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  • 特許-超硬合金および切削工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】超硬合金および切削工具
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20241119BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241119BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20241119BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20241119BHJP
   C22C 1/051 20230101ALN20241119BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
B23B51/00 M
B23C5/16
C22C1/051 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023577963
(86)(22)【出願日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2023027733
【審査請求日】2024-07-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 好博
(72)【発明者】
【氏名】城戸 保樹
(72)【発明者】
【氏名】パサート アノンサック
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/116614(WO,A1)
【文献】特開2022-109485(JP,A)
【文献】特開2005-068515(JP,A)
【文献】特許第7311826(JP,B1)
【文献】特開2000-336451(JP,A)
【文献】国際公開第2022/172729(WO,A1)
【文献】特開2016-020540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04- 1/059
C22C 29/00-29/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金であって、
前記超硬合金は、前記炭化タングステン粒子および前記結合相を合計で80体積%以上含み、
前記超硬合金は、前記結合相を0.1体積%以上20体積%以下含み、
前記超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、セリウム、イットリウムおよび硼素からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1元素を含み、
前記超硬合金は、前記第1元素を合計で0.01原子%以上20原子%以下含み、
前記結合相は、コバルトを50質量%以上含み、
互いに隣接する前記結合相から前記炭化タングステン粒子に向かう第1方向に沿って、透過型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分光装置を用いてライン分析を行って得られた結果を、X軸がコバルトが最大強度を示す位置からの距離、かつ、Y軸が規格化された強度である座標系に示した第1グラフにおいて、
原点に最も近いタングステンのピークW1と、前記ピークW1に最も近いタングステンの他のピークW2との間に、前記第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在し、
前記第1元素のそれぞれにおいて、前記最大ピークMの最大ピーク強度IAに対する、強度IBの割合IB/IAは、0.5超であり、
前記強度IBは、前記最大ピーク強度IAの距離P1から、前記原点と反対側への距離が0.2nmである距離P2における前記第1元素の強度である、超硬合金。
【請求項2】
前記超硬合金は、前記結合相を18体積%以下含む、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の超硬合金からなる刃先を備える、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金および切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭化タングステン(WC)粒子と、コバルト等を主成分とする結合相とを備える超硬合金が、切削工具の素材に利用されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-098393号公報
【文献】特開2021-110010号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の超硬合金は、
複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金であって、
前記超硬合金は、前記炭化タングステン粒子および前記結合相を合計で80体積%以上含み、
前記超硬合金は、前記結合相を0.1体積%以上20体積%以下含み、
前記超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、セリウム、イットリウムおよび硼素からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1元素を含み、
前記超硬合金は、前記第1元素を合計で0.01原子%以上20原子%以下含み、
前記結合相は、コバルトを50質量%以上含み、
互いに隣接する前記結合相から前記炭化タングステン粒子に向かう第1方向に沿って、透過型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分光装置を用いてライン分析を行って得られた結果を、X軸がコバルトが最大強度を示す位置からの距離、かつ、Y軸が規格化された強度である座標系に示した第1グラフにおいて、
原点に最も近いタングステンのピークW1と、前記ピークW1に最も近いタングステンの他のピークW2との間に、前記第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在し、
前記第1元素のそれぞれにおいて、前記最大ピークMの最大ピーク強度IAに対する、強度IBの割合IB/IAは、0.5超であり、
前記強度IBは、前記最大ピーク強度IAの距離P1から、前記原点と反対側への距離が0.2nmである距離P2における前記第1元素の強度である、超硬合金である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施形態1に係る超硬合金の模式的断面図である。
図2図2は、実施形態1に係る超硬合金の第1グラフの一例を示す。
図3図3は、実施形態2に係る切削工具の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、コスト削減の観点から、各種切削加工において、工具寿命の向上が求められている。高硬度材の切削加工に用いられる切削工具においても、工具寿命の向上が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、工具材料として用いた場合に、特に高硬度材の切削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することのできる超硬合金、ならびに、長い工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、切削工具の材料として用いられた場合に、特に高硬度材の切削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することのできる超硬合金、および、長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の超硬合金は、
複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金であって、
前記超硬合金は、前記炭化タングステン粒子および前記結合相を合計で80体積%以上含み、
前記超硬合金は、前記結合相を0.1体積%以上20体積%以下含み、
前記超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、セリウム、イットリウムおよび硼素からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1元素を含み、
前記超硬合金は、前記第1元素を合計で0.01原子%以上20原子%以下含み、
前記結合相は、コバルトを50質量%以上含み、
互いに隣接する前記結合相から前記炭化タングステン粒子に向かう第1方向に沿って、透過型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分光装置を用いてライン分析を行って得られた結果を、X軸がコバルトが最大強度を示す位置からの距離、かつ、Y軸が規格化された強度である座標系に示した第1グラフにおいて、
原点に最も近いタングステンのピークW1と、前記ピークW1に最も近いタングステンの他のピークW2との間に、前記第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在し、
前記第1元素のそれぞれにおいて、前記最大ピークMの最大ピーク強度IAに対する、強度IBの割合IB/IAは、0.5超であり、
前記強度IBは、前記最大ピーク強度IAの距離P1から、前記原点と反対側への距離が0.2nmである距離P2における前記第1元素の強度である、超硬合金である。
【0010】
本開示によれば、切削工具の材料として用いられた場合に、特に高硬度材の切削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することのできる超硬合金、および、長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0011】
(2)上記(1)において、前記超硬合金は、前記結合相を18体積%以下含んでもよい。これによると、工具寿命がさらに向上する。
【0012】
(3)本開示の切削工具は、上記(1)または(2)に記載の超硬合金からなる刃先を備える切削工具である。
【0013】
本開示の切削工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の超硬合金および切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0015】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0016】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0017】
本開示において、数値範囲の下限及び上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0018】
[実施形態1:超硬合金]
本開示の一実施形態(以下、「実施形態1」とも記す。)に係る超硬合金は、
複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金であって、
該超硬合金は、該炭化タングステン粒子および該結合相を合計で80体積%以上含み、
該超硬合金は、該結合相を0.1体積%以上20体積%以下含み、
該超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、セリウム、イットリウムおよび硼素からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1元素を含み、
該超硬合金は、該第1元素を合計で0.01原子%以上20原子%以下含み、
該結合相は、コバルトを50質量%以上含み、
互いに隣接する該結合相から該炭化タングステン粒子に向かう第1方向に沿って、透過型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分光装置を用いてライン分析を行って得られた結果を、X軸がコバルトが最大強度を示す位置からの距離、かつ、Y軸が規格化された強度である座標系に示した第1グラフにおいて、
原点に最も近いタングステンのピークW1と、該ピークW1に最も近いタングステンの他のピークW2との間に、該第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在し、
該第1元素のそれぞれにおいて、該最大ピークMの最大ピーク強度IAに対する、強度IBの割合IB/IAは、0.5超であり、
該強度IBは、該最大ピーク強度IAの距離P1から、該原点と反対側への距離が0.2nmである距離P2における該第1元素の強度である、超硬合金である。
【0019】
実施形態1の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、特に高硬度材の切削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することのできる超硬合金、ならびに、長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。この理由は明らかではないが、以下の通りと推察される。
【0020】
実施形態1の超硬合金は、複数の炭化タングステン粒子(以下、「WC粒子」とも記す。)と、結合相と、を備え、超硬合金のWC粒子および結合相の合計含有率は80体積%以上である。これによると、超硬合金は高い硬度および強度を有し、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有することができる。
【0021】
実施形態1の超硬合金は、結合相を0.1体積%以上20体積%以下含み、結合相はコバルトを50質量%以上含む。これによると、超硬合金は高い硬度および強度を有し、超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有することができる。
【0022】
実施形態1の超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、セリウム、イットリウムおよび硼素からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1元素を合計で0.01原子%以上20原子%以下含む。実施形態1の超硬合金に対してライン分析を行って得られた第1グラフにおいて、原点に最も近いタングステンのピークW1と、ピークW1に最も近いタングステンの他のピークW2との間に、第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在する。これは、炭化タングステン粒子の表層部分に、第1元素の最大濃度領域が存在することを示す。さらに、最大ピーク強度IAに対する、強度IBの割合IB/IAは、0.5超である。これは、第1元素が炭化タングステン粒子の内部深くまで侵入していることを示す。
【0023】
実施形態1の超硬合金では、第1元素が炭化タングステン粒子の内部深くまで侵入しているため、第1元素の存在は炭化タングステン粒子の物性に影響を及ぼし、炭化タングステン粒子の硬度が高くなると推察される。このため、実施形態1の超硬合金は、耐摩耗性が向上し、実施形態1の超硬合金を切削工具の材料として用いた場合、切削時に摩耗に起因する損傷の発生が抑制される。
【0024】
<超硬合金の組成>
図1に示されるように、実施形態1の超硬合金3は、複数の炭化タングステン粒子1(以下、「WC粒子」とも記す。)と、結合相2と、を備え、超硬合金3のWC粒子および結合相の合計含有率は80体積%以上である。該超硬合金のWC粒子および結合相の合計含有率の下限は、82体積%以上でもよく、84体積%以上でもよく、85体積%以上でもよく、86体積%以上でもよい。該超硬合金のWC粒子および結合相の合計含有率の上限は、100体積%以下でもよい。該超硬合金のWC粒子および結合相の合計含有率の上限は、製造上の観点から、99体積%以下でもよく、98体積%以下でもよい。該超硬合金のWC粒子および結合相の合計含有率は、80体積%以上100体積%以下でもよく、82体積%以上100体積%以下でもよく、84体積%以上100体積%以下でもよい。
【0025】
実施形態1の超硬合金は、複数の炭化タングステン粒子と、結合相とからなることができる。本実施形態の超硬合金は、炭化タングステン粒子および結合相に加えて、他の相を含むことができる。他の相としては、例えば、TiCN、TiC、TiO、TaC、Ta、ZrC、ZrO、CeC、CeO、YC、Y、BCおよびBからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる相が挙げられる。
【0026】
実施形態1の超硬合金は、炭化タングステン粒子と、結合相と、他の相とからなることができる。超硬合金の他の相の含有率は、本開示の効果を損なわない範囲において許容される。例えば、超硬合金の他の相の含有率は、0体積%以上20体積%以下でもよく、0体積%以上18体積%以下でもよく、0体積%以上16体積%以下でもよい。この場合、超硬合金のWC粒子および結合相の合計含有率は、80体積%以上100体積%未満でもよく、82体積%以上100体積%未満でもよく、84体積%以上100体積%未満でもよい。
【0027】
実施形態1の超硬合金は、不純物を含むことができる。該不純物としては、例えば、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、硫黄(S)、が挙げられる。超硬合金の不純物の含有率は、本開示の効果を損なわない範囲において許容される。例えば、超硬合金の不純物の含有率は、0質量%以上0.1質量%未満が好ましい。超硬合金の不純物の含有率は、ICP発光分析(Inductively Coupled Plasma Emission Spectroscopy(測定装置:島津製作所「ICPS-8100」(商標))により測定される。
【0028】
実施形態1の超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率の下限は、60体積%以上でもよく、65体積%以上でもよく、66体積%以上でもよく、68体積%以上でもよい。該超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率の上限は、99.9体積%以下でもよく、99.8体積%以下でもよく、99体積%以下でもよく、98体積%以下でもよく、96体積%以下でもよく、94体積%以下でもよい。該超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率は、60体積%以上99.9体積%以下でもよく、65体積%以上99.8体積%以下でもよく、66体積%以上99体積%以下でもよく、68体積%以上98体積%以下でもよい。
【0029】
実施形態1の超硬合金は、結合相を0.1体積%以上20体積%以下含む。該超硬合金の結合相の含有率の下限は、靱性向上の観点から、0.1体積%以上であり、1体積%以上でもよく、2体積%以上でもよく、3体積%以上でもよく、5体積%以上でもよく、8体積%以上でもよい。該超硬合金の結合相の含有率の上限は、硬度向上の観点から、20体積%以下であり、19体積%以下でもよく、18体積%以下でもよく、17体積%以下でもよく、16体積%以下でもよく、15体積%以下でもよい。該超硬合金の結合相の含有率は、0.1体積%以上18体積%以下でもよく、1体積%以上18体積%以下でもよく、3体積%以上17体積%以下でもよく、5体積%以上16体積%以下でもよく、8体積%以上15体積%以下でもよい。超硬合金の結合相の含有率が18体積%以下であると、超硬合金の硬度が更に向上し、耐摩耗性が更に向上するため、超硬合金を材料として用いた切削工具の工具寿命が更に向上する。
【0030】
超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率(体積%)および超硬合金の結合相の含有率(体積%)の測定方法は以下の通りである。
【0031】
(A1)超硬合金の任意の位置を切り出して断面を露出させる。該断面をクロスセクションポリッシャ(日本電子社製)により鏡面加工する。
【0032】
(B1)超硬合金の鏡面加工面に対して、走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)を用いて分析を行い(装置:Carl Zeiss社製 Gemini450(商標))、超硬合金に含まれる元素を特定する。
【0033】
(C1)超硬合金の鏡面加工面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影して反射電子像を得る。撮影画像の撮影領域は、超硬合金の断面の中央部、すなわち、超硬合金の表面近傍などバルク部分とは明らかに性状が異なる部分を含まない位置(撮像領域がすべて超硬合金のバルク部分となる位置)に設定する。観察倍率は5000倍である。測定条件は、加速電圧3kV、電流値2nA、ワーキングディスタンス(WD)5mmである。
【0034】
(D1)上記(C1)の撮影領域に対して、SEM付帯のエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)を用いて分析を行い、該撮影領域における上記(B1)で特定された元素の分布を特定し、元素マッピング像を得る。
【0035】
(E1)上記(C1)で得られた反射電子像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトウェア(OpenCV、SciPy)を用いて二値化処理を行う。二値化処理後の画像において、炭化タングステン粒子は白色で示され、結合相は灰色~黒色で示される。なお、二値化の閾値はコントラストにより変化するため、画像ごとに設定する。
【0036】
(F1)上記(D1)で得られた元素マッピング像と上記(E1)で得られた二値化処理後の画像とを重ねることにより、該二値化処理後の画像上で炭化タングステン粒子および結合相のそれぞれの存在領域を特定する。具体的には、二値化処理後の画像において白色で示され、元素マッピング像においてタングステン(W)および炭素(C)の存在する領域が、炭化タングステン粒子の存在領域に該当する。二値化処理後の画像において灰色~黒色で示され、元素マッピング像においてコバルト(Co)の存在する領域が、結合相の存在領域に該当する。
【0037】
(G1)上記二値化処理後の画像中に、24.9μm×18.8μmの矩形の1つの測定視野を設定する。上記画像解析ソフトウェアを用いて、該測定視野全体の面積を分母として炭化タングステン粒子および結合相のそれぞれの面積百分率を測定する。
【0038】
(H1)上記(G1)の測定を、5つの互いに重複しない異なる測定視野において行う。本明細書において、5つの測定視野における炭化タングステン粒子の面積百分率の平均が、超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率(体積%)に相当し、5つの測定視野における結合相の面積百分率の平均が、超硬合金の結合相の含有率(体積%)に相当する。
【0039】
超硬合金がWC粒子および結合相に加えて、他の相を含む場合は、超硬合金の他の相の含有率は、超硬合金全体(100体積%)から、上記の手順で測定された炭化タングステン粒子の含有率(体積%)および結合相の含有率(体積%)を減ずることにより得ることができる。
【0040】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所、上記(C1)に記載される撮影領域、上記(G1)に記載される測定視野を任意に設定し、上記の手順に従い、超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率および結合相の含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、超硬合金の断面の切り出し箇所、撮影領域、測定視野を任意に設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0041】
<炭化タングステン粒子>
実施形態1において、炭化タングステン粒子は、炭化タングステンと、第1元素とを含む。本開示において、炭化タングステン粒子が第1元素を含むことは、超硬合金に対してライン分析を行って得られた第1グラフにおいて、原点に最も近いタングステンのピークW1と、ピークW1に最も近いタングステンの他のピークW2との間に、第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在することを確認することにより示される。
【0042】
本開示の効果を損なわない限りにおいて、炭化タングステン粒子は、炭素、タングステンおよび第1元素以外の不純物元素を含むことができる。炭化タングステン粒子の不純物の含有率(不純物を構成する元素が2種類以上の場合は、それらの合計濃度。)は、0.1質量%未満である。炭化タングステン粒子の不純物元素の含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0043】
実施形態1において、炭化タングステン粒子の平均粒径は特に制限されない。炭化タングステン粒子の平均粒径は、例えば、0.1μm以上3.5μm以下とすることができる。実施形態1の超硬合金は、炭化タングステン粒子の平均粒径によらず、長い工具寿命を有することができることが確認されている。
【0044】
<結合相>
実施形態1において、結合相は、コバルトを50質量%以上含む。これによって、超硬合金に優れた靱性を付与することができる。結合相のコバルト含有率の下限は、55質量%以上でもよく、60質量%以上でもよく、65質量%以上でもよい。結合相のコバルト含有率の上限は100質量%以下でもよく、100質量%未満でもよく、99質量%以下でもよく、98質量%以下でもよく、95質量%以下でもよく、90質量%以下でもよい。結合相のコバルト含有率は、50質量%以上100質量%未満でもよく、60質量%以上99質量%以下でもよく、65質量%以上98質量%以下でもよく、65質量%以上95質量%以下でもよく、65質量%以上90質量%以下でもよい。
【0045】
結合相のコバルトの含有率の測定方法は、以下の通りである。上記の超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率および結合相の含有率の測定方法の(A1)~(F1)と同様の方法で、二値化処理後の画像上で結合相の存在領域を特定する。結合相の存在領域に対して、SEM-EDXを用いて分析を行い、結合相のコバルト含有率を測定する。
【0046】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所、上記(C1)に記載される撮影領域を任意に設定して、上記の手順に従い、結合相のコバルトの含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、超硬合金の断面の切り出し箇所および撮影領域を任意に設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0047】
実施形態1において、結合相は、コバルトに加えて、硼素(B)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、ゲルマニウム(Ge)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第2元素を含むことができる。該結合相は、コバルトと、第2元素と、不可避不純物と、からなることができる。該不可避不純物としては、例えば、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、硫黄(S)などが挙げられる。結合相の不可避不純物の含有率は0.1質量%未満である。結合相の不純物元素の含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0048】
<第1元素>
実施形態1の超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、セリウム、イットリウムおよび硼素からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1元素を含む。超硬合金の第1元素の合計含有率は、0.01原子%以上20原子%以下である。ここで、第1元素の合計含有率とは、超硬合金が1種類の第1元素を含む場合は、1種類の第1元素の含有率を意味し、超硬合金が2種類以上の第1元素を含む場合は、超硬合金に含まれるすべての第1元素の合計含有率を意味する。
【0049】
超硬合金の第1元素の合計含有率の下限は、硬度向上の観点から、0.01原子%以上であり、0.07原子%以上でもよく、0.09原子%以上でもよく、0.10原子%以上でもよく、0.50原子%以上でもよく、1.0原子%以上でもよく、3.0原子%以上でもよく、5.0原子%以上でもよく、7.0原子%以上でもよい。超硬合金の第1元素の含有率の上限は、超硬合金の基礎物性低下抑制の観点から、20.0原子%以下であり、17.0原子%以下でもよく、15.0原子%以下でもよく、14.0原子%以下でもよく、10.0原子%以下でもよい。超硬合金の第1元素の合計含有率は、0.07原子%以上17.0原子%以下でもよく、0.09原子%以上15.0原子%以下でもよく、0.10原子%以上15.0原子%以下でもよく、0.50原子%以上15.0原子%以下でもよく、1.0原子%以上14.0原子%以下でもよく、3.0原子%以上14.0原子%以下でもよく、5.0原子%以上10.0原子%以下でもよく、7.0原子%以上10.0原子%以下でもよい。
【0050】
超硬合金に含まれる第1元素の種類および超硬合金に含まれる第1元素の含有率は、ICP発光分析により特定される。
【0051】
<ライン分析>
実施形態1の超硬合金において、互いに隣接する結合相から炭化タングステン粒子に向かう第1方向に沿って、透過型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分光装置を用いてライン分析を行って得られた結果について、図2を用いて説明する。図2は、実施形態1の超硬合金に対して、超硬合金に含まれる元素であるタングステン、コバルトおよび第1元素(図2では、チタン)についてライン分析を行って得られた結果を、X軸がコバルトが最大強度を示す位置からの距離[nm]、かつ、Y軸が規格化された強度(規格化強度)[a.u.]である座標系に示した第1グラフの一例である。図2の第1グラフに示される超硬合金では、結合相はコバルトである。第1グラフにおいて、原点OはX軸の距離が0nmであり、ライン分析結果において、コバルトが最大強度を示す位置に該当する。規格化された強度とは、各元素の強度を、ライン分析が行われた領域内で最も大きい強度を100として、相対的に示した強度である。
【0052】
図2に示されるように、第1グラフの原点Oに最も近いタングステンのピークW1と、ピークW1に最も近いタングステンの他のピークW2との間に、第1元素の最大ピークMが存在する。他のピークW2は、ピークW1よりも原点Oから離れた位置に存在する。すなわち、ピークW1の最大ピーク強度Iw1での距離Pw1と、ピークW2の最大ピーク強度Iw2での距離Pw2と、最大ピークMの最大ピーク強度IAでの距離P1とは、Pw1<P1<Pw2の関係を示す。本開示において、第1グラフにおける各元素のピークのピーク強度とは、各元素のピークの規格化された強度を意味する。
【0053】
最大ピークMの最大ピーク強度IAに対する、強度IBの割合IB/IAは、0.5超である。強度IBは、最大ピーク強度の距離P1から、原点と反対側への距離が0.2nmである距離P2における第1元素の強度である。図2では、第1元素が1種類の元素(チタン)であるため、ピークMは一つである。第1元素が2種類以上の元素を含む場合、第1元素の最大ピークは元素の種類と同一の数で存在し、全てのピークがピークW1とW2との間に存在し、それぞれのピークにおいて、割合IB/IAが0.5超である。
【0054】
割合IB/IAの下限は、0.5超であり、0.51以上でもよく、0.54以上でもよく、0.55以上でもよく、0.59以上でもよく、0.60以上でもよく、0.65以上でもよく、0.70以上でもよい。割合IB/IAの上限は、0.95以下でもよく、0.92以下でもよく、0.90以下でもよく、0.87以下でもよく、0.85以下でもよく、0.80以下でもよい。割合IB/IAは、0.51以上0.95以下でもよく、0.54以上0.92以下でもよく、0.55以上0.90以下でもよく、0.59以上0.87以下でもよく、0.60以上0.85以下でもよく、0.65以上0.80以下でもよく、0.70以上0.80以下でもよい。
【0055】
本開示において、超硬合金のライン分析および分析結果に基づく第1グラフの取得は、以下の手順で行われる。超硬合金をアルゴンイオンスライサー(日本電子社製の「クライオイオンスライサーIB-09060BCIS」(商標))を用いて、加速電圧6kV、仕上げ2kVの条件で、30~100nmの厚みに薄片化して測定用試料を作製する。次いで、該測定用試料をTEM(Transmission Electron Microscopy)(日本電子社製の「JEM-ARM300F2」(商標))を用いて、加速電圧200Vの条件で、20万倍で観察することにより、第1画像を得る(図示なし)。
【0056】
第1画像において、炭化タングステン粒子は白色領域として観察され、結合相は黒色領域として観察される。第1画像において、炭化タングステン粒子と結合相との界面を任意に選択する。
【0057】
次に、選択された界面が、画像の中央付近を通るように位置決めを行い、視野サイズが10nm×10nmとなるように観察倍率を調整して観察することにより、第2画像を得る(図示なし)。第2画像において、界面の伸長する伸長方向を確認する。伸長方向に垂直な方向、かつ、結合相内に設けられた位置X1から、該結合相に隣接する炭化タングステン粒子内に設けられた位置X2に向かう第1方向に沿って、透過型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分光装置(TEM-EDX)を用いてライン分析を実施し、タングステン、コバルトおよび第1元素の分布を測定する。ここで、界面の伸長方向に対して垂直な方向とは、伸長方向の接線に対して90°±5°の角度で交差する直線に沿う方向を意味する。結合相内の位置X1は、第1グラフにおいて、ピークMの距離P1から、原点側への距離が0.5nm以上5nm以下となる位置であって、コバルトのピークを確認できる位置に設定される。炭化タングステン粒子内の位置X2は、第1グラフにおいて、ピークMの距離P1から、原点の反対側への距離が2nm以上5nm以下となる位置に設定される。EDX実施時の条件は、加速電圧200kV、カメラ長10cm、画素数128×128pixel、デュエルタイム0.02~3s/pixelである。
【0058】
タングステン、コバルトおよび第1元素のそれぞれの測定結果を、X軸がコバルトが最大強度を示す位置からの距離、かつ、Y軸が規格化された強度である座標系に示すことにより、第1グラフを得る。
【0059】
超硬合金において、互いに重複しない5視野の第1画像を任意に取得し、それぞれの第1画像に基づき上述の分析を実施して、5つの第1グラフを得る。4つ以上の第1グラフにおいて、「ピークW1と、ピークW2との間に、第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在し、かつ、割合IB/IAが0.5超」の場合、該超硬合金の第1グラフにおいて、「ピークW1と、ピークW2との間に、第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在し、かつ、割合IB/IAが0.5超である」と判断される。この判断基準を得るために、本発明者らは複数の超硬合金のそれぞれにおいて、複数のライン分析を行った。その結果、超硬合金のうち、80%以上の第1グラフにおいて「ピークW1と、ピークW2との間に、第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在し、かつ、割合IB/IAが0.5超」が示された場合、該超硬合金は本開示の効果を示すことを確認した。超硬合金の製造方法を考慮すると、WC粒子と結合相との界面領域におけるタングステンおよび第1元素の存在形態は、同一の超硬合金内ではほぼ同様になるものと推察される。
【0060】
<超硬合金の製造方法>
本実施形態の超硬合金は、原料粉末の準備工程、混合工程、成型工程、焼結工程、冷却工程およびHIP工程を前記の順で行うことにより製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0061】
<準備工程>
準備工程は、超硬合金素材を構成する材料の原料粉末を準備する工程である。原料粉末としては、炭化タングステン粉末(以下、「WC粉末」とも記す)、コバルト(Co)粉末、第1元素含有粉末が挙げられる。第1元素含有粉末としては、TiCN粉末、TaC粉末、NbC粉末、ZrC粉末、CeC粉末、Y粉末、BC粉末が挙げられる。これらの原料粉末に加えて、ニッケル(Ni)粉末などを準備することができる。これらの原料粉末は、市販のものを用いることができる。これらの原料粉末の平均粒径は特に制限されず、例えば、0.1~3.0μmとすることができる。原料粉末の平均粒径とは、FSSS(Fisher Sub-Sieve Sizer)法により測定される平均粒径を意味する。該平均粒径は、Fisher Scientific社製の「Sub-Sieve Sizer モデル95」(商標)を用いて測定される。
【0062】
<混合工程>
混合工程は、準備工程で準備した各原料粉末を所定の割合で混合する工程である。混合工程により、各原料粉末が混合された混合粉末が得られる。各原料粉末の混合割合は、狙いとする超硬合金の組成に応じて適宜調整する。
【0063】
各原料粉末の混合は、ボールミルを用いることができる。混合条件は、例えば、メディア径6mm、回転数200rpm、混合時間20時間とすることができる。
【0064】
混合工程の後、必要に応じて混合粉末を造粒してもよい。混合粉末を造粒することで、後述する成形工程の際にダイまたは金型へ混合粉末を充填し易い。造粒には、公知の造粒方法が適用でき、例えば、スプレードライヤー等の市販の造粒機を用いることができる。
【0065】
<成形工程>
成形工程は、混合工程で得られた混合粉末を切削工具用の形状に成形して、成形体を得る工程である。成形工程における成形方法および成形条件は、一般的な方法および条件を採用すればよく、特に制限されない。
【0066】
<焼結工程>
焼結工程において、成形工程で得られた成形体を焼結して、超硬合金を得る。本開示の超硬合金の製造方法においては、まず、Arガス中で圧力5MPa、温度1450℃で400分保持し(以下、「第1焼結工程」とも記す。)、その後、Arガス中で圧力5MPa、温度1350℃で300分保持(以下、「第2焼結工程」とも記す。)して、成形体を焼結させて超硬合金中間体を得る。
【0067】
<冷却工程>
冷却工程は、焼結工程後の超硬合金中間体を冷却する工程である。例えばArガス中で上記超硬合金中間体を圧力100~400MPaGの条件下で急冷することができる。
【0068】
<HIP工程>
冷却後の超硬合金中間体に対して、熱間等方圧加圧(HIP)装置で、100MPaの圧力を120分間負荷する。これにより、超硬合金を得ることができる。
【0069】
<本実施形態の超硬合金の製造方法の特徴>
本実施形態において、混合工程は、ボールミルを用いて、回転数200rpm、20時間行われ、焼結工程は、まず、圧力5MPa、温度1450℃で400分保持し(第1焼結工程)、その後、圧力5MPa、温度1350℃で300分保持する(第2焼結工程)という二段階で行われ、HIP処理を100MPaで120分行う。これにより、得られた超硬合金の第1グラフは、「ピークW1と、ピークW2との間に、第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在し、かつ、割合IB/IAが0.5超」を示すものになると推察される。このような混合条件および焼結条件により、本開示の超硬合金を実現できることは、本発明者らが鋭意検討の結果、新たに見いだしたものである。なお、本実施形態で用いられる混合条件および焼結条件は、生産効率が低下するため、当業者が採用するものではなかった。
【0070】
従来の一般的な超硬合金の製造方法において、回転数100rpmで混合時間は10時間程度であり、焼結工程は、所定の温度に昇温後、所定時間維持するという一段階で行われていた。従来の超硬合金の製造方法で得られた超硬合金では、WC粒子と結合相との界面領域において、第1元素はランダムに配置されており、第1グラフにおいて、ピークW1と、ピークW2との間に、第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在しない。
【0071】
[実施形態2:切削工具]
本実施形態の切削工具は、実施形態1の超硬合金からなる刃先を含む。本開示において、刃先とは、切削に関与する部分を意味する。より具体的には、刃先とは、刃先稜線と、該刃先稜線から超硬合金側への距離が0.5nmまたは2mmである仮想の面と、に囲まれる領域を意味する。
【0072】
切削工具としては、例えば、切削バイト、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマまたはタップ等を例示できる。特に、図3に示されるように、本実施形態の切削工具10は、プリント回路基板加工用の小径ドリルの場合に、優れた効果を発揮することができる。図3に示される切削工具10の刃先11は、実施形態1の超硬合金からなる。
【0073】
本実施形態の超硬合金は、これらの工具の全体を構成していてもよいし、一部を構成するものであってもよい。ここで「一部を構成する」とは、任意の基材の所定位置に本実施形態の超硬合金をロウ付けして刃先部とする態様等を示している。
【0074】
本実施形態の切削工具は、超硬合金からなる基材の表面の少なくとも一部を被覆する硬質膜を更に備えてもよい。硬質膜としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドを用いることができる。
【0075】
本実施形態の切削工具は、実施形態1の超硬合金を所望の形状に成形して得ることができる。
【実施例
【0076】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0077】
[超硬合金の作製]
以下の手順で各試料の超硬合金を作製した。
【0078】
WC粉末(平均粒径0.5μm)、Co粉末(平均粒径1.0μm)、TiCN粉末(平均粒径0.1μm)、TaC粉末(平均粒径0.3μm)、NbC粉末(平均粒径0.3μm)、ZrC粉末(平均粒径0.5μm)、CeC粉末(平均粒径0.5μm)、Y粉末(平均粒径0.5μm)、BC粉末(平均粒径0.5μm)を、表1~表3の「原料粉末」欄に記載の割合で準備した。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
原料粉末をビーズミルで混合して混合粉末を得た。混合条件(メディア径、回転数、充填率、時間)は、以下の通りである。「充填率」とは、ビーズ充填率を意味する。
≪試料1~試料48≫
メディア径6mm、回転数200rpm、充填率40%、混合時間20時間。
≪試料49~試料76≫
メディア径6mm、回転数100rpm、充填率40%、混合時間10時間。
【0083】
次に、混合粉末をプレス成形することにより、切削チップ形状の成形体を作製した。次に、成形体を焼結し、超硬合金中間体を得た。各試料の焼結条件は、以下の通りである。
≪試料1~試料48≫
第1焼結工程:Arガス中で圧力5MPa、温度1450℃で400分保持。
第2焼結工程:Arガス中で圧力5MPa、温度1350℃で300分保持。
≪試料49~試料76≫
第1焼結工程:Arガス中で圧力0.1MPa、温度1450℃で60分保持。
第2焼結工程:なし。
【0084】
「第1焼結工程」とは、焼結開始直後に行われる焼結工程である。「第2焼結工程」とは、第1焼結工程後に行われる二段階目の焼結工程である。第2焼結工程の「なし」との記載は、第2焼結工程を行わなかったことを示す。次に、超硬合金中間体をArガス中で圧力200MPaGの条件下で急冷した。冷却後の超硬合金中間体に対して、熱間等方圧加圧(HIP)装置で、HIP処理を行い、各試料の超硬合金を得た。HIP処理の条件は、以下の通りである。
≪試料1~試料48≫
100MPaの圧力を120分間負荷した。
≪試料49~試料76≫
10MPaの圧力を60分間負荷した。
【0085】
[切削工具の作製]
得られた超硬合金を加工し、刃先交換型切削工具(形状:エンドミル)を作製した。
【0086】
[超硬合金の評価]
<超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率(体積%)および結合相の含有率(体積%)>
各試料の超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率(体積%)および結合相の含有率(体積%)を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表4~表6の「超硬合金」の「WC粒子含有率」および「結合相含有率」欄に示す。更に、超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率および結合相の含有率の合計を表4~表6の「超硬合金」の「WC粒子+結合相含有率」欄に示す。表4~表6において、「WC粒子+結合相含有率」欄が100体積%未満の超硬合金は、第1元素を含む化合物の析出物や固溶体(例えば、TiCNやTaC)などを含むことが確認された。
【0087】
<結合相中のコバルト含有率>
各試料の超硬合金において、結合相中のコバルト含有率を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表4~表6の「超硬合金」の「結合相中のCo含有率」欄に示す。
【0088】
<超硬合金の第1元素の合計含有率>
各試料の超硬合金において、超硬合金の第1元素の種類および合計含有率を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表7~表9の「超硬合金」の「第1元素種類」および「第1元素合計含有率」欄に示す。
【0089】
<ライン分析>
各試料の超硬合金において、実施形態1に示されるライン分析を行い、第1グラフを得た。各試料の第1グラフにおいて、原点に最も近いタングステンのピークW1と、ピークW1に最も近いタングステンの他のピークW2との間に、第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在するか否かを確認した。結果を表7~表9の「超硬合金」の「最大ピークM」欄に示す。「有」とは、最大ピークMが存在することを示し、「無」とは、最大ピークMが存在しないことを示す。最大ピークMが複数存在する場合は、全ての最大ピークがW1とW2との間に存在する場合「有」と示す。
【0090】
「最大ピークM」が存在する試料において、最大ピークMの最大ピーク強度IAに対する、強度IBの割合IB/IAを測定した。ここで強度IBは、最大ピーク強度の距離P1から、第1グラフの原点と反対側への距離が0.2nmである距離P2における第1元素の規格化された強度である。結果を表7~表9の「超硬合金」の「IB/IA」欄に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】
【0096】
【表9】
【0097】
<切削試験>
各試料の切削工具を用いて以下の条件でエンドミル加工を行い、切削距離0.01m毎に、逃げ面の摩耗量を測定した。摩耗量が0.1mmに到達した時点の切削距離を工具寿命とする。結果を表7~表9の「切削試験」欄に示す。切削距離が長いほど、工具寿命が長いことを示す。
【0098】
≪切削条件≫
被削材:SKD11
加工:側面加工
切削速度:60m/min
1刃当たりの送り量fz:0.1mm/t
軸方向の切込み深さap:0.2mm
半径方向の切込み深さae:0.1mm
切削液:水溶性切削油
上記の切削条件は、高硬度材の切削加工に該当する。
【0099】
<考察>
試料1~試料48の超硬合金および切削工具は、実施例に該当する。試料49~試料76の超硬合金および切削工具は、比較例に該当する。試料1~試料48(実施例)の切削工具は、試料49~試料76(比較例)の切削工具に比べて、高硬度材の切削加工において、長い工具寿命を示すことが確認された。これは、試料1~試料48(実施例)の超硬合金は、ピークMを有し、かつ、割合IB/IAは、0.5超であるため、耐摩耗性が向上したためと推察される。
【0100】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0101】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0102】
1 炭化タングステン粒子、2 結合相、3 超硬合金、10 切削工具、11 刃先。
【要約】
複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金であって、前記超硬合金は、前記炭化タングステン粒子および前記結合相を合計で80体積%以上含み、前記超硬合金は、前記結合相を0.1体積%以上20体積%以下含み、前記超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、セリウム、イットリウムおよび硼素からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1元素を含み、前記超硬合金は、前記第1元素を合計で0.01原子%以上20原子%以下含み、前記結合相は、コバルトを50質量%以上含み、互いに隣接する前記結合相から前記炭化タングステン粒子に向かう第1方向に沿って、透過型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分光装置を用いてライン分析を行って得られた結果を、X軸がコバルトが最大強度を示す位置からの距離、かつ、Y軸が規格化された強度である座標系に示した第1グラフにおいて、原点に最も近いタングステンのピークW1と、前記ピークW1に最も近いタングステンの他のピークW2との間に、前記第1元素のそれぞれの最大ピークMが存在し、前記第1元素のそれぞれにおいて、前記最大ピークMの最大ピーク強度IAに対する、強度IBの割合IB/IAは、0.5超であり、前記強度IBは、前記最大ピーク強度IAの距離P1から、前記原点と反対側への距離が0.2nmである距離P2における前記第1元素の強度である、超硬合金である。
図1
図2
図3