(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241119BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/18
B41J2/14 607
(21)【出願番号】P 2024555156
(86)(22)【出願日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2024008045
【審査請求日】2024-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2023039518
(32)【優先日】2023-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英生
(72)【発明者】
【氏名】澤田 勝利
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008397(WO,A1)
【文献】特開2019-064037(JP,A)
【文献】特開2019-038235(JP,A)
【文献】特開2016-203614(JP,A)
【文献】特開2015-131475(JP,A)
【文献】特開2001-277496(JP,A)
【文献】特開2014-065184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通供給流路から複数のノズル部へインクを個別供給する複数の個別供給流路と、
前記複数のノズル部から共通循環流路へインクを個別排出させる複数の個別循環流路と、を有し、
全体の圧力損失抵抗が前記複数の個別供給流路よりも大きい前記複数の個別循環流路の個々の圧力損失抵抗は均一とされ、前記複数の個別供給流路の個々の圧力損失抵抗は、前記複数のノズル部の圧力が均一とされるように、不均一とされている、
インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記全体の圧力損失抵抗は、圧力損失抵抗の平均値であり、
前記複数の個別循環流路の圧力損失抵抗の平均値は、前記複数の個別供給流路の圧力損失抵抗の平均値の2倍以上である、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記共通供給流路の入口に対して相対的に遠い位置で前記共通供給流路に連通する一の個別供給流路は、前記共通供給流路の入口に対して相対的に近い位置で前記共通供給流路に連通する他の個別供給流路よりも、小さい圧力損失抵抗を有する、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記複数の個別供給流路の圧力損失抵抗は、一以上の個別供給流路からなる群を単位として、不均一とされている、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記複数の個別供給流路は、前記共通供給流路に上流側で連通する一以上の個別供給流路からなる上流側の群と、前記共通供給流路に下流側で連通する一以上の個別供給流路からなる下流側の群と、を含み、前記下流側の群の全体の圧力損失抵抗は、前記上流側の群の全体の圧力損失抵抗よりも低減されている、
請求項4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
一の個別供給流路と他の個別供給流路とで、長さ、断面積、曲がり角度及び断面アスペクト比のうち少なくとも一つを異ならせることにより、前記複数の個別供給流路の個々の圧力損失抵抗が不均一とされている、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
一の個別供給流路と他の個別供給流路とで、絞り部の径、絞り部の長さ及び絞り部の個数のうち少なくとも一つを異ならせることにより、前記複数の個別供給流路の個々の圧力損失抵抗が不均一とされている、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記複数の個別循環流路は、屈曲部を有する、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記屈曲部の曲がり角度が均一である、
請求項8に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記複数の個別供給流路の個々の圧力損失抵抗の不均一により、非吐出時の前記複数のノズル部の圧力分布が、-0.05kPaから-1.0kPaまでの範囲に収められる、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
25mPa・s以上の粘度を有するインクが使用される場合に、前記複数の個別供給流路の個々の圧力損失抵抗の不均一化により、非吐出時の前記複数のノズル部の圧力が均一化される、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
使用されるインクは、D90で0.5μm以上の粒径の粒子を含有する、
請求項11に記載のインクジェットヘッド。
【請求項13】
シアモードのインクジェットヘッドである、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項14】
請求項1に記載のインクジェットヘッドを備え、前記複数の個別循環流路及び前記共通循環流路によりインクを循環させながら前記共通供給流路及び前記複数の個別供給流路によりインクを前記複数のノズル部に供給し、前記複数のノズル部からインクを吐出させて描画を行う描画部を有する、
インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のノズル部を有するインクジェットヘッドと用紙等の記録媒体とを相対移動させながら、ノズル部のノズルからインクを吐出(「射出」ともいう)させて記録媒体に着弾させることによって、記録媒体に対して描画を行う、インクジェット記録装置が、従来から知られている。インクジェット記録装置は一般に、内部にインクを貯留可能な複数のノズル部と、これら複数のノズル部にインクを供給する供給流路と、を有し、ノズル部内の圧力を可変させて、ノズル部内のインクをノズルから吐出させる。また、インクジェット記録装置には、インク供給量調整のため、ノズル部に供給されるインクの一部を回収して再供給するための循環流路(排出流路ともいう)が設けられる場合がある。
【0003】
例えば特許文献1に記載されたインクジェット記録装置では、長手方向に配列された複数のノズル部に夫々連通し互いに平行な共通供給流路及び共通循環流路において、インクが互いに逆方向に流される。これにより、供給側の圧力損失抵抗と循環側の圧力損失抵抗とが各ノズル部の位置で同等となり双方の圧力分布が相殺され、全ノズル部のノズル圧の均一化が図られている。
【0004】
また、例えば特許文献2に記載されたインクジェット記録装置では、共通供給流路と各ノズル部とをつなぐ複数の個別供給流路の圧力損失が、個別供給流路同士の長さ等の相違により不均一とされると共に、共通供給流路と各ノズル部とをつなぐ複数の個別循環流路の圧力損失も、個別循環流路同士の長さ等の相違により不均一とされている。これにより、全ノズル部の圧力の均一化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-61768号公報
【文献】特開2015-131475号公報
【文献】国際公開第2018/08397号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ノズル部で発生する圧力が排出側の流路に逃げたり他のノズル部へ伝搬したりしないように、個別循環流路の圧力損失を個別供給流路の圧力損失よりも大きくする構成が採られる場合がある。このような構成の一例として、個別循環流路の断面積等を相対的に小さくして、個別供給流路の断面積等を相対的に大きくする構成が挙げられる。これは、管路の断面積が小さくなるにつれて、管路を流れる流体の圧力損失が大きくなることに基づいている。
【0007】
この点につき、例えば特許文献1記載のインクジェット記録装置では、共通供給流路と共通循環流路とでインクの流れを互いに逆方向として供給側及び排出側の圧力損失抵抗を同等とする構成が採られているが、この構成では、排出側の圧力損失を供給側の圧力損失よりも大きくできないため、上記のようなノズル部で発生する圧力の循環流路への逃げや他のノズル部への伝播を抑制できない課題がある。
【0008】
また、例えば特許文献2記載のインクジェット記録装置では、供給側及び排出側の夫々で個別流路同士の圧力損失を異ならせる構成が採られている。しかしながら、上記のように個別循環流路の断面積等を相対的に小さくする構成では、個別循環流路が微細である。そのため、所望の圧力損失分布が得られるように個々の個別循環流路を互いに異なる形状等で形成することは、製造コスト及び製造ばらつきを踏まえると、事実上困難である。よって、ノズル部で発生する圧力の循環流路への逃げや他のノズル部への伝播を抑制できないおそれがある。
【0009】
さらに、管路を流れる流体の圧力損失は、流体の粘度に比例して大きくなる。よって、従来のインクジェット記録装置において高粘度のインクが使用される場合、共通供給流路の上流側(入口側)と下流側とにおける圧力差が、非常に大きくなり、その圧力差がそのままノズル部間の圧力差(ノズル部間の圧力分布)として残ってしまう。非吐出時にノズル部間に圧力分布が生じると、吐出時に駆動しても全ノズル部の圧力を所望の範囲内に設定できない場合が発生する。その結果、ノズル部でのインク溢れ或いは気泡巻き込み等の吐出不良を引き起こすおそれがある。
【0010】
総じて、従来のインクジェット記録装置には、ノズル部の吐出安定性の向上に一定の限界があった。
【0011】
本発明の目的は、ノズル部の吐出安定性をより確実に確保することができるインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るインクジェットヘッドの一態様は、
共通供給流路から複数のノズル部へインクを個別供給する複数の個別供給流路と、
前記複数のノズル部から共通循環流路へインクを個別排出させる複数の個別循環流路と、を有し、
全体の圧力損失抵抗が前記複数の個別供給流路よりも大きい前記複数の個別循環流路の個々の圧力損失抵抗は均一とされ、前記複数の個別供給流路の個々の圧力損失抵抗は、前記複数のノズル部の圧力が均一とされるように、不均一とされている。
【0013】
本発明に係るインクジェット記録装置の一態様は、
上記のインクジェットヘッドを備え、前記複数の個別循環流路及び前記共通循環流路によりインクを循環させながら前記共通供給流路及び前記複数の個別供給流路によりインクを前記複数のノズル部に供給し、前記複数のノズル部からインクを吐出させて描画を行う描画部を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ノズル部の吐出安定性をより確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るインクジェットヘッドを備えるインクジェットプリンタの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、インクジェットプリンタの制御系の主要部を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、インクジェットプリンタのヘッドユニットにおけるインクジェットヘッドの配列構成を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、インクジェットヘッドの外観を示す斜視図である。
【
図5A】
図5Aは、インクジェットヘッドにおけるヘッドチップの短手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図である。
【
図5B】
図5Bは、インクジェットヘッドにおけるヘッドチップの長手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、インクジェットヘッドにおけるノズル周辺の平面構成を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の変形例1に係るインクジェットヘッドにおけるヘッドチップの長手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の変形例2に係るインクジェットヘッドにおけるヘッドチップの長手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態の変形例3に係るインクジェットヘッドにおけるヘッドチップの長手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態の変形例4に係るインクジェットヘッドにおけるノズル周辺の平面構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
[インクジェットプリンタ1]
図1は、本実施の形態に係るインクジェットヘッドを備えるインクジェットプリンタの概略構成を示す図であり、
図2は、インクジェットプリンタの制御系の主要部を示すブロック図である。以下説明するインクジェットプリンタは、インクジェット記録装置の一例である。
【0018】
インクジェットプリンタ1は、
図1、
図2に示すように、搬送部10、供給部20、排出部30、インク供給部40、描画部50、読み取り部60、操作表示部70、入出力インターフェース80、制御部90等を備える。
【0019】
搬送部10は、搬送ベルト11、駆動ローラー12、従動ローラー13等の搬送に関する複数の部材を有する。搬送部10は、搬送ベルト11等の複数の部材の搬送動作により、記録媒体Mを搬送する。具体的には、搬送部10において、搬送ベルト11は、駆動ローラー12及び従動ローラー13に張架され、駆動ローラー12を回転駆動することにより、駆動される。これにより、供給部20から供給された記録媒体Mは、搬送ベルト11の搬送面11a上に載置された状態で描画部50に搬送され、描画部50で描画(画像形成又は印刷ともいう)された後、排出部30に搬送される。
【0020】
記録媒体Mは、インクジェットヘッド55から吐出されるインクを定着させることが可能な種々の媒体を用いることができる。記録媒体Mは、例えば、シート状の紙、布(布帛)、樹脂等の媒体である。なお、記録媒体Mとしては、シート状の媒体に限らず、ロール状の紙、布、樹脂等の媒体であってもよい。樹脂製の記録媒体Mの一例としては、PCB(Printed Circuit Board)の基板等が挙げられる。PCB(Printed Circuit Board)の基板の場合、PCB基板へのソルダーレジスト又はマーキングインクの印刷に、インクジェットプリンタ1による描画を適用することができる。その他にも、自動車の金属製ボディ、建材(外壁、屋根材、タイル等)、製缶(食料や飲料等を収容するための金属缶)等も、描画対象となり得る記録媒体Mとして挙げられる。各種建材や各種金属製品の場合、各種建材や各種金属製品への塗装に、インクジェットプリンタ1による描画を適用することができる。
【0021】
また、ここでは、一例として、搬送ベルト11で記録媒体Mを搬送する搬送部10を例示しているが、搬送部10は、搬送ベルト11に限らず、ドラムやローラーで記録媒体Mを搬送する構成でもよい。
【0022】
供給部20は、複数枚の記録媒体Mを積載して格納する供給積載部21、供給積載部21から搬送部10に記録媒体Mを搬送して供給する供給搬送部22等を有する。供給積載部21は、昇降可能に構成されており、最上位の記録媒体Mが供給搬送部22により搬送部10へ搬送されると、当該搬送後に最上位になった記録媒体Mが供給搬送部22に搬送可能になるように、供給積載部21は上昇する。
【0023】
排出部30は、複数枚の記録媒体Mを積載して格納する排出積載部31、搬送部10から排出された記録媒体Mを排出積載部31へ搬送する排出搬送部32等を有する。排出積載部31は、昇降可能に構成されており、記録媒体Mが排出搬送部32から排出積載部31へ搬送されると、排出積載部31は降下する。
【0024】
供給搬送部22や排出搬送部32は、例えば、複数のローラーを有し、ローラーを回転させることで、記録媒体Mを搬送する。供給搬送部22や排出搬送部32は、ローラーに限らず、ベルトで構成されていてもよいし、ローラーやベルトの組み合わせで構成されていてもよい。
【0025】
なお、記録媒体Mとして、ロール状の媒体を用いる場合は、供給積載部21や排出積載部31に代えて、ロール状の媒体が巻かれた状態で格納されている巻き出しローラーやロール状の媒体を巻き取る巻き取りローラーを用いる。ロール状の媒体は、巻き出しローラーを回転させることで搬送部10へ搬送され、巻き取りローラーを回転させることで巻き取りローラーに巻き取られる。
【0026】
また、搬送部10と排出部30との間に、描画部50で画像形成された記録媒体Mに対する後処理を行う後処理装置を設けてもよい。後処理装置の一つとして、インクを記録媒体Mに定着させる定着装置がある。インクとして、例えば、紫外線硬化型インクを用いる場合には、記録媒体Mに紫外線を照射して、インクを記録媒体Mに定着させる定着装置を用いる。また、インクとして、例えば、水性インクや溶剤インクを用いる場合には、乾燥等の方法でインクを記録媒体Mに定着させる定着装置を用いる。また、後処理装置としては、定着装置以外の装置、例えば、記録媒体Mを所望の長さに切断する切断装置等を用いてもよい。
【0027】
なお、搬送部10、供給部20及び排出部30の構成は、描画対象となる記録媒体Mの種類に応じて種々変更して実施可能である。
【0028】
インク供給部40は、後述する描画部50の第1サブタンク52aへインクを供給する装置である。インク供給部40は、メインタンク41や図示省略したインクの供給に関する部材(例えば、ポンプやバルブ等)を有する。メインタンク41は、第1サブタンク52aへ供給するインクを室温で貯蔵している。インク供給部40は、ポンプ等(図示省略)を用い、流路42を介して、メインタンク41から第1サブタンク52aへインクを供給する。
【0029】
本実施の形態では、インクとしては、温度変化により可逆的にゾル-ゲル相転移をするゲル成分であるワックスを含むゲルインク(相転移インク)を用いる。例えば、室温においてゲル状であり、加熱された相転移温度以上の温度においてゾル状であり、エネルギー線が照射されることにより硬化するエネルギー線硬化型のゲルインク(一例として、紫外線硬化型のゲルインク等)を用いることができる。
【0030】
加熱部95は、記録媒体Mの搬送方向Tにおける描画部50の上流側に配置され、搬送ベルト11により搬送される記録媒体Mを所定温度に加熱する。加熱部95は、制御部90に接続され(
図2参照)、制御部90に制御される。
【0031】
例えば、加熱部95は、赤外線ヒーター等を有し、制御部90から供給される制御信号に基づいて、赤外線ヒーターに電力が供給されることにより、赤外線ヒーターを発熱させて、記録媒体Mを所定温度に加熱する。所定温度は、本変形例では、ゲルインクのゲル成分の相転移温度以上の温度である。使用するインクの種類によっては、加熱部95の配置を不要としてもよい。なお、以下の説明では、「ゲルインク」を単に「インク」という。
【0032】
ここでは、搬送ベルト11の上面側に加熱部95を配置しているが、当該加熱部95に代えて(又は、加えて)、搬送ベルト11の下面側に加熱部を設け、搬送ベルト11を加熱して、記録媒体Mを加熱するようにしてもよい。
【0033】
描画部50は、キャリッジ51、第1サブタンク52a、第2サブタンク52b、流路53a、53b、53c、ヘッド駆動部54、インクジェットヘッド(以降、単にヘッドと呼ぶ)55等を有する(
図1、
図2を参照)。
【0034】
なお、
図1では、図を簡潔にするため、1色分のインク供給部40及び描画部50を図示しているが、インク供給部40及び描画部50は、使用する色数に応じて配置される。例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色を使用する場合には、4色分のインク供給部40及び描画部50が配置され、描画部50は、搬送方向Tに沿って、所定の間隔で並ぶように配置される。
【0035】
また、第2サブタンク52b及びヘッド55は、第1サブタンク52aの下流側に複数接続されるが、
図1では、図を簡潔にするため、それぞれ1つずつ図示している。
【0036】
キャリッジ51は、第1サブタンク52a、第2サブタンク52b、流路53a、53b、53c、ヘッド駆動部54、ヘッド55や画像形成に必要な機器や部材等を内部に保持する筐体である。また、キャリッジ51は、図示は省略するが、キャリッジ51内のインクを、当該インクのゲル成分の相転移温度以上の温度に加熱して維持するインク加熱部を有する。
【0037】
第1サブタンク52aは、メインタンク41の下流側に接続される。第1サブタンク52aは、メインタンク41から供給されたインクを、キャリッジ51内において貯蔵している。サブタンク52内のインクは、キャリッジ51内のポンプ等(図示省略)を用い、流路53aを介して、第2サブタンク52bへ供給される。
【0038】
第2サブタンク52bは、第1サブタンク52aの下流側に複数接続される。第2サブタンク52bは、第1サブタンク52aから供給されたインクを、キャリッジ51内において貯蔵している。第2サブタンク52b内のインクは、キャリッジ51内のポンプ等(図示省略)を用い、流路53bを介して、後述するヘッド55のマニホールド56へ供給される。また、マニホールド56へ供給されたインクの一部は、流路53cを介して、第2サブタンク52bへ環流(回収)され、マニホールド56への再供給が可能となる。つまり、インクは、第2サブタンク52bとマニホールド56との間において、流路53b、53cを介して循環する。この循環流路には、いずれも後述する複数の個別循環流路111a、共通循環流路112b及び垂直循環流路112c(
図5A、
図5B及び
図6を参照)も含まれる。
【0039】
ヘッド駆動部54は、後述する制御部90の制御に基づいて、形成する画像の画像データに応じた駆動電圧を、後述するヘッド55の圧電素子58に出力する。ヘッド駆動部54からの駆動電圧により、圧電素子58が駆動し、後述するヘッド55のノズル59から画像データに応じた量のインクを吐出させる。
【0040】
ヘッド55は、複数の第2サブタンク52bのそれぞれの下流側に複数接続される。つまり、第2サブタンク52b及びヘッド55は、第1サブタンク52aの下流側に複数接続されている。
【0041】
ヘッド55は、マニホールド56(共通供給流路の一例)、個別供給流路57、圧電素子58、ノズル59、個別循環流路111a、共通循環流路112b及び垂直循環流路112c(
図5A、
図5B及び
図6を参照)等を有する。ヘッド55は、複数のノズル59を有し、ノズル59の数に応じて、個別供給流路57及び圧電素子58がそれぞれ設けられている。なお、ノズル部59aとは、本実施の形態では、ノズル59及びノズル59の近傍で一時的にインクを貯留可能な空間を備えた部分である(
図5Aを参照)。
【0042】
マニホールド56は、複数の個別供給流路57と連通しており、マニホールド56に供給されたインクが個別供給流路57に供給される。個別供給流路57は、一部又は全体が、ノズル59から吐出されるインクが一時的に貯留可能な内部空間を有する室である。個別供給流路57の壁面には、圧電素子58が設けられている。また、ノズル59は、一端が個別供給流路57と連通し、他端が開口端となっている。
【0043】
圧電素子58には、ヘッド駆動部54からの駆動電圧が印加される。圧電素子58にヘッド駆動部54からの駆動電圧が印加されると、印加された駆動電圧に応じて圧電素子58が変形して、個別供給流路57が変形し、個別供給流路57の変形により、ノズル59に供給される個別供給流路57内のインクに圧力変化を与える。
【0044】
従って、ヘッド駆動部54からの駆動電圧が圧電素子58に印加されると、圧電素子58、個別供給流路57が変形して、個別供給流路57内のインクに圧力変化を与えることになり、この結果、個別供給流路57内のインクは、ノズル59から吐出されることになる。このようにして、ノズル59からインクを吐出することにより、記録媒体Mに画像を形成することができる。
【0045】
キャリッジ51において、ヘッド55は、一回の走査で画像形成を行うシングルパス(ワンパス)方式となるよう構成されてもよいし、複数回の走査で画像形成を行うスキャン(マルチパス)方式となるよう構成されてもよい。シングルパス方式の場合、キャリッジ51には、記録媒体Mの幅方向(記録媒体Mの搬送方向Tに直交する方向)において、画像形成幅分の数のヘッド55が配置される(
図3を参照)。
図3に示すように、複数のヘッド55は、自身の長手方向を記録媒体Mの幅方向に沿わせて一列又は複数列に配列されており、各ヘッド55において、複数のノズル59は、ヘッド55の長手方向に沿って直線状又は格子状に配列されている。
【0046】
読み取り部60は、記録媒体Mの搬送方向Tにおける描画部50の下流側に配置され、搬送ベルト11により搬送される記録媒体Mに形成された画像(例えば、所定のパターン画像)を読み取る。読み取り部60は、所定のパターン画像の読み取り結果を制御部90へ出力する。制御部90は、読み取り結果に基づいて、画像の形成条件、例えば、画像の形成位置やヘッド55の駆動条件等を変更する。
【0047】
また、図示は省略するが、インクジェットプリンタ1は、ヘッド55のクリーニング等のメンテナンスを行うメンテナンス部を備えている。
【0048】
操作表示部70は、例えば、タッチパネル付きの液晶や有機EL(Electro Luminescence)等のフラットパネルディスプレイである。操作表示部70は、ユーザーに対する操作メニュー、画像データに関する情報、インクジェットプリンタ1の各種状態等を表示する。また、操作表示部70は、複数のキーを備え、ユーザーの種々の入力操作を受け付ける。
【0049】
入出力インターフェース80は、外部装置99と制御部90との間のデータの送受信を媒介する。入出力インターフェース80は、例えば、各種シリアルインターフェース、各種パラレルインターフェースのいずれか、又は、これらの組み合わせで構成される。
【0050】
外部装置99は、例えば、パーソナルコンピューターやファクシミリ装置等であり、入出力インターフェース80を介して、プリントジョブや画像データ等を制御部90に供給する。
【0051】
制御部90は、CPU(Central Processing Unit)91、RAM(Random Access Memory)92、ROM(Read Only Memory)93、記憶部94等を有する。
【0052】
CPU91は、ROM93に記憶された各種制御用のプログラムや設定データを読み出してRAM92に記憶させ、当該プログラムを実行して各種の演算処理を行う。例えば、制御部90は、入出力インターフェース80から受信した画像データに基づいて、形成する画像の駆動信号を生成して、ヘッド55に出力する。
【0053】
RAM92は、CPU91に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。なお、RAM92は、不揮発性メモリーを含んでいてもよい。
【0054】
ROM93は、CPU91により実行される各種制御用のプログラムや設定データ等を格納する。なお、ROM93に代えて、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリー等の書き換え可能な不揮発性メモリーが用いられてもよい。
【0055】
記憶部94には、入出力インターフェース80を介して、外部装置99から入力されたプリントジョブやプリントジョブに係る画像データが記憶される。記憶部94としては、例えば、不揮発性の半導体メモリー(所謂、フラッシュメモリー)やHDD(Hard Disk Drive)が用いられ、また、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等が併用されてもよい。
【0056】
制御部90には、搬送部10、供給部20、排出部30、インク供給部40、描画部50、読み取り部60、操作表示部70、入出力インターフェース80、加熱部95等が、それぞれ接続される。制御部90は、インクジェットプリンタ1の全体動作を統括制御している。搬送部10、供給部20、排出部30、インク供給部40、描画部50、読み取り部60、操作表示部70、入出力インターフェース80、加熱部95等は、制御部90に制御されて、所定の処理を実行する。
【0057】
以上の構成を有するインクジェットプリンタ1は、制御部90による制御により、記録媒体Mを供給部20から搬送部10に供給し、搬送部10に搬送される記録媒体Mに描画部50で描画を行い、画像形成された記録媒体Mを排出部30に搬送する。
【0058】
[ヘッド(インクジェットヘッド)55]
続いて、本実施の形態に係るインクジェットヘッド(ヘッド55)の構成について説明する。ここで説明する構成は、ヘッド55単体の構成である。なお、インクジェットプリンタ1における全てのヘッド55の構成が同一であってもよいし、インクジェットプリンタ1に以下説明する構成とは異なる構成のヘッド55が含まれていてもよい。
【0059】
【0060】
ヘッド55は、筐体101と、筐体101の下端で筐体101と篏合する外装部材102とを備え、筐体101及び外装部材102の内部に主要な構成要素が収容されている。このうち外装部材102には、外部からインクが供給されるインレット103a、及びインクが外部に排出されるアウトレット103b、103cが設けられている。また、外装部材102の内部には、インレット103aに接続されたマニホールド56が設けられている。また、外装部材102には、インクジェットヘッド100をキャリッジ51の基部に取り付けるための複数の取付穴104が設けられている。
【0061】
図5A及び
図5Bは、ヘッド55におけるヘッドチップの要部構成を示す図である。
図5Aは、ヘッドチップの短手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図であり、
図5Bは、ヘッドチップの長手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図である。
図6は、ヘッド55におけるノズル周辺の平面構成を模式的に示す図である。
【0062】
ヘッド55の筐体101及び外装部材102の内部に収容されている構成要素は、ヘッドチップ110を含む。ヘッドチップ110は、
図5A及び
図5Bに示すように、複数の基板(第1基板111、第2基板112及び第3基板113)を積層しこれらを接着して構成されている。第1基板111、第2基板112及び第3基板113は夫々、使用時において、下層、中間層及び上層となる。
【0063】
第1基板111には、厚さ方向(インク吐出方向に対応する。インク吐出方向は、典型的には鉛直方向に沿う方向である。)に夫々貫通する孔である複数のノズル59が長手方向に沿って列をなすように設けられている。図示された例では、ノズル59の個数は、一例あたり6個であるが、個数は6個でなくてもよい。第1基板111は、例えばポリイミド等の樹脂製の基板でもよいし、SUS等の金属製の基板であってもよい。
【0064】
第1基板111のノズル開口面には、フッ素樹脂粒子等の撥液性物質を含む撥液膜が設けられている。撥液膜を設けることで、ノズル開口面に対するインクや異物の付着を抑えることができ、当該インクや異物等の付着に起因するインク吐出不良の発生を抑制することができる。
【0065】
第1基板111には、複数のノズル59の夫々に連通する複数の個別循環流路111aも設けられている。複数の個別循環流路111aは夫々、対応するノズル59に連通する個別供給流路57の最下流部からヘッド55の短手方向に、互いに平行に延びる溝であり、いずれも共通循環流路112aに連通する。
【0066】
第2基板112には、厚さ方向に夫々貫通する孔であり夫々が対応するノズル59に連通する複数の個別供給流路57が長手方向沿って列をなすように設けられている。図示された例では、ノズル59の個数が一列あたり6個なので、個別供給流路57の個数も一列あたり6個である。なお、以降の説明において、6個の個別供給流路57を互いに区別して説明する場合には、個別供給流路57-1、57-2、57-3、57-4、57-5、57-6といい、互いに区別しない場合には単に「個別供給流路57」という。個別供給流路57-1、57-2、57-3、57-4、57-5、57-6の相対位置は、参照符号の枝番号が大きいほど、マニホールド56の入口(インレット103a)から遠く離れた位置であり、すなわちマニホールド56の下流側に位置する。
【0067】
複数の個別供給流路57はいずれも、自身の最上流部にて、共通供給流路として機能するマニホールド56に連通する。複数の個別供給流路57は、圧電素子58を備える隔壁により仕切られている。圧電素子58は、不図示の電極及び配線によりヘッド駆動部54に電気的に接続されている。圧電素子58は、ヘッド駆動部54から電極及び配線を介して印加される駆動電圧信号に応じて駆動することで、個別供給流路57の隔壁にシアモード型の変位を繰り返し生じさせて、インクの圧力を変動させ、この圧力変動に応じて、インクをノズル59から吐出させる。すなわち、本実施の形態に係るヘッド55は、シアモード型のインク吐出を行うインクジェットヘッドである。
【0068】
第2基板112は、例えばセラミックスの圧電体(電圧印加に応じて変形する部材)である。圧電体の例としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、ニオブ酸リチウム、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、メタニオブ酸鉛などが挙げられる。
【0069】
第2基板112には、複数の個別循環流路111aのいずれもがその最下流部で連通する共通循環流路112aが設けられている。共通循環流路112aは、第2基板112の裏面に、ヘッド55の長手方向に沿って延びる溝である。共通循環流路112aの最下流部は、同じく第2基板112に設けられた垂直循環流路112bに連通する。垂直循環流路112bは、アウトレット103cに連通しており、インクの循環を可能としている。
【0070】
第3基板113には、ヘッド55の長手方向に沿って延び、複数の個別供給流路57のいずれもが最上流部にて連通するマニホールド56が、設けられている。マニホールド56は、第3基板113の裏面側に設けられた溝である。第3基板113は、例えばポリイミド等の樹脂製の基板でもよいし、SUS等の金属製の基板であってもよい。
【0071】
以下、ヘッド55内での圧力損失抵抗について説明する。(1)個別供給流路57と個別循環流路111aとの圧力損失抵抗の関係、(2)個別循環流路111a同士の圧力損失抵抗の関係、及び(3)個別供給流路57同士の圧力損失抵抗の関係については、後述する。これらの関係に影響しない、ヘッド55内の細部構成については、例えば特許文献3等に記載された公知の技術を適用可能であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0072】
[流路の圧力損失抵抗及び圧力損失の調整について]
個別供給流路57及び個別循環流路111a等の流路における圧力損失ΔPは、下記の式によって算出することができる。
【0073】
【0074】
また、屈曲や幅員変化等により形状が変化する管路の場合は、管摩擦係数(λ×l/d)に代えて形状損失係数ξを用いる。形状損失係数ξは、屈曲の場合は曲がり角度が大きいほど大きく、形状変化の場合は形状変化前後の断面積の差が大きいほど大きい。なお、考慮すべき流路が、形状の異なる複数の流路部で構成されている場合は、各々の流路部の圧力損失を足し合わせることで、考慮すべき流路全体としての圧力損失の推定値を算出することができる。
【0075】
また、式中の「配管」は、個別供給流路57或いは個別循環流路111aである。また、流体とはインクである。
【0076】
この数式から理解される通り、インクの圧力損失は、個別供給流路57(又は個別循環流路111a)の長さに比例する。また、インクの圧力損失は、個別供給流路57(又は個別循環流路111a)の直径に反比例し、したがって、個別供給流路57(又は個別循環流路111a)の断面積に反比例する。また、インクの圧力損失は、個別供給流路57(又は個別循環流路111a)が円管以外の形状である場合には、個別供給流路57(又は個別循環流路111a)の断面アスペクト比に応じて決まる水力直径に反比例する。さらに、インクの圧力損失は、個別供給流路57(又は個別循環流路111a)において形状変化がある場合には、その形状変化度合いの大きさに比例する。
【0077】
よって、インクの圧力損失を生じさせる抵抗(以下「圧力損失抵抗」という)は、個別供給流路57(又は個別循環流路111a)の長さ、直径(断面積)、断面アスペクト比、形状変化度合い(例えば曲がり角度)に基づいて定まる。したがって、個別供給流路57又は個別循環流路111aの長さ、直径(断面積)、断面アスペクト比及び形状変化度合い(例えば曲がり角度)のうちの少なくとも一つの設定を調整することによって、簡易的に圧力損失抵抗を調整することができ、所望の圧力損失を得ることができる。
【0078】
[(1)個別供給流路57と個別循環流路111aとの圧力損失抵抗の関係]
本実施の形態では、上述した方法による個別供給流路57及び個別循環流路111aの夫々の断面積等の設定により、複数の個別循環流路111aの全体の圧力損失抵抗が、複数の個別供給流路57の全体の圧力損失抵抗よりも十分に小さくされる。例えば、全ての個別循環流路111aの断面積が、全ての個別供給流路57の断面積よりも十分に小さく設定される。これにより、ノズル部59aで発生する圧力が排出側の流路に逃げたり他のノズル部59aへ伝搬したりすることを抑制することができる。
【0079】
ここで、全体の圧力損失抵抗とは、一例として、圧力損失抵抗の平均値である。具体的には、複数の個別供給流路57の全体の圧力損失抵抗は、全ての個別供給流路57-1~57-6の圧力損失抵抗の平均値であり、複数の個別循環流路111aの全体の圧力損失抵抗は、全ての個別循環流路111aの圧力損失抵抗の平均値である。複数の個別循環流路111aの全体の圧力損失抵抗を、複数の個別供給流路57の全体の圧力損失抵抗の2倍以上とすると、双方の圧力損失に顕著な差異を生じさせることができる点で、好ましい。
【0080】
[(2)個別循環流路111a同士の圧力損失抵抗の関係]
本実施の形態では、上述した方法による個別循環流路111aの夫々の断面積等の設定により、個別循環流路111a同士で圧力損失抵抗が均一とされている。ここで、例えば、複数の個別循環流路111aの圧力損失抵抗のうちの最大値と最小値との比(最大値/最小値)が所定値(例えば1.1)以下であれば、個別循環流路111a同士で圧力損失抵抗が均一であると捉えてよい。例えば、全ての個別循環流路111aにおいて長さ、直径(断面積)、断面アスペクト比及び形状変化度合い(例えば曲がり角度)を同じとすることで、個別循環流路111a同士で圧力損失抵抗が均一とすることができるが、例えば長さに相違がある場合は断面積等の別のファクターも相違させればよい。
【0081】
[(3)個別供給流路57同士の圧力損失抵抗の関係]
本実施の形態では、上述した方法による個別供給流路57の夫々の断面積等の設定により、個別供給流路57同士で圧力損失抵抗が不均一とされている。ここで、例えば、複数の個別供給流路57のうち少なくとも二つの個別供給流路57の圧力損失抵抗が異なっていれば、個別供給流路57同士で圧力損失抵抗が不均一であると捉えてよい。ただし、個別供給流路57同士で圧力損失抵抗を不均一とすることで、複数のノズル部59aの圧力が均一とされる(複数のノズル部59aの圧力の差が所定値未満に収められる)ようにすることが望ましい。
【0082】
例えば、
図5Bに示すように、マニホールド56の入口からより遠く離れるほど、個別供給流路57の直径を広げる等して個別供給流路57の断面積を拡大させる(S1<S2<S3<S4<S5<S6)。このようにすることで、マニホールド56の入口に対して相対的に遠い位置でマニホールド56に連通する個別供給流路57の圧力損失抵抗が、マニホールド56の入口に対して相対的に近い位置でマニホールド56に連通する個別供給流路57の圧力損失抵抗よりも、小さくなる。これにより、複数のノズル部59aの圧力を均一とすることができる。
【0083】
以上説明したように、本実施の形態によれば、インクジェットヘッド55は、マニホールド56から複数のノズル部59aへインクを個別供給する複数の個別供給流路57と、複数のノズル部59aから共通循環流路112aへインクを個別排出させる複数の個別循環流路111aと、を有し、全体の圧力損失抵抗が複数の個別供給流路57よりも大きい複数の個別循環流路111aの個々の圧力損失抵抗は均一とされ、複数の個別供給流路57の個々の圧力損失抵抗は、複数のノズル部59aの圧力が均一とされるように、不均一とされている。これにより、より確実に、ノズル部59aの吐出安定性を確保することができる。
【0084】
また、本実施の形態では、インクジェットプリンタ1は、インクジェットヘッド55を備え、複数の個別循環流路111a及び共通循環流路112aによりインクを循環させながらマニホールド56及び複数の個別供給流路57によりインクを複数のノズル部59aに供給し、複数のノズル部59aからインクを吐出させて描画を行う描画部50を有する。これにより、インクジェットヘッド55の上記構成によりなし得る上記効果を実現しつつ、記録媒体Mへの描画を行うことができる。
【0085】
ところで、近年では、インクジェット記録装置で使用するインクに様々な機能性が求められ、その結果、インクが高粘度になったり、粒子が含有されたりするようになった。特に第粒径の粒子が含有されると、インク内での粒子分散のために高分子成分をさらに含有させることが多く、その結果、高粘度になりがちであった。例えば、使用されるインクがD90で0.5μm以上の粒径の粒子を含有する場合、当該インクは顕著に高い粘性を呈する。なお、粒径は、体積基準の平均径とする。また、粒径測定方法は特に限定されないが、動的光散乱法やレーザー回折法を利用した装置で、粒径を測定することができる。例えば、Malvern Panalytical社製の動的光散乱法を利用したゼータサイザーシリーズや、同社製のレーザー回折法を利用したマスターサイザーシリーズを好適に用いることができる。
【0086】
上述した高粘度のインクは、例えば粘度が25mPa・s以上である。その一方で、従来のインクジェット記録装置では、射出可能なインクの粘度に限定があり、一般的に射出可能なインクの粘度は15~20mPa・sであった。よって、近年、高粘度のインクでも安定的に射出することができるインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置が求められるようになった。
【0087】
この点につき、本実施の形態に係るインクジェットヘッド55では、特に、複数の個別供給流路57の個々の圧力損失抵抗が、非吐出時の複数のノズル部59aの圧力が均一とされるように、不均一とされており、ノズル部59a間の圧力差(圧力分布)が非吐出時に残存しにくい構成となっている。そのため、ノズル部59aでの圧力差(圧力分布)に起因する、ノズル部59aでのインク溢れ或いは気泡巻き込み等の吐出不良を引き起こす可能性が抑制される。したがって、本実施の形態に係るインクジェットヘッド55及びこのインクジェットヘッド55を備えたインクジェットプリンタ1は、高粘度インクが使用される場合でも、ノズル部の吐出安定性を確保することができる。ちなみに、非吐出時の複数のノズル部59aの圧力分布が、-0.05kPaから-1.0kPaまでの範囲に収められる。
【0088】
[変形例1]
図7は、本実施の形態の変形例1に係るインクジェットヘッド55におけるヘッドチップ110の長手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図である。
【0089】
本変形例では、複数の個別供給流路57の圧力損失抵抗が、一つ以上の個別供給流路からなる群を単位として、不均一とされている。より具体的に、本変形例では、マニホールド56に上流側で連通する個別供給流路57-1、57-2、57-3からなる上流側の群よりも、マニホールド56に下流側で連通する個別供給流路57-4、57-5、57-6からなる下流側の群のほうが、断面積が広く形成され(S6>S1)、これにより、下流側の群全体の圧力損失抵抗(平均値)が上流側の群全体の圧力損失抵抗(平均値)よりも低減されている。この場合でも本実施の形態と同様の効果を実現することができる。しかも本変形例の構造は、本実施の形態の構造よりもやや簡素であるため、製造時の寸法管理が容易であり、製造コストや製造ばらつきを抑制できる効果もある。
【0090】
[変形例2]
図8は、本実施の形態の変形例2に係るインクジェットヘッド55におけるヘッドチップ110の長手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図である。
【0091】
本変形例では、複数の個別供給流路57の長さを異ならせることにより、複数の個別供給流路57の個々の圧力損失抵抗が不均一とされている。より具体的に、本変形例では、マニホールド56の入口からより遠く離れた位置でマニホールド56に連通する個別供給流路57の長さが、より短くなるように設定されている(L1>L2>L3>L4>L5>L6)。これにより、より下流側の個別供給流路57の圧力損失抵抗がより小さくなる。この場合でも本実施の形態と同様の効果を実現することができる。しかも本変形例の構造は、マニホールド56が形成される第2基板112の上面部分を傾斜面とするだけでよいため、製造が容易であり、製造コストや製造ばらつきを抑制できる効果もある。
【0092】
[変形例3]
図9は、本実施の形態の変形例3に係るインクジェットヘッド55におけるヘッドチップ110の長手方向に沿う断面の要部構成を模式的に示す図である。
【0093】
本変形例では、複数の個別供給流路57の中間部に絞り部(段差)を設け、その絞り部による断面積の縮小度合いを異ならせることにより、複数の個別供給流路57の個々の圧力損失抵抗が不均一とされている。より具体的に、本変形例では、マニホールド56の入口からより遠く離れた位置でマニホールド56に連通する個別供給流路57の絞り部による断面積の縮小度合いが、より大きくなるように設定されている((S1/S6)<(S2/S6)<(S3/S6)<(S4/S6)<(S5/S6)<(S6/S6))。これにより、より下流側の個別供給流路57の圧力損失抵抗がより小さくなる。この場合でも本実施の形態と同様の効果を実現することができる。
【0094】
[変形例4]
図10は、本実施の形態の変形例4に係るインクジェットヘッド55におけるノズル周辺の平面構成を模式的に示す図である。
【0095】
本変形例では、個別循環流路111aが、例えばV字状の屈曲部を有する。個別循環流路111aが屈曲部を有することで、小サイズの個別循環流路111aであっても、一定の圧力損失抵抗を確保することができる。ただし、個別循環流路111a同士で圧力損失抵抗を均一とするため、屈曲部の曲がり角度は均一とされている。
【0096】
以上、本発明の実施の形態を具体的に説明したが、本発明は上述した特定の実施の形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、上記実施の形態に記載された具体例に対する種々の変形及び変更が可能である。
【0097】
2023年3月14日出願の特願2023-039518号の日本出願に含まれる明細書、図面及び要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、ノズル部の吐出安定性を向上することができるインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置として有用である。
【符号の説明】
【0099】
1 インクジェットプリンタ
10 搬送部
11 搬送ベルト
11a 搬送面
12 駆動ローラー
13 従動ローラー
20 供給部
21 供給積載部
22 供給搬送部
30 排出部
31 排出積載部
32 排出搬送部
40 インク供給部
41 メインタンク
42 流路
50 描画部
51 キャリッジ
52a 第1サブタンク
52b 第2サブタンク
53a、53b、53c 流路
54 ヘッド駆動部
55 インクジェットヘッド
56 マニホールド(共通供給流路)
57 個別供給流路
58 圧電素子
59 ノズル
59a ノズル部
60 読み取り部
70 操作表示部
80 入出力インターフェース
90 制御部
91 CPU
92 RAM
93 ROM
94 記憶部
95 加熱部
99 外部装置
101 筐体
102 外装部品
103a インレット
103b、103c アウトレット
104 取付穴
110 ヘッドチップ
111 第1基板
111a 個別循環流路
112 第2基板
112a 共通循環流路
112b 垂直循環流路
113 第3基板
【要約】
インクジェットヘッドは、共通供給流路から複数のノズル部へインクを個別供給する複数の個別供給流路と、前記複数のノズル部から共通循環流路へインクを個別排出させる複数の個別循環流路と、を有し、全体の圧力損失抵抗が前記複数の個別供給流路よりも大きい前記複数の個別循環流路の個々の圧力損失抵抗は均一とされ、前記複数の個別供給流路の個々の圧力損失抵抗は、前記複数のノズル部の圧力が均一とされるように、不均一とされている。