(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】離型フィルム
(51)【国際特許分類】
B29C 33/68 20060101AFI20241119BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241119BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241119BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B29C33/68
B32B27/36
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
H01L21/56 R
(21)【出願番号】P 2023085341
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2019506463の分割
【原出願日】2018-12-13
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017247267
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荘司 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 照也
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 功
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-224082(JP,A)
【文献】特開2017-013455(JP,A)
【文献】特開2017-177463(JP,A)
【文献】特開2017-205901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/68
B29C 43/32
B32B 27/00
C08J 5/18
C08J 7/04
H01L 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱機械分析(TMA)にて測定した、30℃から200℃まで10℃/分で昇温した際の30℃から150℃における最大寸法変化率をS1(%)、S1を与える温度をT1(℃)、40℃における寸法変化率をS0(%)としたとき下記(I)(II)式を満たし、25℃における表面自由エネルギーSa(mN/mm)と180℃で3分間熱処理を行った後の表面自由エネルギーSb(mN/mm)と180℃で50%伸長後の表面自由エネルギーSc(mN/mm)がフィルムの少なくとも片面において下記(III)(IV)式を満たし、
ポリエステルA層とポリエステルA層よりも融点の低いポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、A層とB層が交互に3層以上1000層以下積層されてなり、該ポリエステルA層に、ビスフェノールAエチレンオキサイド、スピログリコール、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸から少なくとも1つ以上選ばれた共重合成分を含むポリエステル、および/またはポリエーテルイミドを含
み、
フィルムの片面において下記(III)(IV)式を満たす場合には、(III)(IV)式を満たす面とは逆側の面において、また、フィルムの両面において下記(III)(IV)式を満たす場合には、フィルムの一方の面において、|Sa-Sb|が0.1以上、かつSbが47.5以上である
工程用離型フィルム。
0≦S1≦1.5・・・(I)
0≦|S1―S0|/(T1―40)≦0.050・・・(II)
0≦|Sa-Sb|≦15・・・(III)
0≦|Sa-Sc|≦15・・・(IV)
【請求項2】
少なくとも片面における原子間力顕微鏡を用いて測定した表面弾性率が50~3000MPaである、請求項1に記載の工程用離型フィルム。
【請求項3】
少なくとも片面における表面弾性率の二乗平均平方根(Rq)が50~500MPaである、請求項1または2に記載の工程用離型フィルム。
【請求項4】
示差走査型熱分析計(DSC)により観察される融解ピークの最大温度(Tm)が240℃以上265℃以下である、請求項1~3のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
【請求項5】
少なくとも片面におけるフィルム表面の極性力が0.1mN/m以上5.0mN/m以下である、請求項1~4のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
【請求項6】
少なくとも片側の表面に厚みが50nm以上500nm以下の離型層を有する、請求項1~5のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
【請求項7】
該離型層の厚み斑が50nm以下である、請求項6に記載の工程用離型フィルム。
【請求項8】
180℃における表面断裂伸度が0%を超えて30%以下である、請求項1~7のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
【請求項9】
突き刺し強度が2N以上10N以下である、請求項1~8のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
【請求項10】
フィルム最表面から10μm以下の厚み範囲内に厚み3μm以上10μm以下のポリエステルA層を有する、請求項1~9のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
【請求項11】
半導体製造の工程フィルム用途に用いられる、請求項1~10のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
【請求項12】
半導体コンプレッションモールド成形(圧縮成形)用途に用いられる、請求項1~11のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型フィルムに関するものであり、回路製造工程、半導体製造工程等の用途に好適に用いることができ、特に半導体封止工程用離型フィルムとして好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
半導体チップは、光、熱、水分、物理的な衝撃等の外乱からの保護を目的として樹脂で封止され、パッケージと呼ばれる成形品として基板上に実装される。半導体チップの封止には、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂が用いられる。半導体チップの封止方法としては、いわゆるトランスファ成形法または圧縮成形法が知られているが、近年、半導体ウェハの大面積化やパッケージの低背化、多ピン化といった形状のトレンドを背景に圧縮成形法の導入が進んでいる。
【0003】
圧縮成形法は、溶融した封止樹脂を加熱状態で金型が上下することで圧縮、硬化する工法である。この際、金型と封止樹脂との離型性を担保するため、間に離型フィルムを挿入する方法が一般的である。離型フィルムとしては、離型性と耐熱性、金型形状への追従性に優れるエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体のフィルムが広く用いられているが、加熱時の膨張により生じたシワがパッケージ表面に転写する課題があり、改善が望まれている。
【0004】
かかる課題を解決するため、これまで下記のようなフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-92272号公報
【文献】特開2016-127091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の離型層を積層したポリエステルフィルムは、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体のフィルムに対し寸法安定性の高いポリエステルを基材としているが、前述した加熱時にシワが生じる課題は改善されなかった。さらに、金型追従性、もしくは耐熱性が十分でなく、かつ、フィルムの変形量が大きい箇所では離型性が失われ、部分的に剥離ができなくなる問題があった。
【0007】
本発明の課題は上記した従来技術の問題点を解消することにある。すなわち、金型追従性、耐熱性に優れ、かつ加熱時に生じるシワを抑制し、大変形後も離型性が変化しにくい特性を有することにより、工程用途、特に半導体封止工程用途へ好適に使用することのできる離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するための本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1)
熱機械分析(TMA)にて測定した、30℃から200℃まで10℃/分で昇温した際の30℃から150℃における最大寸法変化率をS1(%)、S1を与える温度をT1(℃)、40℃における寸法変化率をS0(%)としたとき下記(I)(II)式を満たし、25℃における表面自由エネルギーSa(mN/mm)と180℃で3分間熱処理を行った後の表面自由エネルギーSb(mN/mm)と180℃で50%伸長後の表面自由エネルギーSc(mN/mm)がフィルムの少なくとも片面において下記(III)(IV)式を満たす、工程用離型フィルム。
0≦S1≦1.5・・・(I)
0≦|S1―S0|/(T1―40)≦0.050・・・(II)
0≦|Sa-Sb|≦15・・・(III)
0≦|Sa-Sc|≦15・・・(IV)
(2)
少なくとも片面における原子間力顕微鏡を用いて測定した表面弾性率が50~3000MPaである、(1)に記載の工程用離型フィルム。
(3)
少なくとも片面における表面弾性率の二乗平均平方根(Rq)が50~500MPaである、(1)~(2)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(4)
示差走査型熱分析計(DSC)により観察される融解ピークの最大温度(Tm)が240℃以上265℃以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(5)
少なくとも片面におけるフィルム表面の極性力が0.1mN/m以上5.0mN/m以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(6)
少なくとも片側の表面に厚みが50nm以上500nm以下の離型層を有する、(1)~(5)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(7)
該離型層の厚み斑が50nm以下である、(1)~(6)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(8)
180℃における表面断裂伸度が0%を超えて30%以下である、(1)~(7)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(9)
突き刺し強度が2N以上10N以下である、(1)~(8)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(10)
ポリエステルA層とポリエステルA層よりも融点の低いポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、A層とB層が交互に3層以上1000層以下積層されてなる、(1)~(9)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(11)
該ポリエステルA層に、ビスフェノールAエチレンオキサイド、スピログリコール、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸から少なくとも1つ以上選ばれた共重合成分を含むポリエステル、および/またはポリエーテルイミドを含む、(1)~(10)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(12)
フィルム最表面から10μm以下の厚み範囲内に厚み3μm以上10μm以下のポリエステルA層を有する、(1)~(11)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(13)
半導体製造の工程フィルム用途に用いられる、(1)~(12)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
(14)
半導体コンプレッションモールド成形(圧縮成形)用途に用いられる、(1)~(13)のいずれかに記載の工程用離型フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の離型フィルムは、30℃からから200℃まで昇温した際の寸法変化率とその変動が小さいため加熱時のシワの発生を抑制することができ、また、熱処理後、および加熱伸長後の表面自由エネルギーの変化が小さいため、高温成形後の剥離性に優れており、回路製造工程や、半導体製造工程用の離型フィルムとして好適であり、特に半導体封止工程用離型フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の離型フィルムは、基材フィルムに離型層を積層した積層フィルム、また
は基材フィルム自体に離型性を有するフィルムである。
本発明の離型フィルムは、TMAにて測定した、30℃から200℃まで10℃/分で昇温した際の30℃から150℃における最大寸法変化率をS1、S1を与える温度をT1、40℃における寸法変化率をS0としたとき下記(I)(II)式を満たす必要がある。
0≦S1≦1.5・・・(I)
0≦|S1―S0|/(T1―40)≦0.050・・・(II)
圧縮成形方式では、離型フィルムを常温状態から高温の金型に接触させ、真空で吸引し金型形状に成形する工程において、離型フィルムが昇温過程で膨張し、生じたシワがパッケージに転写する場合がある。また、二軸延伸フィルムのような寸法安定性が高いフィルムを用いた場合にも、低温領域での膨張は十分に抑制されず、同様に昇温過程で生じたシワが転写する場合がある。そこで発明者らが鋭意検討した結果、金型内での温度変化に対応した30℃から150℃における寸法変化率を(I)式に示す特定の範囲とし、かつ該温度範囲における寸法変化の変化率を(II)式に示す特定の範囲とすることで、昇温時のシワの発生を抑制し、良好な外観の製品を得ることが可能であることを見出した。(I)式について、より好ましくは、(I’)式を満足し、(I”)式を満足すれば最も好ましい。
0≦S1≦1.0・・・(I’)
0≦S1≦0.7・・・(I”)
また、(II)式について、より好ましくは、(II’)式を満足し、(II”)式を満足すれば最も好ましい。
0≦|S1―S0|/(T1―40)≦0.025・・・(II’)
0≦|S1―S0|/(T1―40)≦0.010・・・(II”)
本発明の離型フィルムが上記(I)、(II)式を満たす方法としては特に限定されないが、例えば離型フィルム製造工程にて70℃以上150℃以下の温度(Ta)においてフィルム搬送方向に0.5MPa以上5MPa以下の張力を付加する工程A、およびTa+5℃以上Ta+20℃以下の温度(Tb)にて0.5MPa以上5MPa以下の張力を付加する工程Bを連続して適用する方法などが挙げられる。該温度領域での張力付加により配向した分子鎖が成形時の昇温過程にて緩和し、寸法変化が収縮方向となることで膨張の抑制が可能となる場合がある。また、段階的な温度勾配下で張力を付加することにより、緩和収縮が緩やかに生じることで、収縮変形によるシワ発生を抑制できる場合がある。この離型フィルムの製造方法において、基材フィルムの延伸張力が高い場合に、張力付加による分子鎖の配向付与が不十分となる場合があり、基材フィルムのMD方向の150℃10%延伸応力が1MPa以上30MPa以下であると好ましい。より好ましくは1MPa以上25MPa以下であり、1MPa以上20MPa以下であると最も好ましい。
【0011】
本発明の離型フィルムは、25℃における表面自由エネルギーSaと180℃で3分間熱処理を行った後の表面自由エネルギーSbと180℃で50%伸長後の表面自由エネルギーScがフィルムの少なくとも片面において下記(III)(IV)式を満たす必要がある。
0≦|Sa-Sb|≦15・・・(III)
0≦|Sa-Sc|≦15・・・(IV)
(III)、(IV)式は、180℃での加熱処理後、および180℃で50%伸長処理後の表面自由エネルギーに対して処理前後の値の変化が小さいことを意味する。従来の離型フィルムでは、高温下での変性、および成形による離型フィルム表面の変形により、成形後に離型特性が損なわれ、剥離不良が生じる場合があった。また、近年パッケージ厚みがより深い金型形状への追従性が求められており、鋭角部での離型不良が課題となる場合があった。本発明のフィルムは、高温かつ大変形時の表面自由エネルギー変化が小さいため、離型特性が成形形状の影響を受けにくく安定している点に特徴を有する(III)式について、より好ましくは、(III’)式を満足し、(III”)式を満足すれば最も好ましい。
0.5≦|Sa-Sb|≦13・・・(III’)
0.5≦|Sa-Sb|≦11・・・(III”)
また、(IV)式について、より好ましくは、(IV’)式を満足し、(IV”)式を満足すれば最も好ましい。
1.0≦|Sa-Sc|≦13・・・(IV’)
1.0≦|Sa-Sc|≦11・・・(IV”)
上述のとおり、高温かつ大変形時の表面エネルギー変化が小さいほど好ましいが、わずかに表面エネルギーが増加、もしくは減少する場合、生じた剥離界面における界面間のエネルギー差が歪みとなり、剥離性が向上する傾向が確認されている。よって、(III’)式、(III”)式、(IV’)式、(IV”)のとおり、表面エネルギー変化の好ましい範囲は下限を有する。本発明の離型フィルムが上記(III)、(IV)式を満たす方法としては特に限定されないが、例えば基材フィルムに厚みが50nm以上500nm以下の離型層を設ける方法などがあげられる。離型層を500nm以下に薄膜化することで、離型層の変形応力が低下し均一に変形することで、クラックの発生や厚み斑を抑制する効果が生じると推定される。一方で、離型層厚みが50nm未満では均一に離型層を形成することが難しく、加熱や伸長による表面エネルギーの変化が大きくなる傾向にある。
本発明の離型フィルムは、少なくとも片面における原子間力顕微鏡を用いて測定した表面弾性率が50MPa以上3000MPa以下であることが好ましい。離型フィルムの表面弾性率が3000MPaより大きい場合、成形時に表面のクラックが生じやすくなり、局所的に離型性が損なわれ場合がある。また、50MPa未満の場合には、樹脂の流動痕が離型フィルム表面に転写し転写後パッケージ表面の品位が低下する場合がある。表面弾性率は300MPa以上2500MPa以下であるとより好ましく、500MPa以上2000MPa以下であると最も好ましい。表面弾性率を50MPa以上3000MPa以下とする方法としては特に限定されないが、離型層組成物に架橋剤を含有せしめる方法などが挙げられる。
本発明の離型フィルムは、少なくとも片面における表面弾性率の二乗平均平方根(Rq)が50MPa以上500MPa以下であることが好ましい。Rqが500MPaより大きい場合には、表面弾性率のばらつきが大きく不均一な成形応力分布となることから、薄膜の離型層を有する場合に層厚みのばらつきが成形により拡大し、面内の離型特性が不均一となる場合がある。Rqは低いほど良いが、50MPa未満とすることは一般的な製造方法では困難である。Rqは50MPa以上400MPa以下であるとより好ましく、50MPa以上300MPa以下であると最も好ましい。Rqを上記特定の範囲とする方法として、離型層加工時の乾燥工程において、0.1%以上10%以下の伸長を段階的に行う方法などが挙げられる。伸張を段階的に行うとは、異なる複数の温度ゾーンにて伸張を行うことであり、伸張の倍率は全てのゾーンの倍率の総和を意味する。離型層の微小倍率での延伸処理を行うことにより、表面弾性率のばらつきを低減することができる。また、伸張を段階的に行うことで、硬化中の離型層への応力集中を低減し、離型層の破断や密着性の低下を抑制することができる。伸張率は0.1%未満では表面弾性率のばらつきを低減する効果が小さく、また、10%より大きい場合にはフィルムの成形性が悪化する場合や離型層の断裂により離型性が悪化する場合がある。好ましくは0.4%以上8.5%以下であり、0.7%以上7.5%以下であると最も好ましい。
本発明の離型フィルムは、示差走査型熱分析計(DSC)により観察される融解ピークの最大温度(Tm)が240℃以上265℃以下であることが好ましい。近年チップの耐熱性の観点から高温成形用の樹脂の採用が増加しており、離型フィルムへの耐熱要求が高度化する傾向にあることから、Tmは240℃以上であることが好ましい。Tmは高いほど好ましいが、成形性を両立する観点から265℃以下であると好ましい。より好ましくは243℃以上265℃以下であり、246℃以上265℃以下であると最も好ましい。
本発明の離型フィルムは、少なくとも片面におけるフィルム表面の極性力が0.1mN/m以上5.0mN/m以下であることが好ましい。本発明でいう極性力とは、後述する測定方法によって算出される値をいう。フィルム表面の極性力が0.1mN/mより小さい場合、溶融した樹脂がフィルム表面ではじかれレベリングが不十分となり、転写外観が悪化する場合がある。また、フィルム表面の極性力が5.0mN/mより大きい場合には、離型フィルムとの密着が過剰となり、剥離工程でフィルムが剥がれない、またはフィルム破れや付着などが生じ、工程安定性を保つことが難しい場合がある。フィルム表面の極性力は0.4mN/m以上4mN/m以下であるとより好ましく0.8mN/m以上3mN/m以下であれば最も好ましい。フィルム表面の極性力を0.1mN/m以上5mN/m以下とする方法としては、離型層を形成する樹脂組成物として、後述する添加剤を用いる方法が挙げられるが、特に長鎖アルキル基含有化合物は、離型層加工における伸張時の追従性が良好であるため、好ましく用いられる。
本発明の離型フィルムは、少なくとも片側の表面に厚みが50nm以上500nm以下の離型層を有することが好ましい。薄膜の離型層を有することで、離型層の変形応力が小さくなり均一に変形し、クラックの発生や厚み斑を抑制する効果が生じる。離型層の厚みは70nm以上400nm以下であるとより好ましく、90nm以上300nm以下であると最も好ましい。
本発明の離型フィルムは、該離型層の厚み斑が50nm以下であることが好ましい。離型層の厚み斑は、厚み200nm以下の薄膜設計とした際に離型性に与える影響が大きく、厚み斑が50nmより大きい場合には、局所的な薄膜箇所での重剥離、離型層の凝集破壊、および厚膜箇所との剥離力斑に起因したジッピングによる剥離痕が発生しやすくなる。また、半導体封止工程に離型フィルムを用いる場合において剥離対象となる封止樹脂は、多量に大径粒子を含む場合が一般的であることより、その表面が凹凸形状となり均一でないため、離型層の厚み斑の影響が拡大されて現出する傾向にある。離型層の厚み斑を低減せしめることにより、これらの剥離性悪化要因の影響を低減し、特に半導体封止工程用の離型フィルムとして好適な特性を付与することが可能である。離型層の厚み斑は、40nm以下であるとより好ましく、30nm以下であると最も好ましい。離型層の厚み斑を好ましい範囲とする方法は特に限定されないが、離型層加工時の乾燥工程において、1.0%以上5%以下の伸長を行う方法などが挙げられる。このとき、伸長が複数のゾーンで行われる場合には、その合計伸長倍率が上記範囲であることが好ましい。塗膜の厚み斑は、MD方向において、キャスト、ロール粘着や吐出変動に伴うフィルム自体のMD厚み斑、コーターの微振動等による塗布斑が影響する結果、TD方向よりも大きくなる場合が多いが、離型層塗液を予熱乾燥前に特定の速度条件下で搬送する上記工程とすることにより、塗液がフィルム搬送の随伴気流に沿いMD方向へも広がり易くなることで、厚み斑を低減できる場合がある。
本発明の離型フィルムは、180℃における表面断裂伸度が0%を超えて30%以下であることが好ましい。180℃における表面断裂伸度とは、180℃延伸後に最表面層に断裂が生じる伸度を意味する。発明者らが鋭意検討した結果、離型フィルムの最表面に延伸による断裂を生じさせることにより、封止後の樹脂表面の外観斑が良好となる場合があることを見出した。その原理は明確でないが、フィルムの微細凹凸による封止樹脂のレベリング性向上と樹脂表面へ微細凹凸形状の転写による外観改善が奏功した結果と考えられる。180℃における表面断裂伸度は3%以上25%以下であるとより好ましく、3%以上20%以下であると最も好ましい。表面断裂伸度が30%を超えると、半導体の封止工程においては効果を発現しない場合があり、表面断裂伸度が0%、すなわち製膜時より断裂が生じている場合には、搬送工程で離型層に削れが生じやすくなるため好ましくない。180℃における表面断裂伸度を上記好ましい範囲とする方法としては、離型層の塗工、乾燥、硬化工程における加熱の最大温度を100℃以下とする方法などが挙げられる。該低温条件とし、架橋が完了していない状態にて実際の成形(延伸)工程へ適用することで、成形工程の加熱により架橋を完了させ、延伸による断裂を生じさせるとともに、製膜時のフィルム搬送張力による断裂の発生を抑制することが可能となる。 本発明の離型フィルムの構成の例として、離型性を有する基材フィルム、もしくは離型性を有する離型層を基材フィルムに積層した積層フィルムの構成が挙げられるが、離型性を封止樹脂にあわせて制御可能な利点より離型層を基材フィルムに積層する構成が好ましい。
本発明の基材フィルムに用いる樹脂は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリウレタン及び環状オレフィン系樹脂等を単独で又は複数組み合わせて使用することができる。中でも、フィルムの取り扱い性や寸法安定性、製造時の経済性の観点から、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステルが好ましく用いられる。
【0012】
本発明においてポリエステルとは、主鎖中の主要な結合をエステル結合とする高分子の総称である。通常、ポリエステルは、ジカルボン酸成分とグリコール成分を重縮合反応させることによって得ることができる。
【0013】
ポリエステルを得るためのジカルボン酸成分は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホンジカルボン酸、9,9‘-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸等の各成分を用いることができる。また、ジカルボン酸成分はジカルボン酸エステル誘導体成分であってもよく、上記ジカルボン酸化合物のエステル化物、例えばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2-ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどの各成分を用いることもできる。
【0014】
また、ポリエステルを得るためのグリコール成分は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルベート、9,9‘-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン、スピログリコールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物など各成分を用いることができる。中でも、柔軟性と耐熱性の両立、及び取り扱い性の点で、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、及びポリテトラメチレングリコールの各成分を用いることが好ましい。
【0015】
これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は、本発明の効果を損なわない限り2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明において好ましく用いることができるポリオレフィンとしては、例えば、アイソタクティックもしくはシンジオタクティックな立体規則性を示すプロピレンの単独重合体や、プロピレン・α-オレフィン共重合体等が挙げられる。上記α-オレフィンの具体例としては、例えば、エチレン、ブテン-1、ヘキセン-1、及びヘプテン-1,4-メチルペンテン-1等が挙げられる。なお、プロピレン・α-オレフィン共重合体は、ポリマーを構成する全構成単位を100モル%としたときに、プロピレン単位を50モル%より多く含むものが好ましい。また、プロピレン・α-オレフィン共重合体は、本発明の効果を損なわない限り、2元系、3元系、及び4元系のいずれであってもよく、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。
本発明の離型フィルムの基材フィルムは、単層フィルムでもよく、2層以上の積層フィルムでもよい。3層構成とする場合は、生産性の観点から、両表層の組成を同じにすることが好ましい。さらに、生産性を向上させるために、両表層の積層厚みは等しくすることが好ましい。また、基材フィルムの耐熱性を向上させるために、両表層の示差走査型熱分析計(DSC)により観察される融解ピークの最大温度(Tms)が248℃以上265℃以下であることが好ましい。より好ましくは、250℃以上265℃以下であり、253℃以上265℃以下であると最も好ましい。
本発明の離型フィルムは、突き刺し強度が2N以上10N以下であることが好ましい。半導体封止工程において、離型フィルムにウェハ真空吸着用の孔を開けて使用する場合があり、突き刺し強度が10N以下であると、均一な孔を開けやすく好ましい。一方で、突き刺し強度が2N未満では、金型突起部が離型フィルムに押し付けられる等により、意図しない位置で孔が開いてしまい十分な真空度を維持できない場合があり、好ましくない。突き刺し強度を上記好ましい範囲とする方法は特に限定されないが、例えば二軸延伸ポリエステルフィルムの製造工程にて、各延伸方向の倍率をいずれも2.8倍以上3.8倍以下とし、かつ各延伸方向に0.7倍以上1.0倍以下の延伸倍率の差異を設ける方法などが挙げられる。高分子フィルム一般に突き刺し強度は分子配向度に相関するが、延伸倍率の非バランス化によりフィルム面内に低配向方向を形成することで、突き刺し強度を良好な領域に制御しつつ、かつ工程フィルムとして適当な機械物性を維持することが可能となる。突き刺し強度は3N以上7N以下であるとより好ましい。
本発明の離型フィルムは、ポリエステルA層とポリエステルA層よりも融点の低いポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、A層とB層が交互に少なくとも3層以上1000層以下積層されてなる構成であることが好ましい。高融点のA層が耐熱層として機能し、特に半導体封止工程において、封止樹脂の流動により生じるせん断発熱でのフィルム変形抑制、およびせん断による表面層の変形に由来した離型不良の抑制に寄与する。また、融点の低いB層は柔軟層として機能し、フィルムの成形性を良好とすることができる。ポリエステルA層には、スピログリコール、イソソルビド、フルオレン、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸成分から少なくとも1つ以上選択された共重合成分を含むポリエステル、および/またはポリエーテルイミドを含有することが好ましい。これら特定のポリエステル、もしくはポリエーテルイミドを含有せしめることにより、上記半導体封止工程における樹脂流動によるせん断発熱でのフィルム変形を効果的に抑制することが可能である。また、該特定のポリエステル、もしくはポリエーテルイミドは、高ガラス転移温度、もしくは高融点であるが、柔軟なポリエステルB層との積層構成とした場合にも、二軸延伸時の界面剥離が生じにくく、破れやフィルム外観斑等による生産性低下を改善することができる場合がある。
本発明の離型フィルムは、フィルム最表面から10μm以下の厚み範囲内に厚み3μm以上10μm以下のポリエステルA層を有することが好ましい。該ポリエステルA層がフィルム最表面近傍に特定の厚み範囲で位置することにより、半導体封止工程における樹脂流動によるせん断発熱でのフィルム変形をより効果的に抑制することが可能である。ポリエステルA層の厚みは4μm以上9μm以下であるとより好ましく、5μm以上8μm以下であると最も好ましい。ポリエステルA層の厚みが3μmより小さい場合には、上記フィルム変形の抑制効果が不十分となりやすく、10μmより大きい場合には成形性が不足する場合があるため好ましくない。ポリエステルA層が上記フィルム最表面から10μm以下の範囲に複数存在する場合には、合計厚みが上記範囲であることが好ましい。また、上記フィルム変形抑制と成形性を両立する観点からは、上記フィルム最表面から10μm以下の範囲にポリエステルA層が2層以上位置することもより好ましい様態である。複数層に分割されていることで、成形性を損なうことなくフィルム変形抑制の効果を発現せしめることができる。
本発明の基材フィルムは、金型内における寸法変化を制御する観点から二軸配向フィルムとすることが好ましい。二軸配向フィルムは、未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができる。
【0017】
かかる延伸方法における延伸倍率としては、長手方向に2.8倍以上3.4倍以下、さらに好ましくは2.9倍以上3.3倍以下が採用される。また、延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが望ましい。また長手方向の延伸温度は、70℃以上90℃以下とすることが好ましい。また、幅方向の延伸倍率としては、好ましくは2.8倍以上3.8倍以下、さらに好ましくは、3倍以上3.6倍以下が採用される。幅方向の延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが望ましい。
【0018】
さらに、二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行う。熱処理はオーブン中、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。この熱処理はフィルムの結晶融解ピーク温度(Tm)から-40℃以上-5℃以下の温度で行われることが好ましい。熱処理温度がTm-40℃よりも低い場合には、分子の配向度が高くなりすぎるため、金型形状への追従性が不十分となる場合や、加熱時の収縮が大きく金型内でシワが発生しパッケージ表面に転写する場合がある。また、熱処理温度がTm-5℃より高い場合には、結晶化が過度に進行し金型追従性が不足する場合がある。さらに好ましくはTm-34℃以上-8℃以下であり、Tm-32℃以上-12℃以下であると最も好ましい。熱処理時間は特性を悪化させない範囲において任意とすることができ、好ましくは5秒以上60秒以下、より好ましくは10秒以上40秒以下、最も好ましくは15秒以上30秒以下で行うのがよい。
次に基材フィルムに離型層を設ける方法について記載するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
本発明の離型層は、基材フィルムの片面、もしくは両面に積層することができる。片面に離型層を積層した場合には、反対側の面に帯電防止層を積層してもよい。帯電防止層には、例えば、カーボンブラック、酸化スズ、酸化スズアンチモンドープ、ポリチオフェンおよびポリアニリンなどの帯電防止剤を含有させることができる。透明性を考慮すると、酸化スズ系の帯電防止剤が好ましい。
本発明の離型層は、バインダー樹脂を含むと、基材フィルムとの密着性が向上し、また、剥離させる対象物との剥離力を調整できるため好ましい。バインダー樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、セルロース類、でんぷん類等が挙げられるが、金型追従性、剥離力制御の観点からアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0019】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体または共重合体、側鎖および/または主鎖末端に硬化性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体があげられ、硬化性官能基としては水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基などがあげられる。なかでもアクリルモノマーと側鎖および/または主鎖末端に硬化性官能基を有するアクリル酸エステルが共重合されたアクリルモノマー共重合体が好ましい。
【0020】
また、離型層を構成する成分として架橋剤を添加することが好ましい。前述した樹脂に各種の架橋剤を併用することにより、耐熱性を飛躍的に向上させることができる。架橋剤はオキサゾリン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、カルボジイミド樹脂、イソシアネート樹脂が好ましい。離型層の溶剤への耐久性の観点からメラミン樹脂がさらに好ましく用いられる。架橋剤は任意の比率で混合して用いることができるが、架橋剤は、バインダー樹脂100重量部に対し5~50重量部添加が耐熱性向上の点で好ましく、より好ましくは10~40重量部添加である。架橋剤の添加量が5重量部未満の場合、耐熱性向上の効果が不十分となることや、ロール搬送時にキズが発生する場合がある。また、50重量部を越える場合、塗布時に斑が発生しやすくなるため好ましくない。
【0021】
本発明では、離型層を形成する樹脂組成物中に、バインダー樹脂、架橋剤以外に、剥離性を付与する目的に適う添加剤を含有することが好ましい。添加剤は、バインダー樹脂と架橋剤の質量の和を100質量部としたとき、3質量部以上、50質量部以下であることが好ましい。添加剤の質量を3質量部以上にすることで剥離性を付与することができ、50質量部以下であることで十分な耐熱性を付与することができる。好ましくは10質量部以上、42質量部以下であり、20質量部以上、34質量部以下であると最も好ましい。
【0022】
本発明でいう添加剤とは、樹脂に添加することにより、樹脂の表面に剥離性(すなわち樹脂の表面自由エネルギーを低下させたり、樹脂の静止摩擦係数を低下させる)特性を有する化合物を示す。
【0023】
本発明において用いることのできる添加剤としては、シリコーン含有化合物や、フッ素化合物、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックスなどのワックス、長鎖アルキル基含有化合物、樹脂などが挙げられる。中でも、長鎖アルキル鎖含有化合物は、剥離性と耐熱性を両立する点で好ましい。本発明でいう長鎖アルキル化合物とは、長鎖アルキル基を有する化合物を指し、長鎖アルキル基を含む化合物であれば特に限定されないが、主鎖ポリマーの側鎖に長鎖アルキル基を有するものが挙げられる。
【0024】
主鎖ポリマーの側鎖に長鎖アルキル基を有する化合物において、主鎖ポリマーとしては、アクリレート系の重合体もしくは共重合体、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物も含む)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物も含む)、ビニルアルコール-アクリル酸共重合体(酢酸ビニル-アクリル酸共重合体の部分ケン化物も含む)、ポリエチルイミン、ポリビニルアミン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0025】
本発明におけるフッ素化合物とは、化合物中にフッ素原子を含有している化合物である。例えば、パーフルオロアルキル基含有化合物、フッ素原子を含有するオレフィン化合物の重合体、フルオロベンゼン等の芳香族フッ素化合物等が挙げられる。圧縮成形方式では、離型フィルムに高い熱負荷がかかるため、耐熱性、汚染性を考慮すると、フッ素化合物は高分子化合物であることが好ましい。
【0026】
本発明におけるワックスとは、天然ワックス、合成ワックス、それらの配合したワックスの中から選ばれたワックスである。天然ワックスとは、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油ワックスである。植物系ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油が挙げられる。動物系ワックスとしては、みつろう、ラノリン、鯨ロウが挙げられる。鉱物系ワックスとしてはモンタンワックス、オゾケライト、セレシンが挙げられる。石油ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムが挙げられる。合成ワックスとしては、合成炭化水素、変性ワックス、水素化ワックス、脂肪酸、酸アミド、アミン、イミド、エステル、ケトンが挙げられる。合成炭化水素としては、フィッシャー・トロプシュワックス(別名サゾワールワックス)、ポリエチレンワックスが有名であるが、このほかに低分子量の高分子(具体的には粘度平均分子量500から20000の高分子)である以下のポリマーも含まれる。すなわち、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックまたはグラフト結合体がある。変性ワックスとしてはモンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体が挙げられる。ここでの誘導体とは、精製、酸化、エステル化、ケン化のいずれかの処理、またはそれらの組み合わせによって得られる化合物である。水素化ワックスとしては硬化ひまし油、および硬化ひまし油誘導体が挙げられる。
【0027】
また、本発明の離型層を構成する樹脂は、離型層の固着性、滑り性改良を目的として、不活性粒子を含有してもよい。不活性粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、有機粒子等が挙げられる。
【0028】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料等が含有されてもよい。
【0029】
離型層を形成する樹脂組成物を基材フィルム上に設ける際に、溶媒を用いても良い。すなわち、樹脂組成物を溶媒に溶解または分散せしめて、塗液とし、これを基材フィルムに塗布しても良い。塗布後に、溶媒を乾燥させ、且つ加熱を施すことで離型層が積層された積層フィルムを得ることができる。
基材フィルム上に離型層を形成する方法としては、メタリングバーやグラビアロールで均一に塗布したのち、オーブンで乾燥させる方法が好ましい。グラビアコート法等のコーティング方式で塗布する場合、塗工層の流動・平坦化(レベリング) を阻害しない様に塗工することが好ましい。オーブン温度は70~245℃が好ましく、より好ましくは80~235℃、最も好ましくは90~225℃である。乾燥温度が70℃より低いと、離型層の硬化が十分に進まず、基材フィルムと離型層が密着しない場合がある。また、245℃よりも高い温度だと、フィルムの熱変形により塗工厚み精度が低下する場合がある。熱処理時間は1~60秒間であると好ましく、5~40秒間であるとさらに好ましく、10~30秒間であると最も好ましい。本発明の離型フィルムにおいて、圧縮成形時の昇温過程における寸法変化を制御する観点から、離型層の乾燥工程を70~150℃の温度において、0.5MPa以上5MPa以下の張力下で実施することが好ましい。本発明の離型フィルムにおける熱履歴の最終工程となる離型層の乾燥工程において、微小張力による分子鎖の歪みを残存させることにより、圧縮成形における昇温時の膨張変形を抑制することができる。乾燥工程における張力は0.8MPa以上3MPa以下であると好ましく、1.2MPa以上3MPa以下であると最も好ましい。乾燥工程における張力が0.5MPaより小さい場合には、膨張変形を抑制する効果が発現しない場合があり、5MPaより大きい場合には、圧縮成形における加熱時に収縮が大きく離型フィルムにシワが発生する場合や金型の形状に対する追従性が低下する場合がある。
本発明の離型フィルムにおいて、安定した離型性を確保するため、離型層をインラインコーティングにより設けることもできる。コーティング層をフィルム製造工程内のインラインで設ける方法としては、少なくとも一軸延伸を行ったフィルム上にコーティング層組成物を水に分散させたものをメタリングリングバーやグラビアロールなどを用いて均一に塗布し、延伸を施しながら塗剤を乾燥させる方法が好ましく、その際、離型層の厚みとしては乾燥後に50nm以上200nm以下とすることが好ましい。コーティング組成物の塗布後に延伸処理を行うことにより、離型層の厚みをより均一にすることができる。また、オフラインコートと比した高い温度の熱処理により、塗膜硬化度が高まり耐熱性や耐薬品性が向上すると同時に、製造後のエージング処理が不要、または短時間化できる利点がある。離型層中に各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、顔料、染料、有機または無機粒子、帯電防止剤、核剤などを添加してもよい。
本発明の離型フィルムは、室温から180℃まで昇温した際の寸法変化率とその変動が小さいため加熱時のシワの発生を抑制することができ、また、熱処理後、および加熱延伸後150℃の表面自由エネルギーの変化が小さいため、高温成形後の剥離性に優れており、回路製造工程や、半導体製造工程用の離型フィルムとして好適であり、特に半導体封止工程用離型フィルムとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0030】
(1)ポリエステルの組成
ポリエステル樹脂およびフィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、1H-NMRおよび13C-NMRを用いて各モノマー残基成分や副生ジエチレングリコールについて含有量を定量することができる。積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体を構成する成分を採取し、評価することができる。なお、本発明のフィルムについては、フィルム製造時の混合比率から計算により、組成を算出した。
【0031】
(2)ポリエステルの固有粘度
ポリエステル樹脂およびフィルムの極限粘度は、ポリエステルをオルトクロロフェノールに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃にて測定した。積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体の固有粘度を評価することができる。
【0032】
(3)フィルム厚み、層厚み
フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、フィルム断面をミクロトームで切り出した。該断面を透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM H7100)で5000倍の倍率で観察し、フィルム厚みおよびポリエステル層の厚みを求めた。
【0033】
(4)融点(Tm)、表層の融点(Tms)
示差走査熱量計(セイコー電子工業製、RDC220)を用い、JIS K7121-1987、JIS K7122-1987に準拠して測定および、解析を行った。ポリエステルフィルムを5mg、サンプルに用い、25℃から20℃/分で300℃まで昇温した際のDSC曲線より得られた吸熱ピークの頂点の温度を融点とした。吸熱ピークが複数存在する場合は、最も高温側の吸熱ピークのピーク温度を融点とした。なお、積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体の融点を測定することができる。
【0034】
(5)寸法変化率(TMA)
フィルムをMD方向およびTD方向に長さ50mm×幅4mmの矩形に切り出しサンプルとし、熱機械分析装置(セイコ-インスツルメンツ製、TMA EXSTAR6000)を使用して、下記条件下で昇温し、30℃から150℃における最大寸法変化率S1、およびS1を与える温度T1、40℃における寸法変化率S0を測定した。
試長:15mm、荷重:19.6mN、昇温速度:10℃/分、
測定温度範囲:30~200℃
温度T(℃)における寸法変化率(%)=[{温度Tでのフィルム長(mm)-30℃でのフィルム長(mm)}/30℃でのフィルム長(mm)]×100
なお、測定はMD、TD方向について、サンプリング位置を変えて5回ずつ行い、式(I)および式(II)の値を各方向の測定より得られたS1、T1、S0から算出した平均値を各方向における値として採用した。 (6)表面自由エネルギーSa、極性力
フィルムの表面自由エネルギー、および表面自由エネルギー中の極性力成分は、次にようにして求めた。まず、拡張Fowkes式とYoungの式から、下記式(i)を導いた。
〔拡張Fowkes式〕
γSL=γS +γL -2(γsd ・γLd )1/2 -2(γsD ・γLD )1/2 -2(γsh ・γLh )1/2
〔Youngの式〕
γS =γSL+γL cosθ
γS :固体の表面自由エネルギー
γL :液体の表面張力
γSL:固体と液体の界面の張力
θ :液体との接触角
γsd ,γLd :γS ,γL の分散力成分
γsD,γLD :γS ,γL の極性力成分
γsh ,γhL :γS ,γL の水素結合成分
(γsd ・γLd )1/2 +(γsD ・γLD )1/2 +(γsh ・γLh )1/2=γL (1+cosθ)/2 (i)
次に、表面張力の各成分が既知である4種類の液体についてフィルムとの接触角を測定し、式(i)に代入、各液体についての3元1次連立方程式を解くことでフィルムの表面自由エネルギー中の極性力成分を求めた。連立方程式の解法には数値計算ソフト“Mathematica”を用いた。また、接触角の測定には、水、エチレングリコール、ホルムアミド、ヨウ化メチレンの測定液を用い、測定機は協和界面化学(株)製接触角計CA-D型を使用した。測定は、25℃湿度65%の環境にてフィルム両面(I面/II面)について、それぞれN=3で行い、その平均値を各面の値として採用した。
【0035】
(7)180℃で3分間熱処理を行った後の表面自由エネルギーSb
180℃に設定したオーブン内にフィルムを3分間静置した。その後オーブンから熱処理後のフィルムを取り出し、(6)に記載の方法にて表面自由エネルギーを測定した。
測定は、25℃湿度65%の環境にてフィルム両面(I面/II面)について、それぞれN=3で行い、その平均値を各面の値として採用した。
(8)180℃で50%伸長後の表面自由エネルギーSc
フィルムの任意の位置における主配向軸方向をTD方向とし、TD方向に直交する方向をMD方向とし、MD方向およびTD方向にそれぞれ長さ150mm×幅30mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、初期引張チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分としてフィルムサンプルの長手方向に50%伸長する。伸長は予め180℃に設定した恒温層中にフィルムサンプルをセットし、90秒間の予熱の後で行った。その後恒温槽から伸長後のフィルムサンプルを取り出し、表面自由エネルギーを(6)に記載の方法で測定した。測定は、25℃湿度65%の環境にてフィルム両面(I面/II面)について、それぞれN=3で行い、その平均値を各面の値として採用した。
【0036】
(9)表面弾性率
AFM(Burker Corporation製 DimensionIcon)を用い、PeakForceQNMモードにて測定を実施し、得られたフォースカーブから付属の解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」を用いて、JKR接触理論に基づいた解析を行い、弾性率分布を求めた。
【0037】
具体的にはPeakForceQNMモードのマニュアルに従い、カンチレバーの反り感度、バネ定数、先端曲率の構成を行った後、下記の条件にて測定を実施し、得られたDMT Modulusチャンネルのデータを表面の弾性率として採用した。なお、バネ定数および先端曲率は個々のカンチレバーによってバラつきを有するが、測定に影響しない範囲として、バネ定数0.3(N/m)以上0.5(N/m)以下、先端曲率半径15(nm)以下の条件を満たすカンチレバーを採用し、測定に使用した。
【0038】
測定条件は下記に示す。
測定装置 : Burker Corporation製原子間力顕微鏡(AFM)
測定モード : PeakForceQNM(フォースカーブ法)
カンチレバー: ブルカーAXS社製SCANASYST-AIR
(材質:Si、バネ定数K:0.4(N/m)、先端曲率半径R:2(nm))
測定雰囲気 : 23℃・大気中
測定範囲 : 3(μm)四方
分解能 : 512×512
カンチレバー移動速度: 10(μm/s)
最大押し込み荷重 : 10(nN)
次いで得られたDMT Modulusチャンネルのデータを解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」にて解析し、Roughnessにて処理することにより得られた、ResultsタブのImage Raw Meanの値、およびImage Rqの値を任意に採取した5サンプルについてそれぞれ数平均を算出し、「表面弾性率」、および「弾性率の二乗平均平方根(Rq)」とした。測定は、フィルム両面(I面/II面)について、それぞれN=3で行い、その平均値を各面の値として採用した。
(10)150℃におけるフィルムMD方向の10%伸張時応力
フィルムを任意の位置でMD方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、初期引張チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分としてフィルムのMD方向に引張試験を行った。測定は予め150℃に設定した恒温層中にフィルムサンプルをセットし、90秒間の予熱の後で引張試験を行った。サンプルが10%伸張したとき(チャック間距離が55mmとなったとき)のフィルムにかかる荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×10mm)で除した値を10%伸張時応力とした。なお、測定は、フィルムの任意の位置における主配向軸方向をTD方向とし、TD方向に直交する方向をMD方向として行う。サンプリングは任意の位置で5点行い、各サンプルにて測定を行い得られた値の平均値を採用した。
【0039】
(11)離型層の厚み斑
(3)に記載の方法にて、MD方向、およびTD方向の各方向にて位置を変えて10点ずつフィルムの断面写真を撮影し、得られた各方向、および各位置の断面写真から離型層厚みの最大値、および最小値を算出した。
【0040】
(12)180℃における表面断裂伸度
MD方向およびTD方向にそれぞれ長さ150mm×幅30mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、初期引張チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分としてフィルムサンプルの長手方向に5%、10%、15%、20%、25%、30%の各伸度で伸長したサンプルを作成する。その後得られた伸度サンプルの表面をSEMで観察し、表層断裂の有無を確認する。断裂が観察されたサンプル中で最も伸度が高い条件から1%ずつ伸度を上げたサンプルを再度作成後、同様に断裂の有無を確認し、断裂の生じる最高伸度をそのサンプルの180℃における表面断裂伸度として採用した。また、伸度30%で断裂が生じない場合は、30%超と表記した。
【0041】
(13)突き刺し強度
フィルムを長手方向および幅方向に長さ50mm×幅50mmの正方形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いてクロスヘッドスピード5mm/分で0.5mmφの針を用いて突き刺し試験をおこない突き刺し荷重、突き刺し変位の測定を行った。各5回ずつ測定し、その最大突き刺し荷重の平均をサンプルの突き刺し強度として採用した。なお、室温を25℃63%Rhに制御して行った。得られた突き刺し強度を、下記の基準で評価した。
S:突き刺し強度が4N以上7N以下成形深さの平均値が4.5mm以上であり、かつ金型凹部の中心位置金型底面側のコーナーがシャープに成形されている。
A:成形深さの平均値が4.5mm以上であり、金型底面側のコーナーが丸みを帯びているが、成形されている。
B:成形深さの平均値が4.5mm以上であるが、白化している部分がある。
C:成形深さの平均値が4.5mm未満である。
B以上を合格とした。
【0042】
(14)金型形状追従性
150mm四方、深さ5mmの凹形状の金型を用いて評価を行った。A4サイズに切り出した離型フィルムを金型へ真空吸引し、追従させた。その後真空を解放し、取り出した離型フィルムの角位置における深さを測定し、4つの角について平均した値を成形深さとした。得られた成形深さの平均値、および金型形状の再現性から、金型への追従性を次のように評価した。
S:成形深さの平均値が4.5mm以上であり、かつ金型凹部の中心位置金型底面側のコーナーがシャープに成形されている。
A:成形深さの平均値が4.5mm以上であり、金型底面側のコーナーが丸みを帯びているが、成形されている。
B:成形深さの平均値が4.5mm以上であるが、白化している部分がある。
C:成形深さの平均値が4.5mm未満である。
B以上を合格とした。
【0043】
(15)離型性
6インチダミーウェハ上に封止材(ナガセケムテックス(株):商品名「R4212-2C」)をのせ、コンプレッションモールド成型金型の下型上に配置する。凹形状の上金型に離型フィルムを真空で吸引し固定した後、成型して封止テストサンプルを得た。金型温度は130℃、樹脂圧力は3MPa、キュア時間は15分とした。得られた封止テストサンプルの封止材と離型フィルムとの離型性を剥離角度180°、剥離速度300mm/分で剥離試験を行ったときの剥離力を測定し、以下の基準で評価した。
S:0.3N/50mm未満
A:0.3N/50mm以上3.0N/50mm未満
B:3.0N/50mm以上5.0N/50mm未満
C:5.0N/50mm以上
B以上を合格とした。
【0044】
(16)成形外観1
(15)に記載の方法にて得られた封止テストサンプルについて、離型フィルムを剥離した後の封止材表面を目視および顕微鏡(100倍)で観察し、以下の基準で評価した。
S:目視および顕微鏡観察のいずれもシワが観察されない。
A:目視ではシワが観察されず、顕微鏡観察時にシワが観察される。
B:目視および顕微鏡観察のいずれでも封止材表面の一部にシワが観察される。
C:目視および顕微鏡観察のいずれでも封止材表面の全面にシワが確認される。
B以上を合格とした。
【0045】
(17)成形外観2
下金型にダミーのエポキシ基板をセットし、上金型に離型フィルムを真空で吸引し固定した後、型締めし、封止材(HC-300B、日東電工(株)製)を金型温度180℃、注入圧力7.7MPa、硬化時間5分の条件にてトランスファーモールドした。得られた封止テストサンプルについて、離型フィルムを剥離した後の封止材表面、および離型フィルムを目視および顕微鏡(100倍)で観察し、以下の基準で判断した。
S:目視および顕微鏡観察のいずれもシワが観察されない。
A:目視ではシワが観察されず、顕微鏡観察時にシワが観察される。
B:目視および顕微鏡観察のいずれでも封止材表面の一部にシワが観察される。または、離型フィルムに白化が観察される。
C:目視および顕微鏡観察のいずれでも封止材表面の全面にシワが確認される。または、離型フィルムが剥離できない。
B以上を合格とした。 (18)孔開き性
熱針式有孔加工機を用いて、A4サイズに切り出した離型フィルムに孔径0.8mm、孔間隔5mm×5mm(MD×TD)の条件にて孔開き加工を行った。得られた離型フィルムの孔開きの状態を顕微鏡(100倍)で観察し、以下の基準で判断した。
A:A4サイズ上で孔が開いていない箇所が2箇所未満である。
B:A4サイズ上で3箇所以上10箇所未満孔が開いていない箇所がある。
C:A4サイズ上で10箇所以上孔が開いていない箇所がある、もしくはフィルムに裂けが生じている。
B以上を合格とした。
【0046】
(ポリエステルの製造)
製膜に供したポリエステル樹脂は以下のように準備した。
【0047】
(ポリエステルA)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.65)。
【0048】
(ポリエステルB)
1,4-シクロヘキサンジメタノール がグリコール成分に対し33mol%共重合された共重合ポリエステル(イーストマン・ケミカル社製 GN001)を、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートとして使用した(固有粘度0.75)。
【0049】
(ポリエステルC)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が82.5モル%、イソフタル酸成分が17.5モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.7)。
(ポリエステルD)
エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート30%共重合ポリエチレンテレフタレート。
(ポリエステルE)
ナフタレンジカルボン酸20mol%共重合ポリエチレンテレフタレート。
(ポリエステルF)
スピログリコールを20mol%を共重合したポリエチレンテレフタレート。
(ポリエステルG)
シクロヘキサンジカルボン酸30%を共重合したポリエチレンテレフタレート。
(ポリエーテルイミド)
ポリエステルA50質量部とSABICイノベーティブプラスチック社製のPEI“Ultem1010”を50質量部をコンパウンドして得られたポリエーテルイミド含有ポリエチレンテレフタレート。
【0050】
(粒子マスター)
ポリエステルA中に数平均粒子径2.2μmの凝集シリカ粒子を粒子濃度2質量%で含有したポリエチレンテレフタレート粒子マスター(固有粘度0.65)。
(離型層1形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」20質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」1質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層2形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」20質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」15質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層3形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」10質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」15質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層4形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」5質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」15質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層5形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」1質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」15質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層6形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」20質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」5質量部:一方社油脂工業社製長鎖アルキル鎖含有化合物「商品名:ピーロイル1010S」20質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層7形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」20質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」5質量部:一方社油脂工業社製長鎖アルキル鎖含有化合物「商品名:ピーロイル1010S」10質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層8形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」20質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東洋紡製ポリエステル系樹脂「商品名:バイロンUR-1350」5質量部:一方社油脂工業社製長鎖アルキル鎖含有化合物「商品名:ピーロイル1010S」10質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層9形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」20質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東洋紡製ポリエステル系樹脂「商品名:バイロンUR-1350」10質量部:一方社油脂工業社製長鎖アルキル鎖含有化合物「商品名:ピーロイル1010S」10質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層10形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」30質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」15質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層11形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」40質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」15質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層12形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」50質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:東亞合成株式会社製アクリル樹脂「商品名:アロンA―1017」15質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層13形成用溶液)
三和ケミカル製メチル化メラミンホルムアルデヒド「商品名:ニカラックMX-706」20質量部:(株)三羽研究所製パラトルエンスルホン酸アミン0.4質量部:トルエン8質量部:メチルエチルケトン8質量部
(離型層14形成用溶液)
共栄社化学株式会社製アクリル樹脂「商品名:SMP-250AP」50質量:中京油脂株式会社製「商品名:レゼムN-137」40質量部:BASFジャパン株式会社製「商品名“イルガキュア”(登録商標)184」3.0質量部:エチレングリコールモノブチルエーテル20質量部
(実施例1)
組成を表の通りとして、原料をそれぞれ酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に供給し、A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を277℃で溶融し、A層とB層合流後の短管温度を277℃、口金温度を280℃で、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸シートを得た。次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、延伸温度85℃で長手方向に3.1倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却化した。
【0051】
次いでテンター式横延伸機にて予熱温度100℃、延伸温度120℃で幅方向に3.5倍延伸し、そのままテンター内にて定長にて温度240℃で15秒間熱処理を行い、その後同温度にて3%の弛緩処理を行い、さらに温度200℃にて2%の弛緩処理を行い、フィルム厚み55μmの基材フィルムを得た。
その後、基材フィルムに離型層1形成溶液をグラビアコート法で塗布した後、オーブンに搬送し、乾燥前半(工程A)温度を100℃、搬送張力0.6MPa、ドロー設定を0.40%とし、乾燥後半(工程B)温度を110℃、搬送張力0.6MPa、ドロー設定を0.40%とし溶液を乾燥し、離型層厚みが135nmの離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表2に示す。
【0052】
(実施例2~46、比較例1~5)
フィルム構成、離型層の処方および乾燥条件を表1、3、5、7、9、11の通りに変更した以外は実施例1と同様にしてフィルム厚み55μmの離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表2、4、6、8、10、12に示す。
(実施例47)
組成を表の通りとして、原料をそれぞれ酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に供給し、A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を277℃で混練した。次いで、それぞれFSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて計量しながら、スリット数387個のフィードブロックにて合流させて、積層比4.0(B層/A層)の厚さ方向に交互に387層積層された積層体とした。ここでは、スリット長さ、間隔は全て一定とした。得られた積層体は、ポリエステルAが194層、ポリエステルBが193層であり、厚さ方向に交互に積層されていた。該積層体をTダイに供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印可電圧をかけながら、表面温度が25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、未延伸のキャストフィルムを得た。以後は実施例1と同様にしてフィルム厚み55μmの離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表16に示す。
なお、上記実施例において、実施例1~42、及び46は、それぞれ参考例1~42、及び46と読み替えるものとする。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の離型フィルムは、室温から200℃まで昇温した際の寸法変化率とその変動が小さいため加熱時のシワの発生を抑制することができ、また、熱処理後、および加熱伸長後の表面自由エネルギーの変化が小さいため、高温成形後の剥離性に優れており、回路製造工程や、半導体製造工程用の離型フィルムとして好適であり、特に半導体封止工程用離型フィルムとして好適に用いることができる。