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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】鉛板の切断方法および鉛板切断装置
(51)【国際特許分類】
   B23D 33/00 20060101AFI20241119BHJP
   B23D 49/08 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B23D33/00 K
B23D49/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022135004
(22)【出願日】2022-08-26
(65)【公開番号】P2024031452
(43)【公開日】2024-03-07
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000204000
【氏名又は名称】太平電業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390013815
【氏名又は名称】学校法人金井学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 智久
(72)【発明者】
【氏名】五十田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】砂川 武義
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-136786(JP,A)
【文献】特開2000-109939(JP,A)
【文献】特開昭54-068590(JP,A)
【文献】特開2014-196235(JP,A)
【文献】特開2003-053257(JP,A)
【文献】特開昭63-295093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 33/00、49/08、59/00
B23P 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛板に刃物の刃先をあてがい、BiとSnからなる合金材を前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板に供給し、かくして、前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板をBiとPbとSnからなる低融点合金として軟化させ、そして、前記刃物を前記合金材の供給と共に移動させて前記鉛板を切断する、鉛板の切断方法であって、
前記鉛板及び前記刃物の少なくとも一方における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射して、前記鉛板及び前記刃物の少なくとも一方を加熱することを特徴とする、鉛板の切断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛板の切断方法であって、
前記赤外線が照射される部分の少なくとも一部をアルミ箔で遮蔽することを特徴とする、鉛板の切断方法。
【請求項3】
請求項1に記載の鉛板の切断方法であって、
前記赤外線により加熱して溶融させた前記合金材を、前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板に供給することを特徴とする、鉛板の切断方法。
【請求項4】
請求項3に記載の鉛板の切断方法であって、
前記合金材を貯蔵する容器における黒色ペイントが塗布されている部分に前記赤外線を照射して、前記合金材を溶融させることを特徴とする、鉛板の切断方法。
【請求項5】
鉛板に刃物の刃先をあてがい、BiとSnからなる合金材を前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板に供給し、かくして、前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板をBiとPbとSnからなる低融点合金として軟化させ、そして、前記刃物を前記合金材の供給と共に移動させて前記鉛板を切断する、鉛板の切断方法であって、
溶融させた前記合金材を、前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板に供給し、
前記合金材を貯蔵する容器における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射して、前記合金材を溶融させることを特徴とする、鉛板の切断方法。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか一項に記載の鉛板の切断方法により切断した鉛板における低融点合金に対して塩酸又は希硫酸を接触させて、前記鉛板からBiとSnを分離することを特徴とする、BiとSnの分離方法。
【請求項7】
鉛板に刃先があてがわれる刃物と、
前記鉛板における前記刃先があてがわれる部分にBiとSnからなる合金材を供給する合金材供給手段と、
前記鉛板及び前記刃物の少なくとも一方における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射して、前記鉛板及び前記刃物の少なくとも一方を加熱する赤外線照射手段と、
前記刃物を移動させる駆動手段と、
を備えることを特徴とする鉛板切断装置。
【請求項8】
請求項に記載の鉛板切断装置であって、
前記赤外線が照射される部分の少なくとも一部がアルミ箔で遮蔽されていることを特徴とする鉛板切断装置。
【請求項9】
請求項に記載の鉛板切断装置であって、
前記赤外線照射手段は、前記合金材を貯蔵する容器における黒色ペイントが塗布されている部分に前記赤外線を照射して、前記合金材を溶融させ、
前記合金材供給手段は、溶融した前記合金材を、前記鉛板における前記刃先があてがわれた部分に供給することを特徴とする鉛板切断装置。
【請求項10】
請求項に記載の鉛板切断装置であって、
前記合金材供給手段は、前記刃物の内部を溶融した前記合金材が通る管路を有し、
前記管路は前記刃先に通じていることを特徴とする鉛板切断装置。
【請求項11】
鉛板に刃先があてがわれる刃物と、
前記鉛板における前記刃先があてがわれる部分にBiとSnからなる溶融した合金材を供給する合金材供給手段と、
前記刃物を移動させる駆動手段と、
を備え、
前記合金材供給手段は、前記合金材を貯蔵する容器を含み、
前記容器における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射して、前記合金材を溶融させる赤外線照射手段を、
備えることを特徴とする鉛板切断装置。
【請求項12】
請求項又は請求項11に記載の鉛板切断装置であって、
前記容器は、前記刃先があてがわれる部分の上方に設けられるとともに、下部に前記合金材を滴下するための合金材供給口が形成されており、
前記容器内を前記容器外に対して正圧とする圧力制御手段を更に備えることを特徴とする鉛板切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉛板の切断方法および鉛板切断装置、特に、金属ヒュームを発生させることなく、鉛板を容易かつ確実にしかも安価に切断することができる、鉛板の切断方法および鉛板切断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所の廃止措置作業の一つに、放射線の遮蔽材として利用された鉛板の切断作業がある。
【0003】
鉛板の切断法として、マシニングセンターにおいて大量の切削油剤を使用して切断する方法があるが、この方法ではマシニングセンターまで放射性物質を含む鉛板1を運搬する必要があるし、仮にマシニングセンターを近隣に設けたとしても切断時に使用した切削油剤に含まれる放射性物質が切断現場を汚染するため採用は現実的ではない。
【0004】
また、他の鉛板の切断法として、バーナーによる熱切断方法が考えられるが、有害な金属ヒュームが発生する等の問題がある。
【0005】
そこで、金属ヒュームを発生させることのない鉛板の切断法として、電熱ヒーターで加熱した鉛板に超音波カッターの刃先をあてがい、BiとSnからなる合金材を刃先があてがわれた部分の鉛板に供給することで、当該部分の鉛板をBiとPbとSnからなる低融点合金として軟化させ、そして、超音波カッターを合金材の供給と共に移動させて鉛板を切断する切断法が特許文献1に開示されている。また、同様に、超音波カッターの刃先を電熱ヒーターで加熱して、鉛板を切断する切断法が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6688816号公報
【文献】特許第6688817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2の切断法では、鉛板又は刃物を電熱ヒーターで加熱し、鉛板における刃物の刃先があてがわれる部分に合金材を供給することで合金材を溶融させるが、合金材が溶融する温度まで鉛板又は刃物を加熱するのに時間を要し、切断に時間が掛かるという問題があった。
【0008】
そこで、この発明の目的は、BiとSnからなる溶融した合金材を鉛板における刃先があてがわれた部分に供給することで、当該部分の鉛板をBiとPbとSnからなる低融点合金として軟化させ、刃物を合金材の供給と共に移動させて鉛板を切断する場合において、合金材の溶融を効率化することにより、鉛板の切断に要する時間を短縮することができる、鉛板の切断方法および鉛板切断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0010】
請求項1に記載の発明は、鉛板に刃物の刃先をあてがい、BiとSnからなる合金材を前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板に供給し、かくして、前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板をBiとPbとSnからなる低融点合金として軟化させ、そして、前記刃物を前記合金材の供給と共に移動させて前記鉛板を切断する、鉛板の切断方法であって、前記鉛板及び前記刃物の少なくとも一方における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射して、前記鉛板及び前記刃物の少なくとも一方を加熱することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鉛板の切断方法であって、前記赤外線が照射される部分の少なくとも一部をアルミ箔で遮蔽することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の鉛板の切断方法であって、前記赤外線により加熱して溶融させた前記合金材を、前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板に供給することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の鉛板の切断方法であって、前記合金材を貯蔵する容器における黒色ペイントが塗布されている部分に前記赤外線を照射して、前記合金材を溶融させることを特徴とする。
【0015】
請求項に記載の発明は、鉛板に刃物の刃先をあてがい、BiとSnからなる合金材を前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板に供給し、かくして、前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板をBiとPbとSnからなる低融点合金として軟化させ、そして、前記刃物を前記合金材の供給と共に移動させて前記鉛板を切断する、鉛板の切断方法であって、溶融させた前記合金材を、前記刃先があてがわれた部分の前記鉛板に供給し、前記合金材を貯蔵する容器における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射して、前記合金材を溶融させることを特徴とする。
【0016】
請求項に記載の発明は、請求項1乃至の何れか一項に記載の鉛板の切断方法により切断した鉛板における低融点合金に対して塩酸又は希硫酸を接触させて、前記鉛板からBiとSnを分離することを特徴とする。
【0017】
請求項に記載の発明は、鉛板に刃先があてがわれる刃物と、前記鉛板における前記刃先があてがわれる部分にBiとSnからなる合金材を供給する合金材供給手段と、前記鉛板及び前記刃物の少なくとも一方における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射して、前記鉛板及び前記刃物の少なくとも一方を加熱する赤外線照射手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の鉛板切断装置であって、前記赤外線が照射される部分の少なくとも一部がアルミ箔で遮蔽されていることを特徴とする。
【0019】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の鉛板切断装置であって、前記赤外線照射手段は、前記合金材を貯蔵する容器における黒色ペイントが塗布されている部分に前記赤外線を照射して、前記合金材を溶融させ、前記合金材供給手段は、溶融した前記合金材を、前記鉛板における前記刃先があてがわれた部分に供給することを特徴とする。
【0020】
請求項10に記載の発明は、請求項に記載の鉛板切断装置であって、前記合金材供給手段は、前記刃物の内部を溶融した前記合金材が通る管路を有し、前記管路は前記刃先に通じていることを特徴とする。
【0021】
請求項11に記載の発明は、鉛板に刃先があてがわれる刃物と、前記鉛板における前記刃先があてがわれる部分にBiとSnからなる溶融した合金材を供給する合金材供給手段と、前記刃物を移動させる駆動手段と、を備え、前記合金材供給手段は、前記合金材を貯蔵する容器を含み、前記容器における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射して、前記合金材を溶融させる赤外線照射手段を、備えることを特徴とする。
【0022】
請求項12に記載の発明は、請求項又は請求項11に記載の鉛板切断装置であって、前記容器は、前記刃先があてがわれる部分の上方に設けられるとともに、下部に前記合金材を滴下するための合金材供給口が形成されており、前記容器内を前記容器外に対して正圧とする圧力制御手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、鉛板及び刃物の少なくとも一方における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射し、鉛板及び刃物の少なくとも一方を加熱することにより、合金材が供給される部分を効率的に加熱することができ、延いては、合金材の溶融を効率化させ、鉛板の切断に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態における、赤外線ヒーターにより鉛板を加熱している様子を示す斜視図である。
図2】赤外線ヒーターにより加熱した鉛板の温度変化を測定する実験例における測定点の一例を示す斜視図である。
図3】赤外線ヒーターにより加熱した鉛板の温度変化を測定する実験例の結果の一例を示すグラフである。
図4】本実施形態における、鉛板切断装置の一例を示す斜視図である。
図5】本実施形態における、鉛板の切断方法の一例を示すフローチャートである。
図6】(A)は鉛板を切断する状態を示す概略断面図であり、(B)は鉛板の切断が進行した状態を示す概略断面図である。
図7】(A)は合金材供給手段としての刃物の一例を示す斜視図であり、(B)は同断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1を用いて、赤外線ヒーターによる鉛板の加熱方法の一例について説明する。赤外線ヒーター2は、作業台Wに載置された鉛板1を非接触状態で加熱する。赤外線ヒーター2としては、短波赤外線(波長:1000nm~2500nm)を出射するハロゲンヒーターを採用した。鉛板1における、赤外線ヒーター2が赤外線を照射する部分(本実施形態では、赤外線ヒーター2の方向を向いている面1a)には、黒色ペイントが塗布されている。黒色ペイントとしては、一例として、ジャパンセンサー株式会社の黒体塗料JSC-3号(放射率0.94)を用いることができる。後述する実験例でも説明するが、鉛板1における赤外線ヒーター2が赤外線を照射する部分に対して黒色ペイントを塗布しておくことにより、黒色ペイントを塗布しない場合よりも、効率的に加熱することができる。なお、黒色ペイントは、鉛板1の側面1b、1d、上面1cに塗布することとしてもよい。
【0027】
一方で、赤外線の照射により加熱されると不都合な物や部分については、アルミ箔により赤外線を遮蔽することで加熱されることを防ぐことができる。例えば、作業台Wや周囲の物品をアルミ箔により遮蔽することで、これらの加熱による劣化を防ぐことができる。また、鉛板1の温度管理を行うなどのために、例えば、側面1b、1dや、上面1c等をアルミ箔で遮蔽してもよい。
【0028】
次に、図2及び図3を用いて、赤外線ヒーター2により鉛板1(幅200mm、高さ50mm、奥行100mm)を加熱した場合における鉛板1の温度変化を測定した実験例について説明する。本実験例では、図2に示す、鉛板1における測定点P1(前面)、P2(中間)、P3(背面)について温度測定を行った。
【0029】
温度測定は、次の(1)-(3)の3パターンについて行った。
(1)パターン1
面1aへの黒色ペイントの塗布:無し(無垢)
赤外線ヒーター2と面1aの距離:20cm
(2)パターン2
面1aへの黒色ペイントの塗布:有り
赤外線ヒーター2と面1aの距離:20cm
(3)パターン3
面1aへの黒色ペイントの塗布:有り
赤外線ヒーター2と面1aの距離:10cm
【0030】
温度変化の測定結果を図3のグラフで示す。パターン1では、4,800秒程で各測定点P1、P2、P3が約75℃~約80℃に到達した。また、パターン2では、4,800秒程で各測定点P1、P2、P3が約118℃~約130℃に到達した。そして、パターン3では、2,400秒ほどで、測定点P1が約160℃に到達し、測定点P2が約150℃に到達し、測定点P3が約140℃に到達した。
【0031】
この測定結果から、赤外線ヒーター2により赤外線が照射される部分に黒色ペイントを塗布することで、塗布しない場合よりも鉛板1を効果的に加熱できることが分かる。なお、後述するように、本実施形態において鉛板1を切断する場合、鉛板1の切断部を139℃以上にすることが求められるが、パターン3の条件であれば、2,400秒(40分)ほどで加熱することが可能となる。また、一般的に輻射熱で温度を上げることが難しいとされていた鉛(パターン1を参照)であっても黒色ペイントを塗布することにより輻射熱で温度を上げることができた。
【0032】
なお、一般的に金属は電子を沢山有し遠赤外線を反射するため輻射熱で加熱しづらいとされている。また、金属を除くほとんどの物質が表面層で遠赤外線を吸収し温度が即座に上昇するとされている。そうした中、鉛板1の切断には鉛板1を150℃程度まで加熱できれば充分であるという条件の下、赤外線ヒーター2で鉛板1を加熱してみたところ時間は掛かったが目的の温度に達することができた。更に、鉛板1に黒色ペイントを塗布した上で、赤外線ヒーター2で加熱してみたところ、より効率的に加熱することができた。
【0033】
次に、図4を用いて、本実施形態における鉛板切断装置10について説明する。鉛板切断装置10は、赤外線ヒーター2と、レシプロソーを構成する刃物3及び駆動部8(「駆動手段」の一例)と、BiとSnからなる合金材6(融点:139℃)を貯蔵し、鉛板1の後述する切断部Sに供給する供給容器5と、を含む。
【0034】
鉛板1は、面1aに黒色ペイントが塗布されており、面1aが赤外線ヒーター2から赤外線を照射されることで加熱される。鉛板1は、例えば、原子力発電所における、放射線の遮蔽材である。
【0035】
刃物3は、刃先4が鉛板1にあてがわれ、駆動部8によりスライドしつつ下方に移動させられることにより、鉛板1を切断する。なお、本実施形態では、鉛板1における刃先4があてがわれる部分を切断部Sという。
【0036】
刃物3には黒色ペイントが塗布されており、刃物3が赤外線ヒーター2から赤外線を照射されることで加熱される。なお、本実施形態では、鉛板1及び刃物3を加熱することとするが、これらの何れか一方を加熱することとしてもよい。例えば、刃物3のみを加熱する場合には、鉛板1の切断部S以外で赤外線が当たる部分をアルミ箔で遮蔽することとする。また、鉛板1のみを加熱する場合などには、刃物3に黒色ペイントを塗布しなかったり、アルミ箔で赤外線を遮蔽したりしてもよい(但し、刃物3を加熱する場合であっても刃物3の素材そのものが黒い場合などには黒色ペイントを塗布しなくてもよい場合がある)。なお、本実施形態では、レシプロソーにより鉛板1を切断することとするが、他の切断手段(例えば、超音波カッター等)を用いることとしてもよい。
【0037】
供給容器5(「合金材供給手段」の一例)は、断面が三角形の樋状の金属製容器(例えば、銅製容器やアルミニウム製容器を用いることができる)であって、当該三角形の1つの頂点が下方を向くように(当該頂点が樋の下部となるように)、刃物3の上方に刃物3の移動方向Dに沿って配置されている。供給容器5は、レシプロソーの駆動部8に支持具7を介して設置されており、内部にBiとSnからなる合金材6を貯蔵する。また、供給容器5の外面5a、5b、5cには黒色ペイントが塗布されており、供給容器5は赤外線ヒーター2から赤外線を照射されることにより加熱される。そして、供給容器5の内部が139℃以上に加熱されると、合金材6(融点:139℃)は溶融する。なお、供給容器5の外面5a、5b、5cに黒色ペイントを塗布することで、供給容器5及び合金材6を効率的に加熱することができる。なお、外面5cについては赤外線が当たらない場合には黒色ペイントを塗布しなくても良い。また、外面5cに黒色ペイントを塗布する場合には、もう一台の赤外線ヒーター2を用意して、外面5cに赤外線が照射可能な位置に配置しても良い。
【0038】
供給容器5の底には複数の合金材供給口5dが形成されており、供給容器5内で溶融した合金材6は合金材供給口5dから鉛板1における切断部Sに滴り落ちる(供給される)。溶融した合金材6が供給された切断部Sの鉛板1は、BiとPbとSnからなる低融点合金(融点:95℃)に合金化され、液相になって軟化する。なお、合金材供給口5dは、合金材6が切断部Sに満遍なく落下するように、適切な位置に適切な数設けられる。
【0039】
なお、図4の例では供給容器5の上部を開放状態にしているが、合金材6の粘度等の影響により合金材6が合金材供給口5dからの滴下量を制御できない場合には、供給容器5の上部を蓋等により閉じるとともに、供給容器5の内部に圧力を加えるための孔を形成し、当該孔からシリンダ(「圧力制御手段」の一例)で圧力を加えて供給容器5の内部を供給容器5の外部に対して正圧にしてもよい。供給容器5の内部の圧力を制御することで、合金材供給口5dからの滴下量を調節することができる。
【0040】
赤外線ヒーター2は、鉛板1及び刃物3の少なくとも何れか一方における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を非接触状態で照射して、輻射熱により鉛板1及び刃物3の少なくとも一方を加熱する。このとき、赤外線ヒーター2は切断部Sが低融点合金の融点である95℃以上となるように加熱する。
【0041】
赤外線ヒーター2としては、赤外線を出射するヒーターを採用できるが、例えば短波近赤外線を出射するハロゲンヒーターは発熱体(一般にタングステン線)が2,000℃以上になり、昇温も早い(数秒)ため好適である。
【0042】
また、赤外線ヒーター2は、供給容器5における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を非接触状態で照射して、輻射熱により供給容器5及びその内部に貯留されている合金材6を加熱する。このとき、赤外線ヒーター2は合金材6がその融点である139℃以上となるように供給容器5及び合金材6を加熱する。なお、赤外線ヒーター2は、供給容器5及び合金材6を加熱するに際し、鉛板1及び刃物3の少なくとも一方を139℃以上に加熱してもかまわない。
【0043】
このように、赤外線ヒーター2は輻射熱により非接触状態で鉛板1、刃物3及び供給容器5を同時に加熱することができる。これに対して、リボンヒーター等で加熱しようとしても非接触状態では加熱対象を加熱することができず、同時にそれぞれを加熱しようとする場合、個別に接触状態で加熱せざるを得ない。
【0044】
なお、赤外線が照射されること、加熱されることが不都合な部分(例えば、鉛板1、刃物3、供給容器5等の黒色ペイントが塗布されていない部分や、支持具7、駆動部8等)についてはアルミ箔により赤外線を遮蔽することとしてもよい。特に、加熱により劣化しやすい物や部分については、アルミ箔で遮蔽しておくことが好ましい。
【0045】
本実施形態の鉛板切断装置10によれば、赤外線ヒーター2により加熱された供給容器5内の合金材6が溶融して合金材供給口5dから切断部Sに滴り落ちる(供給される)ことで、切断部Sの鉛板1がBiとPbとSnからなる低融点合金となって軟化する。そして、赤外線ヒーター2により切断部Sを低融点合金の融点以上に加熱した状態で、切断部Sに合金材6を供給しつつ、刃物3が切断部Sに刃先4があてがわれたまま移動することにより鉛板1を切断することができる。
【0046】
次に、図5及び図6(A)、(B)を用いて、鉛板1の切断方法について説明する。なお、図6(A)、(B)において、合金材供給手段5Zは、例えば、コイル状に巻かれた合金材6を順次、刃先4があてがわれる部分(切断部S)の鉛板1に供給する。
【0047】
まず、鉛板1及び刃物3の少なくとも一方に黒色ペイントを塗布しておき、黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射して鉛板1及び刃物3の少なくとも一方を加熱する(ステップS1)。なお、赤外線の照射には赤外線ヒーター2などを用いることができる。
【0048】
また、鉛板1における刃先4があてがわれる切断部Sに刃物3の刃先4をあてがう(ステップS2、図6(A))。
【0049】
また、切断部SにBiとSnからなる合金材6を供給する(ステップS3、図6(A))。ここで、切断部Sに合金材6を供給する目的は、切断部Sに溶融した合金材6を接触させることで、切断部Sの鉛板1をBiとPbとSnからなる低融点合金(融点が95℃)として軟化させることにある。
【0050】
切断部Sを低融点合金化する方法として、鉛板1又は刃物3の少なくとも何れか一方を加熱して切断部Sを139℃以上に加熱し、例えば合金材供給手段5Zにより溶融していない合金材6を供給(接触)させて切断部Sで合金材6を溶融させる方法と、上述した供給容器5等で予め溶融させた合金材6を切断部Sに供給する方法があり、ステップS3では何れの方法を採用してもよい。ただし、鉛板1を切断部Sで切断する場合には、切断部Sを低融点合金の融点である95℃以上にする必要があることから、鉛板1又は刃物3の少なくとも何れか一方を加熱して95℃以上にすることとする。そのため、上述した鉛板切断装置10のように、鉛板1及び刃物3の少なくとも何れか一方に黒色ペイントを塗布して赤外線ヒーター2で加熱することが好適である。
【0051】
そして、切断部Sに合金材6を供給しつつ、刃物3を刃先4が切断部Sにあてがわれた状態で移動させることで鉛板1を切断する(ステップS4、図6(B))。刃物3の移動は、刃物3の移動方向Dにスライドさせつつ、下方に移動(下降)させるのが好ましい。なお、ステップS1~ステップS3は適宜順番を変更することができる。
【0052】
なお、鉛板切断装置10について説明したのと同様に、赤外線が照射されること、加熱されることが不都合な部分については、アルミ箔で赤外線を遮蔽することが好ましい。
【0053】
以上、説明したように、本実施形態の鉛板切断装置10や鉛板切断方法によれば、鉛板1及び刃物3の少なくとも一方における黒色ペイントが塗布されている部分に赤外線を照射することにより、合金材6が供給される部分(切断部S)を効率的に加熱することができ、延いては、合金材6の溶融を効率化させ、鉛板1の切断に要する時間を短縮することができる。
【0054】
また、切断部Sを低融点合金とした状態で、刃物3を合金材6の供給と共に下降させることで、合金材6が供給された切断部SのBiとPbとSnからなる低融点合金が、液相になって軟化し、これによって、鉛板1を、金属ヒュームを発生させることなく、容易かつ確実にしかも安価に切断することができる。
【0055】
さらに、切断が終了した鉛板1の切断面は、冷えた低融点合金を介して接着されるので、切断された鉛板1が未切断の鉛板1から分離するおそれはない。この結果、切断された鉛板1の落下による事故を未然に防止することができる。なお、冷えた低融点合金は金属結晶構造が粗いとともに鉛に比べて硬く、脆いために、切断された鉛板1にハンマー等で打撃を加えると、切断された鉛板1は未切断の鉛板1から容易に剥がれるので、切断された鉛板1の撤去作業を容易に行える。
【0056】
なお、本実施形態の鉛板切断装置10では供給容器5を用いて、溶融させた合金材6を切断部Sに供給することとしたが、供給容器5を設けずに、鉛板1又は刃物3の少なくとも何れか一方を139℃以上に加熱することとして、合金材供給手段5Z等により溶融していない合金材6を切断部Sに直接接触させて供給することとしてもよい。
【0057】
また、溶融させた合金材6を切断部Sの鉛板1に供給して切断部Sを低融点合金化する場合には、鉛板1や刃物3に赤外線を照射して切断部Sを加熱する代わりに、他の方法(例えば電熱ヒーターによる加熱)により鉛板1や刃物3を加熱して、低融点合金化した切断部Sを95℃以上にしてもよい。
【0058】
次に、図7(A)、(B)を用いて、切断部Sに溶融した合金材6を供給可能な刃物11について説明する。
【0059】
刃物11(「合金材供給手段」の一例)は、内部に溶融した合金材6が通る管路を有する。管路は横管12と複数の縦管13A~13Eを含み、各縦管13A~13Eは、横管12の下方に接続され、刃先4に通じている。横管12には、図示しない容器において溶融された合金材6が溶融した状態のまま取り込まれ、合金材6は各縦管13A~13Eを通じて刃先4から切断部Sに供給される。なお、管路内にて合金材6が凝固しないように、刃物3に熱伝導性の高い金属(例えば、銅)を用い、黒色ペイントを塗布した上で赤外線ヒーター2等により加熱することが好ましい。また、図7(B)に示すように、刃物3における横管12が設けられる部分には、フィラー(膨らみ)14を設けて強度を向上させることが好ましい。
【0060】
刃物11によれば、図4に示した供給容器5を刃物3の上方に設置する必要がなく、刃先4から直接、切断部Sに合金材6を供給することができるため合金材6が供給容器5から落下した際に切断部S以外の部分に飛散することを防止できる。
【0061】
次に、切断した鉛板1から切断部SにおけるBiとPbとSnからなる低融点合金からBiとSnを分離する方法について説明する。鉛は両性元素であり、硝酸、強塩基の水溶液と反応して溶ける一方、塩酸と希硫酸には鉛の表面に難溶性の被膜(塩化鉛PbClや、硫酸鉛PbSOの被膜)を作り溶けない。また、BiとSnは塩酸と希硫酸に溶ける。そこで、切断した鉛板1における低融点合金に対して塩酸又は希硫酸を接触させることにより、鉛板1からBiとSnを分離することができる。
【0062】
これにより、放射性物質を含む鉛板1を本実施形態の切断方法により細切れにして廃棄処理する際、鉛板1からBi及びSnを分離した状態(鉛のみの状態)で廃棄することができる。また、鉛板1から分離したBi及びSnは従来公知の方法により精製することにより鉛板1の切断に再利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1:鉛板
2:赤外線ヒーター
3:刃物
4:刃先
5:供給容器
5Z:合金材供給手段
6:合金材
7:支持具
8:駆動部
10:鉛板切断装置
11:刃物
12:横管
13A~13E:縦管
14:フィラー
D:移動方向
S:切断部
W:作業台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7