(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】誘電体共振器、ならびに、それを用いた誘電体フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/205 20060101AFI20241119BHJP
H01P 1/213 20060101ALI20241119BHJP
H01P 7/04 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01P1/205 B
H01P1/213 M
H01P7/04
(21)【出願番号】P 2023510660
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007551
(87)【国際公開番号】W WO2022209457
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2021055343
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 斉
(72)【発明者】
【氏名】松平 実
(72)【発明者】
【氏名】仁平 高司
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雅司
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-158440(JP,A)
【文献】特開2001-230610(JP,A)
【文献】特開昭63-190402(JP,A)
【文献】特開2001-044706(JP,A)
【文献】特開2000-252704(JP,A)
【文献】特開2001-211005(JP,A)
【文献】特開2001-060809(JP,A)
【文献】特開2004-328118(JP,A)
【文献】特開平04-043703(JP,A)
【文献】特開平11-027013(JP,A)
【文献】特開平05-299913(JP,A)
【文献】特開平11-017404(JP,A)
【文献】特開昭63-311801(JP,A)
【文献】実開平03-098506(JP,U)
【文献】実開昭63-023803(JP,U)
【文献】実開昭61-140604(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/205
H01P 1/213
H01P 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層を備え、直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置された第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在した複数の共振器と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体と、
前記複数の共振器に含まれる第1共振器を、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続する第1接続導体と、
第2接続導体とを備え、
前記複数の共振器は、前記積層体の内部において、前記積層方向および前記第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されており、
前記複数の共振器の各々の第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間しており、
前記複数の共振器の各々は、前記第1方向に延在し、前記積層方向に積層された複数の導体によって構成されており、
前記第2接続導体は、前記複数の共振器の各々において、前記第2端部側に配置され、前記複数の導体を互いに電気的に接続しており、
前記第2接続導体は、電気的に接続された複数のビア導体を含み、
前記第2接続導体における複数のビア導体は、前記積層方向においてジグザグ配置されている、誘電体フィルタ。
【請求項2】
前記第1接続導体は、前記第1共振器の前記第1端部側に配置されている、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項3】
前記誘電体フィルタによって伝達される高周波信号の波長をλとすると、前記第1共振器において、前記第2端部と前記第1接続導体との間の前記第1方向の距離は約λ/4である、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項4】
前記複数の導体は、第1幅を有する第1導体と、前記第1幅とは異なる第2幅を有する第2導体とを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項5】
前記複数の導体の少なくとも一部には、前記積層方向から平面視した場合に、開口部が設けられている、請求項1~4のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項6】
前記複数の共振器を互いに接続するための第3接続導体をさらに備え、
前記第3接続導体は、前記複数の共振器の各々の前記第1端部側に接続されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項7】
前記複数の共振器の各々に対して前記第1接続導体が配置されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項8】
前記第1共振器の前記第2端部に対向し、前記第2シールド導体に接続されたキャパシタ電極をさらに備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項9】
前記第1接続導体は、電気的に接続された複数のビア導体を含み、
前記第1接続導体における複数のビア導体は、前記積層方向においてジグザグ配置されている、請求項2に記載の誘電体フィルタ。
【請求項10】
前記第1接続導体は、互いにヤング率の異なる第1ビア導体および第2ビア導体を含む複数のビア導体を含み、
前記第1ビア導体および前記第2ビア導体は、前記積層方向に交互に配置されている、請求項2に記載の誘電体フィルタ。
【請求項11】
前記第2接続導体における複数のビア導体は、互いにヤング率の異なる第1ビア導体および第2ビア導体を含み、
前記第1ビア導体および前記第2ビア導体は、前記積層方向に交互に配置されている、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項12】
前記第1ビア導体は、前記第1平板電極から前記第2平板電極に向かって径が小さくなるテーパ形状であり、
前記第2ビア導体は、前記第2平板電極から前記第1平板電極に向かって径が小さくなるテーパ形状である、請求項10または11に記載の誘電体フィルタ。
【請求項13】
前記積層体は、第1誘電率を有する第1基板と、前記第1誘電率よりも高い第2誘電率を有する第2基板とを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項14】
前記複数の共振器は、前記第1基板に配置されている、請求項13に記載の誘電体フィルタ。
【請求項15】
前記複数の共振器は、前記第2基板に配置されている、請求項13に記載の誘電体フィルタ。
【請求項16】
第1通過帯域を有する第1フィルタと、
前記第1通過帯域とは異なる第2通過帯域を有する第2フィルタとを備え、
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタの各々は、請求項1~15のいずれか1項に記載の誘電体フィルタの構成を有する、マルチプレクサ。
【請求項17】
直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置され、平板形状を有する第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在した分布定数素子と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体と、
前記分布定数素子を、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続する第1接続導体と、
第2接続導体とを備え、
前記分布定数素子の第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間しており、
前記分布定数素子は、前記第1方向に延在し、前記積層方向に積層された複数の導体によって構成されており、
前記第2接続導体は、前記分布定数素子において、前記第2端部側に配置され、前記複数の導体を互いに電気的に接続しており、
前記第2接続導体は、電気的に接続された複数のビア導体を含み、
前記複数のビア導体は、前記積層方向においてジグザグ配置されている、誘電体共振器。
【請求項18】
前記第1平板電極および前記第2平板電極は、メッシュ構造を有する、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項19】
前記複数の共振器における少なくとも1つの共振器に接続される共振回路をさらに備え、
前記共振回路の共振周波数は、前記誘電体フィルタに生じるスプリアスに対応した周波数に設定される、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項20】
高周波信号を受ける入力端子と、
前記複数の共振器を通過した信号を出力する出力端子と、
前記入力端子および前記出力端子の少なくとも一方に接続された共振回路とをさらに備え、
前記共振回路の共振周波数は、前記誘電体フィルタに生じるスプリアスに対応した周波数に設定される、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項21】
高周波信号を受ける入力端子と、
前記複数の共振器を通過した信号を出力する出力端子と、
前記入力端子と前記複数の共振器とを結ぶ信号経路、および前記複数の共振器と前記出力端子とを結ぶ信号経路の少なくとも一方に接続されたローパスフィルタとをさらに備え、
前記ローパスフィルタは、前記誘電体フィルタに生じるスプリアスよりも低い周波数の信号を通過させるように構成される、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項22】
高周波信号を受ける入力端子と、
前記複数の共振器を通過した信号を出力する出力端子とをさらに備え、
前記入力端子および前記出力端子の各々は、前記積層体の下面から側面を経由して上面にわたって配置されており、
前記入力端子および前記出力端子の各々は、2つの信号経路によって前記複数の共振器と接続されている、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項23】
高周波信号を受ける入力端子と、
前記複数の共振器を通過した信号を出力する出力端子と、
前記入力端子および前記出力端子の各々と、前記複数の共振器とを結ぶ信号経路に配置された第3平板電極をさらに備え、
前記第3平板電極は、前記積層体の複数の層に配置された導体を含む、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項24】
前記積層体は、前記第1方向に沿った第3側面および第4側面を有しており、
前記誘電体フィルタは、
前記第3側面に沿って、前記第3側面に近接して配置され、前記第2シールド導体に接続された第4平板電極と、
前記第4側面に沿って、前記第4側面に近接して配置され、前記第2シールド導体に接続された第5平板電極とをさらに備える、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項25】
前記積層体の積層方向から平面視した場合に、前記複数の共振器における隣接した2つの共振器と重なるように配置された第6平板電極をさらに備える、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項26】
前記複数の共振器における隣接した2つの共振器間に配置された柱状部材をさらに備える、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項27】
前記複数の共振器の各々に対して前記第1接続導体が配置されており、
前記第3接続導体の一部は、前記複数の共振器から離間した位置に配置されており、前記第1接続導体を介して対応する共振器に接続されている、請求項6に記載の誘電体フィルタ。
【請求項28】
前記複数の共振器は、前記第1共振器に隣接して配置された第2共振器を含み、
前記第1共振器は、前記第2共振器に向かって突出した第1電極を含み、
前記第2共振器は、前記第1共振器に向かって突出した第2電極を含み、
前記積層体の積層方向から平面視した場合に、前記第1電極の一部は前記第2電極と重なっている、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項29】
前記第2導体の前記第2方向の端部は、前記第1導体に向かって屈曲している、請求項4に記載の誘電体フィルタ。
【請求項30】
前記第2導体の前記積層方向の厚みは、前記第1導体の前記積層方向の厚みよりも厚い、請求項29に記載の誘電体フィルタ。
【請求項31】
前記積層体は、第3誘電率を有する第3基板と、前記第3誘電率よりも低い第4誘電率を有する第4基板とを含み、
前記第1導体は、前記第3基板に配置され、
前記第2導体は、前記第4基板に配置されている、請求項4,29,30のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項32】
複数の誘電体層を備え、直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置された第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在した複数の共振器と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体と、
前記複数の共振器に含まれる第1共振器を、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続する第1接続導体とを備え、
前記複数の共振器は、前記積層体の内部において、前記積層方向および前記第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されており、
前記複数の共振器の各々の第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間しており、
前記第1接続導体は、前記第1共振器の前記第1端部側に配置されており、
前記第1接続導体は、電気的に接続された複数のビア導体を含み、
前記複数のビア導体は、前記積層方向においてジグザグ配置されている、誘電体フィルタ。
【請求項33】
複数の誘電体層を備え、直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置された第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在した複数の共振器と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体と、
前記複数の共振器に含まれる第1共振器を、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続する第1接続導体とを備え、
前記複数の共振器は、前記積層体の内部において、前記積層方向および前記第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されており、
前記複数の共振器の各々の第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間しており、
前記第1接続導体は、互いにヤング率の異なる第1ビア導体および第2ビア導体を含む複数のビア導体を含み、
前記第1ビア導体および前記第2ビア導体は、前記積層方向に交互に配置されている、誘電体フィルタ。
【請求項34】
複数の誘電体層を備え、直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置された第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在した複数の共振器と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体と、
前記複数の共振器に含まれる第1共振器を、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続する第1接続導体と、
第2接続導体とを備え、
前記複数の共振器は、前記積層体の内部において、前記積層方向および前記第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されており、
前記複数の共振器の各々の第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間しており、
前記複数の共振器の各々は、前記第1方向に延在し、前記積層方向に積層された複数の導体によって構成されており、
前記第2接続導体は、前記複数の共振器の各々において、前記第2端部側に配置され、前記複数の導体を互いに電気的に接続しており、
前記第2接続導体は、互いにヤング率の異なる第1ビア導体および第2ビア導体を含み、
前記第1ビア導体および前記第2ビア導体は、前記積層方向に交互に配置されている、誘電体フィルタ。
【請求項35】
複数の誘電体層を備え、直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置された第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在した複数の共振器と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体と、
前記複数の共振器に含まれる第1共振器を、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続する第1接続導体とを備え、
前記複数の共振器は、前記積層体の内部において、前記積層方向および前記第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されており、
前記複数の共振器の各々の第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間しており、
前記複数の共振器の各々は、前記第1方向に延在し、前記積層方向に積層された複数の導体によって構成されており、
前記複数の導体は、第1幅を有する第1導体と、前記第1幅とは異なる第2幅を有する第2導体とを含み、
前記第2導体の前記第2方向の端部は、前記第1導体に向かって屈曲している、誘電体フィルタ。
【請求項36】
複数の誘電体層を備え、直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置された第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在した複数の共振器と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体と、
前記複数の共振器に含まれる第1共振器を、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続する第1接続導体とを備え、
前記複数の共振器は、前記積層体の内部において、前記積層方向および前記第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されており、
前記複数の共振器の各々の第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間しており、
前記複数の共振器の各々は、前記第1方向に延在し、前記積層方向に積層された複数の導体によって構成されており、
前記複数の導体は、第1幅を有する第1導体と、前記第1幅とは異なる第2幅を有する第2導体とを含み、
前記積層体は、第1誘電率を有する第1基板と、前記第1誘電率よりも低い第2誘電率を有する第2基板とを含み、
前記第1導体は、前記第1基板に配置され、
前記第2導体は、前記第2基板に配置されている、誘電体フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘電体共振器、ならびに、それを用いた誘電体フィルタおよびマルチプレクサに関し、より特定的には、誘電体フィルタの特性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平4-43703号公報(特許文献1)には、ストリップライン共振器(誘電体共振器)が開示されている。特開平4-43703号公報におけるストリップライン共振器は、誘電体内に対向して配置された接地導体間に複数のストリップ導体が配置された構成を有している。このような構成により、ストリップ導体の幅を実質的に拡大することなく、実効断面積を有利に確保することができ、導体損を低減することができるので、小型でQ値の高い共振器を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘電体共振器の共振周波数は、ストリップ導体の長さによって定まる。上述の特開平4-43703号公報(特許文献1)に開示された誘電体共振器においては、接地導体間に複数のストリップ導体が配置された構成を有している。各ストリップ導体の長さにばらつきが生じた場合、製造された誘電体共振器の共振周波数にばらつきが生じてしまい、結果として所望のフィルタ特性を実現できない可能性がある。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、誘電体共振器、ならびに、それを用いた誘電体フィルタおよびマルチプレクサにおいて、共振周波数および通過帯域のばらつきを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の局面に係るフィルタは、直方体の形状を有する積層体と、第1平板電極および第2平板電極と、複数の共振器と、第1シールド導体および第2シールド導体と、第1接続導体とを備える。積層体は、複数の誘電体層を備える。第1平板電極および第2平板電極は、積層体の内部において積層方向に離間して配置される。複数の共振器は、第1平板電極と第2平板電極との間に配置され、積層方向に直交する第1方向に延在している。第1シールド導体および第2シールド導体は、積層体において、第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置されており、第1平板電極および第2平板電極に接続されている。第1接続導体は、複数の共振器に含まれる第1共振器を、第1平板電極および第2平板電極に接続する。複数の共振器は、積層体の内部において、積層方向および第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されている。複数の共振器の各々の第1端部は第1シールド導体に接続されており、第2端部は第2シールド導体から離間している。
【0007】
本開示の第2の局面に係る誘電体共振器は、直方体の形状を有する積層体と、第1平板電極および第2平板電極と、分布定数素子と、第1シールド導体および第2シールド導体と、接続導体とを備える。第1平板電極および第2平板電極は、積層体の内部において積層方向に離間して配置される。分布定数素子は、第1平板電極と第2平板電極との間に配置され、積層方向に直交する第1方向に延在している。第1シールド導体および第2シールド導体は、積層体において、第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、第1平板電極および第2平板電極に接続されている。接続導体は、分布定数素子を第1平板電極および第2平板電極に接続する。分布定数素子の第1端部は第1シールド導体に接続されており、第2端部は第2シールド導体から離間している。
【発明の効果】
【0008】
本開示による誘電体共振器および誘電体フィルタにおいては、誘電体フィルタを形成する共振器(分布定数素子)の一方端が積層体の側面に設けられた第1シールド導体に接続されており、かつ、接続導体(第1接続導体)によって共振器が第1平板電極および第2平板電極に接続された構成を有している。これにより、製造時の加工ばらつきを低減できるので、誘電体共振器の共振周波数、および、誘電体フィルタにおける通過帯域のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1のフィルタ装置が適用される高周波フロントエンド回路を有する通信装置のブロック図である。
【
図2】実施の形態1のフィルタ装置の外観斜視図である。
【
図3】実施の形態1のフィルタ装置の内部構造を示す透過斜視図である。
【
図4】実施の形態1のフィルタ装置の断面図である。
【
図5】比較例のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態1のフィルタ装置および比較例のフィルタ装置における通過特性のばらつきを説明するための図である。
【
図7】比較例における接続導体の構成を示す断面図である。
【
図8】実施の形態1のフィルタ装置における接続導体の構成の第1例および第2例を示す断面図である。
【
図9】実施の形態1のフィルタ装置における接続導体の構成の第3例を示す断面図である。
【
図11】実施の形態2のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図12】実施の形態2のフィルタ装置における通過特性のばらつきを説明するための図である。
【
図13】変形例1のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図14】実施の形態3のフィルタ装置の断面図である。
【
図15】実施の形態3のフィルタ装置における通過特性の周波数ばらつきを説明するための図である。
【
図16】実施の形態4のフィルタ装置の断面図である。
【
図19】実施の形態5のマルチプレクサの内部構造を示す斜視図である。
【
図20】実施の形態6のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図22】平板電極の開口率の損失への影響を説明するための図である。
【
図23】実施の形態7の第1例のフィルタ装置の等価回路図である。
【
図26】実施の形態7の第2例のフィルタ装置の等価回路図である。
【
図29】実施の形態7の第1例または第2例のフィルタ装置における通過特性を説明するための図である。
【
図30】実施の形態7の第3例のフィルタ装置の等価回路図である。
【
図31】
図30のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図32】
図30のフィルタ装置における通過特性を説明するための図である。
【
図33】実施の形態8のフィルタ装置の外観斜視図である。
【
図34】
図33のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図35】比較例のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図36】変形例6のフィルタ装置の外観斜視図である。
【
図37】変形例6のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図38】実施の形態9のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図39】電極枚数によるフィルタ特性への影響を説明するための第1図である。
【
図40】電極枚数によるフィルタ特性への影響を説明するための第2図である。
【
図41】実施の形態10のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図43】
図41のフィルタ装置における通過特性を説明するための図である。
【
図44】実施の形態11のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図45】変形例7のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図46】変形例8のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図47】変形例9のフィルタ装置の内部構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0011】
[実施の形態1]
(通信装置の基本構成)
図1は、実施の形態1のフィルタ装置が適用される高周波フロントエンド回路20を有する通信装置10のブロック図である。通信装置10は、たとえば、スマートフォンに代表される携帯端末、あるいは、携帯電話基地局である。
【0012】
図1を参照して、通信装置10は、アンテナ12と、高周波フロントエンド回路20と、ミキサ30と、局部発振器32と、D/Aコンバータ(DAC)40と、RF回路50とを備える。また、高周波フロントエンド回路20は、バンドパスフィルタ22,28と、増幅器24と、減衰器26とを含む。なお、
図1においては、高周波フロントエンド回路20が、アンテナ12から高周波信号を送信する送信回路を含む場合について説明するが、高周波フロントエンド回路20はアンテナ12を介して高周波信号を受信する受信回路を含んでいてもよい。
【0013】
通信装置10は、RF回路50から伝達された信号を高周波信号にアップコンバートしてアンテナ12から放射する。RF回路50から出力された変調済みのデジタル信号は、D/Aコンバータ40によってアナログ信号に変換される。ミキサ30は、D/Aコンバータ40によってアナログ信号に変換された信号を、局部発振器32からの発振信号と混合して高周波信号へとアップコンバートする。バンドパスフィルタ28は、アップコンバートによって生じた不要波を除去して、所望の周波数帯域の信号のみを抽出する。減衰器26は、信号の強度を調整する。増幅器24は、減衰器26を通過した信号を、所定のレベルまで電力増幅する。バンドパスフィルタ22は、増幅過程で生じた不要波を除去するとともに、通信規格で定められた周波数帯域の信号成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ22を通過した信号は、送信信号としてアンテナ12から放射される。
【0014】
上記のような通信装置10におけるバンドパスフィルタ22,28として、本開示に対応したフィルタ装置を採用することができる。
【0015】
(フィルタ装置の構成)
次に
図2~
図4を用いて、実施の形態1のフィルタ装置100の詳細な構成について説明する。フィルタ装置100は、分布定数素子である複数の共振器により構成される誘電体フィルタである。
【0016】
図2は、フィルタ装置100の外観斜視図である。
図2においては、フィルタ装置100の外表面から見ることができる構成についてのみ示されており、内部の構成については省略されている。
図3は、フィルタ装置100の内部構造を示す透過斜視図である。また、
図4は、フィルタ装置100の断面図である。
図4は、フィルタ装置100を構成する共振器のY軸方向に沿った断面図である。
【0017】
図2を参照して、フィルタ装置100は、複数の誘電体層が積層方向に積層された、直方体または略直方体の積層体110を備えている。積層体110は、上面111と、下面112と、側面113と、側面114と、側面115と、側面116とを有している。側面113は、X軸の正方向の側面であり、側面114はX軸の負方向の側面である。側面115,116はY軸方向に垂直な側面である。
【0018】
積層体110の各誘電体層は、たとえば低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックス、あるいは樹脂により形成されている。積層体110の内部において、各誘電体層に設けられた複数の平板導体、および、誘電体層間に設けられた複数のビアによって、共振器を構成する分布定数素子、ならびに、当該分布定数素子間を結合するためのキャパシタおよびインダクタが構成される。本明細書において「ビア」とは、異なる誘電体層に設けられた電極同士を接続し、積層方向に延在する導体を示す。ビアは、たとえば、導電ペースト、めっき、および/または金属ピンなどによって形成される。
【0019】
なお、以降の説明においては、積層体110の積層方向を「Z軸方向」とし、Z軸方向に垂直であって積層体110の長辺に沿った方向を「X軸方向」(第2方向)とし、積層体110の短辺に沿った方向を「Y軸方向」(第1方向)とする。また、以下では、各図におけるZ軸の正方向を上側、負方向を下側と称する場合がある。
【0020】
図2に示されるように、フィルタ装置100は、積層体110の側面115,116を覆う、シールド導体121,122を備えている。シールド導体121,122は、積層体110のX軸方向から見たときに略C字形状を有している。すなわち、シールド導体121,122は、積層体110の上面111および下面112の一部を覆っている。シールド導体121,122において、積層体110の下面112に配置された部分は、図示しない実装基板上の接地電極に、はんだバンプなどの接続部材によって接続される。すなわち、シールド導体121,122は接地端子としても機能する。
【0021】
また、フィルタ装置100は、積層体110の下面112に配置されている、入力端子T1および出力端子T2を備えている。入力端子T1は、下面112において、X軸の正方向の側面113に近い位置に配置されている。一方で、出力端子T2は、下面112において、X軸の負方向の側面114に近い位置に配置されている。入力端子T1および出力端子T2は、実装基板上の対応する電極に、はんだバンプなどの接続部材によって接続される。
【0022】
次に
図3を参照して、フィルタ装置100の内部構造について説明する。フィルタ装置100は、
図2に示した構成に加えて、平板電極130,135と、複数の共振器141~145と、接続導体151~155,171~175と、キャパシタ電極161~165とをさらに備える。なお、以降の説明において、共振器141~145および接続導体151~155,171~175を、それぞれ包括的に「共振器140」,「接続導体150」,「接続導体170」と称する場合がある。
【0023】
平板電極130,135は、積層体110の内部において積層方向(Z軸方向)に離間した位置に、互いに対向して配置されている。平板電極130は、上面111に近い誘電体層に設けられており、X軸に沿った端部においてシールド導体121,122に接続されている。平板電極130は、積層方向から平面視した場合に、誘電体層をほぼ覆うような形状を有している。
【0024】
平板電極135は、下面112に近い誘電体層に設けられている。平板電極135は、積層方向から平面視した場合に、入力端子T1および出力端子T2に対向する部分に切り欠き部が形成された、略H型形状を有している。平板電極135は、X軸に沿った端部においてシールド導体121,122に接続されている。
【0025】
積層体110において、平板電極130と平板電極135との間に、共振器141~145が配置されている。共振器141~145の各々はY軸方向に延在している。共振器141~145の各々におけるY軸の正方向の端部(第1端部)は、シールド導体121に接続されている。一方、共振器141~145の各々におけるY軸の負方向の端部(第2端部)は、シールド導体122から離間している。
【0026】
フィルタ装置100においては、共振器141~145は、積層体110の内部においてX軸方向に並んで配置されている。より具体的には、X軸の正方向から負方向に向かって、共振器141,142,143,144,145の順に配置されている。
【0027】
共振器141~145の各々は、積層方向に沿って配置された複数の導体によって構成されている。各共振器のZX平面に平行な断面において、複数の導体は全体として略楕円形状を有している。言い換えれば、複数の導体において最上層および最下層に配置される導体のX軸方向の寸法(第1幅)は、中央付近の層に配置される導体のX軸方向の寸法(第2幅)よりも狭い。一般的に、高周波電流は、縁端効果のために、主に導体の端部付近を流れることが知られている。そのため、複数の導体の全体の断面形状が矩形形状の場合、角部分(すなわち、最上層および最下層の電極の端部)に電流が集中することになる。上記のように、複数の導体の断面を略楕円形状とすることによって、電流の集中を緩和することができる。
【0028】
図4に示されるように、共振器140は、第1端部に近い位置において、接続導体150を介して、平板電極130,135に接続されている。フィルタ装置100においては、接続導体150は、平板電極130から、対応する共振器の複数の導体を貫通して平板電極135まで延在している。各接続導体は、対応する共振器を構成する複数の導体と電気的に接続されている。
【0029】
また、共振器140において、各共振器を構成する複数の導体は、第2端部に近い位置において、接続導体170によって電気的に接続されている。各共振器において、伝達される高周波信号の波長をλとすると、各共振器の第2端部と接続導体150との間の距離は約λ/4となるように設計される。
【0030】
共振器140は、複数の導体を中心導体とし、平板電極130,135を外導体とする、分布定数型のTEMモード共振器として機能する。
【0031】
共振器141は、ビアV10,V11および平板電極PL1を介して、入力端子T1に接続されている。なお、
図3においては、共振器によって隠れて見えなくなっているが、共振器145は、ビアおよび平板電極を介して出力端子T2に接続されている。共振器141~145は、互いに磁気結合しており、入力端子T1に入力された高周波信号は、共振器141~145により伝達されて、出力端子T2から出力される。このとき、各共振器間の結合度合いによって、フィルタ装置100は、バンドパスフィルタとして機能する。
【0032】
共振器140の第2端部側には、隣接する共振器との間に突出したキャパシタ電極が設けられている。キャパシタ電極は、共振器を構成する複数の導体の一部が張り出した構造となっている。キャパシタ電極のY軸方向の長さ、隣接する共振器との距離、および/または、キャパシタ電極を構成する導体の数によって、共振器間の容量結合の度合いを調整することができる。
【0033】
フィルタ装置100においては、
図3に示されるように、共振器141から共振器142に向かってキャパシタ電極C10が突出して設けられており、共振器142から共振器141に向かってキャパシタ電極C20が突出して設けられている。また、共振器143から共振器142に向かってキャパシタ電極C30が突出して設けられており、共振器144から共振器143に向かってキャパシタ電極C40が突出して設けられている。さらに、共振器145から共振器144に向かってキャパシタ電極C50が突出して設けられている。
【0034】
なお、キャパシタ電極C10~C50は必須の構成ではなく、共振器間の所望の結合度合いが実現できれば、一部または全部のキャパシタ電極は設けられなくてもよい。また、
図3の構成に加えて、フィルタ装置は、共振器142から共振器143に向かって突出して設けられたキャパシタ電極、共振器143から共振器144に向かって突出して設けられたキャパシタ電極、共振器144から共振器145に向かって突出して設けられたキャパシタ電極を備えていてもよい。
【0035】
また、フィルタ装置100においては、共振器140の第2端部に対向して、キャパシタ電極160が配置されている。キャパシタ電極160のZX平面に平行な断面は、共振器140と同様の断面を有している。キャパシタ電極160は、シールド導体122に接続されている。これにより、共振器140と、対応するキャパシタ電極160とによってキャパシタが構成される。
図4における共振器とキャパシタ電極との間のギャップ(Y軸方向の距離)GPを調整することによって、共振器140と対応するキャパシタ電極160とによって構成されるキャパシタのキャパシタンスを調整することができる。
【0036】
上記のような分布定数素子によって構成される共振器においては、各共振器の共振周波数は、一般的に共振器の長さ(Y軸方向の寸法)によって規定される。ここで、
図3に示したように、積層方向に沿って配置された複数の導体によって共振器が構成されている場合、各導体を作製する際の寸法精度、および、導体同士の配置精度が、共振器の共振周波数に影響を及ぼし得る。
【0037】
共振器を構成する複数の導体は、薄膜の導電性シート、あるいは、当該導電性シートが貼り付けられた誘電体シートを重ね合わせた状態で、ダイサーまたはレーザなどの切断手段によってチップサイズにカットして作製される。このとき、導電性シートおよび誘電体シートの重ね合わせにおける積みズレ、あるいは、カット工程における切断ズレが生じる場合がある。たとえば6GHz付近を周波数帯域とするフィルタ装置において、上記のような寸法ズレが40μm程度存在すると、約100MHzの周波数変動が生じ得る。
【0038】
これに対して、実施の形態1のフィルタ装置100においては、各共振器を構成する導体のシールド導体121側の端部付近に接続導体150が接続されており、当該接続導体150は平板電極130,135に接続されている。このような構成とすることによって、接続導体150に近い位置が各共振器の電気的な短絡端面(接地電位)となる。したがって、当該接続導体150がない場合に比べて、共振器の共振周波数のばらつきを抑制することができる。
【0039】
さらに、実施の形態1のフィルタ装置100においては、共振器のシールド導体122側の開放端付近に接続導体170が設けられており、当該接続導体170によって共振器の各導体同士が接続されている。これによって、共振器141~145の位相が一致して、1つの共振器として動作する。
【0040】
次に、
図5および
図6を用いて、接続導体150の有無による、フィルタ装置の通過特性のばらつきについて説明する。
図5は比較例のフィルタ装置100Xの内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Xにおいては、
図3のフィルタ装置100における接続導体151~155が除かれた構成となっており、その他の構成についてはフィルタ装置100と同様である。フィルタ装置100Xにおいて、フィルタ装置100と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0041】
図6は、共振器の電極の長さにばらつきを与えた3つのフィルタ装置(第1フィルタ,第2フィルタ,第3フィルタ)について、実施の形態1の構成を採用した場合(左図)と、比較例の構成を採用した(右図)との通過特性のシミュレーション結果を示す。すなわち、
図6は、実施の形態1のフィルタ装置100および比較例のフィルタ装置100Xにおける通過特性のばらつきを説明するための図である。
図6において、第1フィルタの場合の挿入損失が実線LN10,LN20で示されており、反射損失が実線LN15,LN25で示されている。また、第2フィルタの場合の挿入損失が破線LN11,LN21で示されており、反射損失が破線LN16,LN26で示されている。さらに、第3フィルタの場合の挿入損失が一点鎖線LN12,LN22で示されており、反射損失が一点鎖線LN17,LN27で示されている。
【0042】
図6に示されるように、接続導体150を備えた実施の形態1のフィルタ装置100の構成を採用した場合のほうが、比較例の構成を採用した場合に比べて、3つのフィルタ装置間の通過特性のばらつきが低減されている。
【0043】
以上のように、実施の形態1のフィルタ装置100においては、各共振器を構成する分布定数素子について、シールド導体121に接続された端部側に、平板電極130,135に接続された接続導体150が接続されていることによって、各共振器の共振周波数およびフィルタ装置の通過帯域のばらつきを低減することができる。
【0044】
なお、実施の形態1における「平板電極130」および「平板電極135」は、本開示における「第1平板電極」および「第2平板電極」にそれぞれ対応する。実施の形態1における「側面115」および「側面116」は、本開示における「第1側面」および「第2側面」にそれぞれ対応する。実施の形態1における「シールド導体121」および「シールド導体122」は、本開示における「第1シールド導体」および「第2シールド導体」にそれぞれ対応する。実施の形態1における「Y軸方向」および「X軸方向」は、本開示における「第1方向」および「第2方向」にそれぞれ対応する。実施の形態1における「接続導体150(151~155)」は、本開示における「第1接続導体」に対応する。実施の形態1における「接続導体170(171~175)」は、本開示における「第2接続導体」に対応する。
【0045】
(接続導体の変形例)
図7~
図9を用いて、接続導体150,170の詳細な構成について説明する。なお、
図7~
図9においては接続導体150を例として説明する。
【0046】
図7は、比較例における接続導体150Xの構成を示す断面図である。
図8は、実施の形態1のフィルタ装置100における接続導体の構成の第1例(
図8(A))および第2例(
図8(B))を示す断面図である。
図9は、実施の形態1のフィルタ装置100における接続導体の構成の第3例を示す断面図である。
【0047】
図7を参照して、比較例における接続導体150Xは、Z軸の負方向に底面を有する円錐台の形状の複数のビア導体210Xが、積層方向に沿って接続された構成を有している。
図7および後述する
図8,
図9において、電極220は共振器の分布定数素子を構成する複数の導体である。電極220が構成されている誘電体層においては、積層方向に隣接するビア導体210Xは電極220を介して直列に接続されている。電極220が構成されていない誘電体層においては、隣接するビア導体210Xはパッド電極230Xを介して直列に接続されている。
【0048】
接続導体を構成する導体が円柱形状であると、接続導体のアスペクト比が大きくなってしまい、接続導体を形成する導電ペーストをビアホール内に適切に充填することが難しい。そのため、一般的に、積層体内にビアを形成する場合には、
図7で示すような構成とされる。
【0049】
しかしながら、
図7に示される比較例の接続導体150Xの構成においては、接続導体150Xの断面が鋸歯状となる。一般的に、高周波電流は、縁端効果のために主に導体の端部付近を流れることが知られている。そのため、比較例の接続導体150Xのような形状の場合、断面が円柱形状の導体に比べて、高周波電流の通過経路が長くなってしまい、電流通過に伴う損失が増加し得る。
【0050】
また、複数のビア導体210Xを積層方向に連続的に接続した場合、積層体の成形過程においてビア導体210Xの周囲の誘電体の収縮が阻害されるとともに、熱膨張係数の差によって積層体の表面においてビア導体210Xの部分が周囲の誘電体の部分よりも隆起してしまう。これにより、誘電体と導体との間のクラック、および/または、積層体表面の平坦性の悪化などの構造欠陥が生じやすくなる。特に、
図7に示される構成においては、電極220およびパッド電極230Xの下面側において、ビア導体210Xが鋭角的に接続されているため、応力集中が発生してクラックなどが生じやすい。
【0051】
一方で、実施の形態1における接続導体においては、
図8に示されるように、接続導体が2つの異なる導電材料で形成されているとともに、隣接する導体のテーパ方向が互いに逆方向になるようになっている。
【0052】
より具体的には、
図8(A)の第1例の接続導体150Aにおいては、電極220と同じ材料で形成されたビア導体210Aと、ビア導体210Aよりもヤング率が小さく変形しやすいビア導体215Aとが、交互に直列接続された構成となっている。
【0053】
また、ビア導体210AはZ軸の正方向に径が小さくなるテーパ形状(順テーパ)であり、ビア導体215AはZ軸の負方向に径が小さくなるテーパ形状(逆テーパ)である。そして、ビア導体210Aとビア導体215Aとの接続部分においては、ビア導体210Aの寸法がビア導体215Aの寸法よりも小さい。
【0054】
このように、順テーパのビア導体210Aと逆テーパのビア導体215Aとが交互に配置されていることによって、導体同士の接続部分における段差を小さくすることができる。これにより、接続導体150Aの表面における電流通過経路の長さを短くでき、電流通過に伴う損失を低減することができる。また、導体間での応力集中を小さくすることができるため、導体と誘電体との間でのクラックの発生を抑制することができる。
【0055】
さらに、ビア導体215Aのヤング率がビア導体210Aのヤング率よりも小さく、ビア導体215Aが部分的に変形してクッションの役割を果たすため、全体をビア導体210Aのみで構成する場合に比べて、周囲の誘電体との積層方向の寸法差を小さくすることができる。したがって、積層体の表面の平坦性への影響も低減することができる。特に、導体同士の接続部分において、ヤング率の高いビア導体210Aの寸法がビア導体215Aの寸法よりも小さいため、ビア導体210Aがビア導体215A内に挿入されやすくなり、積層方向の寸法変動を小さくすることができる。したがって、周囲の誘電体との積層方向の寸法差を小さくすることができる。
【0056】
図8(B)の第2例の接続導体150Bにおいては、接続導体150Aと同様に、ヤング率の異なるビア導体210Bとビア導体215Bとが、テーパ方向が互いに逆になるように交互に接続された構成となっている。ただし、導体同士の接続部分において、ヤング率の大きいビア導体210Bの寸法の方がビア導体215Bに比べて大きくなっている点が異なっている。この場合、接続導体150Aに比べると、ビア導体215Bへのビア導体210Bの挿入度合いが小さくなるため、周囲の誘電体との積層方向の寸法差がやや大きくなるが、導体同士の接触面積が大きくなるため導体間の応力および接触抵抗を低減することができる。したがって、クラックなどの構造欠陥の発生を抑制するとともに、Q値の低下を抑制することができる。
【0057】
図9における第3例の接続導体150Cにおいては、接続導体150Cを構成する複数のビア導体210が積層方向に
ジグザグ配置されている。隣接する誘電体層に設けられたビア導体210は、電極220あるいはパッド電極230Cによって電気的に接続されている。
【0058】
接続導体150Cの構成においては、電流経路がやや長くなるため電流通過に伴う損失は若干増加するが、積層方向においてビア導体210の間に誘電体が配置されているため、製造過程における積層方向の変形が低減でき、構造欠陥の発生を抑制することができる。
【0059】
なお、
図8および
図9の構成については、接続導体170にも適用可能である。
(共振器の変形例)
図10は、共振器の変形例を示す図である。
図10においては、変形例の共振器140AにおけるZX平面に平行な断面が示されている。
【0060】
図10を参照して、共振器140Aの断面は全体としては略楕円形状となっているが、積層方向(Z軸方向)の中央付近において電極220の中央部に開口部が設けられており、空間250が形成されている。
【0061】
上述のように、高周波電流は、縁端効果のために導体の端部付近を流れる傾向があるため、電極220の中央付近の導体がなくても、電流通過に伴う損失は増加しない。そのため、Q値を維持することができる。
【0062】
一方で、共振器140が配置される部分における積層方向の導体密度を低減できるため、製造過程における周囲の誘電体との変形差を小さくすることができる。これによって、クラックなどの構造欠陥の発生を抑制することができる。
【0063】
[実施の形態2]
実施の形態2においては、各共振器間の誘導結合を強めることによって、共振周波数および通過帯域のばらつきを低減する構成について説明する。
【0064】
図11は、実施の形態2のフィルタ装置100Aの内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Aにおいては、実施の形態1のフィルタ装置100の構成に加えて、共振器140を相互に接続する接続導体180,181がさらに設けられた構成となっている。なお、
図11において
図3と重複する構成の説明は繰り返さない。
【0065】
図11を参照して、接続導体180,181は、共振器140の接続導体150が接続される位置において、隣接する共振器同士を接続している。接続導体180は、各共振器において上面111に近い位置に配置された少なくとも1つの導体同士を接続している。一方で、接続導体181は、各共振器において下面112に近い位置に配置された少なくとも1つの導体同士を接続している。
【0066】
すなわち、接続導体180,181は共振器間に接続されたインダクタンスとして機能するため、接続導体180,181によって共振器間の誘導結合が強められる。ここで、接続導体180,181は、接地電位に接続されたシールド導体121に近い位置に配置されているため、接続導体180,181によって隣接する共振器同士の電位が安定化される。これによって、周波数が安定化する。
【0067】
図12は、実施の形態2のフィルタ装置100Aにおける通過特性のばらつきを説明するための図である。
図12は、実施の形態1における
図6と同様に、共振器の電極の長さにばらつきを与えた3つのフィルタ装置(第1フィルタ,第2フィルタ,第3フィルタ)について、実施の形態2の構成を採用した場合の通過特性のシミュレーション結果を示す。より具体的には、
図12において、第1フィルタの場合の挿入損失が実線LN30で示されており、反射損失が実線LN35で示されている。また、第2フィルタの場合の挿入損失が破線LN31で示されており、反射損失が破線LN36で示されている。さらに、第3フィルタの場合の挿入損失が一点鎖線LN32で示されており、反射損失が一点鎖線LN37で示されている。
【0068】
図12に示されるように、フィルタ装置100Aにおいては、
図6に示した実施の形態1のフィルタ装置100の通過特性と比べると、3つのフィルタ装置間の通過特性のばらつきがさらに低減されている。
【0069】
このように、実施の形態2のフィルタ装置100Aにおいては、各共振器におけるシールド導体との接続端に近い位置において、接続導体180,181によって共振器同士が接続されていることによって、隣接する共振器同士の電位を安定化することができるので、各共振器の共振周波数およびフィルタ装置の通過帯域のばらつきを低減することができる。
【0070】
なお、実施の形態2における「接続導体180,181」は、本開示における「第3接続導体」に対応する。
【0071】
(変形例1)
変形例1においては、共振器140と平板電極130,135とを接続する接続導体150の一部が省略された構成について説明する。
【0072】
図13は、変形例1のフィルタ装置100Bの内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Bにおいては、
図11のフィルタ装置100Aにおける、接続導体152,154が除かれた構成となっている。フィルタ装置100Bにおいて、接続導体152,154以外の構成はフィルタ装置100Aと同様である。そのため、
図13において、フィルタ装置100Aと重複する要素の説明は繰り返さない。
【0073】
フィルタ装置100Bにおいては、フィルタ装置100Aと同様に、接続導体180,181によって共振器同士が互いに接続されている。これによって、接続導体152,154が除かれていても、接続導体180,181と各共振器140との接続部分における電位がほぼ同電位となる。したがって、変形例1のフィルタ装置100Bにおいても、各共振器の共振周波数およびフィルタ装置の通過帯域のばらつきを低減することができる。変形例1のフィルタ装置100Bでは、接続導体152,154が除かれた構成となっていることにより、実施の形態2のフィルタ装置100Aより製造コストを低減することができる。
【0074】
なお、接続導体180,181によって共振器同士が互いに接続される場合には、接続導体150のうち、少なくとも1つの接続導体が配置されていればよく、たとえば
図13における接続導体151,155がさらに除かれた構成であってもよい。
【0075】
[実施の形態3]
実施の形態1,2においては、接続導体150は、共振器140と平板電極130,135との間を接続するとともに、共振器140を構成する導体同士を接続する構成であった。実施の形態3においては、接続導体が共振器140と平板電極130,135との間のみを接続する構成について説明する。
【0076】
図14は、実施の形態3のフィルタ装置100Cの断面図である。
図14は、フィルタ装置100CにおけるY軸方向の断面図である。フィルタ装置100Cにおいては、各共振器140は、シールド導体121側の端部の近くにおいて、接続部材190によって平板電極130,135と接続されている。しかしながら、接続部材190は、共振器140と平板電極130,135と間にだけ配置されており、共振器140を構成する各導体同士を接続する構成とはなっていない。なお、
図4では示されていないが、フィルタ装置100Cにおいても、フィルタ装置100Bと同様に、各共振器間を接続する接続導体180,181が設けられている。
【0077】
図15は、実施の形態3のフィルタ装置100Cにおける通過特性の周波数ばらつきを説明するための図である。
図15は、実施の形態1における
図6と同様に、共振器の電極の長さにばらつきを与えた3つのフィルタ装置(第1フィルタ,第2フィルタ,第3フィルタ)について、実施の形態3の構成を採用した場合の通過特性のシミュレーション結果を示す。より具体的には、
図15において、第1フィルタの場合の挿入損失が実線LN40で示されており、反射損失が実線LN45で示されている。また、第2フィルタの場合の挿入損失が破線LN41で示されており、反射損失が破線LN46で示されている。さらに、第3フィルタの場合の挿入損失が一点鎖線LN42で示されており、反射損失が一点鎖線LN47で示されている。
【0078】
図15に示されるように、フィルタ装置100Cにおいては、各共振器を構成する導体同士が接続導体によって接続されておらず、電位が安定化されていないため、実施の形態2のフィルタ装置100A(
図12)と比べるとややばらつきが大きくなっている。しかしながら、接続導体180,181が配置されることよって共振器間の電位が安定するため、実施の形態1のフィルタ装置100(
図6)よりもばらつきが改善されている。
【0079】
実施の形態3のフィルタ装置100Cにおいては、平板電極130,135と共振器140とを接続する接続導体における、共振器の導体間を接続するビア導体が除かれた構成とすることによって、各共振器の共振周波数およびフィルタ装置の通過帯域のばらつきをある程度改善しながら、製造コストを削減することができる。
【0080】
[実施の形態4]
実施の形態1~実施の形態3においては、積層体110が単一の誘電体で形成される構成について説明した。実施の形態4においては、積層体110が異なる誘電率を有する複数の誘電体によって形成される構成について説明する。
【0081】
図16は、実施の形態4のフィルタ装置100Dの断面図である。
図16は、フィルタ装置100DにおけるY軸方向の断面図である。フィルタ装置100Dにおいては、
図3で示した実施の形態1のフィルタ装置100における積層体110が、誘電率の異なる誘電体基板110A,110Bによって形成された構成を有している。フィルタ装置100Dにおけるその他の構成は、フィルタ装置100と同様である。
図16において、
図3と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0082】
図16を参照して、フィルタ装置100Dの積層体110においては、上面111側および下面112側には誘電率ε1の誘電体基板110Aが配置されており、2つの誘電体基板110Aの間に、誘電体基板110Aよりも高い誘電率ε2を有する誘電体基板110Bが配置された構成となっている(ε1<ε2)。そして、共振器140およびキャパシタ電極160が、誘電体基板110Bの部分に配置されている。
【0083】
共振器140が配置されている誘電体基板110Bにおいては、誘電率を高くすることによって誘導結合が弱められるとともに容量結合が強められる。これにより、共振器140の共振周波数を調整することができる。また、共振器同士の容量結合も強くすることができるので、減衰特性を調整することができる。
【0084】
また、このようなフィルタ装置においては、積層体110の上面111および下面112付近において、積層体110の周囲を回るようなTEモードの高調波が生じることが知られている。フィルタ装置100Dのように、積層体110の上面111付近および下面112付近の誘電体基板110Aの誘電率ε1を低くすることによって、TEモードについての実効誘電率を下げることができるので、TEモードによる高調波の周波数は、通過帯域よりも高域側に移動する。したがって、TEモードの高調波による影響を低減することができる。
(変形例2)
図17は、変形例2のフィルタ装置100Eの断面図である。
図17は、フィルタ装置100EにおけるY軸方向の断面図である。フィルタ装置100Eは、基本的には実施の形態4のフィルタ装置100Dと同様に、低誘電率の誘電体基板110Aの間に高誘電率の誘電体基板110Bが配置された構成となっている、しかしながら、フィルタ装置100Dと比べると、積層体110における誘電体基板110Bの比率が大きくなっている。このように、低誘電率層と高誘電率層の比率を調整することによって実効誘電率を調整して、共振器140の共振周波数、および、共振器間の結合度合いを調整することができる。
【0085】
なお、誘電体基板110Aと誘電体基板110Bとの比率については、所望のフィルタ特性に応じて適宜決定される。
(変形例3)
図18は、変形例3のフィルタ装置100Fの断面図である。
図18は、フィルタ装置100FにおけるY軸方向の断面図である。フィルタ装置100Fにおいては、積層体110が5層構造で構成されている。より詳細には、フィルタ装置100Fにおいては、上述のフィルタ装置100D,100Eとは異なり、共振器140およびキャパシタ電極160が低誘電率の誘電体基板110Aに配置されている。そして、当該誘電体基板110Aの上面111側および下面112側に高誘電率の誘電体基板110Bが配置されており、さらにこれらの誘電体基板110Bよりも外表面側に低誘電率の誘電体基板110Aが配置されている。
【0086】
このように、共振器140およびキャパシタ電極160が低誘電率層に配置されていることによって、共振器140および共振器間の容量結合が弱められるとともに誘導結合が強められる。これにより、共振器140の共振周波数およびフィルタ装置100Fの減衰特性を調整することができる。
【0087】
なお、実施の形態4および変形例2,3における「誘電体基板110A」および「誘電体基板110B」は、本開示における「第1基板」および「第2基板」にそれぞれ対応する。
【0088】
[実施の形態5]
実施の形態5においては、複数のフィルタ装置を含むマルチプレクサに、本開示の構成を適用した構成について説明する。
【0089】
図19は、実施の形態5のマルチプレクサ200の内部構造を示す斜視図である。マルチプレクサ200は、実施の形態2で説明した
図11の構成を有する2つのフィルタ装置100-1,100-2を含むダイプレクサである。フィルタ装置100-1,100-2は、互いに異なる通過帯域を有している。なお、フィルタ装置100-1,100-2の構成は、基本的には
図11のフィルタ装置100Aと同様であるので、各フィルタ装置における各要素の説明は繰り返さない。
【0090】
図19を参照して、マルチプレクサ200においては、フィルタ装置100-1,100-2が、X軸方向に並んで配置された構成を有している。マルチプレクサ200の場合、フィルタ装置100-1においては、X軸の正方向の外部端子が入力端子となり、X軸の負方向の外部端子が出力端子となる。一方、フィルタ装置100-2においては、X軸の負方向の外部端子が入力端子となり、X軸の正方向の外部端子が出力端子となる。言い換えれば、フィルタ装置100-1においては、入力された高周波信号がX軸の負方向へ伝達され、フィルタ装置100-2においては、入力された高周波信号がX軸の正方向へ伝達される。
【0091】
このようなマルチプレクサ200においても、フィルタ装置100-1において、各共振器が接続導体150-1によって平板電極130に接続されており、接続導体170-1によって各共振器の導体が互いに接続されている。また、接続導体180-1,181-1によって共振器同士が接続されている。さらに、フィルタ装置100-2において、各共振器が接続導体150-2によって平板電極130に接続され、接続導体170-2によって各共振器の導体が互いに接続されている。また、接続導体180-2,181-2によって共振器同士が接続されている。したがって、フィルタ装置100-1,100-2の各々において、共振周波数および通過帯域のばらつきを低減することができる。
【0092】
[実施の形態6]
実施の形態6においては、積層体110の上面111および下面112に近接して配置される平板電極をメッシュ構造とした構成について説明する。
【0093】
図20は、実施の形態6のフィルタ装置100Gの内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Gにおいては、
図3で示した実施の形態1のフィルタ装置100における平板電極130,135が平板電極130G,135Gにそれぞれ置き換わった構成となっている。なお、
図20において
図3と重複する構成の説明は繰り返さない。
【0094】
図20を参照して、平板電極130G,135Gは、フィルタ装置100における平板電極130,135に複数の開口部が形成されたメッシュ構造の導電体である。開口部は、略正方形の形状であり、X軸方向およびY軸方向に所定の間隔で配列されている。
【0095】
図3のフィルタ装置100の平板電極130,135のように、開口部のない平板形状で誘電体層のほぼ全面が覆われる場合、当該平板電極の上側および下側に配置されている誘電体層同士は、積層体110の端部の一部分のみで接続されることになる。一般的に、誘電体と金属導体との結合力は誘電体同士の結合力よりも弱いため、平板電極が開口のない平板形状で構成される場合、低い結合力の影響により、誘電体と平板電極との間ではく離が生じる可能性がある。
【0096】
実施の形態6のフィルタ装置100Gにおいては、平板電極130G,135Gが、開口部を有するメッシュ構造となっているため、
図21の断面図のように、開口部に誘電体が充填されて平板電極130G,135Gの上下層の誘電体同士が接合される。これによって、誘電体同士の密着強度が増加するので、平板電極部分における誘電体層のはく離を抑制することができる。
【0097】
一方で、平板電極130G,135Gは、接地電極すなわち基準電位としても機能する必要がある。そのため、電極面積に対する開口部の比率が大きくなりすぎると、基準電位としての機能が低下する。さらに、電極全体の抵抗が増加してしまうため、平板電極130G,135Gを流れる接地電流による損失が生じ得る。そのため、平板電極130G,135Gに形成される開口部の面積を適切に設定する必要がある。
【0098】
図22は、平板電極130G,135Gの開口率の損失への影響を説明するための図である。
図22においては、左図には開口率に対する挿入損失の変化が示されており、右図には開口率に対する損失の悪化率が示されている。ここで、「開口率」は、積層体110のZ軸方向から平面視したときの、誘電体層全体の面積に対する、平板電極130G,135Gの各々における導電部材のない領域の面積の比率である。すなわち、開口率は、平板電極130G,135Gに形成された開口部だけではなく、端部に形成された切欠部も考慮されている。また、「損失悪化率」は開口率0%のときの挿入損失を基準としたときの、挿入損失の変化率である。
【0099】
図22に示されるように、開口率が増加するに従って挿入損失が悪化しており、それとともに損失悪化率も悪化していることがわかる。損失悪化率を6%程度に抑えたい場合には、開口率は20%以内とすることが必要となる。
【0100】
以上のように、積層体の上面および下面に近接して配置される平板電極を、開口率20%以内のメッシュ構造とすることによって、フィルタ特性の低下を抑制しつつ、板電極部分における誘電体層のはく離を抑制することができる。
【0101】
[実施の形態7]
上述の各実施の形態のようなフィルタ装置においては、TEMモード共振器が用いられているため、TEMモードによるメイン共振以外に、TEモードおよびTMモードなどによる高次共振が物理的に発生したり、フィルタ装置における直方体の外形寸法に起因する不要共振モードが発生したりすることによって、通過帯域の2倍波および/または3倍波等の相当する高周波数のスプリアスが一般的に生じ得る。
【0102】
実施の形態7においては、特定の周波数に生じるスプリアスを除去するための回路を追加したフィルタ装置のバリエーションについて説明する。
【0103】
<第1例>
第1例においては、
図3に示したようなフィルタ装置100における1つ以上の共振器に、除去対象のスプリアスの周波数に対応した共振周波数を有する共振回路を追加する場合について説明する。
【0104】
図23は、実施の形態7の第1例のフィルタ装置100Hの等価回路図である。
図23においては、説明を簡略化するために、フィルタ装置100Hが2つの共振器141Y,142Yによって構成される場合について説明する。なお、実施の形態7においても、共振器141Y,142Yを包括して「共振器140」と称する場合がある。
【0105】
図23を参照して、フィルタ装置100Hにおいては、共振器141Yは、キャパシタC1を介して入力端子T1に接続されている。また、共振器142Yは、キャパシタC2を介して出力端子T2に接続されている。共振器141Yと共振器142Yとは、キャパシタC3を介して互いに接続されている。
【0106】
そして、フィルタ装置100Hにおいては、共振器141Yと接地電位との間に、キャパシタC31およびインダクタL31が直列接続された共振回路300が配置される。共振回路300においては、除去対象のスプリアスの周波数に対応した共振周波数になるように、キャパシタC31のキャパシタンス値およびインダクタL31のインダクタンス値が設定される。このような共振回路300を追加することによって、フィルタ装置において生じるスプリアスを除去することができる。
【0107】
図24は、
図23のフィルタ装置100HをX軸の正方向から見たときの共振器140(共振器141Y)を含む部分の断面図である。なお、
図24において、実施の形態1の
図4と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0108】
図24を参照して、フィルタ装置100Hにおいても、Y軸方向に延在する共振器141Yが、接続導体150H1によって平板電極130,135に接続されている。共振器141Yを構成する複数の導体は、Y軸の正方向の
端部(第1端部)に近い位置において接続導体150H2によって接続されており、Y軸の負方向の端部(第2端部)に近い位置において接続導体170Hによって接続されている。接続導体150H2および接続導体170Hは、複数のビア導体が積層方向(Z軸方向)においてジグザグ配置された構成となっている。
【0109】
共振器140のうち、入力端子T1側の共振器141Yは、入力端子T1に対してビアV10,V11および平板電極PL1を介して接続された平板電極PL11と間隔を空けて対向している。平板電極PL11と共振器141Yとによって、
図23におけるキャパシタC1が構成される。なお、図示しないが、出力端子T2側においても、出力端子T2に接続される平板電極と共振器142Yとの間で、
図23のキャパシタC2が構成される。キャパシタC3は、共振器141Yと共振器142Yとの間の容量結合である。
【0110】
共振器141Yの最上層の導体には、ビア320を介して、Y軸方向に延在する平板電極310が接続されている。また、共振器141Yの最下層の導体には、ビア321を介して、Y軸方向に延在する平板電極311が接続されている。ビア320,321は、接続導体170Hよりもシールド導体121側に配置されている。
【0111】
平板電極310,311は、共振器141Yの開放端側(Y軸の負方向側)の端部と容量結合し、さらに、ビア320,321および接続導体150H1を介してシールド導体121に接続される。平板電極310,311と共振器141Yとの間の容量結合によってキャパシタC31が形成され、平板電極310,311およびビア320,321によってインダクタL31が形成される。すなわち、平板電極310およびビア320によってLC直列共振回路300が構成され、平板電極311およびビア321によってLC直列共振回路301が構成される。共振回路300,310においては、平板電極310,311の長さを変化させることによって、インダクタンス値およびキャパシタンス値を調整して、除去対象のスプリアスの周波数に適合する共振周波数が実現される。
【0112】
なお、
図23および
図24においては、共振器141Yに共振回路300が接続される場合について説明したが、これに代えてまたは加えて、共振器142Yに共振回路が接続されてもよい。
図3に示されるようにフィルタ装置が5つの共振器を有する場合には、任意の共振器に共振回路を配置することができる。
【0113】
同じ共振周波数を有する複数の共振回路を配置して、共振回路によって生じる極の減衰量を大きくすることによって、特定の周波数のスプリアスを大きく低減させることができる。また、異なる周波数を有する複数の共振回路を配置することによって、広い周波数範囲のスプリアスを低減することができる。
【0114】
(変形例4)
図23および
図24のフィルタ装置においては、スプリアス除去用の共振回路として、共振器側にキャパシタが接続され、接地電位側にインダクタが接続されたLC直列共振回路を例として説明したが、キャパシタおよびインダクタの接続順が逆になったLC直列共振回路を使用してもよい。
【0115】
図25は、変形例4のフィルタ装置100H1の断面図である。フィルタ装置100H1においては、
図24のフィルタ装置100Hと比較して、共振回路を構成する平板電極310,311と共振器141Yとの接続態様が異なっている。より具体的には、共振器141Yを構成する複数の導体は、
図4のフィルタ装置100と同様に、共振器141YのY軸の負方向の端部に近い位置において、接続導体170によって互いに接続されている。そして、平板電極310,311は、当該接続導体170に接続されている。
【0116】
この場合には、共振器141Yの開放端に接続導体170を介して接続される平板電極310,311によってインダクタL31が形成され、開放端よりもシールド導体121に近い位置において平板電極310,311が共振器141Yと容量結合することによってキャパシタC31が形成される。
【0117】
以上のような構成においても、スプリアス除去用のLC直列共振回路を、フィルタ装置の共振器に追加することができる。
【0118】
<第2例>
第1例のフィルタ装置においては、スプリアス除去用の共振回路を共振器に接続する構成例について説明した。第2例のフィルタ装置においては、スプリアス除去用の共振回路を入力端子および/または出力端子に配置する構成例について説明する。
【0119】
図26は、実施の形態7の第2例のフィルタ装置100Jの等価回路図である。
図26においても、説明を簡略化するために、フィルタ装置100Jが2つの共振器141Y,142Yによって構成される場合について説明する。
【0120】
図26を参照して、フィルタ装置100Jにおいても、第1例のフィルタ装置100Hと同様に、共振器141Yは、キャパシタC1を介して入力端子T1に接続されている。また、共振器142Yは、キャパシタC2を介して出力端子T2に接続されている。共振器141Yおよび共振器142Yは、キャパシタC3を介して互いに接続されている。
【0121】
そして、入力端子T1には、インダクタL41およびキャパシタC41が直列接続されたLC直列共振回路410が接続されている。また、出力端子T2には、インダクタL42およびキャパシタC42が直列接続されたLC直列共振回路420が接続されている。なお、共振回路410,420のいずれか一方のみが設けられる構成であってもよい。共振回路410,420の共振周波数は、除去対象のスプリアスの周波数に適合した周波数に調整される。
【0122】
図27は、
図26のフィルタ装置100JをX軸の正方向から見たときの共振器140(共振器141Y)を含む部分の断面図である。フィルタ装置100Jにおいて、共振器140は、基本的には、平板電極310,311を除いて、
図25のフィルタ装置100H1と同様の接続態様とされている。
【0123】
フィルタ装置100Jは、入力端子T1に接続される共振回路410を構成する平板電極411およびビア412とを含む。平板電極411の一方端は、ビア412によって平板電極135に接続されている。平板電極411の少なくとも一部は、ビアV10を介して入力端子T1に接続される平板電極PL1と対向している。
【0124】
平板電極PL1と平板電極411との容量結合によって、
図26のキャパシタC41が構成される。また、平板電極411およびビア412によって、
図26のインダクタL41が構成される。したがって、平板電極PL1および平板電極411によって、
図26の共振回路410が構成される。そして、平板電極411の寸法、および/または、平板電極PL1と平板電極411との間の距離および重なり具合を調整することによって、除去対象のスプリアスの周波数に適合した周波数に、共振回路410の共振周波数を調整することができる。なお、図には示されていないが、出力端子T2に接続される共振回路420についても、
図27と同様の構成とすることができる。
【0125】
以上のように、入力端子および/または出力端子にスプリアス除去用の共振回路を配置することによって、フィルタ装置に生じるスプリアスを低減することができる。
【0126】
(変形例5)
変形例5においては、
図26の等価回路で示されたLC直列共振回路におけるキャパシタおよびインダクタの接続順が逆になった構成について説明する。すなわち、変形例5のLC直列共振回路においては、入力端子T1および出力端子T2にインダクタが接続され、当該インダクタと接地電位との間にキャパシタが接続される。
【0127】
図28は、変形例5のフィルタ装置100J1の断面図である。フィルタ装置100J1においては、
図27のフィルタ装置100Jにおける共振回路410が共振回路410Aに置き換えられた構成となっている。
【0128】
共振回路410Aは、平板電極411Aおよびビア412Aを含む。平板電極411Aは、ビア412Aを介して平板電極PL1に接続されるとともに、平板電極135に対向している。ビア412Aおよび平板電極411AによってインダクタL41が構成され、平板電極411Aと平板電極135とによってキャパシタC41が構成される。ビア412Aおよび平板電極411Aの長さによってインダクタンス値を調整し、平板電極411Aと平板電極135との間の距離および対向面積(すなわち、平板電極411Aの面積)によってキャパシタンス値を調整することで、所望の共振周波数が実現される。
【0129】
図29は、第1例または第2例におけるフィルタ装置における通過特性を説明するための図である。
図29においては、共振回路が配置された実施の形態7の場合の挿入損失が実線LN50で示されており、共振回路が配置されない比較例の挿入損失が破線LN51で示されている。なお、
図29のフィルタ装置が対象とする通過帯域は6GHz帯である。
【0130】
図29を参照して、比較例のグラフ(破線LN51)においては、通過帯域の2倍波に対応する12~13GHz付近の周波数にスプリアスが生じている。一方で、実施の形態7の場合には、通過帯域(6GHz付近)での挿入損失には大きな変化はないが、追加された共振回路によって、12~13GHz付近のスプリアスが除去されている。
【0131】
以上のように、共振器および/または入出力端子に、スプリアスに適合した共振周波数のLC直列共振回路を配置することによって、通過帯域の特性を低下させることなく、スプリアスの影響を排除することができる。
【0132】
なお、第1例および第2例においては、スプリアス除去用の共振回路としてLC直列共振回路を例として説明したが、これに代えてLC並列共振回路のような他の形式の共振回路が用いられてもよい。
【0133】
<第3例>
第3例のフォルタ装置においては、入力端子T1および/または出力端子T2と共振器との間の信号経路にローパスフィルタ(LPF)を追加することによって、スプリアスの影響を除去する構成について説明する。
【0134】
図30は、実施の形態7の第3例のフィルタ装置100Kの等価回路図である。フィルタ装置100Kにおいても、説明を簡略化するために、フィルタ装置100Kが2つの共振器141Y,142Yによって構成される場合について説明する。
【0135】
図30を参照して、フィルタ装置100Kにおいては、入力端子T1にLPF510が接続され、共振器141YがキャパシタC1を介して当該LPF510に接続されている。また、出力端子T2にLPF520が接続され、共振器142YがキャパシタC2を介して当該LPF520に接続されている。そして、共振器141Yおよび共振器142Yは、キャパシタC3を介して互いに接続されている。
【0136】
LPF510は、インダクタL51とキャパシタC511,C512とを含む。インダクタL51は、入力端子T1とキャパシタC1との間に接続される。キャパシタC511は、入力端子T1と接地電位との間に接続される。キャパシタC512は、インダクタL51とキャパシタC1との間の接続ノードと、接地電位との間に接続される。すなわち、LPF510は、π型のローパスフィルタを構成する。
【0137】
LPF520は、インダクタL52とキャパシタC521,C522とを含む。インダクタL52は、出力端子T2とキャパシタC2との間に接続される。キャパシタC521は、出力端子T2と接地電位との間に接続される。キャパシタC522は、インダクタL52とキャパシタC2との間の接続ノードと、接地電位との間に接続される。すなわち、LPF520は、π型のローパスフィルタを構成する。
【0138】
LPF510,520は、除去対象のスプリアスの周波数よりも低い周波数の信号を通過させるように共振周波数が設定されている。これにより、2倍波あるいは3倍波のような、通過対象の信号の周波数よりも高周波数の信号が除去されるので、スプリアスによる影響を排除することができる。
【0139】
なお、LPF510,520の双方を設けることは必須ではなく、少なくともいずれか一方が配置されればよい。また、LPF510,520の構成は、上述のようなπ型の構成には限られず、たとえば直列接続された2つのインダクタと、当該2つのインダクタの接続ノードと接地電位との間に接続されたキャパシタとによって構成されたT型の構成を有するローパスフィルタであってもよい。また、π型あるいはT型の構成を複数含む多段型のローパスフィルタであってもよい。
【0140】
図31は、
図30のフィルタ装置100Kの内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Kは、一方端がシールド導体121に接続され、Y軸方向に延在する共振器141Y,142Yを含む。共振器141Y,142Yは、接続導体151H1,152H1によって、平板電極130,135に接続されている。また、共振器141Yを構成する複数の導体は、Y軸の正方向の端部に近い位置で接続導体151H2によって互いに接続され、Y軸の負方向の端部に近い位置で接続導体171によって互いに接続されている。
【0141】
入力端子T1は、ビアV10、インダクタL51およびビアV11を介して、平板電極PL11に接続されている。平板電極PL11は、共振器141Yの最下層の導体と対向しており、入力端子T1に供給された信号は、容量結合により共振器141Yに伝達される。
【0142】
インダクタL51は、複数の平板電極と複数のビアによって構成されるコイルである。インダクタL51は、ビアV10に接続される第1コイルと、ビアV11に接続される第2コイルとを含む。第1コイルおよび第2コイルの各々は、積層方向(Z軸方向)を巻回軸とするヘリカルコイルである。第1コイルおよび第2コイルは、Y軸方向に隣接して配置されており、上面111側の平板電極130と対向している。第1コイルと平板電極130との間の寄生容量によって、
図30におけるキャパシタC511が構成される。また、第2コイルと平板電極130との間の寄生容量によって、
図30におけるキャパシタC512が構成される。すなわち、インダクタL51および平板電極130によって、LPF510が構成される。
【0143】
なお、
図31においては共振器142Yに隠れて見えなくなっているが、出力端子T2に
接続されるLPF520についても、上記のLPF510と同様の構成となっている。
【0144】
図32は、
図30のフィルタ装置100Kにおける通過特性を説明するための図である。
図32においては、LPF510,520が配置された第3例のフィルタ装置100Kの場合の挿入損失が実線LN60で示されており、LPF510,520が配置されない比較例のフィルタ装置の場合の挿入損失が破線LN61で示されている。なお、フィルタ装置100Kが対象とする通過帯域は5GHz帯であり、LPF510,520の通過帯域は10GHz以下に設定されている。
【0145】
図32を参照して、通過帯域である5GHz付近においては、フィルタ装置100Kと比較例ではほぼ同じ挿入損失となっている。一方、フィルタ装置100Kにおいては、10GHzを超える信号についてはLPF510,520により遮断されている。特に、破線LN61の比較例における12GHz付近および16~20GHz付近のピークが抑制されているのがわかる。
【0146】
以上のように、入出力端子と共振器との間に、スプリアスよりも低い周波数を通過させるローパスフィルタを配置することによって、通過帯域の特性の低下を抑制しつつ、スプリアスの影響を排除することができる。
【0147】
[実施の形態8]
上述の実施の形態においては、入力端子および出力端子が、積層体の下面側に配置された構成となっていた。しかしながら、外部機器との接続を積層体の側面で行なうという要求仕様の場合、入力端子および出力端子を積層体の側面および上面まで延在した構成とされる場合がある。このような構成においては、入出力用の端子のインダクタンス値の増加および寄生容量によるキャパシタンス値の増加の影響により当該端子が共振回路となって不要モード共振が生じ、特に通過対象の信号が高周波数の場合に、通過帯域の特性を低下させてしまう可能性がある。
【0148】
実施の形態8においては、入出力端子が側面まで延在して配置されるフィルタ装置において、入出力端子による不要共振を抑制する構成について説明する。
【0149】
図33は、実施の形態8のフィルタ装置100Lの外観斜視図である。フィルタ装置100Lにおいては、
図2で説明したフィルタ装置100において積層体110の下面112に配置されていた入力端子T1および出力端子T2が、入力端子T1Aおよび出力端子T2Aに置き換わった構成となっている。その他の構成は、フィルタ装置100と同様であり、重複する要素の説明は繰り返さない。
【0150】
フィルタ装置100Lにおいては、入力端子T1Aは、全体として略C字形状を有しており、積層体110の下面112から側面113を通って上面111まで延在している。同様に、出力端子T2Aも略C字形状を有しており、積層体110の下面112から側面114を通って上面111まで延在している。
【0151】
図34は、
図33のフィルタ装置100Lの内部構造を示す斜視図である。
図34においては、
図3のフィルタ装置100と比較すると、入力端子T1および出力端子T2の変更に伴って、入出力端子から共振器までの経路の構成が異なっている。
【0152】
より具体的には、共振器141は、共振器141の最下層の導体に接続されたビアV11および平板電極PL1A1を介して、入力端子T1Aの側面113上の電極に接続される。また、共振器141は、共振器141の最上層の導体に接続されたビアV12および平板電極PL1A2を介して、入力端子T1Aの側面113上の電極に接続される。すなわち、共振器141は、2つの経路で入力端子T1Aと接続されている。
【0153】
同様に、出力側の共振器145についても、最下層の導体に接続されたビアV21および平板電極PL2A1を介した経路と、最上層の導体に接続されたビアV22および平板電極PL2A2を介した経路で、出力端子T2Aと接続されている。
【0154】
図35は、比較例のフィルタ装置100XZの内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100XZにおいては、フィルタ装置100Lと同様に入出力端子が側面および上面まで延在しているが、入出力端子と共振器とは1つの経路で接続されている。
【0155】
フィルタ装置100L,100XZのように、入出力端子が長くなると、これらの端子自体のインダクタンス値が増加するとともに、隣接するシールド導体121,122との間で生じる寄生容量が増加し、実施の形態1のフィルタ装置100の場合に比べると、入出力端子で形成される共振回路の共振周波数が低くなり、当該共振回路の不要共振によって生じる極がフィルタ装置の通過帯域と重なってしまう場合が生じ得る。そうすると、フィルタ装置の通過帯域の一部に不必要な減衰が生じて、フィルタ特性の低下を招いてしまう可能性がある。
【0156】
図35の比較例のフィルタ装置100XZの場合、共振器141と入力端子T1Aとの間、および、共振器145と出力端子T2Aとの間が、それぞれ1つの経路PL1X
,PL2Xで接続されているため、当該経路のインダクタンスが入出力端子に直列に接続されることになる。一方、実施の形態8のフィルタ装置100Lの場合、共振器141と入力端子T1Aとの間、および、共振器145と出力端子T2Aとの間が、それぞれ2つの経路によって並列に接続されるため、比較例のフィルタ装置100XZに比べると、入出力端子に発生するインダクタンス値を小さくすることができる。これにより、入出力端子によって形成される共振回路の不要共振モードの周波数を、比較例の場合よりも高くすることができるので、当該不要共振モードの極がフィルタ装置の通過帯域に重なる可能性を低減することができる。
【0157】
以上のように、入出力端子が積層体の下面から側面および上面にまで延在するように構成されたフィルタ装置において、入出力端子と共振器との間を2以上の経路で接続することによって、入出力端子で形成される共振回路によって生じる不要共振の周波数を高くすることができるので、当該不要共振によるフィルタ特性の低下を抑制することができる。
【0158】
(変形例6)
積層体の側面において外部機器と接続する場合、必ずしも入出力端子を上面まで延在させる必要はない。そのため、変形例6においては、入出力端子の全体の長さを短くするすることによって不要共振回路のインダクタンス値を小さくして、不要共振回路の共振周波数と通過帯域との重複を抑制する構成について説明する。
【0159】
図36および
図37は、それぞれ変形例6のフィルタ装置100Mの外観斜視図および内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Mにおいては、入出力端子として、積層体110の下面112から側面113の途中まで延在する入力端子T1Bと、積層体110の下面112から側面114の途中まで延在する入力端子T2Bとを含んでいる。そして、共振器141は、ビアV11および平板電極PL1Aを介して、入力端子T1Bにおける側面113の部分に接続されている。また、共振器145は、ビアV21および平板電極PL2Aを介して、入力端子T2Bにおける側面114の部分に接続されている。
【0160】
このように、
図35の比較例のフィルタ装置100XZに比べて、入力端子および出力端子の長さを必要最低限な長さまで短くすることによって、入出力端子で構成される共振回路の不要共振モードの周波数を高くして、当該不要共振によるフィルタ特性の低下を抑制することができる。
【0161】
[実施の形態9]
実施の形態9においては、入出力端子と共振器とを接続する経路の抵抗成分を低減することによって、フィルタ特性を向上させる構成について説明する。
【0162】
図38は、実施の形態9のフィルタ装置100Nの内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Nにおいては、
図3のフィルタ装置100において、入力端子T1と共振器141とを接続する経路における平板電極PL1が平板電極PL1Bに置き換えられ、出力端子T2と共振器141とを接続する経路における平板電極PL2が平板電極PL2Bに置き換えられた構成となっている。その他の構成はフィルタ装置100と同様であり、
図3と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0163】
具体的には、フィルタ装置100の平板電極PL1,PL2が1層の電極で構成されていたものを、平板電極PL1B,PL2Bにおいては複数の電極により構成されている。
図38の例においては、平板電極PL1B,PL2Bの各々は、3層の電極で構成されている。
【0164】
このように、入出力端子と共振器とを接続する経路の平板電極を複数の電極で構成することによって、1層の電極の場合に比べて抵抗成分を低減できるため、フィルタ装置の挿入損失を向上することができる。
【0165】
次に、
図39および
図40を用いて、平板電極PL1B,PL2Bの電極枚数の挿入損失への影響についてシミュレーションを行なった結果を示す。なお、
図39および
図40においては、説明を容易にするために、2つの共振器141Y,142Yで構成されたフィルタ装置のモデルを用いてシミュレーションを行なった結果が示されている。
【0166】
図39および
図40において、上図(A)にはシミュレーションに用いたモデルの概略図が示されており、下図(B)には電極枚数に対する挿入損失の改善率のグラフが示されている。なお、
図39は、共振器間の結合を調整するためのキャパシタ電極C10,C20が共振器の開放端側(キャパシタ電極161Y,162Y側)に配置された場合についてのシミュレーション結果である。
図40は、キャパシタ電極C11,C21が共振器の接地端側(シールド導体121側)に配置された場合についてのシミュレーション結果である。
【0167】
図39および
図40のいずれにおいても、電極枚数が増加するに従って、挿入損失の改善率も大きくなっている。このように、実施の形態9のフィルタ装置100Nのような構成とすることによって、実施の形態1のフィルタ装置100よりも、さらにフィルタ特性を向上させることができる。
【0168】
[実施の形態10]
実施の形態10においては、製造プロセスにおけるシールド電極の製造ばらつきの影響を抑制するための構成について説明する。
【0169】
図41は、それぞれ実施の形態10のフィルタ装置100Pの内部構造を示す斜視図である。また、
図42は、フィルタ装置100Pを積層方向から見た平面図である。フィルタ装置100Pにおいては、
図3の実施の形態1のフィルタ装置100の構成に加えて、積層体110の側面113,114に近接して、シールド導体122からY軸の正方向に延在する平板電極350,351が配置されている。フィルタ装置100Pにおいて、その他の構成はフィルタ装置100と同様であり、重複する要素の説明は繰り返さない。
【0170】
上述のようなフィルタ装置は、一般的には、大きな誘電体の積層体内に同じ構成の複数のフィルタ装置の要素をアレイ状に形成し、それを切断して個片化することによって最終的なフィルタ装置として完成させる。そのため、積層体の外部に配置される外部接続用の電極は、個片化
後の積層体に印刷あるいは浸漬によって形成される。このとき、
図41に示されるように、シールド導体121,122は、側面115,116だけでなく、側面113,114にも部分的に形成される場合がある。この場合、入力側の共振器141および出力側の共振器145については、特に開放端側において、側面113,114に配置されたシールド導体122との間で容量結合が生じ得る。そうすると、共振器141,145の共振周波数が、設計時の共振周波数からずれてしまい、フィルタ装置の特性に影響を及ばす可能性がある。
【0171】
フィルタ装置100Pにおいては、積層体110の側面113に近接して平板電極350が配置され、側面114に近接して平板電極351が配置されている。平板電極350,351は、積層体110の側面116においてシールド導体122に接続されている。また、平板電極350,351のY軸方向の寸法は、側面113,114に形成されるシールド導体122よりも長くされている。
【0172】
このような平板電極350,351を配置することによって、側面113,114にシールド導体122が回り込んで形成されていた場合でも、当該平板電極350と共振器141との間の容量結合、および、平板電極351と共振器145との間の容量結合が、優先的に生じる。そのため、側面113,114におけるシールド導体122の位置がばらついた場合でも、共振器141,145の安定した共振周波数を実現できるので、結果としてフィルタ特性の低下を抑制することができる。
【0173】
図43は、実施の形態10のような平板電極350,351を有するフィルタ装置のロットと、平板電極350,351を有さないフィルタ装置のロットについての、フィルタ特性のばらつきを比較した図である。各グラフにおいては、各フィルタ装置の挿入損失(線LN100,LN101)および反射損失(線LN110,LN111)が示されている。
図43に示されるように、比較例においては、通過帯域における反射損失についてフィルタ間のばらつきが大きくなっているが、実施の形態10の構成の場合には安定した反射損失が実現されている。
【0174】
以上のように、共振器の延在方向に沿った積層体の側面に近接して、シールド電極に接続された平板電極を配置することによって、当該側面に回り込んで形成されるシールド電極によるフィルタ特性への影響を抑制することができる。
【0175】
なお、
図41の例においては、平板電極350,351の各々が3つの電極で構成される場合について説明したが、平板電極350,351の数はこれに限られず、共振器との所望の結合量によって適宜設定される。
【0176】
[実施の形態11]
実施の形態11および変形例7~9においては、隣接する共振器間の容量結合を調整するための構成のバリエーションについて説明する。
【0177】
図44は、実施の形態11のフィルタ装置100Q1の内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Q1においては、
図3のフィルタ装置100の構成に加えて、平板電極451,452が設けられた構成となっている。フィルタ装置100Q1におけるその他の構成はフィルタ装置100と同様であり、重複する要素の説明は繰り返さない。
【0178】
図44を参照して、平板電極451は、積層体110の積層方向から平面視した場合に、共振器141および共振器142と重なるように配置されている。また、平板電極452は、積層体110の積層方向から平面視した場合に、共振器144および共振器145と重なるように配置されている。
図44においては、平板電極451,452は、各共振器の開放端側の端部において、各共振器よりも上面111の方向に離間した位置に配置されている。
【0179】
上述のように、共振器間の容量結合は、共振器に配置されたキャパシタ電極C10~C50によっても調整することができるが、平板電極451,452を設けることによっても調整することができる。平板電極451,452の場合には、共振器からの離間距離、共振器と対向する面積、および、Y軸方向の位置によって、結合量を調整することができる。
【0180】
なお、
図44においては、共振器よりも上面111側に離間した位置に平板電極451,452が配置された例が示されているが、これに代えてまたはこれに加えて、共振器よりも下面112側に離間した位置に平板電極451,452を配置してもよい。また、他の隣接した共振器間、すなわち、共振器142と共振器143、および/または、共振器143と共振器144との結合量を調整するための平板電極が配置されてもよい。
【0181】
このような、隣接した共振器に重なるように配置された平板電極を配置して、共振器間の容量結合を調整することによって、所望のフィルタ特性に調整することができる。
【0182】
(変形例7)
変形例7においては、ビア(柱状部材)を用いて共振器間の結合量を調整する構成について説明する。
【0183】
図45は、変形例7のフィルタ装置100Q2の内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Q1においては、
図3のフィルタ装置100の構成に加えて、ビアV100,V110が設けられた構成となっている。フィルタ装置100Q2におけるその他の構成はフィルタ装置100と同様であり、重複する要素の説明は繰り返さない。
【0184】
図45を参照して、フィルタ装置100Q2においては、共振器142と共振器143との間にビアV100が配置されており、共振器143と共振器144との間にビアV110が配置されている。
【0185】
図45を参照して、ビアV100,V110は、たとえば、誘電体層間を貫通する貫通孔に導電部材が充填された柱状電極である。この場合、ビアV100,V110は、接地電位に接続される平板電極130あるいは平板電極135に接続される。これによって、ビアV100,V110はシールド部材として機能し、共振器間の容量結合を弱めることができる。
【0186】
また、ビアV100,V110は、積層体110を構成する誘電体とは異なる誘電率を有する他の誘電体で形成されてもよい。積層体110の誘電率よりも高い誘電率を有する誘電体を用いることによって、共振器間の容量結合を強めることができる。逆に、積層体110の誘電率よりも低い誘電率を有する誘電体を用いることによって、共振器間の容量結合を弱めることができる。なお、ビアV100,V110は、空洞のビアとしてもよい。
【0187】
以上のように、共振器間に適切な材料を用いたビアを配置して、共振器間の容量結合を調整することによって、所望のフィルタ特性に調整することができる。
【0188】
(変形例8)
変形例8においては、
図11で示した実施の形態2のフィルタ装置100Aにおける接続導体180,181の配置を変更することによって、共振器間の容量結合を調整する構成について説明する。
【0189】
図46は、変形例8のフィルタ装置100Q3の内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Q3においては、
図11のフィルタ装置100Aにおいて、共振器の接続導体150の部分で共振器同士を接続している接続導体180,181が、接続導体180Q~183Qに置き換わった構成となっている。より具体的には、フィルタ装置100Aにおける接続導体180が、フィルタ装置100Q3においては接続導体180Q、182Qに置き換わっており、フィルタ装置100Aにおける接続導体181が、フィルタ装置100Q3においては接続導体181Q、183Qに置き換わっている。フィルタ装置100Q3におけるその他の構成はフィルタ装置100Aと同様であり、重複する要素の説明は繰り返さない。
【0190】
図46を参照して、接続導体180Qは、接続導体180と同様の位置において、共振器142,143,144を互いに接続している。また、接続導体181Qは、接続導体181と同様の位置において、共振器142,143,144を互いに接続している。
【0191】
一方、接続導体182Qは、共振器から上面111側に離間した位置において、接続導体151と接続導体152、ならびに、接続導体154と接続導体155とを接続している。また、接続導体183Qは、共振器から下面112側に離間した位置において、接続導体151と接続導体152、ならびに、接続導体154と接続導体155とを接続している。
【0192】
実施の形態2で説明したように、共振器の接地端側において共振器の導体同士を接続すると、共振器間の誘導結合が強められる。変形例8のフィルタ装置100Q3においては、接続導体182Q,183Qが、共振器から離間した位置において接続導体150を接続している。これによって、
図11のフィルタ装置100Aに比べると、共振器141と共振器142との間の誘導結合、および、共振器144と共振器145との間の誘導結合が相対的に弱められる。その結果、共振器141と共振器142との間の容量結合、および、共振器144と共振器145との間の容量結合が、フィルタ装置100Aに比べて相対的に強くなる。
【0193】
以上のように、共振器の接地端側において共振器同士を結合する接続導体について、共振器との距離を変更することによって、共振器間の容量結合を調整することができる。
【0194】
(変形例9)
変形例9においては、隣接配置された2つの共振器において、各共振器の導体に設けられるキャパシタ電極の重なり度合いを調整することによって容量結合を調整する構成について説明する。
【0195】
図47は、変形例9のフィルタ装置100Q4の内部構造を示す斜視図である。フィルタ装置100Q4においては、
図3のフィルタ装置100において共振器141,142にそれぞれ設けられたキャパシタ電極C10,C20が、キャパシタ電極C10Q,C20Qにそれぞれ置き換わった構成を有している。フィルタ装置100Q4におけるその他の構成はフィルタ装置100と同様であり、重複する要素の説明は繰り返さない。
【0196】
図47を参照して、キャパシタ電極C10Qは、共振器142に向かって共振器141から突出して設けられている。また、キャパシタ電極C20Qは、共振器141に向かって共振器142から突出して設けられている。キャパシタ電極C10Q,C20QのX軸方向の突出量は、
図3のフィルタ装置100のキャパシタ電極C10,C20よりも長い。積層体110の積層方向(Z軸方向)から平面視した場合に、キャパシタ電極C10Qとキャパシタ電極C20Qとは、互いに一部分が重なっている。このような構成とすることによって、フィルタ装置100よりも、共振器141,142間の容量結合が強められる。そして、キャパシタ電極C10Qとキャパシタ電極C20Qとの重なり度合いを調整することによって、共振器141,142間の容量結合を調整することができる。
【0197】
なお、当該構成は、共振器142、143間、共振器143、144間、および、共振器144、145間においても適用可能である。
【0198】
以上のように、各共振器の導体に設けられるキャパシタ電極の重なり度合いを調整することによって容量結合を調整することができる。
【0199】
[実施の形態12]
実施の形態12においては、各共振器を構成する複数の導体の形状のバリエーションについて説明する。
【0200】
図48は、実施の形態12の共振器140BのZX平面の断面図である。上述のように、共振器140Bの断面形状は略楕円形状となっている。共振器140Bは、第1幅を有する電極220Bと、電極220Bよりも上面111または下面112側に配置され、第1幅よりも狭い幅を有する電極220Aにより構成されている。そして、共振器140Bにおいては、電極220Aの幅方向(X軸方向)の両端部が、楕円形状の包絡線に沿うように、電極220B側に屈曲している。
【0201】
上述のように、高周波電流は縁端効果のために導体の端部付近を流れる傾向があるため、電極220Aの両端部を楕円形状の包絡線に沿うように屈曲させることによって、電流の流れる経路に沿った導体の連続性を高めて抵抗成分を低減することができる。これによって、電流損失が低減できるため、フィルタ装置の挿入損失を改善することができる。
【0202】
なお、電極220Aの端部は、電極220Bに向かう方向とは逆方向に屈曲させてもよい。
【0203】
(変形例10)
変形例10においては、
図48の実施の形態12の共振器140Bにおける電極220の厚みを厚くした構成について説明する。
【0204】
図49は、変形例10における共振器140CのZX平面の断面図である。共振器140Cにおいても、第1幅を有する電極220Bと、第1幅よりも狭い幅を有する電極220A1により構成されている。また、電極220A1は、電極220Aと同様に、幅方向の両端部が、楕円形状の包絡線に沿うように電極220B側に屈曲している。そして、電極220A1の厚みは、電極220Bの厚みよりも厚くされている。
【0205】
電流損失の低減の観点からは、電極220Bについても厚みを厚くすることが好ましい。しかしながら、共振器を構成するすべての電極の厚みを厚くすると、積層方向における導体密度が増加するため、誘電体と導体部との間の熱膨張率の違いから、製造過程においてクラックなどの構造欠陥が生じやすくなる。そのため、電極幅が徐々に変化する電極220Aの部分の厚みのみを厚くすることによって、構造欠陥の発生リスクを抑制しつつ、フィルタ特性を向上させることができる。
【0206】
(変形例11)
変形例11においては、積層体の一部について誘電率を異ならせることによって、フィルタ特性をさらに向上させる構成について説明する。
【0207】
図50は、変形例11におけるフィルタ装置100Rの共振器部分のZX平面の断面図である。フィルタ装置100Rにおける共振器は、基本的には実施の形態12で説明した共振器140Bと同じであり、第1幅を有する電極220Bと、第1幅よりも狭い幅を有し幅方向の端部が屈曲した電極220Aとによって構成されている。
【0208】
そして、フィルタ装置100Rにおいては、積層体110は、互いに異なる誘電率を有する誘電体基板110Cおよび誘電体基板110Dによって構成されている。より具体的には、電極220Aが配置される部分には誘電体基板110Dが用いられており、電極220Bおよびその他の部分には誘電体基板110Cが用いられている。
【0209】
電極220Aが配置される誘電体基板110Dの誘電率は、誘電体基板110Cの誘電率よりも低い。このような構成とすることによって、楕円形状の断面における円弧部分に集中する電界を緩和することができるので、挿入損失を改善することができる。
【0210】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0211】
10 通信装置、12 アンテナ、20 高周波フロントエンド回路、22,28 バンドパスフィルタ、24 増幅器、26 減衰器、30 ミキサ、32 局部発振器、40 D/Aコンバータ、50 RF回路、100,100A~100H,100H1,100J,100J1,100K~100N,100P,100Q1~100Q4,100R,100X,100XZ,100-1,100-2 フィルタ装置、110 積層体、110A~100D 誘電体基板、111 上面、112 下面、113~116 側面、121,122 シールド導体、130,130G,135G,135,310,311,350,351,411,411A,451,452,PL1,PL1A,PL1A1,PL1A2,PL1B,PL2,PL2A,PL2A1,PL2A2,PL2B,PL11 平板電極、140~145,140A~140C,141Y,142Y 共振器、150~155,150A,150B,150C,150H1,150H2,150X,150-1,150-2,151H1,151H2,152H1,170~175,170-1、170-2,180,180-1,180-2,181,181-1,181-2,180Q~183Q 接続導体、160~165,161Y,162Y,C10~C50,C10Q,C20Q キャパシタ電極、190 接続部材、200 マルチプレクサ、210,210A,210B,215A,215B,210X ビア導体、220,220A,220A1,220B 電極、230C,230X パッド電極、250 空間、300,301,410,410A,420 共振回路、320,321,412,412A,V10,V11,V12,V21,V22,V100,V110 ビア、C1~C3,C31,C41,C42,C511,C512,C521,C522 キャパシタ、L31,L41,L42,L51,L52 インダクタT1 入力端子、T2 出力端子。