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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/149 20240101AFI20241119BHJP
   G01N 15/1404 20240101ALI20241119BHJP
   G01N 15/1434 20240101ALI20241119BHJP
   G01N 15/14 20240101ALI20241119BHJP
【FI】
G01N15/149
G01N15/1404
G01N15/1434 110
G01N15/14 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020186034
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075317
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛志
(72)【発明者】
【氏名】角龍 美泉
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌樹
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-025900(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151150(WO,A1)
【文献】特開2013-217673(JP,A)
【文献】特開2008-267969(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0124076(KR,A)
【文献】特開2011-085489(JP,A)
【文献】特開2009-115672(JP,A)
【文献】特開2015-058394(JP,A)
【文献】特開2010-256231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/14~15/1492
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生乳中の白血球を検出する検出装置であって、
流路が形成された基板と、
前記基板の前記流路を流れる流体中の粒子を検出する検出器と、を備え、
前記基板は、
粒子を含む粒子液が流れる流路である第1流路と、
粒子を含まない液体が流れる流路である第2流路と、
前記粒子液と前記液体とを合流させる流路である合流部と、
前記合流部から連続して前記粒子液および前記液体を流し、当該合流部よりも幅の広い流路である開放部と、を備え、
前記合流部は、幅=50μm~100μm、深さ=50μm、長さ=100μmであり、
前記開放部は、幅=1000μm、深さ=50μm、長さ=15000μmであり、
前記合流部と前記開放部とは合流部と流路の中心線を一致させて同一方向に伸び、
前記粒子液の流量に対する前記液体の流量は20倍であり、
前記検出器は、
前記基板の前記開放部において、流体に含まれるサイズの異なる粒子の流跡線が平行となる位置を検出位置として特定し、特定した検出位置を通る粒子を検出対象粒子として検出することを特徴とする、検出装置。
【請求項2】
前記合流部および前記開放部は、前記流体が層流条件を満たす形状であり、
前記検出器は、前記開放部を流れる層流において、前記流体に含まれる前記粒子の流跡線上の位置に設けられることを特徴とする、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記層流と直交する方向において、サイズが異なる前記粒子の流跡線同士の間隔が前記検出器により識別可能な間隔となるように、前記開放部の幅が設定されていることを特徴とする、請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記検出器は、
前記開放部を流れる流体の前記検出位置に光を照射する投光部と、
前記投光部から照射されて前記流体を透過した光を受ける受光部と、
前記受光部に到達する前記投光部から照射された光の光量が低下した場合に、前記検出対象粒子を検出したと判断する判断部と、
を備えることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の検出装置。
【請求項5】
前記投光部から照射される光は、前記検出対象粒子の粒子径近傍の粒子サイズを備えた非検出対象粒子の透過率より前記検出対象粒子の透過率が低い波長の光であることを特徴とする、請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記検出器における前記投光部および前記受光部の少なくとも一方が、前記基板の前記開放部における流体の流れる方向に対して交差する方向に移動可能であることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の検出装置。
【請求項7】
前記投光部から照射される光の照射径は、直径が前記検出対象粒子のサイズ以上であり10倍以下であることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体試料中の粒子の検出に用いられる種々の技術がある。特許文献1には、液体試料の動く方向に対して直角な方向に幅と厚みとを有する流動セルに流体試料を通し、流動セルを通して液体試料の動く方向にシース流体を流し、シース流体の流量を調節して、粒子の最小断面が液体試料の動く方向に対して垂直に延在し、また最大断面が幅方向に対してほぼ平行に延在し、粒子の重心がほぼ同一平面内にあるように粒子をほぼ整列させる方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、生乳を流すための流路を備え、流路は生乳の流れる方向と直交する方向で生乳の流れを規制する測定部を有し、流路には流れる生乳を大きな粒子が含まれる主流と小さな粒子が含まれる副流とに分ける分級部が設けられ、測定部の撮像手段が分級部によって分けられた主流の画像を撮像することにより、体細胞数を測定する体細胞数測定装置が開示されている。
【0004】
特許文献3には、粒子をその粒子径に応じて流体の流れに対して垂直方向へ分離し、分離された粒子を2以上の流路に分断し、各流路に設置された粒子検出部で粒子を検出する粒子検出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭58-196440号公報
【文献】特開2011-85489号公報
【文献】特開2020-56778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
種々の粒子の中から例えば特定のサイズの粒子(例えば、直径10μm程度の粒子等)を分画して計数することが求められる場合がある。一例を示すと、例えば、生体サンプルに含まれる白血球のみを計数する場合等が挙げられる。乳牛で乳房炎が発生すると、乳腺組織が破壊され搾乳に含まれる細胞数が増加する。そこで、生乳中の白血球数を検査(検乳)することが行われている。生乳には、直径が10μm近傍の白血球の他、直径が数μmの血小板や数十μmのがん細胞などが混在している。しかし、このような種々の大きさの粒子が混在した流体試料中から直径10μm程度の粒子を機械的に定量することは困難であり、例えば生乳中の白血球数を検査する例では、通常、化学試薬で半定量的に判断されている。
【0007】
本発明は、種々の大きさの粒子が混在した流体試料中から特定のサイズの粒子を分画して検出する手法において、化学試薬を用いた判断等と比較して、流体試料および検出対象の粒子に適合させて検出対象の粒子の定量的な検出を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明は、流路が形成された基板と、この基板の流路を流れる流体中の粒子を検出する検出器と、を備える検出装置である。ここで、基板は、粒子を含む粒子液が流れる流路である第1流路と、粒子を含まない液体が流れる流路である第2流路と、粒子液と粒子を含まない液体とを合流させる流路である合流部と、合流部から連続して粒子液および粒子を含まない液体を流し、合流部よりも幅の広い流路である開放部と、を備える。検出器は、基板の開放部において検出位置を特定し、特定した検出位置を通る粒子を検出対象粒子として検出する。
より詳細には、流路の少なくとも一部は、粒子を含まない液体が層流条件を満たす形状であり、検出器は、開放部を流れる層流において、流体に含まれる粒子の流跡線上の位置に設けられる。
そして、層流と直交する方向において、サイズが異なる粒子の流跡線同士の間隔が広くなるように、開放部の幅が設定される。
また、この検出器は、開放部を流れる流体の検出位置に光を照射する投光部と、投光部から照射されて流体を透過した光を受ける受光部と、受光部に到達する投光部から照射された光の光量が低下した場合に、検出対象粒子を検出したと判断する判断部と、を備える。
さらに、投光部から照射される光は、検出対象粒子の粒子径近傍の粒子サイズを備えた非検出対象粒子の透過率より検出対象粒子の透過率が低い波長の光としても良い。
また、この検出器は、投光部および受光部の少なくとも一方が、基板の開放部における流体の流れる方向に対して交差する方向に移動可能に構成しても良い。
また、この検出装置の粒子液は白血球を含み、この白血球の流跡線が通る位置を検出位置としても良く、さらに粒子液は生乳であっても良い。
さらに、この検出装置の基板の合流部は、幅が50μm~100μmである。
また、この検出装置の基板の合流部は、検出対象粒子のサイズの5倍~10倍の幅を有し、さらに、粒子液に含まれる最大の種類の粒子のサイズの2倍程度の幅を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、種々の大きさの粒子が混在した流体試料中から特定のサイズの粒子を分画して検出する手法において、化学試薬を用いた判断等と比較して、流体試料および検出対象の粒子に適合させて検出対象の粒子の定量的な検出を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態による検出装置の構成を示す図である。
図2】流路基板の構成を示す図である。
図3】PFF法を説明する図面である。
図4】粒子液およびバッファ液の流量比と粒子液の流跡線との関係を示す図であり、図4(A)はバッファ液の流量が粒子液の4倍のときの流跡線の状態を示す図、図4(B)はバッファ液の流量が粒子液の12倍のときの流跡線の状態を示す図、図4(C)はバッファ液の流量が粒子液の20倍のときの流跡線の状態を示す図である。
図5】開放部の幅と粒子液の流跡線との関係を示す図であり、図5(A)は開放部の幅が500μmのときの流跡線の状態を示す図、図5(B)は開放部の幅が1000μmのときの流跡線の状態を示す図、図5(C)は開放部の幅が1500μmのときの流跡線の状態を示す図である。
図6】開放部の幅と、開放部における粒子の到達位置および流速との関係を示す図であり、図6(A)は開放部の幅ごとに各サイズの粒子の到達位置と流速とを示した図表、図6(B)は図6(A)の表に基づく各粒子の到達位置と、粒子濃度を示すグラフである。
図7】検出器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<装置構成>
図1は、本実施形態による検出装置の構成を示す図である。本実施形態の検出装置は、検出対象の粒子(以下、「検出対象粒子」と呼ぶ)を含む複数種類の粒子が混在する流体(以下、「粒子液」と呼ぶ)から検出対象粒子を検出する装置である。図1に示すように、検出装置は、流路が形成された流路基板100と、流路基板100の流路を流れる粒子液中の検出対象粒子を検出する検出器200とを備える。検出器200は、流路基板100へ光を照射する投光部210と、投光部210から照射された光を受ける受光部220とを備える。
【0012】
<流路基板の構成>
図2は、流路基板100の構成を示す図である。流路基板100は、PDMS(polydimethylsiloxane)やSi(silicon)により構成され、流体が流れる流路が形成された基板である。流路は、流路基板100の表面に、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等により溝を形成することで設けられる。そして、流路基板100の表面を板状の蓋等で覆うことで、空洞状の流路が構成される。なお、詳しくは後述するが、本実施形態では、透過型の検出器200による粒子の検出が行われるため、流路基板100および蓋部材には透光性を有する部材が用いられる。
【0013】
流路基板100に形成された流路は、いわゆるピンチドフローフラクネーション法(PFF法)を実現する流路である。流路基板100には、流路として、粒子液流路110、バッファ流路120、合流部130、開放部140が形成されている。
【0014】
粒子液流路110は、粒子液が流れる流路である。粒子液は、図示しない流入口から流入され、粒子液流路110を合流部130へ向かって流れる。粒子液流路110は、第1流路の一例である。
【0015】
バッファ流路120は、バッファが流れる流路である。バッファは、粒子を含まない流体であり、PFF法において粒子液に作用するために流される。ここでいうバッファとは、流体のpHをある一定の範囲に保つ緩衝作用を備えた流体ではなく、単に粒子を含まない流体を指し、一例として水が挙げられる。バッファ液は、図示しない流入口から流入され、バッファ流路120を合流部130へ向かって流れる。バッファ流路120は、第2流路の一例である。
【0016】
合流部130は、粒子液とバッファとを合流させる流路である。粒子液流路110の端部とバッファ流路120の端部とが結合されて合流部130の一端に連結している。これにより、粒子液流路110を流れた粒子液とバッファ流路120を流れたバッファとが合流部130において合流する。合流部130は、合流部130を流れる流体が層流をなすように構成される。
【0017】
開放部140は、合流部130から連続して粒子液およびバッファを流す流路である。開放部140は、一端が合流部130の他端(粒子液流路110およびバッファ流路120に連結されていない側の端)に連結しており、合流部130と流路の中心線を一致させると共に、合流部130よりも幅広に形成されている。このため、合流部130から開放部140へ流入した流体の流れは、開放部140の幅に合わせて広がる。また、開放部140は、開放部140へ流入した流体が層流条件を満たすような形状に設定されている。さらに、図示しない開放部140の他端(合流部130に連結されていない側の端)には、排出口が設けられており、開放部140を流れた流体は、この排出口から排出される。
【0018】
<PFF法の説明>
図3は、PFF法を説明する図面である。PFF法は、図3図2)に示すような流路を用いて粒子液中の粒子をふるい分ける手法である。図示の流路基板100において、粒子液流路110に粒子液を、バッファ流路120にバッファを、それぞれ流す。粒子液およびバッファは、合流部130において合流する。そして、粒子液中の粒子は、バッファによって合流部130の壁(粒子液流路110側の壁)に押し付けられて整列する。このとき、各粒子のサイズに応じて、粒子の中心位置と合流部130の壁面との間の距離に差が生じる。そして、この流体が合流部130から開放部140へ流れると、流れの広がりによって、合流部130において生じた各粒子の中心位置の差が増幅される。このため、開放部140においては、各粒子がそのサイズに応じて異なる流跡線を描いて流れる。
【0019】
<適用例>
PFF法に用いられる流路は、検出対象粒子のサイズに応じて、各流路の長さや幅などを適切に設定することが望ましい。そこで、具体的な適用例を挙げて、流路基板100についてさらに詳細に説明する。ここでは、数μmから数十μmの粒子が混在する粒子液から10μm程度のサイズの粒子を検出する場合を例として説明する。このような検出が要求される場合の一例として、生乳中の白血球の検出に適用する場合が考えられる。
【0020】
乳牛の健康管理や牛乳の品質管理のため、生乳中の白血球数の検査(検乳)が行われている。生乳には,直径が数μmの血小板や数十μmのがん細胞などが混在している。そして、検出対象粒子である白血球のサイズは、直径10μm近傍である。そこで、この生乳中の白血球数の検査に本実施形態による検出装置を適用することを考え、生乳(粒子液)およびバッファの流量比、各流路の長さや幅等を変えながら、適当な流路基板100を検討する。
【0021】
・粒子液とバッファとの流量比による影響
粒子液とバッファとの流量比が粒子の分離に与える影響を検討する。ここでは、図2に示した流路基板100の各流路を次のように設定する。
粒子液流路110:幅w1=50μm、深さd=50μm、合流部130に対する角度θ1=45°
バッファ流路120:幅w2=50μm、深さd=50μm、合流部130に対する角度θ2=45°
合流部130:幅w0=50μm、深さd=50μm、長さl0=100μm
開放部140:幅r1=1000μm、深さd=50μm、長さl1=15000μm
【0022】
ここで、合流部130の幅w0および長さl0は、合流した粒子液およびバッファが層流をなし、粒子液中の粒子を整列させるのに十分な値に設定される。具体的には、合流部130の幅w0は、検出対象粒子のサイズ(直径)の5倍~10倍であることが望ましく、さらに、粒子液中に含まれる最大の種類の粒子の2倍程度までであることが望ましい。生乳中の白血球を検出する例では、白血球のサイズが約10μmなので、合流部130の幅w0は、50μm~100μm程度が適当である。生乳中には様々なサイズの粒子(細胞等)が含まれているが、一定以上のサイズの粒子については流路基板100の粒子液流路110に流入させる前にフィルタで除去し得る。ここでは、生乳中に含まれる細胞のサイズの最大値を30μm程度とし(30μmを超える細胞はフィルタで除去)、合流部130の幅w0を50μmとした。また、合流部130の長さl0は、数μmから数十μmの粒子を整列させるのに十分な長さであることを考慮して、100μmとした。
【0023】
上記のように構成した流路基板100において、粒子液の流量VcをVc=1μL/分とし、粒子液の流量Vcとバッファの流量Vsとの流量比(Vc:Vs)を変えて、粒子液の流跡線への影響を調べた。
【0024】
図4は、粒子液およびバッファ液の流量比と粒子液の流跡線との関係を示す図である。図4(A)はバッファ液の流量が粒子液の4倍(Vc:Vs=1:4)のときの流跡線の状態を示す図、図4(B)はバッファ液の流量が粒子液の12倍(Vc:Vs=1:12)のときの流跡線の状態を示す図、図4(C)はバッファ液の流量が粒子液の20倍(Vc:Vs=1:20)のときの流跡線の状態を示す図である。図4において、太線は、合流部130から開放部140に流入した流体の広がり度合を示す基準スケールを示す。細線は、合流部130から開放部140に流入した流体における検出対象粒子の流跡線を示す。
【0025】
図4を参照して各流量比における開放部140での流跡線の広がりを比較すると、流量比(粒子液に対するバッファの流量)が大きいほど流跡線の広がりが狭く、粒子の到達位置のばらつきが小さい。ここで、粒子の到達位置とは、開放部140における粒子液がバッファにより押し付けられる側の壁面(図2乃至図4に示した流路基板100の開放部140において上側の壁面)からの距離である。このため、粒子の検出においては、流量比が大きいほど分解能が高くなる。しかし、バッファの流量が大きすぎると、流路基板100の破損や、流路から流体が溢れて液漏れが生じる可能性がある。そこで、そのような不具合の発生を抑制し得る範囲でバッファの流量を大きくして流量比を高めることが望ましい。一例として、生乳中の白血球を検出する例では、生乳(粒子液)の流量Vc=1μL/分のときのバッファの流量を生乳の20倍等とすることができる。
【0026】
・開放部140の幅による影響
開放部140の幅が粒子の分離に与える影響を検討する。ここでは、粒子液の流量VcをVc=1μL/分、粒子液とバッファの流量比Vc:Vsを1:20とし、開放部140の幅を変えて、粒子液の流跡線への影響を調べた。
【0027】
図5は、開放部140の幅と粒子液の流跡線との関係を示す図である。図5(A)は開放部140の幅r1が500μmのときの流跡線の状態を示す図、図5(B)は開放部140の幅r1が1000μmのときの流跡線の状態を示す図、図5(C)は開放部140の幅r1が1500μmのときの流跡線の状態を示す図である。図5において、破線は、合流部130から開放部140に流入した流体におけるバッファ液の流線を示す。実線は、合流部130から開放部140に流入した流体における検出対象粒子の流跡線を示す。
【0028】
図5を参照して、開放部140の幅が異なる場合の流跡線の広がりを比較すると、開放部140の幅r1が大きいほど流跡線の広がりが大きく、粒子の到達位置のばらつきが大きい。ここで、粒子の検出においては、流跡線の広がりが大きいことは分解能の低下につながる。しかし、開放部140において層流をなし流れる流体と直交する方向において、サイズの異なる粒子同士の流跡線の間隔が広がる、つまり、検出対象粒子とその他の粒子(検出対象粒子とはサイズが異なる粒子)との流跡線の間隔が広がるため、検出対象粒子の分離が容易となる。そこで、例えば生乳中の白血球を検出する例では、白血球とその他の粒子の流跡線の間隔が広くなる開放部140の幅r1=1000μm等としても良い。
【0029】
図6は、開放部140の幅と、開放部140における粒子の到達位置および流速との関係を示す図である。図6(A)は開放部140の幅ごとに各サイズの粒子の到達位置と流速とを示した図表、図6(B)は図6(A)の表に基づく各粒子の到達位置と、粒子濃度を示すグラフである。図6に示す例では、直径3μm、5μm、10μm、15μm、20μm、30μmの各粒子について、開放部140の幅r1が500μm、1000μm、1500μm、2000μmのときのそれぞれの到達位置を示している。また、開放部140の幅r1が500μm、1000μm、1500μm、2000μmのときの各粒子の流速が示されている。図6において、粒子の到達位置(図6(B)では「粒子位置」)yは、開放部140における粒子液がバッファにより押し付けられる側の壁面(図2乃至図5に示した流路基板100の開放部140において上側の壁面)からの距離である。
【0030】
図6を参照して、各粒子の到達位置yを比較すると、開放部140の幅が同じ場合、小さい粒子ほど到達位置の値が小さく(開放部140の壁面からの距離が短く)、粒子のサイズが大きくなるにしたがって、到達位置の値が大きく(開放部140の壁面からの距離が長く)なっている。これは、小さい粒子ほど、合流部130から開放部140へ流入した際の流体の広がりに伴って開放部140の壁面に近い位置まで流跡線が広がる一方、大きい粒子ほど、流跡線の広がりが小さいことを意味している。
【0031】
ここで、粒子濃度の計算手順を説明する。粒子液およびバッファは、合流部130において合流し、その合計流量Vpは、
【数1】

である。また、合流部130から開放部140へ流入した流体の流量Vbは、合流部130の幅w0と開放部140の幅r1との比で減少し、
【数2】

である。そして、粒子濃度の閾値σと開放部140における流量Vbから、特定時間にカウントされる粒子数n(図6(B)では、「カウントされる粒子濃度」)が、
【数3】

で求まる。ただし、
Vc:粒子液流量[μL/分]
Vs:バッファ流量[μL/分]
Vp:合流部130における流量[μL/分]
Vb:開放部140における流量[μL/分]
0:合流部130の幅[μm]
1:開放部140の幅[μm]
σ:粒子濃度の閾値=10[万個/mL]
=105[個/mL]
=102[個/μL]
n:カウントされる粒子濃度[個/分]
である。したがって、例えば、粒子液流量Vc=1[μL/分]、バッファ流量Vs=20[μL/分]、合流部130の幅w0=50[μm]、開放部140の幅r1=500[μm]のとき、上記の数1~数3の式より、カウントされる粒子濃度n=210[個/分]である。以上により、粒子濃度は、開放部140の幅r1が大きいほど減少し、粒子の到達位置は、開放部140の幅r1が大きいほど大きくなることがわかる。
【0032】
ここで、本実施形態を生乳の検査に適用する例を考える。生乳には1cc当たり40万個以上の細胞が含まれるが、その全てを分離し測定することは多大な時間を要するため困難である。一例として、少量の細胞数(100~400個程度)をカウントし、2~3分で検査を終了して、この検査結果に基づき1cc当たりに含まれる体細胞数を推定するものとする。この場合、粒子液流量、バッファ流量、合流部130の幅および開放部140の幅は、粒子のばらつきや、粒子液およびバッファを流路基板100へ流入させるポンプの性能等の他、測定に必要な粒子濃度によっても決定される。
【0033】
・その他の条件
上述した粒子液流量、バッファ流量、合流部130の幅および開放部140の幅の他、粒子液流路110とバッファ流路120との合流角度、合流部130の長さ、開放部140の長さを個別に変えて流体中の粒子の分離に対する影響を調べたが、これらの要素を変更しても、各粒子の流跡線には有意な影響がなかった。ただし、上述したように、合流部130の長さは、少なくとも粒子液中の粒子が整列するのに十分な長さである必要がある。そこで、生乳中の白血球を検出する例では、生乳中に含まれる種々のサイズの粒子を考慮し、合流部130の長さl0を100μmとした。また、開放部140の長さを1000μm~12500μmの間で変更しても各粒子の流跡線に影響がなかった。開放部140の長さが流跡線に影響しないことから、各粒子の流跡線は、開放部140に流入して流体の流れと共に広がり、1000μmの長さに至るまでに粒子のサイズごとに異なる到達位置まで達することがわかる。そして、その後は、開放部140の流路に沿って平行に進み、流跡線どうしの間隔は安定する。
【0034】
<検出器の構成>
次に、検出器200について説明する。上述したように、流体中の粒子は、流路基板100の開放部140において、粒子のサイズごとに異なる経路を辿って流れる。本実施形態では、特定のサイズの粒子を検出対象粒子とし、流路基板100の開放部140における検出対象粒子の流跡線が通る位置を、検出器200による検出位置とすることにより、検出対象粒子を検出する。
【0035】
図7は、検出器200の構成を示す図である。検出器200は、投光部210と、受光部220と、判断部230と、移動機構240とを備える。図3乃至図6を参照して説明したように、流路基板100の開放部140において、粒子液に含まれる各粒子は、粒子のサイズに応じて異なる流跡線を描くように流れる。すなわち、検出対象粒子の流跡線には検出対象粒子が通り、検出対象粒子とは大きく異なるサイズの粒子は通らない。そこで、検出器200は、検出対象粒子のサイズに応じて流路基板100の開放部140において検出位置を特定し、特定した検出位置を通る粒子を検出する。検出位置は、開放部140において検出対象粒子の流跡線が通る位置に設定される。
【0036】
ここで、図3乃至図6を参照して説明したように、粒子液に含まれる各サイズの粒子の流跡線は、流路基板100の開放部140において、粒子液が合流部130から開放部140へ流入する流入口から開放部140の幅方向へ、粒子のサイズごとに異なる度合いで広がり、その後、平行となる。各粒子の流跡線が平行となる位置では、流跡線どうしの間隔は一定となり、安定する。そこで、合流部130から開放部140への流入口から一定の距離を経て流跡線が平行となる位置に、検出位置を設定する構成としても良い。例えば生乳中の白血球を検出する例では、合流部130から開放部140へ流入する流入口から1000μm以上離れた位置等としても良い。
【0037】
図7に示す検出器200は、投光部210から照射された光が流路基板100および流路基板100の開放部140を流れる流体を透過して受光部220に受光される構成を有する。すなわち、図7に示す検出器200は、いわゆる透過型の検出器である。図7において、流路基板100は、開放部140において流体が流れる方向に対して交差する面で切った断面を示している。図7に示す流路基板100において、開放部140を流れる流体は、紙面の手前から奥へ向かって流れるものとする。
【0038】
投光部210は、流路基板100の流路が形成された面側に設置され、流路基板100の開放部140に設定された検出位置へ向けて光を照射する。投光部210は、例えば、光源である発光素子と、発光素子から発した光を開放部140上の検出位置において所望の照射径となるように収束させるコリメートレンズおよび投光レンズとを備えて構成される。照射径は、直径が検出対象粒子のサイズ以上であり、検出対象粒子のサイズの10倍程度以下となるように調整される。照射径の直径を検出対象粒子のサイズの10倍程度以上とすると照射径に対する検出対象粒子の割合が小さく、検出対象粒子の有無による光量変化が小さすぎ受光部220における粒子の検出が困難となるが、照射径の直径を検出対象粒子のサイズの10倍程度以下とすることにより、受光部220における粒子の検出を良好に行うことができる。
【0039】
投光部210から照射される光は、検出対象粒子が数μmから数十μm程度のサイズの生体細胞である場合、可視光を用い得る。具体的には、波長が500nm~1000nm程度の光であり、緑色光から近赤外線の領域が該当する。さらに投光部210から照射される光は、検出対象粒子の粒子径近傍における検出対象粒子ではない非検出対象粒子に対する透過率と、検出対象粒子の透過率とが異なる波長の光から選択することが好ましい。例えば生乳等の生体細胞には脂肪球が存在するが、その粒子径は種々である。生乳中の白血球数の検査では、白血球と同等の粒子径をもつ脂肪球が存在することがあり、白血球と脂肪球がほぼ同一の流跡線上を通ることとなる。その場合、白血球と脂肪球の両者を後述する受光部220、判断部230にて検出してしまうが、それぞれの粒子に対し投光部210から照射される光の透過率を異ならせておくことで白血球が通過した場合と、脂肪球が通過した場合とで受光部220に到達する光量が相違し、その光量によりどちらが通過したか判別することが可能となる。
【0040】
受光部220は、流路基板100を挟んで投光部210の反対側に設置され、投光部210から照射され、流路基板100および流体を透過した光を受光する。したがって、流路基板100の開放部140の検出位置において粒子が存在しない場合は、投光部210から照射された光を受光部220が検知する。一方、検出位置を粒子が通過すると、投光部210から照射された光の少なくとも一部が遮られ、受光部220が検知する光量が低下する。受光部220は、光を検知する受光素子と、投光部210からの光を受けて受光素子へ送る受光レンズおよびコリメートレンズとを備えて構成される。
【0041】
判断部230は、受光部220から光の検知信号を受信し、検出位置を通過した粒子を検出する。上記のように、粒子が検出位置を通過すると、受光部220において受光する光が遮られる。したがって、判断部230は、受光部220が検知する光量が低下したときに、検出対象粒子が検出されたと判断する。なお、以上のように光量の低下により検出対象粒子を検知する場合は、投光部210から照射される光は、非検出対象粒子より検出対象粒子の透過率が低い波長を選択すると良く、生乳中の白血球数の検査では例えば650nm近傍の波長とすると良い。
【0042】
また、判断部230は、一定時間内(例えば、1分間)に受光部220が非検知となった回数を計数する。この数は、一定時間内に検出位置を通った検出対象粒子の個数(検出個数)である。図6を参照して説明したように、この一定時間における検出対象粒子の検出個数に基づいて、粒子液における検出対象粒子の濃度が算出される。判断部230は、例えば受光部220に接続されたパーソナルコンピュータにより実現される。
【0043】
移動機構240は、投光部210を移動させる機構である。移動機構240は、開放部140において流体が流れる方向に対して交差する方向(図7の白抜き矢印で示す方向)へ移動させる。これにより、所望の検出対象粒子の流跡線の位置(所望の検出対象粒子の通過する位置)に対応するように、検出位置を調整することができる。また、移動機構240が投光部210を移動させることにより、所望のサイズの粒子を検出対象粒子とし、その検出対象粒子の流跡線の位置を検出位置に設定することができる。また、所望の検出対象粒子の流跡線の位置に検出位置を設定、調整するにあたり、検出対象粒子の流跡線のシミュレーション結果や、実際に検出対象粒子を流しての目視による観察、受光部220で検知する光量変化等の情報により流跡線の位置を特定することで精度良く設定、調整することができる。
【0044】
なお、図7に示す構成では、移動機構240が投光部210を移動させる構成としているが、投光部210に代えて受光部220を移動させる構成としても良いし、投光部210および受光部220の両方を移動させる構成としても良い。移動機構の具体的構成としては、例えば、移動方向に架設したレールと、レール上を移動可能な台車とを備える構成とし、この台車に移動対象の投光部210や受光部220を設置するようにしても良いし、その他、投光部210および受光部220の少なくとも一方を移動可能な構成であれば、どのような構成であっても良い。
【0045】
ここで、検出器200の分解能と流路基板100の開放部140の幅との関係について説明する。上述したように、検出器200による検出位置を、流路基板100の合流部130から開放部140への流入口から一定の距離を経て流跡線が平行となる位置に設定することが考えられる。そして、上述した投光部210、受光部220および判断部230の構成から、投光部210から照射される光の照射径に応じて検出器200の分解能が定まる。また、移動機構240の動作の精度により、検出位置の設定精度が定まる。そこで、検出器200の性能を考慮すると、検出器200において実現し得る分解能および検出位置の設定精度に基づき、検出器200が検出位置として設定可能な範囲に検出対象粒子の流跡線が分離されるように、流路基板100の開放部140の幅が決定される。
【0046】
このように、本実施形態の検出装置は、検出器200が、粒子のサイズごとに異なる流跡線を描くように流路を形成した流路基板100の各粒子を含む流体が流れる開放部140上(同一流路上)に設定された検出位置において、検出位置を通る流跡線を描く検出対象粒子を検出する。本実施形態によれば、異なるサイズの粒子が流れる流路上で検出する構成としたため、検出位置を通る流跡線を選択することで、所望のサイズの粒子を検出対象粒子として検出することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態には限定されない。例えば、本実施形態では、検出器200として透過型の検出器を用いたが、投光器から照射され検出対象粒子により反射された光を受けて検出対象粒子を検出する反射型の検出器を用いても良い。反射型の検出器としては、例えば、CCD受像器を用いて検出位置を撮像し、得られた画像を解析して検出位置を通る検出対象粒子を検出するようにしても良い。その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
100…流路基板、110…粒子液流路、120…バッファ流路、130…合流部、140…開放部、200…検出器、210…投光部、220…受光部、230…判断部、240…移動機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7