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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】透過型二次電子放出手段を有する検出器
(51)【国際特許分類】
   H01J 43/10 20060101AFI20241119BHJP
   H01J 43/28 20060101ALI20241119BHJP
   H01J 43/24 20060101ALI20241119BHJP
   H01J 49/02 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01J43/10
H01J43/28
H01J43/24
H01J49/02 500
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021571648
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 AU2020050581
(87)【国際公開番号】W WO2020243795
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】2019901981
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】518272784
【氏名又は名称】アダプタス ソリューションズ プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ジュレク,ラッセル
(72)【発明者】
【氏名】ハンター,ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,アントニー
(72)【発明者】
【氏名】ワクレ,アディティア
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-283979(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0299713(US,A1)
【文献】米国特許第03541331(US,A)
【文献】国際公開第2005/097945(WO,A1)
【文献】特開平09-106777(JP,A)
【文献】特開平10-283978(JP,A)
【文献】実開昭62-053560(JP,U)
【文献】特表2000-500275(JP,A)
【文献】特開平02-177244(JP,A)
【文献】特開2005-135611(JP,A)
【文献】特開2000-311649(JP,A)
【文献】国際公開第2007/063678(WO,A1)
【文献】特開平09-199075(JP,A)
【文献】国際公開第2003/005408(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/066337(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00682268(EP,A2)
【文献】特開2009-289693(JP,A)
【文献】特開2016-162641(JP,A)
【文献】特開昭51-123554(JP,A)
【文献】PRODANOVIC V et al,Ultra-thinalumina and silicon nitride MEMS fabricated membranes for the electron multiplication,IOP Publishing, Nanotechnology29 (2018) 155703 (11pp),2018年02月22日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/244,
43/00-43/30,
49/00-49/48
G01T 1/00-1/40,
3/00-3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン-電子変換器として機能する透過モードの二次電子放射素子により部分的に形成された囲いを有する自己完結型のイオン検出器であって、
前記囲いは、内部環境および外部環境を定め、
前記透過モードの二次電子放射素子は、外側に面した表面および内側に面した表面を有し、前記外側に面した表面へのイオンの衝突により、前記内側に面した表面から1または2以上の二次電子の放出が生じるように構成され、
前記二次電子放射素子は、間に形成された空間を有する2または3以上の別個の電子放射サブ素子を有し、該2または3以上の電子放射サブ素子の一つから放射された二次電子は、前記空間を通って、前記2または3以上の電子放射サブ素子の別のものに移動する、自己完結型のイオン検出器。
【請求項2】
前記透過モードの二次電子放射素子は、透過ダイノードの構造および/または機能を有する、請求項1に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項3】
前記2または3以上の電子放射サブ素子の各々は、透過ダイノードの構造および/または機能を有する、請求項1または2記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項4】
前記2または3以上の電子放射サブ素子の各々は、球形または回転楕円体である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項5】
前記二次電子放射素子は、マイクロ球電子増倍管により構成される、請求項4に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項6】
前記囲いは、前記外部環境から前記内部環境への汚染物質の移動を防止しまたは抑制する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項7】
前記囲いは、壁構造を備え、前記透過モードの二次電子放射素子は、前記壁構造の壁と実質的に連続する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項8】
前記囲いは、シールされた、または実質的にシールされた配置を形成する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項9】
前記透過モードの二次電子放射素子から放射される二次電子を増幅するように構成された電子増幅手段を備える、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項10】
前記電子増幅手段は、電子増倍管である、請求項9に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項11】
前記電子増倍管は、離散ダイノード電子増倍管、または連続電子増倍管、またはマルチチャネル連続電子増倍管、またはクロスフィールド検出器(例えば、マグネTOF(登録商標))、またはマイクロチャネル板(MCP)検出器である、請求項10に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項12】
さらに、前記電子増幅手段に関連して作動可能な電子収集手段を備える、請求項9乃至11のいずれか一項に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項13】
前記電子収集手段は、アノードである、請求項12に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項14】
前記電子増幅手段および前記電子収集手段は、前記囲い内に全体が収容されている、請求項12または13に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項15】
質量分析器の光電子増倍管と置換される部材、または放射線検出用のシンチレーションカウンタと置換される部材として構成される、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の自己完結型のイオン検出器。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の自己完結型のイオン検出器を有する、質量分析器。
【請求項17】
イオンを検出する方法であって、
当該方法は、
囲いの一部を形成する透過モードの二次電子放射素子の外部に面した側にイオンを衝突させ、またはそれを可能にするステップと、
前記透過モードの二次電子放射素子により、該透過モードの二次電子放射素子の内部に面する側から二次電子を放射させ、またはそれを可能にするステップと、
を有し、
囲いの一部を形成する前記透過モードの二次電子放射素子は、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の自己完結型のイオン検出器により提供される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、科学的分析機器の部材に関し、さらに分析機器の完全な項目に関する。より詳細には、本発明は、これに限定されるものではないが、質量分析器のような科学的計測に使用される種類のイオン検出器に関する。より詳細には、本発明は、従来の光電子増倍管、またはシンチレーションカウンタとして有益な他の装置に対する代替物を提供する。質量分析器とは別に、本発明は、アルファ放射線およびベータ放射線がシンチレータによる光子の発生のトリガーとなる放射線検出に使用し得る。
【背景技術】
【0002】
質量分析には、質量対電荷(m/z)比により、イオンを分離することが含まれる。そのような基本に基づくイオンの分離は、質量分析器の中心的な機能である。一旦イオンが分離されると、イオンは、ある正確な信頼できる方法において、検出される必要がある。質量分析器の大部分は、離散イオン検出器を有するが、注目すべき例外は、FT-ICR質量分析器のような、質量分析器と検出器とが組み合わされたものである。
【0003】
作動寿命が最も長いイオン検出器は、シンチレータと対になった光電子増倍管であり、そのような配置は、別名シンチレーションカウンタと称される。従って、光電子増倍管は、適切な条件下で10年以上の作動寿命を達成する能力が適用に不可欠である状況下で使用される。
【0004】
光電子増倍管では、まずイオンまたは電子がシンチレータスクリーン(典型的には、リンを含む)に衝突し、次に光子のバーストが放出される。光子は、増倍管に入り、その後、光カソードにより電子に変換される。次に、これらの電子は、管内に封入された電子増倍管に誘導され、従来の電子機器で検出可能な信号が生成される。質量分析の分野では、「光電子増倍管」という用語は、光電子増倍管とシンチレータとの組み合わせを意味すると理解される。
【0005】
イオンまたは電子を光子に変換し、その後電子に戻すことの利点は、厚いガラスの囲い(管)で密閉された真空環境に増倍管が維持され、これにより、放射表面の汚染が回避されること、さらには長い寿命が得られることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光電子増倍管に関連する問題は、イオンまたは電子が衝突した際のシンチレータにおいて誘発される準安定状態の減衰時間から生じる。この準安定状態の減衰により、必要な光子が生じ、時間的なノイズが発生する。これは、光電子増倍管により達成可能なタイミング分解能を低下させ、高特性飛行時間(time-of-flight)質量分析における使用の適性を制限する。また、準安定減衰の性質により、光電子増倍管では、後端を伴う非ガウシアンパルスが生じ得る。これは、大きな信号に隣接する小さな信号の存在が不明瞭となるおそれがあるため、光電子増倍管が飛行時間またはパルスのカウントに使用される場合、問題となる。
【0007】
本発明のある態様では、イオン検出の手段に改善が提供される。別の態様は、従来の光電子増倍管に対する有益な代替物を提供することである。
【0008】
資料、動作、材料、装置、物品等の議論は、本発明の文脈を提供することのみを目的として、本明細書に含まれる。従来技術の一部を構成するこれらの事項のいずれかまたは全ては、本出願の各仮の請求項の優先日前に存在する本発明に関連する分野における技術常識であることを示唆したり、表示したりするものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
必ずしも最も広い態様ではないが、第1の態様では、本発明により、透過モードの二次電子放射素子により部分的に形成された囲いを有する自己完結型の粒子検出器であって、
前記囲いは、内部環境および外部環境を定め、
前記透過モードの二次電子放射素子は、外側に面した表面および内側に面した表面を有し、前記外側に面した表面への粒子の衝突により、前記内側に面した表面から1または2以上の二次電子の放出が生じるように構成される、自己完結型の粒子検出器が提供される。
【0010】
第1の態様のある実施形態では、前記透過モードの二次電子放射素子は、透過ダイノードの構造および/または機能を有する。
【0011】
第1の態様のある実施形態では、前記透過モードの二次電子放射素子は、2または3以上の電子放射サブ素子を有する。
【0012】
第1の態様のある実施形態では、前記2または3以上の電子放射サブ素子の各々は、透過ダイノードの構造および/または機能を有する。
【0013】
第1の態様のある実施形態では、前記囲いは、前記外部環境から前記内部環境への汚染物質の移動を防止しまたは抑制する。
【0014】
第1の態様のある実施形態では、前記囲いは、壁構造を備え、前記透過モードの二次電子放射素子は、前記壁構造の壁と実質的に連続する。
【0015】
第1の態様のある実施形態では、前記囲いは、シールされた、または実質的にシールされた配置を形成する。
【0016】
第1の態様のある実施形態では、当該自己完結型の粒子検出器は、前記透過モードの二次電子放射素子から放射される二次電子を増幅するように構成された電子増幅手段を備える。
【0017】
第1の態様のある実施形態では、前記電子増幅手段は、電子増倍管である。
【0018】
第1の態様のある実施形態では、前記電子増倍管は、離散ダイノード電子増倍管、または連続電子増倍管、またはマルチチャネル連続電子増倍管、またはクロスフィールド検出器(例えば、マグネTOF(登録商標))、またはマイクロチャネル板(MCP)検出器である。
【0019】
第1の態様のある実施形態では、前記検出器は、前記電子増幅手段に関連して作動可能な電子収集手段を備える。
【0020】
第1の態様のある実施形態では、前記電子収集手段は、アノードである。
【0021】
第1の態様のある実施形態では、前記電子増幅手段および前記電子収集手段は、前記囲い内に全体が収容されている。
【0022】
第1の態様のある実施形態では、当該自己完結型の粒子検出器は、光電子増倍管またはシンチレーションカウンタと置換される部材として構成され、あるいは放射線検出用のシンチレーションカウンタと置換される部材として構成される。
【0023】
第2の態様では、本発明により、第1の態様のいずれかの実施形態の自己完結型の粒子検出器と、変換ダイノードとの組み合わせであって、
前記変換ダイノードは、前記自己完結型の粒子検出器と作動可能に関連し、
前記変換ダイノードから放射される二次電子は、前記透過モードの二次電子放射素子の前記外側に面した表面に衝突できる、組み合わせが提供される。
【0024】
第3の態様では、本発明により、第1の態様のいずれかの実施形態の自己完結型の粒子検出器と、電子増幅手段との組み合わせであって、
前記電子増幅手段は、前記自己完結型の粒子検出器と作動可能に関連し、前記電子増倍管により放射される二次電子は、前記透過モードの二次電子放射素子の前記外側に面した表面に衝突できる、組み合わせが提供される。
【0025】
第4の態様では、本発明により、第1の態様のいずれかの実施形態の自己完結型の粒子検出器、または第2の態様の組み合わせ、または第3の態様の組み合わせを有する、質量分析器が提供される。
【0026】
第5の態様では、本発明により、質量分析器を維持する方法であって、
当該方法は、質量分析器の光電子増倍管を、第1の態様のいずれかの実施形態の自己完結型の粒子検出器と置換するステップを有する、方法が提供される。
【0027】
第6の態様では、本発明により、粒子を検出する方法であって、
当該方法は、
囲いの一部を形成する透過モードの二次電子放射素子の外部に面した側に粒子を衝突させ、またはそれを可能にするステップと、
前記透過モードの二次電子放射素子により、該透過モードの二次電子放射素子の内部に面する側から二次電子を放射させ、またはそれを可能にするステップと、
を有する、方法が提供される。
【0028】
第6の態様のある実施形態では、囲いの一部を形成する前記透過モードの二次電子放射素子は、第1の態様のいずれかの実施形態の自己完結型の粒子検出器により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の好適な実質的に封入された粒子検出器を高度に模式的に示した図である。
図2】高エネルギー反射モード変換ダイノードと動作可能に関連する、図1に記載の好適な実質的に封入された粒子検出器を高度に概略的に示した図である。
図3】離散ダイノード電子倍増器と動作可能に関連する、図1に記載の好適な実質的に封入された粒子検出器を高度に概略的に示した図である。
図4図1の離散ダイノード電子倍増器の代わりに封入されたクロスフィールド検出器を除き、図1に示したような実質的に封入された粒子検出器を高度に概略的に示した図である。
図5】部分的にシールされたマグネTOF(登録商標)検出器に関連して実施される本発明の別の実施形態を高度に概略的に示した図である。
図6】コレクタ/アノードおよびダイノードストリップの一部のみが囲い内に封入された、図5に示した実施形態とは別の実施形態を高度に概略的に示した図である。
図7】伝送モードの二次電子放射素子として本発明の一実施形態において使用される被覆されたワイヤ構造を高度に概略的に示した図である。
図8】透過モードの二次電子放射素子として本発明の一実施形態において使用されるチャネル付きブレース(brace)を高度に概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
別段の記載がない限り、各種図面にわたって同一の符号が付された項目は、同一のまたは等価な項目を表す。
【0031】
本記載を参照した場合、各種代替実施形態および代替用途において本発明がどのように実施されるかは、当業者には明らかである。ただし、本発明の各種実施形態が本明細書に記載されているが、これらの実施形態は、限定的なものではなく、一例としてのみ提示されることが理解される。従って、各種代替実施形態の記載を本発明の範囲または広さを限定するものと解してはならない。また、利点または他の態様の記載は、特定の一実施形態に適用され、必ずしも特許請求の範囲により網羅される全ての実施形態に適用される必要はない。
【0032】
本明細書の記載および請求項を通じて、「comprise」という用語、および「comprising」および「comprises」のような変形は、他の追加物、部材、整数またはステップを除外することを意図するものではない。
【0033】
本明細書を通じて、「一実施形態」または「実施形態」とは、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書内の各種箇所における「一実施形態」または「ある実施形態」という語句の使用は、必ずしも全てが同じ実施形態を参照しているとは限られない。ただし、そうである場合もあり得る。
【0034】
本発明は、従来の光電子増倍管の改良、または少なくとも代替を提供する。ある意味では、本発明は、従来の光電子増倍管を修正し、シンチレータを透過モードダイノードで置換したものとみなすことができる。この点に関し、本発明の検出器は、一般に、同様の形状、サイズ、電気コネクタ等を有する従来の光電子増倍管に構造的に類似し、大部分が同様の材料から製造されてもよい。主な相違点は、シンチレータが透過モードダイノードで置換されることである。
【0035】
別の意味では、本発明は、透過モードダイノードの新規な使用とみなすことができる。検出器の構造は、光電子増倍管とほとんどまたは全く似ていないダイノードベアリングを有する。ダイノードは、光電子増倍管とは全く関連のない構造に組み込まれてもよく、ダイノードと組み合わされた構造は、実質的にシールされた囲いを形成する。この点に関し、検出器囲いは、主として、ポリマー、セラミック、金属などを含む非ガラス質材料から形成されてもよい。透過モードダイノードに関し、囲いの残りの材料および構造は、ガスまたは他の汚染物質が検出器の内部環境に流通することを回避または抑制するように設計される必要がある。従って、囲いは、一般に、任意の接合を回避または制限するように設計されてもよく、実際には、一般的な一体構造であってもよい(ダイノードを除く。当然、ダイノードは、囲い構造の残りの部分とは分離される必要がある)。
【0036】
いずれにしても、透過モードダイノードは、一方の面で粒子(電子、イオン、またはその他)を受容し、反対面から1または2以上の二次電子を放出するように機能する。本発明の文脈において、透過モードダイノードは、囲いの物理的部分を形成するという付加的な機能を果たす。例えば、透過モードダイノードは、管の壁に組み込まれてもよく、管とダイノードの組み合わせにより、実質的にシールされた囲いが提供される。この点に関し、透過モードダイノードは、検出器の内部の環境と検出器の外部の環境との間の界面とみなすことができる。界面は、検出器の内部環境を検出器の外部環境からシールする手段とみなされてもよいが、外部環境の粒子は、依然として、検出器の内部で電子束を形成することができる。
【0037】
透過モードダイノードの機能の1つが検出器の内部環境を封止することであることを考慮すると、ダイノードは、そこを通過して、検出器の内部環境に入るガス種の流通を防止し、または少なくとも実質的に防止する材料および方法で製造されることは明らかである。さらに、ダイノードは、検出器の壁と相互作用し、ダイノードの周囲を通り、検出器の内部環境に入る任意のガス種の流通を回避し、または少なくとも実質的に抑制する必要がある。
【0038】
透過ダイノードが検出器の壁部との界面を形成する場合、界面にシーラントを使用してもよい。また、シーラントは、接着特性を有し、不連続部の表面対する接着が容易となり、さらに周囲材料が質量分析器の真空チャンバで通常行われるような、形成され破壊される真空の過程で脱落することが抑制されてもよい。
【0039】
好適なシーラント/接着剤は、溶融粉末ガラス、はんだ、ポリイミドのようなポリマー(必要な場合、カプトン(登録商標)テープのようなテープ形態)の構造を有してもよい。好ましくは、シーラント/接着剤は、いったん硬化または溶融されると、「バーチャルリーク」に最小限に寄与することが好ましい。これは、真空下でチャンバ内に、液体、蒸気またはガスを実質的に脱着させない。そのような材料は、しばしば「真空セーフ」と呼ばれる。脱着物質は、質量分析器の真空ポンプシステムに悪影響を及ぼし得る。
【0040】
透過ダイノードとメイン検出器(またはメイン検出器の一部)との間の界面は、検出器への分子または過渡的なガスの流れを防止しまたは少なくとも抑制するように構成されてもよい。そのような界面は、検出器の外部から検出器の内部への非線形経路または蛇行経路を規定するように構成されてもよい。非線形経路または蛇行経路は、一連の湾曲部および/または曲線および/またはコーナを有してもよい。別の可能性として、界面の周囲にリップが形成され、界面を通るガスの透過が制限されてもよい。
【0041】
検出器のある実施形態では、検出器の2つの部分は、界面を形成せず、代わりに、それらの間に空間が定められる。この空間により、外部のガスの検出器の内部への特別な流体の流れ(過渡的な流れおよび/または分子流)が可能となる。空間を通るガスの流れを抑制しまたは防止するため、変形可能な部材または変形可能な塊が空間内に配置されてもよい。部材または塊は、変形(例えば、屈曲、伸縮、圧縮、膨張、または染み出し)により空間を占有するように構成される。変形(従って、閉塞または部分閉塞)は、一方の素子が他方に対して移動することにより、生じてもよい。あるいは、2つの素子は、固定された空間的関係を維持し、変形可能な部材または塊が、それらの間の空間を占有するように生じ、またはこれが可能となってもよい。
【0042】
前述のような検出器界面の構成に加えて、別の構造的特徴が検出器に組み込まれてもよい。第1の特徴として、検出器囲いの外表面は、できるだけ少数の連続ピースから構成されてもよい。囲いは、連続した外表面を提供するように単一の材料片から製造されることが好ましく、その場合、任意の不連続部がシール材でシールされてもよい。
【0043】
好適な透過ダイノード材料には、酸化ケイ素(SiO)、金(Au)、塩化カリウム(KCl)、アルミニウム(Al)、酸化アルミニウム(Al2O3)、ヨウ化セシウム(CsI)、ガリウムヒ素(GaAs)、ならびにダイヤモンド、ドープダイヤモンド、およびダイヤモンド状材料のような炭素系材料が含まれる。ある実施形態では、厚さは、約1nmから約50μmの範囲であり、別の実施形態では、最大約1mmであってもよい。ダイノード材料は、他の箇所に記載のシーラントを用いて、囲いに組み込まれてもよい。
【0044】
検出器内部を封止することにより、検出器内の電子放射表面(電子増倍管など)、または電子収集表面(コレクタアノードなど)が、通常、質量分析器の真空チャンバ内で認められる汚染物質を実質的に含まないように維持できる。例えば、質量分析器が分離機器(例えば、ガスクロマトグラフィー機器)に結合されている場合、サンプルキャリアガスが検出器に流入することを抑制または防止することが望ましい。サンプルは、キャリアガス(水素、ヘリウム、窒素など)を用いて、検出器が設置された質量分析器のイオン化手段に導かれる。いったんサンプルがイオン化されると、得られたイオンの通過は、質量分析器の制御下で行われる。ただし、残留キャリアガスは、質量分析器を超えて、イオン検出器の方に向かって継続される。従来の検出器では、残留キャリアガスが検出器の寿命および/または性能に及ぼす影響を考慮する必要はない。本発明は、残留キャリアガス(またはキャリアガスによって運ばれる他の汚染物)が、検出器のダイノード(増幅電子放射表面である)、または検出器のコレクタ/アノードを汚したり、その動作を妨害したりすることを防止するために使用されてもよい。
【0045】
電子放出および収集表面に悪影響を及ぼし得る、キャリアガスに関連するもの以外の潜在的な汚染物は、検出器により同様に排除されてもよい。
【0046】
完全にまたは部分的に取り囲まれた放射表面は、大気に対する曝露から保護され、望ましくないゲイン回復プロセスが回避または制限されてもよい。この過程は、空気中の水分子が放射表面に到達する結果であると考えられる。これは、水が入射電子により除去されるまで、これらの表面の二次電子放射収率を高める。従って、この「ゲイン回復」は、一時的なものであり、望ましくない。水分子との接触を防ぐことにより、ゲイン回復機構を完全にまたは部分的に抑制することで、囲まれた放射表面の「ゲイン安定性」が改善され得る。
【0047】
本発明の文脈において、「透過モード(の)二次電子放射素子」という用語は、従来の再利用された透過ダイノードを含むと解され、これは、「現状のまま」で、または何らかの修正を加えて使用され、本発明の文脈において有益となるように、有用性が付与され、または、適適応性が改善される。あるいは、素子は、任意の既存のダイノードを参照することなく、新規に形成されてもよい。
【0048】
ある実施形態では、透過ダイノードは、機械的支持のため、基板上に炭素系物質(微結晶ダイヤモンドなど)を積層することにより形成され、基板は、一般に、二次電子の通過を許容する。本明細書の利点を考慮すると、当業者には、電子放射材料およびその構造の範囲を定めることができ、本発明の一般的な目的を達成し、外部環境に対して実質的に封止される検出器を提供することができる。
【0049】
従来の透過モードダイノードは、通常、荷電粒子に衝突された際に二次電子を放射する素子のスタックで構成される。好適形態では、本検出器は、検出器囲いの一部を形成する界面として、透過増倍管の単一素子を使用する。透過増倍管は、離散ダイノード電子増倍管の複数の素子と同様の、複数の透過素子を用いて構成される。
【0050】
問題となる2つの限界は、高い動作電圧と、限定された機械的および構造的な強度である。透過増倍管における透過素子は、作動のため高い作動電圧(典型的には、2kV以上)を必要とする。透過素子が厚いほど、電圧は、高くする必要がある。このため、実際の作動電圧と実際の厚さとの間で競争が生じる。このバランスは、複数の素子が積層されて透過増倍管が形成される場合、より薄い透過素子の方向にシフトする。透過増倍管の得られる作動電圧は、新しい透過増倍管の場合、20kVの高さになり得る。透過増倍管が経時劣化するにつれて、この電圧を高めて、必要なゲインを維持する必要がある。これは、30kVを超える極めて高い電圧を必要とし得る。これらの限界、および競合する要求により、商業的に可能な透過増倍管の実現が妨げられている。
【0051】
透過素子は、通常、二次電子を生成するため、離散ダイノード、連続/チャネル、またはクロスフィールド検出器(~100V)と比べて、高い作動電圧(1.5kV以上)を必要とする。これは、透過素子が、イオンまたは電子が衝突した側とは反対の側から、二次電子を放出するためである。これは、透過素子を通したこの「透過」を生じるため十分なエネルギーで衝突する入射荷電粒子を必要とする。
【0052】
別の実施形態では、透過モードの二次電子放射素子は、複数のサブ素子を有してもよく、各サブ素子は、電子放射材料から製造され、または少なくとも電子放射材料で被覆され、または少なくとも電子放射外側領域を有する。本検出器の外側および内側に面する表面は、各々、単一のサブ素子により提供され、あるいは各々は、集合的にソートの表面を形成する、複数のサブ素子により提供されてもよい。
【0053】
ある実施形態では、サブ素子は、抵抗性ガラスから製造され、これは、本質的に導電性であり、その後、自然の電子放射層を提供するように処理できる。
【0054】
サブ素子は、通常、ミクロンの範囲、数十ミクロンから数百ミクロンまでの範囲で、ほぼ均一に寸法化され、充填された配置で配列される。サブ素子は、焼結法により製造され、ミクロンスケールで寸法化された球体または回転楕円体を提供するように実施されてもよい。
【0055】
サブ素子は、通常、充填されると、複数の空間が形成され、合わせることで経路が提供されるように形成され、これにより、二次電子は、その起源となる放射表面から別のサブ素子の放射表面に向かって、通常は、透過モード二次電子放射素子の内側に面する側に向かって、移動されるようになる。サブ素子は、球体または回転楕円体であってもよく、そのような形状では、有益な空間を維持したまま、緻密な充填が提供され、二次電子の移動が可能となる。
【0056】
本明細書の利点を考慮すると、当業者は、本検出器の特定の用途に適合するように、材料、形状、サイズ、および充填配置を最適化することができる。
【0057】
サブ素子は、通常、ある記載のハウジングにより、充填された形態に維持され、サブ素子の容積が提供され、容積にわたって電圧が印加され、二次電子は、透過モード二次電子放放射素子の内方面に向かって移動し易くなる。
【0058】
作動中、検出のイオンは、サブ素子に衝突し、これにより、1または2以上の二次電子の放射が生じる。この点に関して、サブ素子(さらには素子全体)は、イオン-電子変換器として機能する。衝突されたサブ素子から放出される任意の二次電子は、サブ素子同士の間の空間を介して移動し、別のサブ素子に衝突してもよいことが理解される。
【0059】
本発明の特定の実施形態では、複数のサブ素子により形成される透過モードの二次電子放射素子は、従来のマイクロ球電子増倍器(多球板、マイクロ球増倍管、マイクロ球板、およびガラスビーズ増倍管という用語でも知られている)により構成されてもよい。本文脈において、透過モード二次電子放射素子は、従来の再利用されたマイクロ球電子増倍管であってもよく、これは、「現状のまま」で、または、本発明の文脈において有益な、有用性を付与し、または適性を改善するため、ある修正を加えて、使用されてもよい。あるいは、素子は、既存の任意のマイクロ球電子増倍管を参照せず、新規に作製されてもよい。
【0060】
従来のマイクロ球増倍管が使用される場合、本明細書の利点を知る当業者は、商業的に製造された任意の増倍管、例えば、El-Mul Technologies社(イスラエル)により供給される任意の増倍管を選択してもよい。従来の技術では、マイクロ球増倍管の非商業的実施形態が提供され、そのいずれかは、本発明の検出器を製造する際に、新規に(任意の修正を加えて)構成されてもよい。従来の増倍管は、そのまま、軽微な修正の後、または大きな修正の後に、本検出器に実施されてもよい。
【0061】
出願人は、マイクロ球電子増倍管の新たな用途を提案する。そのような増倍管は、従来、電子増倍の手段としてのみ使用されており、これは、入射粒子(電子ではない)を電子信号に変換する本使用とは異なっている。新しい変換の機能では、マイクロ球電子増倍管は、通常、有益な電子増倍に必要とされる、高いゲイン(少なくとも103)を供給する必要がない。低いゲインを使用する機能は、多球電子増倍管のいくつかの負の態様を制限する。すなわち、ノイズの多い作動および大きなパルス高さ分布である(両方とも、高ゲインに直接関連する)。ゲインを約500、400、300、200、100、および好ましくは約10未満に制限することにより、これらの問題が回避される。出願人は、約100未満のゲインで作動する従来のマイクロ球増倍管が、イオン-電子変換装置として好適に作動することを見出した。
【0062】
多球増倍管のこの低いゲインバージョンは、イオン-電子変換を達成するため単独で、または主体として作動する場合、本検出器の内部環境と外部環境との間の界面として、透過増倍管ダイノードの代替として使用され得る。ある実施形態では、多球増倍器は、シールされた内部環境と外部環境との間の圧力差を維持するように構成される。以下の配置(より広義には、サブ素子を含む任意の変換配置にも利用されてもよい)が使用され、圧力差が達成されてもよい。
【0063】
第1の配列では、層状球のサイズの混合が使用される。まず、大きな複数の球が容積に充填され、電子の移動を可能にする空間が形成される。また、大きな球により、内部検出器環境と外部検出器環境の間の圧力差を維持する上で必要となる機械的強度が提供される。次に、より小さな球が容積内に充填され、大きな球の境界部に形成される外表面におけるギャップが閉止され、または部分的に閉止され、またはギャップの数が低減される。必要に応じて、段階的なサイズの球を使用してもよく、マイクロ球体容積の外表面に向かって、より小さな球が配置される。
【0064】
第2の別の配置では、第1の配置(典型的にはガラス)から、通常、透過増倍管ダイノード(これに限られるものではないが、SiO、SiO/Au/KCl、SiO/KCl、Al/KCl、Al2O3/Al/CsI、Al2O3/Al/CsI(Cs)、GaAs、Si、多結晶ダイヤモンド、および単結晶ダイヤモンドを含む)に使用される材料から作製された球体に、より小さな球が置換される。この配置は、大きな球の境界により形成される空間内に、複数の透過点を形成する。小さな球は、イオンまたは電子が衝突する反対の側に二次電子が生じるようにしたまま、空間を機械的に塞ぐ。
【0065】
第3の別の構成では、第2の配置は、通常の透過増倍管ダイノード材料(上記のような材料)で1または2以上の外部表面上に、多球増倍管が被覆されるように拡張される。
【0066】
本発明の別の実施形態では、透過モード二次電子放射素子は、被覆されたワイヤ構造である。例示的な構成では、導電性ワイヤのグリッドは、通常、透過増倍管ダイノードで使用される材料の層で被覆される(前述の材料など)。被覆は、ワイヤ間の空間に透過素子を形成する。これらの空間内の材料に衝突する粒子は、材料の反対側に二次電子を生じさせる。
【0067】
ワイヤのサイズおよびピッチは、透過界面の有効面積を制御するように調整されてもよい。より大きな有効面積(望ましい)は、本検出器の外部環境と内部環境との間の圧力差に耐えるために必要な機械的強度を損なう可能性がある。本明細書の利点を有することにより、当業者は、有益な機械的強度を提供する有益な有効面積を提供するため、各種サイズのワイヤ、ピッチ、およびコーティングを試みることができる。
【0068】
ワイヤにコーティングを設置するプロセスにおいて、コーティングの粘度は、特定の制限内に制御される必要がある。粘度は、少なくとも部分的に、ワイヤ間の空間におけるコーティングの厚さを定め、ワイヤ間に形成される空間のサイズの変化をもたし得る。従って、コーティング粘度の変化を利用して、被覆されたワイヤの間に形成された空間のサイズを制御してもよい。
【0069】
図7には、被覆されたワイヤ構造を概念的に示す。これは、ワイヤのグリッド(510で示す)に塗布された透過ダイノード材料(500)のコーティングを有し、ワイヤ空間(515で示す)に透過素子が形成される。
【0070】
本発明の別の実施形態では、透過モード二次電子放射素子は、チャネル付きブレースの形態である。チャネル付きブレースは、三重領域構造であってもよく、内側領域は、2つの外側領域の間にサンドイッチされる。内側領域は、通常、透過ダイノード材料(前述の材料を含む)の有意に薄い層である。外側の2つの領域は、(例えば、化学エッチングまたはレーザアブレーションにより形成される)チャネルを有し、実質的に鏡像化されたチャネルが形成される。外側領域は、内側領域のいずれかの側に配置され、三重領域構造が形成される。「実質的に鏡像の組」という用語は、チャネルのプロファイルにより形成された鏡像を含む。本明細書の考慮により容易に理解されるように、両方の外層におけるチャネルの位置は、通常、十分に重複し、イオンの衝突により生じた二次電子は、界面から出射され、検出器の内部環境に到達する。
【0071】
化学エッチングにより形成されたチャネルに関し、これにより形成された自然なプロファイルが利用される。化学エッチングでは、実質的にU字形の輪郭が形成される。U字型の形状は、構造において、U字の頂点から構造の残りの部分に機械的な負荷を効果的に分配するように、規則的に使用される(1つの例は、ブリッジ構造である)。従って、化学的にエッチングされたチャネルの自然なU字形のプロフィルにより、ブレースの構造に使用される好適なプロセスが化学エッチングされ、透過モード二次電子放射素子の全体に、追加の機械的強度が提供される。
【0072】
両方の外側領域のU字形プロファイルをミラーリングすることにより、どの方向から負荷が生じても、負荷を確実に分散できるようになる。
【0073】
図8には、三重領域配置を概念的に示す。これは、透過ダイノード(605)を有し、該透過ダイノード(605)は、化学エッチングにより形成された一組の鏡面反射層(600、610)により補強される。次に、鏡面層(600、610)は、取り付け素子(610)を介して当接するように保持される。取り付け素子(610)は、別個の素子(金属リングなど)であってもよく、または検出器囲いに組み込まれてもよい。
【0074】
本発明は、透過素子に必要な作動電圧を提供する検出器の構成を提供する。質量分析器の変更は、必ずしも要求されない。これにより、封入されたまたは部分的に封入された検出器に対する界面として、単一の透過素子の新規な使用が可能となる。
【0075】
少なくとも3つの一般的な構成がある。第1の構成のタイプは、図1および図4の実施形態により例示されるように、視線検出器である。イオンまたは電子は、質量分析器により極めて高いエネルギーに加速され、通常、検出器の軸外入力光学系で使用される電圧によっては偏向させることができないため、通常、視線検出器が使用される。本検出器では、この衝撃エネルギーを利用して、透過ダイノード素子の透過プロセスがトリガーされてもよい。従って、本構成では、検出器は完全にシールされる。
【0076】
第2の構成のタイプは、図2の実施形態により例示されるように、高エネルギーダイノードを組み込んだ検出器である。このタイプの構成では、検出器は、完全にシールされる。検出器(典型的には3.5kV以下)に対して、高エネルギーダイノードに印加される高電圧(5kV以上、通常~10kV、ただし~20kVであってもよい)を利用して、少なくとも数千ボルトの電位を介して、高エネルギーダイノードにより放出される二次電子を加速することによって、必要な衝撃エネルギーが提供される。
【0077】
第3の構成では、図3および図5の実施形態により例示されるように、検出器が部分的にシールされる。この構成では、検出器の最初の部分(シールされていない)を用いて、初期のイオンまたは電子が相応の数の電子(2から1000)に増幅される。次に、これらの電子は、透過素子に衝突する。透過素子は、検出器の第2のシール部に対する界面として作用する。これらの入射電子は、界面の反対側でいくつかの電子(~5個)を生成するだけでよく、検出器のシール部が作動し、出力信号が発生する。従って、この透過素子の必要ゲインは、~1、または1未満、例えば、5/1000インチ=0.005ゲインである。必要なゲインを低減することにより、界面として使用される透過素子の必要な作動電圧が低下する。あるいは、通常の(1.5kV以上の)作動電圧を使用し、透過素子を厚くすることも可能である。これにより、透過素子の機械的および構造的強度が向上する。
【0078】
部分的にシールされた少なくともいくつかの実施形態(例えば、前述の第3の構成)の利点は、電子増倍管の非シール部分を用いて、十分な数の入射電子を生成できるため、1未満のゲインを有する界面を使用できることである。そのような実施態様では、本発明は、本願の出願日に公知のタイプの透過モード界面の使用を超えて拡張される。界面は、現在の透過インターフェースで使用されているものとは異なる種類の物理に基づくことができる。ただし、異なる種類の物理に基づくインターフェースは、「透過モードの二次電子放射素子」という用語の範囲に含まれる。
【0079】
本発明は、添付の図面に示されている非限定的な実施例を参照することにより、さらに詳細に説明される。
【0080】
図1を参照すると、図1には、本発明の粒子検出器(10)を示す。これは、透過モードダイノード(15)および壁構造(20)を有する。壁構造(20)と透過ダイノード(15)の組み合わせにより、囲いが形成される。囲い(15、20)は、内部環境(25)および外部環境(30)を定める。
【0081】
囲い(15、20)の内部には、離散ダイノード電子増倍管があり、鎖状の2つの連続した離散ダイノードは、(35a)および(35b)で示されている。また、囲い(15、20)の内部には、コレクタアノード(40)がある。
【0082】
作動中、質量分析器を出射したイオンは、経路(45)に沿って誘導され、透過モードダイノード(15)の外側に面する表面(15a)と接する。イオンの衝突により、内側に面する表面(15b)から、経路(45)に沿って1または2以上の二次電子の放出が生じる。二次電子(図示されていない)は、電子増倍管のダイノード(2つは35aおよび35bで記載されている)の鎖に沿って、上部領域から下方に移動し、下部領域の最後のダイノードに向かう。最後のダイノードを出射した後、二次電子なだれは、コレクタアノードに衝突し、測定可能な電気信号が形成される。
【0083】
囲い(15,20)は、検出器(10)の内部環境(25)を外部環境(30)から実質的に隔離することが留意される。従って、電子放射表面(ダイノード35a、35bなど)およびコレクタアノード表面(40)は、正常な環境に維持され得る。検知器(10)が質量分析器の真空チャンバ内に配置されていると仮定すると、外部環境(30)には、サンプルキャリアガス種のような汚染物質が存在することが理解される。
【0084】
図1の検出器は、いずれのシンチレータにも依存しない。従って、イオンまたは電子により衝突を受けた際にシンチレータに誘発される準安定状態の減衰時間、および関連する時間的なノイズといった、光電子増倍管に関する問題が克服されまたは改善されることが提案される。従って、図1の検出器は、改善されたタイミング分解能を示し、これにより、高性能飛行時間質量分析において、適性が付与されることが提案される。さらに、後端を有する非ガウシアンパルスの生成が回避され、または少なくとも低減されることが期待される。
【0085】
図2には、高エネルギーダイノード(100)と組み合わされた、図1と同様の粒子検出器(10)を有する実施形態を示す。高エネルギーダイノード(100)は、反射モードで作動可能であり、透過モードダイノード(15)を作動させるために必要な電圧を生成するように構成される。イオンまたは電子は、経路(105)に沿って高エネルギーダイノード(100)に誘導されてもよい。高エネルギーダイノード(100)から放出された二次電子は、透過モードダイノード(15)の外面に衝突する。透過モードダイノード(15)の内面から放出された二次電子は、囲い(15、20)内に封入された離散ダイノード電子増倍管の第1のダイノードに向かって矢印(48)の方向に移動し、さらに増幅される。
【0086】
高エネルギー変換ダイノードは、粒子(例えば中性子または陽子または電子のような、荷電または非荷電原子、荷電または非荷電分子、荷電または非荷電のサブ原子粒子)の衝突の際に二次電子を放出できる、任意の装置であってもよく、さらに、比較的高い電位を有する装置であってもよい。電位は、接地に対して測定され、または適宜、ダイノードと電気的に接続された別の部材に対して測定されてもよい。
【0087】
当業者により理解されるように、イオン-電子変換効率は、イオンが変換ダイノードの表面に衝突する速度に比例する。従って、変換ダイノードは、通常、入射イオンの速度を高めるように設計され、変換効率ができる限り最適化される。
【0088】
図3には、図1のものと同じ基準で作動可能な粒子検出器(10)を含む実施形態を示す。ただし、透過モードダイノード(15)は、検出器(10)の長手軸を横断するように配置される。また、この実施形態は、離散ダイノード電子増倍管(200)と組み合わされる。離散ダイノード電子増倍管(200)を出射する電子なだれは、矢印(45)で示された方向に移動し、透過モードダイノード(15)の外面に衝突する。透過モードダイノード(15)の内面から放射された二次電子は、略矢印(48)の方向に移動し、囲い(15、20)内に封入された離散ダイノード電子増倍管の第1のダイノードに衝突し、さらに増幅される。
【0089】
図4には、図1図2、および図3の実施形態と同様に作動する粒子検出器10を備える実施形態を示す。ただし、透過モードダイノード(15)の内面から放出される二次電子は、略矢印(48)の方向に誘導され、クロスフィールド検出器のダイノード板(300)に至る。アーク(48)に沿った二次電子の偏向は、クロスフィールド検出器(305)において使用される電界と磁界の組み合わせにより行われる。二次電子は、ダイノード板領域(310)における磁場および電場の影響下で、ダイノード板(300)に沿って「跳ね返り」、そのプロセスにおいて、透過モードダイノード(15)の内面から放出される二次電子を増幅することが理解される。このようにして生じた電子なだれは、アノード(40)に集められる。クロスフィールド検出器は、後にAdaptas Solutions Pty社(オーストラリア)として知られる、ETP Ion Detect Pty社(オーストラリア)により供給される、マグネTOF(登録商標)クロスフィールド検出器と同じであり、または同様であってもよい。
【0090】
図5の実施形態は、部分的にシールされたクロスフィールド検出器であり、これは、後にAdaptas Solutions Pty社(オーストラリア)として知られるETP Ion Detect Pty社(オーストラリア)により供給されるマグネTOF(登録商標)クロスフィールド検出器と同じであり、または同様であってもよい。検出器のある部分は、囲い(15、20)の外部にあり、クロスフィールド検出器部材ダイノード板(400)、導波電極(405)、およびフィールド板(410)を有する。検出器のこの外部部分の機能は、透過モードダイノードの外部面に衝突する電子を生成することである。これらの電子は、増幅プロセスの一部を形成することを意図したものではないが、偶発的に増幅に寄与してもよい。これらの電子の主な機能は、犠牲電子として作用し、低ゲイン(約1または1未満)での透過モードダイノードの使用を可能にすることである。1または1未満のゲインでは、所与の電圧に対してより厚い透過モードダイノード、または所与の厚さに対してより小さな作動電圧、のいずれかの使用が可能となる。これら2つのオプションを組み合わせて使用することも可能である。
【0091】
図5の実施形態では、検出器は、囲い(15,20)内に封入されたダイノード板(300)、フィールド板(310)、およびコレクタアノード(40)を有するマグネTOF(登録商標)により表される。矢印(420)は、マグネTOF(登録商標)入口においてグリッド(425)を通って移動するイオンの移動方向を示す。次に、これらのイオンは、マグネTOF(登録商標)衝突板(430)に衝突する。これにより、矢印(435)で示すように、マグネTOF(登録商標)増幅区画に移動する二次電子が生じる。一連の円弧状の矢印(1つは440)によって示されるように、増幅区画の未シール部分では、電子の数が増幅する。矢印(45)は、これらの増幅された数の電子の方向を示しており、これは、最終的に、透過モードダイノード(15)の外表面に衝突する。矢印(48)は、透過モード増倍管の内部に面する表面から放出される二次電子の方向を示す。
【0092】
図6には、図5に描かれた実施形態の別の実施形態を示す。コレクタ/アノード(40)とダイノード板(300)の一部のみが、囲い(15、20)の内側に封止されている。さらに説明すると、ダイノード板の全体は、(400)および(300)で表され、(300)で示された部分のみが囲い(15、20)内に封止される。フィールド板(410)は、連続していることが留意される。
【0093】
本発明では、シンチレータを有する光電子増倍管の代替が提供される。本発明では、透過増倍管からの単一の素子/層が、「シンチレータ-ガラス-光カソード」構造およびプロセスに置換されてもよい。従来の透過増倍管は、荷電粒子が衝突した際に二次電子を放射する素子のスタックで構成される。従来の電子増倍管とは異なり、これらの二次電子は、電子が衝突する側とは反対の側から放出される。これにより、透過増倍管からの単一の素子を管に埋設し、界面として使用することができる。この界面では、管の外側からイオンおよび電子が衝突すると、管の内側で電子が生じる。
【0094】
従来の光電子増倍管の代替として、本発明は、重要な差異を示す。シンチレータを使用しないため、優れた時間分解能が実現される。シンチレータイオンから光子への変換プロセスは、放射性崩壊のような準安定減衰時間を有する統計的プロセスである。これは、光電子増倍管を用いた荷電粒子到達時間の測定に、付加的なノイズを追加する。シンチレータを置換することにより、この時間的なノイズが除去され、または制限される。これにより、本検出器は、光電子増倍管よりも飛行時間質量分析に有益となる。
【0095】
しかしながら、本発明の検出器は、実質的に(光電子増倍管と同様に)シールされるため、検出器は、離散ダイノード検出器、連続/チャネル検出器、およびクロスフィールド検出器と比べて、より長い作動寿命を提供し、ゲイン回復を抑制し、一般的な特性を改善する。従って、本発明では、同様の耐用年数を示したまま、従来の光電子増倍管の欠点が克服または改善される。
【0096】
主として、質量分析器に使用されるタイプの検出器を参照して、本発明を説明したが、本発明がこれに限定されないことは明らかである。他の用途では、検出される粒子は、イオンでなくてもよく、中性原子、中性分子、または電子であってもよい。いずれにおいても、粒子が衝突する検出器表面は、依然として設けられる。
【0097】
また、疑義を避けるため、示された実施形態における離散ダイノード検出器およびマグネTOF(登録商標)検出器は、いかなる点においても限定するものと解されてはならない。図面から、本構成が、連続電子増倍管、マルチチャネル連続電子増倍管、またはマイクロチャネル板検出器に適用可能であることは、当業者には明らかである。
【0098】
本発明の例示的な実施形態の説明では、本発明の各種特徴が、時折、開示を合理化し、1または2以上の各種新たな態様の理解を高める目的で、単一の実施形態、図面、またはその記載が相互にまとめられることが理解される。しかしながら、この開示方法は、請求項に係る発明が、各請求項において明示的に記載されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映するものと解してはならない。むしろ、以下の特許請求の範囲が表すように、本発明の態様は、前述の開示された単一の実施形態の全ての特徴よりも少ない特徴を含む。
【0099】
また、本願に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態には含まれない、いくつかの他の特徴を含むが、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であり、異なる実施形態を形成することは、当業者に理解される。例えば、以下の特許請求の範囲では、請求項に記載された実施形態のいずれかを任意の組み合わせで使用してもよい。
【0100】
本願で提供される説明において、多くの特定の詳細が記載されている。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの特定の詳細を含まずに、実施し得ることが理解される。他の例では、この記載の理解を妨げることがないよう、良く知られた方法、構造および技術は、詳細には示されていない。
【0101】
従って、本発明の好適実施形態であると考えられる構成が記載されているものの、本発明の思想から逸脱することなく、他の別の変更を加えることが可能であり、本発明の範囲に含まれる全てのそのような変更および修正が請求されることが意図されることは、当業者には理解される。図面から、機能を追加または削除することができ、操作は、機能ブロック間で相互に交換することができる。記載された方法において、本発明の範囲内で、ステップが追加されまたは削除されてもよい。
【0102】
特定の実施例を参照して本発明を説明したが、本発明が多くの他の形態で実施され得ることは、当業者には理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8