(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】皮脂産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9794 20170101AFI20241119BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20241119BHJP
A61P 17/08 20060101ALI20241119BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
A61K8/9794
A61K36/899
A61P17/08
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2021137098
(22)【出願日】2021-08-25
(62)【分割の表示】P 2017161115の分割
【原出願日】2017-08-24
【審査請求日】2021-08-25
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】506188611
【氏名又は名称】佐藤 隆
(73)【特許権者】
【識別番号】514099961
【氏名又は名称】合同会社EBC&M
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃治
(72)【発明者】
【氏名】坂上 弘明
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】木村 敏康
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-135749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/9794
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹の抽出物であって、
該竹が孟宗竹の稈であり、高速液体クロマトグラフィーにて次の分析条件で展開した場合にリテンションタイム40分以上50分以下に、リテンションタイム40分未満のいずれのピークよりもピーク高さが高い単一のピークが存在する皮脂産生抑制剤。
高速液体クロマトグラフィーの分析条件
・カラム Waters社製SunFire C18(担体粒子径5μm、カラム内径4.6mm、カラム長150mm)
・カラム温度 室温
・移動相A:0.1%TFA/Water、移動相B:0.1%TFA/CH
3CN
・分離条件
0~170min:移動相A100%、移動相B0%から移動相A40%、移動相B60%へ直線的に変化、
・移動相流速 1mL/min
・測定波長 214nm
・試料注入量 100μL
【請求項2】
皮脂産生抑制剤の有効成分となる
孟宗竹の稈の抽出物の製造方法であって、
該
孟宗竹の稈の抽出物は、高速液体クロマトグラフィーにて次の分析条件で展開した場合にリテンションタイム40分以上50分以下に、リテンションタイム40分未満のいずれのピークよりもピーク高さが高い単一のピークが存在するものであり、
前記製造方法は、
孟宗竹の稈を室温の水で抽出する工程と、その抽出物を遠心分離し、その上清を竹水抽出物として分取する工程とを有する製造方法。
高速液体クロマトグラフィーの分析条件
・カラム Waters社製SunFire C18(担体粒子径5μm、カラム内径4.6mm、カラム長150mm)
・カラム温度 室温
・移動相A:0.1%TFA/Water、移動相B:0.1%TFA/CH
3CN
・分離条件
0~170min:移動相A100%、移動相B0%から移動相A40%、移動相B60%へ直線的に変化
・移動相流速 1mL/min
・測定波長 214nm
・試料注入量 100μL
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹の水抽出物を主成分とする皮脂産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
外来植物である孟宗竹は、1950年代頃までは竹材や筍を得るために管理された竹林で栽培されていた。しかしながら、近年は竹林業が経済的に成立しなくなり、各地で竹林が放置されるようになった。孟宗竹は繁殖力が異常に強いため、放置された竹林では、竹の繁殖域が無秩序に周囲に広がり、既存の植生を破壊するいわゆる竹害が問題となっている。
【0003】
一方、竹害の問題に対し、竹を有効利用するための研究が進められている。例えば、竹を常圧過熱水蒸気で処理して発生する蒸気を凝縮してられる竹の過加熱水蒸気抽出物(以下、竹SHS(Super-Heated Stream)抽出物という)が、食中毒原因菌選択制抗菌剤として提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の竹SHS抽出物も含めて、竹抽出物に抗菌作用があることや低分子量の有機酸(ギ酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸など)が含まれることが知られているが、有機酸の物性から、竹抽出物を外用剤として皮膚疾患治療や美容の目的に利用する場合、皮膚刺激が懸念される。
【0006】
これに対し、本発明は、竹抽出物から新たな有用成分とその薬剤としての用途を見出し、竹の有効利用を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、竹の水性媒体による抽出物であって、逆相クロマトグラフィーにより分離し、個々の成分を細胞に作用させることで、比較的疎水性度の高い成分が、細胞毒性とは区別される皮脂産生抑制作用を有することを見出し、本発明を想到した。
【0008】
即ち、本発明は、竹の水性媒体による抽出物であって、高速液体クロマトグラフィーにて次の分析条件で展開した場合にリテンションタイムが40分以上50分以下の成分を含有してなる皮脂産生抑制剤を提供する。
高速液体クロマトグラフィーの分析条件
・カラム Waters社製SunFire C18(担体粒子径5μm、カラム内径4.6mm、カラム長150mm)
・カラム温度 室温
・移動相A:0.1%TFA/Water、移動相B:0.1%TFA/CH3CN
・分離条件
0~170min:移動相A100%、移動相0%から移動相A40%、移動相B60%へ直線的に変化、
・移動相流速 1mL/min
・測定波長 214nm
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮脂産生抑制剤は、細胞毒性とは区別される皮脂産生抑制作用を有し、脂腺細胞の数が減少せず、皮脂の産生量を低減させることができる。そのため、本発明の皮脂産生抑制剤によれば、皮膚刺激の問題を引き起こすことなく、ニキビ、脂漏性湿疹、その他の皮脂の過産生による疾患等を予防ないし治療することが可能となる。また、皮膚産生抑制剤は、肌のべたつき、テカリ防止、化粧崩れ防止などの美容上効果を得るためにも使用することができる。
【0010】
さらに、本発明の皮脂産生抑制剤は、竹を原材料とし、かつ水性媒体による抽出という簡便な方法により製造できるため、安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、竹抽出物を逆相クロマトグラフィーで展開したクロマトグラムである。
【
図2】
図2は、竹水抽出物の脂腺細胞に対する作用を示す写真である((a)DHT、(B)DHT+竹水抽出物1%)。
【
図3】
図3は、皮脂細胞のDNA当たりの皮脂(TG)の産生量に及ぼす竹水抽出物の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の皮脂産生抑制剤について詳細に説明する。
本発明の皮脂産生抑制剤は、竹の水性媒体による抽出物であって、後述する逆相クロマトグラフで展開した場合に特定のリテンションタイムとなる成分を含有する。
【0013】
ここで、竹はイネ目イネ科タケ亜科のうち、茎が木質化する種の総称であり、竹の代表的な種類としては、モウソウチク(孟宗竹)、マダケ、ハチク等が挙げられる。本発明が抽出対象とする竹には、孟宗竹をはじめとする上述の代表的な竹の他に、アズマザサ、ヤダケ、アズマネザサ、スズタケ、クマザサやチシマザサなどのイネ科タケ亜科に属するササ類を含めることができる。
【0014】
抽出する竹の部位としては、稈、枝、葉又は根をあげることができ、特に、稈が好ましい。
【0015】
竹の抽出時の形態は、破砕物又は粉末とすることが好ましい。このような形態の竹としては、市販されているものを使用することができ、例えば、竹粉末(有限会社八起産業、ゆめ竹)等を使用することができる。
【0016】
竹を抽出する水性媒体としては、水、メタノール、エタノール、1、3-ブチレングリコール等をあげることができる。
【0017】
抽出方法としては、竹の破砕物、粉末等と水性媒体とを混合し、室温で撹拌すればよい。例えば、竹の破砕物10gに対して水40~100mLを加え、室温で1~3時間撹拌すればよい。
【0018】
こうして得られた竹の抽出物は、室温(例えば25℃)で実施例に示す逆相クロマトグラフィーで展開した場合に、低分子量の有機酸が含まれるリテンションタイム10分以下と、それよりも疎水性度の高いリテンションタイム40分以上50分以下にピークがあり、特に40分以上50分以下のピークは概略単一のピークとなる。一方、特許文献1に記載されているように、抽出方法によっては竹抽出物に低分子量の有機酸が含まれ、それが細胞毒性を有し、皮膚刺激の原因となることが懸念される。そこで、本発明においては、細胞毒性を無くし、皮膚刺激を低減又は解消するために、リテンションタイム10分以下の成分を除去することが好ましい。
【0019】
竹の抽出物は適宜精製し、濃縮して使用することができる。例えば、上述の水性媒体による竹の抽出液を遠心分離し、それにより得られた上清を濾過し、必要に応じて減圧濃縮する。
【0020】
本発明の皮脂産生抑制剤の剤型は、固形状、半固形状、液状等のいずれであってもよく、製品の形態に応じて適宜決定される。
【0021】
また、本発明の皮脂産生抑制剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、pH調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、色素などの各種添加剤や賦形剤を含有することができる。
【0022】
本発明の皮脂産生抑制剤の投与形態は、経口、経腸、径粘膜、注射等とすることができる。また、医薬品、化粧品、飲食品、ペットフード等に配合して使用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の皮脂産生抑制剤について具体的に説明する。
(1)竹水抽出物
東京都西部に自生している孟宗竹の稈の部位を粉砕したチップ10gを秤量し、超純水60mLを加え、室温で2時間撹拌した。4℃、3000xgの条件で5分間遠心分離を行い、上清を分取した。得られた上清を0.45mのフィルターを用いて限外濾過し、竹水抽出物を得た。
【0024】
(2)竹水抽出物のHPLC解析
(1)で得た竹水抽出物を試料とし、高速液体クロマトグラフ(Chromaster(Organizer,Interface Box,5410 UV Detector,5110 Pump)、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて次の逆相クロマトグラフィーの分析条件で展開し、
図1に示したクロマトグラムを得た。
【0025】
HPLC分析条件
・カラム Waters社製SunFire C18(担体粒子径5μm、カラム内径4.6mm、カラム長150mm)
・カラム温度 室温
・移動相A:0.1%TFA/Water、移動相B:0.1%TFA/CH3CN
・分離条件
0~170min:移動相A100%、移動相B0%から移動相A40%、移動相B60%へ直線的に変化、
・移動相流速 1mL/min
・測定波長 214nm
・試料注入量 100μL
【0026】
図1から、竹水抽出物ではリテンションタイム10分以下にピークがあるが、リテンションタイム40分以降では概略単一のピークのみが検出された。リテンションタイム10分以下の成分には、特許文献1に記載されている、ギ酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸などの低分子量の有機酸が含まれていると考えられる。
【0027】
(3)竹水抽出物の皮脂産生抑制作用の評価
(3-1)ハムスター脂腺細胞の単離
ゴールデンハムスター(雄、5週齢)の左右耳介部を切除し、penicillin G(100units/mL)および硫酸streptomycin(100μg/mL)を添加したDMEMに浸し、1時間以上4℃にて放置した後にリン酸緩衝食塩液(PBS(-))で洗浄した。耳介部周囲の毛を刈り、5×5mm程度に細切し、2.4units/mL dispase溶液中で4℃、13.5時間静置した。酵素処理後、ピンセットにて耳介部より表皮を剥離し、皮脂腺を含む真皮を脂腺細胞培養液(SGM)[DMEM/F12/6%(v/v)FBS/2%(v/v)human serum/0.68mM L-glutamine/penicillin(100units/mL)/硫酸streptomycin(100μg/mL)]に浸し、実体顕微鏡下で皮脂腺を単離した。
【0028】
(3-2)ハムスター脂腺細胞に対する竹水抽出物の皮脂産生作用
継代培養したハムスター脂腺細胞(p=5)を96well plate (株式会社IWAKI製)に1.0×104cells/wellの細胞数で播種した。この場合、ハムスター脂腺細胞を皮脂産生促進因子であるジヒドロテストステロン(DHT)存在下(10μMM)において、竹水抽出液(1%)で処理し、9日間培養した。培養後、リン酸緩衝液(PBS(-))にて細胞を洗浄し、4%パラホルムアルデヒドにて固定し、細胞標本を得た。
【0029】
皮脂産生能に対する竹抽出液の影響を評価するため、得られた細胞標本をoil red O染色法により脂肪滴を染色した。また、対照として、DHTの存在下で竹水抽出物を添加せずに作製した細胞標本(DHT)についても同様に染色した。
【0030】
ここで、oil red O染色液は、0.3%(w/v)oil red O を含む isopropanol溶液と精製水を3:2(v:v)で混合し、密閉式超音波細胞破砕装置(コスモ・バイオ株式会社製)により15分間超音波処理を行い、10分間室温に放置し、ろ過した上清である。
【0031】
この染色法では、固定した細胞標本にoil red O 染色液を加えて37℃で15分間染色した。
【0032】
染色後、細胞をリン酸緩衝液(PBS(-))にて洗浄し、光学顕微鏡(オリンパス社製)により脂肪滴形成を観察した。この観察写真を「DHT」(対照)又は「DHT+竹水抽出物」として
図3に示す。なお、写真において丸い粒に見えるのが脂肪滴である。
【0033】
また、皮脂の主成分であるトリアシルグリセロール(TG)を定量するため、DHTや竹水抽出物を添加しない細胞(Ctl)、DHTの存在下(10μM)で竹水抽出物を添加せずに処理した細胞(DHT)、皮脂産生抑制作用が知られているレチノイン酸を処理した細胞(RA)(濃度1nM)、DHT存在下でRAを処理した細胞(DHT+RA)、DHT存在下で竹水抽出物を処理した細胞(DHT+竹水抽出物)をそれぞれPBS(-)で2回洗浄し、0.25% (w/v) trypsin/0.02% (w/v) EDTA/PBS(-)溶液を用いて回収した。得られた細胞懸濁液を氷冷下、密閉式超音波細胞破砕装置(コスモ・バイオ株式会社製)により超音波処理を行い、細胞を破砕した。この細胞内のTG量をアクアオートカイノスTG-II試薬(株式会社カイノス製)を用いて次の方法で測定した。すなわち、上記で調製した細胞懸濁液試料(50μL)に反応試液R-1(90μL)を添加し、37℃で10分間反応させた後、直ちに反応試液R-2(30μL)を添加し、さらに37℃で10分間反応させた。反応終了後、595nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーにて測定した。この吸光度からTG量を、同様に実施したトリオレイン標準液(200mg/dL)の吸光度に基づいて算出した。一方、細胞中のDNA量を3,5-ジアミノ安息香酸二塩酸塩(DABA)法を用いて測定し、DNA1μgあたりの皮脂量(TG/DNA)を求め、このTG/DNAのコントロールに対する比を求めた。結果を
図3に示す。
【0034】
図3から、竹水抽出物は、DHTにより誘導した皮脂産生を抑制することがわかる。また、顕微鏡下で培養容器に接着している細胞の形態が観察され、細胞に形態変化がないことから、この皮脂産生抑制の竹水抽出物が脂腺細胞に対して細胞毒としては作用していないことがわかる。