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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】接合体及び接合体を備えた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/352 20140101AFI20241119BHJP
   B29C 63/00 20060101ALI20241119BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B23K26/352
B29C63/00
H01L23/28 A
H01L23/28 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023566917
(86)(22)【出願日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2023004742
(87)【国際公開番号】W WO2023157795
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2022021836
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【弁理士】
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】北川 達哉
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-067600(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087482(WO,A1)
【文献】特開2017-130457(JP,A)
【文献】国際公開第2020/230200(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/352
B29C 63/00
H01L 23/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、
前記金属部材と接合する樹脂部材と、
を備え、
前記金属部材は、前記樹脂部材との接合面に樹状構造部を有し、
前記樹状構造部少なくとも一部の直径は、ナノメートルオーダーであり
記樹脂部材は、前記樹状構造部に含浸し、
前記金属部材は、前記樹脂部材との接合面に凹部を有し、
前記凹部は、表面に前記樹状構造部を有する第一凹部と、前記第一凹部よりも深い第二凹部とを含み、前記第一凹部と前記第二凹部とは、交互に形成された位置関係である、
ことを特徴とする接合体。
【請求項2】
金属部材と、
前記金属部材と接合する樹脂部材と、
を備え、
前記金属部材は、前記樹脂部材との接合面に樹状構造部を有し、
前記樹状構造部の少なくとも一部の直径は、ナノメートルオーダーであり、
前記樹脂部材は、前記樹状構造部に含浸し、
前記金属部材は、前記樹脂部材との接合面に凹部を有し、
前記凹部は、前記金属部材の表面に対して傾きを有して形成された第三凹部と、前記第三凹部の表面に形成された第一凹部とを含み、前記第一凹部の表面は、前記樹状構造部が形成されている、
ことを特徴とす接合体。
【請求項3】
前記凹部の深さが10μm以下である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の接合体。
【請求項4】
前記深さ(X)と幅(Y)の比(X/Y)が、0.2以下である、
ことを特徴とする請求項3に記載の接合体。
【請求項5】
前記樹状構造部は、前記凹部の表面に形成され、
前記樹状構造部の厚みは、前記凹部の幅の100分の1以下である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の接合体。
【請求項6】
前記樹状構造部の厚みは、前記凹部の深さの10分の1以下である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の接合体。
【請求項7】
前記樹状構造部が、前記凹部の周囲に形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の接合体。
【請求項8】
前記第三凹部は、前記金属部材の表面に対して90度未満の傾きを有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の接合体。
【請求項9】
表面電極、導電層、電極端子又はワイヤが樹脂部材によって樹脂封止された半導体装置であって、
前記表面電極、前記導電層、前記電極端子及び前記ワイヤは、金属部材であり、
前記表面電極、前記導電層、前記電極端子又は前記ワイヤと前記樹脂部材との接合体の少なくとも一部が、請求項1または2に記載の接合体である、ことを特徴とする半導体装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合体及び接合体を備えた半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材と樹脂部材との接合性能を向上する技術として、シランカップリング剤などの機能性分子の薄膜を、蒸着処理などによって金属部材の表面に形成し、樹脂との密着性を向上する技術が知られている。しかしながら、このような手法では、機能性分子を別途用意する必要があり、さらに、必要部位のみに機能性分子の薄膜を形成するたには、マスキングによる汚染防止が必要となるため、処理工程が複雑になってしまう。そのため、機能性分子を用いた接合性能の向上で得られる金属部材と樹脂部材の異種材料接合体は高コストになる。
そこで、機能性分子の原料やマスクを別途必要としない手法として、金属部材へ形成した凹凸部へ樹脂部材を含浸させるアンカー(投錨)効果による直接接合技術が多く提案されている。具体的には、金属部材、または、メッキ表面に、レーザを照射し、そのエネルギーによって表面の金属分子を蒸発させ除去することで凹凸形状を形成する。そのようにして形成された凹形状に樹脂部材を食い込ませることによって、高い接合強度をもつ異種材料接合体を得ることができる。そのため、機能性分子の原料やマスクを別途用意する必要がなく、かつ、簡便な処理工程であるため、高い接合強度をもつ異種材料接合体を従来よりも低コストで作製することできる。
例えば、従来技術の一つとして、特許文献1では、高分子材料と接合する金属表面にマイクロメーターオーダーの凹部を設け、凹部の内壁には突起を有し、且つ突起の表面にナノメートルオーダーの細孔または凹部を形成することで、アンカー効果及び共有結合の効果を得ようとする接合技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-528182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属表面に設けられた凹部は、凹部の幅に対して5倍以上の深さを必要とする構造にもかかわらず、加工に用いられる短パルス又は超短パルスレーザは深い凹部の形成が不向きであり、加工に時間を要するため生産効率の面で現実的ではない。また、突起表面に形成されたナノメートルオーダーの細孔又は凹部によって共有結合の効果を得られるとしているが、金属の表面には表面粗さとしてナノメートルオーダーの凹凸などが形成されていることは特別なことではない。むしろ、突起表面に形成された細孔又は凹部では金属材料と高分子材料との接触面積が十分でなく、ナノメートルオーダーの構造部に起因した接合効果を十分に得られていない点が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る金属部材と樹脂部材の接合体は金属部材と、金属部材と接合する樹脂部材と、を備え、金属部材は、樹脂部材との接合面に樹状構造部を有し、樹状構造部の少なくとも一部の直径は、ナノメートルオーダーであり、樹脂部材は、樹状構造部に含浸し、金属部材は、樹脂部材との接合面に凹部を有し凹部は、表面に樹状構造部を有する第一凹部と、第一凹部よりも深い第二凹部とを含み、第一凹部と第二凹部とは、交互に形成された位置関係である、ことを特徴とする。また、本開示に係る金属部材と樹脂部材の接合体は、金属部材と、金属部材と接合する樹脂部材と、を備え、金属部材は、樹脂部材との接合面に樹状構造部を有し、樹状構造部の少なくとも一部の直径は、ナノメートルオーダーであり、樹脂部材は、樹状構造部に含浸し、金属部材は、樹脂部材との接合面に凹部を有し凹部は、金属部材の表面に対して傾きを有して形成された第三凹部と、第三凹部の表面に形成された第一凹部とを含み、第一凹部の表面は、樹状構造部が形成されている、ことを特徴とする。
【0006】
た、本開示の一態様に係る半導体装置は、表面電極、導電層、電極端子又はワイヤが樹脂部材によって樹脂封止された半導体装置であって、表面電極、導電層、電極端子及びワイヤは、金属部材であり、表面電極、導電層、電極端子又はワイヤ部材と樹脂部材との接合体の少なくとも一部において、表面電極、導電層、電極端子又はワイヤ部材は樹脂部材との接合面に樹状構造部を有し、樹状構造部の少なくとも一部の直径は、ナノメートルオーダーであり、樹脂部材は、樹状構造部に含浸し凹部は、表面に樹状構造部を有する第一凹部と、第一凹部よりも深い第二凹部とを含み、第一凹部と第二凹部とは、交互に形成された位置関係であることを特徴とする。また、本開示の一態様に係る半導体装置は、表面電極、導電層、電極端子又はワイヤが樹脂部材によって樹脂封止された半導体装置であって、表面電極、導電層、電極端子及びワイヤは、金属部材であり、表面電極、導電層、電極端子又はワイヤ部材と樹脂部材との接合体の少なくとも一部において、表面電極、導電層、電極端子又はワイヤ部材は樹脂部材との接合面に樹状構造部を有し、樹状構造部の少なくとも一部の直径は、ナノメートルオーダーであり、樹脂部材は、樹状構造部に含浸し、金属部材は、樹脂部材との接合面に凹部を有し凹部は、金属部材の表面に対して傾きを有して形成された第三凹部と、第三凹部の表面に形成された第一凹部とを含み、第一凹部の表面は、樹状構造部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、金属部材に形成されたナノメートルオーダーの樹状構造部と樹脂部材との接触面積を十分に確保することができるため、金属部材と樹脂部材とが強固に接合した樹脂金属接合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る接合体の断面模式図である。
図2】実施の形態1に係る接合体の製造過程に沿った断面模式図である。
図3】パルスレーザを照射した後の金属部材101の表面のSEM像である。
図4】パルスレーザを照射した後の金属部材101の表面の拡大SEM像である。
図5】パルスレーザを照射した後の金属部材101の断面のSEM像である。
図6】パルスレーザを照射した後の金属部材101の断面のTEM像である。
図7】20J/cmのエネルギー密度のレーザを照射した後の金属部材101の断面分析結果である。(a)は断面TEM像、(b)はAl元素の分布を示した断面TEM―EDX分析結果、(c)はO元素の分布を示した断面TEM―EDX分析結果である。
図8】50J/cmのエネルギー密度のレーザを照射した後の金属部材101の断面分析結果である。(a)は断面TEM像、(b)はAl元素の分布を示した断面TEM―EDX分析結果、(c)はO元素の分布を示した断面TEM―EDX分析結果である。
図9】疲労強度試験に用いた接合体の断面SEM像である。(a)は実施例として作製した接合体の断面SEM像、(b)は比較例として作製した接合体の断面SEM像である。
図10】実施の形態2に係る接合体の断面模式図である。
図11】実施の形態2に係る金属部材101の表面のSEM像である。
図12】実施の形態2に係る金属部材101の第一凹部103の断面のTEM像である。
図13】実施の形態3に係る接合体120の断面模式図である。
図14】実施の形態3で得られた金属部材101の表面の断面のSEM像である。
図15】実施の形態3で得られた金属部材101の第一凹部103の断面のTEM像である。
図16】実施の形態4に係る半導体装置200の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではない。また、説明を明確にするため、図面は適宜簡略化し、説明の繰り返しは省略する場合がある。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る接合体の断面模式図である。
図1に示すように、接合体100は、金属部材101と樹脂部材102との接合体であり、接合部の金属部材101の表面には、第一凹部103と、金属部材101を主成分とした樹状構造部104とが形成されている。第一凹部103は、樹脂部材102と接合する面に複数形成されており、それぞれの第一凹部103の表面には樹状構造部104が形成されている。樹状構造部104は、少なくとも一部の直径が1nm以上10nm未満であるナノメートルオーダーの太さの樹枝状体を備え、隣接する樹枝状体同士が絡み合うように空間的に広がっている。さらに、空間的に広がった樹枝状体と樹枝状体との間には樹脂部材102が含浸している。金属部材101は、例えばAl、Cu、または、Feなどの純金属である。または、金属部材101は、Al、Cu、Fe、Ni、Au、Pd、Ag、Snのうち少なくとも1つを主成分とする合金である。実施の形態1では、例としてAlを主成分とする合金の場合を示す。尚、ここで主成分とは、金属部材101の全体における重量比が50wt%以上を占める成分をいう。また、樹脂部材102は、樹状構造部104に含浸できれば特に限定しないが、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン、ナイロン、ウレタン、またはポリフェレンサルファイド樹脂(Poly Phenylene Sulfide Resin)などが挙げられる。さらに、第一凹部103は、最底部までの深さが100nm以上10μm以下の範囲が好ましく、第一凹部103の幅に対する深さの比は、0.002以上0.2以下であることが好ましい。また、樹状構造部104の厚みは、第一凹部103の幅に対して、1000分の1以上100分の1以下の範囲内であり、さらに、樹状構造部104の厚みは、第一凹部103の深さの100分の1以上10分の1以下の厚さの範囲であることが好ましい。
【0012】
このように構成された接合体100においては、樹脂部材102が、樹状構造部104に含浸することによって、樹脂部材102と樹状構造部104との接触面積を十分に確保できる。また、樹脂部材102を構成する分子と樹状構造部104を構成する分子とがナノメートルオーダーで近接することで分子間力が働くため、樹脂部材102と樹状構造部104とが強固に接合される。
【0013】
以上のように、実施の形態1に示した構成により、アンカー効果を得るための構造形成に伴う生産性の低下を抑制しつつ、機能性分子等を用いずに、高強度で長期の耐久性を有した、樹脂金属接合体を得ることができる。
【0014】
次に、実施の形態1に係る接合体の製造過程を示す。図2(a)~(d)は、実施の形態1に係る接合体の製造過程に沿った断面模式図である。
まず、図2(a)に示す通り、金属部材101を用意する。金属部材101は、例えばAl、Cu、または、Feなどの純金属である。または、金属部材101は、Al、Cu、Fe、Ni、Au、Pd、Ag、Snのうち少なくとも1つを主成分とする合金である。金属部材101の表面には、NiめっきもしくはCuめっきと言っためっき処理、または、クロメート処理もしくはアルマイト処理と言った安定化処理を施したものであってもよい。さらに、必要に応じて、金属部材101の表面に安定化処理の前に、プラズマ処理やコロナ処理、紫外線照射処理などの前処理が施されていてもよい。そうすることで接合面が洗浄され、均一な金属部材表面を得ることができる。
したがって、製造過程においては、図2(a)は準備工程に位置づけられる。
【0015】
次に、図2(b)に示す通り、金属部材101の表面にレーザを照射することにより、金属部材101の表面に第一凹部103と樹状構造部104とを形成する。照射するレーザは、パルスレーザが好ましく、熱によって金属部材101の表面、第一凹部103及び樹状構造部104の形状が変形などの影響を受けることを避ける点では、パルス幅はできるだけ短い方が好ましい。より具体的には、パルス幅が10ns以下であることが好ましいものの、パルス幅が小さくなるにつれて設備コストの増加を伴うため、生産性とのバランスを考慮して選択可能である。また、パルスレーザの波長は特に限定されないが、金属の加工に適した波長の例としては、200nm以上10,000nm以下の波長が好ましく、さらには、400nm以上2,000nm以下の波長がより好ましい。また、単位面積あたりに照射するパルスレーザのエネルギー密度は、0.5J/cm以上50J/cm以下の範囲が好ましい。さらには、5J/cm以上30J/cm以下の範囲がより好ましい。5J/cm未満の場合、供給するエネルギー量が少なく、第一凹部103を形成できないため、樹状構造部104が形成されない。一方、30J/cmを超える場合、供給するエネルギーが過多となり、樹状構造部104が溶融してしまい、第一凹部103が形成されるのみになる。また、必要に応じてN、ArまたはHeなどの気体雰囲気中でレーザ照射しても良い。不活性ガスの雰囲気下でレーザ照射することで、例えば、金属部材101や、並びに、第一凹部103及び樹状構造部104の酸化を抑制することができるため、レーザ照射後の金属部材101、並びに、第一凹部103及び樹状構造部104の濡れ性の制御にも適用可能である。さらに、冷却を目的に、不活性ガスを流しながらレーザ照射することも可能である。
したがって、製造過程においては、図2(b)は表面加工工程に位置づけられる。
【0016】
図2(c)は、パルスレーザの照射によって金属部材101の表面に、第一凹部103と樹状構造部104とが形成された断面図である。金属部材101の表面にレーザを照射すると、金属部材101の一部は、アブレーションにより溶融又は蒸発する。金属部材101の一部がアブレーションにより溶融又は蒸発することで第一凹部103が形成され、第一凹部103上には樹状構造部104が形成される。樹状構造部104は、少なくとも一部の直径が1nm以上10nm未満であるナノメートルオーダーの太さの樹枝状体を備え、隣接する樹枝状体同士が絡み合うように空間的に広がっている。また、金属部材101へのレーザ照射の間隔については、レーザ光源をガルバノレンズ等で移動させながら照射することで制御することができる。照射するレーザのスポットとスポットとの相対的な位置は、照射するレーザのスポット径に対して、隣り合うスポット径の中心同士の間隔を、1倍から5倍の範囲内にする事が好ましい。例えば、1倍とした場合、レーザのスポット同士が互いに接して隙間なく並び、スポットが敷き詰められた状態となる。
したがって、製造過程においては、図2(c)は表面加工工程後の状態を示したものである。
【0017】
図2(d)は、第一凹部103及び樹状構造部104を形成した金属部材101に対して、樹脂部材102を接合した接合体100の断面模式図を示す。樹脂部材102は、特に限定しないが、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン、ナイロン、ウレタン又はポリフェレンサルファイド(PPS)などが挙げられる。金属部材101と樹脂部材102との接合にあたっては、一部又は全体が溶融した状態の樹脂部材102を、樹状構造部104が形成された金属部材101及び第一凹部103の表面に接合する。樹状構造部104は、少なくとも一部の直径がナノメートルオーダーの樹枝状体を備え、樹枝状体と樹枝状体との間に樹脂部材102が含浸することにより、高強度で長期間の耐久性を有した接合体100を得ることができる。
したがって、製造過程においては、図2(d)は接合工程に位置づけられる。
【0018】
次に、実施の形態1で得られた金属部材101の表面及び断面を観察した結果を、図3から図8に示す。
図3は、パルスレーザを照射した後の金属部材101の表面のSEM像(走査電子顕微鏡像)の一例である。照射するレーザのスポット径と同じ長さ、言い換えるとスポット径に対して1倍だけ離してレーザを照射した結果、レーザ照射によって形成される第一凹部103が隣同士で重ならず、且つ隣同士で接して隙間なく並んだ表面となっている。
図4は、パルスレーザを照射した後の金属部材101の表面の拡大SEM像(走査電子顕微鏡像)の一例である。図4から、金属部材101の表面に形成された第一凹部103上には、樹状構造部104が形成されていることが確認できる。樹状構造部104を構成する樹枝状体の少なくとも一部の直径は数nm程度であり、隣接する樹枝状体同士が絡み合うように空間的に広がっている。レーザを照射する間隔は特に限定されないが、スポット径に対して、1.0倍から5.0倍までの間隔で照射することで、第一凹部103の表面上に樹状構造部104が形成され、樹脂部材102が樹状構造部104に含浸することによって、金属部材101と樹脂部材102との強固な接合体100を形成することができる。尚、1.0倍以上の間隔でレーザを照射した場合は、第一凹部103の周囲のレーザ未照射の金属部材101の表面においても、樹状構造部104が形成され得る。
【0019】
図5は、パルスレーザを照射した後の金属部材101の断面のSEM像(走査電子顕微鏡像)の一例である。また、図6は、パルスレーザを照射した後の金属部材101の断面のTEM像(透過電子顕微鏡像)の一例である。図5及び図6から、第一凹部103が隣同士で重ならず、且つ隣同士で接して隙間なく形成されており、第一凹部103の表面には、第一凹部103の表面から数100nm程度の厚みを有する樹状構造部104が形成されていることが確認できる。
【0020】
図7(a)~(c)と図8(a)~(c)は、金属部材101としてAlを用い、エネルギー密度が異なる二つの条件でパルスレーザを照射した後の金属部材101の断面TEM―EDX(エネルギー分散型X線分光法)分析結果を比較したものである。
まず、図7(a)~(c)は、20J/cmのエネルギー密度のレーザを照射した後の金属部材101の断面分析結果である。図7(a)に断面TEMの分析結果を示し、図7(b)にAl元素の分布を示した断面TEM―EDX分析結果を示し、図7(c)にO元素の分布を示した断面TEM―EDX分析結果を示す。図7(a)~(c)の結果から、20J/cmのエネルギー密度のレーザを照射した場合は、金属部材101に形成された第一凹部103の表面上に樹状構造部104が形成され、樹状構造部104は酸化したAlで構成されていることが分かる。一方、図8(a)~(c)は、50J/cmのエネルギー密度のレーザを照射した後の金属部材101の断面分析結果である。図8(a)に断面TEMの分析結果を示し、図8(b)にAl元素の分布を示した断面TEM―EDX分析結果を示し、図8(c)にO元素の分布を示した断面TEM―EDX分析結果を示す。図8(a)~(c)の結果から、50J/cmのエネルギー密度のレーザを照射した場合は、金属部材101に形成された第一凹部103の表面上に樹状構造部104は形成されていない。これは、照射するレーザのエネルギー密度が高すぎた結果、レーザを照射された金属部材101のAlは、樹状構造部104を形成することなく溶融又は蒸発してしまったものと推定される。
これらの観察結果から、金属部材101へのレーザ照射によるアブレーションによって生じた金属部材101の酸化物が、樹状構造部104を主に構成していると考えられる。
【0021】
次に、実施の形態1の実施例として作製した接合体と比較例として作製した接合体とを用いた、疲労強度試験の結果を示す。
<実施の形態1の実施例>
まず、実施の形態1の実施例の構成を、図2(a)~(d)に沿って説明する。
図2(a)において、金属部材101として、アセトンで表面を脱脂処理したアルミA5052を用意した。
図2(b)において、金属部材101に対して、20mm×20mmの範囲にパルスレーザを照射した。パルスレーザ照射には、オムロン株式会社製のMX-Z2000H(波長:1,062nm、レーザのスポット径:約45μm)を用いた。このとき、隣り合うレーザのスポットが隣接するように、言い換えれば、レーザのスポット径に対して1.0倍の間隔になるように、周波数及び速度を調整した。照射するレーザのエネルギー密度は、20 J/cmとし、照射箇所には第一凹部103と樹状構造部104とが形成された。
図2(c)において、金属部材101の表面には、レーザ照射によって第一凹部103が形成され、その幅は約50μmで、深さは約10μmであった。また、樹状構造部104は、厚みが200nm程度であり、レーザを照射した20mm×20mmの範囲全面に形成されていた。
その後、図2(d)において、レーザを照射した金属部材101の表面に、液状のエポキシ樹脂(菱電化成株式会社製)をφ5mmの円柱状にポッティングし、180℃で加熱硬化させることで樹脂部材102を形成し、接合体100を得た。図9(a)は、実施例として作製した接合体の断面SEM像である。
【0022】
得られた接合体に対して、初期の接着強度試験及び疲労強度試験を実施した。初期の接着強度試験では、接合体100の接合界面から樹脂部材102側へ1mmの高さの部位を、1mm/秒の速度で接合面と平行の方向に負荷を加え、せん断強度を評価した。結果、せん断接合強度は、28.9MPaであった。また、破断箇所は、樹脂部材102であった。
次に、疲労強度試験では、接合体の接合界面から樹脂部材102側へ1mmの高さの部位に対して、応力振幅2.8MPaの荷重を負荷し、疲労強度を評価した。結果、接合体の破断サイクル数は、4.9×10サイクルであった。また、破断箇所は、樹脂部材102であった。
【0023】
<比較例>
比較例の構成を、図2(a)~(d)に沿って説明する。
図2(a)において、金属部材101として、アセトンで表面を脱脂処理したアルミA5052を用意した。
図2(b)において、金属部材101に対して、20mm×20mmの範囲にパルスレーザを照射した。パルスレーザ照射には、オムロン株式会社製のMX-Z2000H(波長:1,062nm、レーザのスポット径:約45μm)を用いた。このとき、隣り合うレーザのスポットが隣接するように、言い換えれば、レーザのスポット径に対して1.0倍の間隔になるように、周波数及び速度を調整した。照射するレーザのエネルギー密度は、50 J/cmとし、同一箇所に10回照射した。照射箇所には、樹状構造部104は形成されず、第一凹部103のみが形成された。
図2(c)において、金属部材101の表面には、レーザ照射によって第一凹部103が形成され、その幅は約50μmで、深さは約70μmであった。
その後、図2(d)において、レーザを照射した金属部材101の表面に、液状のエポキシ樹脂(菱電化成株式会社製)をφ5mmの円柱状にポッティングし、180℃で加熱硬化させることで樹脂部材102を形成し、接合体100を得た。図9(b)は、比較例として作製した接合体の断面SEM像である。
【0024】
得られた接合体に対して、初期の接着強度試験及び疲労強度試験を実施した。初期の接着強度試験では、接合体の接合界面から樹脂部材102側へ1mmの高さの部位を、1mm/秒の速度で接合面と平行の方向に負荷を加え、せん断強度を評価した。結果、せん断接合強度は、32.2MPaであった。また、破断箇所は、樹脂部材102であった。
次に、疲労強度試験では、接合体の接合界面から樹脂部材102側へ1mmの高さの部位に対して、応力振幅2.8MPaの荷重を負荷し、疲労強度を評価した。結果、接合体の破断サイクル数は、1.0×10サイクルであった。また、破断箇所は、金属部材101と樹脂部材102との接合界面であった。
【0025】
したがって、疲労強度試験結果の比較から、実施例として作製した接合体は、比較例として作製した接合体に比べて破断サイクル数が約5倍多く、疲労寿命が長いことが分かった。また、実施例として作製した接合体の破断箇所が樹脂部材102であったのに対して、比較例として作製した接合体の破断箇所は金属部材101と樹脂部材102との接合界面であることが分かった。したがって、実施の形態1を適用することによって、高強度で長期の耐久性を有する樹脂金属接合体を得られることが示された。
【0026】
以上の通り、実施の形態1における樹脂金属接合体においては、金属部材101と、金属部材101と接合する樹脂部材102と、を備え、金属部材101は樹脂部材102との接合面に樹状構造部104を有し、樹状構造部104の少なくとも一部の直径はナノメートルオーダーであり、樹脂部材102は樹状構造部104に含浸している、という特徴を備える。
【0027】
このような構成によれば、金属部材101に形成されたナノメートルオーダーの樹状構造部104と樹脂部材102との接触面積を十分に確保できるため、金属部材101と樹脂部材102とが強固に接合した接合体100を得ることができる。
【0028】
また、実施の形態1における接合体100の製造方法においては、金属部材101の表面に第一凹部103と少なくとも一部の直径がナノメートルオーダーの樹状構造部104とを形成する表面加工工程と、樹状構造部104に樹脂部材102を含浸し、金属部材101と樹脂部材102とを接合する接合工程と、を備える。
【0029】
このような構成によれば、金属部材101に形成されたナノメートルオーダーの樹状構造部104と樹脂部材102との接触面積を十分に確保し、金属部材101と樹脂部材102とが強固に接合した接合体100の製造方法を提供できる。
【0030】
実施の形態2.
図10は、実施の形態2に係る接合体110の断面模式図である。
図10に示すように、接合体110は、金属部材101と樹脂部材102との接合体であり、接合部の金属部材101の表面には、第一凹部103に加え、第二凹部111が形成されている点で、実施の形態1と異なる。他の構成は、実施の形態1と同様である。
第一凹部103は、実施の形態1と同様に、樹脂部材102と接合する面に複数形成されており、それぞれの第一凹部103の表面には樹状構造部104が形成されている。第二凹部111は、樹脂部材102と接合する面に複数形成され、深さは第一凹部103よりも深く形成されており、アンカー効果によって金属部材101と樹脂部材102とをより強固に接合している。尚、第二凹部111の深さは第一凹部103よりも深ければ特に限定されないが、50μm以上がより好ましい。一方、第二凹部111の表面には樹状構造部104は形成されていない。金属部材101の表面に形成される第一凹部103と第二凹部111との存在比率は、特に限定されないが、好ましくは50%ずつ程度である。また、金属部材101の表面に形成される第一凹部103と第二凹部111との位置関係は、特に限定しないが、第一凹部103と第二凹部111との両方が金属部材101の表面に偏りなく形成されていることが好ましく、第一凹部103と第二凹部111とが交互に形成された位置関係がより好ましい。
【0031】
このように構成された接合体110においては、樹脂部材102が、第一凹部103に形成された樹状構造部104に含浸することによって、樹脂部材102と樹状構造部104との接触面積を十分に確保できる。また、樹脂部材102を構成する分子と樹状構造部104を構成する分子とがナノメートルオーダーで近接することで分子間力が働くため、樹脂部材102と樹状構造部104とが強固に接合される。さらに、接合体110では、第一凹部103よりも深さが深い第二凹部111に樹脂部材102が入り込むことによるアンカー効果を得られるため、金属部材101と樹脂部材102とが、より強固に接合される。
【0032】
以上のように、実施の形態2に示した構成により、実施の形態1と同様の効果に加え、第一凹部103よりも深い第二凹部111に樹脂部材102が入り込むことでアンカー効果を得られるため、より強固に接合された樹脂金属接合体を得ることができる。
【0033】
次に、実施の形態2に係る製造過程を示す。
実施の形態2に係る接合体の製造過程は、実施の形態1で示した表面加工工程において、金属部材101の表面に第一凹部103及び樹状構造部104に加え第二凹部111を形成する点が、実施の形態1と異なる。他の工程は、実施の形態1と同様である。
第二凹部111は、金属部材101の表面にレーザを繰り返し照射することによって、第一凹部103よりも深く、好ましくは50μm以上の深さまで形成する。照射するレーザは、特に限定されないが、第一凹部103及び樹状構造部104の形成に使用するレーザと同様のパルスレーザが好ましい。
尚、第一凹部103及び樹状構造部104の形成方法は、実施の形態1と同様であるため、説明は省略する。また、第一凹部103及び樹状構造部104の形成と第二凹部111の形成と順番は、どちらが先であっても良い。
【0034】
以上のようにして得られた、樹状構造部104を有する第一凹部103及び第二凹部111が形成された金属部材101の接合面に対して、実施の形態1で示した接合工程を適用することによって樹脂部材102を接合し、接合体110を得ることができる。
【0035】
次に、実施の形態2で得られた金属部材101の表面及び断面を観察した結果を、図11及び図12に示す。
図11は、実施の形態2に係る金属部材101の表面のSEM像である。図11では、第一凹部103と第二凹部111とが、互いに隣同士で重ならずに接し、隙間なく並んで形成された例を示す。これは、第一凹部103と第二凹部111と形成するために照射するレーザのスポット径を同一にし、スポット径の2倍の長さだけ離して第一凹部103及び第二凹部111を形成することで得られる。
図12は、実施の形態2に係る金属部材101の第一凹部103の断面のTEM像である。これは、より具体的には、図11において破線で示した四角形の領域における断面を示したものである。第一凹部103の表面には、第一凹部103の表面から数100nm程度の厚みを有する樹状構造部104が形成されていることが確認できる。
【0036】
次に、実施の形態2の実施例として作製した接合体を用いた接合強度の評価結果を示す。
<実施の形態2の実施例>
実施の形態2の実施例の構成を、図示はしないが、実施の形態1の実施例と同様の流れに沿って説明する。
まず、金属部材101として、アセトンで表面を脱脂処理したアルミA5052を用意した。
次に、金属部材101に対して、樹状構造部104を有する第一凹部103及び第二凹部111を形成した。第二凹部111を形成するために、金属部材101に対して、20mm×20mmの範囲にパルスレーザを照射した。パルスレーザ照射には、オムロン株式会社製のMX-Z2000H(波長:1,062nm、レーザのスポット径:約45μm)を用いた。このとき、レーザによって形成されるスポットが、レーザのスポット径の2倍の間隔で隣り合うように形成されるよう、周波数及び速度を調整した。照射するレーザのエネルギー密度は、200 J/cmとし、照射箇所に深さ約50μmの第二凹部111が形成された。続いて、第二凹部111を形成した金属部材101に対して、パルスレーザを照射した。このとき、隣り合うレーザのスポットが第二凹部111に重ならない間隔になるよう、周波数及び速度を調整した。照射するレーザのエネルギー密度は、20 J/cmとし、照射箇所には樹状構造部104を有する第一凹部103が形成された。
レーザ照射による表面加工の結果、金属部材101の表面には、樹状構造部104を有する第一凹部103と第二凹部111とが交互に形成された。第一凹部103と第二凹部111との幅は約50μmで、第一凹部103の深さは約10μmであった。また、樹状構造部104は、厚みが200nm程度であった。
続いて、表面加工した金属部材101の表面に、液状のエポキシ樹脂(菱電化成株式会社製)をφ5mmの円柱状にポッティングし、180℃で加熱硬化させることで樹脂部材102を形成し、接合体110を得た。
【0037】
得られた接合体に対して、初期の接着強度試験を実施した。初期の接着強度試験では、接合体110の接合界面から樹脂部材102側へ1mmの高さの部位を、1mm/秒の速度で接合面と平行の方向に負荷を加え、せん断強度を評価した。結果、せん断接合強度は、33.0MPaであった。また、破断箇所は、樹脂部材102であった。
【0038】
したがって、実施の形態2の実施例で作製した接合体は、実施の形態1の実施例と同様、実施の形態1の比較例で作製した接合体に比べ、初期の接合強度が高いことが分かった。よって、実施の形態2を適用することによって、実施の形態1と同様に高強度で長期の耐久性を有しつつ、初期の接合強度もより高い樹脂金属接合体を得られることが示された。
【0039】
以上の通り、実施の形態2における樹脂金属接合体においては、実施の形態1の構成に加え、金属部材101は、樹脂部材102との接合面に凹部を有し、凹部は、表面に樹状構造部104を有する第一凹部103と、第一凹部103よりも深い第二凹部111とを含み、第一凹部103と第二凹部111とは、交互に形成された位置関係である、という特徴を備える。
【0040】
このような構成によれば、金属部材101に形成されたナノメートルオーダーの樹状構造部104と樹脂部材102との接触面積を十分に確保できることに加え、第一凹部103よりも深い第二凹部111に樹脂部材102が入り込む。よって、実施の形態1と同様の効果に加え、第二凹部111によるアンカー効果を得られるため、金属部材101と樹脂部材102とがより強固に接合した接合体110を得ることができる。
【0041】
実施の形態3.
図13は、実施の形態3に係る接合体120の断面模式図である。
図13に示すように、接合体120は、金属部材接合部の金属部材101の表面に第三凹部121が形成され、樹状構造部104を有する第一凹部103が第三凹部121の表面に形成されている点で、実施の形態1と異なる。他の構成は、実施の形態1と同様である。
第三凹部121は、金属部材101の表面に対して傾きを有して形成され、深さが第一凹部103よりも深く、第三凹部121の表面には、第一凹部103が形成されている。また、実施の形態1と同様、第一凹部103の表面には樹状構造部104が形成されている。さらに、第三凹部121は、金属部材101の表面の樹脂部材102と接合する面に複数形成されている。尚、第三凹部121の深さは、第一凹部103よりも深ければ特に限定されないが、50μm以上が好ましい。また、第三凹部121の表面積に対する第一凹部103の存在比率は、特に限定されないが、10%以上が好ましい。さらに、金属部材101の表面に対する第三凹部121の傾きは、特に限定しないが、第三凹部121の表面に第一凹部103を形成することから、90度未満が好ましい。
【0042】
このように構成された接合体120においては、金属部材101の表面に対して傾いて形成され、第一凹部103よりも深い第三凹部121に、樹脂部材102が入り込むことによるアンカー効果を得られる。さらに、アンカー効果をもたらしている第三凹部121の表面において、樹状構造部104を有する第一凹部103が形成され、樹脂部材102が樹状構造部104に含浸することによって、接触面積を十分に確保できる。したがって、樹脂部材102と樹状構造部104との接合によって、より強固なアンカー効果を得られるため、樹状構造部104を有さない場合に比べ、金属部材101と樹脂部材102とがより強固に接合される。
【0043】
以上のように、実施の形態3に示した構成により、第三凹部121の表面において樹脂部材102と樹状構造部104との接触面積が十分に確保され、より強固なアンカー効果を得られるため、従来のアンカー効果に比べより強固に接合された樹脂金属接合体を得ることができる。
【0044】
次に、実施の形態3に係る製造過程を示す。
実施の形態3に係る接合体の製造過程は、実施の形態1で示した表面加工工程において、金属部材101の表面に第三凹部121を形成し、さらに第三凹部121の表面に第一凹部103及び樹状構造部104を形成する点が、実施の形態1と異なる。他の工程は、実施の形態1と同様である。
第三凹部121は、金属部材101の表面にレーザを繰り返し照射することによって、第一凹部103よりも深い深さまで形成する。照射するレーザの角度は、金属部材101の表面に対して傾きを有していれば特に限定されないが、45度程度が好ましい。また、照射するレーザは、特に限定されないが、第一凹部103及び樹状構造部104の形成に使用するレーザと同様のパルスレーザが好ましい。
金属部材101の表面に第三凹部121を形成した後、第三凹部121に対してパルスレーザを照射し、樹状構造部104を有する第一凹部103を形成する。尚、第一凹部103及び樹状構造部104の形成方法は、実施の形態1と同様であるため、説明は省略する。
【0045】
以上のようにして得られた、第三凹部が形成された金属部材101の接合面に対して、実施の形態1で示した接合工程を適用することによって樹脂部材102を接合し、接合体120を得ることができる。
【0046】
次に、実施の形態3で得られた金属部材101の表面の断面を観察した結果を、図14及び図15に示す。
図14は、実施の形態3で得られた金属部材101の表面の断面のSEM像である。より具体的には、表面に対して45度の角度で深さ50μmの第三凹部121を形成し、第三凹部121の表面には樹状構造部104を有する第一凹部103を形成した、金属部材101の表面の断面のSEM像である。
図15は、実施の形態3で得られた金属部材101の第一凹部103の断面のTEM像である。これは、より具体的には、図14でにおいて破線で示した四角形の領域における断面を示したものである。第一凹部103の表面には、第一凹部103の表面から数100nm程度の厚みを有する樹状構造部104が形成されていることが確認できる。
【0047】
次に、実施の形態3の実施例として作製した接合体の接合強度の評価結果を示す。
<実施の形態3の実施例>
実施の形態3の実施例の構成を、図示はしないが、実施の形態1の実施例と同様の流れに沿って説明する。
まず、金属部材101として、アセトンで表面を脱脂処理したアルミA5052を用意した。
次に、金属部材101に対して、第三凹部121を形成し、樹状構造部104を有する第一凹部103を第三凹部121の表面に形成した。第三凹部121を形成するために、金属部材101をレーザに対して45度の角度で設置し、20mm×20mmの範囲にパルスレーザを照射した。パルスレーザ照射には、オムロン株式会社製のMX-Z2000H(波長:1,062nm、レーザのスポット径:約45μm)を用いた。このとき、隣り合うレーザのスポットが隣接するように、周波数及び速度を調整した。照射するレーザのエネルギー密度は、200 J/cmとし、照射箇所には深さ約50μmの第三凹部121が形成された。続いて、第三凹部121の表面に対し、パルスレーザを照射した。このとき、隣り合うレーザのスポットが隣接するように、周波数及び速度を調整した。照射するレーザのエネルギー密度は、20 J/cmとし、第三凹部121の表面への照射箇所には樹状構造部104を有する第一凹部103が形成された。
レーザ照射による表面加工の結果、金属部材101の表面には、第三凹部121が形成され、さらに第三凹部121の表面には、樹状構造部104を有する第一凹部103が形成された。第一凹部103の深さは、実施の形態1の実施例及び実施の形態2の実施例と同様に、約10μmであった。また、樹状構造部104は、厚みが200nm程度であった。
続いて、表面加工した金属部材101の表面に、液状のエポキシ樹脂(菱電化成株式会社製)をφ5mmの円柱状にポッティングし、180℃で加熱硬化させることで樹脂部材102を形成し、接合体120を得た。
【0048】
得られた接合体に対して、初期の接着強度試験を実施した。初期の接着強度試験では、接合体120の接合界面から樹脂部材102側へ1mmの高さの部位を、1mm/秒の速度で接合面と平行の方向に負荷を加え、せん断強度を評価した。結果、せん断接合強度は、32.8MPaであった。また、破断箇所は、樹脂部材102であった。
【0049】
したがって、実施の形態3の実施例で作製した接合体は、実施の形態1の実施例と同様、実施の形態1の比較例で作製した接合体に比べ、初期の接合強度が高いことが分かった。よって、実施の形態3を適用することによって、実施の形態1と同様に高強度で長期の耐久性を有しつつ、初期の接合強度もより高い樹脂金属接合体を得られることが示された。
【0050】
尚、実施の形態3に係る製造過程においては、第三凹部121が金属部材101の表面に対して45度の傾きである場合、つまり斜めに傾いた場合を示したが、金属部材101の表面に対して90度の場合、つまり垂直の場合であっても良い。第三凹部121が、金属部材101の表面に対して垂直の場合は、斜めに傾いた場合に比べて第三凹部121のより深い表面に樹状構造部104を有する第一凹部103が形成されるが、樹脂部材102が樹状構造部104に含侵することによって同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、金属部材101の表面に対する傾きが90度である第三凹部121の形成方法は、実施の形態3で上述した形成方法において、第三凹部121を形成する際のレーザの照射角度を、金属部材101の表面に対して90度に設定することによって、形成することができる。まず、金属部材101の表面に対する傾きが90度である第三凹部121を形成し、形成された第三凹部121の表面に対してレーザ照射することによって、樹状構造部104を有した第一凹部103が表面に形成される。このようにして、表面に対して90度に第三凹部121が形成された金属部材101を得ることができる。続けて、他の実施の形態と同様に、金属部材101の表面に樹脂部材102を形成することによって、金属部材101の表面に対する傾きが90度である第三凹部121を有した、接合体120を得ることができる。
【0052】
以上の通り、実施の形態3における樹脂金属接合体においては、実施の形態1の構成に加え、金属部材101は、樹脂部材102との接合面に凹部を有し、凹部は、金属部材101の表面に対して傾きを有して形成された第三凹部121と、第三凹部121の表面に形成された第一凹部103とを含み、第一凹部103の表面は、樹状構造部104が形成されている、という特徴を備える。
【0053】
このような構成によれば、金属部材101に形成された第三凹部121に樹脂部材102が入り込むことに加え、第一凹部103の表面に形成されたナノメートルオーダーの樹状構造部104と樹脂部材102との接触面積を十分に確保できる。よって、より強固に接合されたアンカー効果を得られるため、金属部材101と樹脂部材102とがより強固に接合した接合体120を得ることができる。
【0054】
実施の形態4.
図16は、実施の形態4に係る半導体装置200の断面模式図である。
図16に示すように、半導体装置200では、絶縁基板207に半導体素子201が搭載されており、絶縁基板207の半導体素子201が搭載されている面の反対側の面は、ヒートスプレッダ209と接合している。
半導体素子201は、例えばシリコン(Si)やシリコンカーバイト(SiC)、または窒化ガリウム(GaN)などの半導体基板に、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)やダイオード(Di)などが形成されている。ただし、半導体素子201は、上記の構成に限定されず、例えば、絶縁ゲート電界効果トランジスタ(MOSFET)や高電子移動度トランジスタ(HEMT)であってもよい。また、半導体素子201は複数個で構成されていてもよく、複数種類の半導体素子が搭載されていてもよい。絶縁基板207の表面には、金属部材によって形成された導電層208を備えており、半導体素子201は、はんだ206によって導電層208に接合されている。絶縁基板207は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)で構成される。半導体素子201が搭載された絶縁基板207には、樹脂ケース205が固定されている。樹脂ケース205には、金属部材によって形成された電極端子203が装着されている。樹脂ケース205は、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(Poly Phenylene Sulfide Resin)によって形成される。電極端子203と金属部材によって形成された表面電極210とは、ワイヤ202によって電気的に接続される。ワイヤ202は、例えば、Au、Alなどの導電性の金属部材が用いられたワイヤであり、ワイヤボンディングにより電極端子203と表面電極210とを接続する。ここで、表面電極210、電極端子203及び導電層208の表面の少なくとも一部に、第一凹部103が形成され、第一凹部103の表面には樹状構造部104が形成されている。第一凹部103は、最底部までの深さが100nmより深く、10μmより浅い範囲が好ましく、第一凹部103の幅に対する深さの比は、0.002以上0.2以下であることが好ましい。また、樹状構造部104の厚みは、第一凹部103の幅に対して、1000分の1以上100分の1以下の範囲内であり、さらに、第一凹部103の深さの100分の1以上10分の1以下の厚さの範囲であることが好ましい。さらに、半導体装置200は、封止樹脂として樹脂部材204によって封止されている。樹脂部材204は、表面電極210、電極端子203及び導電層208の表面の少なくとも一部に形成された樹状構造部104に含浸し、樹脂金属接合体を形成している。
【0055】
このように構成された半導体装置は、樹脂部材204が樹状構造部104に含浸することによって、樹脂部材204と樹状構造部104との接触面積を十分に確保できる。また、樹脂部材204を構成する分子と樹状構造部104を構成する分子とがナノメートルオーダーで近接することで分子間力が働くため、樹脂部材204と樹状構造部104とが強固に接合される。
【0056】
以上のように、実施の形態4に示した構成により、アンカー効果を得るための構造形成に伴う生産性の低下を抑制しつつ、機能性分子等を用いずに、高強度で長期の耐久性を有する樹脂封止を備えた半導体装置を得ることができる。
【0057】
次に、上述した半導体装置200の製造方法の一例を示す。
まず、絶縁基板207を用意する。絶縁基板207の表面には金属部材によって形成された導電層208を備える。導電層208の上に、はんだ206を介して半導体素子201を配置し、リフロー処理によって半導体素子201を導電層208に接合する。これにより、半導体素子201と導電層208とが電気的に接続される。ここで、半導体素子201は、金属部材によって形成された表面電極210にあらかじめ第一凹部103及び樹状構造部104を形成しているものを用いても良い。第一凹部103及び樹状構造部104の形成は、パルスレーザの照射が好ましい。また、熱によって第一凹部103及び樹状構造部104の形状が変形などの影響を受けることを避けるために、パルス幅はできるだけ短い方が好ましい。具体的には、パルス幅が10ns以下であることが好ましい。パルスレーザの波長は特に限定されないが、金属の加工に適した波長の例としては、200nm以上10,000nm以下の波長が好ましく、さらには、400nm以上2,000nm以下の波長がより好ましい。また、単位面積あたりに照射するパルスレーザのエネルギー密度は、0.5J/cm以上50J/cm以下の範囲が好ましい。さらには、5J/cm以上30J/cm以下の範囲がより好ましい。5J/cm未満の場合、供給するエネルギー量が少なく、第一凹部103及び樹状構造部104が形成されない。一方、30J/cmを超える場合、供給するエネルギーが過多となるため樹状構造部104が溶融してしまい、第一凹部103が形成されるのみになる。また、必要に応じてN、ArまたはHeなどの気体雰囲気中でレーザ照射しても良い。不活性ガスの雰囲気下でレーザ照射することで、例えば、表面電極210や第一凹部103や樹状構造部104の酸化を抑制することができるため、レーザ照射後の表面電極210や第一凹部103や樹状構造部104の濡れ性の制御にも適用可能である。さらに、冷却を目的に、不活性ガスを流しながらレーザ照射することも可能である。さらに、表面電極210の他に導電層208に対して上述したパルスレーザを照射し、導電層208の表面に第一凹部103及び樹状構造部104を形成しても良い。
【0058】
次に、金属部材によって形成された電極端子203と半導体素子201とを金属部材によって形成されたワイヤ202によって電気的に接続する。ワイヤ202は、例えば、ワイヤボンディング装置によって、電極端子203と半導体素子201と接合する。また、電極端子203と導電層208とについても、同様にワイヤ202によって電気的に接続する。尚、ワイヤ202は、上述したパルスレーザ照射により、第一凹部103及び樹状構造部104を予め形成したものを用いても良い。
【0059】
次に、樹脂部材204によって、絶縁基板207及び絶縁基板207上に搭載した半導体素子201などを封止する。樹脂部材204としては、例えば、エポキシ樹脂などの液状の封止材を用い、絶縁基板207上に搭載した半導体素子201及びワイヤ202が浸漬されるまで樹脂ケース205内に流し込み、熱処理することで硬化させる。
【0060】
以上により、金属部材によって形成された表面電極210、導電層208、電極端子203及びワイヤ202の少なくとも一部に第一凹部103及び樹状構造部104が形成され、第一凹部103及び樹状構造部104が形成された部分と樹脂部材204とが強固に接合される。
【0061】
したがって、実施の形態4における半導体装置においては、表面電極、導電層、電極端子又はワイヤが樹脂部材によって樹脂封止された半導体装置であって、表面電極、導電層、電極端子又はワイヤ樹脂部材との接合体の少なくとも一部は、実施の形態1に記載の接合体を備える。
【0062】
このような構成によれば、金属部材によって形成された表面電極210、導電層208、電極端子203及びワイヤ202に設けられたナノメートルオーダーの樹状構造部104と樹脂部材204との接触面積を十分に確保できるため、表面電極210、導電層208、電極端子203及びワイヤ202と樹脂部材204とが強固に接合した接合体を備えた、半導体装置200を得ることができる。
【0063】
尚、今回示した実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。例えば、樹脂部材204による封止直前に、表面電極210、導電層208、電極端子203、及びワイヤ部材の少なくとも一部にパルスレーザを照射することによって、第一凹部103及び樹状構造部104を形成し、半導体装置200を作製しても良い。
【0064】
さらに、本開示は、上述した半導体装置への適用に限らず、樹脂金属接合が用いられる分野に広く適用可能な技術である。例えば、樹脂金属接合が適用されるものとしては、車両用部品、電鉄用部品、昇降機用部品、航空機用部品、人工衛星用部品、光通信用部品、産業用ロボット部品、発電機用部品、空調冷熱機器用部品及び家電機器用部品などが挙げられる。
【符号の説明】
【0065】
100 接合体
101 金属部材
102 樹脂部材
103 第一凹部
104 樹状構造部
110 接合体
111 第二凹部
120 接合体
121 第三凹部
200 半導体装置
201 半導体素子
202 ワイヤ
203 電極端子
204 樹脂部材
205 樹脂ケース
206 はんだ
207 絶縁基板
208 導電層
209 ヒートスプレッダ
210 表面電極
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