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  • 特許-車椅子の進行方向操作機構および車椅子 図1
  • 特許-車椅子の進行方向操作機構および車椅子 図2
  • 特許-車椅子の進行方向操作機構および車椅子 図3
  • 特許-車椅子の進行方向操作機構および車椅子 図4
  • 特許-車椅子の進行方向操作機構および車椅子 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】車椅子の進行方向操作機構および車椅子
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/02 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
A61G5/02 703
A61G5/02 701
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022072332
(22)【出願日】2022-04-26
(65)【公開番号】P2023161782
(43)【公開日】2023-11-08
【審査請求日】2024-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】318010409
【氏名又は名称】池村 康志
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】池村 康志
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-299410(JP,A)
【文献】特開平09-028736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部の左右に取り付けられている一対の車輪と、前記一対の車輪の前方においてそれぞれ左右方向に回動可能に設けられた一対のキャスターと、を備える車椅子の進行方向操作機構であって、
前記一対のキャスターの少なくとも一方の上方において上下方向に配設され、下端が前記キャスターに連結されて、前記キャスターの左右方向への回動と一体的に軸回転する回動軸と、
前記回動軸の上端へ揺動可能に連結された方向操作レバーと、
前記回動軸の外周を囲むように周方向に複数の凹部が並設された方向保持部と、
を有し、
前記複数の凹部のうち、いずれか1つの凹部へ前記方向操作レバーを篏合することで、前記回動軸を介して前記キャスターの左右方向を任意の方向に固定可能であり、
前記回動軸には、前記方向操作レバーと前記回動軸との連結部の周囲に配置されることで、前記方向操作レバーを前記凹部から外れた状態で固定するロック位置と、前記連結部から外れた位置にある操作位置との間で、上下方向に移動可能な環状部材が挿通されている、車椅子の進行方向操作機構。
【請求項2】
前記回動軸が軸回動自在に挿通される挿通孔を有し、前記キャスターが連結された縦フレームに固定される保持部材に、前記方向保持部が形成されている、請求項1に記載の車椅子の進行方向操作機構。
【請求項3】
前記キャスターと前記縦フレームとは、前記縦フレームの下端部に突出形成されたキャスター連結部を介して連結されており、
前記回動軸は、前記回動軸の下端に篏合可能なジョイント部材を介して前記キャスター連結部の上端部に連結されている、請求項2に記載の車椅子の進行方向操作機構。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の進行方向操作機構を備える、車椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子の進行方向操作機構および車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子は、一般に、使用者が左右の車輪を別々に操作することにより、その進行方向を変更することができる。これに対して、従来から、右半身や左半身が不自由な使用者であっても、使用者自身によって車椅子の進行方向を片手のみで変更できるようにしたいという要望があった。こうした要望に対して、例えば、下記の特許文献1の技術では、左右の車輪のそれぞれの外側に、左右の車輪のそれぞれを手動操作することができる2つのハンドリムを設けている。特許文献1の技術によれば、使用者が左右のいずれか一方の手のみで、片側の2つのハンドリムの操作により、左右の車輪のそれぞれを操作することが可能になる。また、下記の特許文献2では、キャスターに連結させた足板を設けることにより、使用者がその足板に乗せた足で、車椅子の進行方向を操作できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6288746号
【文献】特開2018-33904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、2つのハンドリムと左右の車輪とを接続するギヤ機構を車椅子に追加する必要があるため、その構成が複雑化し、製造コストが増大する可能性がある。また、特許文献2の技術では、足板の上で足が滑るなどして足板を上手く操作できないと、キャスターの向きが定まらず、進行方向が不安定になる可能性がある。また、使用者が足板による操作に慣れるのに時間がかかる可能性もある。このように、車椅子においては、使用者が、その両腕が自由に使えない状態であっても使用者自身によって車椅子の進行方向を意のままに変更できるようにすることについて依然として改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本発明の一形態は、シート部の左右に取り付けられている一対の車輪と、前記一対の車輪の前方においてそれぞれ左右方向に回動可能に設けられた一対のキャスターと、を備える車椅子の進行方向操作機構であって、前記一対のキャスターの少なくとも一方の上方において上下方向に配設され、下端が前記キャスターに連結されて、前記キャスターの左右方向への回動と一体的に軸回転する回動軸と、前記回動軸の上端へ揺動可能に連結された方向操作レバーと、前記回動軸の外周を囲むように周方向に複数の凹部が並設された方向保持部と、を有し、前記複数の凹部のうち、いずれか1つの凹部へ前記方向操作レバーを篏合することで、前記回動軸を介して前記キャスターの左右方向を任意の方向に固定可能な、車椅子の進行方向操作機構として提供される。
【0006】
(2)上記形態の車椅子の進行方向操作機構では、前記回動軸が軸回動自在に挿通される挿通孔を有し、前記キャスターが連結された縦フレームに固定される保持部材に、前記方向保持部が形成されてよい。
【0007】
(3)上記形態の車椅子の進行方向操作機構において、前記回動軸には、前記方向操作レバーと前記回動軸との連結部の周囲に配置されることで、前記方向操作レバーを前記凹部から外れた状態で固定するロック位置と、前記連結部から外れた位置にある操作位置との間で、上下方向に移動可能な環状部材が挿通されてよい。
【0008】
(4)上記形態の車椅子の進行方向操作機構において、前記キャスターと前記縦フレームとは、前記縦フレームの下端部に突出形成されたキャスター連結部を介して連結されており、前記回動軸は、前記回動軸の下端に篏合可能なジョイント部材を介して前記キャスター連結部の上端部に連結されてよい。
【0009】
(5)本発明の他の形態は、上記形態に記載の進行方向操作機構を備える、車椅子として提供される。
【発明の効果】
【0010】
(1)の進行方向操作機構によれば、方向操作レバーを揺動させる簡易な操作によってキャスターの左右方向の向きを任意の方向に固定することができる。よって、使用者は、片手での方向操作レバーの操作によって、車椅子の進行方向を意のままに簡易に変更することができる。また、方向操作レバーを方向保持部の凹部に篏合させることでキャスターの向きが固定されるため、車椅子の進行方向が不安定になることを抑制できる。加えて、この車椅子の進行方向操作機構によれば、構成が簡素化されているため、車椅子に簡易に実装することができる。
【0011】
(2)の進行方向操作機構によれば、縦フレームに固定された保持部材によって回動軸が保持されるため、回動軸がぐらついて位置ずれすることを抑制でき、回動軸を介した方向操作レバーによるキャスターの方向制御が不安定になることを抑制できる。また、この形態の車椅子の進行方向操作機構によれば、方向保持部が縦フレームに固定されているため、方向操作レバーが凹部に篏合された後に方向保持部が位置ずれして、キャスターの方向制御が不安定になることを抑制できる。
【0012】
(3)の形態の車椅子の進行方向操作機構によれば、環状部材をロック位置に位置させることによって、方向操作レバーが凹部に篏合することを禁止でき、環状部材を操作位置に位置させることによって、方向操作レバーを操作可能な状態にすることができる。よって、例えば、介護者が車椅子を押して操作する場合には、環状部材をロック位置に位置させることによって、方向操作レバーが、介護者の意に反して方向保持部の凹部に篏合し、キャスターの向きが固定されてしまうことを抑制できる。また、使用者が自身の操作で車椅子の進行方向を変更したい場合には、環状部材を操作位置に移動させる簡易な操作で、方向操作レバーを操作可能な状態にすることができる。
【0013】
(4)の進行方向操作機構によれば、ジョイント部材によって回動軸をキャスターに簡易に連結することができるため、車椅子に進行方向操作機構を容易に実装することができる。よって、例えば、キャスター連結部に相当する部位を有するタイプの既存の車椅子に対しても、進行方向操作機構を簡易に後付けすることが可能になる。
【0014】
(5)の車椅子によれば、使用者は、片手での方向操作レバーの操作によって、車椅子の進行方向を意のままに簡易に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】車椅子の概略斜視図。
図2】進行方向操作機構の概略分解斜視図。
図3】連結部に取り付けられている環状部材を示す概略斜視図。
図4】環状部材の機能を説明するための概略断面図。
図5】方向操作レバーの操作によるキャスターの回動動作を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本実施形態における車椅子10の概略斜視図である。車椅子10は、使用者が着座するシート部11と、シート部11の後方に立設されている背もたれ部12と、シート部11および背もたれ部12の左右に設けられている一対の肘掛け部13と、シート部11の前方かつ下方に設けられている一対の足掛け部14と、を備える。なお、本明細書において、「左」、「右」、「前」、「後」、「上」、および、「下」と言うときは、車椅子10に着座した使用者を基準とする方向を意味する。
【0017】
車椅子10は、さらに、シート部11の左右に取り付けられている一対の車輪15と、一対のキャスター16と、を備える。各車輪15は、駆動輪とも呼ばれ、使用者が、車輪15を回転させるために把持するハンドリム17が取り付けられている。キャスター16は、一対の車輪15のそれぞれの前方に設けられている。各キャスター16は、自在輪とも呼ばれ、それぞれが左右方向に回動可能な状態で取り付けられている。
【0018】
車椅子10は、さらに、背もたれ部12の背面に、介護者が車椅子¥を操作する際に把持する一対のグリップ18を備える。また、車椅子10は、一方の肘掛け部13の前方に、使用者が車椅子10の進行方向を変更するために操作する進行方向操作機構30を備える。
【0019】
車椅子10では、シート部11、背もたれ部12、一対の肘掛け部13、一対の足掛け部14、一対の車輪15、一対のキャスター16、一対のグリップ18、および、進行方向操作機構30は、車椅子10の骨格を構成するフレーム20によって連結されている。フレーム20は、金属製のパイプ部材によって構成される。
【0020】
フレーム20は、キャスター16が下端に連結されている一対の縦フレーム24を含む。縦フレーム24は、肘掛け部13を支持するサイドフレーム23と一体的に設けられている。サイドフレーム23は、背もたれ部12の左右の側端面から前方に延び出ており、縦フレーム24は、そのサイドフレーム23の先端部から下方に湾曲して折れ曲がった部位として構成されている。各縦フレーム24は、シート部11より前方において上下方向に配設されている。キャスター16は、各縦フレーム24の下端から前方に突出した位置に形成されたキャスター連結部29を介して各縦フレーム24に連結されている。キャスター連結部29の構成については後述する。
【0021】
進行方向操作機構30は、前述したように、一対の縦フレーム24のうちの一方に取り付けられており、使用者がシート部11に着座したまま、片手だけで車椅子10の進行方向を変更する操作を可能にする。図1には、使用者が左手で操作可能なように、左側の縦フレーム24に進行方向操作機構30が取り付けられている例が図示されている。なお、進行方向操作機構30は、左側の縦フレーム24に取り付けられていなくてもよく、使用者が右手で操作可能なように右側の縦フレーム24に取り付けられていてもよい。
【0022】
図2を参照図として加えて、進行方向操作機構30の構成を説明する。図2は、進行方向操作機構30の概略分解斜視図である。進行方向操作機構30は、回動軸31と、ジョイント部材32と、保持部材33と、方向操作レバー34と、環状部材35と、を備える。回動軸31は、図1に示すように、キャスター16の上方において、上下方向に配設される。本実施形態では、回動軸31は、縦フレーム24と同程度の長さを有している柱状の部材によって構成されている。回動軸31の下端は、キャスター16に連結される。より具体的には、回動軸31の下端は、ジョイント部材32を介して、キャスター19が取り付けられているキャスター連結部29の上端に連結されている。
【0023】
図2に示すように、キャスター連結部29は、筒状部40と、連結軸部41と、キャスター保持部42と、を備える。筒状部40は、縦フレーム24の下端部と並列に配置されており、縦フレーム24の下端部に連結されて固定されている。連結軸部41は、筒状部40に軸回転が可能な状態で挿通されている。「軸回転」とは、軸の周方向への回転運動を意味する。
【0024】
キャスター保持部42は、キャスター16の上方に架設されており、その左右の側端部がキャスター16の中心軸である車軸を保持する。キャスター保持部42の上面中央には、連結軸部41の下端が連結されている。連結軸部41は、キャスター保持部42およびキャスター16と一体的に左右方向に回動し、キャスター16が左右方向に向きを変えるように回動する際の中心軸として機能する。
【0025】
連結軸部41の上端部は、筒状部40から突出しており、その側面には、ねじ溝が切られている。ジョイント部材32は、その下端に、連結軸部41の上端部が螺号するねじ穴部45を有している。回動軸31の下端には、角柱状に形成された篏合部46が設けられている。篏合部46は、ジョイント部材32の上端に設けられた孔部である被篏合部47に篏合する。回動軸31は、ジョイント部材32を介してキャスター連結部29に連結されることにより、キャスター16の左右方向への回動と一体的に軸回転する。
【0026】
保持部材33は、縦フレーム24に固定され、回動軸31を保持する。保持部材33は、回動軸31が自在に軸回動できる状態で挿通される挿通孔50を有している。挿通孔50の周囲には、下方向に窪んでいる複数の凹部51が設けられている。複数の凹部51は、回動軸31の外周を囲むように周方向に並設されている。保持部材33に設けられた複数の凹部51は、進行方向操作機構30における方向保持部52を構成する。方向保持部52の機能については後述する。
【0027】
保持部材33は、上述した挿通孔50と方向保持部52とを有する第1部位55と、縦フレーム24を挟む状態で第1部位55に連結される第2部位56と、を有する。第1部位55は、縦フレーム24の前方に配置され、第2部位56は、縦フレーム24の後方に配置される。第1部位55と第2部位56とはそれぞれ、第1部位55と第2部位56との間に縦フレーム24が挿通される貫通孔を形成する半円状の窪み部57を有している。保持部材33は、第1部位55と第1部位56とが縦フレーム24を挟んでビスにより連結されることにより、縦フレーム24に固定される。本実施形態では、保持部材33は、縦フレーム24の上端部に固定される。
【0028】
方向操作レバー34は、回動軸31の上端部に連結される。方向操作レバー34と回動軸31との連結部60は、方向操作レバー34が回動軸31に対して揺動可能になるように、ヒンジ機構によって構成されている。連結部60は、回動軸31の上端部に設けられ、方向操作レバー34の下端部が挿入されるスリット61と、スリット61の両側の側壁部と方向操作レバー34の下端部とを貫通し、方向操作レバー34の揺動の支点として機能するピン62と、で構成される。連結部60は、保持部材33の方向保持部52から上方に突出した位置に配置されている。
【0029】
図1に示すように、方向操作レバー34は、使用者が操作しやすいように、肘掛け部13の前方に設けられている。方向操作レバー34は、上下方向に配設されている状態では、肘掛け部13より上方に突出した状態となる。後述するように、車椅子10の使用者は、方向操作レバー34を上下方向に配設された姿勢から押し倒すことによって、方向操作レバー34が、方向保持部52の凹部51に嵌り、キャスター16の左右方向における向きを固定することができる。
【0030】
図3および図4を参照図として加えて、環状部材35について説明する。図3は、回動軸31に取り付けられている状態の環状部材35を示す概略斜視図である。図4は、図3の4-4切断を示す概略断面図である。
【0031】
環状部材35の中央の貫通孔には回動軸31の上端部が挿通される。環状部材35は、連結部60より下方の第1位置P1と、その上方の連結部60の少なくとも一部を覆う第2位置P2と、の間を上下に移動可能に取り付けられている。図3および図4では、第2位置P2にあるときの環状部材35を実線で示し、第1位置P1にあるときの環状部材35を一点鎖線で示してある。
【0032】
図3に示すように、第1位置P1は、環状部材35が方向保持部52に囲まれる位置である。図3および図4に示すように、環状部材35が連結部60より下方の第1位置P1にあるときには、環状部材35は、連結部60から外れた位置にあり、方向操作レバー34に干渉することはない。そのため、環状部材35が第1位置P1にあるときには、使用者は、方向操作レバー34を、方向保持部52の凹部51に向かって倒すことができる。以下、連結部60から外れた位置にある第1位置P1を、使用者による方向操作レバー34の操作を許容する「操作位置P1」とも呼ぶ。なお、操作位置P1にあるときには、環状部材35は、その下端が保持部材33に支持された状態となる。
【0033】
図3および図4に示すように、環状部材35が第2位置P2にあるときには、環状部材35が連結部60のスリット61の周囲に配置される。そのため、方向操作レバー34を上下方向に配置された状態から倒そうとすると、方向操作レバー34は、環状部材35に干渉し、方向保持部52の凹部51に向かって揺動することが規制される。よって、環状部材35を第2位置P2に位置させることにより、方向操作レバー34が、使用者や車椅子10を押す介護者の意図に反して、方向保持部52の凹部51に嵌り、キャスター16の向きが固定されてしまうことを抑制できる。以下、第2位置P2を、方向操作レバー34を凹部51から外れた状態で固定する「ロック位置P2」とも呼ぶ。
【0034】
図4に示すように、連結部60のスリット61の下には、環状部材35が第2位置P2から下方に移動することを規制する係合部65が設けられている。係合部65は、回動軸31の側面に開口している横穴から一部が突出するように配置されている球状の係止部材66と、横穴内に配置され、係止部材66を外方へと付勢する弾性部材67と、を備える。環状部材35が第2位置P2にあるときには、環状部材35の下端が横穴から突出している係合部材66の一部に係止されることにより、環状部材35は、第2位置P2に固定される。その状態において使用者が環状部材35を下方に押す力を加えると、係止部材66の全体が横穴内に押し込められ、環状部材35は第1部位P1へと移動可能になる。回動軸31に係合部65が設けられていることによって、環状部材35が第2位置P2から第1位置P1へと勝手に移動し、方向操作レバー34が意図せず操作可能な状態になってしまうことを抑制できる。
【0035】
図5を参照して、方向操作レバー34の操作によるキャスター16の回動動作を説明する。上述したように、縦フレーム24に固定されている方向保持部52の各凹部51は、回動軸31の周方向に配列されている。使用者は、方向操作レバー34を押し倒しながら、方向操作レバー34を回動軸31の周方向に回動させて、自身が設定したい車椅子10の進行方向に対応する位置の凹部51に方向操作レバー34を篏合させる。方向操作レバー34を回動軸31の周方向に回動させることにより、回動軸31に連結されているキャスター16の左右方向における向きが変わる。また、方向操作レバー34を凹部51に篏合させることにより、キャスター16の向きがその凹部51の位置に応じた向きに固定される。これにより、使用者は、片手で方向操作レバー34を操作するだけで、キャスター16の左右方向の向きを固定することができ、車椅子10の進行方向をそのキャスター16の向きの方向へと容易に変更することができる。使用者は、方向操作レバー34を操作してキャスター16の向きを固定した後に、方向操作レバー34を操作したのと同じ手で、ハンドリム17を操作して車椅子10の移動を開始させることができる。
【0036】
以上のように、本実施形態の進行方向操作機構30および進行方向操作機構30を備える車椅子10によれば、使用者は、片手での方向操作レバー34の操作によって、キャスター16の向きを変えて、車椅子10の進行方向を意のままに変更することができる。また、方向操作レバー34を方向保持部の凹部51に篏合させることでキャスター16の向きが固定されるため、車椅子10の進行方向が不安定になることが抑制される。加えて、この進行方向操作機構30によれば、構成が簡素化されているため、車椅子10への実装が容易である。
【0037】
本実施形態の進行方向操作機構30によれば、縦フレーム24に固定される保持部材33に方向保持部52が形成されている。よって、回動軸31が位置ずれすることが抑制され、回動軸31を介した方向操作レバー34によるキャスター16の方向制御が不安定になることが抑制される。また、方向保持部52が縦フレーム24に固定されるため、方向操作レバー34が凹部51に嵌められた後、凹部51の位置がずれてしまい、キャスター16の方向制御が不安定になることを抑制できる。
【0038】
本実施形態の進行方向操作機構30によれば、回動軸31には、ロック位置P2と操作位置P1との間で上下方向に移動可能な環状部材35が挿通されている。これにより、例えば、介護者が車椅子10を押して操作する場合には、環状部材35をロック位置P2に位置させることによって、方向操作レバー34が、介護者の意に反して方向保持部52の凹部51に篏合して、キャスターの向きが固定されることを抑制できる。また、使用者が自身の操作で車椅子10の進行方向を変更したい場合には、環状部材35を操作位置P1に移動させる簡易な操作で、方向操作レバー34を操作可能な状態にすることができる。
【0039】
本実施形態の進行方向操作機構30によれば、回動軸31とキャスター16との連結が、ジョイント部材32によって簡易に実現されている。従って、車椅子10への進行方向操作機構30の実装が容易である。また、キャスター連結部29に相当する部位を有するタイプの既存の車椅子に対しての後付けも容易である。
【0040】
他の実施形態:
上記実施形態の構成は例えば、以下のように改変することができる。上記の実施形態において、方向保持部52は、保持部材33とは別の部材に設けられていてもよい。上記の実施形態において、環状部材35は省略されてもよい。上記の実施形態において、回動軸31は、ジョイント部材32を介することなく、キャスター16に連結されていてもよい。例えば、回動軸31は、キャスター連結部29の連結軸部41と一体化されていることによって、キャスター16と連結されていてもよい。上記の実施形態において、進行方向操作機構30は左右両方に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…車椅子、11…シート部、12…背もたれ部、13…肘掛け部、14…足掛け部、15…車輪、16…キャスター、17…ハンドリム、18…グリップ、23…サイドフレーム、24…縦フレーム、29…キャスター連結部、30…進行方向操作機構、31…回動軸、32…ジョイント部材、33…保持部材、34…方向操作レバー、35…環状部材、40…筒状部、41…連結軸部、42…キャスター保持部、45…ねじ穴部、46…篏合部、47…被篏合部、50…挿通孔、51…凹部、52…方向保持部、55…第1部位、56…第2部位、57…窪み部、60…連結部、61…スリット、62…ピン、65…係合部、66…係止部材、67…弾性部材、P1…第1位置/操作位置、P2…第2位置/ロック位置
図1
図2
図3
図4
図5