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特許7589853スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造する方法、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体、及びスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造するためのモジュール化ポリイミド多孔質膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造する方法、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体、及びスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造するためのモジュール化ポリイミド多孔質膜
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20241119BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241119BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C12N5/077
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024047280
(22)【出願日】2024-03-22
(65)【公開番号】P2024071498
(43)【公開日】2024-05-24
【審査請求日】2024-04-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】森本 美香
(72)【発明者】
【氏名】萩原 昌彦
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021368(WO,A1)
【文献】Pharma Medica,2013年,Vol. 31, No. 4,p. 15-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 1/00
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造する方法であって、
軟骨細胞が播種されたモジュール化ポリイミド多孔質膜を、浮遊培養用の細胞培養容器内に固定されていない状態で培地中に浮遊させながら、前記モジュール化ポリイミド多孔質膜にシェアストレスを付与しながら培養する工程、
を含み、
ここで前記モジュール化ポリイミド多孔質膜が、ポリイミド多孔質膜と、前記ポリイミド多孔質膜が収容されたケーシングとを備えるものであって、前記ポリイミド多孔質膜は、流体によって継続的に波打つ動きを行わない状態でケーシングに固定されており、
前記ケーシングが、前記ポリイミド多孔質膜の少なくとも一部の表面に培地を曝露するための1以上の培地流出入口を有し、
ここで前記ポリイミド多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通している、
前記方法。
【請求項2】
前記モジュール化ポリイミド多孔質膜は、2以上の前記ポリイミド多孔質膜が積層されて収容されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シェアストレスが、旋回運動、往復運動、上下運動、波動形揺動運動、回転運動又はそれらの運動を組み合わせた状態で振盪及び/又は攪拌することにより、生じさせるシェアストレスである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリイミド多孔質膜が、平均孔径0.01~100μmの複数の細孔を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記表面層Aの平均孔径が、0.01~50μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記表面層Bの平均孔径が、20~100μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリイミド多孔質膜の総膜厚が、5~500μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法によって得られるスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体。
【請求項11】
軟骨細胞を含む、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体であって、
前記軟骨細胞が生成する細胞外マトリックス以外の、外部から添加するスキャフォールド成分は含んでおらず、
前記スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体が平均0.2mm以上の厚さを有するものであり、
グルコサミノグリカンを湿潤重量1mgあたり5μg以上を含んでいることを特徴とする、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体。
【請求項12】
前記前記スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体が平均0.5mm以上の厚さを有するものである、請求項11に記載のスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造する方法、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体、及びスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造するためのモジュール化ポリイミド多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
軟骨組織は、神経及び血管のない組織であり、軟骨細胞と細胞外マトリックス(2型コラーゲン、プロテオグリカン、水等)から構成されている。また、損傷すると修復に必要な栄養が供給されにくい為、自然修復が困難と言われている。その為、手術等による高位骨切り術や人工関節への置換等、様々な治療方法が採用されて来た。近年、自家細胞を培養して増殖させた後に損傷患部に包埋して損傷部を治癒させる再生医療法が多く創出された。軟骨細胞は通常の平面培養法ではその特性が喪失されてしまう易脱分化細胞であるが、種々研究の結果様々な特性維持培養法が考案された。また、細胞だけではなく、軟骨細胞特有の細胞外マトリクス(グルコサミノグリカンや2型コラーゲン)を患部に細胞と共に包埋する事が治癒の観点から重要である事も判明しているので、細胞培養時にこれらの細胞外マトリクスが潤沢に産生される点に関しても、多くの研究が展開された。これらの努力を経て、現在は研究開発の成果としていくつかの製品が上市され、医療場面で使用されて来ている。実用法として活用され始める傍ら、各方法論に関して課題が見出され、それら課題の解決が望まれて来た。各種課題の特性を整理すると、以下の様な課題が重要点と言える。
【0003】
(i)組成(ヒト由来成分以外の混入):軟骨特性維持や細胞外マトリクスの好適な産生の為には、いくつかの製品に於いては、培養基材を用いる方法論が用いられるが、基本的に培養基材はヒト由来成分ではなく、異物である。
【0004】
(ii)細胞外マトリクス:軟骨特有の細胞外マトリクスを細胞と共に包埋する事は治療では重要な要素。潤沢にこれらマトリクスに富む状態で移植を実施する必要性が高い。
【0005】
(iii)細胞数:治癒の本体は移植された軟骨細胞である為、大量の細胞を限定的な領域に包埋する事が重要となる。
【0006】
(iv)強度とサイズ:患部にしっかりと包埋・固定させる為には、患部から容易に喪失されず、かつ、手術過程で容易に取り扱える強度及びサイズが重要となる。
【0007】
(v)取り扱い性:生きた細胞を包埋の素材として利用する為、総部包埋の前に、培養デバイスから簡便かつ効率的に、また再現性高く、包埋細胞を取り扱う事が重要となる。
【0008】
(vi)包埋物健全性:ヒトに包埋する素材である為、十分に生育する事が求められる一方で、異物等を含まず、かつ、ゼノフリーの状態で培養工程が進行する事が重要。
【0009】
(vii)容易性:包埋組織体の調達は各箇所で容易に実行される事が望ましい為、培養工程で特殊な装置を必要としない事が望ましい。
【0010】
上記の課題に対し軟骨の再生医療では、軟骨細胞の懸濁液、スフェロイド(細胞同士が集合・凝集化した球状の細胞集合体)、温度応答性ポリマーを使用して作製された軟骨細胞シート、スキャフォールド中で軟骨細胞を培養して作製された培養軟骨等を患部に注入又は移植する方法が提案されている。
【0011】
(1)細胞懸濁液及びスフェロイド
細胞懸濁液を使用する方法は、軟骨欠損患者の非荷重部から軟骨組織を少量採取し、酵素処理で軟骨細胞を分離したのち単層培養を行い、約3週間後に細胞を回収して細胞懸濁液の状態で軟骨欠損部に注入するものである。注入した細胞を軟骨欠損部に留めておくため、あらかじめ患者の脛骨から採取した骨膜で欠損部をパッチしてフィブリン糊でシールした後に細胞懸濁液を注入する。この方法は、1994年にスウェーデンの整形外科医により発表され、骨欠損治療に再生医療を応用した点で画期的であったが、細胞を懸濁液の状態で注入するため、術後に漏出するリスク、術後に重力で細胞が沈降し、修復組織が不均一になるリスク等がある。また、特許文献1には細胞移植治療用のスフェロイドが提案されているが、直径1mm以下と小さい為、1mm以上の患部に適用する場合は細胞懸濁液と同様に漏出等のリスクがある。その為、シート状構造物にスフェロイドを固定してから移植する等の対策がとられている。換言すれば、流動性のある移植材料は、自律性に乏しい為、細胞を漏出するリスクがあり、その対策が必要となる。また、細胞数は確保可能であるが、その一方で、細胞外マトリクスの確保に関しては特別の策がとられておらず、大量の細胞を移送する事に主眼が置かれた方法と言える。
【0012】
(2)温度応答性ポリマーを使用して作製された軟骨細胞シート
細胞が固定された移植材料として、例えば、特許文献2には、軟骨細胞を温度応答性ポリマーが処理された培養容器で培養することにより作製された細胞シートが提案されている。このシートは、培養時では軟骨特有の2型コラーゲンを産生しないが、動物への移植後に2型コラーゲンを産生する良好な結果が記載されている。しかしながら、温度応答性ポリマーを利用する方法は、特許文献2の表1に記載の通り細胞シートの厚さが数十μmと薄いため、力学的強度が弱い上、培養容器から細胞シートを剥離する際にシートが収縮することが課題であった。この点に関して、例えば特許文献3では、シートを積層させて厚くすることや、培養シートをキャリアに密着させ剥離しやすくする方法が提案されている。しかしながら、10回より多く積層化した細胞シートは酸素や栄養分が届きにくくなるため、積層回数は4回以下が好ましいと記載されている。この様に、温度応答性ポリマーを利用して厚みのある組織体を形成することは難しいと言える。
【0013】
(3)スキャフォールド中で軟骨細胞を培養して作製された培養軟骨
細胞が固定されており、かつ、厚みがある移植材料として、天然または人工の足場材料を用いて作製された移植材料が提案されている。例えば特許文献4や特許文献5では、軟骨細胞をコラーゲンやプロテオグリカンを含むゲル状構造物に播種又は包埋して培養して作製された移植材料が提案されている。この方法では、スキャフォールドの大きさや量に応じて厚みのある移植材料を提供することが出来る。しかしながら、スキャフォールドにはウシやブタのコラーゲン等、他の動物由来のものが使用されているため、ヒトの生体への影響は無視できない。また、用いられているコラーゲン溶液の濃度は高く、粘性が高い上、コラーゲンが37℃で直ちにゲル化する上、作製された移植材料の均一性等に課題がある。
【0014】
<ポリイミド多孔質膜>
細胞をポリイミド多孔質膜に適用して培養することを含む、細胞の培養方法が報告されている(特許文献6)。
【0015】
ポリイミドとは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称である。芳香族ポリイミドは、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された高分子を意味する。芳香族ポリイミドは芳香族と芳香族とがイミド結合を介して共役構造を持つため、剛直で強固な分子構造を持ち、且つ、イミド結合が強い分子間力を持つために非常に高いレベルの熱的、機械的、化学的性質を有する。
【0016】
ポリイミド多孔質膜は、本出願前よりフィルター、低誘電率フィルム、燃料電池用電解質膜など、特に電池関係を中心とする用途のために利用されてきた。特許文献7~10は、特に、気体などの物質透過性に優れ、空孔率の高い、両表面の平滑性が優れ、相対的に強度が高く、高空孔率にもかかわらず、膜厚み方向への圧縮応力に対する耐力に優れるマクロボイドを多数有するポリイミド多孔質膜を記載している。これらはいずれも、アミック酸を経由して作成されたポリイミド多孔質膜である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2011-41472号公報
【文献】国際公開第2018/154813号
【文献】特開2014-155494号公報
【文献】特開2001-293081号公報
【文献】国際公開第2006/011296号
【文献】国際公開第2015/012415号
【文献】国際公開第2010/038873号
【文献】特開2011-219585号公報
【文献】特開2011-219586号公報
【文献】国際公開第2018/021368号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
軟骨の再生医療において、様々な技術が開発され、実用化されているが、上述のような課題を抱えている。従って、本発明は、十分な力学的強度及び厚みを持った軟骨組織体であって、他の動物由来のスキャフォールド成分を含まない、安全性の高い軟骨組織体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題に鑑み、本発明者らが検討を行った結果、従来よりも簡便な方法により、十分な力学的強度及び厚みを持ち、かつ、他の動物由来のスキャフォールド成分を含まない、安全性の高い軟骨組織体を作製可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0020】
[1] スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造する方法であって、
軟骨細胞が播種されたモジュール化ポリイミド多孔質膜を、浮遊培養用の細胞培養容器内に固定されていない状態で培地中に浮遊させながら、前記モジュール化ポリイミド多孔質膜にシェアストレスを付与しながら培養する工程、
を含み、
ここで前記モジュール化ポリイミド多孔質膜が、ポリイミド多孔質膜と、前記ポリイミド多孔質膜が収容されたケーシングとを備えるものであって、前記ポリイミド多孔質膜は、流体によって継続的に波打つ動きを行わない状態でケーシングに固定されており、
前記ケーシングが、前記ポリイミド多孔質膜の少なくとも一部の表面に培地を曝露するための1以上の培地流出入口を有し、
ここで前記ポリイミド多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通している、
前記方法。
[2] 前記モジュール化ポリイミド多孔質膜は、2以上の前記ポリイミド多孔質膜が積層されて収容されている、項目1に記載の方法。
[3] 前記シェアストレスが、旋回運動、往復運動、上下運動、波動形揺動運動、回転運動又はそれらの運動を組み合わせた状態で振盪及び/又は攪拌することにより、生じさせるシェアストレスである、項目1又は2に記載の方法。
[4] 前記ポリイミド多孔質膜が、平均孔径0.01~100μmの複数の細孔を有する、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
[5] 前記表面層Aの平均孔径が、0.01~50μmである、項目1~4のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記表面層Bの平均孔径が、20~100μmである、項目1~5のいずれか1項に記載の方法。
[7] 前記ポリイミド多孔質膜の総膜厚が、5~500μmである、項目1~6のいずれか1項に記載の方法。
[8] 前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
[9]
前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜である、項目1~8のいずれか1項に記載の方法。
【0021】
[10] 項目1~9のいずれか1項に記載の方法によって得られるスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体。
【0022】
[11] 軟骨細胞を含む、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体であって、
前記軟骨細胞が生成する細胞外マトリックス以外の、外部から添加するスキャフォールド成分は含んでおらず、
前記スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体が平均0.2mm以上の厚さを有するものであり、
グルコサミノグリカンを湿潤重量1mgあたり5μg以上を含んでいることを特徴とする、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体。
[12] 前記前記スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体が平均0.5mm以上の厚さを有するものである、項目11に記載のスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体。
【0023】
[13] スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造するためのモジュール化ポリイミド多孔質膜であって、
ここで前記モジュール化ポリイミド多孔質膜が、ポリイミド多孔質膜と、前記ポリイミド多孔質膜が収容されたケーシングとを備えるものであって、前記ポリイミド多孔質膜は、流体によって継続的に波打つ動きを行わない状態でケーシングに固定されており、
前記ケーシングが、前記ポリイミド多孔質膜の少なくとも一部の表面に培地を曝露するための1以上の培地流出入口を有し、
ここで前記ポリイミド多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通しており、
前記モジュール化ポリイミド多孔質膜が、浮遊培養用の細胞培養容器、細胞培養装置又は細胞培養システム内において用いられるものであって、前記浮遊培養用の細胞培養容器、細胞培養装置又は細胞培養システムの培養部内に固定されていないことを特徴とする、モジュール化ポリイミド多孔質膜。
[14] 2以上の前記ポリイミド多孔質膜が積層されて収容されている、項目13に記載のモジュール化ポリイミド多孔質膜。
[15] 前記ポリイミド多孔質膜が、平均孔径0.01~100μmの複数の細孔を有する、項目13又は14に記載のモジュール化ポリイミド多孔質膜。
[16] 前記表面層Aの平均孔径が、0.01~50μmである、項目13~15のいずれか1項に記載のモジュール化ポリイミド多孔質膜。
[17] 前記表面層Bの平均孔径が、20~100μmである、項目13~16のいずれか1項に記載のモジュール化ポリイミド多孔質膜。
[18] 前記ポリイミド多孔質膜の総膜厚が、5~500μmである、項目13~17のいずれか1項に記載のモジュール化ポリイミド多孔質膜。
[19] 前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、項目13~18のいずれか1項に記載のモジュール化ポリイミド多孔質膜。
[20] 前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜である、項目13~19のいずれか1項に記載のモジュール化ポリイミド多孔質膜。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来の方法により得られる三次元軟骨組織体よりも、十分な力学的強度及び厚みを持った三次元軟骨組織体を提供可能となる。また、本発明において提供される三次元軟骨組織体は、細胞量、細胞外マトリクス量が、従来のものよりも高い上に強度が優れており、なおかつ、それを作製する時においても回収が容易であり、再現性に優れている。また、本発明により得られた三次元軟骨組織体は、主に軟骨細胞とその細胞自身が産生した細胞外マトリックスから構成されており、他の動物由来の成分を含まない為、生体に対しても安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、モジュール化ポリイミド多孔質膜の一実施態様を示す。
図2図2は、モジュール化ポリイミド多孔質膜の一実施態様を示す。図1のモジュール化ポリイミド多孔質膜の上面図である。
図3図3は、モジュール化ポリイミド多孔質膜の一実施態様を示す。図2のモジュール化ポリイミド多孔質膜のA-A’断面を示す図である。
図4図4は、ポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養のモデル図を示す。
図5図5は、実施例で用いたモジュール化ポリイミド多孔質膜を示す。
図6図6は、実施例で得られたスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体の写真である。上段:ケーシング部材を外した後の、ポリイミド多孔質膜の上に構築されたスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体、下段:ポリイミド多孔質膜から剥離したスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体。
図7図7は、実施例又は比較例により作製された三次元軟骨組織体に含まれるDNA量又はグルコサミノグリカン量を比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
I.スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造する方法
【0027】
一実施態様において、本発明は、
スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造する方法であって、
軟骨細胞が播種されたモジュール化ポリイミド多孔質膜を、浮遊培養用の細胞培養容器内に固定されていない状態で培地中に浮遊させながら、前記モジュール化ポリイミド多孔質膜にシェアストレスを付与しながら培養する工程、
を含み、
ここで前記モジュール化ポリイミド多孔質膜が、ポリイミド多孔質膜と、前記ポリイミド多孔質膜が収容されたケーシングとを備えるものであって、前記ポリイミド多孔質膜は、流体によって継続的に波打つ動きを行わない状態でケーシングに固定されており、
前記ケーシングが、前記ポリイミド多孔質膜の少なくとも一部の表面に培地を曝露するための1以上の培地流出入口を有し、
ここで前記ポリイミド多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通している、
前記方法、を提供する。
【0028】
1.軟骨細胞
本明細書において、「軟骨細胞」とは、コラーゲンやプロテオグリカンなど、軟骨組織を構成する細胞外マトリックスを産生する細胞、または、その前駆細胞(例えば、間葉系幹細胞、骨芽細胞、又は軟骨芽細胞など)を意味する。本発明に適用され得る軟骨細胞は、軟骨細胞マーカーを発現する細胞であってもよく、軟骨細胞マーカーとしては、例えばII型コラーゲン(COL2A1)またはSOX9などが例示されるが、これに限定されない。COL2A1は、例えば、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_001844またはNM_033150、マウスの場合、NM_001113515またはNM_031163に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子並びに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が挙げられるが、これに限定されない。また、SOX9は、例えば、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_000346、マウスの場合、NM_011448に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子並びに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が挙げられるが、これに限定されない。
【0029】
本発明において用いられ得る軟骨細胞は、生体組織、例えば、関節軟骨、耳介軟骨、又は鼻軟骨から単離されるものであってもよく、例えば、多指(趾)症の対象の余剰指から採取されるものであってもよい。また、軟骨細胞は、移植する対象から採取された自家細胞であってもよく、移植する対象以外の対象から採取された他家細胞であってもよい。
【0030】
本発明において用いられ得る軟骨細胞は、多能性幹細胞から分化誘導された軟骨細胞が用いられてもよい。多能性幹細胞とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称することを意図する。限定されるわけではないが、多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。iPS細胞は倫理的な問題もない等の理由により特に好ましい。多能性幹細胞としては公知の任意のものを使用可能であるが、例えば、国際公開WO2009/123349(PCT/JP2009/057041)に記載の多能性幹細胞を使用可能である。本発明に適用し得る軟骨細胞を、多能性幹細胞から分化誘導する方法については特に限定されず、公知の方法、例えば国際公開第2016/133208号などを参考にすることができる。
【0031】
2.スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体
【0032】
本明細書において「スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体」とは、軟骨細胞自身が生成する細胞外マトリックス以外の、外部から添加するスキャフォールド成分(例えば、アテロコラーゲン、マトリゲル、又はゼラチンなど)を含まない、軟骨細胞を含む三次元化組織体をいう。すなわち、本願発明によって提供され得る「スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体」は、軟骨細胞自身が生成する細胞外マトリックスによって、自ら三次元化することにより生成された組織体であり、平均0.2mm以上、好ましくは平均0.5mm以上の厚さを有している。また、本願発明によって提供され得る「スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体」は、グルコサミノグリカンを、湿潤重量1mgあたり5μg以上を含み得る構造体である。本願発明により提供され得るスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体は、細胞量、細胞外マトリクス量が、従来のものよりも高い上に、強度が優れており、なおかつ、作製した後の回収が容易である。そのため、取り扱いが容易である。また、本願発明により提供され得るスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体は、主に軟骨細胞とその細胞自身が産生した細胞外マトリックスから構成されていることから、例えば、他の動物由来の成分を含まないため、アレルギー反応を引き起こすアレルゲンとなり得る物質をほとんど含まないため、安全性が高い。
【0033】
3.モジュール化ポリイミド多孔質膜
本発明に用いられ得る、又は本発明で提供される「モジュール化ポリイミド多孔質膜」は、
ポリイミド多孔質膜と、前記ポリイミド多孔質膜が収容されたケーシングとを備えるものであって、前記ポリイミド多孔質膜は、流体によって継続的に波打つ動きを行わない状態でケーシングに固定されており、
前記ケーシングが、前記ポリイミド多孔質膜の少なくとも一部の表面に培地を曝露するための1以上の培地流出入口を有し、
ここで前記ポリイミド多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通している(例えば、図1参照)。
【0034】
軟骨細胞は、モジュール化ポリイミド多孔質膜の培地流出入口によって開口している部分のポリイミド多孔質膜の表面に生着する。その状態において、モジュール化ポリイミド多孔質膜を培地に浮遊させてシェアストレスを付与しながら培養することにより、軟骨細胞自身による細胞外マトリックスの生成が促進され、かつ、軟骨細胞の増殖が促進され、ポリイミド多孔質膜の平面に対して垂直方向に肥厚化した、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体が形成される。
【0035】
モジュール化ポリイミド多孔質膜の培地流出入口の形状に応じて、得られるスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体の形状が変わる。従って、使用目的、例えば、移植を目的とする場合、移植部位の形状、大きさ等に合わせてモジュール化ポリイミド多孔質膜の培地流出入口の形状を設計すればよく、その形状や大きさは特に限定されないが、例えば、矩形、円形、楕円形、三角形、五角形、六角形など、任意の形状、大きさに培地流出入口の開口部の形状を設計すればよい。
【0036】
一実施態様において、モジュール化ポリイミド多孔質膜の培地流出入口は、2以上設けられていてもよい。例えば、モジュール化ポリイミド多孔質膜のケーシングの同一面において複数の培地流出入口が設けられていてもよく、ケーシングに収容されたポリイミド多孔質膜の両面側のケーシングに複数設けられるものであってもよい(図3参照)。
【0037】
スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体の厚さは、モジュール化ポリイミド多孔質膜の培地流出入口を構成する開口部の厚さ、すなわち、ポリイミド多孔質膜を収容するケーシングの厚さを調整することにより変更することが可能となる。例えば、ケーシングの厚さが0.2mmであれば、培地流出入口は、ケーシングの表面からポリイミド多孔質膜の表面までが0.2mmの深さ(以下、「培地流出入口の厚さ」という。)を有する開口部となる(図3参照)。この凹部となったポリイミド多孔質膜の表面に、軟骨細胞が垂直方向に増殖し、自ら厚さを持ったスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体となる。培地流出入口の厚さを変えることにより、得られるスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体の厚さを調整することが可能となり、例えば0.3mm以上、0.4mm以上、0.5mm以上、0.6mm以上、0.7mm以上、0.8mm以上、0.9mm以上、1.0mm以上、又はそれ以上の厚さのケーシングを用いてもよい。
【0038】
一実施態様のモジュール化ポリイミド多孔質膜において、培地に曝露されるポリイミド多孔質膜の表面は表面層Bであることが好ましい。培地流出入口にポリイミド多孔質膜の表面層Bが接するよう配置されたモジュール化ポリイミド多孔質膜であれば、培地流出入口に形成されたスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体が容易に剥離することができるため、回収が容易となる。
【0039】
一実施態様において、モジュール化ポリイミド多孔質膜は、分解可能なパーツによって構成されるケーシングを備えてもよい。例えば、図1~3のように、中心部に矩形の培地流出入口を有し、該ポリイミド多孔質膜とほぼ同型の平板状のケーシング部材によって2以上の積層したポリイミド多孔質膜を両側から挟み、それらの両端を2以上のバインダーによって挟むことによって固定されたモジュール化ポリイミド多孔質膜であってもよい。モジュール化ポリイミド多孔質膜のケーシングが分解可能であれば、作製されたスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体が容易に回収可能となる。一実施態様において、複数のポリイミド多孔質膜を積層して用いる場合、最も外側のポリイミド多孔質膜は、表面層Bが培地流出入口の接するように配置されるものであってもよい。
【0040】
本明細書において、「モジュール化ポリイミド多孔質膜」との記載は、単に「モジュール」と記載することができ、相互に変更しても同一のことを意味する。
【0041】
本明細書において、「モジュール化ポリイミド多孔質膜」とは、細胞培養容器、細胞培養装置及び細胞培養システム、特に浮遊培養に用いられる細胞培養容器、細胞培養装置及び細胞培養システムに適用可能な、細胞培養基材である。国際公開WO2018/021368に記載のモジュール化ポリイミド多孔質膜(細胞培養モジュール)も本発明に適用し得る。本発明のモジュール化ポリイミド多孔質膜は、一例として、WAVEリアクターを用いる実施態様によって使用することができる。また、エルレンマイヤーリアクターを用いる態様によっても使用することができる。
【0042】
本発明のモジュール化ポリイミド多孔質膜は、ポリイミド多孔質膜がケーシングに収容されていることによって、膜状のポリイミド多孔質膜がケーシング内で、継続的に形態が変形することが防止される。これによって、ポリイミド多孔質膜の内部で生育する細胞にストレスが加えられることが防止され、アポトーシス等が抑制されて安定的且つ大量の細胞を培養することが可能となる。また、本発明において用いられ得るモジュール化ポリイミド多孔質膜は、浮遊培養において、シェアストレス(せん断応力)が強度に負荷される旋回運動、往復運動、上下運動、波動形揺動運動、又はそれらの運動を組み合わせた状態で培養することにより、スキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を形成することができる。
【0043】
本発明のモジュール化ポリイミド多孔質膜が備えるケーシングは、通常の培養条件、例えば、攪拌培養、振とう培養条件における培地の動きによって変形しない程度に強度を有することが好ましい。また、ケーシングは、細胞培養において、細胞の生育に影響を与えない素材によって形成されていることが好ましい。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリマー、ステンレス綱、チタンなどの金属が挙げられるが、これに限定されない。ケーシングにある程度強度があることにより、ケーシング内部のポリイミド多孔質膜の形状が継続的に変形することが防止され、本発明の効果がより発揮される。本明細書において、「ケーシングが変形しない」とは、通常の培養環境下で受ける負荷において変形しないことを意味するものであり、絶対的に変形しないことを意味するものではない。
【0044】
一実施態様において、本発明に用いられ得る、または提供されるモジュール化ポリイミド多孔質膜は、2以上の前記ポリイミド多孔質膜が積層されて、ケーシングに収容されている。この場合、ポリイミド多孔質膜とポリイミド多孔質膜の間には中敷が設けられてもよい。中敷が設けられることにより、積層されたポリイミド多孔質膜の間に効率的に培地を供給させることができる。中敷は、積層されたポリイミド多孔質膜の間に任意の空間を形成し、効率的に培地を供給させる機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、メッシュ構造を有する平面構造体を用いることができる。中敷の材質は、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ステンレス鋼製のメッシュを用いることができるが、これに限定されない。メッシュ構造を有する中敷を有する場合、積層されたポリイミド多孔質膜の間に培地を供給できる程度の目開きを有していればよく、適宜選択することができる。
【0045】
本明細書において、「折り畳まれたポリイミド多孔質膜」とは、該ケーシング内にて折り畳まれていることで、ポリイミド多孔質膜の各面及び/又はケーシング内の表面との摩擦力によってケーシング内で動かない状態となったポリイミド多孔質膜である。本明細書において、「折り畳まれた」とは、ポリマー多孔膜に折り目がついた状態であってもよく、折り目がついていない状態であってもよい。
【0046】
本明細書において、「該ポリイミド多孔質膜がケーシング内で動かない状態」とは、該モジュール化ポリイミド多孔質膜を細胞培養培地中で培養する場合に、該ポリイミド多孔質膜が継続的に形態変化しない状態になるようにケーシング内に収容されている状態をいう。換言すれば、該ポリイミド多孔質膜自体が、流体によって、継続的に波打つ動きを行わないように抑制された状態である。ポリイミド多孔質膜がケーシング内で動かない状態を保つため、ポリイミド多孔質膜内で生育されている細胞にストレスが加えられることが防止され、アポトーシス等による細胞が死滅されることなく安定的に細胞が培養可能となる。
【0047】
一実施態様において、本発明において用いられ得るモジュール化ポリイミド多孔質膜は、浮遊培養用の細胞培養容器内に固定されていない状態で培地中に浮遊させ、モジュール化ポリイミド多孔質膜にシェアストレスを付与する条件で培養される。これにより、モジュール化ポリイミド多孔質膜の培地流出入口に位置するポリイミド多孔質膜に生育している軟骨細胞の増殖が促進され、肥厚化したスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体が得られる。
【0048】
シェアストレスは、例えば、旋回運動、往復運動、上下運動、波動形揺動運動、又はそれらの運動を組み合わせた状態で攪拌することが可能な市販の培養容器、培養装置及びシステム等にモジュール化ポリイミド多孔質膜を適用することにより付与することができる。例えば、培養容器が可撓性のバッグからなる培養装置にも適用可能であり、当該培養容器内に浮遊させた状態で使用することが可能である。また、本発明のモジュール化ポリイミド多孔質膜は、例えば、スピナーフラスコ等の撹拌式リアクターに適用し、培養することが可能である。その他、培養容器としては、開放容器にも適用可能であり、閉鎖容器にも適用可能である。例えば、細胞培養用のシャーレ、フラスコ、プラスチックバッグ、試験管から大型のタンクまで適宜利用可能である。例えば、BD Falcon社製のセルカルチャーディッシュやサーモサイエンティフィック社製のNunc セルファクトリー等が含まれる。
【0049】
4.細胞培養装置へのモジュール化ポリイミド多孔質膜の適用
本明細書において、「細胞培養装置」とは、一般に、細胞培養システム、バイオリアクター、又はリアクターと同義に扱われる用語であって、相互に入れ替えても同一の意味を有する。
【0050】
5.ポリイミド多孔質膜
本発明で使用されるポリイミド多孔質膜中の表面層A(以下で、「A面」又は「メッシュ面」とも呼ぶ)に存在する孔の平均孔径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上200μm未満、0.01~150μm、0.01~100μm、0.01~50μm、0.01μm~40μm、0.01μm~30μm、0.01μm~20μm、又は0.01μm~15μmであり、好ましくは、0.01μm~15μmである。
【0051】
本発明で使用されるポリイミド多孔質膜中の表面層B(以下で、「B面」又は「大穴面」とも呼ぶ)に存在する孔の平均孔径は、表面層Aに存在する孔の平均孔径よりも大きい限り特に限定されないが、例えば、5μm超200μm以下、20μm~100μm、30μm~100μm、40μm~100μm、50μm~100μm、又は60μm~100μmであり、好ましくは、20μm~100μmである。
【0052】
ポリイミド多孔質膜表面の平均孔径は、多孔質膜表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から下式(1)に従って孔の形状が真円であるとした際の平均直径を計算より求めることができる。
【数1】
(式中、Saは孔面積の平均値を意味する。)
【0053】
表面層A及びBの厚さは、特に限定されないが、例えば0.01~50μmであり、好ましくは0.01~20μmである。
【0054】
ポリイミド多孔質膜におけるマクロボイド層中のマクロボイドの膜平面方向の平均孔径は、特に限定されないが、例えば10~500μmであり、好ましくは10~100μmであり、より好ましくは10~80μmである。また、当該マクロボイド層中の隔壁の厚さは、特に限定されないが、例えば0.01~50μmであり、好ましくは、0.01~20μmである。一の実施形態において、当該マクロボイド層中の少なくとも1つの隔壁は、隣接するマクロボイド同士を連通する、平均孔径0.01~100μmの、好ましくは0.01~50μmの、1つ又は複数の孔を有する。別の実施形態において、当該マクロボイド層中の隔壁は孔を有さない。
【0055】
本発明で使用されるポリイミド多孔質膜表面の総膜厚は、特に限定されないが、5μm以上、10μm以上、20μm以上又は25μm以上であってもよく、500μm以下、300μm以下、100μm以下、75μm以下又は50μm以下であってもよい。好ましくは、5~500μmであり、より好ましくは25~75μmである。
【0056】
本発明で使用されるポリイミド多孔質膜の膜厚の測定は、接触式の厚み計で行うことができる。
【0057】
本発明で使用されるポリイミド多孔質膜の空孔率は特に限定されないが、例えば、40%以上95%未満である。
【0058】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の空孔率は、所定の大きさに切り取った多孔質フィルムの膜厚及び質量を測定し、目付質量から下式(2)に従って求めることができる。
【数2】
(式中、Sは多孔質フィルムの面積、dは総膜厚、wは測定した質量、Dはポリマーの密度をそれぞれ意味する。ポリマーがポリイミドである場合は、密度は1.34g/cmとする。)
【0059】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、好ましくは、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は0.01μm~15μmであり、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径は20μm~100μmであり、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記マクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層A及びBの厚さは0.01~20μmであり、前記表面層A及びBにおける孔がマクロボイドに連通しており、総膜厚が5~500μmであり、空孔率が40%以上95%未満である、ポリイミド多孔質膜である。一の実施形態において、マクロボイド層中の少なくとも1つの隔壁は、隣接するマクロボイド同士を連通する、平均孔径0.01~100μmの、好ましくは0.01~50μmの、1つ又は複数の孔を有する。別の実施形態において、隔壁は、そのような孔を有さない。
【0060】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、滅菌されていることが好ましい。滅菌処理としては、特に限定されないが、乾熱滅菌、蒸気滅菌、エタノール等消毒剤による滅菌、紫外線やガンマ線等の電磁波滅菌等任意の滅菌処理などが挙げられる。
【0061】
ポリイミドとは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通常は、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドを意味する。芳香族ポリイミドは芳香族と芳香族とがイミド結合を介して共役構造を持つため、剛直で強固な分子構造を持ち、且つ、イミド結合が強い分子間力を持つために非常に高いレベルの熱的、機械的、化学的性質を有する。
【0062】
本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、好ましくは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを(主たる成分として)含むポリイミド多孔質膜であり、より好ましくはテトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質膜である。「主たる成分として含む」とは、ポリイミド多孔質膜の構成成分として、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミド以外の成分は、本質的に含まない、あるいは含まれていてもよいが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドの性質に影響を与えない付加的な成分であることを意味する。
【0063】
一実施形態において、本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜も含まれる。
【0064】
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを重合して得られる。ポリアミック酸は、熱イミド化又は化学イミド化することにより閉環してポリイミドとすることができるポリイミド前駆体である。
【0065】
ポリアミック酸は、アミック酸の一部がイミド化していても、本発明に影響を及ぼさない範囲であればそれを用いることができる。すなわち、ポリアミック酸は、部分的に熱イミド化又は化学イミド化されていてもよい。
【0066】
ポリアミック酸を熱イミド化する場合は、必要に応じて、イミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。また、ポリアミック酸を化学イミド化する場合は、必要に応じて、化学イミド化剤、脱水剤、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。ポリアミック酸溶液に前記成分を配合しても、着色前駆体が析出しない条件で行うことが好ましい。
【0067】
本明細書において、「着色前駆体」とは、250℃以上の熱処理により一部または全部が炭化して着色化物を生成する前駆体を意味する。
【0068】
上記ポリイミド多孔質膜の製造において使用され得る着色前駆体としては、ポリアミック酸溶液又はポリイミド溶液に均一に溶解または分散し、250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理、好ましくは空気等の酸素存在下での250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理により熱分解し、炭化して着色化物を生成するものが好ましく、黒色系の着色化物を生成するものがより好ましく、炭素系着色前駆体がより好ましい。
【0069】
着色前駆体は、加熱していくと一見炭素化物に見えるものになるが、組織的には炭素以外の異元素を含み、層構造、芳香族架橋構造、四面体炭素を含む無秩序構造のものを含む。
【0070】
炭素系着色前駆体は特に制限されず、例えば、石油タール、石油ピッチ、石炭タール、石炭ピッチ等のタール又はピッチ、コークス、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体、フェロセン化合物(フェロセン及びフェロセン誘導体)等が挙げられる。これらの中では、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体及び/又はフェロセン化合物が好ましく、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体としてはポリアクリルニトリルが好ましい。
【0071】
また、別の実施形態において、本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、上記の着色前駆体を使用せずに、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸溶液を成形した後、熱処理することにより得られる、ポリイミド多孔質膜も含まれる。
【0072】
着色前駆体を使用せずに製造されるポリイミド多孔質膜は、例えば、極限粘度数が1.0~3.0であるポリアミック酸3~60質量%と有機極性溶媒40~97質量%とからなるポリアミック酸溶液をフィルム状に流延し、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬又は接触させて、ポリアミック酸の多孔質膜を作製し、その後当該ポリアミック酸の多孔質膜を熱処理してイミド化することにより製造されてもよい。この方法において、水を必須成分とする凝固溶媒が、水であるか、又は5質量%以上100質量%未満の水と0質量%を超え95質量%以下の有機極性溶媒との混合液であってもよい。また、上記イミド化の後、得られた多孔質ポリイミド膜の少なくとも片面にプラズマ処理を施してもよい。
【0073】
上記ポリイミド多孔質膜の製造において使用され得るテトラカルボン酸二無水物は、任意のテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス〔(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0074】
これらの中でも、特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に用いることができる。
【0075】
上記ポリイミド多孔質膜の製造において使用され得るジアミンは、任意のジアミンを用いることができる。ジアミンの具体例として、以下のものを挙げることができる。
1)1,4-ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエンなどのベンゼン核1つのべンゼンジアミン;
2)4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジクロロベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン;
3)1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)-4-トリフルオロメチルベンゼン、3,3’-ジアミノ-4-(4-フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジ(4-フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(3-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン;
4)3,3’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン。
【0076】
これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0077】
これらの中でも、芳香族ジアミン化合物が好ましく、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミン、1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンを好適に用いることができる。特に、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンが好ましい。
【0078】
本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が240℃以上であるか、又は300℃以上で明確な転移点がないテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを組み合わせて得られるポリイミドから形成されていることが好ましい。
【0079】
本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、以下の芳香族ポリイミドからなるポリイミド多孔質膜であることが好ましい。
(i)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
(ii)テトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
及び/又は、
(iii)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド。
【0080】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、好ましくは、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は0.01μm~15μmであり、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径は20μm~100μmであり、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記マクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層A及びBの厚さは0.01~20μmであり、前記表面層A及びBにおける孔がマクロボイドに連通しており、総膜厚が5~500μmであり、空孔率が40%以上95%未満である、ポリイミド多孔質膜である。ここで、マクロボイド層中の少なくとも1つの隔壁は、隣接するマクロボイド同士を連通する、平均孔径0.01~100μmの、好ましくは0.01~50μmの、1つ又は複数の孔を有する。
【0081】
例えば、国際公開第2010/038873号、特開2011-219585号公報、又は特開2011-219586号公報に記載されているポリイミド多孔質膜も、本発明に使用可能である。
【0082】
6.モジュール化ポリイミド多孔質膜への軟骨細胞の適用
細胞のモジュール化ポリイミド多孔質膜への適用の具体的な工程は特に限定されない。本明細書に記載の工程、あるいは、軟骨細胞を膜状の担体に適用するのに適した任意の手法を採用することが可能である。限定されるわけではないが、本発明の方法において、モジュール化ポリイミド多孔質膜への軟骨細胞の適用(播種)は、例えば、以下のような態様を含むものであってもよい。
(1)懸濁された軟骨細胞を含む第1培地を、モジュール化ポリイミド多孔質膜に適用する工程、
(2)前記モジュール化ポリイミド多孔質膜を細胞培養可能な温度に維持し、前記モジュール化ポリイミド多孔質膜中のポリイミド多孔質膜に前記細胞を吸着させる工程、及び、
(3)前記細胞を吸着させた前記モジュール化ポリイミド多孔質膜を、浮遊培養用の細胞培養容器内に固定されていない状態で培地中に浮遊させ、前記モジュール化ポリイミド多孔質膜を旋回運動、往復運動、上下運動、波動形揺動運動、回転運動又はそれらの運動を組み合わせた状態で振盪及び/又は攪拌しながら第2培地にて培養する工程、
を含む。
【0083】
モジュール化ポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養のモデル図を図4に示す。図4は理解を助けるための図であり、各要素は実寸ではない。本発明の細胞の培養方法では、モジュール化ポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、培養することにより、ポリイミド多孔質膜の有する内部の多面的な連結多孔部分や表面に、大量の細胞が生育するため、大量の細胞を簡便に培養することが可能となる。また、本発明の細胞の培養方法では、細胞培養に用いる培地の量を従来の方法よりも大幅に減らしつつ、大量の細胞を培養することが可能となる。例えば、ポリイミド多孔質膜の一部分又は全体が、細胞培養培地の液相と接触していない状態であっても、大量の細胞を長期にわたって培養することができる。また、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和に対して、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積を著しく減らすことも可能となる。
【0084】
本明細書において、細胞を含まないポリイミド多孔質膜がその内部間隙の体積も含めて空間中に占める体積を「見かけ上ポリイミド多孔質膜体積」と呼称する(図4参照)。そして、ポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、ポリイミド多孔質膜の表面及び内部に細胞が担持された状態において、ポリイミド多孔質膜、細胞、及びポリイミド多孔質膜内部に浸潤した培地が全体として空間中に占める体積を「細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積」と呼称する(図4参照)。膜厚25μmのポリイミド多孔質膜の場合、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積は、見かけ上ポリイミド多孔質膜体積より、最大で50%程度大きな値となる。本発明の方法では、1つの細胞培養容器中に複数のポリイミド多孔質膜を収容して培養することができるが、その場合、細胞を担持した複数のポリイミド多孔質膜のそれぞれについての細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和を、単に「細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和」と記載することがある。
【0085】
前記モジュール化ポリイミド多孔質膜を用いることにより、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することが可能となる。また、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の1000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。さらに、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の100倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。そして、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリイミド多孔質膜体積の総和の10倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。
【0086】
つまり、本発明によれば、細胞培養する空間(容器)を従来の二次元培養を行う細胞培養装置に比べて極限まで小型化可能となる。また、培養する細胞の数を増やしたい場合は、積層するポリイミド多孔質膜の枚数を増やす等の簡便な操作により、柔軟に細胞培養する体積を増やすことが可能となる。本発明に用いられるポリイミド多孔質膜を備えた細胞培養装置であれば、細胞を培養する空間(容器)と細胞培養培地を貯蔵する空間(容器)とを分離することが可能となり、培養する細胞数に応じて、必要となる量の細胞培養培地を準備することが可能となる。細胞培養培地を貯蔵する空間(容器)は、目的に応じて大型化又は小型化してもよく、あるいは取り替え可能な容器であってもよく、特に限定されない。
【0087】
本発明の方法において、例えば、ポリイミド多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数が、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして、培地1ミリリットルあたり1.0×10個以上、1.0×10個以上、2.0×10個以上、5.0×10個以上、1.0×10個以上、2.0×10個以上、5.0×10個以上、1.0×10個以上、2.0×10個以上、5.0×10個以上、1.0×10個以上、2.0×10個以上、または5.0×10個以上となるまで培養され得る。
【0088】
本明細書において、「培地」とは、細胞、特に動物細胞を培養するための細胞培養培地のことを指す。培地は、細胞培養液と同義の意味として用いられる。そのため、本発明において用いられる培地とは、液体培地のことを指す。培地の種類は、通常使用される培地を使用することが可能であり、培養する細胞の種類によって適宜決定される。
【0089】
本発明の細胞の培養において、該工程(1)で用いられる第1培地は、細胞を培養できる培地であれば特に限定されないが、例えば、CHO細胞を培養する場合であれば、Irvine Scientific社製BalanCD(商標) CHO GROWTH Aを用いることができる。
【0090】
本発明の細胞の培養において、該工程(2)の細胞培養可能な温度とは、細胞がポリイミド多孔質膜に吸着可能な温度であればよく、10℃~45℃、好ましくは、15℃~42℃、より好ましくは20℃~40℃、さらに好ましくは25℃~39℃である。また、本発明の細胞の培養方法において、該工程(2)の細胞を吸着させる時間は、例えば、5分~24時間、好ましくは10分~12時間、より好ましくは15分~500分である。
【0091】
本発明の細胞の培養において、該工程(2)は、振とう及び/又は攪拌しながら、該モジュール化ポリイミド多孔質膜の該ポリイミド多孔質膜へ細胞を吸着させてもよく、静置して該モジュール化ポリイミド多孔質膜の該ポリイミド多孔質膜へ細胞を吸着させてもよい。振とうする方法は特に限定されないが、例えば、市販の振とう装置上に、本発明のモジュール化ポリイミド多孔質膜と細胞とを含む培養容器を載置し、振とうしてもよい。振とうは、継続的又は断続的に行ってもよく、例えば、振とうと静置を交互に繰り返してもよく、適宜調整すればよい。攪拌する方法は特に限定されないが、例えば、本発明のモジュール化ポリイミド多孔質膜と細胞とを市販のスピナーフラスコ内に入れ、スターラーを回転させることで攪拌してもよい。攪拌は、継続的又は断続的に行ってもよく、例えば、攪拌と静置を交互に繰り返してもよく、適宜調整すればよい。
【0092】
本発明の細胞の培養において、該工程(3)で用いられる第2培地は、接着細胞の培養に用いられる培地が選択され、例えば、D-MEM、E-MEM、IMDM、Ham’s F-12などを用いることができるが、これに限定されない。第2培地は、細胞が基材へ接着するのを阻害する成分、例えば、界面活性剤が含まれない培地が好ましい。使用される第2培地は、細胞の種類によって適宜選択される。該工程(3)において、第2培地で培養することで、該工程(2)でポリイミド多孔質膜に吸着された細胞が、該ポリマー多孔性膜内に接着することを促進する。これによって、細胞が該ポリイミド多孔質膜から脱落することなく安定的に培養可能である。また、本発明の細胞の培養方法は、前述のポリイミド多孔質膜を備えたモジュール化ポリイミド多孔質膜を使用する。本発明の細胞の培養方法で用いられるモジュール化ポリイミド多孔質膜は、ポリイミド多孔質膜がケーシングに収容されていることによって、膜状のポリイミド多孔質膜がケーシング内で継続的に形態が変形することが防止されている。これによって、ポリイミド多孔質膜内で生育される細胞にストレスが加えられることが防止され、アポトーシス等が抑制されて安定的且つ大量の細胞を培養することが可能となる。
【0093】
本発明の細胞の培養において、該工程(3)は、細胞を培養する培養容器、培養装置及びシステム等であれば、市販のものを適用することが可能である。例えば、培養容器が可撓性バッグ型培養容器であってもよく、また、撹拌式リアクター、例えばスピナーフラスコ等の培養容器で培養することも可能である。その他、培養容器としては、開放容器にも適用可能であり、閉鎖容器にも適用可能である。例えば、細胞培養用のシャーレ、フラスコ、プラスチックバッグ、試験管から大型のタンクまで適宜利用可能である。例えば、BD Falcon社製のセルカルチャーディッシュやサーモサイエンティフィック社製のNunc セルファクトリー等が含まれる。また、本発明の細胞の培養方法において、モジュール化ポリイミド多孔質膜を用いることにより、生来浮遊培養が可能でなかった細胞についても浮遊培養向け装置にて、浮遊培養類似状態での培養を行うことが可能となる。浮遊培養用の装置としては、例えば、コーニング社製のスピナーフラスコ等の撹拌式リアクターが使用可能である。また、該工程(3)は、本明細書に記載の細胞培養装置で実施してもよい。
【0094】
本発明の細胞の培養において、該工程(3)は、該モジュール化ポリイミド多孔質膜を含む培養容器に連続的に培地を添加し回収するような連続循環型の装置を用いて実行することも可能である。
【0095】
本発明の細胞の培養において、該工程(3)は、該モジュール化ポリイミド多孔質膜を含む培養容器の外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系であってもよい。その際、細胞培養培地が細胞培養培地供給手段と細胞培養容器との間を循環する系とすることができる。
【0096】
7.軟骨細胞の培養条件
本発明の方法において、モジュール化ポリイミド多孔質膜を浮遊培養用の細胞培養容器内に固定されていない状態で培地中に浮遊させ、前記モジュール化ポリイミド多孔質膜を旋回運動、往復運動、上下運動、波動形揺動運動、回転運動又はそれらの運動を組み合わせた状態で攪拌可能な培養容器、培養装置及びシステム等であれば、市販のものを適用することが可能である。例えば、培養容器が可撓性バッグ型培養容器であってもよく、また、撹拌式リアクター、例えばスピナーフラスコ等の培養容器で培養することも可能である。その他、培養容器としては、開放容器にも適用可能であり、閉鎖容器にも適用可能である。例えば、細胞培養用のシャーレ、フラスコ、プラスチックバッグ、試験管から大型のタンクまで適宜利用可能である。例えば、BD Falcon社製のセルカルチャーディッシュやサーモサイエンティフィック社製のNunc セルファクトリー等が含まれる。また、本発明の細胞の培養方法において、モジュール化ポリイミド多孔質膜を用いることにより、生来浮遊培養が可能でなかった細胞についても浮遊培養向け装置にて、浮遊培養類似状態での培養を行うことが可能となる。浮遊培養用の装置としては、例えば、コーニング社製のスピナーフラスコ等の撹拌式リアクターが使用可能である。
【0097】
一実施態様において、本発明で用いられ得る細胞培養容器は、フラスコ、培養ボトル、培養ディッシュ、培養バッグ、撹拌式リアクターからなる群から選択される培養容器であってもよい。
【0098】
本明細書において、「旋回運動」とは、水平面と平行な面において培養容器を旋回させて、培養容器内の液体を攪拌させる運動であり、本発明に旋回運動を適用する場合は、市販の培養シェーカー、例えば旋回振盪シェーカーを用いればよい。本発明において適用される旋回運動は、例えば40rpm~150rpmで実施してもよい。本発明において適用される旋回運動は、例えば、旋回運動の直径が0.5~10cmにて実施されるものであってもよい。
【0099】
本明細書において、「往復運動」とは、培養容器を左右又は前後に移動させて培養容器内の液体を攪拌させる運動であり、本発明に往復運動を適用する場合は、市販の培養シェーカー、例えば往復振盪シェーカーを用いればよい。本発明において適用される往復運動は、例えば40往復/分~150往復/分で実施されるものであってもよい。本発明において適用される往復運動の移行距離は、例えば、0.5~10cmにて実施されるものであってもよい。
【0100】
本明細書において、「上下運動」とは、培養容器を垂直方向に上下に移動させて培養容器内の液体を攪拌させる運動であり、上下運動を適用する場合は、市販の培養シェーカー、例えば上下振盪シェーカーを用いればよい。本発明において適用される上下運動は、例えば40往復/分~150往復/分で実施されるものであってもよい。本発明において適用される往復運動の移行距離は、例えば、0.5~10cmにて実施されるものであってもよい。
【0101】
本明細書において、「波動形揺動運動」とは、前後及び/又は左右のシーソー運動により、培養容器内の液体に波動を生じさせて攪拌する運動である。波動形揺動運動を実施するためには、市販の培養シェーカー、例えばWAVEリアクターを用いればよい。本発明において適用される波動形揺動運動は、例えば、細胞培養容器の底面を4度~15度の範囲で傾斜させて揺動するものであってもよい。また、本発明において適用される波動形揺動運動は、例えば、5rpm~25rpmにて実施されるものであってもよい。
【0102】
本明細書において、「回転運動」とは、培養容器内の液体を、物理的な攪拌手段を回転させることによって培養容器内の液体を攪拌させる運動である。回転運動を実施するためには、例えば撹拌式リアクター、例えば、スピナーフラスコ、又は攪拌翼を有する据え置き攪拌型リアクターなどを用いればよい。本発明において適用される回転運動は、例えば、10rpm~300rpmにて実施されるものであってもよい。
【0103】
本発明において、細胞が適用されたモジュール化ポリイミド多孔質膜は、旋回運動、往復運動、上下運動、波動形揺動運動、回転運動又はそれらの運動を組み合わせた状態で振盪及び/又は攪拌しながら培養される。一実施態様において、本発明は、培養容器として培養バッグが用いられ、培養シェーカーを用いることにより、モジュール化ポリイミド多孔質膜を旋回運動及び波動形揺動運動させた状態で攪拌しながら、培養する。これにより、安定且つ効率的にスキャフォールドフリー三次元軟骨組織体を製造することが可能となる。
【0104】
一実施態様における本発明では間歇的に培地を交換する事で、長期培養を指向する事も可能である。
【0105】
本発明において、軟骨細胞を連続的に培養してもよい。例えば、本発明の方法における培養は、モジュール化ポリイミド多孔質膜に連続的に培地を添加し回収するような連続循環もしくは開放型の装置を用いて、空気中にポリイミド多孔質膜を露出させるような型式で実行することも可能である。
【0106】
本発明において、軟骨細胞の培養は、細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行ってもよい。その際、細胞培養培地が細胞培養培地供給手段と細胞培養容器との間を循環する系であることができる。
【0107】
本発明は、細胞培養装置をインキュベータ内に設置し、軟骨細胞を培養することを含む、態様を含む。また、本発明は、ベンチトップリアクターの様な単独型細胞培養装置中で、細胞を培養することを含む、態様を含む。細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行う場合、その系は、細胞培養容器である培養ユニットと細胞培養培地供給手段である培地供給ユニットとを含む細胞培養装置であってよく、ここで、培養ユニットは細胞を担持するための1又は複数のモジュール化ポリイミド多孔質膜を収容する培養ユニットであって、培地供給口および培地排出口を備えた培養ユニットであり、培地供給ユニットは培地収納容器と、培地供給ラインと、培地供給ラインを介して培地を送液する送液ポンプとを備え、ここで培地供給ラインの第一の端部は培地収納容器内の培地に接触し、培地供給ラインの第二の端部は培養ユニットの培地供給口を介して培養ユニット内に連通している、培地供給ユニットである、細胞培養装置であってよい。
【0108】
また、上記細胞培養装置において、培養ユニットは培地供給ライン、送液ポンプ、空気供給口及び空気排出口を備えない培養ユニットであってよく、また、培地供給ライン、送液ポンプ、空気供給口及び空気排出口を備えた培養ユニットであってよい。培養ユニットは空気供給口及び空気排出口を備えないものであってもよい。さらに、上記細胞培養装置において、培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地収納容器に接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、培地が培地供給ユニットと培養ユニットとを循環可能であってよい。
【0109】
II.キット
本発明はさらに、モジュール化ポリイミド多孔質膜を含む、本発明の方法に使用するためのキットに関する。本発明のキットは、モジュール化ポリイミド多孔質膜の他に、軟骨細胞の培養に必要な構成要素を適宜含みうる。例えば、モジュール化ポリイミド多孔質膜に適用する細胞、細胞培養培地、連続的培地供給装置、連続的培地循環装置、細胞培養装置、軟骨組織を確認する為の評価手段、キットの取り扱い説明書などが含まれる。
【0110】
III.使用
本発明はさらに、モジュール化ポリイミド多孔質膜の上述した本発明の方法のための使用、を含む。
【0111】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0112】
以下の実施例で使用されたポリマー多孔質膜は、ポリイミド多孔質膜であり、テトラカルボン酸成分である3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)とジアミン成分である4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とから得られるポリアミック酸溶液と、着色前駆体であるポリアクリルアミドとを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより、調製された。得られたポリイミド多孔質膜は、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、当該表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であり、表面層Aに存在する孔の平均孔径は19μmであり、表面層Bに存在する孔の平均孔径は42μmであり、膜厚が25μmであり、空孔率が74%であった。
【0113】
1.実験方法
1-1.培養方法
<実施例>
IWAKI コラーゲンIコート ディッシュで培養した2継代目の ArticularEngineering社製ヒト軟骨細胞(Y39_)をGibco社製Trypsin-EDTA(0.05%),phenol redを使用して剥がし、培地(PromoCell社製Chondrocyte growth mediumにグルコースを注加し、3000mg/Lに調整した培地)で懸濁した(7.51×10cells/mL)。
【0114】
コーニング社製150mLストレージボトルを4つ用意し、各ボトルに湿潤・滅菌済みモジュール化ポリイミド多孔質膜(図5、以下、本実施例において「デバイス1」という。)を1個と培地(コージンバイオ株式会社製ゼノフリー培地;KBM ADSC-4にグルコースを注加し、3000mg/Lに調整した培地)を20mL入れた後、37℃に設定したN-BIOTEK社製加湿対応シェーカー搭載COインキュベーター(aniCell)内に据え、80rpmで1時間振盪し、播種準備を完了した。各ボトルに上記細胞懸濁液(7.51×10cells/mL)を719μL加えて1日振盪培養を行った(播種数:各ボトル5.4×10cells)。翌日、各ボトルにグルコース調整済みKBM ADSC-4培地を10mL注加した。その後、ボトル2個をそのまま80rpmで振盪培養し、残りのボトル2個をアステック社製COインキュベーター(APM-30D)に移して静置培養を行った。培地交換は、グルコース調整済みKBM ADSC-4培地を用いて週2回の頻度で行った。
【0115】
<比較例:アテロコラーゲン包埋>
上記細胞懸濁液(7.51×10cells/mL)を220×g、3分間遠心して細胞ペレット作製した後、培地で懸濁して細胞懸濁液を作製した(4.0×10cells/mL)。氷上にて前記細胞懸濁液と3%アテロコラーゲン溶液(高研)とを1:1で混合した。FALCON社製ディッシュを2個用意し、各ディッシュの中央に軟骨細胞を含むアテロコラーゲン溶液(2.0×10cells/mL)を270μL滴下した(播種数:各デッシュ5.4×10cells)。ディッシュをアステック社製COインキュベーター(APM-30D)内に据え、1~2時間静置してゲル化させた後、各デッシュにグルコース調整済みKBM ADSC-4培地を12mL注加した。培地交換は、グルコース調整済みKBM ADSC-4培地を用いて週2回の頻度で行った。
【0116】
1-2.DNAの定量
培養50~52日目の軟骨自己組織体(実施例)又はアテロコラーゲンゲル(比較例)を回収し、PBSを4mL加えて洗浄した後、15mLのチューブ内に移し、Lysis bufferを800μL加えてホモジナイズした。各チューブにproteinaseKを80μL加えて混合し、恒温振盪機内に据え55℃で一晩静置した。翌日、5M NaClを293μL加えて、15000×g、10分間遠心し、上清を新しいチューブに回収した。上清にIsopropanolを587μL加えて、15000×g、3分間遠心して沈殿物を回収した。沈殿物に滅菌水を880μL加え、37℃のウォーターバスで2時間保温し、沈殿物を溶解させた。その後、RNase (10mg/mL)を8μLを加えて37℃で1hrインキュベートした後、5M NaClを293μL加えて、15000×g、10分遠心し、上清を新しいチューブに回収した。回収した上清にIsopropanolを587μL加えて、15000×g、3分遠心して沈殿物を回収し、70%エタノール1mLで2回洗浄した。沈殿物を風乾後、滅菌水を100μL加えて37℃で沈殿物を溶解させた。得られた水溶液中のDNAの濃度をnanodropで測定した。
【0117】
1-3.グルコサミノグリカンの定量
サンプルをPBSで洗浄後、ホモジナイズし、papain extraction reagentを2mL加えて、65℃ 27hr反応させた後、10000×g、10分遠心し、得られた上清中のGAGをBlyscan Glycosaminoglycan Assay Kitを使用して定量した。
【0118】
2.実験結果
上記の結果、以下の性質を有する軟骨組織体が得られた(図6及び7)。
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7