。ダイコートは、塗布中間部分の膜厚が安定しており間欠塗工にも対応可能である。更に、塗布した触媒インクを乾燥させる方法としては、例えば、温風オーブン、IR(遠赤外線)乾燥、ホットプレート、減圧乾燥等を用いることができる。乾燥温度は、40℃以上200℃以下の範囲内、好ましくは40℃以上120℃以下の範囲内である。乾燥時間は、0.5分間以上1時間以内、好ましくは1分間以上30分間以下の範囲内である。
【0020】
この方法によると、電極触媒層3と高分子電解質膜2の密着性が良好で、上記の問題は生じにくい。しかしながら、触媒インクを高分子電解質膜2に直接塗布する方法では、高分子電解質膜2の膨潤により、塗布した電極触媒層3にしわやひび割れが生じやすく、これにより発電性能の低下や耐久性の低下が発生しやすいという問題があった。特にフッ素系高分子電解質膜においては、ガラス転移点が低く、また、膨潤も生じやすいことから、触媒インクを高分子電解質膜2に直接、塗布・乾燥させる工程において、電極触媒層3にしわやひび割れが生じやすい。
【0021】
これに対して、炭化水素系高分子電解質は、ガラス転移点が高く、また、触媒インクを高分子電解質膜2に直接、塗布・乾燥させる工程において膨潤が生じにくいため、本実施形態のように、高分子電解質膜2に炭化水素系高分子電解質を含んだ膜である炭化水素系高分子電解質膜を用いることで、触媒インクを高分子電解質膜2に直接塗布した場合においても電極触媒層3にしわやひび割れが生じにくく、電極触媒層3と高分子電解質膜2の密着性が良好な膜電極接合体を得ることが可能となる。なお、炭化水素系高分子電解質膜に含まれる炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質を用いることができる。
【0022】
以下、高分子電解質膜2として炭化水素系高分子電解質膜を用いた場合に奏する上記効果について詳しく説明する。
電極触媒層を製造する際に用いる触媒インクとして、触媒とアルコールとを含んだインクを用いることがあるが、当該触媒インクにはインク自体が発火(燃焼)する危険性がある。そこで、当該触媒インクを用いる際には、当該触媒インクに水を添加し、インク自体の発火性(燃焼性)を低減することがある。
当該触媒インクに水を添加することで、インク自体の発火性(燃焼性)は低減するが、当該触媒インクの乾燥速度が低下するという弊害がある。そのため、水を添加した当該触媒インクを用いて電極触媒層を製造する際には、触媒インクの乾燥温度を、通常の温度である80℃程度から、例えば90℃程度まで上昇させたいというニーズがあった。
【0023】
ここで、高分子電解質膜として用いられるフッ素系高分子電解質膜には、そのガラス転移点が低いものが多い。そのため、高分子電解質膜としてフッ素系高分子電解質膜を用いた場合には、触媒インクの乾燥温度がフッ素系高分子電解質膜のガラス転移点を上回ることがある。この場合には、フッ素系高分子電解質膜が膨潤し、電極触媒層とフッ素系高分子電解質膜との密着性が低下する傾向がある。
これに対し、本実施形態で用いる炭化水素系高分子電解質膜は、フッ素系高分子電解質膜と比べて、そのガラス転移点が高いものが多い。例えば、炭化水素系高分子電解質膜のガラス転移点は100度以上である。そのため、高分子電解質膜として炭化水素系高分子電解質膜を用いた場合には、触媒インクの乾燥温度を例えば90℃程度まで上昇させたとしても、その乾燥温度が炭化水素系高分子電解質膜のガラス転移点を上回ることは少ない。その結果、炭化水素系高分子電解質膜の膨潤は極めて少なくなり、電極触媒層と炭化水素系高分子電解質膜との密着性は、電極触媒層とフッ素系高分子電解質膜との密着性と比べて向上する傾向がある。
【0024】
一方、フッ素系高分子電解質膜に、しわやひび割れを生じずに触媒インクを高分子電解質膜2に直接塗布する方法としては、触媒インク中に繊維状物質13を添加する方法がある。触媒インク中に繊維状物質13が添加してあれば、電極触媒層3の強度が高まるため、触媒インクを高分子電解質膜2に直接塗布した場合においても電極触媒層3にしわやひび割れが生じにくく、電極触媒層3と高分子電解質膜2の密着性が良好な膜電極接合体を得ることが可能となる。
【0025】
触媒インク中に繊維状物質13を添加して形成した電極触媒層3を備える固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の構成例を図3に示す。
繊維状物質13としては、電子伝導性繊維およびプロトン伝導性繊維が使用できる。繊維状物質13は、以下に示す繊維のうち一種のみを単独で使用してもよいが、二種以上を併用してもよく、電子伝導性繊維とプロトン伝導性繊維を併せて用いてもよい。
【0026】
本実施形態に係る電子伝導性繊維としては、例えば、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、導電性高分子ナノファイバー等が例示できる。特に、導電性や分散性の点でカーボンナノファイバーが好ましい。また、触媒能のある電子伝導性繊維を用いることで、貴金属からなる触媒の使用量を低減できるのでより好ましい。固体高分子形燃料電池の空気極として用いられる場合には、例えば、カーボンナノファイバーから作製したカーボンアロイ触媒が例示できる。また、酸素還元電極用の電極活物質を繊維状に加工したものであってもよく、例えば、Ta、Nb、Ti、Zrから選択される、少なくとも一つの遷移金属元素を含む物質を使用してもよい。これらの遷移金属元素の炭窒化物の部分酸化物、または、これらの遷移金属元素の導電性酸化物や導電性酸窒化物が例示できる。
【0027】
本実施形態に係るプロトン伝導性繊維としては、プロトン伝導性を有する高分子電解質を繊維状に加工したものであればよく、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質を用いることができる。それらの中でも、高分子電解質としてデュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。
【0028】
繊維状物質13の繊維径としては、0.5nm以上500nm以下の範囲内が好ましく、5nm以上200nm以下の範囲内がより好ましい。繊維径をこの範囲にすることにより、電極触媒層3内の空孔を増加させることができ、高出力化が可能になる。
また、繊維状物質13の繊維長は1μm以上40μm以下の範囲内が好ましく、1μm以上20μm以下の範囲内がより好ましい。繊維長をこの範囲にすることにより、電極触媒層3の強度を高めることができ、形成時にしわやひび割れが生じることを抑制できる。また、電極触媒層3内の空孔を増加させることができ、高出力化が可能になる。
【0029】
ここで、本実施形態における空隙部14について、図4を用いて詳細に説明する。電極触媒層8と高分子電解質膜9との界面には、空隙部14が存在しないことがより好ましいが、空隙部14が発生することがある。ここで、上述した「空隙部14が存在しない」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)の拡大率を4000倍に設定し、電極触媒層8と高分子電解質膜9との界面を観察した場合であっても、その界面に空隙部14の存在を確認できないことをいう。
空隙部14の発生原因としては、転写基材(図示せず)に電極触媒層8を形成する際に電極触媒層8の表面に微小凹凸が発生することが挙げられる。その結果、高分子電解質膜9へ電極触媒層8を転写する際に、高分子電解質膜9と電極触媒層8の界面に凹凸による空隙部14が生じる。
【0030】
また、転写基材を経由せず直接高分子電解質膜9に触媒インクを塗布する方法であっても、塗布により形成した電極触媒層8にしわやひび割れが発生すると、これに応じた空隙部14が高分子電解質膜9と電極触媒層8の界面に発生する。
特に、電極触媒層8と高分子電解質膜9の界面に、該界面に直交する方向の長さである高さhが0.5μm超過の空隙部14がある場合や、高さhが0.5μm以下の空隙部14が一定領域に多数ある場合に、発電性能の低下や耐久性が低下するといった問題が発生しやすい。
【0031】
しかしながら、燃料電池においては発電によって水が生成し、燃料電池の使用時には生成水が高分子電解質膜9に染み込むことによって、高分子電解質膜9が膨潤する。そのため、電極触媒層8と高分子電解質膜9の間に空隙部14があったとしても、その空隙部14の高さhが0.5μm以下であり、且つ、界面に平行な方向の長さlが30μmである領域内に存在する空隙部14の幅wの合計が10μm以下であれば、高分子電解質膜9の膨潤によって空隙部14が埋まることを見出した。
【0032】
図4に示す例の場合では、界面に平行な方向の長さlが30μmである領域内に2つの空隙部14、14が存在し、両空隙部14、14の幅w1、w2の合計が10μm以下である。
なお、本実施形態においては、界面に直交する平面で固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を切断した場合の断面を、SEMにより観察した場合に、空隙部14の界面に直交する方向の長さを高さhとし、空隙部14の界面に平行な方向の長さを幅wとする。
【0033】
したがって、高分子電解質膜9と電極触媒層8の界面に発生する空隙部14が上記の2つの数値条件を満たすことで、電極触媒層8と高分子電解質膜9の界面抵抗による発電性能の低下や、空隙部14への水詰まりによるフラッディングによる発電性能の低下が生じにくくなる。空隙部14の高さhは0.5μm以下である必要があり、0.3μm以下であることがより好ましい。空隙部14の高さhが0.3μm以下であれば、高分子電解質膜9の膨潤率が低くても空隙部14が埋まりやすいためである。
また、界面に平行な方向の長さlが30μmである領域内に存在する空隙部14の幅wの合計が10μmを超えると、空隙部14の幅が広くなるため、高分子電解質膜9が膨潤しても空隙部14が埋まりにくい。
【0034】
なお、空隙部14は、界面に直交する平面で固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を切断した場合の断面を、SEMを用いて観察することにより確認することができる。SEMの種類は特に限定されるものではないが、例えば株式会社日立ハイテクノロジーズ製のS-4800を用いることができる。また、SEM観察時の倍率は特に限定されるものではないが、例えば4000倍とすることができる。
【0035】
高分子電解質膜9の一方の面と電極触媒層8との界面に存在する空隙部14の高さh及び幅wが上記範囲内であれば上述の効果が奏されるが、高分子電解質膜9の両面において電極触媒層8との界面に存在する空隙部14の高さh及び幅wが上記範囲内であることがより好ましい。
【0036】
さらに、図5に示すように、高分子電解質膜9の両面側の界面において、高分子電解質膜9を挟んで、界面に平行な方向における同一位置に、または一部が重なるように存在する空隙部14が、上記範囲を同時に満たすことがさらに好ましい。すなわち、高分子電解質膜9の両面側の界面において、界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する空隙部14が共に上記2つの数値条件を満たすことにより、アノード側とカソード側の反応効率をより高めることができる。
【0037】
電極触媒層8の厚さは、5μm以上30μm以下であることが好ましく、特に20μm以下であることが好ましい。電極触媒層8の厚さが30μmよりも大きい場合、より正確には20μmよりも大きい場合には、電極触媒層8にひび割れが生じやすくなり、さらに、電極触媒層8を燃料電池に用いた際に、ガスや生成水の拡散性及び導電性が低下して、出力が低下するおそれがある。電極触媒層8の厚さが5μmよりも薄い場合には、層厚にばらつきが生じ易くなり、内部の触媒や高分子電解質が不均一となることがある。
また、例えば、電極触媒層8中の高分子電解質12の配合率は、炭素粒子11の重量に対して同程度から半分程度が好ましい。また、繊維状物質13の配合率は、炭素粒子11の重量に対して同程度から半分程度が好ましい。触媒インクの固形分比率は、薄膜に塗工できる範囲で、高いほうが好ましい。
【0038】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、複雑な工程を用いることなく、電極触媒層8と高分子電解質膜9の密着性が良好で且つ発電性能及び耐久性に優れた膜電極接合体を製造することが可能である。
【0039】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。
(実施例1)
白金担持カーボン触媒(TEC10E50E,田中貴金属工業社製)と水と1-プロパノールと高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液,和光純薬工業社製)とを混合し、ビーズミル分散機を使用して過分散しない程度に各成分を分散させて、触媒インクを製造した。こうして製造した触媒インクの固形分比率は、10質量%であった。なお、水と1-プロパノールとの質量比は、1:1とした。また、ビーズミル分散機を用いて各成分を分散させる際の条件を以下のように設定した。また、下記条件は、以下の実施例及び比較例において共通とした。
・パス(pass)回数:5回
・ボール(ビーズ)径:直径0.3mm
・アジテータ周速:10m/sec.
【0040】
また、炭化水素系高分子電解質膜は、スーパーエンジニアリングプラスチックを公知の手法でスルホン化することで製造した。
【0041】
製造した触媒インクを、炭化水素系高分子電解質膜の両表面にスリットダイコーターを用いて直接塗布し、乾燥させて電極触媒層を形成して、膜電極接合体を得た。
こうして得た膜電極接合体を、まず、ミクロトーム(Leica製 EM UC7ウルトラミクロトーム)を用いて切片化した。次に、この切片化した膜電極接合体を、拡大率を4000倍に設定したSEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のS-4800)を用いて、電極触媒層と高分子電解質膜の間の界面を観察した。
実施例1の膜電極接合体は、電極触媒層と高分子電解質膜の間の界面に空隙部が存在しなかった。そのため、電極触媒層と高分子電解質膜の密着性が良好であり、且つ、良好な発電性能及び耐久性を示した。
【0042】
(実施例2)
カソード側の電極触媒層(触媒インク)の塗布量を2倍とした点以外は、実施例1と同様にして実施例2の膜電極接合体を得た。
実施例2の膜電極接合体は、電極触媒層と高分子電解質膜の間の界面に空隙部が存在しなかった。そのため、電極触媒層と高分子電解質膜の密着性が良好であり、且つ、良好な発電性能及び耐久性を示した。
【0043】
(実施例3)
触媒インクの分散に遊星ボールミル分散機を使用した点以外は、実施例1と同様の手順で実施例3の膜電極接合体を得た。なお、ボールミル分散機を用いて各成分を分散させる際の条件を以下のように設定した。また、下記条件は、以下の実施例及び比較例において共通とした。
・分散時間:3時間
・ボール径:直径3mm
実施例3の触媒インクは、ビーズミル分散機により分散を行った実施例1の触媒インクと比較すると、分散度合いが低かった。そのため、実施例3の膜電極接合体の電極触媒層と高分子電解質膜の界面には、高さhが0.3μmから0.4μmの空隙部が複数存在しており、界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する複数の空隙部の幅wの合計は6μmであった。実施例3の膜電極接合体の発電性能及び耐久性は良好であった。
【0044】
(実施例4)
白金担持カーボン触媒の代わりに白金とコバルトの合金系カーボン触媒を使用した点以外は、実施例1と同様の手順で実施例4の膜電極接合体を得た。
実施例4の触媒インクは、実施例1のインクと比較して、高分子電解質膜への塗布の際に電極触媒層の一部にひび割れが生じた。これに起因して、実施例4の膜電極接合体の電極触媒層と高分子電解質膜の界面には、高さhが0.1μmから0.2μmの空隙部が複数存在しており、界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する複数の空隙部の幅wの合計は10μmであった。実施例4の膜電極接合体の発電性能及び耐久性は良好であった。
【0045】
(実施例5)
実施例1の触媒インクにカーボンナノファイバー(VGCF-H(登録商標),昭和電工社製)を混合した点以外は、実施例1と同様の手順で実施例5の膜電極接合体を得た。
実施例5の膜電極接合体は、電極触媒層と高分子電解質膜の間の界面に空隙部が存在しないため、電極触媒層と高分子電解質膜の密着性が良好であり、且つ、良好な発電性能及び耐久性を示した。
【0046】
(実施例6)
実施例1の触媒インクにカーボンナノファイバー(VGCF-H(登録商標),昭和電工社製)を混合し、高分子電解質膜として、フッ素系高分子電解質膜を用いた点以外は、実施例1と同様の手順で実施例6の膜電極接合体を得た。
実施例6の膜電極接合体は、電極触媒層と高分子電解質膜の間の界面に空隙部が存在しないため、電極触媒層と高分子電解質膜の密着性が良好であり、且つ、良好な発電性能及び耐久性を示した。
【0047】
(実施例7)
実施例3の触媒インクにカーボンナノファイバー(VGCF-H(登録商標),昭和電工社製)を混合した点以外は、実施例3と同様の手順で実施例7の膜電極接合体を得た。
実施例7の触媒インクは、実施例3の触媒インクと比較すると、分散度合いが低かった。そのため、実施例7の膜電極接合体の電極触媒層と高分子電解質膜の界面には、高さhが0.4μmから0.5μmの空隙部が複数存在しており、界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する複数の空隙部の幅wの合計は9μmであった。実施例7の膜電極接合体の発電性能及び耐久性は良好であった。
【0048】
(実施例8)
白金担持カーボン触媒(TEC10E50E,田中貴金属工業社製)と水と1-プロパノールと高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液,和光純薬工業社製)とカーボンナノファイバー(VGCF-H(登録商標),昭和電工社製)とを混合し、ビーズミル分散機を使用して、触媒インクを製造した。
製造した触媒インクを、高分子電解質膜(ナフィオン211(登録商標),Dupont社製)の両表面にスリットダイコーターを用いて直接塗布し、乾燥させて電極触媒層を形成して、膜電極接合体を得た。
実施例8の膜電極接合体は、電極触媒層と高分子電解質膜の間の界面に空隙部が存在しなかった。そのため、電極触媒層と高分子電解質膜の密着性が良好であり、且つ、良好な発電性能及び耐久性を示した。
【0049】
(実施例9)
カソード側の電極触媒層(触媒インク)の塗布量を2倍とした点以外は、実施例8と同様にして実施例9の膜電極接合体を得た。
実施例9の膜電極接合体は、電極触媒層と高分子電解質膜の間の界面に空隙部が存在しなかった。そのため、電極触媒層と高分子電解質膜の密着性が良好であり、且つ、良好な発電性能及び耐久性を示した。
【0050】
(実施例10)
触媒インクの分散にボールミル分散機を使用した点以外は、実施例8と同様の手順で実施例10の膜電極接合体を得た。
実施例10の触媒インクは、ビーズミル分散機により分散を行った実施例8の触媒インクと比較すると、分散度合いが低かった。そのため、実施例10の膜電極接合体の電極触媒層と高分子電解質膜の界面には、高さhが0.3μmから0.4μmの空隙部が複数存在しており、界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する複数の空隙部の幅wの合計は6μmであった。実施例10の膜電極接合体の発電性能及び耐久性は良好であった。
【0051】
(実施例11)
白金担持カーボン触媒の代わりに白金とコバルトの合金系カーボン触媒を使用した点以外は、実施例8と同様の手順で実施例11の膜電極接合体を得た。
実施例11の触媒インクは、実施例8のインクと比較して、高分子電解質膜への塗布の際に電極触媒層の一部にひび割れが生じた。これに起因して、実施例11の膜電極接合体の電極触媒層と高分子電解質膜の界面には、高さhが0.1μmから0.2μmの空隙部が複数存在しており、界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する複数の空隙部の幅wの合計は10μmであった。実施例11の膜電極接合体の発電性能及び耐久性は良好であった。
【0053】
(比較例2)
触媒インクを転写基材に塗布した後に高分子電解質膜に転写する方法により、膜電極接合体を製造した点以外は、実施例8と同様にして比較例2の膜電極接合体を得た。
比較例2の膜電極接合体では、電極触媒層と高分子電解質膜の界面に高さhが0.5μm超過の空隙部が生じ、発電性能及び耐久性の低下が生じる結果となった。
【0054】
(比較例3)
カソード側の電極触媒層(触媒インク)の塗布量を4倍とした点以外は、実施例8と同様にして比較例3の膜電極接合体を得た。
比較例3の膜電極接合体では、電極触媒層にしわやひび割れが生じ、発電性能及び耐久性の低下が生じる結果となった。このとき、電極触媒層と高分子電解質膜の界面には、高さhが0.1μmから0.3μmの空隙部が複数存在しており、界面に平行な方向の長さ30μmの領域内に存在する複数の空隙部の幅wの合計は13μmであった。
【符号の説明】
【0055】
1・・・固体高分子形燃料電池
2・・・高分子電解質膜
3A、3F・・・電極触媒層
4A、4F・・・ガス拡散層
5A、5F・・・セパレーター
6A、6F・・・ガス流路
7A、7F・・・冷却水通路
8・・・電極触媒層
9・・・高分子電解質膜
10・・・触媒
11・・・炭素粒子
12・・・高分子電解質
13・・・繊維状物質
14・・・空隙部
図1
図2
図3
図4
図5