(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 5/20 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
H02K5/20
(21)【出願番号】P 2023504900
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021009083
(87)【国際公開番号】W WO2022190183
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚越 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】窪田 泰之
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が流通する流路と、前記冷媒が前記流路に流入する入口と、前記冷媒が前記流路から流出する出口と、を有する筒状のハウジングを備え、前記流路が、前記ハウジングの周面を螺旋状に周回するように形成された回転電機であって、
前記流路が、
前記ハウジングの一方の端面に沿って形成され、かつ、前記入口から前記冷媒の流通方向に沿って、前記周面に沿った幅が拡大するように形成された第1流路と、
前記ハウジングの他方の端面に沿って形成され、かつ、前記冷媒の流通方向に沿って前記出口にかけて、前記周面に沿った幅が縮小するように形成された第2流路と、
前記第1流路と前記第2流路の間に、幅が均一な第3流路と、
を備え、
前記第3流路の幅は、前記第1流路の最も広い部分における幅よりも狭く、かつ、前記第2流路の最も広い部分における幅よりも狭く、
前記入口と前記出口が、前記ハウジングの周方向において90度以上離間した位置に設けられて
おり、
前記ハウジングは、
第1固定子及び第1回転子を収容し、かつ、前記流路を有する第1ハウジングと、
第2固定子及び第2回転子を収容し、かつ、前記流路を有する第2ハウジングと、
前記第1ハウジングの前記出口と前記第2ハウジングの前記入口とを直線的に連結する連結管と、
を有し、
前記第2ハウジングの前記流路は、前記第1ハウジングの前記流路に対して逆巻きの螺旋状に形成されている、
回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記入口から前記出口にかけて、前記冷媒に、予め定める圧力損失を生じさせる均一な幅の流路を基準流路とするときに、
前記第3流路の幅は、前記基準流路の幅である基準幅と等しい、
回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機であって、
前記第1流路は、前記基準流路を、前記ハウジングの前記一方の端面の方向に拡張した形状を有し、
前記第2流路は、前記基準流路を、前記ハウジングの前記他方の端面の方向に拡張した形状を有する、
回転電機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記第1流路と前記第3流路の境界、及び、前記第2流路と前記第3流路の境界は、前記ハウジングの周方向に沿った直線で形成されている、
回転電機。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記第1流路は、前記入口から、前記ハウジングの周面を一周する範囲に設けられ、
前記第2流路は、前記出口から、前記ハウジングの周面を一周する範囲に設けられている、
回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を流通する冷媒路を有するハウジングを備える回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2015/098328には、回転電機を冷却するための冷却液を流す通路がハウジング内に形成されるときに、この通路が、円筒状のハウジングの外周に沿った周方向通路と、各々の周方向通路を接続する斜行通路と、で形成されることが記載されている。特に、当該文献には、圧力損失の上昇を抑えるために、斜行通路の幅が周方向通路と同一であるべき旨が記載されている。
【発明の概要】
【0003】
回転電機のハウジングに冷媒を流す流路(通路)を形成するときには、冷媒をこの流路に流入させるための入口と、冷媒をこの流路から流出させるための出口と、の相対的な位置関係を特に考慮する必要がある。
【0004】
例えば上記文献に記載されたハウジングのように、ハウジングの周方向において、冷媒の入口と出口がほぼ同一の位置にあるときには、ハウジングの周面をほぼ全て覆うように冷媒の流路を形成することができる。
【0005】
しかし、回転電機は、車両を駆動する駆動ユニット等に組み込まれて使用される。このため、例えば駆動ユニットを構成する他の部材の配置関係等によって、冷媒の入口及び出口の配置が制限される場合がある。すなわち、冷媒の入口及び出口が、ハウジングの周方向において離間した位置に配置されなければならない場合がある。この場合、冷媒の入口及び出口が離間している角度範囲に応じて、ハウジングの周面には冷媒の流路がない部分が生じる。例えば、ハウジングの周方向において冷媒の入口及び出口が180度ずれているときには、ハウジングの端部には半周にわたって冷媒の流路がない部分が生じる。そして、このように流路がない部分があると、回転電機が十分に冷却されないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、ハウジングに冷媒の流路が形成された回転電機であって、冷媒の入口と出口の位置関係に依らずに、必要な冷却性能が得られる回転電機を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の一態様による回転電機は、冷媒が流通する流路と、冷媒が流路に流入する入口と、冷媒が流路から流出する出口と、を有する筒状のハウジングを備え、流路が、ハウジングの周面を螺旋状に周回するように形成された回転電機である。この回転電機では、流路が、ハウジングの一方の端面に沿って形成され、かつ、入口から冷媒の流通方向に沿って、周面に沿った幅が拡大するように形成された第1流路と、ハウジングの他方の端面に沿って形成され、かつ、冷媒の流通方向に沿って出口にかけて、周面に沿った幅が縮小するように形成された第2流路と、を備える。そして、第3流路の幅は、第1流路の最も広い部分における幅よりも狭く、かつ、第2流路の最も広い部分における幅よりも狭い。さらに、入口と出口が、ハウジングの周方向において90度以上離間した位置に設けられている。そして、ハウジングは、第1固定子及び第1回転子を収容し、かつ、流路を有する第1ハウジングと、第2固定子及び第2回転子を収容し、かつ、流路を有する第2ハウジングと、第1ハウジングの出口と第2ハウジングの入口とを直線的に連結する連結管と、を有し、第2ハウジングの流路は、第1ハウジングの流路に対して逆巻きの螺旋状に形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、ステータが固定されるハウジングの斜視図である。
【
図5】
図5は、別の方向から見た内管の側面図である。
【
図6】
図6は、冷媒流路の詳細な構成を示す説明図である。
【
図7】
図7は、比較例の冷媒流路の構成を示す説明図である。
【
図8】
図8は、比較例の冷媒流路を採用したインナーハウジングの内面温度を示す説明図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係る冷媒流路を採用したインナーハウジングの内面温度を示す説明図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る冷媒流路における冷媒の流速を示す説明図である。
【
図11】
図11は、冷媒の流速及び温度の変化を概略的に示すグラフである。
【
図12】
図12は、回転電機全体の冷媒流路の構成を示す説明図である。
【
図13】
図13は、第1変形例の冷媒流路の構成を示す説明図である。
【
図14】
図14は、第2変形例に係る冷媒流路の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、駆動ユニット100の概略断面図である。駆動ユニット100は、電動車両またはハイブリッド車両等の車両(図示しない)の駆動を、回転電機11を用いて直接的にまたは間接的に制御するためのユニットである。回転電機11を用いた直接的な駆動制御とは、例えば、回転電機11が発生するトルクを車両の駆動力に変換する制御態様である。回転電機11を用いた間接的な駆動制御とは、例えば、回転電機11を発電に使用し、この発電によって発生した電力の一部または全部を車両の駆動力の発生に利用する制御態様である。本実施形態の駆動ユニット100は、いわゆるシリーズハイブリッド方式の電動車両に搭載される。したがって、駆動ユニット100は、直接的に、かつ、間接的に、車両の駆動を制御する。
【0011】
図1に示すように、駆動ユニット100は、アウターハウジング10内に、回転電機11と、回転電機11の動作を制御するインバータ12と、を備える。また、駆動ユニット100は、回転電機11及びインバータ12の他に、減速機を構成するギヤや回転センサ等の図示しない部材が一体となって構成される。
【0012】
アウターハウジング10は、駆動ユニット100の外殻を形成するハウジングである。回転電機11及びインバータ12等は、アウターハウジング10内に収容されることにより、駆動ユニット100として一体化される。また、アウターハウジング10内には、回転電機11及びインバータ12等の発熱体を冷却する冷媒13が流通する流路(以下、冷媒流路という)14が設けられている。冷媒13は、冷却の用に供する液体または気体等の流体であり、例えば、冷却水その他の冷却液または空気等である。また、冷媒13は、冷媒流路14等を流通することによって、回転電機11、インバータ12、及び、その他の図示しない発熱体等、アウターハウジング10に収容される各部を冷却する。本実施形態では、冷媒13は、図示しないラジエータとの間で循環する冷却液である。
【0013】
回転電機11は、電動機、発電機、または、電動機及び発電機として動作する電動発電機である。回転電機11は、電動機、発電機、または、電動発電機として動作するモータを2以上含むことができる。本実施形態においては、回転電機11は、第1モータ20と第2モータ25の2個のモータによって構成される。このため、インバータ12は、第1モータ20を制御する第1インバータ12aと、第2モータ25を制御する第2インバータ12bと、を備える。
【0014】
第1モータ20は、駆動用モータ(電動機)である。したがって、駆動ユニット100が搭載された車両は、第1モータ20が発生するトルクを駆動力に変換して走行する。また、第1モータ20を駆動するための電力は、図示しないバッテリから供給される。第1モータ20は、インナーハウジング21、固定子22、及び、回転子23を備える。
【0015】
インナーハウジング21は、焼き嵌め等の方法により、固定子22を固定する筒状部材である。本実施形態においては、インナーハウジング21は円筒状である。また、インナーハウジング21は、その内部に、アウターハウジング10の冷媒流路14と連通する冷媒流路24(
図2等参照)を備える。すなわち、冷媒流路24は、冷媒13が流通する流路(通路)である。インナーハウジング21の構造、及び、インナーハウジング21の冷媒流路24(以下、第1モータ20の冷媒流路24という)の構造等については、詳細を後述する。
【0016】
なお、回転子23は、アウターハウジング10に取り付けられており、駆動ユニット100を形成するときに固定子22の中心部分に挿入される。回転子23は、固定子22に挿入後においても、インナーハウジング21及び固定子22に対して回転自在である。なお、固定子22は、第1モータ20を制御するために電流を流すユニットであるため、少なくとも第1モータ20の発熱要因の1つである。
【0017】
第2モータ25は、発電用モータ(発電機)である。第2モータ25は、図示しないエンジン(内燃機関)と接続され、エンジンによって駆動される。第2モータ25で発電された電力は、第1モータ20に電力を供給するバッテリに蓄積される。また、第2モータ25は、空回しによって、バッテリの電力を消費することができる。
【0018】
第2モータ25は、第1モータ20と用途が異なるが、基本的な構造は第1モータ20と同じである。すなわち、第2モータ25は、インナーハウジング26、固定子27、及び、回転子28を備える。インナーハウジング26は、焼き嵌め等の方法により、固定子27を固定する筒状部材であり、本実施形態においては円筒状である。また、インナーハウジング26は、その内部に、アウターハウジング10の冷媒流路14と連通する冷媒流路29(
図12参照)を備える。すなわち、冷媒流路29は、冷媒13が流通する流路である。インナーハウジング26の冷媒流路29(以下、第2モータ25の冷媒流路29という)は、基本的な構造は、インナーハウジング21の冷媒流路24とほぼ同様である。第2モータ25の冷媒流路29の構造については、第1モータ20と第2モータ25の連結構造と併せて詳細を後述する。回転子28は、アウターハウジング10に取り付けられており、固定子27に挿入後においても回転自在である。なお、固定子27は、第2モータ25を制御するために電流を流すユニットであるため、少なくとも第2モータ25の発熱要因の1つである。
【0019】
第1モータ20のインナーハウジング21と第2モータ25のインナーハウジング26は、連結管30で連結されることで一体化する。このため、第1モータ20のインナーハウジング21と第2モータ25のインナーハウジング26の全体は、回転電機11のインナーハウジングを構成する。すなわち、回転電機11のインナーハウジングは、第1ハウジングと、第2ハウジングを備える。第1ハウジングは、第1モータ20のインナーハウジング21であり、第1固定子である固定子22及び第1回転子である回転子23を収容し、冷媒流路24を有する。第2ハウジングは、第2モータ25のインナーハウジング26であり、第2固定子である固定子27及び第2回転子である回転子28を収容し、冷媒流路29を有する。
【0020】
連結管30は、上記のようにインナーハウジング21,26を一体化する他、第1モータ20の冷媒流路24と第2モータ25の冷媒流路29を連結する。本実施形態においては、アウターハウジング10に流入するする冷媒13は、冷媒流路14を通ってインバータ12を冷却した後、第1モータ20の冷媒流路24に流入する。その後、冷媒13は、第1モータ20の冷媒流路24を流通して、連結管30に流出する。したがって、アウターハウジング10の冷媒流路14と、第1モータ20の接続部分が、第1モータ20の冷媒流路24における冷媒13の入口(以下、入口αという)である。また、連結管30と第1モータ20の接続部分が、第1モータ20の冷媒流路24における冷媒13の出口(以下、出口βという)である。すなわち、第1モータ20の冷媒流路24において、入口αは冷媒13の導入口であり、出口βは冷媒13の排出口である。
【0021】
そして、冷媒13は、連結管30を通って第2モータ25の冷媒流路29に流入し、第2モータ25の冷媒流路29を流通した後、アウターハウジング10の冷媒流路14に流出する。したがって、連結管30と第2モータ25の接続部分が、第2モータ25の冷媒流路29における冷媒13の入口(以下、入口γという)である。また、アウターハウジング10の冷媒流路14と第2モータ25の接続部分が、第2モータ25の冷媒流路29における冷媒13の出口(以下、出口δという)である。すなわち、第2モータ25の冷媒流路29において、入口γは冷媒13の導入口であり、出口δは冷媒13の排出口である。
【0022】
すなわち、連結管30は、インナーハウジング21の出口βと、インナーハウジング26の入口γと、を無駄なく直線的に連結する。これにより、連結管30は、第1モータ20の冷媒流路24と第2モータ25の冷媒流路29を接続する。
【0023】
なお、本実施形態においては、第1モータ20及び第2モータ25の各回転軸は平行である。そして、
図1に示すように、第1モータ20及び第2モータ25の回転軸の方向をZ方向とし、X方向及びY方向は、Z方向を基準に右手系を構成するように定められる。また、
図1に示すように、説明の便宜のため、第1モータ20に接続する冷媒流路14と第2モータ25に接続する冷媒流路14は、その接続部分近傍において平行であるものとする。そして、第1モータ20及び第2モータ25への冷媒流路14の接続方向をY方向とする。
【0024】
[インナーハウジング及び冷媒流路の構造]
図2は、インナーハウジング21の斜視図である。
図2では、第1モータ20のインナーハウジング21を示しているが、第2モータ25のインナーハウジング26もこれと同様の構造を有する。
図2に示すように、第1モータ20のインナーハウジング21は、内管31と外管32とからなる二重管構造となっており、内管31と外管32の間に第1モータ20の冷媒流路24が形成される。
【0025】
内管31は、概ね円筒状の部材であり、一方の端部にフランジ部33を有する。フランジ部33には締結部34が設けられる。したがって、フランジ部33は、アウターハウジング10への取り付け面を構成する。また、フランジ部33は外管32の位置決め部材としても機能する。すなわち、係合、螺合、またはその他の方法によって、内管31に外管32を取り付けるときに、外管32の端部が内管31のフランジ部33に突き当たる。これにより、内管31と外管32のZ方向における相対位置が定まる。締結部34は、フランジ部33のうち、インナーハウジング21をアウターハウジング10に締結するためのネジ穴を有する部分である。固定子22は、内管31内に収容され、固定される。
【0026】
以下、内管31の周面のうち、固定子22と当接する周面を内周面といい、外管32と当接する周面を外周面という。同様に、外管32の周面のうち、内管31の外周面側の周面を内周面といい、インナーハウジング21の外周を形成する周面を外周面という。また、説明の便宜のため、内管31の内周面のうち、X方向正側の内周面を右内周面36といい、X方向負側の内周面を左内周面37という。さらに、インナーハウジング21の端部における表面を端面という。本実施形態においては、便宜的に、内管31のフランジ部33が設けられたZ方向正側の端面を「一方の端面38」といい、Z方向負側の端面を「他方の端面39」という。
【0027】
外管32は、内管31の外周面を覆うように、内管31の外側に取り付けられる。また、外管32が内管31に取り付けられたときに、外管32の内周面は、冷媒流路24が形成する部分を除き、内管31の外周面と当接する。このため、冷媒流路24は、少なくとも冷媒13が漏洩しない程度に、水密及び気密に保たれる。また、外管32は、冷媒13の入口αにおいて、アウターハウジング10の冷媒流路14と接続する接続管40を有する。接続管40は、バルジと称される場合がある。
【0028】
図3は、内管31の斜視図である。内管31は外周面に沿って、一連の溝部41を有する。この溝部41は、内管31の外周面を周回するように形成されている。この周回等によって隣接する溝部41は、壁部42によって隔てられている。また、壁部42は、一方の端面38及び他方の端面39と、溝部41と、を隔てる。これら壁部42の頂部43(稜部)は、外管32の内周面と当接する。そして、内管31に外管32が取り付けられたときには、冷媒流路24は、外管32の内周面と、溝部41及び壁部42と、によって形成される。
【0029】
図4は、内管31の側面図である。また、
図5は、別の方向から見た内管31の側面図である。
図4及び
図5に示すように、冷媒流路24は、入口αから出口βにかけて、内管31の外周面に沿って螺旋状に周回するように形成される。また、冷媒流路24は、Z方向において、固定子22が存在するために発熱する範囲(以下、発熱範囲45という)のほぼ全体に設けられている。このため、破線矢印で示すように、冷媒13が冷媒流路24を流通すると、少なくとも固定子22の全体が冷却される。
【0030】
図6は、冷媒流路24の詳細な構成を示す説明図である。
図6に示すように、以下では、入口αの位置を基準とし、外周面に沿った冷媒流路24の位置をZ方向に垂直な面内(XY面内方向)における角度で表す。また、冷媒流路24における位置を表す角度を角度位置という。本実施形態では、
図6に示す通り、冷媒流路24における冷媒13の入口αと出口βの角度位置は離間しており、入口αの角度位置が0度であるのに対して、出口βの角度位置は900度である。このため、入口αと出口βの角度位置は180度離間している。
【0031】
なお、入口αと出口βの角度位置について「離間」とは、入口α及び出口βの大きさや入口α及び出口βの位置にある冷媒13が固定子22を冷却する範囲等を考慮して、入口αと出口βが実質的に異なる角度位置にあることをいう。そして、以下に詳述する冷媒流路24の構造は、入口αと出口βが離間しているときでも、収容された固定子22等を効果的に冷却するための構造である。したがって、冷媒流路24の構造を採用することにより、固定子22の一部または全部について冷却効果が高まるのであれば、入口αと出口βの位置は実質的に離間しているといえる。
【0032】
また、入口αと出口βの角度位置が離間しているほど、冷却効果に関して、冷媒流路24の構造が効果的である。入口αと出口βが例えば10度以上離間しているときには、冷媒流路24の構造による冷却性能向上効果を十分に期待でき、例えば45度以上離間しているときには冷媒流路24の構造による冷却性能向上効果が顕著になりやすい。そして、入口αと出口βが例えば90度以上離間しているときには、冷媒流路24の構造による冷却性能向上効果は特に顕著である。そして、冷媒流路24以外の構造を採用する場合、入口αと出口βが180度離間しているときに冷却効果が最も低下しやすい。このため、入口αと出口βが180度離間しているときに冷媒流路24の構造を採用すると、冷却効果が最も向上する。
【0033】
図6に示すように、冷媒流路24は、第1流路51と、第2流路52と、備える。また、本実施形態では、冷媒流路24は、第1流路51と第2流路52に加えて、第3流路53を含む。
【0034】
第1流路51は、入口αからインナーハウジング21の一方の端面38に沿って形成され、かつ、冷媒13の流通方向に沿って、周面に沿った幅が拡大するように形成されている。特に、本実施形態では、第1流路51は、入口αから、インナーハウジング21の周面を一周する範囲に設けられている。
【0035】
「一方の端面38に沿って形成」とは、インナーハウジング21の周面を周回する冷媒流路24の中で、一方の端面38に最も近い最初の一周の一部または全部が構成要素として含まれることを表す。本実施形態では、第1流路51は、冷媒流路24のうち、入口αから最初の一周分の部分、すなわち角度位置が0度から360度の部分である。特に、第1流路51は、一方の端面38側にある壁部42及びその頂部43が一方の端面38と平行に形成されている。したがって、より狭義に、一方の端面38と第1流路51を構成する壁部42の位置関係を考慮するとしても、第1流路51は一方の端面38に沿って形成されている。
【0036】
冷媒流路24における冷媒13の流通方向は、入口αから出口βへの冷媒流路24に沿った方向である。第1流路51においては、入口αを基準と下角度位置の正方向(0度から360度に向けた方向)である。
【0037】
「周面に沿った幅」とは、Z方向の長さ、すなわちZ方向における壁部42(特に頂部43)の間隔をいう。
図6に示す通り、第1流路51は、0度から角度位置が大きくなるほど、周面に沿った幅が徐々に拡大するように形成されている。
図6において破線で示すように、入口αと出口βを均一な幅の螺旋状流路で連結するときに、この流路を基準流路55とする。また、基準流路55の周面に沿った幅を基準幅とする。このとき、第1流路51は、基準幅の流路すなわち基準流路55を、インナーハウジング21の一方の端面38の方向(Z方向正側の方向)に拡張した形状を有する。なお、基準流路55の幅である基準幅は、入口αと出口βを、許容する冷媒13の圧力損失に応じて定まる。
【0038】
第2流路52は、インナーハウジング21の他方の端面39に沿って形成され、かつ、冷媒13の流通方向に沿って出口βにかけて、周面に沿った幅が縮小するように形成されている。特に、本実施形態では、第2流路52は、出口βから、インナーハウジング26の周面を一周する範囲に設けられている。
【0039】
「他方の端面39に沿って形成」とは、インナーハウジング21の周面を周回する冷媒流路24の中で、他方の端面39に最も近い最後の一周の一部または全部が構成要素として含まれることを表す。本実施形態では、第2流路52は、冷媒流路24のうち、出口βに至る最後の一周の部分、すなわち角度位置が540度から900度の部分である。特に、第2流路52は、他方の端面39側にある壁部及びその頂部43が他方の端面39と平行に形成されている。したがって、より狭義に、他方の端面39と第2流路52を構成する壁部42の位置関係を考慮するとしても、第2流路52は他方の端面39に沿って形成されている。
【0040】
第2流路52における冷媒13の流通方向は、540度の角度位置から出口βに沿った方向である。そして、
図6に示す通り、第2流路52は、540度の角度位置から出口βにかけて、角度位置が大きくなるほど、周面に沿った幅が徐々に縮小するように形成されている。特に、第2流路52は、基準幅の流路である基準流路55を、インナーハウジング21の他方の端面39の方向(Z方向負側の方向)に拡張した形状を有する。
【0041】
第3流路53は、第1流路51と第2流路52の間に設けられ、第1流路51と第2流路52を連結する冷媒13の流路である。第3流路53は、周面に沿った幅が均一に形成される。また、この第3流路53の幅は、第1流路51の最も広い部分における幅よりも狭く、かつ、第2流路52の最も広い部分における幅よりも狭くなるように形成される。本実施形態では、
図6においてハッチングで示すように、第3流路53は、360度から540度の角度位置の部分である。特に、本実施形態においては、第3流路53の幅は、基準流路55の幅である基準幅と等しい。この第3流路53の構造は、冷媒13の圧力損失の抑制、特に圧力損失の最小化に寄与する。
【0042】
また、第1流路51と第3流路53の境界、及び、第2流路52と第3流路53の境界は、インナーハウジング21の周方向に沿った直線で形成される。さらに、本実施形態では、第1流路51と第2流路52の境界も、インナーハウジング21の周方向に沿った直線で形成される。この直線は、基準流路55を形成するときの壁部42に相当するものである。このように、第1流路51、第2流路52、及び/または、第3流路53の境界を直線で形成するのは、基準流路55に概ね準拠することで、冷媒13の圧力損失を低減し、より冷却性を高めるためである。
【0043】
[冷媒流路の作用]
以下、上記のように構成される冷媒流路24の作用を、比較例の冷媒流路60と対比しながら説明する。
【0044】
図7は、比較例の冷媒流路60の構成を示す説明図である。当該比較例においては、冷媒13の入口α及び出口βの角度位置等、冷媒流路60以外のインナーハウジング21の構成は、本実施形態のインナーハウジング21と同様である。
図7に示すように、比較例の冷媒流路60は、平行流路61と傾斜流路62によって、インナーハウジング21の周面を周回するように構成される。平行流路61は、冷媒13の流路であって、一方の端面38及び他方の端面39に平行である。また、平行流路61の周面に沿った幅は均一である。傾斜流路62は、平行流路61の接続部分に設けられる冷媒13の流路であり、平行流路61に対して傾斜して形成される。また、冷媒13の流通方向に垂直な方向における傾斜流路62の幅は、平行流路61と同じである。
【0045】
そして、
図7に示す通り、冷媒流路60を平行流路61で形成するときは、入口α及び出口βの離間角度に応じて、発熱範囲45の中に冷媒流路60が形成されない部分(以下、流路不形成部分65という)が生じる。もちろん、出口βよりも先に平行流路61を流路不形成部分65まで形式的に延長して形成することもできるが、このような形式的な流路では冷媒13が滞留するので、実質的な冷却作用が著しく低下する。このため、形式的な平行流路61の延長部分は実質的な冷媒流路とはいえない。
【0046】
図8は、比較例の冷媒流路60を採用したインナーハウジング21の内面温度を示す説明図である。
図8(A)は、比較例の冷媒流路60採用したときの左内周面37の温度分布を表す。また、
図8(B)は、比較例の冷媒流路60を採用したときの右内周面36の温度分布を表す。なお、
図8では、濃度が高い(黒い)部分ほど高温であることを表す。
【0047】
図8に示すように、比較例の冷媒流路60を採用すると、右内周面36及び左内周面37に、許容限界を超える著しい高温部分66が生じる。そして、この高温部分66は流路不形成部分65に対応する。すなわち、比較例の冷媒流路60では、流路不形成部分65が形成されることが避けられない結果、高温部分66が生じる。このため、比較例の冷媒流路60では、第1モータ20が十分に冷却されない不具合がある。
【0048】
図9は、本実施形態の冷媒流路24を採用したインナーハウジング21の内面温度を示す説明図である。
図9(A)は、本実施形態の冷媒流路24を採用したときの左内周面37の温度分布を表す。また、
図9(B)は、本実施形態の冷媒流路24を採用したときの右内周面36の温度分布を表す。なお、
図9では、濃度が高い(黒い)部分ほど高温度であることを表す。
【0049】
図9に破線で囲んで示すように、比較例の冷媒流路60では著しい高温部分66が生じていたのに対して、本実施形態に係る冷媒流路24を採用したときには、この高温部分66は生じない。したがって、本実施形態に係る冷媒流路24は、第1モータ20を十分に冷却できる。
【0050】
このように、本実施形態に係る冷媒流路24が、高温部分66を生じさせず、第1モータ20を十分に冷却できるのは、冷媒流路24が少なくとも第1流路51と第2流路52を備えるからである。
【0051】
具体的には、第1流路51は入口αから幅が徐々に拡大する構造となっている。このため、冷媒流路24は、第1流路51を備えることによって、発熱範囲45のうち少なくとも一方の端面38側の端部に流路不形成部分65を生じさせない構造となっている。また、第2流路52は出口βにかけて幅が徐々に縮小する構造となっている。このため、冷媒流路24は、第2流路52を備えることによって、発熱範囲45のうち少なくとも他方の端面39側の端部に流路不形成部分65を生じさせない構造となっている。
【0052】
したがって、冷媒流路24は、第1流路51と第2流路52を備えることによって、流路不形成部分65を生じさせず、発熱範囲45のほぼ全体を冷媒13で冷却する構造となっている。この結果、入口αと出口βの離間によって流路不形成部分65が生じる比較例の冷媒流路60と比較すると、本実施形態に係る冷媒流路24は、発熱範囲45のほぼ全部を、流通する冷媒13によって冷却できる。このため、本実施形態に係る冷媒流路24は、第1モータ20を十分に冷却できる。
【0053】
図10は、本実施形態に係る冷媒流路24における冷媒13の流速を示す説明図である。
図10においては、濃度が高い(黒い)部分ほど流速が高く、濃度が低い(白い)部分ほど流速が低いことを表す。但し、90数度の角度位置にある白色帯は、シミュレーションの設定による単なるデータの欠落部分であり、冷媒13の流速が低いことを示すものではない。
【0054】
図10に示すように、冷媒流路24においては、第1流路51と第3流路53がそれぞれに満たすべき構造の関係によって、これらの接続部分は、周方向に沿った幅が急縮小する急縮小部71となる。また、冷媒流路24においては、第3流路53と第2流路52がそれぞれに満たすべき構造の関係によって、これらの接続部分は、周方向に沿った幅が急拡大する急拡大部72となる。
【0055】
通常は、流体の流路が急縮小や急拡大すると、これらの部分において流体の速度(流速)は局所的に著しく低下し、大きな圧力損失が発生する。しかし、冷媒流路24では、第1流路51及び第2流路52の構造によって、急縮小部71及び急拡大部72の近傍における局所的かつ著しい速度低下が防止される。その結果、冷媒流路24では、急縮小部71及び急拡大部72における圧力損失が抑えられ、急縮小部71及び急拡大部72を含めて十分な冷却性が実現される。
【0056】
具体的には、第1流路51は、徐々に幅が拡大するように形成されているので、冷媒13は入口αから第1流路51を流通することによって、長い距離をかけて徐々に速度が低下する。このため、基準流路55に対して幅が拡大された第1流路51においても、冷媒13はほぼ隅々まで拡散する。例えば、
図10に示す通り、第1流路51の末端である急縮小部71において、冷媒13は、角部分にまで拡散しやすくなっている。その結果、第1流路51の構造によって、発熱範囲45の一方の端面38側の部分が十分に冷却される。
【0057】
また、第1流路51では冷媒13の速度が低下するものの、その変化は緩やかであり、局所的な大きな流速の低下は生じない。このため、冷媒13の速度の二乗に比例するエネルギー損失を抑えることができる。その結果、第1流路51における冷媒13の圧力の変化は緩やかとなり、第1流路51において著しい圧力損失は生じない。
【0058】
その後、冷媒13は、第1流路51を通過したことによって速度が低下し、拡散性が高い状態で急縮小部71に到達する。これにより、冷媒13は、急縮小部71で大きくエネルギーを損失することなく、第3流路53に流入することができる。すなわち、冷媒流路24は、第1流路51の構造によって、急縮小部71における圧力損失を低減している。
【0059】
上記の第1流路51と同様に、第2流路52は、徐々に幅が縮小するように形成されているので、冷媒13は出口βに向けて第2流路2を流通することによって、長い距離をかけて徐々に速度が上昇する。このため、基準流路55に対して幅が拡大された第2流路52においても、冷媒13はほぼ隅々まで拡散する。例えば、
図10に示す通り、第2流路52の初端である急拡大部72において、冷媒13は、角部分にまで拡散しやすくなっている。その結果、第2流路52の構造によって、発熱範囲45の他方の端面39側の部分が十分に冷却される。特に、冷媒流路24が螺旋状に形成されていることで、急拡大部72における冷媒13の流通方向は、他方の端面39側に傾斜する。このため、第3流路53から流入する冷媒13は、他方の端面39に平行な壁部42の方向に向けて流入することになる。その結果、急拡大部72の角部分にまで冷媒13が拡散しやすい。このように、急拡大部72においても冷媒13が拡散しやすくなっていることで、急拡大部72またはその近傍における局所的な速度低下及び圧力損失が抑制される。
【0060】
また、第2流路52では冷媒13の速度が変化(上昇)するものの、その変化は緩やかであり、局所的に大きな流速の変化は生じない。このため、冷媒13の速度の二乗に比例するエネルギー損失を抑えることができる。その結果、第2流路52における冷媒13の圧力の変化は緩やかとなり、第2流路52において著しい圧力損失は生じない。
【0061】
なお、上記のように、冷媒流路24は、第1流路51及び第2流路52によって冷媒13の圧力損失を抑える構造となっているが、この圧力損失の抑制効果は比較例の冷媒流路60よりも圧力損失をより良く抑える程度に顕著である。すなわち、冷媒13の圧力損失について比較すると、本実施形態に係る冷媒流路24の出口βにおける冷媒13の圧力損失は、比較例の冷媒流路60の出口βにおける冷媒13の圧力損失よりも小さい。
【0062】
図11は、冷媒13の流速及び温度の変化を概略的に示すグラフである。
図11に示すように、冷媒流路24では、急拡大部72の近傍において、冷媒13の速度が低く、かつ、温度が高い。このため、急拡大部72及びその近傍が、第1モータ20の冷却性に関して最も厳しい環境であり、高温になりやすい。しかし、
図9に示した通り、急拡大部72に対応する部分においても著しい高温にはならず、固定子22に当接する右内周面36及び左内周面37の全体が、冷媒流路24によって十分に冷却される。
【0063】
[第1モータと第2モータの連結構造]
図12は、回転電機11全体の冷媒流路の構成を示す説明図である。
図12に示すように、第1モータ20の冷媒流路24は、入口αからZ方向正方向に、いわゆる右巻き(右手巻き)の螺旋で延伸されて出口βに至る。これに対し、第2モータ25の冷媒流路29は、入口γからZ方向負方向に、いわゆる左巻き(左手巻き)の螺旋で延伸されて出口δに至る。すなわち、第1モータ20の冷媒流路24と第2モータ25の冷媒流路29は、ヘリシティ(あるいはカイラリティ)が異なり、互いに逆巻きの螺旋となっている。このように、第1モータ20の冷媒流路24と第2モータ25の冷媒流路29を互いに逆巻きの螺旋状に形成すると、無駄に長い接続管を設けなくても、第1モータ20の冷媒流路24と第2モータ25の冷媒流路29は、連結管30によって直線的に最短で接続され得る。このため、第1モータ20と第2モータ25は省スペースに配置され、コンパクトな回転電機11が提供される。また、第1モータ20の冷媒流路24と第2モータ25の冷媒流路29を互いに逆巻きの螺旋状に形成すると、アウターハウジング10に対する第1モータ20と第2モータ25の各取り付け面を容易に揃えることができ、各取り付け面が不揃いである場合よりも、第1モータ20と第2モータ25を省スペースに配置しやすい。
【0064】
第2モータ25の冷媒流路29は、上記のように第1モータ20の冷媒流路24に対して逆巻きの螺旋状に形成されるが、基本的な構造は第1モータ20の冷媒流路24と同様である。第2モータ25のインナーハウジング26は、第1モータ20のインナーハウジング21と同様に内管81と外管82で形成される。第2モータ25の冷媒流路29は内管81の外周面に形成される。内管81においては、フランジ部が設けられたZ方向正側の端面が一方の端面83であり、Z方向負側の端面が他方の端面84である。
【0065】
第2モータ25の冷媒流路29は、第1流路91と第2流路92を備える。本実施形態では、第2モータ25の冷媒流路29は、さらに第3流路93を備える。第1流路91は、インナーハウジング26の一方の端面83に沿って形成され、かつ、冷媒13の流通方向に沿って、周面に沿った幅が拡大するように形成される。第2流路92は、入口γからインナーハウジング26の他方の端面84に沿って形成され、かつ、冷媒13の流通方向に沿って出口δにかけて、周面に沿った幅が縮小するように形成される。第3流路93は、第1流路91と第2流路92の間に周面に沿った幅が均一になるように形成され、第1流路91と第2流路92を連結する。すなわち、第2モータ25の冷媒流路29は、逆巻きになっていることを除き、第1モータ20の冷媒流路24と同様に形成される。
【0066】
なお、回転電機11のように、駆動ユニット100に複数のモータをコンパクトに並べた回転電機を備える場合、アウターハウジング10の冷媒流路14は、例えば
図1に示すように形成することが好ましい。すなわち、駆動ユニット100をコンパクトに形成するためには、アウターハウジング10の冷媒流路14は、駆動ユニット100を構成する各部間を実質的に最短経路で連結することが好ましい。但し、このようにアウターハウジング10の冷媒流路14を形成すると、回転電機を構成する各モータへの冷媒の入口及び出口は離間する。そして、駆動ユニット100を特にコンパクトに構成するときには、回転電機を構成する各モータにおける冷媒流路の入口と出口は、概ね180度離間する。これは、
図1等において、第1モータ20の冷媒流路24の入口α及び出口β、及び、第2モータ25の冷媒流路29の入口γ及び出口δが示す通りである。
【0067】
一方、第1モータ20の冷却性能だけを考えれば、実質的に流路不形成部分65が生じないように、第1モータ20の冷媒流路24の入口αと出口βは離間していないことが望ましい。第2モータ25も同様である。すなわち、回転電機を構成する各個のモータに対する冷却性能だけを考えれば、冷媒流路の入口と出口は実質的に離間しないようにすることが望ましい。但し、このように、第1モータ20及び/または第2モータ25の単独での冷却性能を考慮すると、アウターハウジング10の冷媒流路14が冗長化する結果、駆動ユニット100がコンパクトに構成できないデメリットがある。
【0068】
したがって、本実施形態の冷媒流路24及び冷媒流路29の構造、並びに、これらの連結構造は、冷媒13の流路に関して駆動ユニット100を最大限にコンパクトに形成することを可能とし、その上で、第1モータ20及び第2モータ25の冷却性を最大限に高める最良の構造である。
【0069】
[第1変形例]
上記実施形態においては、第1モータ20の冷媒流路24は、第1流路51と第2流路52に加えて、これらを連結する第3流路53を備える。また、第2モータ25の冷媒流路29もこれと同様であり、第1流路91と第2流路92に加えて、これらを連結する第3流路93を備える。しかし、冷却性や圧力損失等を考慮して、第3流路53,93が省略される場合がある。この場合も、上記実施形態に係る冷媒流路24等と同様の効果が得られる。
【0070】
図13は、第1変形例の冷媒流路95の構成を示す説明図である。変形例の冷媒流路95は、第1モータ20の冷媒流路24における第3流路53を省略し、第1流路51と第2流路52を直接に連結した冷媒流路である。変形例の冷媒流路85では、0度(入口α)から360度または180度の角度位置の範囲が、一方の端面38に沿って形成され、かつ、冷媒13の流通方向に沿って周面に沿った幅が拡大するように形成されている範囲である。したがって、変形例の冷媒流路85においては、0度から360度または180度の範囲が第1流路51である。
【0071】
同様に、変形例の冷媒流路85では、180度または360度から540度(出口β)の角度位置の範囲が、他方の端面39に沿って形成され、かつ、冷媒13の流通方向に沿って出口βにかけて周面に沿った幅が縮小するように形成されている範囲である。したがって、冷媒流路85においては、180度または360度から540度(出口β)の範囲が、第2流路52である。
【0072】
なお、180度から360度の角度位置の範囲は、上記のように第1流路51と一体に捉えることにより第1流路51としての条件を満たし、第2流路52と一体に捉えることによって第2流路52としての条件を満たす。このため、180度から360度の角度位置の範囲は、第1流路51と第2流路52のどちらにも属することができる。また、基準流路55よりも周方向に沿った幅が拡張されているので、第3流路53,93とは異なる。したがって、180度から360度の角度位置の範囲は、第1流路51と第2流路52のいずれか一方または両方に属するものとする。
【0073】
[第2変形例]
上記実施形態においては、第1モータ20の冷媒流路24は第3流路53を備え、第2モータ25の冷媒流路29は第3流路93を備える。そして、これらの第3流路53,93は、インナーハウジング21,26の半周にわたって設けられている。しかし、第3流路53,93の巻数は、許容される圧力損失(以下、許容圧力損失という)や入口α,γ、出口β,δの各寸法等に応じて、適合により、任意に変更することができる。
【0074】
図14は、第2変形例に係る冷媒流路96の構成を示す説明図である。
図14に示すように、例えば、許容圧力損失が大きく、比較的大きな圧力損失が許容され得るときには、第3流路53,93の巻数を増やすことができる。逆に、許容圧力損失が小さく、比較的小さな圧力損失しか許容し得ないときには、第3流路53,93の巻数を減らすことができる(
図13参照)。
【0075】
なお、第3流路53,93の巻数を変更することは、冷媒流路24,29の巻数を変更することと同義である。また、第3流路53,93の巻数は、第3流路53,93の幅、並びに、第3流路53,93及び冷媒流路24,29が形成する螺旋の角度(ピッチ)と相関があり、これらのうち1つを決定することにより、他のパラメータも自動的に決定される。したがって、上記第2変形例のように、第3流路53,93の巻数を変更する代わりに、第3流路53,93の幅、または、第3流路53,93及び冷媒流路24,29が形成する螺旋の角度を変更してもよい。また、許容圧力損失は、例えば固定子22,27の寸法等に応じて適合により決定される。
【0076】
以上のように、本実施形態及び変形例に係る回転電機11は、筒状のハウジングであるインナーハウジング21(26)を備える。筒状のハウジングであるインナーハウジング21(26)は、冷媒13が流通する流路である冷媒流路24(29)と、冷媒13が冷媒流路24(29)に流入する入口α(γ)と、冷媒13が冷媒流路24(29)から流出する出口β(δ)と、を有する。そして、冷媒流路24は、インナーハウジング21(26)の周面を螺旋状に周回するように形成される。その上で、冷媒流路24(29)は、インナーハウジング21(26)の一方の端面38(83)に沿って形成され、かつ、入口α(γ)から冷媒13の流通方向に沿って、周面に沿った幅が拡大するように形成された第1流路51(91)と、インナーハウジング21(26)の他方の端面39(84)に沿って形成され、かつ、冷媒13の流通方向に沿って出口β(δ)にかけて、周面に沿った幅が縮小するように形成された第2流路52(92)と、を備える。
【0077】
このように、回転電機11のインナーハウジング21(26)に冷媒流路24(29)を設けるときに、冷媒流路24(29)が第1流路51(91)及び第2流路52(92)を備えていると、冷媒13の入口α(γ)と出口β(δ)が離間しているときでも、実質的に流路不形成部分65が生じない。また、第1流路51(91)及び第2流路52(92)は、冷媒13の局所的な速度低下及び圧力損失の増大を抑制し、そのほぼ全体において十分な冷却性が得られる構造となっている。これらのことから、冷媒流路24(29)では、第1流路51(91)及び第2流路52(92)によって、発熱範囲45のほぼ全体が冷媒流路24(29)を流通する冷媒13によって冷却され得る。したがって、第1流路51(91)及び第2流路52(92)を有する冷媒流路24(29)が形成された回転電機11では、冷却性が向上し、必要な冷却性が得られる。
【0078】
また、上記実施形態及び変形例に係る回転電機11は、冷媒13の入口α(γ)と出口β(δ)が、インナーハウジング21(26)の周方向において離間した位置に設けられている。このため、上記の冷却性向上効果が特に顕著である。
【0079】
上記実施形態及び変形例に係る回転電機11は、冷媒流路24(29)が、第1流路51(91)と第2流路52(92)の間に、幅が均一な第3流路53(93)を備える。第3流路53(93)は、幅が均一であることによって、冷媒流路24(29)を流通する冷媒13の速度低下及び圧力損失を低減する。したがって、冷媒流路24(29)が第3流路53(93)を備えることによって、許容圧力損失の条件を満たしつつ、必要とされる十分な冷却効果が得られやすくなる。
【0080】
上記実施形態及び変形例に係る回転電機11では、第3流路53(93)の幅は、第1流路51(91)の最も広い部分における幅よりも狭く、かつ、第2流路52(92)の最も広い部分における幅よりも狭い。この構造により、特に圧力損失が抑制されやすい。その結果、許容圧力損失の条件を満たしつつ、必要とされる十分な冷却効果が特に得られやすい。
【0081】
上記実施形態及び変形例に係る回転電機11では、入口α(γ)と出口β(δ)を、許容する冷媒13の圧力損失に応じて定まる均一な幅で連結する流路を基準流路55とするときに、第1流路51(91)は、この基準流路55を、インナーハウジング21(26)の一方の端面38(83)の方向に拡張した形状を有する。また、第2流路52(92)は、基準流路55を、インナーハウジング21(26)の他方の端面39(84)の方向に拡張した形状を有する。基準流路55を形成するときには、この基準流路55がインナーハウジング21(26)を周回するときに流路不形成部分65が形成されることが避けられない。これに対して、上記のように第1流路51(91)及び第2流路52(92)が、基準流路55を一方の端面38(83)及び他方の端面38(84)の方向にそれぞれ拡張された形状となっている。このため、冷媒流路24(29)においては、基準流路55を形成するときに発生する流路不形成部分65の部分が、第1流路51(91)及び第2流路52(92)となる。その結果、回転電機11は、より確実に冷却される。
【0082】
上記実施形態及び変形例に係る回転電機11では、第1流路51(91)と第3流路53(93)の境界、及び、第2流路52(92)と第3流路53(93)の境界が、インナーハウジング21(26)の周方向に沿った直線で形成されている。これにより、第3流路53(93)は、概ね基準流路55に準拠する流路となる。その結果、第3流路53(93)における冷媒13の圧力損失が低減され、より冷却性が高められる。
【0083】
上記実施形態及び変形例に係る回転電機11では、第1流路51(91)は、入口α(γ)から、インナーハウジング21(26)の周面を一周する範囲に設けられている。また、第2流路52(92)は、出口β(δ)から、インナーハウジング21(26)の周面を一周する範囲に設けられている。入口α(γ)から一周分の範囲、及び、出口β(δ)から一周分の範囲は、特に流路不形成部分65が生じやすい部分である。したがって、少なくとも入口α(γ)から一周分の範囲に第1流路51(91)を設け、少なくとも出口β(δ)から一周分の範囲に第2流路52(92)が設けられていると、回転電機11の冷却性が向上しやすい。
【0084】
但し、入口α(γ)から一周分の範囲を超えて第1流路51(91)が設けられていてもよく、出口β(δ)から一周分の範囲に第2流路52(92)が設けられていてもよい。また、
図13に示したように第3流路53(93)を設けない場合等、その他の事情があるときには、第1流路51(91)及び/または第2流路52(92)が、一周分の範囲の全部に設けられていなくてもよい。
【0085】
上記実施形態及び変形例に係る回転電機11では、インナーハウジング21(26)は、第1ハウジングであるインナーハウジング21と、第2ハウジングであるインナーハウジング26と、連結管30と、有する。第1ハウジングであるインナーハウジング21は、第1固定子である固定子22及び第1回転子である回転子23を収容し、冷媒流路24を有する。第2ハウジングであるインナーハウジング26は、第2固定子である固定子27及び第2回転子である回転子28を収容し、冷媒流路29を有する。そして、連結管30は、第1ハウジングであるインナーハウジング21の出口βと、第2ハウジングであるインナーハウジング26の入口γと、を無駄なく直線的に連結する。このため、2つのモータを内蔵する回転電機11が、これらの冷却性を保ちつつ、コンパクトに構成される。また、副次的には、回転電機11が低コスト化される。
【0086】
上記実施形態及び変形例に係る回転電機11では、第2ハウジングであるインナーハウジング26の冷媒流路29は、第1ハウジングであるインナーハウジング21の冷媒流路24に対して逆巻きの螺旋状に形成されている。このように、連結する2つの冷媒流路24,29を互いに逆巻きの螺旋状に形成すると、2つのモータを内蔵する回転電機11が、これらの冷却性を保ちつつ、特にコンパクトに構成されやすい。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び各変形例で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【0088】
例えば、第1モータ20が発電用モータであり、第2モータ25が駆動用モータとしてもよい。また、第1モータ20及び第2モータ25の両方が駆動用モータであってもよく、第1モータ20及び第2モータ25の両方が発電用モータであってもよい。また、回転電機11は、第1モータ20または第2モータ25のいずれか一方のみを備える構成であってもよい。
【0089】
上記実施形態では、冷媒流路24は、内管31の外周面に設けられた溝部41によって形成されているが、この代わりに、外管32の内周面に同様の溝部を設けることによって冷媒流路24を形成することができる。また、冷媒流路24は、内管31の外周面及び外管32の内周面の両方に溝部を設けることによって形成されてもよい。冷媒流路29についても同様である。
【0090】
また、上記実施形態及び変形例では、冷媒流路24においては、第1流路51の幅は滑らかに拡大し、第2流路52の幅は滑らかに縮小している。しかし、第1流路51及び第2流路52の幅は例えば段階的に変化してもよい。第1流路51及び第2流路52の幅が段階的に変化する場合でも、上記実施形態等と同様の効果を得ることができる。但し、第1流路51及び第2流路52の幅は、上記実施形態等のようにできる限り滑らかに変化することが好ましい。冷媒流路29についても同様である。